関連審決 | 不服2000-16996 |
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関連ワード | 識別力 / 包装 / 識別機能 / 指定商品 / 商標の同一性 / 混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) / 4条1項11号 / 類似性(類否判断) / 不使用 / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 取引の実情 / 出所の混同 / 国内 / 類似商標 / 外国 / 非類似 / ハウスマーク / |
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事件 |
平成
16年
(行ケ)
49号
審決取消請求事件
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原告 ピエールバルマン エス アー 同訴訟代理人弁護士 佐藤雅巳 同 古木睦美 被告 特許庁長官小川洋 同指定代理人 井岡賢一 同 伊藤三男 同 涌井幸一 同 宮下正之 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/09/30 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2000-16996号事件について平成15年10月23日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要及び争いのない事実
本件は,後記本願商標の出願人である原告が,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたところ,特許庁が,審判請求不成立の審決をしたことから,原告が同審決の取消しを求めた事案である。 1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成11年4月15日に商標法施行令1条別表第25類の「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品とし,別紙記載(1)の構成からなる商標「以下「本願商標」という。)について商標登録出願をした(平成11年商標登録願32723号)ところ,平成12年6月15日拒絶査定を受けたので,同年9月21日審判を請求した。特許庁はこの請求を不服2000-16996号として審理した結果,平成15年10月23日上記請求は成り立たないとする審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同年11月17日に原告に送達された。 2 本件審決の理由の要旨 (1) 登録第904167号商標(別紙記載(2)。以下「引用A商標」という。)及び登録第1360351号商標(別紙記載(3)。以下「引用B商標」といい,引用A商標と合わせて「引用各商標」という。)は,いずれも,その構成文字に相応した「バンベール」の称呼を生ずるものである。 (2)ア 本願商標は,1行目に「VENT」,2行目に「VERT」,3行目に「PAR」,4行目に「PIERRE BALMAIN」とそれぞれ欧文字で横書きしてなるものである。 そして,これらの各文字を一体不可分のものとして把握すべき格別の事情はないこと,及び,1行目の「VENT」と2行目の「VERT」は同じ書体及び大きさで他の文字部分に比べて顕著に書されていることからすれば,「VENT VERT」の文字部分は独立して自他商品識別標識としての機能を果たすものである。 イ 「VENT VERT」は「緑の風」を意味するフランス語であり,また本願指定商品を取り扱う業界においては比較的フランス語がなじまれていることから,「VENT VERT」の文字はこれをフランス語読みにした発音による「ヴァンヴェール」の称呼が生ずると認められる。 このうち,「ヴァ」及び「ヴェ」の音は通常使用する日本語の発音にはない音であり,「バ」及び「ベ」に置き換えて発音される場合も少なくない。したがって,本願商標からも「バンベール」の称呼を生じる。 (3) よって,本願商標と引用各商標とは,「バンベール」の称呼を共通にする類似の商標と認められ,指定商品が同一又は類似するものであるから,本願商標が商標法(以下「法」という。)4条1項11号に該当するとしてその登録を拒絶した原査定は相当である。 |
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原告主張の取消事由
1(取消事由1) (1) 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所について誤認,混同を生じるおそれがあるか否かによって決すべきであるところ,その判断にあたっては,商品に使用された商標の称呼,外観,観念によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,しかも,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきである(最高裁昭和43年2月27日判決 民集22巻2号399頁)。 従って,本件においても,本願商標がいかなる態様で使用されるかを前提として類否判断をなすべきものである。本願商標を商品またはその包装に付して使用する場合,「Vent Vert PAR PIERRE BALMAIN」が一体として表示されるのであり,その一構成要素に過ぎない「Vent Vert」のみが表示されるのではないから,本件審決が,この部分のみを抜き出して引用各商標と対比したことは誤りである。 そして,「Vent Vert PAR PIERRE BALMAIN」からは,「『Vent Vert』・パル・ピエールバルマン」の称呼が生じるのに対し,引用各商標からは「バンベール」の称呼が生じるものであって,「パル・ピエールバルマン」を含まない。