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事件 平成 21年 (ワ) 7821号 特許権侵害行為差止等請求事件

原告 ヤマハ発動機株式会社
同訴訟代理人弁護士 小松陽一郎
同 福田あやこ
同 宇田浩康
同 井ア康孝
同 辻村和彦
同 井口喜久治
同 森本純
同 中村理紗
同 山崎道雄
同 辻淳子
同 藤野睦子
同補佐人弁理士 小谷悦司
同 小谷昌崇
同 樋口次郎
同 大月伸介
同 佐藤興
被告 株式会社アイエイアイ
同訴訟代理人弁護士 椙山敬士
同 大澤恒夫
同 市川穣
同 曽根翼 1
同 片山史英
同訴訟代理人弁理士 牛久健司
同補佐人弁理士 島野美伊智
裁判所 大阪地方裁判所 
判決言渡日 2011/06/23
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 被告は,別紙イ号製品目録記載の各製品を製造し,販売し,若しくは,販 売の申出(販売のための展示を含む。)をしてはならない。
(2) 被告は,前項記載の各製品及びその半完成品(別紙イ号製品目録記載の各 製品の構造を具備しているが製品として完成するに至らないもの)を廃棄せ よ。
(3) 被告は,別紙ロ号製品目録記載の各製品を製造し,販売し,若しくは,販 売の申出(販売のための展示を含む。)をしてはならない。
(4) 被告は,前項記載の各製品及びその半完成品(別紙ロ号製品目録記載の各 製品の構造を具備しているが製品として完成するに至らないもの)を廃棄せ よ。
(5) 被告は,原告に対し,30億円及びこれに対する平成21年6月9日から 支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 訴訟費用は,被告の負担とする。
(7) 仮執行宣言 2 被告 主文と同旨 2
事案の概要
1 前提事実(いずれも当事者間に争いがない。
) (1) 当事者 ア 原告 原告は,輸送用機械器具,一般機械器具,電気機械器具等の製造及び販 売等を目的とする株式会社である。
イ 被告 被告は,電動アクチュエータ・単軸ロボット・直交ロボット・スカラロ ボット・リニアサーボアクチュエータ等の製造販売を目的とする株式会社 である。
(2) 本件特許権1及びイ号製品 ア 本件特許権1 原告は,次の特許権(以下「本件特許権1」といい,その特許を「本件 特許1」,その請求項1に係る発明を「本件発明1」という。また,本件特 )を有してい 許1に係る明細書及び図面を併せて「本件明細書1」という。
る。
登 録 番 号 第3542615号 出 願 日 平成5年2月26日 登 録 日 平成16年4月9日 発 明 の 名 称 複数ロボットの制御装置 特許請求の範囲 別紙「本件発明1の請求項」記載のとおり イ 構成要件の分説 本件発明1を構成要件に分説すると,別紙「本件発明1の構成要件の分 説」記載のとおりとなる。
ウ イ号製品 被告は,別紙イ号製品目録記載1ないし5の各製品(以下,個別に「イ 3 号製品1」などといい,併せて単に「イ号製品」という。)を業として製造 し,販売し,又は販売の申出(販売のための展示も含む。)をしている。
(3) 本件特許権2及びロ号製品 ア 本件特許権2 原告は,次の特許権(以下「本件特許権2」といい,その特許を「本件 特許2」,その請求項1に係る発明を「本件発明2-1」,その請求項2に 係る発明を「本件発明2-2」,両発明を併せて「本件発明2」という。ま た,本件特許2に係る明細書及び図面を併せて「本件明細書2」という。) を有している。
登 録 番 号 第4105586号 出 願 日 平成15年5月14日 登 録 日 平成20年4月4日 発 明 の 名 称 リニアモータ式単軸ロボット 特許請求の範囲 別紙「本件発明2の請求項(訂正前)」記載のとおり イ 構成要件の分説 (ア) 本件発明2-1 本件発明2-1を構成要件に分説すると,別紙「本件発明2の構成要 件の分説(訂正前)」の「本件発明2-1」記載のとおりとなる。
(イ) 本件発明2-2 本件発明2-2を構成要件に分説すると,別紙「本件発明2の構成要 件の分説(訂正前)」の「本件発明2-2」記載のとおりとなる。
ウ ロ号製品 被告は,別紙ロ号製品目録記載1ないし10の各製品(以下,併せて単 に「ロ号製品」という。 を, ) 業として製造し,販売し,及び販売の申出(販 売のための展示も含む。)をしている。
ロ号製品は,本件発明2の構成要件2-Aないし2-D及び2-Fを, 4 いずれも充足する。
(4) 本件発明2に係る訂正審判請求 ア 原告は,平成23年2月10日付けで,特許庁に対し,本件特許2の請 求項1について,別紙「本件発明2の請求項(訂正後)」の【請求項1】記 載のとおり訂正する(以下「本件訂正」という。)訂正審判請求をした(以 下,本件訂正後の請求項1の発明を「本件訂正発明2-1」といい,これ を引用する請求項2の発明と併せて「本件訂正発明2」という。。
) イ 本件訂正発明2-1を構成要件に分説すると,別紙「本件発明2の構成 要件の分説(訂正後)」の「本件訂正発明2-1」記載のとおりとなる(以 下,構成要件2-Bに係る訂正事項を「本件訂正事項1」,構成要件2-E に係る訂正事項を「本件訂正事項2」という。。
)2 原告の請求 原告は,被告に対し,本件特許権1に基づき,イ号製品の製造・販売等の差止め,イ号製品及びその半製品の廃棄を,本件特許権2に基づき,ロ号製品の製造・販売等の差止め,ロ号製品及びその半製品の廃棄を,特許権侵害の不法行為に基づき,損害の一部である30億円(本件特許権1につき29億8800万円,本件特許権2につき1200万円)の賠償及びこれに対する平成21年6月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている。
3 争点(1) 本件特許権1関係 ア イ号製品は,本件発明1の構成要件を充足するか (争点1) イ 本件特許1は,下記無効理由を有しており,特許無効審判により無効と されるべきものか (争点2) (ア) 平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下「旧特許法」と いう。)36条4項(実施可能要件)違反,同条5項1号(サポート要 5 件)違反 (争点2-1) (イ) 旧特許法36条5項2号違反(明細書記載不備) (争点2-2) (2) 本件特許権2関係 ア ロ号製品は,本件発明2の構成要件2-Eを充足するか(争点3) イ 本件特許2は,進歩性欠如の無効理由を有しており,特許無効審判によ り無効にされるべきものか (争点4) ウ 訂正の再抗弁が認められるか (争点5) (ア) 本件訂正は,特許法126条3項の訂正要件(新規事項の追加でない こと)を満たすか (争点5-1) (イ) 本件訂正は,特許法126条5項の訂正要件(独立して特許を受けら れること)を満たすか (争点5-1) (ウ) ロ号製品は,本件訂正発明2の構成要件を充足するか(争点5-3) (3) 原告の損害 (争点6)
争点に関する当事者の主張
1 争点1(イ号製品は,本件発明1の構成要件を充足するか)について (1) 構成要件1-A(複数のロボットを,これらロボットの駆動軸の総数以上 の数のドライバーを有するコントローラにより制御する装置であって) 【原告の主張】 イ号製品は,別紙「イ号製品説明(原告) のとおり, 」 「複数のロボットを, これらロボットの駆動軸の総数以上の数のドライバーを有するコントローラ により制御する装置」であるから,構成要件1-Aを充足する。
ア 構成要件の解釈 (ア) 本件発明1におけるロボットの概念 本件明細書1の段落【0002】(以下, 】内の数字は,明細書の 【 段落番号を示す。)に記載されているように,ロボットには,回転関節 軸を介して複数のアームが連結されたスカラーロボットや,複数のロ 6 ボット軸が直交する直交型ロボットの他,単軸ロボットも含まれ,複数 の駆動軸を備えることは要件ではない。
また,複数の駆動軸を備えることが要件でない以上,各駆動軸の一括 駆動もロボットの要件ではない。
そして,ロボットを構成する要素が駆動軸であることは明らかである から,駆動軸が存在するのであれば,これを構成要素として備えたロ ボットも存在することになる。
(イ) 被告の主張に対する反論(ロボット識別のための符号ないしデータが 必須ではないこと) 「複数のロボットを…ドライバーを有するコントローラにより制御す る装置」との文言からすれば,制御装置に複数のロボットを接続し,そ の状態で各ロボットを制御できれば足り,ロボット識別のための符号な いしデータの存在は必須ではない。
各ドライバーがどのロボットのどの駆動軸を駆動するのかという対 応関係が一旦決まれば,この対応関係を前提にドライバーを選択して駆 動することで,複数のロボットを独立的に駆動することができる。
複数のロボットを制御するには,駆動対象を特定してそれに対応する ドライバーを駆動する機能は必要であっても,各ドライバーにどのロ ボットが接続されているかを識別する符号ないしデータの存在は必須 ではない。
イ 構成要件充足性(ア) ロボットの制御装置 被告は,カタログやホームページにおいて,イ号製品にロボットが接 続できることや,イ号製品がロボットを制御するものであることを示し ている。
そして,本件発明1の技術分野において,単軸型ロボット,直交型ロ 7 ボット,スカラ型ロボットは,ロボットの種類を指す共通の概念として 使用されている。
(イ) 複数ロボットの制御装置 イ号製品の取扱説明書には,イ号製品が複数の駆動軸を制御できるこ とや,イ号製品1に単軸ロボット2台が接続できること(甲3の32頁) , イ号製品3・4が4軸の駆動軸を有するスカラロボット及び2台の単軸 ロボットを制御できること(甲5の8頁)が記載されているから,イ号 製品は複数のロボットを制御する制御装置である。
【被告の主張】ア 構成要件の解釈(ア) 本件発明1におけるロボットの概念 本件発明1の目的の1つは,1つのコントローラで複数のロボット軸 の制御を適切に行うことにあり,それは,本件明細書1に記載された技 術的課題からみて,軸毎に別個に移動を指定するような面倒なことはせ ず,複数のロボットのそれぞれにおいて,それらの駆動軸を一括的に制 御することを前提とするものである。
そのため,実施例における「MOVE1」「MOVE2」のような, , ロボットを単位として,その全ての軸を一括して制御する全軸同時駆動 命令(以下「MOVE命令」という。)が存在し,この命令には,駆動 すべきロボットを指定するデータが含まれる。
したがって,本件発明1におけるロボットとは,そのロボットに属す る全ての駆動軸を,そのロボットを指定するデータを含む移動命令に よって一括的に駆動する,そのような複数の駆動軸を備えた構造体の単 位を表すものといえる。
(イ) 複数のロボットの識別 構成要件1-Aの文言には「複数のロボット」が存在するのであるか 8 ら,それぞれを識別する必要が生じる。そのため,複数のロボットのそ れぞれを識別するための符号ないしデータの存在が必要である。
イ 構成要件充足性 (ア) イ号製品におけるロボットの不存在 別紙「イ号製品説明(被告)」のとおり,イ号製品には,アクチュエー タの軸という概念は必要であるが,本件発明1にいうロボットの概念は 必要ない。したがって,イ号製品には,複数のロボットの概念がないし, 複数のロボットを識別するための符号ないしデータも存在しない。
また,イ号製品には,ロボットの駆動軸の概念もないから,イ号製品 は,「ロボットの駆動軸の総数以上の数のドライバーを有するコント ローラ」ではないし,そのような「コントローラにより制御する装置」 でもない。
(イ) 原告の主張に対する反論(取扱説明書の記載について) イ号製品の取扱説明書に記載されている軸数は,コントローラに接続 できるアクチュエータの軸数に過ぎず,本件発明1の「駆動軸」に対応 しうるにすぎない。
また,取扱説明書において,スカラロボットが制御できると記載され ているのは,イ号製品に含まれないコントローラ(PX,QX)のこと である。
(2) 構成要件1-B(上記各ドライバーと上記複数のロボットの各駆動軸との 対応関係を変更可能に設定する設定手段と) 【原告の主張】 イ号製品は,別紙「イ号製品説明(原告) 」のとおり,「各ドライバーと複 数のロボットの各駆動軸との対応関係を定めるドライバカードパラメータ, 軸パラメータ,エンコーダパラメータ」を有しているから,構成要件1-B を充足する。
9 ア 構成要件の解釈(ア) 「ドライバー」と「複数のロボットの各駆動軸」との対応関係 「上記各ドライバーと上記複数のロボットの各駆動軸との対応関係」 とは,本件明細書1の文言どおり,「各ドライバーと各駆動軸との対応 関係」と読むのが素直である。駆動軸はロボットの構成要素であり,各 駆動軸はロボットに属するのであって, 「上記複数のロボットの」 「各 は, 駆動軸」の修飾語に過ぎない。
「対応関係」とは,実施例を参酌すれば,対応関係を前提とした何ら かのデータを設定することによっても定まるのであり,対応関係を直接 的に表すものが存在する必要はない。したがって,ロボットの特定と, そのロボットにおける駆動軸の特定とは,必須ではない。
(イ) 対応関係の設定 本件発明1における対応関係は,変更可能に設定される(構成要件 1-B)が,本件明細書1には,対応関係が制御装置内に保存される旨 の記載はない。
実施例においても,ドライバーと駆動軸との対応関係を設定する処理 の一例として,軸定義フラッグADF(以下「ADF」という。)が準 備段階で予め作成され,制御装置内(各軸属性記憶部)に記憶されるこ とで,対応関係に応じた制御を行う構成を示しており,対応関係そのも のが直接的に記憶されているわけではなく,ADFの設定が,対応関係 の設定と等価な機能を果たしている。そして,対応関係の変更は,AD Fの分配設定を変更することにより行われる。
(ウ) 設定手段 「設定手段」の例として,実施例では「分配設定手段」が挙げられて いるが,構成要件1-Bではあえて「分配」を落とし,上位概念である 「設定手段」の語を用いている。
10 「設定手段」とは,「上記各ドライバーと上記複数のロボットの各駆 動軸との対応関係を変更可能に設定する」ものであり,そのための処理 として,具体的にどのようなデータを設定するかについては限定してお らず,当業者が出願時の技術常識に基づき変更可能な範囲を全て含む。
イ 構成要件充足性(ア) 「ドライバー」と「複数のロボットの各駆動軸」との対応関係 イ号製品は,ドライバーと駆動軸との関係を変更した場合,ドライ バーに関わるドライバカードパラメータ,駆動軸の位置検出に関わるエ ンコーダパラメータ,駆動軸の設定に関わる軸パラメータ(全軸共通パ ラメータ及び軸別パラメータ)に含まれる各パラメータ(以下「各種パ ラメータ」という。)を設定し直すことにより,ドライバーと駆動軸と の関係に応じて,駆動軸を駆動することができる。
各種パラメータがイ号製品の内部に設定されると,イ号製品は,各ド ライバーを制御し,各ドライバーは,自身に対応付けられた駆動軸を駆 動することができるから,イ号製品では,各種パラメータの設定が,ド ライバーと駆動軸との関係の設定ないしこれと等価な機能を果たして いる。
(イ) 対応関係の変更可能 イ号製品の取扱説明書には,パラメータの変更を行うことや,任意の 軸データを他の軸データに転送できることが記載されており,各種パラ メータを変更することにより,ドライバーと駆動軸との関係を変更でき ることがわかる。
実際,イ号製品は,コントローラに接続するロボットの軸を入れ替え ても,各種パラメータを変更することにより,ロボットが稼働する。
(ウ) 設定手段 パラメータの設定により,ドライバーと駆動軸との関係を設定するこ 11 とができ,また,パラメータを変更することによって,ドライバーと駆 動軸との関係を変更することができる。
具体的には,イ号製品は,ティーチングボックス又はパソコンを接続 するためのコネクタを有しており,このコネクタを含むインターフェー ス部を設定手段として用いることにより,各種パラメータを装置内部に 設定することができる。
【被告の主張】ア 構成要件の解釈(ア) 「ドライバー」と「複数ロボットの各駆動軸」との対応関係 構成要件1-Bの「対応関係」には,ロボットとそれに属する駆動軸 の定義(どの駆動軸がどのロボットに属するか)と,ドライバーと駆動 軸との対応関係の定義(定義されたロボットの駆動軸をどのドライバー が駆動するか)が含まれる。
前者を定義するためには,複数のロボットにおけるロボットの特定が 必要である。原告主張のように,「上記複数のロボットの」という文言 を構成要件から除外して解釈することは,特許法70条1項に違反する ものである。
(イ) 対応関係の設定 対応関係の設定とは,事前に,複数のロボットについて,そのロボッ トに属する駆動軸を定義し,各駆動軸を駆動するドライバーを定義する ことである。
ADFは,必ずしも1つの対応関係を導くものではないから,対応関 係を代替できず,これと等価な機能を果たすものではない。
イ 構成要件充足性(ア) 「ドライバー」と「複数のロボットの各駆動軸」との対応関係 イ号製品は,本件発明1にいう「複数のロボット」の存在を前提とし 12 ないから,ロボットの特定を行うこともなく,ロボットの駆動軸の特定 を行うこともないのであって,「上記各ドライバーと上記複数のロボッ トの各駆動軸との対応関係」は存在しない。
また,イ号製品において,各種パラメータは,どの駆動軸がどのロボッ トに属するのか,どのドライバーがどの駆動軸を駆動するのかという定 義を与えるものではなく,ユーザがコントローラとアクチュエータとの 組合せを決定した後に,それに応じて,アクチュエータが最も適切に駆 動,制御されるように,適切な値が採用されるものである。そして,適 切な値を採用するためには,コントローラとアクチュエータとの組合せ が先に決まっていなければならないから,各種パラメータがドライバー と駆動軸との関係を設定することはない。
(イ) 対応関係の変更可能 別紙「イ号製品説明(被告)」のとおり,イ号製品とアクチュエータ の組合せを採用するのはユーザであり,一旦アクチュエータが決まれば, イ号製品とアクチュエータとの組合せは原則的に固定される。そして, 固定された組合せはユーザの手元に記録され,ユーザは,この組合せに 従って, 「MOVP(ポジション NO.)命令」 (以下「MOVP命令」と いう。)で,軸毎に個別に移動を指定する。
したがって,イ号製品の中に「対応関係を変更可能に設定する設定手 段」は存在しない。原告の指摘するパラメータの転送機能は,特定の軸 についての各軸関連パラメータを,他の軸についての各軸関連パラメー タとして記憶する機能であり,既存の軸の範囲内での転送に過ぎない。
(ウ) 設定手段 上述のとおり,各種パラメータがドライバーと複数のロボットの各駆 動軸との対応関係を定めるものでないから(前記(ア)),イ号製品は本件 構成要件1-Bの「設定手段」を備えていないことは明らかである。
13 コネクタを含むインターフェース部を設定手段として用いることを して,「設定手段」を備えているというのであれば,外部機器と接続可 能なコンピュータ内蔵の機器は,全て「設定手段」を備えていることに なり,原告の主張は不当な拡張である。
(3) 構成要件1-C(上記対応関係の設定に基づいて各ドライバーに対応する 駆動軸の属性を示すデータを書き換え可能に記憶する各軸属性記憶部と) 【原告の主張】 イ号製品は,別紙「イ号製品説明(原告) 」のとおり,「ドライバカードパ ラメータ,軸パラメータ,エンコーダパラメータを書き換え可能に記憶する 記憶部」を有しているから,構成要件1-Cを充足する。
ア 構成要件の解釈 (ア) 駆動軸の属性を示すデータ 「各ドライバーに対応する駆動軸の属性を示すデータ」とは,各ドラ イバーと複数のロボットの各駆動軸との対応関係の設定に基づいて,各 ドライバーに対応する駆動軸の属性を示すデータのことであり,データ が示す属性の種類に限定はない。
また,このデータは,ドライバーと各駆動軸との対応関係(構成要件 1-B)のデータと共用されてもよい。
(イ) 被告の主張に対する反論(構成要件1-Fとの関係) 構成要件1-Fは, 「駆動軸の属性を示すデータ」が,「移動命令入力 手段により入力されたデータ」と照合されることを限定しているに過ぎ ない。したがって,構成要件1-Fを考慮しても,「駆動軸の属性を示 すデータ」が,駆動対象軸が所属するロボットを特定し,かつ駆動対象 に対応するドライバーを特定する機能をもつものであるとする被告の 解釈は,特許請求の範囲の文言を無視して,権利範囲を不当に狭めるも のである。
14 そもそも,本件発明1は,「駆動軸の属性を示すデータ」を有するこ とで,移動命令で駆動対象となっている軸(群)だけを動作させ,それ 以外の軸(群)を動作させないという課題解決に成功したものである。
したがって,「駆動軸の属性を示すデータ」は,ドライバーと駆動軸と の対応関係に応じて設定されるもので,かつ移動命令入力手段により入 力されたデータと照合されるものであれば十分であり,ADFや,駆動 軸が所属するロボットを直接的に特定するものに限られない。
なお,ADFの上位2番目及び3番目のビットは,移動命令内容と照 合されることによって,駆動対象であるか否かを区別する役割を果たす ものであり,ロボットそのものを厳密な意味で特定するものではない。
