審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成22ネ10076商標権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 商標 |
平成20ワ34852商標権侵害差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
平成21ワ10151商標権侵害差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
平成18ワ5272損害賠償請求事件 平成18ワ8460損害賠償請求事件 | 判例 | 商標 |
平成18ワ8621商標権侵害差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 量産 / 包装 / 指定商品 / 損害額 / 逸失利益 / 債務不履行 / 観念(観念類似) / 差止 / 商標権の移転 / 信義則 / 存続期間 / 継続 / |
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事件 |
平成
19年
(ワ)
9548号
損害賠償等請求事件
平成 21年 (ワ) 8017号 損害賠償請求事件 |
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東京都品川区<以下略> 本訴原告(反訴被告)株式会社シンプルシステムズ 同訴訟代理人弁護士丹羽健介 佐藤米生 ?畑満 神戸和子 岡野和弘 緒方拓郎 東京都文京区<以下略> 本訴被告(反訴原告)株 式会社ジャングル 同訴訟代理人弁護士小澤哲郎 鶴田恵美 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2010/10/27 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1本訴原告(反訴被告)の請求をいずれも棄却する。 2本訴原告(反訴被告)は,本訴被告(反訴原告)に対し,663万5692円及びこれに対する平成21年11月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 3本訴被告(反訴原告)のその余の請求を棄却する。 4訴訟費用は,本訴,反訴を通じてこれを5分し,その2を本訴被告(反訴原告)の負担とし,その余は本訴原告(反訴被告)の負担とする。 5この判決の第2項は仮に執行することができる。 - 2 - |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求1本訴(1)本訴被告(反訴原告)は,本訴原告(反訴被告)に対し,279万1058円及びうち233万2890円に対する平成18年12月16日から,うち45万8168円に対する平成19年1月16日から,各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (2)本訴被告(反訴原告)は,本訴原告(反訴被告)に対し,253万9834円及びこれに対する平成19年3月16日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (3)ア主位的請求本訴被告(反訴原告)は,本訴原告(反訴被告)に対し,9278万3091円及びこれに対する平成19年2月10日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 イ予備的請求本訴被告(反訴原告)は,本訴原告(反訴被告)に対し,4808万8485円及びこれに対する平成21年10月15日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (4)ア主位的請求本訴被告(反訴原告)は,本訴原告(反訴被告)に対し,別紙1商標目録記載の商標権の移転登録手続をせよ。 イ予備的請求本訴被告(反訴原告)は,本訴原告(反訴被告)に対し,7113万3225円及びこれに対する平成20年5月17日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (5)ア本訴被告(反訴原告)は,別紙1商標目録記載の標章「携帯マスター」を電子計算機用プログラム又は同商品の包装に付してはならない。 イ本訴被告(反訴原告)は,別紙1商標目録記載の標章「携帯マスター」を電子計算機用プログラム又は同商品の包装に付したものを譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,又は電気通信回線を通じて提供してはならない。 ウ本訴被告(反訴原告)は,別紙1商標目録記載の標章「携帯マスター」を電子計算機用プログラムに関する広告,価格表若しくは取引書類に付して展示し,又は頒布し,又はこれらを内容とする情報に同標章を付して電磁的方法により提供してはならない。 2反訴(1)本訴原告(反訴被告)は,本訴被告(反訴原告)に対し,6976万0493円及びうち3250万3310円に対する平成15年1月28日から,うち3725万7183円に対する平成21年3月14日から,各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (2)本訴原告(反訴被告)は,本訴被告(反訴原告)に対し,2398万0800円及びこれに対する平成19年10月23日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要1(1) 本訴事件は,本訴原告(反訴被告。以下「原告」という。)が,本訴被告(反訴原告。以下「被告」という。)に対し,ア携帯電話の内部メモリ編集ソフトの開発・販売に関する契約(以下「本件契約」という。)に基づき被告が販売した製品(携帯マスター17)に係る未払ロイヤリティ(279万1058円及びうち233万2890円に対する弁済期の翌日である平成18年12月16日から,うち45万8168円に対する弁済期の翌日である平成19年1月16日から,各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)の支払(請求1(1)),イ原告と被告との間で締結した日本電気株式会社(以下「NEC」という。)向け製品(携帯マスター9 for NEC。以下「NEC向け製品」という。)のライセンス契約に基づく未払ライセンス料(253万9834円及びこれに対する弁済期の翌日である平成19年3月16日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)の支払(請求1(2)),ウ(ア) 主位的に本件契約上の債務の不履行(平成18年1月1日から平成19年2月9日までの販売努力義務違反)による損害賠償請求として9278万3091円及びこれに対する平成19年2月10日(本件契約終了の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払(請求1(3)ア),(イ) 予備的に被告が本件契約を突然終了させたことが信義則上の義務に違反するものであり,これにより原告が次期バージョンの製品(携帯マスター18)に係る開発費用相当額の損害を受けたとして,4808万8485円及びこれに対する平成21年10月15日(同月14日付け原告第15準備書面送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払(請求1(3)イ),エ(ア) 主位的に別紙1商標目録記載の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)は原告に帰属するものであり,本件契約終了時に原告に返還する旨の合意があるとして,その移転登録手続をすること(請求1(4)ア),(イ) 予備的に本件契約の終了に伴う信義則上の義務に基づき,本件商標権の経済的価値の2分の1に相当する金員(補償金)として7113万3225円及びこれに対する平成20年5月17日(同月16日付け原告第6準備書面送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払(請求1(4)イ),オ本件商標権に基づき,被告が販売するソフトウェア製品に本件商標を使用することの差止め(請求1(5)ア〜ウ)を求める事案である。 (2)反訴事件は,被告が,原告に対し,ア本件契約に基づき原告が被告に納入した製品(携帯マスター9)について,原告の不注意により著名タレント2名の肖像を含む画像データ(写真)が無断で格納されていたため,その発売前の回収や事後処理等を余儀なくされたとして,本件契約上の債務不履行による損害賠償請求として,6976万0493円及びうち3250万3310円に対する平成15年1月28日から,うち3725万7183円に対する平成21年3月14日から,各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払(請求2(1)),イ本件契約に基づき被告が販売した製品(携帯マスター17)の返品に伴う精算金として,返品された製品に係るロイヤリティ額(1本当たり1200円)と同額の金員2398万0800円及びこれに対する弁済期の翌日である平成19年10月23日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払(請求2(2))を求める事案である。 (3)なお,被告は,原告の本訴請求(上記(1)のうち,ア〜ウ及びエ(イ)の請求)に対し,上記(2)イの反訴請求債権を自働債権とする相殺の抗弁を主張し,上記(2)イの反訴請求は,本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合には,それを超える部分を請求するとしている。 2前提となる事実(証拠等を掲記した事実を除き,当事者間に争いがない。)(1)当事者等ア原告は,コンピュータ及び関連機器の開発,製造,販売等を目的として昭和60年1月9日に設立された株式会社である。(甲58)イ被告は,コンピュータソフトウェアの開発,販売等を目的として平成11年9月10日に設立された株式会社である。 (2)本件契約の締結ア被告代表者のA(以下「A」という。)は,平成11年12月ころ,原告の取締役(当時)であったB(現原告代表取締役。以下「B」という。)との間で,携帯電話の内部メモリ編集ソフトウェア(携帯電話とパソコンをケーブルで接続し,携帯電話内部の電話帳,メール,画像等のデータをパソコン内に保存し,あるいは,パソコン内の電話帳等のデータを携帯電話の内部に移すことを基本的機能とするソフトウェア)を原告が開発し,被告が販売する事業を立ち上げる交渉を行った。 イ上記交渉の結果,原告と被告は,平成12年2月10日,「ケータイ・マスター2001」の開発と販売に関する契約(本件契約)を締結し,下記(要旨を抜粋。表記は,一般的な表記法に準拠したほかは原則として契約書〔甲1〕の記載に従い,当事者の表示は本判決のものに置き換えた。)の事項を合意した。 記1)本件商品の定義パッケージ名称「ケータイ・マスター2001」……2)役割分担被告の役割:商品パッケージ名称・画面デザイン(意匠)の決定CD-ROMのプレス,パッケージの作成・宣伝・販売売上本数報告とロイヤリティの支払ユーザーサポート原告の役割:プログラムの開発被告の希望する商品仕様の実現動作テスト仕様説明資料の提供マスタ作成用プログラム,データの提供販売後の技術サポートプログラムの継続的なバージョンアップ3)保証……4)本件商品の諸権利の確認本件商品の商標権・販売権,被告がデザインを作成した部分の意匠権と著作権は,被告が保有する。それ以外の部分(エンジン)については,原告が著作権を保有し,被告は本件商品を販売する目的での使用権を有するものとする。 5)遵守事項1被告は,商品の拡販に努力するものとする。 ……6)ロイヤリティ被告は,原告に対し,商品の売上本数の累計に応じて,ロイヤリティを支払う。 ……7)支払条件被告は,原告に対し,商品販売開始後,毎月15日締めで売上本数を報告し,当該期間の売上本数に相当するロイヤリティを翌々月15日までに支払うものとする。 8)協力事項……9)その他1契約期間は,契約締結日より2年間とする。