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事件 平成 16年 (ネ) 3658号 損害賠償請求控訴事件
控訴人 A
訴訟代理人弁護士 對崎俊一
被控訴人 シチズン商事株式会社
訴訟代理人弁護士 篠崎正巳
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/11/22
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,2400万円及びこれに対する平成14年2月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
事案の概要
控訴人は,「AEROBATICS」,「アエロバティックス」及び原判決別紙標章目録1記載の標章(以下「ウイングマーク」という。)の各表示(以下,これら三つの表示を総称して「本件各表示」という。)を用いた曲技飛行競技会「FAI WORLD GRAND PRIX OF AEROBATICS」(以下「本件競技会」という。)の開催に携わった者であり,原判決別紙原告商標目録記載の商標(以下「控訴人商標」という。)につき商標権(以下「控訴人商標権」という。)を有する。
本件は,控訴人が被控訴人に対し,被控訴人が,商品名を「AEROBATICS MODEL」とし,原判決別紙標章目録2記載の標章(以下「被控訴人ウイングマーク」という。)を付して,腕時計(以下,当該製品を「被控訴人製品」という。)を販売した行為は,控訴人の商品等表示として需要者の間に広く認識されている本件各表示と同一又は類似の商品等表示を使用して,控訴人の営業と混同を生じさせる行為として,不正競争防止法2条1項1号に規定する不正競争行為に該当し,かつ,控訴人商標の商標登録(平成13年1月26日)後は控訴人商標権の侵害行為にも該当するなどと主張して,損害賠償2400万円及び遅延損害金の支払を求めた事案であり,控訴人の請求を棄却した原判決に対し,控訴人がその取消しを求めて控訴した。
本件の前提となる事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり訂正の上,当審における主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「2」及び「3」並びに「第3 争点に関する当事者の主張」のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の訂正 (1) 原判決2頁下から2行目及び同3頁4行目〜5行目の「,FAI及びFWGPAが主管し」,同7頁下から8行目の「(原告は,上記商標につき無効審判を請求中である。)」並びに同4頁15行目〜20行目を削る。
(2) 原判決9頁9行目の「与えて」を「与えられて」に,同14頁末行の「ウイングマークの」を「ウイングマークに類似する原判決別紙商標目録1記載の商標(以下「ウイングマーク類似商標」という。)につき」に,同15頁1行目及び4行目の「ウイングマークの商標」を「ウイングマーク類似商標」にそれぞれ改める。
2 控訴人の主張 (1) 争点1(本件各表示が控訴人の商品等表示といえるか)について ア 原判決が本争点について認定した事実経緯(原判決16頁〜30頁)には,以下のような事実誤認がある。
(ア) 原判決は,ブライトリング・ワールドカップにつき,「平成6年からは,各パイロットが,4分間,会場に流れる音楽をパイロットが無線で受けて音楽に合わせて自由演技を行い,その技術,芸術性を競うというプログラムで構成されるようになった」と認定したが,誤りである。本件で控訴人が主張する,パイロットが聞く音楽と観客が聞ける音楽とがシンクロした競技は,平成7年のブライトリング・ワールドカップにおいて,控訴人が初めて提案し,実施されたものである。
(イ) 原判決は,平成7年11月のCIVA会議において,ブライトリングの撤退を受け,以降の新シリーズを実施することが決定され,また,この時点で新シリーズの具体的名称も「FAI WORLD GRAND PRIX OF AEROBATICS」と決定された旨認定しているが,この認定の基礎となったBの陳述書(乙23)及びCIVAからのファックス通信文(乙26)に信用性はなく,上記認定は誤りである。
(ウ) 原判決は,「Cは,平成7年11月17日,Bに対し,平成7年のブライトリング・ワールドカップの協力者である旨の自己紹介のファックスを送信した」と認定したが,Cが初めてファックスを送信したのは同年10月25日である(甲107)から,誤りであり,この点は,上記認定の基礎となったBの陳述書(乙23)に信用性がないことを示すものである。
(エ) 原判決は,「Bは,同月30日,Cに対し,本件競技会の名称が『FAI WORLD GRAND PRIX OF AEROBATICS』に決定したことを通知し」たと認定している。しかしながら,当該名称が「決定」されたとの部分については,BからC宛てのファックス通信文(乙25)において,Bが「公に選ばれた」旨記載したというにすぎず,実態に沿うものではないから,誤りである。
(オ) 原判決は,平成7年12月初旬ころから,Bが本件競技会のロゴの作成に取り掛かった旨認定しているが,誤りである。
(カ) 原判決は,「原告とCは,同月12日ないし13日ころ,スイスを訪れてBと打合せを行った。CとBとの間で,CがBに対し,保証金を支払い,BはCに対し,FWGPAの日本代表部としての権限を与えることについて大筋で合意した」と認定したが,誤りである。両者が面談したことは事実であるが,競技の日程やスポンサーなどについて話し合うことが予定されていたものであり(甲108),原判決の上記認定に係る合意など存在しない。
