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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成22行ケ10032審決取消請求事件 判例 商標
平成21行ケ10038審決取消請求事件 判例 商標
平成19行ケ10391審決取消請求事件 判例 商標
平成15行ケ492商標登録取消決定取消請求事件 判例 商標
平成24行ケ10019審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 指定商品 /  周知商標 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  公序良俗(4条1項7号) /  4条1項10号 /  4条1項15号 /  4条1項19号 /  不正目的(不正の目的) /  顧客吸引力(グッドウィル) /  ただ乗り(フリーライド) /  通常使用権 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  無効審判 /  継続 /  商号 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10360号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/05/31
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文


平成22年5月31日 判決言渡
平成21年(行ケ)第10360号 審決取消請求事件(商標)
口頭弁論終結日 平成22年4月23日
判 決
原 告 株式会社吉野
訴訟代理人弁護士 平野和宏
同 薬袋真司
被 告 Y
訴訟代理人弁護士 谷口光雄
同 谷口哲一
同 松山和徳
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が無効2009?890015号事件について平成21年9月30日
にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 本件は,被告が商標権者である下記商標(商標登録第5065800号,以
下「本件商標」という。)につき原告が無効審判請求をしたところ,特許庁が請
求不成立の審決をしたことから,これに不服の原告がその審決の取消しを求め
た事案である。

(商標)<標準文字>

Gold Glitter EVOLUTION 」



指定商品
第3類「つや出し剤」
・出 願 平成19年3月8日
・登録査定 平成19年7月6日
・登 録 平成19年7月27日
2 争点は,原告は平成6年6月ころから自動車のほぼ全部分に使用できる「つ
や出し剤兼コーティング剤」を製造販売しており,その商品には下記のうちい
ずれかの内容の標章を付した商標(以下「原告商標」という。)が使用されてい
ることから,本件商標が原告商標との関係で,?商標法4条1項7号(公序良
俗違反),?10号(周知商標と類似),?15号(混同を生じるおそれ),?1
9号(不正目的使用)に該当するか,である。




・ (以下「審決引用標章」という。)




・「
GOLD Glitter 」
・「
ゴールドグリッター 」
・「
ゴールドグリター 」



・「
GOLD
Glitter 」
・「
GOLD Glitter
ゴールドグリッター 」
・「
GOLD Glitter
ゴールドグリター 」
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
被告は,平成19年3月8日に,本件商標の登録出願をしたところ,同年
7月6日に登録査定を受け,同年7月27日に設定登録を受けた。
これに対し,原告は,平成21年1月29日付けで,本件商標の登録の無
効審判請求をしたので,特許庁は,同請求を無効2009?890015号
事件として審理した上,平成21年9月30日,「本件審判の請求は,成り立
たない」旨の審決をし,その謄本は平成21年10月13日に原告に送達さ
れた。
(2) 審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件商
標の登録出願日(平成19年3月8日)及び登録査定日(同年7月6日)に
おいて,原告商標が,原告の業務に係る商品を表示するものとして広く認識



されていたものと認めることはできない等として,本件商標の商標法4条
項7号,10号,15号,19号の適用をいずれも否定したものである。
(3) 審決の取消事由
しかしながら,審決には次のとおりの誤りがあるから,審決は違法として
取り消されるべきである。
ア 商標法4条1項7号公序良俗違反)該当の有無に関し,原告商標使用
の事実及びその周知性等についての認定の誤り(取消事由1?1)
(ア) 原告は,開発者Aがつや出し剤(カーワックス)「GOLD Gli
tter」(以下「本件商品」という。)を開発して以降,自らが製造販
売する本件商品に原告商標を継続して使用してきた。原告は,本件商品
の製法を被告に開示しなかったので,本件商品を製造することができた
のは原告だけであり,本件商品は原告固有の商品として販売されてきた。
他方,被告は,原告から譲り受けた本件商品を販売してきたにすぎず,
平成13年12月ころ以降は本件商品の総発売元である株式会社協和
興材(以下「協和興材」という。)と原告との間に介在して本件商品の
取引をしてきたにすぎなかったから,被告独自の業務上の信用が発生す
る余地はなく,また原告は被告の下請的地位にあるものではなかった。
なお,原告が被告に対し,本件商品の販売の一切を委ねた事実はない。
(イ) 商標ないし標章に周知性が認められるためには,必ずしも特定人の
商号や名称が併記されること等を要しないところ,原告が製造し,協和
興材等が販売する本件商品の容器等には,商品の製造・企画元として原
告の商号が記載されており,需要者において本件商品が原告の製造に係
るものであることが認識可能であった。また,協和興材等は,原告が製
造したカーワックスであるからこそ,本件商品を販売していたものであ
った。
そして,カーワックスは,その効果が優れていることが顧客吸引力



を有するから,その製造者如何が需要者の購入動機に大きく影響する性
格の商品であって,当該商品に付された製造者の表示こそが商品の出所
を表示する機能を果たす。したがって,協和興材が本件商品の宣伝広告
を行ったり,雑誌等に本件商品の総発売元として協和興材の商号が掲載
されていたりしたとしても,原告商標は,当該商品(カーワックス)の
製造者が原告であることを表示することを認定することができる資料
たり得るものである。
なお,協和興材は,原告が製造したカーワックスであったからこそ,
多額の費用をかけて上記カーワックスの宣伝広告を行ってきたもので
あったし,原告は自らの商号が記載された箱を使用して,直接に小売店
(被告や協和興材の傘下にあるものを含む。)に上記カーワックスを発
送していたから,上記カーワックスの取引者においては,その製造者が
原告であることを認識可能であったし,現に認識していたものである。
(ウ) さらに原告は,被告以外に対しても,自らが製造する本件商品を販
売してきており,その数量は,被告に対する販売分も含めると,平成1
9年10月31日までで累計53万本強に達する。また,本件商品は,
平成13年のカーグッズ・オブ・ザ・イヤーのカーケア部門を受賞した
り,ヤナセが販売する自動車の車載用品に採用されたり,主要なカー用
品の販売チェーンのカー用品売れ筋ランキングにおいて上位を占める
等しており,需要者及び取引者の間で,原告が製造する商品として周知
されるに至っている。
(エ) なお,原告商標が周知性を有することは,本件商標の登録が公序良
俗に違反することを判断する上で斟酌すべき事由であるが,必須不可欠
の事由ではない。
イ 商標法4条1項7号公序良俗違反)該当の有無に関し,本件商標登録
が商標の剽窃であること等についての認定の誤り(取消事由1?2)



