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関連審決 無効2007-800190
関連ワード 技術的思想 /  有用性 /  アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  発明の概要 /  分割出願 /  着想 /  技術的意義 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  混同 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10341号 審決取消請求事件
原告ク ラリオン株式会社
訴訟代理人弁理 士木内光春
同 大熊考一
同 茜ヶ久 保公二
同 町田正史
被告Y
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/04/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2007-800190号事件について平成20年8月8日にした審決を取り消す。
第2事案の概要1本件は,原告が特許権者である特許第3569501号(発明の名称「ナビゲーション表示における案内情報の選択方法」,請求項の数2)の請求項1及び2について無効審判請求をしたところ,特許庁がこれを無効とする旨の審決をしたことから,これに不服の原告が,その取消しを求めた事案である。
2争点は,上記請求項1及び2に係る発明が下記刊行物に記載された発明との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。
記・特開昭62-151884号公報(発明の名称「情報表示装置」,出願人 パイオニア株式会社・マツダ株式会社,公開日 昭和62年7月6日。甲4。以下,同公報に記載された発明を「甲4発明」という。)・「CELSIORエレクトロマルチビジョン」の取扱説明書表紙,2〜4頁,42〜49頁及び裏表紙(1992年[平成4年]8月20日トヨタ自動車株式会社初版発行。甲5。以下,同説明書に記載された発明を「甲5発明」という。)第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,平成5年1月21日になした原出願(特願平5-27418号)からの分割出願として,平成13年4月23日,名称を「ナビゲーション表示における案内情報の選択方法」とする発明について特許出願(特願2001-123725号)をし,平成16年6月25日特許第3569501号として設定登録を受けた(請求項の数2,特許公報は甲1。以下「本件特許」という。)。
被告は,平成19年9月10日付けで本件特許の請求項1及び2について無効審判請求をしたところ,特許庁は,同請求を無効2007-800190号事件として審理した上,平成20年8月8日,「特許第3569501号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする」旨の審決をし,その謄本は平成20年8月20日原告に送達された。
(2) 発明の内容上記請求項1及び2は,次のとおりである(以下,「本件発明1」,「本件発明2」という。)。
ア 請求項1「自車位置及び目的地の位置,方向の案内情報を車両の移動に伴ってランドマークを含む地図情報上に画像表示し,かつ選択可能とするナビゲーション表示における案内情報の選択方法において,画像表示された複数の施設に関する情報から少なくとも必要とする施設の種類を設定する条件設定ステップと,前記設定された施設の種類に基づいて,現在設定されている目的地の位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出する目的地周辺検索ステップと,抽出された目的地周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップと,リストアップされた施設から所定の施設を選択し,目的地として設定する目的地設定ステップと,を有することを特徴とするナビゲーション表示における案内情報の選択方法。」イ 請求項2「上記設定された施設の種類に基づいて,目的地の位置から設定された種類の施設迄の距離情報を演算算出する距離情報演算算出ステップと,前記距離情報演算算出結果に基づいて,該目的地の位置から距離が近い順に上記目的地周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップと,を有する請求項1に記載のナビゲーション表示における案内情報の選択方法。」(3) 審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件発明1及び2は,甲4発明及び甲5発明並びに周知技術に基づいて容易に発明することができたから特許法29条2項に違反する(無効理由4),というものである。
イなお,審決が認定する甲4発明の内容,本件発明1と甲4発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
[甲4発明の内容]「地図情報を読み出して車両の現在地とともに所定の施設のシンボルを所在地に対応して表示装置に表示する,車両ナビゲーション装置の施設の情報の選択方法において,表示装置に表示されたガイドメニューの施設のシンボルから所望の施設のシンボルを選択する手段と,前記選択された施設のシンボルに基づいて,車両の現在地を含む地図上にある施設の情報をリストにして表示する手段と,を有する車両ナビゲーション装置の施設の情報の選択方法。」[一致点]「自車位置を車両の移動に伴ってランドマークを含む地図情報上に画像表示する,ナビゲーション表示における案内情報の選択方法において,画像表示された複数の施設に関する案内情報から少なくとも必要とする施設の種類を設定する条件設定ステップと,前記設定された施設の種類に基づいて,現在設定されている基準位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出する基準位置周辺検索ステップと,抽出された基準位置周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップと,を有するナビゲーション表示における案内情報の選択方法。」[相違点1]ナビゲーション表示における案内情報に関し,本件発明1では自車位置のみならず「目的地の位置,方向」をも画像表示し,かつ「選択可能とする」態様であるのに対し,甲4発明ではかかる態様が特定されていない点。
[相違点2]所定の範囲にある施設の情報を抽出する場合の基準位置に関し,本件発明1では「目的地の位置」であるのに対し,甲4発明では「車両の現在地」である点。
[相違点3]本件発明1は「リストアップされた施設から所定の施設を選択し,目的地として設定する目的地設定ステップ」を有するのに対し,甲4発明はかかるステップを有していない点。
(4) 審決の取消事由しかしながら,審決には,以下のとおり誤りがあり,本件各発明は無効とされるべきものではないから,違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(本件発明1と甲4発明の対比における一致点認定の誤り)審決は,「後者(判決注:甲4発明)の『選択された施設のシンボルに基づいて』が前者(判決注:本件発明1)の『設定された施設の種類に基づいて』に相当すると共に,後者の『車両の現在地』と前者の『目的地の位置』とは共に施設の情報をリストアップする際の『基準位置』という概念で共通し,後者の『リストにして表示する』際には基準位置の周辺の施設の情報の抽出を行っていることが自明であるので,後者の『選択された施設のシンボルに基づいて,車両の現在地を含む地図上にある施設の情報をリストにして表示する手段』と前者の『設定された施設の種類に基づいて,現在設定されている目的地の位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出する目的地周辺検索ステップと,抽出された目的地周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップ』とは,『設定された施設の種類に基づいて,現在設定されている基準位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出する基準位置周辺検索ステップと,抽出された基準位置周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップ』なる概念で共通する。」(14頁6行〜18行)と認定している。
この審決の認定によれば,本件発明1の「目的地の位置」と甲4発明の「車両の現在位置」は,施設の情報のリストアップに際する「基準位置」という概念で共通するとのことである。
しかし,甲4には,施設情報をリストアップする際の基準を「車両の現在位置」とすることは一切記載されていない。甲4には,?@「第6図に示すように,表示装置29の画面から地図が消去され,その代わりにそのとき地図上に表示されていたホテルに関するより詳細な情報がリストになって表示される。」(4頁右下欄1行〜4行),?A「このとき地図上に表示されていない施設の情報は表示されないので所望の施設の情報がより見易くなる。」(4頁右下欄10行〜12行),?B「シンボルの表示が指示されるとシンボルの位置データ(座標)が読み取られ,表示画面(地図)の範囲内か否かが判断される。表示中の地図の範囲内に位置するときはそのシンボルを地図に重畳して表示させる。またそのシンボルの番号をメモリ5の所定のスタックに書き込む。表示中の地図の範囲外に位置するシンボルは表示されず,またその番号はスタックに書き込まれない。…リスト表示の指示が入力されたとき,予めスタックに格納したシンボルの番号が読み取られ,その番号が対応するデータが表示される。」(4頁右下欄19行〜5頁左上欄12行)と記載され,施設情報をリストアップする際の基準として表示装置の「地図表示領域全体」を用いることを説明すると共に,表示装置に表示中の地図範囲外にある施設は表示することはない旨の説明を行っている。このように,甲4には,施設情報をリストアップする際の基準(施設情報の抽出領域)として,「車両の現在位置」を基準とするのではなく表示装置の「地図表示領域全体」を基準とすることが明確に記載されているから,甲4発明には,本件発明1のような施設情報をリストアップする際に目的地の位置という特定の「地点」を基準とする概念が存在せず,表示装置の地図表示領域全体を施設情報をリストアップする際の基準とすることが明示されているだけである。
したがって,審決がいう「後者の『車両の現在地』と前者の『目的地の位置』とは共に施設の情報をリストアップする際の『基準位置』という概念で共通し,」(14頁7行〜9行)との認定は誤りであり,審決の本件発明1と甲4発明との一致点の認定のうち,「現在設定されている基準位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出する基準位置周辺検索ステップと,抽出された基準位置周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップと,」との点で両者が一致するとの認定は,本件発明1が目的地という特定の地点を対象にしているのに対し,甲4発明が地図表示領域全体を対象としている点で相違しているから,誤りである。
なお,被告は,甲4発明について,「車両を所定の目的地に誘導するために車両の現在位置と共に表示されている地図,すなわち現在地周辺の地図の表示の改良を目的としていることは明らかである。」と主張する。しかし,甲4そのものには,そのような記載は何ら存在しない。甲4発明は,地図表示装置において,地図情報をシンボルで表示するとともにその記号を併せて表示するだけのものであって,被告主張のような「車両を所定の目的地に誘導するために車両の現在位置と共に表示されている地図,すなわち現在地周辺の地図の表示の改良を目的としている」発明ではない。
イ 取消事由2(相違点2についての誤認)(ア) 相違点2認定の誤り審決では,相違点2として,前記のとおり「所定の範囲にある施設の情報を抽出する場合の基準位置に関し,本件発明1では『目的地の位置』であるのに対し,甲4発明では『車両の現在地』である点。」と認定し,また,この相違点2について,「ナビゲーション表示において,目的地の周辺の施設の情報は地図で通常提供されているものにすぎず,現に,甲5発明は,ナビゲーション表示において目的地周辺の地図を表示するものである。そうすると,甲4発明及び甲5発明は共にナビゲーション表示において施設の情報を得るものといえ,一般的にナビゲーション表示において運転者が必要とする現在地や目的地などを中心とする任意の領域を表示することは当然に要求されるべき事項にすぎないから,甲4発明に,甲5発明を採用することにより,上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは,当業者にとって容易であり,また,そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。」(15頁16行〜25行)と述べている。
