関連審決 | 不服2010-15007 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成23行ケ10093審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成19ネ3057商標権侵害差止等請求控訴事件 平成20ネ420同附帯控訴事件 | 判例 | 商標 |
平成22行ケ10171審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成22行ケ10332審決取消 | 判例 | 商標 |
平成18行ケ10279審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 役務の提供 / 識別機能 / 指定役務 / 3条2項 / 混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) / 4条1項11号 / 類似性(類否判断) / 結合商標 / 役務の類似 / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 全体観察 / 要部観察 / 取引の実情 / 出所の混同 / 商号 / |
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事件 |
平成
23年
(行ケ)
10131号
審決取消請求事件
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原告X 訴訟代理人弁護士 若井広光 被告特許庁長官 指定代理人田中亨子 同 小林由美子 同 田村正明 同 芦葉松美 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2011/10/24 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 被告が不服2010−15007号事件において,平成23年3月7日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文と同旨。 |
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前提となる事実(弁論の全趣旨から容易に認められる。)
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成20年6月17日,「ユニヴァーサル法律事務所」の文字を標準文 1字で表してなり,第45類「訴訟事件その他に関する法律事務」を指定役務とする商標(以下「本願商標」という。)を登録出願したが,平成22年4月6日,拒絶査定を受け,同年7月6日,これに対する不服の審判(不服2010-15007号事件)の請求をした。 特許庁は,平成23年3月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」とする審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月17日,原告に送達された。 2 審決の理由 別紙審決書写しのとおりである。要するに,審決は, (1)本願商標と引用商標(指定役務を第42類「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務」とする登録第3122326号商標,平成4年9月30日登録出願,平成8年2月29日設定登録。別紙「引用商標」のとおり。)とは,外観についての相違を考慮してもなお,両商標より生ずる「ユニバーサル」の称呼及び「全世界の,普遍的な」の観念において共通し,両商標は類似し,指定役務も同一又は類似であるから,本願商標は,商標法4条1項11号に該当すると判断した。 (2)その理由として,本願商標については,その構成中「法律事務所」の文字部分は,「弁護士が法律に関する諸事務を取り扱う所。」の意味を有する語であり,指定役務との関係においては,役務の提供場所等を表示したにすぎず,自他役務の識別標識としての機能が極めて弱く,その構成中の「ユニヴァーサル」の文字部分を自他役務の識別標識と捉え,これより生ずる称呼をもって取引にあたる場合も少なくないものと認められることから,本願商標は,「ユニバーサルホウリツジムショ」の一連の称呼を生ずるほか,「ユニヴァーサル」の文字部分より,単に「ユニバーサル」の称呼をも生じ,「普遍的な,全世界の」等の観念を認識させると認定した。 (3)引用商標については,地球と思しき図形の下に表わされたリボン状の図形内に筆記体で「Universal」の欧文字を書した構成からなるが,各図形部分と欧文字部分とは,視覚上分離して看取されるものであり,観念上もこれらが常に 2一体不可分のものとしてのみ認識,把握されるとみるべき特段の事情は見受けられず,その構成中の「Universal」の文字部分を自他役務の識別標識と捉え,これより生ずる称呼をもって取引に当たる場合も少なくないものと認められることから,「Universal」の文字部分より,「ユニバーサル」の称呼及び「全世界の,普遍的な」等の観念を生ずるものであると認定した。 |
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当事者の主張