ただし,契約満了日の90日以前までに原告,被告いずれかが文書にて解約の意思を通知しない限り,契約期間は更に1年間自動延長されるものとし,以後も同様とする。 ……3原告が担当する「販売後の技術サポート」及び,「プログラムのバージョンアップ」に投入する労力については,ロイヤリティ収入で採算が取れる範囲とする。 ……ウ原告と被告は,その後,別紙2製品目録記載のとおり上記ソフトウェアの改訂がされる際に,本件契約を更新し,原告が開発したソフトウェアを被告が製品化して販売してきた(以下,「ケータイ・マスター2001」に始まるこれら一連の製品を「携帯マスターシリーズ」ともいう。なお,平成17年10月15日発売の「携帯マスター」及び平成18年3Smart月9日発売の「携帯マスター2」は,いずれも低価格版である。)。 Smart原告と被告は,本件契約更新の際,新たに契約書を作成することなく,ロイヤリティ等の必要な事項について合意書(甲3,8,39,乙5〜13)を取り交わし,その他の事項については上記イの各契約条項によることを合意していた。 (3)商標登録被告は,平成14年10月28日,本件商標について商標登録出願し,平成15年10月10日,その設定登録がされた。 (4)携帯マスター9に係る製品事故ア原告は,平成14年10月までに「携帯マスター9」を開発し,その複製・量産用マスターデータ(CD-ROM)を被告に納品した。 被告は,本件契約に基づき,上記マスターデータを複製し,別途作成したパッケージに説明書等の同梱品と共に梱包した上,合計2万3575個をソフトバンクBBその他の流通業者に販売し,流通業者は,これらを発売予定日の前日(平成14年11月14日)までに全国の販売店に配送した。 イところが,同日夕刻になって,上記マスターデータ中に著名タレント2名の肖像を含む画像データ(写真)9個が誤って格納され,一定の操作によりこれらが表示されることが判明した。これは,原告の開発担当者が「携帯マスター9」の開発中,テスト素材として第三者のインターネットサイトからダウンロードして取得し権利者の許諾を得ることなく使用した画像データを,被告への納品の際に消去し忘れていたことが原因であった(以下,この事故を「本件事故」という。)。 そのため,被告は,予定していた平成14年11月15日の「携帯マスター9」の発売を中止し,瑕疵を補修した後の製品(以下,瑕疵を補修する前の製品を「旧版V9」,瑕疵を補修した後の製品を「新版V9」という。)を同年12月6日に発売した。 ウ原告は,被告に対し,平成15年2月10日,本件事故による損害の賠償として,1333万4275円を支払った。 (5)NEC向け製品に係る未払ライセンス料アNEC向け製品に係るライセンス契約の締結原告と被告は,平成15年3月10日,NECが販売するパソコンに,NEC用に特別にカスタマイズした原告製品(NEC向け製品)をあらかじめインストールして販売することに関し,次の内容の契約を締結した。 (ア)契約期間被告とNECとが定めた期間を原告と被告間の契約期間とする。 (イ)ライセンス条件権利・義務に関しては,被告とNECとが契約書で定めた内容を原告は承諾するものとする。 原告と被告との間の職務分担は原則として「市販パッケージ」と同様とし,各自の責任で職務を遂行するものとし,事前の相手方の了解がある場合を除き,各自の職務遂行費用は各自が負担するものとする。 (ウ)売上報告被告は,NECから売上報告書を受領後,2週間以内にその書類のコピーを原告に郵送するものとする。その資料をもって原告被告間の報告とする。 (エ)支払条件3か月ごとに被告が原告に販売報告を行い,請求月の翌々月15日にNEC向け製品1本当たり10円のライセンス料を被告が原告に支払う。 (オ)責任分担原告は,NECが必要とする仕様に原告製品をカスタマイズして被告に納品する。 被告は,原告からの納品物に対して自らの責任で受入検査を実施し,検査に合格した商品をNECに納品する。 イNEC向け製品に係るライセンス料の未払分被告は,平成18年10月1日から同年12月31日まで,NECに対し,NEC向け製品を合計24万1889本販売したが,そのライセンス料(支払期日は平成19年3月15日)合計253万9834円(消費税込み)が未払いである。 (6)携帯マスター17に係る未払ロイヤリティア携帯マスター17のロイヤリティに関する合意原告と被告は,平成18年5月31日,携帯マスター17の販売により被告が原告に支払うべきロイヤリティについて,次のとおり合意した。 (ア)携帯マスター17のロイヤリティ単価について,累計販売本数4万本までは1本1200円,4万本を超えた部分については1本600円とする。 (イ)携帯マスター16の返品については1本当たり600円,携帯マスター15以前の商品の返品については1本当たり450円をそれぞれ上記(ア)のロイヤリティから差し引く。 (ウ)上記(イ)で各月に差し引く金額は,上記(ア)の方法により算出される各月のロイヤリティ額を上限とし,原告から被告に対する返金はしない。 イ携帯マスター17に係るロイヤリティの未払分(ア)被告は,平成18年9月16日から同年10月15日まで,携帯マスター17を1880本販売した。他方,返品は,携帯マスター16が54本,携帯マスター15以前が4本であった。 したがって,被告が原告に支払うべき上記期間のロイヤリティは,次の計算式のとおり,222万1800円及びこれに対する消費税11万1090円の合計233万2890円(支払期日は,本件契約の約定により,2か月後の平成18年12月15日)となる。 1,880本×1,200円/本-(54本×600円/本+4本×450円/本)=2,221,800円(イ)被告は,平成18年10月16日から同年11月15日まで,携帯マスター17を543本販売した。他方,返品は,携帯マスター16が358本,携帯マスター15以前が1本であった。 したがって,被告が原告に支払うべき上記期間のロイヤリティは,次の計算式のとおり,43万6350円及びこれに対する消費税2万1818円の合計45万8168円(支払期日は,本件契約の約定により,2か月後の平成19年1月15日)となる。 543本×1,200円/本-(358本×600円/本+1本×450円/本)=436,350円(ウ)携帯マスター17に係る上記(ア),(イ)の合計279万1058円(消費税込み)のロイヤリティが未払いである。 (7)本件契約の終了と携帯マスターNXの販売開始被告は,原告に対し,平成18年9月6日に本件契約の解約を提案した上,同年11月2日ころ,本件契約を更新しない旨通知し,これによって,本件契約は,平成19年2月9日の経過(期間の満了)により終了した。 この間の平成18年10月19日,被告は,被告が制作したソフトウェア(携帯電話データのバックアップ用ソフトウェア)に「携帯マスターNX」の名称を付して,その販売を開始した。 (8)携帯マスター17の返品平成18年6月30日に販売が開始された携帯マスター17は,その後,同年11月から平成19年2月にかけて,合計1万9984本が返品された。 (甲6の3〜5,乙1別紙1)被告は,原告に対し,平成20年10月31日の本件弁論準備手続期日において,仮に,原告の本訴請求(金銭債権)の全部又は一部が認められるときは,被告は,これを受働債権として,上記返品についての精算金債権を自働債権として対当額において相殺するとの意思表示をした。 3争点(1)被告は携帯マスターシリーズの販売努力義務に違反したか(2)被告が本件契約を終了させたことが信義則上の義務に違反するか(3)本件商標権の帰属及びその経済的価値(4)携帯マスター17の返品により,被告が支払ったロイヤリティの返金が認められるか(5)本件事故による損害について,和解が成立したか(6)原告の損害ア被告の販売努力義務違反による原告の損害イ被告が信義則に反して本件契約を終了させたことによる原告の損害(7)本件事故による被告の損害4争点に関する当事者の主張(1)争点(1)(被告は携帯マスターシリーズの販売努力義務に違反したか)についてア原告(ア)被告の販売報告によれば,平成18年1月から同年12月の携帯マスターシリーズ(携帯マスター16,17)の実売本数(=販売本数-返品本数)はマイナス1万4601本と異常な落ち込みを示しているが,これは,被告が平成18年中に独自に開発した携帯マスターNXへの切替えのタイミングを模索していたために,少なくとも平成18年1月以降,携帯マスターシリーズの販売について消極的姿勢に終始したことによるものと考えざるを得ない。 実際,被告は,平成18年9月6日に本件契約の解約を提案した上,同月下旬には携帯マスターNXを販売すると報道発表するとともに,同年10月19日から携帯マスターNXの販売を開始し,それに併せて,本件契約の存続期間中にもかかわらず,携帯マスター17の販売を中止した。 このような被告の行為は,携帯マスターシリーズの拡販に努力するという本件契約上の義務(販売努力義務)に違反するものであり,被告は,これによって原告に生じた損害を賠償する責任がある。 (イ)平成17年11月時点で原告が開発していたNECパソコンバンドル版「携帯マスター16 for NEC」はNECの受入テストに合格していたが,翌18年1月に被告従業員のC(以下「C」という。)から「NEC側の都合でキャンセルされた」と伝えられ,納品が中止された。 平成18年1月に完成している携帯マスター16 for NECを同年4月中旬ころ以降発売の夏モデル及び同年9月以降発売の秋冬モデルのために納品することは,十分可能だったはずである。上記の不可解な携帯マスター16 for NECの納入キャンセルは,被告が平成19年1月以降発売のNECのパソコンのために携帯マスターNXを納入したことと無関係とは考え難く,上記の時点で携帯マスターNXへの移行を模索していたのではないかと疑わざるを得ない。 また,Cは,平成18年8月上旬,棚卸しと称して,原告に持ち込んでいた開発用の数百台の携帯電話を持ち帰ってこれを原告に戻さなかった。原告としては,当時,Cの説明を信用していたが,同年9月6日に被告から突然の契約打ち切り通告を受けた後,上記携帯電話の引上げは,契約打ち切りの準備行為であったことを悟った。被告は,平成18年中に独自に開発した携帯マスターNXへの切替えのタイミングを模索していたために,携帯マスターシリーズの拡販について消極的姿勢に終始したと考えざるを得ない。 イ被告被告が携帯マスターシリーズの販売努力を怠ったことはなく,販売努力義務違反を理由とする原告の損害賠償請求は失当である。 被告は,携帯マスターシリーズの各バージョンについて,携帯電話機種対応表,店頭配布用パンフレット,店頭設置用パネル,棚敷等を作成し,販売店の店頭に設置していた(被告は,販売店の売場の一定の棚を携帯マスターの販売スペースとして確保しており,新バージョンが発売された後,速やかにこれら販促物を入れ換えないと,店舗からクレームを受ける状況であった。)。また,被告は,各バージョンの販売期間中,週末を中心として,ヨドバシカメラ新宿MM店,同秋葉原店,ビックカメラ有楽町店等,枢要販売店の店頭に要員を配置して,店頭でのデモンストレーションによる販促活動を行ってきたほか,プロモーション用VHSテープやDVDを作成して店頭デモンストレーションに利用し,あるいは,店頭で随時放映していた。これは,携帯マスター17についても,それ以前のバージョンについても,全く同様であった。 携帯マスターNXの発売後も,被告は,携帯マスター17の出荷停止案内を配布せず,携帯マスター17の販売活動を続けた(被告は,本件契約終了時期に合わせた取引終了手続に必要な期間を考慮し,流通業者に対する「平成19年2月8日をもって生産・販売停止」の案内を,同年1月12日付けで行った。)。また,被告は,携帯マスターNXの購入者に対する携帯マスター17のダウンロード販売を企画し,これにより平成18年11月期から19年2月期までの間に合計533本をダウンロード頒布しているが,これは,正に被告による携帯マスター17の販売努力の成果にほかならない。なお,携帯マスターNXは,低価格版の製品であり,携帯マスターシリーズの後掲製品として位置付けられるものであるから,Smartこの点においても,携帯マスターNXの販売が,携帯マスター17の販売努力義務に違反するものとはいえない。 そもそも,被告にとって,携帯マスターシリーズについての販売努力を怠るということは,返品発生とこれに対する精算金の支払という現実の損失の発生に直結するものであるから,被告が携帯マスターシリーズの販売努力義務に違反することなどあり得ない。