しかし,前記アで述べたとおり,甲4には,施設情報をリストアップする際の領域を設定する基準を「車両の現在位置」とするという開示はどこにも見当たらず,開示されている事項は,施設情報をリストアップする際の領域を設定する基準として「地図表示領域全体」とすることのみである。審決で述べられているような,「甲4発明は,施設情報をリストアップする際の基準を『車両の現在位置』とするものである」という相違点2の認定自体がそもそも誤りであり,この誤った認定に基づいて,上記審決(15頁16行〜25行)の論理を構築することは無理がある。
また,甲5発明は,審決(15頁17行〜18行)でも認めるとおり,単に目的地周辺の地図を表示するものであり,この甲5発明には,目的地という地点を設定すればその地点を基準にその周辺の地図を表示するという事項だけが開示されている。
本件発明1は,最初に決めた目的地を基準に所定範囲の施設情報を抽出して新たな目的地として設定することを要旨としており,最初に決めた目的地を基準に所定範囲の施設情報を抽出するということは所定の範囲に含まれる施設情報が最初の目的地と地理的な関連性を有していることを意味している。すなわち,最初の目的地と近い目的地周辺の施設情報(案内情報)を直接得るようにして最終的な目的地の設定を効率化するものである。このような本件発明1について,審決は,上記のとおり「車両の現在位置の代わりに『目的地』という基準を採用(置き換え)することは容易である」旨の認定(15頁16行〜25行)をしているが,この基準に関係する事項は,甲4発明では「地図表示領域全体」であり,甲5発明では目的地を設定した際に表示する縮尺に応じた目的地周辺の地図であることから,このような審決の論理は構築できないものである。
(イ) 本件発明1と甲4発明とのリストアップ対象の相違施設情報のリストアップに際し,本件発明1は,設定された目的地の位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出するのに対し,甲4発明では,地図表示領域全体を基準に施設の情報を取り込む。
そのため,甲4発明では,表示された地図上に存在する施設の情報をリストアップの対象とし,地図の縮尺や表示範囲が変更された場合であっても,表示された地図の表示範囲内であれば制限なく施設の情報を抽出対象とするものである。
これに対し,本件発明1の目的地の位置を基準とする「所定の範囲」とは,特許請求の範囲「請求項1」の記載から明らかなように,「目的地周辺」の限られた領域である。それゆえ,本件発明1の目的地の位置を基準とする「所定の範囲」の理解には,「所定の範囲」が「目的地の周辺」であること踏まえた上で請求項で使用された用語の語義及び本件技術分野における技術的意義を考慮すべきである。
まず,「所定」の語義である「定まっていること。定めてあること。」(「広辞苑第3版」1215頁[1988年10月11日株式会社岩波書店発行],甲14)と「範囲」の語義である「一定の決まった広がり。かこい。かぎり。区域。」(「広辞苑第3版」1981頁,甲14)とを考慮すれば,この目的地の位置を基準とした「所定の範囲」とは,「目的地の位置を基準に定まっている一定の決まった広がり」,「目的地の位置を基準に定まっている区域」であると解釈される。さらに,これが目的地周辺であることも考慮すれば,この目的地の位置を基準とした「所定の範囲」とは,「周辺」の語義である「めぐり。まわり。」(「広辞苑第3版」1141頁,甲14)を踏まえ,「目的地の位置を基準とした,当該目的地近傍(まわり)の一定の決まった広がり」と解釈される。また,本件特許出願当時の本件発明1の技術分野では,この「所定の範囲」という用語を,?@「…ステップS123でこの地点が車輌の現在位置から予め定めた所定範囲内にあるか否かを判断する。たとえば第11図のように車輌の現在位置111の座標Xp,Ypを中心とした1辺2dの正方形領域112を設定し,読出した地点113の座標X,Yがこの正方形領域112内にあるか否かを…判断する。…なお,ステップS123では車輌の現在位置111からの所定範囲として正方形領域112を設定したが,現在位置から半径dの円領域…を設定して…判断してもよい。」(特開昭60-230186号公報[発明の名称「車載ナビゲーション装置」,出願人三菱電機株式会社,公開日昭和60年11月15日,甲15]7頁左上欄7行〜右上欄5行),?A「…現在位置から所定範囲内(例えば300mの範囲内)に登録位置が入ったか否かを判断する。」(特開平6-341846号公報[発明の名称「情報案内装置」,出願人マスプロ電工株式会社,公開日平成6年12月13日,甲16]7頁【0041】),?B「…目的地を中心とする所定範囲内(例えば半径数十km内)に存在する市町村をROM34に格納された地点データから検索して,…」(特開平7-49654号公報[発明の名称「車両用簡易地図表示装置及び走行経路案内装置」,出願人日本電装株式会社,公開日平成7年2月21日,甲17]11頁【0080】)と定義している。これらの記載によれば,本件発明1における「所定の範囲」とは,ある特定の地点を基準として一義的に定まる一定の領域や範囲であることが把握される。以上のように,「所定の範囲」の語義及び本件発明1の技術分野における意義を勘案すれば,本件発明1の目的地の位置を基準とした「所定の範囲」とは,「目的地の位置を基準に一義的に定まる,当該目的地近傍(まわり)の一定の決まった広がり」と解釈されることは明らかである。それゆえ,本件発明1の「所定の範囲」と,地図の縮尺や表示範囲に応じて変化し,その変化に伴い抽出される施設の情報も変化してしまう甲4発明の「地図表示領域」とではその意味内容が明らかに相違する。
最初に決めた目的地を基準に所定範囲の施設情報を抽出するということは所定の範囲に含まれる施設情報が最初の目的地と地理的な関連性を有していることを意味しており,「目的地の位置」という「地点」を基準とするからこそ,本件発明1の「所定の範囲」は,この目的地近傍で一義的に定まる一定の広がりを構成することができるのである。一方,特定の「地点」を施設情報の抽出の際の基準としない甲4発明では,「表示される地図の表示範囲内」という領域に限定することはできても,地図の縮尺や表示範囲が変化すればリストアップの対象とする施設の情報は制約なく抽出されるので,当然に目的地の位置を基準とした範囲内に存在する施設の情報を,本件発明1と同様に抽出することは不可能である。
(ウ) 甲4発明に対する甲5発明適用の困難性本件発明1の目的は,「…地図データベースと案内情報データベースとを効率的に結び付けたものがないため,現在設定されている目的地周辺の案内情報を直接得ることが出来ず,そのため最終的な目的地の設定に時間がかかり,選び出すのにも時間がかかる…」(甲1,2頁【0003】22行〜25行)といった課題を解決することにある。
一方,甲4には,発明が解決すべき課題が,「…各施設の名称等を道路とともに表示装置に常時表示すると,各施設の所在地を知ることができる反面,地図そのものが見難くなる欠点があった。また種々の施設が同時に表示されているので所定の1つの施設,例えばガソリンスタンドを捜すとき,ガソリンスタンド以外の施設の表示も行われているため,それらの中からガソリンスタンドの表示を区別して捜し出すのに時間がかかる欠点があった。従って地図の見易さを確保するためには各施設の詳細な情報を省略しなければならず,また逆に各施設のより詳細な情報を表示するためには地図の見易さを犠牲にしなければならなかった。」(2頁左上欄5行〜17行)と記載されている。また,甲4には,発明の効果が,「…選択されない施設は表示されないから,シンボルを捜すこと自体は極めて容易となる。逆にガイドキー53を操作しない場合は,これらのシンボルが表示されていない通常の地図だけの表示となるから,地図が見難くなるようなこともない。」(4頁右上欄3行〜7行),「このとき地図上に表示されていない施設の情報は表示されないので所望の施設の情報がより見易くなる。また番号等のように連続的な関連性を有するものを用いることにより,リスト中から所望の施設を捜し出すことがさらに容易となる。」(4頁右下欄10行〜15行),「…通常状態においては地図に施設の名称等を表示する必要がなく,地図が見難くなるのを防止することができる。」(5頁左下欄8行〜10行)と記載されている。さらに,甲4には,表示する地図の基準となる位置について,「シンボルは対応する施設の所在地に表示されるので,表示装置29の画面上に表示されている現在地を中心とする地図の外に位置する施設のシンボルとその番号は,その位置が画面の範囲内になるまで表示されない。」(4頁右上欄14行〜19行)と記載されている。これらの記載から明らかなように,甲4発明は,あくまでも「縮尺に応じて現在地を中心として地図データから切り出されて表示される地図」(現在地を基準にした所定範囲ではない)を見易く表示することが目的である。
したがって,甲5発明が「目的地周辺の地図表示を選択できる」ものであるからといって,甲4発明における施設情報の抽出領域として,甲5発明の「目的地周辺」の地図表示を適用することの動機付けは一切存在しない。甲5発明では,目的地周辺とはいっても縮尺設定によって表示範囲は種々変化するので,先に述べた「目的地の位置を基準とした,当該目的地の一定の決まった広がり」を施設情報の抽出領域として定めることはできないものである。
以上のとおり,甲4発明に甲5発明を適用するための動機付けが一切存在しない以上,甲4発明における「地図表示領域全体」に対して,甲5発明の「目的地周辺の地図表示」を適用することは容易であるとはいえず,その結果として,審決でいうように「施設情報の抽出を行う領域を,甲4発明の「現在地を中心とする地図」に代えて「目的地周辺の地図」を適用することが容易である」とはいえないものである。
(エ)甲4発明と甲6発明とが組み合わせられた発明に対して甲5発明を適用した場合においても本件発明1は想到容易でない本件発明1では,最終的な目的地(以下,「第2の目的地」という。)を,予め設定した目的地(以下,「第1の目的地」という。)の位置を基準として所定の範囲にある第2の目的地の候補となる施設のうちから設定する。審決は,甲4発明に対して,リストからの目的地設定が記載される甲6(特開平4-123088号公報[発明の名称「自動車用誘導表示装置」,出願人アイシン精機株式会社,公開日平成4年4月23日])に記載された発明(以下,「甲6発明」という。)を周知技術として適用しているので,仮に,甲4発明と甲6発明とが組み合わされた場合,当該組み合わさった発明(以下,「甲4・6発明」という。)は,別紙参考図1に示す構成を有するものとなる。このような甲4・6発明であっても,本件発明1のような第1の目的地の位置を基準として抽出した施設を第2の目的地に設定するといった技術思想を見い出せるはずもない。そのため,甲4・6発明において設定される目的地は,当然に本件発明1でいう第1の目的地に相当するといわざるを得ない。加えて,甲5発明は,既に述べたとおり,単に目的地周辺の地図を表示するものであるから,この「目的地周辺」における「目的地」とは,本件発明1でいう第1の目的地に他ならない。
したがって,甲4・6発明と,甲5発明とは,第1の目的地という概念で共通し,それゆえ,甲4・6発明に甲5発明を適用した場合には,甲4・6発明で設定された目的地の周辺の地図を表示可能な装置が得られるにすぎない。当該組み合わさった発明は,別紙参考図2に示す構成を有するものとなる。
このように,甲4・6発明に対して甲5発明を適用した場合であっても本件発明1を想到できないことは明らかである。
(オ) 甲5発明認定の誤り審決は,甲5発明について,「あらかじめ目的地設定がなされている場合,目的地周辺の地図を出すナビゲーション表示方法。」と認定している(10頁13行〜14行)。
しかし,この認定は,次のとおり誤りである。
