関連審決 | 取消2009-300454 |
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関連ワード | 包装 / 識別機能 / 指定商品 / 普通名称(3条1項1号) / 普通に用いられる方法 / 4条1項11号 / 品質誤認(4条1項16号) / 不使用 / 通常使用権 / 専用使用権 / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 取引の実情 / 国内 / 存続期間 / 更新登録 / 登録異議申立 / 継続 / |
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事件 |
平成
22年
(行ケ)
10083号
審決取消請求事件
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原告藤森工業株式会社 同訴訟代理人弁理士 志 賀正武高橋詔男渡辺隆高柴忠夫鈴木博久 被告特許業務法人小野国際特許事務 所 同訴訟代理人弁理士 鶴目朋之 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2010/07/28 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が取消2009-300454号事件について平成22年1月27日にした審決を取り消す。 第2事案の概要本件は,原告が,下記1の原告の本件商標に係る商標登録について,その指定商品中,第16類「紙製包装用容器」及び第20類「プラスチック製包装用葉,その他の木製・竹製又はプラスチック製の包装用容器」に対する不使用を理由とする当該登録の取消しを求める被告の下記2の本件審判請求を認めた特許庁の別紙審判書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 21本件商標本件商標(登録第2723314号商標)は,「ECOPAC」の欧文字を横書きしてなり,昭和63年4月26日に登録出願され,第18類「包装用容器およびその他本類に属する商品」を指定商品として,平成9年10月24日に設定登録され,その後,平成19年5月1日に商標権の存続期間の更新登録がされ,同年10月10日に第6類「金属製包装用容器(金属製栓,金属製ふたを除く。)」,第16類「紙製包装用容器」及び第20類「プラスチック製包装用葉,その他の木製・竹製又はプラスチック製の包装用容器」を指定商品とする書換登録がされたものである(甲10,乙1,2)。 2特許庁における手続の経緯被告は,平成21年4月15日,本件商標が,その指定商品中,第16類「紙製包装用容器」及び第20類「プラスチック製包装用葉,その他の木製・竹製又はプラスチック製の包装用容器」に対して,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないことをもって,不使用による取消審判を請求し,当該請求は,同年5月7日に登録された。 特許庁は,これを取消2009-300454号事件として審理し,平成22年1月27日,「登録第2723314号商標の指定商品中,第16類「紙製包装用容器」及び第20類「プラスチック製包装用葉,その他の木製・竹製又はプラスチック製の包装用容器」については,その登録を取り消す。」との本件審決をし,同年2月8日にその謄本が原告に送達された。 3本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,要するに,本件商標に係る商標権の通常使用権者(以下「本件使用権者」という。)は,本件審判の請求の登録前3年以内に,日本国内において,指定商品について「エコパック」なる商標(以下「本件使用商標」という。)を使用していたが,本件使用商標は,本件商標と社会通念上同一と認められる商標とは認められないのみならず,「経済的,環境にやさしい包装容器」という,プラ3スチック製包装容器の品質を表示するものとして認識され,商品の出所を表示する機能を果たし得ないから,本件商標の使用とは認められないし,また,本件商標の商標権者である原告も,指定商品について,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用したとは認められない,というものである。 