関連審決 | 取消2005-31371 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成19行ケ10353各審決取消請求事件 平成19行ケ10364各審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成19ワ4876商標権侵害差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
平成20行ケ10326審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成13ネ5748商標権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 商標 |
平成21行ケ10048審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 独占的使用 / 識別力 / 量産 / 識別機能 / 使用事実 / 指定商品 / 商標の同一性 / 周知商標 / 周知性 / 4条1項10号 / 4条1項11号 / ただ乗り(フリーライド) / 不使用 / 除斥期間 / 権利濫用(権利の濫用) / 通常使用権 / 先使用(32条) / 専用使用権 / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 出所の混同 / 国内 / 使用義務 / 差止 / 混同防止 / 使用許諾 / 更新登録 / 社団法人 / 不使用取消審判 / 類似商標 / 先使用権 / 継続 / 非類似 / 商号 / |
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事件 |
平成
19年
(行ケ)
10352号
各審決取消請求事件
平成 19年 (行ケ) 10363号 各審決取消請求事件 |
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上記10352号事件原告 宮田工業株式会社 訴訟代理人弁護士吉原省三,小松勉,三輪拓也,上田敏成 同弁理士中澤直樹,桶川美和 同10363号事件原告株式会社ハトプラ 訴訟代理人弁護士櫻林正己,森隆行 同弁理士 稲葉民安 上記両事件被告ティーズ株式会社 訴訟代理人弁護士高橋隆二,土屋文男,東海林正樹,中村知己 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2009/03/26 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1当事者の求めた裁判1原告ら特許庁が取消2005-31371号事件について平成19年9月19日にした審決を取り消す。 2被告主文同旨第2事案の概要本件は,被告が,原告宮田工業株式会社(以下「原告宮田工業」という )の下 。 記1記載の商標(以下「本件商標」といい,本件商標に係る権利を「本件商標権」という )について,同原告から通常使用権ないし専用使用権の許諾を得てこれを 。 使用する原告株式会社ハトプラ(以下「原告ハトプラ」という )の本件商標使用 。 行為は,被告の商品と誤認混同を生じさせるとして商標法53条1項に基づき本件商標登録の取消審判を請求したのに対し,原告ハトプラが本件商標の専用使用権者として上記取消審判請求手続に参加したところ,特許庁は,本件商標の登録を取り消す旨の審決をしたため,原告らがその取消しを求める事案である。 1本件商標登録番号第2423435号出願日昭和63年7月7日登録日平成4年6月30日更新登録日平成14年7月9日指定商品第12類「輸送用機械器具,その部品及び附属品 (平成1」5年10月1日書換登録)商標の構成「ブライド」の文字と「BRIDE」の文字を上下二段に横書きしてなる商標2専用使用権等の設定権利者原告ハトプラ受付年月日平成18年1月12日登録年月日平成18年1月25日範囲地域日本国内全域期間契約締結後5年間(平成22年11月30日迄)内容自動車用座席及び座席部品なお,原告宮田工業は,原告ハトプラに対し,本件商標権につき,平成15年7月1日から3年間の期間付きで「自動車用座席及び座席部品」について通常使用権を許諾した。 3被告による取消審判請求請求日平成17年11月14日(取消2005-31371号事件)原告ハトプラに対する参加許可平成18年10月17日審決平成19年9月19日審決謄本送達日平成19年10月1日(原告らに対し)第3審決の理由の要点審決は,要旨,原告ハトプラによる本件商標の使用は,商標法53条1項の「他人の業務に係る商品と混同を生ずるもの」に該当するとし,また,原告宮田工業に同項ただし書の事由を認めることはできないとして本件商標に係る商標登録を取り消す旨の審決をした。その理由は以下のとおりである。 1商標法第53条第1項本文に規定する各要件について甲各号証及び乙各号証によれば,商標法第53条第1項本文に規定する各要件について,以下のように認められる。 (1)本商標権の通常使用権者及び通常使用権の範囲について甲第1号証の7(契約書)によれば,被請求人(当該契約書においては「甲 )は,平成1 」5年6月16日付で株式会社ハトプラ(当該契約書においては「乙 )に対して,本件登録第 」2423435号商標権について,通常使用権を許諾する契約をしている。 (),()「 」,() その第1条 商標の使用範囲 によればa 許諾商品 自動車用座席及び座席部品b使用態様「ブライド/BRIDE(c)適用地域「日本国内全域(d)許諾期間「本契約 」, 」,締結後3年間」となっており,第2条(乙の使用義務)には 「乙は,本契約書締結後平成1 ,5年7月1日より,前条の範囲で商標の使用を開始するものとする 」とあり,第7条(使用 。 見本と使用報告書の提出)には 「乙は,本件商標及び本件類似商標を使用するに際してその ,態様を示す見本を甲に事前に提出するものとし,また新たに使用予定の標章(ロゴ等)についてその都度事前にその態様を示す見本を甲に提出して承認を得るものとする 」と規定されて 。 いる。 (2)通常使用権者の使用商標・使用商品について本件取消審判において,請求人が本件商標の不正使用に該当すると主張している通常使用権者の使用に係る商標は,甲第1号証の2(株式会社ハトプラのパンフレット)に表示されている商標であり,その態様は,別掲(1)に示すとおり,やゝデザイン化された「BRIDE」の欧文字のみからなる商標(以下「本件使用商標」という )であって 「自動車用座席(スポ 。,ーツシート 」について使用されているものである。この点については,被請求人も乙第9号 )証として甲第1号証の2と同じ株式会社ハトプラのパンフレットを提出しており,当事者間に争いはないものと認められる。 なお,この点について,被請求人は 「株式会社ケンテック(平成11年に株式会社ハトプ ,ラに承継 ,トータス(平成6年に株式会社ブリッドに承継)及び請求人は,平成3年に提携 )して『BRIDE』シートの企画・開発,製造及び販売をしていくことにした。その後,平成15年に入って,請求人と株式会社ブリッドの関係が悪化し,提携を解消することになった。 そのため,株式会社ブリッドと株式会社ハトプラは,別ルートで『BRIDE』シートを販売することとし,請求人も,独自に『BRIDE』シートの製造,販売を始め,平成16年3月1日には,新たな製造会社としてBRIDE株式会社が設立された・・・」旨述べている。 (3)本件商標と本件使用商標との関係について本件商標は 「ブライド」の片仮名文字と「BRIDE」の欧文字とを二段に横書きしてな ,るものであるところ 「BRIDE」の語は 「花嫁」等の意味を表す英語として「ブライド」 ,,の読みをもって知られている語であるから,本件商標は 「BRIDE」の欧文字にその自然 ,な読みを併記したものと認められるものである。 これに対して,通常使用権者の使用に係る本件使用商標は 「BRIDE」の欧文字のみか ,らなるものであるところ 「花嫁」の観念を生ずる点及び「ブライド」の称呼を生じ得るもの ,, , である点において 本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用ということができるがその態様はやゝデザイン化されており 「ブライド」の文字部分も使用されていないから,本 ,件商標と同一の商標であるか類似の商標であるかという観点からみれば,同一の商標の使用ではなく,本件商標に類似する商標の使用といわなければならない。そして,本件使用商標が使用されている商品は「自動車用座席(スポーツシート 」であり,これは,本件商標の指定商 )品中に含まれている商品であり,通常使用権の許諾商品中に含まれている商品である。 しかしその一方,通常使用権者である株式会社ハトプラのパンフレット(甲第1号証の2,乙第9号証)には,大きく書された「BRIDE」の文字の左上に 「ブリッド,ネクストス ,テージ/NEWBORN」の文字が表示されており,また,甲第1号証の1(平成17年(行ケ)第10470号審決取消請求事件判決)によれば,被請求人(該事件の被告)は 「被告 ,の主張」として 「・・・ブリッド社及びハトプラ社は,自己の商品として,ブリッド標章を ,付した自動車用座席の製造又は企画,開発を行っていたのであって,単なる下請製造業者,部。, , 品納入業者ではない ところが 平成15年に入って原告補助参加人との関係が悪化したため・・・別のルートで自動車用座席を販売することとして・・・」と述べていることを併せみれば,通常使用権者は,本件使用商標を「ブリッド」の称呼のもとに取引に供していたものと認められる。 そうとすれば,本件使用商標を使用する行為は,本件商標と類似する商標の使用行為といえる一方で,本件商標とは外観を異にし,その称呼も「ブライド」とは別異の「ブリッド」の称呼をもって使用されていたものと認められるから,これは,本件商標とは別個の識別機能を併せ持つ態様での使用行為といわなければならない。 (4)請求人の使用商標・使用商品について請求人は,1981年にスポーツカーのスポーツシート専用メーカーとして,請求人の前身, 。, であるブリッドCoの商号のもとに事業を開始し 1989年には法人化されている そして請求人の使用に係る商標(以下「請求人使用商標」という )は,1983年に,株式会社鉄 。 谷写真事務所に依頼して作製されたものであって(甲第7号証ロゴマーク製作証明書 ,甲)第4号証(報告書2)に添付の雑誌等の広告に表示されており,その態様は,別掲(2)に示すとおり,やゝデザイン化された「BRIDE」の欧文字のみからなる商標であって 「自動 ,車用座席(スポーツシート 」について使用されているものである。