よって,本願商標と引用各商標は称呼において相違し,非類似の商標というべきである。 (2) このことは,次の点からみても明らかである。 ア 法50条1項の適用に関して,被告の審判便覧53-01に従えば,仮に「Vent Vert PAR PIERRE BALMAIN」よりなる登録商標の不使用を理由として同条項に基づく取消請求がなされた場合,商標権者が「Vent Vert」の部分のみを使用していた事実があるとしても,これをもって登録商標の使用の事実としては認めないこととされている。すなわち,被告自身,後者は前者の同一性の範囲外にあるものと取り扱うこととしているのであり,本件審決の判断はこれと矛盾するものである。 イ 被告の審査例においては,例えば「PASTEL」なる既登録商標がある場合にも「Pastel de GRES」の登録出願を認めたような例が多数存在し,本件審決の判断はこれらの先例とも矛盾する。 (3) 本件審決は,本願商標のうち「Vent Vert」の部分が「PAR PIERRE BALMAIN」とは独立して自他商品識別標識としての機能を果たすと認定し,「Vent Vert」の部分のみを引用各商標との類否判断において対比の対象としているが,かかる認定判断の方法をするのが相当であることについて何ら理由を示していないのであって,本件審決には理由不備の違法がある。 2(取消事由2) 仮に,本願商標のうち「Vent Vert」の部分のみを抜き出して引用各商標との類否判断を行うことが許されるとしても,「Vent Vert」から「ヴァンヴェール」の称呼が生じるとした本件審決の判断は誤りである。 すなわち,我が国におけるフランス語の普及度を考慮すれば,一般の取引者及び需要者は「Vent Vert」をフランス語読みして「ヴァンヴェール」と発音することはできない。本件審決は,本願指定商品を取り扱う業界においては比較的フランス語が「なじまれている」ことを理由に「Vent Vert」の文字から「ヴァンヴェール」の称呼が生ずると判断しているが,何ら証拠に基づかない判断である点で不当であるばかりでなく,フランス語が「なじまれている」としても,一般の取引者及び需要者のうち相当多数の者がフランス語の綴りを正確に発音して称呼することができるとは限らないのであり,この点においても不当な判断である。 3(取消事由3) 仮に,「Vent Vert」の文字から「ヴァンヴェール」の称呼が生ずるとしても,「バンベール」の称呼が生じることはなく,かかる称呼も生じ得るとした本件審決の判断は誤りである。 (1) 「ヴァ」「ヴェ」と「バ」「ベ」とは発音が異なり,容易に聴取識別することができるから,「Vent Vert」を「バンベール」と称呼することはない。 被告は、「外来語の表記」の記載を根拠として、本願商標から「バンベール」の称呼が生ずると主張するが、「外来語の表記」は外国語の表記に関する内閣の告示にすぎず、本願商標の指定商品に係る取引者、需要者が本願商標をどのように称呼するかとは無関係であって、被告の上記の主張は誤りである。 (2)ア 原告は、我が国を含め世界的に著名なオートクチュールであって、その保有する商標の「PIERRE BALMAIN」も、我が国を含め世界的に著名である。原告は、1996年以降,「VENT VERT」を「PIERRE BALMAIN」のサブブランド(「PIERRE BALMAIN」を使用する商品より低価格帯の商品に使用する商標)として、あらゆるファッション関連製品について使用し、我が国においてその商品展開を行うことを決め,このことが新聞によって大々的に報じられるなどした。 そして、原告は、「VENT VERT」を使用した商品展開を我が国で行うに当たり、「VENT VERT」がフランス語であって「ヴァンヴェール」と称呼すること及び「緑の風」を意味することを周知徹底させている。 イ 上記の経緯により,本願商標は「ヴァンヴェール」と称呼するものとして周知であるから、本願商標からは「ヴァンヴェール」の称呼のみが生じ、「バンベール」の称呼は生じない。 4(取消事由4) 仮に本願商標から「バンベール」との称呼が生じるとしても,本願商標と引用各商標とが類似するということはできず,両者が類似するとした本件審決の判断は誤りである。 (1) 前記最高裁判決の示す基準に従えば,商標の類否は,本願商標の称呼,外観,観念によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察し,しかも,本願商標が付された商品の具体的な取引状況に基づいて判断すべきである。そして、その場合、商標の称呼、外観、観念の類似の有無は、あくまでも、その商標を使用した商品についての出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎないものというべきであって、称呼、外観、観念のうち、一つが類似しても他の二つにおいて著しく相違するものや、取引の実情のいかんによって、商品の出所に誤認混同を来すおそれを認め難いものについては類似商標と解すべきではない。 (2)ア 本願商標は引用各商標と外観において全く相違する。また,観念においても,前記3(2)アの経緯により,本願商標からは「『緑の風』を意味する原告のサブブランド」の観念が生ずるのであり、引用各商標からは何らの観念が生じないのとは相違する。 イ そして、本願商標は、「PIERRE BALMAIN」のサブブランドであることを示すために、「Vent Vert」に続けて「PAR PIERRE BALMAIN」の語を同時に表示するという態様の構成となっている。すなわち、本願商標の構成自体からも、本願商標を使用した商品の出所が著名な原告であることが明示されているのである。 加えて、本願商標を付したその指定商品は量販店向けであり、引用各商標を付したその指定商品は専らデパート向けであるから、両商品は、販路や販売店を異にし、その出所において誤認混同の生ずる余地はない。 さらに、本願商標の指定商品は、商品ごとに品番が付され、流通過程における取引及び在庫管理は品番によって行われていて、取引者はこれを称呼によって取引するのではない。また、本願商標の指定商品は、購入者の個人的な好みが強く反映する商品であり、消費者は、型、サイズ、色、デザインなどを基準に商品の選択をするものであって、称呼のみによって商品を購入することはない。 (3) 以上のように、観念及び外観の相違並びに取引の実情を総合して全体的に考察すれば、本願商標と引用各商標とは,仮に「バンベール」の称呼において同一であるとしても,それぞれの指定商品に使用されたとき,商品の出所について誤認混同を生ずるおそれは全くない。したがって、本願商標と引用各商標とは類似しないというべきである。 |