(キ) 原判決は,「Cは,同月20日ころ,上記合意について契約書を作成する前ではあるが,FWGPA日本代表部として日本の企業と契約を締結する必要があると要請し,Bは,同月23日,Cに対し,上記(カ)記載の合意について契約書を作成することを条件として,FWGPA日本代表部として契約を締結することを認めた。しかし,Cは,上記(カ)記載の合意について契約書を作成せず,保証金を支払わなかったことから,Bは,Cではなく,原告を代理人として,豊岡市との間で,豊岡市が,本件競技会を開催し,Bに対し保証金25万米ドルを支払う旨の契約を締結した。豊岡市は,上記契約に基づき,Bに対し,手付金として10万米ドルを支払った」と認定したが,誤りである。実際には,原判決の上記認定に係る,BとCとの間のやり取り及びBと豊岡市との間の契約はいずれも存在せず,Bに対し10万米ドルを送金したのは控訴人であった(甲109)。
(ク) 原判決は,「原告は,同年(注,平成8年)5月19日ころ,Bの事務所を訪れ,ロゴに関する資料をコピーして持ち帰った」と認定したが,そのような事実はない。
(ケ) 原判決は,「Bは,同年9月6日,豊岡市に対し,保証金残額15万米ドルの支払を求めた」と認定したが,そのような事実はない。
(コ) 原判決は,平成10年の本件競技会について,「ツインリンクもてぎ社は,Bとの間で,FAI世界航空グランプリプロモーター契約を締結した(乙20)」と認定した。しかしながら,上記契約に係る契約書(乙20)は,体裁を整えるため,形式的に作成されたものにすぎず,法的効果を認めることができないものである。
(サ) 原判決は,「Bが代表者を務めるスイス法人エア・マスター・バレ社は,平成11年9月1日,商号を,FWGPA.S.Aに変更した」と認定したが,誤りであり,正しくは,上記商号変更が行われたのは同年1月9日である(甲60)。
(シ) 原判決は,「Bは,同年(注,平成12年)4月6日,原告との間で,平成12年の本件競技会に関する打合せを行った。Bは,この際,原告に対し,FWGPA.S.Aの代理人として活動する意思があるなら,Bと正式に契約を締結するよう求めたが,原告は,FWGPAとは独立の立場で活動したい旨を述べてこれを拒絶した」と認定したが,誤りであり,Bと控訴人との間に,このようなやり取りは存在しない。このことは,Bが同年3月13日の時点でD外1名を包括代表者として発表していること(乙10)からも明らかである。原判決の上記認定は,Bの陳述書(乙23)に依拠するものであるが,同陳述書は,事後的にBの側に都合よく作成されたものにすぎないから,信用力を認めるべきではない。
イ 原判決は,その認定に係る事実経緯に基づき,「本件競技会は,FAIから全権委任されたBによって,世界各国で開催されていた『FAI WORLD GRAND PRIX OF AEROBATICS』の一環として日本において開催されたものであって,本件競技会の開催が,原告の営業であったということはできない」と結論付けているが,上記アのとおり,その基礎となる事実経緯の認定に重大な誤りがある以上,この結論が誤りであることも明らかである。
また,原判決は,平成8年の本件競技会の後,平成10年の本件競技会までの間及び平成10年の本件競技会の後,平成11年の本件競技会までの間に,それぞれ3回の曲技飛行のイベントが開催されたことを認定しているが,それらのイベントについては,Bですら,自分が開催したものであるとは述べておらず,控訴人が開催したものであることは明らかである。このことを踏まえるならば,原判決の上記結論の誤りは一層明らかというべきである。
なお,原判決は,原審における控訴人の陳述書の内容及び原告本人尋問における供述は,「客観的証拠から認められる事実と符合しない」とする。しかしながら,原判決が「客観的証拠から認められる事実」とするもののうち,「Bが,平成7年11月4日及び5日に開催されたCIVA会議において,今後の競技会の具体的計画を述べており(甲92),本件競技会が概ねBの計画どおり実行されていること」については,Bが上記会議において述べたのは,世界各地における開催であるところ,本件競技会がBの計画どおり実行されていることを示す,何らの証拠も存在しない。また,同じく「同月30日に,Cに対し,上記競技会名の決定を通知していること(乙25)」については,上記ア(エ)のとおりであり,同じく「スイスのFWGPA事務所が,平成8年7月30日に,原告とウイングマークについて話をした後,原告に対してウイングマークのコピーを送信していること(乙27),スイスのFWGPA事務所が,原告を日本代表部として扱っていること(乙27)」については,そこでいうスイスのFWGPA事務所とは,肩書住所地から明らかなとおり,Bの事務所そのものである。したがって,控訴人の陳述書の内容及び原告本人尋問における供述は,客観的証拠と何ら矛盾しない。
(2) 争点5(使用許諾の有無)について ア 原判決の本争点に関する結論は,本件覚書(甲3)によって,控訴人は,被控訴人に対し,FWGPA等の表示を使用した時計の製作を許諾しており,その許諾の対価の額は,機体へのロゴの貼付の対価も含めて300万円であって,その支払も完了している,というものであると解される。
しかしながら,仮に,本件覚書が,控訴人を法的に拘束するものであるとしても,本件覚書をもって,控訴人が被控訴人製品の製作を確定的に許諾したものであると理解するのは相当でない。本件覚書が取り交わされ,そこに時計の製作の点が盛り込まれていたとしても,それが確定的に許諾されるためには,上記300万円とは別に,対価について合意しなければならず,そうした合意はいまだ成立していなかったとみるのが相当である。
したがって,使用許諾の成立を認めた原判決は誤りである。
イ このことは,甲87-3〜9に示されたやり取りを見れば,明らかである。仮に,原判決が認定したように,時計に関する使用許諾がその対価の点も含めて確定的に合意され,対価も支払済みであるとするなら,平成12年12月の時点で,DからEに宛てたファックス通信文(甲87-7)に記載されたようなやり取りがされることはないはずである。
そして,この後,平成13年6月28日には,Bは,Eに対し,被控訴人が1500個に近い時計を日本及び国外で販売したことの対価を含め,755万円の支払を請求しており(甲110),弘研は,この請求を受けて,金額は不詳であるが,相当額の支払をした事実がある。このような経緯も,仮に,原判決認定に係る許諾があるとすれば,考えられないことであり,原判決の誤りを示すものである。
