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関連審決 不服2009-5363
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  周知技術 /  技術常識 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  のみ用いる /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  減縮 /  独立特許要件 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10187号 審決取消請求事件
原告 コスモ工機株式会社
訴訟代理人弁理士 重信和男
同 清水英雄
同 中野佳直
同 溝渕良一
同 秋庭英樹
同 堅田多恵子
被告 特許庁長官
指定代理人 川上溢喜
同 川本真裕
同 紀本孝
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/12/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が不服2009−5363号事件について平成22年4月28日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求2 主文同旨第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,平成15年4月24日,発明の名称を「伸縮可撓管の移動規制装置」とする発明について,特許出願(特願2003-120332号,特開2004-324769号。甲12)をしたが,平成21年2月10日に拒絶査定がされ,これに対し,同年3月12日,不服の審判(不服2009-5363号事件)を請求した。
特許庁は,平成22年4月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年5月11日,原告に送達された。
2本件補正後の特許請求の範囲本件出願に係る平成21年4月8日付け手続補正書(甲19)による補正(以下「本件補正」という。)後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,本件補正後の請求項1に係る発明を「本願補正発明」という。
別紙「本願補正明細書参考図【図2】(a)及び(b)」参照)。
「【請求項1】 流体輸送管の途中に接続される一対の可撓継手部から成る伸縮可撓管の移動規制装置において,前記一対の継手部はそれぞれの外周に設けられた取付片を有し,互いに摺動且つ密封可能に支持され,前記両継手部間にはタイロッドが周方向に前記取付片を介して複数架橋され,両取付片のそれぞれ内外に配設した一対の係合部材により前記タイロッドが取付片間に固定されるものであって,前記取付片の外側に配設した一方の係合部材は前記タイロッド端部のネジ部に螺着され,六角ナットと共に重ねて設けられる球面ナットから成るダブルナットで構成され,前記球面ナットと前記取付片との間に球面座金を介在させ,互いの凹凸球面部で摺動させると共に,前記取付片の内側に配設した他方の係3合部材は前記タイロッド端部のネジ部に螺挿されるナットで構成され,前記流体輸送管に対して圧縮方向に,かつ前記タイロッドを変形させる異常荷重が作用したとき前記ナットのネジ部の変形または破壊により前記異常荷重を吸収することを特徴とする伸縮可撓管の移動規制装置。」3審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。審決の判断の概要は,以下のとおりである。
(1)本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに当たる。
(2)しかし,本願補正発明は,次のとおり,特許出願の際独立して特許を受けることができない(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。)から,本件補正を却下する。
ア本願補正発明と,特開平8-121665号公報(以下「刊行物1」という。甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。)の内容,本願発明と引用発明との一致点及び相違点を以下のとおり認定した。
(ア) 引用発明の内容(別紙「刊行物1参考図【図1】」,「刊行物1配管施工前参考図【図2】及び同施工後参考図【図3】」参照)「スリーブ2と二個のケーシング管3とが球面リング材1を介して伸縮可能,かつ,相対揺動可能に連結されている水道用の伸縮可撓管継手Aの二個のケーシング管3どうしの相対移動を阻止する阻止手段Bにおいて,ケーシング管3各々の外周側に複数個のボス12を等間隔で環状に配置して一体形成しており,球面リング材1とスリーブ2との間及び球面4リング材1とケーシング管3との間の各々にゴム製のシールリング8,9が嵌め込まれており,二個のケーシング管3のボス12どうしに亘って,これらのケーシング管3どうしを連結する連結部材としての雄ねじ14が形成されている鋼製ロッド13を挿通し,ボス12の各々とロッド13とを二個のナット15で締め付け固定して構成されている伸縮可撓管継手Aの二個のケーシング管3どうしの相対移動を阻止する阻止手段B」(審決書4頁14行〜24行)(イ)一致点「流体輸送管の途中に接続される一対の可撓継手部から成る伸縮可撓管の移動規制装置において,前記一対の継手部はそれぞれの外周に設けられた取付片を有し,互いに摺動且つ密封可能に支持され,前記両継手部間にはタイロッドが周方向に前記取付片を介して複数架橋され,両取付片のそれぞれ内外に配設した一対の係合部材により前記タイロッドが取付片間に固定されるものであって,前記取付片の外側に配設した一方の係合部材は前記タイロッド端部のネジ部に螺着されると共に,前記取付片の内側に配設した他方の係合部材は前記タイロッド端部のネジ部に螺挿されるナットで構成される伸縮可撓管の移動規制装置。」(審決書7頁5行〜14行)(ウ)相違点「[相違点1]取付片の外側に配設した一方の係合部材が,本願補正発明では,『六角ナットと共に重ねて設けられる球面ナットから成るダブルナットで構成され,前記球面ナットと前記取付片との間に球面座金を介在させ,互いの凹凸球面部で摺動させる』ものであるのに対して,引用発明では,(単一の)『ナット15』である点。
5[相違点2]取付片の内側に配設した他方の係合部材が,本願補正発明では,『前記流体輸送管に対して圧縮方向に,かつ前記タイロッドを変形させる異常荷重が作用したとき前記ナットのネジ部の変形または破壊により前記異常荷重を吸収する』ものであるのに対して,引用発明では,(通常の)『ナット15』である点。」(審決書7頁16行〜27行)イ相違点に関する容易想到性を以下のとおり判断した。
