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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20ワ22305損害賠償等請求事件 判例 商標
平成20ワ34852商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
平成19ワ4876商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
関連ワード 量産 /  出所表示機能 /  周知性 /  損害額 /  逸失利益 /  外観(外観類似) /  取引の実情 /  差止 /  継続 / 
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事件 平成 21年 (ワ) 6909号 不正競争行為差止等請求事件
東京都江東区<以下略>
原告株式会社目白プレシジョン
同 訴訟代理人弁護 士服部弘志増田薫則 栗原千亜希
同 訴訟復代理人弁護 士伊藤真哉
同 補佐人弁理 士後田春紀宮城県石巻市<以下略>
被告河北ライティングソリューシ ョンズ株式会社
同 訴訟代理人弁護 士日野修男
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2010/11/12
権利種別 商標権
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求1被告は,別紙被告物件目録1及び同目録2記載の交換ランプを製造し,譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,又は輸入してはならない。
2被告は,その占有に係る前項記載の交換ランプを廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,5000万円及びこれに対する平成21年4月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2第2事案の概要1原告は,メタルハライド光源装置用の交換ランプである後記2アの原告2(2)50型ランプ及び同イの原告252型ランプ(以下,併せて「原告各ランプ」という。)を製造販売し,被告は,原告各ランプと互換性を有する交換ランプである後記2アの被告250型ランプ及び同イの被告252型ランプ(以下,(3)併せて「被告各ランプ」という。)を製造販売している。
本件は,原告が,被告に対し,?原告各ランプの商品形態はいずれも需要者の間に広く認識されている商品等表示に該当し,被告が被告各ランプを製造販売する行為は不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当すると主張して,同法3条に基づき,被告商品の製造等の差止め及び廃棄,並びに同法a b4条に基づき,損害賠償金5000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年4月3日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払,又は?上記?の請求と選択的に,被告の原告各ランプと混同を生じさbせようとする不公正な営業活動が不法行為に該当すると主張して,民法709条に基づき,損害賠償金5000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年4月3日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2前提事実(証拠等〔各項に掲記〕を掲げたもののほかは当事者間に争いがない。)(1) 当事者ア原告は,光学機器及び理化学機器等の製造販売等を目的とする株式会社である。
イ被告は,投光器用電球光学及び理科学機械用電球等の光源の製造販売等を目的とする株式会社である。
(2) 原告各ランプの製造販売等ア原告は,平成8年から原告のメタルハライド光源装置BMH-250(3以下「原告250型光源装置」という。)用の交換ランプ(型式「MH-250-7500」)(以下「原告250型ランプ」という。)を製造及び販売している。原告250型ランプの商品形態は別紙原告商品形態目録1記載のとおりである(以下,同商品形態を「原告商品形態1」という。)。(甲13,検甲3,弁論の全趣旨)イ原告は,平成17年から原告のメタルハライド光源装置BMH-252(以下「原告252型光源装置」といい,原告250型光源装置と併せて「原告各光源装置」という。)用の交換ランプ(型式「MH?250H」)(以下「原告252型ランプ」という。)を製造及び販売している。
