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関連審決 不服2009-14177
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成22行ケ10102審決取消請求事件 判例 商標
平成21行ケ10396審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  識別機能 /  指定商品 /  指定役務 /  ありふれた名称 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項11号 /  結合商標 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  補正 /  存続期間 /  更新登録 /  非類似 /  商号 /  同業者 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10139号 審決取消請求事件
原告株式会社ニューみやこ
同訴訟代理人弁理士 小林か おる畠山文夫
被告特 許庁長官
同 指定代理人稲村秀子芦場松美豊田純一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/09/08
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2009-14177号事件について平成22年3月29日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)原告は,平成20年6月25日,「こころをなでる静寂みやこ」の文字を標準文字で表し,指定商品を第43類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,動物の宿泊施設の提供,保育所における乳幼児の保育,高齢者用入所施設の提供(介護を伴うものを除く。),会議室の貸与,展示施設の貸与,布団の貸与,業務用加熱調理機械器具の貸与,業務用食器乾燥機の貸与,業務用食器洗浄機の貸与,加熱器の貸与,調理台の貸与,流し台の貸与,カーテンの貸与,家具の貸与,壁掛けの貸与,敷物の貸与,タオルの貸与」とする商標(以下「本願商標」という。)の登録出願(商願2008-50747号)をし(甲3),同21年3月30日付けの手続補正書によって,指定役務を「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,会議室の貸与,展示施設の貸与,布団の貸与,カーテンの貸与,家具の貸与,壁掛けの貸与,敷物の貸与,タオルの貸与」に補正したが(甲4),拒絶査定を受けたので,同年8月7日,これに対する不服の審判を請求した。
(2)これに対し,特許庁は,原告の請求を不服2009-14177号事件として審理し,平成22年3月29日に「本件審判の請求は,成り立たない。」とする本件審決をし,同年4月8日,その謄本は原告に送達された。
2本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,要するに,本願商標と別紙引用商標目録記載の引用商標とは,相紛れるおそれのある類似の商標であり,かつ,指定役務が同一又は類似のものを含むものであるから,商標法4条1項11号に該当し登録を受けることができない,というものである。
3取消事由本願商標が引用商標に類似するとした判断の誤り第3当事者の主張〔原告の主張〕本願商標は,以下の(1)ないし(3)のとおり,引用商標とは非類似であるにもかかわらず,両者が類似すると判断した本件審決は,違法なものとして取り消されるべきである。
(1)本願商標から生ずる称呼についてア本件審決は,簡易迅速を尊ぶ取引の実際にあっては,本願商標に接する取引者,需要者は,比較的記憶しやすい平易な語である後半の「みやこ」の文字部分に着目し,これより生ずる「ミヤコ」の称呼をもって取引に資する場合も決して少なくないと判断するのが相当であると説示する。
しかしながら,Google の検索結果によると,「みやこ」を含む旅館等は極めて数多く存在すること(甲5,6)から,「ミヤコ」の称呼をもって取引に資する場合も少なくないというのは,他の「みやこ」と識別した上であることが前提となる。
また,Google の検索結果によると,出願人施設の営業表示は,「みやこ」ではなく「こころをなでる静寂みやこ」と表示されている(甲5,6)。したがって,需要者は,多くの「みやこ」が存在するという実情を認識した上で本願商標に接することになる。
