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関連審決 異議2008-900380
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10042審決取消請求事件 判例 商標
平成21行ケ10225審決取消請求事件 判例 商標
平成22行ケ10005審決取消請求事件 判例 商標
平成20行ケ10439審決取消請求事件 判例 商標
平成19行ケ10383商標登録取消決定取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  役務商標 /  役務の提供 /  識別機能 /  指定役務 /  ありふれた氏 /  周知性 /  4条1項11号 /  類似性(類否判断) /  結合商標 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  差止 /  防護標章 /  存続期間 /  更新登録 /  登録異議申立 /  利益額 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10306号 商標登録取消決定取消請求事件
原告和幸株式会社
同訴訟代理人弁護士長沢幸男 岩渕正紀 岩渕正樹
同弁理士正林真之 小椋崇吉 八木澤史彦
被告特許庁長官
同 指定代理 人佐藤達夫安達輝幸
被告補助参加 人協和株式会社
同訴訟代理人弁理士網野友康 初瀬俊哉 石井茂樹 豊崎玲子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/03/29
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が異議2008−900380号事件について平成21年8月17日にした決定を取り消す。
2訴訟費用は,補助参加により生じたものを被告補助参加人の,その余を被告の各負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文1項と同旨第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告が有する本件商標に係る商標登録に対する被告補助参加人の登録異議の申立てについて,特許庁がした別紙異議の決定書(写し)の本件決定(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本件商標(甲183,249)別紙商標等目録記載1のとおり(2)本件決定登録異議申立日:平成20年9月26日(異議2008-900380号。甲211の1)決定日:平成21年8月17日決定の結論:「登録第5146634号商標の商標登録を取り消す。」決定謄本送達日:平成21年9月2日2本件決定の理由の要旨本件決定の理由は,要するに,本件商標は,引用商標(別紙商標等目録記載2の商標。甲184の1・2)と類似し,また,引用商標の指定役務は,本件商標の指定役務に包含されるから,本件商標登録は,商標法4条1項11号の規定に違反してされたものであり,同法43条の3第2項の規定に基づき取り消されるべきである,というものである。
3取消事由本件商標と引用商標との類否判断の誤り第3当事者の主張〔原告の主張〕(1)最高裁判例における確立した判断手法商標の類否判断については,商標の全体を観察した上,可能な限り取引の実情に基づいてこれを行うのを基本とすべきであって,みだりに商標の構成部分の一部を抽出して類否判断を行うことは許されず,当該一部が商品又は役務の出所識別標識として支配的な印象を与えるものである場合や,その余の部分から出所識別標識としての称呼及び観念が生じないような場合に限って,当該一部を抽出して類否判断を行うことが許されるというのが最高裁判例における確立した判断手法である。
しかるに,本件決定は,以下において具体的に主張するとおり,最高裁判例における上記手法を無視し,理由もなく本件商標の「和幸」の文字部分を抽出し,また,取引の実情を考慮することなく,本件商標と引用商標との類否判断を行ったものである。
(2)本件商標の「和幸」の文字部分を抽出して観察することの可否本件商標については,以下のとおり,「和幸」の文字部分を抽出して観察することは許されないというべきである。
ア本件商標の構成等について(ア)本件商標は,「いなば和幸」の文字を同一書体(明朝体),同一大,同一間隔及び同一色により一連に横書きして成るものであり,外観上まとまりよく一体的に構成されているものであるから,本件商標の「和幸」の文字部分のみをことさらに抽出して観察すべき特別の理由を見出すことはできない。