4取消事由(1)本件使用権者が指定商品「プラスチック製包装用容器」に本件商標を使用していないとした判断の誤り(取消事由1)(2)原告が指定商品「プラスチック製包装用容器」に本件商標を使用していないとした判断の誤り(取消事由2)第3当事者の主張1取消事由1(本件使用権者が指定商品「プラスチック製包装用容器」に本件商標を使用していないとした判断の誤りについて)〔原告の主張〕(1)本件商標と本件使用商標との同一性についてア本件審決は,本件商標について,「ECOPAC」の文字を同書,同大,等間隔に構成上一体的に表示してなるから,その構成文字に相応して「エコパック」の称呼を生ずるが,これが「ecology」の省略形の「ECO」の文字と「package」の省略形の「PAC」の文字を結合してなるものと理解されるべき特段の理由も見当たらないから,特定の観念を有しない造語よりなるものと判断するのが相当であるとする。 しかしながら,現在において,「ECO」が「ecology」あるいは「economical」の略称として通用していることは,「エコ」が「エコロジー」あるいは「エコノミカル」の略称として通用していることと同様,周知の事実である。 また,「PAC」は,「包装容器」を示す「package」あるいは「pack」の省略形として,国内外において多数使用されている(甲2(枝番を含む。特に断らない限り,以下同じ。))。 4したがって,本件商標からは,「環境に優しい包装」の観念が生じることは明らかである。 イ本件審決は,取引者及び需要者が,本件使用権者の製造販売に係る「モイスチャーローション」及び「アミノボディーケアソープ」(以下,総称して,「本件使用商品」という。)に使用されている本件使用商標「エコパック」に接した場合,本件商標「ECOPAC」を想起するよりは,「環境に優しい包装」の意味を有する「ECOPACK」を想起すると判断するのが相当であるから,本件使用商品のプラスチック製包装用容器に本件商標と社会通念上同一の商標を使用しているとはいえないとする。 しかしながら,「ECOPAC」も「ECOPACK」も,いずれも「環境に優しい包装」の観念を生ずるものであるし,「エコパック」の欧文字表現を「ECOPAC」とする例も多数ある(甲4)から,簡易迅速を旨とする現代の商取引においては,「エコパック」から,「ECOPAC」を想起することも多い。 したがって,「ECOPAC」も「ECOPACK」も,同一の観念を有する商標として,「エコパック」との関係においては,称呼・観念ともに一対のものというべきであって,本件使用商標「エコパック」は,本件商標「ECOPAC」と社会通念上同一の商標というべきである。 (2)本件使用商標の使用形態についてア本件審決は,本件使用商標と本件商標とが社会通念上同一の商標といえるとしても,「エコパック」は,プラスチック製包装用容器の品質を表示するものと認識されるものであって,商品の出所を表示するものとしての機能を果たし得ないから,本件商標の使用とは認められないとする。 しかしながら,商標法50条1項の「登録商標の使用」とは,不使用商標による第三者の商標選択の余地が狭められることを防止するという制度趣旨からすると,当該商標がその指定商品について何らかの態様で使用されていれば足り,識別標識としての使用(商標の本質的機能を果たす態様における使用)に限定しな5ければならない理由はない。 イ本件商標と本件使用商標とが,称呼・観念を同じくする社会通念上同一の商標と認められる以上,本件使用権者が,本件使用商品などの「プラスチック製包装用容器」に,本件使用商標を使用(甲6,7)することは,本件商標の使用に該当するものである。 (3)小括以上からすると,指定商品「プラスチック製包装用容器」について,本件使用権者による本件商標の使用の事実は認められないとした本件審決の判断は誤りであって,取り消されるべきである。 〔被告の主張〕(1)本件商標と本件使用商標との同一性についてア原告は,本件商標「ECOPAC」は,本件使用商標「エコパック」と同様に,「環境に優しい包装」の観念を有すると主張するが,その裏付けに欠けるものである。 すなわち,海外において「ECOPAC」の使用例(甲3)があるからといって,我が国において「ECOPAC」が「環境に優しい包装」という意味合いで一般的に使用されているとはいえないし,「エコパック」と「ECOPAC」がともに記載されている例(甲4)があったとしても,そのことが片仮名の「エコパック」から欧文字の「ECOPAC」が想起されることを必ずしも意味するものではない。 実際,「ECOPAC」は,運送業を営む会社の社名や省エネルギーシステムの名称として用いられており(甲4),「ECO」をその構成に含むことから,環境技術や内燃機関用冷却液の名称など,環境関連の商品・役務等を意味する場合はあっても,およそ,それらの使用からは「環境に優しい包装」という意味合いは生じ得ない。 イ原告自身,本件商標の登録審査における意見書(乙2),拒絶査定不服審判請求書(乙3),本件商標に対する登録異議申立てにおける答弁書(乙4)におい6て繰り返し主張しているとおり,本件商標「ECOPAC」は,「パック」について,一般的には「PACK」と表記されるところを,あえて「PAC」と表記する独特の綴りで構成され,全体として特定の観念を生じ得ない造語よりなるものというべきものである。 