a甲5に記載されたナビゲーション装置のメニューには,?@目的地設定,?A地名索引,?B地点登録,?C補正の4種類の選択肢が用意されている。ここで,「目的地設定」とは,「現在地付近から目的地周辺までの走行ルートを知りたいとき」に使用する選択肢であり,ナビゲーション装置に目的地を設定する処理を意味する。一方,「地点登録」とは,「地図に自宅や目的地(走行上の目印になる地点)などを登録したいとき」に使用する選択肢である。この「目的地設定」と「地点登録」とは,甲5に異なったメニューとして明確に区別して記載されているように,ナビゲーション装置では全く異なった処理である。そのため,メニューから「目的地設定」を選んだ場合と「地点登録」を選んだ場合とでは,各処理において用意されているサブメニューも異なったものになっている。
そして,甲5の「目的地設定」には,「目的地周辺」という選択肢は存在しない。なぜならば,甲5発明における「目的地設定」とは,現在地からこれから向かう目的地をナビゲーション装置に設定する処理であり,「目的地周辺」の地図から,目的地を設定することを全く想定していないからである。
一方,「地点登録」の場合には,甲5に「目的地周辺」が選択できるが,「『目的地周辺』が選択できるのは,あらかじめ目的地設定がされている場合です。」(43頁下3行)と記載されているように,「目的地設定」が行われた後に「目的地周辺」を選択できる。しかし,この「目的地周辺」を選択した場合に実施される処理は,あくまでも「地点登録」であって,登録された地点がそのまま目的地として設定される訳ではない。「地点登録」された地点は,「メモリ地点」として,自宅,地点A〜Eのいずれかに記録されるだけであり,この「地点登録」においてそれらの地点が目的地として,ナビゲーション装置に設定されることはない。
ナビゲーション装置における目的地とは,現在地から車両が向かう地点をいうものであり,現在地からのルートを知りたいときの基準となる地点である。そのため,「目的地を設定する」とは,ナビゲーション装置にルート探索の行き先を設定することを意味するが,甲5発明における「地点登録」によって登録された地点は,単なる「目的地の候補」となる地点の一つに過ぎず,目的地として設定されたものではない。甲5発明において,この登録された地点を目的地とするには,改めてメニューに用意された「目的地設定」メニューを選択し,その中の選択肢である「メモリ地点」の中から,登録地点の一つを選択して,目的地に設定する処理が必要となる。このメモリ地点を目的地として設定する処理は,「目的地設定」に用意された他の選択肢である「地名索引」や「電話番号」と同様に,現在設定されている目的地とは無関係に行われるものである。
b上記aで述べたように,甲5発明におけるメニューには,「目的地設定」と「地点登録」の二つが用意されており,しかも,「目的地設定」には「目的地周辺」との選択肢がなく,「地点登録」にのみ「目的地周辺」が用意されている。また,甲5発明において,「目的地設定」と「地点登録」とは,前者が「行き先をナビゲーション装置に設定する」処理であるのに対して,後者は「走行上の目印になる地点をメモリに登録させる」処理であると明確に区別されている。
それにもかかわらず,審決の甲5発明についての「あらかじめ目的地設定がなされている場合,目的地周辺の地図を出すナビゲーション表示方法。」(10頁13行〜14行)との認定は,これらの「目的地設定」と「地点登録」とを混同したものである。すなわち,この認定に当たって,審決は,甲5の2頁の「現在地付近から目的地周辺までの走行ルートを知りたいときは」という記載と,同じく甲5の43頁の「目的地周辺が選択できるのは,あらかじめ目的地設定がされている場合です。」との記載を根拠として,甲5には,「あらかじめ目的地設定がなされている場合,目的地周辺の地図を出すナビゲーション表示方法。」が記載されていると認定する。しかし,甲5の2頁の目次に記載された「現在地付近から目的地周辺までの走行ルートを知りたいときは」という内容は,甲5の50頁以降に記載されている「目的地設定」に関する説明であり,甲5の42頁及び43頁の記載は「地点登録」に関するものであって,両者は技術的に明らかに異なるものであって,互いに組み合わせられるべき技術ではない。しかも,本件発明1は,「目的地設定」,それも既に第1の目的地が設定されている場合に,第2の目的地を第1の目的地周辺から選択するための技術に関するものであるのに対して,甲5の42頁及び43頁の記載は「地点登録」の際に地図を呼び出す方法の一つとして「目的地周辺」を選択できることを示すものである。したがって,審決のように,単純に,甲5発明を「あらかじめ目的地設定がなされている場合,目的地周辺の地図を出すナビゲーション表示方法。」と認定することは,甲5の記載を正当に評価したものではない。甲5には,「目的地設定時には,目的地周辺の地図を表示することは記載されておらず,地点登録の場合にのみ目的地周辺の地図を表示することが記載されている」と,正確に認定すべきである。
c被告も,例えば,「甲5の42頁〜49頁に記載された処理は,目的地を登録する処理であり,地点登録のメニューから『目的地周辺』を選択して目的地を登録することは,予め設定された目的地が原告のいう『第1の目的地』に当たり,登録される目的地が『第2の目的地』に当たる」と主張しているから,「目的地設定」と「地点登録」を混同している。
本件発明1の特徴である第1の目的地の周辺に第2の目的地を設定することは,あくまでも「目的地設定」に関するものであり,「目的地周辺」という選択肢が存在しない甲5発明における「目的地設定」メニューにおいて実行されるものである。それにもかかわらず,被告は,「目的地の登録」という甲5に存在しない用語を作り上げて,あたかも「目的地設定」においても「目的地周辺」という選択肢が存在するかのごとき論議を展開するのは,甲5の記載を曲解した主張である。
dむしろ,甲5発明では,「地点登録」と「目的地設定」とで,明確に異なる選択肢を用意しているのであるから,本件発明1のような目的地の再設定という技術的課題に着目して甲5に接した当業者は,甲5発明における「目的地設定」メニュー(「目的地周辺」は選択できない)に着目することはあっても,あえて,技術的課題の異なる「地点登録」のメニューを参照することはなく,その「地点登録」メニューに用意された「目的地周辺」に関する技術を甲4発明に組み合わせるという着想を得ることはできない。したがって,目的地設定に当たり目的地周辺を選択できない甲5発明と,目的地の設定方法さえ何も記載されていない甲4発明とを組み合わせたとしても,第1の目的地の周辺に第2の目的地を設定する本件発明1を想到することはできない。
ウ 取消事由3(相違点3についての誤認)(ア) 甲6発明についての誤認審決は,相違点3について,「また,適宜の検索手段によりリストアップされた施設を目的地として設定することはナビゲーション装置の基本機能であり,また,走行開始後においても目的地の再設定が可能なものであることは明らかであるので,ナビゲーションにおいて走行後も目的地を自由に設定するという課題はナビゲーション装置が本来有している目的に照らせば格別なものとは認められない。更に,ナビゲーション装置において走行前の最初の目的地の設定と,走行中における目的地の変更による新たな目的地の設定の場合とで目的地の設定処理がさほど異なるとも認められない。そうすると,甲4発明において,上記周知の技術を採用することにより,相違点3に係る本件発明1の構成とすることは,当業者にとって容易であり,また,そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。」(15頁下5行〜16頁6行)と述べている。すなわち,審決では,目的地を一旦設定し走行を開始した後においても,目的地の再設定は可能であるとし,両目的地の設定における処理はさほど異なるものではないので,甲4発明に周知技術を適用することにより,相違点3に係る本件発明1を構成することが容易であると判断している。
審決は,上記判断の前に,「例えば,甲第6号証には,走行中であってもリスト表示された施設から希望の施設を指定することにより目的地に設定することが示されているように,リストアップされた施設から所定の施設を選択し,目的地として設定することは,ナビゲーション技術における単なる周知の技術にすぎない。」(15頁下9行〜下6行)と述べて,甲6発明について認定しており,また,「…甲4発明において,例えば甲第6号証に示される周知の技術を適用することで,『目的地の置き換え』という技術的思想は容易想到なものである。」(17頁10行〜12行)と判断しているから,審決は,甲6発明に「走行前の最初の目的地の設定と,走行中における新たな目的地の変更による目的地の設定」に関する記載がなされているとの前提に立っているといわざるを得ない。なぜならば,甲4には「目的地の設定」自体に関する記載がないのであるから,甲6には,間接的であるにしても,「目的地の置き換え」に関する記載,更には,「走行前の最初の目的地の設定と,走行中における新たな目的地の変更による目的地の設定」に関する記載がなされているとの認識がなければ,「甲4発明において,例えば甲第6号証に示される周知の技術を適用することで,『目的地の置き換え』という技術的思想は容易想到」との結論が導かれるはずはないからである。
しかし,甲6発明における走行中の目的地の設定とは,車両が走行中であっても,「表示されている地図の範囲内に存在する施設のリストから選択した施設を目的地に設定する」という処理であって,本件発明1における「第1の目的地」の設定が行われることに他ならない。
甲6では,「走行中」という用語が記載されているものの,目的地が設定されるとは記載されていない。ここで,甲6の「…表示中の地図情報の地域を走行中,例えば希望施設迄の経路が知りたい場合に,…希望施設までの経路を探索し表示することができる。」(2頁右下欄7行〜18行)とは,「仮に走行中であったとしても,希望施設迄の経路を表示することが可能である」ことを意味するだけであり,この「走行中」という用語が,「設定されている目的地に向けて走行する」ものだとする根拠は,甲6に一切記載されていない。それゆえ,審決の上記認定は,「『走行中』だから,目的地に向けて走行するのが当然」という偏った前提条件に立ったものであり,この甲6の上記記載(2頁右下欄7行〜18行)をもって,「走行開始後」であっても「目的地の再設定が可能なものであることが明らか」とする認定は失当である。更に加えて述べると,ナビゲーション装置において通常は目的地設定しない場合でも目的地設定した場合でも,当然走行中の地図表示はなされるものであり,甲6の記載事項から考えると目的地が設定されていない走行状態で施設情報をリストアップして目的地に設定すると考えるのが妥当である。
また,甲6中の「走行中」という用語から目的地に向って車両が走行するとの概念が導き出せると仮定し,目的地が設定された上でリストから選択した施設を新たな目的地として設定できるとしても,この新たな目的地の設定が,本件発明1のような第1の目的地の位置を基準として第2の目的地を設定するものではない点が挙げられる。特に,甲6に,「このような構成によれば,表示中の地図情報の地域を走行中,例えば希望施設迄の経路が知りたい場合に,画面操作によって希望施設の区分を指定してサービスを要求すると,表示中の地図画面(第1の画面)に存する全ての指定区分内の施設が所在位置に当該施設に付された番号で表示される。更にユーザーは,これらの番号表示された施設をリスト画面(第2の画面)に表し,希望の施設を画面により指定することで,リスト表示された施設のデータを格納したメモリをアクセスして,希望施設までの経路を探索し表示することができる。」(2頁右下欄7行〜18行)と記載されているとおり,甲6発明は,表示中の地図画面に存する施設をリストアップするものである。そのため,表示中の地図画面に存する施設の情報が,例えば,GPSや予めこれらの情報が格納されているCD-ROM等により常時継続して取得される点を考慮すれば,これらの施設の情報は本件発明1における第2の目的地という概念とは無関係である。
以上のとおり,甲6発明における目的地の設定に関する記載からは,走行に際して設定していた目的地の位置を目的地候補となる施設抽出の基準とするとか,当該目的地を利用して新たな目的地を設定するなどといった技術思想が一切想起されない。審決では,走行開始後に行われる目的地の設定を「目的地の再設定」であるとし,さらには,設定される目的地が,あたかも,本件発明1における第1の目的地の位置を基準として設定される第2の目的地と同等であるかのように認定し,かつ,これをもとに相違点3に係る本件発明1の進歩性を否定している点で大きな誤認が生じている。
本件発明1の進歩性については,種々の目的地の検索手法を用いて抽出した目的地候補より選択した目的地を新たな目的地に設定可能とする機能が一般的になっている現在のナビゲーション装置の技術水準をもとに判断されるべきではなく,本件特許の出願当時の技術水準に基づき判断されるべきものであり,これに従えば本件特許の出願当時において,本件発明1のような目的地の変更について明確に示されている文献は一切提示されていない。
