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事件 平成 23年 (行ケ) 10342号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/02/28
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成24年2月28日判決言渡

平成23年(行ケ)第10342号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成23年12月26日

判 決




原 告 イーエムアイ(アイピー)リミテッド



訴 訟 代 理 人 弁 護 士 杉 山 直 人



被 告 ピースバッグ株式会社



主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と

定める。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

特許庁が取消2010−300213号事件について平成23年6月29日にし

た審決を取り消す。

第2 争いのない事実

1 特許庁における手続の経緯

被告は,別紙商標目録記載の商標(以下「本件登録商標」という。)につき,指定

商品を第18類「かばん類,袋物」として設定登録(昭和57年6月29日登録,

登録第1517958号)を受けている,商標権者である。


1
原告は,平成22年2月23日,特許庁に対し,商標法51条1項に基づき,本

件登録商標の商標登録の取消しを求めて審判(取消2010−300213号事件)

を請求し,平成23年6月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決

がされ,同年7月8日,その謄本が原告に送達された。

2 審決の理由

審決の理由は別紙審決書写しに記載のとおりであり,その要旨は次のとおりであ

る。

被告は,別紙使用商標目録1及び2記載の商標(以下,目録の番号に従い,
「本件

使用商標1」などといい,これらを併せて「本件使用商標」という。)を使用してお

り,本件使用商標の使用は,本件登録商標の指定商品についての,本件登録商標に

類似する商標の使用に該当するが,他人の業務に係る商品と混同を生ずるものとは

いえず,商品の品質の誤認を生ずるものともいえず,また,被告に,商品の混同や

商品の品質の誤認を生じさせる故意があったということもできず,商標法51条

項により,本件登録商標の登録を取り消すべきものではない。

第3 当事者の主張

1 取消事由に関する原告の主張

審決には,出所の混同についての判断の誤り(取消事由1),故意の有無に関する

認定の誤り(取消事由2)があり,その結論に影響を及ぼすから,審決は違法であ

るとして取り消されるべきである。

(1) 出所の混同についての判断の誤り(取消事由1)

ア 商標法51条1項における出所の混同を生じるものとは,出所の混同を生じ

させるおそれがあるものを含み,また,狭義の混同に限らず,広義の混同,すなわ

ち,経済的,組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるという混同(の

おそれ)があれば足りる。したがって,その混同の有無の認定については,需要者

が共通するか否かに重きを置くべきであり,互いの商品の生産部門,販売部門,原

材料,用途等が共通かどうかのみを基準としてこれを判断すべきではない。


2
イ 商品としての「音楽」すなわち楽曲が記録物に固定化された商品
, (レコード,

CD等)やダウンロードされる楽曲などは,単に当該楽曲を楽しむだけでなく,そ

の流行性から,一般にファッションとの関連性が高く,
「かばん」「被服」などの商


品と需要者を共通にすることが多い。

原告は,本国である英国において,
「ABBEY ROAD」に関連する商品を多

様な分野において販売しているが,本件登録商標の指定商品も,含まれている。

原告の日本法人であるEMIミュージック・ジャパンは,ザ・ビートルズの日本

におけるオフィシャル・サイトを開設し,当該サイトからリンクされているザ・ビ

ートルズのオフィシャル・グッズ・ストアにおいて,アルバムのタイトルに関連づ

けた商品を含め,多種多様なザ・ビートルズに関連する商品を販売している。大手

衣料品製造販売業者においても,原告に関連するレコードレーベルとコラボレート

したTシャツなどを販売している。

以上から,原告とザ・ビートルズは密接な関係にあると認められるのであって,

本件使用商標を付したキャリーバッグは,原告又はザ・ビートルズといわゆる親子

会社や系列会社等の緊密な営業上の関係にある営業主体の業務に係る商品等である

と誤信されるおそれがある。

さらに,音楽に限らず,様々な娯楽業界との様々なコラボレーション商品が多く

流通している昨今の状況に鑑みれば,著名なアーティスト名の表示や著名なアルバ

ムタイトルなどを商品表示として使用すれば,一般の需要者において誤認・混同が

生じる。

ウ したがって,本件使用商標の使用はザ・ビートルズ又は原告の業務に係る商

品と混同を生じるものとはいえないという審決の判断は誤りである。

(2) 故意の有無に関する認定の誤り(取消事由2)