また,拒絶査定不服審判における審決(乙5)及び登録異議申立てにおける決定(乙6)では,「本願商標は,「エコパック」と一連にのみ称呼され特定の観念を有しない造語よりなるものと判断するのが相当である。」とされている。 他方,本件使用商標「エコパック」は,その構成から,「エコロジーな包装,環境にやさしい包装」との観念を生じることは,数多くの使用例により裏付けられており,実際,本件使用権者が属する化粧品業界では,専ら「エコパック」がエコ対応の詰替用商品を表す語として普通に採択,使用されているし(乙12),食品やその他様々な業界においても,「経済的,あるいは環境にやさしい包装」との意味合いで使用されているものである(乙13)。 ウ小括以上からすると,取引の実情を踏まえれば,本件使用商標「エコパック」からは,「環境にやさしい包装」という観念が生じることは明らかであるのに対し,本件商標「ECOPAC」は,前記出願経過における原告主張のとおり,特定の観念を生じない造語であるから,両者は社会通念上同一の商標ということはできない。 (2)本件使用商標の使用形態についてア本件使用商標「エコパック」を,商品の包装容器に使用した場合,商品の品質又は商品の包装について普通に用いられる方法で表示するものであって,商品の出所を表示する機能を果たし得ないことは本件審決が指摘するとおりである。 使用された商標そのものが,出所識別機能を果たしていない場合には,登録商標の使用とは認められないものというべきであり,商標法50条1項の「登録商標の使用」は,識別標識としての使用に限定されないとする原告の主張は失当である。 イ小括7以上からすると,本件商標から,「環境にやさしい包装」という観念が生じたとしても,本件使用権者による本件使用商標の使用は,商品の品質を普通に用いられる方法で表示するものであって,当該商品の出所を表示する機能を果たし得ないから,本件商標の使用とは認められない。 2取消事由2(原告が指定商品「プラスチック製包装用容器」に本件商標を使用していないとした判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)原告と卸売先とのプラスチック製包装用容器の取引についてア本件審決は,原告と卸売先(以下「本件卸売先」という。)との間のプラスチック製包装用容器バイオタッチ 800(以下「バイオタッチ 800」という。)の取引では,「BIOTCH SHCO800JP 95853593」又は「SHCO 800JP 95853593」の記載により取引されていたから,原告は指定商品「プラスチック製包装用容器」について,本件商標を使用したことを証明していないとする。 しかしながら,原告は,「バイオタッチ 800」との名称で取引されているプラスチック製包装用容器を外装段ボール箱に梱包し,当該段ボール箱の表面に,「ECOPAC(エコパック)」なる商標を付して,得意先である本件卸売先に納品しているのである。このような納品形態は,「口付個別規格書」(以下「本件規格書」という。甲8)に基づいて行われたが,同規格書の「外装ダンボール種」の欄(外装ダンボール箱の種類を指定する欄)に,「ECOPAC」の片仮名表記である「エコパック」の記載があることから,商標として「ECOPAC」が付された外装段ボール箱(以下「本件段ボール箱」という。)を使用して,納品されているものといえる(甲9)。 イ取消事由1について先に指摘したとおり,商標法50条1項の「登録商標の使用」とは,商標がその指定商品について何らかの態様で使用されていれば足り,識別標識としての使用までは必要ないと解すべきである。 したがって,本件商標の指定商品「プラスチック製包装用容器」を収納した本8件段ボール箱に,本件商標を付して顧客に配送する行為が,商標法50条1項所定の「指定商品についての登録商標の使用」に該当することは明らかである。 なお,本件審決は,本件段ボール箱に本件商標を付した点について,紙製包装用容器に本件商標の使用をしていることを証明していないとするが,原告は,当該段ボール箱自体についての本件商標の使用を主張しているのではなく,当該段ボールに梱包された中味であるプラスチック製包装用容器(バイオタッチ 800)についての本件商標の使用を主張するものであるから,本件審決の認定は誤りである。 (2)小括以上からすると,原告は,本件卸売先とのプラスチック製包装用容器の取引について,本件段ボール箱に本件商標を付して納品していたのであるから,本件商標を使用していないとした本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕(1)原告と卸売先とのプラスチック製包装用容器の取引についてア原告は,本件卸売先との取引において,プラスチック製包装用容器については,「BIOTCH SHCO800JP 95853593」又は「SHCO 800JP 95853593」との品名を用いており,製品の管理においても,同様に品名を用いている(甲8,乙17〜19)。 