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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ワ9548損害賠償等請求事件 平成21ワ8017損害賠償請求事件 判例 商標
平成22ワ10785商標権侵害差止請求事件 判例 商標
平成22ネ10084販売差止等請求控訴事件 判例 商標
平成21ネ10058商標権侵害差止等,商標権侵害不存在確認等請求控訴事件 判例 商標
平成22ワ32483商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  包装 /  指定商品 /  周知性 /  不正競争の目的 /  顧客吸引力(グッドウィル) /  類似性(類否判断) /  損害額 /  逸失利益 /  先使用(32条) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  差止 /  損害額の推定 /  同一の商品 /  類似商標 /  先使用権 /  継続的に使用 /  継続 /  商号 /  利益額 / 
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事件 平成 21年 (ワ) 10151号 商標権侵害差止等請求事件
山形県長井市<以下略>
原告 株式会社ScutSystem
同訴訟代理人弁護士 魚谷隆英
同 補佐人弁理士中村盛夫埼玉県北葛飾郡<以下略>
被告 三栄株式会社
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2010/10/14
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告は,原告に対し,金4728万円及びこれに対する平成21年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを20分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1請求 被告は,原告に対し,金5000万円及びこれに対する平成21年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要 本件は,別紙原告商標目録記載の商標(以下「原告商標」という。)について後記商標権を有する原告が,別紙被告標章目録記載の各標章(以下,別紙被告標章目録記載の各標章を,それぞれに付された番号に従って「被告標章1」などといい,被告標章1ないし8をまとめて「各被告標章」という。)を,電気2式床暖房装置の包装に付し,あるいは,電気式床暖房装置の広告用パンフレットに付して頒布するなどして使用していた被告に対し,被告による各被告標章の使用は原告の有する商標権を侵害する行為であると主張して,商標法37条1号,民法709条に基づき,原告の被った損害額の内金として,5000万円の賠償金の支払を求める事案である。
なお,附帯請求は,不法行為の後の日である平成21年4月11日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求である。
1争いのない事実等(認定事実については証拠を掲記する。)(1)当事者(弁論の全趣旨) ア原告は,平成15年8月14日に設立された,床暖房装置の製造及び販売並びに設置工事等を業とする株式会社である。
イ被告は,昭和56年5月20日に設立された,電気式床暖房の製造販売並びにその工事設計施工等を業とする株式会社である。
なお,被告は,その商号を,平成21年1月19日,株式会社三栄工事から現商号に変更した。
(2)原告の商標権(甲4の1・2,甲13) 原告は,原告商標について次の商標権(以下「原告商標権」という。)を有する。
登録番号 第5035358号 出願年月日 平成18年1月13日 登録年月日 平成19年3月30日 商品及び役務の区分第11類 指定商品 家庭用・業務用電気式床暖房装置商標 別紙原告商標目録記載のとおり(3)原告による原告商標(類似商標)の使用(甲2の1・2,弁論の全趣旨)3 原告は,主に「S-cut/エスカット」,「エスカット」,「エスカット床暖房」,「S-cut床暖房」,「エスカットヒーター」,「ScutSystem」,「エスカットシステム」の名称の下に,電気式床暖房装置の製造,販売及び設置工事を行っている。
(4)被告の行為(甲5,甲6の1・2,甲7の1ないし3,甲14の1ないし5,甲15の1・2,甲21,弁論の全趣旨) 被告は,少なくとも,平成19年4月1日から平成21年3月31日までの間,被告標章1を包装に付した電気式床暖房装置を製造,販売し(商標法2条3項2号),その製造販売する電気式床暖房装置の広告用パンフレット(甲5)に被告標章1,2,3及び8を付して頒布し,その製造販売する電気式床暖房装置の広告を内容とする情報に被告標章1,2,4,6,7及び8を付して被告の開設するウェブページ(甲6の1)に掲載し,あるいは,スポンサーサイトに被告標章5を付した広告情報を出稿してウェブサイト上で公開する(甲6の2)などして提供し(同法2条3項8号),各被告標章の全部又は一部を使用していた。
(5)指定商品の同一 被告が製造販売する電気式床暖房装置は,複数のステンレス面状ヒーター発熱部を熱源とし,制御コントローラー,温度センサー,サーモスタット,ポリプロピレン成型樹脂端子を備え,床の仕上げ材であるフローリング床などの下に設置されるものである。
被告の製造販売する電気式床暖房装置は,原告商標権の指定商品である「家庭用・業務用電気式床暖房装置」に含まれる。
2争点(1)原告商標と被告標章との類否(争点1)(2)先使用権の有無(争点2)(3)損害額(争点3)4第3争点に関する当事者の主張1争点1(原告商標と被告標章との類否)について〔原告〕(1)原告商標について ア外観 原告商標は,アルファベット文字で表記された「S-cut」との文字列とカタカナ文字で表記された「エスカット」との文字列を,上下二段に配して成る。
称呼 原告商標からは「エスカット」との称呼が生じる。
(2)各被告標章について ア外観被告標章1ないし5のうち,「床暖房」との文字列部分は,商品の品質・種類としての「床暖房装置」に係るものであることを取引者・需要者に想起させるにすぎず,自他商品識別力を有しない部分であるから,被告標章1ないし5の要部は,「Scut」,「S-cut」,「S-CUT」,又は「エスカット」との文字列部分である。
そうすると,各被告標章(被告標章1ないし5についてはその要部)は,「Scut」,「S-cut」,「S-CUT」,又は「エスカット」との文字列から成るといえる。
称呼 各被告標章(被告標章1ないし5についてはその要部)からは「エスカット」との称呼が生じる。
(3)原告商標と各被告標章との類似性 以上のとおり,原告商標と各被告標章とは,外観において類似し,称呼において同一である。
5 よって,原告商標と各被告標章とは類似する。
〔被告〕 原告の主張は否認ないし争う。
2争点2(先使用権の有無)について〔被告〕 被告は,次のとおり,商標法32条1項に基づき,その製造販売する電気式床暖房装置について,各被告標章を使用する権利(先使用権)を有する。
(1)原告商標の出願前から使用していたこと 被告は,電気式床暖房装置の製造・販売事業を行っていた株式会社マリガン(以下「マリガン」という。)との間で,平成17年5月2日,業務提携契約を締結しており(甲31),原告商標の登録出願前から,電気式床暖房装置の製造・販売について,各被告標章を使用していた(乙14の各枝番,乙15の1・2)。
マリガンは,平成12年ころから「SCUTSYSTEM」等の標章を使用して電気式床暖房装置の製造・販売事業を行っていた株式会社日本地場産業(以下「日本地場産業」という。)から事業を承継して,その事業を行っていた。