ウ また,原判決は,本争点に関する事実経緯を認定する中で,D及びEが,被控訴人に対し,本件競技会に対する協賛の話を申し出た結果,平成11年7月ころの時点で,機体に「CITIZEN」等のロゴを貼付し,被控訴人が協賛金として300万円を支払うことで合意した旨認定した上で,その後,同年9月ころ,本件覚書を作成する作業の中で,DがFWGPA等の表示を使用した時計の製作を提案し,結局,この提案に沿って,300万円の対価によって時計製作の許諾までがされたと認定している。
しかしながら,先に,提供する役務を定めて300万円の支払という合意が成立しているにもかかわらず,Dが,時計製作の許諾を追加しなければならない必要性はないから,原判決認定に係る上記の経緯は極めて不自然かつ不合理というべきであって,この点も,原判決の誤りを示すものである。
3 被控訴人の主張 (1) 争点1(本件各表示が控訴人の商品等表示といえるか)について 原判決の認定判断は正当であり,控訴人の上記主張はすべて争う。
(2) 争点5(使用許諾の有無)について ア 控訴人は,被控訴人製品製作への確定的な許諾には,300万円とは別に対価について合意しなければならず,そうした合意は成立していなかったとみるのが相当である旨主張する。しかしながら,本件覚書(甲3)に対価が明記されていなくとも,口頭による合意に基づき使用許諾の点を含めた対価が300万円と決定され,同金額が支払われている以上,被控訴人製品製作への許諾は,控訴人,すなわちFWGPA日本代表部との間において確定的に成立していると評価することができる。使用許諾の成立を認めた原判決に誤りはない。
イ 控訴人は,確定的な許諾が成立していなかったと見るべき根拠として,甲87-3〜9を挙げる。
しかしながら,甲87-3及び4は,いつ,どのような趣旨で作成されたものか不明であり,本件覚書に係る合意の成立を否定するものではない。
また,甲87-5〜8は,平成12年の本件競技会に向けてのBとの覚書締結過程におけるやり取りを記したものであり,平成11年の本件競技会に関する本件覚書とは全く関係がない。甲87-7については,平成12年の本件競技会に関するやり取りであることが,その日付等から明白であって,平成12年の本件競技会におけるシンボルマークが変更になるため,平成11年の合意に基づき作成されたオリジナル時計を競技会会場で販売することが難しいことから,平成12年の本件競技会向けの時計の製作を企画して,B,すなわちFWGPAとの間で検討を行っていたものである。もとより,本件の争点は,平成11年の本件競技会に関し,控訴人,すなわちFWGPA日本代表部がオリジナル時計の製作を許諾していたか否かにあり,Bとの関係が争点とされているものではない。
さらに,控訴人は,平成13年6月28日付けのBからEに宛てたファックス通信文(甲110)を新たに証拠として提出する。しかしながら,当該ファックス通信文は,平成12年の本件競技会に向けた覚書作成過程において,Bが平成11年の本件競技会に関連する被控訴人製品の製作を了解した本件覚書の存在を知り,Bの了解なく,控訴人及びD,すなわちFWGPA日本代表部が本件覚書に調印した事実が発覚したことに起因するものである。
ウ 控訴人は,原判決の認定した事実経緯について,300万円の対価によって時計製作までが許諾されたとする経緯が不自然かつ不合理である旨主張する。
しかしながら,本件において,当初,Dは500万円の協賛金を提案してきたが,被控訴人がちゅうちょしたことから,Dは,金額を300万円とするとともに,本件競技会に関するオリジナルモデルの作成と名称の使用許諾を申し出るようになり,これにより,被控訴人は協賛することを初めて了承したものである。
したがって,この間の経緯に,何ら不自然,不合理な点はない。
当裁判所の判断
1 争点1(本件各表示が控訴人の商品等表示といえるか)及び争点2(本件各表示が控訴人の商品等表示として周知性を有するか)について (1) 控訴人は,本件各表示は,平成8年以来,本件競技会において用いられてきたところ,平成8年から平成11年までの間,本件競技会を主管し,実質的に主催してきた主体はFWGPAこと控訴人であり,本件各表示は,日本国内における需要者の間で,控訴人の提供する上記役務を表示するものとして広く認識されていた旨主張する。
そこで検討すると,証拠(甲10〜13,17〜43,47〜54,70〜86,101,乙9,13,23〔枝番省略〕)及び弁論の全趣旨によれば,上記の間における本件競技会の実施の状況,本件各表示の使用状況等について,以下の各事実を認めることができる。
ア FAI(Federation Aeronautique Internationale,国際航空連盟)は,1905年に設立された非政府,非営利の国際団体であり,宇宙をも含む航空活動をより世界的な規模へ発展させるために活動を続けている。FAIは,国際オリンピック委員会(IOC)の認可を受けた傘下団体であり,その加盟国は95か国に上る。
イ 平成8年10月25日から同月27日にかけて,兵庫県豊岡市の但馬空港において,但馬空港フェスティバル実行委員会の主催により,「FAIワールド・グランプリ・オブ・アエロバティックス・イン但馬」(FAI WORLD GRAND PRIX OF AEROBATICS in TAJIMA)との名称で本件競技会が開催された(以下「平成8年大会」という。)。
平成8年大会のポスター,パンフレット及び入場チケット(甲10〜13)においては,その紙面の上端中央部等にウイングマークが表示されるなど,本件各表示が使用されている。また,上記ポスター及びパンフレット(甲10〜12)には,「主催:但馬空港フェスティバル実行委員会」の記載と並んで,「主管:国際航空連盟(FAI)」との記載がある。
さらに,平成8年大会を紹介する新聞記事(甲47,48)においても,「アエロバティックス」の語が使用されている。
ウ 平成9年8月9日及び同月10日には,北海道中川郡豊頃町のとよころ飛行場において,「FWGPA Official Exhibition 遠TONE音 with AEOBATICS」との名称で曲技飛行のイベントが開催された(以下「とよころイベント」という。)。
