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関連ワード 著作者 /  複製権 /  譲渡権 /  著作権の譲渡 /  著作権侵害 /  差止 /  損害賠償 / 
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事件 平成 23年 (ワ) 8228号 出版差止等請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2012/03/29
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成24年3月29日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成23年(ワ)第8228号 出版差止等請求事件

口頭弁論終結日 平成23年12月26日

判 決

愛知県名古屋市<以下略>

原 告 A1

熊本県熊本市<以下略>

原 告 A2

東京都福生市<以下略>

原 告 A3

静岡県伊豆の国市<以下略>

原 告 A4

京都府京都市<以下略>

原 告 A5

大阪府松原市<以下略>

原 告 A6

熊本県熊本市<以下略>

原 告 A7

熊本県熊本市<以下略>

原 告 A8

福岡県北九州市<以下略>

原 告 A9

埼玉県所沢市<以下略>

原 告 A10

東京都青梅市<以下略>

原 告 A11





福岡県福岡市<以下略>

原 告 A12

鳥取県鳥取市<以下略>

原 告 A13

熊本県熊本市<以下略>

原 告 A14

原告ら訴訟代理人弁護士 藤 原 宏 高

同 武 田 昇 平

東京都渋谷区<以下略>

被 告 株式会社石井式国語教育研究会

同訴訟代理人弁護士 樋 口 卓 也

同訴訟復代理人弁護士 淺 海 菜 保 子

主 文

1 被告は,別紙第1書籍目録記載の書籍の印刷,出版,販売又は頒布を

してはならない。

2 被告は,別紙第2書籍目録記載の書籍の印刷,出版をしてはならない。

3 被告は,原告A1に対し,66万円及び内金60万円に対する別紙第

1遅延損害金目録記載1の金員を支払え。

4 被告は,原告A2に対し,115万5000円及び内金105万円に

対する別紙第1遅延損害金目録記載2の金員を支払え。

5 被告は,原告A3に対し,99万円及び内金90万円に対する別紙第

1遅延損害金目録記載3の金員を支払え。

6 被告は,原告A4に対し,33万円及び内金30万円に対する別紙第

1遅延損害金目録記載4の金員を支払え。

7 被告は,原告A5に対し,82万5000円及び内金75万円に対す

る別紙第1遅延損害金目録記載5の金員を支払え。





8 被告は,原告A6に対し,23万1000円及び内金21万円に対す

る別紙第1遅延損害金目録記載6の金員を支払え。

9 被告は,原告A7に対し,23万1000円及び内金21万円に対す

る別紙第1遅延損害金目録記載7の金員を支払え。

10 被告は,原告A8に対し,49万5000円及び内金45万円に対す

る別紙第1遅延損害金目録記載8の金員を支払え。

11 被告は,原告A9に対し,16万5000円及び内金15万円に対す

る別紙第1遅延損害金目録記載9の金員を支払え。

12 被告は,原告A10に対し,132万円及び内金120万円に対する

別紙第1遅延損害金目録記載10の金員を支払え。

13 被告は,原告A11に対し,132万円及び内金120万円に対する

別紙第1遅延損害金目録記載11の金員を支払え。

14 被告は,原告A12に対し,33万円及び内金30万円に対する別紙

第1遅延損害金目録記載12の金員を支払え。

15 被告は,原告A13に対し,49万5000円及び内金45万円に対

する別紙第1遅延損害金目録記載13の金員を支払え。

16 被告は,原告A14に対し,33万円及び内金30万円に対する別紙