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被告の反論の要点
1 取消事由1について 原告は,本願商標を構成する「Vent Vert PAR PIERRE BALMAIN」の全体を引用各商標と対比すべきであり,その一部である「Vent Vert」のみを抜き出して対比するのは不当であると主張するが,次のとおり理由がない。 (1) 一般に,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われる程に不可分的に結合しているのでない限り,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念されることがあるから,かかる部分を分離したうえ,当該部分について他の商標との類否の判断を行うことが必要となり,当該部分について他の商標との類似が認められれば,両商標はなお類似するものというべきである。 (2) 本願商標については,以下のとおり,上記(1)にいう不可分的な結合があるとは認められない。 ア 外観については,「Vent Vert」と「PAR PIERRE BALMAIN」とは字体及び大きさを著しく異にするから,視覚上分離して把握され得る。 イ 称呼についてみると,本願商標全体を一連のものとして称呼するのは冗長であり,「Vent Vert」の部分のみを称呼する方が簡潔である。 ウ 観念についてみると,本願商標はフランス語からなり,一般の取引者,需要者はフランス語の綴り字の意味を理解できるとはいえないから,本願商標が全体として特定の観念を生じるものではない。 エ 取引の実情について見るに,本願商標のうち下段に配置された「PIERRE BALMAIN」は原告の商標(ハウスマーク)として著名なものであるから,本願商標に接する取引者,需要者は,「PIERRE BALMAIN」の文字を,当該商品の出所が原告であることの標識としてとらえ,上段の「Vent Vert」の文字を,原告の取り扱いに係る多くの商品の種類を個別化して特定するための標識として認識すると考えられる。したがって,「Vent Vert」の部分とその他の部分とは分離して把握されるものである。 (3) したがって,本件審決が,本願商標のうち「Vent Vert」の文字部分がその他の部分から分離されて称呼,観念されることも少なくないと認定した上で,同部分を抜き出して引用各商標との類否判断をしたことに,原告主張のような誤りはない。 (4) 原告は,被告の審判便覧及び過去の登録例との矛盾を指摘するが,以下のとおりいずれも理由がない。 ア 法50条1項は本件で問題となる法4条1項11号と立法趣旨を異にしているし,前者の「社会通念上同一」と後者の「類似」とは異なる概念である。したがって,法50条1項についての審判便覧の示す基準に従えば「Vent Vert」が本願商標と「社会通念上同一」の範囲に属しないことと,本件審決が「Vent Vert」のみを本願商標から分離して引用各商標との類否判断に供したこととが,相矛盾するとはいえない。 イ 原告は,過去の登録例を援用して本願商標も登録されるべきである旨主張する。 しかしながら,援用された登録例と本願商標とは,事案を異にするというべきである。加えて,ある商標が引用する商標と類似するかどうかは,個別に判断されるべきものであって,本願商標と引用各商標との類否判断の過程において,過去の登録例を参酌しなければならないものではない。 2 取消事由2について (1) 原告は,我が国におけるフランス語の普及の程度からみて,一般の取引者,需要者は本願商標の「Vent Vert」の部分をフランス語読みして発音することはできないから,本願商標から「ヴァンヴェール」の称呼が生じると判断した本件審決は誤りであると主張する。 確かに,欧文字による商標は,英語読みまたはローマ字読みによって発音されるのが一般的ではあるが,指定商品との関係において,英語以外の外国語やその発音をもって取引されているのが一般的であることもある。そして,本願商標の指定商品である被服,靴等を取り扱う業界においては,フランス製の商品が高級なものとして輸入及び取引されており,自ずとその商品にフランス語またはフランス語読みの商標が付されることが多いという取引の実情がある。したがって,本願商標に接する取引者,需要者は,「Vent Vert」の文字をフランス語読みして「ヴァンヴェール」と発音し,かかる称呼をもって取引に当たることも少なくないというべきであり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。 (2) 原告は,「Vent Vert」の文字からは,これをローマ字読みあるいは英語読みした「ヴェントヴェルト」あるいは「ヴェントヴァート」の称呼のみが生ずると主張する。 しかし,英語で「穴」「口」等を意味する「vent」はともかくとして,「vert」は,英語にも存在する単語ではあるが,一般的な英和辞典にも収録されていないものであるから,「Vent Vert」を英語読みする動機付けを与えられる者はほとんどないというべきである。また,原告自身が,「Vent Vert」をフランス語の読み方にその称呼を特定している。 