イ 構成要件充足性(ア) 駆動軸の属性を示すデータ(有効軸パターン) イ号製品の全軸共通パラメータの中には「有効軸パターン」があり, 駆動軸を接続(使用)しない場合に「0」と入力される。このデータは, ドライバーと駆動軸との関係の設定に基づいて書き換えられる,ADF の最上位ビットのデータ(駆動対象なしの欄のデータ)に該当するデー タである。そして,有効軸パターンのデータは,例えばMOVP命令が 入力されたときに,これに付随するポジション NO.に登録されている データと照合される。
したがって,有効軸パターンのデータが「駆動軸の属性を示すデータ」 に該当する。
(イ) ロボットの直接的特定(GRP命令) イ号製品には,指定した軸パターンのポジションデータだけを有効に する「GRP(軸パターン)命令」(以下「GRP命令」という。
)が存 在し,MOVP命令の駆動対象となるロボット軸を直接的に特定できる。
異なるロボットにまたがる軸同士を指定することも可能であるが,ユー 15 ザは,通常,ロボット単位の駆動を行おうとするところ,GRP命令は, 複数の軸をグループ化し,当該グループ毎に制御することによって,こ れを実現するものである。ADFの上位2番目及び3番目のビットとG RP命令は同一の機能を果たすものであり,両者は,予め記憶させてお くか(ADF),移動命令として入力するか(GRP命令)の違いがあ るに過ぎない。
GRP命令の存在により,MOVP命令において,意図しない軸に座 標値を設定した場合でも,GRP命令で特定したロボット以外の軸が不 必要に動いてしまうことがなく(ロボットの誤作動防止),複数軸同時 駆動とされる場合でも,対象ロボットを独立的に駆動させることができ, ロボットの各軸の駆動を個別に指令する必要がないため,移動命令入力 処理が複雑になることがなく(移動命令入力処理の簡略化及び誤入力の 防止),本件発明1と同一の課題解決効果が発揮できる。
したがって,仮に,「駆動軸の属性を示すデータ」の中にロボットを 直接的に特定するデータの存在が必須であったとしても,イ号製品は, これと等価な機能を有している。
(ウ) 記憶部 イ号製品の「記憶部」は,各種パラメータを書き換え可能に記憶すれ ば十分であり,これらを既に記憶していてもよい。
【被告の主張】ア 構成要件の解釈(ア) 駆動軸の属性を示すデータ 「各ドライバーに対応する駆動軸の属性」とは,「各ドライバーに対 応する複数のロボットの駆動軸の属性」との意味であり,「駆動軸の属 性を示すデータ」は,事前にコントローラ内に記憶される,ロボットと それを駆動するドライバーの定義である。原告自身も,出願過程で提出 16 した意見書に,「駆動軸の属性のデータ(駆動軸がどのロボットに属す るか等を示すデータ) 」と記載している。
ADFは,駆動軸の属性を示すデータの実施例であるが,ドライバー 毎に作成され,その上位4ビットが駆動対象となるロボット軸の所属 (どのロボットに所属するか,所属するロボットが無いか等)を示して おり,厳密な意味で,かつ直接的にロボットを特定している。
(イ) 構成要件1-Bとの関係 構成要件1-Cは,構成要件1-Bの「対応関係」を引用して,「上 記対応関係の設定に基づいて」と記載しているから,対応関係の設定が 変更されたときは,当然に駆動軸の属性を示すデータも書き換えられる。
両者が別個の処理であることは文脈から明らかであり,「対応関係」と 「駆動軸の属性を示すデータ」も同じものではない。
(ウ) 構成要件1-Fとの関係 構成要件1-Fにおいて,「駆動軸の属性を示すデータ」(各属性記憶 手段から読み出したデータ)は,移動命令入力手段により入力された データと照合され,駆動対象に対応するドライバーを選定するために用 いられる。そのため,どこかにドライバーを特定するデータが存在しな ければならない。
この点,MOVE命令では,軸選択フラッグASF(以下「ASF」 という。)の下位8ビットが全て「0」とされるので,これに基づいて 駆動対象に対応するドライバーを選定することはできない。そして,A SFと上位4ビットが合致するADFの下位8ビットにドライバーが 指定されているから,これに基づいて駆動対象に対応するドライバーが 選定される。
このように,構成要件1-Fからの論理的帰結として,ADFは,駆 動対象となるロボット軸の所属,すなわちロボットの特定(上位4ビッ 17 ト)とともに,駆動対象に対応するドライバーの特定(下位8ビット) の機能を持つものとなる。この理解は,「駆動軸の属性を示すデータ」 の実施例であるADFについての,本件明細書1の記述と整合する。
したがって,構成要件1-Cの「駆動軸の属性を示すデータ」も,上 記機能を持つものといえる。
イ 構成要件充足性(ア) 有効軸パターンが「駆動軸の属性を示すデータ」でないこと イ号製品は,本件発明1にいうロボットを前提とするものではないか ら,駆動軸がどのロボットに属するかを示すデータを含む「各ドライ バーに対応する駆動軸の属性を示すデータ」を有していない。
有効軸パターンは,イ号製品にアクチュエータを接続(使用)するか どうかを示すものであり,駆動軸がどのロボットに属するものかを示す データではない。
仮に,有効軸パターンが,ADFの最上位ビットのデータ(駆動対象 なしの欄のデータ)に該当するとしても,構成要件1-Fが予定する, 移動命令との照合や,ドライバーの選定は行われない。
(イ) GRP命令がロボットを特定しないこと イ号製品は,本件発明1で解決すべき課題とされている,「アクチュ エータの1軸毎の制御」を基本としており,その上で,複数の軸を任意 に組み合わせて移動命令を与えることができるようになっている。GR P命令も,組み合わせる軸を軸パターンで指定する命令(指定された軸 のポジションデータだけを有効にする命令)であって,ロボットを特定 する命令ではない。
なお,従来技術においても,GRP命令と同様の機能を持つ,各軸を 有効化,無効化する命令(AXON,AXOF命令)は存在した。
(ウ) GRP命令が駆動軸の属性を示すデータに対応するものでないこと 18 イ号製品では,接続するアクチュエータが決まれば,その組合せは原 則的に固定され,各アクチュエータを駆動するドライバーも固定される。
そして,駆動対象に対応するドライバーは,MOVP命令や,GRP命 令とMOVP命令の組合せによって,直接的かつ一義的に定まる。
したがって,GRP命令と,移動命令と照合されて初めてドライバー が決定されるADF(駆動軸の属性を示すデータ)とを対比することは できない。
また,GRP命令は,ユーザがコントローラに入力して記憶されるア プリケーションプログラムの一部であり,事前にコントローラ内に記憶 される「駆動軸の属性を示すデータ」とを対比することはできない。
(エ) 各軸属性記憶部 イ号製品には対応関係の設定がないから,イ号製品は,対応関係に基 づいてデータを書き換え可能に記憶することはなく,「各軸属性記憶部」 を有していない。
(4) 構成要件1-D(上記各ドライバーと上記各駆動軸との対応関係に応じて ドライバーの処理条件を決定する処理条件決定手段と) 【原告の主張】 イ号製品は,別紙「イ号製品説明(原告) 」のとおり,「各ドライバーと各 駆動軸との対応関係に応じてドライバーの処理条件を決定する処理条件決定 手段」を有するから,構成要件1-Dを充足する。
ア 構成要件の解釈 (ア) ドライバーの処理条件 処理条件となるデータは, 「制御パターンを定める条件式等」であり, 条件式だけでなく,これに類するデータも含まれる。
そして,制御パターンは,加速度や最高速度を定めるために使用され るものであるから,処理条件には,ロボット軸(駆動軸)の制御に使用 19 される,速度,加速度,減速度等の数値も含まれる。
(イ) 処理条件の決定 「上記各ドライバーと上記各駆動軸との対応関係に応じてドライバー の処理条件を決定する」とは,複数の対応関係を考慮して複数のドライ バーの処理条件を予め用意しておき,そこから対応関係に応じた適切な 1つの処理条件を読み出して決定することである。これにより,対応関 係が変更された場合でも,変更後の対応関係に適合した適切な処理条件 を自動的に得られる。
そのため,実施例では,ドライバーと駆動軸との1対1の対応関係に 対し,それぞれ1つの処理条件が定められており,複数の対応関係を考 慮して,全ての対応関係に応じたドライバーの処理条件を,処理条件記 憶部に予め記憶させておき,その処理条件のデータの中から,ドライ バーと駆動軸との1対1の対応関係に応じた1つのデータを,自動的に 読み出している。
イ 構成要件充足性(ア) 処理条件の決定 イ号製品は,ポジションデータを記憶する記憶部を有しており,複数 種類のポジションデータを記憶できる。
そのため,複数の対応関係を考慮して,複数のユーザプログラムを作 成しておけば,特定の対応関係に対して作成されたユーザプログラムが 入力されると,当該対応関係に対して作成されたポジションデータが記 憶部から読み出され,当該対応関係に応じてドライバーの処理条件が決 定される。また,対応関係の組合せが変更された場合でも,これに応じ てユーザプログラムを変更すれば,適切な処理条件の決定を,同様に行 うことができる。
つまり,イ号製品では,本件発明1の実施例と同様,複数の対応関係 20 (ドライバーと複数のロボットの駆動軸との対応関係)を考慮して,そ の対応関係の全てについてドライバーの処理条件を用意しておき,対応 関係に応じた適切な一つの処理条件を選定している。
(イ) 処理条件決定手段 イ号製品の処理条件決定手段は「命令解析部」であり,MOVP命令 を入力すれば,命令解析部が,ドライバーと駆動軸との対応関係に応じ た適切な処理条件を決定する。
また,ドライバーと駆動軸との対応関係が変更された場合でも,MO VP命令で指定するポジション NO.を変更しさえすれば,そのポジショ ン NO.に基づき,変更後の対応関係に応じた適切な一つの処理条件が, 命令解析部により自動的に読み出される。
【被告の主張】ア 構成要件の解釈(ア) ドライバーの処理条件 本件明細書1によると,「処理条件」とは「制御パターンを定める条 件式等」であるから,少なくとも,速度,加速度,減速度等の数値では ないと考えられる。
(イ) 処理条件決定手段 「処理条件決定手段」は,当然,自動的に処理条件を決定する手段で ある。
対応関係に応じて処理条件を決定するためには,予め,全ての対応関 係(ドライバーと複数のロボットの駆動軸との対応関係)を考慮して, その対応関係の全てについてドライバーの処理条件を用意し,処理条件 記憶部に記憶しておく必要があり,処理条件記憶部から処理条件を選定 する構成が必要である。
イ 構成要件充足性 21 (ア) 対応関係 イ号製品は,本件発明1にいうロボットを前提としないから,各ドラ イバーと複数のロボットの各駆動軸との対応関係を意味する「各ドライ バーと各駆動軸との対応関係」は存在しない。
(イ) 処理条件 「処理条件」は,処理条件記憶部に記憶された処理条件の中から「上 記各ドライバーと上記各駆動軸との対応関係に応じて」選定するもので あるが,ポジションデータ中の速度,加速度,減速度は,対応関係とは 無関係であるから,「処理条件」には当たらない。
また,「処理条件」は,具体的数値を指すものではないから,速度, 加速度,減速度は,処理条件には当たらない。
(ウ) 処理条件決定手段 イ号製品では,アクチュエータの接続の切り換え毎に,それらのアク チュエータを適切に制御するように,パラメータの書込みを行う必要が あり,アクチュエータ軸とドライバーとの接続は固定的に定まっている。
したがって,イ号製品は,対応関係の変更という前提を有しておらず, 処理条件も全ての対応関係に応じて予め記憶されることはなく,全ての 対応関係に応じたドライバーの処理条件を記憶する処理条件記憶部を 備えていない。
そのため,イ号製品は,処理条件決定手段を有していない。
(エ) 対応関係に応じていないこと イ号製品のユーザプログラムは,イ号製品とアクチュエータとの固定 された組合せを前提に,アクチュエータにユーザの希望する動作を行わ せるためのものであるから,ユーザプログラムに付随するポジション データも,上記組合せを前提に,ユーザ自ら希望するアクチュエータの 動作を記述するものである。したがって,複数の対応関係に応じて,予 22 めいくつものパターンを用意しておくことはない。
また,ポジションデータ中の速度,加速度,減速度は,MOVP命令 等により駆動されるアクチュエータの速度,加速度,減速度を記述した ものであるから,命令ごとに異なる値が記述されることも許容され,1 つのアクチュエータ軸について,複数種類の速度,加速度,減速度が記 述されてよい。すなわち,イ号製品では,同一の対応関係について異なっ た処理条件が定められることもあり,ドライバと駆動軸との1対1の対 応関係に対し,1つの処理条件が定められるものではない。
(5) 構成要件1-E(駆動すべきロボットおよび駆動軸を特定する駆動対象指 定と移動位置を特定する移動位置指定とを含む移動命令を示すデータを入 力する移動命令入力手段と) 【原告の主張】 イ号製品は,別紙「イ号製品説明(原告) 」のとおり,「駆動すべきロボッ トおよび駆動すべき軸を指定する指令と当該指定されたロボットおよび軸の 移動位置を特定する移動位置指定とを含むMOVP命令を入力するための移 動命令入力手段」を有するから,構成要件1-Eを充足する。
ア 構成要件の解釈 「駆動すべきロボットおよび駆動軸を特定する」移動命令としては,制 御装置内にロボットを識別するデータ(ロボット同士を対比した上で駆動 対象を選択するデータ)が入力される必要はなく,ロボットを特定するデー タ(駆動ロボットを特定するデータ)が入力されれば十分である。
イ 構成要件充足性 (ア) 駆動すべきロボットの指定(ロボットを特定するデータ) MOVP命令のポジションデータは,駆動される駆動軸の目標位置 データ(各軸の欄)を含み,この目標位置データの有無により駆動され る駆動軸が特定され,特定された駆動軸の組合せにより,結果としてロ 23 ボットが特定される。
さらに,イ号製品では,GRP命令を入力することで,駆動すべきロ ボットを直接的に特定することができ,GRP命令は,ADFの上位2 番目及び3番目のビットと同一の機能を有している。
そして,上記目標位置データに対応する位置に,当該駆動軸が移動す る。
よって,MOVP命令は,「駆動すべきロボットおよび駆動すべき軸 を指定する指令と当該指定されたロボットおよび軸の移動位置を特定 する移動位置指定とを含む移動命令」である。
(イ) 移動命令入力手段 イ号製品は,ティーチングボックス又はパソコンと接続するためのコ ネクタを有しており,このコネクタを用いてMOVP命令等を入力する ことが可能であるから,ティーチングボックス又はパソコンを,移動命 令入力手段として使用可能である。
【被告の主張】ア 構成要件の解釈(ア) ロボットの識別 本件発明1は複数のロボットを制御する装置であるから,移動命令の 中に,駆動軸を特定する情報に加えて,複数のロボットからロボットを 特定する情報が必要になる。複数のロボットは,ADFの上位4ビット で識別される。
本件明細書1にも,ADFの上位4ビットが,メインロボットとサブ ロボットの識別に関する情報を示していることが記載されている。
(イ) 他の構成要件との関係 本件発明1のMOVE命令は,その命令によって定まるロボットの全 ロボット軸を駆動対象とするものであるが,駆動軸は特定しない。そし 24 て,コントローラに接続される複数のロボットの軸数,組合せ等が変更 された場合には,MOVE命令によって駆動されるロボット軸も変わる。
そのため,本件発明1では,予めドライバーと複数のロボットの各駆 動軸との対応関係を変更可能に設定できるようにしておき(構成要件 1-B),移動命令入力手段により入力されたデータと各属性記憶手段 から読み出したデータとの照合に基づき,移動命令を判別して駆動対象 に対応するドライバーを移動命令判別手段により選定する(構成要件 1-F)ようにしている。
イ 構成要件充足性(ア) 移動命令 イ号製品は,本件発明1にいうロボットを前提としないから,それを 特定するデータは存在しない。MOVP命令のポジション NO.は,各軸 の座標値,速度,加速度,減速度を記述したポジションデータを指定し, ポジションデータ中の座標値は,駆動すべきアクチュエータ軸(駆動軸) を特定するが,駆動すべきロボットは特定しない。MOVP命令は,駆 動対象を軸毎に個別に指定するもので,その点では,本件発明1のDR IVE命令と同じ概念のものである。
また,イ号製品では,駆動すべき軸が指定されれば,それに応じてそ の軸を駆動すべきドライバーが一義的に定まるから,移動命令判別手段 により選定されることが必要な移動命令は存在しない。
(イ) 移動命令入力手段 イ号製品にティーチングボックス又はパソコンは含まれていないか ら,イ号製品は移動命令入力手段を有していない。
(ウ) 原告の主張に対する反論(ロボットの特定) MOVP命令で指定された駆動軸をロボットとして括れば,その結果 としてロボットを指定することになるが,本件発明1は,ロボットの概 25 念を前提として目的的に構想されており,「結果としての指定」という ものはない。
仮に,駆動軸の組合せによりロボットが特定されることになれば,M OVP命令が読み出される毎に,命令実行中の短い間だけ,構成の異な るロボットが次々と出現することになる。
(6) 構成要件1-F(上記移動命令入力手段により入力されたデータと上記各 属性記憶手段から読み出したデータとの照合に基づき,上記移動命令を判別 して駆動対象に対応するドライバーを選定する移動命令判別手段と) 【原告の主張】 」のとおり, イ号製品は,別紙「イ号製品説明(原告) 「移動命令入力手段 により入力されたデータと記憶部から読み出したデータとの照合に基づき, 移動命令を判別して駆動対象に対応するドライバーを選定する移動命令判別 手段」を有しているから,構成要件1-Fを充足する。
ア 構成要件の解釈 (ア) 上記移動命令入力手段により入力されたデータ 「上記移動命令入力手段により入力されたデータ」は,文脈上,移動 命令入力手段により入力された「駆動すべきロボットおよび駆動軸を特 定する駆動対象指定と移動位置を特定する移動位置指定とを含む移動 命令を示すデータ」を意味する。したがって,駆動すべきロボット及び 駆動軸を特定できれば,移動命令の中にドライバーを一義的に特定する データが含まれていても支障はなく,ロボット単位の命令である必要も ない。
実際,実施例のDRIVE命令は,ロボット軸を駆動対象とする個別 駆動の命令である。
(イ) 上記各属性記憶手段から読み出したデータ 「上記各属性記憶手段から読み出したデータ」とは,「上記対応関係 26 の設定に基づいて各ドライバーに対応する駆動軸の属性を示すデータ」 であって,「駆動軸がどのロボットに属するかを示すデータ」に限定さ れない。
ADFの最上位ビットも,前者には該当するが,後者には該当しない。
イ 構成要件充足性(ア) イ号製品との対比 構成要件1-Fとイ号製品とを対比すると,「移動命令入力手段によ り入力されたデータ」にはMOVP命令等の入力が,「記憶部から読み 出したデータ」には記憶部に記憶されている軸属性データが,「移動命 令を判別して」には例えばMOVP命令を判別することが,それぞれ該 当する。
(イ) 駆動対象に対応するドライバーの選定 イ号製品では,MOVP命令のポジションデータ(各軸の座標値デー タの有無)により,駆動軸を特定することでロボットを特定できるし, GRP命令により,駆動対象となるロボットを直接的に特定できる。
また,イ号製品では,記憶部から読み出した有効軸パターンのデータ と,読み出したポジションデータ中の各軸の座標値データの有無とを照 合し,有効軸パターンのデータが「1」で,かつ座標値データのある軸 を,MOVP命令の駆動対象として判別し,判別した駆動対象に対応す るドライバーを選定している。
さらに,イ号製品では,記憶部から読み出した有効軸パターンのデー タと,GRP命令により指定された軸パターンのデータとを照合し,そ の両方で有効に設定されているロボットの駆動軸を,GRP命令及びM OVP命令の駆動対象として判別し,判別したロボットの駆動軸に対応 するドライバーを,駆動すべきドライバーとして選定している。
【被告の主張】 27 ア 構成要件の解釈 本件発明1では,ロボットの軸数,組合せ等が変わったときは,ドライバーと複数のロボットの各駆動軸との対応関係も変更され,同一の移動命令が与えられても,制御されるドライバーが変わる。ところが,MOVE命令からは,ロボットの全軸を駆動するためのドライバーがどれであるのかは分からない。そのため,駆動すべきロボットを特定する「移動命令」と,駆動軸がどのロボットに属するかを示す「駆動軸の属性を示すデータ」の照合により, 「駆動対象」すなわち複数のロボットの中の特定のロボットの特定の駆動軸に対応するドライバーが選定される。
仮に,移動命令の中にドライバー(又はそれに一義的に対応する軸)を一義的に特定するデータが含まれているならば,移動命令を判別して駆動対象に対応するドライバーを選定する必要はない。移動命令によっては駆動対象に対応するドライバーが一義的に定まらないからこそ,移動命令判別手段が必須となるのである。なお,DRIVE命令は従来技術であって,本件発明1の実施例(構成要件1-Eにいう「移動命令」)ではない。