とよころイベントのパンフレット(甲17)においては,紙面の左上端にウイングマークが表示されるなど,本件各表示が使用されており,「主管:FAI World Grand Prix of Aerobatics Head Office」との記載がある。また,とよころ大会を紹介する新聞記事(甲49,50)においても,「アエロバティックス」の語が使用されている。
とよころイベントの実施に当たり必要な航空法上の各種許可は,いずれも控訴人に対してされているが,当該許可書類上の控訴人の表示には,「FWGPA-J」(甲19,20),「FAI WORLD GRAND PRIX OF AEROBATICS JAPAN DELEGATION」(甲21),「FWGPA JAPAN」(甲22)との肩書が付されている。
エ 平成10年3月28日ころ,栃木県芳賀郡茂木町のツインリンクもてぎサーキット(以下「ツインリンクもてぎ」という。)において開催されたカーレースの最終日,Fが,機体にウイングマークを付して,曲技飛行を披露した。
上記曲技飛行の実施に当たり必要な航空法上の各種許可は,いずれも控訴人に対してされているが,当該許可書類上の控訴人の表示には,「FWGPA JAPAN」(甲24),「FAI WORLD GRAND PRIX OF AEROBATICS JAPAN DELEGATION」(甲25,26)との肩書が付されている。また,ツインリンクもてぎ社による土地・施設使用承諾は,控訴人に対してされているが,承諾書上の控訴人の表示には,「FWGPA-J」(甲23)との肩書が付されている。
オ 同年6月13日及び同月14日ころ,ツインリンクもてぎにおいて開催されたカーレースの際,エキジビションとして航空ショーが行われた。
上記カーレースのパンフレット(甲33)においては,「アエロバティックス」との表示が使用されている。
上記航空ショーの実施に当たり必要な航空法上の各種許可は,いずれも控訴人に対してされているが,当該許可書類上の控訴人の表示には,「FAI WORLD GRAND PRIX OF AEROBATICS JAPAN DELEGATION」(甲30〜32)との肩書が付されている。また,ツインリンクもてぎ社による土地・施設使用承諾は,控訴人に対してされているが,承諾書上の控訴人の表示には,「FWGPA-J」(甲29)との肩書が付されている。
カ 同年10月23日から同月25日にかけて,ツインリンクもてぎにおいて,ツインリンクもてぎ社の主催により,「FAI WORLD GRAND PRIX OF AEROBATICS '98アエロバティックス日本グランプリ」との名称で本件競技会が開催された(以下「平成10年大会」という。)。
平成10年大会のパンフレット(甲53)においては,紙面の左上端にウイングマークが表示されるなど,本件各表示が使用されており,「主管:FWGPA,国際航空連盟(FAI)」との記載がある。
また,平成10年大会を紹介する雑誌記事及び新聞記事(甲51)においても,「アエロバティックス」ないし「AEROBATICS」の語が使用され,ウイングマークを掲載したものもある。
平成10年大会の実施に当たり必要な航空法上の各種許可は,いずれも控訴人に対してされているが,当該許可書類上の控訴人の表示には,「FAI WORLD GRAND PRIX OF AEROBATICS JAPAN DELEGATION」(甲34〜36)との肩書が付されている。また,株式会社ツインリンクもてぎによる土地・施設使用承諾は,控訴人に対してされているが,承諾書上の控訴人の表示には,「FWGPA-J」(甲29)との肩書が付されている。
キ 平成11年4月8日〜10日にかけて,ツインリンクもてぎにおいて開催されたカーレースのオープニングで,F及びGの2名が,機体にウイングマークを付して曲技飛行を披露した。
上記曲技飛行の実施に当たり必要な航空法上の各種許可は,いずれも控訴人に対してされているが,当該許可書類上の控訴人の表示には,「FAI」(甲38),「FAI WORLD GRAND PRIX OF AEROBATICS JAPAN DELEGATION」(甲39,40)との肩書が付されている。また,ツインリンクもてぎ社による土地・施設使用承諾は,控訴人に対してされているが,承諾書上の控訴人の表示には,「FWGPA-J」(甲37)との肩書が付されている。
ク 同年8月ころ,ツインリンクもてぎにおいて,マスコミ関係者向けに,曲技飛行の体験搭乗会(以下「マスコミ向けイベント飛行」という。)が行われた。
マスコミ向けイベント飛行の実施に当たり必要な航空法上の各種許可は,いずれも控訴人に対してされているが,当該許可書類上の控訴人の表示には,「FAI WORLD GRAND PRIX OF AEROBATICS JAPAN DELEGATION」(甲41,42)との肩書が付されている。
ケ 同年9月ころ,米軍厚木基地において,曲技飛行のイベント(以下「厚木基地イベント」という。)が実施された。
コ 同年10月15日から同月17日にかけて,ツインリンクもてぎにおいて,ツインリンクもてぎ社の主催により,「FAI WORLD GRAND PRIX OF AEROBATICS '99アエロバティックス日本グランプリ」との名称で本件競技会が開催された(以下,この本件競技会を「平成11年大会」という。) 平成11年大会のパンフレット(甲54)においては,その紙面の左上端にウイングマークが表示されるなど,本件各表示が使用されており,「主管:国際航空連盟(FAI),FWGPA」との記載がある。
また,平成11年大会を紹介する雑誌記事(甲52)においても,「アエロバティックス」ないし「AEROBATICS」の語が使用されている。
平成11年大会の実施に当たり必要な航空法上の各種許可は,控訴人に対してされているが,当該許可書類上の控訴人の表示には,「FAI WORLD GRAND PRIX OF AEROBATICS JAPAN DELEGATION」(甲43)との肩書が付されている。
(2) 上記認定事実によれば,少なくとも,平成8年大会,とよころイベント,平成10年大会及び平成11年大会の実施に当たり,ウイングマークを始めとする本件各表示が,ポスター,パンフレット等において多数使用された事実を認めることができる。