第1遅延損害金目録記載14の金員を支払え。

17 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

18 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告らの負担とし,その余を被

告の負担とする。

19 この判決は,第3項ないし第16項に限り,仮に執行することができ

る。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 主文第1項及び第2項と同旨





2 被告は,原告A1に対し,110万円及びこれに対する別紙第2遅延損害金

目録記載1の金員を支払え。

3 被告は,原告A2に対し,192万5000円及びこれに対する別紙第2遅

延損害金目録記載2の金員を支払え。

4 被告は,原告A3に対し,165万円及びこれに対する別紙第2遅延損害金

目録記載3の金員を支払え。

5 被告は,原告A4に対し,55万円及びこれに対する別紙第2遅延損害金目

録記載4の金員を支払え。

6 被告は,原告A5に対し,137万5000円及びこれに対する別紙第2遅

延損害金目録記載5の金員を支払え。

7 被告は,原告A6に対し,38万5000円及びこれに対する別紙第2遅延

損害金目録記載6の金員を支払え。

8 被告は,原告A7に対し,38万5000円及びこれに対する別紙第2遅延

損害金目録記載7の金員を支払え。

9 被告は,原告A8に対し,82万5000円及びこれに対する別紙第2遅延

損害金目録記載8の金員を支払え。

10 被告は,原告A9に対し,27万5000円及びこれに対する別紙第2遅延

損害金目録記載9の金員を支払え。

11 被告は,原告A10に対し,220万円及びこれに対する別紙第2遅延損害

金目録記載10の金員を支払え。

12 被告は,原告A11に対し,220万円及びこれに対する別紙第2遅延損害

金目録記載11の金員を支払え。

13 被告は,原告A12に対し,55万円及びこれに対する別紙第2遅延損害金

目録記載12の金員を支払え。

14 被告は,原告A13に対し,82万5000円及びこれに対する別紙第2遅

延損害金目録記載13の金員を支払え。





15 被告は,原告A14に対し,55万円及びこれに対する別紙第2遅延損害金

目録記載14の金員を支払え。

第2 事案の概要

原告らは,いずれも画家であり,被告が平成17年に発行した別紙第1書籍

目録記載の書籍(以下「本件第1書籍」という。)の挿絵に用いられている別

紙第1著作物目録記載の絵画(以下「本件第1原画」という。),及び,被告

が平成20年に発行した別紙第2書籍目録記載の書籍(以下「本件第2書籍」

といい,本件第1書籍と併せて「本件書籍」という。)の挿絵に用いられてい

る別紙第2著作物目録記載の絵画(以下「本件第2原画」といい,本件第1原

画と併せて「本件原画」という。)の著作者である。

本件は,原告らが,@ 被告は,原告らに無断で本件第1書籍を増刷し,増

刷した書籍を販売しており,本件第1原画に係る原告らの著作権(複製権及び

譲渡権)を侵害している,A 上記のような被告の態度に照らすと,被告は,

本件第2書籍についても,今後,原告らに無断でこれを増刷し,本件第2原画

に係る原告らの著作権(複製権)を侵害するおそれがある,と主張して,被告

に対し,著作権(複製権ないし譲渡権)に基づき,本件第1書籍の印刷,出版,

販売又は頒布の差止め及び本件第2書籍の印刷,出版の差止め(著作権法11

2条1項)を求めるとともに,不法行為に基づく損害賠償として,前記「第1

請求」記載の金員の支払を求める事案である。

1 争いのない事実等(末尾に証拠を掲記した事実以外は,当事者間に争いのな

い事実,又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)