1 原告の主張する取消事由 審決には,以下のとおり,商標法4条1項11号該当性についての判断の誤りがある。すなわち, (1) 全体観察について 商標の類否は,商標の全体を一体として観察する全体観察が原則であり,商標の構成部分の一部を抽出して類否の判断をする要部観察等は,その構成部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合,それ以外の構成部分からは出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合に,例外的に認められるだけである(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,同昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁,同平成20年9月8日第二小法廷判決・集民228号561頁参照)。 本願商標は,「ユニヴァーサル法律事務所」の商標全体が一体となって,外観,観念,称呼を生じさせ,取引者・需要者に対し,弁護士が法律事務を提供するとの強い印象,記憶,連想を与えるものであるから,商標の全体を一体として観察し,引用商標との類否を判断すべきである。 本願商標は,「ユニヴァーサル」との片仮名部分と「法律事務所」との漢字部分の結合商標として,両部分を補充的に分離して観察することも可能であるが,「法律事務所」との部分は,法律事務所とそれ以外の企業との間での自他商品又は役務の出所識別標識としての機能を果たし,提供される商品又は役務の誤認混同が避け 3られているのであるから,この部分も特徴的な部分というべきであり,これを捨象して観察することは許されない。 (2) 外観,称呼,観念及び取引の実情等の対比 以下のとおり,本願商標及び引用商標の外観,観念,称呼を対比し,本願商標と引用商標がそれぞれ取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合すれば,出所の誤認混同を生じるおそれはない。 ア 外観 本願商標は,「ユニヴァーサル法律事務所」の各文字が標準文字で記載されているのに対し,引用商標は,地球儀を模した図形の下に,これを包むようにしてリボン状の図形を描き,そのリボン状の図形中に「Universal」の英単語文字を筆記体が記載されており,両商標は,外観において相違する。 イ 観念 本願商標は,「ユニヴァーサル」との片仮名部分と「法律事務所」との漢字部分の結合商標である。本願商標中の「ユニヴァーサル」は,「普遍的な」ないし「全世界の」という観念を生じさせるものの,取引者・需要者にとっていかなる商品又は役務を提供するものなのかを観念することはできないから,片仮名部分が取引者・需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象,記憶,連想を与えることはない。一方,本願商標中の「法律事務所」は,弁護士の事務所であると直ちに観念でき,役務の内容も容易に連想できるから,その印象も強く,記憶にも残りやすい。したがって,本願商標は,「ユニヴァーサル」の部分と「法律事務所」の部分が一体となって,「普遍的な」ないし「全世界の」という漠然とした観念を想起させつつ,弁護士が依頼者の権利を守り正義を実現するという法律事務を提供するとの観念を想起させる。 これに対し,引用商標は,地球儀等を模した図形から地球や世界の観念を生じさせ,「Universal」の文字からも「普遍的な」ないし「全世界の」という観念が生じるから,全体として「全世界」という観念が強調され,外観と同様に 4「全世界」という印象,記憶,連想を与える。 したがって,本願商標と引用商標とは,観念において,相違する。 ウ 称呼 本願商標は,「ユニヴァーサル法律事務所」からは,「ユニバーサルホウリツジムショ」という一連の称呼を生じる。これに対し,引用商標は,地球儀を模した図形とリボン状の図形は称呼を生じさせず,「Universal」の英単語部分だけが「ユニバーサル」という称呼を生じさせる。したがって,本願商標と引用商標とは,称呼において,相違する。 エ 指定役務及び取引の実情 本願商標の指定役務は,工業所有権に関する法律を含む法律事務全般を含むから,引用商標の指定役務とも重なる部分があり,弁護士は,弁理士及び税理士の事務を行うことができる(弁護士法3条2項)とされている。 しかし,取引の実情において,弁護士が工業所有権に関する手続等に関与するのは,主に工業所有権に係る訴訟事件の代理であり,弁護士が特許等の出願に関与することは殆どない。弁理士は,一定の場合に訴訟代理人となることができるが,その範囲等には制限がある(弁理士法5条,6条,6条の2)。また,訴訟事件の代理を超えて工業所有権に関する事務に関与する弁護士は,一部の巨大法律事務所を除いて,法律事務所の名称に「法律特許事務所」,「特許法律事務所」のように「特許」の文字を挿入している事務所に所属しているのが一般である。かかる名称を付した法律事務所に所属する弁護士は現在391名おり(甲8),こうした名称の事務所や巨大法律事務所に所属する弁護士のみが,訴訟代理以外の「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務」をも扱っているというのが実情である。 そして,それ以外の一般の法律事務所に所属する弁護士は,通常,訴訟代理を除いて工業所有権に関する事務を扱わない。すなわち,取引の実情においては,上記一部の法律事務所に所属する弁護士を除いて,「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務」のうち,弁護士が扱う事務は訴訟代理,その他の事務を扱うの 5は弁理士という棲み分けができている。 