原告は,従前,被告に対し,自らが製造した本件商品を販売してきてお
り,両者は取引関係にあったところ,被告は,原告以外の者が製造したカ
ーワックスのパッケージに「ゴールドグリッター」と表示し,また製造者
が原告である旨を記載して,このカーワックスを販売した。
その上,被告は,原告から広告費として金員を詐取していたところ,上
記の偽造品の販売の事実と広告費の詐取の事実が判明したので,原告は被
告との間の本件商品の取引関係を解消した。
すると,被告は,従前原告との間で明文の契約書を締結していなかった
ことを奇貨として,原告が製造する本件商品の信用にただ乗りすべく,そ
の進化版ないし改良版であるかの如く装うため,被告が製造するカーワッ
クスに本件商標を付し,また取引解消からわずか2か月後に本件商標の登
録出願をしたものであった。
したがって,本件商標登録の経緯には,著しく社会的相当性を欠く点が
あり,その登録を認めることは商標法が予定する秩序に反するものとして
到底容認し得ないものであり,本件商標登録は,被告が原告商標を剽窃し
てされたものであって,商標法4条1項7号に違反するというべきである。
ウ 商標法4条1項10号周知商標と類似)該当の有無に関し,原告商標
周知性についての認定の誤り(取消事由2)
前記アのとおり,本件商標の出願日及び登録査定日において,原告商標
は原告が製造する商品を表示するものとして,取引者及び需要者の間に広
く認識されるに至っているから,本件商標登録は商標法4条1項10号
違反してなされたものであり,これを否定した審決は誤りである。
エ 商標法4条1項15号混同を生じるおそれ)該当の有無に関し,混同
のおそれの認定の誤り(取消事由3)
本件商標は,原告が製造する本件商品の進化版ないし改良版であるかの
如き印象を与えるべく,「EVOLUTION」の文字が追加されており,



本件商標が使用された商品を原告の商品と誤認させ,商品の出所につき混
同を生じさせるものである。
実際,本件商品の総発売元である協和興材でさえ,本件商標が付された
商品を原告の業務に係るものと誤認していた。
したがって,本件商標が,その指定商品につき使用しても,当該商品が
原告又は原告と営業上何らかの関係にある者の業務に係る商品と混同を
生ずるおそれがあるとはいえないとし,商標法4条1項15号の適用を否
定した審決の判断は誤りである。
オ 商標法4条1項19号不正目的使用)該当の有無に関し,「不正の目的
をもって使用する」に該当しないとした判断の誤り(取消事由4)
前記アのとおり,本件商標の出願日及び登録査定日において,原告商標
は原告が製造する商品を表示するものとして,取引者及び需要者の間に広
く認識されるに至っているから,原告商標に周知性がないとして,商標法
4条1項19号不正目的による使用)に該当しないとした審決の判断は
誤りである。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1),(2)の事実は認めるが,同(3)は争う。
3 被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1?1に対し
ア つや出し剤「GOLD Glitter」は原告固有の商品ではなく,
被告固有の商品である。
被告は,原告から,本件商品に関わる一切の事項につき譲渡を受けたも
のであって,その後平成10年10月23日に商標登録第4203576
号として「GOLD Glitter」の商標登録(以下「前件商標登録」
ということがある。)を受けたが,原告はこれに対し10年以上にわたって



何ら異議を述べてこなかった。
イ 原告が製造する本件商品の効能がいかに優れていたとしても,このこと
の一事をもって,上記カーワックスに使用された原告商標が,商品の出所
が原告であることを表示することになるものではない。現に,本件商品を
取り上げた記事等には,原告の商号は登場していない。
また,協和興材は,一見して原告以外の者が製造したことが分かるカー
ワックス「GOLD Glitter」を,何の抵抗もなく被告から仕入
れていたものであって,協和興材は,原告が製造したカーワックスである
ことを理由にカーワックス「GOLD Glitter」を仕入れていた
ものではなかった。そして,小売店は,被告ないし協和興材と取引してい
るとの認識を有していたのであって,原告が製造者として認識されていた
からといって原告商標が原告を出所とする表示として認識されていたこと
にはならない。
そして,本件商品の外箱には,被告が経営する会社の商号である「グリ
ッタージャパン」の表示が記載されており,商品の容器等に商号が表示さ
れているからといって,原告商標の周知性を基礎付けることができるもの
ではない。
ウ 原告商標は,商品の出所が原告であることを表示するものとして,需要
者及び取引者の間で周知されていない。すなわち,協和興材がした宣伝広
告は,商品の出所が原告であることを示すものとして原告商標が周知性
獲得したことの裏付けとなるものではなく,本件商品が売上げを伸ばした
のは,被告や協和興材の営業努力によるものであった。
また,原告は,被告を経由して販売するルートのほかに,独自の販売ル
ートと評価し得る販売ルートを有しておらず,一般需要者としては,「グリ
ッタージャパン」との商号を有する被告経営の会社が原告商標に係る権利
を有していると認識するのが,一般の経験則に合致する。