(1) 当事者

原告らは,いずれも画家である。

被告は,学習教室の経営,出版事業,教育教材,教具等の製造販売等を行

う会社である。

(2) 本件第1書籍の出版





ア 被告は,平成16年に,幼児教育教材「石井式青い鳥文庫シリーズ」の

制作を企画した。同企画では,上記シリーズは,2歳ないし4歳の幼児向

けの「赤い実シリーズ」 3歳ないし5歳の幼児向けの
, 「白い実シリーズ」,

4歳ないし6歳の幼児向けの「青い実シリーズ」に分類され,各シリーズ

ごとに10タイトル(合計30タイトル)の書籍を,平成17年4月から

平成18年2月までの間,平成17年8月を除き,毎月出版するものとさ

れた。

そこで,被告は,原告らほか数名の画家に対し,これらの書籍の挿絵と

するための絵画(1書籍(1タイトル)につき10枚)の制作を依頼した。

イ 原告らは,上記依頼を承諾し,本件第1原画を制作して(なお,各原画

の著作者は,別紙第1著作物目録記載のとおりである。),本件第1原画

を被告に引き渡した。

被告は,原告らから本件第1原画の引渡しを受ける際,原告らに対し,

これらの原画の画料(以下「本件画料」という。)として,上記書籍1タ

イトルにつき50万円を支払った(なお,本件画料の性質が,上記原画の

著作権を原告らから被告に譲渡することの対価であるか否かについては,

後記のとおり当事者間に争いがある。)。

ウ 被告は,平成17年ころ,本件第1書籍を各1万冊出版し,これらを幼

稚園等向けに販売した。本件第1書籍は,総ページ数が20ページ(表裏

の表紙を含む。)であり,本件第1原画が,各ページに挿絵として掲載さ

れている。

(3) 本件第2書籍の出版

被告は,本件第1書籍を発行したのと同時期に,これと同じシリーズの書

籍である,
「石井式 青い鳥文庫 白い実 5月号」(タイトル「かぐや姫」 ,


「石井式 青い鳥文庫 青い実 5月号」(タイトル「金の斧と銀の斧」)

及び「石井式 青い鳥文庫 青い実 10月号」(タイトル「一本の藁」)





を発行したものの,これらの書籍の挿絵については,顧客である幼稚園等の

評判が良くなかった。

そのため,被告は,これらの書籍については,原文及び文字のレイアウト

は当初に発行したものと同じとしたまま,挿絵だけを差し替えて,新たな書

籍を制作することとし,平成19年ころ,原告A10及び原告A13に対し,

上記書籍の挿絵とするための絵画(1書籍(1タイトル)につき10枚)の

制作を依頼した(甲43,証人B,原告A10本人)。

原告A10及び原告A13は,上記依頼を承諾し,本件第2原画を制作し

て(なお,各原画の著作者は,別紙第2著作物目録記載のとおりである。),

本件第2原画を被告に引き渡した。被告は,原告A10及び原告A13から

本件第2原画の引渡しを受ける際,同原告らに対し,これらの原画の画料と

して,上記書籍1タイトルにつき50万円を支払った。

(4) 本件第1書籍の増刷

被告は,平成20年4月から平成22年12月までの間に,別紙書籍増刷

表記載のとおり本件第1書籍を増刷し(以下「本件増刷」という。),これ

らを幼稚園等向けに販売した。

被告は,本件増刷に当たって,原告らから増刷について改めて許諾を受け

たり,追加の画料を支払ったりはしなかった。

(5) 原告A2から被告に対する抗議

原告A2の委任を受けた代理人弁護士は,被告に対し,平成22年7月2

9日付けの内容証明郵便を送付し,その中で,本件増刷は原告らが有する本

件第1原画の著作権を侵害するものであると主張し,今後原告らの許諾なく

本件第1書籍の増刷をすることを禁じる旨を通告した(甲33)。

また,原告A2及び代理人弁護士は,被告から本件第1書籍の新たな増刷

の依頼を受けて本件原画を所持していた株式会社アイ・エヌ・ピー(以下「I

NP社」という。)に対し,平成22年8月18日付けの内容証明郵便等を





送付し,それらの書面の中で,本件第1原画を印刷することは原告らの著作

権を侵害することとなる旨を通告し,被告から受注した印刷をしないよう,

警告ないし嘆願した(甲34,35)。

2 争点

(1) 被告は,原告らから本件原画の著作権を譲渡されたか(争点1)

(2) 原告らの損害(争点2)

3 争点に関する当事者の主張

(1) 争点1(被告は,原告らから本件原画の著作権を譲渡されたか)について

[被告の主張]