原告252型ランプの商品形態は別紙原告商品形態目録2記載のとおりである(以下,同商品形態を「原告商品形態2」といい,原告商品形態1と併せて「原告各商品形態」という。)。(甲14,検甲4,弁論の全趣旨)(3) 被告各ランプの製造販売等ア被告は,遅くとも平成19年11月ころから,別紙被告物件目録1記載の交換ランプ(以下「被告250型ランプ」という。)を製造及び販売している。被告250型ランプの商品形態は別紙被告商品形態目録1記載のとおりである(以下,同商品形態を「被告商品形態1」という。)。(甲11,検甲1,弁論の全趣旨)イ被告は,遅くとも平成18年12月ころから,別紙被告物件目録2記載の交換ランプ(以下「被告252型ランプ」という。)を製造及び販売している。被告252型ランプの商品形態は別紙被告商品形態目録2記載のとおりである(以下,同商品形態を「被告商品形態2」といい,被告商品形態1と併せて「被告各商品形態」という。)。(甲12,検甲2,弁論の全趣旨)3争点4(1) 不正競争防止法(以下「法」という。)2条1項1号該当性ア原告各商品形態は周知の商品等表示といえるか。
イ被告各商品形態は原告各商品形態と類似するか。
ウ被告各商品形態の使用が原告各商品と混同を生じさせるおそれがあるか。
(2) 一般不法行為の成否(3) 損害の発生及び額4争点に関する当事者の主張(1) 争点(法2条1項1号該当性)について(1)ア争点ア(原告各商品形態は周知の商品等表示といえるか)につき (1)〔原告の主張〕(ア) 原告250型ランプ及び原告252型ランプは,次のとおり,それぞれ原告250型光源装置及び原告252型光源装置にのみ適合するように形成されており,被告各ランプを除く他社の同種製品には存在しない原告独自の形態的特徴を有している。
a原告250型ランプの形態(原告商品形態1)の特徴原告250型ランプは,原告250型光源装置にのみ適合するよう形成されており,?集光鏡の大きさは外形直径110?,奥行き55?,厚さ約3.5?と形成されている。かかる集光鏡の形状は被告各ランプを除く他社製品の奥行きよりも短く設計されており,他社製品に比して集光鏡の湾が浅いといった形態的特徴を有する。また,?集光鏡の背面部外周縁の頂部には原告250型ランプを原告250型光源装置に取り付ける際の位置決め用切り欠き部が設けられている。さらに,?原告250型ランプには5年以上前に製造会社において製造を中止したため市場に流通していないJST日本圧着端子製造株式会社(以下「JST社」という。)製の型式LP-04-2のプラグ(以下「250型用プラグ」という。)が使用されている(なお,2550型用プラグは原告が製造中止に強く抗議したため現在も原告にのみ供給が続けられている。)。
この250型用プラグは原告250型光源装置の本体内に設置されたプラス側プラグ受け及びマイナス側プラグ受けに差し込むもので,該プラグには4個のプラグ受け差し込み部が設けられるとともに,原告250型光源装置の本体内に設置されたプラス側プラグ受け及びマイナス側プラグ受けに対応する両端部に位置するプラグ受け差し込み部に,それぞれ独立したプラス側接続コードとマイナス側接続コードとが連結接続され,偏平状でかつ横長状に形成されている。また,前記接続コード及びプラグは,共に白色に着色されて形成されている。
このような原告250型ランプの集光鏡の形状,位置決め用切り欠き部及び同ランプに使用されている250型用プラグは,原告250型光源装置に対応するために形成されたものであり,被告各ランプを除く他社の同種製品には存在しない原告250型ランプ独特の形態的特徴である。
b原告252型ランプの形態(原告商品形態2)の特徴原告252型ランプは,原告252型光源装置にのみ適合するよう形成されており,?集光鏡の大きさは外形直径110?,奥行き55?,厚さ約3.5?と形成されている。かかる集光鏡の形状は被告各ランプを除く他社製品の奥行きよりも短く設計されており,他社製品に比して集光鏡の湾が浅いといった形態的特徴を有する。また,?集光鏡の背面部外周縁の頂部には原告252型ランプを原告252型光源装置に取り付ける際の位置決め用切り欠き部が設けられている。さらに,?原告252型ランプにはSMK株式会社製の型式101CCT-112-01Fのプラグ(以下「252型用プラグ」という。)が使用されている。