(2)不正競争の目的でないこと ア被告の製造販売する電気式床暖房装置は,原告の商品に比べて,機能的に優れている。原告の商品が取引先に広く認知されているという状況も認められない中で,被告が,あえて原告商標と類似する標章を用いて原告の信用を利用して自己の利益を図る必要はない。被告は,原告が原告商標の使用を開始する以前から,日本地場産業やマリガンが各被告標章を使用してきたことを前提に,その使用を承継,継続したにすぎない。
イ被告は,設備投資による製造原価の削減等の努力により,原価を安く抑えることができたにすぎず,原告から顧客を奪うために,不当な値引きを6し,価格を安く設定したわけではない。
ウ被告は,日本地場産業やマリガンにおいて継続的に使用されてきたパンフレットの体裁に基づき,被告のパンフレットを作成したにすぎず,原告のパンフレットに依拠したわけではない。
(3)周知性があることア日本地場産業,マリガン及び被告の各被告標章の使用実績に鑑みれば,原告商標の登録出願がされた平成18年1月13日の時点において,各被告標章は,被告の製造・販売する電気式床暖房装置を表示するものとして,取引者・需要者(施工業者や設計事務所)の間に広く認識されていたといえる。
被告は,マリガンとの業務提携契約(甲31)に基づき,各被告標章を用いての床暖房の製造販売事業を行った。被告は,マリガンから,その業務と共に各被告標章を承継したのであり,マリガンからの承継の前後を通じた各被告標章の継続的使用行為に基づいて,周知性が判断されるべきである。
イ被告は,日本地場産業,株式会社ジバサン(以下「ジバサン」という。),マリガン,株式会社エフアールエー(以下「エフアールエー」という。)といった会社から事業を承継する中で,各被告標章を使用していたのであるから,これらの会社が受注した工事に関し,被告が事業を執行したものやアフターサービスを行ったものも含めて,各被告標章の周知性が判断されるべきである。
(4)各被告標章の使用停止について被告は,各被告標章の使用を既に停止したものの,当該事実は,被告が各被告標章を使用していた当時における先使用権の成否を左右するものではない。
〔原告〕7 被告の主張は否認ないし争う。
(1)被告は,マリガンとの間で,平成17年5月2日,業務提携契約を締結し,同年10月11日を事業開始日として,電気用品安全法3条に基づく電気用品製造の届出を関東経済産業局長に行った(甲31,32)。したがって,被告が各被告標章を付した電気式床暖房装置の製造を開始したのは,早くても平成17年10月中旬ころ以降のことである(甲33)。
仮に,被告が平成17年5月2日以降,各被告標章を使用していた事実があったとしても,各被告標章が,原告商標の登録出願当時,被告の製造・販売する電気式床暖房装置を表示するものとして,周知性を獲得していた(取引者・需要者の間に広く認識されていた)とはいえない(甲11,12参照)。
そもそも,日本地場産業と被告とは無関係であり,マリガンも日本地場産業からの事業を承継したということはできず(甲12),マリガンが平成17年5月2日に被告との間で業務提携契約を締結し,床暖房装置の製造販売について提携したからといって,被告がマリガンの事業を承継したわけではない。被告が,マリガンと業務提携をしたからといって,マリガンの各被告標章の使用実績を承継したわけでもない。
また,被告が,ジバサン,マリガン,エフアールエーの受注案件を継続して事業として取り扱った,あるいは,アフターサービスを行ったことを示す証拠はない。むしろ,エフアールエーについては,主として「FH-S-CUT」等の商標を使用して,被告の競争相手として併存していた。
(2)原告は,原告商標の登録出願に先立つ平成15年8月14日に,床暖房装置の製造及び販売並びに設置工事等を目的として設立され,その後,直ちに,原告商標を使用して床暖房装置の製造,販売,設置工事等を開始した(甲40の各枝番,甲41の各枝番)。原告は,被告が,各被告標章を付した電気式床暖房装置の製造,販売を開始するよりも前から,原告商標を付した床暖房装置を製造,販売し,原告商標は原告の床暖房装置を表示するものとして,8周知性を獲得してきた(甲22の1,甲23,24,甲42の各枝番)。
それにもかかわらず,被告は,原告の存在,原告商標の存在及び原告の電気式床暖房装置を十分認識した上で,あえて各被告標章を用いて床暖房事業を行い,原告の顧客を奪おうとしてきたものであり,不正競争の目的をもって,各被告標章を使用したと推認することができる(このことは,被告のパンフレット(甲5,乙15の2)に記載された宣伝広告内容が,原告の使用していたパンフレット(甲2の1・2)の内容に酷似していることからも裏付けられる。)。
(3)また,被告は,各被告標章の使用を既に停止した旨主張する。仮にこれが事実だとすれば,被告による各被告標章の使用は,「継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合」には該当しない。
3争点3(損害額)について〔原告〕(1)被告は,故意又は過失により,原告商標権を侵害したから,これにより原告が被った損害を賠償すべき責任を負う。
原告は,本件訴訟において,平成19年4月1日から平成21年3月31日までの間の被告の商標権侵害行為について損害賠償を求め,これにつき以下のア,イの損害額を選択的に主張する。
ア商標法38条2項に基づく損害額の推定被告の平成19年度及び平成20年度(平成19年4月1日から平成21年3月31日までの間)における電気式床暖房装置の売上高は,少なくとも6億8593万6000円を下回ることはなく,また,当該事業に係る被告の利益率は約35%程度であるから,被告が原告商標権の侵害行為により受けた利益の額は,2億4007万7600円(6億8593万6000円×35%)を下回ることはない。
そして,被告が受けた利益の額(2億4007万7600円)は,原告9が受けた損害の額と推定される(商標法38条2項)。
したがって,原告は,被告に対し,2億4007万7600円の内金として,5000万円の損害賠償請求権を有する。
(ア)被告の売上高について 被告の電気式床暖房装置の売上額は,仮に,これをシステム事業部の売上げに限ったとしても,平成19年度は4億0517万8000円であり(乙4の3),平成20年度は2億8075万8000円である(乙5の3)。
したがって,平成19年度及び平成20年度の電気式床暖房装置の売上高は,合計6億8593万6000円を下らない。
(イ)被告の利益率について 被告は,床暖房装置製造・販売事業以外にも事業を行っていること,被告の従業員数は30人ないし40人程度であること,床暖房装置製造・販売事業が被告の事業に占める割合(売上げや人員等に占める割合)はおおむね40%程度であると推測されること等に照らすと,乙第22号証の記載を前提としても,被告の利益率は,35%程度であると推認することができる。
(ウ)なお,被告の受けた利益は,乙第4号証の3及び乙第5号証の3を前提としても,ほぼその粗利益に相当するというべきであり,平成19年度の粗利益9414万6000円及び平成20年度の粗利益4222万円の合計1億3636万6000円ということになる。
したがって,被告の利益率のいかんにかかわらず,原告の請求は理由があるというべきである。
(エ)被告は,1平方メートル当たり4500円程度の利益を上げていたものと考えられる(甲27の1・2)。
被告のホームページに掲載された平成18年度の施工実績によれば,10その総施工面積は1万3447平方メートルであり(甲6の1),平成18年度の被告の売上げ(完成工事高)は3億4892万円である(甲25)。平成19年度及び平成20年度の床暖房装置に関する被告の売上げは,平成18年度の実績を下回ることはないと考えられるから,平成19年度及び平成20年度に被告が得た利益は,少なくとも,1億2102万3000円(1万3447?×4500円×2年)を下らない。
したがって,この点においても,原告の請求は理由があるというべきである。