被告は,本件原画の引渡しを受けた際,原告らから,本件原画の著作権及

び同原画の所有権を黙示的に譲り受けたものであり,原告らは,本件書籍の

増刷については被告の随意に委ねていた。本件画料は,上記譲渡の対価とし

て,被告から原告らに対して支払われたものである。

原告らと被告との間に上記黙示の合意があったと解するのが合理的である

ことは,以下の事実から明らかである。

ア 一般的に,絵本の原画は,出版社の買取りとなり,その版権(再版権)

は当該出版社に帰属するものとして取り扱われる慣行がある。仮に,再版

について別途印税が発生するのであれば,原画の作者と出版社との間で再

版に関する取決めが存在しなければならない。本件では,原告らと被告と

の間で印税について一切取決めがないまま,本件画料が支払われただけで

本件書籍が出版されている。

イ 本件書籍の出版に際し,原告らと被告との間で本件書籍の増刷に関する

取決めはされていない。しかしながら,本件書籍については,被告と取引

のある幼稚園等に対して配本することを予定しており,その発行当初から,

年間2000冊程度の配本の目途があった。これに,被告の営業活動等に

伴い配本されるものを加えれば,本件第1書籍の初版の1万冊については,





その出版 配本を開始した平成17年から4年が経過する平成20年には,


当然に増刷が行われるはずであったものであり,このことは,原告らも承

知していた。実際,平成20年4月には,本件第1書籍の一部の増刷が開

始されている。

また,原告A10及び原告A13は,平成20年6月ころに本件第2原

画の制作を依頼された際,被告から,これらの書籍の挿絵は,顧客から特

に不評なので,増刷をせずに描き直す必要があると考えている旨を説明さ

れている。したがって,少なくとも原告A10及び原告A13は,他の書

籍(原告第1書籍)が増刷となることを知っていたはずである。仮に,同

原告らが増刷について異議があったのであれば,この時に,増刷について

印税を含めた話になるはずであるのに,同原告らは,増刷について何らの

異議も述べなかった。

ウ 被告は,本件第1書籍を発行した後,平成18年から平成21年までの

間,被告において本件原画の中から適宜選定した絵を題材としたカレンダ

ーを制作しており,同カレンダーの制作に当たって,事前に原告らの承諾

を得ることはなかった。また,被告は,上記のとおり選定された原画の作

者である原告らに対して上記カレンダーを配布していたところ,原告らか

ら,上記カレンダーの制作について抗議を受けたことはなく,むしろ,一

部の原告らからは,選定についてのお礼やカレンダーの追加配布の注文を

受けている。

エ 絵の相場については,画一的な価格は存在せず,画家たちの知名度・人

気度等,様々な要素によって定められる。本件では,原告らが制作する絵

について,原告ら全員が芸術的に高い評価を受け,その絵が高額で多数取

引されているわけではなく,本件のように,絵が10枚分まとめて購入さ

れる機会は,それほど多くない。

本件書籍は,1冊当たり430円で幼稚園に販売されているため,本件





書籍1万冊が販売された場合の被告の売上げは430万円であり,本件画

料の金額(50万円)は,上記売上げの1割を超えている。

また,本件書籍は,幼稚園に相当する年齢の子どもたちに漢字仮名交じ

りによる日本語教育を実践させる理念の下に制作されており,同理念に共

感した幼稚園等が本件書籍を教材として採用している。このように,本件

書籍は,絵の部分も重要な要素ではあるものの,実は,絵本の字の部分こ

そが,石井式教育の理念を表象した重要な構成要素である。

これらの事情を考慮すると,本件画料の金額は,本件原画に係る著作権

譲渡の対価として全く低廉ではない。

オ 原告A2は,前記1(5)のとおり,平成22年7月に被告に対して本件第

1書籍の増刷を禁じる旨の警告書を送っている。しかし,これは,被告が

本件増刷を開始してから約2年後のことである。また,同原告が,本件第

1書籍は平成20年に増刷される予定である旨を承知していたことについ

ては,上記イのとおりである。

原告A2が,本件増刷を承知していたにもかかわらず,本件増刷の開始

から約2年も経過した時期に上記警告書を送ったのは,本件書籍の制作の

際の被告における担当者であり,同原告と懇意の関係にあったBが,上記

警告書が送付されたのとほぼ同時期に被告から解雇されて追放されたた

め,これに対する意趣返しとして,Bの扇動を受けたことによるものであ

る。

[原告らの主張]