被告は,被告が販売する商品の商品タグにおいて,自らが商標として採用した「A

BBEY ROAD」という名称の由来がザ・ビートルズにあると説明して,ザ・ビ

ートルズと関連がある故に「ABBEY ROAD」という名称を使用しているとい


3
うことを,需要者に印象づけようとしている。

被告は,独特の文字で表現された本件登録商標と同一の商標ではなく,本件登録

商標に類似する商標を使用していること,商品タグにおける上記の使用態様からす

ると,世界的に著名なザ・ビートルズの名称に便乗しようとする意図が伺われるこ

と等に照らすならば,被告には誤認・混同を生じさせる故意(意図)があったもの

といえる。

2 被告の反論

(1) 出所の混同についての判断の誤り(取消事由1)に対して

原告は,英国において「ABBEY ROAD」に関連する商品を販売しているが,

日本国内では販売していない。また,第18類「かばん類,袋物」に該当する商品

の販売については,「ABBEY ROAD」の表示は使用されていない。

キャリーケースにつけられた商品タグは,購入後取り去られ,購入者がキャリー

ケースを使用する際には,本件使用商標2のロゴバッチしか付されていない。

したがって,商品の出所の混同は生じず,審決の判断に誤りはない。

(2) 故意の有無に関する認定の誤り(取消事由2)に対して

審決の判断に誤りはない。

第4 当裁判所の判断

当裁判所は,本件使用商標の使用は商標法51条1項の「他人の業務に係る商品

と混同を生ずるものをしたとき」には該当しないと判断する。その理由は,以下の

とおりである。

出所の混同についての判断の誤り(取消事由1)について

(1) 事実認定

ア 本件登録商標

本件登録商標の構成は,別紙商標目録記載のとおりである。上段に「ABBEY

ROAD」の欧文字を横書きし,下段に「アビーロード」の片仮名文字を横書きし

てなる商標であって,いずれの文字も白抜きの文字である。


4
イ 本件使用商標

(ア) 本件使用商標1は,別紙使用商標目録1記載のとおり,「ABBEY RO

AD」(なお,「TM」を付記している。)の欧文字を横書きしてなる商標である。

本件使用商標1は,キャリーケースの商品タグに使用されている。商品タグ(以

下「本件タグ」という。 には,
) 別紙「使用商標1使用タグ」のとおり,最上段には,

「ABBEY ROAD」
「TM」の欧文字が,その下には,赤色と淡い青色からな

る横長矩形の図形が,その下には,
「☆SINCE 1962☆」の欧文字及び数字

が,最下段には,「The Beatles saved the world. The only hope for

any of us is peace. Live peace and breathe peace.......from
“ABBEY ROAD”, one of the world’s most famous street.」との文章が,

それぞれ表記されている。なお,
「1962」というのは,後記のとおり,ザ・ビー

トルズがレコードデビューした年を示す趣旨と推測される。
(甲1の1,1の2,2

5)

(イ) 本件使用商標2は,別紙使用商標目録2記載のとおり,「ABBEY RO

AD」の欧文字を横書きしてなる商標であり,
「ABBEY」及び「ROAD」の各

先頭文字である「A」と「R」の文字は,他の文字より大きく表記されている。

本件使用商標2は,キャリーケースの正面に付けられたロゴバッチに使用されて

いる(甲18,20,21)。

ウ 「Abbey Road(ABBEY ROAD,アビイ・ロード)」につい



(ア) 原告は,昭和6年(1931年)に英コロムビアと英グラモフォンが合併し

て設立された英国のレコード会社である。ザ・ビートルズは,昭和37年(196

2年)にレコードデビューした世界的に著名な英国出身のロックバンドであり,原

告はザ・ビートルズのレコードの製作販売を行っていた。(甲3,5)

(イ) 「Abbey Road」は,英国のロンドンにある通りの名称である。
「A

bbey Road」沿いには,原告のスタジオ(E・M・I RECORDIN


5
G STUDIOS[EMIレコーディングスタジオ] があり,
) ザ・ビートルズは,

200曲を超える製作曲のほとんどを,同スタジオでレコーディングした。

ザ・ビートルズは,昭和44年(1969年)に収録した最後のアルバムのジャ

ケット写真を「Abbey Road」の通りの上で撮影し,そのアルバムのタイ

トルを「ABBEY ROAD」とした(以下,上記アルバムを「本件アルバム」

という。。


その後,上記スタジオは,
「アビイ・ロード」と呼ばれるようになり,原告は,1

970年代(昭和45年から昭和54年の間)に,上記スタジオの名称を「EMI

Abbey Road Studios[EMI アビイ・ロード・スタジオ]」に

変更した。

(甲5ないし7)