そして,該雑誌等の広告 )や記事によれば,請求人使用商標は 「ブリッド」と表記され 「ブリッド」と称呼されている , ,ことを認めることができる。 (5)本件使用商標と請求人使用商標との関係について本件使用商標の態様は,別掲(1)に示したとおりの構成からなるものであり,これは,別掲(2)に示した請求人使用商標とその外観における構成態様を全く同一にするものである。 ,,「」 , しかも 上記したとおり 請求人使用商標は ブリッド と称呼されているものであるところ本件使用商標も「ブリッド」の称呼のもとに使用されていたものである。 そうとすれば,本件使用商標は,請求人使用商標と外観を同一にし,その称呼「ブリッド」をも同一にするものであり,使用に係る商品も請求人の業務に係る商品と同じ「自動車用座席(スポーツシート 」である。)(6)請求人使用商標の周知性について前記したとおり,請求人は,1983年には 「BRIDE(ブリッド 」標章を使用して, , )スポーツシートの製造・販売を始めていたものと認められるところ,請求人の提出に係る甲第3号証に添付の「営業報告書」によれば,請求人の業務に係るスポーツシートの売上げは,平成元年度においては,約2億3000万円であったものが,平成6年度から平成8年度においては,13億円台に達し,その後は漸減傾向ではあるが,平成14年度においては,約5億7000万円となっている。また,請求人の宣伝広告費も,平成元年度においては,約790万円であったものが,平成7年度においては,1億3000万円近くになり,平成14年度においては,約4200万円となっている。そして,平成14年度におけるシートの売上数は,リクライニングとフルバケットの合計で6190脚となっている。 なお,自動車のドライビングシートの市場は,完成車の交換部品市場であって,ラグジュアリー用又はモータースポーツ用等の用途に応じて自動車部品専門店で販売されるものであり,( 「 」) 甲第6号証 株式会社自動車産業通信社発行の 2004年カー用品トータルボリューム試算によれば,ドライビングシートの年間の需要は,2002年度で約18億6000万円,個数で2万8800脚の規模である。 そして,甲第4号証に添付の証拠によれば,請求人は 「BRIDE(ブリッド 」シートの , )広告を「CARACCESSORIESGUIDE’83「’85/エキサイティング 」,パーツマニュアル「カーマガジンOPTION(1986年5月,1987年6月,199 」,6年5月発行「ヤングバージョン(平成13年5月発行 」等々に掲載していた事実を認め )」, )ることができる。 また,甲第4号証に添付の新聞や雑誌によれば,請求人の商品に関して,次のように記載されている。 1995年発行の「J’Sティーポ」には 「・・特にクルマのパーツの場合は,開発にあ ,たっての動機と情熱が何よりも重大な意味を持つことがほとんどである。ブリッドという名のスポーツ&レーシングバケットシートを製作しているティーズは,まさにそんな会社であると。 。」, いえよう ・・・今やアフターマーケットシートの分野では国内最大手である ・・・ とあり1995年6月発行の「4WDSPIRITS」には 「・・・国産バケットシートの普及 ,に大きな役割を果たしてきたティーズ(株)の『ブリッド』シリーズ。バケットシートの製作を始めて12年間,ブリッド・シートはモータースポーツからストリートまで,幅広いファン。」, 「」, 層に支えられている ・・・ とあり 平成7年8月30日発行の スポーツニッポン には「・・・ドイツのカイパー・レカロ社は,人間工学に基づいたデザインで有名なメーカー。レカロ社のシートは,ヨーロッパ産のクルマに純正装備されていることも多く,その性能のよさには定評がある ・・・日本でもドイツさながらの職人気質でシートを製造するメーカーがあ 。 る。例えば,名古屋に本社を置くティーズ株式会社の『ブリッド』というブランド ・・・」 。 とあり 1999年10月発行の autofashionoriginal には・ , 「 」,「・・今回紹介するブリッドは,スポーツシートだけにこだわり,機能性を最優先させたシート作りをポリシーとする ・・・実際に全日本GT選手権500クラスのエッソタイガースープ 。 ラや300クラスのダイシンS15スープラなども採用され,国内レースカーの約6割の装着率を誇る ・・・」旨記載されている。 。 上記において認定した事実を総合してみれば 「BRIDE(ブリッド 」商標が付された請 , )求人の業務に係るスポーツシートは,自動車関連の新聞・雑誌等において盛んに紹介されており,請求人商品の売上げのピーク時とはいえない平成14年度(2002年度)においても,ドライビングシート市場において約25%のシェアを有し,国産品では圧倒的なシェアを有していたものであることが認められる。 そして,自動車レーシング用シートは,モータースポーツを愛好する若い男性が主たる需要者であるという比較的限られた市場であるという特殊性をも併せ考慮すれば,請求人使用商標は,遅くとも,その売上げが最高に達した平成6年当時には,モータースポーツ用シートの取引者・需要者の間において広く認識されていたものと認められ,その周知性は,被請求人と株式会社ハトプラとの間で「ブライド/BRIDE」の商標権についての通常使用権を許諾する契約を締結した平成15年6月16日の時点以降においても継続していたものということができる。 そして,上記した請求人の業績には,業務提携していた株式会社ハトプラらの寄与があったことは推測し得るとしてもBRIDE ブリッドの商標自体は 請求人が1983年 昭 ,「()」,(和58年)に株式会社鉄谷写真事務所に依頼して作製したものであることが認められ,請求人は,株式会社ハトプラらと業務提携した平成3年以前の昭和58年には既に,雑誌に広告を掲載しており 前記した新聞や雑誌の記事においても 専ら ティーズ株式会社のBRIDE ブ , ,「 (リッド 」として紹介されていたことをも併せみれば 「BRIDE(ブリッド 」商標は,請 ) , )求人の業務に係るスポーツシートの標章として機能していたものとみるのが相当である。 (7)出所の混同について以上を総合してみれば,株式会社ハトプラの使用する本件使用商標は,請求人使用商標と外観を同一にするばかりでなく,称呼をも同一にするものであり,使用に係る商品も請求人の業務に係る商品と同じ「自動車用座席(スポーツシート 」である。 )そして,請求人使用商標は,モータースポーツ用シートの取引者・需要者の間において広く認識されていたと認められるものである。 , ,「()」 してみれば 上述した事情のもとに 株式会社ハトプラが 自動車用座席 スポーツシートについて本件使用商標を使用すれば,これに接する取引者・需要者は,請求人使用商標を想起して,その商品が請求人の業務に係る商品であるかの如く,あるいは,請求人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかの如く,その商品の出所について混同を生ずることは必至のことというべきであるから,本商標権の通常使用権者である株式会社ハトプラは,本件商標の指定商品に含まれる商品について,本件商標に類似する商標を使用することにより,他人(請求人)の業務に係る商品と出所の混同を生ずるものをしたといわなければならない。 2商標法第53条第1項ただし書きに規定する要件の有無についてそこで次に,被請求人(商標権者)が商標法第53条第1項ただし書きに規定する「その事実を知らなかった場合」に該当するか否かについて検討する。 この点について,被請求人は,使用許諾契約第7条の規定に基づき,株式会社ハトプラから「BRIDE」商標の見本を徴求していたこと,また 「BRIDE」シートは,株式会社ハ ,トプラ,株式会社ブリッド及び請求人が提携して企画・開発,製造及び販売をしてきたものであり 「BRIDE」標章は,株式会社ハトプラ自身の標章でもあったから,被請求人が株式 ,会社ハトプラによる「BRIDE」商標の使用を格別問題としなかったのは,むしろ当然のことであって,被請求人に注意義務の懈怠はない旨述べている。 しかしながら,本件審判において問題となるのは,通常使用権者である株式会社ハトプラが本件商標(本件商標に類似する商標を含む)の使用行為として 「BRIDE(ブリッド 」商 , )標を使用することにより,他人(請求人)の業務に係る商品と出所の混同を生じさせるものをしたか否かということである。 この要件の判断にあたって,株式会社ハトプラが「BRIDE(ブリッド 」標章を使用し )得る立場にあったか否かということは関係のないことであって,株式会社ハトプラが「BRIDE(ブリッド 」標章を使用し得る立場にあったとしても,被請求人は使用許諾者として, )本件商標が通常使用権者により不正に使用されていないかどうかを監督する責任があったのである。 そこで,被請求人が商標法第53条第1項ただし書きに規定する「その事実を知らなかった場合」に該当するか否かについてみるに,被請求人は,使用許諾契約第7条の規定に基づき,通常使用権者である株式会社ハトプラから「BRIDE」商標の見本を提出させていたというのであるから,被請求人は,通常使用権者が本件商標構成中の「ブライド」の文字部分を使用しないで,別掲(1)のとおりの構成よりなる「BRIDE」の欧文字部分のみよりなる商標を使用することを把握していたものということができる。 そしてまた,過去において,株式会社ハトプラと請求人とが提携して「BRIDE(ブリッド 」標章に係る商品の製造・販売をしていた事実を認識していたのであれば,そのような事 )情を認識する過程において 「BRIDE(ブリッド 」商標の周知性について,少なくとも一 , )定程度の認識をしていたものとみるのが自然である。 そうとすれば,被請求人は,商標等の知的財産権に精通している企業ともいえるから,上記の如き実情のもとにおいて 通常使用権者が請求人の業務に係る商品と同じ 自動車用座席 ス , 「(ポーツシート 」について,請求人が使用している商標と同じ商標を使用すれば,商品の出所 )について混同を生ずるであろうことは容易に認識し得たはずである。 しかるに,被請求人は,使用許諾契約第1条において,本件商標の使用態様として 「ブラ ,イド/BRIDE」の態様で使用することを定めておきながら,通常使用権者が本件商標構成中の「ブライド」の文字部分を使用することなく,別掲(1)のとおりの構成態様からなる商標(前述のとおり,乙第9号証のパンフレットには「ブリッド」の文字も表示されている)を使用し続けていることを容認していたということは,被請求人において,使用許諾者としての監督責任を果たしていたものとはいい難く,使用許諾者として相当の注意をしていたものということもできない。 