イ本願商標は,横書きに一列標記されていることから需要者の注意をひくのは左側の「こころをなでる」である。これに加えて,本願商標は,「静寂」のみが漢字表記される以外はすべて平仮名表記がされているため,需要者の注意をひくのは中央に配置された「静寂」でもある。
そして,上記のように「みやこ」が多数存在する実情から,需要者は「こころをなでる」や「静寂」と「みやこ」とを組み合わせた態様で認識するものといえる。
ウしたがって,本願商標「こころをなでる静寂みやこ」から生じる称呼は,「ココロヲナデルセイジャクミヤコ」,「ココロヲナデルセイジャク」,「ココロヲナデル」,「セイジャク」,「セイジャクミヤコ」であり,「ミヤコ」のみの称呼を生じることはない。
エさらに,「みやこ」については,引用商標のような登録商標が存在するとはいえ,同業者間で多用されている。例えば,Google の検索結果によると,約17万8000件の「旅館みやこ」(甲5),約777万件の「みやこ」(甲6),約633万件の「旅館都」(甲7),約6680万件の「都」(甲8)にそれぞれヒットする。これらはいずれも,本願商標の指定役務である「宿泊施設の提供」を業として営む者を多く含む。
このように「ミヤコ」という称呼を含む商標や営業表示が同業者間で多用されている現実は,需要者も旅館等には「ミヤコ」という称呼を生ずる言葉が含まれるものが多いことを承知しており,商標そのものの個別具体的な外観,商標とその他の文字図形等との組合せ態様等,商標以外の構成部分を考慮して識別する実情があることを裏付ける。すなわち,「ミヤコ」という称呼を含む商標単独での使用以外の使用方法を採用することにより,「都」,「みやこ」及び「ミヤコ」は,それぞれすみ分けを図ることが旅館・ホテル業界では可能となっている。
したがって,需要者が本願商標の後半の構成部分である「みやこ」の文字部分のみに着目することはないと判断すべきである。
(2)本願商標から生ずる観念について「みやこ」の文字部分が分離して存在するとの理由だけで「都」等の観念を生ずるとするべきではない。
引用商標の漢字表記の「都」は,「ミヤコ」又は「ト」という称呼を生じる。そして,インターネットの Wikipedia(甲9)によると,「都(みやこ)」は,?「宮処(みやどころ,みやこ)」から転じた言語で,天皇の宮殿のあるところをいう言葉であり,古代の難波京(大阪),平城京(奈良),平安京(京都)など,現在では京都及び東京とされ,?上記の意味が転じて,政治や行政の中枢機関が置かれた都市,統治システムの階層ごとにその中枢が設置される都市があるため,国家レベルの中枢都市は「首都」といい,広域自治体(米国では州,日本では都道府県)レベルの中枢都市は「州都」,「道都」,「県都」などという,?都会,?何かを特徴とする都会をいい,「花の都・パリ」,「水の都・大阪」「杜の都・仙台」というように用いられ,都市を形容する通称といった意味があると説明されている。
また,インターネット So-net 辞書(甲10)によると,「都(みやこ)」は,?皇居のある所,?首府,首都,?政治・経済・文化の中心としてにぎやかな所,都会,あることが盛んであったり特徴であったりする都会といった意味があると説明されている。
これらを勘案すると,引用商標は,「都」が大きく表示されていることから,皇居所在地,政治や行政の中枢機関が置かれた都市,都会を観念させるものといえる。
他方,本願商標は,「みやこ」がスペースを置いて標記されているとはいえ,前半がやや冗長であることから一字分のスペースを置いて「みやこ」と記載したにすぎず,あくまで「こころをなでる静寂」を特徴とする「みやこ」を観念させるものである。さらに,本願商標は,「みやこ」と平仮名表記されていることから,都会というよりは,都会のけん騒から離れた静かな場所(田舎)を観念させるものであって,引用商標の観念とは一線を画する。
以上のとおり,本願商標は,全体として「都」の観念を生ずるということはない。
(3)具体的出所の混同についてア業種面からの具体的出所の混同の有無現実のホテル・旅館の取引界においては,シティーホテル,コミュニティホテル,ビジネスホテル,リゾートホテル,旅館,温泉旅館,民宿等として,立地・規模・使用目的に応じてカテゴリー分けされている。