被告の主張を否認する。

原告らは,本件原画を被告に引き渡すに当たり,被告に対し,初版として

本件書籍を1万部印刷し,これを販売することを許諾したにすぎず,本件画

料は,上記許諾の対価として原告らに支払われたものである。原告らと被告

との間で,本件書籍に係る著作権の帰属や,将来の増刷の有無に関する話合





いがされたことはない。また,原告らは,被告の取引先である幼稚園及び各

幼稚園への本件書籍の配本数等を把握していないので,本件書籍の在庫及び

増刷の有無を認識しているはずはなく,原告A10及び原告A13も,被告

から本件第2原画の制作を依頼された際,原告第1書籍が増刷されるという

話は聞いていない。絵本出版業界において,一般的に絵本の原画は出版社の

買取りとなるという慣行も存在しない。

幼児教育教材「石井式青い鳥文庫シリーズ」の企画は,被告にとって初め

ての企画であり,将来の契約締結数やこれに伴う収益,企画の継続性等を予

測することは,極めて困難な状況にあった。被告は,このような状況の下で,

一定量の部数を印刷した方が印刷代の単価が安いという点のみに着目し,本

件書籍を1万冊ずつ発行することとしたにすぎず,原告らは,被告から,上

記シリーズが成功するようであれば,新たに原画の制作を依頼するとの説明

を受けていた。

なお,上記[被告の主張]ウの事実があったことは認めるが,この事実か

ら,原告らが被告に対して本件原画の著作権を譲渡した事実が推認されるも

のではない。一部の原告らが被告に対してお礼を述べたのは,数ある原画の

中から自己の作品を選んでもらったこと及び無断とはいえカレンダーを送っ

てきたことに対してにすぎない。

(2) 争点2(原告らの損害)について

[原告らの主張]

ア 著作権侵害による損害

(ア ) 原 告 ら は , 本 件 原 画 を 制 作 す る 際 , 初版として本件書籍を1万部

印刷し,これを販売することを許諾することの対価として,被告から本

件画料(50万円)を受領した。

したがって,本件書籍を増刷する際の許諾料についても,上記金額を

基礎として増刷数に対応する金額とすること,すなわち,書籍1冊当た





り50円とするのが相当である。

本件原画1冊当たり430円程度で販売される本件書籍におい

て,同書籍の極めて重要な構成要素である本件原画の使用料を1冊

当たり50円として算定することは,一般的な使用料である定価の

10%と比較しても,合理的な金額である。なお,本件書籍におけ

る文章の部分は,いずれも有名な童話ばかりであって独創性が認め

ら れ な い た め ,本 件 原 画 の 使 用 料 を 低 下 さ せ る 要 素 と は な り 得 な い 。

(イ ) よって,被告による上記著作権侵害行為によって,原告らは,

別 紙 第 2 損 害 金 計 算 表 の「 著 作 権 侵 害 に よ る 損 害 」欄 記 載 の と お り ,

その著作権の行使により受けるべき金銭の額に相当する額の損害を

被ったといえる(著作権法114条3項)。

イ 弁護士費用

本件訴訟における弁護士費用は,別紙第2損害金計算表の「弁護士

費 用 」欄 記 載 の 金 額( 同 表 に お け る 各 原 告 の「 著 作 権 侵 害 に よ る 損 害 」

欄記載の損害額の1割に相当する金額)を下らない。

ウ 遅延損害金

被告の著作権侵害に基づく原告らの損害については,別紙第2遅延

損害金目録記載のとおり,本件第1書籍が不法に増刷された時から遅

滞に陥る。

[被告の主張]