この点に関し,本件決定は,本件商標の「いなば」の文字部分と「和幸」の文字部分とが文字の種類を異にするとして,両者は視覚上分離して看取されると判断したが,日本語は,基本的に漢字仮名交じりで表記されるものであるから,漢字と平仮名とが混在する表記が常に分離して看取されるとは限らず,そのような表記が分離して看取されるか否かは,当該表記の持つ観念,意味,文字のつながり方等によるところ,通常は漢字で表記する語をあえて平仮名で表記した場合,当該平仮名の与える印象又は効果(例えば,柔らかい印象,くっきりとした印象,音読しやすくなるとの効果等)が強くなり,その結果,当該平仮名がそれに前後する文字と結合した印象を強く与えることも少なくなく,本件商標についてみても,「いなば」の文字部分が,通常は漢字で「稲葉」と表記されるもの(なお,「いなば」から地名の「因幡」が想起されることは少ないと考えられるので,以下,氏の場合を例にとって検討する。)を意図的に平仮名で表記したものであることは,本件商標の構成自体から明らかであり,そのことにより,「いなば」の文字部分は,「稲葉」と表記した場合よりも強い印象を与え,それに続く「和幸」の文字部分と強く結合するということができるのであるから,文字の種類が異なることを理由に本件商標の「いなば」の文字部分と「和幸」の文字部分とが分離して看取されるとする本件決定の判断は誤りである。
(イ)また,称呼の点についてみても,本件商標からは,「イナバワコウ」の称呼が生じるところ,当該称呼は,わずか6音から成る短いものであり,一気によどみなく発音し得るものであるし,加えて,後記イのとおり,飲食店一般又は豚カツ料理店において,「和幸」の文字の識別力は,全くないか,あるとしても極めて弱いものであることから,特に,豚カツ料理店については,「和幸」の語のみを名称とする店舗は見当たらず,「とんかつ和幸」,「いなば和幸」等のような名称が用いられていることをも併せ考慮すると,本件商標は,一連一体のものとして称呼されるというべきであって,同商標につき,ことさら「イナバ」の称呼が捨象され,「ワコウ」と称呼されるとする特別の理由を見出すことはできない。
イ「和幸」の文字部分の識別力等について(ア)本件決定は,「和幸」の文字部分が本件商標の要部,すなわち,出所識別標識として支配的な印象を与える部分であると判断した。
しかしながら,「和幸」の語は,広辞苑(甲231)にも掲載されていないように,元来存在する語ではなく,単に,ありふれた漢字である「和」及び「幸」を並べた造語にすぎない。そして,広辞苑(甲232)によると,「和」及び「幸」の各語は,様々な意味を有するものであり,さらに,「和幸」の語は,業種を問わず,会社名等として広く用いられているもの(甲7)であって,それに与えられた観念,意味等にも,様々なもの(例えば,甲10,20,24の1〜4,甲189,233〜236)がある。特に,「和幸」の語を屋号等に持つ飲食店は,全国に多数存在し,最も広く用いられているもの(後記(5)ア参照)といってよい。
したがって,「和幸」の語は,一般に,特定の観念,意味等と結び付くものではなく,特定の印象を与えるものでもないところ,特に,飲食店の名称等について使用する場合には,極めて限定された地域を除き,識別力を有さず,又はそれが極めて弱いものものというべきであるから,本件商標の「和幸」の文字部分が同商標の要部であるとした本件決定の判断は誤りである。
(イ)この点に関し,本件決定は,いわゆるウィキペディア(甲20)の記載を根拠として,本件商標の「和幸」の文字部分から「豚カツ屋の店名(和幸)」の観念が生じると判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。
a本件決定が根拠とする甲20の記載の全体をみると,豚カツ屋,懐石料理店及び音楽ユニットが脈絡なく羅列されているのであるし,豚カツ屋の名称に係る記載をみても,原告,被告補助参加人(以下「補助参加人」という。)及び和幸商事株式会社(以下「和幸商事」という。)の3社(以下「本件3社」という。)が運営する豚カツ屋の名称に「和幸」の文字が含まれているという事実(物事の状態)について言及するものにすぎず,「和幸」の文字に接した者が抱く観念(考え)を示すものではないから,甲20の記載を根拠に,「和幸」の文字部分から「豚カツ屋の店名(和幸)」の観念が生じるということは到底できない。
b一般に,ウィキペディアの記載の正確性ないし客観性には,限界がある(甲240,241)とされており,これを一般の百科事典,学術文献等と同視することはできない。特に,甲20の記載は,音楽ユニットに関する部分,豚カツ屋に関する部分,懐石料理店に関する部分の順に異なるハンドルネームを有する執筆者により書き込まれたものであり,当該執筆者の主観的認識がそのまま反映されているものといわざるを得ないし,また,甲20には,記載の出典(甲240〜242参照)が明記されておらず,さらに,甲20の記事は,その後修正されている(甲245)のであるから,甲20(及び甲245)をもって,「和幸」の文字に接した者が抱く観念を把握するための客観的な資料とするのは適当でない。
(ウ)なお,株式会社和光の商標「WAKO」(甲237の1・2)が防護標章登録を受けていることや,同社の商標「WAKO」(甲238の1・2)及び「和光」(甲239の1・2)につき,「飲食物の提供」を含む役務を指定役務として,引用商標及び後記参考商標2との関係で重複登録がされていることからすると,「ワコウ」の称呼が「豚カツ屋の店名」の観念と結び付くこともない。
ウ氏としての「いなば」の識別力について本件決定は,本件商標の「いなば」の文字部分の識別力につき,これがありふれた氏の「稲葉」の平仮名表記であることを前提にした上,当該部分は,自他役務の識別標識としての機能を果たし得ず,又は自他役務の識別力が極めて弱いと判断した。