6この252型用プラグは原告252型光源装置の本体内に設置されたプラス側プラグ受け及びマイナス側プラグ受けに差し込むもので,該プラグには2個のプラグ受け差し込み部が設けられるとともに,該2個のプラグ受け差し込み部はそれぞれ一体に接合固定して形成され,かつ,原告252型光源装置の本体内に設置されたプラス側プラグ受け及びマイナス側プラグ受けに対応するプラグ受け差し込み部に,それぞれ独立したプラス側接続コードとマイナス側接続コードとが連結接続されて形成されている。また,前記接続コード及びプラグは,共に黒色に着色されて形成されている。
このような原告252型ランプの集光鏡の形状,位置決め用切り欠き部及び同ランプに使用されている252型用プラグは,原告252型光源装置に対応するために形成されたものであり,被告各ランプを除く他社の同種製品には存在しない原告252型ランプ独特の形態的特徴である。
(イ) また,原告各ランプは原告各光源装置と組織的機能的一体性をもって形成されているため,原告各光源装置以外に適合することはなく,したがって,原告各ランプの市場は原告各光源装置の流通先に限られる。しかるところ,原告は平成8年から原告250型ランプを,平成17年から原告252型ランプを,それぞれ独占的に販売しており,長期間にわたって原告が原告各光源装置用のランプ市場を独占してきた(被告各ランプが当該市場に出回るまでは原告が当該市場を100%独占していた。)。
仮に原告各ランプの市場をこれより広くとらえるとしても,その市場範囲はメタルハライド光源装置の流通先に限られるべきであり,同光源装置と交換ランプは,共に自社製のものでなければ適合することができないことからすると,同光源装置の流通数とこれに対応する交換ランプ7の流通数は比例関係にあるというべきである。そして,平成16年から平成19年にかけての原告各光源装置の市場占有率は29.1%であり,原告が同業他社(住田光学ガラス,日本PI,モリテックス)に対し同種製品をOEM供給していることも考慮すると,原告各光源装置の市場占有率はそれ以上であるといえる。これに原告がメタルハライド光源装置市場にいち早く算入した先駆者であることを考慮すると,原告各光源装置及び原告各ランプが市場における周知性を獲得していることは明らかといえる。
(ウ) 以上のとおり,原告各商品形態は他社製品と識別し得る独自の特徴を有しているところ,市場において周知性を有し,その市場において販売が独占的になされたことにより商品等表示性を取得していることは明らかである。
〔被告の主張〕(ア) 商品等表示性について原告各ランプは,次のとおり,いずれもその形態だけで出所表示が明らかとなるほど特別顕著性を有するとは認められず,原告各商品形態は商品等表示性を有しない。仮に特別顕著性を有するとしても,いわゆる機能的形態として商品等表示から除外される。
a集光鏡の形状について原告主張の「かかる集光鏡の形状は被告商品を除く他社製品の奥行きよりも短く設計されており,他社製品に比して集光鏡の湾が浅いといった形態的特徴」との商品形態は,同じく原告が主張するところの「集光鏡の奥行きを長くする必要がなく,湾の浅い集光鏡の形成が可能となり,光源装置の正面から平面部までの奥行きを短くすることができる」という機能を実現するために必須の商品形態であり,「商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態」にほかならない。
8よって,法2条1項1号の「商品等表示」に該当しない。
b位置決め用の切り欠き部の形状について円形の外縁部を持つガラス製部品において,位置決めをするために外縁部に切り欠き部を設けるという技術は周知慣用技術として世上広く利用されているものである。更に付言すれば,「位置決め用の切り欠き部」という形態的特徴は,円形の外縁部を有するガラス製集光鏡において,位置決めという機能を達成するための構成に由来する形態であり,法2条1項1号の「商品等表示」に該当しない。
cプラグについて250型用プラグも252型用プラグも,「永年継続して排他的にある商品に使用され」たものでもなく,「短期間でも強力に宣伝され」たものでもなく,「その形態が極めて特殊独自なもの」でもなく,その形態自体が出所表示の機能を備えるものではなく(250型用プラグはJST社のカタログに搭載されている市販品であり,252型用プラグについてもSMK株式会社に同形品の市販品が存在する。),法2条1項1号の「商品等表示」に該当しない。
(イ) 周知性についてメタルハライド光源装置に用いる交換ランプの市場は存在し,光源装置のメーカー以外のランプメーカーからの供給経路が存在する。したがって,自社製品以外のランプで交換可能であり,メタルハライド光源装置の流通数とこれに対応する交換ランプの流通数は関係がない。
また,原告がOEM供給している住田光学ガラス,日本PI,モリテックスの3社が占める市場占有率は31.6%に達しており,これによれば,前記3社は原告よりも多数の原告各光源装置に対応可能な交換ランプを販売していたことになる。かかる事実自体,原告各ランプの周知性を否定するものにほかならない。