イ 構成要件充足性(ア) イ号製品との対比 MOVP命令は,駆動すべきロボットを特定するデータを含まないか ら,イ号製品には「移動命令入力手段により入力されたデータ」は存在 しない。また,イ号製品は,本件発明1にいうロボットを前提としない から,駆動軸がどのロボットに属するかを示すデータを含む「駆動軸の 属性を示すデータ」は存在せず,「各属性記憶手段から読み出したデー タ」も存在しない。
したがって,イ号製品は,これらのデータを照合することがなく, 「移 動命令を判別して駆動対象に対応するドライバーを選定する移動命令 判別手段」も有していない。
28 (イ) 移動命令判別手段が不要であること イ号製品では,MOVP命令に対応するポジションデータ中には各軸 の座標値が含まれ,この座標値の有無によって駆動すべきアクチュエー タ軸が定まる。そして,アクチュエータ軸が定まれば,それに対応する ドライバーは固定的に決まっているから,駆動対象に対応するドライ バーは一義的に定まる。
したがって,イ号製品では,移動命令を判別して駆動対象に対応する ドライバーを選定する必要がない。
(7) 構成要件1-G(上記移動命令判別手段により選定されたドライバーにつ き,上記処理条件決定手段により決定される処理条件と上記移動命令で指定 される移動位置とに基づいて処理内容を求め,この処理内容に従ってドライ バーを制御する制御手段とを備えた) 【原告の主張】 イ号製品の「処理内容」とは,ドライバーが対応する駆動軸を駆動するた めに処理する内容を意味する。
そして,イ号製品は,別紙「イ号製品説明(原告)」のとおり,移動命令判 別手段により選定された,制御すべきドライバーについて,ポジションデー タの中から特定のポジション NO.を指定することで決定する処理条件と,駆 動対象指定と移動位置指定とを含む移動命令とに基づいて,駆動対象軸に対 応するドライバーの処理内容を求め,この処理内容に従ってドライバーを制 御している。
したがって,イ号製品は, 「移動命令判別手段により選定されたドライバー につき,処理条件決定手段により決定される処理条件と移動命令で指定され る移動位置とに基づいて処理内容を求め,この処理内容に従ってドライバー を制御する制御手段とを備えた」ものであって,構成要件1-Gを充足する。
【被告の主張】 29 構成要件1-F,1-Dで述べたとおり,イ号製品は, 「移動命令判別手段」 も「処理条件決定手段」も備えておらず,これら両手段の存在を前提とする 「制御手段」も備えていない。
イ号製品の制御部は,位置指令生成と位置制御を行うものである。
(8) 構成要件1-H(ことを特徴とする複数ロボットの制御装置) 【原告の主張】 イ号製品は,別紙「イ号製品説明(原告)」のとおり「複数ロボット」を前 提としており,「複数ロボットの制御装置」である。
【被告の主張】 構成要件1-Aで述べたとおり,イ号製品は「複数ロボットの制御装置」 ではない。
2 争点2-1(本件特許1は,旧特許法36条4項[実施可能要件]違反,同 条5項1号[サポート要件]違反の無効理由を有しており,特許無効審判によ り無効とされるべきものか)について 【被告の主張】(1) 実施可能要件違反 構成要件1-B(上記各ドライバーと上記複数のロボットの各駆動軸との 対応関係を変更可能に設定する設定手段と)について,本件明細書1の発明 の詳細な説明には,当業者が容易に実施できる程度に発明の構成が記載され ていない。
ア 設定手段 本件明細書1の図2に示される分配設定手段が,構成要件1-Bの「設 定手段」に対応すると考えられるが,その具体的構成例についての説明は ない。
原告が分配設定手段に係る具体的な機能の説明であるとする記載は,A DFに関する記載であるところ,ADFは「対応関係」と同じものではな 30 い。
イ 対応関係の設定 分配設定手段によって設定されるドライバーとロボット軸との対応関係 も,コンピュータ(コントローラ)による具体的な「設定のための処理」 によって,コンピュータ内のどこかに設定されていなければならない。ま た,対応関係を表す何物か(例えばデータ)が,コンピュータ内のどこか に存在しなければならない。
しかしながら,発明の詳細な説明には,上記「設定のための処理」は記 載されていないし,その処理を表すフローチャートも開示されていない。
また,ドライバーとロボット軸との対応関係を例示すると説明されている 図5について,メモリ内のデータを示すものであるとの説明はない。そし て,ドライバーとロボット軸との対応関係が,コンピュータ(コントロー ラ)内のどこに,どのような形態で設定されているのかについての説明も ない。
ウ 変更可能に設定する設定手段 発明の詳細な説明には, 「変更可能に設定する」のはユーザなのか,設定 手段(分配設定手段)なのか,説明がない。
そして,設定された対応関係が何によって具現化されるのかが不明であ り,そのような対応関係を「変更可能に設定する設定手段」の具体的構成 も不明である。
(2) サポート要件違反 前記(1)のとおり,本件明細書1の発明の詳細な説明には,分配設定手段に 関し,当業者が容易に実施をすることができる程度に発明の構成が記載され ておらず,構成要件1-Bをサポートする記載がない。
【原告の主張】(1) 実施可能要件違反がないこと 31 ア 設定手段 本件明細書1には, 【0017】に,「ドライバーとロボット軸との対応関係の設定手段である分配設定手段41」との記載があり,0018】 【 に,「上記各軸属性記憶部46には,各ドライバーに対応するロボット軸の属性が図3に示すような軸定義フラッグADFとして記憶されており,これによって前記分配設定手段41の機能が果たされるようになっている。と 」の記載があり, 【0019】に,8つのドライバーを有するコントローラにおいて,うち5つのドライバーがメインロボットに属する駆動軸の制御を担い,うち2つのドライバーがサブロボットに属する駆動軸の制御を担うように対応関係が設定された例を挙げて,ADFについての説明が記載されている。
このように,本件明細書1の発明の詳細な説明には, 「設定手段」の一例として分配設定手段が記載され,その具体的な機能について説明されていることから,「設定手段」の具体的構成例が明らかである。
イ 対応関係の設定 本件明細書1【0019】では,ADFについて,下位8ビットが各ドライバー自身を区別し,上位4ビットが駆動軸の所属を示すとされ,その他2ビットが対応関係に応じた処理のためのものとして例示されている。
したがって,ADFのように,各ドライバー自身を区別し,各ドライバーに対する駆動軸の属性を示すビット等を含むデータが設定されることが,各ドライバーと複数ロボットの各駆動軸との対応関係が設定される例として理解される。
ウ 変更可能に設定する設定手段 本件明細書1には, 【0010】に,「上記構成によると,準備段階で上記各ドライバーと上記各駆動軸との対応関係が設定され,コントローラに接続される複数のロボットの軸数,組合せ等に変更があった場合は,この 32 設定において対応関係が調整される。」との記載があり,【0020】に, 「このような軸定義フラッグADFは,準備段階で予め設定され,ドライ バーとロボット軸との対応関係が変更された場合は,それに応じて書き換 えられる。」との記載がある。したがって,各ドライバーと各駆動軸との対 応関係を設定する処理として,準備段階で,例えばADFのような,ドラ イバー自身を区別するビットや各ドライバーに対する駆動軸の属性を示す ビットを含むデータが設定されることがわかる。
ADFの設定とは,ADFが作成されてコントローラ内のメモリ(各軸 「変更可能に」とは,ロボットの 属性記憶部)に書き込まれることであり, 組合せ等に変更があった場合には,それに応じた新たな対応関係に基づく データが作成され,コントローラ内のメモリに書き込まれることで変更で きるという意味である。そして,コントローラ内のメモリにデータを書き 込むこと自体は,ごく一般的な技術であるから,当業者であれば,発明の 詳細な説明の記載から,容易に理解し実施することができる。
(2) サポート要件違反がないこと 前記(1)のとおり,本件明細書1の発明の詳細な説明には,構成要件1-B をサポートする記載がある。
3 争点2-2(本件特許1は,旧特許法36条5項2号違反[明細書記載不備] の無効理由を有しており,特許無効審判により無効とされるべきものか)につ いて(1) 構成要件1-B(上記各ドライバーと上記複数のロボットの各駆動軸との 対応関係を変更可能に設定する設定手段と) 【被告の主張】 前記2で述べたとおり,本件明細書1の発明の詳細な説明からは,構成要 件1-Bに記載の事項を明確に把握することはできない。
【原告の主張】 33 前記2で述べたとおり,構成要件1-Bに記載の事項は明確に把握できる。
(2) 構成要件1-C(上記対応関係の設定に基づいて各ドライバーに対応する 駆動軸の属性を示すデータを書き換え可能に記憶する各軸属性記憶部と) 【被告の主張】 ア 対応関係 前記2で述べたとおり,構成要件1-Bの「対応関係」の実体は不明で あるから, 「上記対応関係の設定に基づいて」を明確に把握することはでき ない。
イ 対応関係に基づく記憶 「上記対応関係の設定に基づいて」がどこにかかるのか理解できない。
仮に, 「データを書き換え可能に記憶する」にかかるとすると,各軸属性 記憶部が主体的にデータを書き換え可能に記憶するという意味になるのか, 記憶部が書き換え可能に記憶するとはどのような意味なのか,不明である。
原告の主張によれば,データが設定される処理と,各軸属性記憶部に当 該データが記憶されることとは,全く別個の処理のようであるが,ADF のようなデータを設定する処理と,当該データを記憶する処理とはどのよ うに異なるのか,ADFのようなデータを設定する処理とは,具体的にど のような処理を意味するのか,本件明細書1には説明されていない。
【原告の主張】 ア 対応関係 前記2で述べたとおり,構成要件1-Bの「対応関係」の実体は,本件 明細書1の記載から明確であるから, 「上記対応関係に基づいて」も,明確 に把握することができる。
イ 対応関係に基づく記憶 「上記対応関係の設定に基づいて」は, 「データを書き換え可能に記憶す る」にかかることが明らかである。
34 実施例では,準備段階で各ドライバーと各駆動軸との対応関係を設定す る処理として,ADFのような,ドライバー自身を区別するビット及び駆 動軸の所属を特定するビットを含むデータ(本件明細書1の【0018】, 【0019】,図3等参照)が設定されており,コントローラによりそのよ うなデータが設定されるという処理が,設定手段としての機能を果たすも のである。
したがって,上記対応関係の設定に基づいて‥‥データを書き換え可能 「 に記憶する」とは,コントローラにより,ADFのようなドライバー自身 を区別するビットや駆動軸の所属を特定するビットを含むデータが設定さ れるという処理に基づき,各軸属性記憶部に当該データが記憶されるとい うことであり,不明な点はない。
(3) 構成要件1-D(上記各ドライバーと上記各駆動軸との対応関係に応じて ドライバーの処理条件を決定する処理条件決定手段と) 【被告の主張】 ア ドライバーの選定 処理条件を選定する処理をするためには,その前提としてドライバーを 選定することが必要である。
したがって,構成要件1-Dは,その構成要件内において,ドライバー の選定が規定されていなければ理解できないが,ドライバーの選定それ自 体は,本件特許1の出願時点において,技術常識であったとも自明であっ たともいえない。そのため,ドライバーの選定に関し何ら規定していない 構成要件1-Dの表現では,本件発明1を明確に把握することはできない。
イ 処理条件決定手段 本件明細書1では,処理条件決定手段が各ドライバーと各駆動軸との対 応関係に応じてドライバーの処理条件を決定するために,分配記号,EX テーブル及び処理条件記憶部が必要とされている。また,分配記号及びE 35 Xテーブルを用いない場合には,それに代わる何らかのリンクデータ(ADFと処理条件記憶部とをリンクするデータ)が必要となる。
しかしながら,構成要件1-Dはこれらに言及していないところ,これらは本件特許1の出願時において技術常識であるとも自明であるともいえないので,特許を受けようとする発明が明確に把握できない。
また,前記2のとおり,構成要件1-Bの「設定手段」はその実体が不明であるから,設定手段によって設定される「上記各ドライバーと上記駆動軸との対応関係に応じて」 どのように , 「ドライバーの処理条件を決定する」のかも不明である。
【原告の主張】ア ドライバーの選定 「ドライバーの処理条件」という文言自体,駆動対象に対応するドライバーの存在を前提としているところ,駆動対象に対応するドライバーの選定については,構成要件1-Fに「移動命令を判別して駆動対象に対応するドライバーを選定する」と規定され,構成要件1-Gに「上記移動命令判別手段により選定されたドライバーにつき,上記処理条件決定手段により決定される処理条件と上記移動命令で指定される移動位置とに基づいて処理内容を求め,この処理内容に従ってドライバーを制御する制御手段」と規定されている。
本件発明1は装置発明であって方法発明ではないから,構成要件を時系列的に記載する必要はないところ,上記各構成要素間の関係及び文言から,構成要件1-Dは,移動命令判別手段により選定されたドライバーの処理条件を決定することが明白である。
イ 処理条件決定手段 処理条件決定手段は,本件発明1の目的との関係では,対応関係に応じた処理条件を読み出すことができさえすればよいのであって,分配記号及 36 びEXテーブルを用いた処理条件の決定方法は,実施例にすぎない。
したがって,構成要件1-Dが,分配記号及びEXテーブルに言及して いないのは,当然である。
(4) 構成要件1-F(上記移動命令入力手段により入力されたデータと上記各 属性記憶手段から読み出したデータとの照合に基づき,上記移動命令を判別 して駆動対象に対応するドライバーを選定する移動命令判別手段と) 【被告の主張】 「上記各属性記憶手段」に「上記」とあるが,それよりも上に「各属性記 憶手段」との文言は存在せず,不明瞭である。
【原告の主張】 「上記各属性記憶手段」は,当然に,構成要件1-Cの「各軸属性記憶部」 を意味する。
このことは,本件明細書1の「上記各軸属性記憶部46には,各ドライバー に対応するロボット軸の属性が図3に示すような軸定義フラッグADFとし て記憶されており,」との記載(【0018】, )「そして,前記移動命令判別手 段44により,上記軸選択フラッグASFと軸定義フラッグADFとの照合 等に基づいて移動命令が判別されるようになっている。」との記載(【002 4】)から明らかである。
4 争点3(ロ号製品は,本件発明2の構成要件2-Eを充足するか)について 【原告の主張】(1) 文言侵害 ロ号製品の構成は,別紙「ロ号製品説明(原告)」のとおりであり,構成要 件2-E(上記可動ブロックには,その一側部に,ロボット本体側に設けら れたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに,このヘッド配置 側とは反対側の側面部に,多数の放熱フィンが形成されている)を充足する。
ア 可動ブロックにおけるヘッドの配置 37 ロ号製品においては,被ガイド部に相当する可動部本体下部の一側部に ヘッドが配置されており,可動ブロックの一側部にヘッドが配置されてい る。
また,上記ヘッドの位置は,コイルハウジング部分の側方近傍部分とい えるから, 「可動ブロック」がコイルハウジング部分のみを意味するとして も,可動ブロックの一側部にヘッドが配置されている。
イ 放熱フィンの形成 ロ号製品は,ヘッド配置側とは反対側の側面部に多数の放熱フィンが形 成されている一方,ヘッド配置側に放熱フィンは存在しない。
なお,ロ号製品における,ヘッド配置側の上部にある板状の突出部分は, 配線を固定するために設けられたもので,放熱フィンではない。
ウ 被告の主張に対する反論 本件発明2とロ号製品とは,剛性の低下や雰囲気温度の変化に基づく放 熱フィンによる悪影響がヘッドに及ぶことを回避する点で,技術思想を共 通にしている。
ロ号製品における,可動部本体上部と可動部本体下部の間に断熱プレー トを介在させ,かつ空間も設ける構成は,本件発明2を前提とした付加的 構成にすぎない。
(2) 均等侵害 ロ号製品は,被ガイド部に相当する可動部本体下部にヘッドが取り付けら れているため,構成要件2-Eを文言侵害していないとしても,均等侵害し ている。
ア 本質的部分でないこと 本件発明2の本質的部分は,ヘッド配置側とは反対側の側面部に多数の 放熱フィンが形成されている構成によって,放熱フィンによる悪影響(剛 性の低下及び放熱量の変動で生じる温度変化)がヘッドに及ぶことを回避 38 する点にある。
したがって,ヘッドの取付位置が,本件発明2では可動ブロック(コイ ルハウジング部分)の一側部であり,ロ号製品では被ガイド部であること は,本件発明2の本質的部分とは無関係である。
イ 置換可能性 ロ号製品では,ヘッド配置側とは反対側の側面部に多数の放熱フィンが 形成されている。
そのため,被ガイド部に相当する可動部本体下部にヘッドが配置された としても,放熱フィンによる悪影響がヘッドに及ぶことを回避するという 本件発明2の目的を達することができ,同一の作用効果を奏する。
ウ 置換容易性 ヘッドの取付位置を,可動ブロック(コイルハウジング部分)の一側部 にするか(本件発明2),被ガイド部にするか(ロ号製品)は,上下の位置 の違いにすぎないし,ヘッドを被ガイド部に配置することについて,特段 の阻害要因もない。
したがって,当業者は,ロ号製品の製造時,両者の相違点を置換するこ とに容易に想到し得た。
エ 容易推考でないこと ロ号製品が,本件特許2出願時の公知技術と同一であるとか,公知技術 から容易に推考できたという事情は存在しない。
オ 意識的除外でないこと 本件特許2の出願手続上,ロ号製品の構成について,本件発明2の技術 的範囲から意識的に除外したなどの事情は存在しない。
【被告の主張】(1) 文言侵害について ア ロ号製品の技術的思想 39 ロ号製品の構成は,別紙「ロ号製品説明(被告)」のとおりであり,その 設計思想は,駆動部のハウジングにヘッドを取り付けると,熱の影響によっ て位置検出精度が低下するおそれが高いことから,リニアガイド部中の被 ガイド部にヘッドを設けた上で,駆動部との間に断熱プレートを介在させ, かつ空間も設けて,発熱する駆動部からリニアガイド部を断熱することに より熱問題を根本的に解決する点にある。したがって,ロ号製品は,同じ 熱問題という課題を解決する上で,本件発明2とは技術的思想が根本的に 異なる。
また,ロ号製品では,ヘッド及びリニアスケールの双方をリニアガイド 部に取り付ける構成を採用することにより,精密な位置検出を可能にする という技術的効果が存在する。
イ 非充足であること ロ号製品における,ヘッド配置側の上部にある板状の突出部分は,一部 において配線を支持する機能を果たしてはいるものの,放熱フィンであり, ロ号製品には,ヘッド配置側にも放熱フィンが存在する。
また,ロ号製品において,ヘッドの熱問題に対処するための構成は,リ ニアガイド部中の被ガイド部にヘッドを設けた上で,駆動部との間に断熱 プレートを介在させ,かつ空間も設けて,発熱する駆動部からリニアガイ ド部を断熱する構成であり,ハウジングにおけるフィンの構成ではない。
(2) 均等侵害について ア 本質的部分であること 本件発明2は,駆動部の構成要素である可動ブロックの一側部にヘッド を取り付けるという,駆動部における熱的影響がヘッドに大きく影響する 構成を前提として,駆動部内で熱問題の解決(ヘッドに対する熱的影響の 緩和)を図っている。そのため,ヘッド配置側とは反対側の側面部に多数 の放熱フィンを形成している。
40 これに対し,ロ号製品は,リニアガイド部中の被ガイド部にヘッドを設 けた上で,駆動部との間に断熱プレートを介在させ,かつ空間も設けて, 発熱する駆動部からリニアガイド部を断熱することにより,熱問題を解決 している。
そして,本件発明2の構成を,ロ号製品のような構成に置き換えれば, 本件発明2の技術的思想とは別個の技術的思想に基づくものになるから, 上記相違部分は本質的部分である。
イ 置換可能でないこと ロ号製品は,駆動部に対して断熱プレート及び空間を挟んで離間した場 所に設けられたリニアガイド部の被ガイド部にMR検出ヘッドを取り付け ており,そもそも駆動部からの熱的影響を大きく受けない構成になってい るから,本件発明2と同一の作用効果を奏しない。
そのため,本件発明2について,ヘッドの取付位置に係る相違点をロ号 製品の構成に置き換えた場合には,特許発明の目的を達することはできず, 同一の作用効果を奏することもできない。
ウ 置換容易でないこと 前記アのとおり,本件発明2とロ号製品とでは,技術的思想が全く異な り,相違部分を置き換えれば別個の技術的思想になってしまうから,置換 容易であったということはできない。