しかしながら,漢字を平仮名で表記した場合にその与える印象等が強くなることは,前記ア(ア)のとおりであるから,本件商標の「いなば」の文字部分の識別力を論ずるに当たっても,これを「稲葉」としてではなく「いなば」としてみるべきであって,本件決定の判断は,前提において誤りである。
また,仮に,ありふれた氏であっても,それが商品名等と結合することにより,全体として強い識別力を有するに至ること(例えば,甲4の2・3,甲219等の審決例,甲220〜222等の登録例及び甲223〜227等の使用例参照)は,しばしばみられるところであるから,これを本件商標についてみると,仮に,「いなば」がありふれた氏として識別力がなく,又はそれが弱いものであったとしても,「いなば」の文字部分が「和幸」の文字部分と結合することによって,全体として強い識別力を有するに至るものである。
さらに,前記イ(ア)のとおり,「和幸」の語は,様々な意味を与えられ,会社名等において広く用いられているのであるから,取引者及び需要者が本件商標に接した場合,「いなば」の文字部分に着目して役務の出所を識別するとみるのが自然である。
したがって,本件商標の「いなば」の文字部分に識別力がないなどとした本件決定の判断は誤りである。
(3)引用商標の「和幸」の文字部分を抽出して観察することの可否なお,引用商標についても,以下のとおり,「和幸」の文字部分を抽出して観察することは許されないというべきである。
ア引用商標の構成等について(ア)引用商標は,平仮名の部分が漢字の部分よりもやや小さいものの,「とんかつ和幸」の文字を同一書体(筆書き風)及び同一色により一連に横書きして成るものであり,外観上まとまりよく一体的に構成されているものであるから,引用商標の「和幸」の文字部分のみをことさらに抽出して観察すべき特別の理由を見出すことはできない。
(イ)また,称呼の点についてみても,引用商標からは,「トンカツワコウ」の称呼が生じるところ,当該称呼は,わずか7音から成る短いものであり,一気によどみなく発音し得るものであるし,加えて,前記(2)ア(イ)において主張したところも併せ考慮すると,引用商標は,一連一体のものとして称呼されるというべきであって,同商標につき,ことさら「トンカツ」の称呼が捨象され,「ワコウ」と称呼されるとする特別の理由を見出すことはできない。
イ「和幸」の文字部分の識別力について前記(2)イにおいて主張したところは,引用商標についても当てはまるものである。
ウ料理名としての「とんかつ」の識別力について本件決定は,引用商標の「とんかつ」の文字部分につき,これが役務の提供の用に供する料理の名称を表示するものにすぎないとして,同商標の「和幸」の文字部分が独立して取引に資される場合があると判断した。
しかしながら,一般的には,料理名の表記に識別力がないとしても,本来の表記である「豚カツ」を平仮名で表記することによりその与える印象等が強くなることは,前記(2)ア(ア)のとおりである。
また,料理名であっても,それが氏,地名等と結合することにより,全体として強い識別力を有するに至ること(例えば,甲229の1・2及び甲230の1・2の各商標登録が併存していること)は,しばしばみられるところである。
これを引用商標についてみると,「とんかつ」の文字部分のみでは,その識別力が弱いとしても,それが「和幸」の文字部分と結合することにより,全体として強い識別力を有するものである。
(4)本件商標と引用商標との比較以上からすると,結合商標であると解される本件商標について,その構成部分の一部である「和幸」の文字部分を抽出し,当該部分だけを引用商標と比較して両商標の類否判断を行うことが許容される特段の事情はないというべきであるし,また,引用商標についても同じことが当てはまるところ,本件商標の全体と引用商標の全体とを比較すると,以下のとおり,両商標は,顕著な差異を有する。
外観について「いなば和幸」の文字を書して成る本件商標及び「とんかつ和幸」の文字を書して成る引用商標は,それらの前半部分(「いなば」及び「とんかつ」)において,外観上顕著な差異を有するものである。
称呼について本件商標の称呼「イナバワコウ」及び引用商標の称呼「トンカツワコウ」は,その構成音数を異にするほか,称呼上最も重要な前半部分において顕著な差異を有するものである。
観念について前記(2)イ(ア)のとおり,「和幸」の語は,様々な意味を与えられ,会社名等において広く用いられているのであるから,取引者及び需要者が本件商標及び引用商標に接した場合,本件商標からは,「稲葉さんのところの和幸」,「因幡の地の和幸」のような観念が,引用商標からは,「豚カツ屋の和幸」の観念がそれぞれ生じるということができる。したがって,両商標は,観念においても顕著な差異を有する。
(5)取引の実情ア飲食店等の名称における「和幸」の文字の使用について本件3社の店舗を除いても,飲食店の名称の全部又は一部に「和幸」の文字を使用する例は,すし,ラーメン等,料理の分野を問わず,全国に極めて多数存在する(甲7,22〜87(枝番を含む。))のであり,さらに,飲食店以外に「和幸」の文字を名称の全部又は一部として使用する店舗等の数は,全国で496(甲7)もの多数に上る。
イ本件3社の関係等について(ア)和幸商事は,昭和33年,川崎駅ビル内に1号店(甲189)を開店して「とんかつ和幸」の店名の使用を開始し,現在では,同店名の豚カツ料理店合計196店(甲7)を出店するに至っている。