このような取引の実情から,取引者・需要者は,工業所有権に係る訴訟代理については事務所の名称に「特許」の文字がない法律事務所に所属する弁護士に委任することはあっても,工業所有権に関するその他の事務を,一般の弁護士に委任することは殆どなく,一般の弁護士が提供する役務と弁理士が提供する役務の実質的な違いを十分に判断できる。原告は,平成10年9月8日から「ユニヴァーサル法律事務所」の名称の法律事務所を経営しているが,今日に至るまで,この名称を引用商標と誤認して「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務」に関する相談又は依頼を受けたことはなく,弁護士登録以降約20年の間に工業所有権関係の訴訟代理人を務めたことが二,三度あるほかは,「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務」に関する依頼を受けたことがない(甲9)。 以上のとおり,取引の実情に照らして本願商標と引用商標の指定役務の類似性を実質的に判断するならば,両役務は密接な関係にあり抽象的には一部重なる部分はあるものの,その重なる部分についても,原則として,取引者・需要者は,当該弁護士が所属する法律事務所の名称等によって役務の出所を認識,判断できるから,弁護士が提供する「訴訟事件その他に関する法律事務」と,通常は弁理士が提供する「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務」とは,仮に同一又は類似の商標が使用された場合でも,誤認混同のおそれはないから,本願商標と引用商標とは,類似しない。 (3) まとめ 本願商標と引用商標の外観,観念,称呼等の与える印象,記憶,連想等を総合し,取引の実情を考慮して,全体的に考察すれば,両商標は,各指定役務に使用された場合において,出所の誤認混同のおそれはない。 2 被告の反論 以下のとおり,本願商標をその指定役務について使用するときは,引用商標との間において,役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるというべきであり, 6本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の認定,判断に誤りはない。 (1) 全体観察に対して 商標の類否判断において,複数の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合,あるいは,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合には,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分を他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することができるというべきである。 本願商標の指定役務である「訴訟事件その他に関する法律事務」は,工業所有権に関する法律を含む法律全般に関する事務を含むものであるから,引用商標の指定役務「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務」を包含する。 本願商標の指定役務は,弁護士が主体となって開設する法律事務所において提供する法律業務であり,「弁護士の事務所は,法律事務所と称する。」と規定され(弁護士法20条),日本弁護士連合会の法律事務所等の名称に関する規程では,「弁護士はその法律事務所に名称を付するときは事務所名称中に『法律事務所』の文字を用いなければならない。」と規定される(3条)。 「法律事務所」の文字は,弁護士が法律に関する諸事務を取り扱う所との意味合いを有する語であることから,本願指定役務の提供の場所のほか,業種・業態名を表すものであり,この種役務の提供を行う者の事務所の名称に使用すべく義務づけられているものであることからすれば,法律事務所の名称において,事務所を特定するための不可欠な要部は,「法律事務所」以外の文字といえる。 本願商標は,法律事務所の名称を表示したものと理解,認識させるものであって,「法律事務所」の文字部分は,前述のとおり指定役務の提供の場所,業種・業態名を表すことから,商号の一部分として通常使用される会社等の法人組織の種類を表す「株式会社」,「CO.」等の文字が自他商品又は役務の識別機能を果たし得ないものであることと同様に,出所識別標識としての称呼,観念は生じないというべきである。そうすると,本願商標は,「ユニヴァーサル」の文字部分が,その事務 7所を特定する不可欠な要部であって,「ユニヴァーサル」の文字部分に着目した称呼及び観念が生じる。本願商標と引用商標との類否判断に際して,本願商標から「ユニヴァーサル」の文字部分を抽出することは許される。 (2) 外観,観念,称呼及び取引の実情等の対比 ア 外観 本願商標は,「ユニヴァーサル法律事務所」の文字を表してなり,その構成は,「ユニヴァーサル」の文字部分が片仮名で表記され,また,「法律事務所」の文字部分が漢字で表記されていることから,これに接する需要者に,一体不可分のものとのみ看取されるというよりは,「ユニヴァーサル」と「法律事務所」との二語に視覚上分離して看取される場合があるものといえる。 これに対して,引用商標は,地球儀を模した図形と,その下にリボン状の図形を描き,そのリボン状の図形中に「Universal」の欧文字を筆記体により表記されている。 本願商標と引用商標とは,外観上は,区別され得る。 