以上のとおり,本件の場合は,商標法第53条第1項ただし書きに規定されている「当該商標権者がその事実を知らなかった場合」には該当しないものというべきであり,仮に,被請求人 商標権者 がその事実を知らなかったとしても 上記のような状況のもとにあっては相 () , ,「当の注意をしていた」ものということもできない。 3被請求人及び参加人のその他の反論について(), , , 1 被請求人は 株式会社ハトプラと請求人の商品販売経路の違い モデル名の表示の違い製造元・販売元の表示の違い,販売価格帯の違い等から,株式会社ハトプラと請求人の商品との間において出所の混同は生じない旨主張している。 しかしながら,仮に,被請求人が主張しているように,小売店については限定された販売経路で商品を仕入れ,問屋の担当者から商品内容の説明を受けているため,請求人の「BRIDE」シートと株式会社ハトプラの「BRIDE」シートを混同することはないとしても,これを購入しようとする顧客については,たとえ専門的なマニアであったとしても,同種の商品に同じ商標が付されていれば,商品の出所について混同を生ずることは必定である。 しかも,請求人においても様々な販売経路での販売を行っている旨主張しており,また,販売価格帯の違いにしても,需要者層を異にする程の差異ではなく,その他の商品販売にあたっての相違点を総合してみても,先に判断したとおり,請求人使用商標に係る商品と本件使用商標に係る商品との間の出所の混同を否定するに足る理由とは認められない。 (2)被請求人は,自動車用座席の国内販売量については年間販売総数約3万脚のうち,ドイツのレカロ社が約70%,イタリアのスパルコ社が約11%のシェアを有し,その残部を海外メーカーや国産メーカーが分け合っている状況にあり,請求人は,そのような中の国産メーカーの1社にすぎず,請求人の標章は,一般に広く知られているものではない旨主張している。 ,, ,, しかしながら 被請求人は その主張を裏付ける証拠を提出していないばかりでなく 元々シェアというものは,比較の対象となるデータの取り方によって,そのシェアが表している意味合い,占有率の数値自体が異なったものとなるものであるから,請求人が主張しているシェアの数値と被請求人が主張しているシェアの数値とが異なっていたとしても必ずしも不自然なことではなく,基礎となるデータの取り方によっては,被請求人が主張しているようなシェアとなる場合があるとしても,シェアのみによって,請求人使用商標の周知性を判断した訳ではないから,この点についての被請求人の主張をもって,前記判断が左右されることはない。 (3)被請求人は,商標法第53条の規定は,他人の商標が少なくとも周知であり,それに似せて使用した場合に限って制限的に適用されるべきである旨主張している。 しかしながら,前述のとおり,請求人使用商標は,自動車レーシング用シートの取引者・需要者間において広く知られていたと認められるものであり,また,本件使用商標は,本件商標,, ,, に類似する商標の使用であって しかも 外観を請求人使用商標と同一にし 称呼においても請求人使用商標と同じ「ブリッド」の称呼をもって取引に供されていたものと認め得るものであるから,この点についての被請求人の主張は採用できない。 (4)参加人は,使用権者が登録商標そのものを,その指定商品に使用する場合( 同一の範 「囲内の使用 )には,商標法第53条第1項の適用範囲外と解されるべきである旨主張してい 」る。 しかしながら,商標法第53条第1項には,参加人が主張するような適用除外を定める規定がないばかりでなく,上記のとおり,参加人である通常使用権者の使用する商標は,本件商標そのものの使用ではないから,いずれにしても,この点についての参加人の主張は採用できない。 (5)参加人は,請求人使用商標は本件商標の商標登録出願の時点においては何ら周知ではなく,請求人は,商標法第32条第1項の先使用権を有していないから,請求人の上記標章使用行為は,本商標権を侵害する行為であって,当該侵害行為の存在を前提に,商標法第53条第1項の規定により本商標権が取り消されるということは極めて不当である旨主張している。 しかしながら,商標法第53条の取消審判は,現行法において自由に使用許諾を認めたこと, , に対する弊害防止の規定であり 取消の要件も専らその観点から定められているものであって本件審判における当事者間の権利関係が確定しなければ,取消の要件を判断できないものとは解されない。本件商標と請求人使用商標との間に,参加人が主張しているような権利関係の争いがあったとしても,その争いは別途判断されるべきものである。 (6)そうとすれば,被請求人及び参加人の上記主張は,いずれも採用できない。 4むすび以上のとおり,本商標権の通常使用権者である株式会社ハトプラは,本件商標に類似する商標をその指定商品に含まれる商品に使用して,他人(請求人)の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたと認められるものである そして 本件においては 同項ただし書に規定する 被 。,, 「請求人(商標権者)がその事実を知らなかった場合において,相当の注意をしていたとき」に該当するものとも認められない。 なお,本件使用商標は,2003年10月発行のパンフレットにおいても使用されていたものであるから,本件審判請求は,商標法第53条第3項において準用する同法第52条(除斥期間)の規定に触れるものではない。 また,請求人及び参加人は,共に証人尋問申出書を提出しているが,申出書に記載されている尋問事項は,両者提出の書証をもって把握し得たので,証人尋問は行わなかった。 したがって,本件商標の登録は,同法第53条第1項の規定により,取り消すべきものである。 第4審決取消事由1取消事由1審決は,使用権者である原告ハトプラの使用商標(以下 「本件使用商標」とい ,う )は,本件商標に類似する商標であると認定し,被告に係る商品と出所の混同 。 が生ずると判断した(審決の16頁下から6行目から7行目 。)しかし,本件使用商標と本件商標は,社会通念上の同一性を有している商標(以下 「実質的に同一の商標」という )であり,このように使用商標が登録商標と実 , 。 質的に同一である場合は,商標法53条1項の適用を受けないと解すべきである。 その理由は以下のとおりである。 (1)確かに,商標法53条1項は,文言上は,使用権者が登録商標と同一の商標を同一の指定商品に使用(以下 「同一の範囲の使用」という )した場合におい , 。 ても,取消しの対象としているかのように読める。 しかしながら 登録商標は 商標出願における審査の過程において いわゆる 未 ,, ,「登録周知商標」との関係では同法4条1項10号の 「登録商標」との関係では同 ,法4条1項11号の各該当性の有無がそれぞれ特許庁により審査され,その結果,既存の未登録周知商標又は登録商標と類似しないと判断されて登録されたものである。したがって,商標法は,登録商標の「同一の範囲の使用」により,他人の業務に係る商品との混同が生ずることを本来予定していない(編集・著作権法・商標法判例研究会(代表平尾正樹 「著作権法・商標法判例解説集 (発行者:新日本 ) 」法規出版株式会社 (甲第1号証の1)の第2396ノ72ページ13行目から1 )6行目参照 。)したがって,上記各規定に基づく登録要件の審査がされており,こうした登録要(), 件の審査を前提に独占的な使用が商標権者に認められている以上 商標法25条「」 , 。 この 同一の範囲の使用 は 商標法53条1項の適用対象から除外すべきであるすなわち,この規定は,使用権者が,登録商標と類似する商標を指定商品又はこれに類似する商品に使用したことにより,他人の業務に係る商品と出所の混同を生ずるに至った場合に商標登録が取り消されるべきことを規定したものである。 なお,当該規定が,上記「同一の範囲の使用」をも取消しの対象とした理由は,商標権者に係る商品との関係において,使用権者が劣悪な商品を市場に提供したことにより一般需要者に不利益を与えた場合等,ごく例外的な特段の事情のある場合における制裁のためのものと限定解釈すべきである( 特許庁編「工業所有権法逐 「条解説 〔第16版 :発行所:社団法人発明協会 (甲第1号証の2)の1221 」〕 」ページ15行目から17行目参照 。)(2)商標法は,同法53条以外に,商標権に対する抗弁権として先使用権を規定している(同法32条1項 。)商標法32条は,登録商標・指定商品と同一又は類似の範囲内において,出願の際に周知性を獲得していた他人による当該商標の使用は,商標権侵害とはならず,それまでの使用を継続することができることを内容とする規定である。この場合,(専用)使用権者が存在し,当該(専用)使用権者が上記「同一の範囲の使用」をしている場合には,先使用権者の商品と当該(専用)使用権者の商品との間で出所の混同が生ずる可能性がある。商標法は,こうした事態を想定して (専用)使用 ,権者には,先使用権者に対して「混同防止付加表示請求権」を認め,先使用権者には,その義務を課している(商標法32条2項 。)ところが,審決のように,商標法53条を単に文理解釈したとすれば,上記先使用権者は (専用)使用権者による登録商標の使用事実と,当該先使用権者の商標 ,の使用事実及びその周知性を立証すれば,商標法53条1項の規定により商標権を取り消すことが可能となる。すなわち,審決のように商標法53条を単に文理解釈した場合には,商標法32条2項により,一方では(専用)使用権者による混同防止付加表示請求権に基づき,先使用権者にはその混同防止付加表示義務を課しながら,他方(商標法53条1項)では,先使用権者の請求により当該商標権が取り消されることとなり,明らかに整合性を欠く。 したがって,上述したとおり,使用権者による使用商標が登録商標と実質的に同一である場合は,商標法53条1項の適用を受けないと解すべきである。 (3)本件使用商標と本件商標とは実質的に同一である。 このことは,関連訴訟である平成17年(行ケ)第10470号審決取消請求事件判決(甲第2号証)からも明らかである。すなわち,同判決は,9頁10行目から「ハトプラ社が使用したのが上記のとおりデザイン化された「BRIDE」の文字からなる商標であるのに対し,本件商標は 「ブライド」の片仮名文字と「BR ,IDE」の欧文字とを上下2段に横書きしてなるものである。しかし,ハトプラ社が使用した上記商標の文字は,デザイン化されているとはいえ,容易に「BRIDE」の欧文字であると認識し得るものであること 「BRIDE」の語は,花嫁, ,新妻等を意味する比較的平易な英単語であって 「ブライド」の称呼を生ずると認 ,識されること,本件商標の構成中の片仮名文字の部分は,欧文字の部分から生ずる「ブライド」の称呼を表したものであることからすると,両者は,書体のみに変更「」 ,「」 を加えた同一の BRIDE の欧文字を構成要素とするものでありブライドという同一の称呼を生ずるものであるから,社会通念上同一と認められる商標(商標法50条1項括弧書き)に当たるということができる 」と判示している。 