エ 以上のとおり,原告商標の使用の事実及びその周知性等についての本件
審決の認定は正当であり,誤りはない。
(2) 取消事由1?2に対し
被告が,原告商標を剽窃して,本件商標の登録を受けたことはなく,本件
商標の登録につき公序良俗違反は存しない。
また,被告は,原告以外の者が製造したカーワックスを販売したことはあ
るが,それは,協和興材に対し,原告以外の者が製造したカーワックスであ
ることを説明し,協和興材において十分理解した上で,原告以外の者が製造
したカーワックスを納入したのであって,協和興材は,原告からの問合せが
あって初めて,自己が仕入れたカーワックスが原告の製造に係るものではな
いことを知ったわけではない。したがって,協和興材は,原告がカーワック
スを製造したことを理由に購入していたわけではなく,製造者が原告である
か否かにつき特段関心がなかったものであった。
一方,原告は一定時期以降本件商品の宣伝広告費を負担しておらず,被告
が原告から宣伝広告費名目で金員を詐取した事実はない。
さらに,原告は,被告が「GOLD Glitter」の商標登録(前件
商標登録)を受けたことに対し,10年以上にわたって何ら異議を述べてこ
なかったのであって,この不作為の事実は,原告が本件商品に係る一切の事
項を被告に委ねたことを示すものである。
(3) 取消事由2に対し
前記(1)のとおり,本件商標の出願日及び登録査定日において,原告商標が
原告の製造する商品を表示するものとして取引者及び需要者の間に広く認識
されるに至っていることを認めるに足りる証拠はなく,この旨をいう審決の
判断に誤りはない。
(4) 取消事由3に対し
商標法4条1項15号の混同のおそれを生じるためには,原告商標が付さ



れた商品が原告の業務に係るものであることが需要者等において広く認識さ
れていることが必要であるところ,前記(1)のとおり,本件商標の出願日及び
登録査定日において,原告商標が原告の製造する商品を表示するものとして
取引者及び需要者の間に広く認識されるに至っていることを認めるに足りる
証拠はないから,この旨をいう審決の判断に誤りはない。
(5) 取消事由4に対し
前記(1)のとおり,本件商標の出願日及び登録査定日において,原告商標が
原告の製造する商品を表示するものとして取引者及び需要者の間に広く認識
されるに至っていることを認めるに足りる証拠はないから,この旨をいう審
決の判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実は,
いずれも当事者間に争いがない。
2 本件における基礎的事実関係
(1) 証拠(甲3,4,6,10の1,2,甲21ないし23,45ないし49,
乙1の1,2,乙19,20の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,本件に
おける基礎的事実関係は,次のとおりであったことが認められる。
ア 原告(株式会社吉野)は,ワックス製品等の販売等を目的として平成6
年6月3日に成立した会社であり,主としてカーワックス製品等の製造を
業とする会社である吉野化学工業と提携関係にある。
上記両会社は,いずれも同族会社であって,その創業者に当たるAが特
許出願した発明(名称「自動車のボディー光沢保護ワックスとフロントガ
ラスの油膜除去及びフロントガラス撥水コーティングを同時に水拭きする
方法」,出願日 平成6年3月16日,公開日 平成7年10月3日,特開
平7?252499号。ただし,特許査定に至ったかは不明である。)に基
づき,吉野化学工業がその製造を,原告がその販売等を,それぞれ担当す





る,というものであった。
原告の代表取締役は,当初はAの弟であるBであり,その他の役員(平
取締役)としては,Aの子であるC,Cの妻であるE,Dの弟であるF等
が務めていた。そして,原告の代表取締役は,平成16年7月29日には
Fに,平成18年11月15日にはEに,それぞれ交代した。
なお,後に登場するGは,Bの子である。
イ 一方,被告は,平成6年ころから本件商品に関し,原告と取引関係にあ
った者であり,平成15年12月25日に自動車用品の販売等を目的とし
て成立した有限会社グリッタージャパンの代表者(取締役)である。
ウ 原告と被告は,平成6年秋ころから,主として審決引用標章を付したカ
ーワックス商品を被告が原告から購入し,これを第三者(協和興材はその
有力取引先)に販売するという取引を開始したが,平成19年1月に至り
これを解消した。
なお,原告(株式会社吉野)及びAは連名で,平成15年6月23日付
けで被告に誓約書(乙9)を提出しているが,そこには,「株式会社吉野 A
が永年に渡り研究開発致しました水拭コーティング剤ゴールドグリッター
は,世に出して戴きましたグリッタージャパン様,協和興財株式会社様に
総て販売をおまかせ致しております。他のいかなる会社,その他の人々に
も吉野の名を使わせた事は一切ございません。上記の事は御安心下さい」
旨の記載がある。
エ ところで,被告は,本件商標登録に先立ち,下記内容の商標登録第42
03576号(前件商標登録)を取得している。

(商標)