携帯マスターシリーズの売上げの低下は,同種ソフトウェアの市場全体の縮小と,顧客層の購買傾向が携帯マスターシリーズのような「高価格・高機能版」から携帯マスターシリーズのような「低価格版」に転換したことによるものであり,Smartそのような傾向の下で被告が販売努力を尽くした結果,市場の中における携帯マスターシリーズの販売実績は維持・向上されてきた。 なお,被告は,携帯マスターシリーズの販売と並行して携帯マスターNXの研究・開発を随時行っていたが,これは,ソフトウェアパブリッシャーとして健全な活動であり,被告が販売している他の第三者開発のソフトウェアについても同様であって,携帯マスターシリーズの販売努力義務とは全く無関係である。 (2)争点(2)(被告が本件契約を終了させたことが信義則上の義務に違反するか)についてア原告原告は,本件契約上,携帯マスターシリーズの製品について「プログラムの継続的なバージョンアップ」を行う義務を負っており,平成18年5月下旬に携帯マスター17の開発を完了した後,携帯マスター18が予定どおり販売されるものと期待して,同年6月初めころからその開発に着手し,その旨被告にも逐次連絡をした上,同年9月ころにはほぼ完成させていた。それにもかかわらず,被告は,同年9月6日,原告に対し,何ら予告なく携帯マスター18を販売しないことを通告してきたため,原告は,それまでに行ってきた携帯マスター18の発売準備作業等に要した費用(開発費用)相当額の多大な損害を被った。 本件契約のような継続的な取引においては,一方当事者は,他方当事者に対し,不測の損害を与えないよう配慮すべき信義則上の義務を相互に負っていると解すべきであるから,上記のとおり,原告が携帯マスター18の開発をほぼ終えた平成18年9月6日になって唐突に本件契約の終了を申し入れることは,上記の信義則上の注意義務に違反するものである。したがって,被告は,これによって原告に発生した損害を賠償する責任がある。 イ被告(ア)原告の主張は否認ないし争う。 (イ)本件において,原告が平成18年9月までの間に携帯マスター18の開発を行っていたとは考え難く,実際,原告と被告との間には,携帯マスター18の開発行為の前提である個別契約も,携帯マスター18の仕様等に関する協議,決定もなかった。 (ウ)なお,本件契約は,「プログラムの継続的なバージョンアップ」が原告の役割であるとしているが,これは,次々に発売される携帯電話の新機種に対応するために必要なバージョンアップ(プログラムの変更によるマイナーバージョンアップ)を適時かつ継続的に行うことが本件ソフトウェアの本質上必要なものであることから,原告が継続的にこれを行わなければならないことを定めたものであり,「次版」(新製品)としてのソフトウェアを開発することを定めたものではない。すなわち,「次版」(新製品)としてのソフトウェアを開発する行為は,「マイナーバージョンアップ」とは本質的に異なり,商品としての名称,体裁といった外形部分から変更を加えるもので,当該商品でビジネスをしている被告の主体的な関与がなければ成立し得ないものであり,原告の義務の履行として行うことにはなじまない(そもそも「次版」を販売するかどうかは,被告がそのソフトウェアによるビジネスを継続するかどうかという決定に係るものであって,「次版をリリースしない」という業務判断もあり得る。)。 (エ)仮に,本件契約に基づいて「新版」の開発義務が発生し,また,実際に原告が携帯マスター18の開発を進めていたとしても,本件契約は,「90日前の予告による契約不更新」を定めており,当事者に対し,何らの費用負担や損害補償等の留保なく「契約期間満了の90日前までに通知することによって(新版開発義務を含む)本件契約を終了する権利」を認めている。被告は,この「契約終了権」を行使したにすぎないのであるから,それについて,信義則に違反するものとして,損害賠償請求を受ける理由はない。 (3)争点(3)(本件商標権の帰属及びその経済的価値)についてア原告(ア)そもそも「ケータイ・マスター」という名称を創案したのはBであり,本件商品の商品名を原告においてコントロールすることは,原告と被告との間で当初から合意されていた。 本件契約書(甲1)において,「商品の商標権・販売権……は被告が保有する。」とされているが,これは,「・」でつながっている「商標権」と「販売権」を一体のものとして被告が「保有」するとの意であり,「被告が原告製品の販売権を有している限り,販売目的のために第三者からの販売妨害等を防止するよう権利をキープ()する(支配下にkeep置く)」ことを定めたもので,本件商標権のみを独立して取り扱い,被告に帰属することを合意したものではない。 なお,原告は,平成15年春ころ,被告から携帯マスターシリーズに関する著作権等を譲渡してほしい旨の申入れを受け,この件に関して両者間で交渉を行ったが,その際,被告は,本件商標権が原告に帰属することを前提として,本件商標権も売買の対象とする契約書案(甲24,41)を作成して原告に提示している。 このように,本件商標権は,原告と被告との間においては,もともと原告に帰属することが合意されていたのであり,第三者の権利侵害を防止する目的で被告名義の商標登録を便宜的に認めていたにすぎないのであるから,携帯マスターシリーズの開発・販売契約(本件契約)が終了した以上,被告は,原告の許諾なく本件商標を使用することは許されず,権利の実体に名義を合わせるべく,本件商標権を原告に移転する義務がある。 (イ)本件において,被告は,もともと持っていた商標を使って原告の商品を販売してきたのではなく,原告と共同で携帯電話用メモリ管理ソフトを開発,販売する事業を立ち上げて,その事業及び商標の価値を大きくしてきたものである。 現状では,被告のみが本件商標を独占的に継続利用し,収益を上げて,その経済的効用を享受しているが,その一方で,本件商標の価値蓄積に多大な貢献(その貢献度は,少なくとも2分の1を下回らない。)をした原告が何らの補償も受けられないというのは,いかにも不公平である。 したがって,被告は,取引当事者間の公平の見地から,信義則に基づき,原告に対して,本件商標権の経済的価値(1億4226万6450円と試算される。)の2分の1に相当する金員(7113万3225円)を支払う義務を負っているというべきである。 よって,原告は,本件商標権の移転登録手続請求(上記(ア))が認められない場合には,被告に対し,予備的に,上記義務の履行として,7113万3225円及びこれに対する平成20年5月17日(同月16日付け原告第6準備書面送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。 イ被告(ア)本件商標権移転登録手続請求やその代償請求の基礎となるべき原被告間の合意や「本件商標権が実質的に原告に帰属する」などという事実は,一切存在しない。 本件商標は,被告にとって,その主力商品の一つである携帯マスターシリーズの標章(ブランド)として極めて重要な意義・価値を有するものであるから,被告は,自己の費用負担により,自己の商標として,本件商標の登録をしたものである。仮に本件契約が何らかの原因により終了する場合でも,同一商品名でのビジネスを継続する必要は高いから,被告は,本件商標権を自己の権利として確保することに極めて重大な関心・利益を有していた。 他方,原告は,本件契約締結時,本件商標に係る権利の確保には明らかに無関心だったのであり,本件契約終了後に本件商標権の移転を受けようとする意思など全くなかった。 したがって,本件商標権移転登録手続請求(主位的請求)も,その代償請求(予備的請求)も,理由がない。 (イ)原告が本件商標の経済的価値の形成に多大な貢献をしたとする点は争う。 本件商標に対する市場の評価や,これに基づく本件商標の価値は,被告が形成したものである。仮に本件商標の信用形成に原告が果たした貢献があるとしても,その代償はロイヤリティとして既に支払済みである。 (4)争点(4)(携帯マスター17の返品により,被告が支払ったロイヤリティの返金が認められるか)についてア被告(ア)携帯マスター17の返品分について,原告は,被告に対し,そのロイヤリティ額と同額(1本当たり1200円)の返金をする義務を負っている。 そもそもソフトウェアのロイヤリティは,ソフトウェアという著作物の利用料であり,ライセンシーが当該ソフトウェアの利用によりその価値を実現するところに,その利用料を支払う根拠がある。そして,ライセンシーとしてのその価値の実現は,パッケージソフトウェアについていえば,個々の商品の売上げが収益として確定することによって成立する。 ソフトウェア・パブリッシャーの極めて一般的な業態は,商品を流通業者に対して販売し,流通業者が統括的に全国の販売店に配送・販売していくというものであるところ,販売店からの返品分は流通業者からパブリッシャーにそのまま返品され,販売単価と同一金額で返金精算されている。すなわち,パブリッシャーとして当該ソフトウェアの販売により実現したその価値は,実売分(=販売本数分-返品本数分)である。 このことは,本件契約でも当然の前提とされており,本件製品の返品分について何らの定めがなくとも,ロイヤリティ単価と同一金額により返金精算する取扱いがされていた。 この原則に対し,当事者間の特約で別段の取扱いをすることを合意したのが携帯マスター8以降の個別契約(乙7)の定めであるが,その特約の射程距離は,各個別契約に明示されているとおりである。すなわち,携帯マスター17に関する個別契約(甲3)におけるそれは,「前商品」,「旧商品」であり,現商品である携帯マスター17は特約の対象になっていない。したがって,携帯マスター17の返品分については,原則に戻り,ロイヤリティ単価と同一の金額(1本当たり1200円)で精算されなければならない。 (イ)携帯マスター17は,平成18年12月期から平成19年2月期にかけて,1万9984本が被告の販売先から被告に返品された。したがって,原告は,被告に対し,同返品分の返金債務として,合計2398万0800円及びこれに対する弁済期(被告準備書面(3)を陳述した平成19年10月22日)の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払義務を負っている。 被告は,この債権を自働債権として,原告の本訴請求債権と対当額で相殺し,原告の本訴請求を超える部分については,原告に対し,反訴請求として,その支払を求める。 イ原告(ア)原告と被告は,近い将来,携帯マスター18,次いで同19が順次発売された場合の,携帯マスター17の返品についてのロイヤリティ単価について合意したが,本件のように携帯マスター18以降を発売しない場合の携帯マスター17の返品についてのロイヤリティ返金の合意は,原告と被告との間でされていない。 (イ)また,以前,原告が開発し被告が販売していた「デジカメマスター」シリーズ及び「CDバーチャライザ」の販売終了の際にも,最終バージョンのロイヤリティの返金については一切合意したことがなく,実際に返金したこともなかった。つまり,原告と被告との間において,最終バージョンの製品の返品分については,ロイヤリティ返金を行わない運用をしていた。 (ウ)なお,被告の主張は,本件契約の存続期間内に販売努力義務を放棄して販売店から回収した携帯マスター17についてのロイヤリティの返金を原告に求めるものであり,このような不当な請求は,商道徳上到底許されるものではない。 (エ)以上のとおり,携帯マスター17の返品によるロイヤリティの返金は認められない。 (5)争点(5)(本件事故による損害について,和解が成立したか)についてア原告本件事故については,平成15年5月15日,原告と被告との間で次のような和解が成立したことによって,既に解決済みである。 すなわち,まず,本件事故に関し,原告と被告との間で,原告が約3000万円の負担をする旨の合意が成立し,原告は,平成15年2月10日付けで,その内金1333万4275円を被告に支払った。 さらに,その残額については,同年5月15日,被告に対する支援という位置付けで,携帯マスター11の発売(同年12月5日)までの間,携帯マスター9,10のロイヤリティについて値引き(?携帯マスター9について,実売本数3万本を超えた部分について1本当たり300円の値引き,?