。 なお,上記関連訴訟においても,被告(当該訴訟における参加人)は 「BRI ,DE」の標章は本件登録商標と社会通念上同一の商標とはいえない旨を主張している(甲2号証の5頁19行目以下参照 。)しかし,上記判示のとおり,原告ハトプラが使用した商標「BRIDE」の文字は,デザイン化されているとはいえ,容易に「BRIDE」の欧文字であると認識し得るものであること 「BRIDE」の語は,花嫁,新妻等を意味する比較的平 ,易な英単語であって 「ブライド」の称呼を生ずると認識されること,本件商標の ,構成中の片仮名文字の部分は,欧文字の部分から生ずる「ブライド」の称呼を表したものであることからすると,両者は,書体のみに変更を加えた同一の「BRIDE」の欧文字を構成要素とするものであり 「ブライド」という同一の称呼を生ず ,るものであるから,社会通念上同一と認められる商標であることは明白である。 なお,この「社会通念上の同一性」の判断に当たって,商標法50条1項には,括弧書きが存在するが,商標法53条にはこうした括弧書きに相当する規定が存在しない。審決においても,審決19頁14行目から17行目に亘って「しかしなが,, 」 ら 商標法53条1項には 参加人が主張するような適用除外を定める規定がないことを指摘している。 しかしながら,商標法50条1項括弧書きは 「特許庁編「工業所有権法逐条解 ,説 〔第16版 :発行所:社団法人発明協会 (甲第1号証の2)の1221頁の 」〕 」15行目から17行目に亘る記載からも明らかなように,それまで審決や判決例によりされていた当然の解釈を単に規定上明確にしたものに過ぎず,上記括弧書きが存在してはじめて上述した解釈がされるわけではない。 そして,このように使用商標と登録商標との同一性は,上記商標法50条ばかりではなく,本件における商標法53条1項においても同様に解釈されるべきことは当然である。それにもかかわらず,審決では 「参加人である通常使用権者の使用 ,する商標は,本件商標そのものではない」と,両商標の同一性を物理的に判断しており,その違法性は免れない。 2取消事由2商標法53条は,取消審判の請求人適格として「何人」と規定しているが,本件においては,以下の各理由により,被告にその請求人適格はない。 (1)商標法53条1項の取消審判の請求人が商標権を侵害する者である場。, , 合には同条項は適用されるべきではない 何故なら 侵害行為の存在を前提に同条項により本件商標権が取り消されるなどということは極めて不当であるからである。すなわち,同条項を 「専用使用権者又は通常使用権者である原告 ,ハトプラが指定商品又はこれらに類似する商品についての登録商標又はこれに類似する商標( BRIDE )の使用であって(商標権侵害をしている)他人 「」である被告の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたときは,何人(商標権侵害をしている被告)も,当該商標を取り消すことについて審判を請求することができる 」として解釈・適用することは,本件においては,正に不法行為 。 。,,, 者を救済することに他ならない 審決は この点に関し 全く検討しておらず違法であって,その取消しは免れない。この点に関し,被告の商標(請求人使用商標)が被告により使用が開始された時期が,本件商標の出願日(昭和63年7月7日)以前であるとしても,審判において提出された証拠は僅かであり(甲第4号証 ,少なくとも上記商標登録出願時において,被告の標章「BR )IDE」は周知性を獲得していたことには程遠いばかりかシートメーカー各社から市場に供給された多数の商品の中に埋没していたものであり,被告は商標法32条1項で認められる権利(先使用権)を有していないことは明らかである。なお,被告は,審判において,自己に上記先使用権が存在することを全く主張しておらず,甲4号証は (先使用権とは無関係に)自己の商標の使用状況を ,証明するために 審判において提出されたものである したがって 被告の標章 B , 。,「」 。 RIDE の使用行為は本件商標に係る商標権を明らかに侵害している行為であるそして,被告が商標法32条1項の先使用権を有していない以上,被告の上記標章使用行為は本件商標権を侵害する行為であり,当該侵害行為の存在を前提に,商標法53条1項の規定により本件商標権が取り消されるなどということは極めて不当である。 なお,審決では,原告ハトプラが主張した上記先使用権の存否に関して 「本件 ,商標と請求人使用商標との間に,参加人が主張しているような権利関係の争いがあったとしても,その争いは別途判断されるものである 」としている。 。 しかしながら,上記先使用権の存否の争いに関して,別途司法判断を仰ぐとしても,商標法53条により(先使用権の存否の大前提となる)商標権が取り消されれば,原告らは即座に当該司法判断を求める利益は失われるのである。すなわち,審決が,商標法53条の解釈・適用において,請求人(被告)の先使用権の有無を判断しないことは,先使用権の存否は別途争うべきであるとはしながらも (商標権 ,を取り消すことにより)実質的には当該先使用権の有無を争う途を原告らから絶つ(奪う)ものである。そうである以上,同規定の解釈・適用に当たっては,先使用権の有無も判断すべきことは当然であり,この点からも審決の違法性は明らかである。 ( )仮に,被告が先使用権を有していると仮定しても,被告には請求人適格が2ない。 先に主張したように,上記先使用権に関して,商標法32条2項が,商標権者や専用使用権者に対して,混同防止付加表示請求権を認め,当該権利により先使用権者は付加表示をする義務が課せられていることからすれば,やはり当該先使用権者からの請求によって商標法53条1項により商標権が取り消されることは,明らかに両規定の整合性を欠くものであり,違法である。 , , ( )被告は 原告ハトプラが同宮田工業と通常使用権許諾契約を締結した後に3通常使用権の許諾を受ける目的で原告宮田工業に赴いている(甲第19号証16頁2行目以下参照 。もし,これが効を奏したときは,原告ハトプラが商標法53条 )の審判を請求でき,これが認容されることとなる。要するに,原告ハトプラと被告とは,単なる時間的ずれのみにより,本件訴訟の原告ハトプラ又は被告となる関係となる。したがって,被告は,同法の請求人適格を有さない。 3取消事由3( )本件使用商標の使用態様は,以下に述べる三社合意の主体でありその後原1告ハトプラに事業承継した「株式会社ブリッド」による使用態様と全く同一であって,被告の単独使用の結果により獲得した信用にただ乗りすることを目的として使用許諾を受けたものではないばかりでなく,当該使用許諾を受けてから使用を開始したものでもないから本件使用商標の使用は商標法53条1項に該当するものではない。 ( )原告ハトプラが本件使用商標を使用するに至った経緯2(ア)株式会社ブリッドについて株式会社ブリッドは,被告が審判において提出した報告書(1 (甲第5号証) )の第3頁「5 」に記載されているとおり,被告に自動車用部品である自動車用シ .ートを製造し納入していた事業所「トータス」から事業を承継した会社である。上記「トータス」の代表者であるAは,平成6年8月25日に「株式会社ブリッド」を設立(甲第6号証)し,この株式会社ブリッドは現在も存続している。また,この株式会社ブリッドで製造された自動車用シート(及びシートレール)は被告により販売されていた(甲第7号証の1,2 。また,株式会社ブリッドは,単に自動 )車用シートの製造のみを行っていた訳ではなく,高額の広告宣伝費,販促費,ドライバー報酬手当等を負担しており(甲第8号証の1,2 ,被告の単なる下請けで )はなかった。 (イ)株式会社ブリッドと被告との取引関係株式会社ブリッドと被告との間では,被告は自動車用座席シートの全量を株式会社ブリッドから購入し,株式会社ブリッドは被告に全量を納入する合意が形成されていた。 (ウ)原告ハトプラと株式会社ブリッドとの関係原告ハトプラ代表者B(以下「B」という )は,同社を設立する以前は,株式 。 会社ケンテック(以下「ケンテック」という )の社員であった。ケンテックは, 。 前記トータスの名称でAが設立した事業所時代から取引を開始し,株式会社ブリッド設立後も継続して取引があった。特に,株式会社ブリッドが設立される以前の平成4年ころからは,被告を窓口として販売される自動車用シートに関して車検を取得するために必要なテストと,関係行政機関に対する手続,並びに自動車用シートやレールアダプタの開発をAと共に行っていた。こうした株式会社ブリッドと被告との関係は,Bがケンテックを退職し,原告ハトプラを設立した後も継続された。 (エ)株式会社ブリッドと被告との取引関係が解消された経緯被告と株式会社ブリッドとの間には,上述した合意が形成されていたにもかかわらず,被告は,平成14年秋から,株式会社ブリッド(代表者A)には黙って,自動車用シートの部品であるシートレール(レールアダプタ)の自社生産を始めた。 他方,平成14年9月頃から株式会社ブリッドの社員の退職が始まり,後日3人の社員(C,D,E)が被告又はその関連会社に勤めていることが判明した。こうした経緯があった後,被告は,平成14年12月の初めに,株式会社ブリッドに対して,一方的に商品の注文を平成15年3月末で打ち切る旨を通告し,最終的に両社の取引は,平成15年5月に完全に無くなった。 (オ)両社の取引解消後の原告ハトプラと株式会社ブリッドとの関係両社の取引関係が解消した結果,株式会社ブリッドには,1億円余りの在庫が残った。その後,Bは,Aからの要請を受けて株式会社ブリッドの事業を承継した。 具体的には,平成15年4月1日付けで,株式会社ブリッドから,自動車用シートの販売に係る事業を承継した。また,株式会社ブリッドの代表者であるAが賃貸借していた工場(F)を,賃貸人Gから借り受けるとともに,Aが同賃貸人に交付し,, 。, ていた敷金を承継し この工場にて 現在も自動車用シートを製造している なお上記工場の外観,同工場でそれまで株式会社ブリッドが使用していた自動車シート,, , の生産用治具 治具の生産装置等は 原告ハトプラが株式会社ブリッドから承継し株式会社ブリッドが「BRIDE」のロゴマークを付して製造していた自動車用シートをそのまま製造し販売している。 (カ)原告ハトプラが使用権を取得した経緯原告ハトプラは,株式会社ブリッドの事業を承継し,それまでとおりの自動車用, , シートを製造して 被告に代わる新たな販売先を介して同シートを販売することが本件商標権の侵害となるという事態を避けるため,平成15年6月16日付けで通常使用権の許諾契約(甲第15号証)を締結した。