指定商品) 第3類「つや出し剤」



・出 願 平成9年7月24日
・登録査定 平成10年8月27日
・登 録 平成10年10月23日
上記前件商標登録に対しては,原告から特許庁に対し,平成19年9月
20日付けで,本件のような無効審判請求ではなく,商標法53条1項
よる商標登録取消審判請求(通常使用権者による混同行為)がなされたが,
同請求は未だ特許庁に係属中である。
(2) 上記認定事実を基礎として,以下,本件商標の商標法4条1項7号(公序
良俗違反),10号(周知商標と類似),15号(混同を生じるおそれ),19
号(不正目的使用)該当性の有無を,原告主張の取消事由を中心に検討する。
3 本件商標の商標法4条1項7号公序良俗違反)該当性の有無
(1) 取消事由1?1(商標法4条1項7号該当の有無に関し,原告商標の使用
の事実及びその周知性等についての認定の誤り)について
ア 原告は,本件商品(つや出し剤「GOLD Glitter」)は原告固
有の商品であって,原告が本件商品に原告商標を使用してきたものであり,
本件商品は原告が製造する商品として需要者及び取引者の間で周知される
に至っている等として,これらの各点を否定した審決の認定は誤りである
旨主張する。
イ 原告による原告商標の使用の事実及びその周知性等に関し次のとおりの
事実が認められる(証拠等は各事実末尾に記載)。
(ア) Aは,遅くとも平成6年6月ころ,本件カーワックスを開発し,平
成6年6月3日,上記カーワックスの製造販売を担当する会社として原
告を設立し,以後,原告は本件商品を「GOLD Glitter(ゴ
ールドグリター)」と名付けてこれを製造販売してきた(甲10の1,
甲21,22(1頁))。
(イ) 平成6年6月に本件商品を発売した当時以降,原告では,本件商品



の容器(ボトル)に審決引用標章と同一の体裁の標章,すなわち,内側
に金色のギサギザの縁取りが施された概ね黒色の円のほぼ中心に翼を
広げた金色の鷲状の図形を配し,その上部には白色の縁取りのある青色
の「21」の文字を,その下部には橙色の英字である「GOLD」,「G
litter」の文字を上下2段にわたって記した標章を付し,また外
箱にも概ね同様の標章を付したほか,商品によっては,審決引用標章と
一部色彩が異なる標章(縁取りが施された円の色彩と図形の上部の「2
1」の文字の色彩が異なる。)を本件商品の容器及び外箱に付していた
ことがあった。
なお,いずれの体裁の標章が付された本件商品にあっても,容器及び
外箱の各裏側下部に「株式会社吉野」ないし「発売元 株式会社吉野」
と記載され,製造ないし発売した者が原告である旨が表示されていた
(甲7,8)。
(ウ) 原告が平成6年6月当時に作成した本件商品のチラシには,本件商
品の名称につき「GOLD Glitter ゴールドグリター」ない
し「ガラスコーティング・ボディーワックス GOLD Glitte
r ゴールドグリター」との標章が使用されており,また審決引用標章
と概ね同一の体裁の標章ないし審決引用標章と一部色彩が異なる標章
が使用されているほか,発売元として原告の商号が記載されており,ま
た本件商品の効能として,世界初のガラスも拭けるワックスであること
が唱われている(甲9,25)。
(エ) 原告は,平成6年上旬以降,審決引用標章及び本件商品の名称たる
「ゴールド グリター」との標章を使用した本件商品の販売促進用のス
テッカーを作成し,同ステッカーを販売促進活動に使用したが,上記ス
テッカーには,原告の商号は表示されていない(甲18)。
(オ) 原告は,平成6年6月以降,色彩を青色と無色(地の色)で構成す



るほかは審決引用標章と同様の体裁の標章を,本件商品の出荷用の段ボ
ール箱の側面及び社内外で使用する封筒及び名刺に表示して使用して
きた。
なお,上記段ボール箱にも,封筒及び名刺にも,原告の商号が合わせ
て表示されている(甲15?17)。
(カ) 原告が本件商品の販売促進活動等のために,平成6年6月ころまで
に作成したリーフレットは少なくとも約8万部,案内状は少なくとも約
1万部,チラシは少なくとも8万枚,ステッカーは少なくとも合計約1
600枚に上り,また,原告がこのころに印刷業者から納入を受けた前
記(オ)の段ボール箱は,少なくとも約5000個に上っていた(甲20)。
(キ) 原告は,平成6年6月ころの本件商品の発売開始当初当時は,大阪
市内外のガソリンスタンド等に本件商品を販売していたが,平成6年秋
ころ,当時「ガレージ南」の屋号でカー用品を取り扱っていた被告との
間で,本件商品の取引を開始した。
このころ以降,原告は,本件商品を製造した上で,竹一株式会社を特
約店としてガソリンスタンドに本件商品を流通させたり,被告を特約店
としてカー用品店等に本件商品を流通させたりしていたほか,他の特約
店にも本件商品を販売したり,直接消費者にも本件商品を販売していた。
また,平成6年6月以降から平成13年ころまでにおける本件商品の
売上げは,およそ合計年間2万本強に達していた(甲21,22(3,
4,16頁),45(速記録部分1?3頁),49(速記録部分1?5頁))。
(ク) 被告は,少なくとも平成7年末ころ以降,「グリッタージャパン(G
litter Japan)」の屋号を使用して,本件商品を販売してい
た(甲22(4頁),乙24,25)。
(ケ) 被告が本件商品の販売の拡大のために平成9年ないし15年ころに
作成して,少なくとも平成12年2月1日ないし7月1日,9月1日,