しかしながら,他方,上記ポスター,パンフレット等には,「主管」として,「国際航空連盟(FAI)」(平成8年大会),「FAI World Grand Prix of Aerobatics Head Office」(とよころイベント),「FWGPA,国際航空連盟(FAI)」(平成10年大会),「国際航空連盟(FAI),FWGPA」(平成11年大会)との記載がされているところ,ここで,「主管」とは「管轄・管理の中心となること。また,その役の人。」(広辞苑第五版)を意味するから,それらの記載に接した需要者は,上記各本件競技会及びイベントの管理運営が,FAI(国際航空連盟)又はその下部団体によって行われているものと認識すると認めるのが相当である。なお,上記のとおり,とよころイベントのパンフレットでは,「主管」として,「FAI World Grand Prix of Aerobatics Head Office」なる団体名様の記載がされているが,冒頭に「FAI」の文字が含まれている以上,当該団体名様の記載に接した当事者は,FAIの一部門又は下部団体が主管者であると認識するものと認められるから,上記認定を左右しないというべきである。
加えて,そもそもウイングマークが,その中央部分に,太文字で,白抜きの「FAI」の欧文字を配してなる標章であることをも考慮すれば,平成8年大会,とよころイベント,平成10年大会及び平成11年大会の実施に当たり,配布されたパンフレット等によってウイングマークを始めとする本件各表示に接した需要者は,ウイングマーク自体に示された「FAI」の太文字及びパンフレット等に記載された上記のような「主管」名によって,上記各本件競技会及びイベントの管理運営主体は,FAI又はその下部団体であると認識するものというほかはなく,そうとすると,本件各表示について,本件競技会等を管理運営する役務が控訴人の提供する役務であることを示す,控訴人の商品等表示であると認めることはできないし,もとより,本件各表示が,控訴人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているとの事実を認める余地もないというべきである。
これに対し,控訴人は,上記の各本件競技会及びイベントは,いずれもFWGPAこと控訴人が主管し,実質的に主催したものであり,FAIは本件競技会の主催者ではない旨主張する。しかしながら,仮に,その主張が客観的事実に沿うものであったとしても(なお,上記認定事実のとおり,少なくともパンフレット等の表示上は,FAIが主管者であるとの表示がされる例が多い上,控訴人自身,その業務の実施に当たり,FAIの一部門又は下部団体であることを示すような肩書を用いていたことからすれば,真実,控訴人が,FAIとは別個独立の運営主体であると法的に評価し得るものであったかについては,少なからず疑問の余地があるというべきである。),上記認定事実に照らせば,需要者の認識という点では,FAI又はその下部団体が運営主体であると認識されると認めるのが相当であって,需要者が,同連盟とは別個独立の法的主体としての控訴人が当該業務の主体であると認識すると認めるに足りる証拠はないから,控訴人の上記主張は,上記判断を左右するものではない。
(3) 以上のとおり,本件各表示は,控訴人の商品等表示であるとも,控訴人の商品等表示として周知性を有していたものとも認めることができないから,その余の点について検討するまでもなく,被控訴人による被控訴人製品の販売が,不正競争防止法2条1項1号に規定する不正競争行為に該当する旨の控訴人の主張は理由がない。
2 争点4(被控訴人による被控訴人製品の販売が商標権侵害行為に該当するか)について 本争点に関する当裁判所の判断は,原判決「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」の「2」のとおりであるから,これを引用する。
3 争点5(使用許諾の有無)について (1) 被控訴人は,仮に,被控訴人が被控訴人製品の販売において控訴人商標を使用しているとしても,控訴人は,被控訴人に対し,被控訴人が控訴人商標を使用して被控訴人製品を製造販売することを許諾しており(本件使用許諾契約),本件使用許諾契約について本件覚書を作成している旨主張する。
そこで検討すると,証拠(甲3,4,51,52,86,99,101,乙2〜7,9,31,32〜36,38,40〔枝番省略〕,原審における証人E義明,控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件使用許諾契約の締結ないし本件覚書の作成をめぐる経緯として,以下の各事実を認めることができる。
ア 控訴人は,平成10年1月ころ,友人であったDに対し,本件競技会に関する業務の補助及び東京三菱銀行札幌支店の自己の口座(口座名義は,「マーケティング・サービスイズ エフダブルジーピ」ないし「マーケティングサービスイズダイヒョウ*******」である。)の管理事務を依頼することとし,Dとの間で,控訴人がDに対してその対価として月50万円を支払い,ベンツワゴン2台,パソコン2台を貸与すること等を合意した。
イ 平成10年大会を紹介する雑誌(甲51-4,26〜27頁)には,控訴人のインタビュー記事と共に,Dのインタビュー記事も掲載されているが,そこでは,同人は,「国際航空連盟ワールド・グランプリ・アエロバティックス(FWGPA)の日本代表部,マネージングディレクター」との肩書で,「95年の但馬大会にたずさわっていらい,どっぷりとアエロバティックスにはまり,いまの職に。現在,札幌市に居を構え,仕事のために日本中を飛び回る。各選手達との親交も深い」と紹介されている。
ウ Dは,平成11年2月ころ,FWGPA日本代表部のマネージングディレクターとの肩書を示して,広告代理店である弘研のEと面会し,ツインリンクもてぎにおける本件競技会への協賛企業の紹介を依頼し,Eは,協賛企業の候補として,被控訴人を紹介することとした。なお,その際,Dは,Eに対し,FWGPA日本代表部として,控訴人とともに本件競技会に関する業務を行っている旨説明した。