携帯マスター10について,実売本数3万本まで1本当たり200円の値引き及び実売本数3万本を超えた部分について1本当たり450円の値引き)を行うことが合意され,原告は,その後,携帯マスター9,10について,上記合意に基づいて値引きされたロイヤリティの支払を受けた。上記合意による携帯マスター9のロイヤリティの値引き総額は530万0400円,携帯マスター10のロイヤリティの値引き総額は1666万9500円で,その合計は2196万9900円である。 以上のとおり,原告と被告との間においては,本件事故に関する和解が成立し,原告は,同和解に基づく債務も履行しているのであるから,本件事故についてこれ以上の損害賠償責任を負わない。 イ被告原告と被告との間には,「原告がおよそ3000万円を負担する旨の合意」を含め,何ら和解は成立していない。 原告が平成15年2月10日付けで本件事故による損害の賠償として1333万4275円を被告に支払ったことは認めるが,これは,被告の請求額に対し,原告が一部額を一方的に支払い,それを被告が一部弁済として受領したにすぎない。 その後,残額は債権として残ったが,被告としてはロイヤリティとの相殺等を通して回収を強行しようとするとプログラムの供給をストップされる危険が高く,それ自体被告にとって死活問題であったので,被告は,とりあえず残額請求はペンディングとし,原告との協業を優先した。そのような中で,原告からロイヤリティ減額(そもそも原告のロイヤリティは,他社に比べて高額であった。)の申出があったため,被告がそれを受け入れたにすぎないのであって,両者間の「和解合意」に基づきロイヤリティの減額が行われたものではない。 なお,原告と被告との間で作成された「携帯マスター9,10のロイアリティ値引きについて」と題する文書(乙8)の柱書には「両社間の損害賠償額に付いては合意が成立した事などを考慮して」と記載されているが,これは,Bが起案し,提示してきた書面に,被告が特段注意を払うことなく,ロイヤリティ額の記述等のみを注視して捺印したもので,原告と被告との間で和解が成立したことを裏付けるものではない。 (6)争点(6)(原告の損害)についてア原告(ア)被告の販売努力義務違反による原告の損害(主位的請求)(争点(6)ア)a(a) 被告が例年どおりの販売努力をしていれば,平成18年において,携帯マスターシリーズは,年間9万4844本程度(実売本数)は売れたはずである。したがって,原告の平成18年における得べかりし利益は,販売本数9万4844本を基にした原告が受け取るべきロイヤリティ相当額から原告が実際に受け取ったロイヤリティ相当額を控除したものとなる。 (b) 原告が受け取るべきロイヤリティ相当額については,携帯マスター17の1本当たりのロイヤリティは1200円(ただし,1バージョン当たり累計販売本数が4万本を超える部分については1本当たり600円)と取り決められていた。そして,携帯マスターシリーズは,1年間に2バージョン販売される慣例となっていたため,1年間では2バージョン分,つまり累計実売本数8万本までを1本当たり1200円とし,これを超える部分を1本当たり600円として,平成18年に原告が受け取るべきロイヤリティ相当額は,次の計算式のとおり,1億0490万6400円となる。 80,000本×1,200円/本+(94,844本-80,000本)×600円/本=104,906,400円(c) 請求月を基準として,携帯マスターシリーズにつき受領済みの平成18年1月分から同年9月分までのロイヤリティ合計額は2096万1750円(消費税抜き)である。 (d) したがって,平成18年の原告の得べかりし利益は,原告が受け取るべきロイヤリティ相当額1億0490万6400円から,平成18年に既に受領したロイヤリティ2096万1750円及び平成18年10月分以降の未払ロイヤリティ265万8150円(本訴請求(1)の請求額から消費税を控除した金額)を差し引いた8128万6500円となる。 b平成19年の得べかりし利益については,上記基準に基づく1年分の得べかりしロイヤリティ相当額に対する同年1月1日から同年2月9日まで(40日間)の日割計算により,次の計算式のとおり,1149万6591円となる。 (80,000本×1,200円/本+(94,844本-80,000本)×600円/本)×40日/365日=11,496,591円なお,携帯マスター17の次期バージョンに当たる携帯マスター18(仮称)は,平成18年9月にはほぼ開発を完了していたから,これを平成18年11月末ないし同年12月初めに発売することは十分に可能であった。したがって,平成19年2月まで携帯マスターシリーズを通常どおり販売することに支障はなかった。 c以上のとおり,平成18年1月1日から本件契約が終了した平成19年2月9日までの原告の得べかりし利益の総額は,9278万3091円となる。 したがって,被告は,原告に対し,債務不履行(販売努力義務違反)による損害賠償として,上記損害金元金9278万3091円及びこれに対する平成19年2月10日(本件契約終了の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。 (イ)被告が信義則に反して本件契約を終了させたことによる原告の損害(予備的請求)(争点(6)イ)a人件費 2949万8128円(a)原告は,被告による携帯マスター18の販売中止の申入れにより,平成18年6月初めころから同年9月6日まで開発を進めてきた携帯マスター18を販売することができず,開発期間中の人件費相当額の損害を被った。 また,被告からの申入れが唐突なものであったため,開発チームを他のプロジェクト等のために有効に活用(転用)するための準備期間を確保することができず,その結果,事後の方針が決定する同年11月末までの間,開発チームを空転させることとなった。 このように,原告は,平成18年6月から同年11月まで(6か月間)の人件費相当額の損害を被った。 (b)原告は,携帯マスターシリーズ開発のために設計担当者(SE)としての業務を行うBのほか,SE兼プログラマー2名,プログラマー2名の合計5名を従事させていた。 平成18年6月から同年11月まで(6か月分)の上記5名の給与(税,社会保険料を含む。)の合計は2319万7009円,社会保険料等の会社(原告)負担は合計258万0866円であり,その合計は2577万7875円である。 また,原告は,一般管理部門の人件費として,携帯マスターの開発チームのために少なくとも月額10万円程度を要していたので,6か月分として60万円の損害を被った。 さらに,携帯マスター18では,新しいOS()へWindows Vistaの対応の必要があり,通常と比べて開発作業量が顕著に多かったため,臨時に2名のプログラマーを開発に加えた。臨時プログラマーのうち1名の開発参加期間は3か月,もう1名が2か月であり(なお,両名については,開発参加期間終了後,他の案件を担当することがあらかじめ決まっていたため,参加期間以外の空費期間はなく,開発参加期間がそのまま損害を被った期間となる。),それぞれの期間に対応する給与額(税,社会保険料込み)の小計は278万0862円,社会保険料の会社負担分の小計は33万9391円で,それらの合計は312万0253円である。 (c)したがって,人件費の損害額は,合計2949万8128円である。 b開発事務所の賃料,光熱費978万4682円原告が携帯マスターシリーズの開発のために投入してきた池袋事務所の賃料,水道光熱費(上記aのとおり,平成18年6月から同年11月までの6か月分)は,合計978万4682円であり,これが原告の損害となる。 c開発機材費用 540万0000円原告は,携帯マスターシリーズの開発のため,50回線の携帯電話を契約していたところ,携帯電話購入代金を含め,その費用は月額50万円であった。 その他,原告は,コンピュータ等の開発機材,開発用ソフトウェア(コンパイラ,インストーラ,OS,MSDNライセンス料)などの費用として,月間40万円程度を投入していた。 したがって,上記a同様,平成18年6月から同年11月まで6か月分の開発機材費用540万円(=〔50万円/月+40万円/月〕×6月)が原告の損害となる。 dカニカピラ社に支払ったデザイン料210万0000円原告は,携帯マスター18のアイコン等のデザインをカニカピラ社に外注し,その費用210万円を支払った。 したがって,同費用210万円が原告の被った損害となる。 eケーブル等のシール貼り替え費用130万5675円原告は,不良在庫となったケーブル3万5000本及び変換アダプタ5000個を他に転売するため,携帯マスターシリーズ用であることを示すシールを貼り替える費用130万5675円を支出した。 したがって,同費用130万5675円が原告の被った損害となる。 f小括以上a〜eの合計4808万8485円が,被告が携帯マスターシリーズの販売打切りを突然申し入れてきたこと(信義則上の義務違反)により,原告が被った損害(開発費用相当額)となる。 よって,原告は,被告の販売努力義務違反による原告の損害賠償(上記(ア))が認められない場合には,被告に対し,予備的に上記損害金元金4808万8485円及びこれに対する平成21年10月15日(同月14日付け原告第15準備書面送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。 イ被告(ア)被告の販売努力義務違反による原告の損害(主位的請求)について(争点(6)ア)a携帯マスターNXは低価格版であり,携帯マスターシリーズとは市場を異にするから,携帯マスターNXが発売され,店頭に並んだとしても,携帯マスター17の売上げに影響が生じることはない。 仮に,携帯マスターNXの発売が携帯マスター17の販売成績に何らかの影響を与えたとしても,販売本数としては最大約640本の減少が想定されるのみであり,その金額は80万円にも満たない。 b携帯マスター18は,結局,製品化されなかったのであるから,このような現実に存在しないソフトウェアについて,被告がライセンスを受ける義務があることを仮定して,それを販売した場合の逸失利益を観念することはできない。 cなお,被告の販売努力義務違反による原告の損害が認められるとしても,携帯マスターシリーズの売上げの減少については原告にも重大な過失があったというべきであるから,その損害額は相当程度減殺されるべきである。 (イ)被告が信義則に反して本件契約を終了させたことによる原告の損害(予備的請求)について(争点(6)イ)a被告が原告に本件契約の終了を提案した平成18年9月6日は,携帯マスター18の通常の発売時期までまだ約3か月もある時期であり,仮に携帯マスター18を発売することが決定していたとしても,この時期までに原告が通常行う作業は,原告内部で基本仕様を検討する程度のものであり,それ以上の携帯マスター18の開発作業を行っていたとは考え難い。 b原告が主張する個々の損害についても,次のような問題点がある。 (a)人件費,賃料,光熱費について原告は,レギュラーメンバー5名,臨時プログラマー2名,一般管理部門の人件費を携帯マスター18の開発に係る損害として請求しているが,個々の人員の具体的な活動内容等が一切主張,立証されていない。 また,原告は,池袋事務所の6か月分の賃料,光熱費についても,携帯マスター18の開発に係る損害として請求しているが,原告はプログラムの開発を業とする会社なのであるから,携帯マスターシリーズに使用するソフトウェアの開発以外の用途にも池袋事務所を使用してきたことが容易に推認されるというべきである。 以上のとおり,原告が損害として主張する人件費や賃料,光熱費が実際に支出されていたとしても,本件との関連性は不明といわざるを得ない。 (b)開発機材費用について原告は,開発機材費用について,「携帯マスターシリーズ開発のため50回線の携帯電話を契約し,携帯電話購入代金を含め,その費用は月額50万円だった。」,「開発機材・ソフトウェアなどの費用として月間40万円程度を投入していた。」などと抽象的に主張するのみで,それらの購入や契約等の時期,内容,支出の内容,実際の用途等を具体的に主張,立証していない。 なお,開発用機材としての携帯電話機は,新機種に対応するための付加プログラム(アップデータ)を開発する目的で調達し,維持するものであるから,厳密にいえば,各機種につきアップデータの開発が終了すれば,それを保持する理由はなくなる(従来機種分については,従来開発したプログラムをそのまま利用することができる。)。