なお,被告は,最初にする目的地の設定の処理技術と,目的地を変更してする新たな目的地の設定の処理技術とではさほど変わることがないと主張するが,甲4発明のように,目的地設定に関する記載がない発明や,甲5発明のように,第2の目的地に関する記載のない従来技術において,目的地を新たに設定する場合も,変更する場合も同一の処理となるのは当然である。なぜなら,今まで設定されていた目的地をキャンセルして,再度「目的地設定」メニューで新たな目的地を設定するからである。本件発明1のような第1の目的地と第2の目的地をリンクさせる発明と,設定されていた第1の目的地をキャンセルして,新しい第1の目的地を設定する発明とを同一視することはできない。
(イ) 効果の対比審決では,本件発明1の奏する効果に関して,「そして,本件発明1の全体構成により奏される効果も,甲4発明及び甲5発明並びに周知の技術から予測し得る範囲内のものである。」(16頁7行〜8行)と述べている。
しかし,上記したような相違点3に関する検討を踏まえれば,本件発明1によれば,設定された第1の目的地の位置を基準に所定の範囲の施設の情報が抽出され,更にリストアップ表示され,この第1の目的地の位置を基準として抽出及びリストアップ表示された施設を第2の目的地として設定できるといった効果を奏する。例えば,「劇場」での「演劇鑑賞」という最初の目的を達成すべく設定した第1の目的地である「劇場」に向かう場合において,「演劇鑑賞」に先立って当該「劇場」の近くにある「レストラン」(第2の目的地)で食事を摂りたいときは,第1の目的地である「劇場」の位置を基準として所定の範囲に存在する「レストラン」(「第2の目的地」の候補)が抽出され,当該「劇場」周辺のレストランがリストアップ表示される。そのため,このリストアップ表示されたレストランの中から所望の「レストラン」を選択することにより,「劇場」近くにある所望のレストランを最終的な目的地として容易に設定することができる。
これに対し,甲4発明,甲5発明及び甲6発明に基づき想到し得る発明では,既に述べたとおり,設定しておいた目的地の位置を基準として抽出した施設新たな目的地として設定するといった技術思想が何ら存在しないため,設定しておいた目的地周辺の施設を新たな目的地として設定できるものではない。上記の例でいえば,目的地として設定されている「劇場」へ向かう途中に,新たな目的地として「レストラン」を設定したくても,この「劇場」という目的地を基準に「レストラン」の情報を抽出することができず,最初から所定の「レストラン」を設定する必要があるため,第1の目的地としての「劇場」近くの「レストラン」を最終的な目的地に容易に設定することができず,所望の「レストラン」の設定に多くの時間を要するといった問題が生じる。
したがって,本件発明1が甲4発明及び甲5発明並びに周知の技術からは予測し得えない効果を奏することは明らかであるから,本件発明1が奏する効果についての上記審決の認定は失当である。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論(1) 取消事由1に対し甲4には,「従来の技術」として,「最近CD-ROM等に地図情報を記録しておき,その地図情報を読み出して,車両の現在地とともに表示装置に表示させ,車両を所定の目的地に誘導する車両ナビゲーション装置が研究,開発されている。斯かる従来の装置は,例えばホテル,駐車場,ガソリンスタンド,車のディーラ等の所定の施設がある場合,その名称等をその所在地の近傍に道路とともに表示装置に表示し,運転者の便宜に供するようにしている。」(1頁右下欄15行〜2頁左上欄3行)と記載され,「発明が解決しようとする問題点」として,「しかしながらこのように各施設の名称等を道路とともに表示装置に常時表示すると,各施設の所在地を知ることができる反面,地図そのものが見難くなる欠点があった。また種々の施設が同時に表示されているので所定の1つの施設,例えばガソリンスタンドを捜すとき,ガソリンスタンド以外の施設の表示も行われているため,それらの中からガソリンスタンドの表示を区別して捜し出すのに時間がかかる欠点があった。従って地図の見易さを確保するためには各施設の詳細な情報を省略しなければならず,また逆に各施設のより詳細な情報を表示するためには地図の見易さを犠牲にしなければならなかった。」(2頁左上欄5行〜17行)と記載されているから,甲4発明が,車両を所定の目的地に誘導するために車両の現在位置と共に表示されている地図,すなわち現在地周辺の地図の表示の改良を目的としていることは明らかである。さらに,甲4には,発明の「作用」として,「コントローラ15によりメモリ16,17に描画された地図は,自車マークを中心とする所定の範囲内のデータが,パラレル/シリアル変換回路18によりパラレルデータからシリアルデータに変換され,…メモリ20に転送される。…このようにメモリ20に書き込まれた画像はさらにメモリ21に転送され,最終的にメモリ21に記憶された画像がD/A変換回路26,27,28を介して表示装置29に出力表示される。」(3頁左下欄20行〜右下欄16行)と記載され,これに引き続いて,「次にガイドキー53を操作した場合の作用を説明する。」と記載され,ガイドキーを操作したときの画面については,特段の説明もされていないのであるから,ガイドキーの操作をしたときに画面に表示されている地図は,それ以前に説明されていた,自車を中心とした所定範囲の地図と解するのが自然である。
甲4には,「このとき地図上に表示されていない施設の情報は表示されないので所望の施設の情報がより見易くなる。」(4頁右下欄10行〜12行)の記載しかないとしても,カーナビゲーションにおいて表示される地図の範囲は,何らかの基準に基づいて定められるものであり,甲4において,施設情報をリストアップする際に表示される地図は,上記のとおり車両の現在位置を基準とすることが明らかであるから,審決が甲4発明を「…車両の現在地を含む地図上にある施設の情報をリストにして表示する手段と,…」(9頁23行〜24行)と認定し,本件発明1と甲4発明との一致点を「…現在設定されている基準位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を…」(14頁24行〜25行)と認定したことに誤りはない。
(2) 取消事由2に対しア 「相違点2認定の誤り」の主張につき(ア)前記(1)のとおり,審決の甲4の認定に誤りはないから,その誤りを前提とする原告の主張は失当である。
(イ) 甲5発明の意義甲5に記載されたナビゲーション装置の目的地を登録する手順は,「『地点登録』画面を表示させ,(43頁?@)→『地点登録』画面のメニューから,所望の地図を表示させ,(43頁?A〜47頁)→カーソルを操作して目的地に移動させ,『地点セット』により目的地を登録する(48頁)」というものである。
以上の処理手順からすれば,ユーザが「地点登録」画面のメニューを選択することは,目的地の近傍に新たな目的地を登録するために,目的地の近傍の地図を表示することにあると理解される。
また,甲5に記載されたナビゲーション装置においては,目的地を登録するに際して,目的地が含まれる地図を表示するために複数のメニューを用意し,目的地の設定を効率化したものと理解される。甲5は,ナビゲーション装置のマニュアルであるが,「地点登録」画面の各メニューについて,どのような場合にどの項目を選択すべきかについて説明をしていない。甲5のナビゲーション装置の設計者は,「目的地周辺」の項目も含め,説明をするまでもなくユーザが各項目の有用性に気付くと認識しているのである。
したがって,甲5に接した者は,「(目的地という)地点を基準にその周辺の地図を表示する」という開示内容以外に,前後の開示内容から,目的地周辺地図を選択・表示する目的も認識するものである。少なくとも,ユーザは,目的地を登録しようとする際に,その目的地が予め登録した目的地の近傍にあると認識したときは,「地点登録」画面のメニューにおいて,「目的地周辺」を選択するのが自然である。
(ウ) 本件発明1と甲5発明との対比甲5発明は,上記(イ)のとおりのものと理解されるから,予め設定した地点(目的地)の近傍に新たに地点(目的地)を登録するに際し,予め設定した地点を基準として所定の範囲を特定するという点において,本件発明1と共通するものである。
(エ) 甲4発明に甲5発明を適用することの容易性甲4発明は,上記(1)で指摘したとおり,「車両の現在地を含む地図上にある施設の情報をリストにして表示する手段」であるから,表示された地図は,現在地を基準とした地図であり,甲4発明に,同じように特定の地点を基準として表示される甲5発明の目的地周辺の地図を採用することは容易であるとの審決の認定に誤りはない。
甲4発明は,車両の現在位置を含む地図上にある施設の情報を得ることができるナビゲーション装置であるが,運転者は現在地周辺の施設のみならず,それ以外の地点の周辺における施設の情報も必要とする場合がある(例えば,東京から仙台へ旅行しようとする運転者は,仙台市にあるホテルの情報を知りたいことがある。)。画面に地図が表示されれば,甲4発明と同じ制御手段によってその表示された地図範囲に関する施設の情報も提供することができるから,現在地周辺以外の地図を表示してその地図の表示範囲内の施設をリストアップするようにすることは,当業者であれば容易に想到することである。甲5には,目的地を登録するに際し,目的地を登録する地点となる地図を表示するために,複数のメニュー(地名索引,目的地周辺,現在地周辺,メモリ地点,全国図,電話番号)を準備しているのであるから,甲4発明において現在地周辺以外にある施設をリストアップできるようにするに際し,甲5に記載された複数のメニュー(又はそのメニューの内の一部)を用いて所望の地図を表示できるようにし,甲4発明のようにその表示された地図の範囲の施設の抽出ができるように構成することは,当業者にとって格別に困難なものではない。
甲5に記載された複数のメニューのうち「目的地周辺」は,最初に目的地を設定する場合には選択することができないが,審決が相違点3の判断において指摘するように,ナビゲーション装置は「…走行開始後においても目的地の再設定が可能なものであることは明らか…」(15頁下4行〜下3行)であり,再設定の場合は「目的地周辺」を選択することができるのであるから,その施設の抽出・リストアップが目的地の設定に用いられるものであることを考慮しても,甲4発明に甲5に記載された地図表示の技術を採用するに際し,甲5に記載された複数のメニューから,「目的地周辺」を除かなければならないという理由はない。
なお,審決では言及していないが,甲5発明は,地点登録画面で「目的地周辺」が選択された場合であっても,これによって表示された地図内又はその近傍に,再度目的地を設定できるものである。
イ 「本件発明1と甲4発明とのリストアップ対象の相違」の主張につき原告は,甲4発明の「地図表示領域全体」は,ある特定された地点を基準にして所定の範囲を意味するものではないと主張しているが,甲4発明は,上記(1)で指摘したとおり,車両の現在位置を中心とした地図を表示するものであり(特定された地点を基準とする),その表示範囲は表示画面の大きさで定まるから,表示する地図の縮尺が決まれば表示領域は一義的に定まる(所定の範囲となる)。
甲4に,ガイドキーが操作されたときの地図の縮尺が一つに限られるか否かについては記載されていないが,仮に複数の地図の縮尺において,その縮尺で表示された地図領域全体においてそれぞれ施設が抽出されるものであったとしても,一つの縮尺を選択したときはその選択した縮尺によって表示される地図の領域は所定の範囲であるから,甲4発明の地図表示領域はある特定された地点を基準にして所定の範囲といい得るものである。
この場合,甲4発明は,一つの縮尺を選択することによりある地点を基準にして所定の範囲の施設を抽出すると共に,別の縮尺を選択することにより,ある地点を基準にして他の所定の範囲内の施設を抽出することもできるというものである。
本件発明1は,目的地を基準に所定範囲にある施設を抽出するものであるが,それ以外の範囲において施設を抽出するもの(例えば,目的地中心として1km四方の範囲で施設を抽出することもできるし,設定を変えて目的地中心として2km四方の範囲で施設を抽出することもできるというもの)を排除するものではないから,甲4発明が複数の縮尺の地図領域においてそれぞれ施設を抽出することができるものであったとしても,それによって,本件発明1の「所定範囲にある施設を抽出するもの」とは異なるものであるとはいえない。