9イ争点イ(被告各商品形態は原告各商品形態と類似するか)につき (1)〔原告の主張〕被告各商品形態は,次のとおり,原告各商品形態と同一である。
(ア) 被告各ランプの構成被告各ランプは,半楕円形状の鏡面部を備えた集光鏡,集光鏡に装着された発光部であるアーク灯及びプラグを備えた電源コードにより構成されている。
(イ) 被告250型ランプの形態(被告商品形態1)被告250型ランプは,原告250型光源装置にのみ適合できるよう形成されており,?集光鏡の大きさは外形直径110?,奥行き約55?,板厚約3.5?に形成されている。また,?集光鏡の背面部外周縁の頂部には,被告250型ランプを原告250型光源装置に取り付ける際の位置決め用切り欠き部が設けられている。さらに,?被告250型ランプを構成するプラグは,原告250型光源装置の本体内に設置されたプラス側プラグ受け及びマイナス側プラグ受けに差し込むもので,該プラグには,4個の接続コード差し込み部が設けられる(4極プラグを使用している)とともに,原告250型光源装置の本体内に設置されたプラス側プラグ受け及びマイナス側プラグ受けに対応する両端部に位置する接続コード差し込み部に,それぞれ独立したプラス側接続コードとマイナス側接続コードとが連結接続され,偏平状でかつ横長状に形成されている。また,前記接続コード及びプラグは,共に白色調に着色されて形成されている。
(ウ) 被告252型ランプの形態(被告商品形態2)被告252型ランプは,原告252型光源装置にのみ適合できるよう形成されており,?集光鏡の大きさは外形直径110?,奥行き約55?,板厚約3.5?に形成されている。また,?集光鏡の背面部外周縁10の頂部には,被告252型ランプを原告252型光源装置に取り付ける際の位置決め用切り欠き部が設けられている。さらに,?被告252型ランプに用いられているプラグは,原告252型光源装置の本体内に設置されたプラス側プラグ受け及びマイナス側プラグ受けに差し込むもので,該プラグには,2個のプラグ受け差し込み部が設けられるとともに,該2個のプラグ受け差し込み部はそれぞれ一体に接合固定して形成され,かつ,原告252型光源装置の本体内に設置されたプラス側プラグ受け及びマイナス側プラグ受けに対応するプラグ受け差し込み部に,それぞれ独立したプラス側接続コードとマイナス側接続コードとが連結接続されて形成されている。また,前記接続コード及びプラグは,共に黒色調に着色されて形成されている。
(エ) 原告各ランプ及び被告各ランプの各形態の対比上記のとおり,被告各ランプは,原告各ランプが原告各光源装置に対応する交換ランプとして様々な技術的課題を克服するために選択された集光鏡の外形直径,奥行き及び厚さと同一に形成されている上,原告各ランプの特徴的形態である位置決め用切り欠き部と同様の切り欠き部が同一部分に設けられている。また,被告各ランプの各プラグは,プラグの形状,差し込み口の数及び形状等,原告各ランプの各プラグのそれと同様であることからすると,被告各ランプの各形態は,原告各ランプの各形態と同一であることは明らかである。
〔被告の主張〕原告各ランプと被告各ランプとでは,ランプの光量,寿命等の性能を決定づけるバーナーの形状が大きく相違するだけでなく,反射鏡,プラグを備えた被覆電線の形状も相違しており,被告各ランプの外観形状は原告各ランプの外観形状と大きく相違する。
ウ争点ウ(被告各商品形態の使用が原告各商品と混同を生じさせるおそ(1)11れがあるか)につき〔原告の主張〕原告各商品形態と被告各商品形態は前記のとおり同一であるから,商品主体が原告であるとの混同が生じることは明らかといえる。
〔被告の主張〕前記のとおり原告各商品形態と被告各商品形態は同一でない。
また,?原告各ランプ及び被告各ランプは,一般消費者を需要者とするものではなく専門的知識を有する者が需要者であること,?被告各ランプの単価は2万円前後,通常100個以上で販売するものであり,1回の取引単価は200万円以上の高額取引であること,?被告各ランプは100%受注生産であり,最先端技術を駆使する工場やそれを運営する専門的知識を持つ者からの受注を受けて製造販売するものであること,?被告商品には顧客指定の例えば「Philips」のロゴや「KLS」という自社ロゴを大きく表示しており,原告の出所表示を想起させるような商品等表示はないこと等の取引の実情を考慮すると,被告各ランプの取引需要者において被告各ランプと原告各ランプを誤認,混同することはあり得ない。