したがって,抽象論としても,「携帯マスター18の開発のために50回線を保持した」などとするのは,空論にすぎないことが明らかである。 また,その他の開発機材についても,ソフトウェアの開発を業とする原告において,どの程度の物が,どの程度の期間,特に「携帯マスターシリーズ開発」用に調達あるいは使用されていたのか,具体的事実は全く主張,立証されていない。 したがって,原告が損害として主張する開発機材に係る支出が実際にされていたとしても,本件との関連性は不明といわざるを得ない。 (c)カニカピラ社に支払ったデザイン料についてアイコンの作成には,当該アイコンを使用する動作が確定していることが必要であるから,当該ソフトウェアの機能構成が確定していることがアイコン発注の前提となる。 しかしながら,原告がカニカピラ社にアイコンの作成を発注したと主張する平成18年7月中旬ころは,携帯マスター17の発売後2週間足らずの時期であり,そのような短期間で携帯マスター17の次バージョンとしてのソフトウェアの機能構成が確定していたなどということは,およそ考えられない。 さらに,その間に原告と被告との間で携帯マスター18の機能等についてのやり取りが一切行われていなかったことも考えると,仮に,原告がカニカピラ社にアイコンを発注したというのが事実だとしても,これは携帯マスター18のためのものではなく,原告の著作物であるプログラムのために原告が独自に行った固有の開発活動の一環としか考えられない。 (d)ケーブル等のシール貼替え費用について携帯マスターシリーズに同梱するケーブルの発注について,原告側は当時の社長であったD(以下「D」という。)が,被告側はE(以下「E」という。)がそれぞれ担当しており,実際の発注に至る段取りとしては,両者間で事前に電子メールでやり取りし,合意した上で,その合意内容に基づき,EがDに対してケーブルの注文書を発行し,それに基づいてDが発注,調達の手続を進めていた。 しかしながら,Eは,携帯マスター18用のケーブルの発注について,Dと何らやり取りをしておらず,連絡も受けていない。 このように,携帯マスター18用のケーブル,アダプタ発注の経緯に関する原告の主張が事実でないことは明らかである。 c仮に,原告が携帯マスター18の開発のために何らかの作業を行っていたとしても,原告は,その後,遅くとも平成19年4月までに発売した自社製品「携帯ライフ」に上記開発結果を使用しているのであるから,その開発費用は損害として現実化していない。 d過失相殺仮に,被告が信義則に反して本件契約を終了させたことによる原告の損害が認められるとしても,本件契約の終了については原告にも重大な過失があったというべきであるから,その損害額は相当程度減殺されるべきである。 (ウ)相殺の抗弁平成18年12月期から平成19年2月期にかけて,1万9984本の携帯マスター17が被告の販売先から被告に返品された。よって,原告は,被告に対し,同返品分の返金債務として,合計2398万0800円及びこれに対する弁済期の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払義務を負っている。 被告は,原告に対し,平成20年10月31日の本件弁論準備手続期日において,仮に,原告の本訴請求(金銭債権)の全部又は一部が認められるときは,被告は,これを受働債権として,上記自働債権と対当額において相殺するとの意思表示をした。 なお,上記返金債務の弁済期については特に合意が存在せず,期限の定めのない債務であるから,被告が原告に対してその履行を請求したと認められる時点で弁済期が到来することになる。そして,被告は,平成19年10月22日付け被告準備書面(3)の同日の陳述により,上記返還債務の履行を請求したから,上記返還債務は,同日にその弁済期が到来し,相殺適状となった。 (7)争点(7)(本件事故による被告の損害)についてア被告(ア)被告は,本件事故の結果,旧版V9の配送先である全国の販売店,販売店チェーン本部,流通業者等への通知その他のやり取り,納品済みの製品全量の回収,廃棄,流通業者や販売店へのお詫び,さらには,旧版V9に誤って格納された写真に掲載された当該タレントの所属事務所への状況報告,説明,これら問題の画像が携帯マスター9から第三者に流出していないことの調査等の対応を余儀なくされ,これにより,以下の損害(総額8309万4768円)を受けた。 a製造費用等 1680万4712円旧版V9の製造費用等の実費で,その内訳は次のとおりである。 (a)旧版V9の製造費1432万3419円旧版V9をパッケージ商品とするために掛かったプログラムCD,同梱物(マニュアル,はがき等),パッケージ等の作成,梱包,発送に要した費用である。 (b)交換用マスター作成費22万3650円新版V9のマスターデータ(複製・量産用のCD-ROM)の作成に要した費用である。 (c)返品・回収関係費125万7128円返品及び回収に係る旧版V9の検品(ケーブル抜取り作業を含む。),解体,解体作業のための出荷,配送に要した費用である。 (d)保管,廃棄費用等381万5700円旧版V9の保管や廃棄に要した費用である。 (e)値引き ▲281万5185円b着払運送費 13万3745円旧版V9を着払いにより回収するために要した運送費実費である。 c文書等送付費用1 9万7600円旧版V9の発売予定日(平成14年11月15日)に先立って購入した者に対し,旧版V9と新版V9との交換を依頼する旨の文書を送付するのに要した郵便代実費である。 d文書等送付費用2 52万2333円内訳は次のとおりである。 (a)店舗あて発売中止通知状送付費用8万3328円出荷先の各店舗に旧版V9の発売中止の通知を送付するために要した費用実費である。 (b)営業詫び状送付費用 3万2298円出荷先等に詫び状を送付するのに要した費用実費である。 (c)交換用CD-ROM送付費用40万6707円発売予定日(平成14年11月15日)に先立って旧版V9を購入した者に対し,新版V9のCD-ROMを送付するのに要した費用実費である。 e販促費用 865万9638円内訳は次のとおりである。 (a)旧版V9の広告費 85万4595円旧版V9の雑誌広告等に要し,無駄になった広告掲載,広告フィルム,広告簡易色校正等の費用実費である。 (b)旧版V9の回収及び新版V9の販売に関する追加販促費用780万5043円旧版V9の回収及び新版V9の販売に伴って被告が支出せざるを得なかったリベート,新版V9の発売告知パネル等作成や店頭宣伝活動に要した追加的な費用実費である。 f取引先との取引条件悪化に基づく損害1595万6398円内訳は次のとおりである。 (a)旧版V9の返品依頼と新版V9の販売依頼に起因する取引条件変更等に基づく損害 783万3926円旧版V9の回収及び返品により販売店等に迷惑を掛けたことに伴い上乗せされた新版V9の販促リベートの差額,卸値を減額させられた差額や,新版V9の販売スペースを新たに確保するのに要した費用実費である。 (b)便乗返品損害 812万2472円被告が,旧版V9の回収と新版V9について取引先に「協力」してもらったことで,取引上の立場が弱くなり,これに伴って,通常であればあり得ない他の商品の返品(旧版V9とは全く無関係の商品の異常な返品)が発生した。これは,通常であれば返品されなかった携帯マスター9以外の商品が,本件に便乗して返品されたために発生した損害である。 すなわち,平成14年11月から平成15年1月までの返品額は1265万2472円であったが,本件トラブルがなかった場合の通常の返品額は453万円(売上げの0.5%)であったはずであるから,その差額(812万2472円)が被告の損害となる。 g調査費 21万0000円当該画像のタレント所属事務所から要求され,出荷した旧版V9から画像が流出していないかを調査するのに専門の調査会社に依頼して調査させたことに伴う費用実費である。 h営業費 84万8742円旧版V9の回収と新版V9の発売に伴って追加的に発生した営業活動費用の実費であり,その内訳は次のとおりである。 (a)交通費 17万2622円(b)出張費 58万2814円(c)会議費及び接待費 5万6920円(d)通信費 3万6386円i人件費 900万0000円旧版V9の瑕疵に起因して行わざるを得なかった取引先に対する説明,連絡,販売停止・返品・回収の依頼,交渉,新版V9の発売に関する交渉,開発,その他追加的な業務活動に必要となった人件費であり,内訳は次のとおりである。 (a)業務・営業部門分337万5000円業務・営業部門の従業員6名は,平成14年11月14日に画像使用を発見してから翌日の発売を食い止めるため,緊急に全出荷先に販売中止の告知をし,また,同月15日以降も,返品依頼や謝罪等の対応を余儀なくされた。このため,3週間は本件の処理に掛かりきりとなったことによる人件費である。 (計算式)月間平均人件費75万円/人×6人×3/4月=337万5000円(b)開発・製作部門分337万5000円開発・製作部門の従業員6名は,競合製品の発売までのわずか1か月足らずの間に新版V9を開発・製作しなければならなかったため,3週間はそのための業務に掛かりきりとなったことによる人件費である。 (計算式)月間平均人件費75万円/人×6人×3/4月=337万5000円(c)管理部門分 225万0000円管理部門の従業員3名も,業務・営業部門の6名と同様の業務に携わるとともに,契約条件の変更その他本件に起因する事項の処理への対応等の業務に1か月間掛かりきりとなったことによる人件費である。 (計算式)月間平均人件費75万円/人×3人×1月=225万円j逸失利益 3086万1600円携帯マスター9の発売が平成14年11月15日から同年12月6日に遅延したことにより喪失した利益である。 すなわち,「携帯マスター」と競合製品である「携帯万能」とのシェア比は1対1.5であり,かつ,その当時は,同種ソフトウェア市場は両製品及び「携快電話」という3製品のほぼ独占状態であった。 新製品が発売されると,その新製品は新しい携帯電話に対応しているため,既に発売されている競合の現行製品に比べ,新製品側が一気に売上げが伸び,逆に,現行の競合製品のシェアが大きく落ちるという状況にあり,いつ発売するかというのは,各社にとって売上げやシェアを大きく左右する最重要事項であった。 被告は,本来の発売予定日である平成14年11月15日に携帯マスター9を発売することができていれば,同年12月10日の競合製品の発売日まで(同年11月15日から同年12月9日まで),新製品という優位性をもって市場をほぼ独占していたはずであるから,この期間中は,少なく見積もっても両製品が競合する時期の2倍の本数を販売することができたはずである。 そうすると,以下の計算により,逸失利益は3086万1600円となる。 ?平成14年12月6日から平成15年1月15日まで(41日間)の新版V9の実際の販売本数は3万0066本であった。 ?3万0066本÷(37+4×2)?668本(競合時期の1日当たりの販売本数)12月6日から9日まで(4日間)の先行時期は,1日当たりの販売本数が競合時期の2倍であることを前提に計算した。 ?668本×2(独占時期の1日あたりの販売本数予測値)×21(11月15日〜12月5日)=2万8056本?2万8056本×1100円(1本当たりの粗利)=3086万1600円(イ)被告は,原告に対し,平成15年1月27日,上記(ア)の金額(総額8309万4768円)のうち4583万7585円の支払を請求した。 これに対し,原告は,同年2月10日,合計3014万1218円を被告の損害と認めた上で,そのうちの1333万4275円を支払い,被告は,これを損害賠償の一部弁済として受領した。 (ウ)よって,被告は,原告に対し,上記(ア)の損害総額と上記(イ)の弁済額との差額である6976万0493円及びうち3250万3310円(上記(イ)の請求額から弁済額を控除した残額)に対する平成15年1月28日(上記(イ)の請求の日の翌日)から,うち3725万7183円に対する平成21年3月14日(反訴状送達の日の翌日)から,各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。 イ原告原告が被告に1333万4275円を支払ったことは認めるが,その余は否認ないし争う。 被告は,原告から受領したソフトウェアの納品時の検査(商法526条1項)を怠り,著名タレントの画像データが混入していることを見逃したまま,携帯マスター9のパッケージ作成を行った。