審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成19ワ28855販売差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
平成18ワ26725商標権侵害差止等請求事件 平成19ワ15580商標権侵害不存在確認等請求事件 | 判例 | 商標 |
平成13ネ6316商標権侵害に基づく損害賠償請求控訴,同附帯控訴事件 平成14ネ1980商標権侵害に基づく損害賠償請求控訴,同附帯控訴事件 | 判例 | 商標 |
平成12ワ15912商標権侵害に基づく損害賠償請求事件 | 判例 | 商標 |
平成13ネ5605商標権侵害差止等請求控訴事件 平成14ネ5060同附帯控訴事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 包装 / 指定商品 / 類似性(類否判断) / 損害額 / 使用料相当額 / 先使用(32条) / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 国内 / 警告 / 過失の推定 / 並行輸入 / 同一の商品 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
21年
(ワ)
123号
損害賠償請求事件
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スイス連邦<以下略> 原告カルティエ インターナショナル アーゲー 訴訟代理人弁護 士加藤義明 同 町田健一 同 木村育代 同 松永章吾 訴訟代理人弁理 士アインゼル・フェリックス=ラインハルト 補 佐人弁 理士山崎和香子東京都世田谷区<以下略> 被告A 訴訟代理人弁護 士松島基之 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2010/08/31 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1被告は,原告に対し,150万5666円及びこれに対する平成21年1月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2原告のその余の請求を棄却する。 3訴訟費用は,これを7分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。 4この判決の第1項は,仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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請求
被告は,原告に対し,175万2975円及びこれに対する平成21年1月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は,後記商標権の商標権者である原告が,有限会社ヨーロピアントレーディング(以下「ET社」という。)の代表者として別紙標章目録1-1ないし2-3記載の各標章(以下,それぞれを「本件標章1-1」などといい,これらを総称して「本件各標章」という。)を付したキーホルダーを販売した被告の行為が原告の商標権を侵害するものであり,これによって被告は,原告に対し,平成17年法律第87号による廃止前の有限会社法(以下「旧有限会社法」という。)30条ノ3第1項に基づく取締役の第三者に対する損害賠償責任又は不法行為に基づく損害賠償責任を負うと主張して,被告に対し,旧有限会社法30条ノ3第1項又は民法709条に基づき,商標使用料相当額の損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の支払を求める事案である。 1争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)(1) 当事者等ア(ア)原告(旧名称・「カルティエインターナショナルナムローゼフエンノートシャップ」)は,宝飾品,腕時計,キーホルダー等を製造し,販売することを業とするスイス連邦の法人である。 原告が製造,販売する商品に係る「カルティエ」のブランドは,世界有数の高級宝飾品・腕時計ブランドとして,国際的にも,国内的にも高い著名性を有している。 (イ)リシュモンジャパン株式会社(以下「リシュモンジャパン」という。)は,原告の国内総販売代理店である。 イET社は,平成16年1月21日に設立された,服飾アクセサリー,装身具の輸出入,販売等を目的とする有限会社であり,主として海外のブランドに係る服飾品,アクセサリー等の並行輸入品の販売を業として行っていた。 被告は,平成16年1月21日から平成18年1月16日までの間,ET社の唯一の取締役として,代表者たる地位にあった者である。 (2) 原告の商標権原告は,別紙原告商標権目録1及び2記載の各商標権(以下,同目録1記載の商標権を「本件商標権1」,その登録商標を「本件登録商標1」,同目録2記載の商標権を「本件商標権2」,その登録商標を「本件登録商標2」といい,本件商標権1及び本件商標権2を併せて「本件各商標権」,本件登録商標1及び本件登録商標2を併せて「本件各登録商標」という。)の商標権者である。 (3) ET社におけるキーホルダーの販売等アET社は,平成17年6月14日から同年8月19日までの間に,株式会社ハンナ(以下「ハンナ」という。)に対し,原告が製造,販売するキーホルダー(商品名ダブルCキーリング,商品番号T1220190。以下「ダブルCキーリング」という。)の真正商品として,キーホルダー1113個(包装用内袋及び包装用箱に入ったもの。以下「本件各キーホルダー」という。)を販売した。 イハンナは,平成17年6月15日から同年9月1日までの間に,株式会社ウエニ貿易(以下「ウエニ貿易」という。)に対し,ダブルCキーリングの真正商品として,ET社から仕入れたキーホルダー(合計1282個)を販売した(甲5ないし8,10)。 (4) 本件各標章と本件各登録商標の類似性等アリシュモンジャパンの技術責任者F作成の2009年9月9日付け鑑定書(甲14。以下「甲14の鑑定書」という。)において鑑定の対象とされたキーホルダー1113個(甲14の鑑定書添付の別紙1記載の「key ?」欄の?1ないし1113)のうち,673個(?64,122,155ないし355,393,420,448,508,552ないし695,791ないし1112。以下「キーホルダー1」と総称する。)には被告標章1-1が,その包装用内袋には被告標章1-2が,その包装用箱には被告標章1-3がそれぞれ付され,残りの440個(以下「キーホルダー2」と総称する。)には被告標章2-1が,その包装用内袋には被告標章2-2が,その包装用箱には被告標章2-3がそれぞれ付されている(甲14,検甲2ないし13,弁論の全趣旨)。 イ本件各標章(別紙標章目録1-1ないし2-3記載の各標章)と本件各登録商標(別紙原告商標目録1及び2記載の各商標)とをそれぞれ対比すると,いずれも「カルティエ」の称呼を生じ,高級宝飾品・腕時計ブランドとして著名な「カルティエ」の観念を生じる点において共通し,本件各標章は本件各登録商標と類似する。 また,本件各商標権の指定商品には,キーホルダー1及びキーホルダー2と同一の商品である「キーホルダー」が含まれている。 2 争点本件の争点は,次のとおりである。 (1)キーホルダー1及びキーホルダー2は,本件各キーホルダーと同一のものか(争点1)。 (2)ET社における本件各キーホルダーの販売は並行輸入された真正商品の販売として,本件各商標権侵害としての実質的違法性を欠くか(争点2)。 (3)被告の取締役としての第三者に対する損害賠償責任(旧有限会社法30条ノ3第1項)の成否(具体的には,本件各キーホルダーの販売に関し,被告に,ET社の取締役の職務を行うについての悪意又は重過失があったか。)(争点3)。 (4)被告の不法行為に基づく損害賠償責任の成否(具体的には,?ET社における本件各キーホルダーの販売について,被告個人の不法行為が成立するか,?本件各キーホルダーの販売に関し,被告に,原告の商標権侵害についての故意又は過失があったか。)(争点4)。 (5) 原告の損害額(争点5)。 |