したがって,原告の上記主張も失当である。 3 取消事由3について (1) 原告は,「ヴァ」「ヴェ」の音は「バ」「ベ」とは区別されるから,本件審決が「Vent Vert」の表記から「ヴァンヴェール」のほか「バンベール」の称呼を生ずると認定したのは誤りであると主張する。 しかしながら,日本語に元来存在しない子音「v」に代えて「b」による発音がされ,これに伴って,「ヴァ」行の片仮名文字に代わって「バ」行の表記がなされるのが一般的であり,このことは内閣告示「日本語の表記」の記載からも明らかである。そうすると,一般商取引の場において,本願商標を構成する「Vent Vert」の欧文字が「バンベール」と発音されることが多いというべきであり,これと同旨の本件審決の認定判断に誤りはない。 (2) 原告は,原告がその宣伝活動等を通して「Vent Vert」を「ヴァンヴェール」と発音すべきことを周知徹底させてきたから,「バンベール」の称呼が生じる余地はないとも主張する。 しかしながら,原告が援用する新聞記事等の証拠によるも,その一部に「Vent Vert」を「ヴァンヴェール」と発音することが記載されていることが明らかにされているにとどまり,かかる発音が唯一のものとして周知となっていたと認めることはできない。 4 取消事由4について (1) 原告は,「Vent Vert」の文字からは「『緑の風』を意味する原告のサブブランド」の観念が生じ,これが取引者,需要者間で周知となっていたから,仮に本願商標から引用各商標と同一の「バンベール」の称呼が生じるとしても,本願商標と引用各商標とが類似するとはいえないと主張する。 しかしながら,原告が援用する新聞記事,雑誌広告及びライセンシーリスト等の証拠によっては,そのような記事,広告及びライセンス契約等がなされた事実を認めることができるにとどまり,「Vent Vert」の文字から原告主張のような観念が周知となっていたとまでは認めることはできない。 (2) 原告は,取引の実情を考慮するときは,本願商標を付した商品と引用各商標を付した商品との間で出所の混同が生じるおそれはないと主張し,具体的には,@流通及び販売の経路が異なること,A本願商標の指定商品の需要者は品質,デザイン等によって商品を選択するのであり商標はその基準とはならないこと,B取引者は発注及び在庫管理等にあたって品番によって取引を管理するのが通常であり商標の称呼によって取引するのではないこと,等を指摘する。 しかしながら,まず,@については,商標の類否判断において参酌されるべき取引の実情とは,その指定商品全般についての一般的,恒常的な取引事情であるから,流通及び販売の経路に関する現時点での個別的事情は,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かの判断要素として重視すべきものではない。Aについては,商標(ブランド)が需要者の商品選択の重要な基準であることは公知の事実というべきである。Bについては,取引者が品番によって取引を管理するとしても,本願商標の指定商品の主たる需要者たる一般消費者にとっては,商品の出所につき誤認混同を生じるおそれがないとはいえない。 したがって,取引の実情を考慮してもなお,本願商標を付した商品と引用各商標を付した商品との間で誤認混同を生じるおそれがないとはいえず,原告の主張は理由がない。 (3) このように,本願商標と引用各商標とは観念において明確に相違するとはいえず,取引の実情を考慮しても,上記各商標を付した商品の間で出所の混同が生じるおそれがないとはいえないのであるから,両者から共通の「バンベール」の称呼が生じるものである以上,類似した商標であるというべきである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1について 原告は,本願商標は「Vent Vert PAR PIERRE BALMAIN」の全体が不可分一体であり,「Vent Vert」のみを分離して引用各商標と対比するのは不当であると主張するので,検討する。 (1) 一般に,簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているのでない商標は,常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,1個の商標から2個以上の称呼,観念の生ずることがあるのは,経験則の教えるところである。そして,この場合,1つの称呼,観念が他人の商標の称呼,観念と同一または類似であるとはいえないとしても,他の称呼,観念が他人の商標のそれと類似するときは,両商標はなお類似するものと解するのが相当である(最高裁昭和38年12月5日判決 民集17巻12号1621頁)。 原告は,上記判決がなされた当時と現在では前提となる社会基盤が全く異なると主張するが,社会基盤の相違の内容として具体的に主張しているのは,近時の商品取引業者がPOSシステム等を導入して,商標から生ずる称呼ではなく品番によって商品の一品管理をしている,という事情のみである。そして,仮にそのような販売管理及び在庫管理が商品取引業者にとって一般的となりつつあるとしても,宣伝広告や販売促進の場面においてはブランド名が一定の商品群を他のそれから識別するための機能を有していることは,業界紙の記事(甲10等)や原告自身が発した書状(甲12)によっても明らかであるから,原告の主張は当を得たものではない。また,本願商標の指定商品の需要者は一般の消費者であるところ,これら消費者が,複数の構成部分からなる冗長な商標に接した場合に,その一部から生ずる称呼,観念によって商品を識別する傾向のあることも経験則上明らかであるというべきである。 したがって,上記判決の示した法理は現在もなお妥当するものであり,以下これに沿って検討することとする。 (2) まず,本願商標の構成についてみると,本願商標は4段に分かれた欧文字からなり,1段目及び2段目は特徴的な筆記体で「Vent Vert」と大書されているのに対して,3段目及び4段目にはこれよりも小さく,一般的な活字体で「PAR PIERRE BALMAIN」と書されているものである。 