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事件 平成 21年 (行ケ) 10414号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/05/12
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文

1
平成22年5月12日判決言渡同日原本受領裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10414号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年4月28日
判 決
原 告 株 式会社ミック
同訴訟代理人弁理士 中 尾 真 一
被 告 株式会社ケフィア倶楽部
同訴訟代理人弁理士 加 藤 雄 二
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2009?890043号事件について平成21年11月11日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1の被告の本件商標に係る商標登録について,原告の下記
2の本件審判請求が成り立たないとした特許庁の別紙審決書(写し)の本件審決
(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主
張して,その取消しを求める事案である。
1本件商標
本件商標(登録第5065548号商標)は,「ケフィア倶楽部の」の文字及び
「ピュアメープルシロップヌーボー」の片仮名文字を2段に横書きして成り,平成
18年8月8日に指定商品を第32類「カエデの木から採取した樹液を原料とする
シロップ」として登録出願され,平成19年4月11日に指定商品を第30類「メ
ープルシロップ」とする補正(以下「本件補正」という。)がされた上,同年7月


2
27日に設定登録されたものである(甲1,2,9,乙2,7,8)。
2特許庁における手続の経緯
原告は,平成21年5月1日,本件商標の登録を無効にすることを求めて本件審
判請求をしたところ,特許庁は,当該請求を無効2009?890043号事件と
して審理をした上,平成21年11月11日,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との本件審決をし,その審決書謄本は,同月25日,原告に送達された(弁
論の全趣旨)。
3本件審決の理由の要旨
原告は,本件補正が商標法9条の4所定の「要旨の変更」に当たることを前提に,
本件商標と,その登録出願(平成18年8月8日)がされた後,本件補正(平成1
9年4月11日)がされる前までに出願された下記
 及び  の各商標とが同一又は
類似すること(商標法8条1項)を理由として当該登録を無効にすることを求めた。
本件審決の理由は,要するに,本件出願に係る「カエデの木から採取した樹液を
原料とするシロップ」との表現は,飲料としては一般的ではなく,当該表現から一
般的,具体的に想起される商品表示であって,かつ,その商品範囲も実質的に同一
である第30類「メープルシロップ」に補正するよう指示をした特許庁審査官によ
る拒絶理由通知書(甲8,乙1)記載の指摘は,適切なものであって,それに従っ
てされた本件補正は,要旨の変更には当たらないから,本件審判における請求人の
無効の理由は前提を欠き,本件商標の登録を無効とすることはできない,というも
のである。
 登録第5148919号商標:「ヌーボー」の文字を横書きして成り,平成
19年3月6日に登録出願,第30類「角砂糖,果糖,砂糖,麦芽糖,はちみつ,
ぶどう糖,粉末あめ,メープルシロップ」を指定商品として,平成20年7月4日
に設定登録されたもの(甲3)。
 登録第5148920号商標:「メープルシロップヌーボー」の文字を横書
きして成り,平成19年3月6日に出願登録,第30類「メープルシロップ」を指


3
定商品として,平成20年7月4日に設定登録されたもの(甲4)。
4取消事由
本件補正が要旨の変更には当たらず,本件商標の登録が商標法8条1項に違反し
ないとした判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
 本件商標の指定商品の取引分野における需要者及び取引者の最も普通の理解
に照らすと,「シロップ」は,何らかの糖の溶液であり,飲用することもできるも
のである(甲6,18,19)。また,第32類の清涼飲料との分類群には,かね
てより「シロップ」という商品概念が含まれている。
そうすると,「カエデの木から採取した樹液を原料とするシロップ」との表現で
第32類を指定して登録出願した場合,同シロップが第32類に属する商品概念で
ある清涼飲料に含まれる商品として登録出願されたものであると自然かつ一般的に
理解できる。
 他方,本件商標の本件補正後の指定商品である「メープルシロップ」は,調
味料として第30類に区分され,第32類の「シロップ」とは非類似商品として取
り扱われてきた(甲16,17)。
 したがって,「カエデの木から採取した樹液を原料とするシロップ」との表
現で第32類を指定して登録出願された本件商標について,「メープルシロップ」
との表現で第30類を指定することとした本件補正は,要旨の変更に当たり,本件
商標の出願日は,本件出願日ではなく,本件補正日である平成19年4月11日と
なる。
〔被告の主張〕
 本件商標の指定商品の取引分野における需要者及び取引者の通常の概念に照
らすと,本件出願に係る「カエデの木から採取した樹液を原料とするシロップ」は,
樹液(メープルサップ)を濃縮した「メープルシロップ」を含むものであって,特に,