ウ 「甲4発明に対する甲5発明適用の困難性」の主張につき(ア)本件発明1の目的について,本件特許明細書(甲1)の段落【0003】では,「最終的な目的地の設定に時間がかかり,選び出すにも時間がかかる」といった課題を解決することにあるとされているが,請求項1の目的地を設定する処理の構成は,「リストアップされた施設から所定の施設を選択し,目的地として設定する目的地設定ステップ」というものであって,「所定の施設を選択する」,「目的地として設定する」という運転者の行為を特定しただけのものである。この構成は,「リストアップされた施設から所定の施設を選択」するための特別な処理を特定したものでもないし,「目的地として設定する」ための特別な処理を特定したものでもない(本件発明1の構成であれば,運転者がテキストデータで表示されているリストを見て特定の施設を選択し,その施設の位置を地図から探し出して目的地として設定するというような処理も含まれる。)から,本件発明1は,目的地の設定の処理に工夫を凝らして目的地設定の時間を短縮したものではなく,最終的な目的地を選び出す時間を短縮し,その結果最終的な目的地の設定の時間を短縮したというものにすぎない。
甲4には,「このリストの文字が表示されている部分を指等で触れると,タッチセンサによりそれが検知され,第6図に示すように,表示装置29の画面から地図が消去され,その代りにそのとき地図上に表示されていたホテルに関するより詳細な情報がリストになって表示される。
…また番号等のように連続的な関連性を有するものを用いることにより,リスト中から所望の施設を捜し出すことがさらに容易となる。」(4頁左下欄19行〜右下欄15行)と記載されているのであるから,甲4発明も,リストを表示することにより所望の施設を探し出すことを容易にするというものである。
したがって,甲4には,本件発明1と同様,所望の施設を選び出す時間を短縮するという目的が記載されている。
(イ)上記ア(イ)のとおり,甲5に接した当業者は,甲5に記載されたナビゲーション装置においては,目的地を登録するに際して,目的地が含まれる地図を表示するために複数のメニューを用意し,目的地の設定を効率化したものと理解する。
甲4発明は,現在地を中心とした所定範囲内に存在する施設から所望の施設の情報を得るものであるが,運転者が自車位置周辺ばかりでなく,他の地域に存在する施設の情報を得たいということは,技術常識である。甲5には,現在地及び現在地以外の地図を表示する手段が記載されているのであるから,甲4発明のリスト表示技術を適用する対象の地図として,甲5に記載された現在地以外の地図を表示する手段を採用することには動機付けがあるといえる。
なお,原告は,審決が「『施設情報の抽出を行う領域を,甲4に記載される『現在地を中心とする地図』に代えて『目的地周辺の地図』を適用することが容易である』」としているとするが,審決は,「…甲4発明に,甲5発明を採用することにより,上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは当業者にとって容易であり,…」というものであって(15頁22行〜25行),審決が,甲4発明の一部を甲5発明に置き換えて目的地のみの地図を表示する発明とすることの容易性を評価したものであるような原告の認定の仕方は不正確である。
エ「甲4発明と甲6発明とが組み合わせられた発明に対して甲5発明を適用した場合においても本件発明1は想到容易でない」との主張につき原告は,甲4発明に甲6発明を適用し,その後に甲5発明を適用しても,本件発明1とはならないと主張するが,審決が相違点2について判断したのは,甲4発明に甲5発明を採用することが容易であるか否かであるから,原告の主張は失当である。
また,甲5の42頁〜49頁に記載された処理は,目的地を登録する処理であり,地点登録のメニューから「目的地周辺」を選択して目的地を登録することは,予め設定された目的地が原告のいう「第1の目的地」に当たり,登録される目的地が「第2の目的地」に当たるから,本件発明1と同様,第2の目的地を,第1の目的地の位置を基準とした範囲に設定するものである。
原告の主張は,審決が,相違点2のみを切り出して目的地の設定をするためのリスト表示として容易性を判断したことを論難するものと思料されるが,甲5には,地点を登録するための地図を表示させるメニューの一つとして「目的地周辺」が挙げられており,甲4発明における施設をリストアップする範囲を定める地図表示として,「目的地周辺」を採用することに特段の不都合はないのであるから,相違点2の判断において,甲4発明に甲5発明を採用することが容易とする審決の判断に誤りはない。リストアップされた施設から目的地を設定することが容易であるか否かについては,相違点3において判断されている。審決は,相違点3の判断においてリストアップされた施設から目的地を設定することの困難性について判断しているから,単に相違点2と相違点3を分けてそれぞれ容易性の判断をしたというだけで審決が誤りであるとはいえない。
別紙「参考図1」及び「参考図2」は,審決の認定とは無関係に作られたものである。甲4発明,甲5発明及び甲6発明を組み合わせたとき,「参考図1」又は「参考図2」のような発明ができるかもしれないが,複数の発明を組み合わせてできる発明は,各発明を構成する技術要素の組合せ方によって様々なものができるのであって,「参考図1」又は「参考図2」以外のものは容易にできないというものではない。
なお,審決の論理構成とは異なるが,甲4発明及び甲6発明は,現在地周辺の地図の範囲内の施設を抽出してリストアップし,リストから選択された施設を目的地に設定するものであるが,甲5発明は,目的地を登録する地点が存在する地図を表示するためにいくつかの地図を表示するメニューを備えたものであるから,甲4発明及び甲6発明において,さらに,現在地周辺に存在しない施設を設定するために,甲5発明のメニューを用いて各メニュー毎の地図を表示する手段を採用することに困難性はないということもできる。そして,このメニューには,目的地を登録するために予め設定された目的地周辺の地図を表示するものが含まれている。
(3) 取消事由3に対しア 「甲6発明についての誤認」の主張につき(ア)審決の相違点3についての判断は,「例えば,甲第6号証には,走行中であってもリスト表示された施設から希望の施設を指定することにより目的地に設定することが示されているように,リストアップされた施設から所定の施設を選択し,目的地として設定することは,ナビゲーション技術における単なる周知の技術にすぎない。また,適宜の検索手段によりリストアップされた施設を目的地として設定することはナビゲーション装置の基本機能であり,また,走行開始後においても目的地の再設定が可能なものであることは明らかであるので,ナビゲーションにおいて走行後も目的地を自由に設定するという課題はナビゲーション装置が本来有している目的に照らせば格別なものとは認められない。更に,ナビゲーション装置において走行前の最初の目的地の設定と,走行中における目的地の変更による新たな目的地の設定の場合とで目的地の設定処理がさほど異なるとも認められない。」(15頁下9行〜16頁3行)というものである。
審決は,「走行開始後においても目的地の再設定が可能なものであること」は,技術常識から見て明らかであるとしているのであり,「走行前の最初の目的地の設定と,走行中における新たな目的地の変更による目的地の設定」については,その技術的評価をしているのであって,これらの事項が直接甲6に示唆されているとするものではない。
目的地に向かって走り出した後に,目的地を変更することはしばしば経験することであり(例えば,渋滞などに遭遇し,予定した時刻に目的地に到着できないことが判明したときなど),目的地を設定して走行を開始した後は,設定した目的地に着くまで新たな目的地の設定ができないというのでは,実用的なカーナビゲーション装置とはいえないから,「(ナビゲーション装置において)走行開始後においても目的地の再設定が可能なものであることは明らかである」との審決の認定に誤りはない。
また,「ナビゲーション装置において走行前の最初の目的地の設定と,走行中における目的地の変更による目的地の設定の場合とで,目的地の設定処理がさほど異なるとも認められない」との審決の評価にも誤りはない。
(イ)審決は,甲6発明から「リストアップされた施設から所定の施設を選択し,目的地として設定すること」が周知の技術であると認定したものであって,甲6に記載された目的地の設定を第2の目的地の設定と認定したものではない。
甲4発明に甲5に記載された予め設定された目的地周辺の地図を表示する技術を採用し,その表示された地図内の施設をリストアップ(「第2の目的地」の候補がリストアップされる。)し,そのリストアップされた施設の中から所望の施設を選択して目的地に設定すれば,本件発明1になるのであって,審決は,「リストアップされた施設の中から所定の施設を選択して目的地に設定」ことが,甲6に記載されているようにナビゲーション装置において周知のことであり,また,最初にする目的地の設定の処理技術と,目的地を変更してする新たな目的地の設定の処理技術とではさほど変わることがない(例えば,甲4発明は,表示された地図の範囲内の施設をリストアップするものであるが,地図が表示されてしまえば,施設をリストアップし,所望の施設を選択し,目的地に設定する処理は,最初にする目的地の設定であっても,目的地を変更してする新たな目的地の設定であってもさほど変わらない。)としているのである。
なお,審決では触れていないが,目的地が変更され,新たな目的地の設定を行う際,その目的地の設定が現在地周辺等目的地周辺以外の行われる場合の設定処理と,その目的地の設定が目的地周辺で行われる場合の設定処理とは,地図が表示された後は全く異なることがない。
イ 「効果の対比」の主張につき原告が挙げる「『劇場』に向かう場合において,『演劇鑑賞』に先立って当該『劇場』の近くにある『レストラン』で食事を摂りたい」とか,甲3に記載されている「目的地での駐車場探し」(5頁,段落【0038】)など,目的地の近傍で施設を探すというニーズは,運転者がしばしば経験するところである。この場合,甲5発明のように,目的地の地点登録を行うための地図の選択メニューとして「目的地周辺」があれば,その項目を選択して地図を表示しようとすることはごく自然のことである。甲4発明に甲5に記載された技術を採用したとき,「目的地周辺」の地図を選択すれば,目的地周辺の施設が探し易い程度のことは,当業者が容易に予測し得ることである。
第4 当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2本件発明1,2の意義(1)特許公報(甲1)には,「特許請求の範囲」として,前記第3,1(2)の記載があるほか,「発明の詳細な説明」として,次の記載がある。
ア産業上の利用分野「この発明はナビゲーション装置に関する。」(段落【0001】)イ 従来の技術「車載用のナビゲーション装置は,表示画面上に道路ネットワークや背景,ランドマークや道路名,行政名等の属性等の地図情報を表示し,該地図上に自車の位置を表示すると共に,自車の方向や北方向或いは種々の距離等を表示するように構成されている。そして,該地図上に現在地と目的地を設定した後にナビゲーションを実行するようになっている。
ランドマーク等の案内情報としては,例えば下記に示すようなものが一般的である。
インフォーメーション: 観光案内,名所旧跡,遊技施設,公園,図書館,ゴルフ場,テニス場,等の概略や詳細をテキスト,絵, 写真,音声等で表示。
セーフティ : 車の事故などに対してJAF,病院などを表示。
アクセス : 空港,新幹線,フェリー等の案内を表示。
ハイウェー : 首都高速,都市高速,東名,名神等のインターチェンジ,サービスエリア等を案内表示する。
これらのナビゲーションは全てのスイッチ或いは案内情報のスイッチを使い分けて使用するようになっている。」(段落【0002】)ウ 発明が解決しようとする課題「しかし従来のナビゲーション装置及び方法においては,地図データベースと案内情報データベースとを効率的に結び付けたものがないため,現在設定されている目的地周辺の案内情報を直接得ることが出来ず,そのため最終的な目的地の設定に時間がかかり,選び出すのにも時間がかかる等の欠点があった。