この点について,引用商標の権利者である近畿日本鉄道株式会社は,そのホームページにおいて,都ホテルズ&リゾーツとの表示を用い,シティーホテルやリゾートホテルとして,シェラトン都ホテル東京,金沢都ホテル,岐阜都ホテル,四日市都ホテル,津都ホテル,志摩観光ホテル,ホテル志摩スペイン村,プライムリゾート賢島,ホテル近鉄アクアヴィラ伊勢志摩,ウェスティン都ホテル京都,新・都ホテル,奈良ホテル,シェラトン都ホテル大阪,天王寺都ホテル,博多都ホテル,沖縄都ホテル及び都ホテル・ロサンゼルスで事業展開を行っている。これらのホテルのうち「都」が含まれるものは,十数か所のホテルであって,これらのホテルにおいて引用商標が使用されている。
他方,本願商標の出願人である原告の施設は,いわゆる温泉旅館である(甲11)。
以上のとおり,引用商標と本願商標との使用場所やこれが使用されるホテル・旅館規模,対象とする需要者層,具体的なサービス内容の一部は全く異なる。特に,需要者層やサービス内容についてみると,引用商標については,出張,結婚式・各種宴会,都会で休日を過ごすことを目的とする需要者が引用商標に接することになるが,本願商標については,田舎の静かな温泉でおいしい物を食べてゆっくり過ごすというサービスを受けようという目的を持つ需要者層が本願商標に接することになる。
したがって,同一称呼を含み,場所を示すという意味で観念が共通する言葉を有するという理由のみで,本願商標が引用商標と類似すると判断することは,取引の実情に照らして妥当ではなく,需要者が,引用商標と本願商標との間で具体的出所の混同を生ずることはない。
イ「みやこ」と「都」とのすみ分けからの具体的出所の混同の有無現実のホテル・旅館の取引界では,「みやこ」や「都」が多用されている(甲5〜8,12)。
このように,引用商標が存在するにもかかわらず,「みやこ」が多用されているのは,旅館業界・ホテル業界において,少なくとも,「みやこ」と「都」とは十分なすみ分けが意識的に図られている結果である。
すなわち,Google の検索の「旅館みやこ」(甲5),「旅館都」(甲7)及び「都」(甲8)では,スポンサーリンクの欄で引用商標の商標権者の「都ホテル」が表示されるが,これによって,需要者は他の「ミヤコ」という称呼を含む商標の識別が十分可能である。ここで,「旅館みやこ」の場合(甲5)においても,「都ホテル」がスポンサーリンクされているのは,引用商標の商標権者の役務は宿泊施設の提供という点では旅館業務と共通するため,需要者のタイプミス(都とタイプすべきところをミヤコとタイプする等)にも対処できるようにしたためと推察される。他方,「みやこ」の場合(甲6)では,「都ホテル」はスポンサーリンクすらされていないが,これは,「みやこ」と「都」とでは,イメージ(観念)が全く異なり,同列で比較すべきではないという意図の表れである。さらに,「都」の場合(甲8)では,引用商標の商標権者の各系列ホテルが上位でヒットする一方,「みやこ」を含む温泉旅館は見当たらない。これは「都」が,皇居所在地,都会,都市をイメージ(観念)させることを物語っている。
これらを勘案すると,ホテル・旅館業界においては,「都」と「みやこ」とは,別個の商標として認識されており,すみ分けが可能であって,「都」と「みやこ」とでは具体的出所の混同は生じないということができる。
以上のとおり,みやこ・都・ミヤコ等の「ミヤコ」という称呼を含む商標は,他の構成部分との組合せやその具体的態様によって識別力を発揮していると考えるべきである。その意味において,「ミヤコ」という称呼を含む商標は,出所の混同を生ずる範囲が極めて狭く,一般的には商標の構成一部のみに着目して出所の混同を生ずると擬制される態様であっても,「商標の構成全体として同一称呼及びこれと紛らわしい称呼」ということができない限りにおいては,具体的出所の混同は生じないと判断すべきであり,これが取引の実情に沿う。
したがって,引用商標が「都」と中央に大きく表示されるのに対して,本願商標が「こころをなでる静寂みやこ」とスペースを置いても全体として同じ比重で表示されている以上,本願商標は,引用商標とは「ミヤコ」という称呼を共通にするだけであって,「商標の構成全体として同一称呼及びこれと紛らわしい称呼」ということはできず,具体的出所の混同は生じない。
以上によると,本願商標は,引用商標とは非類似であり,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした本件審決は取り消されるべきである。
〔被告の主張〕以下の(1)ないし(3)のとおり,原告の主張は理由がなく,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした本件審決の判断には違法はない。