(2) 争点(一般不法行為の成否)について(2)〔原告の主張〕前記のとおり,被告は原告各商品形態と同一の形態を有する被告250型ランプ及び被告252型ランプを製造販売しているところ,被告は,さらに,?被告各ランプにつき原告各ランプの各プラグと同様の形態,同色のプラグを使用し,?原告各ランプの梱包と類似した梱包を施し,?被覆コードの有無についてまで原告各ランプのそれを模倣するなど,積極的に原告各ランプとの混同を生じさせようとしている。
これらの行為が圧倒的な市場占有率を有する原告からの受注変更を獲得することを目的とした安易かつ不公正な営業活動であることは明らかであり,12したがって,被告に不法行為が成立することは明白である。
〔被告の主張〕前記のとおり,原告各ランプと被告各ランプとでは,ランプの光量,寿命等の性能を決定づけるバーナーの形状が大きく相違するだけでなく,反射鏡,プラグを備えた被覆電線の形状も相違しており,被告各ランプの外観形状は原告各ランプの外観形状と大きく相違する。したがって,両者が同一の形態を有することを前提とする原告の不法行為に基づく請求は成り立たない。
(3) 争点(損害の発生及び額)について(3)〔原告の主張〕原告は,被告による被告各ランプの製造販売行為により,遅くとも平成18年8月ころから,本来であれば得られるであろう利益を喪失した。また,被告の当該行為により原告の信用が毀損された。原告が被告の当該行為によって被った損害は,逸失利益が4500万円,信用毀損による損害が100万円(合計4600万円)を下らない。
また,本件訴訟の遂行に伴う弁護士費用相当額の損害として別途400万円を請求する。
よって,原告の損害額合計は5000万円となる。
〔被告の主張〕いずれも不知ないし争う。
第3争点に対する判断1争点ア(原告各商品形態は周知の商品等表示といえるか)について(1)(1) 前提事実に加え,以下に掲げる証拠(各項に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア原告各光源装置について原告各光源装置は,いずれもハロゲンランプよりも照度が高く色合いも白に近いメタルハライドランプを用いた高照度光源装置であり,その先端13に取り付けられた光ファイバー(ライトガイド)を経由して同装置から発せられる光を伝達する照明装置として使用される。同装置は,主に液晶パネル製造設備等の大型ガラス板の外観検査用の照明という特殊な用途に使用される製品であり,その購買層は検査機器メーカー,同機器の販売代理店,液晶パネルメーカー等に限られている。(甲3,17,弁論の全趣旨)イ原告各ランプについて原告各ランプは,それぞれ原告各光源装置に対応する交換ランプとして開発製造されたものであり,原告各光源装置の機能や形状に適合するように作られている。(甲17,弁論の全趣旨)ウ主要なメーカーと流通経路等日本においてメタルハライド光源装置(250Wクラス)とその交換ランプを製造販売している主要なメーカーとしては,原告のほか,岩崎電気株式会社(以下「岩崎電気」という。),株式会社目白ゲノッセン(以下「目白ゲノッセン」という。)及び株式会社ケンコー(以下「ケンコー」という。)の3社が存在する。原告を含むこれらのメーカーは,いずれも同光源装置をOEM製品としてOEM先の企業に提供したり,自社の販売代理店を通じて出荷したり,あるいは自社において直接取引を行うことによってエンドユーザーに提供している。各メーカーの光源装置と交換ランプはいずれも規格が異なっており互換性がない。(甲17,19,弁論の全趣旨)エ原告各光源装置の販売実績原告は,平成8年から原告250型光源装置とその交換ランプである原告250型ランプを,平成17年から原告252型光源装置とその交換ランプである原告252型ランプをそれぞれ販売しており,原告提出の資料(甲27)によれば,平成8年3月から平成21年2月までの間における14原告各光源装置の販売実績は次のとおりである。
(ア) 平成8年3月〜平成9年2月142台(イ) 平成9年3月〜平成10年2月370台(ウ) 平成10年3月〜平成11年2月413台(エ) 平成11年3月〜平成12年2月1509台(オ) 平成12年3月〜平成13年2月3641台(カ) 平成13年3月〜平成14年2月865台(キ) 平成14年3月〜平成15年2月620台(ク) 平成15年3月〜平成16年2月1221台(ケ) 平成16年3月〜平成17年2月1949台(コ) 平成17年3月〜平成18年2月1887台(サ) 平成18年3月〜平成19年2月1586台(シ) 平成19年3月〜平成20年2月1334台(ス) 平成20年3月〜平成21年2月1430台(セ) (ア)〜(ス)合計16967台オ光源・照明市場における占有率株式会社富士経済の市場調査によれば,メタルハライドランプの光源・照明市場における原告のシェア(数量ベース)は,それぞれ平成16年が87.5%,平成17年が30.1%,平成18年が27.1%,平成19年が27.1%となっている。