イ商標法38条1項に基づく損害額の推定被告の平成19年度及び平成20年度(平成19年4月1日から平成21年3月31日までの間)における電気式床暖房装置の販売面積は,3万3313平方メートルと推認される。電気式床暖房装置の販売価格は,一般に1平方メートル当たり1万5000円から2万円程度(コントローラーに関する売上を含む)であり,原告が電気式床暖房装置を販売した場合の利益率は約51.3%であるから,被告の原告商標権の侵害行為がなければ原告が得られたであろう利益の額は,少なくとも2億5634万3535円(3万3313平方メートル×1万5000円×51.3%)を下回ることはない。
そして,原告が得られたであろう利益の額(2億5634万3535円)は,原告が受けた損害の額と推定される(商標法38条1項)。
したがって,原告は,被告に対し,2億5634万3535円の内金として,5000万円の損害賠償請求権を有する。
(ア)被告の販売面積について被告は,平成19年度及び平成20年度に,合計3970万9565円の床暖房材料を使用・販売している(乙6の1・2。なお,被告はコントローラーを完成品として仕入れているので,コントローラーの材料11費は,損益計算書中「商品・製品仕入れ」に含まれる。)。
被告における本件床暖房装置1平方メートル当たりの材料費は,合計1192円程度である。
そこで,上記材料費(3970万9565円)を1平方メートル当たりの材料費(1192円)で除すると,被告が平成19年度及び平成20年度に施工した(譲渡した)床暖房装置の面積は,3万3313平方メートルであると認められるべきである。
(イ)原告の利益率について 原告の決算書(甲54,55)によれば,原告における電気式床暖房装置の製造販売事業の粗利益率は,平成19年度(第5期)では約54.1%,平成20年度(第6期)では約48.5%であり,両年度を平均すると51.3%である。
原告は,原告商標を用いた電気式床暖房装置の製造・販売のみを事業としており,上記利益率は,電気式床暖房装置の製造・販売に係る利益率であるといえる。
すなわち,原告は原告商標を用いた電気式床暖房装置の製造・販売のみを事業としており,当該装置の製造・販売のための設備投資や雇用等の準備を完了している。被告による原告商標の侵害行為がされず,被告の製造販売数量に相当する電気式床暖房装置を原告が製造・販売する場合でも,原告は,このために特段追加的な費用の支出を必要とするものではない。したがって,被告による原告商標の侵害行為がなければ原告が得たであろう利益(逸失利益)を算定するについては,製造原価以外の販売管理費等を控除する必要はない。この点,原告における電気式床暖房装置の製造・販売量が増加すれば,この製造に要する原材料費,人件費の総額は増加する。しかしながら,電気式床暖房装置の製造に要する経費は,既に「製造原価」の中で考慮済みである(甲54,55)か12ら,原告の利益率には影響しない。むしろ,原材料を大量かつ一括購入することで調達コストが減少することから,原材料費は減少し,利益率は増大すると考えられる。
(2)被告の主張について ア被告は,床暖房装置に関する売上げはシステム事業部についてのものに限られる旨主張する。
しかしながら,その根拠は明らかでなく,平成18年の売上実績(甲6の1,甲14の3)に照らせば,床暖房装置に関する売上げは,システム事業部の売上げのみに限られないものと考えられる。
イ被告の提出する証拠(乙4,5の各3)は,他の事業部に比べて,システム事業部の給料手当の配賦割合が著しく高くなっており,システム事業部の損益を赤字にするために操作されたものである可能性が高い。
商標法38条2項の「利益」とは,「限界利益」を意味する。したがって,被告の売上高から控除されるべき費用は,床暖房装置を製造・販売するために追加的に要した費用のみであって,これを行わなかったとしても支出する必要がある販管費(例えば,役員報酬,給与,福利厚生費,光熱費,広告宣伝費,配達費,賃料等)は控除すべきではない。
ウ被告は,その床暖房装置の売上げは,被告独自の技術力や顧客吸引力に基づくものであり,各被告標章の使用とは関係がない旨主張する。
しかしながら,被告の床暖房装置に関する技術力や顧客吸引力は,原告のものよりも劣るか,少なくともこれを上回るものではない(甲23,24,28,甲29の1・2等)。
〔被告〕(1)原告の主張は否認ないし争う。
(2)平成19年度及び平成20年度に被告が受けた利益額について ア被告は利益を得ていないこと13(ア)電気式床暖房装置を扱う部署である被告のシステム事業部の平成19年度における営業実績表(乙4の3)によれば,平成19年5月から平成20年4月まで,いずれの月も赤字となっており,利益は生じなかった。
また,平成20年度における営業実績表(乙5の3)によれば,平成20年5月から平成21年4月まで,平成21年4月を除いて,いずれの月も赤字となっており,利益は生じなかった。
各被告標章を使用した平成19年度及び平成20年度の施工件数,施工面積等は,乙第28号証(実績一覧表)記載のとおりである。
(イ)被告が電気式床暖房装置を受注するまでには,デベロッパーの品質管理部門の承認を得る必要があり,そのために,試験を行い,試作品を作成するなどの過程を要する。このような事業形態に鑑みれば,被告の利益を算定するに当たって売上高から控除すべき費用には固定費を含むべき(製造原価に固定費の60%を加算すべき)である。
平成19年度及び平成20年度の各システム事業部の売上高から,売上原価,固定費の60%,研究開発費をそれぞれ控除すると,上記2年度の累計では,下記のとおり,被告に利益は生じていない。
記 平成19年度システム事業部実績表(単位:千円)売上げ合計 405,178 売 上 原 価固定費の60%研究開発費 311,032 77,094 2,000営業利益 15,05214平成20年度システム事業部実績表(単位:千円)売上げ合計 280,758 売 上 原 価固定費の60%研究開発費 238,538 77,752 2,000営業利益 -37,532イ原告は,被告の受けた利益額は被告の粗利益の額とほぼ一致する旨主張する。
しかしながら,上記主張は,被告が電気式床暖房装置の販売等のために要した費用を全く考慮していない点で不当である。被告の電気式床暖房装置の売上高が被告の売上高全体に占める割合は,平成19年度は約40%,平成20年度は約31%である。したがって,販管費のうち,電気式床暖房装置の販売等のために必要となった費用が相当程度存在する。また,電気式床暖房装置の販売等のために必要となる人的,物的設備に関する費用,販売・納品のための費用も当然増大する。さらに,被告は,電気式床暖房装置の販売等のための広告宣伝活動を実際に行っており,これに要する費用もある。
上記諸費用を考慮すれば,原告の上記主張は誤りであることが明らかである。
(3)被告の利益率について 平成18年におけるいくつかの完成工事報告書(乙22,乙32の各枝番,乙33の各枝番)に照らせば,被告の利益率は,平均15.72%程度である。
被告においては,電気式床暖房装置の販売のみならず,フローリング工事15や床の下地,仕上げ工事等を一括して受注することが多いため,原告が主張するような高い利益率とはなっていない。
(4)上記のとおり,被告には,電気式床暖房装置に係る事業によって利益が生じていないから,損害額を商標法38条2項により推定することはできない。
仮に,被告に利益が生じていたとしても,当該利益は,被告独自の技術力や被告の商品に特有の顧客吸引力(被告の商品は,平成19年1月30日には,財団法人ベターリビングの認証を受け(乙7),平成18年4月17日には,財団法人電気安全環境研究所の認証を受け(乙8の1・2),平成18年9月29日には,独立行政法人住宅金融支援機構の対象商品となり(乙9参照),その他各種の品質性能試験に合格している(乙10の1ないし7)ことなどが消費者に評価されたこと)によるものであり,原告商標権の侵害とは関係のない事情に基づくものである。
第4当裁判所の判断1争点1(原告商標と被告標章との類否)について(1)原告商標 ア外観 原告商標は,次のとおりの外観を有する。
(ア)アルファベット文字を「-」(ハイフン)で結んだ「S-cut」との文字列(横書き)を上段に,カタカナの「エスカット」の文字列(横書き)を下段に二段に配して成る。