また,原告は,当該プラスチック製包装用容器を,「バイオタッチ 800」と略称していた(甲9)。 したがって,原告は,プラスチック製包装用容器について,本件商標を付して取引していたわけではないものである。 イ他方,バイオタッチ 800 を梱包していた本件段ボール箱の購買発注書(乙20),納品書(乙21),請求書(乙22)には,当該段ボール箱の品名として,「エコパック」との記載があり,さらに,本件規格書には,外装段ボール箱の名称として「エコパック」との記載が見られるから,原告は,プラスチック製包装用容器を梱包するための外装段ボール箱そのものについて,「エコパック」という品名9を付して取引をしているものというべきである。 ウ外装段ボール箱が発注者に注文品を納品するためだけに使用されており,内容物である商品そのものについては標章が付されておらず,納品された外装段ボール箱にも中身が何であるかを示す表示が存在しない場合,当該段ボール箱に標章が付されていたとしても,収納されている商品との結びつきが著しく希薄であり,収納されている商品について商標として付されたと解するのは困難であるから,商品が収納されている段ボール箱に標章を付す行為は,商標法2条3項1号の「商品又は商品の包装に標章を付する行為」には当たらず,また,これを発注者に納品しても,同項2号の「商品の包装に標章を付したものを譲渡等する行為」には当たらないものというべきである。 したがって,梱包された中身であるバイオタッチ 800 自体には,本件商標が付されておらず,本件段ボール箱にも中身が何であるかを示す表示が存在せず,同段ボール箱のみに本件商標が付されているだけでは,商標法2条3項1号の「商品又は商品の包装に標章を付する行為」には該当しないものというべきである。 原告は,商標法50条1項の「登録商標の使用」とは,識別標識としての使用までは必要ないと主張するが,取消事由1について先に述べたとおり,原告の主張は失当である。 (2)小括以上からすると,本件商標の指定商品であるプラスチック製包装用容器を梱包する本件段ボール箱の表面に,「ECOPAC(エコパック)」を付す行為は,プラスチック製包装用容器についての本件商標の使用には該当しない。 したがって,本件審決の判断は相当である。 第4当裁判所の判断1取消事由1(本件使用権者が指定商品「プラスチック製包装用容器」に本件商標を使用していないとした判断の誤り)について(1)本件商標と本件使用商標との同一性について10ア本件使用商標の称呼及び観念について本件使用商標は,「エコパック」の片仮名文字を横書きにしてなるものであり,その構成文字に応じて「エコパック」の称呼を生じるものである。 そして,近時,「ECO」,「エコ」が「ecology」,「エコロジー」あるいは「economical」,「エコノミカル」の略称として通用していることは,周知であるということができる。 また,「パック」が,「包装容器」の略称として通用していることも,同様に周知であるということができる。 さらに,近時の環境保護に対する意識の高まりを受けて,環境に配慮し,かつ,経済的な容器や包装が用いられるようになっている(甲2の21,甲4の4,5,8,9,11,乙7〜乙13の26)という取引の実情を考慮すると,包装用容器類の取引者及び需要者の間において,「エコパック」は,「経済的で,環境に配慮した包装用容器」を意味する語として定着しているものと認めることができる。 したがって,本件使用商標「エコパック」は,「経済的で,環境に配慮した包装用容器」という観念を有するものということができる。 イ本件商標の称呼について本件商標は,「ECOPAC」の欧文字を同書,同大,等間隔に構成上一体的に表示してなり,その構成文字に相応して「エコパック」の称呼を生ずるものである。 ウ本件商標「ECOPAC」の観念について(ア)「ecology」と「package」あるいは「pack」の省略形について原告は,本件商標「ECOPAC」は,「ecology」の省略形の「ECO」の欧文字と「package」の省略形の「PAC」の欧文字とを結合してなるものであり,本件使用商標と同一の観念を生じると主張する。 この点について,前記のとおり,近時,「ECO」が「ecology」あるいは「economical」の略称として通用していることは,周知であるということができる。 11また,「包装容器」を示す英単語は,「package」あるいは「pack」であるところ,欧文字「PAC」は,「パック」と称呼されるのみならず,特にインターネット取引などにおいて,「package」の省略形として使用されているという取引の実情(甲2)を考慮すると,「PAC」についても,「包装用容器」の意味を読み取ることが可能であるということができる。 