エ そのころ,Dは,Eを介して,被控訴人に対し,本件競技会に対する協賛の話を申し出た。D及びEは,被控訴人に対し,様々な協賛メニューを提示したが,大会自体への協賛という形では協賛金の額が高額となることから,被控訴人は,大会への協賛ではなく,平成10年大会における優勝者であるFの搭乗機へのロゴの貼付を内容とする協賛金額300万円のメニューを選ぶこととした。
なお,平成11年7月ころ,控訴人は,Dから,被控訴人が機体にロゴを表示する形でスポンサーとなる旨の連絡を受けた。
オ 被控訴人は,Fの搭乗機へのロゴの貼付の対価としては,協賛金額300万円は高すぎるとの認識を持っており,協賛金の支払に乗り気ではなかったことから,Dは,同年8月ころ,マスコミ向けイベント飛行の際,Fの搭乗機の両主翼の両面に,「CITIZEN」,「PROMASTER」とのロゴを記載したカッティングシートを貼付しただけでなく,サービスとして,もう1台の機体の胴体部分にも「CITIZEN」とのロゴを記載したカッティングシートを貼付することとした。
マスコミ向けイベント飛行の当日,控訴人は,Eや被控訴人の担当者と初めて顔を合わせたが,契約関係についての詳しい話はせず,Dに任せることとした。
カ Dは,マスコミ向けイベント飛行の後,被控訴人との間で,上記エの協賛の件について覚書を作成することとし,その作業の中で,被控訴人に対し,協賛金支払に向けた更なるサービスとして,機体へのロゴの貼付だけでなく,FWGPA等の表示を使用した時計の製作を認めることについても提案するようになった。
その結果,Dと被控訴人との間において,同年9月ころ,FWGPA日本代表部(FWGPA Japan Delegation)は,Fの搭乗機に,「CITIZEN」及び「PROMASTER」のロゴを記載したカッティングシートを貼付するとともに,被控訴人がFWGPA等の本件競技会関連の表示を使用した時計を製作することを許諾し,これに対し,被控訴人が協賛金300万円を支払うことで最終的に合意し(以下「本件合意」という。),FWGPA日本代表部,被控訴人及び弘研の三者間において,本件覚書(甲3)が作成された。
キ 本件覚書は,被控訴人を甲,弘研を乙,FWGPA日本代表部を丙とする三者間の覚書として作成され,「上記三社を当事者とし,甲のためになされる,丙が主管するアエロバティックスグランプリ開催(平成11年10月15日から17日)における出場パイロット,Fおよび機体(以下を「丁」という。)への協賛および,甲が展開する広告物の企画,制作および映像使用等に関し,以下の各条項により覚書を取り交わした」との前文に始まり,次のような条項を含むものである。なお,本件覚書は,同年9月ころに作成されたものであるが,作成日付として同年8月1日との日付が記載され,また,被控訴人が支払うべき具体的な協賛金額は記載されていない。
第1条(委託業務) 甲は乙に対し,丙主管のアエロバティックスグランプリに出場する丁への協賛,広告の企画,制作および実施等の業務を委託し,乙はこれを受諾した。
第2条(広告の範囲) 前条に定める広告は,甲の商品「CITIZEN PROMASTER(シチズン プロマスター)」空展開商品(以下「本商品」という)のための電波媒体広告物(テレビCMおよびラジオCM,尚テレビCMについては劇場用CM,店頭放映用ビデオソフトCMへの流用を含む),印刷媒体広告物(新聞,雑誌,ポスター,パンフレット,チラシ,ダイレクトメール,テレフォンカード,カレンダー,POP等の一切を含む),交通広告物および無償頒布品等販売促進物(以下これらの広告物を総称して「本件広告物」という),パブリシティ活動並びに催事等の一切をいう。尚,電波媒体には有線放送,衛星放送及び通信ネット等によるものを含む。
第3条(使用期間) 甲が展開する本件広告物に関する丙保管の写真,映像の使用期間は,平成11年8月5日から平成12年8月4日の1年間とする。
第4条(オリジナルモデルの製造 その1) 甲は,限定発売商品のオリジナルモデル「プロマスター『FWGPA』モデル(仮称)」を製造・販売する際には,および当該商品に『FWGPA』の名称を使用することができるものとする。
第5条(オリジナルモデルの製造 その2) 甲は,限定発売商品のオリジナルモデル「プロマスター『*********』アドバイスモデル(仮称)」を製造・販売する際には,および当該商品に丁の氏名を使用することができるものとする。
ク 平成11年9月の厚木基地イベントの際,控訴人は,Eに対し,上記イベント飛行が行われることを告げ,上記オのとおり機体に添付された被控訴人に係るロゴをどうするか尋ねたところ,Eは,そのままにしておくよう答えたことから,厚木基地イベントにおいても,被控訴人に係るロゴが2機の機体に貼付され,1機は展示飛行を,1機は地上展示を行った。
ケ 同年10月の平成11年大会においても,上記オと同様,2機の機体に被控訴人に係るロゴが貼付された。控訴人とEは,平成11年大会の会場において顔を合わせたが,契約内容についての詳細な話はしなかった。
コ Dは,以下のとおり,Eに対し,本件合意に基づく協賛金として,3回に分けて,合計255万円(協賛金額300万円から弘研の仲介手数料15%を控除したもの)を請求し,Eは,これを上記ア記載の控訴人の銀行口座に振込送金する方法により支払った。
なお,これらの入金については,そのころ,Dから控訴人に対し,Eメールにより報告された (ア) Dは,同年8月30日,上記協賛金の第1回支払分として55万円の支払を請求し(乙31-2),Eは,同年10月29日に,後記サの(ア)及び(イ)の請求に対する支払と合わせて合計110万円を,東京三菱銀行札幌支店の「マーケテイング・サービスイズ エフダブルジーピー」名義の口座に振込送金する方法により,支払った(乙31-1,2,乙34)。
(イ) Dは,同年9月30日,上記協賛金の第2回支払分として100万円の支払を請求し(乙32の2),Eは,同年11月30日に,後記サ(ウ)の請求に対する支払と合わせた合計117万円を,東京三菱銀行札幌支店の「マーケテイングサービスイズダイヒヨウ*******」名義の口座に振込送金する方法により,支払った(乙32-1,2,乙35)。