本発明は上記した従来技術の問題点を解決することを目的とする。」(段落【0003】)エ 課題を解決するための手段「上記目的を達成するために本発明は,自車位置及び目的地の位置,方向の案内情報を車両の移動に伴ってランドマークを含む地図情報上に画像表示し,かつ選択可能とするナビゲーション表示における案内情報の選択方法において,前記画像表示された複数の施設に関する情報から少なくとも必要とする施設の種類を設定する条件設定ステップと,前記設定された施設の種類に基づいて,現在設定されている目的地の位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出する目的地周辺検索ステップと,抽出された目的地周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップと,リストアップされた施設から所定の施設を選択し,目的地として設定する目的地設定ステップと,を有することを基本的な特徴とする。」(段落【0004】)オ 作用「条件設定ステップにおいて,画像表示された複数の施設に関する情報から少なくとも必要とする施設の種類を設定し,目的地周辺検索ステップにおいて,前記設定された施設の種類に基づいて,現在設定されている目的地の位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出する。そして,抽出された目的地周辺の施設をリストアップ表示し(リスト表示ステップ),リストアップされた施設から所定の施設を選択し,目的地として設定する。」(段落【0005】)カ 実施形態「以下本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1において,表示画面1上の案内情報画面2においては,案内情報の各項目インフォーメーション3,アクセス4,セーフティ5,ハイウェイ6が表示され,これらを任意に選択可能になっている。この選択は例えば表示に対応するキーやタッチパネルの操作によれば良い。ここでインフォーメーション3を選択したとすると,次に表示エリア選択画面7が表示される。ここには自車位置周辺8,目的地周辺9,全国エリア情報20が表示され,それぞれ任意のものを表示可能である。各データベースには位置データ(緯度,経度)がつけ加えられており,後述するように案内情報から地図上に位置を登録して目的地として設定できるようになっている。」(段落【0006】)「自車位置周辺8又は目的地周辺9を選択すると,自車位置周辺8を選択した場合は自車位置,目的地周辺9を選択した場合は目的地を基準として所定の範囲にある案内情報が読み込まれ,インフォーメーション画面10となり,種々の施設の選択表示がなされる。ここで宿泊施設11を選択したとすると,宿泊施設画面12が表示され,種々の宿泊施設が表示される。今,所定宿泊施設13を選択したとすると,該所定宿泊施設13の詳細が示された所定宿泊施設表示画面14が表示され,ここで位置設定15を選択すると該所定宿泊施設13が目的地として設定登録される。これにより案内情報から直接目的地を設定することができる。案内情報画面2の他のアクセス4,セーフティ5,ハイウェイ6の項目についても,上記と同様に目的地として設定可能になっている。」(段落【0007】)「なお,インフォーメーション画面10において項目を選択した場合,目的地位置と各施設位置との距離を算出して,距離の近い順に表示するようにすることも可能である。この場合の構成を図3により後に説明する。」(段落【0008】)「図2において,目的地周辺9を選択すると(ステップ50),データベースから目的地周辺のランドマークを読み込み,前記したようにインフォーメーション画面10,宿泊施設画面12,所定宿泊施設表示画面14などの画面を順次表示選択する(ステップ51)。そして,位置設定15の選択があると(ステップ52),その位置を目的地としてメモリに記憶し(ステップ53),地図画面に該位置を表示する(ステップ54)。位置設定15の設定がない場合には終了する。」(段落【0009】)「図3において,目的地周辺9を選択すると(ステップ55),データベースから目的地周辺のランドマークを読み込み,前記したようにインフォーメーション画面10,宿泊施設画面12,所定宿泊施設表示画面14などの画面順次表示選択する(ステップ56)。そして,目的地とランドマークの距離を位置データから求め(ステップ57),距離の近い順にリストアップする(ステップ58)。
所定のランドマークが選択され,位置設定15の選択があると(ステップ59),その位置を目的地としてメモリに記憶し(ステップ60),地図画面に該位置を表示する(ステップ61)。位置設定15の設定がない場合には終了する。」(段落【0010】)キ 発明の効果「以上説明したように本発明は,自車位置及び目的地の位置,方向の案内情報を車両の移動に伴ってランドマークを含む地図情報上に画像表示し,かつ選択可能とするナビゲーション表示における案内情報の選択方法において,前記画像表示された複数の施設に関する情報から少なくとも必要とする施設の種類を設定する条件設定ステップと,前記設定された施設の種類に基づいて,現在設定されている目的地の位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出する目的地周辺検索ステップと,抽出された目的地周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップと,リストアップされた施設から所定の施設を選択し,目的地として設定する目的地設定ステップと,を有することを特徴としているため,案内情報から現在設定されている目的地周辺の施設をリストアップし,該リストから最終的な目的地を設定できる効果がある。」(段落【0012】)(2)上記(1)の記載によれば,本件発明1,2は,カーナビゲーション装置における案内情報の選択方法に関する発明であって,本件発明1は,?@画像表示された複数の施設に関する情報から少なくとも必要とする施設の種類を設定する条件設定ステップ,?A設定された施設の種類に基づいて,現在設定されている目的地の位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出する目的地周辺検索ステップ,?B抽出された目的地周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップ,?Cリストアップされた施設から所定の施設を選択し,目的地として設定する目的地設定ステップとを有するものであり,本件発明2は,?@画像表示された複数の施設に関する情報から少なくとも必要とする施設の種類を設定する条件設定ステップ,?A設定された施設の種類に基づいて,目的地の位置から設定された種類の施設迄の距離情報を演算算出する距離情報演算算出ステップ,?B距離情報演算算出結果に基づいて,該目的地の位置から距離が近い順に上記目的地周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップ,?Cリストアップされた施設から所定の施設を選択し,目的地として設定する目的地設定ステップとを有するものである。
以上のとおり,本件発明1は,「現在設定されている目的地の位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出し,表示する」ものであり,本件発明2は,「目的地の位置から設定された種類の施設迄の距離情報を演算算出し,目的地の位置から距離が近い順に表示する」ものであって,現在設定されている目的地の位置を基準に施設の情報を抽出,表示するものである。
3 甲4発明の意義(1) 甲4(特開昭62-151884号公報)には,次の記載がある。
ア特許請求の範囲「地図情報をディジタル化して所定の記憶媒体に記憶させ,該記憶媒体から読み出され,画像信号に変換された該地図情報を表示装置に表示する情報表示装置において,該地図情報としてホテル,駐車場,ガソリンスタンド,ディーラ等の所定の施設を,該施設が存在する位置に,道路に重畳して,シンボルで表示するとともに,同種の該施設を表す該シンボルの各々に,相互に区別でき,かつ連続的に関連する比較的簡易な数字,文字,記号等を併せて表示することを特徴とする情報表示装置。」(1頁左欄5行〜15行)イ発明の詳細な説明(ア)発明の概要「本発明は地図情報をディジタル化して所定の記憶媒体に記憶させ,記憶媒体から読み出され,画像信号に変換された地図情報を表示装置に表示する情報表示装置において,地図情報としてホテル,駐車場,ガソリンスタンド,ディーラ等の所定の施設を,施設が存在する位置に,道路に重畳して,シンボルで表示するとともに,同種の施設を表すシンボルの各々に,相互に区別でき,かつ連続的に関連する比較的簡易な数字,文字,記号等を併せて表示するようにし,もって地図が見難くなるのを防止するとともに,各施設の位置やより詳細な情報を得るときの操作性を向上させたものである。」(1頁右欄1行〜13行)(イ) 従来の技術「最近CD-ROM等に地図情報を記録しておき,その地図情報を読み出して,車両の現在地とともに表示装置に表示させ,車両を所定の目的地に誘導する車両ナビゲーション装置が研究,開発されている。斯かる従来の装置は,例えばホテル,駐車場,ガソリンスタンド,車のディーラ等の所定の施設がある場合,その名称等をその所在地の近傍に道路とともに表示装置に表示し,運転者の便宜に供するようにしている。」(1頁右欄15行〜2頁左上欄3行)(ウ) 作用・「しかしてその作用を説明する。先ず最初にナビゲーションキー51が操作された場合における基本的動作について説明する。方位センサ7,速度センサ8,GPS装置9等の情報からプロセッサ10は車両の現在地を演算し,検出する。この情報に対応してプロセッサ6はCD-ROM1から現在地を含む地図を読出し,メモリ5に記憶させる。CD-ROM1には複数の縮尺の地図が記録されており,メモリ5には現在地を含む各縮尺の地図が記憶される。プロセッサ6はコントローラ15を制御し,メモリ5に記憶された地図のうち所定の縮尺のデータをメモリ16又は17に書き込ませる。メモリ16,17は一方が表側(データがメモリ20に転送されている方),他方が裏側(データがメモリ20に転送されておらず,コントローラ15により新たなデータが書き込まれる方)とされている。表側と裏側は交互に切り換えられ,コントローラ15による書き込みは常にメモリ20にデータを送出していない裏側に行われる。
プロセッサ6はさらにコントローラ15を制御し,プロセッサ10からの現在地信号に対応してメモリ16,17の表側に自車マークを描画させる。
コントローラ15によりメモリ16,17に描画された地図は,自車マークを中心とする所定の範囲内のデータが,パラレル/シリアル変換回路18によりパラレルデータからシリアルデータに変換され,さらにその色信号がカラーパレットレジスタ19により高階調度の色信号に変換されてメモリ20に転送される。」(3頁右上欄16行〜右下欄6行)・「次にガイドキー53を操作した場合の作用を説明する。ガイドキー53が操作されたとき,プロセッサ6は例えば第4図に示すように,地図に重畳して,ガイドメニューを表示装置29の所定位置(図においては上下辺の近傍)に表示させる。いまCD-ROM1に,地図情報として,道路,鉄道,海岸線等を表示する線分データだけでなく,ホテル,ガソリンスタンド,車のディーラ,駐車場の各施設のシンボルを表示するシンボルデータも記録されているものとすると,これらのシンボルが必要に応じてその意味するところの文字とともに所定位置に表示される。
表示装置29の前面にはタッチセンサが配置してあり,各施設の表示位置を指等で触れるとそれが検知される。従ってホテル,駐車場,ガソリンスタンド,ディーラのいずれが選択されたかが判断され,いずれかの施設が選択されたとき,ガイドメニューが消去されるとともに,地図に重畳して選択された施設のシンボルがその所在地に表示される。例えばホテルが選択されたとき第5図に示すように,ホテルのシンボルが地図上の所在地に対応して表示される。このシンボルはガイドメニュー表示時に表示されたシンボルと同一である。従って操作者はガイドメニュー表示における文字を見なくとも,シンボルを見るだけで,殆ど直感的に所望の施設を選択することができる。またこのとき選択されない施設は表示されないから,シンボルを捜すこと自体は極めて容易となる。逆にガイドキー53を操作しない場合は,これらのシンボルが表示されていない通常の地図だけの表示となるから,地図が見難くなるようなこともない。」(3頁右下欄17行〜4頁右上欄7行)・「同種の施設を表すシンボルの各々には相互に区別でき,かつ連続的に関連する比較的簡易な数字(番号),文字,記号等が付されている。すなわち例えば各ホテルのシンボルには1,2,3等の番号,A,B,C等の文字,その他の記号が対応されており,シンボルが地図に重畳して表示されるとき,この番号等も併せて表示される。シンボルは対応する施設の所在地に表示されるので,表示装置29の画面上に表示されている現在地を中心とする地図の外に位置する施設のシンボルとその番号は,その位置が画面の範囲内になるまで表示されない。第5図の実施例においては2番の番号が付されたホテルがいま表示されている地図の外に位置しているので表示されていない。これらの番号は各ホテル毎に対応しており,少なくとも所定の地域内において異なるホテルに同一の番号が付されることはない。従って使用者はこの番号により所望のホテルを特定することができる。勿論以上のことは他のシンボルについても同様である。
