運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2009-890079
関連ワード 識別力 /  識別機能 /  指定商品 /  公序良俗(4条1項7号) /  4条1項11号 /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  補正 /  手続の補正 /  無効審判 /  同一の商品 /  非類似 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 22年 (行ケ) 10152号 審決取消請求事件
原告 株式会社 サンセイアールアンドデ ィ
訴訟代理人弁護士 黒田健二
同 野本 健太郎
同 池上慶
被告 東映株式会社
訴訟代理人弁護士 村下憲司
同 福田純一
同 山岸久晃
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2011/02/28
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2009-890079号事件について平成22年4月5日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯等(1)原告は,商標登録第5202737号(平成20年5月14日出願,平成221年2月6日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。本件商標は,「名奉行金さん」の文字を標準文字で表記されたものであり,その指定商品は,第28類「遊戯用器具」である。
(2)被告は,平成21年7月3日,特許庁に対し,本件商標登録の無効審判(無効2009-890079号事件)を請求し,本件商標が,被告を商標権者とする商標登録第4700298号(平成14年11月12日出願,平成15年8月15日設定登録。「遠山の金さん」の文字を標準文字で表記されたものであり,その指定商品に遊戯用器具を含む。以下「引用商標」という。)と類似し,他人の業務との混同を生じさせるので,商標法4条1項7号,11号,15号に該当すると主張した。
(3)特許庁は,平成22年4月5日,「登録第5202737号の登録を無効とする。」との審決をし,その謄本は同月15日に原告に送達された。
2審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件商標は,商標法4条1項11号に該当し,同条の規定に違反して登録されたから,同法46条1項の規定により,本件商標登録を無効とする,というものである。
第3当事者の主張1審決の取消事由に関する原告の主張審決には,本件商標と引用商標との類否の判断を誤り,本件商標登録が商標法4条1項11号に該当するとした違法がある。
(1)観念,称呼,外観について本件商標は,「名奉行金さん」の文字を標準文字で表記したものであり,「名奉行」と「金さん」とを組み合わせたものである。本件商標中から,「名奉行である遠山金四郎」や「名奉行の遠山金四郎」の観念を生じるが,一連のものであることに照らすと,「名奉行」との資質・職業と切り離した,単なる「遠山金四郎」との観念は生じない。
これに対し,引用商標は,「遠山の金さん」の文字を標準文字で表記したものであ3り,その構成文字全体より,人物としての「遠山金四郎」の観念のみを生じさせ,「名奉行の遠山金四郎」との観念は生じない。
したがって,本願商標と引用商標とは,観念において相違する。
本件商標と引用商標は,歴史上の同一人物の氏名・略称等において共通する商標であっても,一方の商標において,資質や性状等を表す語が付加されているため,観念において相違する。本件商標の「名奉行」部分は,指定商品であるパチンコ機等と関連性がなく,出所識別機能が高いのに対して,「金さん」部分は,出所識別機能が高いとはいえない。
本件商標と引用商標とは,観念において相違し,また,称呼及び外観においても相違するから,両商標は類似しない。
(2)混同のおそれについて仮に,本件商標と引用商標が,「名奉行の遠山金四郎」又は「遠山金四郎」との観念において共通するとしても,遠山金四郎を題材とする多数の大衆娯楽作品が知られていること,「名奉行の遠山金四郎」又は「遠山金四郎」の観念を有する標章は,多数の業者によって使用されていることから,出所識別機能が弱い。
したがって,仮に本件商標と引用商標が,「名奉行の遠山金四郎」又は「遠山金四郎」の観念を共通にするとしても,両商標の間に出所混同のおそれは生じず,両商標は類似しない。