したがって,本件商標「ECOPAC」についても,「経済的で,環境に配慮した包装用容器」という観念を有すると解する余地がある。 (イ)本件商標の出願経過における原告の主張についてa拒絶理由通知に対する意見書(乙2)原告は,本件商標の登録出願時,「エコー」の片仮名文字を普通の書体をもって一連に横書きしてなる先願商標又は「EKCO」の欧文字と「エコー」の片仮名文字をそれぞれ普通の書体をもって二段に横書きしてなる先願商標を引用商標として,本件商標は商標法4条1項11号に該当するとの拒絶理由通知を受けた。 原告は,同拒絶理由通知に対する平成2年7月25日付け意見書において,「包装用容器」を指称する外来語として商取引上普通に採択使用されている語は「package」あるいは「pack」であるところ,本件商標(出願経過に関する認定においても,「本願商標」ではなく,「本件商標」という。以下同じ。)の構成中,「PAC」の文字は,指定商品との関係より看取しても,指定商品の品質,用途,用法等を直接記述するものとはいい得ない事情があることを勘案すると,本件商標は,特異の構成よりなるもので,構成文字に相応して,「エコパック」の称呼のみ生じる特定の観念を生じ得ない造語よりなるものと主張していた。 b拒絶査定不服審判における原告の主張(乙3)原告は,本件商標の登録出願が引用商標と「エコ」と「エコー」の称呼においてまぎらわしい類似の商標であるとしてされた拒絶査定に対し,拒絶査定不服審判を申し立てた。 同審判手続において,原告は,拒絶理由通知に対する意見書における主張と同様,12本件商標は,特異の構成よりなるもので,構成文字に相応して,「エコパック」の称呼のみ生じる特定の観念を生じ得ない造語よりなるものであり,本件商標を「ECO」と「PAC」に分離し,「ECO」の文字部分のみを抽出して考察しなければならない特段の理由は存在しないなどと主張した。 特許庁は,平成9年8月27日,本件商標は,原告の主張するとおり,「エコパック」と一連にのみ称呼され,特定の観念を有しない造語よりなるものと判断することが相当であるとして,拒絶査定を取消し,登録すべきものとする旨の審決をした(乙5)。 c商標登録異議の申立てに対する原告の主張(乙4)本件商標の登録査定に対し,商標登録異議の申立てがされた。異議申立人は,本件商標を構成する「ECOPAC」の文字は,「ecology」と「package」との合成語を想起させ,指定商品との関係において,「環境保護に十分配慮した包装容器」を指称する普通名称あるいはそのような容器の品質表示としてのみ認識されるから,本件商標を指定商品に使用した場合には,自他商品識別機能を果たし得ず,それ以外の商品に使用した場合には商品の品質の誤認を生じさせるから,商標法3条1項1号,3号及び同法4条1項16号に該当すると主張するとともに,本件商標は,引用商標と類似の商標であると主張した。 これに対し,原告は,本件商標は,「ECO」と「PAC」とに分離されるものではないし,仮に個々に看取したとしても,「ECO」の文字が「ecology」の略称を表示するものとして普通一般に採択使用されている事実はなく,また,「包装用容器」を指称する外来語として,商品取引上,普通に採択使用されている語は,「package」あるいは「pack」であるから,本件商標の「PAC」とは構成を異にするものである,「ECO」と「PAC」部分が結合された「ECOPAC」と一連と連綴した構成よりなる本件商標は,「環境保護に十分配慮した包装容器」の意味合いを指称するものではないし,包装用容器の普通名称又は品質等を表示するものとして取引者及び需要者が普通に採択使用している事実はなく,原13告により創作された特定の観念を生じ得ない造語として把握し,理解するものであるなどと主張した。 特許庁は,平成9年8月27日,「エコパック」,「ECOPAC」のいずれも,「環境保護に十分配慮した包装用容器」について普通名称又は品質を表示するものとして使用されている事実を認めることはできず,また,本件商標は,原告の主張するとおり,「エコパック」と一連にのみ称呼され,特定の観念を有しない造語であり,観念については比較することができないから,引用商標にも類似しないと判断し,登録を維持する旨の決定をした(乙6)。 (2)検討先に指摘したとおり,現在において,本件使用商標「エコパック」は,「経済的で,環境に配慮した包装用容器」という観念を有するものである。 また,本件商標「ECOPAC」は,「エコパック」の称呼を有するから,「包装容器」を意味する英単語は,「package」あるいは「pack」であることを考慮しても,取引者及び需要者は,本件商標の構成部分「ECO」からは「ecology」の省略形の「ECO」を想起し,さらに,「PAC」からは「包装容器」である「pack」を想起することにより,「経済的で,環境に配慮した包装用容器」という観念を有すると解する余地があることは先に指摘したとおりである。 