(ウ) Dは,同年10月30日に,上記協賛金の第3回支払分として100万円の支払を請求し(乙33),Eは,同年12月30日に100万円を,上記(イ)記載の口座に振込送金する方法により,支払った(乙36)。
サ Dは,以下のとおり,Eに対し,本件合意に基づく協賛金とは別に,上記クに対する協賛金及びブース代,カッティングシート代や編集ビデオ作成の実費の支払を請求し,Eは,上記コの(ア)及び(イ)のとおり,これを支払った。
(ア) 同年8月30日,厚木基地イベントにおける機体へロゴ添付に係る協賛金として,42万5000円(50万円から弘研の仲介手数料15%を控除したもの)(乙31-2) (イ) 同月31日,カッティングシート代及びビデオ編集代として合計12万5000円(乙31-1)。
(ウ) 同年9月30日,厚木基地イベントにおけるブース代として,17万円(20万円から弘研の仲介手数料15%を控除したもの)(乙32-1)。
シ 被控訴人は,平成11年10月〜平成12年12月ころ,被控訴人製品を掲載したプロマスターシリーズのカタログ(乙2,3,5,9)を頒布したほか,同年8月〜9月及び同年12月〜平成13年1月の「JAL SHOP」(甲4の1,2,甲99の1〜3)及び平成12年12月〜平成13年2月ころ発行の雑誌に被控訴人製品の広告を掲載した(乙4,6,7)。
ス 控訴人は,平成12年ころ,国際線の「JAL SHOP」に掲載された被控訴人製品の広告を見て,Eに対し,被控訴人製品は国内だけでの販売ではないのかという趣旨の抗議をしたが,その後,控訴人の抗議の内容は,被控訴人製品の製作については一切承知していないという趣旨に変化した。
(2) 上記(1)カ及びキのとおり,本件においては,遅くとも平成11年9月ころまでには,Dと被控訴人との間で,被控訴人がFWGPA等の本件競技会関連の表示を使用した時計を製作することを許諾することを内容とする本件合意が最終的に成立したものと認められるところ,控訴人は,確かに,当時,Dを従業員として使用して国内業務の一部を担当させていたが,上記使用許諾を内容とする本件合意を締結する代理権限を与えたことはない旨主張する。
しかしながら,上記認定事実によれば,@控訴人は,平成10年1月ころから,Dを従業員として使用するようになり,同人が「FWGPAの日本代表部マネージングディレクター」との肩書を用いることを承認した上で,本件競技会に関する業務の全般に関与させていたものと認められること,A本件においても,Dは,「FWGPA日本代表部マネージングディレクター」との肩書を示して,弘研及び被控訴人との折衝に当たっていると認められること,B本件合意の内容は上記(1)カのとおりであるところ,実際にも,その内容のとおり,マスコミ向けイベント飛行及び平成11年大会において,Fの搭乗機に,「CITIZEN」及び「PROMASTER」のロゴを記載したカッティングシートが貼付され,他方,本件合意で約定されたとおりの金員が,控訴人の銀行口座に入金されていること,C本件合意の締結過程及びそれによる入金後,Dは,控訴人に相談ないし連絡をしていること,D控訴人は,当初,Eに対し,被控訴人の国外における販売についてのみ抗議する姿勢を見せていたこと等の事情が認められ,これらを総合すれば,控訴人が,本件合意の当時,Dに対し,本件競技会の開催に関する業務全般についての包括的な代理権を付与していたことが優に推認され,本件合意は,そうしたDの代理権に基づく権限の範囲内において,有効に成立したものと認めるのが相当である。
(3) また,控訴人は,本件における金員の支払は,本件競技会及びイベントに参加した機体への協賛金,すなわち,同機体に貼付した被控訴人に係るロゴの代金であって,本件各表示の使用許諾料の趣旨を含まない旨主張し,原審における原告本人尋問及び陳述書において,入金を受けた300万円(弘研への手数料控除前の金額)は,平成11年8月のマスコミ向けイベント飛行,同年9月の厚木基地イベント及び同年10月の平成11年大会という3度のイベントにおいて,それぞれ2機に被控訴人に係るロゴを貼付したことの対価であり,1機当たり50万円×2機×3回で300万円となる旨陳述する。
しかしながら,2機の機体に貼付されたロゴは,その大きさや貼付部位が明らかに異なる(上記(1)オ)と見られるのに,単純に,1機当たり50万円との合意が成立したとみるのは不自然というほかはない上,そもそも,上記(1)サ(ア)のとおり,厚木基地イベントに係る協賛金は,別途,請求され,入金されている(合計金額は手数料控除前の金額で350万円となる。)と認められるから,結局,控訴人の上記主張は採用の限りではないというべきである。
(4) 控訴人は,仮に,本件使用許諾契約の存在が認められるとしても,本件使用許諾契約によって許諾されているのは,「FWGPA」の表示と「*********」の表示のみであるとも主張する。
しかしながら,本件覚書(甲3)においては,被控訴人の限定発売商品について,「プロマスター『FWGPA』モデル(仮称)」,「プロマスター『*********』アドバイスモデル(仮称)」と記載されており,「(仮称)」との記載が示すとおり,そこでいう「FWGPA」や「*********」の表示が例示であることは明らかである。そして,被控訴人製品に使用された「AEROBATICS」との語が,本件競技会に係る曲技飛行を指す一般名詞としての性質を有することからすれば,本件合意において,被控訴人に対し使用を許諾する本件競技会関連の表示として,「AEROBATICS」が除外されていたとは考え難い。加えて,例示とされた「FWGPA」の正式名称が「FAI WORLD GRAND PRIX OF AEROBATICS」であって「AEROBATICS」の語を含むことをも考慮すれば,「AEROBATICS」の表示も本件合意による使用許諾の範囲に含まれるものと解するのが相当である。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(5) さらに,控訴人は,仮に,本件覚書が,控訴人を法的に拘束するものであるとしても,本件覚書をもって,被控訴人製品の製作を確定的に許諾したものであると理解するのは相当でなく,被控訴人製品製作への確定的な許諾には,300万円とは別に対価について合意しなければならず,そうした合意はいまだ成立していなかったとみるのが相当である旨主張する。