シンボルに文字等を付する場合,例えばそれをその施設の名称とすることも可能である。しかしながら名称は地図を見難くするので,本発明における簡易な文字ではない。」(4頁右上欄8行〜左下欄12行)・「第5図に示すように,選択されたシンボルが地図に重畳して表示されるとき,表示装置29の所定位置(実施例においては右下辺の近傍)には,選択されたシンボルにより表される施設のより詳細な情報を表示させるための操作スイッチが表示(実施例においてはリストの文字が表示)される。このリストの文字が表示されている部分を指等で,触れると,タッチセンサによりそれが検知され,第6図に示すように,表示装置29の画面から地図が消去され,その代りにそのとき地図上に表示されていたホテルに関するより詳細な情報がリストになって表示される。より詳細な情報とは,例えばホテルの名称,電話番号,住所,特徴等である。従って操作者は第5図に示す表示状態において所望のホテルをその番号で特定し,さらに第6図に示す表示に切り換え,対応する番号が付されたところの情報を見ることにより,その施設のより詳細な情報を知ることができる。このとき地図上に表示されていない施設の情報は表示されないので所望の施設の情報がより見易くなる。また番号等のように連続的な関連性を有するものを用いることにより,リスト中から所望の施設を捜し出すことがさらに容易となる。」(4頁左下欄13行〜右下欄15行)・「先ず画面上に地図が表示された状態で,シンボルの表示が指示されるまで待機する。シンボルの表示が指示されるとシンボルの位置データ(座標)が読み取られ,表示画面(地図)の範囲内か否かが判断される。表示中の地図の範囲内に位置するときはそのシンボルを地図に重畳して表示させる。またそのシンボルの番号をメモリ5の所定のスタックに書き込む。表示中の地図の範囲外に位置するシンボルは表示されず,またその番号はスタックに書き込まれない。斯かるステップが全ての施設(シンボル)について行われた後,リスト表示の指示がなされるまで待機し,リスト表示の指示が入力されたとき,予めスタックに格納したシンボルの番号が読み取られ,その番号が対応するデータが表示される。」(4頁右下欄18行〜5頁左上欄12行)(エ) 効果「以上の如く本発明は地図情報をディジタル化して所定の記憶媒体に記憶させ,記憶媒体から読み出され,画像信号に変換された地図情報を表示装置に表示する情報表示装置において,地図情報としてホテル,駐車場,ガソリンスタンド,ディーラ等の所定の施設を,施設が存在する位置に,道路に重畳して,シンボルで表示するとともに,同種の施設を表すシンボルの各々に,相互に区別でき,かつ連続的に関連する比較的簡易な数字,文字,記号等を併せて表示するようにしたので,その数字等により施設を区別することができ,従ってより詳細な情報はその番号に対応して別に表示させることが可能になる。その結果通常状態においては地図に施設の名称等を表示する必要がなく,地図が見難くなるのを防止することができる。その結果各施設の位置の確認と,その施設のより詳細な情報の確認を独立に行うことができ,操作性を向上させることができる。」(5頁右上欄16行〜左下欄13行)(2)上記(1)の記載及び甲4の第4図〜第6図の記載を総合すると,甲4には,審決(9頁18行〜25行)が認定するとおり,次の発明(甲4発明)が記載されているものと認められる。
「地図情報を読み出して車両の現在地とともに所定の施設のシンボルを所在地に対応して表示装置に表示する,車両ナビゲーション装置の施設の情報の選択方法において,表示装置に表示されたガイドメニューの施設のシンボルから所望の施設のシンボルを選択する手段と,前記選択された施設のシンボルに基づいて,車両の現在地を含む地図上にある施設の情報をリストにして表示する手段と,を有する車両ナビゲーション装置の施設の情報の選択方法。」4 甲5発明の意義について(1)甲5(「CELSIORエレクトロマルチビジョン」の取扱説明書表紙,2〜4頁,42〜49頁及び裏表紙)には,次の記載がある。
ア「ナビゲーション機能及び地図を操作する前にP6……(省略)地図に自宅や目的地(走行上の目印になる地点)などを登録したいときは P42」(2頁)地図に自宅や目的地(走行上の目印になる地点)などを登録しイ「たいときは地図上に走行上の目印となる地点6カ所(自宅含む)までセットできます。」(42頁)セットのしかたウ 「自宅が『東京都墨田区両国付近』にある場合を例に説明します。
登録したい場所の地図を出す方法を決めます。 1?@メニュー画面にして『地点登録』を押します。
?A1/8万図より詳細な地図をだす方法を『「地名索引』,『目的地周辺』,『現在地周辺』,『メモリ地点』,『全国図』及び『電話番号』の中から一つ選びます。
……(省略)『目的地周辺』が選択できるのは,あらかじめ目的地設定がされている場合です。」(43頁)自宅(または目的地)をセットします。 「3?@を自宅付近に移動し,『地点セット』を押します。
○+……(省略)?A『自宅』を押します。
……(省略)?B『はい』を押します。
……(省略)以上の操作で地図に自宅がセットされます。
・同様の手順で地点A〜Eにそれぞれセットできます。」(48頁)(2)上記(1)の記載によれば,甲5には,目的地周辺の地図を出した後に,その地図上において自宅又は目的地を登録することができることが認められる。この場合の登録は,目的地の候補の登録であって,実際の目的地の設定は,別に行われるものであるから,この目的地の候補の登録をもって,本件発明1にいう「目的地として設定する」ことはいうことはできない。しかし,そうであっても,甲5には,この目的地の候補の登録に当たって,「あらかじめ目的地設定がなされている場合,目的地周辺の地図を出す」ことができるのであり,それは,カーナビゲーションシステムの表示として行われるのであるから,甲5には,審決(10頁13行〜14行)が認定するとおり,「あらかじめ目的地設定がなされている場合,目的地周辺の地図を出すナビゲーション表示方法。」(甲5発明)が記載されているものと認められる。
原告は,この審決の認定は,「目的地設定」と「地点登録」とを混同したものであると主張する。しかし,審決が,甲5発明について,「目的地設定」において「あらかじめ目的地設定がなされている場合,目的地周辺の地図を出す」と認定していないことは明らかである。審決が甲5の2頁の「現在地付近から目的地周辺までの走行ルートを知りたいときは」という記載を引用しているからといって,そのことから直ちに,審決が,甲5発明について,「目的地設定」において「あらかじめ目的地設定がなされている場合,目的地周辺の地図を出す」と認定しているということはできない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
5甲6発明の意義(1)甲6(特開平4-123088号公報)の「発明の詳細な説明」には,次の記載がある。
ア産業上の利用分野「本発明は自動車用誘導表示装置に関し,詳細には地図情報中の所望施設についての詳細情報を,地図情報が表示された画面により知ることができるようにした自動車用誘導表示装置に関する。」(1頁右欄17行〜20行)イ従来の技術「特開昭62-151881号公報…に,「地図情報として,少なくとも道路を表示する線分データと,ホテル,駐車場,ガソリンスタンド,カーディーラ等の施設をシンボルで表示するシンボルデータとを用意し,表示装置に複数のシンボルを表示して,複数の該施設の中から任意の該施設を選択させ,いずれかの該シンボルが選択されたとき,該道路とともに該施設が存在する位置に該シンボルを表示することを特徴とするようにした情報表示装置」が開示されている。
しかし,上記公報に説明された装置によると,地図画面中の同じ種類の施設だけを抽出して表示したり,各施設の詳細情報,例えば施設付近の更に縮尺率の小さい詳細地図とか,ホテルであれば宿泊人数,料金等の内容説明或いはその施設を目的地とした経路表示を得られない欠点がある。」(2頁左上欄2行〜17行)ウ 発明が解決しようとする課題「そこで,本発明はCD-ROMを大容量化することなく,施設の区分を指定したサービス表示や,希望施設の経路表示を可能にした自動車誘導表示装置の提供を目的とする。」(2頁右上欄16行〜19行)エ 課題を解決するための手段「本発明は,道路を表す線データ及び施設を表す施設データを含む地図情報の前記施設データが,少なくとも当該施設の区分を示す区分データ,位置を示す位置データ及び施設ごとに付された番号データから構成される前記地図情報を書き込んだ記録媒体と,この記録媒体を駆動して読出し制御を行うドライブ手段と,このドライブ手段からの読出信号を表示処理し第1の画面として走査画面に表示する表示手段と,施設区分を指定して前記第1の画面に位置表示を要求するキー入力手段と,前記ドライブ手段からの施設データと前記キー入力手段からの入力データとを比較し,キー入力要求のあった区分内施設データを抽出するデータ選別手段と,このデータ選別手段から出力される区分内施設データの各番号データの示す番号を前記第1の画面に施設の位置表示する施設表示手段と,前記第1の画面に位置表示した区分内施設に関する前記番号データの示す番号と施設名称を第2の画面として表示するリスト表示手段と,前記データ選別手段から出力される区分内施設データを格納し,この格納したデータを前記第2の画面によりアクセス可能なメモリと,アクセスされた前記メモリのデータに対応する施設の経路を探索して前記第1の画面に表示する経路表示手段とを具備する。」(2頁左下欄1行〜右下欄5行)オ作用「このような構成によれば,表示中の地図情報の地域を走行中,例えば希望施設迄の経路が知りたい場合に,画面操作によって希望施設の区分を指定してサービスを要求すると,表示中の地図画面に存する全ての指定区分内の施設が所在位置に当該施設に付された番号で表示される。更にユーザーは,これら番号表示された施設をリスト画面(第2の画面)に表し,希望の施設を画面により指定することで,リスト表示された施設のデータを格納したメモリをアクセスして,希望施設までの経路を探索し表示することができる。」(2頁右下欄7行〜18行)(2)上記(2)の記載によれば,甲6には,次の発明(甲6発明)が記載されていると認められる。
「表示中の地図情報の地域を走行中に,表示中の地図画面(第1の画面)に存する全ての指定区分内の施設が所在位置に番号で表示され,ユーザーは,これらの番号表示された施設の番号と名称をリスト画面に表示し,希望の施設を画面により指定することで,希望施設までの経路を探索し表示すること,すなわち,目的地を設定することができる。」6取消事由1(本件発明1と甲4発明の対比における一致点認定の誤り)について(1)甲4発明は,前記3(2)のとおり,「地図情報を読み出して車両の現在地とともに所定の施設のシンボルを所在地に対応して表示装置に表示する,車両ナビゲーション装置の施設の情報の選択方法において,表示装置に表示されたガイドメニューの施設のシンボルから所望の施設のシンボルを選択する手段と,前記選択された施設のシンボルに基づいて,車両の現在地を含む地図上にある施設の情報をリストにして表示する手段と,を有する車両ナビゲーション装置の施設の情報の選択方法。」というものであるから,車両の現在地を含む地図上に所定の施設のシンボルが表示され,そのような表示されたシンボルに基づいて,車両の現在地を含む地図上にある施設の情報がリストにして表示されるものである。したがって,甲4発明は,施設情報をリストアップする際の基準(施設情報の抽出領域)として,表示装置の「地図表示領域全体」を基準としているのであるが,その「地図表示領域」には,車両の現在地を含むという限定がある。しかも,前記3(1)イ(ウ)のとおり,甲4には,「コントローラ15によりメモリ16,17に描画された地図は,自車マークを中心とする所定の範囲内のデータが,パラレル/シリアル変換回路18によりパラレルデータからシリアルデータに変換され,さらにその色信号がカラーパレットレジスタ19により高階調度の色信号に変換されてメモリ20に転送される。」(3頁左下欄20行〜右下欄6行),「シンボルは対応する施設の所在地に表示されるので,表示装置29の画面上に表示されている現在地を中心とする地図の外に位置する施設のシンボルとその番号は,その位置が画面の範囲内になるまで表示されない。」(4頁右上欄14行〜19行)と記載されているから,上記「地図表示領域」は,車両の現在地を中心とするものであることが認められる。そうすると,甲4発明は,施設情報をリストアップする際の基準(施設情報の抽出領域)を,車両の現在地を中心とする「地図表示領域」によっているから,車両の現在地を基準として施設情報をリストアップするものと理解することができるのであり,その旨の審決の認定に誤りがあるということはできない。