5 争点4(本件特許2は,進歩性欠如の無効理由を有しており,特許無効審判 により無効にされるべきものか)について 【被告の主張】 本件発明2は,各引用例及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をす ることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることが できないものであり,同法123条1項2号により無効とされるべきものであ る。
41 (1) 本件発明2-1に係る無効理由1 ア 引用例1a ないし1c 本件特許2の出願(平成15年5月14日)前の2002年(平成14 年)に頒布された米国法人 Copley Controls Corp.(以下「Copley 社」と いう。)のリニアモータ(Thrust Tube Modules)のカタログ(乙B2の別 紙2。以下「引用例1a」という。 には, ) 永久磁石を軸方向に配列したシャ フト状のステータ部を有するリニアモータの構造が掲載されており,この リニアモータは本件発明2-1のリニアモータ式単軸ロボットに相当する。
また,本件特許2の出願前に頒布され,引用例1a と同じ内容を示すも のとして,2001年(平成13年)に頒布された,英国法人 Linear Drives Limited のリニアモータのカタログ(乙B3。 「引用例1b」 以下 という。, ) 2002年(平成14年)に頒布された,THK株式会社のリニアモータ アクチュエータ,ロッドタイプのカタログ(乙B4。以下「引用例1c」と いう。)がある。
引用例1a ないし1c のリニアモータにはベースがあり,ベースにはハウ ジングが移動可能に取り付けられており,ハウジングの内周部にはコイル が内装されている。
(ア) 頒布時期(特許法29条1項3号前段) 引用例1a,1b には発行年のみが記載されているから,遅くともその 年の末日までには発行されたものと推定され,引用例1a は2002年 (平成14年)の末日に,引用例1b は2001年(平成13年)の末 日に,それぞれ発行されたものと推定される。また,引用例1c には, 「20021013 Printed in Japan」との記載があるから,2002年(平 成14年)10月13日に発行されたものと推定される。
また,引用例1a には,カタログを入手したユーザが,後にウェブサ イト上で閲覧することを考慮した「www.copleymotion.com」の表示が 42 あるところ,ウェブサイトでの閲覧可能時期(後記(イ))からして,本 件特許2の出願前に頒布された刊行物であることがわかる。
さらに,Copley 社のウェブサイトに掲載の,引用例1a に係るM25 タイプとM38タイプの各モジュール据付け寸法図(乙B2の別紙3, 4。以下「各寸法図」という。)には,いずれも「Issue(20.01.03)」と の記載があり,2003年(平成15年)1月20日に発行されたもの と推定される。
(イ) 利用可能性(特許法29条1項3号後段) 引用例1a は,本件特許2の出願前の2002年(平成14年)9月 には,copley 社のウェブサイト上に公開されていて,閲覧可能な状態に あった。
「DR00001」「DR00002」の名称でPDFファイ また,各寸法図も, , ル化され,本件特許2の出願前の2002年(平成14年)2月には, copley 社のウェブサイト上に公開されていて閲覧可能であった。
さらに,各寸法図の以前のバージョンに係る, 「DR0001」「DR0002」 , という名称のPDFファイルも,2002年(平成14年)10月17 日又は同年11月21日には閲覧可能であった。
(ウ) 構成要件2-A,2-B,2-G1 原告は,引用例1a に,構成要件2-A,2-B,2-G1に相当す る構成が開示されていることを認めている。
(エ) 構成要件2-C(上記可動部材には,ステータ部を囲繞するコイルを 装備して,上記リニアガイドに摺動可能に支持された可動ブロックと, この可動ブロックに連結された作業部材取付用のテーブルとが設けら れているリニアモータ式単軸ロボットであって) 引用例1a ないし1c と構成要件2-Cとを対比すると,コイルは「ス テータ部を囲繞するコイル」に相当し,ハウジングは「上記リニアガイ 43 ドに摺動可能に支持された可動ブロック」に相当する。
さらに,ハウジングの上端部は,「Mounting Surface」と記されてお り,テーブルそのものとして使用されるか,テーブルが取り付けられて 各種機器が搭載される。したがって,「この可動ブロックに連結された 作業部材取付用のテーブル」に相当する構成は,引用例1a ないし1c に実質的に記載されている。
(オ) 構成要件2-E(上記可動ブロックには,その一側部に,ロボット本 体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるととも に,このヘッド配置側とは反対側の側面部に,多数の放熱フィンが形成 されている) 引用例1a ないし1c と構成要件2-Eとを対比すると,ベース側に はエンコーダスケールが設置され,ハウジングの一側部の下端部には, エンコーダスケールに対応してエンコーダが取り付けられているが, 「エンコーダスケール」と「エンコーダ」は,「ロボット本体側に設け られたスケール」と,それを読み取るための「ヘッド」に相当する。ま た,エンコーダ取付側とは反対側の側面部には,多数のフィンが設置さ れているが,これらの「フィン」は,「ヘッド配置側とは反対側の側面 部に形成された多数の放熱フィン」に相当する。
なお,本件明細書2の図2(横断面図)は,縦方向のどこの横断面図 かが不明であり,図2の記載のみからは,ヘッド設置側の側面部におけ る,放熱フィンの有無や数を特定することはできない。また,片側フィ ンであっても両側フィンであっても,ハウジングの左右で温度差は認め られず,ヘッドへの熱による影響に変わりはない。
しかも,引用例1a ないし1c は,エンコーダ配置側とは反対側の側 面部には多数のフィンが設けられているが,エンコーダ配置側の側面部 については,ケーブルカバーが存在するため,大きく制限された領域内 44 でのみフィンが設けられた構成になっている(通常,ケーブルカバーは 放熱フィンを削り取った個所に取り付けられる。。
) イ 引用例2(乙B5) 原告は,特開2001-169529号公報(以下「引用例2」という。) に,構成要件2-Dの構造が開示されていることを認めている。
そして,引用例2には,引用例1a ないし1c に適用可能な,磁界発生機 構の発生した熱が搬送や実装などの作業を行う部位に伝達されることを低 減するという課題と,それを実現するための構成が開示されている。
なお,引用例2における移動体21の作業用保持部材25は,構成要件 2-Cにおける「この可動ブロックに連結された作業部材取り付け用の テーブル」に相当するから,引用例2には,構成要件2-Cに対応する構 成についても開示されている。
ウ 結論 引用例1a ないし1c は本件発明2-1と技術分野を同じくし,上記構成 要件の組合せにも特別の技術的意義を見出すことはできないから,本件発 明2-1は,公知技術の単なる寄せ集めにすぎず,引用例1a ないし1c 及び引用例2に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。
(2) 本件発明2-1に係る無効理由2 ア 引用例3(乙B1の9) 原告は,本件発明2-1の出願前に既に知られていた,特開2000- 078827号公報(以下「引用例3」という。 に, ) 構成要件2-A,2- B,2-C,2-G1の構造が開示されていることを認めている。
イ 引用例2 前記(1)イのとおり,原告は,引用例2に構成要件2-Dの構造が開示さ れていることを認めている。
ウ 引用例4(乙B1の5) 45 (ア) 多数の放熱フィンの設置 特開平11-206099号公報(以下「引用例4」という。)は, N極の磁極とS極の磁極が交互に並ぶシャフト形状の界磁マグネット と,この界磁マグネットを貫通するリング状のコイルからなる電機子コ イルとを含むシャフト型リニアモータを開示している。また,引用例4 には,この種のリニアモータでは,動作制御(位置検出,速度検出,位 置制御,速度制御等)のためにエンコーダ(通常はリニアエンコーダ) が採用されること,リニアエンコーダが磁気式と光学式に大別されるこ と,電機子コイルへの通電により熱が発生することも記載されている。
そして,引用例4は,@ 電機子コイル及び界磁マグネットのうち少 なくとも一方の電機子コイルからの発熱に起因する蓄熱を抑制するタ イプのシャフト型リニアモータ(以下「タイプ@」という。,A 電機 ) 子コイルに搭載されるエンコーダセンサへの熱の影響を抑制するタイ プのシャフト型リニアモータ(以下「タイプA」という。)を開示して いる。
タイプ@については,放熱用部材として放熱用フィンを備えているも のが例示され,図4,図6等に多数の放熱用フィンが描かれている。ま た,タイプAは,スケール情報を読み取るエンコーダセンサが,電機子 コイルからの熱伝達を抑制する部材を介して電機子コイルに搭載され ているものであり,図24等に示されている。そして,タイプ@,Aの 構造は,適宜組み合わせて採用することができると記載され,図34に おいて,図4の構造が採用されている例が示されている。
(イ) ヘッド配置側とは反対側の側面部における,ヘッド配置側より多数の 放熱フィンの設置 引用例4には,磁気センサ32配置側とは反対側において,さらに放 熱用フィンS1fが余計に設けられた構成が開示されており,ヘッド配 46 置側の側面部においては放熱フィンが存在しないか,形成される放熱 フィンが多数ではないという構成が記載されている。
エ 放熱フィンの設置位置が設計事項であること 以下のとおり,ヘッドと放熱フィンを可動ブロックのどちら側に設けるかは,必要に応じて適宜選択する設計的事項にすぎない。
(ア) 引用例5(乙B6の1) 特開2002-112525号公報(以下「引用例5」という。)は, 可動子と固定子とからなるリニアモータ,及びこのリニアモータを用い た電子部品供給装置を開示している。
引用例5の図3には,可動子48を有するスライドブロック23の一 側部にスケール34を読み取る光センサ36(構成要件2-Eにおける ヘッドに相当)を,この光センサ配置側とは反対側の側面部に多数の放 熱フィン71を,それぞれ形成することが教示されている。
しかも,引用例5には,光センサ36の配置側とは反対側の側面部に のみ多数の放熱フィン71が設けられた構成が開示されている。
(イ) 審査官の認識 引用例5の出願経過において,通知された拒絶理由には, 「リニアモー タの可動子にフィンを設けることは周知であり,どの位置に設けるかは 適用対象に応じて適宜決定する設計的事項にすぎない。」との,審査官 による判断が示されている(乙B6の2)。
(ウ) 引用例1a ないし1c 引用例1a ないし1c にも,リニアモータにおいて,ハウジングの一 側部に,ベース(ロボット本体)に設けられたエンコーダスケールを読 み取るためのエンコーダ(ヘッド)が配置され,このヘッド配置側とは 反対側のハウジングの側面に,多数の放熱フィンが形成されている構造 が示されている。
47 オ 動機付け 引用例5は,本件発明2-1と同様,リニアモータを使用したロボット に関するものであり,技術分野の関連性がある。また,引用例5は,本件 発明2-1と同様,リニアモータの発熱源からの熱的影響を緩和させるこ とを課題としており,課題の共通性もある。さらに,作用効果を見ても, 引用例5では,可動子48を挟んでリニアエンコーダ35を構成する光セ ンサ36の反対側に配置された放熱フィン71により放熱効果が発揮され ており,作用・機能の共通性もある。
したがって,引用例5は,本件発明2-1の動機付けになり得る。
カ 結論 以上のように,構成要件2-Eは単なる設計的事項ないし周知事項であ り,本件発明2-1の目的・作用効果は引用例2に記載されており,構成 要件の組合せにも特別の技術的意義を見出すことはできない。
したがって,本件発明2-1は,公知技術の単なる寄せ集めにすぎず, 各引用例に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。
(3) 本件発明2-2に係る無効理由 ア 引用例2(乙B5) 引用例2のリニアモータ方式を用いた移動体システムにおいて,作業用 保持部材25及びスペーサ31又は断熱シート200は,一括にボルト3 0(締結部材)により支持部材29に結合されている。
そして,ボルト30と作業用保持部材25との間には,ワッシャが介装 されている。
イ 周知技術 本件特許2に係る拒絶理由通知書に引用された特開2000-3355 00号公報(乙B1の12。 「刊行物4」 以下 という。 には, ) 断熱ワッシャ 4が示されている。なお,刊行物4には,高温と低温の差が非常に大きい 48 過酷な環境に晒される宇宙飛行体への使用に限定されるものではない旨の 記載があるから,本件発明2-2の動機付けになり得る。
また,上記拒絶理由通知書に引用された特開2003-025419号 公報(乙B1の10。以下「刊行物2」という。)にも,「前記可動部19 には,前記金型保持部材17が断熱シート24を介在させた状態でボルト 孔25aを通したボルト25により,断熱ワッシャー26を介在させて固 定されている。」と記載され,図1において,ボルト25と金型保持部材1 7との間に断熱ワッシャー26を介在させた構成が明記されている。
このように,断熱構造を実現するために, ボルトを用いた締結に断熱ワッ シャーを用いることは,周知である。
ウ 結論 以上のとおりであるから,断熱ワッシャーを介装することにより,可動 ブロック(引用例2の支持部材29)からテーブル(引用例2の作業用保 持部材25)への熱の伝達を抑制する効果がより一層高められることは, 当然に予想され得ることである。
したがって,構成要件2-F(上記テーブル及び断熱プレートが一括に 締結部材により上記可動ブロックに連結され,その締結部材と上記テーブ ルとの間に断熱材からなる断熱ワッシャーが介装されている)の構成を有 する本件発明2-2も,引用例2及び周知技術から,当業者が容易に想到 し得たものである。
【原告の主張】(1) 本件発明2-1に係る無効理由1について ア 引用例1a ないし1c(乙B2の別紙2,乙B3,4) (ア) 利用可能性 本件発明2の出願(平成15年5月14日)当時,引用例1a(特に, 各寸法図)がウェブサイトで閲覧可能であったかは不明である。
49 被告が指摘するPDFファイルのうち,「DR0001」「DR0002」は, , 現時点では Copley 社のウェブサイト上で閲覧できず,その内容は不明 であるし,閲覧できる「DR00001」「DR00002」は,上記各ファイル , とはファイル名が異なるから,両者が同一であるともいえない。
(イ) 引用例1a ないし1c で開示されている構成 引用例1a ないし1c に,構成要件2-A,2-B,2-G1に相当 する構成が開示されていることは認めるが,構成要件2-C,2-Eに 相当する構成は開示されておらず,これを示唆する記述もない。
(ウ) 構成要件2-C(上記可動部材には,ステータ部を囲繞するコイルを 装備して,上記リニアガイドに摺動可能に支持された可動ブロックと, この可動ブロックに連結された作業部材取付用のテーブルとが設けら れているリニアモータ式単軸ロボットであって) 引用例1a には,作業部材取付用テーブルも,当該テーブルが可動ブ ロックに連結されていることも,記載されていない。
また,可動ブロックの上部には,センサ,カメラ,ロボット等,テー ブルを介さずに取り付けるケースも多く,作業部材取付用テーブルを設 ける構成が,当時一般的であったということもできない。
なお,各部位の名称や機能が書き込まれていない,簡単な図面である 引用例1b,1c に,「リニアガイドに摺動可能に支持された可動ブロッ ク」が開示されているといえるかも疑問である。
(エ) 構成要件2-E(上記可動ブロックには,その一側部に,ロボット本 体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるととも に,このヘッド配置側とは反対側の側面部に,多数の放熱フィンが形成 されている) 引用例1a ないし1c には,エンコーダ(ヘッドに相当)と多数の放 熱フィンとの相対的な位置関係について,開示も示唆もない。
50 また,構成要件2-Eは,ヘッドを一側部に配置し,多数の放熱フィ ンをヘッド配置側とは反対側の側面部にのみ配置することを規定して おり,ヘッド側にも多数の放熱フィンが存在することを許容するもので はない。本件明細書2の図2も,代表的な横断面図であることは明らか であり,素直に読めば,「左側のみに多数のフィンが存在する」と理解 されるはずである。ところが,引用例1a の可動ブロックには,ヘッド (エンコーダ)側の側面部においても,4つの放熱フィンが形成されて いる。しかも,この放熱フィンは,可動部下端部の近くにまで配置され ており,構成要件2-Eによって実現されるべき作用効果(特に,ヘッ ドの検出精度に対する悪影響を避ける点)は全く実現されない。そして, ケーブルカバー内の構成については,具体的な開示がされていない。
なお,各部位の名称や機能が書き込まれていない,簡単な図面である 引用例1b,1c に,「可動ブロックには,その一側部に,ロボット本体 側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置される」構成が開 示されているといえるかも疑問である。
イ 引用例2(乙B5)(ア) 引用例2で開示されている構成 構成要件2-Dの構造が,引用例2に開示されていることは認める。
(イ) 阻害要因 引用例2の課題の1つは,コイルから発生した熱のレール軌道への伝 熱を防止し,レール軌道の熱変形に基づく位置決め精度の低下を抑制す ることであり,そのため,支持部材(可動ブロックに相当)から断熱さ れた作業用保持部材(テーブルに相当)でリニアガイドに摺接している。
これに対し,引用例1a ないし1c では,可動ブロックでリニアガイド に摺接しており,コイルで発生した熱のレール軌道への伝熱を防止する ことができない。
51 したがって,引用例1a ないし1c に引用例2を組み合わせても,引 用例2の課題全てを解決することができないため,組合せには阻害要因 が存在する。
(2) 本件発明2-1に係る無効理由2について ア 引用例3(乙B1の9) 構成要件2-A,2-B,2-C,2-G1の構造が,引用例3に開示 されていることは認める。
イ 引用例2(乙B5) 構成要件2-Dの構造が,引用例2に開示されていることは認める。
ウ 引用例4(乙B1の5) タイプ@については,図4と図6には,可動ブロックの一側部に設けら れたスケールを読み取るためのヘッドが記載されておらず,ヘッド配置側 とは反対側の側面部に多数の放熱フィンが形成されている構成について開 示がない。
タイプAについては,図24には,可動ブロックの側面部に多数の放熱 フィンが形成されている構成は開示されておらず,ヘッドと放熱フィンと の位置関係について示唆もない。
タイプ@,Aの組合せについても,図34で採用されている図4の構造 は,コイルの周囲に均等に放熱フィンが設けられているものであって,ヘッ ド配置側とは反対側の側面部にのみ多数の放熱フィンが形成されている構 成は開示されていない。また,可動ブロックにヘッドを設けることと,可 動ブロックに放熱フィンを形成することを組み合わせることは開示されて いても,ヘッドと多数の放熱フィンとの相対的な位置関係については,開 示も示唆もない。
エ 引用例5(乙B6の1) 引用例5は,一方側にのみセンサと放熱フィンが配置されたものであり, 52 発熱源を中心に左右両側を有効に活用して,ヘッドと放熱フィンを適宜配 置した本件発明2-1とは,技術的思想を異にする。
また,引用例5では,たまたま放熱フィンとセンサが離間配置されただ けであり,熱的影響を配慮してレイアウトを工夫することに関する開示は ない。そして,本件発明2-1のように可動ブロックの左右両側を有効に 活用して,単純かつコンパクトに放熱性能とヘッドによる検出性能の両方 を効果的に担保するための技術的思想に関する開示も示唆もないから,引 用例5が本件発明2-1の動機付けとなることはない。
引用例5に係る審査官の指摘は,請求項において,放熱フィンの位置に ついてほとんど特定がされておらず,リニアモータの可動子にフィンを設 けるという周知技術以上の内容が実質的に含まれていないという当然のも のに過ぎない。
また,引用例5において, 「スライドベース12」は,本件発明2-1の 「作業部材取付用のテーブル」に相当するものであるから, 「放熱フィン7 1」は,可動ブロックに形成された放熱フィンではなく,可動ブロックの 一方の側部に多数の放熱フィンが形成された本件発明2-1の動機付けと なり得ることはない。
オ 放熱フィンの設置位置が設計事項でないこと 本件発明2-1は,放熱フィンは左右対称に設けるという技術常識を 破って左右非対称の構成をとることにより,ヘッドへの悪影響を避けると いう効果を最大限生かすように試みたものであり,これを単なる設計事項 ということはできない。
実際,引用例1a ないし1c や引用例4も,全て左右対称の構成をとって いる。