しかし,その後も被告から原告ハトプラに対する営業妨害もあり,このことを商標権者に相談したところ,自己に代わって被告に対し権利行使をするよう商標権者から促され,平成17年12月12日付で専用使用権の許諾を受けた(甲第16号証 。)( )三社事業の中心3株式会社ブリッドは,少なくとも,平成6年8月25日以降(三社事業が解消される前まで)において 「BRIDE」商標を付した自動車用シートの製造・販売 ,に携わる三社合意において,当該株式会社ブリッド,被告及び(当時Bが勤務していた)株式会社ケンテックの三社の中で最も主導的立場(三社の中心)にあり,当該事業をコントロールしていた。以下,この点を更に詳細に主張する。 ( )株式会社ブリッドの名称4(ア)平成6年の株式会社ブリッドの設立時に,被告がその名称使用に関して何ら異議を述べなかったことは,被告自身が認めている事実である(甲第9号証の18頁15行目から17行目参照 。このことから,この事業の中心が株式会社ブリ )ッドにあったものと優に推認される。 (イ)株式会社ブリッドによる独占的製造株式会社ブリッドが設立された平成6年以降,同社は三社合意に係る商品を実質的に100%製造している。すなわち,スポーツシートは,株式会社ブリッドにより独占的に製造され,同社以外の事業所は一切製造していない。 (ウ)株式会社ブリッドによる商品開発これまでAが各種の商品開発(特に,車検対応のスポーツシートに向けた商品開発)を行い,このことがBRIDE商品の収益に大きく貢献した。これに対して,被告は,何ら商品開発能力を持ち合わせていなかった。個人事業として事業を開始した当初から製造工場を保有することもなく,専ら三和商会やGSRに製造を委託し,雑誌を中心とする宣伝行為のみを行ってきた被告の経歴からすれば,商品開発(とりわけ車検に適合する強度,構造や量産を踏まえた商品開発)は客観的に無理であったと言わざるを得ない。そうした被告が,この事業を進める中で,最終的にBRIDE商品の製造を株式会社ブリッドに対して100%頼った背景には,優れた生産能力と,車検に関する知識と経験を持ち合わせていたBの助言の下におけるAの開発能力並びに三社合意における同社の中心的役割があったことは明らかである。 (エ)株式会社ブリッドによる広告宣伝活動株式会社ブリッドは,膨大な広告宣伝費用も負担し,これにより広告宣伝活動がされた。こうした広告宣伝活動は,例えば,自動車2台(ホンダシビックのレースカー)をレース仕様に製作し,これらの自動車により宣伝活動をするというものである。また,こうした広告宣伝活動に関連して,モーターショーなどの展示会を行うに当たり,その具体的指示も株式会社ブリッドが行っていた。例えば,被告社員のHは,常に展示会で商品の説明等をするコンパニオンの派遣に関し,株式会社ブリッドに費用の見積とコンパニオンの写真を送り指示を仰いでいた(甲第20号証 。)これらの事実は,株式会社ブリッドが下請けや単に製品のみ製造するOEM先ではないだけでなく,平成6年以降においては,正に株式会社ブリッドが事業の中心であったことを根拠付けるものであり,他方,被告は,雑誌を中心とする販売活動のみを行ってきたものである。 (オ)株式会社ブリッドからの卸価格の決定過程と被告の利益株式会社ブリッドが上記三社合意の中心であり,被告をコントロールしていたことは,両社間における商品の取引価格の決定過程からも明らかである。すなわち,株式会社ブリッドから被告への卸価格は小売価格の45%と決定されたが,この卸価格は,被告による雑誌への広告宣伝費用を賄うためにAが被告に配慮したものである。 ( )したがって,以上の経緯に照らすならば,株式会社ブリッドから事業を承5継した原告ハトプラによる(しかも株式会社ブリッドの使用態様と全く同じ使用態様に係る)本件使用商標の使用により,商標法53条1項により本件商標登録が取り消されることは極めて不合理であることは明白であるから,こうした事実を全く参酌することなく,商標法53条1項の適用を認めた審決は明らかに違法である。 また,仮に,本件商標権に係る出願の際の周知性(先使用権)が被告に認められるとしても,商標法32条で要求される使用の継続性を充足しておらず,この点からも,被告の現在の行為は本件商標権を侵害する行為であり,その侵害者による商標法53条1項の審判請求により,本件商標の登録が取り消されることは明らかに違法であり,審決は取消しを免れない。 4取消事由4商標法53条1項ただし書の適用について,審決では 「使用許諾者としての監 ,督責任を果たしていたものとはいい難く,使用許諾者としての注意をしていたということもできない 」と判断しているが,このことも失当であり,取消しを免れな 。 い。 なぜならば,原告ハトプラが原告宮田工業と通常使用権の許諾契約を締結したのは平成15年6月16日であり,同契約が締結される過程では,被告と株式会社ブリッドとの取引関係が破綻した経緯の全てを原告宮田工業は了解している。同契約締結後においても,株式会社ブリッドから原告ハトプラが事業を承継することが報告され,上記通常使用権の許諾契約は,こうした双方の情報交換の上で締結されたものであるし,さらには,平成17年12月12日付けで締結された専用使用権許諾契約においても,前訴審決取消請求事件(平成17年(行ケ)第10470号審決取消請求事件)の被告が正に本件商標権者の原告宮田工業であることとも相俟って,上記通常使用権の許諾契約締結後の事実関係についても適宜商標権者との間で情報交換し,その上で当該専用使用権の許諾契約をしているからである。 すなわち,原告宮田工業は,少なくとも被告の商標使用行為が,当該商標権者の商標権を侵害している事実ばかりか,株式会社ブリッドによる商標の使用態様並びに原告ハトプラの商標使用態様の全てを知悉した上で,専用使用権を原告ハトプラに許諾したのであり,そもそも原告ハトプラを出所とする自動車用シートに対する登録商標の使用に関して,自己の商標権を侵害する被告の使用行為に係る商品との間で混同が生じないよう注意監督する義務があろうはずもない。 第5被告の反論1取消事由1に対する反論(1)商標法53条1項は,登録商標の使用権者が登録商標又はこれに類似する商標を使用したことにより,需要者に商品の品質等の誤認や商品等の出所の混同を生じさせた場合,当該商標の登録を取り消す制裁を課すことにより,需要者に不利益を生ぜしめる使用許諾を抑制しようとしたものであって,弊害防止をその趣旨とする。商標権者の不正使用による取消しを定める商標法51条1項と異なり,登録商標自体を使用する場合や故意のない場合にも取消しの対象となる強い制裁規定であって,登録商標を「不当に変更」して使用した場合のみ適用されるものと限定する根拠はない( ミネフード事件」東京高裁平成元年7月11日判決(判例時報1 「325号138頁 。)原告らは,登録商標の独占的使用が商標権者に認められている以上,登録商標及びそれと同一の範囲における使用権者の使用に対して商標法53条1項を適用すべきではないと主張する。しかし,使用権者の登録商標自体の使用により混同を生ぜしめた場合にも商標法53条1項により当該商標の登録が取り消されるべきことは明文上明らかであるから,原告らの主張は商標法の立法自体を批難するに等しい。 最高裁昭和60年2月15日判決( BRAUN」事件。判例工業所有権法(現行 「法編22)2881の316)は,商標法53条1項は同法51条1項による取消要件と差別しているので法の下の平等に反する旨の上告理由に対して 「商標法5 ,, 。」 3条1項の定める商標権者の責任は 立法府の裁量の範囲内に属する事項であると判示しており,使用許諾の際にコントロールすることが可能であった以上,それを怠った商標権者が商標法53条による制裁を免れるいわれはない。 (2)原告らは,商標権者には先使用権者に対する混同防止付加表示請求権が認められているので,先使用権者の請求により商標権が取り消されるのは整合性を欠く旨主張する。しかし,商標法53条1項は先使用権者の存否に関わらず「他人の業務に係る商品」との混同を生ぜしめた登録商標を取り消す制裁規定であり,取り消されるべき登録商標に基づく混同防止付加表示請求権など発生すべきものではないので,上記主張は誤った見解に基づく机上の空論というほかない。 (3)原告らの主張は,本件使用商標が商標法53条1項の「登録商標」に該当することを前提とする立論であるが,審決が正しく認定するとおり,本件使用商標は,本件商標ではなく,本件商標と類似する商標であるので,取消事由1に係る原告らの主張は失当である。原告らは,本件使用商標は本件商標と実質的に同一の商標であるという。前記関連事件である審決取消判決(甲第2号証)においては,商標法50条の適用においては,本件使用商標の態様である「BRIDE」の欧文字から「ブライド」の称呼を生ずると認識されて本件商標と社会通念上同一と認められる旨判示をしている。しかし「BRIDE」の欧文字が本件商標との関係におい, , て 商標法50条1項に規定される社会通念上の同一性が認められたからといって本件使商標が商標法53条1項の「登録商標」に該当するとはいえない。 不使用取消審判制度に係る商標法50条1項の「登録商標」の概念は,従来の判例によって社会通念上同一と認められる商標を含むと解釈されていたことを受けて,平成8年改正法により,同項の「登録商標」の概念を拡張する改正がされた。 ,「( ,, すなわち登録商標 書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標 平仮名片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標,外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。以下この項において同じ」と条文上。)明確にされた。不使用取消審判制度は,社会通念上同一と認められる範囲の商標が使用されていれば,登録商標に信用が化体していないとは言えないことから取り消されるべきではないので,従来の判例においては「登録商標」の概念を広く解釈していた。上記改正後の規定においても「以下この条において同じ 」と定めている 。 とおり,50条以外の「登録商標」の概念を拡大する趣旨ではない。このことは,改正に係る特許庁の説明においても,第1項の括弧書き改正について 「この括弧 ,書きは第50条についての解釈規定であり,他の規定における「登録商標」の範囲。」 。 についても一律に拡大させる一般的規定ではないと明言しているところであるしたがって,原告らが商標法53条1項の「登録商標」につき,社会通念上同一。, と認められる商標を含むと主張することが失当であることは明らかである 加えて本件使用商標の称呼は「ブリッド」であることは当事者間に争いがなく,上記確定判決の認定とは前提とする事実関係と異にするから,原告らが同確定判決を援用することは誤りである。 (4)本件使用商標と被告のBRIDE標章は外観及び称呼において全く同一である。