イ 観念及び称呼 本願商標中の「ユニヴァーサル」の文字部分は,「普遍的な,全世界の」の意味を有する語であるのに対し,「法律事務所」の文字部分は,「弁護士が法律に関する諸事務を取り扱う所」の意味を有する語であって,本願商標の指定役務である「訴訟事件その他に関する法律事務」との関係においては,役務の提供の場所のほか,業種・業態名を表示した文字部分といえることから,本願商標は,「ユニヴァーサル」の文字部分が,独立して自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものである。したがって,本願商標は,その構成文字全体に相応した「ユニバーサルホウリツジムショ」の称呼を生じ,「ユニヴァーサルという法律業務を行う事務所」程の観念を抱かせるほか,「ユニヴァーサル」の文字部分に着目した場合は,「ユニバーサル」の称呼を生じ,「普遍的な,全世界の」程の観念を生ずるものである。 8 これに対して,引用商標の地球儀を模した図形及びその下のリボン状の図形からは,直ちに特定の称呼及び観念を生じさせるものではなく,「Universal」の文字部分をより印象付けるための図形といい得るものであるから,引用商標に接する需要者は,その構成中に表された「Universal」の欧文字部分に着目し,これから生ずる称呼及び観念をもって取引に当たるものとみるのが自然であり,引用商標は,「Universal」の文字部分が独立して自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものである。そして,「Universal」の文字は,「普遍的な.全世界の」等の意味を有する語であるから,該語に相応した「ユニバーサル」の称呼を生じ,「普遍的な,全世界の」等の観念を生じる。 本願商標は,その構成中の「ユニヴァーサル」の文字部分から「ユニバーサル」の称呼を生じ,引用商標は,「Universal」の文字部分から「ユニバーサル」の称呼を生ずるものであるから,両者は,「ユニバーサル」の称呼を共通にする。また,本願商標の「ユニヴァーサル」の文字部分,引用商標の「Universal」の文字部分から,それぞれ「全世界の,普遍的な」等の共通の観念を生じる。 両商標は,観念及び称呼において,類似する。 ウ 指定役務及び取引の実情 法律事務所の名称に関しては,@インターネット等において,「法律事務所」が,その事務所の名称において「法律事務所」を省略している例があり(乙5ないし8),A法律事務所以外の者が,「法律事務所」の名称において,「法律事務所」を省略している例があり(乙9ないし12),B法律事務所の名称において,「法律事務所」を省略して記載している新聞情報がある(乙13ないし16)。 これらの事実によれば,法律事務所の名称に接する需要者に,法律事務所を特定する不可欠な要部である文字は「法律事務所」部分以外の文字部分であると容易に理解,把握させるものであるから,本願商標は,その構成中「ユニヴァーサル」の文字部分が独立して自他役務の識別標識としての機能を果たし得るというべきであ 9る。 (3) まとめ 本願商標と引用商標とは,外観上の相違を考慮してもなお,「ユニバーサル」の称呼及び「全世界の,普遍的な」等の観念を共通にするものであるから,両者は,出所の混同を生じさせるおそれのある類似の商標であって,その指定役務も同一又は類似である。 |
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当裁判所の判断
当裁判所は,原告主張の取消事由には理由があり,審決は,違法として取り消されるべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである(なお,本願商標の指定役務は,工業所有権に関する法律を含む法律事務全般を指すものであり,引用商標の指定役務を包含する点は,当事者間に争いがない。)。 1 本願商標と引用商標の外観,観念,称呼及び取引の実情等について (1) 外観について ア 本願商標 本願商標は,「ユニヴァーサル法律事務所」の文字が表記され,左側「ユニヴァーサル」の文字部分が片仮名で表記され,また,右側「法律事務所」の文字部分が漢字で表記された,標準文字による商標である。 イ 引用商標 引用商標は,以下のとおりの図形及び文字から構成されている。同商標は,上方には円が表記され,下方には帯様の図形が表記され,帯様図形の中央には,「Universal」の欧文字が筆記体で記載され,これらの組み合わせからなる商標である。 上方の円は,@中心点を通り,直交する縦横の直線が,A縦方向には,最上端と最下端において,それぞれ1点に収束する8本の曲線が,B横方向には,上側半円部では,中央から左右に向かって,互いに交わることなく,なだらかに上昇する4本の曲線が,下側半円部では,中央から左右に向かって,互いに交わることなく, 10なだらかに下降する4本の曲線が,描かれている。球体(立体)を模写したように描かれているが,上側半円部は,立体を上方から下方に目視したような斜視図的な表現がされているのに対して,下側半円部は,立体を下方から上方に目視したような斜視図的な表現がされており,特異な描かれ方がされている。手毬,地球,惑星等の星,天体,児童公園の遊戯具(回転ジャングルジム),ユニバーサルスタジオのユニグローブを模したような図形など,何を対象として描いたかを一義的に特定することはできない図柄であるといえる。 下方の帯様図形は,中央から左右に,曲線を描きながら延伸し,中途において,なだらかに中央に向けて,奧方向かつ中央方向に屈曲し,さらに左右両翼に延伸するように描かれ,最端部は,中央がくびれた,くさび形状を呈している。