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争点に関する当事者の主張
1争点1(キーホルダー1及びキーホルダー2と本件各キーホルダーとの同一性)について(1) 原告の主張アハンナは,平成17年6月14日から同年8月19日までの間に,ET社から,ダブルCキーリングの真正商品としてキーホルダー合計1282個を買い受け,同年6月15日から同年9月1日までの間に,これら全てをダブルCキーリングの真正商品としてウエニ貿易に販売した。 本件各キーホルダーは,ウエニ貿易がハンナからダブルCキーリングの真正商品として買い受けた上記キーホルダー合計1282個のうち,1113個を意味する。 ウエニ貿易は,上記キーホルダー合計1282個のうち,合計20個をハンナに返品したが,少なくとも200個から300個を販売し,残りを販売のために所持していた。 ウエニ貿易は,上記キーホルダーの販売及び所持について原告から商標権侵害に当たる旨の警告を受けた後,平成19年6月26日までに20個から30個の上記キーホルダーを納品先から回収したが,その他は既に納品先において販売済みであったため,ウエニ貿易が所持していた上記キーホルダーはキーホルダー1及びキーホルダー2の合計1113個となった。 原告は,ウエニ貿易から,キーホルダー1及びキーホルダー2の提出を受け,これらがダブルCキーリングの真正商品であるかどうかを鑑別するためにリシュモンジャパンの技術責任者Fの鑑定に供した。 イ以上によれば,キーホルダー1及びキーホルダー2は,本件各キーホルダーと同一のものである。 そして,キーホルダー1及びキーホルダー2には,その本体,包装用内袋及び包装用箱に本件各登録商標と類似する本件各標章が付されており,「キーホルダー」は本件各商標権の指定商品に含まれているから(前記第2の1(4)),ET社におけるハンナへの本件各キーホルダーの販売は,本件各商標権の「指定商品についての登録商標に類似する商標の使用」(商標法37条1号)に当たる。 (2) 被告の主張ET社がハンナに販売した本件各キーホルダーがキーホルダー1及びキーホルダー2と同一であることは否認する。 キーホルダー1及びキーホルダー2の中には,内袋がなく,ジップロックのような小さなビニールに入ったものが含まれているが,本件各キーホルダーにはそのような状態のものは含まれていなかったこと,ET社以外の者がキーホルダー1及びキーホルダー2と同一タイプの商品を扱っていたこと,ウエニ貿易は,ハンナ以外の者からもダブルCキーリングの仕入れをしていたことを踏まえれば,本件各キーホルダーがキーホルダー1及びキーホルダー2と同一であると直ちに認めることはできない,2争点2(ET社における本件各キーホルダーの販売が本件各商標権侵害としての実質的違法性を欠くか。)について(1) 被告の主張ア本件各キーホルダーは,原告の海外の直営店で販売されたダブルCキーリングの真正商品が並行輸入されたものである。 すなわち,本件各キーホルダーは,香港のブランド品等の卸売業者であるジョイン・スカイ・リミテッド(代表者は,通称D2ことD1。以下,ジョイン・スカイ・リミテッドを「ジョイン・スカイ」といい,その代表者を「D1」という。)が,原告の海外の直営店で販売されたダブルCキーリングの真正商品として入手し,日本国内に輸入したものを,ET社が,平成17年6月ころ,ジョイン・スカイから購入したものである。 本件各キーホルダーが原告の海外の直営店で販売されたダブルCキーリングの真正商品であることは,本件各キーホルダーの販売に当たって,ジョイン・スカイが,イタリアのフィレンツェにある原告の直営店が発行したものとされる,ダブルCキーリングの記載があるインボイスの写し2通(甲4の1の1及び2は,当該インボイス写しにET社(「有限会社ヨーロピアントレーディング取締役A」)のゴム印が押印されたものであり,乙5は,上記ゴム印が押印される前の甲4の1の1のインボイス写しである。以下,甲4の1の1及び乙5に係るインボイス写しを「本件メーカーインボイス1」,甲4の1の2に係るインボイス写しを「本件メーカーインボイス2」といい,これらを総称して「本件各メーカーインボイス」という。)を保有し,これをET社に交付していることから裏付けられる。 したがって,ET社におけるハンナへの本件各キーホルダーの販売は,並行輸入された真正商品の販売であるから,本件各商標権侵害としての実質的違法性を欠くものである。 イ原告は,後記のとおり,いずれもリシュモンジャパンのF作成の平成20年10月7日付け鑑定書(甲8。以下「甲8の鑑定書」という。)及び甲14の鑑定書(以下,甲8の鑑定書及び甲14の鑑定書を併せて「本件各鑑定書」という。)を根拠として,本件各キーホルダーがダブルCキーリングの偽造品又は二級品(原告が製造した商品のうち,原告の品質管理基準を満たさないために,当初から流通に置くことなく廃棄されることが予定されている商品。以下同じ。)である旨主張するが,以下に述べるとおり,これらの証拠によって本件各キーホルダーが偽造品又は二級品であると認めることはできない。 (ア)まず,そもそも,本件に現れた証拠等からは,本件各鑑定書の対象とされたキーホルダーとET社がハンナに販売した本件各キーホルダーとが同一のものであると認めることはできない。 (イ)本件各鑑定書の作成者は,原告と緊密な利害関係を有する原告の国内総販売代理店の者であるから,本件各鑑定書の内容には主観的な偏りが認められやすい状況にある。しかも,本件各鑑定書の内容をみても,キーホルダー1及びキーホルダー2が偽造品又は二級品であると結論づける理由とされているのは,鑑定する者の主観的な認識により左右される事項にすぎず,判別の客観的な基準が示されていない。 したがって,本件各鑑定書の証拠としての証明力には疑義がある。 (ウ)キーホルダー1とダブルCキーリングの真正商品(検甲1の1及び2)を撮影したとされる写真撮影報告書(甲23)をみると,原告がいずれも真正商品であると主張する2つの商品(検甲1の1の商品と検甲1の2の商品)の間でも細部の仕様に差異があり,真正商品といっても商品ごとのばらつきがあることが認められるから,そのように仕様にばらつきのある真正商品との比較をもって,直ちにキーホルダー1が偽造品であると断ずることはできない。 (2) 原告の主張以下に述べるとおり,本件各キーホルダーのうち,キーホルダー1(673個)はダブルCキーリングの偽造品であり,また,キーホルダー2(440個)はダブルCキーリングの二級品であって,いずれも原告がその意思に基づいて本件各標章を付して流通に置いたダブルCキーリングの真正商品ではないから,ET社におけるハンナへの本件各キーホルダーの販売は,並行輸入された真正商品の販売ではなく,本件各商標権侵害としての実質的違法性を欠くものとはいえない。 ア キーホルダー1について本件各キーホルダーのうち,キーホルダー1(673個)がダブルCキーリングの偽造品であることは,リシュモンジャパンの技術責任者(テクニカルサービス本部アクセサリーワークショップ,ワークショップマネージャー)であるF作成の本件各鑑定書から明らかである。すなわち,リシュモンジャパンは,原告の国内総販売代理店として,日本国内において唯一,原告からその商品の規格や品質管理基準,偽造品の判別ポイント,偽造品及び二級品の流通に関する情報等を供給されている主体であり,原告が製造,販売する真正商品と偽造品又は二級品とを判別するについては,同社の技術者のほかに正確な鑑定を行える者は日本国内にいないところ,本件各鑑定書においては,同社の技術責任者の立場にある者が,真正商品と偽造品を判別するための複数の客観的基準に基づいて本件各キーホルダーをひとつずつ検討した結果,キーホルダー1については偽造品であると結論づけているのであり,その判断が正しいことは,キーホルダー1とダブルCキーリングの真正商品(検甲1の1及び2)を撮影した写真撮影報告書(甲23)添付の各写真からも裏付けられる。 イ キーホルダー2について原告が製造した商品を出荷するに当たっては,原告の商品の高い品質に対する顧客の信頼を保持するために,極めて厳格な品質管理基準に基づいた検品が行われている。