(ウ) 原告は,関連会社である英EMIミュージックを介して,平成11年に,ザ・

ビートルズのアルバムのデジタルリマスター盤を世界同時発売したが,その中には,

本件アルバムも含まれていた(甲4,9)。

(エ) 原告が運営する「Abbey Road Studios」のウエブサイト

では,
「Abbey Road Studios」の名称を使った携帯電話やノート

パソコン等のケース,札入れ,洗面用具入れ,コースター,Tシャツなどが販売さ

れている(甲12)。

原告の関連会社であるEMIミュージック・ジャパンはザ・ビートルズのオフィ

シャルサイトを開設しており,
「ビートルズ・オフィシャル・ストア」のホームペー

ジでは,ザ・ビートルズやザ・ビートルズのアルバムに関連した多種類の商品が販

売されているが,
「Abbey Road(ABBEY ROAD,アビイ・ロード)」

の名称又は標章を使用した商品は,販売されていない(甲13,14)。

原告は,大手衣料品製造販売業者と提携して,原告が発売しているジャズレーベ

ルのレコードのジャケットをデザインしたコラボレーションTシャツを製作販売し

たことがあるが,ザ・ビートルズのレコードに関してコラボレーションTシャツを


6
製作したことはない(甲3,11の1)。

(オ) なお,原告は,標準文字による「ABBEY ROAD」の欧文字からなる

商標について,指定商品を第9類「レコード,メトロノーム,映写フィルム,スラ

イドフィルム,スライドフィルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオ

テープ,その他の録音済み又は録画済みの記録媒体,コンピュータハードウェア,

コンピュータソフトウェア,その他の電子応用機械器具及びその部品」として設定

登録(平成14年11月8日登録,登録第4619040号)を受けている(甲2

3)。

(2) 本件登録商標と本件使用商標の類否

ア 本件登録商標の構成は前記のとおりであり,本件登録商標からは「アビーロ

ード」「アビイロード」の称呼を生じる。また,上記認定事実によると,
, 「Abbe

y Road(ABBEY ROAD)」は,ザ・ビートルズがレコーディングを行

った「EMI Abbey Road Studios」があり,最後のアルバム

のジャケットの写真が撮られた通りの名称として,また,ザ・ビートルズの最後の

アルバムのタイトルとして,広く認識されていると認められ,本件登録商標からは,

「英国ロンドンにある通りの名称」又は「ザ・ビートルズの製作に係るアルバムの

タイトル」の観念を生じると認められる。

他方,本件使用商標1及び本件使用商標2は,「アビーロード」「アビイロード」


称呼を生じ,
「英国ロンドンにある通りの名称」又は「ザ・ビートルズの製作に係

るアルバムのタイトル」の観念を生じると認められる。

イ 本件登録商標と本件使用商標とを対比すると,本件使用商標はいずれも,本

件登録商標における「アビーロード」との片仮名文字の表記がされていないこと,

本件登録商標における白抜きの字体が使用されていないこと等の相違があるが,称

呼及び観念を共通にし,本件登録商標と類似するといえる。また,キャリーケース

は本件登録商標の指定商品である「かばん類」に該当する。

ウ したがって,被告が本件使用商標をキャリーケースに使用することは,指定


7
商品についての登録商標に類似する商標の使用に当たる。

(3) 出所の混同

上記のとおり,「Abbey Road(ABBEY ROAD)」は,ザ・ビー

トルズがレコーディングを行った「EMI Abbey Road Studio

s」があり,最後のアルバムのジャケットの写真が撮られた通りの名称として,ま

た,ザ・ビートルズの最後のアルバムのタイトルとして,広く認識されていると認

められる。また,原告は,ザ・ビートルズのレコードの製作販売を行っており,平

成11年にも関連会社を介してザ・ビートルズのアルバムのデジタルリマスター盤

を販売していることから,原告はザ・ビートルズと密接な関連があると,広く認識

されていると認められる。そして,上記「Abbey Road(ABBEY R

OAD) と本件使用商標は,
外観称呼観念を共通にし,類似しているといえる。

しかし,原告が,日本国内において「Abbey Road(ABBEY RO