4
「シロップ」とは,樹液の濃縮液を指すことは明らかであるから,指定商品の表示
は,本件出願の当初から明確である。
 被告は,本件出願当時,「メープルシロップ」を表す最も正確な表現として,
「カエデの木から採取した樹液を原料とするシロップ」との表現を使用し,かつ,
「メープルシロップ」が第32類に属するものと考え,指定商品の区分の表示を第
32類とした。
しかし,第30類には「メープルシロップ」が指定商品として既に存在しており,
本件出願に際して,指定商品の表示は明確であるが,その区分が政令に従っていな
かったので,被告は,特許庁審査官による拒絶理由通知書記載のその旨の指摘に従
い,本件補正において,商品指定の表現を明確にし,その区分に関する表示を正確
なものに補正したものである。
 したがって,本件補正は,要旨の変更には当たらないから,本件審決の判断
に原告主張の誤りはない。
第4当裁判所の判断
1原告は,本件商標の登録が各引用商標との関係で商標法8条1項に違反して
無効であるとの主張の前提として,本件補正が商標法9条の4所定の要旨の変更に
当たると主張するが,出願された商標について行われた補正が要旨の変更に当たる
か否かは,当該補正が出願された商標につき商標としての同一性を実質的に損ない,
第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがあるものと認められるか否かにより判断す
べきものである。
2しかるところ,「丸善食品総合辞典」(平成10年3月25日発行。甲1
8)には,「シラップ」の語義として,「シロップと同じ。一般に砂糖濃度10?
60%の糖液をいう。」と記載され,「広辞苑(第5版)」(平成10年11月1
1日発行。甲19)には,「シロップ」の語義として,「?果実シロップに同
じ。」と記載され,また,「果実シロップ」の語義として,「イチゴ・レモン・メ
ロンなどの果汁に砂糖を加えて濃縮した液。水などで薄めて飲料とする。」と記載


5
されていることからして,「シロップ」との表現が飲用可能な糖の溶液として一般
の取引者及び需要者により認識されていることが認められ,現に,第32類には,
「シロップ」が含まれている。
他方,本件出願に係る「カエデの木から採取した樹液を原料とするシロップ」と
の表現は,その原料を「カエデの木から採取した樹液」として特定しているところ,
カエデの木から採取した樹液(サップ。甲12,13,乙5,6)から製造された
飲料そのものについては,「メープルサップ」との表現が第一次的に用いられる傾
向にある(甲5,6)ばかりか,上記「広辞苑(第5版)」にも「カエデの木から
採取した樹液」については,果実シロップとしては言及がなく,上記「丸善食品総
合辞典」にも「メープルシロップ(北米産砂糖かえでの樹液を煮詰めたもの)」と
の記載があることにかんがみると,本件出願に係る「カエデの木から採取した樹液
を原料とするシロップ」との表現は,一般の需要者及び取引者によって,清涼飲料
としてではなく,カエデの樹液を煮詰めて作られる砂糖溶液であって調味料などに
用いられる「メープルシロップ」と同一のものと広く認識される表現(甲12,乙
5)であると認められ,このことは,第30類として登録されている商標に「メー
プルシロップ」を指定商品とするものが存在すること(甲16,17)によっても
裏付けられる。
そうすると,本件補正に係る「メープルシロップ」は,本件出願に係る「カエデ
の木から採取した樹液を原料とするシロップ」との表現を,より一般的な表現に改
めただけであって,両者は,その内容において同一の商品を指定するものであった
といわなければならない。
したがって,第32類に「シロップ」が含まれているからといって,本件出願に
係る「カエデの木から採取した樹液を原料とするシロップ」との表現により一般の
需要者及び取引者がこれを清涼飲料に含まれる「シロップ」と誤認するおそれはな
く,調味料などとして利用される「メープルシロップ」と理解するのが一般的であ
るから,本件出願に際して商品区分を第32類と指定したことは,第32類に「シ


6
ロップ」が含まれていたことにより,その記載を誤ったにすぎないものというべく,
本件補正により第32類を第30類とすることは,誤記の訂正の範囲を出ないもの
といえる。
3本件補正は,以上のとおりのものであって,そもそも,本件商標について商
標としての同一性を何ら損なっていないし,また,それにより第三者に不測の不利
益を及ぼすおそれが認められる場合ではないから,商標法9条の4所定の要旨の変
更には当たらず,これと結論を同じくする本件審決に誤りはない。
なお,本件審決には,本件補正が特許庁審査官の指摘に従ってされたものである
ことをもって要旨の変更に当たらないと判断したのではないかと解されなくもない
説示があるが,審査官の指摘であっても,そこに誤りがあれば,正されるのが当然
であって,上記のように解される説示は,措辞不適切である。
4結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由には理由がなく,原告の請求は棄却
されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣
裁判官 高 部 眞 規子
裁判官 井 上 泰 人