そして,本件使用商標は本件商標と外観及び称呼において異なるが,基本的「」 。 構成である BRIDE の文字部分が共通するので類似することは明らかであるしたがって,本件使用商標が本件商標と同一であることを前提とする取消事由1は失当である。 2取消事由2に対する反論( )原告らは,被告に本件審判の請求人適格はない旨主張するが,商標法531, 「」 , 条1項は 商標権者の不正使用取消審判同様 何人 も請求できると規定しており明文に反するものであって,主張自体失当である。同条の取消審判制度は,いわゆる公衆審判制度であり,商標法51条の取消審判制度以上に,需要者の利益保護の色彩が強いより厳しい制裁規定である。原告らは請求人適格については本件審判においては主張していなかったものであるところ,本件訴訟において,明文の規定に反することを取消事由として新たに主張することは,いたずらに審理範囲を拡大するものであり,訴訟手続の信義の観点からみても不当である。 (2)被告は,本件商標権を侵害するものでもなく,また,いたずらに本件審判請求を求めているものでもない。既に被告の周知商品表示となった被告BRIDE商標を,被告とは無関係の原告ハトプラがその周知ブランドを乗っ取る明確な意思と目的のもとに,その手段として,本件商標権の使用権を取得したものであって,商標秩序の健全な維持に対して本件商標権が悪用された弊害が明らかであったことから本件審判を請求したのである。 原告ハトプラが上述した乗っ取りの意思と目的があったことは,その代表者Bが名古屋地裁事件の当事者尋問において明確に陳述(甲第11号証の50〜51頁)していることからも明らかである。 原告らは,本件商標権を侵害している者の請求によって本件商標権が取り消されることは不当である旨主張しているが,公衆審判制度を定めた本条の規定の趣旨からすれば,公益的観点から商標権を取り消す制裁が課されるべきものであって,何ら不当なことではない。又,商標法上の制裁規定によって取り消されるべき商標権に基づく権利行使は権利濫用であって商標権侵害は存在しないのであるから,原告らの主張は失当である。 3取消事由3に対する反論( )被告が「BRIDE(ブリッド 」標章を確立した経緯1 )被告代表者のI(以下「I」という )は,自動車用品を扱う訴外株式会社桑野に 。 5年間在籍した後,スポーツシートのメーカーを起業すべく昭和56年に独立した(乙第95号証 。)Iは,モータースポーツ市場の将来性に期待し,とりわけモータースポーツを愛好する若い男性を対象としたスポーツシートのブランドを確立すべく全エネルギーを傾注した。 Iは 屋号を ブリッドCo と定めるとともに ブランド名の英文字表記に B ,「」, 「RIDE」を当てはめ 「ブリッド」と称呼させることとした(以下「被告標章」と ,いう。。)通常 「BRIDE」と表記すれば 「ブライド」と称呼するのが自然であるが, , ,それを敢えて「ブリッド」と称呼させたところに,後述するとおりIの独創的な発想に基づくオリジナリティがある。 昭和58年には 「BRIDE」の統一したロゴマークを作成するために,訴外 ,鉄谷写真事務所に委託して英文字「BRIDE」を特徴的にデザイン化した被告標章を完成した(乙第7号証 。),, 「」 Iは 昭和61年 モータースポーツファン及びマスコミから ドリフトキングの称号を与えられ,レーシングドライバーとして絶大な人気を誇っていた訴外Jとスポンサー契約を締結するなどして雑誌等を通じて宣伝広告を行った結果,昭和62年以降の売上が急速に増加していった。昭和63年には年間売上げが2億6000万円にまで達し,ブリッド商品の販売店は60社を超え,取引先及び需要者に周知性を獲得するに至った(乙第35,36号証 。被告のBRIDE商品は,リク )( ) ライニング型シートとフルバケット型シート リクライニング機能を持たないものの2種類あり,また,それらを各種自動車に取り付けるためのシートレールが主た, 。 る商品であり 三和商会が中心となって被告のBRIDE商品全てを製造していたIは,ブリッドブランドのスポーツシートの販売が著しく伸びたことから,平成元年には被告を設立し 「ブリッドCo」の事業を全部承継させた。 ,( )被告と訴外株式会社ブリッドとの関係2(ア)事業所トータス(及びその事業を承継した株式会社ブリッド)が被告の専属生産工場に過ぎないことトータス(及び株式会社ブリッド)は,被告の委託を受けて被告のために,被告のブランドである被告標章を付し,BRIDEシート及びシートレールを製造した単なる生産工場に過ぎず,周知商品表示である被告標章の営業主体となり得る余地はない。トータス(及び株式会社ブリッド)は,被告のためにBRIDEシートをOEM製造する製造者にすぎない。 (イ)被告がトータス(A)に製造委託をした経緯Iは,昭和56年にブリッド事業を開始後,同年から平成6年まで三和商会にリクライニングシートの製造を委託し,昭和61年から梅村FRPにバケットシートの製造を委託し,被告の工場においてシートレールの生産とシートの最終組立を行っていた。 被告は,三和商会及び梅村FRPの協力を得て,BRIDEシートの新商品を開発し,株式会社ブリッドに製造委託を行うまでに 「ブリッドGT「ブリッドE ,」,X「ブリッドUNI「ブリッドCAM「ブリッドNOVA「ブリッドP 」,」,」,」,ROS「ブリッドZETA「ブリッドARTIS」等の新商品を開発・販売 」,」,している。三和商会製造の「ブリッドUNI」はパイプフレーム構造のシートであり,同じく「ブリッドPROS」はパイプフレーム構造に強化PPバンドを使用したシートである。平成元年には,500車種以上のバリエーションに対応可能なシートレールが開発されている。 BRIDEシートの売上げ急増に伴い(平成3年には年5億2800万円の販売 ,三和商会及び梅村FRPの製造供給体制のみではその需要をまかなうことが )出来なくなり,被告は平成3年11月にトータスに対して,新商品「ブリッドERGO」の製造委託を開始した。平成6年までは,三和商会とトータスが併存して被告からの製造委託を受けてBRIDEシート及びシートレールの各商品を供給していた。 (ウ)株式会社ブリッドの専属工場化の経緯被告は,平成5年4月頃,三和商会より新規シートの生産を受託できないとの申, ()。 し入れにより トータスに新製品の委託生産を開始したのである 乙第94号証その後,トータスが法人化されて株式会社ブリッドが設立されたことに伴い,平成7年には株式会社ブリッドはBRIDE商品の全てを製造するに至った。株式会社ブリッドは被告からの発注のみに基づいてBRIDE商品を製造し,製造した商品はその全量が被告に納品(販売)されるものであり,株式会社ブリッドは被告から工場(K)の転貸を受けて製造を行う被告の専属工場であった。BRIDE商品の製造に必要不可欠な部材・部品であるグラデーション生地とフォルシア製輸入スライダーとリクライニング機構部品はその全量が被告から供給されている。 ( )BRIDEシート販売の際の営業主体の表示が被告であること3, , IがブリッドCo時代において BRIDEシートの製造・販売を行っていた際その商品パンフレットや広告・宣伝にはその業務主体として「ブリッドCo」の名称を用いていた。被告が法人化された後は被告の名称や「ティーズコーポレーションブリッド事業部」なる表示を行っていた。そして,取引者・需要者は被告標章を「ブリッド」と称し,その営業主体がブリッドCoや被告であると広く認識されていた。 被告が株式会社ブリッドにBRIDEシートの製造を委託した後においても同様に,BRIDEシートの宣伝・広告にはその営業主体として被告又は「ティーズコーポレーションブリッド事業部」の名称のみが表示されている。商品取扱説明書には 「製造元/株式会社ブリッド「発売元/ティーズ株式会社」が小さく表示さ , 」,れているがBRIDEシートの営業主体としては,住所や電話番号と共に「ティーズ株式会社ブリッド事業部」が大きく表示され,被告が同様にBRIDE事業の主体であり,その営業上の責任主体であることを表示していることに変わりはない。 製造元として表示された株式会社ブリッドの記載は,その社名中に「ブリッド」の表示があるので被告の関連会社又は被告のグループ会社であるとの認識しか生じ得ない。 ( )被告が「株式会社ブリッド」の名称使用を許した経緯4原告は,トータスが被告の下請業者であるならばその法人化の際に「株式会社ブリッド」の名称の設立を許すはずがないと主張するが,トータスが法人化する際にその商号中に被告標章の称呼である「ブリッド」の使用を被告が認めたところで,被告とトータス(及びその事業を承継した株式会社ブリッド)との関係が製造下請。, , であることは何ら変わるものではない そして 著名・周知ブランドの営業主体がその事業のグループの一員をなす者に対して,当該著名・周知ブランドを含む商号の使用を認めることは珍しいことではないから,被告が上記商号の使用を認めたことを理由に株式会社ブリッドが主体的な地位にあったとの原告らの主張は失当である。 ( )原告ら主張の「三社合意」の虚構性5,, (「」 原告らは 被告 株式会社ブリッド及び株式会社ケンテック 以下 ケンテックという )間において,BRIDEシートの製造・販売を上記三社の共同事業とす 。 る旨の合意が成立したと主張する。 , ,, しかし 原告ら主張の上記合意を裏付ける客観的証拠はなく 完全な虚構であり事実に反する虚偽の主張であることは明らかである。 原告ハトプラの代表者Bはケンテックの取締役でも代表者でもなくその一従業員にすぎず,Iとはケンテック代表者Lの部下として顔見知り程度の関係しかなかったこと,ケンテックはトータスに部品等を供給していた2次下請業者にすぎず,被告にとってケンテックとBRIDE事業の基本的経営事項に関して直接的取引関係を結ぶ必要が認められないこと,トータスは被告からの委託を受けてBRIDEシート「ERGO」の製造を開始した直後にあって,その製造技術は充分には評価されず,平成4年当時は三和商会がBRIDEシートのほとんどを製造していたこと,合意時期も明確でないこと,書面の作成もなく黙示的な意思表示のみによって重要な基本的経営事項を定めることはあり得ないことなどに照し,原告ら主張の三社合意など存在するはずはない。 ( )被告と株式会社ブリッドとの商品製造委託関係の解消の経緯6BRIDE商品の販売は,景気後退や価格競争の激化によって平成7年以降減少し,販売額は平成14年には最盛期の半分以下(5億7 000万円)までに落ち,込んでいた。かような営業不振に対して,新商品の開発を通じての競争が必要であ,, , ったが 株式会社ブリッドのAは 販売不振原因が被告にあると非難するばかりで被告の取締役であるHからの新商品開発の指示に従わず,BRIDE商品の製造に関し事業者としての意欲を喪失していた。