(3)取引の実情について本願商標と引用商標とは,パチンコ機及びパチスロ機(以下「パチンコ機等」という。)における,以下のような取引実情に照らすと,商品の出所に誤認混同が生じるおそれはない。なお,原告は,平成22年7月1日,本件商標の指定商品(第28類「遊戯用器具」)のうちコリントゲーム器具,スマートボール器具及び抽選器を放棄するとの書面を特許庁に提出したことから,本件商標の指定商品のうち,現実に使用されるパチンコ機等に係る取引実情を明らかにすれば足りるというべきである。
4アパチンコ機等の取引においては,需要者ないし取引者が,遊技場営業者(パチンコホール)及び販売代理店(代行店)に限られ,販売ルートも直販ルートと代理店(代行店)ルートに限られている。また,パチンコ機等の取引においては,実際の商品を展示した発表会や展示会を開催したり,詳細な販売資料を配付するなどして,個別具体的かつ直接的に販売に関する合意が形成され,書面により売買契約が締結されている。さらに,遊技場営業者(パチンコホール)がパチンコ機等の購入,設置をする際には,公安委員会や警察等による風俗営業関係行政に対応する必要があり,その際,メーカー名や機種名が正確に特定されている。そして,パチンコ機等は,製造期間が短く,同一モデルのパチンコ機等が繰り返し発注,販売されることが少なく,新機種に同一の商品名が使用されることもなく,新機種が登場した後に,通常,旧機種が流通することはない。
このように,同一の人物やキャラクターを使用したパチンコ機等であっても,遊技場営業者(パチンコホール)や販売代理店(代行店)は,メーカー名や当該機種で使用される商標を書面上で確認したり,メーカー名が記載された実機を精査したりしながら取引を行っており,商標により誤認混同が生じることはない。
イパチンコ機等においては,歴史上の同一人物の氏名・略称等を含む商標が多数併存しているが,同一人物を表す商標であっても,資質・性状等を表す語の有無や相違があれば,需要者をして異なる観念を想起させ,商品の出所について誤認混同が生じることはない。
ウこれらの取引事情に照らすと,パチンコ機等の取引においては,主に商標の外観称呼が識別標識としての機能を果たしており,観念を重視した取引はされておらず,外観及び称呼が相違すれば,出所に誤認混同が生じるおそれはない。
(4)被告の主張に対して被告は,パチンコ機等の取引者・需要者が,遊技場営業者(パチンコホール)や販売代理店(代行店)に限られないと主張する。しかし,パチンコ機等について,ゲームセンター,露天,家庭向けの販売,インターネットオークションを通じた取5引があるとしても,極めて少数であって,これらの者はパチンコ機等の主たる需要者層には当たらず,これらの者との取引実情を考慮する必要はない。仮に,ゲームセンター,露天,家庭向けの販売,インターネットオークションを通じた取引の実情について考慮するとしても,これらの取引に関わる者は,パチンコ機等に関する豊富な知識,注意力を有しており,出所混同が生じるおそれは極めて小さい。
また,被告は,パチンコ機等の取引者・需要者に,遊技者が含まれると主張する。
しかし,遊技者は,パチンコ機等の流通及び購入に関与せず,パチンコ機等の需要者ではないので,パチンコ機等の取引者・需要者に含まれない。なお,パチンコメーカーがテレビコマーシャル等により宣伝を行うのは,顧客である遊技場営業者(パチンコホール)との信頼関係や企業イメージの維持・向上のためであり,かかる宣伝が行われることにより,遊技者がパチンコ機等の取引者・需要者に含まれるということはできない。
さらに,被告は,原告の指定商品の一部放棄があっても,審決の判断に影響を与えることはなく,本件商標の類否判断において,パチンコ機等の類似商品であるコリントゲーム器具,スマートボール器具,抽選器及びビリヤードクロス(以下,これらを併せて「コリントゲーム器具等」という。)の取引の実情を明らかにする必要があると主張する。しかし,パチンコ機等とコリントゲーム器具等とは非類似の商品であり,同一又は類似の商標が使用されたとしても,同一の営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認されるおそれはないから,本件商標の類否判断において,コリントゲーム器具等の取引実情を考慮する必要はない。
(5)小括以上のとおり,本件商標と引用商標とは,外観,称呼,観念において共通ではなく,また,仮に観念において共通であるとしても,外観及び称呼の差異並びに取引事情に照らすと,商品の出所につき誤認混同が生じるおそれはなく,両商標は類似しない。