このように,被告には受領したソフトウェアの納品検査を怠るなど重大な落ち度があったのであり,原告に一方的に非があるものではない。被告に生じた損害については,少なくとも5割以上の過失相殺が認められるべきである。 第3当裁判所の判断1争点(1)(被告は携帯マスターシリーズの販売努力義務に違反したか)について(1)本件契約は,前記第2の2(2)のとおり,当初は「ケータイ・マスター2001」の開発と販売について締結された契約であったが,その後,同ソフトウェアの改訂がされる都度に更新され,その際には新たに契約書を作成することなく,ロイヤリティ等の必要な事項について原告と被告との間で合意書を取り交わし,その他の事項については本件契約の各契約条項によることを合意していたものである。そして,本件契約は,「5)遵守事項」の項に「被告は,商品の拡販に努力するものとする。」と定めている(甲1)から,同規定により,被告は,原告が開発したプログラムを搭載した携帯マスターシリーズ(「ケータイマスター2001」に始まる一連の製品)について,その拡販(販売数の拡大)のために努力する契約上の義務を負うものと解される。 (2)証拠(乙1)によれば,平成15年から平成18年(暦年)までの携帯マスターシリーズ(ただし,「携帯マスター」を除く。)に係る販売本Smart数,返品本数,実売本数(販売本数から返品本数を控除した本数)の推移は次のとおりであり,携帯マスターシリーズは,平成18年になって,返品本数が販売本数を上回り,実売本数がマイナスに転じたことが認められる。 年度販売本数返品本数実売本数平成15年152,46232,231120,231平成16年142,58632,859109,727平成17年97,13442,55954,575平成18年38,03952,640▲ 14,601(3)上記の実売本数の減少について,原告は,平成18年1月以降,被告が携帯マスターシリーズの販売努力を怠ったことによるものであると主張する。 しかしながら,証拠(甲35,乙25,29,48)及び弁論の全趣旨によれば,携帯電話メモリ管理ソフトに係る市場規模は,少なくとも平成15年以降,縮小傾向にあった(BCNデータに基づき,平成18年度を平成15年度と比較すると,売上金額ベースで平成15年度比マイナス約62%,売上本数ベースで平成15年比マイナス約40%もの減少を示している。)上,低価格版(機能を絞った廉価版)製品の台頭により,「携帯マスター」シリーズのように相対的に高価格,高機能な製品の販売は低調であったが,そのような状況の中でも,被告は,少なくとも平成15年以降,携帯電話用ソフトウェアの販売本数において,一貫して業界第2位のシェアを占めるなど,それなりの売上げを維持していたことが認められるのであるから,上記実売本数の減少を被告が販売努力を怠ったことによるものと即断することはできない。 (4)なお,被告は,本件契約期間中の平成18年10月19日,自社が開発した携帯電話メモリ管理ソフトとして「携帯マスターNX」の販売を開始しているが,証拠(甲19,20)によれば,同製品は低価格版のソフトウェアであり,携帯マスター17とは市場において必ずしも競合するものではないから,「携帯マスターNX」の販売により,携帯マスター17の売上げが減少したと認めることもできない。 (5)その他,原告は,?平成18年1月に完成したNECパソコンバンドル版の「携帯マスター16 for NEC」をNECに納品することを被告が妨げた,?同年8月上旬,棚卸しと称して,被告が原告に持ち込んでいた開発用の数百台の携帯電話を持ち帰り,その後,新たに発売された携帯電話も原告に提供しなかったため,原告によるアップデータが不可能になったなどと主張する。しかし,上記?については,「携帯マスター16 for NEC」が平成18年4月ころ発売のNECパソコン夏モデル,同年9月ころ発売の同秋冬モデルにバンドルのソフトウェアとして搭載されなかったことは認められる(甲58,60)ものの,被告が同製品の納品を妨げたとの事実を認めるに足りる証拠はなく,上記の搭載がされなかったのは,同製品の開発がNECの要求した納期(平成17年12月中旬)に間に合わなかったことによるものであり(乙44,証人C),被告の販売努力義務違反によるものであるとは認められない。また,上記?については,被告の販売努力義務とは関わりのない事実というべきである。 したがって,原告主張のこれらの事実によっては,携帯マスターシリーズに係る被告の販売努力義務違反を肯定するには足りないというべきである。 (6)なお,原告は,平成18年11月末ないし同年12月初めには携帯マスター18を発売することが可能であったことを前提として,その販売努力義務違反を主張するが,結局のところ,本件契約の終了により携帯マスター18は発売されなかったのであるから,かかる製品について,被告の販売努力義務というものを観念することはできない。 したがって,原告の上記主張は,失当といわざるを得ない。 2争点(2)(被告が本件契約を終了させたことが信義則上の義務に違反するか)について(1)原告は,平成18年5月下旬に携帯マスター17(発売は平成18年6月30日)の開発を完了した後,本件契約上の義務に基づき,同年6月初めころから携帯マスター18の開発に着手し,同年9月ころにはほぼ完成させていたにもかかわらず,被告が同月6日に本件契約の終了を提案してきたのは,契約当事者に不測の損害を与えないよう配慮すべき信義則上の義務に違反するものであると主張する。 (2)本件契約は,「2)役割分担」の項に「原告の役割」として「プログラムの継続的なバージョンアップ」を定めているが,この「バージョンアップ」は,「ロイヤリティ収入で採算が取れる範囲」で行うものと限定されていること(「9)その他」の項の3)を考慮すれば,「次版」(新製品)の開発を意味するものと解することには疑問があり,むしろ,携帯マスターシリーズのようなプログラムについては,次々と発売される新たな携帯電話の機種に対応するためのプログラムの変更(マイナーバージョンアップ)が不可避であることにかんがみると,上記「プログラムの継続的なバージョンアップ」は,新たな携帯電話の機種に対応するためのバージョンアップを意味するものと解するのが相当である。 したがって,携帯マスター18の開発が本件契約上の義務に基づくものであることを前提とする原告の主張は,採用することができない。 (3)もっとも,原告は,平成12年2月10日に被告との間で本件契約を締結した後,別紙2製品目録記載のとおり,平成18年6月30日に携帯マスター17を発売するに至るまでの6年以上にわたって,間断なく携帯マスターシリーズのプログラムを開発し,これを被告に提供して,製品化してきたものであるから,携帯マスター18についても,予定どおり発売がされるものとの期待を有していたことは,否定できない。 しかしながら,証拠(甲9,27〜30,乙18,19,29,原告代表者,被告代表者,証人C)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,携帯マスター17の開発完了後,被告との間において,「携帯マスター」事業は不採算であり,現状のまま維持,継続することは困難であるとか,今後,資本力のある別社を通じた販売も考えているなど,その事業の存続について厳しい交渉を続けていたもので,被告から携帯マスター18の発売を断念する旨を提案された平成18年9月6日時点においても,本件契約を更に更新するか否かの見通しは立っていなかったことが認められる。 また,前記第2の2(2)のとおり,原告と被告は,本件契約更新の際,新たに契約書を作成することなく,ロイヤリティ等の必要な事項について合意書(甲3,8,39,乙5〜13)を取り交わしていたものであるが,そもそも携帯マスターシリーズに搭載されているプログラムは原告の著作物であり,被告がこれを販売するためには原告の許諾が必要であるところ,ロイヤリティその他の条件が折り合わなければライセンス契約が成立しないことは当然であるから,本件契約は,その成立当初から,いつでも終了する可能性を有していたものということができる。 さらに,証拠(甲3,乙5〜7,9〜13,20,証人C)及び弁論の全趣旨によれば,原告と被告との間においては,それまでも携帯マスターシリーズについては,個々のバージョンごとに具体的にロイヤリティ等のライセンス条件が交渉され,上記のように合意書が取り交わされた後に,初めて原告が被告に複製・商品製作用の完成版プログラムを格納した「ゴールドマスター」ディスク(GM)を交付して納品するという形態の取引が行われてきたものであるところ,携帯マスター18については,本件全証拠を検討しても,原告と被告との間において,その開発内容等についての具体的な交渉が行われたとは認められない。 以上のような経緯及び原告と被告との取引形態にかんがみれば,前記第2の2(7)のとおり被告が平成18年9月6日に本件契約の解約を提案し,同年11月2日ころ本件契約を更新しない旨通知したことが信義則に反するものと評価することはできない。 したがって,本件契約の終了について信義則違反があったとする原告の主張は,採用することができない。 3争点(3)(本件商標権の帰属及びその経済的価値)について(1)原告は,本件商標権は被告名義で登録されているものの,被告との間においては原告に帰属することが合意されていたもので,その実質的な権利者は原告である旨主張する。 しかしながら,本件契約は,「4)本件商品の諸権利の確認」の項において「本件商品の商標権・販売権,被告がデザインを作成した部分の意匠権と著作権は,被告が保有する。それ以外の部分(エンジン)については,原告が著作権を保有し,被告は本件商品を販売する目的での使用権を有するものとする。」と定めている。そして,「本件商品」とは,前記第2の2(2)のとおり,本件契約締結当初は「ケータイマスター2001」を指していたが,その後,本件契約を基本契約として携帯マスターシリーズの製品が開発,販売され,本件契約を更新してきたのであるから,「本件商品」は,一連の携帯マスターシリーズを含むものと認められる。したがって,本件契約において,「ケータイマスター2001」を始めとする携帯マスターシリーズに係る「商標権」は被告に帰属することが明らかである。そして,現に,被告は,平成14年10月28日,本件商標「携帯マスター」について商標登録出願し,平成15年10月10日,その設定登録がされ,原告も本件契約の継続中これに対し何らの異議を申し入れていないのであり,本件全証拠を検討しても,これと異なる合意の存在は認められないから,原告の上記主張は理由がない。 この点,原告は,「保有」の意味について,「キープする」ということであり,被告が携帯マスターシリーズの販売権を有している限り,第三者からの販売妨害等を防止するよう,商標権を支配下に置いておくことであるなどと主張するが,一般に「保有」とは,「自分のものとしてもちつづけること」(広辞苑第6版)を意味するから,原告の上記主張は採用することができない。 (2)原告は,原告と被告との間で平成15年当時に行われた携帯マスターシリーズのソフトウェアに係る権利を原告から被告に譲渡する交渉の過程で作成された契約書案(甲24,41)中に,譲渡対象として「商標権」が記載されていることを根拠として,本件商標権は実質的には原告に帰属するものであるとも主張する。 しかしながら,これらの契約書案(甲24,41)は,契約交渉の過程で,双方が相手方提示の契約書案に変更を加えながら継続してやり取りした中間的な案にすぎず,その作成経緯を検討すれば,これらの契約書案に譲渡対象として「商標権」が掲げられていたとしても,原告と被告との間において,本件商標権が原告に帰属することが確認がされたと認めることはできない。 すなわち,原告は,当初,譲渡を受ける権利として「著作権」のみを挙げていたが(乙17),被告は,代理人弁護士の助言を受け,当該ソフトウェアに関する「一切の権利」を対象とする方がよいという趣旨から,「商標権,著作権その他の知的財産権を含む一切の権利」と加筆して修正提案した(甲24)。これに対し,原告が「知的財産権を含む一切の権利」という文言に拒絶反応を示したことから,この部分が削除されたが,被告としては,「一切の権利」と明示できないまでも,削らないで済むものは残しておきたいという考えから,「商標権」に関する記載を残した内容の契約書案(甲41)として,交渉を継続したものである(なお,この交渉は,結局合意に至ることなく終了した。)