(1)本願商標から生ずる称呼についてア本願商標は,「こころをなでる静寂みやこ」の文字を標準文字で表してなるところ,その構成において,「こころをなでる静寂」の文字と「みやこ」の文字との間には,一文字程度の空白(スペース)を有していることから,「こころをなでる静寂」の文字と「みやこ」の文字とは,外観上分離して看取されるものである。
イ本願商標は,その構成文字全体から,特定の熟語的な意味合いを生ずるとはいい難いものである。特に,本願商標の指定役務中「宿泊施設の提供」の業界,すなわち,宿泊施設を提供する旅館やホテル等の業界においては,宿泊施設の雰囲気,そのコンセプト等を記述的に記載した宣伝,広告のためのキャッチコピーといえるような内容を表した文言を,その営業に当たってごく普通に用いている事情にあることは通常よく見受けられるところである。
そして,そのような文言に次いで宿泊施設の名称を表示している例が,多数存在する(乙1〜20)。
さらに,本願商標の指定役務中「宿泊施設の提供」との関係において,「こころをなでる」や「静寂」の語は,宿泊施設の雰囲気等を説明する文言に用いられている(乙20〜24)。
これらの取引の実情に照らしても,本願商標の構成前半の「こころをなでる静寂」の文字部分は,宿泊施設の雰囲気,そのコンセプト等を記述的に記載した宣伝,広告のためのキャッチコピーのように理解させるものといえるから,上記文字部分は,本願商標の指定役務中「宿泊施設の提供」との関係においては,強い出所識別標識としての機能を果たす部分とはいえないものであって,構成後半の「みやこ」の文字部分が,宿泊施設の名称を表したものと理解,認識させるものということができ,強い自他役務の識別標識としての機能を果たすものというのが相当である。
ウ本願商標は,「こころをなでる静寂みやこ」の構成文字全体から,「ココロヲナデルセイジャクミヤコ」の称呼を生ずるものであるところ,その音数は14音で,全体として冗長といえるものであって,一連の称呼を生ずるほか,構成の一部から生ずる称呼をもって取引に資されることも少なくないというのが相当である。
エ以上のとおりの本願商標の外観,観念及び称呼上の分離性並びに取引の実情を考慮すると,本願商標の構成後半の「みやこ」の文字部分が,宿泊施設の名称を表したものと理解,認識されるものであって,強い自他役務の識別標識としての機能を果たす要部としてとらえられるものというべきである。
そして,上記証拠資料から,「みやこ」及び「都」の文字が,本願商標及び引用商標の指定役務中「宿泊施設の提供」との関係において,役務の質等やありふれた名称を表示するものであるなどとはいえず,これらの文字が,自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないものとみるべき事情はないといえるものである。
そうすると,「ミヤコ」という称呼を含む商標単独での使用以外の使用方法を採用することにより,「都」「みやこ」「ミヤコ」は,それぞれすみ分けを図ることが旅館・ホテル業界では可能となっているとの,あたかも「みやこ」や「都」及び「MIYAKO」の文字部分が自他役務の識別標識として機能しないかのような原告の主張は,「都」及び「MIYAKO」の文字部分が要部であると考えられる引用商標の権利範囲を理由もなく狭くみるものであり,かつ,本願商標の要部の認定判断を誤った主張であって,適切なものとはいえない。
(2)本願商標から生ずる観念について前記(1)アないしウのとおりの本願商標の外観,観念及び称呼上の分離性,取引の実情を考慮すると,本願商標は,構成後半の「みやこ」の文字部分が宿泊施設の名称を表したものと理解・認識されるものであって,強い自他役務の識別標識としての機能を果たす要部としてとらえられるものというべきである。
以上によると,本願商標は,原告主張のように「こころをなでる静寂」を特徴とする「みやこ」のみを観念させるものとはいえず,構成中の「みやこ」の文字部分から生ずる観念をもって取引に資されるものといえる。
そして,本願商標の構成中の「みやこ」の文字が,「都」を意味する語であることは,広辞苑等の辞書(乙25〜27)からもいうことができるものである。
さらに,これらの辞書やインターネット上の辞典(甲9,10)をみても,「みやこ」の文字が,「都会のけん騒からはなれた静かな場所(田舎)」を意味する語として掲載されている事実もない。
そうとすると,本願商標の構成中「みやこ」の文字が,需要者等に「都会のけん騒からはなれた静かな場所(田舎)」の意味合いを看取させるものとはいえない。
したがって,原告の上記主張は,失当である。