11月1日,平成13年1月1日,5月1日,7月1日,9月1日,1
1月1日,平成14年1月1日,3月1日,5月1日付けで株式会社立
風書房が発行した自動車雑誌「ル・ボラン」に掲載された各広告には,
本件商品の名称としての「Gold Glitter」等の標章や審決
引用標章が付された本件商品の容器の写真及び本件商品の使用法等が
記載されており,商品取扱者として被告の屋号「Glitter Ja
pan(グリッタージャパン)」が記載されているが,原告の商号等は
一切記載されていない(なお,協和興材の商号が販売提携先として記載
されている。)(乙13?18,27の1?16)。
また,被告は,平成14年7月1日,平成15年8月1日,10月1
日,12月1日付けで発行された上記雑誌にも,上記と概ね同趣旨の広
告を掲載させたが,このうち平成14年7月号(平成14年7月1日付
けで発行されたもの)では,企画元として被告の屋号が,総発売元とし
て協和興材の商号がそれぞれ記載され,平成15年8月号,10月号,
12月号(平成15年8月1日付け等で発行されたもの)では,商品の
取扱者として協和興材の商号と被告の屋号ないし被告が経営する有限
会社グリッタージャパンの商号がそれぞれ記載されているのみで,いず
れの雑誌においても原告の商号等は一切記載されていない(乙27の1
7?20,乙28の1?3)。
(コ) 原告は,平成13年秋,被告と取引のあった協和興材との間で,協
和興材を総発売元として本件商品を販売することを合意した。
その結果,一部の販売ルートを除いて,原告が製造した本件商品を被
告にいったん販売し,被告がこれを協和興材に転売して,協和興材が総
発売元として小売店等に本件商品を販売することになった。
なお,このころに協和興材が販売していた本件商品の容器及び外箱に
は,各表面に審決引用標章と概ね同一の体裁の標章が付されており,各



裏面下部に,総発売元として協和興材の商号が記載されているほか,「製
造・企画元 株式会社吉野 グリッタージャパン」と,製造及び商品企
画をした主体として原告の商号及び被告の屋号が併記されている(甲2
2(4,5頁),24,乙2)。
(サ) 協和興材は,本件商品の宣伝を行い,また販売量の拡大に努めた結
果,協和興材が販売した本件商品の数量は,平成13年6月から平成1
4年5月までの1年間で約6万8000本,平成14年6月から平成1
5年5月までの1年間で8万本,平成15年6月から平成16年5月ま
での1年間で7万6000本に上った(甲22(16頁),47(速記
録部分11頁),弁論の全趣旨)。
(シ) 株式会社三栄書房が発行するカー用品の雑誌「CarGoodsM
agazine」(カーグッズ・マガジン)は,平成13年,本件商品
を上記雑誌の「2001カーグッズ・オブ・ザ・イヤー」の「カーケア
部門賞」に選んだほか,平成14年11月30日発行の「CarGoo
dsMagazine vol.23」(2002年12月号)で,「ゴ
ールドグリッターの秘密を探る」と題した特集記事を掲載し,本件商品
の特性,開発の経緯やAの説明等を報じた。
なお,上記特集記事中には,取材協力者として,協和興材のほか,原
告の商号(ただし「株式会社」の表記を省いたもの)及び被告の屋号「グ
リッタージャパン」が記載され,「ゴールドグリッターを開発した吉野
のAさんは,・・・」と本件商品の開発者が原告のAである旨が記載さ
れている。
また,上記「CarGoodsMagazine vol.23」で
は,「賢・い・洗・車・新・聞」と題する記事も掲載されており,「ここ
が違うゴールドグリッターの秘密」との見出しの下に本件商品の使用法
等の解説があるほか,同記事の右肩には,「2000?2001 Ca



r Goods of the year ゴールドグリッターはCar
GoodsMagazine (三栄書房)カーグッズ・オブ・ザ・イ
ヤー『Car Care部門賞』を受賞」との記載が,また同記事の左
下隅に「Gold Glitter 総発売元」として「株式会社協和
興材」の文字が大きく表示されているが,その下に,「Gold Gl
itter 製造元」として「吉野 グリッタージャパン」の文字が小
さく表示されているのみである。
また,上記「CarGoodsMagazine vol.23」中
の「か?ぐっず本舗特選商品『か?ぐっず本舗』」と題する,カー用品
を紹介する別の記事中では,本件商品及び本件商品と専用タオルのセッ
ト商品が紹介されているが,その取扱者として協和興材の商号(ただし
「株式会社」の表記を省いたもの)が記載されているのみである。
なお,上記「CarGoodsMagazine vol.23」中
のいずれの記事においても,審決引用標章が付された本件商品の容器や
外箱の写真が掲載されている(甲5)。
(ス) 平成14年4月29日発行の「CarGoodsMagazine
vol.17」(2002年5月号)には,本件商品の広告が掲載され
ており,上記広告中には,本件商品の名称としての「Gold Gli
tter ゴールドグリッター」との標章,本件商品の容器の写真,本
件商品の使用法のほかに,本件商品が三栄書房が発行する雑誌「Car
Goods Magazine」の「カーグッズ・オブ・ザ・イヤー」
の「カーグッズ大賞」を受賞したことが記載されている。
そして,上記広告中には,総発売元として協和興材の商号が記載され
ており,製造者に関しては,「製造元 吉野 グリッタージャパン」と
原告の商号(ただし「株式会社」を省いたもの)及び被告の屋号が列記
されている(甲40)。



(セ) 平成14年3月6日付け日本経済新聞の通信販売用全面広告「日経
社 通販歳時記」の中では,「21世紀 驚異のワックス」として本件
商品が紹介されており,審決引用標章が付された本件商品の容器及び外
箱の写真が掲載されているが,上記広告中には「商品提供:株式会社協
和興材」と本件商品の取扱者が協和興材である旨が記載されているもの
の,製造者が原告であることを示す記載は存しない(甲26の1)。
また,同年5月8日付け日本経済新聞の通信販売用広告「日経社 通
販歳時記」中にも,上記と同様の本件商品の広告が掲載されているが,
上記広告中にも本件商品の取扱者が協和興材である旨が記載されてい
るものの,製造者が原告であることを示す記載は存しない(甲26の2)。
(ソ) 被告は,平成15年12月25日,自動車部品,用品の販売等を目
的とする有限会社グリッタージャパンを設立し,その取締役に就任して,
以後同社を経営してきた(甲23,弁論の全趣旨)。
(タ) 株式会社自動車産業通信社が平成16年1月25日発行したカー用
品等の業界の雑誌「オートマート A・M NETWORK」2004
年2月号に掲載されたカー用品の売れ行き動向に係る記事「主要カー用
品専門チェーン カー用品売れ筋ランキング」には,平成15年11月
の売上げに関し,カー用品販売チェーンであるドライバースタンドで,
本件商品である「ゴールドグリッター」がカーワックスの売れ筋ランキ
ングの第2位を占めたことが記載されているが,上記記事中には,原告
商号等は記載されていない(なお,他のカーワックスについては製造
業者等の商号が簡略に記載されている。)(甲27の1)。
平成16年7月25日発行の上記雑誌の2004年8月号,平成17
年1月25日発行の上記雑誌の2005年2月号,平成17年7月25
日発行の上記雑誌の2005年8月号,平成18年1月25日発行の上
記雑誌の2006年2月号,平成18年7月25日発行の上記雑誌の2