本願商標のかかる構成からすると,本願商標において,特徴的な筆記体で大きく書された「Vent Vert」の文字部分が,ありふれた活字体で小さく書かれた「PAR PIERRE BALMAIN」に比して,顕著に際立った特徴を有する構成部分であることは一見して明らかである。また,「Vent Vert PAR PIERRE BALMAIN」を全体としてみれば24文字にも及ぶのに対して,「Vent Vert」は8文字であり,しかも「Vent」と「Vert」という極めて良く似た綴りの2語の組み合わせ(しかも相違点である「n」と「r」も字の形は良く似ている。)であるから,まとまりのよい一個の単位を構成しているということができる。かかる顕著な構成上の特徴に照らすと,「Vent Vert」の部分が本願商標に接する取引者及び需要者に対して最も強く訴える部分,すなわち本願商標の要部であることは明らかであるというべきである。 そして,「PIERRE BALMAIN」は原告の取扱商品の全般にわたって使用されている代表的出所標識(ハウスマーク)として著名なものであることは,当事者間に争いがない。これに対し,「Vent Vert」は原告が任意に選択したフランス語の単語を並べたものであり,商品の品質及び性能を記述的に表したものでもないから,この「Vent Vert」という部分自体も強い識別力を有しているということができる。そうすると,本願商標に接する取引者,需要者は,「PAR PIERRE BALMAIN」の文字によって当該商品の出所が原告であることを識別し,「Vent Vert」によって個々の商品の識別を行うであろうことも容易に推認可能であって,本件全証拠を検討してもこの推認を左右するに足りる証拠はない。したがって,本願商標を個々の商品に付して使用した場合,出所標識としての「PAR PIERRE BALMAIN」の部分と個々の商品識別機能を有する「Vent Vert」の部分が,一体不可分の関係にあるものといえないことは明らかである。 このように,本願商標中の「Vent Vert」と「PAR PIERRE BALMAIN」の各部分は,外観においては前者が要部,後者が付加的部分であると認識されるものであり,機能においては,両者がそれぞれ独立して前述した各機能を有するものであるということができる。そうすると,簡易迅速をたっとぶ取引の実際においては,本願商標から,外観において付加的部分である出所標識の「PAR PIERRE BALMAIN」の部分が省略され,これとは独立した個々の商品の識別標識である「Vent Vert」の部分のみによって称呼,観念されることを否定することはできない。 したがって,本件審決が,本願商標から「Vent Vert」の部分のみを抜き出し,これと引用各商標とを対比して類否の判断を行ったことに原告主張のような誤りはない。 (3) 原告は,この点につき,「Vent Vert PAR PIERRE BALMAIN」は,常に一体として「『PIERRE BALMAIN』のサブブランドの『Vent Vert』」の意味で取引者,需要者に認識されるものであり,上記のように分離して認識されることはないと主張する。しかしながら,「Vent Vert PAR PIERRE BALMAIN」は,欧文字24文字にもわたり,またこれを「ヴァンヴェールパルピエールバルマン」と発音した場合にも15音節にわたるのであるから,商標としてはいかにも冗長に過ぎ,このような場合,取引者,需要者が,商標の中から称呼または外観においてまとまりの良い一部を抜き出し,かかる称呼または外観に着目して取引にあたることは,経験則上明らかであるといわなければならない。 なお,原告は,商標の一体不可分性の判断について,審決の判断及び被告の主張は証拠に裏付けられていないからすべて失当である旨を再三にわたり主張する。しかしながら,当該商標に接する一般の取引者,需要者の認識がいかなるものであるかは,日常的な経験則によって判断し得るものであって,かかる日常的な経験則については必ずしも証拠による証明を必要とするものではないから,原告の主張は採用できない。 (4) 原告は,法50条1項について被告が審査便覧で示した判断基準を援用して,「Vent Vert」は「Vent Vert PAR PIERRE BALMAIN」の同一性の範囲内にないから,「Vent Vert」の部分のみを分離して商標の類否判断に供するのは不当であると主張するが,以下の理由により採用できない。 法50条1項の趣旨は,商標権者がその登録商標を現実に使用していない場合,その商標には業務上の信用が化体していないからこれを商標権者に独占させておくべき理由がなく,これを取り消すとするものである。これに対し,法4条1項11号は,商品又は役務の出所の混同を生じ得る商標が新規に登録されるのを排除するための規定である。このように,両者は立法趣旨を異にしているうえ,前者における「社会通念上同一」と後者における「類似」とは文言自体が異なるのであるから,それぞれに該当する商標の範囲が異なってくることも当然であるといえる(「同一」の方が「類似」よりも狭いことは明らかである。)。したがって,審判便覧の示す基準に従えば「Vent Vert」が法50条1項にいう本願商標の同一性の範囲に属しないことと,本件審決が「Vent Vert」のみを本願商標から分離して引用各商標との類否判断に供したこととが,相矛盾するとはいえない。 (5) 原告は,過去の登録例(甲80ないし93)に照らしても,本件審決が,本願商標のうち「Vent Vert」の部分のみを抜き出して類否の判断を行い,本願商標は引用各商標と類似すると判断したのは誤りである,と主張する。 しかし,原告の指摘する登録例を個々に検討すると,原告の主張は成り立たない。