(ア)相違点1について伸縮可撓管等の管継手の技術分野において,タイロッドにその軸方向とは異なる方向から力や捻り力が作用する問題のあることは周知の課題である。また,種々の技術分野において,ナットを,一般的なナットである六角ナットと共に重ねて設けられる球面ナットから成るダブルナットで構成することや,球面ナットと被取付部材との間に球面座金を介在させ,互いの凹凸球面部で摺動させることは周知の技術である。そして,引用発明の鋼製ロッド13(タイロッド)にその軸方向から異なる方向から力や捻り力が作用する問題のあることは予測されるから,引用発明において,ボス12(取付片)の外側に配設した一方の係合部材である(単一の)ナット15に代えて,上記周知の技術を適用することによって,上記相違点1に係る本願補正発明と同様の構成のものとすることは,当業者が容易に想到し得たものである。
(イ)相違点2について特開平11-166678号公報(以下「刊行物2」という。甲2)には,「地盤の変動に伴って両配管51,51に及ぼされる引離力Fが設定レベルを超えると,合成樹脂製の締結ナット26Aが破壊されることに伴って,衝撃的な引離力Fが減衰されると共に,両配管51,51は,地盤の動きに追従した変位を許容される」との技術事項を含む発明が記6載されており,「引離力F」が本願補正発明の「異常荷重」とは,その作用する方向が引っ張り力か圧縮力かという相違はあるものの,本願補正発明の構成のうちの「前記流体輸送管に対して異常荷重が作用したとき前記ナットのネジ部の変形または破壊により前記異常荷重を吸収する」ことに実質的に相当する。
「そして,流体輸送管等の管の技術分野において,管に圧縮力が作用する問題があることは周知の課題であり(例えば,特開平11-13965号公報の段落【0005】,特開平11-153277号公報の段落【0003】,特開平9-72470号公報の段落【0001】,特開平11-294658号公報の段落【0007】,特開昭64-30993号公報の第2ページ左下欄第12〜17行,第3ページ左上欄第2〜7行を参照),当該圧縮力に関する問題を解決するために,従来から管継手部に種々の手段が施されてきたところである。そうすると,引用発明の伸縮可撓管継手Aに圧縮力が作用し,その圧縮力が鋼製ロッド13(タイロッド)を変形させるような異常荷重として作用する問題があることは予測されるところであり,また,上記刊行物1の記載事項(イ)に,『筒状体どうしを相対移動させようとする外力で破壊可能な脆弱部は,阻止手段を構成する部材の一部を他の部材よりも強度的に弱い材料で製作して構成しても良い。』と記載されていることを考慮すれば,引用発明における,ボス12(取付片)の内側に配設した他方の係合部材である(通常の)ナット15に代えて,上記刊行物2記載の合成樹脂製の締結ナット26Aを適用することによって,上記相違点2に係る本願補正発明と同様の構成のものとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。」(審決書8頁末行〜9頁17行)(ウ)作用効果について本願補正発明が奏する作用効果は,いずれも刊行物1及び2記載の発7明,前記各周知の課題並びに前記周知の技術から当業者が予測できる程度のものである。
(エ)まとめしたがって,本願補正発明は,刊行物1及び2記載の発明,前記各周知の課題並びに前記周知の技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
ウ以上のとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下する。
(3)本願発明本願発明の発明特定事項をすべて含み,審判請求時の手続補正によって更に構成を限定的に減縮した本願補正発明が,刊行物1及び2記載の発明,前記各周知の課題並びに前記周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである以上,本願発明も,同様の理由により,刊行物1及び2記載の発明,前記各周知の課題並びに前記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
第3当事者の主張1取消事由に係る原告の主張審決には,以下のとおり,(1)本願補正発明の認定の誤り及び相違点の看過(取消事由1),(2)相違点1に係る容易想到性判断の誤り(取消事由2),(3)相違点2に係る容易想到性判断の誤り(取消事由3),(4)本願補正発明の作用効果に係る認定の誤り(取消事由4),(5)本件補正前の本願発明の認定の誤り(取消事由5)がある。
8(1)取消事由1(本願補正発明の認定の誤り及び相違点の看過)本願補正発明は,両取付片のそれぞれ内外に配設した,タイロッドを固定する一対の係合部材とタイロッドとを組み合わせる構成を採用することにより,タイロッドを変形させる圧縮方向への異常荷重(偏心を伴う圧縮も含む。)が作用したときに内側のナットのネジ部に対して変形又は破壊を生じさせてその異常荷重を吸収し,タイロッドと伸縮継手1とを破損させることなく(タイロッド破壊防止機能),タイロッドの両取付片10a,10bからの抜け落ちを防止するとともに,その後に発生する引っ張り力(想定内の不平均力)に対しては両取付片10a,10bと外側のダブルナットによる伸縮継手1の移動距離維持機能が保たれ続ける点にその特徴がある。この本願補正発明の特徴点は,両取付片のそれぞれ内外に配設した,タイロッドを固定する一対の係合部材とタイロッドとを組み合わせる構成によるものであるから,これらを一体的なものと認定して,それと引用発明とを対比して,相違点を認定すべきである。
そうであるのに,審決は,単に,一対の係合部材の外側の相違点と,一対の係合部材の内側の相違点を別々に認定し,本願補正発明における一対の係合材の一体的な組合せに基づく上記特徴点を看過してその認定を誤り,引用発明との相違点をも看過したから,取り消されるべきである。
なお,被告は,タイロッドに引っ張り力と圧縮力が同時に作用することはないから,一対の係合部材の外側の相違点と,一対の係合部材の内側の相違点を一体として認定する必要はないと主張する。しかし,取付片の外側係合部材は凹凸球面部を摺動させて追従すると同時に,内側係合部材であるナットが変形又は破損し,各係合部材が相互に機能することがあるから,一対の係合部材の内側と外側の係合部材に係る相違点を一体として認定し,一体的に作用する相互機能をも考慮して容易想到性の判断をすべきである。