006年8月号,平成19年1月25日発行の上記雑誌の2007年2
月号,平成19年7月25日発行の上記雑誌の2007年8月号(ただ
し,2005年8月号から,発行者が株式会社オートマート・ネットワ
ークに変更されている。)にも,それぞれ上記と同様の記事「主要カー
用品専門チェーン カー用品売れ筋ランキング」が掲載されており,上
記記事中で前期の売上げに関し,ドライバースタンドで,本件商品であ
る「ゴールドグリッター」がカーワックスの売れ筋ランキングのうちで
一定の順位を占めたことがそれぞれ報じられているが,売れ筋ランキン
グに係る表中では,商品取扱者の名称として「協和興材」と記載されて
いるのみで,原告の商号等は一切記載されていない(甲27の2?8)。
(チ) 平成17年ころに協和興材が作成した複数種類の広告チラシでは,
本件商品の名称としての「Gold Glitter ゴールドグリッ
ター」との標章,本件商品の容器の写真,本件商品の使用法のほかに,
本件商品が三栄書房の発行する雑誌「カーグッズマガジン」の「200
1 Car Goods of the Year」の「カーケア部門賞」
で第1位に選ばれたことや,本件商品が徳間書店の発行する雑誌「カー
グッズプレス」の「2004 The User‘s Judge No.
1」の「読者人気グッズ」の第1位に選ばれたことが記載されている。
そして,上記各広告中には,総発売元として協和興材の商号が記載さ
れているが,製造者に関しては,「製造元 吉野 グリッタージャパン」
と,原告の商号(ただし「株式会社」を省いたもの)及び被告の屋号な
いし被告が設立した会社の商号が列記されている(甲41,42)。
ウ 上記イによれば,原告は,平成6年6月に本件商品を発売した当初から,
審決引用標章ないしこれと一部色彩が異なる概ね同様の体裁の標章を容器
や外箱等に付したり,「GOLD Glitter」等の標章をチラシ等に
使用する等して,原告商標を使用してきたものであり,原告が原告商標の



使用を開始してから本件商標の登録出願がされた平成19年3月8日まで
の期間は約13年にも及ぶ。そして,この間,本件商品は年間に相当数販
売され,特に協和興材が総発売元になり,協和興材が宣伝等を行って営業
努力をした平成13年中ごろ以降は,その売上げが相当程度伸びたもので
あったことが認められる。
しかしながら,上記イのとおり,本件商品を大きく取り上げた雑誌「C
arGoodsMagazine」の記事や広告でも,製造元として原告
商号と被告の屋号が並記されるに止まっているし(上記(シ)(ス)),日本
経済新聞の広告(上記(セ)),雑誌「オートマート A・M NETWOR
K」の記事(上記(タ)),雑誌「ル・ボラン」の被告が掲載させた広告(上
記(ケ))では,製造元等として原告の商号が記載されていないのであって,
これらのほか本件訴訟に提出された一切の証拠に照らし,本件商標の登録
出願日(平成19年3月8日)及び登録査定日(平成19年7月27日)
において,原告商標が本件商標の指定商品たるつや出し剤の需要者及び取
引者の間で,原告又は原告と営業上何らかの関係のある会社の業務に係る
商品を示すものとして広く認識されていた,すなわち周知性があったもの
と認めることはできない。
審決は,上記と同趣旨を説示するものであって,審決に,原告商標の使
用の事実及びその周知性等に係る認定に誤りがあるということはできない。
エ 原告の主張に対する補足的判断
(ア) 原告は,本件商品の製法を被告に開示しなかったので,本件商品を
製造することができたのは原告だけであり,本件商品は原告固有の商品
として販売されてきた等と主張するが,当該商品を製造する者が原告の
みであったとしても,当該商品に付された標章ないし商標が,当該商品
の製造者の業務に係る商品を示すものとして需要者及び取引者の間で
広く認識されるか否かは,当該商品の広告宣伝ないし需要者等に対する





情報提供の在り方等によるのであって,協和興材等において製造元が原
告であることを繰り返し大々的に宣伝して本件商品の販売を拡大した
り,製造に関わるエピソード等が繰り返し取り上げられて広く知れ渡っ
たりした等の事情が認められない本件においては,上記ウの結論を左右
するものではない。
(イ) また原告は,本件商品の容器等には,製造・企画元として原告の商
号が記載されており,需要者において本件商品が原告の製造に係るもの
であることが認識可能であったし,協和興材等は,原告が製造したカー
ワックスであるからこそ,本件商品を販売していたものであった等と主
張する。
しかし,本件商品の容器や外箱に記載されている製造元の記載はごく
小さいものである上,カーワックスの需要者が,仮にその効果が優れて
いることに着目して商品を購入する傾向を有しているとしても,製造者
が何人であるかに着目してカーワックスを購入するのが通常であるこ
とまでを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 次に原告は,協和興材は,原告が製造したカーワックスであったか
らこそ,多額の費用をかけて本件商品の宣伝広告を行ってきたものであ
ったし,原告は自らの商号が記載された箱を使用して,直接小売店に本
件商品を発送していたから,上記カーワックスの取引者において,その
製造者が原告であることを認識可能であったし,現に認識していた等と
主張する。
しかし,仮に協和興材が,原告がカーワックスを製造したことに着目
して本件商品を取引した事実があったとしても,協和興材は本件商品の
取引者の1人にすぎないのであって,前記ウの結論を左右するに足りる
ものではない。そして,原告が自らの商号が記載された段ボール箱を使
用して,直接小売店に本件商品を発送していた事実があったとしても,