(3) 本件発明2-2に係る無効理由について 本件発明2-2は,刊行物4に記載された, 「低温または高温環境に曝され 53 る前において基体に強固に結合する必要のあるラジエイタパネルが,低温ま たは高温環境に曝されると収縮または膨張するように構成する必要のある場 合」に該当しない。
また,刊行物2は,ブロー成形機の型増締装置に関するものであって,本 件発明2-2とは技術分野が全く異なるから,これを本件発明2-2に適用 することはできない。
そして,本件発明2-2の課題である,コイルから発生した熱が可動ブロッ クやテーブルを通じて作業部材に及ぶことを防止する点は,刊行物2,4に 開示されていない。
6 争点5-1(本件訂正は,特許法126条3項の訂正要件[新規事項の追加 に該当しないこと]を満たすか)について 【原告の主張】 次のとおり,本件訂正は,願書に添付した図面に記載した事項の範囲内の訂 正である。
(1) 本件訂正事項1 本件訂正事項1は,新たに, 「軸方向に延びるベース部」と「ベース部の両 側部から上方に突出してロボット本体の側壁部を構成する一対のカバー部 材」を加え, 「ステータ部」の位置及び構造を「一対のカバー部材間において 上記一軸方向に延び」に, 「リニアガイド」の位置を「ベース部上」に,それ ぞれ限定するものである。
そして,上記構成は,本件明細書2の図面及び【0014】【0015】 , に記載されている。
(2) 本件訂正事項2 本件訂正事項2は,ヘッドの配置位置を「カバー部材との間」に限定し, ヘッド配置側の側面部においては,放熱フィンが存在しないか,形成される 放熱フィンが多数でないことを,より明確にしたものである。
54 そして,上記構成は,本件明細書2の図2(横断面図)に記載されている。
【被告の主張】 本件訂正事項2のうち「ヘッド配置側とは反対側の側面部にのみ多数の放熱 フィンが形成されている」としたことは,願書に添付した図面に記載した事項 の範囲内の訂正ではない。
本件明細書2の図2は,単なる一断面図である上,どこの断面かも不明であっ て,少なくとも断面の手前側の構成は特定できず,ヘッド配置側にも多数の放 熱フィンが形成されている可能性がある。また,本件明細書2の放熱フィンに 「また, 関する記載は, 上記可動ブロック15の側面部には多数の放熱フィン3 0が形成されている。
」だけであり(【0022】,この記載は「のみ」という ) 文言を追加する根拠にならない。
7 争点5-2(本件訂正は,特許法126条5項の訂正要件[独立して特許を 受けられること]を満たすか)について 【原告の主張】(1) 本件訂正事項1 本件訂正事項1で加えられた「カバー部材」 引用例1a ないし1c, は, 2, 4,5には開示されていない。
(2) 本件訂正事項2 ア ヘッドの配置位置 本件訂正事項2に係る,ヘッド配置位置を「カバー部材との間」に限定 した構成は,各引用例に開示されていない。
イ 放熱フィン 本件訂正事項2に係る,ヘッド配置側の側面部においては,放熱フィン が存在しないか,形成される放熱フィンが多数ではないという構成は,各 引用例において,開示も示唆もされていない。
(3) 進歩性 55 本件訂正発明2では,閉鎖的な空間内を可動ブロックが移動するため,該 空間内に熱がこもりやすく,放熱フィンの放熱量の変動による雰囲気温度の 変化がより大きくなる。そのため,ヘッド配置側とは反対側の側面部にのみ 多数の放熱フィンを形成することにより,該空間への放熱を抑制し,雰囲気 温度の変化がヘッドの検出精度に悪影響を及ぼすことを回避した。
このように,本件訂正発明2は, 「ヘッド配置側とは反対側の側面部にのみ 多数の放熱フィンが形成する」ことの技術的意義・作用効果が,より一層明 確になったものであり,進歩性を有する。
【被告の主張】(1) 本件訂正事項1 ベース部を設けることは極めて当然のことであるし,ベース部の両側部か ら上方に突出してロボット本体の側壁部を構成する一対のカバー部材を設け ることも,この種のリニアモータ式単軸ロボットにおいては,粉塵等の侵入 防止等を目的にごく普通に行われている技術である。
したがって,本件訂正事項1の内容は,いずれも単なる設計事項である。
(2) 本件訂正事項2 ア ヘッドの配置位置 ヘッドは可動ブロックに取り付けられる必要があり,可動ブロックはカ バー部材の内側に設けられているのであるから,ヘッドは必然的にカバー 部材との間に設けられることになる。
したがって,カバー部材との間にヘッドを設ける点も,この種のリニア モータ式単軸ロボットにおいてはごく普通に行われる技術であって,単な る設計事項である。
イ 放熱フィン ヘッド配置側とは反対側にのみ多数の放熱フィンを設置した構成と実質 的に同一の構成は,引用例1a に開示されている。この点は,本件特許2 56 に係る無効審判の審決においても認められている。
作用効果についても,雰囲気温度の変化やヘッドの温度変化は,フィン の有無で何ら影響を受けない。
8 争点5-3(ロ号製品は,本件訂正発明2の構成要件を充足するか)につい て 【原告の主張】 ロ号製品は,以下のとおり本件訂正後の構成要件訂正2-B,訂正2-Eを 充足し,他の構成要件は変更されていないから,結局,本件訂正発明2の構成 要件を全て充足する。
(1) 構成要件訂正2-B ア ロ号製品のベースR3は,一軸方向に延びる横長枠状に形成されており, 「一軸方向に延びるベース部」に相当する。
イ ロ号製品における一対の側方カバーR4は,ベースR3の両側部から上 方に突出して,アクチュエータ本体R1の側壁部を構成しており, 「ベース 部の両側部から上方に突出して該ロボット本体の側壁部を構成する一対の カバー部材」に相当する。
ウ ロ号製品では,一対の側方カバーR4間において,一軸方向に延び,永 久磁石を軸方向に配列したマグネットシャフトR10が配置されており, 「これらの一対のカバー部材間において上記一軸方向に延び,永久磁石を 当該軸方向に配列したシャフト状のステータ部」に相当する。
エ ロ号製品のリニアガイドは,ベースR3上であってマグネットシャフト R10と平行に配置されており,上記ベース部上であって上記ステータ部 「 と平行に配置されたリニアガイド」に相当する。
(2) 構成要件訂正2-E ア ロ号製品では,可動部本体R15の一側部下端であり,かつ一方の側方 カバーR4の間に,スケールR14を読み取るためのヘッドR21が設け 57 られており, 「上記可動ブロックには,その一側部であって,上記カバー部 材との間に,ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッド が配置される」に相当する。
イ ロ号製品では,ヘッドR21配置側とは反対側の側面部に,多数の放熱 フィンR30が形成されている一方,ヘッドR21配置側の側面部には, 多数の放熱フィンは形成されておらず,ヘッド配置側とは反対側の側面部 「 にのみ多数の放熱フィンが形成されている」に相当する。
【被告の主張】 否認する。
9 争点6(原告の損害)について 【原告の主張】(1) 本件特許権1に係る損害額 ア 販売期間 被告は,本件特許権1が登録された平成16年4月9日から現在まで, イ号製品を製造・販売している。
イ 販売価格 イ号製品1ないし4の各販売価格は39万円以上であり,イ号製品5の 販売価格は9万円以上である。
ウ 販売台数 イ号製品の販売台数は,本件特許権1の登録後,本件訴訟提起までの5 年間で,少なくとも,イ号製品1ないし4が合計2万1000台(年間4 200台),イ号製品5が7万5000台(年間1万5000台)である。
エ 利益率 イ号製品に係る被告の利益率は,販売価格の少なくとも20%である。
損害額 本件特許権1に係る原告の損害額は,以下のとおり,少なくとも29億 58 8800万円となる(特許法102条2項) 。
(イ号製品1ないし4) 39万円×2万1000台×0.2=16億3800万円 (イ号製品5) 9万円×7万5000台×0.2=13億5000万円 (2) 本件特許権2に係る損害額 ア 販売期間 被告は,本件特許権2が登録された平成20年4月4日から現在まで, ロ号製品を製造・販売している。
イ 販売価格 ロ号製品の販売価格は,いずれも20万円以上である。
ウ 販売台数 ロ号製品の販売台数は,本件特許権2の登録後,本件訴訟提起までの1 年間で,少なくとも合計300台である。
エ 利益率 ロ号製品に係る被告の利益率は,販売価格の少なくとも20%である。
損害額 本件特許権2に係る原告の損害額は,以下のとおり,少なくとも120 0万円となる(特許法102条2項)。
20万円×300台×0.2=1200万円 【被告の主張】 否認する。
当裁判所の判断
1 本件発明1の内容 (1) 明細書の記載 本件明細書1には次のような記載がある。
59 ア 産業上の利用分野 【0001】本発明は,1つのコントローラで複数のロボットを制御する装置に関するものである。
イ 発明が解決しようとする課題 【0004】従来のこの種のロボット制御装置においては,1つのロボットに対して1つのコントローラが設けられているが,コントローラのドライバーが1つのロボットに対して余分にある場合に,このコントローラで別のロボットも制御し,つまり1つのコントローラで複数のロボットを制御すれば,制御系統の合理化等の面で好ましい。しかし,このようにしようとする場合に,各ロボットの制御,入力処理等の点で次のような課題が残されていた。
【0005】コントローラで1つのロボットを制御する場合であれば,例えば移動命令でPTP(ポイントツーポイント)による移動位置が指定されると,その移動位置(例えばP1)に応じてコントローラ内でP1=(P1a,P1b,P1c,P1d,P1e,P1f)というように6軸分の移動量が求められ,それに応じた各ドライバーの制御が一括的に行われる。ところが,制御対象を変更して例えば4軸のメインロボットと付加軸やサブロボットをこのようなコントローラで制御しようとすると,メインロボットの制御動作に付随して不必要に付加軸やサブロボットが動いてしまうことがある。このような事態を避けるには,移動命令入力の際に,メインロボットの各軸毎に個別に移動を指定すればよいが,これでは入力処理が面倒になるとともに,誤入力を生じ易くなる。
【0006】また,コントローラの各ドライバーと複数のロボットの各ロボット軸との対応関係を固定的に設定しておくだけでは汎用性に乏しく,制御する複数のロボットの軸数,組合せ等が種々変わった場合にも汎用することができるようにすることが望ましいが,ドライバーと各ロボット軸 60 との対応関係の調整,処理内容の調整等が難しい。
【0007】本発明は,上記の事情に鑑み,1つのコントローラで複数 のロボット軸の制御を適切に行うことができ,かつ,ロボットの軸数,組 合せ等が種々変わった場合の汎用性に富む複数ロボットの制御装置を提供 することを目的とする。
ウ 作用 【0010】上記構成(判決注:本件発明1の構成)によると,準備段 階で上記各ドライバーと上記各駆動軸との対応関係が設定され,コント ローラに接続される複数のロボットの軸数,組合せ等に変更があった場合 は,この設定において対応関係が調整される。そして,上記移動命令が入 力されると,駆動対象として指定されたロボットの駆動軸に対応するドラ イバーとその処理内容が上記対応関係から求められ,移動命令に適合した 制御が行われる。
エ 発明の効果 【0045】本発明の制御装置は,‥‥1つのコントローラで複数のロ ボットを任意に制御することができる。とくに,移動命令に応じて駆動す べきロボット軸に対応するドライバーの選定,制御を正しく行うことがで き,また,コントローラに接続される複数のロボットの軸数,組合せ等が 変わった場合にも,それに応じた調整が上記対応関係の設定によって行わ れることにより,適切な制御を行うことができる。また,とくに,移動命 令入力等の操作を簡単にしつつ,複数のロボットの制御を適切に行うこと ができる。
(2) 目的 ア ロボット単位での制御 前記(1)の記載からすれば,本件発明1は,1つのコントローラで,複数 のロボットを制御する場合に,複数のロボット軸の制御を適切に行うこと 61 を目的としていると認められる。
そして,このような場合,ロボットの各軸毎に個別に移動を指定するの では,入力処理が面倒になるとともに,誤入力を生じ易くなるので,準備 段階で各ドライバーと各駆動軸との対応関係を設定しておくことで,移動 命令において,駆動対象としてロボットを指定しさえすれば,指定された ロボットの駆動軸に対応するドライバーとその処理内容が,対応関係から 自動的に求められ,移動命令に適合した制御が行われるようにしたもので ある。
イ 変更前後を通じた自動制御 また,前記(1)の記載からすれば,本件発明1は,1つのコントローラで, 複数のロボットを制御する場合に,ロボットの軸数,組合せ等が変わった 場合にも,適切な制御を行うことを目的としていると認められる。
そして,このような場合,ドライバーと各ロボット軸との対応関係の調 整,処理内容の調整等が難しいので,準備段階で各ドライバーと各駆動軸 との対応関係を設定しておくことで,コントローラに接続される複数のロ ボットの軸数,組合せ等に変更があった場合にも,対応関係の設定によっ て,これに応じた調整が自動的に行われるようにしておき,移動命令が入 力されると,駆動対象として指定されたロボットの駆動軸に対応するドラ イバーとその処理内容が対応関係から求められ,移動命令に適合した制御 が行われるようにしたものである。
(3) 発明の内容 ア 準備段階 前記(1)ウのとおり,本件発明1では,準備段階で各ドライバーと各駆動 軸との対応関係が設定され,コントローラに接続される複数のロボットの 軸数,組合せ等に変更があった場合は,この設定において対応関係が調整 される。
62 したがって,事前準備として,各ドライバーと複数のロボットの各駆動 軸との対応関係を変更可能に設定しておくこと(構成要件1-B) 対応関 , 係の設定に基づいて各ドライバーに対応する駆動軸の属性を示すデータを 書き換え可能に記憶しておくこと(構成要件1-C) ドライバーと各駆動 , 軸との対応関係に応じてドライバーの処理条件を用意しておくこと(構成 要件1-D)が必要となる。
イ 制御段階 前記アの事前準備の下,駆動すべきロボットおよび駆動軸を特定する駆 動対象指定と移動位置を特定する移動位置指定とを含む移動命令を示す データが入力されると(構成要件1-E) 入力されたデータと各軸属性記 , 憶手段から読み出したデータとの照合に基づき,移動命令を判別して駆動 対象に対応するドライバーが選定され(構成要件1-F) 選定されたドラ , イバーにつき,処理条件が決定され(構成要件1-D),この処理条件と移 動命令で指定された移動位置とに基づいて処理内容が求められ,この処理 内容に従ってドライバーが制御される(構成要件1-G)。
2 イ号製品の内容 イ号製品の内容について,原告は,別紙イ号製品説明(原告)のとおりであると主張し,被告は,別紙イ号製品説明(被告)のとおりであると主張するところ,当事者間に争いのない事実,証拠(甲3〜6,28,乙A2,3,13,16,20,21)及び弁論の全趣旨によると,次のとおり認めることができる(なお,この項にいう「イ号製品」とは,イ号製品1・2のことである。。
)(1) 図面の説明 下記第1図ないし第7図は,イ号製品説明(被告)の第1図ないし第7図 と同じ。
第1図 ユーザによるイ号製品の使用の態様の一例 第2図 イ号製品の機能ブロック図(イ号製品を実線で示す)。
63 第3図 制御部及びドライバの機能ブロック図 第4図 ポジションデータの例 第5図 ポジションデータにより表される速度パターンの例を示すグラフ 第6図 命令解析部の処理手順のうち全体的な処理を示すフローチャート 第7図 MOVP命令の処理ルーチンを示すフローチャート(2) 使用態様 イ号製品は,軸を最大4軸まで組み合わせて接続することができる。第1 図は,イ号製品に4つの軸を接続した使用態様を示すものである。
イ号製品は4つのモータコネクタ(M1,M2,M3,M4)及び4つの エンコーダコネクタ(PG1,PG2,PG3,PG4)を有し,これらは それぞれ対をなす。
対するアクチュエータには,3つの直動型軸と1つの回転型軸が用意され ている。3つの直動型軸は,互いに直交するように組み合されている。これ らを便宜上,X軸,Y軸,Z軸とする。Z軸の先端部に回転型軸が設けられ ている。これを便宜上,R軸とする。X軸,Y軸,Z軸及びR軸は,それぞ れ,モータと,モータの回転角度位置を検出するパルスジェネレータ(エン コーダ)とを備えている。
ユーザは自らの意思で,イ号製品のモータコネクタとエンコーダコネクタ のどの対にどの軸を接続するかを決める。第1図に示す使用例では,モータ コネクタM1とエンコーダコネクタPG1との対に,X軸(第1軸)のモー タとパルスジェネレータが接続される。同様に,コネクタM2とPG2の対 にY軸(第2軸)のモータとパルスジェネレータが,コネクタM3とPG3 の対にZ軸(第3軸)のモータとパルスジェネレータが,コネクタM4とP G4の対にR軸(第4軸)のモータとパルスジェネレータが,それぞれ接続 される。上記接続を考慮して,後述するユーザプログラムが作成される。
(3) 構成 64 イ号製品は,その電気的構成からいうと,CPU(中央処理装置),その周辺機器,記憶装置,ハードウェア回路等から構成される。CPUを制御するためのプログラムには,大きく分けると,システムプログラムとユーザプログラム(アプリケーションプログラム)がある。イ号製品を,そのシステムプログラムに従う動作(機能)の観点から描いたのが,第2図である。
イ号製品は,機能的には,記憶部,命令解析部,制御部及びドライバ1ないし4を備えている。
記憶部は,各種パラメータ,ポジションデータを記憶することができる。
ユーザプログラムは,軸を動かすためにユーザが作成するもので,SEL言語(Shimizu kiden Ecology Language)を用いて記述される。SEL言語による命令の一覧が,イ号製品の取扱説明書(甲3)76頁以降に掲載されている。SEL言語によって記述されたユーザプログラムは,記憶部に記憶される。SEL言語による命令の中に,ポジションデータを伴うMOVP命令その他の命令がある。このポジションデータ等も記憶部に記憶される。
ドライバ1ないし4は,制御部からの位置指令に応じて軸を駆動するものであり,上述したモータコネクタM1ないしM4はドライバ1ないし4の出力側に,エンコーダコネクタPG1ないしPG4はドライバ1ないし4の入力側に,それぞれ接続される。
ユーザは,ユーザプログラム及びポジションデータを入力するときに,X-SELパソコン対応ソフトを搭載したパーソナルコンピュータ(PC)又はX-SELティーチングボックスを用いる。
第3図は,制御部とドライバの機能ブロックを示すものである。位置指令生成部と位置制御部は制御部に属する。ドライバには速度制御部,電流制御部及び電力変換回路(駆動回路)が含まれ,電力変換回路によってモータMが駆動される。パルスジェネレータPGからの位置信号は,位置制御部,速度制御部,電流制御部に,それぞれフィードバックして与えられる。図示は 65 省略されているが,モータMに流れる電流が検出され,電力変換回路にフィー ドバックされる。
(4) MOVP命令 SEL言語による命令の1つにMOVP命令がある。MOVP命令は, 「ポ ジション NO.によって指定されるポジションデータに従って,所定の軸をポ イント・トゥ・ポイント(PTP)移動させよ」という命令である。駆動す べき軸の目標位置(座標値),目標位置まで移動するときの速度,加速度,減 速度が,ポジションデータ中に記述される。ポジションデータの一例が第4 図に示されている。座標値が記述されている軸が駆動対象である。速度,加 速度,減速度のデータは,駆動される全ての軸に共通である。
命令MOVP35によりポジション NO.35が指定されたとすると,この 命令は, 0.3Gの加速度,0.3Gの減速度(Gは重力の加速度)100mm/s の速度で, , 第1軸を 250mm の位置まで, 第2軸を 200mm の位置まで, 移動することを命ずるものである(PTP移動)。
この速度パターンが第5図に描かれている。加速度,減速度,速度の意味 は,この図に示すとおりである。
(5) 制御動作の一例 第6図及び第7図は,命令解析部の処理の手順の概要を示すものである。
第6図は全体的な処理手順を示している。記憶部に格納されているユーザ プログラム内の命令が一命令ずつ読み出され,命令ごとにその命令に従う処 理が行われる。
命令を一命令ずつ読み出すためにステップカウンタに1がセットされ(S 11)ステップカウンタによって指定されるステップの命令が読み出される , (S12) 命令の種類毎に, 。 その命令を実行する処理ルーチンが設けられて 66 おり,読み出した命令に対応する処理ルーチンが実行される(S13)。
処理ルーチンの実行が終了すると,ステップカウンタがインクレメント(逐次累積) (S15) 命令の読出しとその命令に従う処理の実行 され , (S12,S13)が,プログラムが終了するまで(S14) (例えば,EXIT命令によりプログラムは終了する。)繰り返される。
第6図のS13において,読み出した命令がMOVP命令の場合には,第7図に示すMOVP命令に従う処理ルーチンが実行される。