原告らの主張を争う。

絵本の原画を制作した際の画料と,その後の増刷の際に原画の作者に

対して支払われる金額とが,同額ということはあり得ない。また,本件

書 籍 は ,本 件 原 画 の み で 構 成 さ れ て い る も の で は な く ,前 記 (1)[ 被 告 ら

の 主 張 ]の と お り ,絵 本 の 字 の 部 分 こ そ が ,石井式教育(幼 児 へ の 国 語 漢

字 教 育 ) の理念を表象した重要な構成要素である。





これらの事情を考慮すると,原 告 ら の 主 張 す る 金 額 は 過 大 で あ る 。

第3 当裁判所の判断

1 争 点 1 (被告は,原告らから本件原画の著作権を譲渡されたか)について

(1) 認定事実

ア 前記争いのない事実等に加え,証拠(甲31の1,2,甲32〜37,

39,42〜45,乙1〜4,8〜10,16〜18,証人B,同C,原

告A2本人,同A10本人,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,次

の事実が認められる。

(ア) 被告は,石井式漢字教育指導法の創始者である教育学者の故D博士

(平成16年11月に死亡)が創設した,教育教材の製造販売等を目的

とする会社である。石井式漢字教育は,幼稚園に相当する年齢の子ども

たちに対し,漢字とひらがなを交えた文章による日本語教育を実践する

という理念を有している。

被告は,株式会社登龍館(以下「登龍館」という。)との間で業務提

携契約を締結し,登龍館において,漢字とひらがなを交えた幼児向けの

絵本(以下「漢字仮名交じり絵本」という。)を制作し,同絵本を,石

井式漢字教育の理念に共感する,被告の取引先である幼稚園等に対し,

教材として販売していたが,その後,被告と登龍館との間で紛争が生じ

て訴訟となり,平成16年9月ころ,登龍館との間で裁判上の和解が成

立したことにより,登龍館との業務提携は解消された。

このため,被告は,これ以降,被告自ら漢字仮名交じり絵本を制作し,

幼稚園等の取引先に販売することとした。

(イ) 被告は,登龍館との間で上記訴訟が継続中であった平成16年の夏

ころから,上記の漢字仮名交じり絵本の制作の企画を始め,絵本の名称

を「石井式青い鳥文庫シリーズ」とし,2歳ないし4歳の幼児向けを「赤

い実シリーズ」,3歳ないし5歳の幼児向けを「白い実シリーズ」,4





歳ないし6歳の幼児向けを「青い実シリーズ」と題して,それぞれ10

タイトル(合計30タイトル)の書籍を,平成17年4月から平成18

年2月までの間,平成17年8月を除き,毎月出版することとした。

また,絵本の挿絵には,子どもにおもねるような,小ぎれいでかわい

いだけの絵ではなく,画家が本気で描いた,美術作品の手触りを感じて

もらえるような原画を用いることとした。

(ウ) 一方,当時,被告の社内には,絵本の制作に関与した経験がある者

がほとんどいなかった。そこで,被告は,被告代表者の知人であり,以

前出版社に編集者として勤務した経験を有し,画家の知り合いも多いB

に依頼し,上記絵本の制作に協力してもらうこととした(なお,Bは,

平成17年1月に,上記絵本の企画,編集等を担当するため,被告に入

社した。)。

Bは,被告の上記依頼を受けて,印刷会社に対して絵本の印刷費用の

見積もりを依頼し,Bの知り合いの画家である原告A2らに連絡して,

上記絵本の挿絵の制作を依頼するなどした。また,Bは,登龍館の元社

員で当時被告の社員であったEから,登龍館において漢字仮名交じり絵

本を制作していた際の原画料(絵本の挿絵を制作した画家に対して支払

う画料)が1書籍当たりおおむね50万円程度であったことを聞いた。

(エ) Bは,上記見積額等を踏まえて,絵本の印刷数を1万冊とし,絵本

1冊(1タイトル)につき10枚の挿絵を用い,画家に支払う画料は絵