(イ)アルファベット文字は,「S」はブロック体の大文字で表記され,「cut」はブロック体の小文字で表記されている。
(ウ)上段に配された「S-cut」の文字列の幅は,下段に配された「エスカット」の文字列の幅よりもやや大きく表記されている。
称呼 「S-cut」の文字列は,アルファベットの「S」の文字が「エス」16との称呼を生じ,「S」と「-」(ハイフン)で結ばれた,アルファベットの「cut」の文字列が「カット」との称呼を生じることから,「エスカット」との称呼を生じ得る。
また,「エスカット」の文字列からは,その表記のとおり,「エスカット」との称呼を生じる。
したがって,原告商標からは,「エスカット」との称呼を生じる。
観念 原告商標からは,特段の観念を生じない。
(2)原告商標と被告標章1との類否 ア被告標章1 (ア)外観 被告標章1は,次のとおりの外観を有する。
aアルファベットの「Scut」の文字列(横書き)と漢字の「床暖房」の文字列(横書き)とを一行に配し,「Scut床暖房」の文字列の下部に全体にまたがって厚みのある下線を配した上で,同下線上中央部に「100年暖房」との文字列(横書き)を配し,「Scut」の文字列のうち「cut」の部分の上部にカタカナの「エスカット」の文字列(横書き)を,「床暖房」の文字列のうち「暖房」の部分の上部にひらがなの「ゆかだんぼう」の文字列(横書き)をそれぞれ配して成る。
b 「Scut」の文字列のうち,「S」はブロック体の大文字で表記され,「cut」はブロック体の小文字で表記されている。
また,「床暖房」の文字列のうち,「床」は「S」と同程度の大きさの文字で表記され,「暖房」は「cut」と同程度の大きさの文字で表記されている。
「100年暖房」,「エスカット」,「ゆかだんぼう」の文字列の文字17の大きさは,「Scut床暖房」の文字列の文字の大きさに比べて相当小さく表記されている。
(イ)称呼 a被告標章1からは,「エスカットユカダンボウ」との称呼を生じる。
bまた,被告標章1を構成する各部分は,それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められないから,取引の実際において構成部分の一部が分離されて称呼,観念されることがあり得るといえる。
被告標章1の前記外観,並びに「床暖房」が床に敷設する暖房器具を意味する一般に認知された単語であり,特段の識別力を有しない部分であることに照らせば,被告標章1の要部は,上部の「エスカット」との付記を含め「Scut」の部分であるといえる(カタカナの「エスカット」の文字列は,上記要部の称呼を表示したものと考えられる。)。
したがって,被告標章1の要部からは「エスカット」との称呼を生じ得る。
(ウ)観念被告標章1の要部である「Scut」の部分からは,特段の観念を生じない。
イ対比 原告商標と被告標章1の要部とは,外観において類似し,「エスカット」との称呼において一致する。
したがって,原告商標と被告標章1とは類似するものと認められる。
(3)原告商標と被告標章2との類否 ア被告標章2 (ア)外観 被告標章2は,次のとおりの外観を有する。
18aアルファベット文字を「-」(ハイフン)で結んだ「S-cut」との文字列(横書き)と漢字の「床暖房」の文字列(横書き)とを一行に配して成る。
bアルファベット文字のうち「S」はブロック体の大文字で表記され,「cut」はブロック体の小文字で表記されている。
(イ)称呼 a被告標章2からは,「エスカットユカダンボウ」との称呼を生じる。
bまた,被告標章2を構成する各部分は,それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められないから,取引の実際において構成部分の一部が分離されて称呼,観念されることがあり得るといえる。
被告標章2の前記外観,並びに「床暖房」が床に敷設する暖房器具を意味する一般に認知された単語であり,特段の識別力を有しない部分であることに照らせば,被告標章2の要部は,「S-cut」の部分であるといえる。
したがって,被告標章2の要部からは「エスカット」との称呼を生じ得る。
(ウ)観念被告標章2の要部である「S-cut」の部分からは,特段の観念を生じない。
イ対比 原告商標と被告標章2の要部とは,外観において類似し,「エスカット」との称呼において一致する。
したがって,原告商標と被告標章2とは類似するものと認められる。
(4)原告商標と被告標章3との類否 ア被告標章319 被告標章3の外観は,「S-CUT」と,「CUT」の部分がブロック体の大文字で表記されている点で被告標章2の外観と異なるものの,その点を除くと両者の外観は同一である。
したがって,被告標章3の称呼,観念については,被告標章2について認定したところと同様である。
イ対比 原告商標と被告標章3の要部とは,外観において類似し,「エスカット」との称呼において一致する。
したがって,原告商標と被告標章3とは類似するものと認められる。
(5)原告商標と被告標章4との類否 ア被告標章4 (ア)外観 被告標章4は,次のとおりの外観を有する。
aアルファベットの「Scut」の文字列(横書き)を上段に,漢字の「床暖房」の文字列(横書き)を下段に二段に配し,「Scut」の文字列のうち「cut」の部分の上部にカタカナの「エスカット」の文字列(横書き)を,「床暖房」の文字列のうち「暖房」の部分の上部にひらがなの「ゆかだんぼう」の文字列(横書き)をそれぞれ付記して成る。
b 「Scut」の文字列のうち,「S」はブロック体の大文字で表記され,「cut」はブロック体の小文字で表記されている。
また,「床暖房」の文字列のうち,「床」は「S」と同程度の大きさの文字で表記され,「暖房」は「cut」と同程度の大きさの文字で表記されている。
「エスカット」,「ゆかだんぼう」の文字列の文字の大きさは,「Scut」や「床暖房」の文字列の文字の大きさに比べて相当小さく表記20されている。
(イ)称呼 a被告標章4からは,「エスカットユカダンボウ」との称呼を生じる。
bまた,被告標章4を構成する各部分は,それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められないから,取引の実際において構成部分の一部が分離されて称呼,観念されることがあり得るといえる。
被告標章4の前記外観,並びに「床暖房」が床に敷設する暖房器具を意味する一般に認知された単語であり,特段の識別力を有しない部分であることに照らせば,被告標章4の要部は,上部の「エスカット」との付記を含め「Scut」の部分であるといえる(カタカナの「エスカット」の文字列は,上記要部の称呼を表示したものと考えられる。)。
したがって,被告標章4の要部からは「エスカット」との称呼を生じ得る。
(ウ)観念被告標章4の要部である「Scut」の部分からは,特段の観念を生じない。
イ対比 原告商標と被告標章4の要部とは,外観において類似し,「エスカット」との称呼において一致する。
したがって,原告商標と被告標章4とは類似するものと認められる。
(6)原告商標と被告標章5との類否 ア被告標章5 (ア)外観 被告標章5は,カタカナの「エスカット」の文字列(横書き)と漢字の「床暖房」の文字列(横書き)とを一行に配して成る。
21 (イ)称呼 a被告標章5からは,「エスカットユカダンボウ」との称呼を生じる。
bまた,被告標章5を構成する各部分は,それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められないから,取引の実際において構成部分の一部が分離されて称呼,観念されることがあり得るといえる。
被告標章5の前記外観,並びに「床暖房」が床に敷設する暖房器具を意味する一般に認知された単語であり,特段の識別力を有しない部分であることに照らせば,被告標章5の要部は,「エスカット」の部分であるといえる。
したがって,被告標章5の要部からは「エスカット」との称呼を生じ得る。
(ウ)観念被告標章5の要部である「エスカット」の部分からは,特段の観念を生じない。
イ対比 原告商標と被告標章5の要部とは,外観において類似し,「エスカット」との称呼において一致する。