(甲17,28,29,31,32)カ展示会への出展原告は,平成7年から平成20年までの間,原告各光源装置を画像処理に関連する機器の展示会である国際画像機器展(日本画像・計測機器協議会主催)又は画像センシング展(画像センシング技術研究会を開催母体とする画像センシングシンポジウムに併設)に3回出展している(平成7年の国際画像機器展,平成14年及び平成15年の画像センシング展の計315回。ただし,OEM供給先の企業が出展したものは除いている。)。ただし,これらの展示会のガイドブックに掲載されているのは,いずれも光源装置又はレンズであって交換ランプは取り上げられていない。(甲17,20〜23〔枝番号を含む。〕)キ原告各ランプの商品形態原告各ランプの商品形態は,原告250型ランプが別紙原告商品形態目録1,原告252型ランプが別紙原告商品形態目録2記載のとおりである。
(前提事実)なお,原告252型光源装置及び原告252型ランプは,原告250型光源装置及び原告250型ランプをヨーロッパ規格(CE)に合わせて改良したものであり,原告各ランプは,接続コードとプラグ部が異なるだけで,その他の構成は全く同一である。(弁論の全趣旨)また,原告250型ランプに使用される250型用プラグ及び原告252型ランプに使用される252型用プラグは,いずれもメーカーがカタログに掲載して販売していた量産品である(ただし,250型用プラグは旧型品のため既にメーカーがカタログ掲載と一般販売を中止している。)。
(甲16,乙7,8,弁論の全趣旨)ク他社製品の商品形態(ア) 目白ゲノッセン(メタルハライド・265W)及び岩崎電気(メタルハライド・250W)の交換ランプは,いずれも半球状の鏡面部を備えた集光鏡,集光鏡に装着された発光部及び接続コードを備えたプラグにより構成されており,かつ,集光鏡の外周縁部ないし外周側面部には位置決め用の切り欠き部が設けられている。(甲24,36,37,乙4,検甲5,検甲6)(イ) ケンコーの交換ランプは,集光鏡及びプラグを備えておらず,原告商品とは形状が大きく異なっている。(甲24,38,検甲7)16(ウ) 日本フィリップス株式会社(以下「日本フィリップス」という。)製35?ダイクロイック・ミラー付きハロゲンランプ(型式「13165」)は,半球状の集光鏡を備えており,集光鏡の外周縁部には位置決め用の切り欠き部が設けられている。(乙1の1〜4)(エ) 日本フィリップス製の35?ハロゲンランプ(商品名「ReflektorE5」)の集光鏡設計図には,半球状の集光鏡とその外周縁部には位置決め用の切り欠き部の形状が描かれている。(乙2)(オ) 東レエンジニアリング株式会社製のランプ(型式「TE250M01」,ランプナンバー「49311」)は,半球状の集光鏡,集光鏡に装着された発光部及び接続コードを備えており,かつ,集光鏡の外周縁部には位置決め用の切り欠き部が設けられている。(乙3の1,2)(2) 以上認定した事実に基づき,原告各商品形態が法2条1項1号で保護される周知の商品等表示といえるか否かについて検討する。
ア商品の形態は,一次的には商品の特性そのものであるが,二次的には商品の出所を表示する機能をも併有し得るというべきであり,商品の形態が他の同種商品と識別し得る独特の形態である場合には,商品出所表示機能を有し法2条1項1号所定の商品等表示に該当する場合がある。そして,独特の商品形態が長年使用され又は強力に広告宣伝等がされたことにより,商品等表示として周知性を獲得した場合には,当該商品形態は同号による保護を受けることができるが,他方,商品の形態が他の同種商品と比べてありふれたものである場合には,長年使用され又は強力に宣伝広告等がされたとしても,商品等表示として周知性を獲得することはできない。
イこれを本件についてみるに,原告が主張する原告各ランプの形態的特徴は,?集光鏡の形状が他社製品の奥行きよりも短く設計されており,他社製品に比べて湾が浅い,?集光鏡の背面部外周縁の頂部にランプを光源装置に取り付ける際の位置決め用切り欠き部が設けられている,?原告各光17源装置に対応するために形成された250型用プラグ又は252型用プラグが使用されているの3点である。