(2)取消事由2(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)9審決は,相違点1について,「伸縮可撓管等の管継手の技術分野において,タイロッドに軸方向に異なる方向から力や捻り力が作用する問題があることは周知の課題であるし(例えば,実願昭60-201345号(実開昭62-108688号)のマイクロフィルムの明細書第3ページ第1〜4行,実願昭59-136216号(実開昭61-50887号)のマイクロフィルムの明細書第3ページ第15行〜第4ページ第1行を参照),また,種々の技術分野において,ナットを,一般的なナットである六角ナットと共に重ねて設けられる球面ナットから成るダブルナットで構成することや,球面ナットと被取付部材との間に球面座金を介在させ,互いの凹凸球面部で摺動させることは周知の技術である(例えば,特開平6-127615号公報の図1の『球面ナット14』及び『通常のナット15』,特開平10-318240号公報の図5(a)の『凸球面ナット20』及び『凹球面ワッシャ21』,『凹球面ワッシャ22』及び『凸球面ナット23』を参照)。そして,引用発明の鋼製ロッド13(タイロッド)に軸方向に対し異なる方向から力や捻り力が作用する問題があることは予測されるところであるから,そのような問題を解決するための手段として,引用発明における,ボス12(取付片)の外側に配設した一方の係合部材である(単一の)ナット15に代えて,上記周知の技術を適用することによって,上記相違点1に係る本願補正発明と同様の構成のものとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。」(審決書7頁下から3行〜8頁17行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,次のとおり誤りである。
まず,?引用発明から,本願補正発明の相違点1に係る構成に到達するには,上記周知の課題(甲3,4)を考慮した上で,引用発明の外側のナットに,上記ダブルナットで構成する点(甲5)を適用し,さらに,その適用後のダブルナットの球面ナットの部分について,それに対応するような上記「凹球面ワッシャ21」(甲6)を組み合わせなければならないが,このように周10知技術を数段階にわたり重ねて適用することは,当該本願補正発明の「解決手段」ないし「解決結果」を知っていることから生じる後知恵的な論理であるといえる。すなわち,上記周知文献は,タイロッドに軸方向に対し異なる方向から力や捻り力が作用する問題があるという課題を示しているとしても,タイロッド自体が変形又は破損して伸縮可撓管を突き破ることを防止するという本願補正発明の課題を示すものではないから,それらの周知技術を適用することは容易ではない。
また,?本願補正発明のように,異常な圧縮力が加わったときに,内側のナット30が変形・破壊されることにより圧縮力が吸収され,内側のナット30が変形破壊された後においても,両取付片10a,10bの両外側から,六角ナット20と共に重ねてタイロッド22端部のネジ部に螺着される球面ナット24と球面座金25とが互いの凹凸球面部で摺動するように介在し,タイロッド22が球面座金25と球面ナット24を介して追従変位することができるために,タイロッド22が両取付片10a,10bから抜け落ちることがなく,タイロッド22又は伸縮継手1の破損を防ぐとともに,引き続きタイロッド22及び両取付片10a,10bのそれぞれ外側に配設した係合部材により,伸縮継手1の一対の可撓継手部2,4と連結管18をそのまま使用し続けることができるという点は,前記周知文献において開示も示唆もされていない。
よって,引用発明に,上記周知の技術を適用することによって,上記相違点1に係る本願補正発明と同様の構成のものとすることは,当業者が容易に想到し得たことではなく,これを容易想到であるとした審決の判断は誤りである。
(3)取消事由3(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)審決は,相違点2について,「そして,流体輸送管等の管の技術分野において,管に圧縮力が作用する問題があることは周知の課題であり(例えば,特11開平11-13965号公報の段落【0005】,特開平11-153277号公報の段落【0003】,特開平9-72470号公報の段落【0001】,特開平11-294658号公報の段落【0007】,特開昭64-30993号公報の第2ページ左下欄第12〜17行,第3ページ左上欄第2〜7行を参照),当該圧縮力に関する問題を解決するために,従来から管継手部に種々の手段が施されてきたところである。そうすると,引用発明の伸縮可撓管継手Aに圧縮力が作用し,その圧縮力が鋼製ロッド13(タイロッド)を変形させるような異常荷重として作用する問題があることは予測されるところであり,また,上記刊行物1の記載事項(イ)に,『筒状体どうしを相対移動させようとする外力で破壊可能な脆弱部は,阻止手段を構成する部材の一部を他の部材よりも強度的に弱い材料で製作して構成しても良い。』と記載されていることを考慮すれば,引用発明における,ボス12(取付片)の内側に配設した他方の係合部材である(通常の)ナット15に代えて,上記刊行物2記載の合成樹脂製の締結ナット26Aを適用することによって,上記相違点2に係る本願補正発明と同様の構成のものとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。」(審決書8頁末行〜9頁17行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,次のとおり誤りである。すなわち,ア刊行物1においては,脆弱部C(切欠部16)の破壊は,阻止手段Bのロッド13の破壊を意味しており,もともとは,地震や地盤沈下等の異常な外力が作用したときに,配管部材の相対移動を阻止している阻止手段Bのロッド13に作用する外力で,阻止手段Bに設けた脆弱部Cの切欠部16を破壊して阻止手段Bのロッド13を破壊することにより,外力を吸収するとともに,阻止手段Bのロッド13による相対移動の阻止状態を解除するものである。したがって,引用発明においては,本件補正後の明細書(以下「本願補正明細書」という。甲12,14,19)において従来技術として提示されていた特開2000-161559号公報(甲23)や,特開212000-161560号公報(甲24)に示されるロッドによる阻止手段と同様に,地震や地盤沈下等の異常な外力が作用したときには,ロッド自体が破壊され,それにより伸縮可撓管が突き破られるおそれがあるという課題をそのまま有するものであって,本願補正発明のように伸縮可撓管の突破れ防止の課題を解決するものではない。よって,そのような引用発明に基づいて本願補正発明を容易に発明することができたとはいえない。
なお,刊行物1においても脆弱部の破壊により「配管部材」の損傷が防止されることが開示されているが(甲1,段落【0001】,【0002】),その「配管部材」は,「管継手」の上流,下流に取り付けられる輸送管等を意味するから,本願補正発明における「伸縮可撓管」の突破れ防止を開示したものではない。
イまた,刊行物1における脆弱部Cは,ロッド13に設けられた切欠部16の部分であり,この部分が破壊されやすいがためにその補強手段Dが必要になることを考えれば,阻止手段を構成する部材の一部としてロッド以外のナット15の部分まで脆弱部とすることが示唆されているとはいえないし,そのことが容易想到であるともいえない。