したがって,本件商標登録が商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断6は誤りである。
2被告の反論(1)観念,称呼,外観について商標における観念の類否は,当該観念に対応する文字・語句が商標の構成要素として明示されているか否かを問わず,需要者又は取引者が思い浮かべる両商標の意味内容が相紛らわしく知覚的に商品混同を起こす危険があるか否かを判断すれば足りる。
この点に関し,原告は,引用商標には「名奉行」との語句を含まないことから,「名奉行の遠山金四郎」の観念が生じないと主張する。しかし,少なくとも明治時代以降,「遠山の金さん」は,「名奉行の遠山金四郎」として,歌舞伎,講談,大衆文学,映画,テレビ等を通じて,大衆に広く知られるようになった。したがって,引用商標は,取引者・需要者に対し,「名奉行の遠山金四郎」との観念をも生じさせる。
以上のとおり,本件商標と引用商標は,「名奉行の遠山金四郎」又は「遠山金四郎」との観念において共通する。そして,本件商標と引用商標が,外観においていずれも標準文字で表記された「金さん」の文字を共通にし,称呼において「キンサン」を共通にすることを併せ見れば,これを同一又は類似する商品に使用したときは,取引者・需要者をして,出所に誤認混同を生じさせるおそれがあり,両商標は類似する。
(2)混同のおそれについて原告は,遠山金四郎を題材とする多数の大衆娯楽作品が知られていること,「名奉行の遠山金四郎」又は「遠山金四郎」の観念を有する標章は,多数の業者によって使用されていることから,出所識別機能が弱いと主張する。
しかし,商標は特殊な造語のような強い独創性がなくても出所識別機能を有するから,原告の主張は失当である。
(3)取引の実情について7ア原告は,本件商標を登録査定時には使用しておらず,その後の使用の事実は,審決の判断に影響を及ぼさない。また,原告は,商標の類否判断に際しては,指定商品のうち,現実に使用された商品に係る取引実情を明らかにすれば十分であると主張するが,指定商品全般についての一般的,恒常的な取引実情を明らかにすべきである。さらに,商標の類否判断は,商標が使用される商品又は役務の主たる需要者層のみならず,広く取引者・需要者となる者一般の有する注意力を基準として判断すべきである。
なお,原告は,審決後である平成22年7月1日に,本件商標の指定商品(第28類「遊戯用器具」)のうちコリントゲーム器具,スマートボール器具及び抽選器を放棄するとの書面を特許庁に提出したとして,本件商標の指定商品はパチンコ機等のみに限定されたと主張する。しかし,特許庁審査基準に記載された,パチンコ器具,スロットマシン,コリントゲーム器具,スマートボール器具及び抽選器は,遊戯用器具の例示にすぎず,その一部を放棄したからといって,指定商品が残部に限定されるわけではない。また,本件商標と引用商標の類否についての取引実情は,「パチンコ器具」及び「スロットマシン」のみならず,その類似商品であるコリントゲーム器具等についても主張立証をする必要がある。さらに,手続の補正ができない時期にされた指定商品の一部放棄の効力が商標登録出願時点に遡及することはなく,審決後の事情により,当該審決の判断が違法になることもない。したがって,原告の上記指定商品の一部の放棄は,審決の判断に影響することはない。
イ原告は,本件商標の指定商品がパチンコ機等に限定されるとの前提の下,その取引者・需要者が,遊技場営業者(パチンコホール)及び販売代理店(代行店)に限られるなどと主張する。
しかし,パチンコ機等は,遊技場営業者(パチンコホール)及び販売代理店(代行店)のみならず,ゲームセンターや露店などによっても購入・設置されているほか,中古品販売などを通じて一般家庭向けにも販売され,インターネットオークションでも多数取引されている。また,需要者には取引者及び一般消費者の双方が含8まれるところ,パチンコ遊技場等においては,一般消費者である遊技者が,パチンコ機等に付された商標により機種を識別・選択し,遊技を行っており,遊技者もパチンコ機等の需要者に含まれる。
したがって,パチンコ機等の取引者・需要者は,遊技場営業者(パチンコホール)及び販売代理店(代行店)に限られない。
ウ原告は,パチンコ機等の取引形態が特殊であると主張する。
しかし,販売資料と実際の商品を確認しながら,買主と売主が個別的,直接的に合意を形成し,契約の際,注文書や契約書を作成するなどの売買契約の方法は,パチンコ機等の売買契約に限らず,商取引において一般的に行われていることである。