しかし,?については,ケンコーを除く他社製品がいずれも原告商品と同様に半球状の集光鏡を備えていることは前記認定のとおりであって,これによれば,奥行きの短さ,湾の浅さといった形状の相違は相対的な違いにすぎない。?についても,半球状の集光鏡を備える他社製品がいずれも外周縁部ないし外周側面部に位置決め用の切り欠き部を備えていることは前記認定のとおりであって,これによれば,同形のランプにとって,位置決めのため同部位に切り欠き部を設けた形態自体は公知公用の機能的形態であり,原告商品独自の形態であるとはいえない。また,?についても,前記認定のとおり250型用プラグ及び252型用プラグはいずれも量産品であって,それ自体特異な形態をしているとは認められない(このことは,現在,250型用プラグが市場に流通しておらず,原告に対してのみ供給されていても,同様である。)。したがって,原告が原告各商品の形態的特徴であると主張する上記?〜?の各点は,いずれもそれだけで他の同種商品と識別できるだけの形態的特徴であるとは認められず,これらを組み合わせても,独自の形態的特徴を有するに至るとは認められない。そして,ほかに原告各ランプが他の同種商品と識別し得る独特の形態を有していることについての主張立証はない。
また,原告商品の販売期間は原告250型ランプが約14年間,原告252型ランプは約5年間であるが,この間,原告各ランプがその形態により他の同種商品と識別し得るに足りる強力な宣伝広告等がされたとの事実も認められない(付言すれば,形態的特徴であると主張する上記?〜?の各点が需要者に明確に認識できるような方法で原告各ランプの宣伝広告等が行なわれた事実すら認められない。)。
そうすると,原告各商品形態は,いずれもメタルハライド光源装置の交18換ランプとして,独特の形態であるとは認められない上,他の同種商品と識別し得るに足りる強力な広告宣伝等がされたとも認められないのであるから,原告各商品形態が,原告の業務に係る交換ランプであることを示す商品等表示として需要者の間に広く認識されていたものとは認め難い。
ウ原告は,原告各ランプは,原告各光源装置と組織的機能的一体性を持って形成されているため,原告各光源装置以外に適合することはなく,したがって,原告各ランプの市場は原告各光源装置の流通先に限られるところ,原告は少なくとも被告が現われるまでは同市場を独占していたので,同市場において原告各商品形態は周知の商品等表示であると主張する。
しかしながら,原告各商品形態が交換ランプとしてごくありふれた形態であって何ら独特の形状を有するものでなく,他の同種商品と識別し得るに足りる強力な広告宣伝等がされたとも認められないことは前示のとおりである。そうである以上,原告各ランプが原告各光源装置以外に適合しないことによりその需要者が限定されるとしても,需要者が原告各商品形態をもって原告の商品等表示と認識するということはできないから,原告各商品形態が原告の商品等表示として周知性を獲得することはできない。また,原告の主張が,原告各光源装置の形状に適合するための形態自体を特徴的形態であるというのであれば,そのような形態は,原告各光源装置に使用する交換ランプとしての互換性を維持するために他の形態を選択する余地のない不可避的な形態であって,法2条1項1号の商品等表示の対象からは除外されるというべきである。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
2争点(一般不法行為の成否)について(2)原告は,被告は原告各ランプの形態のみならず,梱包やプラグの形態,被覆コードの有無についてまで原告各ランプのそれを積極的に模倣して原告商品と被告商品の混同を生じさせようとしており,これらの行為が圧倒的な市場占有19率を有する原告からの受注変更を獲得することを目的とした安易かつ不公正な営業活動であることは明らかであるから,被告に不法行為が成立すると主張する。
しかしながら,原告の主張は原告各ランプの形態が法2条1項1号による保護を受けるべき商品等表示に当たることを前提とするところ,同形態がこれに当たらないことは前示のとおりであって,原告の主張はその前提を異にする上,原告が模倣されたと主張する原告各ランプの梱包は,白色正方形のダンボール箱と商品を保護するための白色の発泡スチロール様のものから成るごくありふれたものであって,何ら特徴的な形態を有するものではない(甲10の1〜6)。また,前記認定の原告各ランプの需要者やその流通経路を考慮すれば,需要者が商品の梱包やプラグの形態,被覆コードの有無に着目して商品を選択しているとは認め難い上,被告が原告が主張するような不正な目的を持ってこれらの点を積極的に模倣したとも認め難い。
そうすると,原告の指摘する点は,いずれも被告に原告が主張するような不正な目的があったことを推認させるに足りるとはいえず,ほかに被告が正当な自由競争の範囲を逸脱した行為を行ったと認めるに足りる証拠もない。
以上によれば,被告に原告主張の不法行為が成立するということはできない。
3結論よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 岡本岳