すなわち,刊行物1においては,切欠部16が示されているように,ロッドの周面を一部切り欠くことで脆弱部を構成することが開示されているだけで,それ以外の脆弱部に関する特別な技術的事項の開示はない。この点を考慮すれば,刊行物1の段落【0040】の「筒状体どうしを相対移動させようとする外力で破壊可能な脆弱部は,阻止手段を構成する部材の一部を他の部材よりも強度的に弱い材料で製作して構成しても良い。」という審決指摘の記載は,「ロッドに切欠部16を設ける代わりに,阻止手段を構成するロッドの一部を強度的に弱い材料とすることで脆弱部の部分を構成しても良い。」との内容を示しているに止まり,刊行物1に開示された内容を越えて,ロッド以外の部分を脆弱部として設けても良いことを示唆し13ているものではない。
また,刊行物1における脆弱部は,外力が加わったときには,引張力・圧縮力の両方向の外力に対して破壊されると記載されているのであるから,仮に,ロッド以外のナットを脆弱部として破壊するのであれば,引張力・圧縮力に対しても破壊されるよう,取付部の内側と外側の両方のナットを脆弱部としなければならず,本願補正発明のように内側のナットのみを脆弱部とする構成を導くことができることにはならない。
さらに,刊行物1では,脆弱部を補強する補強手段を備えることを特徴とし,補強手段としては,第1実施例として,段落【0029】において六角ナット17が記載され,第2実施例として段落【0033】において六角ナット20が記載され,第3実施例として段落【0038】において六角ナット24が記載されているように,これらナットはロッドの脆弱部を補強するためにしか説明されていないのであるから,脆弱部をナットとすることはそもそも想定されていない。仮に脆弱部をナットとした場合について検討しても,この脆弱なナットの更なる補強手段がどのような構造になるのかについては何ら記載されておらず,また何らこの点についての解決手法が開示されていないのであるから,刊行物1では脆弱部をナットとすることは想定されていない。
ウまた,本来タイロッドは,両継手部間に架橋されるものであり,?伸縮可撓管継手の運搬時及び設置時において伸縮可撓管継手の形状を安定させておく形状安定機能を有し,?設置後において流体輸送管内の水圧等により発生する不平均力,土圧の変化又は小規模地震による管のズレなどにより発生する伸縮力に対しては,図2に示されるSと S‘との距離, Rと R’との距離を維持させておき,本格的な大地震に備える移動距離維持機能を有し,?本格的な大地震が発生して異常荷重が作用したときにはタイロッドが破壊されることにより,伸縮可撓管継手自体の破壊が防止機能を有す14る。
これに対し,本願補正発明は,上記?ないし?の機能のほかに,内外のナットの強度をそれぞれ異ならせることにより,本格的な大地震とまではいえない程度の異常荷重が作用した場合に,タイロッド内側ナットの変形破壊によってタイロッド自体の破壊を防止し,伸縮可撓管の突破れを防止する機能を最大限に発揮することができるようにした発明であるから,審決の「そうすると,引用発明の伸縮可撓管継手Aに圧縮力が作用し,その圧縮力が鋼製ロッド13(タイロッド)を変形させるような異常荷重として作用する問題があることは予測されるところである」との理由のみをもって,引用発明における内側のナット15に,刊行物2記載の発明の締結ナット26Aを適用することが当業者において容易に想到し得たものであるとはいえない。
エ本願補正発明におけるタイロッドは,伸縮可撓管継手の運搬時及び設置時において伸縮可撓管継手の形状を安定させておく形状安定機能に加えて,設置後において流体輸送管内の水圧等により発生する不平均力(引張力)に耐えて,強い地震時における伸縮可撓管継手の移動シロを確保しておく伸縮可撓管継手の移動距離維持機能をも備えるものであり,このような水圧が原因で発生する不平均力による引張力では破壊されない強度を備えるタイロッド構造を前提としており,このために上述したような課題が新たに生じたものである。これに対し,刊行物1に記載されている伸縮可撓管継手は,運搬時においてロッドにより伸縮可撓管継手の形状を安定させ,設置後においてそのロッドの耐久性を弱めることを主目的としており,設置後に発生する不平均力に耐え得るようなタイロッドの使用形態を前提としているものではないので,本願補正発明とはその前提を異にする。よって,そのように前提の異なる引用発明に甲2記載の周知技術を適用して本願補正発明の相違点2に係る構成に想到することが容易であったとはいえ15ない。
オまた,刊行物2の締結ボルト25は,最終的破壊を前提とした両継手部間に架橋される本来のタイロッドではなく,2つの連結された管の分離防止のための締結ボルト25に対して単に引っ張り力で破壊されるだけの締結ナット26Aが示されているのみであるから,引用発明における本来のタイロッドである鋼製ロッド13(タイロッド)の内側にあるナット15に,刊行物2記載の締結ナット26Aを適用することは,当業者が容易に想到し得たものではない。
カよって,刊行物1における,ボス12(取付片)の内側に配設した他方の係合部材である(通常の)ナット15に代えて,刊行物2に記載されている合成樹脂製の締結ナット26Aを適用することは,当業者が容易に想到し得たことではない。本願補正発明の相違点2に係る構成に想到することが容易であるとした審決の判断は,誤りである。
(4)取消事由4(本願補正発明の作用効果に係る認定の誤り)審決は,「本願補正発明が奏する作用効果は,いずれも刊行物1及び2記載の発明,上記各周知の課題並びに上記周知の技術から当業者が予測できる程度のものである。」(審決書9頁19行〜21行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は誤りである。すなわち,本願補正発明は,本願補正明細書の段落【0027】ないし【0031】に記載されているような作用効果を奏するものであり,刊行物1,刊行物2及び従来周知の技術的事項(甲3ないし11)には示唆すらされていない効果を奏するものであって,当業者が予測し得たものではないから,審決の上記判断は誤りである。
(5)取消事由5(本件補正前の本願発明の認定の誤り)上記取消事由1ないし4の主張によれば,本願補正発明が独立特許要件を欠くと判断して本件補正を却下した審決は誤りであり,本願に係る発明は,本件補正(甲19)によって補正されたものとなるから,本件補正前の本願16発明について特許法29条2項に該当して特許を受けることができないことを理由に拒絶不服審判請求を不成立とした審決の判断は,誤りである。