したがって,原告においては,●(省略)●二級品として廃棄されることとなり,出荷されることはない。 しかるところ,本件各キーホルダーのうち,キーホルダー2(440個)がダブルCキーリングの二級品であることは,本件各鑑定書から明らかである。すなわち,本件各鑑定書においては,リシュモンジャパンの技術責任者が,本件各キーホルダーをひとつずつ検討した結果,キーホルダー2については,原告の製造したダブルCキーリングではあるものの,●(省略)●ことから,原告の品質管理基準を満たさない二級品であると結論づけているのであり,その判断が正しいことは,キーホルダー2をそれぞれ撮影した甲14の鑑定書添付の各写真からも裏付けられる。 ウ 本件各メーカーインボイスについてジョイン・スカイがET社に交付したものとされる本件各メーカーインボイスは,●(省略)●が原告の真正なインボイス(甲24の1及び2)と異なっていたり,●(省略)●ことなどからみて,原告の直営店等が発行した真正なインボイスではなく,偽造されたものと認められる。 したがって,本件各メーカーインボイスの存在は,本件各キーホルダー(キーホルダー1及びキーホルダー2)がダブルCキーリングの真正商品であることを何ら裏付けるものではなく,むしろ,それらが偽造品又は二級品であることを示すものである。 3争点3(有限会社の取締役の第三者に対する損害賠償責任(旧有限会社法30条ノ3第1項)の成否)について(1) 原告の主張ア被告は,ET社からハンナへの本件各キーホルダー(キーホルダー1及びキーホルダー2)の販売が行われた平成17年6月14日ないし同年8月19日当時,ET社の取締役として,同社に対し,善管注意義務(旧有限会社法32条,平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)254条3項,民法644条)及び忠実義務(旧有限会社法32条,旧商法254条ノ3)を負っており,その職務の執行に当たっては,違法な行為を行わないように注意すべき義務を負っていた。具体的には,ET社は,服飾アクセサリー,装身具の輸出入及び販売等を業としていたのであるから,その取締役たる被告は,その職務上,他人の商標権を侵害する偽造品や二級品の販売行為を行わないように注意すべき義務があった。 にもかかわらず,被告は,ダブルCキーリングの偽造品又は二級品である本件各キーホルダーを自ら輸入し,又は国内で購入した上で,ET社の従業員であるB(以下「B」という。)を指揮監督して,これらをハンナに販売するという違法な職務執行を行った。 したがって,被告には,ET社からハンナへの本件各キーホルダーの販売に関し,ET社の取締役としての善管注意義務違反及び忠実義務違反が認められる。 イそして,以下に述べる事情に照らせば,被告は,ハンナへの本件各キーホルダーの販売に当たって,本件各キーホルダーが偽造品又は二級品であり,その販売が違法な職務執行となることにつき悪意であったものと認められる。 (ア) ハンナに対し偽造のインボイスを交付していることBは,本件各キーホルダーをハンナに販売する際,被告の指示に基づき,「有限会社ヨーロピアントレーディング取締役A」とのゴム印をそれぞれ3箇所に押印した本件各メーカーインボイス(甲4の1の1及び2)をハンナに交付しているが,前記2(2)ウのとおり,本件各メーカーインボイスは偽造されたものであった。 そして,本件各メーカーインボイスは,原告の真正なインボイスとは●(省略)●のであるから,ブランド品等の並行輸入品の販売を業として行っている被告が,かかる記載の誤りに気づかないはずはない。 また,本件各メーカーインボイスには,上記ゴム印が,余白部分ではなく,わざわざ商品名の記載等に重なって読み取れなくなるような箇所に押印されており,しかも,当該ゴム印は横書きであるにも関わらず,わざわざ縦長になるように90度回転させた上で,3箇所にもわたって押印されている。このような不自然な態様の押印がされているのは,本件各メーカーインボイスを確認する者の注意を逸らし,真正なインボイスとのレイアウト等の違いや商品名表記の誤りに気づかせないようにする意図によるものと考えられる。 以上からすれば,被告は,本件各メーカーインボイスが偽造に係るものであることを知りながらこれをハンナに交付したものと認められ,したがって,被告が本件各キーホルダーが偽造品又は二級品であることについても悪意であったことは明らかである。 (イ)本件各キーホルダーの入手先に関する被告の供述が信用できないこと被告は,その本人尋問及び陳述書(乙1)において,本件各キーホルダーを,日本国内において,ジョイン・スカイのD1から購入した旨供述する。 しかし,被告の上記供述は,?D1の名刺(乙2)及びジョイン・スカイ名義のインボイス(乙4)に記載されている同社の住所が実在しないこと,?ジョイン・スカイ名義のインボイス(乙4)には,会社印の押印も,代表者や担当者の署名もされておらず,不自然であること,?上記インボイス(乙4)の会社の住所の表記に誤りがあること(「九龍(Kowloon)」の綴りが「Kowllon」となっていること),?被告の陳述書(乙1)では,ジョイン・スカイが日本国内に事業所を有しているとされていたのに,本人尋問では,日本国内にあるのは事業所ではなく輸入した商品の保管場所である旨,供述を変遷させていること,?被告は,その本人尋問において,本件各キーホルダーを輸入したのはD1であるとしながら,D1から被告に渡された通関証明書写しの輸入者の記載にはマスキングがされていたと供述しているが,並行輸入業者が自ら輸入した商品を販売する際に,その相手方に対して輸入者欄をマスキングした通関証明書写しを交付するのは不自然であること,?被告は,その本人尋問において,「D1との連絡は,電話や電子メールによるものです。」として,D1から伝えられた電話番号を供述する一方で,電子メールのアドレスについては一切供述しておらず,その供述態度が不自然であることなどに照らせば,虚偽であり,ジョイン・スカイあるいはD1なる取引業者及びかかる業者とET社との取引など存在しなかったというべきであって,ひいては,被告が本件各キーホルダーが偽造品又は二級品であることについて悪意であったことは明らかである。 ウ仮に被告がハンナへの本件各キーホルダーの販売に当たって,本件各キーホルダーが偽造品又は二級品であり,その販売が違法な職務執行となることを知らなかったとしても,以下に述べる事情からすれば,被告には少なくとも重過失が認められる。 (ア)被告の本人尋問における供述によれば,D1との本件各キーホルダーに関する取引は「成田空港の第一貨物地区近辺の路上等にワゴン車を駐車して行う」という,人目をはばかる禁制品の取引を行うかのような不自然な態様で行われているのであり,かかる不自然な取引態様自体からみて,D1が取り扱う商品が真正商品であることは疑わしい状況にあった。 (イ)並行輸入品の取扱業者が並行輸入のブランド品を買い入れるに当たってその商品の真贋を判別するためには,当該商品に真正なメーカーインボイスが付されているか,また,その記載内容が正しいものかどうかを確認することが重要である。特に,我が国のブランド品市場は世界有数の市場であり,常に偽造業者の標的にされ,人気ブランド商品の精巧な偽造品が日々持ち込まれている現状にかんがみれば,並行輸入品の取扱業者としては,他人の商標権を侵害する違法な偽造品販売を行わないために,並行輸入品の取引に当たっては,商品のメーカーインボイスを確認すべき高度の注意義務を負うものといえる。 しかるところ,被告は,ジョイン・スカイから本件各キーホルダーを購入するに際し,偽造に係る本件各メーカーインボイスの交付を受けたのに,極めて杜撰な確認しか行わなかったため,本件各メーカーインボイスが偽造であることを判別できないまま,本件各キーホルダーをハンナに販売したものである。 すなわち,まず,被告は,過去に原告の商品の取引を行っていたにもかかわらず,本件各キーホルダーの買い付けに至るまで一度も原告の真正なメーカーインボイスを確認したことがなく,本件各メーカーインボイスに原告が使用するロゴが記載されていることや原告の正規販売店が存在する地域の住所及び電話番号が記載されていることのみから,真正なメーカーインボイスであるとの判断を行っており,並行輸入品の取扱業者として必要な注意義務を果たしていないことは明らかである。 