補助参加人は,昭和35年,既に数寄屋橋ショッピングセンター内で営んでいたレストランの名称を「とんかつ和幸」に変更(甲188)して同店名の使用を開始し,現在では,同店名の豚カツ料理店合計9店(甲188,191〜200(枝番を含む。))を出店している。
原告は,昭和51年,小田急百貨店町田店内に1号店(甲189)を開店して「とんかつ和幸」の店名の使用を開始し,現在は,「いなば和幸」の店名の豚カツ料理店及び惣菜店合計76店(甲91〜166(枝番を含む。))を出店するに至っている。
なお,参考商標1(別紙商標等目録記載3の商標。甲5)については原告が,引用商標については補助参加人が,参考商標2(別紙商標等目録記載4の商標。甲6)については和幸商事,株式会社東邦事業(以下「東邦事業」という。)及び和幸フーズ株式会社(以下「和幸フーズ」という。)が,いずれも平成4年8月ないし9月,特例商標登録出願をし,重複登録を受けていた。
(イ)本件3社は,元々,人的にも経営的にも緊密な関係を有しており,協調関係にあった(甲8〜10)ところ,店舗数が増えるにつれて競争関係が顕在化し,原告と和幸商事との間には,法的紛争(甲12,14)も生じたことなどから,原告は,参考商標1についての存続期間更新登録出願を行わず,同商標に係る商標権を消滅させ,これに代えて,本件商標に係る商標登録出願をした。
(ウ)その間,原告は,豚カツを主体としながらも,独自のこだわりを持った専門店としての食材感,販売スタイル,店作り等において,他社との差別化を打ち出してきたところ,このことが広い支持を受け,「いなば和幸」の名称の下,原告は,多大の社会的評価(甲19,171,172,174〜176(枝番を含む。))を受けるに至った。
(エ)現在,取引者及び需要者において,豚カツ料理店として3つの「和幸」(本件3社)が存在することはよく知られているところ,取引者が本件3社を明確に区別して取引をしていることはいうまでもないし,相当に限定された地域を商圏とする日常的な食事(とんかつ料理)に係る店舗に直接出向いて役務の提供を受ける需要者においても,店名の表示及び店の作り(甲91〜166(枝番を含む。),甲192の2,甲193,甲194〜200の各2),料理及び接客サービスの特徴等により,本件3社を取り違えるということは考え難い。
(6)本件商標と引用商標との類否前記(4)の本件商標と引用商標との比較に加え,前記(5)の取引の実情を併せ考慮すると,両商標が類似しないことは明らかである。
〔被告の主張〕(1)最高裁判例における確立した判断手法原告主張に係る最高裁判例における類否判断の手法は争わないが,加えて,その各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標については,その一部のみによって簡略に称呼,観念され,当該称呼,観念が他人の商標のそれと類似するときは,両商標はなお類似するというのも,最高裁判例における確立した類否判断の手法である。
(2)本件商標の「和幸」の文字部分を抽出して観察することの可否本件商標については,以下のとおり,「和幸」の文字部分を抽出して観察することが許されるというべきである。
ア本件商標の構成等について(ア)本件商標は,「いなば和幸」の文字を横書きして成るものであるところ,外観上,「いなば」の文字部分が平仮名で表されているのに対し,「和幸」の文字部分が漢字で表されていることからすると,文字の種類の相違により,視覚上,両者が分離して認識・把握されるものとみるのが自然であるから,本件商標は,「いなば」と「和幸」とが結合された2つの語から成るものと容易に認識されるというべきである。
この点に関し,原告は,通常は漢字で表記する語をあえて平仮名で表記した場合,当該平仮名がそれに前後する文字と結合した印象を強く与えることも少なくないと主張するが,原告の主張には確たる根拠がない。
(イ)また,後記イ及びウのとおりの「和幸」の文字部分及び「いなば」の文字部分の各識別力に加え,「いなば和幸」との1つの語が存在するわけではないことも併せ考慮すると,本件商標は,観念上も,「いなば」の文字部分と「和幸」の文字部分とに分離して認識されるということができる。
(ウ)さらに,称呼の点についてみても,後記イ及びウのとおり,「いなば」も「和幸」もよく知られた語であり,また,上記(ア)及び(イ)のとおり,それぞれの語が外観上も観念上も分離して認識されるものである以上,本件商標は,「いなば」の文字部分と「和幸」の文字部分とに分離して発音されるもの(なお,後記イのとおり,「和幸」の文字部分が本件商標の要部であると認識されることからすると,本件商標からは,「ワコウ」の称呼が生じる。)であり,常に一連のものとして称呼されるということはできない。
(エ)以上からすると,本件商標は,外観,観念及び称呼のいずれの点においても,これを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえない。
イ「和幸」の文字部分の識別力等について後記(5)イのとおりの本件3社に係る「和幸」の周知性に照らすと,本件商標の「和幸」の文字部分は,その指定役務に係る取引者及び需要者において,広く知られている「豚カツ屋の店名」であると理解・認識するものということができるから,当該文字部分からは,「豚カツ屋の店名である和幸」の観念が生じ,したがって,当該文字部分は,商標の要部として識別力を有するものである。