2被告の反論(1)取消事由1(本願補正発明の認定の誤り及び相違点の看過)に対し本願補正発明の固着手段は,低強度ナットで固着した側に「固着を解除する方向」の異常荷重が作用したときにナットが変形又は破壊されるとするものであって,当該異常荷重が圧縮力であるか引っ張り力であるかとは無関係に,上記固着を解除する方向に依存してその機能を発揮させる点においては,引用発明と実質的に同じものである。圧縮力と引っ張り力が同時に作用して新たな固有の機能を発揮することがない以上,本願補正発明の各係合部材の構成に係る相違点1及び2を一体のものとして引用発明と対比認定する必要はない。以上のとおり,審決に,本願補正発明の認定の誤り及び相違点の看過はなく,取消事由1に関する原告の主張は理由がない。
(2)取消事由2(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)に対し当業者は,?ボルトに偏荷重などの軸方向以外から力が加わる場合には,「球面ナットとともに用いる球面座金」の中から,球面座金と球面ナットの組合せか,ナットとともに用いられる球面座金とその球面に整合する球面座金の組合せを選択して用い,また,?ナットに緩み止めが必要な場合には,ナットを単に一つ追加してダブルナットとする。当業者は,?ボルトに偏荷重などの軸方向以外からの力が加わるか否か,?更にナットに緩み止めが必要か否かを判断して,周知の固着手段を適宜選択するのであり,原告が主張するように,ダブルナットの1つを球面ナットに入れ替えて用いるものではない。
実際の組み付け作業が段階的に行われるとしても,原告が主張するような周知技術を数段階にわたり重ねて適用するものとはいえないから,本願補正17発明の相違点1に係る構成は容易想到でないとする取消事由2に係る原告の主張は,理由がない。
(3)取消事由3(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)に対しア地中に埋設する流体輸送管や管継手等には,地震や地盤沈下などによって変形や破壊を引き起こすような大きな圧縮力が作用するとの課題があったことは,特開平11-13965号公報(甲7,段落【0005】),特開平11-153277号公報(甲8,段落【0003】),特開平9-72470公報(甲9,段落【0001】),特開平11-294658号公報(甲10,段落【0007】),及び特開昭64-030993号公報(甲11,2頁左下欄12行〜17行,3頁左上欄2行〜7行)に記載されているように周知である。
刊行物1記載の実施例は,従来の移動規制装置に対して地震や地盤沈下等に起因して大きな力が作用した場合に脆弱部が破壊されて配管部材の損傷を防止するようにした伸縮可撓管の一種である管継手において,運搬途中や配管施工中等に不測の相対移動が発生するおそれがあることに着目しているという解決課題の相違はあるとはいえ,これに接した当業者であれば,上記管継手が設置される現場の環境や設置の条件に応じて,取付片の間隔が狭くなる方向の力,すなわち圧縮力を受けることがあることは,設計をする際に十分に認識することができるから,引用発明において,圧縮力が作用することに着目することは単なる設計事項であるということができる。そして,高価な部品や交換をすることが困難な部品に過大な荷重が付加されたときに当該部品の損傷や破損の被害を軽減するための1つの手段として,低強度ナットを用いて当該固着手段の強度を相対的に低くしておくことは周知の技術であるから,上記圧縮力に対する課題の解決手段として刊行物2に記載された低強度ナットの一種である合成樹脂製の締結ナ18ット26Aを用いることは当業者が困難を要することではない。そして,本願補正発明は,刊行物2に記載されているのみならず周知の固着手段でもある低強度ナットを,圧縮力が作用する側にそのまま用いたものであり,伸縮可撓管の移動規制装置に特化してナットの構成やナットとタイロッドとの関連構成を工夫したものでもないから,その適用に当業者が困難を要する事情もない。
以上のとおり,引用発明において,上記周知の技術を適用する動機付けがあったということができるから,引用発明の2個のナット15のうち圧縮力が作用する側の通常のナットに代えて,刊行物2に記載された合成樹脂製の締結ナット26Aを適用することは,当業者が容易に想到し得たことである。
イこれに対し,原告は,刊行物1に記載された上記実施例は「ロッド自体が破壊して,伸縮可撓管を突き破るおそれがあるという課題をそのまま有するものであるから,その課題を解決する本願補正発明の相違点2に係る構成に想到することは容易ではない。」旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,上記実施例の脆弱部はロッド13に設けた切欠部16以外にはないことを前提としたものであり,理由がない。すなわち,上記低強度ナットは,異常荷重が作用したときに変形又は破壊されることを前提に用いるものであり,タイロッドに圧縮方向の力が作用するか,引張方向の力が作用するかにかかわりなく,低強度ナットが変形又は破壊される方向の異常荷重が作用したときはタイロッド自体の破壊を防止する機能を有するものであるから,タイロッドが破壊して伸縮可撓管を突き破るようなことがないことは,低強度ナットそのものの機能として,当業者が低強度ナットを使用するに当たって認識できることである。
ウまた,原告は,阻止手段を構成する部材の一部としてロッド以外のナッ19ト15の部分に及んでその部分を脆弱部にすることまでは示唆されていないと主張する。
しかし,上記阻止手段とは,刊行物1の段落【0027】によれば,?ケーシング管3各々の外周側に複数個(実施例では4個)の(A)「ボス12」を等間隔で環状に配置して一体形成するとともに,?2個のケーシング管3のボス12どうしに亘って,これらのケーシング管3どうしを連結する連結部材としての(B)「雄ねじ14が形成されている鋼製ロッド13」を挿通し,?ボス12の各々とロッド13とを(C)「二個のナット15」で締め付け固定して構成されるものであるから,上記段落【0040】の記載は,阻止手段を構成する上記(A)ないし(C)の3種の部材のうちのいずれかを脆弱部とすることを示唆するものであって,上記(C)のナットの1つを脆弱部とすることを直接示唆するものではないとしても,刊行物2に記載された脆弱部の構成を適用することを阻害したり否定するものではない。
エさらに,原告は,刊行物1に記載された上記脆弱部が「破壊しやすいために補強手段Dが必要になること」は上記適用に当たって阻害要因に当たるかのように主張する。
しかし,脆弱部の補強手段は,上記移動規制装置に異常荷重として引っ張り力や圧縮力が作用するという課題に加えて,さらに運搬途中や配管施工中等に不測の相対移動が発生することを防止する課題がある場合に設けるものであるから,当該脆弱部が低強度ナットである場合には,運搬途中や配管施工中等に不測の相対移動が発生することを防止する必要があれば低強度ナットをナット一般の補強手段又は保護手段で一時的に補強し,その必要がなければ補強手段を省く程度のことは当業者が適宜推考できることである。よって,仮に,引用発明の阻止手段が上記脆弱部の構成を内在20するものであるとしても,当該脆弱部の構成を上記実施例に記載された脆弱部C(切欠部16)に限る理由がない以上,上記(C)の2個のナットのうち圧縮力が作用する側を刊行物2に記載された脆弱部の構成とすることを妨げる事情はない。