AD,アビイ・ロード) の表示を使用しているのは,
」 本件アルバムの販売のほかは,

原告が運営するウエブサイト「Abbey Road Studios」における,

「Abbey Road Studios」の名称を使った商品の販売のみである

(なお,このウエブサイトの日本国内における利用回数等は明らかでない。。
)また,

ザ・ビートルズのオフィシャル・ストアのホームページでは,ザ・ビートルズ関連

の商品が多種類販売されているが,Abbey
「 Road(ABBEY ROAD,

アビイ・ロード)」の名称を使用した商品の販売はない。したがって,本件アルバム

を除いては,原告やザ・ビートルズの,日本国内における,これまでの「Abbe

y Road(ABBEY ROAD,アビイ・ロード)」の標章等を使用した商品

の販売実績は確認できない。

また,前記のとおり,「Abbey Road(ABBEY ROAD)」は,本

件アルバムの発売前から現実に存在する通りの名称でもあり,通りの名称としても

広く知られているのであって,「Abbey Road(ABBEY ROAD)」

がザ・ビートルズのアルバムのタイトルだけを観念させるものではない。


8
被告は,キャリーケースに付けた本件タグに,ザ・ビートルズがレコードデビュ

ーした年である「1962」の表記をし,また,英文で,ザ・ビートルズに関連す

るメッセージや「アビイロード」の説明をしている。しかし,同表記は,本件使用

商標である「ABBEY ROAD」が,ザ・ビートルズに関連する「アビイロー

ド」通りに由来する旨を説明したものにすぎず,このような説明記載がされたから

といって,需要者において,被告又は被告の販売に係る商品が,ザ・ビートルズ又

は原告と経済的,組織的に何らかの関係があると認識することはないといえる。

以上によると,「Abbey Road(ABBEY ROAD)」の通りの名称

が,ザ・ビートルズの音楽活動等により周知,著名になったことを参酌したとして

も,被告が,音楽とは関連のないキャリーケースに本件使用商標を使用することに

より,当該商品の出所がザ・ビートルズ又は原告であるとの誤認混同を生ずるおそ

れがある,あるいは,当該商品がザ・ビートルズ又は原告と経済的,組織的に何ら

かの関係がある者の業務に係る商品であるとの誤認混同を生ずるおそれがあると認

めることはできない。

(4) 原告の主張に対して

原告は,
「音楽」と「かばん」「被服」とは,需要者において共通するので,出所


の混同を来すと主張する。しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すな

わち,
「音楽」の需要者はそのジャンル等によって異なるし,
「かばん」
「被服」の需

要者もその種類等によって異なり,「音楽」と「かばん」「被服」とが,需要者にお

いて,特に共通するとはいえないので,原告の主張は,その前提において,採用で

きない。

また,原告は,娯楽業界とのコラボレーションが多く行われていることに鑑みる

と,著名なアルバムのタイトルを商品表示として使用すれば,誤認・混同が生じる

と主張する。しかし,この点の原告の主張も,以下のとおり採用できない。すなわ

ち,確かに,原告の発売に係るジャズレーベルに関して,レコードのジャケットを

デザインとしたコラボレーションTシャツを製造,販売した例があったことが認め


9
られる(甲11の2)が,そのような例があったとしても,本件において,被告が,

音楽とは関連のないキャリーケースに本件使用商標を使用することにより,当該商

品の出所がザ・ビートルズ又は原告であるとの誤認混同を生ずるおそれがあるとは

認めることはできない。

2 結論

以上のとおり,原告主張に係る取消事由1には理由がない。また,原告主張に係

る取消事由2も,同様の理由により,理由がない。その他,原告は,縷々主張する

が,いずれも理由がなく,審決には取り消すべき違法はない。よって,主文のとお

り判決する。



知的財産高等裁判所第3部




裁判長裁判官

飯 村 敏 明




裁判官

八 木 貴 美 子




裁判官

知 野 明


10
別紙 商 標 目 録




11
別紙 使 用 商 標 目 録













12
別紙 使用商標1使用タグ




13