MOVP命令にはポジション NO.が付随しているので,そのポジション ,記憶部に記憶されているポジションデータ中から該NO.を取得し(S20)当するポジション NO.のポジションデータを読み出す(S21)。そして,読み出したポジションデータ中の1軸ないし4軸に座標値データがあるかどうかがチェックされる。
また,命令解析部は,ポジションデータと共に,パラメータの1つである有効軸パターン(各軸の有効,無効を定める。)を記憶部から読み出し,有効軸パターンのデータと,ポジションデータ中の各軸欄の座標値データを照合し(S22,S28等),有効軸パターンのデータが「1」で,かつ座標値データのある軸について,移動制御のための演算を行う。
PTP移動は,該当する軸について,第5図に示すような速度パターンの制御を行うものである。この台形の面積が移動距離(座標値)を表しているので,読み出したポジションデータ中の座標値,速度,加速度,減速度を,この速度パターンにあてはめて,加速区間,定常速度区間,減速区間等を演算して,その演算結果を制御部に渡す(S23,S29等)。
制御部の位置指令生成部は,渡されたデータに基づいて短い時間間隔ごとに位置指令を生成する。この位置指令に基づいて,サーボ制御(位置制御,速度制御,電流制御,電力変換)が行われる結果,有効軸パターンやポジションデータによって指定された軸が,指定された座標値(目標位置)まで,ド 67 ライバによって駆動,制御されることになる。
なお,ユーザは,MOVP命令と共に,GRP命令を入力することができ る。GRP命令は,指定した軸パターンのポジションデータだけを有効にす る命令である。GRP命令及びMOVP命令が入力されると,記憶部から読 み出した有効軸パターンのデータ,GRP命令により指定された軸パターン のデータが照合され,さらに,MOVP命令により指定されたポジション NO.における座標値データが照合され,有効軸パターンのデータと軸パター ンのデータの両方で有効に設定され,かつ座標値データのある軸が駆動対象 とされる。
3 争点1(イ号製品は,本件発明1の構成要件を充足するか)について(1) 構成要件1-B(上記各ドライバーと上記複数のロボットの各駆動軸との 対応関係を変更可能に設定する設定手段と) 原告は,イ号製品における各種パラメータが, 「対応関係を変更可能に設定 する」ものであると主張するので,以下検討する。
ア 「対応関係を変更可能に設定する」もの(本件発明1) 本件明細書1の実施例では,ドライバーとロボット軸との対応関係を変 更可能に設定するものとして,ADFが挙げられている。ADFは,予め 記憶されている対応関係を示すデータ(ドライバーとロボット軸との組合 せ毎のデータ)であり, 当該組合せに応じたデータを設定することにより, 各ドライバーについて,どの軸を動かすか,あるいは動かさないかを振り 分ける(分配する)ものである。コントローラに接続される複数のロボッ トの軸数,組合せ等に変更があった場合でも,ユーザがADFの書き換え を行うことで,当該組合せに応じた適切な処理が行われることになる。
もっとも,構成要件1-Bでは,ADFを前提とする「分配設定手段」 ではなく「設定手段」との文言が使用されており,設定の対象となるデー タは, 「分配」すなわち「どのドライバーがどのロボット軸を動かすか」を 68 示すデータには限定されているわけではないと考えられる。
イ 各種パラメータ(イ号製品) イ号製品において,軸の付け替えが可能であり,どのドライバーがどの軸を動かすかを変更できること自体は,被告も争っていない。
もっとも,単に軸を付け替えることができるというだけでは,イ号製品において,軸を適切にコントロールすることができるとはいえない。イ号製品には,軸を適切にコントロールするためのデータとして,各種パラメータが設定されているところ(甲6の98頁には「出荷時,各軸関連パラメータは,軸 No.ごとに,接続されるロボットの品種に合わせた値が設定されています。」との記載がある。,各種パラメータは,駆動対象となる軸に応 )じて適切な値が変わるため(例えば,甲3の339頁によれば,軸別パラメータのうち軸動作種別パラメータの値は,駆動対象となる軸が,直線移動軸の場合と回転移動軸の場合とで異なる。,これらのパラメータの数値 )を適切なものに変更して初めて,駆動対象となった軸を適切にコントロールすることができる。
ウ 構成要件充足性 そこで,構成要件1-Bの「対応関係を変更可能に設定する」ものとは,ADFのような,駆動対象とドライバーの対応関係(どのドライバーがどのロボット軸を動かすか)そのものを示すデータだけでなく,各種パラメータのような,駆動対象とドライバーの対応関係が変更になった場合でも,軸が駆動可能となるよう設定する,対応関係の変更に付随するデータまで含むのかを検討する。
前記1(2)イのとおり,本件発明1の目的の1つは,準備段階で各ドライバーと各駆動軸との対応関係を設定しておくことで,コントローラに接続される複数のロボットの軸数,組合せ等に変更があった場合にも,対応関係の設定によって,これに応じた調整が自動的に行われ,これにより適切 69 な制御が行われるようにすることである(変更前後を通じた自動制御) そ 。
して,本件明細書1において, 「対応関係」は,ドライバーとその処理内容 を導くものとされている(前記1(1)ウ)。
そうすると,構成要件1-Bにおいて設定されるべきデータは,実際に 軸の付け替えが行われ,どのドライバーがどのロボット軸を動かすかの対 応関係が変更になった場合に,そのデータを設定することにより,変更後 の軸に対応するドライバーや,変更後の軸に係る処理内容が判明し,これ に応じた調整が自動的に行われるためのデータということになる。
ところが,前記イのとおり,イ号製品における各種パラメータは,軸の 付け替えがあった場合に,その数値(データ)から,変更後の軸に対応す るドライバーや,変更後の軸に係る処理内容が導かれるようなものではな い。各種パラメータの設定は,軸に対応するドライバーが決まっているこ とを前提に,当該軸について適切な制御をするために行う,基本情報の設 定である。
したがって,変更可能な各種パラメータの設定をもって, 「対応関係を変 更可能に設定する」ものということはできず,イ号製品は,構成要件1- Bを充足するとはいえない。
(2) 構成要件1-D(上記各ドライバーと上記各駆動軸との対応関係に応じて ドライバーの処理条件を決定する処理条件決定手段と) 原告は,イ号製品において,MOVP命令の中に含まれている速度,加速 度,減速度の情報が「処理条件」に該当し,命令解析部が「処理条件決定手 段」に該当すると主張するので,以下検討する。
ア ドライバーの処理条件(本件発明1) 本件発明1では,ドライバーの処理条件は,処理条件決定手段が自動的 に決定する。そして,自動的に決定されるためには,処理条件決定手段が 処理条件を一義的に決定できる方法を定めておく必要がある。
70 この点,本件発明1では,処理条件決定のための基準を,各ドライバーと各駆動軸との対応関係に求めている(前記1(3)ア)。ドライバーと駆動軸との対応が固定されていれば,駆動軸毎に処理条件を決めることも可能であるが,本件発明1は,ロボットの組み替えが行われることを前提としており,駆動軸毎に処理条件を決めておくだけでは,様々な駆動軸を動かす可能性があるドライバーに対する命令の内容を決定できないため,ドライバーと駆動軸との対応関係を基準として決めているのである。
したがって,ドライバーと駆動軸との対応関係毎に1つに決まらないものは,本件発明1の予定する,処理条件決定手段による自動的な決定が可能な処理条件ではないことになる。
イ MOVP命令(イ号製品) MOVP命令の内容は前記2(4)のとおりであり,ユーザが,MOVP命令と共にポジション NO.を入力すると,当該ポジション NO.に規定されているポジションデータが記憶部から読み出され,その内容に沿った軸の移動が行われる。そして,ポジションデータ中には,ポジション NO.毎に,各軸欄と,速度,加速度,減速度の欄が存在しており,各軸欄に数値が入っている軸は,当該ポジション NO.に規定されている速度,加速度,減速度に沿った動きになるように制御され,指定された位置に移動する。
このように,速度,加速度,減速度は,ユーザが,MOVP命令において,所望の速度,加速度,減速度が規定されているポジション NO.を入力することによって,個別に指定するものである。そのため,同じ駆動軸を,様々な速度,加速度,減速度で制御することも可能である。また,ユーザは,駆動軸の動きのみを考慮して,速度,加速度,減速度を指定すればよく,どのドライバーがどの駆動軸に対応しているかを考慮する必要はない。
そして,MOVP命令は,命令を実行するために必要な要素について,全てユーザが決定を済ませているものであり,命令自体が一義的なもので 71 ある。
ウ 構成要件充足性 前記イのとおり,MOVP命令における速度,加速度,減速度は,必ずしもドライバーと駆動軸との対応関係に応じて1つに決まるものではない。
また,MOVP命令は,駆動軸及び移動位置の指定のみならず,その場合の速度,加速度,減速度まで全て指定した,一義的な命令であるから,命令解析部は,与えられた命令のデータを読み出し,命令を忠実に実行しているに過ぎず,そこには,情報処理としての,何らかの決定行為(複数の選択肢の中から1つを選択すること)は存在しない。
したがって,速度,加速度,減速度の情報が,ドライバーの「処理条件」のひとつに該当するとしても,ユーザプログラムにおける命令の1つであり,ユーザが作成するMOVP命令の中に含まれ,ユーザによって既に指定されている速度,加速度,減速度の情報は,処理条件決定手段によって決定されるとはいえないし,処理条件について何らの決定行為を行っていない命令解析部をして「処理条件決定手段」ということもできないから,イ号製品は構成要件1-Dを充足するとはいえない。
エ なお,原告は,イ号製品は,ポジションデータを記憶する記憶部を有しており,複数の対応関係を考慮して,複数のユーザプログラムを作成しておけば,ユーザプログラムが入力されると,当該対応関係に対して作成されたポジションデータが記憶部から読み出され,当該対応関係に応じてドライバーの処理条件が決定されるので,処理条件の決定を行っていると主張する。
しかし,このような場合であっても,処理条件は,ドライバーと駆動軸との対応関係毎に1つに決まっているわけではないし,ポジションデータとセットで記憶されている速度,加速度,減速度について,命令解析部によって,何らかの決定行為がされているともいえないから,このような処 72 理をもって,処理決定手段により,ドライバーと駆動軸との対応関係に応 じて,自動的に決定を行っているということはできない。
(3) 構成要件1-F(上記移動命令入力手段により入力されたデータと上記各 属性記憶手段から読み出したデータとの照合に基づき,上記移動命令を判別 して駆動対象に対応するドライバーを選定する移動命令判別手段と) 原告は,イ号製品は, 「移動命令入力手段により入力されたデータと各属性 記憶手段から読み出したデータとの照合に基づき,移動命令を判別して駆動 対象に対応するドライバーを選定する移動命令判別手段」を有していると主 張するので,以下検討する。
ア 本件発明1に係る従来技術 本件明細書1には, 【0003】に,従来の技術についての説明として, 「各ロボット軸の駆動を制御するコントローラは,‥‥各ロボット軸の モータをドライバーで駆動するようになっている。さらにコントローラは, 移動位置の指定等を含む移動命令を入力する入力部,上記移動命令に応じ てドライバーを制御する制御部等を備えている。」との記載があり, 【00 05】に, 「コントローラで1つのロボットを制御する場合であれば,例え ば移動命令でPTP(ポイントツーポイント)による移動位置が指定され ると,その移動位置(例えばP1)に応じてコントローラ内でP1=(P 1a,P1b,P1c,P1d,P1e,P1f)というように6軸分の 移動量が求められ,それに応じた各ドライバーの制御が一括的に行われ る。」との記載がある。
上記記載からは,従来の技術におけるコントローラが,移動位置の指定 等を含む移動命令を入力する入力部(移動命令入力手段)や,その移動命 令に応じてドライバーを制御する制御部(制御手段)等を有していること はわかるものの,移動命令判別手段を有しているかは不明である。しかし ながら,1つのコントローラで1つのロボットを制御する従来技術におい 73 ては,移動命令に応じた各ドライバーの制御が一括的に行われていたのであるから,そもそも,移動命令判別手段は必要がなかったと考えられる。
イ 移動命令判別手段(本件発明1) 本件発明1は,1つのコントローラで複数のロボットを任意に制御する制御装置であり,移動命令に応じて駆動すべきロボット軸に対応するドライバーの選定,制御を正しく行うことが必要となる(【0045】。ところ )が,ロボット単位での制御を目的とする本件発明1においては,MOVE命令だけではドライバーを選定することができない。そのため,駆動対象に対応するドライバーを選定する役割を果たすものとして,移動命令を判別してドライバーを選定する移動命令判別手段が必要となる。
なお,原告は,実施例のDRIVE命令を挙げて,移動命令は,その中にドライバーを一義的に特定するデータが含まれていても支障はなく,ロボット単位の命令である必要もないと主張するが,DRIVE命令は,ロボットの1つの軸を駆動対象とする個別駆動を意味するものであり,ロボット単位での制御を目的とする本件発明1が予定する移動命令ではない。
ウ 構成要件充足性 イ号製品において,軸を移動させる命令はMOVP命令であるが,既に述べたとおり,MOVP命令は,駆動対象となる軸の動きを個別に指定する命令である(前記2(4))。確かに,GRP命令を利用すれば,MOVP命令において駆動対象となる軸のうち,特定の軸を選んでグループとして捉えることができ,その場合,本件発明1のMOVE命令と同様の結果を生じさせることも可能ではある。しかしながら,そのような場合であっても,GRP命令だけで軸を駆動させることはできないのであって,軸の移動のためには,MOVP命令を伴う必要がある。したがって,GRP命令を利用する場合であっても,MOVP命令による,軸毎の個別指定自体は存在することになる。
74 そして,イ号製品において,駆動対象となる軸の選択は,それを動かす ドライバーの選択そのものであるから(前記2(3)のとおり,イ号製品のド ライバーは駆動軸と1対1で接続されている。,MOVP命令などの移動 ) 命令を判別して駆動対象が決定されれば,それに対応するドライバーは一 義的に特定されるのであり,ドライバーを選定する必要がない。そして, そのための,移動命令入力手段により入力したデータと,駆動軸属性記憶 手段から読み出したデータの照合の必要もない。
原告が,イ号製品について,ドライバーの選定が行われていると主張し ている現象は,ドライバーの指定を含まない移動命令を受けて行われる, 移動命令判別手段によるドライバーの選定行為ではなく,ドライバーの指 定を含む移動命令の忠実な実行に過ぎない。
したがって,イ号製品は,構成要件1-Fを充足するとはいえない。
(4) まとめ 以上によると,その余の点を判断するまでもなく,イ号製品は,本件発明 1の技術的範囲に属するとは認められない。
4 争点4(本件特許2は,進歩性欠如の無効理由を有しており,特許無効審判により無効にされるべきものか)について 事案にかんがみ,争点3(ロ号製品は,本件発明2の構成要件2-Eを充足するか)に先立って,争点4について検討する。
(1) 本件発明2-1について ア 引用例1a (ア) カタログ図面(乙B2の別紙2) Copley 社のウェブサイト上には,2002年(平成14年)に作成さ れたと認められる同社のリニアモータのカタログが公開されており,M 25タイプ及びM38タイプの各スラストチューブモジュールが,斜視 図(一部は断面図),各横断面図,各側面図と共に開示されている(乙 75 B2)。
(斜視図)(M25 横断面図:なお,各部の名称は,引用例1a には記載されていない。
) そして,上記カタログに係る PDF ファイルは,本件特許2の出願(平 成15年5月14日)前である,2002年(平成14年)9月17日 に作成されたと認められ(乙B16),そのころ閲覧可能になったと考え られる。
(イ) 各寸法図(乙B2の別紙3,4) 76 Copley 社のウェブサイト上では,平成21年11月10日時点におい て , Thrusttube M25 Module(DR00001) 」 「 Thrusttube M38 「 , Module(DR00002)」という名称の各ファイルにより,各寸法図が開示さ れていた(本判決には上記各寸法図のうちM25タイプのものを,別紙 M25寸法図として添付)。そして,各寸法図には,前記(ア)のカタログ のものとほぼ同一の横断面図,側面図のほか,各部の名称が記された斜 視図が掲載されているところ,「Issue (20.01.03)」との記載があり,2 003年(平成15年)1月20日に発行されたことが窺われる。また, 上記各ファイルは,各寸法図の発行日の翌日であり,本件特許2の出願 (平成15年5月14日)前である,2003年(平成15年)1月2 1日に作成されたものと認められ(乙B16) そのころ閲覧可能になっ , たと考えられる。
さらに,Copley 社のウェブサイト上では,遅くとも,本件特許2の出 願前である2003年(平成15年)2月15日時点において,「M25 Module Dimensions/DR0001」「M38 Module Dimensions/DR0002」 , という名称の,各ファイルが閲覧できたことが認められる(乙B16)。
そして,現在は,上記各ファイルの内容を閲覧することはできないもの の,乙B19によれば,上記ウェブサイト上では,各寸法図の以前のバー ジョンが開示されており,両バージョンの図面の違いは些末なものであ ると認められる。
(ウ) 開示内容 引用例1a に,構成要件2-A(ロボット本体と,該ロボット本体に 対して一定方向に直線的に移動可能な可動部材とを備え),2-B(上 記ロボット本体には,永久磁石を軸方向に配列したシャフト状のステー タ部と,このステータ部と平行に配置されたリニアガイドとが設けら れ),2-G(ことを特徴とするリニアモータ式単軸ロボット)に相当 77 する構成が開示されていることは,当事者間に争いがない。
また,前記(ア),(イ)からすると,引用例1a 及びその詳細な図面であ る各寸法図には,ステータ部を囲繞するコイル(Fully Enclosed Coils) を装備して,リニアガイドに摺動可能に支持され,その上面が設置面 (Mounting Surface)であるスラストブロック(Thrust Block)が,開 示され,上記スラストブロックには,その一側部に,本体に設けられた スケール(Enclosed Encoder Scale)を読み取るリニアエンコーダ (Linear Encoder)が設けられるとともに,その両側面部に多数の冷却 フィン(Integral Heatsink Fins)が設けられていると認められる。
(エ) 引用発明1 したがって,本件特許2出願当時,引用例1a によって,次の発明(以 下「引用発明1」という。)が,電気通信回線を通じて公衆に利用可能 となっていたと認められる。
「ロボット本体と,該ロボット本体に対して一定方向に直線的に移動可 能な可動部材とを備え, 上記ロボット本体には,永久磁石を軸方向に配列したシャフト状のス テータ部と,このステータ部と平行に配置されたリニアガイドとが設け られ, 上記可動部材には,ステータ部を囲繞するコイルを装備して,上記リ ニアガイドに摺動可能に支持され,その上面が設置面であるスラストブ ロックが設けられているリニアモータ式単軸ロボットであって, 上記スラストブロックには,その一側部に,ロボット本体側に設けら れたスケールを読取るためのリニアエンコーダが配置されるとともに, このリニアエンコーダ配置側及びその反対側の側面部に,多数の冷却 フィンが形成されている ことを特徴とするリニアモータ式単軸ロボット。」 78 イ 引用例2(乙B5)(ア) 引用例2の記載内容 引用例2は,本件特許2の出願(平成15年5月14日)前の平成1 3年6月22日に頒布されたと認められる特開2001-16952 9号公報であり,以下の記載がある。
「【0001】本発明は,磁界を発生により推力を取得し,軌道に沿っ て移動可能な移動体,およびこれを備える移動体システムに関する。」 「【0005】しかしながら,載置部材7に搭載される半導体実装用 ロボットなどは熱に弱い精密機械であるものも多く,この場合,磁界発 生機構8のコイル5等が発生した熱が支持部材9を介して大量に載置 部材7に伝達してしまうと,誤動作や故障の原因となってしまうことが ある。また,載置部材7が熱変形し,この変形により載置されるロボッ ト等の精度が低下してしまうと行った問題もある。」 「【0006】また,ロボットを搭載する以外にも,載置部材7が部 品搬送用に用いられた場合にも,熱に弱い部品を搬送する場合には,磁 界発生機構8の発生した熱が大量に載置部材7に伝達することは部品 故障等の原因となってしまう。」 「【0034】また,上記のように支持部材29の上面に凹凸形状を 設けた場合,図9に示すように,その凸部と作業用保持部材25の間に, 支持部材29や作業用保持部材25よりも熱伝導率の小さい断熱シー ト200を介在させるようにしてもよい。このようにした場合,上記実 施例と同様に複数の空間Sが形成されるとともに,作業用保持部材25 と支持部材29との間に熱伝導率の小さい断熱シート200が介在さ せられることになる。従って,作業用保持部材25の温度上昇をさらに 低減することができる。」 また,引用例2の図9には,作業用保持部材25及び断熱シート20 79 0が,ボルト30によって,支持部材29に連結されていることが記載 されている。