オまた,原告は,刊行物2には2つの連結された管の分離防止のための締結ボルト25に対して単に引っ張り力で破壊されるだけの締結ナット26Aが示されているのみであるから,引用発明に適用することは容易想到ではないと主張する。
しかし,上記締結ナット26A,すなわち低強度ナットは,引張方向の力が作用する場合にのみ用いる固着手段ではなく,圧縮方向の力が作用するか,引張方向の力が作用するかにかかわりなく,異常荷重が作用したときに変形又は破壊されることを前提に用いるものであるから,刊行物2に記載された低強度ナットの利用形態が引張方向の異常荷重に対応するものであるとしても,これと逆の圧縮方向の異常荷重が作用する固着手段として用いることは,当業者にとって容易に想到し得たことである。
(4)取消事由4(本願補正発明の作用効果に係る認定の誤り)に対し本願補正発明が奏する効果は,周知の固着手段又は刊行物2に記載された固着手段が有する機能から派生するものであって,いずれも当業者が予測できるものである。特に,本願補正明細書の段落【0027】及び【0029】に記載された受け口筒状体8a,8bに直接影響が及ばないなどの効果は,刊行物2に記載されたような周知の低強度ナットをタイロッドの両側にある上記取付片の間隔が狭くなる方向へ異常荷重が作用する伸縮可撓管の固着手段に用いることによって直ちに得ることができるものであり,同段落【0028】及び【0031】に記載された局部的な応力が作用することを防げるなどの効果は,周知の固着手段(球面ナットとともに用いる球面座金)が有21する機能そのものであり,同段落【0030】に記載されたあらゆる方向からの荷重に対してもバランスのとれた力の吸収が可能であるなどの効果は,引用発明に上記固着手段を適用して得られる自明の効果にすぎない。
また,周知の固着手段及び刊行物2に記載された固着手段は,用いられる製品・装置などの形状又は構造に応じて,当該製品・装置などに固有の作用又は機能に差異が生じるものであるところ,本願補正発明は,一般に実施されている固着の手段と同様に,上記取付片とタイロッドを固着する手段が伸縮可撓管の両側において同一であり,その具体的構成は形状や構造に特段の工夫をすることなく上記周知の固着手段をそのまま適用したものである以上,原告が主張する本願補正発明が奏する効果は,上記周知の固着手段又は刊行物2に記載された固着手段を引用発明に用いたことから派生した作用又は機能にすぎず,当業者が予測できないものではない。
(5)取消事由5(本件補正前の本願発明の認定の誤り)に対し前記によれば,本願補正発明について独立特許要件を欠くとして本件補正を却下した審決に誤りはないから,審決の本願に係る請求項1,2記載の発明の認定にも誤りはない。
第4当裁判所の判断 事案にかんがみ,取消事由3(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)から先に判断する。
1取消事由3(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)について当裁判所は,引用発明における,ボス12(取付片)の内側に配設した係合部材であるナット15に代えて,刊行物2記載の発明における低強度の締結ナット26Aを採用することにより,本願補正発明の相違点2に係る構成に想到することは,当業者において容易であったとはいえないから,これを容易であったとした審決の判断は,誤りであると判断する。
22本願補正発明が,特許法29条2項所定の要件を備えているか否かを判断するに当たっては,本願補正発明とこれに最も近い特定の引用発明とを対比し,本願補正発明の相違点に係る構成(技術的事項)について,当業者の出願時の技術常識等に照らして,引用発明から出発して容易に到達できたか否かを検討することによって判断される。ところで,以下のとおり,引用発明には,本願補正発明が目的としている技術的事項(「解決課題」及び「課題を達成するための手段」)についての記載は全く存在しないから,引用発明を基礎として,本件補正発明に至ることはないというべきである。
(1)事実認定ア引用発明の技術内容刊行物1(甲1)には,次の記載がある。すなわち,引用発明は,相対移動可能に連結されている筒状体どうしの相対移動を阻止する阻止手段が設けられ,前記阻止手段に,前記筒状体どうしを相対移動させようとする外力で破壊可能な脆弱部が設けられ,前記脆弱部の破壊によって,前記阻止手段による相対移動の阻止状態が解除される管継手に関する発明である(段落【0001】)。従来技術においては,脆弱部の強度をあまり弱く設定しておくと,運搬途中や配管施工中等において,例えば,ボルトに他物が衝突したり,ボルトにワイヤー等が引っ掛かったりして,又は管継手自体にわずかな衝撃力が加わっただけでも脆弱部が不当に破壊されて,阻止手段による相対移動の阻止状態が解除されてしまうおそれがあることから,脆弱部の強度をあまり弱く設定しておくことができず,そのため,脆弱部を破壊するに必要な外力の大きさを,その管継手が設置される場所の地盤強度等の特性に応じた大きさに適切に設定することが容易ではなく,管継手に接続した配管部材の損傷を効果的に防止できないおそれがあるとの課題を抱えていた(段落【0002】,【0003】)。
23引用発明は,相対移動可能に連結されている筒状体どうしの相対移動を阻止する阻止手段Bが設けられ,前記阻止手段Bに前記筒状体どうしを相対移動させようとする外力で破壊可能な脆弱部Cが設けられ,前記脆弱部Cの破壊により,前記阻止手段Bによる相対移動の阻止状態が解除される管継手であって,前記脆弱部Cを補強する補強手段Dが,当該脆弱部Cを補強している補強状態から,当該脆弱部Cの補強を解除する補強解除状態に切換操作可能に設けられている管継手とする構成を採用することにより(【請求項1】),脆弱部が破壊される外力の大きさを比較的小さく設定しても,運搬途中や配管施工中等において,その脆弱部を補強する補強手段を補強状態に保持しておくことにより,当該脆弱部の不測の破壊を防止することができると同時に(段落【0012】),当該脆弱部を破壊するのに必要な外力の大きさを,その管継手の設置場所の状況に応じた大きさに適切に設定することができ,管継手に接続した配管部材の損傷を効果的に防止することができるものとした。引用発明の構成を採用した第1の特徴は,前記脆弱部を補強する補強手段が,当該脆弱部を補強している補強状態から,当該脆弱部の補強を解除する補強解除状態に切換操作可能に設けられているという点にある(段落【0006】)。