したがって,原告商標と被告標章5とは類似するものと認められる。
(7)原告商標と被告標章6との類否 ア被告標章6 (ア)外観 被告標章6は,カタカナの「エスカット」の文字列を横書きして成る。
(イ)称呼 被告標章6からは,「エスカット」との称呼を生じる。
(ウ)観念22被告標章6からは,特段の観念を生じない。
イ対比 原告商標と被告標章6とは,外観において類似し,「エスカット」との称呼において一致する。
したがって,原告商標と被告標章6とは類似するものと認められる。
(8)原告商標と被告標章7との類否 ア被告標章7 (ア)外観 被告標章7は,アルファベットの「Scut」の文字列を横書きして成る。
「Scut」の文字列のうち,「S」はブロック体の大文字で表記され,「cut」はブロック体の小文字で表記されている。
(イ)称呼 被告標章7からは,「エスカット」との称呼を生じ得る。
(ウ)観念被告標章7からは,特段の観念を生じない。
イ対比 原告商標と被告標章7とは,外観において類似し,「エスカット」との称呼において一致する。
したがって,原告商標と被告標章7とは類似するものと認められる。
(9)原告商標と被告標章8との類否 ア被告標章8 (ア)外観 被告標章8は,アルファベット文字を「-」(ハイフン)で結んだ「S-CUT」との文字列を横書きして成る。
アルファベット文字は,いずれもブロック体の大文字で表記されてい23る。
(イ)称呼 被告標章8からは,「エスカット」との称呼を生じ得る。
(ウ)観念被告標章8からは,特段の観念を生じない。
イ対比 原告商標と被告標章8とは,外観において類似し,「エスカット」との称呼において一致する。
したがって,原告商標と被告標章8とは類似するものと認められる。
(10 )被告の製造販売する電気式床暖房装置は,原告商標権の指定商品である「家庭用・業務用電気式床暖房装置」に含まれるから,被告が,被告標章1を包装に付した電気式床暖房装置を製造,販売し,その製造販売する電気式床暖房装置の広告用パンフレットに被告標章1,2,3及び8を付して頒布し,その製造販売する電気式床暖房装置の広告を内容とする情報に被告標章1,2,4,6,7及び8を付して被告の開設するウェブページに掲載し,あるいは,スポンサーサイトに被告標章5を付した広告情報を出稿してウェブサイト上で公開するなどして提供する行為は,指定商品についての登録商標に類似する商標の使用(商標法2条3項2号,8号)に該当し,同法37条1号により,本件商標権を侵害するものとみなされる。
2争点2(先使用権の有無)について(1)被告は,原告商標の商標登録出願がされた平成18年1月13日より前から不正競争の目的なく,被告の電気式床暖房装置について各被告標章を使用し,原告商標の商標登録出願がされた当時,各被告標章は,被告の製造・販売する電気式床暖房装置を表示するものとして,取引者・需要者の間に広く認識されていたことから,被告は,商標法32条1項に基づき,各被告標章の使用をする権利を有する旨主張する。
24(2)被告がS-cut床暖房と称する電気式床暖房装置を製造販売するに至った経緯について証拠(甲5,甲6の1・2,甲7の1ないし3,甲11,12,20,甲27の1・2,甲31ないし35,38,39の1ないし4,47,48,乙14の2の2,乙14の10)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
ア日本地場産業は,平成10年ころ,札幌市を拠点として,屋根融雪設備,ロードヒーティング装置及び電気式床暖房装置などを製造販売していた。
日本地場産業は,平成10年ころ以降,その製造販売する電気式床暖房装置について,スカット床暖房との名称を用いていた。
なお,本件訴訟においては,日本地場産業が電気式床暖房装置について使用していた標章の形状,その使用状況に係る証拠は提出されていないものの,マリガンと原告との間の審決取消訴訟の判決(甲12)においては,日本地場産業は,電気式床暖房装置について,当初は「SUKATTO【スカット】床暖房システム」との標章を使用していたものの,平成12年ころには,「スカット床暖房」,「SCUTSYSTEM」との標章を使用するようになり,さらに,平成14年1月に作成した電気式床暖房装置のパンフレットでは,「エスカット床暖房」,「Scut床暖房(Scut床暖房と横書きし,その上部に読み仮名のように「エスカット」,「ゆかだんぼう」と付記したもの)」との標章が使用されていた旨認定されている。
イ日本地場産業は,平成13年ころ,経営状況が悪化し,平成14年ころ事実上倒産し,事業活動を停止した。
代表者が日本地場産業の債権者であったマリガンは,製造方法,部材の選定や購入先等について日本地場産業の従業員等から説明を受けるなどして,電気式床暖房装置の事業を行うことにした。
25 マリガンは,平成15年5月ころ,新潟県所在の小林産業との間で,小林産業にS-Cutと称する電気式床暖房装置の製造等を委託する旨の契約を締結したものの,間もなく,マリガンと小林産業及び原告との間で電気式床暖房装置の製造委託に関連して紛争が生じ,マリガンと小林産業との間の製造委託関係は解消された。
ウマリガンは,平成16年12月30日,エフアールエーとの間で,?マリガンが,エフアールエーに対し,床暖房用ヒーターの製造訓練及び関連する事業の助言や床暖房用ヒーター製造機器のマリガンの指導に基づく使用等を提供すること,?エフアールエーは,マリガンに対し,上記サービスの提供の対価等として月額60万円を支払うこと,?契約期間は平成17年1月1日から6か月間とすること(ただし,期間終了前30日前までに反対の意思表示がない限り,その後も6か月ごとに更新する)などを内容とするコンサルタント契約(甲27の1)を締結した。
マリガンとエフアールエーとは,平成16年12月30日,コンサルタント契約に付随して,床暖房事業に関し,?エフアールエーは,マリガンが行ってきた事業を自身の取扱品目に加えるため,マリガンから指導を受け,エフアールエー単独での事業運営が可能になるように相互に協力すること,?エフアールエーは,マリガンに対し,マリガンによる検査済み床暖房用ヒーター受領ごとに出来高報酬を支払うこと(平成17年1月1日から同年3月31日までは1平方メートル当たり1500円,平成17年4月1日から同年6月30日までは1平方メートル当たり2000円,平成17年7月1日以降は,1平方メートル当たり3000円程度をめどにして,協議の上単価を決定する)などを内容とする覚書(甲27の2)を締結した。
その後,エフアールエーは自ら電気式床暖房装置の製造販売を行うようになり,同社の製造販売する床暖房装置については「FH-Scut」と26の標章を使用するようになった。
しかしながら,平成17年6月ころには,マリガンとエフアールエーとの関係が悪化し,同年8月,マリガンとエフアールエーとの契約は解除された。なお,その後も,エフアールエーは,マリガンとは無関係に,「FH-Scut」の標章を使用して電気式床暖房装置の製造販売を継続した。
エ他方,マリガンは平成17年5月2日,被告との間で,床暖房システム(S-Cut)の製造販売事業について,?被告はマリガンが所有するS-Cutの製造及び販売権を利用し,その製造販売を行う,?マリガンはメーカーとして営業活動を継続する,?マリガンは工場設置,営業,S-Cut製造について指導を行う,?被告は毎月末日締め翌月末日限りその月に工場から出荷したS-Cutヒーターの1平方メートル当たり1000円相当額をマリガンに支払う,?S-Cutシステムに使用するコントローラーは被告の要求数量をマリガンが調達し,被告に支給するものとし,この際の支給額は一台当たり1万6000円とする,ことなどを内容とする業務提携契約(甲31)を締結した。
オ被告は,平成17年10月20日,経済産業大臣(関東経済産業局長)に対し,同月11日を事業開始日として,電気用品安全法3条に基づく電気用品製造の届出をした(甲32)。
被告は,マリガンと業務提携契約を締結した後,S-Cutと称する電気式床暖房装置の製造販売を行っている。