ウ氏としての「いなば」の識別力について本件商標の「いなば」の文字部分は,通常,漢字の「稲葉」に通じるもの(乙1の1〜15,乙3〜5,7)であるところ,「稲葉」の文字は,氏として多数使用されているもの(甲185の1,乙2〜4,6,7)であるから,「いなば」の文字部分に接した取引者及び需要者は,これをありふれた氏としての「稲葉」を指称するものと理解し,又は容易に直観するものということができる。
そうすると,「いなば」の文字部分に接した取引者及び需要者は,当該文字部分によっても提供される役務が何人の業務に係るものであるかを認識することができないから,当該文字部分の識別力は,本件商標の指定役務との関係では,全くないか,あるとしても極めて弱いものというべきである。
この点に関し,原告は,審決例等を挙げて,ありふれた氏であっても,それが商品名等と結合することにより,全体として強い識別力を有するに至ることはしばしばみられると主張するが,原告が挙げる審決例等における商標等は,それぞれの個別具体的な事情を有するものであるから,これらの審決例等をもって,原告の主張を根拠付けることはできない。
(3)引用商標の「和幸」の文字部分を抽出して観察することの可否引用商標についても,以下のとおり,「和幸」の文字部分を抽出して観察することが許されるというべきである。
ア引用商標の構成等について(ア)引用商標は,「とんかつ和幸」の文字を横書きして成るものであるところ,外観上,「とんかつ」の文字部分が平仮名で表されているのに対し,「和幸」の文字部分は漢字で表され,しかも,後者が前者よりも大きく表されていることからすると,文字の種類及び大きさの相違により,視覚上,両者が分離して認識・把握されるものとみるのが自然であるから,引用商標は,「とんかつ」と「和幸」とが結合された2つの語から成るものと容易に認識されるというべきである。
(イ)また,前記(2)イ及び後記ウのとおりの「和幸」の文字部分及び「とんかつ」の文字部分の各識別力に加え,「とんかつ和幸」との1つの語が存在するわけではないことも併せ考慮すると,引用商標は,観念上も,「とんかつ」の文字部分と「和幸」の文字部分とに分離して認識されるということができる。
(ウ)さらに,称呼の点についてみても,前記(2)イ及び後記ウのとおり,「とんかつ」も「和幸」もよく知られた語であり,また,上記(ア)及び(イ)のとおり,それぞれの語が外観上も観念上も分離して認識されるものである以上,引用商標は,「とんかつ」の文字部分と「和幸」の文字部分とに分離して発音されるもの(なお,前記(2)イのとおり,「和幸」の文字部分が引用商標の要部であると認識されることからすると,引用商標からは,「ワコウ」の称呼が生じる。)であり,常に一連のものとして称呼されるということはできない。
(エ)以上からすると,引用商標は,外観,観念及び称呼のいずれの点においても,これを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえない。
イ「和幸」の文字部分の識別力について前記(2)イにおいて主張したところは,引用商標についても当てはまるものである。
ウ料理名としての「とんかつ」の識別力について引用商標の「とんかつ」の文字部分は,「豚カツ」を平仮名で表記したものであるところ,「とんかつ」の文字は,提供する料理の名称を表すものとして,また,豚カツ料理を提供する店舗の名称として広く使用されているもの(乙8〜13)であるから,「とんかつ」の文字部分に接した取引者及び需要者は,当該文字部分によっても提供される役務が何人の業務に係るものであるかを認識することができず,したがって,当該文字部分の識別力は,引用商標の指定役務との関係では,全くないか,あるとしても極めて弱いものというべきである。
この点に関し,原告は,登録例を挙げて,料理名であっても,それが氏,地名等と結合することにより,全体として強い識別力を有するに至ることはしばしばみられると主張するが,原告が挙げる登録例における商標は,それぞれの個別具体的な事情を有するものであるから,これらの登録例をもって,原告の主張を根拠付けることはできない。
(4)本件商標と引用商標との比較前記(2)イのとおり,本件商標及び引用商標においては,「和幸」の文字部分が自他役務の識別標識としての機能を果たすものであり,当該文字部分から生じる称呼及び観念をもって取引に資される場合も決して少なくないというべきであるから,この観点から本件商標と引用商標とを比較すると,以下のとおりである。
外観について本件商標及び引用商標の各「和幸」の文字部分は,これらの商標の要部であるところ,これらの各文字部分は,いずれも漢字で表されているのであるから,両商標は,その要部において,外観上近似した印象,連想等を与えるおそれがある。
称呼について本件商標からは,「イナバワコウ」の称呼のほか,「和幸」の文字部分に照応した「ワコウ」の称呼が生じるところ,引用商標からも,「トンカツワコウ」の称呼のほか,「和幸」の文字部分に照応した「ワコウ」の称呼(さらには,「和幸」の文字部分を強調した「トンカツノワコウ」の称呼)が生じる。