刊行物1記載の実施例(別紙「刊行物1参考図【図1】」,「刊行物1配管施工前参考図【図2】」及び「刊行物1配管施工後参考図【図3】」参照)によれば,前記阻止手段Bは,ケーシング管3各々の外周側に複数個(実施例では4個)のボス12を等間隔で環状に配置して一体形成するとともに,2個のケーシング管3のボス12どうしに亘って,これらのケーシング管3どうしを連結する連結部材としての雄ねじ14が形成されている鋼製ロッド13を挿通し,ボス12の各々とロッド13とを2個のナット15で締め付け固定して構成され(段落【0027】),前記ロッド13各々24のケーシング管3どうしの中間位置に切欠部16を環状に形成して,ケーシング管3どうしを相対移動させようとする外力で破壊可能な脆弱部Cが設けられ,この脆弱部Cの破壊で,阻止手段Bによる2個のケーシング管3どうしの相対移動の阻止状態が解除されるように構成され(段落【0028】),前記脆弱部Cを補強する補強手段Dが,脆弱部Cを補強する補強部材としての長い鋼製六角ナット17をロッド13に螺進操作可能に螺着して構成され,この補強手段Dは,操作部材として兼用されるこの六角ナット17の螺進操作で,図2(別紙「刊行物1配管施工前参考図【図2】参照)に示す,当該六角ナット17が脆弱部Cを跨ぐ状態でロッド13に螺着されて当該脆弱部Cを補強している補強状態から,図3(別紙「刊行物1配管施工後参考図【図3】参照)に示す,脆弱部Cを挟む一方のロッド13部分に螺着されて当該脆弱部Cの補強を解除する補強解除状態に切換操作可能に設けられるものである(段落【0029】)。なお,「筒状体どうしを相対移動させようとする外力で破壊可能な脆弱部は,阻止手段を構成する部材の一部を他の部材よりも強度的に弱い材料で製作して構成しても良い。」(段落【0040】)旨が記載されている。
イ本願補正発明の解決課題及び解決手段等本願補正発明に係る発明の詳細な説明欄には,以下の記載がある。
本願補正発明は,水道管,ガス管,プラント用配管などの流体輸送管の途中に接続される一対の継手部から成る伸縮可撓管の移動規制装置に係る発明である(甲12,段落【0001】)。
従来のタイロッド式の移動規制装置においては,地震や地盤沈下等の異常な外力が作用した場合に,引っ張り力に対しては外側のナットが抜出防止作用を有するものの,圧縮力に対してはその外力を吸収する部分がないことから,タイロッド自体が変形し又は破損してしまい,その結果,変形25又は破損したタイロッドが伸縮可撓管を突き破るおそれもあるという課題があった(甲12,段落【0005】)。
そこで,本願補正発明は,上記の破損等したタイロッドによる伸縮可撓管の突破れ防止の課題を解決するために,流体輸送管に作用する異常荷重が引っ張り力である場合のみならず圧縮力である場合にも,移動規制装置として構成されたタイロッドに過大な負荷がかからないように対応することのできる伸縮可撓管の移動規制装置を提供することを目的とするものであって(甲14,段落【0006】),そのための手段として,前記第2,2の請求項1記載の構成を採用した。同構成により,圧縮方向の異常荷重が流体輸送管に作用する場合においても,その異常荷重が一定範囲内のものである限り,取付片の内側に配した係合部材のみの変形又は破壊により異常荷重を吸収させることにより,タイロッド自体には影響が及ばないようにすることができるとするものである(甲19,【請求項1】,甲14,段落【0007】)。
本願補正発明の実施例(別紙「本願補正明細書参考【図2】(a)及び (b )」参照)によれば,配管施工後においては,例えば地盤沈下や地震等の異常な荷重が発生することにより伸縮継手1に対して軸方向の荷重や捻りトルクが作用した場合,その引っ張り力に対してはタイロッド22の伸びによりエネルギーを吸収できるとともに,両継手部2,4間に架橋された複数本のタイロッド22に対してその軸方向に沿って作用する圧縮力に対しては,その圧縮力がナット30に作用してナット30のネジ部を変形させるか,破損させることによりタイロッド22又は両可撓継手部2,4の受け口筒状体8a,8bに直接影響が及ばないようにするものである(甲14,段落【0027】)。また,タイロッド22に対してその軸方向とは異なる方向から力や捻り力が作用した場合においては,球面ナット24の球面座金25が互いに接触する球面部で摺動することにより,タイロッド22に26局部的な応力が作用することを防止することができる(甲12,段落【0028】)。したがって,上記のように構成された伸縮継手の伸縮移動規制装置によれば,連結管18の両端に摺動かつ密封可能に支持される両可撓継手部2,4が,それらの取付片10a,10b間にタイロッド22が周方向に複数架橋され,タイロッド22の両端に形成されるネジ部に螺合されて両取付片10a,10bのそれぞれ内外に配設した一対の六角ナット20と球面ナット24から成るダブルナットとナット30によりタイロッド22が両取付片10a,10b間に固定された構成となっているので,圧縮方向の異常荷重が流体輸送管に作用しても,その異常荷重が一定範囲内のものである限り,ナット30のネジ部の変形又は破損により圧縮荷重を吸収させることにより,タイロッド22又は両可撓継手部2,4の受け口筒状体8a,8bには直接影響が及ばないようにすることができる(甲14,段落【0029】)。さらに,両取付片10a,10bの外側には,六角ナット20と共に重ねてタイロッド22端部のネジ部に螺着される球面ナット24と,球面座金25とが互いの凹凸球面部で摺動するように介在しているので,偏心力が作用してもタイロッド22が球面座金25と球面ナット24を介して追従変位することができ,タイロッド22の破損を防ぐことができると記載されている(甲12,段落【0031】)。
(2)相違点2に係る容易想到性の判断上記事実認定を基礎にして,取付片の内側に配設した係合部材について,引用発明の(通常の)「ナット15」に代えて,引用例2記載の低強度の「ナット26A」を適用することにより,「前記流体輸送管に対して圧縮方向に,かつ前記タイロッドを変形させる異常荷重が作用したとき前記ナットのネジ部の変形または破壊により前記異常荷重を吸収する」との本願補正発明の係合部材に係る構成(相違点2に係る構成)に想到することが当業者において27容易であったかについて検討する。
ア引用発明は,その脆弱部を補強する補強手段が,当該脆弱部を補強している補強状態から,当該脆弱部の補強を解除する補強解除状態へ切換操作可能に設けられている点を特徴的な構成としている。すなわち,運搬中や配管施工中においては,補強状態とすることによって,配管相互の相対移動を阻止することができ,施工後においては,補強解除状態へ切り換えることによって,わずかな衝撃力を受けただけでもその脆弱部(実施例の場合には切欠部16を有するロッド13)が破壊させることにより,外力を吸収させることを目的としている。引用発明は,実施例に示すとおり,配管施工後に補強状態を解除した場合には,切欠部16を有するロッド13自体が容易に破壊されるようにして,ケーシング管(以下「配管」と記載する場合がある。)が自由に相対移動できるようにした発明であるといえる(段落【0028】,別紙「刊行物1配管施工前参考図【図2】」及び「刊行物1配管施工後参考図【図3】」参照)。以上のとおり,引用発明では,ロッド13の破損を防止するという点,及び,ロッド13の破壊によって配管が突き破られることを防止するという点は,解決課題としていない。