しかも,前記イ(ア)のとおり,本件各メーカーインボイスの記載には,●(省略)●被告には重大な過失が認められる。 (ウ)また,本件各キーホルダーには,本件各鑑定書に記載されたとおり,原告のダブルCキーリングの真正商品にはない異常が認められるのであるから,被告がこれを看過したことには重大な過失がある。 すなわち,甲8の鑑定書27頁及び甲14の鑑定書添付の別紙2から明らかなとおり,キーホルダー1が偽造品であることは,その外観から客観的かつ容易に判別できるものである。また,キーホルダー2にそれぞれ●(省略)●ことは,甲14の鑑定書添付の各写真からでも明らかであり,原告の商品を扱ったことのある並行輸入品の取扱業者であれば,そのような欠陥のある商品を原告が流通に置くはずがないことは極めて容易に認識できるはずである。 本件各キーホルダーにおけるこれらの外観の異常は,日常的に並行輸入品を取り扱う業者が,ひとつずつ手作業で検品をすれば到底見落とすはずがないものであり,仮に少数の商品の異常を見落とすことがあったとしても,合計1113個にものぼる本件各キーホルダーの異常を全て見落とすことなど考えられないことである。 したがって,被告には,本件各キーホルダーの異常を看過したことにつき,重大な過失が認められる。 (エ)さらに,被告には,本件各キーホルダーの包装用内袋及び包装用箱に認められる異常を看過したことにおいても,重大な過失が認められる。 すなわち,本件各キーホルダーの包装用内袋及び包装用箱の一部が偽造品であることは,●(省略)●一見して明らかである(甲14の鑑定書添付の別紙4)。しかるところ,被告の本人尋問における供述によれば,被告は,包装用箱の高さにばらつきがあること,箱の内側が白色のものと黒色のものが混在していること,箱の内側に設置してある台紙のサイズが不整合で,箱の中で動いてしまうような不良品が存在していたことを認識していたにもかかわらず,それらが真正商品であるかどうかの確認を怠ったことを自認している。しかも,キーホルダー2のうち2個の製品については,内袋が欠損しているという極めて異常な事実が存在していたにもかかわらず(甲14の鑑定書添付の別紙1記載の「key ?」欄の?115及び138),それを看過してそのままハンナに販売している事実も認められる。 エしたがって,被告は,ET社の取締役として,悪意又は重過失によって,原告の本件各商標権を侵害する違法な職務執行を行ったものであるから,旧有限会社法30条ノ3第1項に基づく損害賠償として,原告が被った損害を賠償すべき責任を負う。 (2) 被告の主張被告は,本件各キーホルダーのハンナへの販売に当たり,これらが偽造品又は二級品であることを認識しておらず,原告の海外の直営店で販売されたダブルCキーリングの真正商品であると認識していたのであり,かつ,そのように信ずるにつき相当な理由があった。したがって,被告には,ハンナへの本件各キーホルダーの販売が違法な職務執行となることについての悪意又は重過失は認められない。このことは,次のような事情から裏付けられる。 ア前記2(1)イ(イ)及び(ウ)で述べたとおり,本件各鑑定書において本件各キーホルダーが偽造品又は二級品であると結論づける理由とされているのは鑑定する者の主観的な認識によって左右される事項であること,ダブルCキーリングの真正商品をとってみても商品ごとで仕様のばらつきがあることからすれば,被告において,本件各キーホルダーが偽造品又は二級品であることを判別することは非常に困難であった。このことは,被告のみならず,ハンナやウエニ貿易の担当者らにおいても,本件各キーホルダーが偽造品又は二級品であることを判別できなかったことからも裏付けられる。 イまた,被告は,本件各キーホルダーをジョイン・スカイから購入したが,その取引の過程において,次のような事実があったことから,本件各キーホルダーがダブルCキーリングの真正商品であると判断したのであり,その判断には相当な理由があった。 (ア)被告は,本件各キーホルダーの購入以前にも,ジョイン・スカイからアパレル商品を2,3回購入しているが,それらの商品に偽造品や二級品が含まれるなどの取引上の問題はなかった。 (イ)被告は,本件各キーホルダーの購入に先立って,ジョイン・スカイから同タイプの商品をサンプルとして購入した上で,その真贋を判別するために,これらの商品に意図的に傷を付けて原告の直営店に修理に持ち込んでみたが,偽造品又は二級品であるとの指摘を受けることはなかった。 (ウ)被告は,本件各キーホルダーの購入に当たって,ジョイン・スカイのD1から本件各メーカーインボイスのほか,本件各キーホルダーの通関証明書写し及びD1作成の真正商品であることの証明書の交付を受けた。 (エ)被告及びその従業員らが,本件各キーホルダーをひとつずつ検品したが,偽造品又は二級品であると判断される異常は認められなかった。 4 争点4(不法行為に基づく損害賠償責任の成否)について(1) 原告の主張ア被告は,ハンナへの本件各キーホルダーの販売が行われた平成17年6月14日ないし同年8月19日当時,ET社の唯一の取締役であり,その代表者の地位にあった者である(旧有限会社法27条1項)。また,被告は,本件各キーホルダーの買い付けを自ら行っており,また,Bが担当したハンナへの本件各キーホルダーの販売行為は,被告による直接の指揮監督の下で行われている。 したがって,被告は,本件各キーホルダーの買い付けからハンナへの販売に至る取引の過程の全てについて主体的な役割を果たしていたのであり,ハンナへの本件各キーホルダーの販売は,被告個人による本件各商標権の侵害行為としても評価することができる。 イ前記3(1)イで述べたところからすれば,被告は,ハンナへの本件各キーホルダーの販売に当たって,本件各キーホルダーが偽造品又は二級品であり,その販売が原告の商標権を侵害することにつき,故意があったものと認められる。 ウ仮に被告がハンナへの本件各キーホルダーの販売に当たって,本件各キーホルダーが偽造品又は二級品であり,その販売が原告の商標権を侵害することを知らなかったとしても,前記3(1)ウで述べたところからすれば,被告には少なくとも過失が認められる。 エしたがって,被告は,故意又は過失によって,原告の本件各商標権を侵害したものであるから,不法行為に基づく損害賠償として,原告が被った損害を賠償すべき責任を負う。 (2) 被告の主張アET社においてハンナへの本件各キーホルダーの販売を担当していたのは,ET社の従業員であるBであって被告自身ではないから,同社の取締役にすぎない被告個人が,本件各キーホルダーの販売に関して,当然に原告に対する不法行為責任を負うものではない。 イ仮にハンナへの本件各キーホルダーの販売について,被告個人が不法行為責任を負う余地があるとしても,前記3(2)で述べたところからすれば,被告は,本件各キーホルダーのハンナへの販売に当たり,これらが偽造品又は二級品であることを認識しておらず,原告の海外の直営店で販売されたダブルCキーリングの真正商品であると認識していたのであり,かつ,そのように信ずるにつき相当な理由があったものといえるから,被告には,ハンナへの本件各キーホルダーの販売が原告の商標権を侵害することについての故意又は過失は認められない。 5 争点5(原告の損害額)について(1) 原告の主張ア原告は,被告に対し,本件各商標権の侵害による損害賠償として,本件各登録商標の使用に対し受けるべき金銭に相当する額の金銭を請求することができる(商標法38条3項)。 しかるところ,本件各登録商標に係る上記使用料相当額は,本件各登録商標の国内外での高い著名性やその極めて高いブランド価値に照らし,キーホルダー1個当たり1575円(原告が販売するダブルCキーリングの定価3万1500円×5%)を下らないことが明らかである。 したがって,被告が本件各キーホルダー1113個を販売したことによる使用料相当額は,175万2975円となる。 イ以上によれば,原告は,旧有限会社法30条ノ3第1項又は民法709条に基づき,被告に対し,本件各登録商標に係る使用料相当額175万2975円及びこれに対する平成21年1月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 (2) 被告の主張以下に述べるとおり,原告が主張する損害額は高額に過ぎる。 まず,本件各登録商標に係る使用料相当額を算定するに当たって,使用料率を乗ずる価格は,原告が販売するダブルCキーリングの定価ではなく,ET社からハンナへの本件各キーホルダーの平均販売価格(消費税を除いて1万3529円)とすべきである。 また,ダブルCキーリングの市場における取引価格が安価に推移していることにかんがみれば,本件各登録商標に係る使用料率としては3%が相当である。 |