観念について本件商標からは,「和幸」の文字部分に照応した「豚カツ屋の店名である和幸」の観念が生じるところ,引用商標からも,同一の観念が生じる。
(5)取引の実情指定役務「とんかつ料理の提供」に係る需要者について本件商標及び引用商標に共通する指定役務である「とんかつ料理の提供」(以下「本件役務」という。)に係る需要者は,当該役務の性質上,年齢,性別,職種等を問わないあらゆる分野の広範な一般消費者である。そして,そのような需要者が本件商標又は引用商標に接して本件役務の提供を受けるに当たり,高度の注意を払うことを期待することはできないというべきである。
なお,原告は,両商標に係る需要者は相当に限定された地域を商圏とする店舗に出向いて役務の提供を受ける者であると主張するが,近時における交通機関及び通信手段の発達や,飲食店であってもマスメディアを通じて広く宣伝・紹介されること(乙39〜41)などを考慮すると,両商標に係る需要者を原告が主張するような範囲の者に限定すべき理由はない。
イ本件3社に係る「和幸」の周知性について〔原告の主張〕(5)イのとおり,本件3社は,豚カツ料理の業界において大きなシェアを占め(なお,乙16及び17参照),「とんかつ和幸」の屋号又は商標を長年にわたって使用してきたことから,遅くとも本件商標の登録査定時(平成20年6月3日)までには,「和幸」といえば「豚カツ屋の店名」を指すということが広く認識されるようになったものであり,このことは,ウィキペディア(甲20),新聞記事(乙18〜31)及び雑誌(乙32〜34)の記載からもうかがうことができる。
ウ本件3社が提供する役務に係る出所の混同について〔原告の主張〕(5)イのとおり,本件3社は,店舗数が増えるにつれて競争関係が顕在化したものであるところ,これにより,取引者及び需要者は,本件3社が提供する役務の出所を混同するようになり,新聞記事等(甲189,207〜209,乙18〜38。なお,乙18〜34においては,記載された「和幸」が本件3社のいずれを指すのかさえ明らかではない。)によると,現在も,そのような混同が生じているということができる。
(6)本件商標と引用商標との類否前記(4)の本件商標と引用商標との比較に加え,前記(5)の取引の実情を併せ考慮すると,両商標が類似することは明らかである。
〔補助参加人の主張〕(1)原告の店舗を利用した多くの需要者からの苦情等が,多数,和幸商事(丙1)や補助参加人(丙2)に寄せられていることからも明らかなように,「和幸」の名称を付した豚カツ料理店において本件役務の提供を受けるほとんどの需要者は,本件役務が本件3社,東邦事業又は和幸フーズのいずれが提供するものであるかを全く区別し得ていないのであるから,これらの各社が提供する本件役務について出所の混同が生じていることは明らかである。なお,本件役務の取引者及び需要者が原告を「いなば和幸」と称しているとの事実はない(丙2)。
(2)なお,「和幸」の文字を含む商標ないし表示を使用することについては,小田急百貨店町田店内にある原告の1号店における使用を除くほか,補助参加人,和幸商事,東邦事業及び和幸フーズにおいて,原告がそのような商標ないし表示を使用することを承認したとの事実はない(甲12,14,17,207〜209,丙2〜4)。
第4当裁判所の判断1取消事由(本件商標と引用商標との類否判断の誤り)について本件商標は,平仮名で記載された「いなば」と漢字で記載された「和幸」とから構成されている,いわゆる結合商標であるところ,本件決定が,本件商標からその構成部分の一部である「和幸」の文字部分を抽出し,当該抽出部分だけを引用商標と比較して,両商標の類否を判断したものであることは,別紙異議の決定書(写し)の理由から明らかである。
しかしながら,商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁参照)から,以下,その見地から本件決定がした本件商標と引用商標との類否判断が許されるものであるか否かについて検討する。
(1)本件商標,引用商標等に係る取引の実情ア証拠(甲5〜10,13,15,16,18,88〜167,172,184,甲188〜206,210,乙16〜36。なお,以上の証拠には枝番のある証拠を含む。)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
(ア)和幸商事は,Aの創業に係る会社であり,昭和33年,川崎駅ビル内に「とんかつ和幸川崎本店」を開店して「とんかつ和幸」の店舗名を使用するようになった。また,和幸商事は,昭和39年及び昭和42年に,グループ会社として,それぞれ東邦事業及び和幸フーズ(以下,「本件3社」というときの和幸商事には,東邦事業及び和幸フーズを含めていう。)を設立した。和幸商事,東邦事業及び和幸フーズは,平成21年現在,全国において,「とんかつ和幸」の名称を使用して196店の豚カツ料理店を経営するに至っている。
(イ)補助参加人は,和幸商事の共同経営者であったBが設立した会社であり,昭和35年,既に数寄屋橋ショッピングセンター内において経営していたレストランの名称を変更して「とんかつ和幸」の店舗名を使用するようになり,平成21年現在,東京都内及び千葉県内において,同名称を使用して9店の豚カツ料理店を経営している。