これに対して,本願補正発明は,取付片の内側に配設される係合部材(タイロッド端部のネジ部に螺挿されるナット30)が圧縮方向の異常荷重を受けたときに,内側の係合部材のみを変形又は破損させることによってその異常荷重を吸収して,タイロッド自体が変形又は破損しないようにすることを目的とする発明である。すなわち,本願補正発明は,配管施工後において,異常荷重を受けた場合であっても,伸縮可撓管又は配管の損傷を防止するというタイロッド本来の機能を維持させようとするものである。
以上のとおり,本願補正発明は,引用発明と異なり,タイロッドに脆弱部を設けた上,脆弱部について,補強状態から補強解除状態への切換操作を28可能とするとの構成を前提としていない。
イ引用発明においては,補強状態から補強解除状態への切換操作が可能であるとの特徴的構成を有し,配管施工後の補強解除状態において,異常荷重によってタイロッド自体を破壊させることによって,配管の相対移動を確保させている。これに対し,本願補正発明においては,タイロッドを補強する手段を設けることの記載はなく,運搬時及び配管施工後において,異常荷重を受けた場合には,取付片内側の低強度ナットの外力吸収機能を用いることによって,タイロッド自体の破損等は防止され,その維持されたタイロッド自体の外力吸収機能によって,更なる異常荷重を受けた場合であっても,伸縮可撓管又は配管自体の損傷を防止させることを目的としている。このように,引用発明と本願補正発明とは,発明の技術的思想,すなわち発明における解決課題及び課題解決手段を異にする。
そうすると,たとえ地中に埋設する流体輸送管や管継手等には地震や地盤沈下などによって変形や破損を引き起こすような大きな圧縮力に対する対応を図ることが課題として周知であり,かつ,低強度ナットに係る技術的事項が周知の技術であったとしても,引用例(刊行物1)に,審決が引用した先行技術である引用発明から出発して相違点2に係る本願補正発明の構成に到達するためにしたはずであるという示唆等が記載されていたと解することはできない。
(3)被告の主張についてア被告は,刊行物1には,「筒状体どうしを相対移動させようとする外力で破壊可能な脆弱部は,阻止手段を構成する部材の一部を他の部材よりも強度的に弱い材料で製作して構成しても良い。」(【0040】)と記載部分があり,また「前記阻止手段Bは,ケーシング管3各々の外周側に複数個(実施例では4個)のボス12を等間隔で環状に配置して一体形成す29るとともに,二個のケーシング管3のボス12どうしに亘って,これらのケーシング管3どうしを連結する連結部材としての雄ねじ14が形成されている鋼製ロッド13を挿通し,ボス12の各々とロッド13とを二個のナット15で締め付け固定して構成されている。」【0027】との記載があることに照らすならば,上記【0040】の記載部分は,阻止手段を構成する上記3種の部材,すなわち「ボス12」,「鋼製ロッド13」及び「二個のナット15」のうちのいずれかを脆弱部とすることを示唆するものであって,このうち「二個のナット15」の更に内側のナット1つを脆弱部とすることを直接示唆するものではないとしても,刊行物2に記載された脆弱部の構成を適用することについての阻害要因にはならないと主張する。
しかし,被告の上記主張は,採用の限りでない。
すなわち,引用発明は,補強状態から補強解除状態への切換操作が可能であるという第1の特徴的構成を有することを前提として,配管施工後においては,衝撃力を受けただけでタイロッド自体を破壊させることによって,配管の相互移動を自由にさせる発明であるのに対して,本願発明は,補強状態の切換操作の構成を有さず,タイロッド自体が一定範囲内の異常荷重を受けても破損しないようにすることを解決課題とするものであって,両者は,発明の解決課題の設定及び解決手段において,技術思想を異にすることにする。刊行物1の実施例には,切欠部16が示されているように,ロッド13自体を容易に破壊させるようにして,配管どうしが自由に相対移動できるようにさせるという課題を解決する発明のみが開示されていることに照らすならば,ロッド自体を破壊させる技術的思想と相反する目的で脆弱部を設ける技術的事項の開示はないと解するのが合理的である。したがって,被告の主張に係る段落【0040】の記載は,上記の解決課題30及び解決手段の範囲における「ロッドに切欠部16を設ける代わりに,阻止手段を構成するロッドの一部を強度的に弱い材料とすることで脆弱部の部分を構成しても良い。」という技術を示しているに止まり,刊行物1に開示された全体の趣旨と離れて,ロッド以外の部分に脆弱部を設ける技術を示唆しているものではない。
特許法29条2項への該当性を肯定するためには,先行技術から出発して当該発明の相違点に係る構成に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の相違点に係る構成に到達するためにしたはずであるという程度の示唆等の存在していたことが必要であるというべきところ,刊行物1の段落【0040】の記載は,刊行物2に記載された技術を適用することについて,「相違点に係る構成に到達したはずであるという程度の示唆等」を含む記載ということはできない。
イまた,被告は,脆弱部の補強手段については,移動規制装置に異常荷重として引っ張り力や圧縮力が作用するという課題に加えて,運搬途中や配管施工中等に不測の相対移動が発生することを防止する課題がある場合に設けるものであるから,当該脆弱部が低強度ナットである場合には,運搬途中や配管施工中等に不測の相対移動が発生することを防止する必要があれば低強度ナットをナット一般の補強手段又は保護手段で一時的に補強し,その必要がなければ補強手段を省く程度のことは当業者が適宜推考できると主張する。
しかし,この点の被告の主張も採用の限りでない。すなわち,仮に上記補強手段の省略が当業者において容易であったとしても,引用発明が配管施工後のタイロッドの破壊を前提としているのに対し,本願補正発明は,配管施工後も一定範囲内の異常荷重である限りタイロッド自体が破損等しないことを目的としているという点で,その技術的思想を異にするもので31ある以上,補強手段を省略することが容易であるとの上記主張は,結論に影響する反論とはいえない。
2結論以上のとおり,原告主張の取消事由3(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)は理由がある。その他,被告が縷々主張するが,いずれも採用の限りでない。よって,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 武宮英子