(3)具体的出所の混同についてア業種面からの具体的出所の混同の有無本願商標及び引用商標に共通する指定役務「宿泊施設の提供」の表示は,「シティーホテル・リゾートホテルの提供」や「温泉旅館の提供」のように限定されたものではないから,本願商標と引用商標との使用場所が異なるとする原告の主張は,その前提において失当である。
また,引用商標がシティーホテルやリゾートホテルにおいて使用され,本願商標が温泉旅館で使用されるものであるとしても,このような役務の需要者は,「宿泊施設を利用する者」であって,「シティーホテルやリゾートホテルを利用する者」と「温泉旅館を利用する者」とが,例えば,性別や年齢層等によってその需要者層が明確に区別されるような実情があるものではないから,本願商標及び引用商標に接する需要者層が異なるとすることはできない。
さらに,「シティーホテルやリゾートホテルの提供」や「温泉旅館の提供」であっても,宿泊施設を提供することがサービスの目的であるから,シティーホテルやリゾートホテルにおいて提供されるサービスと温泉旅館において提供されるサービスとは,同じものといえるものである。
したがって,原告の主張は,失当である。
イ「みやこ」と「都」とのすみ分けからの具体的出所の混同の有無本願商標は,その構成中,独立して,自他役務の識別標識としての機能を果たす要部として看取される「みやこ」の文字部分より,「ミヤコ」の称呼及び「都」等の観念を生ずるものである。
他方,引用商標は,その構成中,独立して,自他役務の識別標識としての機能を果たす要部として看取される「都」及び「MIYAKO」の文字部分より,「ミヤコ」の称呼及び「都」の観念を生ずるものである。
そうすると,本願商標と引用商標とは,「ミヤコ」の称呼及び「都」の観念を共通にするものである。
そして,「みやこ」あるいは「都」等の文字に他の文字を結合させ,一体的に表された構成態様の例が多く見受けられるものであり(甲5〜8,12),本願商標及び引用商標の構成態様とは異なるものであることから,これらの例をもって,本願商標と引用商標との類否についての判断を左右するものとはいえない。
また,「みやこ」,「都」及び「MIYAKO」の文字が,「宿泊施設の提供」との関係において,役務の質やありふれた名称を表示する等という事由を見いだすこともできない。
そうとすると,本願商標の構成中の「みやこ」の文字及び引用商標の構成中の「都」及び「MIYAKO」の文字は,自他役務の識別標識としての機能を果たすものであり,このような文字部分は,共に両商標の要部としてとらえられるものであるから,「みやこ」あるいは「都」等の文字に他の文字を結合させた構成態様の例が多く見受けられること(甲5〜8,12)によって,本願商標と引用商標とが類似する商標であるとの判断を左右するものとはいえない。
引用商標と類似する商標である本願商標を登録することは,その指定役務の取引に混乱を生じさせるおそれがあるものであるから,適切とはいえない。
したがって,本願商標と引用商標とは,「ミヤコ」の称呼及び「都」の観念を共通にする類似の商標であって,かつ,本願商標の指定役務中「宿泊施設の提供,飲食物の提供」と,引用商標の指定役務中「宿泊施設の提供,日本料理を主とする飲食物の提供,西洋料理を主とする飲食物の提供,中華料理を主とする飲食物の提供,アルコール飲料を主とする飲食物の提供,コーヒー・清涼飲料を主とする飲食物の提供」とは,同一又は類似の役務であるから,本願商標をその指定役務に使用するときは,役務の出所の混同を生ずるおそれがあるといわざるを得ない。
第4当裁判所の判断1商標の類比判断について商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
しかるところ,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されないが,他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
そこで,以上説示した見地から本願商標と引用商標との類否について検討することとする。
2本願商標について(1)外観本願商標は,標準文字によって,「こころをなでる静寂みやこ」と12文字を横書きしてなるものである。そして,1ないし9字目の「こころをなでる静寂」と10ないし12字目の「みやこ」との間には,1文字分程度の空白が存在し,視覚上,両者は分離してみることができるものである。