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当裁判所の判断
1争点1(キーホルダー1及びキーホルダー2と本件各キーホルダーとの同一性)について(1)原告は,キーホルダー1及びキーホルダー2には,その本体,包装用内袋及び包装用箱に本件各登録商標と類似する本件各標章が付されており,「キーホルダー」は本件各商標権の指定商品に含まれているところ,キーホルダー1及びキーホルダー2は本件各キーホルダーと同一のものであるから,ET社におけるハンナへの本件各キーホルダーの販売は,本件各商標権の「指定商品についての登録商標に類似する商標の使用」(商標法37条1号)に当たる旨主張する。 これに対し被告は,キーホルダー1及びキーホルダー2が本件各キーホルダーと同一のものであることを争うので,以下において,その同一性について判断する。 ア前記争いのない事実等(前記第2の1)と証拠(甲4ないし8,10,11,14,23,乙1,5,検甲2ないし13(以上,枝番のあるものは枝番を含む。),被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。 (ア)ET社は,平成17年6月14日から同年8月19日までの間に,ハンナに対し,ダブルCキーリングの真正商品としてキーホルダー合計1282個(本件各キーホルダー1113個を含む。)を,代金合計1821万0850円(消費税込み)で販売した。 ET社において,ハンナとの上記取引を直接担当したのはBであるが,Bは,上記取引に当たり,その内容を被告に報告し,その指示に従って行動していた。 また,Bは,上記取引に当たり,ハンナから上記キーホルダーに係る原告発行のインボイスの提示を求められたことから,その旨を被告に報告し,被告の指示に基づき,本件各メーカーインボイスに「有限会社ヨーロピアントレーディング取締役A」とのゴム印をそれぞれ3箇所押印した上で,これらをハンナに交付した。 (イ)ハンナは,平成17年6月15日から同年9月1日までの間に,ウエニ貿易に対し,ダブルCキーリングの真正商品として,ET社から買い受けた前記(ア)の1282個のキーホルダーを,代金合計1846万0800円(消費税抜き)で販売した。 (ウ)その後,ウエニ貿易は,ハンナから買い受けた前記(イ)の1282個のキーホルダーのうち約200個ないし300個を他に出荷し,残りを自ら保管していたが,原告から,平成19年6月14日付け通告書をもって,上記1282個のキーホルダーはダブルCキーリングの真正商品ではなく,その販売は原告の商標権を侵害する旨の通告を受けたため,同年7月9日,上記1282個のキーホルダーのうち,未出荷のもの及び納品先から回収したものを併せた合計1113個を,真正商品であるか否かの鑑定に供するため原告に引き渡した。 (エ)原告は,ウエニ貿易から引渡しを受けた前記(ウ)の1113個のキーホルダーが真正商品であるか否かを鑑別するため,これらのキーホルダーをリシュモンジャパンのFによる鑑定に供し,Fは,その結果に基づいて本件各鑑定書を作成した。 Fによる鑑定に供された上記1113個のキーホルダーがキーホルダー1及びキーホルダー2である。 イ前記アの認定事実を総合すれば,本件各キーホルダーは,平成17年6月14日から同年8月19日までの間にET社からハンナにダブルCキーリングの真正商品として販売された合計1282個のキーホルダーのうちの1113個をいうものであるところ,原告からFによる鑑定に供されたキーホルダー1及びキーホルダー2(合計1113個)は,上記合計1282個のキーホルダーのうちの一部であることが認められるから,キーホルダー1及びキーホルダー2は本件各キーホルダーと同一のものであることが認められる。 ウこれに対し被告は,キーホルダー1及びキーホルダー2の中には,内袋がなく,ジップロックのような小さなビニールに入ったものが含まれているが,ET社がハンナに販売した本件各キーホルダーにはそのような状態のものは含まれていなかったこと,ET社以外の者がキーホルダー1及びキーホルダー2と同一タイプの商品を扱っていたこと,ウエニ貿易は,ハンナ以外の者からもダブルCキーリングの仕入れをしていたことを踏まえれば,本件各キーホルダーがキーホルダー1及びキーホルダー2と同一であると直ちに認めることはできない旨主張し,これに沿う被告の本人尋問における供述部分がある。 しかし,被告の上記供述部分はそれ自体具体性を欠いており,また,客観的な裏付けのあるものではないことに照らすと,被告の上記供述部分はキーホルダー1及びキーホルダー2が本件各キーホルダーと同一のものであるとの前記イの認定を左右するものではないというべきである。 したがって,被告の上記主張は採用することはできず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。 (2)以上のとおり,キーホルダー1及びキーホルダー2は,本件各キーホルダーと同一のものであることが認められるところ,キーホルダー1及びキーホルダー2には,その本体,包装用内袋及び包装用箱に本件各登録商標と類似する本件各標章が付されており,「キーホルダー」は本件各商標権の指定商品に含まれているから(前記第2の1(4)),ET社におけるハンナへの本件各キーホルダーの販売は,本件各商標権の「指定商品についての登録商標に類似する商標の使用」(商標法37条1号)に当たるというべきである。 2争点2(ET社における本件各キーホルダーの販売が本件各商標権侵害としての実質的違法性を欠くか。)について(1)ア被告は,本件各キーホルダーは原告の海外の直営店で販売されたダブルCキーリングの真正商品であるから,ET社における本件各キーホルダーの販売は,並行輸入された真正商品の販売として,本件各商標権侵害としての実質的違法性を欠く旨主張する。 そして,被告は,本件各キーホルダーが原告の海外の直営店で販売されたダブルCキーリングの真正商品であることの根拠として,ET社が本件各キーホルダーをジョイン・スカイから購入した際に,ジョイン・スカイがイタリアのフィレンツェにある原告の直営店が発行したものとされるダブルCキーリングの記載があるインボイスの写し2通(本件各メーカーインボイス)を保有し,これを被告に交付したことを挙げる。 しかしながら,本件各メーカーインボイス(甲4の1の1及び2,乙5)の記載を,イタリアのフィレンツェにある原告の直営店が発行する真正なインボイスの例(甲24の1及び2)と比較してみると,?●(省略)●イ以上のとおり,●(省略)●本件各メーカーインボイスは原告の直営店等が発行した真正なインボイスとは認められず,むしろ,何者かによって偽造されたインボイスであるものと推認される。 そうすると,ジョイン・スカイが本件各メーカーインボイスを保有し,これを被告に交付したことをもって,本件各キーホルダーが原告の直営店等で販売されたダブルCキーリングの真正商品であることが裏付けられるものではないというべきである。 他に本件各キーホルダーが原告の海外の直営店で販売されたダブルCキーリングの真正商品であることを認めるに足りる証拠はない。 (2)かえって,本件各鑑定書等によれば,本件各キーホルダーは,以下のとおり,いずれも,原告以外の者が原告の許諾に基づかずに製造した商品(偽造品)か,又は,原告が製造した商品のうち,原告の品質管理基準を満たさないために,当初から流通に置くことなく廃棄されることが予定されていた商品(二級品)であることが認められる。 ア本件各鑑定書(甲8,14)を作成したFは,原告の国内総販売代理店であるリシュモンジャパンのテクニカルサービス本部アクセサリーワークショップのワークショップマネージャーたる地位にある者であり,原告の商品に係る真贋等の鑑別について専門的知識を有する者と認められるから,本件各鑑定書は,かかる専門的知識に基づく判断を示すものということができる。 