この事実は,本件商品を取り扱う小売店において本件商品の製造者ない
し発送者が原告であることを認識していたか,又は少なくとも認識でき
たことを推認させることができるだけであって,上記の段ボール箱の使
用の事実の一事をもって,上記の段ボール箱に付された標章ないしこれ
と類似する審決引用標章,あるいは原告商標が,カーワックスの取引者
の間で,原告の業務に係る商品であることを示すものとして広く認識さ
れるに至ったことを裏付けるに足りるものではない。
(エ) なお,前記のとおり,本件商品がカー用品の雑誌等で表彰等がされ
たり,売上げランキングで上位を占めたりしたことがあったとしても,
これらの事実は本件商品自体がその需要者又は取引者の間で,広く認識
されるに至ったことを示すものにすぎず,直ちに,本件商品の容器等に
使用された原告商標が,本件商品の製造・販売に携わる関係者の1人で
ある原告あるいはこれと営業上何らかの関係がある者の業務に係る商
品であることを示すものと広く認識されるに至ったことまで裏付ける
に足りるものではない。
オ 以上のとおりであるから,審決も指摘するように,本件商標それ自体に
は何ら公序良俗に反する点は認められないことも併せ考慮すると,商標法
4条1項7号公序良俗違反)該当の有無に関する原告の取消事由1?1
の主張は,理由がないことになる。
(2) 取消事由1?2(商標法4条1項7号該当の有無に関し,本件商標登録が
商標の剽窃であること等についての認定の誤り)について
ア 原告は,自らと従前本件商品の取引関係にあった被告が,原告以外の者
が製造したカーワックスであるにもかかわらず,製造者が原告である旨の
虚偽の記載をして販売したり,原告から広告費を詐取したりしたところ,
上記偽造等の事実が原告に判明して取引関係を解消されるや,本件商品の
信用にただ乗りすべく,また自らの商品を本件商品の進化版ないし改良版



であるかの如く装うために,本件商標の登録出願をしたのは,著しく社会
的相当性を欠き,商標の剽窃であって,公序良俗に反する等と主張する。
イ(ア) 確かに,証拠(甲21,22(7?10頁),36,47(速記録部
分4,12,13頁),48(速記録部分9,10,13?16,19,
20頁),49(速記録部分16,17,25,26頁))によれば,有
限会社グリッタージャパンは,平成16年ころ以降,Aの親類であり,
原告を退職していたGに依頼して,Gないし第三者において,原告に無
断でカーワックス「Gold Glitter EVOLUTION」及
び本件商品と同名のカーワックスを製造させ,これを協和興材に納入し
たこと,被告は協和興材の代表者Hに対し,前者のカーワックスは本件
商品の改良版である旨を説明していたこと,原告は,上記カーワックス
製造の事実を確認して,平成19年1月15日,被告に対し,以後の本
件商品の取引を解消する旨の意思表示をしたことがそれぞれ認められ
る。
そうすると,被告による本件商標の登録出願(平成19年3月8日)
は,原告が被告との間の取引関係を解消した後間もない時期になされた
ものであることが認められる。
(イ)a しかしながら,前記(1)のとおり,被告ないし被告が経営する有限
会社グリッタージャパンは,本件商品に関し,原告と相当長期間にわ
たって取引関係を継続し,本件商品の販売の拡大に協力してきたもの
であることが明らかであるところ,被告は自らの営業を示す屋号に
「グリッタージャパン」を使用し,平成15年12月25日には,上
記屋号に「有限会社」を付加しただけの商号の会社を設立して本件商
品を取り扱うに至っているし,本件商品の名称と同一の「ゴールドグ
リター」ないし「ゴールドグリッター」の称呼を生ずることが明らか
な前件登録商標につき,平成9年7月24日に特許庁に対して登録出



願し,平成10年10月23日にその登録を受けたものである(甲3,
4)。
b また,被告は本件商品の販売担当者たる役割を果たしていたもので
あった上,原告が被告以外の者を経由して本件商品を販売しているの
ではないか等の疑惑が持ち上った後の平成15年6月23日に,原告
及びAが連名で被告に差し入れた誓約書(乙9)には,前記のとおり,
「株式会社吉野 Aが永年に渡り研究開発致しました水拭コーティ
ング剤ゴールドグリッターは,世に出して戴きましたグリッタージャ
パン様,協和興財株式会社様に総て販売をおまかせ致しております。
他のいかなる会社,その他の人々にも吉野の名を使わせた事は一切ご
ざいません 上記の事は御安心下さい」との,原告が本件商品の販売
を被告や協和興材に独占的に委ねている旨の記載がある(甲45(速
記録部分22?24頁),乙9)。
そうすると,被告は,前記のとおり,本件商品の販売を行う上で,
第三者から商標権を行使されて不利益を被ることのないよう,防御
の趣旨で前件商標登録の商標権を取得したものであったところ,一
般に上記のような商標権取得によって利益を受ける者の範囲には製
造を担当する原告も含まれると解されるから,原告において,本件
商品の販売を担当する被告の上記商標権の取得を少なくとも黙認し
ていたものと推認するのが相当である。
そして,被告が前件登録商標と類似することが明らかな本件商標
の登録を受けた趣旨には,少なくとも原告以外の第三者から商標権
を行使されて不利益を被ることのないように備える趣旨が含まれう
るものであるし,前記(1)のとおり,本件商標の登録出願日及び登録
査定日において,原告商標がつや出し剤の需要者及び取引者の間で
原告又は原告と営業上何らかの関係のある者の業務に係る商品であ