帯様図形は,上方の円と比較して,横の長さは,約2倍に表記され,また,上方の円の最下端部を覆い被せるように,重ねて描かれている。帯様図形は,立体を上方から下方に目視したような斜視図的な表現がされているのに対して,上方の円の下側半円部が,球(立体)を下方から上方に目視したような斜視図的な表現がされていることと対比すると,看者の視点が定まらない点において,特異な描かれ方がされているといえる。 帯様図形の中央には,「Universal」の欧文字が,やや右に傾けた,必ずしも,読みやすいとはいえない筆記書体で,横一直線に表記されている。帯様図形が,看者に対して遠近感を抱かせる手法で,風になびいているように描かれている点と対比すると,横一直線に表記された文字と帯様図形とは,調和しないため,文字が帯様図形の上に描かれているように見ることができず,この点でも,特異な描かれ方がされているとの印象を与える。 以上のとおりであり,本願商標は,「ユニヴァーサル法律事務所」との文字からなるのに対して,引用商標は,上記のような図形からなり,外観において著しく異なる。 (2) 観念,称呼について 11 ア 本願商標 本願商標は,「ユニヴァーサル」と「法律事務所」により構成されているが,標準文字からなる「ユニヴァーサル法律事務所」の各文字は,同一の大きさで,等間隔にまとまりよく配列されていること,片仮名部分と漢字部分との間に切れ目がないこと,本願商標中の「ユニヴァーサル」は,「普遍的な,全世界の」等の意味を有する一般的な語であって,格別に強い印象を与える名称とはいえないこと,また,本願商標中の「法律事務所」は,弁護士の事務所を称するものと規定され(弁護士法20条),日本弁護士連合会の法律事務所等の名称等に関する規程3条において,弁護士はその法律事務所に名称を付するときは事務所名称中に「法律事務所」の文字を用いなければならないとされていること(乙4),したがって,「ユニヴァーサル」のみの表記によって,弁護士としての業務を行うことは,通常は想定されないこと等に照らすならば,需要者,取引者において,本願商標中の「ユニヴァーサル」との部分のみによって,指定役務の出所が識別されることは,通常はないものと解するのが相当である。 本願商標は,「ユニヴァーサルホウリツジムショ」の称呼が生じ,また,「全世界の,普遍的な」等の意味を有する「ユニヴァーサル」という語を名称の一部として有する法律事務所との観念を生じると認められる。 イ 引用商標 引用商標は,その上方の円図形からは,手毬,地球,星,天体,球などの観念,下方の帯様図形からは,帯,リボンなとの観念,文字部分からは,「全世界の,普遍的な」などの観念を生じ得る余地があるが,必ずしも,一義的に確定できるものではない。また,同商標から,法律事務所であるとの観念は生じない。引用商標の図形からは,看る者によって,上記各観念に対応する称呼を生じる余地があり,また,文字部分から「ユニバーサル」の称呼を生じる余地があるが,必ずしも,一義的に確定できるものではない。 したがって,本願商標と引用商標とは,称呼において一部共通にするものの,類 12似するとまではいえず,観念において相違する。 ウ これに対し,被告は,@本願商標は,法律事務所の名称を表示したものと理解,認識させるものであるから,「法律事務所」の文字部分からは,称呼,観念は生じない,Aインターネット等や新聞,雑誌の記事において,弁護士の所属法律事務所等を示す場合に,「法律事務所」の表記を省略する例があること等(乙5ないし乙16)から,本願商標中の「ユニヴァーサル」部分のみが,自他役務の識別機能を果たし得る部分であると主張する。 しかし,被告の主張は,以下のとおり,失当である。 すなわち,新聞,雑誌の記事等に,「法律事務所」との表記が省略されている例については,冒頭に「法律事務所」を含んだ名称が表記されているものや,前後の文脈から,法律事務所ないし弁護士が役務を提供する事務所の名称であることが看取できる場合が例として挙げられたと理解される(甲7の1,乙5ないし乙8,乙9ないし乙15)。むしろ,前記認定のとおり,弁護士はその法律事務所に名称を付するときは事務所名称中に「法律事務所」の文字を用いなければならないとされていることに照らすならば,「法律事務所」の文字を省略する例は,少ないと認められる。 以上によれば,「法律事務所」との表記が省略されることを前提として,法律事務所を除いた構成部分のみが,役務の出所を識別し得るとする被告の主張も,採用することができない。 2 判断 以上によれば,本願商標と引用商標とは,外観において著しく異なり,観念において相違し,称呼において一部共通するものの,取引の実情を考慮するならば,類似するとはいえない。したがって,本願商標と引用商標の類否について,外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,具体的な取引状況に基づいて全体的に考察すると,本願商標と引用商標が,役務における出所の誤認混同を生じるおそれはなく,両商標は,類似しないから,本願商標が, 13商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断には誤りがある。 よって,原告主張の取消事由には理由があるから,審決は違法として取り消されるべきである。被告は,他にも縷々反論するが,上記判断を左右しない。 |
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結論
よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 池下朗 |
裁判官 | 武宮英子 |