(2)したがって,審決の「…後者(判決注:甲4発明)の『車両の現在地』と前者(判決注:本件発明1)の『目的地の位置』とは共に施設の情報をリストアップする際の『基準位置』という概念で共通し,…」(14頁7行〜9行)との認定に誤りがあるということはできず,この点において審決の一致点の認定に誤りがあるということはできないから,取消事由1は理由がない。
7 取消事由2(相違点2についての誤認)について(1) 相違点2の認定につき本件発明1は,「現在設定されている目的地の位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出する」ものである。
そして,本件発明1の「目的地の位置を基準に所定の範囲」の意義については,「所定」の語義が「定まっていること。定めてあること。」(「広辞苑第3版」1215頁[1988年10月11日株式会社岩波書店発行],甲14)であり,「範囲」の語義が「一定の決まった広がり。かこい。かぎり。区域。」(「広辞苑第3版」1981頁,甲14)であることからすると,「目的地の位置を基準に所定の範囲」とは,「目的地の位置を基準に定まっている一定の決まった広がり」を意味すると解される。本件特許請求の範囲請求項1には,「所定の範囲」という記載があるのみで,それを超えてその意味を限定する記載はなく,また,本件特許の「発明の詳細な説明」や「図面」の記載からその意味を限定すべきであるともいえないから,上記の意味を超えて「所定の範囲」の意義を限定して解釈することはできない。
この点について原告は,他の公開特許公報(甲15〜17)における「所定の範囲」という用語の使用例について主張しているが,他の公開特許公報における「所定の範囲」の使用例によって上記認定が左右されると解することはできない。
これに対し,前記6で述べたとおり,甲4発明は,「車両の現在地」を基準として施設情報をリストアップするものである。地図の縮尺が変われば,甲4発明の「地図表示領域」は変わるが,この「地図表示領域」は,地図の縮尺に応じて一義的に定まるものであるから,甲4発明は,「車両の現在地を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出する」ものということができる。
したがって,審決が,相違点2として,「所定の範囲にある施設の情報を抽出する場合の基準位置に関し,本件発明1では『目的地の位置』であるのに対し,甲4発明では『車両の現在地』である点。」と認定していることに誤りがあるということはできない。
(2) 甲4発明に甲5発明を適用することにつき甲5発明は,前記4(2)のとおり,「あらかじめ目的地設定がなされている場合,目的地周辺の地図を出すナビゲーション表示方法。」というものである。甲4発明と甲5発明は,いずれもカーナビゲーションに関する発明であるところ,甲5発明においては,上記のとおり目的地周辺の地図を出すことが開示されている。そして,これらに,車両の運転手は,適切な運転のために,給油,食事や休憩,駐車等を事前に計画する必要があり,この場合に,目的地や通過地周辺の施設情報を入手する必要があることから,甲4発明において,車両の現在地を中心とする「地図表示領域」に代えて,目的地を中心とする「目的地周辺の地図表示領域」とすることは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に想到することができるというべきである。
原告は,甲5発明では,目的地周辺とはいっても縮尺設定によって表示範囲は種々変化するので,「目的地の位置を基準とした,当該目的地の一定の決まった広がり」を施設情報の抽出領域として定めることはできないとも主張するが,上記(1)のとおり,縮尺設定によって表示範囲が変化するとしても「所定の範囲」ということができるから,この点は,上記認定を左右するものではない。
また,前記4(2)のとおり,甲5では,目的地周辺の地図を出した後にされるのは,目的地の候補の登録であって,実際の目的地の設定ではなく,実際の目的地の設定は別にされるのであるが,そうであるとしても,甲4発明において,車両の現在地を中心とする「地図表示領域」に代えて,目的地を中心とする「目的地周辺の地図表示領域」とすることは,当業者が容易に想到することができるとの上記認定が左右されることはないというべきである。
(3)したがって,甲4発明と甲5発明から,本件発明1の相違点2に係る構成(「現在設定されている目的地の位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出する」)を容易に想到することができたとの審決の判断に誤りがあるということはできない。
8 取消事由3(相違点3についての誤認)について(1) 甲6発明の意義前記5(2)のとおり,甲6発明は,「表示中の地図情報の地域を走行中に,表示中の地図画面(第1の画面)に存する全ての指定区分内の施設が所在位置に番号で表示され,ユーザーは,これらの番号表示された施設の番号と名称をリスト画面に表示し,希望の施設を画面により指定することで,希望施設までの経路を探索し表示すること,すなわち,目的地を設定することができる。」というものであるから,甲6発明には,カーナビゲーション装置において「リストアップされた施設から所定の施設を選択し,目的地として設定する技術」が開示されているということができる。
(2) 甲8に記載された発明の意義特開平1-173821号公報(発明の名称「赤外線タッチパネルを用いた入力装置」,出願人 アイシン・エイ・ダブリユ株式会社・株式会社新産業開発,公開日 平成元年7月10日。甲8)には,次の記載があるから,甲8にも,カーナビゲーション装置において「リストアップされた施設から所定の施設を選択し,目的地として設定する技術」が開示されているということができる。
ア「(4)複数の地点の座標が設定されている中で目的地が入力されると,各地点で目的地へ行くための案内情報を出力するナビゲーション装置において,赤外線タッチパネルにより位置を入力する入力装置と,案内情報を記憶する記憶装置と,前記入力装置からの入力情報により前記案内情報を出力する表示装置とを備え,前記タッチパネルの入力可能な部分を他部分と視覚的に区別可能にする手段を有することを特徴とするタッチパネルを用いた入力装置」(1頁右欄4行〜13行)イ「本発明においては,例えば第12図に示すように,例えば「観光」,「宿」,「食事」,「みやげ」,「コード番号入力」,「帰り」を選択項目として赤色で表示し,タッチパネル入力によりジャンルを選択する。次いで,第12図(ロ)の画面が表示され,入力表示部は全て赤色で表示され,次に目的の駐車場をタッチパネルにより入力すると(ハ)に示す確認画面が表示される。ここでは選択された項目の背景が例えば青色に,他の項目は暗い青色になり確認し易いようにされ,また,確認キーである「取消」および「OK」のキーのみが赤色で表示される。
従って,本発明によれば,タッチパネル上における選択入力を正確に行うことができる。
また,目的地選択前には必ず確認画面を表示させることにより,別の目的地へ案内させてしまうという危険性がなくなり,正確に目的地を入力することができる。」(3頁右上欄3行〜20行)ウ 第12図は,次のとおりである。
(3) 甲4発明に周知技術を適用することができることにつき以上の(1),(2)及び弁論の全趣旨によれば,カーナビゲーション装置において「リストアップされた施設から所定の施設を選択し,目的地として設定する技術」は,本件特許出願前から周知の技術であったと認められる。
そうすると,相違点3に係る本件発明1の構成(「リストアップされた施設から所定の施設を選択し,目的地として設定する目的地設定ステップ」)については,当業者が甲4発明に上記周知技術を適用することによって容易に想到することができたものと認められる。
なお,前記4(2)のとおり,甲5では,目的地周辺の地図を出した後にされるのは,目的地の候補の登録であって,実際の目的地の設定ではなく,実際の目的地の設定は別にされるのであるが,そうであるとしても,甲6発明等の甲5発明とは別個の周知技術に基づいて,相違点3に係る本件発明1の構成(「リストアップされた施設から所定の施設を選択し,目的地として設定する目的地設定ステップ」)は当業者が容易に想到することができたとの上記認定が左右されることはないというべきである。
(4) 甲4発明に甲5発明と周知技術を適用した結果につき前記7及び上記(1)〜(3)を総合すると,甲4発明に甲5発明と上記(3)の周知技術を適用したものは,「自車位置を車両の移動に伴ってランドマークを含む地図情報上に画像表示するナビゲーション表示における案内情報の選択方法において,画像表示された複数の施設に関する情報から少なくとも必要とする施設の種類を設定する条件設定ステップと,設定された施設の種類に基づいて,現在設定されている目的地の位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出する目的地周辺検索ステップと,抽出された目的地周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップと,リストアップされた施設から所定の施設を選択し,目的地として設定する目的地設定ステップと,を有することを特徴とするナビゲーション表示における案内情報の選択方法。」であるということができる。
甲4,甲6等の文献に,「目的地の置き換え」,すなわち,「走行前の最初の目的地の設定と,走行中における新たな目的地の変更による目的地の設定」自体を記載したものがないとしても,上記のとおり,甲4発明に甲5発明と上記(3)の周知技術を適用したものは,目的地周辺の施設を目的地として設定することになる結果,上記のような「目的地の置き換え」がなされているものである上,カーナビゲーション装置を用いてある目的地に向かって走行中に目的地を変更することは当然にあり得るところ,一旦設定した目的地をキャンセルして目的地を設定し直すのではなく,直接目的地を変更することができれば,利用者にとって簡便であることは明らかであることを総合すると,この点に想到困難性があると認めることはできない。
(5) 相違点1につき本件発明1の相違点1に係る構成(ナビゲーション表示における案内情報に関し,自車位置のみならず「目的地の位置,方向」をも画像表示し,かつ「選択可能とする」態様であること)は,審決(15頁10行〜11行)が認定するとおり,本件特許出願前から周知の技術であると認められる。
(6) 本件発明1の構成の容易想到性につきそうすると,本件発明1の構成は,甲4発明,甲5発明及び周知の技術から容易に想到することができたものというべきであって,その旨の審決の判断に誤りがあるということはできない。
(7) 本件発明1の効果につき本件発明1によれば,設定された第1の目的地の位置を基準に所定の範囲の施設の情報が抽出され,更にリストアップ表示され,この第1の目的地の位置を基準として抽出及びリストアップ表示された施設を第2の目的地として設定できるといった効果を奏するのであるが,そのような効果は,上記の本件発明1の構成から必然的にもたらされるものであって,当業者が予測しうる範囲内のものである。その旨の審決の判断に誤りがあるということはできない。
9 まとめ以上のとおり,本件発明1は,甲4発明,甲5発明及び周知の技術から容易に想到することができたものであるとの審決の判断に誤りがあるということはできない。
また,本件発明2は,甲4発明とは,相違点1〜3に加えて,「設定された施設の種類に基づいて,目的地の位置から設定された種類の施設迄の距離情報を演算算出する距離情報演算算出ステップと,距離情報演算算出結果に基づいて,該目的地の位置から距離が近い順に上記目的地周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップが存する点」が,相違するが,審決(16頁18行〜21行)が認定するとおり,「ナビゲーション装置において,施設を表示させる際に施設との距離が近い順から表示する点」は,周知の技術であるから,本件発明2は,甲4発明,甲5発明及び周知の技術から容易に想到することができたものというべきであって,その旨の審決の判断に誤りがあるということはできない。
10 結論以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はすべて理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 澁谷勝海