(図9)(イ) 引用発明2 前記(ア)からすれば,引用例2には,作業用保持部材25が支持部材 29に対し,両者間に断熱シート200を介在させて,ボルト30によ り連結された,磁界の発生により推力を取得し軌道に沿って移動可能な 移動体システム(以下「引用発明2」という。)が開示されていると認 められる。
ウ 一致点及び相違点 引用発明1と本件発明2-1とを対比すると,スラストブロック」「可 「 は動ブロック」に,「リニアエンコーダ」は「ヘッド」に,「冷却フィン」は「放熱フィン」に,それぞれ相当する構成であると認められる。したがって,本件発明2-1と引用発明1とは,以下の点で相違し,その他の点で 80 一致する。
(ア) 相違点1 本件発明2-1では,可動ブロックに連結された作業部材取付用の テーブルが設けられ,このテーブルが可動ブロックに対し,両者間に断 熱材からなる断熱プレートを介在させた状態で連結されているのに対 して,引用発明1では,スラストブロック上面にテーブルが設けられて おらず,両者間に断熱プレートが介在していない点。
(イ) 相違点2 本件発明2-1では,可動ブロックには,ヘッド配置側とは反対側の 側面部に多数の放熱フィンが形成されている一方,ヘッド配置側の側面 部における放熱フィンの有無及び数は不明であるのに対して,引用発明 1では,スラストブロックには,リニアエンコーダ配置側及びその反対 側の側面部に,多数の冷却フィンが形成されている点。
エ 相違点に対する判断(ア) 相違点1について 引用例1a 及びその詳細な図面である各寸法図において,スラストブ ロックの上面は,「設置面(Mounting Surface)」と説明されているし, スラストブロックの上面には穴が設けられており(Holes on Thrust Block),何かを取り付けることが想定された記載がある。引用例2の図 9をみても,支持部材29(引用発明1のスラストブロックに相当)に 穴が設けられ,この穴を利用して,作業用保持部材25(構成要件2- Cの作業部材取付用のテーブルに相当)が,ボルト30により連結され ていることが認められる(前記イ(ア))。したがって,引用発明1は,作 業部材取付用のテーブルが,スラストブロックに連結されることを当然 に予定しているといえる。
また,引用発明2は,磁界を発生することにより推力を取得し,軌道 81 に沿って移動可能な移動体システムに関するものであり(前記イ(ア) 0 【 001】,リニアモータ式単軸ロボットである引用発明1と技術分野を ) 同じくする。そのため,引用発明2における,磁界を発生させる際に生 ずる熱が,支持部材29を介して,載置部材に大量に伝達するのを防止 すべき課題は,引用発明1にも共通するといえる。したがって,上記課 題を解決するために,引用発明2の,作業用保持部材25が支持部材2 9に対し,両者間に断熱シート200を介在させて,ボルト30により 連結される構成を,引用発明1に適用し,引用発明1の設置面に,断熱 シート200を介在させて,作業用保持部材25を設けるようにするこ とは,当業者が容易に想到し得ることである。
また,引用発明1に引用発明2を組み合わせることについて,阻害要 因があるとも認められない。
以上のとおりであるから,相違点1に係る本件発明2-1の構成は, 引用発明1に引用発明2を組み合わせることによって,当業者が容易に 想到し得たものと認められる。
(イ) 相違点2について 引用発明1においては,スラストブロックには,リニアエンコーダ配 置側だけでなく,その反対側の側面部に,多数の冷却フィンが形成され ている(前記ア(ア),(イ))。
この点,原告は,構成要件2-Eは,ヘッド配置側とは反対側の側面 部にのみ,多数の放熱フィンが形成されていることを意味していると主 張する。
しかしながら,構成要件2-Eは,その文言上,ヘッド配置側の放熱 フィンの有無や数についての記載はなく,本件明細書2においても,放 熱フィンについては, 「また,上記可動ブロック15の側面部には多数の 放熱フィン30が形成されている。( 」【0022】)と記載されているの 82 みである。
確かに,本件明細書2の図2(横断面図)には,ヘッド21配置側とは反対側の側面部にのみ放熱フィンが記載されているが,図2については,リニアモータ式単軸ロボットの縦方向のうち,どこの横断面図であるかの指摘がない。
(図2:横断面図) (図1:縦断面図) 図2には,ヘッド21の断面図が描かれているところ,本件明細書2の図1(縦断面図)では,中央部分にヘッド21が記載されているから,ヘッド21を含む部分の横断面図であるとは考えられるが,同部分は,全体からみればわずかな部分である。
したがって,図2の記載のみからは,ヘッドが設置されている側の側 83 面部における,放熱フィンの有無や数を特定することはできず,本件発 明2-1は,ヘッド配置側に放熱フィンを形成する構成を排除している とはいえない。むしろ,引用発明1における「スラストブロックには, リニアエンコーダ配置側及びその反対側の側面部に,多数の冷却フィン が形成されている」構成は,本件発明2-1の「可動ブロックには,ヘッ ド配置側とは反対側の側面部に,多数の放熱フィンが形成されている」 構成に相当するといえるから,相違点2は,実際には,両者の相違点と なるべきものではない。
(2) 本件発明2-2について ア 相違点3 本件発明2-2と引用発明1とを対比すると,両者は相違点1,2(前 記(1)ウ)の他,本件発明2-2では,作業部材取付用のテーブル及び断熱 プレートが一括に締結部材により可動ブロックに連結され,その締結部材 と上記テーブルとの間に断熱材からなる断熱ワッシャーが介装されている のに対して,引用発明1はそのような構成を備えてない点(相違点3)で 相違し,その他の点で一致する。
イ 相違点3に対する判断 ブロー成形機の型増締装置に係る刊行物2(乙B1の10)の【001 4】には, 「さらに,可動板16と金型保持部材17とを接続固定するボル ト25にも断熱ワッシャー26を介在させることにより,このボルト25 を伝わる熱も遮断することができ,可動部19の温度上昇をより確実に防 止することができる。」と記載されている。また,断熱構造において用いら れるワッシャーを断熱ワッシャーにして,断熱効果をより向上させること は,宇宙航行体の断熱構造に係る刊行物4(乙B1の12)の他,FA用 メカニカル標準部品,回転ドラム式食材加熱器,小型船舶の排気装置,外 壁構成体,電子式冷温蔵庫,自動二輪車のマフラー,バルブとアクチュエー 84 タとの連結構造,変位検出装置,分光器などにも広く利用されており(乙 B32の1〜9),慣用技術であるといえる。
したがって,引用発明1において,載置部材に伝達される熱を防止する 課題を解決するために,相違点1に係る判断(前記(1)エ(ア))のとおり引 用発明1に引用発明2を適用し,さらに,引用発明1のスラストブロック の設置面に対し,断熱シート及び作業用保持部材をボルトにより連結する 際に,使用するワッシャーを,より熱遮断効果の期待される断熱ワッシャー にすることは,当業者が容易に想到し得ることである。
原告は,刊行物4や刊行物2は,本件発明2-2とは技術分野を異にす ると主張するが,上記のとおり,断熱構造に断熱ワッシャーを用いること は,特定の技術分野に限らない,一般的な慣用技術であると認められるか ら,原告主張の点は,上記判断を左右しない。
(3) まとめ 以上のとおり,本件発明2-1及び2-2は,いずれも引用発明1,2及 び慣用技術に基づいて,当業者が容易に想到し得るものであるから,本件特 許2は,進歩性欠如の無効理由を有しており,特許法29条2項,同法12 3条1項2号により,無効にされるべきものと認められる。
5 争点5-1(本件訂正は,特許法126条3項[新規事項の追加でないこと]) の訂正要件を満たすか)について 本件明細書2において,「放熱フィン」に関する記載は,【0022】と図2 のみに認めることができる。しかし,前記4(1)エ(イ)で述べたように,本件明 細書2の【0022】や図2(横断面図)からは,本件訂正事項2の内容であ る「ヘッド配置側とは反対側の側面部のみ多数の放熱フィンが形成されている」 事項は読み取れない。
したがって,本件訂正事項2は,本件明細書2に記載した事項の範囲内にお いてしたものといえないから,特許法126条3項の訂正要件を満たしておら 85 ず,原告の訂正の再抗弁は認められない。
結論
以上のとおりであるから,その余の争点について判断するまでもなく,原告 の請求はいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
追加
86 別紙イ号製品目録1X-SELコントローラ(型式番号XSEL-J-2ないし4)2X-SELコントローラ(型式番号XSEL-K-2ないし4)3X-SELコントローラ(型式番号XSEL-P-2ないし6)4X-SELコントローラ(型式番号XSEL-Q-2ないし6)5S-SELコントローラ(型式番号SSEL-C-2)87 別紙ロ号製品目録1製品名「リニアサーボアクチュエータLSAシャフトタイプ」(型式番号LSA-S6SS)とするリニアサーボアクチュエータ2製品名「リニアサーボアクチュエータLSAシャフトタイプ」(型式番号LSA-S6SM)とするリニアサーボアクチュエータ3製品名「リニアサーボアクチュエータLSAシャフトタイプ」(型式番号LSA-S8SS)とするリニアサーボアクチュエータ4製品名「リニアサーボアクチュエータLSAシャフトタイプ」(型式番号LSA-S8SM)とするリニアサーボアクチュエータ5製品名「リニアサーボアクチュエータLSAシャフトタイプ」(型式番号LSA-S8HS)とするリニアサーボアクチュエータ6製品名「リニアサーボアクチュエータLSAシャフトタイプ」(型式番号LSA-S8HM)とするリニアサーボアクチュエータ7製品名「リニアサーボアクチュエータLSAシャフトタイプ」(型式番号LSA-S10SS)とするリニアサーボアクチュエータ8製品名「リニアサーボアクチュエータLSAシャフトタイプ」(型式番号LSA-S10SM)とするリニアサーボアクチュエータ9製品名「リニアサーボアクチュエータLSAシャフトタイプ」(型式番号LSA-S10HS)とするリニアサーボアクチュエータ10製品名「リニアサーボアクチュエータLSAシャフトタイプ」(型式番号LSA-S10HM)とするリニアサーボアクチュエータ88 別紙本件発明1の請求項複数のロボットを,これらロボットの駆動軸の総数以上の数のドライバーを有するコントローラにより制御する装置であって,上記各ドライバーと上記複数のロボットの各駆動軸との対応関係を変更可能に設定する設定手段と,上記対応関係の設定に基づいて各ドライバーに対応する駆動軸の属性を示すデータを書き換え可能に記憶する各軸属性記憶部と,上記各ドライバーと上記各駆動軸との対応関係に応じてドライバーの処理条件を決定する処理条件決定手段と,駆動すべきロボットおよび駆動軸を特定する駆動対象指定と移動位置を特定する移動位置指定とを含む移動命令を示すデータを入力する移動命令入力手段と,上記移動命令入力手段により入力されたデータと上記各属性記憶手段から読み出したデータとの照合に基づき,上記移動命令を判別して駆動対象に対応するドライバーを選定する移動命令判別手段と,上記移動命令判別手段により選定されたドライバーにつき,上記処理条件決定手段により決定される処理条件と上記移動命令で指定される移動位置とに基づいて処理内容を求め,この処理内容に従ってドライバーを制御する制御手段とを備えたことを特徴とする複数ロボットの制御装置。
89 別紙本件発明1の構成要件の分説1-A複数のロボットを,これらロボットの駆動軸の総数以上の数のドライバーを有するコントローラにより制御する装置であって,1-B上記各ドライバーと上記複数のロボットの各駆動軸との対応関係を変更可能に設定する設定手段と,1-C上記対応関係の設定に基づいて各ドライバーに対応する駆動軸の属性を示すデータを書き換え可能に記憶する各軸属性記憶部と,1-D上記各ドライバーと上記各駆動軸との対応関係に応じてドライバーの処理条件を決定する処理条件決定手段と,1-E駆動すべきロボットおよび駆動軸を特定する駆動対象指定と移動位置を特定する移動位置指定とを含む移動命令を示すデータを入力する移動命令入力手段と,1-F上記移動命令入力手段により入力されたデータと上記各属性記憶手段から読み出したデータとの照合に基づき,上記移動命令を判別して駆動対象に対応するドライバーを選定する移動命令判別手段と,1-G上記移動命令判別手段により選定されたドライバーにつき,上記処理条件決定手段により決定される処理条件と上記移動命令で指定される移動位置とに基づいて処理内容を求め,この処理内容に従ってドライバーを制御する制御手段とを備えた1-Hことを特徴とする複数ロボットの制御装置。
90 別紙本件発明2の請求項(訂正前)【請求項1】ロボット本体と,該ロボット本体に対して一定方向に直線的に移動可能な可動部材とを備え,上記ロボット本体には,永久磁石を軸方向に配列したシャフト状のステータ部と,このステータ部と平行に配置されたリニアガイドとが設けられ,上記可動部材には,ステータ部を囲繞するコイルを装備して,上記リニアガイドに摺動可能に支持された可動ブロックと,この可動ブロックに連結された作業部材取付用のテーブルとが設けられているリニアモータ式単軸ロボットであって,上記テーブルが上記可動ブロックに対し,両者間に断熱材からなる断熱プレートを介在させた状態で連結されており,上記可動ブロックには,その一側部に,ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに,このヘッド配置側とは反対側の側面部に,多数の放熱フィンが形成されていることを特徴とするリニアモータ式単軸ロボット。
【請求項2】上記テーブル及び断熱プレートが一括に締結部材により上記可動ブロックに連結され,その締結部材と上記テーブルとの間に断熱材からなる断熱ワッシャーが介装されていることを特徴とする請求項1記載のリニアモータ式単軸ロボット。
91 別紙本件発明2の構成要件の分説(訂正前)本件発明2-12-Aロボット本体と,該ロボット本体に対して一定方向に直線的に移動可能な可動部材とを備え,2-B上記ロボット本体には,永久磁石を軸方向に配列したシャフト状のステータ部と,このステータ部と平行に配置されたリニアガイドとが設けられ,2-C上記可動部材には,ステータ部を囲繞するコイルを装備して,上記リニアガイドに摺動可能に支持された可動ブロックと,この可動ブロックに連結された作業部材取付用のテーブルとが設けられているリニアモータ式単軸ロボットであって,2-D上記テーブルが上記可動ブロックに対し,両者間に断熱材からなる断熱プレートを介在させた状態で連結されており,2-E上記可動ブロックには,その一側部に,ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに,このヘッド配置側とは反対側の側面部に,多数の放熱フィンが形成されている2-G1ことを特徴とするリニアモータ式単軸ロボット。
本件発明2-22-F上記テーブル及び断熱プレートが一括に締結部材により上記可動ブロックに連結され,その締結部材と上記テーブルとの間に断熱材からなる断熱ワッシャーが介装されている2-G2ことを特徴とする請求項1記載のリニアモータ式単軸ロボット。
92 別紙本件発明2の請求項(訂正後)【請求項1】ロボット本体と,該ロボット本体に対して一定方向に直線的に移動可能な可動部材とを備え,上記ロボット本体には,一軸方向に延びるベース部と,このベース部の両側部から上方に突出して該ロボット本体の側壁部を構成する一対のカバー部材と,これらの一対のカバー部材間において上記一軸方向に延び,永久磁石を当該軸方向に配列したシャフト状のステータ部と,上記ベース部上であって上記ステータ部と平行に配置されたリニアガイドとが設けられ,上記可動部材には,ステータ部を囲繞するコイルを装備して,上記リニアガイドに摺動可能に支持された可動ブロックと,この可動ブロックに連結された作業部材取付用のテーブルとが設けられているリニアモータ式単軸ロボットであって,上記テーブルが上記可動ブロックに対し,両者間に断熱材からなる断熱プレートを介在させた状態で連結されており,上記可動ブロックには,その一側部であって,上記カバー部材との間に,ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに,このヘッド配置側とは反対側の側面部にのみ多数の放熱フィンが形成されていることを特徴とするリニアモータ式単軸ロボット。
※下線部分が訂正箇所である。
93 別紙本件発明2の構成要件の分説(訂正後)本件訂正発明2-12-Aロボット本体と,該ロボット本体に対して一定方向に直線的に移動可能な可動部材とを備え,訂正2-B上記ロボット本体には,一軸方向に延びるベース部と,このベース部の両側部から上方に突出して該ロボット本体の側壁部を構成する一対のカバー部材と,これらの一対のカバー部材間において上記一軸方向に延び,永久磁石を当該軸方向に配列したシャフト状のステータ部と,上記ベース部上であって上記ステータ部と平行に配置されたリニアガイドとが設けられ,2-C上記可動部材には,ステータ部を囲繞するコイルを装備して,上記リニアガイドに摺動可能に支持された可動ブロックと,この可動ブロックに連結された作業部材取付用のテーブルとが設けられているリニアモータ式単軸ロボットであって,2-D上記テーブルが上記可動ブロックに対し,両者間に断熱材からなる断熱プレートを介在させた状態で連結されており,訂正2-E上記可動ブロックには,その一側部であって,上記カバー部材との間に,ロボット本体側に設けられたスケールを読取るためのヘッドが配置されるとともに,このヘッド配置側とは反対側の側面部にのみ多数の放熱フィンが形成されている2-G1ことを特徴とするリニアモータ式単軸ロボット。
※下線部分が訂正箇所である。
94 別紙イ号製品説明(原告)以下,別紙イ号製品目録記載のイ号製品の構成について,イ号製品1を例にとって,その具体的構成につき,図面1ないし3を参照しつつ説明する。なお,イ号製品2ないし5は,制御可能な軸数及びドライバー数の点でイ号製品1と異なるものも含まれているが他は共通している。
1イ号製品1の構成イ号製品1は,製品名を「X-SELコントローラ」(型式番号XSEL-J-2ないし4)とするロボット制御装置であり,以下に示す構成1-aないし1-gを備えている。
構成1-a図1は,イ号製品1にかかるロボット制御装置(以下,単に「制御装置」という。)100を示している。
制御装置100は,第1ロボット121及び第2ロボット122からなる複数のロボットを,これらロボットの駆動軸R1ないしR4の総数以上のドライバー111ないし114を有するコントローラにより制御する装置である。
制御装置100は,設定手段101,記憶部102,処理条件決定手段103,移動命令入力手段104,移動命令判別手段105,制御手段106,及びドライバー111ないし114を有している。
構成1-b設定手段101は,各ドライバー111ないし114と,第1ロボット121及び第2ロボット122の各駆動軸R1ないしR4との関係を定めるドライ95 バカードパラメータ,軸パラメータ,エンコーダパラメータを設定するものである。
上記パラメータを変更することで,ドライバー111ないし114と駆動軸R1ないしR4との関係を変更することができる。
なお,図1に示すように,パソコン130を使用して設定手段101を操作することができ,設定手段101は,パソコン130からの操作に応じて上記パラメータの設定を行うことができる。
また,図示はしていないが,ティーチングボックスを接続すれば,ティーチングボックスを使用して設定手段101を操作することができ,設定手段101は,ティーチングボックスからの操作に応じて上記パラメータの設定を行うことができる。
構成1-c記憶部102は,パラメータAとして,ドライバカードパラメータ,軸パラメータ,エンコーダパラメータを含むデータを書き換え可能に記憶するものである。
なお,図1の制御装置100では,上記ドライバカードパラメータ等からなるパラメータA以外に,ポジションデータBが記憶部102に記憶されている。
構成1-d処理条件決定手段103は,各ドライバー111ないし114と各駆動軸R1ないしR4との関係に応じてドライバー111ないし114の処理条件を決定するものである。
構成1-e移動命令入力手段104は,駆動すべきロボット及び駆動軸を指定する指令96 と当該指定されたロボット及び駆動軸の移動位置を特定する移動位置指定とを含む命令「MOVPポジションNO.」を入力するものである。