(2)観念本願商標の「なでる」には,「手のひらでやさしくさする。いつくしむ。かわいがる。大事にする。」との意味があり(広辞苑〔第6版〕),「こころをなでる静寂」とは,「静寂が心をいつくしむ,大事にする」との観念が生ずるものということができる。また,「みやこ」からは,?帝王の宮殿のある所,?首府,首都,?人口が密集し,政治・経済・文化などの中心地となる繁華なところなどの意味のある「都」(乙25〜27)や,地名である「宮古」との観念が生ずることがあるものと認められる。
他方,「こころをなでる静寂」又は「静寂」と「みやこ」との間には一般的な関連性を認めることができず,本願商標の構成全体からは,特定の観念が生ずるということはできない。
そして,本願商標のうちの「こころをなでる静寂」は,指定役務のうちの「宿泊施設の提供」に係る旅館・ホテル等における宿泊施設の雰囲気を表す語句や広告文(キャッチコピー)としての意味を有し得るものであり,また,「みやこ」は,地名や名前等の固有名詞として存在し得るものであることからすると,指定役務のうちの「宿泊施設の提供」についてみると,「こころをなでる静寂」との語句は,「みやこ」との名称の宿泊施設の雰囲気を表す語句や広告文とみることができ,役務の質とみることができるから,「みやこ」の部分について,取引者,需要者に対し,役務の出所識別機能を有するものとして強く支配的な印象を与えるものとみることができる。
(3)称呼本願商標は,「ココロヲナデルセイジャクミヤコ」と称呼が比較的長く,また,上記(1)及び(2)のとおり,全体として一個不可分の概念を示すものとは認められない12文字から成る外観が比較的長い商標であり,反面,「心をなでる静寂」と「みやこ」とからはそれぞれ一定の観念が生じ,簡易迅速性を重んずる取引の実際においては,その一部分だけによって簡略に表記ないし称呼され得るものということができるから,「ココロヲナデルセイジャクミヤコ」の外に,「みやこ」の文字部分に相応した「ミヤコ」の称呼も生ずるものということができる。
3引用商標について(1)外観引用商標は,別紙引用商標目録のとおり,中央に「都」の文字があり,その周りに円弧状に,上部に「MIYAKOHOTELS」の文字,下部に「KINTETSUGROUP」の文字を配した構成よりなるものであるところ,このうちの「都」の文字部分は,中央に大きく表されており,引用商標を見る者は,「都」の文字に着目することになる。
(2)観念引用商標は,上部に「MIYAKOHOTELS」の文字が配されており,このうちの「HOTELS」の文字部分は,引用商標の指定役務のうちの「宿泊施設の提供」に関係した「ホテル」や「ホテル業」を認識させる役務の内容を示すものであるから,中央に大きく表された「都」と併せて,「都」との観念及びホテル名としての「都」及び「MIYAKO」との観念が生ずるものということができ,「都」及び「MIYAKO」の各部分について,取引者,需要者に対し,役務の出所識別機能を有するものとして強く支配的な印象を与えるものとみることができる。
(3)称呼引用商標は,上部から順に,「MIYAKOHOTELS」,「都」及び「KINTETSUGROUP」ごとに分けてみることができるものであるところ,これらは,全体として一個不可分の既成の概念を示すものとは認められず,また,欧文字で25字,漢字で1字から成る外観及び称呼が比較的長い商標であるから,簡易迅速性を重んずる取引の実際においては,その一部分だけによって簡略に称呼され得るものであるということができ,構成の一部である「ミヤコ」との称呼も生ずるものということができる。
4本願商標と引用商標との類否について以上によると,本願商標と引用商標とは,その外観が異なるが,いずれも,「都」との観念及び「ミヤコ」との称呼を有する類似の商号ということができる。
また,本願商標と引用商標とは,いずれも指定役務において「宿泊施設の提供」において共通し,また,本願商標の「飲食物の提供」は,引用商標の「日本料理を主とする飲食物の提供,西洋料理を主とする飲食物の提供,中華料理を主とする飲食物の提供,アルコール飲料を主とする飲食物の提供,コーヒー・清涼飲料を主とする飲食物の提供」を含むものであって,本願商標の指定役務のうちの「宿泊施設の提供,飲食物の提供」と引用商標の指定役務のうちの「宿泊施設の提供,日本料理を主とする飲食物の提供,西洋料理を主とする飲食物の提供,中華料理を主とする飲食物の提供,アルコール飲料を主とする飲食物の提供,コーヒー・清涼飲料を主とする飲食物の提供」とは類似する役務であるということができる。