例えば,甲80ないし甲83によれば,「PASTEL パステル」の既登録商標があるにもかかわらず「Pastel de GRES」が登録された事実は認められるが,「PASTEL」の部分は指定商品である化粧品についてその性状(「パステル調」など)を記述的に表したものであって識別力が弱いこと,「Pastel de GRES」をフランス語読みした呼称である「パストゥルドゥグレ」は冗長とはいえないから「Pastel」と「de GRES」とが分離して称呼,観念されるとは必ずしもいえないこと,等の点において引用各商標と本願商標との類否判断とは状況を異にしている。 また,甲84の「Salon de Washington」と甲85の「SALON サロン」,甲88の「JUNK by Junko Shimada」と甲89の「JUNK」の各事例では,指定商品が異なっているから,商品が類似しないという判断の結果として登録がなされたことも考えられる。甲86の「SUI by ANNA SUI」は,これを一連のものとして「スイバイアナスイ」と呼称することが冗長であるとはいえず,必ずしも最初の「SUI」のみを分離して甲87の「SUI スイ」との類否判断をするべきだともいえない。このように,これらの登録例はいずれも本件とは事案を異にしており,本件審決の判断と必ずしも矛盾するものとはいえない。 また,一見,本件審決の判断と異なる見解に出るかのように見られるものにあっても(甲90の「Gio DE GIORGIO ARMANI」と甲91の「Gio」,甲92の「VENUS par MON PICASSO」と甲93の「Venus」),もともと商標の類否は,指定商品に関する取引の実情等に即して,商標の構成を具体的全面的に対比検討して決せられるべきことであって,過去の被告の取扱事例が必ずしもそのまま現在における法的判断の基準となり得るものではないし,また過去の登録例にも誤りなきを保し難いのであるから,原告の指摘する登録例の存することをもって,本件における本願商標と引用各商標との非類似を裏付けることはできない。なお,甲90と甲91ではいずれも権利者が同一であること,甲92と甲93では甲92の方が先願であるうえに両商標の審査が同時期に並行して行われていること,といった点で,本願商標と引用各商標との関係とは異なる面があることも留意されるべきである。 よって,過去の登録例との矛盾を理由とする原告の主張も,採用の限りでない。 2 取消事由2について (1) 原告は、本願商標の指定商品の取引者,需要者の相当多数が欧文字を正確なフランス語読みで発音できるという事実はないから、本願商標から「ヴァンヴェール」の称呼を生ずるとした審決の認定は誤りである旨主張する。 しかしながら、本願商標の指定商品は被服等のいわゆるファッション製品であり,かかる商品の商標名としてはフランス語が好んで用いられる傾向にあることは当裁判所にも顕著な事実であるから、本願商標の指定商品の取引者,需要者ならば、その相当多数が本願商標をフランス語読みすることの動機付けがある。また,原告がフランスに本拠を置き世界的にも著名なオートクチュールであることは当事者間に争いがなく,その名称である「PIERRE BALMAIN」を構成部分として含む本願商標にあっては,「Vent Vert」の部分についてもこれをフランス語として読もうとするのが自然であるといえる。したがって,「Vent Vert」という表記からは,これをフランス語読みした「ヴァンヴェール」の称呼が生じると認めるのが相当である。 (2) 確かに,原告が主張するように,我が国においてはフランス語に比べて英語の方が格段に普及していることは,公知の事実である。そして,本願商標を構成する「Vent」及び「Vert」という綴りの単語は,いずれも英語にも存在し,その綴り字は英単語として特異なものではなく,それぞれ「ヴェント」及び「ヴァ-ト」と発音されるものであると認められる。 そうすると,本願商標に接した取引者,需要者のうちには,「Vent Vert」の部分を「ヴェントヴァート」と発音する者も少なくないものと認められる。なお,この点につき,被告は「vert」が良く知られた英単語とはいえないからこれを英語読みすることの動機付けがないと主張するが,商標として採用される外国語は一般的な単語に限らず,地名及び人名等の固有名詞や造語であることも少なくないのであるから,語義が知られていないことは,商標として用いられた「Vent Vert」を英語読みすることの妨げにはならない。 しかしながら,このことは,商標の類否判断にあたり本願商標からフランス語読みの「ヴァンヴェール」の称呼が生ずると認定することの妨げにはならない。けだし,上記(1)のとおり,本願商標には「Vent Vert」の部分をフランス語読みすることに対する強い動機付けが存在するからである。 (3) よって、本願商標から「ヴァンヴェール」の称呼が生じると認定したことについて,本件審決の判断に誤りはなく,取消事由2における原告の主張は採用できない。 3 取消事由3について (1) 原告は,「Vent Vert」の表記から「ヴァンヴェール」の呼称が生じるとしても,「バンベール」の呼称は生じることはなく,本件審決が,かかる呼称が生じるとして本願商標と引用各商標とが呼称を同一にすると判断したのは誤りであると主張する。 確かに,正確なフランス語の発音においては、「v」の綴りを含む語(「ヴァ」「ヴェ」)と、「b」の綴りを含む語(「バ」「ベ」)とが音として識別され得ることは公知の事実である。しかしながら、子音「b」が日本語に存在する音であるのに対し、子音「v」は日本語の発音には元々存在していなかった音であることも公知の事実であり,日本人としては、「v」音の発音や聴別が必ずしも容易ではないため、日本国内における日常会話や一般商取引の場等において、子音「v」を含む語(外国語又は外来語)が用いられる場合においても、その綴りの部分が正確に発音され難く、むしろ、日本人にとってなじみ深く、しかも「v」音と発音が極めて近似する子音「b」による発音が「v」音による発音に取って代わり、これに伴って、その表記においても、本来の「ヴァ」、「ヴィ」、「ヴ」、「ヴェ」、「ヴォ」の各片仮名文字に代わって、「バ」、「ビ」、「ブ」、「ベ」、「ボ」の各片仮名文字が使用されるのが一般的であることは容易に推認することができる。 