しかしながら,上記(1)で認定したところから明らかなとおり,D,被控訴人及び弘研の三者は,事前に折衝を重ねた上で,最終的に成立した本件合意を文書化する趣旨で本件覚書を作成したものであると認められる上,本件合意には,弘研及びFWGPA日本代表部(FWGPA-J)の押印がされていることに照らせば,本件合意中の使用許諾について,確定的な許諾ではないとする控訴人の上記主張はにわかに首肯し難いものというべきである。
これに対し,控訴人は,@平成12年度にD,E及び被控訴人間で交わされたものと推測される文書類(甲87-3〜9)及びA平成13年6月28日にBからEに送られたファックス通信文(甲110)の存在を指摘した上,時計に関する使用許諾がその対価の点も含めて確定的に合意され,対価も支払済みであるとするなら,そうしたやり取りがされることはないはずである旨主張する。確かに,控訴人の指摘に係る上記@の文書類によれば,本件合意は,毎年開催される本件競技会に合わせ,年ごとに改定されることが予定されており,実際,平成12年にもそうした改定作業がされたことがうかがわれるというべきであるが,だからといって,本件合意における使用許諾が未確定のものであったということになるわけではない。また,同じく上記Aのファックス通信文によれば,平成13年当時,Bが,被控訴人ウイングマークを付した被控訴人製品の販売について,上記(1)コの既払分とは別に対価を請求できるとの意見を持っていたことが認められるが,本件合意が締結されたのは,控訴人が我が国における本件競技会に関する業務についての実質的な意思決定を行っていた平成11年9月ころのことであり,その後,Bと控訴人との間で当該業務の主導権について紛争が生じたことが明らかな本件において,Bが,控訴人の下で締結された本件合意には拘束されないとの立場をとることは,その法的な当否は別として,格別,不自然なことではないというべきである。したがって,控訴人の主張は上記判断を左右するものではないというほかはない。
なお,控訴人は,300万円の対価によって時計製作の許諾までがされたとする経緯が不自然かつ不合理であるとも主張する。しかしながら,被控訴人が,Fの搭乗機へのロゴの貼付の対価としては,協賛金額300万円は高すぎるとの認識を持っており,協賛金の支払に乗り気ではなかったことから,Dが,協賛金支払に向けた更なるサービスとして,機体へのロゴの貼付だけでなく,FWGPA等の表示を使用した時計の製作を認めることについても提案するようになり,その結果,本件合意が締結されたことは上記(1)において認定したとおりであり,その経緯に不自然,不合理な点はないというべきであるから,控訴人の主張は採用の限りではない。
ところで,上記@の文書類及び原審における証人Eの証言によれば,本件合意における使用許諾は,毎年実施される本件競技会に合わせ,本件合意が改定され,被控訴人が協賛金を支払い続ける限りにおいて,被控訴人に対し,本件競技会に関連する表示の使用を許諾するという趣旨のものであったのではないかとの疑念も生じないわけではない。しかしながら,そのように解した場合,本件合意が改定されず,被控訴人が協賛金の支払を停止した場合において,既に製造された被控訴人製品の処理等をめぐって困難な問題が生じることは明らかであるのに,本件合意の締結に当たり,当事者間において,そうした場合の処理について折衝が行われた形跡は全く見受けられない。加えて,そもそも,本件覚書(甲3)においては,第3条に広告物に関する写真,映像の使用期間についての定めは置かれているものの,被控訴人の販売する製品(オリジナルモデル)については期間の定めが置かれていないこと等に照らせば,本件合意中の使用許諾には,被控訴人製品の製造販売に関し,期間的な限定は付されていないものと解するのが相当である。
(6) 以上のとおり,控訴人は,Dを代理人として,FWGPA日本代表部の名称で,被控訴人との間で,「AEROBATICS」の表示の使用許諾を含む,本件合意を締結したものと認められるから,被控訴人が被控訴人製品に「AEROBATICS MODEL」の商品名を付して販売した行為は,本件合意に基づく許諾の対象となっていたものというべきである。
したがって,その余の点につき検討するまでもなく,商標権侵害に基づく控訴人の請求も理由がない。
4 争点6(一般不法行為の成否)について (1) 控訴人は,被控訴人は,Dが平成12年6月27日にウイングマーク類似商標につき商標権を取得する際に,弁理士を紹介した上,Dとの間で,ウイングマーク類似商標使用許諾契約を締結したが,ウイングマークは控訴人が作成して使用してきたものであるから,Dの出願は冒認出願であり,故意又は重大な過失により上記のようなDの冒認出願に関与した上,Dとの間で使用許諾契約を締結した被控訴人の行為は,Dとの共同不法行為に該当する旨主張する。
(2) しかしながら,Dの出願に係るウイングマーク類似商標(登録第4479729号商標)について,控訴人が提起した商標登録無効審判請求は,不成立とされ(乙22),さらに,それを不服として控訴人が提起した審決取消訴訟(当庁平成15年(行ケ)第369号事件)は請求棄却の判決が確定したこと,及び上記審判請求及び審決取消訴訟において,控訴人が,Dの出願は冒認出願である旨の主張をしていたことは,いずれも当裁判所に顕著である。そうである以上,被控訴人が,Dの出願に関与し,Dとの間で使用許諾契約を締結したとしても,そうした被控訴人の行為が違法性を欠くことは明らかというべきであるから,その余の点につき検討するまでもなく,一般不法行為に基づく控訴人の請求も理由がない。
5 結論 以上によれば,控訴人の被控訴人に対する請求は,いずれも理由がないから,棄却すべきである。
よって,以上と同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 古城春実
裁判官 早田尚貴