ここで,「MOVPポジションNO.」命令とは,上記ポジションデータBにおけるポジションNO.を指令して,駆動対象となるロボット及び駆動軸を現在の位置からポジションNO.の位置へと移動させる命令である。
なお,図1に示すように,パソコン130を使用して移動命令入力手段104を操作することができ,移動命令入力手段104は,パソコン130からの操作に応じて上記移動命令の入力を行うことができる。
構成1-f移動命令判別手段105は,移動命令入力手段104により入力されたデータと記憶部102から読み出したデータとの照合に基づき,移動命令を判別して駆動対象に対応するドライバーを選定するものである。
MOVP命令で指令されたポジションデータの各軸の座標位置と有効軸パターンのデータとを照らし合わせて,座標位置が有り且つ有効軸パターンで有効に設定された軸をMOVP命令の駆動対象として判別し,判別した駆動対象に対応するドライバーを選定する。
構成1-g制御手段106は,移動命令判別手段105により選定されたドライバーにつき,処理条件決定手段103により決定される処理条件と移動命令で指定される移動位置とに基づいて処理内容を求め,この処理内容に従ってドライバー111ないし114を制御するものである。
ドライバー111ないし114は,第1及び第2ロボット121,122の各駆動軸R1ないしR4を駆動する。具体的には,第1ドライバー111が第1ロボット121の第1駆動軸R1を駆動し,第2ドライバー112が第1ロ97 ボット121の第2駆動軸R2を駆動し,第3ドライバー113が第2ロボット122の第1駆動軸R3を駆動し,第4ドライバー114が第2ロボット122の第2駆動軸R4を駆動する。
2各種パラメータ及びポジションデータ次に,記憶部102に記憶されているデータ(パラメータA,ポジションデータB)の構成について説明する。
ポジションデータBとは,ドライバー111ないし114と駆動軸R1ないしR4との関係を前提に,「ポジションNO.」に対応づけて,各駆動軸R1ないしR4の目標位置(座標値)及び処理条件(速度,加速度,減速度)を予め定めたものである。
パラメータAには,ドライバカードパラメータ,軸パラメータ,エンコーダパラメータが含まれる。
また,軸パラメータには,「全軸共通パラメータ」と,「軸別パラメータ」とが含まれる。
これらのパラメータは,ドライバー111ないし114と駆動軸R1ないしR4との関係を定めるパラメータであり,上記パラメータを変更することで,ドライバー111ないし114と駆動軸R1ないしR4との関係を変更することができる。
すなわち,上記のドライバカードパラメータ,全軸共通パラメータ,軸別パラメータ,エンコーダパラメータが記憶部102に記憶されると,制御装置100は,各ドライバー111ないし114を制御し,各ドライバー111ないし114は,自身に対応づけられた駆動軸R1ないしR4を駆動することができる。したがって,制御装置100では,ドライバカードパラメータ,軸パラメータ,エンコーダパラメータの設定により,ドライバー111ないし114と駆動軸R1ないしR4との関係を設定することができる。
98 3制御の手順次に,制御装置100による制御の手順を,図2のフローチャートに基づき説明する。なお,このフローチャートに示す処理が実行される前提として,設定手段101によるパラメータの設定は既に済んでおり,かつ,記憶部102には,上記設定されたパラメータAと,ポジションデータBとが記憶されている。また,図3に,記憶されているポジションデータBの一例を表形式で示す。
図2のフローチャートに示す処理がスタートすると,制御装置100の移動命令入力手段104は,駆動すべきロボット及び駆動軸を指定する指令と当該指定されたロボット及び駆動軸の移動位置を特定する移動位置指定とを含む命令「MOVPポジションNO.」を入力する(ステップS1)。
例えば,移動命令入力手段104にパソコンが接続されている場合,パソコン130に入力された「MOVPポジションNO.」に関する命令が,パソコン130から移動命令入力手段104に入力され,移動命令入力手段104が,指令されたポジションNO.のデータを記憶部102から読み出し,この読み出されたポジションNO.のデータが上記MOVP命令とともに移動命令判別手段105に入力される。
ステップS1の処理が終了すると,制御装置100の移動命令判別手段105は,移動命令入力手段104により入力されたデータと記憶部102から読み出したデータとの照合に基づき,上記移動命令を判別し,駆動対象に対応するドライバーを選定する(ステップS2)。ドライバーの選定結果は,上記移動命令入力手段104から入力されたMOVP命令およびポジションNO.のデータとともに制御手段106に入力される。
例えば,移動命令入力手段104により「MOVP1」と入力され,図3に示したポジションNO.1が指定された場合には,このポジションNO.1のデータ(a,b,c,d,x,y,z)に基づいて,駆動対象に対応するドライバーが99 選定される。
このとき,移動位置(a,b,c,d)のデータが,全て座標位置有りのデータであった場合には,第1ロボット121の第1駆動軸R1及び第2駆動軸R2並びに第2ロボット122の第1駆動軸R3及び第2駆動軸R4がそれぞれ駆動対象となり,これに対応して,第1ないし第4ドライバー111ないし114が駆動すべきドライバーとして選定される。
一方,例えば,第2ロボット122の第1駆動軸R3及び第2駆動軸R4の移動位置(c,d)のデータが,座標位置無しのデータであった場合には,第1ロボット121の第1駆動軸R1及び第2駆動軸R2のみが駆動対象となるため,選定されるドライバーは第1ドライバー111及び第2ドライバー112のみとなり,第3ドライバー113及び第4ドライバー114は選定されない。
ドライバーの選定についてより詳しく説明する。例えば,記憶部102に記憶されている全軸共通パラメータの中には,有効軸パターンというデータが存在する。
上記ステップS2でドライバーを選定する際には,MOVP命令で指令されたポジションNO.の各軸の座標位置が読み出され,読み出された座標位置の有無と,記憶部102から読み出した全軸共通パラメータの有効軸パターンのデータとを照合し,座標位置が有り且つ有効軸パターンで有効に設定された軸をMOVP命令の駆動対象として判別し,判別した駆動対象に対応するドライバーを選定する。
上記ステップS2の処理が終了すると,制御装置100の処理条件決定手段103は,各ドライバー111ないし114と各駆動軸R1ないしR4との関係に応じてドライバー111ないし114の処理条件を決定する(ステップS3)。
例えば,移動命令入力手段104からの命令が「MOVP1」であった場合には,図3のポジションNO.1に登録されている速度x,加速度y,減速度zのデータが記憶部102から読み出され,読み出されたデータがドライバー111ないし114の処理条件として決定される。
100 次いで,制御装置100の制御手段106は,移動命令判別手段105により選定されたドライバーにつき,処理条件決定手段103により決定される処理条件と上記移動命令で指定される移動位置とに基づいて処理内容を求め,この処理内容に従ってドライバー111ないし114を制御する(ステップS4)。
例えば,移動命令入力手段104からの命令が「MOVP1」で,この命令により指定されるポジションNO.1の移動位置のデータ(a,b,c,d)が,全て座標位置有りのデータであった場合には,対応するドライバー111ないし114が速度x,加速度y,減速度zという処理条件で駆動され,第1ロボット121の第1駆動軸R1が座標値(a)へ,第2駆動軸R2が座標値(b)へ,第2ロボット122の第1駆動軸R3が座標値(c)へ,第2駆動軸R4が座標値(d)へそれぞれ移動する。
一方,例えば,第2ロボット122の第1駆動軸R3及び第2駆動軸R4の移動位置のデータ(c,d)が,座標位置無しのデータであった場合には,第1ロボット121の第1駆動軸R1が座標値(a)へ,第2駆動軸R2が座標値(b)へ移動するのみであり,第2ロボット122の第1駆動軸R3及び第2駆動軸R4は停止したままとなる。
101 102 103 ポジションデータNo1軸2軸3軸4軸速度加速度減速度1abcdxyz23:104 別紙イ号製品説明(被告)以下,イ号製品の代表例として,イ号製品1・2を取り上げる。
第1図面の説明第1図ユーザによるイ号製品の使用の態様の一例を示す。
第2図イ号製品の機能ブロック図である(イ号製品を実線で示す)。
第3図制御部およびドライバの機能ブロック図である。
第4図ポジションデータの例を示す。
第5図ポジションデータによって表される速度パターンの例を示すグラフである。
第6図命令解析部の処理手順のうちの全体的な処理を示すフローチャートである。
第7図MOVP命令の処理ルーチンを示すフローチャートである。
第2使用の態様イ号製品は各種アクチュエータを最大4軸まで組み合わせて接続することができるが,どのようなアクチュエータを採用するか,それらをどのように組み合わせるかはユーザが決めることである。
第1図はイ号製品に4つのアクチュエータを接続した使用態様を示す。
イ号製品は4つのモータコネクタM1,M2,M3,M4及び4つのエンコーダコネクタPG1,PG2,PG3,PG4を有し,これらはそれぞれ対をなす。
ユーザによって3つの直動型アクチュエータと1つの回転型アクチュエータが用意されている。3つの直動型アクチュエータは互いに直交するように組み105 合わされている。これらを便宜上X軸,Y軸,Z軸とする。Z軸の先端部に回転型アクチュエータが設けられている。これを便宜的にR軸とする。X軸,Y軸,Z軸,R軸を総称してアクチュエータ軸という。
X軸,Y軸,Z軸及びR軸のアクチュエータは,それぞれ,モータと,モータの回転角度位置を検出するパルスジェネレータ(エンコーダ)とを備えている。
ユーザは自らの意思で,イ号製品(コントローラ)のモータコネクタとエンコーダコネクタのどの対にどのアクチュエータ軸を接続するかを決める。第1図に示す使用例では,モータコネクタM1とエンコーダコネクタPG1との対(第1軸)にX軸のモータとパルスジェネレータが接続される。同様に,コネクタM2とPG2の対(第2軸)にY軸のモータとパルスジェネレータが,コネクタM3とPG3の対(第3軸)にZ軸のモータとパルスジェネレータが,コネクタM4とPG4の対(第4軸)にR軸のモータとパルスジェネレータがそれぞれ接続される。ユーザは上記の接続を考慮して後述するユーザプログラムを作成する。
第3機能的構成イ号製品はその電気的構成からいうと,CPU(中央処理装置),その周辺機器,記憶装置,ハードウェア回路等から構成される。CPUを制御するためのプログラムには,大きく分けると,システムプログラムとユーザプログラム(アプリケーションプログラム)がある。このようなイ号製品をそのシステムプログラムに従う動作(機能)の観点から描いたのが第2図である。
イ号製品は機能的には記憶部,命令解析部,制御部および4つのドライバ1〜4を備えている。
ユーザプログラムはアクチュエータを動かすためにユーザが作成するもので,SEL言語(ShimizukidenEcologyLanguage)を用いて記述される。SEL106 言語による命令の一覧が甲3の76頁以降に掲載されている。SEL言語によって記述されたユーザプログラムが記憶部に記憶される。SEL言語による命令の中にポジションデータを伴うMOVP,その他の命令がある。このポジションデータ等も記憶部に記憶される。
ドライバ1〜4は制御部からの位置指令に応じてアクチュエータを駆動するものであり,上述したモータコネクタM1〜M4はドライバ1〜4の出力側に,エンコーダコネクタPG1〜PG4はドライバ1〜4の入力側に,それぞれ接続される。
ユーザはユーザプログラムおよびポジションデータを入力するときに,X-SELパソコン対応ソフトを搭載したパーソナルコンピュータ(PC)またはX-SELティーチングボックス(以下,これらを入力機器という)を用いる。
入力機器はイ号製品には含まれない。入力機器はイ号製品であるコントローラとは別売りであって,イ号製品とセット販売されるものではない。複数台のコントローラ(イ号製品)について入力機器は1台で足りることもある。
第3図は制御部とドライバの機能ブロックを示すものである。位置指令生成部と位置制御部は制御部に属する。ドライバには速度制御部,電流制御部および電力変換回路(駆動回路)が含まれ,電力変換回路によってアクチュエータのモータMが駆動される。パルスジェネレータPGからの位置信号は,位置制御部,速度制御部,電流制御部にそれぞれフィードバックして与えられる。図示は省略されているが,モータMに流れる電流が検出され,電力変換回路にフィードバックされる。位置制御部とドライバの各部による制御は通常,サーボ制御と呼ばれる。サーボ制御それ自体はよく知られているので詳述は避ける。
第4「MOVP(ポジションNO.」命令)SEL言語による命令の1つに「MOVP(ポジションNO.)」という命令がある。これは,ポジションNO.によって指定されるポジションデータに従っ107 て所定のアクチュエータ軸をポイント・トゥ・ポイント(PTP)移動させよ,という命令である。駆動すべきアクチュエータ軸の目標位置(座標値),目標位置まで移動するときの速度,加速度,減速度がポジションデータ中に記述される。ポジションデータの一例が第4図に示されている。座標値が記述されている軸が駆動対象である。速度,加速度および減速度のデータは,駆動されるすべての軸に共通である。
命令MOVP35によりポジションNO.35が指定されたとすると,この命令は,0.3Gの加速度,0.3Gの減速度(Gは重力の加速度),100mm/sの速度で,第1軸を250mmの位置まで第2軸を200mmの位置まで移動することを命ずるものである(PTP移動)。
この速度パターンが第5図に描かれている。加速度,減速度,速度の意味は,この図に示すとおりである。
第5制御動作の一例第6図および第7図は命令解析部の処理の手順の概要を示すものである。
第6図は全体的な処理手順を示している。記憶部に格納されているユーザプログラム内の命令が一命令ずつ読み出され,命令ごとにその命令に従う処理が行われる。
命令を一命令ずつ読み出すためにステップカウンタに1がセットされ(S11)ステップカウンタによって指定されるステップの命令が読み出される,(S12)。命令の種類ごとにその命令を実行する処理ルーチンが設けられており,読み出した命令に対応する処理ルーチンが実行される(S13)。
処理ルーチンの実行が終了すると,ステップカウンタがインクレメントされ108 (S15),命令の読出しとその命令に従う処理の実行(S12,S13)が,プログラムが終了するまで(S14)(例えばEXIT命令によりプログラムは終了する)繰返される。
第6図のS13において,読み出した命令がMOVP命令の場合には,第7図に示すMOVP命令に従う処理ルーチンが実行される。
MOVP命令にはポジションNO.が付随しているので,そのポジションNO.を取得し(S20)記憶部に記憶されているポジションデータ中から該当する,ポジションNO.のポジションデータを読み出す(S21)。
読み出したポジションデータ中の1軸〜4軸に座標値データがあるかどうかがチェックされる(S22,S28等)。座標値データがあれば,その軸についての移動制御のための演算を行う。PTP移動は該当する軸について第5図に示すような速度パターンの制御を行うものである。この台形の面積が移動距離(座標値)を表しているので読み出したポジションデータ中の座標値,速度,加速度,減速度をこの速度パターンにあてはめて,加速区間,定常速度区間,減速区間等を演算して,その演算結果を制御部に渡す(S23,S29等)。
制御部の位置指令生成部は,渡されたデータに基づいて短い時間間隔ごとに位置指令を生成する。この位置指令に基づいて,サーボ制御(位置制御,速度制御,電流制御,電力変換)が行われる結果,ポジションデータによって指定された軸が指定された座標値(目標位置)までドライバによって駆動,制御されることになる。
109 第1図110 第2図X-SELX-SELパソコン対応PCティーチングボックスソフト(甲6)IA-T-X,IA-T-XD(甲5)を搭載ユーザはいずれか一方からユーザプログラムとポジションデータを入力する記憶部(ユーザプログラム,ポジションデータ等)命令解析部制御部アクチュエータM1ドライバ1第1軸X軸PG1M2ドライバ2第2軸Y軸PG22M3X-SELドライバ3第3軸Z軸コントローラPG3J/KタイプM4(4軸)ドライバ4第4軸R軸(甲3)PG4111 第3図制御部ドライバ駆動回路電圧指令(PWM位置指令位置指令位置速度指令速度電流指令電流信号)電力変換生成部制御部制御部制御部回路M位置信号PG112 第4図ポジションNo.1軸2軸3軸4軸速度加速度減速度12:35250200(入力無し)(入力無し)1000.30.336100(入力無し)150(入力無し)2000.30.3371502002001001500.30.3:3000第5図速度速度加速度減速度時間113 第6図第7図SELプログラム実行MOVP命令処理スタートスタートステップNo.←1S11ポジションNo.をS20取得命令を読出しS12該当するポジションS21データを取得S15S22ステップNo.←命令に対応するS13NOステップNo.+1第1軸について処理ルーチンを実行座標値有?YESS23S14NO第1軸についての演算プログラム終了か?YESエンドS28NO第4軸について座標値有?YESS29第4軸についての演算エンド114 別紙ロ号製品説明(原告)ロ号製品は,アクチュエータ本体R1と,このアクチュエータ本体R1に対して一定方向に直線的に移動可能なスライダR2とを備えている。
アクチュエータ本体R1は,一軸方向に延びる横長枠状に形成されたベースR3と一対の側方カバーR4とを備えるとともに,ベースR3の上方にはマグネットシャフトR10が配置されている。
このマグネットシャフトR10は,N,Sの磁極が交互に逆向きに位置するように軸方向に配列された多数個の環状の永久磁石R101を有し,これらの永久磁石R101がマグネットシャフトR10の中心軸R102上に保持され,非磁性体からなるスリーブR103内に収容されている。ベースR3には,その上部に上方に突出する一対のガイドR8が設けられている。一対のガイドR8の一方は,その外側面に細長のスケールR14がガイドR8の略全長に亘って設けられている。
スライダR2は,マグネットシャフトR10を囲繞するコイルユニットR18を装備して,上記ガイドR8に摺動可能に支持された可動部本体R15と,この可動部本体R15の上部に連結されたテーブルR24とが設けられている。
この可動部本体R15は,コイルユニットR18を装備する可動部本体上部R151と,この可動部本体上部R151とプレートR150を介して連結された断面略T字状の可動部本体下部R152とを備える。
この可動部本体R15の一側部下端には,上記スケールR14に対向するヘッドR21が設けられている。このヘッドR21は,上記スケールR14を読み取ることによりスライダR2の位置を検出するものである。
また,この可動部本体R15の一側面部(上記ヘッドR21と反対側の一側面部)には,多数の放熱フィンR30が形成されている。
一方,上記テーブルR24は,プレートR27を介して可動部本体R15上に載115 置された状態で,複数箇所においてボルトによりプレートR27と一括に当該可動部本体R15に固定されている。上記ボルトの頭部とテーブルR24との間には,ワッシャーが介装されている。
上記プレートR150,R27及び上記ワッシャーは,いずれもガラス繊維強化エポキシ樹脂からなっている。
下記図面は,ロ号製品である単軸ロボットの横断面図である(横断面図)116 別紙ロ号製品説明(被告)ロ号製品は,@テーブル部,A駆動部,Bリニアガイド部からなるリニアモータ式単軸アクチュエータである。
テーブル部は,ガラス繊維強化エポキシ樹脂製の断熱プレートを介在した状態で,駆動部の上端とボルトによって連結固定されており,このボルトとテーブル部との間にはガラス繊維強化エポキシ樹脂からなるワッシャーが介在され,かつ上記断熱プレートは,左右に分割された構造となっており,その中央部分に空気の流れる空間を設けて冷却効果を得ている。
駆動部は,マグネットシャフト,マグネットシャフトを囲繞するコイル及びコイル周囲のハウジングからなっている。ハウジングの一側部には6枚ないし10枚の放熱フィンが,反対側部には1枚ないし3枚の放熱フィンが設けられている。
リニアガイド部は,左右分割構造のガラス繊維強化エポキシ樹脂製の断熱プレートを介在させた状態で駆動部の下端と連結固定されており,リニアガイド部と駆動部との間の中央部分に空気を流して冷却効果を得るための空間が形成されており,両側部に一対のガイドレールを有する横断面凹型に形成されたガイドレール部と,ボールベアリングのボールの回転により当該ガイドレール部に転動可能に設けられた横断面凸型に形成された被ガイド部からなっている。被ガイド部の一方の外側部にはリニアスケールを読み取るためのヘッドが設けられており,ガイドレール部の一方の外側部(ヘッドと同じ側)の略全面には細長のリニアスケールが設けられている。
117 別紙M25寸法図118
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官 達野ゆき
裁判官 北岡裕章