そうすると、一般商取引の場等において、本願商標の一部である「Vent Vert」の欧文字がその正確なフランス語読みである「ヴァンヴェール」ではなく「バンベール」と発音されることが多いものと推認され、「Vent Vert」の表記からは「バンベール」の称呼も生ずるものと認めるのが相当である。 (2)ア 原告及びその保有する商標の「PIERRE BALMAIN」が我が国において著名であること、原告が1989年に開発した香水にフランス語で「緑の風」を意味する「VENT VERT」の商標を付し、同年からこれを我が国でも販売していること、原告が、1996年(平成8年)5月に、「VENT VERT」を「PIERRE BALMAIN」のサブブランドとし、香水に加え、あらゆるファッション関連製品について使用し、我が国においてその商品展開を行うことを決めたこと、その旨が日本経済新聞、日本繊維新聞、日経流通新聞及び繊研新聞によって報じられたこと、同年6月28日に、原告が記念パーティを催して関連業者及び報道機関を集め、上記商品展開の告知をしたことは当事者間に争いがない。 イ 原告は、上記の経過において,「VENT VERT」を「ヴァンヴェール」と称呼することを原告が周知徹底させたから、本願商標の「Vent Vert」の部分からは「ヴァンヴェール」の称呼のみ生じ、「バンベール」の称呼は生じない旨主張する。 しかしながら、日本における「VENT VERT」ブランドの商品展開の決定を報じた上記日本経済新聞(平成8年5月8日付け、甲8)、日本繊維新聞(同月14日付け、甲9)及び日経流通新聞(同月16日付け、甲10)の各記事は、本文の字数が五百数十字から七百数十字程度のものであって、それぞれ「ヴァンヴェール」とのブランド名が記載されているものの、日本繊維新聞記事には「VENT VERT」の語句の記載はなく、さらに、いずれの記事中にも、「VENT VERT」が「バンベール」ではなく「ヴァンヴェール」と称呼することを強調した記載は全く見当たらない。なお、繊研新聞記事(同月29日付、甲11)は、株式会社三貴の店舗において「ヴァン・ヴェール・ピエール・バルマン」の婦人パンツスーツの売れ行きがよいという内容の本文三百字余りの記事であって、本願商標の構成、「VENT VERT」の語句、 及び「VENT VERT」を「バンベール」ではなく「ヴァンヴェール」と称呼する旨の記載は全くない。 また、雑誌「BRUTUS」平成10年10月1日号(甲41)及び同誌同月15日号(甲42)、雑誌「ヴァンサンカン」同年10月号(甲43)及び同誌同年11月号(甲45)、雑誌「エル・ジャポン」同年10月号(甲44)及び同誌同年11月号(甲46)にそれぞれ掲載された広告には、いずれも「VENT VERT」、「BALMAIN」、「PARIS」の各欧文字を上下3段に配置し、「VENT VERT」の部分のみ大きい筆記体とし、また「PARIS」の部分はごく小さく書してなる商標が記載されているが、同広告中に「VENT VERT」が「バンベール」ではなく「ヴァンヴェール」と称呼する旨の記載もない。 そうすると、平成8年5月に上記の程度内容の各新聞記事が掲載され、また、平成10年10月〜11月ころに、上記3誌に各2回宛て上記内容の広告が掲載されたからといって、平成8年5月ないし6月から本件審決時までの間に、「VENT VERT」の称呼が「バンベール」ではなく「ヴァンヴェール」であることが我が国において周知になったものとは到底認め難い。 また,原告が「Vent Vert」の称呼及び日本語表記が「ヴァンヴェール」であることを周知徹底していたとしても,取引者,需要者が現実に商品に付された本願商標の「Vent Vert」の表記に接する場面は,上記新聞記事等に接するのとは時と所を異にする。そうであれば,上記(1)のとおり「ヴァ」「ヴェ」と「バ」「ベ」の音が相紛れやすいものである以上,「Vent Vert」の表記から正確な「ヴァンヴェール」ではなく「バンベール」の称呼を想起することは十分にあり得ることであると考えられ,この点からしても,原告の主張は採用できない。 4 取消事由4について (1) 原告が主張するように、商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるかどうかによって決せられるべきものであり、その際、商品に使用された商標が、その外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、全体的に考察すべく、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、 その具体的取引状況に基づいて判断すべきものであること(前記2(2)引用の最高裁判決)、そして、この判断に当たり、商標の称呼、外観又は観念の同一又は類似は、それぞれその商標を使用した商品についての出所の誤認混同のおそれを推測させる基準ではあるが、その一つが類似したとしても、他の二つにおいて著しく相違したり、具体的な取引の実情のいかんによっては、商品の出所に誤認混同を来すおそれを認め難いものとして、両商標を類似商標と解すべきでない場合もあることは、一般論として正当である。 そこで、この点に留意しつつ、本願商標と引用各商標との類否について検討する。 (2)ア 本願商標から「バンベール」の称呼が生ずることは上記3のとおりであり、また、引用各商標から「バンベール」の称呼が生ずることは当事者間に争いがないから、本願商標と引用各商標とは同一の称呼を有するものである。一方,本願商標と引用各商標とが外観上相違することは当事者間に争いがない。 