(ウ)原告は,昭和51年,補助参加人の役員であったC(Bの義弟)が補助参加人から独立する形で設立した会社であり,同年,和幸商事の了解も得た上,小田急百貨店町田店内に「とんかつ和幸町田小田急店」を開店して「とんかつ和幸」の名称を使用するようになり,平成21年現在,全国において,同名称等を使用して62店の豚カツ料理店等を経営するに至っている。
(エ)役務商標制度の導入に係る商標法の一部を改正する法律(平成3年法律第65号)の施行後である平成4年8月又は9月,和幸商事,東邦事業及び和幸フーズは参考商標2につき,補助参加人は引用商標につき,原告は参考商標1につきそれぞれ特例商標登録出願をし,いずれも商標登録(重複登録)を受け,本件3社は,商標登録後も,これらの商標を本件役務等について使用してきた。ただし,原告は,参考商標1に係る商標権の存続期間の満了(平成18年11月29日)に当たり,存続期間更新登録出願をせず,同日の満了をもって,同商標に係る原告の商標権は,消滅した。
(オ)株式会社流通企画平成21年2月27日発行の「外食産業マーケット年鑑2009年版」(乙16)には,平成19年度の「とんかつ店」の売上高の順位として,東邦事業が2位,原告が3位,和幸商事が6位,和幸フーズが8位とされ,上位8社の売上高合計(約610億円)のうち,本件3社の売上高が占める割合は,約48%に上っている。
(カ)本件3社が「とんかつ和幸」の名称又は「和幸」の文字を含む名称で経営する豚カツ料理店は,昭和57年に週刊現代及び「飲食店経営」なる業界誌において紹介されたほか,平成4年ころから平成19年ころまでの間,業界新聞や業界誌のみならず,一般の新聞・スポーツ新聞や一般消費者向けの雑誌においても多数回にわたって紹介されるなどしてきた。なお,雑誌「TOKYO1週間」平成14年1月22日号(乙32)には,「その評判は口コミでどんどん広まり,あっという間に全国展開の人気店になった。」との,雑誌「おとなの週末」平成19年11月号(乙34)には,「日本でいちばんメジャーなとんかつチェーンといっても過言ではないのが『和幸』。」との各記載がある。
イ他方,上記「とんかつ和幸」の名称又は「和幸」の文字を含む名称の豚カツ料理店に関し,これらが本件3社ないし複数の別会社により経営されるものであるとの事実については,次のとおりの記事が存在する。
(ア)平成4年ころまでにアップロードされたものと認められる和幸商事のウェブサイト上の記事(甲189)には,本件3社の沿革,現状等が記載されている。
(イ)平成4年12月3日付け毎日新聞の記事(甲207)には,「和幸商事」(川崎市,A会長)が「和幸」(東京都町田市)を相手方として屋号の使用禁止等を求める訴えを提起すること,「和幸商事」は昭和33年に,「和幸」は昭和51年にそれぞれ「とんかつ和幸」を出店したことなどが記載されている。
(ウ)平成6年10月13日付け日経流通新聞の記事(甲208)には,和幸商事(川崎市,D社長)が和幸(東京・豊島,C社長)を相手方として提起していた屋号の使用差止め等を求める訴訟において和解が成立したこと,和幸商事は昭和33年に創業し,現在「とんかつ和幸」の屋号で約140店を展開し,和幸は昭和51年から同じ屋号で店舗の展開を始め,現在の豚カツ店の数は50近くに達していることなどが記載されている。
(エ)平成7年7月25日付け日経流通新聞の記事(甲209)には,和幸商事(川崎市,D社長)が和幸(東京・豊島,C社長)を相手方として「営業表示の使用権保全」を求める仮処分命令の申立てをしたこと,両社の外,協和(東京・目黒,B社長)も「とんかつ和幸」を展開していることなどがそれぞれ記載されている。
(オ)ウィキペディアのそれぞれ最終更新日を平成20年11月22日とする記事(甲20)及び平成22年1月2日とする記事(甲245)には,豚カツ屋の和幸には別会社である本件3社があることなどが記載されている。
ウしかしながら,前記ア(カ)の紹介記事のほとんど(甲202,203,205,206,乙18〜31,33,34)において,本件3社を区別し,又は明示することなく「とんかつ和幸」ないし「和幸」の紹介がなされ,特に,平成12年4月20日付け日経流通新聞上の「第26回日本の飲食業調査-経常利益額ランキング。」と題する記事(乙30)の「社名」欄においてさえ,1箇所(43位の欄)にのみ単に「和幸」と記載されていることにかんがみると,上記イの記事によっても,「とんかつ和幸」の名称又は「和幸」の文字を含む名称の豚カツ料理店が本件3社ないし複数の別会社により経営されるものであるとの事実が,本件役務に係る取引者及び需要者に広く知られているとまで認めることはできず,その他,そのように認めるに足りる証拠はない。
(2)本件商標から「和幸」の文字部分を抽出して観察することの当否ア本件商標は,「いなば和幸」の文字を横書きして成るものであり,各文字の大きさ及び書体は同一であって,その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるから,「和幸」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない。