ることが広く認識されていることを認めるに足りる証拠がないこと
にも照らすと,既に前件商標登録を受けている被告が,これと類似
することが明らかな本件商標の登録出願を禁じられるまでの理由は
存しないというべきである。
c したがって,被告による本件商標権の取得が公序良俗に反する手段
や不公正な手段によってなされたものとまではいうことができない。
(ウ) 上記のとおり,被告による前件登録商標の商標権の取得につき,原
告が少なくとも黙認していたことからすると,被告が本件商標を出願し
たのが原告との間の取引が解消された後間もなくのことであったこと
や,有限会社グリッタージャパンが原告に無断でカーワックスを販売し
たことが上記取引解消の契機の1つになっていることを考慮しても,被
告において,前件登録商標と一部の文字の大文字・小文字の別が異なる
ものの同一の意義を有する英文の文字列「Gold Glitter」
を有する点で共通し,上記文字列の後に進化版ないし派生版であること
を示す「EVOLUTION」の文字列が加えられているにすぎない本
件商標の登録出願をし,その登録を受けたことが,原告商標の剽窃であ
って公序良俗に反するとまではいうことはできないというべきである。
したがって,本件商標の登録が公序良俗に反しないとした審決の判断
は正当として是認でき,原告の取消事由1?2の主張は理由がない。
ウ 結局,原告の商標法4条1項7号違反の主張は理由がない。
4 本件商標の商標法4条1項10号周知商標と類似)該当性の有無
原告は,取消事由2として,商標法4条1項10号周知商標と類似)該当
の有無に関する原告商標の周知性についての認定の誤りを主張するが,前記3
(1)のとおり,本件商標の登録出願日及び登録査定日において,原告商標が本件
商標の指定商品たるつや出し剤の需要者及び取引者の間で,原告の業務に係る
商品を示すものとして広く認識されていることを認めるに足りる証拠はないか



ら,その余の点について判断するまでもなく,原告の取消事由2の主張は理由
がない。
5 本件商標の商標法4条1項15号(混同のおそれ)該当の有無
原告は,取消事由3として,混同を生じるおそれの認定の誤りを主張するが,
本件商標は,英語で「金属の金」ないし「金色」を意味し,第1字のみが大文
字でその余が小文字の英字から成る文字列「Gold」,同じく英語で「きらき
らと輝く」を意味し第1字のみが大文字でその余が小文字の英字から成る文字
列「Glitter」,同じく英語で「発展」,「進化」等を意味し全部大文字の
英字から成る文字列「EVOLUTION」を,空白を挟んで順次1列に記し
外観を有するものである。
他方,原告商標のうち,本件商品の容器等に付された審決引用標章中には「G
OLD Glitter」との部分があるし(図柄の下の部分),本件商品のチ
ラシ等で原告によって使用された標章は「GOLD Glitter」,「ゴー
ルドグリター」,「ゴールドグリッター」ないしこれらの組合せであって,本件
商標とは,共通する部分が多いものである。
しかしながら,前記3(1)のとおり,本件商標の登録出願日及び登録査定日に
おいて,原告商標が本件商標の指定商品たるつや出し剤の需要者及び取引者の
間で,原告又は原告と営業上何らかの関係を有する者の業務に係る商品を示す
ものとして広く認識されていることを認めるに足りる証拠はないから,つや出
し剤(とりわけカーワックス)の需要者又は取引者が本件商標が付されたつや
出し剤に接したときに,同商品を原告又は原告と営業上何らかの関係を有する
者の業務に係る商品と誤認するおそれ,すなわち商品の出所につき混同が生じ
るおそれがあるということはできない。
この点,原告は,本件商品の総発売元である協和興材でさえ,本件商標が付
された商品を原告の業務に係るものと誤認していた等と主張する。
しかし,つや出し剤の取引者の1人にすぎない協和興材の担当者が,本件商



品の製造者がもともと原告であること又は原告が最初に原告商標の使用を始め
たことを知っていたからこそ,上記のとおりの誤認が生じたと推認できるので
あって,その余の取引者又は需要者において,協和興材におけるのと同様な出
所の誤認・混同が生じるとまでは認め難いから,原告の上記主張によっても,
混同を生じるおそれに係る前記結論は何ら左右されるものではない。
したがって,混同を生じるおそれに係る審決の判断は正当として是認するこ
とができる。
6 本件商標の商標法4条1項19号不正目的使用)該当の有無について
原告は,取消事由4において,原告商標の周知性についての認定の誤りを主
張するが,前記3(1)のとおり,本件商標の登録出願日及び登録査定日において,
原告商標がつや出し剤の需要者及び取引者の間で,原告の業務に係る商品を示
すものとして広く認識されていることを認めるに足りる証拠はないから,その
余の点について判断するまでもなく,原告の取消事由4の主張は理由がない。
7 結論
以上の次第で,商標法4条1項7号,10号,15号,19号に違反すると
する原告の主張はいずれも理由がなく,これと同旨の審決の結論は正当として
是認できる。よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決す
る。

知的財産高等裁判所 第2部

裁判長裁判官 中 野 哲 弘

裁判官 真 辺 朋 子

裁判官 田 邉 実