被告はやむを得ず自ら新商品の試作品を作らざるを得ないなど,Aの態度に危機感を感じていた。 ( )原告ハトプラの本件商標権の取得目的7Bは,BRIDEブランドを「乗っ取る」ため本件商標の通常使用権及び専用使用権を取得した。 Bは 「ブリッドの標章は平成7年に周知性を取得した 」と供述し(甲第11号 , 。 証の8頁 ,その後の平成11年訴外株式会社ケンテックを退職し,同年原告ハト )プラを設立した(乙第1号証 。)Bは,単なる営業マンに過ぎなかったものであり,現在もレース業界に対する知(。),, 識がないことは自ら供述しており 甲第11号証 B本人調書28頁その経歴その濫用的手法(原告ハトプラは,原告宮田工業から許諾を受けた本件商標とは異なる被告標章と同一の外観及び称呼で,しかも昭和58年に被告が制作したロゴマークと全く同一のロゴマークを使用し販売している,及び原告らの主張に沿う客 。)観的かつ合理的証拠資料の提出はないことに照らし,原告ハトプラの権利主張を認める余地はない。 ( )原告らが周知と認める商品表示であるBRIDE標章は,被告の商品を表8示するブランドとして確立されたものである。トータス(及びその承継者の株式会社ブリッド)は,被告標章が周知性を獲得した後に被告のために,被告BRIDE商品の製造全般を受託した,被告BRIDE商品の単なる下請製造工場にすぎず,被告標章の帰属主体ではないから株式会社ブリッドが被告標章(本件使用商標も同じ)の正当な使用権を譲渡し得るはずのものではない。また,原告ハトプラは,被告からの製造委託を受けた株式会社ブリッドに対して部品を供給していた納入業者にすぎず,株式会社ブリッドからその事業の譲渡がなされているものでもない。原告ハトプラが本件使用商標を使用することは,被告の周知商品表示である被告標章に係るスポーツシートと混同を生じさせる行為であって,不正競争防止法違反に該当するものであり,原告ハトプラが本件使用商標を正当に使用する権限など存在しない。 したがって,取消事由3も失当である。 4取消事由4に対する反論原告らは,本件商標権者の原告宮田工業と通常(専用)使用権者の原告ハトプラとの間で情報交換をしたことを主張するのみであって,商標法53条1項ただし書に該当する事実を何ら主張・立証していないので,取消事由4は失当である。使用権者である原告ハトプラによる本件使用商標の使用によって,通常使用権の許諾後現在まで継続して被告の商品と混同が生じていることは明らかであるところ,原告宮田工業は原告ハトプラの商標不正使用行為を助長している事実が認められるものである。すなわち,原告宮田工業は平成16年に請求された本件商標の不使用取消審判及びその取消訴訟において,原告ハトプラが本件商標と類似し,かつ被告商標と同一の商標を使用して被告の業務に係るBRIDEシートと混同を生ぜしめていることを知っていた(甲第2号証 。この点,原告らは「原告ハトプラの商標使用 )態様の全てを知悉した上で,専用使用権を原告ハトプラに許諾しているのであり」(())。 と主張して自認しているところである 原告準備書面 1 27頁10〜11行目原告宮田工業は,本件使用商標の使用により他人の商品と混同を生じていた事実を知りながら,それを助長し,更に原告ハトプラに対して専用使用権の設定まで行っていたのであるから,商標法53条1項ただし書「当該商標権者がその事実を知らなかった場合」に該当せず,ただし書の適用がないことは明らかである。 第6当裁判所の判断1前提となる事実( )本件商標登録1原告宮田工業が第2の1に記載の本件商標登録を有することは当事者間に争いがない。 ( )原告ハトプラに対する本件商標についての使用許諾2(ア)原告宮田工業と原告ハトプラは,平成15年6月16日,本件商標について,要旨,以下の内容の通常使用権許諾契約を締結した(甲第15号証 。)第1条(商標の使用範囲)許諾商品自動車用座席及び座席部品使用態様ブライド/BRIDE適用地域日本国内全域許諾期間本契約締結後3年間第2条(原告ハトプラの使用義務)本契約書締結後平成15年7月1日より使用開始第7条(使用見本と使用報告書の提出)原告ハトプラは,本件商標及び本件商標類似商標を使用するに際してその態様を示す見本を原告宮田工業に提出するものとする。 第9条(期間)本契約書の有効期間は,本契約締結後3年間とする。 (イ)原告宮田工業と原告ハトプラは,平成17年12月12日,前項の契約を解約するとともに本件商標について,要旨,以下の内容の専用使用権許諾契約を締結した(甲第16号証 。)第1条(商標の使用範囲)許諾商品自動車用座席及び座席部品使用態様ブライド/BRIDE適用地域日本国内全域許諾期間本契約締結後5年間とする。 第8条(使用見本と使用報告書の提出)原告ハトプラは,本件商標及び本件商標類似商標を使用するに際してその態様を示す見本を原告宮田工業に提出するものとする。 第10条(契約期間)本契約書の有効期間は,平成17年12月1日より平成22年11月末日までとする。 (ウ)原告ハトプラによる本件商標の使用態様原告ハトプラは,遅くも原告宮田工業と本件商標についての通常使用権許諾契約を締結した直後の平成15年7月頃から,本件商標の構成要素から本件商標の称呼を指示する片仮名表記の「ブライド」部分を削除した「BRIDE」の構成部分のみを自己の商品である自動車用座席等に付し,その商品カタログにおいて「ブリッドのリクライニングシート「ブリッド理論による機能美「ブリッドの【基本 」, 」,シェル構造】は3種です「ブリッド,ネクストステージ」等と記載するなどし 。」,て,上記の「BRIDE」の称呼を専ら「ブリッド」としてのみ称呼するものと規(,,, 定して使用している事実を認めることができる 甲第11号証 乙第22 第29第30及び第31号証,弁論の全趣旨 。)2取消事由について取消事由2は被告使用標章の成立の経緯及び使用実態についての検討が必要であるから,以下においては,まず,取消事由1について判断し,次に同3について判断し,これを踏まえて同2について判断し,最後に同4について判断することとする。 ( )取消事由1について1原告らは,本件使用商標と本件商標は社会通念上同一であるから,商標法53条1項の適用はない旨主張する。 そこで検討するに,前記1に認定したところによれば,本件使用商標は,本件商標と「BRIDE」部分において構成を共通とするが,本件商標の称呼を規定する片仮名表記分を欠くとともに,その称呼は,本件商標が上記片仮名表記部分とこれ「」, と一致する上記英文字からその通常の読み方である ブライド が生ずるのに対し本件使用商標においては前記1に認定したとおり専ら「ブリッド」の称呼のみを生ずるものとして規定されている。そして,英和辞典類を調査してみても,英文字の「BRIDE」を「ブリッド」とする読み方を見い出すことができないことからすると,本件使用商標は,その使用の態様を踏まえてこれを実質的に見ると 「BR ,」 。 IDE/ブリッド の構成からなるものと同視するほかないものというべきである加えて,後述するような自動車用スポーツシートに関心がある者を除いては,上記のとおり,通常 「BRIDE」から「ブリッド」の称呼を想起することは殆ど不 ,可能である上,現状の我が国における英語教育の普及状況から見て本件商標の「BRIDE/ブライド」が「花嫁,新婦,新妻」等の観念を有するものと理解されるであろうことは容易に推認することが可能であるのに対し,本件使用商標の「BRIDE/ブリッド」はこれに該当する既成の英文字を見いだすことが困難であるため(後記( )アに説示するとおり,被告標章及びこれと実質的に同一の本件使用商2標は,被告代表者が創作した造語である,その観念を想起することはできない。 。)そうすると,上記のとおり,本件使用商標は,その使用の態様を踏まえてこれを実質的に見ると 「BRIDE/ブリッド」が一体の構成からなるものと理解される ,ところ,これを本件商標と対比すると,外観において「BRIDE」部分を共通するに止まり,称呼において異なり,観念のおいて比較することができないものといわざるを得ないことに加え,後述するように本件使用商標に係る自動車用スポーツシート等の取引分野は趣味性の極めて高い高価格商品(いわゆるブランド商品)であり,その主たる需用者が自動車に強い関心を寄せる若者であることから商標に対する高度の識別力を有するものと優に推認可能であることなどを考慮すると,本件使用商標が本件商標と社会通念上同一であると見ることは到底困難であるといわざるを得ない。 なお,原告らは本件使用商標と本件商標が社会通念上同一であることは本件商標についての不使用取消審判請求の不成立審決に対する知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10470号事件同年9月29日判決(甲第2号証)においても認められていると主張する。そこで検討するに,同判決は,原告ハトプラの商品カタログ等に掲載されたデザイン化された「BRIDE」の表記やその製造販売に係る自動車用シートに付された同様の「BRIDE」の英文字の記載の存在を認定し,これらから「ブライド」の称呼が生ずるものと認識されるとした上 「両者は,書体 ,のみに変更を加えた同一の『BRIDE』の欧文字を構成要素とするものであり,『ブライド』という同一の称呼を生ずるものである」として社会通念上の同一性を肯定したものである。以上の判示から明らかなように,上記判決が前提とした事実関係においては,本件使用商標において称呼が専ら「ブリッド」とのみ規定されている事実は全く考慮されていないのであるから,上記事件は本件とは前提となる事実を異にする事案であり,本件に参照されるべきものではない。 そうすると,その余の点について検討するまでもなく原告らの主張はその前提において誤っているものといわざるを得ず,採用することはできない。 なお,本件使用商標それ自体は,本件商標の構成中の片仮名表示部分が削除されている点で外観において相違するものの,本件使用商標からは通常その英文字に則して「ブライド」の称呼と前述したように「花嫁,新婦,新妻」等の観念を生ずる点において本件商標と相違はないのであるから,本件使用商標が本件商標に類似するとした審決の認定判断に誤りはない。 ( )取消事由3について2原告らは,原告ハトプラによる本件使用商標の使用は,被告,株式会社ブリッド及びケンテックの三社による自動車用シート等の製造・販売の共同事業化の合意に基づき被告標章を使用することができた株式会社ブリッドから原告ハトプラが事業承継したことに伴うものであるから,正当な使用であり,商標法53条1項に該当しない旨主張するところ,上記主張の当否の判断には 「BRIDE/ブリッド」 ,標章,すなわち被告標章の成立の経緯及びその後の使用状況等の検討が不可欠であるから,以下,順次検討する。 (ア)被告標章の成立被告代表者Iは,昭和56年,昭和43年に公開された主演俳優のスティーブ・マックイーンがスポーツカーを疾走させる場面で有名な映画「ブリット(BULLIT 」に着想を得て 「BRIDE (ブリッド)ブランドの自動車用スポーツシ ),」ートの製造販売を行う「ブリッドCo」を設立し,同58年に鉄谷写真事務所に依頼して「BRIDE」の文字を統一ロゴマークとして製作した。その後,同60年から全てのシートモデルに上記のロゴマーク入りの生地を採用し,あるいは商品名(例えば,昭和58年発売のリクライニングシート「ブリッドEX ,乙第70, 」第94号証)に採用し,また 「ブリッドPRO「ブリッドUN1「ブリッド ,」,」,CAM」等の名称と上記ロゴマークを配した商品を開発してこれらを掲載したカタログ(昭和62年にはカタログ数万部製作配布)を配布したり,発行部数数十万部に昇る自動車関係の雑誌(月刊誌「オプション「モーターファン「モーター 」,」,マガジン」等数誌に上記ロゴマーク等が記載された商品広告を掲載し,さらには昭和61年当時自動車レース界で自動車に関心を有する若者に高い人気を誇っていたレーシングドライバーのJから技術的助言を受けるなどの協力を得て同62年以降はスポンサー契約を締結するなどしながらブリッドブランドの浸透を図り,次第に業績を拡大し,平成元年5月30日に被告会社を設立してその事業を継承した(甲,,,,,,,,,, 第9号証 乙第2 第4 第7 第9 第14 第34 第37 第62 第70第81,第82,第94ないし第96及び第118号証,枝番のあるものはこれを含む。。)(イ)被告標章の周知性獲得の経緯被告の売上高は,自動車用シートが主要部分を占める(この他にシートを取り付けるためのシートレールなどがある )ところ,ブリッドCo時代の昭和62年3 。 月から同年12月までが1億6346万3654円(月平均1634万円 ,同6 )(), 3年1月から同年12月までが2億6074万5250円 月平均2173万円平成元年1月から同年5月までが1億490万6780円(月平均2098万円)であることが認められる(乙第35,第36号証 。そして,当時のシート1台当 )たりの価格は5万ないし10万円程度であった(乙第9の5,6)ことを勘案すると,被告は,上記約3年間に月平均にして優に百数十台を超える自動車用シートを販売していたものと推認することができる。 (ウ)以上の(ア)及び(イ)に加えて,自動車購入時に設置されていた座席を高額の費用を掛けて取り替えるという趣味性の極めて高い高価格商品である自動車用スポーツシートの需用者が主として自動車に強い関心を寄せる若者であり,それ故,これら若者のブランドに対する関心は高く,また,その取引者も自ずから限定された範囲の自動車用品等の専門的販売業者になるという経験則上容易に認められる事実を勘案すると,被告(その全身であるブリッドCoを含めて)のブリッド標章は少なくとも本件商標の登録出願がされた昭和63年7月以前にその需用者・取引者の間で国産の自動車用スポーツシートのトップメーカーの一つとしてのブランドを確立するとともに周知性を獲得していたものと優に推認することができるというべきである。 (エ)原告ら主張の三社合意について原告らは,被告,ケンテック及びAとの間で,平成4年頃,トータスの屋号で自動車用シートの製造をしていた上記Aが株式会社ブリッドを設立後においては,自, ,, 動車用シートの製造販売事業を 製造は株式会社ブリッドが 開発はケンテックが販売は被告がそれぞれ分担して三社で行う旨の共同事業化の合意(すなわち三社合意)が成立し,この合意に基づき,株式会社ブリッドに被告標章の使用が認められていたところ,株式会社ブリッドの事業を承継した原告ハトプラは上記三社合意に基づき被告標章の使用が認められた旨主張するので以下検討する。 原告らが主張するところの三社合意なるものは,前記(ア)及び(イ)に認定説示した被告のブリッドCoから始まるそれまでの営業実績や被告標章の確立の経緯に照らすと被告にとって極めて重要な問題であるのみならず,上記三社相互の関係においても,各社が担当する業務範囲(製造・販売・開発の主要業務に止まらず広告宣伝活動等も含まれる )の確定はもとより,経営方針の決定方法,共同事業化した 。 場合に生ずる経費の負担割合及び利益の分配基準,各社の収支状況に関する経営情報の開示方法等の共同事業化を実現する上で必要不可欠な重要事項の定めが必須となるところ,これらの重要事項の内容を明記した契約書,協定書等の合意内容を証する何らの書面もない。 以上のような諸事情に加え,被告は原告らが上記合意の成立を主張する前年である平成3年には7693台の自動車用スポーツシートを製造販売し,順調に経営を拡大していたものと認められる(乙第104号証)状況下にあったことなどを勘案すると,平成4年当時,被告に上記のような合意の締結を必要とする合理的な事情を見い出すことは到底困難であり,本件全証拠を検討してもかかる事情を認めることはできない。また,被告において,株式会社ブリッドに「ブリッド」を商号として使用することを許諾したからといって,それは同社においてブリッドシートの製造を全面的に担当することからこれを許したものと見ることには十分合理性があるのであり,それ以上に原告ら主張の三社合意の成立がなければ合理的説明ができないなどといったものではない。 これに対し,原告らの三社合意の主張に沿う甲第11号証(原告ハトプラが本件商標権に基づき被告に対し被告標章の使用差止め等を求めた名古屋地方裁判所平成18年(ワ)第1587号,同第3143号事件におけるB本人調書 ,同第14 )号証,同第19号証(いずれもBの陳述書)及び同第21号証(Aの陳述書)等の証拠は,平成4年当時のトータスの代表者A(平成6年の株式会社ブリッド設立後の代表者)が自動車用スポーツシートの車検への適合化作業等において果たした役割の重要性を中核としたものであるところ,Aの製造分野での貢献は被告商品の品質向上をもたらし,ひいては被告の売上増に寄与したものであるから十分に評価に値するものではあるが,同人が被告の販売する全商品を製造納品するという当時の関係に照らすと,それは同時にA自身の利益の増加をも意味するものであるから技術革新に努め品質の向上を図ることは極めて当然の事柄であり,これをもって被告にとっての三社合意締結の必要性を根拠付ける事情としては薄弱であるといわざる, , を得ないし そもそも上記各証拠中の三社合意に係る最重要の記載部分についてはいずれもその事柄の重要性に比してその内容は不明確かつ具体性,整合性に欠けるものであってそれ自体おいて信頼性に欠けるものであるばかりか前記のとおり合意を証する何らの裏付け証拠もないのであるから,到底これらを採用することはできない。 (オ)以上によれば,被告標章は,被告がその創意と企業努力により確立してきたものであり,少なくとも本件商標の出願前において既に自動車用スポーツシートの需用者の間で被告ないしは被告製品を表すものとして周知性を確立していたものというべきである。そして,原告ら主張の三社合意なるものの存在は到底認めることはできないのであるから,これを前提として原告ハトプラが被告標章を使用することができる根拠を認めることは到底困難であるし,その他被告標章の使用を正当化し得る事情を見出すことはできないものといわなければならない。 したがって,原告ハトプラによる本件使用商標の使用を正当化する根拠を見い出すことはできず,また,本件全証拠を検討しても被告標章の周知性が失われたことを窺わせるに足りる証拠もない以上,自動車用スポーツシート等の販売において,原告ハトプラによる本件使用商標の使用行為により,同原告の商品と被告の商品との間に混同が生ずることは明らかというべきである。 よって,取消事由3は理由がない。 ( )取消事由2について3原告らは,本件商標権の侵害者である被告には本件商標について商標法53条1項に基づく取消審判の請求人適格がない旨主張する。 そこで検討するに,前項に認定説示したように,被告標章は「BRIDE/ブリッド」であるから 「BRIDE/ブライド」の本件商標と外観の一部を共通にする ,に止まり,称呼において異なり,観念において比較することができないものであることに加え,前述したような取引分野の性格を考慮すると,両商標自体の対比においてみた場合,両者は非類似というべきであるから被告標章の使用が本件商標権を侵害するものということはできない。したがって,被告の先使用権を論ずるまでもなく被告標章の使用が本件商標権の侵害になる余地はないから原告らの主張はその前提を欠くものであり採用することができない。 よって取消事由2は理由がない。 ( )取消事由4について4原告宮田工業は,同ハトプラとの間で本件商標について通常使用権の許諾契約を締結した平成15年6月16日の時点において被告と株式会社ブリット等の関係が破綻した全ての経緯を把握していたことを自認しているし,前記1( )の本件商標2に係る各許諾契約によれば,原告宮田工業は原告ハトプラから本件商標等の使用態様の見本の提出を受けることが合意されている事実を認めることができる。また,本件商標権について不使用取消審判請求がされ,平成17年4月6日に不成立審決がされ,その審決取消訴訟が提起されたところ(前掲平成17年(行ケ)第10470号審決取消請求事件 ,同訴訟の原告に補助参加した被告は,原告ハトプラが )同訴訟において提出したカタログに記載された「BRIDE」の文字は被告標章として周知性を獲得していた「BRIDE/ブリッド」と同一であり,原告ハトプラは本件商標の使用と称して被告標章の乗っ取りをしようとしたものであるなどと主張した事実を認めることができる(甲第2号証 。そして,原告宮田工業は,原告 )ハトプラにおいて本件商標権に基づいて被告による被告標章の使用を禁止させるための権利行使を可能ならしめる目的で平成17年12月12日,従前の通常使用権許諾契約を解約し 専用使用権の許諾契約を締結した事実を認めることができる 甲 , (第16号証 。)以上のような事実関係に照らすならば,原告宮田工業は原告ハトプラによる本件使用商標の使用行為により,被告の自動車用シート等の商品と原告ハトプラの同種商品との間に混同が生ずるおそれがあることを認識していたか,仮に認識していなかったとしても相当な注意を怠っていたものといわざるを得ない。 原告宮田工業は,被告標章の使用が本件商標権を侵害するとの前提に立ち種々主張するが,その前提が失当であることは既に説示したとおりであるからその主張を採用することはできない。 よって,取消事由4も理由がない。 3以上によれば,審決は正当であり,他にこれを違法とする事由もないから,本件各請求はいずれも理由がないものとしてこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 田中信義 |
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裁判官 | 浅井憲 |
裁判官 | 杜下弘記 |