。 したがって,上記経緯からすれば,上記契約書案の記載をもって,本件商標権が原告に帰属することを被告が認めた趣旨であるとすることはできない。 (3)その他,本件全証拠を検討しても,本件商標権が原告に帰属する旨の合意を認めるに足りないから,本件商標権の移転登録,及び原告に本件商標権が帰属することを前提とする本件商標の使用の差止めを求める原告の請求は,いずれも理由がない。 また,原告は,予備的に,当事者間の公平の観点から,被告に対し,本件商標権の有する経済的価値の2分の1の金員(7113万3225円)の支払を求めているが,前示のとおり本件商標権が原告に帰属するとは認められないのであるから,その代償を求め得る法律上の根拠はなく,原告の予備的請求も理由がない。 4争点(4)(携帯マスター17の返品により,被告が支払ったロイヤリティの返金が認められるか)について(1)「『携帯マスター17』のライセンス条件に関する合意書」(甲3)には,下記の記載がある。(表記は,一般的な表記法に準拠したほかは原則として甲3の記載に従い,当事者の表示は本判決のものとした。)記被告と原告は,「携帯マスター17」(以下,製品と表記する。)の販売に関して以下のとおり合意する。 第1条希望小売価格とロイヤリティ単価……第2条返品分のロイヤリティ精算単価(a) 本商品の返品時の精算単価に関して基本的に,次版,次々版発売後の精算単価はそれぞれ(b)-?,?とする。 ただし,14,15の実売実績は従来契約の前提である4万本には到達しておらず,16に関しても同様と予測されるため,本製品の実売本数も3万本を下回る場合には別途相談とする。 (b) 前商品,旧商品の精算に関して本商品発売期間中の「前商品(1バージョン前の商品)」「旧商品(2バージョン以上前の商品)」のロイヤリティ精算単価は以下のとおりとする。 ?「前商品」の返品分のロイヤリティ精算単価は,600円とする。 ?「旧商品」の返品分のロイヤリティ精算単価は,450円とする。 ?各月の「本商品」の出荷額を超えての返品精算は行わないものとする。 ……第4条その他本合意書で製品の販売に限り特別に合意した上記事項のほかは「基本契約書」(判決注:本判決の基本契約と認められる。)記載のとおりとする。 ……(2)合意書(甲3)の上記記載によれば,原告と被告は,平成18年5月31日,携帯マスター17の返品については,?携帯マスター18発売後の返品については1本当たり600円で精算し,?携帯マスター19以降の発売後の返品については1本当たり450円で精算するが,?上記?,?のいずれの場合においても,携帯マスター18以降の製品の出荷額を超えての返品精算は行わない,という趣旨の合意をしたものと解される。 ところで,前示のとおり,本件契約の終了により携帯マスター18以降のバージョンの製品が販売されることはなかったのであるから,携帯マスター17が返品されたとしても,携帯マスター18以降の製品のロイヤリティから所定の金員を控除することによる精算を行うことは不可能であり,携帯マスター17の返品についての精算は,上記合意?〜?をそのまま適用することができない。しかしながら,上記合意は,携帯マスター17について返品があった場合の精算単価を明確に定めているのであるから(携帯マスター18以降のロイヤリティから控除するというのは,携帯マスター18以降が販売される場合の精算方法を定めたものであるが,精算方法をこれに限定する趣旨であるとまでは解されない。),その後,携帯マスター18以降の製品が販売されなくなったからといって,およそ携帯マスター17の返品に伴う精算が不要になるものと解することは不合理である。したがって,携帯マスター17の返品による精算を不要であるとする原告の主張も,精算単価をロイヤリティと同額の1本当たり1200円とする被告の主張も,いずれも上記合意に反するものであり,採用することができない。 そして,上記合意の趣旨に従うと,原告は,携帯マスター17について返品があった場合には,被告に対し,一本当たり,?携帯マスター18の販売期間として想定される期間は600円,?携帯マスター19以降の製品の販売期間として想定される期間は450円の精算をする必要があるというべきである。 (3)証拠(甲6の3〜5,乙1別紙1)によれば,携帯マスター17は,平成18年11月16日から平成19年2月15日まで,合計1万9984本が被告の販売先から被告に返品されていることが認められる。 そして,別紙2製品目録記載のとおり,原告と被告は,携帯マスターシリーズについて,おおむね半年に一度のバージョンアップをしており,上記期間(平成18年11月16日から平成19年2月15日まで)は,携帯マスター18の販売期間と想定される期間に含まれるから,携帯マスター17の返品による精算単価は,1本当たり600円ということになる。 したがって,被告は,原告に対し,携帯マスター17の返品による精算として,合計1199万0400円(=600円/本×1万9984本)の支払を求めることができる。 なお,原告は,携帯マスター17の返品について,被告が販売努力を怠った結果によるものであるから,その返品についてロイヤリティの返還を認めることは商道徳上許されないと主張するが,被告に携帯マスター17の販売努力義務違反が認められないことは前示のとおりであり,原告の上記主張は理由がない。 5争点(5)(本件事故による損害について,和解が成立したか)について(1)証拠(各項に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 ア被告は,平成15年1月27日,本件事故による被告の損害を総額4583万7575円として,これを原告に負担するよう求めた。(乙30)イ原告は,同年2月10日,被告に対し,上記損害のうち1333万4275円を振込送金し,被告は,同月14日ころ,これを上記損害金の一部として受領し,損害賠償については引き続き協議する旨の通知をした。 (乙32)ウ原告は,同年3月31日付けで「『携帯マスター9,10のロイアリティ値引き』について」と題する文書を作成し,被告に対し,携帯マスター9,10の販売に関して,ロイヤリティの値引き(?携帯マスター9につき,実売本数3万本を超えた部分について1本当たり300円の値引き,?携帯マスター10につき,実売本数3万本まで1本当たり200円の値引き,3万本を超えた部分について1本当たり450円の値引き)による支援を実施することを提案した。同文書の冒頭には「『携帯マスター9』の販売が順調である事,昨年11月に発生した商品回収に関する両者間の損害賠償に付いては合意が成立した事などを考慮して,携帯マスター9,10の販売に関して,以下のとおり,支援(値引き)を実施するものとする。」と記載され,上記「昨年11月に発生した商品回収」とは本件事故をいうものと認められる。(甲83の2)エ被告は,原告に対し,同年4月4日,携帯マスター9のロイヤリティについて,少なくとも1800万円に減額してほしいと要請したが,同年5月13日,結局,原告の上記ウの提案を基本的に了承する旨返答し,その場合の未払ロイヤリティの支払計画を提示した。(甲79,80)オ原告は,同年5月14日,被告の上記支払計画のとおりに合意することを申し入れ,同月15日,「『携帯マスター9,10のロイアリティ値引き』について」と題する文書に押印した上,これを被告にファクシミリで送信した。(甲81,甲83の2)これに対し,被告は,同日,上記文書に押印して,原告にファクシミリで返信した。(甲84の1,乙8)カ被告は,その後,上記合意に従い,携帯マスター9,10について,減額されたロイヤリティの額を請求し,原告からその支払を受けた。(甲61の1〜10,甲62)なお,携帯マスター9の実売本数は4万7668本,携帯マスター10の実売本数は5万3710本であるから(乙1別紙1),上記により減額されたロイヤリティの額は,次式のとおり,合計2196万9900円となる。 (47,668本-30,000本)×300円/本+30,000本×200円/本+(53,710本-30,000本)×450円/本=21,969,900円(2)上記認定事実によれば,原告は,本件事故による損害賠償金の一部として,被告に対し,1333万4275円を支払ったほか,本件事故により経済的に打撃を受けた被告の支援名目で,携帯マスター9,10のロイヤリティを値引きしているが,値引きに至る上記経緯及び同値引きを提案した文書(甲83の2)の冒頭に「『携帯マスター9』の販売が順調である事,昨年11月に発生した商品回収(判決注:本件事故)に関する両社間の損害賠償に付いては合意が成立した事などを考慮して,携帯マスター9,10の販売に関して,以下のとおり,支援(値引き)を実施するものとする。」と記載されていることにかんがみると,この値引きによる減額分合計2196万9900円は,本件事故による損害賠償に充当する趣旨でされたものと認めるのが相当である。しかし,上記値引きに関する原告と被告の合意は,上記の趣旨にとどまるものであり,それ以上に,原告と被告との間に本件事故による損害賠償の問題をすべて解決する旨の合意が成立したとまでは認められない。 すなわち,上記文書作成当時,いまだ被告の損害額が確定していたとは認められない上,本件事故のような会社間の取引上のトラブルに基づく損害賠償責任について終局的な和解が成立したというのであれば,これに関する正式な合意文書(契約書)が作成され,和解の内容,条件等が具体的に明らかにされるのが通常であると考えられるにもかかわらず,本件においては,このような文書は作成されていないのであって,このことは,本件事故について,いまだ終局的な和解が成立していないことを示しているというべきである。 この点,原告は,上記文書(甲83の2)における「両社間の損害賠償に付いては合意が成立した」という記載を根拠として,原告と被告との間に本件事故に係る終局的な和解が成立したかのような主張をするが,同文書の上記記載は,原告の一方的な認識を示すにすぎないものというべきであり,前示したところに照らし,採用することができない。 (3)以上のとおり,本件事故について原告と被告との間に終局的な和解が成立したとは認められないから,被告は,いまだ填補されていない損害があれば,その賠償を原告に求めることができるというべきである。 6争点(6)(原告の損害)について前示のとおり,被告による販売努力義務違反(争点(1))も,信義則上の義務違反(争点(2))も認められないから,これによる原告の損害を検討するまでもない。 7争点(7)(本件事故による被告の損害)について(1)証拠(乙50)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,本件事故により,次の損害(合計3484万2965円)を受けたことが認められる。 ア製造費用等 1680万4712円旧版V9の製造費用等の実費で,その内訳は次のとおりである。 (ア)旧版V9の製造費 1432万3419円旧版V9をパッケージ商品とするためにかかった,プログラムCD,同梱物(マニュアル,はがき等),パッケージ等の作成,梱包,発送に要した費用であり,本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。 (イ)交換用マスター作成費 22万3650円新版V9のマスターデータ(複製・量産用のCD-ROM)の作成に要した費用であり,本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。 (ウ)返品・回収関係費 125万7128円返品及び回収に係る旧版V9の検品(ケーブル抜取り作業を含む。),解体,解体作業のための出荷,配送に要した費用であり,本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。 (エ)保管,廃棄費用等 381万5700円旧版V9の保管や廃棄に要した費用であり,本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。 (オ)値引き ▲281万5185円イ着払運送費 0円被告は,旧版V9を着払いにより回収するため,運送費実費として13万3745円を要したと主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。 