イまた,本件商標の「和幸」の文字部分の出所識別機能についてみると,前記(1)アのとおり,本件3社は,長きにわたって「とんかつ和幸」の名称又は「和幸」の文字を含む名称で豚カツ料理店を経営し,本件役務について引用商標,参考商標1及び2等を使用してきたものであり,また,その経営規模をみても,本件3社は,全国に店舗網を広げ,豚カツ料理業界の中で大きな市場シェアを占めるに至り,さらに,本件3社が経営する「とんかつ和幸」の名称又は「和幸」の文字を含む名称の豚カツ料理店は,各種新聞,雑誌等において広く紹介され,我が国有数の豚カツ料理チェーン店として認知されているということができるのであるから,本件商標が本件役務について使用された場合,取引者及び需要者は,本件商標の「和幸」の文字部分が「とんかつ和幸」の名称又は「和幸」の文字を含む名称の豚カツ料理店を指すと容易に理解するものと認められるが,他方で,前記(1)ウのとおり,「とんかつ和幸」の名称又は「和幸」の文字を含む名称の豚カツ料理店が本件3社ないし複数の別会社により経営されるものであるとの事実が本件役務に係る取引者及び需要者に広く知られているとまで認めることはできないのであるから,引用商標との関係でみると,本件商標の「和幸」の文字部分が,本件役務に係る取引者及び需要者に対し,引用商標の商標権者である補助参加人が当該役務の出所である旨を示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものということはできず,その他,そのようにいうことができるに足りる証拠はない。
ウさらに,本件商標の「いなば」の文字部分についてみると,一般的には,当該文字部分からは,氏の1つである「稲葉」が想起されるが,「いなば」には,これが氏を平仮名書きしたものであるとしても,「稲場」,「因幡」などの氏が,また,氏以外に,地名を平仮名書きしたであるとしても,「稲場」,「因幡」などの地名が含まれるから,氏としての「稲葉」以外を想起し得ないものではないところ,前記(1)アの事実に加え,当該文字部分が,氏,地名として想起される「いなば」は1つに限定されないが,そのなかから,本件では,原告を設立したCの氏である「C」から取られたものと認められることをも併せ考慮すると,本件商標が本件役務について使用された場合に,当該文字部分に自他役務を識別する機能が全くなく,当該文字部分から出所識別標識としての称呼及び観念が全く生じないとまでいうのは相当でないというべきである。
エその他,本件商標について,その構成中の「和幸」の文字部分だけを抽出して観察することを正当化するような事情を見いだすことはできないから,本件商標と引用商標との類否を判断するに当たっては,本件商標の構成部分全体をみるべきであって,同商標の構成中の「和幸」の文字部分だけを引用商標と比較して類否判断を行うことは許されないというべきである。
(3)本件商標と引用商標との類否前記(2)において説示したところによると,本件商標と引用商標との類否判断に当たっては,本件商標の構成部分全体を引用商標と比較すべきであるところ,本件商標と引用商標とは,外観上,「和幸」の文字において共通性を見いだし得るにすぎないし,また,引用商標の「とんかつ」の文字部分が同商標の指定役務(本件役務)の対象そのものを表す語から成るものであることから,同商標からは「和幸」の文字部分に対応した「ワコウ」の称呼及び「豚カツ料理店の名称としての和幸」の観念が生じるとしても,本件商標からは,「イナバワコウ」の称呼及び「いなば(稲葉)に係る豚カツ料理店の名称としての和幸」の観念しか生じないのであるから,結局,両商標は,外観,称呼及び観念のいずれの点においても異なるものであるといわざるを得ず,これらが類似するということはできない。
(4)小括したがって,原告主張の取消事由は理由がある。
2結論以上の次第であるから,本件決定は取り消されるべきものである。
追加
(別紙)商標等目録1商標登録番号:第5146634号商標の構成:指定役務:商標法施行令別表第43類「飲食物の提供」商標登録出願日:平成19年9月19日(商願2007-98786号)登録査定日:平成20年6月3日設定登録日:平成20年6月27日商標掲載公報発行日:平成20年7月29日2商標登録番号:第3234249号商標権者:被告補助参加人商標の構成:指定役務:平成12年政令第333号による改正前の商標法施行令別表第42類「とんかつ料理の提供」商標登録出願日:平成4年9月14日(商願平4-181230号)設定登録日:平成8年12月25日存続期間更新登録日:平成19年4月13日3商標登録番号:第3225630号商標権者:原告商標の構成:指定役務:平成12年政令第333号による改正前の商標法施行令別表第42類「とんかつ料理を主とする飲食物の提供」商標登録出願日:平成4年9月30日(商願平4-248461号)設定登録日:平成8年11月29日存続期間満了日:平成18年11月29日4商標登録番号:第3237537号商標権者:和幸商事,株式会社東邦事業及び和幸フーズ株式会社商標の構成:指定役務:平成12年政令第333号による改正前の商標法施行令別表第42類「とんかつ料理を主とする飲食物の提供」商標登録出願日:平成4年8月25日(商願平4-161771号)設定登録日:平成8年12月25日存続期間更新登録日:平成19年1月26日
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲
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