(3)各被告標章の周知性について被告は,原告商標についての商標登録出願がされる前から,各被告標章が被告の製造・販売する電気式床暖房装置を表示するものとして,取引者・需要者(施工業者や設計事務所)の間に広く認識されていたと主張し,その証拠として,設計図等(乙14の各枝番)及びパンフレット(乙15の1・2)を挙げる。
27 ア設計図等(乙14の各枝番)について(ア)被告の提出する設計図等(乙14の各枝番)のうち,乙第14号証の1(平成16年2月15日作成),乙第14号証の2の1(平成16年7月20日作成),乙第14号証の3(平成16年8月10日作成),乙第14号証の5の1(平成16年以前に作成),乙第14号証の6の1ないし14(平成17年3月10日作成),乙第14号証の7の1ないし4(平成17年3月31日作成)は,被告がマリガンとの間で業務提携契約を締結するよりも前に作成された設計図である。前記認定のとおり,被告は,マリガンと業務提携契約を締結した後,S-Cutと称する電気式床暖房装置の製造販売を始めたものと認められるから,上記設計図が被告の製造販売する電気式床暖房装置に係るものであるとは認めがたい(このことは,上記設計図のうち,乙第14号証の1,乙第14号証の2の1,乙第14号証の6の1ないし14には,「お問合せ先」として,被告(株式会社三栄工事)の表示があり,「承認」欄には,「A」名義の印影があるものの,Aは,被告とマリガンとの間で平成17年5月2日に締結された業務提携契約により,マリガンから被告に出向させられたこと(甲31)から,作成日付がそれより前である上記設計図の被告名義の承認欄に「A」名義の印影があるのは不自然であることからも裏付けられる。)。
(イ)ホームページアドレス 乙第14号証の各枝番中には,「お問合せ先」として,被告(株式会社三栄工事)の表示があり,そのホームページのURLとして「http:<略>」の記載がある。 しかしながら,証拠(甲15の1,甲38,乙15の1・2)に照らせば,上記ホームページが開設されたのは平成17年12月ころのことと考えられ,それ以前に作成された設計図に上記ホームページのURL28の記載があるのは不自然である。
(ウ)上記のとおり,設計図等(乙第14号証の各枝番)のすべてを,そのままに,被告が原告商標についての商標登録出願がされる前から,各被告標章をその製造・販売する電気式床暖房装置を表示するものとして使用していたことを証する証拠であると見ることはできないことに加え,そもそも,上記設計図等は,平成16年から平成17年にかけて作成された17物件,取引者12社に係るものにすぎず,この程度の使用により,「S-CUT」,「エスカット」,「エスカット床暖房」等の標章が被告の製造・販売する電気式床暖房装置を表示するものとして,取引者・需要者の間に広く認識されていたということはできない。
イパンフレット(乙15の1・2)について証拠(乙15の1・2)によれば,平成17年11月末ころ,被告が電気式床暖房装置に係るパンフレットを3000部作成したこと,同パンフレットには被告標章1,2,3及び8の標章が付されていたことが認められる。
しかしながら,上記の時期に作成したパンフレットを,平成18年1月13日の原告商標の商標登録出願前までに,どの程度の部数,どのような方法で,どのような者を対象として配布したのかについては,明らかではなく,パンフレットの作成という上記事実をもって,各被告標章が被告の製造・販売する電気式床暖房装置を表示するものとして,取引者・需要者の間に広く認識されていたとまでいうことはできない。
ウホームページに掲載された販売実績(甲6の1)について(ア)被告のホームページには,「電気式床暖房S-cut床暖房実績一覧表」として,平成10年から平成18年までの販売実績(現場名,現場住所,面積,戸数)が掲載されている(甲6の1)。
前記認定のとおり,被告は,マリガンと平成17年5月2日に業務提29携契約を締結した後,S-Cutと称する電気式床暖房装置の製造販売を行っているのであるから,上記販売実績のうち,少なくとも平成10年から平成16年までに係るものについては,これをもって被告自らの電気式床暖房装置の販売実績であるということはできない。
(イ)この点,被告は,同社はマリガンからその業務と共に各被告標章を承継したのであり,マリガンからの承継の前後を通じた各被告標章の継続的使用行為に基づいて,周知性が判断されるべきである,被告は日本地場産業,ジバサン,マリガン,エフアールエーといった会社から事業を承継する中で,各被告標章を使用していたのであるから,これらの会社が受注した工事に関し,被告が事業を執行したものやアフターサービスを行ったものも含めて,各被告標章の周知性が判断されるべきである,などと主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,日本地場産業は平成14年ころ事実上倒産して事業活動を停止し,その後,マリガンが電気式床暖房装置の事業を行うようになったものの,マリガンが日本地場産業の事業を承継した,あるいは,両者の間に同一の商品主体であると評価すべき関係があったことを認めるに足りる証拠はないから,日本地場産業とマリガンとは別個の商品主体であると見るべきであり,日本地場産業の販売実績(少なくとも平成10年から平成13年までの販売実績)を,各被告標章が被告の製造・販売する電気式床暖房装置を表示するものとして周知であったか否かの判断の根拠とすることはできない。
また,前記認定のとおり,マリガンとエフアールエーとはコンサルタント契約や覚書を締結し,エフアールエーは平成17年初めから電気式床暖房装置の製造販売を始めたものの,エフアールエーは,マリガンとは別個の商品主体として電気式床暖房装置の製造販売を行っていたと見るべきであるから(甲33参照),エフアールエーの販売実績を,各被30告標章が被告の製造・販売する電気式床暖房装置を表示するものとして周知であったか否かの判断の根拠とすることはできない。
他方,前記認定のとおり,被告は,平成17年5月にマリガンとの間で業務提携契約を締結した後,S-Cutと称する電気式床暖房装置の製造販売を行っており,その契約内容に照らせば,被告とマリガンとを商品主体として一体と見る余地もないわけではないから,マリガンの販売実績を,各被告標章が被告の製造・販売する電気式床暖房装置を表示するものとして周知であったか否かの判断の根拠として考慮する余地があるというべきである。
しかしながら,被告のホームページに掲載された販売実績(甲6の1)のうち平成14年から平成16年までに係る販売実績は,現場数で合計27か所にすぎず,平成17年の販売実績は現場数で21か所あるものの,このうち8か所については,被告又はマリガンの販売実績であるのか,エフアールエーの販売実績であるのか判然としないから(甲34),これを控除すると13か所にすぎない(なお,原告商標の商標登録出願は,平成18年1月13日であるから,平成18年の販売実績は考慮すべきでない。)。この程度の使用により,各被告標章が被告の製造・販売する電気式床暖房装置を表示するものとして,取引者・需要者の間に広く認識されていたということはできないというべきである。
エそして,上記アないしウの使用実績を総合考慮したとしても,原告商標の商標登録出願当時,各被告標章が被告の製造・販売する電気式床暖房装置を表示するものとして,取引者・需要者の間に広く認識されていたということはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(4)よって,被告が商標法32条1項に基づき,各被告標章の使用をする権利を有する旨の上記主張は採用することができない。
3争点3(損害額)について31(1)被告は,少なくとも過失により,原告商標権を侵害したから,これにより原告が被った損害を賠償すべき責任を負う(商標法39条の準用する特許法103条)。
原告は,本件訴訟において,平成19年4月1日から平成21年3月31日までの間における被告の商標権侵害行為について損害賠償を求め,商標法38条2項,同条1項に基づく損害額を選択的に主張する。