しかしながら,原告は,そもそも,本件商標の出願経過において,本件商標は,特異の構成よりなるもので,構成文字に相応して,「エコパック」の称呼のみ生じる特定の観念を生じ得ない造語よりなるものであることを繰り返し主張し,拒絶査定不服審判を経て,登録査定されているものである。 特に,原告は,商標登録異議の審理において,本件商標である「ECOPAC」は,「ecology」と「package」との合成語を想起させ,指定商品との関係において,「環境保護に十分配慮した包装容器」を指称する普通名称あるいはそのような容器の品質表示としてのみ認識されるとの異議申立人の主張に対し,本件商標は,「ECO」と「PAC」とに分離されるものではないし,仮に個々に看取したとしても,14「ECO」の文字が「ecology」の略称を表示するものとして普通一般に採択使用されている事実はなく,また,「包装用容器」を指称する外来語として商品取引上,普通に採択使用されている語は,「package」あるいは「pack」であるから,本件商標の「PAC」とは構成を異にするものであって,「ECOPAC」と一連と連綴した構成よりなる本件商標は,「環境保護に十分配慮した包装容器」の意味合いを指称するものではなく,取引者及び需要者は,原告により創作された特定の観念を生じ得ない造語として把握し,理解するものであるなどと主張しているのである。 そして,特許庁において,原告の主張が容れられて,本件商標の登録査定を受け,さらに,登録を維持すべき旨の決定を受けているのである。 したがって,拒絶査定不服審判等における争点と,本件訴訟の取消事由とは必ずしも一致するものではないことや,本件商標と本件使用商標との社会通念上の同一性の判断において,本件商標の登録出願当時(昭和63年)及び拒絶査定不服審判の審決当時(平成9年)と比較して,現在においては環境保護に関する意識が高まっているという社会の情勢を考慮するとしても,原告自身,本件商標の出願経過において,「PAC」は「包装容器」を意味する外来語とは構成を異にするものであって,「ECO」と一連と連綴した構成よりなる本件商標「ECOPAC」は,「環境保護に十分配慮した包装容器」の意味合いを指称するものではなく,取引者及び需要者は,原告により創作された特定の観念を生じ得ない造語として把握し,理解するものであると明確に主張している以上,本件において,原告が,その前言を翻して,本件商標から「環境に優しい包装」の観念が生じるなどと主張することは,禁反言則に反し,許されないものというべきである。 そうすると,本件商標と本件使用商標とが,称呼及び観念において同一であることを前提として,本件商標と本件使用商標とが社会通念上同一であるとする原告の主張を採用することはできない。 (3)小括以上からすると,原告が,本件商標と本件使用商標とが社会通念上同一である15と主張することは許されないから,本件使用権者による本件使用商標の使用をもって,本件商標について,商標法50条1項の「登録商標の使用」に該当するものと認めることはできない。 2取消事由2(原告が指定商品「プラスチック製包装用容器」に本件商標を使用していないとした判断の誤り)について(1)原告と卸売先とのプラスチック製包装用容器の取引についてア原告は,本件卸売先との間で,同社の製品を充填するプラスチック製包装用容器(バイオタッチ 800)に関する取引を行っていた。 原告が,平成19年6月10日に撮影したとするバイオタッチ 800 の梱包状況を示す写真(甲9の1,2。以下,総称して「本件写真」という。)には,外装段ボール箱(本件段ボール箱)の側面に,原告の会社名とともに,「ECOPAC□(エコパック)」と記載されていた。 イ本件卸売先が,平成19年8月21日,同月31日,同年9月6日,同年10月4日付けでそれぞれ作成し,原告に送付した各発注書には,商品名として,「95853593 PO BIOTCH SH CO 800 JP」と記載されていた(乙15)。 ウ原告の営業担当者が,本件卸売先に対して送信した平成19年10月16日付け電子メール(以下「本件メール」という。甲9の3)には,「…弊社にて口付けいたしますバイオタッチ 800ml について,弊社の梱包形態とダンボールの写真を添付致します。現行品と区別するとの事でしたので,ダンボールの違いで,管理可能と思われます。」と記載されていた。 エ原告が,本件卸売先との取引に関し,原告の名張事業所に対して作成した平成19年10月16日付け作業註文書には,品名欄に「SHCO 800JP 95853593」と記載されていた(乙19)。 