ウ文書等送付費用1 0円被告は,旧版V9の発売予定日(平成14年11月15日)に先立って購入した者に対し,旧版V9と新版V9との交換を依頼する旨の文書を送付するために,郵便代実費として9万7600円を要したと主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。 エ文書等送付費用2 52万2333円その内訳は次のとおりである。 (ア)店舗宛発売中止通知状送付費用8万3328円出荷先の各店舗に旧版V9の発売中止の通知を送付するために要した費用実費であり,本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。 (イ)営業詫び状送付費用 3万2298円出荷先等に詫び状を送付するのに要した費用実費であり,本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。 (ウ)交換用CD-ROM送付費用40万6707円発売予定日(平成14年11月15日)に先立って旧版V9を購入した者に対し,新版V9のCD-ROMを送付するのに要した費用実費であり,本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。 オ販促費用 865万9638円その内訳は次のとおりである。 (ア)旧版V9の広告費 85万4595円旧版V9の雑誌広告等に要し,無駄になった広告掲載,広告フィルム,広告簡易色校正等の費用実費であり,本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。 (イ)旧版V9の回収及び新版V9の販売に関する追加販促費用780万5043円旧版V9の回収及び新版V9の販売に伴って被告が支出せざるを得なかったリベート,新版V9の発売告知パネル等作成や店頭宣伝活動に要した追加的な費用実費であり,本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。 カ取引先との取引条件悪化に基づく損害783万3926円その内訳は次のとおりである。 (ア)旧版V9の返品依頼と新版V9の販売依頼に起因する取引条件変更等に基づく損害 783万3926円旧版V9の回収及び返品により販売店等に迷惑をかけたことに伴い上乗せされた新版V9の販促リベートの差額,卸値を減額させられた差額や,新版V9の販売スペースを新たに確保するのに要した費用実費であり,本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。 (イ)便乗返品損害 0円被告は,旧版V9の回収と新版V9について取引先に「協力」してもらったことで,被告の取引上の立場が弱くなり,これに便乗して,旧版V9とは全く無関係な商品の返品が発生したと主張する。 しかし,被告がいったん売却した商品の返品に応じなければならないか否かは,当該取引先との取引条件(通常は,契約により定められるものと考えられる。)によるものというべきであるが,旧V9以外の商品の返品が,いかなる理由でなされたものであるか,また,被告がこれに応じなければならない義務があったのか否かについて,何らの主張,立証もない。したがって,被告の主張する便乗返品損害を本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。 キ調査費 21万0000円当該画像のタレント所属事務所から要求され,出荷した旧版V9から画像が流出していないかを調査するのに専門の調査会社に依頼して調査させたことに伴う費用実費であり,本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。 ク営業費 81万2356円旧版V9の回収と新版V9の発売に伴って追加的に発生した営業活動費用の実費であり(その内訳は次のとおりである。),いずれも本件事故と相当因果関係のある被告の損害と認められる。 なお,被告は,通信費として3万6386円を要したと主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。 (ア)交通費 17万2622円(イ)出張費 58万2814円(ウ)会議費及び接待費 5万6920円ケ人件費 0円被告は,旧版V9の瑕疵に起因して行わざるを得なかった取引先に対する説明,連絡,販売停止・返品・回収の依頼,交渉,新版V9の発売に関する交渉,開発,その他追加的な業務活動に必要となった人件費として合計900万円(業務・営業部門337万5000円,開発・制作部門337万5000円,管理部門225万円の合計)を要したと主張するが,これらの従業員(正規従業員)に対する人件費は,本件事故の発生にかかわらず発生する経費(固定経費)というべきであるから,本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。 コ逸失利益 0円被告は,携帯マスター9の発売が平成14年11月15日から同年12月6日に遅延したことにより,3086万1600円の利益を逸失したと主張するが,携帯マスターの発売が上記のとおり遅延したことによって,同ソフトウェアの製品寿命が短縮するなどして,販売本数が実際に減少したといえるのかは明らかではなく,その他,本件全証拠を検討しても,被告に逸失利益が生じたことを認めるには足りない。 (2)過失相殺原告は,旧版V9について納品時の検査(商法526条1項)を怠り,著名タレントの画像データが混入していることを見逃したままパッケージ作成を行うなど,重大な落ち度があったから,被告に生じた損害については,少なくとも5割以上の過失相殺が認められるべきである旨の主張をする。 しかしながら,旧版V9の納品を受けた被告において,そのプログラム中に上記のような画像データが混入しているか否かという観点から,旧版V9の検査をする義務があるとすることはできない。すなわち,ソフトウェアの受入検査の目的は,?ウイルスの混入がないことの確認,?プログラムのインストールとアンインストールを正常に行うことができることの確認,?個々の動作が正常に行えることの確認であるから(証人C),旧版V9を製品化して販売する被告としては,そのプログラムが正常に作動することや,その動作中に問題が発生しないことなどを検査すれば足りるのであって,個々のフォルダの中に何があるかを確認するというような受入れ検査の目的とは関係のないことについてまで検査をする必要は認められないからである。 しかるところ,被告は,旧版V9が正常に作動することや,その動作中に問題が発生しないことをテストし,確認しているのであるから(証人C),検査義務を尽くしたものとして,過失相殺は認められない。なお,本件事故について作成された被告の報告書(甲78の2)には,本件事故の発生原因として,「マスタ受領後の,ジャングル(判決注:被告)内での検証,確認不足」が指摘されているが,これは,原告と被告が「携帯マスター」シリーズについて協働し,良好な関係を構築していた時期に作成されたもので,多分に儀礼的に表現されたにすぎないと考えるのが相当であるから,上記認定を左右するものではない。 (3)損益相殺上記(1)による損害合計は,3484万2965円であるところ,前記認定のとおり,原告は,被告に対し,平成15年2月10日,本件損害のうち1333万4275円を賠償したほか,携帯マスター9,10に係るロイヤリティの減額分として合計2196万9900円の填補を受けているから,これらを控除すると,被告の本件事故による損害はすべて填補済みとなる。 8小括(1)本訴について以上検討したところによれば,被告は,原告の本訴請求債権のうち,(1)の携帯マスター17に係る未払ロイヤリティ279万1058円及びうち233万2890円に対する平成18年12月16日から,うち45万8168円に対する平成19年1月16日から,各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払義務並びに(2)のNEC向け製品に係るライセンス料253万9834円及びこれに対する平成19年3月16日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払義務があるが,他方,被告は,原告に対し,前示のとおり携帯マスター17の返品による精算金返還請求として,1199万0400円及びこれに対する原告が履行遅滞に陥った日(後に検討する。)の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める権利を有している。 そして,被告は,原告に対し,平成20年10月31日の本件弁論準備手続期日において,原告の本訴請求を受働債権として,上記精算金債権を自働債権として対当額において相殺するとの意思表示をしたから,相殺適状(上記精算金債権については,履行期の定めがないが,合意書〔甲3〕では携帯マスター18以降の製品のロイヤリティから所定の金員を控除することによる精算を行うこととされていたことにかんがみると,返品の発生時に相殺適状になると解するのは相当ではなく,携帯マスター18以降の製品のロイヤリティが発生しないことが確定した時,すなわち,平成19年2月9日の経過により,被告は原告に対し,その履行を請求し得ることになったと解すべきであり,同月10日から相殺適状にあったというべきである。したがって,民法506条2項により,相殺の効力は同日に遡及する。)となった平成19年2月10日時点における本訴請求(1)の債権額(遅延損害金2万3816円を含む。)は合計281万4874円,本訴請求(2)の債権額(相殺適状時において履行期未到来であり遅延損害金は発生しない。)は合計253万9834円であり,その合計額は535万4708円であるから,原告の本訴請求債権は,上記相殺により,いずれも消滅する。 したがって,原告の本訴請求は,いずれも理由がない。 (2)反訴についてア反訴請求(1)については,前示のとおりすべて填補済みであるから,理由がない。 イ反訴請求(2)については,前示のとおり精算金債権の相殺後の残額は663万5692円であるところ,同残債権について被告が原告にその履行を請求したのは,平成21年11月17日付け被告準備書面(13)において反訴請求の追加をした時であるから,原告が履行遅滞に陥ったのは,同準備書面が原告に送達された日の翌日,すなわち,平成21年11月28日と解すべきである(なお,被告は,平成19年10月22日付け被告準備書面(3)を陳述した日の翌日から遅延損害金が発生するものとして反訴請求をしているが,同準備書面には同債権の履行を請求する旨の記載はなく,採用することができない。)。そうすると,反訴請求(2)は,663万5692円及びこれに対する平成21年11月28日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がない。 第4結論よって,原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし,被告の反訴請求は,上記の限度で理由があるから認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
別紙1商標目録登録番号第4716024号出願日平成14年10月28日登録日平成15年10月10日商品及び役務の区分第9類指定商品電子応用機械器具及びその部品,電子計算機用プログラム登録商標(標準文字)携帯マスター別紙2製品目録発売年月日製品名平成12年4月20日ケータイマスター2001平成12年11月17日ケータイマスター2平成13年5月18日ケータイマスター?平成13年11月21日ケータイマスター?平成14年4月19日ケータイマスター8平成14年12月6日携帯マスター9平成15年6月6日携帯マスター10平成15年12月5日携帯マスター11平成16年5月20日携帯マスター2005Rainbow平成16年11月11日携帯マスター14平成17年6月17日携帯マスター15Smart平成17年10月15日携帯マスター平成17年12月8日携帯マスター16平成18年3月9日携帯マスター2Smart平成18年6月30日携帯マスター17 |
裁判長裁判官 | 岡本岳 |
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裁判官 | 鈴木和典 |
裁判官 | 寺田利彦 |