そして,引用商標の権利者は,我が国有数の鉄道会社である近畿日本鉄道株式会社であり(甲1),同社の関連会社は,大手ホテルチェーンとして,都ホテルズ&リゾーツとの表示を用い,シティーホテルやリゾートホテルとして,シェラトン都ホテル東京,金沢都ホテル,岐阜都ホテル,四日市都ホテル,津都ホテル,志摩観光ホテル,ホテル志摩スペイン村,プライムリゾート賢島,ホテル近鉄アクアヴィラ伊勢志摩,ウェスティン都ホテル京都,新・都ホテル,奈良ホテル,シェラトン都ホテル大阪,天王寺都ホテル,博多都ホテル,沖縄都ホテル及び都ホテル・ロサンゼルスと,広く事業展開を行っており(弁論の全趣旨),これらのホテルチェーン名及びうち12のホテル名には「都」が存在し,引用商標が使用されているものと解されるから,「都」との観念及び「ミヤコ」との称呼が引用商標と共通する本願商標を,その指定役務のうちの「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,会議室の貸与」に使用するならば,取引者,需要者に対して,その出所について誤認混同を生ずるおそれがあるということができる。
したがって,本願商標は,商標法4条1項11号に該当するものとして,商標登録を受けることができないものというべきである。
5原告の主張について(1)原告は,本願商標から生じる称呼は,「ココロヲナデルセイジャクミヤコ」,「ココロヲナデルセイジャク」,「ココロヲナデル」,「セイジャク」,「セイジャクミヤコ」であり,「ミヤコ」のみの称呼を生じるものではなく,「ミヤコ」という称呼を含む商標や営業表示が同業者間で多用されている現実によると,需要者が本願商標の後半の構成部分である「みやこ」の文字部分のみに着目することはないと主張する。
しかしながら,前記2のとおり,本願商標の外観,観念及び称呼の点からみると,本願商標においては,「ミヤコ」のみの称呼も生じ得るところであって,これに対応する「みやこ」の部分も,取引者,需要者に対し,役務の出所識別機能を有するものとして強く支配的な印象的を与えるものであって,「ミヤコ」のみの称呼が生じないことを前提とする原告の主張は失当というほかない。
(2)原告は,漢字表記の「都」との対比で,「都」は都市,都会を観念させるが,平仮名表記の「みやこ」は都会のけん騒から離れた静かな場所(田舎)を観念させると主張するが,「都」や「みやこ」が,過去に首都が置かれたが現在は都会のけん騒から離れた土地となった「古都」との意味で使用されることがあるとしても,「都」との対比で,漢字表記の「都」が都市,都会を観念させ,平仮名表記の「みやこ」が都会のけん騒から離れた静かな場所(田舎)を観念させるという原告の主張は,独自の見解に基づく主張であって,これを採用し得る根拠がない。
(3)原告は,引用商標が使用されているのはシティーホテルやリゾートホテルであるのに対し,本願商標の出願人である原告の施設は温泉旅館であるから,引用商標と本願商標との使用場所やこれが使用されるホテル・旅館規模,対象とする需要者層,具体的なサービス内容の一部は全く異なると主張する。しかしながら,引用商標が使用されているのがシティーホテルやリゾートホテルであったとしても,本願商標の指定役務中には,シティーホテルやリゾートホテルの業務としても存在する「宿泊施設の提供,飲食物の提供,会議室の貸与」等が含まれているものであって,これらの役務について温泉旅館に限定されているものではないから,本願商標と引用商標との使用場所やこれが使用されるホテル・旅館規模,対象とする需要者層,具体的なサービス内容の一部は全く異なるとの原告の主張もまた,失当といわざるを得ない。
6結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。
追加
(別紙)引用商標目録商標登録番号:第3171360号(甲1)商標の構成:指定役務:平成13年経済産業省令第202号による改正前の商標法施行規則別表第42類「宿泊施設の提供,日本料理を主とする飲食物の提供,西洋料理を主とする飲食物の提供,中華料理を主とする飲食物の提供,アルコール飲料を主とする飲食物の提供,コーヒー・清涼飲料を主とする飲食物の提供,美容,理容,入浴施設の提供,写真の撮影,婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供,あん摩,マッサージ及び指圧」出願日:平成4年9月29日設定登録日:平成8年6月28日更新登録日:平成18年6月6日存続期間満了日:平成28年6月28日
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 荒井章光