(2)商標法38条2項に基づく損害額について ア被告の売上高について被告は,平成19年度(平成19年5月1日から平成20年4月30日)及び平成20年度(平成20年5月1日から平成21年4月30日)の電気式床暖房装置の売上高に関する証拠として,実績表(乙4,5の各1ないし5)及び決算報告書(乙6の1・2)を提出すると共に,被告の各部における業務内容について,システム事業部が床暖房の販売等(フローリング工事,床の下地・仕上げ工事),建設機材部がネジ・ボルトの納品・配達,建装部が内装関係事業,環境事業部が焼却炉及び部品の販売・メンテナンスである旨主張する。
この点,原告は,上記実績表(乙4,5の各1ないし5)の各事業部の売上及び売上原価の数値は,被告が埼玉県に提出した営業年度終了報告書(事業年度終了報告書)の閲覧結果(甲25,30)と一致しないとして,信用することができない(上記実績表は,床暖房装置の売上高を示すシステム事業部の売上高が実際よりも減少するように操作されたものである)旨主張する。しかしながら,上記実績表に係る原告の分析は,営業年度終了報告書の「兼業事業」が被告の「建設機材部」と対応することを前提とするか,あるいは,「兼業事業」が被告の「建設機材部」及び「環境事業部」と対応することを前提とするものであるものの,実際に原告が主張するとおりの対応関係にあることを認めるに足りる証拠はなく,直ちに,上32記実績表(乙4,5の各1ないし5)の記載内容の信用性を否定すべきものとはいえない。また,原告が主張するように,システム事業部以外の部門の売上高に,電気式床暖房装置に係る売上高が含まれていることを認めるに足りる証拠もない。
そこで,損害額の算定に当たっては,上記実績表のシステム事業部の売上高を基礎とするのが相当であり,これに基づき,被告の電気式床暖房装置の売上高を算定すると,平成19年5月1日から平成21年3月31日までの間の売上高は,合計6億3028万6000円となる(乙4,5の各3)。
イ控除すべき経費額について 商標法38条2項にいう「利益」の額は,侵害品の売上高から,その販売に直接要する費用を控除した額(限界利益)と解するのが相当であり,侵害品の売上げによって直接に変動しない経費は控除すべきでない。
実績表(乙4,5の各3)によれば,平成19年5月1日から平成21年3月31日までの間の売上原価(期首棚卸高,工事仕入外注費,商品・製品仕入,当期製品製造原価の合計額から期末棚卸高を控除した額。なお,当期製品製造原価には,材料費(期首材料棚卸高,床暖房材料仕入,建材材料仕入の合計額から期末材料棚卸高を控除した額),労務費(給料,賃金,雑給,賞与,法定福利費,福利厚生費の合計額),経費(消耗品費,地代家賃,リース料,保険料,修繕費,減価償却費,旅費交通費,通信費,電力費,燃料費,水道光熱費,車両費,運賃,備品費,雑費の合計額)が含まれている。乙6の1・2)は,合計5億1208万6000円となり(乙4,5の各3),これらについては,侵害品の販売に直接要する費用として,売上高から控除すべきである。
被告は,売上高から,上記売上原価のほかに,実績表(乙4,5の各3)の販管費合計額の60%に当たる金額並びに研究開発費を控除すべきで33ある旨主張する。しかしながら,上記実績表において販管費として計上されている経費は,その内訳項目(「給料手当」,「賞与」,「法定福利費」,「福利厚生費」,「消耗品費」,「リース料」,「保険料」,「旅費交通費」,「通信費」,「地代家賃」,「燃料費」,「広告宣伝費」,「運賃」,「水道光熱費」,「接待交際費」,「会議費」,「事務用品費」,「備品費」,「雑費」,「減価償却費」,「その他」)が記載されているのみで,その具体的な内容は判然とせず,これらが侵害品の販売に直接要する費用に当たると認めることはできない。
ウ被告の利益額 (ア)上記アの売上高から,上記イの経費の額を控除すると,被告が平成19年5月1日から平成21年3月31日までの間に,電気式床暖房装置の製造・販売により得た利益の額は,合計1億1820万円となる(6億3028万6000円-5億1208万6000円)。
なお,平成19年4月1日から同月30日までに係る被告の利益額を認めるに足りる証拠はない。
(イ)この点,原告は,被告の電気式床暖房装置に係る事業の利益率は約35%程度であると主張するものの,平成19年4月1日から平成21年3月31日までに係る被告の電気式床暖房装置の売上高に対する利益率の割合が原告主張の割合であることを的確に認定するに足りる証拠はない。
原告は,被告の提出する乙第22号証(完成工事報告書)の内容を前提としても,被告の利益率は35%程度であると推認することができると主張するものの,同号証のうち,平成19年4月1日以降に作成されたものは1物件分にすぎず,それ以外のものはすべて同年3月以前のものであること(なお,同報告書は,当該物件に関する取引,工事等が完了した後に作成されている。乙31)に加え,上記各報告書の記載を前提とすれば,物件ごとに利益率は相当に異なるから,同証拠から,上記34期間の売上高に対する利益率を直ちに推認することはできないというべきである。
(ウ)また,原告は,被告の平成19年度及び平成20年度の電気式床暖房装置の売上高が,平成18年度の実績を下回ることはないことを前提に,被告のホームページに掲載された平成18年度の施工実績(甲6の1)等から,平成19年度及び平成20年度における被告の利益額を算定することができる旨主張するものの,上記前提自体,何ら立証がないといわざるを得ない(被告のホームページに掲載された施工実績(甲6の1)を見ても,平成17年度と平成18年度とでは,相当に異なっている。)。
エ寄与率 (ア)被告は,電気式床暖房装置により利益を得ていたとしても,当該利益は,被告独自の技術力や被告の商品に特有の顧客吸引力によるものであり,原告商標の使用が寄与したものではない旨主張する。
(イ)商標権侵害においては,被侵害登録商標の顧客吸引力のみならず,侵害者の商品の内容や侵害者の営業努力等の事情が相まって,当該商品について利益を上げることができる場合があるということができる。
電気式床暖房装置については,当該商品自体の性能,安全性や価格,営業活動等が商品の販売実績に大きな影響を与えるものと考えられる。
この点,被告の製造販売する電気式床暖房装置は,平成19年1月には,財団法人ベターリビングから優良住宅部品としての認定を受け(乙7,乙23ないし26),平成18年ころには財団法人電気安全環境研究所の認証を受ける(乙8の各枝番)など,その性能,安全性等について,第三者機関の認定を受けていたこと,被告商品が低価格であったこと(原告自身,被告が大幅な値引きを行ったため,原告においても大幅な値引きを強いられたと主張している。甲26,弁論の全趣旨)が認められ,また,平成19年度及び平成20年度の販売実績(乙28)を見35ると,同系列のマンション名(例えば,「α」,「β」,「γ」など)に係る現場が相当の割合を占めており,価格や営業活動が成約に大きな影響を与えたものと考えられる。
他方,原告は,平成15年8月14日に,それまで個人で電気式床暖房装置の販売活動をしていたBの営業を引き継ぐ形で設立され,その後,「S-cut/エスカット」,「エスカット」,「エスカット床暖房」,「S-cut床暖房」等の名称の下に電気式床暖房装置の製造,販売等を行っているものであり(甲47),原告商標と原告の営業上の信用との結び付きの程度が強固であるとまでは直ちに言えない。
これらの事情を考慮すると,被告商品の性能,安全性や価格,営業活動等が顧客吸引力の6割程度を占め,原告商標(各被告標章)の顧客吸引力はその余の4割程度を占めているものと認めるのが相当である。
よって,被告が電気式床暖房装置の販売により得た利益についての原告商標(各被告標章)の寄与率は,40%と認められる。
オまとめ以上によれば,商標法38条2項に基づく損害額は,4728万円であると認められる(1億1820万円×40%)。