また,買主が行政対応を要求されることや同一モデルの商品を繰り返し発注・購入しないということも,パチンコ機等に限られない。さらに,パチンコ機等の旧機種については,インターネットオークションで販売されたり,新機種を納入した代理店が下取りしたものを中古品販売業者,パチンコホール,ゲームセンター及び一般消費者に販売することも多く,旧機種も流通する。
エ原告は,パチンコ機等においては,歴史上の同一人物の氏名・略称等を含む商標が多数併存している例があり,資質・性状等を表す語の有無や相違があれば,商品の出所について誤認混同が生じることはないと主張する。
しかし,そのような登録例の存在は,本件商標と引用商標との類否判断に影響を及ぼすものではない。歴史上の同一人物の氏名・略称等を用いれば,当然に同一の観念が生じ,同一又は類似の称呼及び外観が生じるのであるから,そこに出所混同のおそれが生じることとなる。
(4)小括したがって,本件商標と引用商標とは,類似する商標であり,商品の出所について誤認混同のおそれがあるから,本件商標登録が商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断9当裁判所は,本件商標と引用商標とは類似し,商標法4条1項11号に該当するものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1事実認定(1)本件商標と引用商標の外観,称呼,観念本件商標は,「名奉行金さん」の文字を標準文字で表記したものであり,一連に表記されているため,「名奉行金さん」との外観を生じ,「メイブギョウキンサン」との称呼が生じる。一方,引用商標は,「遠山の金さん」の文字を標準文字で表記したものであり,一連に表記されているため,「遠山の金さん」との外観を生じ,「トオヤマノキンサン」との称呼が生じる。そうすると,本件商標と引用商標は,「金さん」との外観及び「キンサン」との称呼において共通するが,全体としては類似しない。
ところで,遠山金四郎は,江戸時代後期に江戸町奉行等を歴任した実在の人物であるが,遅くとも明治時代中期より歌舞伎,小説,映画,テレビ時代劇を通じて,「遠山の金さん」などと称呼されて大衆に親しまれており,時代劇等で取り上げられたエピソードの真偽はさておき,下情に通じた名奉行という人物像が広く一般に認識されていると認められる(甲21ないし37,乙2,3の1及び2,同5の1及び2,同6,8,10,11)。そうすると,本件商標「名奉行金さん」の語から,需要者,取引者をして,歴史上の人物である「遠山金四郎」,及び時代劇等で演じられる「名奉行として知られている遠山金四郎」の観念を生じさせる。また,引用商標「遠山の金さん」の語からも,需要者,取引者をして,歴史上の人物である「遠山金四郎」,及び「名奉行として知られている遠山金四郎」の観念を生じさせるから,本件商標と引用商標は,観念において同一又は類似であるといえる。
(2)取引の実情等についてアパチンコ機等の販売形態パチンコ機等は,製造業者と遊技場営業者(パチンコホール)ないし販売代理店(代行店)との間で売買されることが多いものの,ゲームセンターなどに売買されたり,インターネットオークションで中古品が売買されたりもしており,個人向け10の中古品販売業者も多数存在している。また,パチンコ業界では,1990年代後半から,「版権モノ」又は「タイアップ機種」と呼ばれるテレビアニメ,テレビドラマ,映画,漫画等のキャラクターを使用したパチンコ機の人気が高まり,特に近年では,出玉に応じて液晶画面に動画が流れる演出が人気となっており,「水戸黄門」,「宮本武蔵」,「じゃりン子チエ」,「キン肉マン」,「シティーハンター」,「桃太郎侍」,「銭形平次」,「織田信長」,「石川五右衛門」など,複数の機種に同様のキャラクターが使用される場合もある(甲38ないし43,56ないし58,乙19ないし22,32)。
イ本件商標の使用状況等原告のパチンコ機(甲54。いわゆるCR機)には,盤面左上隅に,俳優松方弘樹が肩から腕にかけての桜の花びらの入れ墨を見せるように右片肌を脱いだ状態の写真が掲載され,盤面中央のディスプレイ上部に「CR松方弘樹の」の文字(青色)が,その下に「名奉行金」の文字(桃色。「名奉行」の文字に比べ,「金」の文字は約2倍,「CR松方弘樹の」の文字は約半分の大きさ)がそれぞれ横書きで記載されている(なお,ハンドル中央及びパチンコ機最下部には「SanseiR&D」との文字が記載ないし刻印されている。)。
なお,上記パチンコ機の販売促進資料の表紙(甲47)には,遠山金四郎に扮した俳優松方弘樹の写真が掲載され,その右上の円内に縦書きで「CR松方弘樹の」「名奉行」「金さん」との文字が3行にわたり記載されている。また,上記パチンコ機のテレビコマーシャル(乙28)には,遠山金四郎に扮した俳優松方弘樹が映し出され,画面中央に縦書きで「CR松方弘樹の」「名奉行」「金さん」との文字が3行にわたり表記された画像が存在する。