オ原告が,本件卸売先との取引に関し,平成19年10月17日付けで作成した口付個別規格書(本件規格書)には,商品名欄に「SHCO 800JP 95853593」,外装段ボール種欄に「エコパック」と記載されていた(甲8)。 16カ原告が,平成19年10月18日,同月19日,22日ないし24日付けでそれぞれ作成した製品LOT表には,品名欄に「SHCO 800JP 95853593」と記載されていた(乙18)。 キ原告が平成19年10月19日,同月22日ないし24日,26日付けでそれぞれ作成し,本件卸売先に送付した出荷御案内書には,商品名として,「SHCO 800JP 95853593」と記載されていた(乙17)。 ク原告と本件卸売先との取引に関し,それぞれ作成された荷物受領原票(平成19年10月22日,同月24日ないし26日,29日本件卸売先各受領分。)には,品名として,「PO BIOTCH SHCO 800JP」,「PO BIOTCH SHCO 800JP 95853593」などと記載されていた(乙16)。 ケ原告と,プラスチック製包装容器用外装段ボール箱の購入先との間における取引関係書類(発注書,納品書等)には,外装段ボール箱の品名として,「エコパック」とそれぞれ記載されていた(乙20〜22)。 (2)検討ア原告は,本件卸売先との間において,「バイオタッチ 800」という名称で取引されているプラスチック製包装用容器の外装段ボール箱(本件段ボール箱)に,本件商標を付していることをもって,商標法50条 1 項の「登録商標の使用」に該当するものであると主張するものであって,プラスチック製包装用容器自体に本件商標が付されていると主張するものではない。 実際,本件卸売先との取引において作成された各書類には,いずれも商品名としては,「PO BIOTCH SHCO 800 JP 95853593」,「SHCO 800JP 95853593」等と記載され,本件メールにも,「バイオタッチ 800ml」と記載されていたものであり,本件段ボール箱以外に本件商標「ECOPAC」が表示されていたことはない。 イそして,本件段ボール箱には,確かに本件商標「ECOPAC」が表示されていたが,本件段ボール箱は,バイオタッチ 800 の名称で取引されているプラ17スチック製包装用容器を注文主である本件卸売先に納品するために使用されているものと認め得るにすぎない。本件段ボール箱には,梱包された商品がどのようなものであるかに関する表示はされておらず,また,本件写真によると,梱包された商品は,注文主である本件卸売先自身が内容物を充填し,各種印刷を施した上で商品として販売することが予定されているようであり,その外面には,何の記載もされていないものであって,梱包された商品にも,本件商標「ECOPAC」が表示されているものではない。 したがって,バイオタッチ 800 が収納されている本件段ボール箱に本件商標「ECOPAC」が表示されていたとしても,内容物であるバイオタッチ 800 との関連性はなく,当該表示がバイオタッチ 800 の出所を表示しているものということはできないから,バイオタッチ 800 という名称のプラスチック製包装用容器について,本件商標が使用されているものという余地もなく,商標法2条3項1号の「商品…に標章を付する行為」には該当しない。 この点について,原告は,商標法50条1項にいう「登録商標の使用」とは,商標がその指定商品について何らかの態様で使用されていれば足りると主張するが,そもそもバイオタッチの容器であるプラスチック製包装用容器に本件商標が使用されているという余地がないのであるから,原告の主張は,その前提を欠き,採用することができない。 ウ以上からすると,本件指定商品のプラスチック製包装用容器ではなく,これを梱包するにすぎない外装段ボール箱の表面に,商標「ECOPAC(エコパック)」を付したからといって,本件商標の指定商品であるプラスチック製包装用容器に本件商標を使用したものと認めることはできない。 3小括以上の検討結果によれば,本件商標の指定商品中,第20類「プラスチック製包装用葉,その他の木製・竹製又はプラスチック製の包装用容器」について,本件使用権者及び原告の使用を認めなかった本件審決の判断は,これを是認し得ることが18明らかである。 原告は,本件商標の指定商品中,第16類「紙製包装用容器」についての使用に関し,何ら主張していない。 したがって,本件商標の指定商品中,第16類「紙製包装用容器」及び第20類「プラスチック製包装用葉,その他の木製・竹製又はプラスチック製の包装用容器」について不使用取消しを認めた本件審決の判断に,誤りはない。 4結論以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。 |
裁判長裁判官 | 滝澤孝臣 |
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裁判官 | 本多知成 |
裁判官 | 荒井章光 |