(3)商標法38条1項に基づく損害額について ア侵害品の譲渡数量(ア)被告の決算書(乙6の1・2)によれば,被告の平成19年度における床暖房材料仕入額は2773万4339円であり,平成20年度における床暖房材料仕入額は3396万7936円である。そして,平成20年度の期末材料棚卸高は2199万2710円であるから,被告は,平成19年度及び平成20年度において,少なくとも3970万9565円の床暖房材料を使用したことになる。
原告は,電気式床暖房装置を1平方メートル製作するのに必要な材料36費は,ステンレスが約0.5?(単価987円程度/?。甲51),ロールフィルムが約6.8メートル(単価86円程度/m。甲52の1・2),その他の接続端子や接続ケーブル等の部品(おおむね113円程度)の合計約1192円である旨主張する。
しかしながら,原告の主張する上記単位数量当たりの材料費の額は,被告の商品について用いられる材料構成,分量,材料単価に基づいて算出されたものではないし,一般論としても,原告の主張を裏付ける客観的証拠に乏しいといわざるを得ない。
他方,被告の担当者(A)の自認する額である1平方メートル当たり3750円(4750円からマリガンに対して支払うロイヤリティ額1000円を控除した額。乙31)を用いて被告の譲渡数量(施工面積)を算出すると,被告は,平成19年5月1日から平成21年4月30日までの間に1万0589平方メートルを施工した計算になる(3970万9565円÷3750円。小数点以下四捨五入)。
(イ)この点につき,被告は,平成19年度及び平成20年度の譲渡数量(施工面積)を示す証拠として,実績一覧表(乙28)を挙げる。上記一覧表においては,平成19年度の実績は,現場件数47件,施工面積8408平方メートル(ただし,同表の合計欄には8409平方メートルと記載されている。),戸数1002戸とされ,平成20年度の実績は,現場件数47件(ただし,同表の合計欄には50件と記載されている。),施工面積7502平方メートル,戸数955戸とされている。
上記一覧表(乙28)は,その記載が不正確であったり,平成20年度の件数欄の数値が1から順に連番となっておらず,数値が飛んでいたり,あるいは,実績総数欄の記載内容と齟齬していたり(実績総数欄の平成20年度の件数が71件となっている。)するなど,そのままには信用しがたいものの,少なくとも,平成19年度(平成19年5月1日か37ら平成20年4月30日)及び平成20年度(平成20年5月1日から平成21年4月30日)の被告の譲渡数量(施工面積)は,上記一覧表記載の面積を下ることはないと考えられる。
そして,原告が本件訴訟において損害賠償を求めているのは,平成19年4月1日から平成21年3月31日までの間における被告の商標権侵害行為についてであるから,平成20年度の施工面積7502平方メートルから,平成21年4月1日から同月30日までの施工面積を控除する必要がある。被告のシステム事業部における平成21年4月の売上高5565万円を平成20年度の売上高の合計2億8075万8000円で除した割合は,19.8%である(0.1%未満四捨五入。乙5の3)から,平成20年度の施工面積7502平方メートルのうち,上記割合に相当する面積である1485平方メートル(小数点以下四捨五入)が平成21年4月1日から同月30日までの間の施工面積であると認められる。したがって,平成20年5月1日から平成21年3月31日までの間の施工面積の合計は6017平方メートルとなる。
なお,平成19年4月1日から同月30日までに係る被告の譲渡数量を認めるに足りる証拠はない。
(ウ)よって,損害額の算定に当たっては,被告の譲渡数量として1万4425平方メートルを用いるのが相当である。
イ単位数量当たりの利益の額 (ア)電気式床暖房装置の販売価格について 原告は,電気式床暖房装置の販売価格は,一般に,1平方メートル当たり1万5000円を下らない旨主張する。
この点,被告も,被告の電気式床暖房装置のイニシャルコストが,10平方メートルの敷設で16万円程度であるとしていること(乙1)に照らすと,原告が主張するとおり,販売価格は1平方メートル当たり138万5000円を下らないものと認めるのが相当である。
(イ)原告の利益率について 証拠(甲54,55)によれば,原告の平成19年度(平成19年4月1日から平成20年3月31日)における粗利益率は約54.1%(売上高から売上原価を控除した売上総利益額1億2721万8675円を売上高2億3536万0635円で除した割合。0.1%未満四捨五入)であり,平成20年度(平成20年4月1日から平成21年3月31日)における粗利益率は約48.5%(売上高から売上原価を控除した売上総利益額1億0581万0710円を売上高2億1826万9428円で除した割合。0.1%未満四捨五入)である。
商標法38条1項にいう「単位数量当たりの利益」の額は,権利者が自己の製品を製造販売するために必要な初期投資を終えた後に得られる単位数量当たりの利益であり,売上高から追加の製造販売を行うのに必要な経費を控除した利益(限界利益)であると解するのが相当である。
決算書(甲54,55)の売上原価(期首棚卸高,仕入高,外注費,製品製造原価の合計額から期末棚卸高を控除した額)の製品製造原価には,材料費(材料仕入高),労務費(賃金給料,賞与,出向者負担金,法定福利費,福利厚生費の合計額),外注費,経費(減価償却費,荷造運賃,消耗品費,修繕維持費,旅費交通費,車輌費,賃借料,水道光熱費,保険料,試験研究費,雑費の合計額)が含まれている。
上記に加え,販管費として計上されている経費(その内訳項目は,「役員報酬」,「給料」,「賞与」,「出向者負担金」,「法定福利費」,「福利厚生費」,「荷造運賃」,「減価償却費」,「消耗品費」,「会議費」,「修繕維持費」,「旅費交通費」,「車輌費」,「広告宣伝費」,「租税公課」,「交際費」,「通信費」,「賃借料」,「水道光熱費」,「保険料」,「支払手数料」,「諸会費」,「新聞図書費」,「寄附金」,「業務委託料」,「教育研修費」「雑費」)につ39いては,その具体的な内容は判然とせず,これらの経費を売上高から控除すべきものであることが明らかであるとはいえない(甲62)。
以上によれば,原告の平成19年度及び平成20年度の平均利益率は約51.3%であると認めるのが相当である。
(ウ)そうすると,原告の電気式床暖房装置の1平方メートル当たりの利益の額は,7695円であるというべきである(1万5000円×51.3%)。
ウ原告の利益の額 上記アの譲渡数量に上記イの単位数量当たりの利益の額を乗じると,合計1億1100万0375円となる(1万4425平方メートル×7695円)。
なお,原告は,床暖房装置の製造及び販売並びに設置工事等を業とする会社であり,実際にも平成15年8月の設立以来同事業を行ってきたこと(甲40,41,42の各枝番,争いのない事実等),原告の製造販売する床暖房装置は平成16年1月には住宅金融公庫の割増融資対象部品として確認を受け(甲28,甲56の2),あるいは,財団法人電気安全環境研究所の認証を受けていること(甲29の1・2),原告の電気式床暖房装置の製造能力は相当に大きく,平成19年度及び平成20年度においても相当の製造余力を有していたものと認められること(甲60の1・2,甲62)に照らし,原告は,上記アの譲渡数量に見合う製造販売能力を有していたものと認められる。
エ寄与率前記(2)エで説示したところによれば,上記ウの利益額に対する原告商標(各被告標章)の寄与率は,40%と認めるのが相当である。
オまとめ以上によれば,商標法38条1項に基づく損害額は,4440万015400円であると認められる(1億1100万0375円×40%)。
(4)上記検討したところによれば,商標法38条2項に基づく損害額が同条1項に基づく損害額を上回るので,原告は被告に対し,4728万円の損害賠償請求権を有するものと認められる。
4よって,原告の本訴請求は,被告に対し,4728万円及びこれに対する平成21年4月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 柵木澄子
裁判官 小川卓逸
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