イ本件各鑑定書においては,本件各キーホルダーのうち,合計673個(キーホルダー1)については,次の(ア)の理由からダブルCキーリングの偽造品である旨の,残りの440個(キーホルダー2)については,次の(イ)の理由から原告の品質管理基準を満たさないダブルCキーリングの二級品である旨の結論が示されている。 (ア)673個のキーホルダー(キーホルダー1)については,ダブルCキーリングの真正商品と比較して,次のような相違点が見られた(甲8の鑑定書27頁,甲14の鑑定書添付の別紙2)。 ●(省略)●(イ)440個のキーホルダー(キーホルダー2)については,●(省略)●(甲8の鑑定書28頁,甲14の鑑定書添付の別紙3)。 ウ(ア)本件各鑑定書において,673個のキーホルダー(キーホルダー1)が偽造品であると判断されたのは,これらの各キーホルダーにそれぞれ前記イ(ア)?ないし?のような真正商品との複数の相違点が認められた結果とされている。 これに対し被告は,本件各鑑定書の上記判断について,本件各鑑定書が指摘する上記の各相違点はいずれも鑑定する者の主観的な認識によって左右される事項にすぎないなどとして,その証明力に疑義がある旨主張する。 確かに,上記の相違点の一つ一つをみれば,いずれも外観等の微細な相違であり,その判別が必ずしも容易とはいい難いものの,これら複数の相違点を複合的に検討することによって,判断の正確性は十分確保され得るものということができる。特に,これらの相違点の中でも,●(省略)●キーホルダー1とダブルCキーリングの真正商品(検甲1の1及び2)をそれぞれ撮影したものと認められる写真撮影報告書(甲23)添付の各写真やキーホルダー1の現物の一部(検甲2ないし7)とダブルCキーリングの真正商品の現物(検甲1の1及び2)を子細に比較して観察すれば確認することが可能であり,これらの各証拠によって,本件各鑑定書の偽造品に係る上記判断の信頼性は客観的に裏付けられるものといえる。 (イ)次に,本件各鑑定書及び弁論の全趣旨によれば,原告においては,製造した商品を出荷,販売するに当たって,厳格な品質管理基準に基づいた検品を行い,その結果,当該基準を満たさない商品については,これを流通に置くことなく廃棄等の処分をする体制をとっていることが認められるところ,本件各鑑定書においては,440個のキーホルダー(キーホルダー2)について,上記品質管理基準を満たさないような●(省略)●が認められたことから,二級品であると判断されている。 しかるところ,上記440個のキーホルダー(キーホルダー2)のそれぞれに,本件各鑑定書が指摘する●(省略)●が認められることは,キーホルダー2をそれぞれ撮影したものと認められる写真(甲14の鑑定書添付のもの)やその現物の一部(検甲8ないし13)を子細に観察すれば十分確認し得るところであり,それらがいずれも明瞭な欠陥といえることからすれば,原告の上記品質管理基準を満たさないものであることも明らかというべきであるから,これらの各証拠によって,本件各鑑定書の二級品に係る上記判断の信頼性は客観的に裏付けられるものといえる。 エ以上のとおり,本件各鑑定書は,原告の商品に係る真贋等の鑑別についての専門的知識を有する者が,その専門的知識に基づいた判断を示したものであり,その内容においても,客観的証拠に裏付けられた合理性のある判断を示すものであって,十分信頼に足るものということができる。 これに加えて,前記(1)のとおり,本件各キーホルダーが,偽造されたものと認められる本件各メーカーインボイスとともに取引されている経過をも考慮すれば,本件各キーホルダーのうち,キーホルダー1(673個)がダブルCキーリングの偽造品であり,キーホルダー2(440個)がダブルCキーリングの二級品であることは,優にこれを認定することができる。 (3)以上によれば,本件各キーホルダーは,原告の直営店等で販売されたダブルCキーリングの真正商品であると認めることはできず,かえって,原告以外の者が原告の許諾に基づかずに製造した偽造品か,又は,原告が製造した商品のうち,原告の品質管理基準を満たさないために当初から流通に置くことなく廃棄等の処分をされる予定であった二級品が何らかの経過によって流出したものであることが認められるのであり,いずれにしても,原告の意思に基づいて流通に置かれた真正商品といえないことは明らかである。 したがって,ET社における本件各キーホルダーの販売が並行輸入された真正商品の販売として本件各商標権侵害としての実質的違法性を欠くとの被告の主張は,理由がない。 3 争点4(不法行為に基づく損害賠償責任の成否)について(1)原告は,ET社の唯一の取締役として,その代表者の地位にあった被告は,本件各キーホルダーの買い付けからハンナへの販売に至る取引の過程の全てについて主体的な役割を果たしているから,ET社におけるハンナへの本件各キーホルダーの販売は被告による販売行為としても評価することができるものであり,本件各キーホルダーの販売による本件各商標権の侵害について故意又は過失があるから,被告個人においても不法行為が成立する旨主張する。 そこで検討するに,前記争いのない事実等(前記第2の1),前記1(1)アの認定事実,証拠(乙1,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,?ET社からハンナへの本件各キーホルダーの販売が行われた平成17年6月14日ないし8月19日当時,被告は,有限会社であるET社の唯一の取締役として,同社の代表者たる地位にあったこと,?当時のET社においては,被告のほかに5,6名の従業員がおり,代表者たる被告の指示の下で,それそれ営業等を担当していたこと,?ET社における本件各キーホルダーの仕入れは,被告自身が直接行ったこと,?本件各キーホルダーの販売先として,ハンナに対する営業活動を担当したのは,ET社の従業員であるBであったが,Bは,ハンナとの取引の内容を被告に報告し,被告の承諾及び指示に基づいてハンナへの本件各キーホルダーの販売を行ったことが認められる。 これらの事実を総合すれば,被告がET社の代表者としてハンナへの本件各キーホルダーの販売に主体的に関与していたことは明らかであるから,ET社におけるハンナへの本件各キーホルダーの販売は被告による販売行為としても評価できるものと認められる。これに反する被告の主張は,採用することができない。 そうすると,被告の上記行為は,本件各商標権の侵害行為に当たるものと認められる。 (2)ア次に,本件各キーホルダーの販売による本件各商標権の侵害についての被告の故意又は過失の有無について判断する。 商標法39条において準用する特許法103条によれば,被告には,本件各キーホルダーの販売による本件各商標権の侵害行為について過失があったものと推定される。 これに対し被告は,ハンナへの本件各キーホルダーの販売に当たり,被告は,これらが原告の海外の直営店において販売されたダブルCキーリングの真正商品であると認識し,そのように信ずるにつき相当な理由があったから,本件各キーホルダーの販売が本件各商標権を侵害することについての過失はなかった旨主張し,被告の本人尋問及び陳述書(乙1)においても,次のとおり上記主張に沿う供述をする。 (ア)被告は,平成16年後半ころ,ET社の取引先であった有限会社ブルーリボンドットコムの事務所で打合せをしていた際,同社に商品の売り込みに来ていた香港のブランド品等の卸売業者であるジョイン・スカイの代表者D1と知り合った。 (イ)その後,被告は,ジョイン・スカイとの間で,アパレル商品の並行輸入品を仕入れる取引を2,3回行ったが,その際,仕入れた商品に問題はなく,納期もきちんと守られた。 (ウ)平成17年2月ないし3月ころ,被告とD1との間で,原告のアクセサリー商品を仕入れる話がまとまった。その仕入れに当たって,被告は,商品はジョイン・スカイが輸入し,日本国内で被告に引き渡すこと,代金は商品と引き替えに支払うこととの条件を提示したところ,D1はこれを了承した。 (エ)被告は,上記取引に当たり,まずは商品の真贋を判別するために,ジョイン・スカイから原告のアクセサリー商品をタイプごとに1,2個ずつ,全部で10個程度仕入れ,これらに意図的に傷を付けて原告の直営店に修理に持ち込んだ。