イ そこで,観念について検討するに,原告は、上記3(2)アの経過を通じて,「Vent Vert」が「緑の風」を意味する旨及びこれを原告の新しいサブブランドとして展開する旨を周知徹底させたから,「Vent Vert」からは「『緑の風』を意味する原告のサブブランド」という周知の観念が生ずる旨主張するが、かかる新聞記事の掲載等の事実によってはそのような観念が取引者,需要者間において周知になったと認めるには足りない。また,上記3(2)イに検討した新聞記事や雑誌広告等の具体的内容からみても,「ヴァンヴェール」が「緑の風」を意味する旨の記載はないから,たとえ原告自体は著名であっても、「VENT VERT」が「『緑の風』を意味する「PIERRE BALMAIN」のサブブランド」という観念を有するものであることが我が国において周知となったとは認められない さらに,仮に一旦はそのような観念が周知となったとしても,これらの新聞記事等は平成8年,雑誌広告は平成10年のものであるから,本件審決時においてそのような観念がなお周知であることになるわけでもない。 そうすると、本願商標からは特定の観念が生じないといわざるを得ず、他方、引用各商標からも特定の観念が生じないことは当事者間に争いがないから、本願商標と引用各商標とは、観念において相違するということはできない。 ウ 原告は、本願商標を付したその指定商品は量販店向けであり、引用各商標を付したその指定商品は専らデパート向けであるから、両商品の出所において誤認混同の生ずる余地はない旨主張し、A作成の「証明書」と題する書面(甲76)にこれに沿う記載がある。しかしながら、仮にそのような事実が存在するとしても、少なくとも、本願商標及び引用各商標が使用される「被服」等の商品分野における主たる需要者である一般的な消費者にとって、本願商標を付した被服等は量販店において、引用各商標を付した被服等はデパートにおいて専ら販売されることが周知であるといえなければ、そのような事実が存在するゆえに、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがないとはいえないところ、そのことが一般的な消費者に周知であることを認めるに足りる証拠はない。かえって,乙4(インターネット上のホームページ)によれば,引用各商標を付した被服がブティックで販売されている事実も認められ,このように商品の流通経路は変化し得るものなのであるから,原告主張のように流通経路が明確に異なるとはいえない。 さらに、原告は、本願商標の指定商品は、流通過程における取引及び在庫管理は品番によって行われ、称呼によって取引されるものではなく、また、本願商標の指定商品は、購入者の個人的な好みが強く反映する商品であり、消費者は、型、サイズ、色、デザインなどを基準に商品の選択をするものであって、称呼のみによって商品を購入することはないと主張するが、本願商標の指定商品が、一般に購入者の個人的な好みが強く反映する商品であるとしても、本願商標の指定商品、特に「被服」の商品分野で、上記主たる需要者である一般的な消費者の商品選択において、 型、デザイン、色、サイズ等のほか、商標(ブランド)もその重要な基準となることは公知の事実というべきである。そうとすると、仮に、流通過程における取引及び在庫管理が品番によって行われているとしても、そのゆえに、上記主たる需要者である一般的な消費者にとって、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがないとはいえない。 エ 原告は,本願商標には「PAR PIERRE BALMAIN」の表記が存するから,本願商標の構成自体からも、本願商標を使用した商品の出所が著名な原告であることが明示されており,出所の混同は起こり得ないと主張する。 しかしながら,上記1のとおり,本願商標において「PAR PIERRE BALMAIN」の部分は「Vent Vert」の部分と不可分一体をなすものではないから,簡易迅速をたっとぶ取引の実際においては,本願商標のうち「PAR PIERRE BALMAIN」の部分が省略されて用いられる場合のあることは否定できない。また,本願商標に接した一般消費者が時と所を異にして引用各商標に接したときには,本願商標のうち「Vent Vert」の部分のみを記憶しており,かかる記憶をもとに引用各商標との対比を行うことも十分に考えられる。そうすると,本願商標の構成に「PAR PIERRE BALMAIN」が含まれていることをもってしても,常に出所の混同を避けることができるとは限らないことになる。 オ そして、他に,具体的な取引の実情において、本願商標を付したその指定商品と、引用各商標を付したその指定商品との間に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがないといえるような事情を認めるに足りる証拠はない。 (3) 上記(2)に検討したところによれば,本願商標と引用各商標は称呼を共通にし、外観においては相違するものの観念において相違するということはできない上、本願商標及び引用各商標の指定商品も同一又は類似のものであることから,具体的な取引の実情において、本願商標を付したその指定商品と、引用各商標を付したその指定商品との間で、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあることになり,両商標は類似するものというべきである。 したがって、本願商標と引用各商標とが類似の商標であるとした審決の判断に誤りはなく、そうであれば、本願商標が商標法4条1項11号に該当するとしたことについても誤りはない。 5 以上のとおり,原告主張の取消事由によっては,本件審決を違法として取り消すことはできず,また,他に,本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。よって,本件審決は相当であり,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 北山元章 |
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裁判官 | 清水節 |
裁判官 | 上田卓哉 |