ウ引用商標の使用状況等被告から引用商標使用のライセンスを受けた株式会社大一商会(以下「大一商会」という。)のパチンコ機(甲54,乙14。いわゆるCR機)には,盤面左隅に,俳優橋幸夫が肩から腕にかけての桜の花びらの入れ墨を見せるように右片肌を脱いだ11状態の写真が掲載され,盤面右側には,中央ディスプレイを取り囲むように形成された三日月状の飾りの上に縦書きで「遠山の金さん」の文字(「遠山」「金」の文字に比べて「の」「さん」の文字は約半分の大きさ。いずれも桃色及び乳白色のまだら模様)が記載されている(なお,盤面右下隅及びパチンコ機両側には「DAIICHI」との文字が記載ないし刻印されている。)。
なお,大一商会のホームページ(乙14)には,遠山金四郎に扮した俳優橋幸夫の写真が掲載され,中央やや上部に横書きで「遠山の金さん」との文字が記載されている。
2判断上記の認定事実によれば,本件商標及び引用商標は,主としてパチンコ機等において使用されているところ,パチンコ機等の取引者,需要者は,製造業者,遊技場営業者(パチンコホール),販売代理店(代行店),ゲームセンター及び中古品販売業者などのほか,中古品等を売買する個人も含まれることが認められる。また,パチンコ業界では,近年,「版権モノ」又は「タイアップ機種」と呼ばれるパチンコ機の人気が高まり,テレビアニメ,テレビドラマ,映画,漫画等のキャラクターを使用する例が少なくない。そして,パチンコ機等の大部分は,遊技場(パチンコホール)に設置され,遊技者はパチンコ機等を売買することはないが,パチンコ機等に付された商標によりパチンコ機等の出所を認識,識別した上で利用するのが通常であり,また,遊技者の嗜好や人気が遊技場営業者(パチンコホール)や販売代理店(代行店)がどの機種を取扱うかということに大きく影響するから,遊技者の認識等をも考慮して,商標の類否を判断することが合理的である。
以上の取引等の実情を総合考慮するならば,本件商標と引用商標とは,外観,称呼において,その全体を一連に把握すると類似しない点があるものの,歴史上の人物である「遠山金四郎」,及び時代劇等で演じられる「名奉行として知られている遠山金四郎」との観念を生じる点において類似することから,商品の出所につき誤認混同のおそれを生じさせるというべきである。また,本件商標の指定商品である「遊12戯用器具」は,引用商標の指定商品にも含まれており同一である。したがって,本件商標と引用商標とは類似する。
3原告の主張について原告は,「名奉行の遠山金四郎」又は「遠山金四郎」との観念を生じる文字商標が複数の業者に使用されており,引用商標には独創性もないから,本件商標と引用商標との間において誤認混同のおそれは生じないと主張する。しかし,「名奉行の遠山金四郎」又は「遠山金四郎」との観念を生じる文字商標が複数の業者に使用されているとしても,指定商品との関係においては,引用商標が被告の業務に係る商品の出所識別機能が弱いとはいえず,また,出所識別力を有しないともいえない。この点の原告の上記主張は採用できない。
また,原告は,パチンコ機等においては,歴史上の同一人物の氏名・略称等を含む商標が併存する事例があるとも主張する。しかし,パチンコ機等において,歴史上の同一人物の氏名・略称等を含む商標が併存する例があったとしても,そのような事情をもって本件商標と引用商標の類否判断に影響を及ぼすとはいえず,原告の上記主張は採用の限りでない。
さらに,原告は,パチンコ機等の取引における需要者,取引者が,遊技場営業者(パチンコホール)及び販売代理店(代行店)に限られることを前提に,パチンコ機等の取引は特殊であり,行政上の規制等を通じて商品の正確な特定がなされるから,本件商標と引用商標が誤認混同されるおそれはないと主張する。しかし,前記のとおり,パチンコ機等の需要者,取引者には,遊技場営業者(パチンコホール)及び販売代理店(代行店)のみならず,ゲームセンター,中古品販売業者,中古品等を売買する個人及び遊技者も含まれるから,原告の上記主張はその前提において失当であり,採用することができない。
4結論以上によれば,原告主張の取消事由は理由がない。その他,原告は,縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄13却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 中平健
裁判官 知野明