その結果,いずれの商品も問題なく修理されて戻ってきたため,被告としては,ジョイン・スカイが扱う商品は真正商品であると判断した。 (オ)そこで,被告は,平成17年6月ころ,2,3回に分けて,ジョイン・スカイから本件各キーホルダーを含む原告のアクセサリー商品を購入した。すなわち,被告とD1との間で,成田空港の第一貨物地区近辺の路上で商品の引渡しと代金の支払が行われた。そして,その際には,D1から被告に対し,商品が真正商品であることの証拠として,本件各メーカーインボイス,通関証明書写し,商品が真正商品であることを証明するD1作成の証明書等が交付された。上記通関証明書写しの輸入者の名前はマスキング処理がされていた。 (カ)ジョイン・スカイから仕入れた本件各キーホルダーは,被告自身が,又は被告の指示を受けたET社の従業員がひとつずつ検品を行い,数がそろっていること及びきず物が含まれていないことを確認した。 (キ)以上の経過から,被告としては,本件各キーホルダーについて,原告の海外の直営店で販売された真正商品であると認識していた。 イ(ア)そこで検討するに,被告は,ブランド品等のいわゆる並行輸入品の販売等を業とするET社の代表者たる地位にあった者であり,ハンナへの本件各キーホルダーの販売においても,原告の正規の販売ルート以外の業者から購入した商品をハンナに販売したのであるから,その販売に当たっては,原告の本件各商標権を侵害することのないよう,当該商品がダブルCキーリングの偽造品や二級品ではなく,真正商品であることを十分に確認すべき注意義務があり,具体的には,当該商品自体について真正商品であることの十分な検査を行うとともに,当該商品が真正商品であることを示す原告発行のインボイス等の関係書類の存在やその内容の正確性等を確認すべき注意義務があったものというべきである。 しかも,被告の前記ア(ア)及び(イ)の供述によれば,被告が本件各キーホルダーを仕入れた相手方は,日本国内に事業所を有さない香港の業者であり,それまでに被告との間で2,3回程度の取引しか行っていない者なのであるから,上記のような商品及び関係書類の確認は,特に厳重に行われる必要があったものといえる。 (イ)しかるところ,まず,商品自体の検査については,被告の前記ア(カ)の供述によれば,被告は,自ら又はET社の従業員に指示して,本件各キーホルダーの検品をひとつずつ行い,きず物が含まれていないことを確認したものとされる。 しかしながら,本件各キーホルダーがいずれもダブルCキーリングの真正商品ではなく,偽造品又は二級品と認められることは前記2(2)のとおりであるところ,このうち,少なくともキーホルダー2(440個)に●(省略)●は,これらの外観を子細に観察しさえすれば,原告の商品に関する特別な専門的知識がなくとも十分に確認し得ることである。そして,このように●(省略)●という事実は,これらの商品が原告の品質管理下に置かれたダブルCキーリングの真正商品であることを疑わせる事情ということができる。ところが,被告は,自ら又はET社の従業員に指示して,本件各キーホルダーの検品をひとつずつ行ったとしながら,440個もの多数の商品に認められる●(省略)●を全く発見しなかったというのであるから,被告による本件各キーホルダーの検査が不十分なものであったことは明らかである。 また,ジョイン・スカイから被告に交付された本件各メーカーインボイスの確認については,被告の本人尋問における供述によれば,原告のブランドロゴが記載されていること,ヘッダー部やフッター部に原告の販売店がある地域の住所や電話番号が記載されていること,該当商品の商品番号が記載されていることなどを確認して,原告の真正なインボイスであると判断したものとされる。しかしながら,被告が確認したとされる事項は,いずれも,原告のインボイスに当然記載されるべきことであり,何人においても容易に把握できる事項にすぎないから,これらの事項が記載されているからといって,当該インボイスが真正なものであることが何ら確認されることにはならない。むしろ,これを確認するためには,原告の直営店等が発行した真正なインボイスと本件各メーカーインボイスとを比較することが有効といえるところ,被告において,そのような確認を試みた形跡はなく,かえって,被告の本人尋問における供述によれば,被告は,原告の直営店等が発行した真正なインボイスを見た経験すらないものとされている。 また,前記2(1)アのとおり,●(省略)●本件各メーカーインボイスの記載を子細に確認しさえすれば,容易に発見し得るものである。そして,●(省略)●は,本件各メーカーインボイスが真正なものであることを疑わせる事情ということができる。ところが,被告は,本件各メーカインボイスの確認を行ったとしながら,●(省略)●を何ら認識していない。 したがって,被告の供述を前提としても,被告による本件各メーカーインボイスの確認が不十分なものであったことは明らかである。 (ウ)以上によれば,被告の前記アの供述は原告の本件各商標権侵害についての被告の過失の推定を覆すに足りるものでなく,被告には,ハンナへの本件各キーホルダーの販売に当たって,商品自体の十分な検査を怠った点及び当該商品が真正商品であることを示す証拠として交付された本件各メーカーインボイスの十分な確認を怠った点において,過失が認められる。 ウまた,被告は,被告には,本件各キーホルダーがダブルCキーリングの真正商品であると信ずるにつき相当な理由があったとして,?本件各キーホルダーが偽造品又は二級品であることを判別することは非常に困難であったこと,?被告は,本件各キーホルダーの購入以前にも,ジョイン・スカイからアパレル商品を2,3回購入しているが,それらの商品に偽造品や二級品が含まれるなどの問題はなかったこと,?被告は,本件各キーホルダーの購入に先立って,ジョイン・スカイから同タイプの商品をサンプルとして購入した上で,その真贋を判別するために,これらの商品に意図的に傷を付けて原告の直営店に修理に持ち込んでみたが,偽造品又は二級品であるとの指摘を受けることはなかったこと,?被告は,本件各キーホルダーの購入に当たって,ジョイン・スカイのD1から本件各メーカーインボイスのほか,本件各キーホルダーの通関証明書写し及びD1作成の真正商品であることの証明書の交付を受けていること,?被告及びET社の従業員らが,本件各キーホルダーをひとつずつ検品したが,偽造品又は二級品であると判断される異常は認められなかったこと,といった事情を指摘する。 しかしながら,被告が指摘する上記の各事情は,以下の(ア)ないし(オ)で述べるとおり,被告において本件各キーホルダーがダブルCキーリングの真正商品であると信ずるにつき相当な理由があったことを示すものではなく,これらを総合してみても,前記イのような被告の過失を否定することはできない。 (ア)上記?の点については,少なくともキーホルダー2(440個)における●(省略)●を確認することは,これらの外観を子細に観察しさえすればさして困難なことではなく,これらの欠陥の存在が本件各キーホルダーがダブルCキーリングの真正商品であることを疑わせる事情であることは,前記イ(イ)で述べたとおりであるから,本件各キーホルダーが偽造品又は二級品であることを判別することが非常に困難であったとはいえない。 (イ)上記?の点については,ジョイン・スカイとの過去の2,3回程度の取引に問題がなかったからといって,同社の扱う本件各キーホルダーについても真正商品であると信ずる相当な理由があることにならないことは明らかである。 (ウ)上記?の点については,そのような事実があったこと自体について裏付けとなる証拠がなく,これを認めることができない上に,仮に,そのような事実があったとしても,ジョイン・スカイから購入した少数のサンプルが真正商品であったとの事実が,直ちに本件各キーホルダーについても真正商品であると信ずる相当な理由となるものではない。 (エ)上記?の点については,本件各メーカーインボイスが原告の直営店等が発行した真正なインボイスではなく,被告は,本件各メーカーインボイスの確認を十分に行わなかったために,これを発見できなかったものであることは前記イ(イ)で述べたとおりであるから,ジョイン・スカイから本件各メーカーインボイスの交付を受けたことをもって,本件各キーホルダーが真正商品であると信ずる相当な理由があるということはできない。また,本件各キーホルダーに係る通関証明書写しやD1作成の証明書の交付を受けたとの事実についても,直ちに本件各キーホルダーが真正商品であると信ずる相当な理由となるものではない。 (オ)上記?の点については,被告が,自ら行い,又はET社の従業員に指示して行わせた本件各キーホルダーの検品が不十分であったために,キーホルダー2に●(省略)●などを発見できなかったことは,前記イ(イ)で述べたとおりであるから,被告及びET社の従業員らの検品によって本件各キーホルダーに異常が認められなかったことをもって,本件各キーホルダーが真正商品であると信ずる相当な理由となるものではない。 エ以上によれば,ハンナへの本件各キーホルダーの販売に関し,被告に,原告の本件各商標権侵害についての過失があったことは,優にこれを認めることができる。 (3)なお,本件各キーホルダーの販売による本件各商標権の侵害についての被告の故意の有無について,念のため検討する。 被告の前記(2)アの供述のうち,少なくとも,被告が,本件各キーホルダーをジョイン・スカイから購入し,その際,ジョイン・スカイから本件各キーホルダーが真正商品であることの証拠として本件各メーカーインボイスの交付を受けたとの事実については,本件各メーカーインボイス(甲4の1の1及び2,乙5)のほか,D1から交付されたという名刺(乙2),同じくD1から交付されたというジョイン・スカイ名義のインボイス(乙4),平成16年後半ころ,被告にジョイン・スカイの担当者を引き合わせた旨を述べる有限会社ブルーリボンドットコム取締役Gの陳述書(乙6)といった裏付証拠が存在する上に,内容的にも格別不自然,不合理なものとはいえないから,これを信用することができる。 このように被告は,本件各キーホルダーをジョイン・スカイから購入し,その際,本件各キーホルダーが真正商品であることの証拠として本件各メーカーインボイスの交付を受けたことを前提とすれば,被告が供述するとおり,被告において本件各キーホルダーが原告の海外の直営店で販売されたダブルCキーリングの真正商品であると認識していたとしても,あながち不自然なこととはいえない。 他方で,原告は,?D1の名刺(乙2)及びジョイン・スカイ名義のインボイス(乙4)に記載されている同社の住所が実在しないこと,?ジョイン・スカイ名義のインボイス(乙4)には,会社印の押印も,代表者や担当者の署名もされておらず,不自然であること,?上記インボイス(乙4)の会社の住所の表記に誤りがあること(「九龍(Kowloon)」の綴りが「Kowllon」となっていること),?被告の陳述書(乙1)では,ジョイン・スカイが日本国内に事業所を有しているとされていたのに,本人尋問では,日本国内にあるのは事業所ではなく輸入した商品の保管場所である旨,供述を変遷させていること,?被告は,その本人尋問において,本件各キーホルダーを輸入したのはD1であるとしながら,D1から被告に渡された通関証明書写しの輸入者の記載にはマスキングがされていたと供述しているが,並行輸入業者が自ら輸入した商品を販売する際に,その相手方に対して輸入者欄をマスキングした通関証明書写しを交付するのは不自然であること,?被告は,その本人尋問において,「D1との連絡は,電話や電子メールによるものです。」として,D1から伝えられた電話番号を供述する一方で,電子メールのアドレスについては一切供述しておらず,その供述態度が不自然であることなどを指摘し,被告は,ハンナへの本件各キーホルダーの販売に当たって,本件各キーホルダーが偽造品又は二級品であり,その販売が原告の商標権を侵害することにつき,故意があった旨主張する。 しかし,上記?の点については,本件各キーホルダーが偽造品又は二級品であることを前提とすれば,そのような商品の不正取引を行うような業者が,取引の過程で虚偽の住所を名乗ることは十分あり得ることであるから,D1の名刺(乙2)及びジョイン・スカイ名義のインボイス(乙4)に記載されたジョイン・スカイの住所が実在しない虚偽の住所であったとしても,格別不自然なことではないこと,上記?の点については,そもそも中間業者が発行するインボイスに会社印の押印又は代表者等の署名がされるのが通常であるとの前提自体が明らかではないし,仮にそうであるとしても,それらがないことがジョイン・スカイの実在性やジョイン・スカイとET社との取引の存在を疑わせるほどの事情とはいえないこと,上記?の点については,住所表記の些細な誤りにすぎず,特に,ジョイン・スカイが偽造品や二級品の不正取引を行うような業者であることを前提とすれば,インボイスにこの程度の表記の誤りがあることが格別不自然なものとはいえないこと,上記?の点については,「事業所」としていたものを「商品の保管場所」と訂正した程度のことにすぎず,不正確な表現ぶりを改めたものとして理解することができること,上記?の点については,被告は,D1が輸入者であろうとの推測を述べるているのみであって,その事実を確認しておらず,その前提において誤りがあること,上記?の点についても,被告の供述の信用性を否定する事情ということはできないことが認められる。 このように原告が指摘する諸事情を考慮しても,被告において本件各キーホルダーが偽造品又は二級品であることを認識していたとの事実を積極的に認めるには足りないものというべきであり,他にそのような認識をしていた事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって,ハンナへの本件各キーホルダーの販売に関し,被告に,原告の商標権侵害についての故意があったものと認めることはできない。 4 争点5(原告の損害額)ET社がハンナに対し,本件各キーホルダーを含むキーホルダー合計1282個を代金合計1821万0850円(消費税込み)で販売したことは,前記1(1)ア(ア)で認定したとおりである。 これによれば,本件各キーホルダーの1個当たりの平均販売価格(消費税を除くもの)は,1万3528円(計算式・1821万0850円÷1282個÷1.05)と認められる。 そうすると,ET社が本件各キーホルダー1113個をハンナに販売したことによる売上金額の合計は,1505万6664円と認められる。 しかるところ,前記争いのない事実(第2の1(1)ア(ア)),証拠(甲26)及び弁論の全趣旨によれば,原告の商品に係る「カルティエ」のブランドは,世界有数の高級宝飾品・腕時計ブランドとして,国際的にも,国内的にも高い著名性を有しており,本件各登録商標にも,同様の高級なブランドイメージを伴った,高い顧客誘引力があるものと認められること,被告による本件各商標権の侵害行為の態様及びその市場への影響等諸般の事情を総合考慮すると,原告が被告による本件各キーホルダーの販売に係る本件各登録商標の「使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額」(商標法38条3項)(使用料相当額)は,上記売上合計金額の10パーセントを下回らないものと認めるのが相当である。 したがって,原告が被告に対し,商標法38条3項に基づき,本件各商標権の侵害による損害賠償として請求し得る本件各登録商標の使用料相当額は,150万5666円と認められる(なお,仮に,本件において,原告の被告に対する旧有限会社法30条ノ3第1項に基づく損害賠償請求が認められるとしても,当該請求に係る原告の損害額が上記金額を上回るものでないことは明らかである。)。 5 結論以上によれば,原告の本訴請求のうち,不法行為に基づく損害賠償請求は,150万5666円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成21年1月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,上記認容額を超える部分に係るその余の請求(旧有限会社法30条ノ3第1項に基づく損害賠償請求を含む。)は理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 大鷹一郎 |
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裁判官 | 大西勝滋 |
裁判官 | 石神有吾 |