本1タイトルにつき50万円程度とするのが適当ではないかと考え,そ

の旨を原告A2ら画家たちに伝えた。また,Bは,画家たちに対し,こ

の絵本のシリーズが成功するようであれば,将来被告において新たに絵

本を制作する機会もあるだろうから,その際には新たな挿絵の制作を依

頼したいと考えている旨を伝えた。

原告A2は,大学の芸術学部の教授も務めている画家であり,それま





で絵本の挿絵を制作した経験はなかったが,Bから上記(イ)のような絵

本の制作意図を説明され,この仕事を挑戦のしがいのあるものであると

感じ,同企画に前向きに取り組むこととした。そこで,原告A2は,同

企画における画家側の窓口となり,同原告の知り合いの画家に声をかけ,

上記絵本の挿絵の制作を依頼するなどした。

(オ) Bは,平成16年11月ころ,原告A2から,絵本の挿絵(原画)

を制作するに当たって,石井式漢字絵本の基本的な理念や原画制作のス

ケジュール等について,画家側と出版社(被告)側とで,一度話合いの

機会を持ちたいとの希望を伝えられたため,これを被告に伝えた。

その結果,平成16年12月20日,被告の事務所において,画家側

と被告側との会合(以下「本件会合」という。)が行われた。同会合に

は,画家側から原告A2,同A1,同A3,同A4及び同A11が出席

し,被告側から被告代表者,営業本部長のF,指導部長のC及びBらが

出席した。また,同絵本の印刷を担当する印刷会社(INP社)の担当

者(G)も同席した。

本件会合では,被告側から画家側に対し,石井式漢字教育及び石井式

漢字絵本による指導方法についての説明や,原画制作に当たっての意見,

要望等が伝えられ,被告側と原告側との間で,絵本原画制作の基本的な

方針(原画の大きさ(サイズ),1書籍当たりの原画の枚数,絵本の中

の文章部分の位置等)が確認されるなどした。なお,本件会合では,絵

本の原画の著作権がどのように取り扱われるのか(著作権は画家が保持

するのか,それとも画家から被告に譲渡されるのか)という問題や,被

告において本件書籍を将来(数年後に)増刷する予定があるのか,増刷

する際に本件原画の著作者(画家)に対して被告から別途画料が支払わ

れるのかという問題については,特段話題に上らなかった。

(カ) 被告は,遅くとも平成17年1月ころまでには,上記絵本の印刷数





を1万冊とし,絵本1冊(1タイトル)につき10枚の挿絵を用い,画

家に支払う画料を絵本1タイトルにつき50万円とすることを了承し,

Bを通じて,その旨を原告ら画家たちにも伝えた。なお,Bは,原告ら

に対し,本件会合の以前にも,本件会合の後にも,本件原画の著作権の

取扱いや,本件書籍の増刷予定の有無,増刷する際の画料の追加支払の

有無等について,特段説明することはなかった。

被告は,平成17年3月ころまでには,「石井式青い鳥文庫シリーズ」

の「赤い実シリーズ」,「白い実シリーズ」及び「青い実シリーズ」の

合計30タイトルについて,原告らほか数名の画家に対し,その挿絵(原

画)の制作の依頼を終え,同年中に挿絵の原画(本件第1原画等)の引

渡しを受け,その画料として書籍1タイトルにつき50万円を支払った。

なお,上記原画を制作した画家たちは,原告A2と同様,本件以前に絵

本の挿絵を制作した経験はなかった。

(キ) 被告は,上記のとおり,平成17年に「石井式 青い鳥文庫」シリ

ーズを発行したところ,その中の一部の書籍の挿絵については,顧客で

ある幼稚園等の評判が良くなかった。

そのため,被告は,これらの書籍については,原文及び文字のレイア

ウトを当初に発行したものと同じとしたまま,挿絵だけを差し替えて新

たな書籍を制作することとし,平成19年ころ,被告の社内において本

件第1原画の評価が高かった原告A10及び原告A13に対し,上記書

籍の挿絵とするための絵画(1書籍(1タイトル)につき10枚)の制

作を依頼した。上記依頼はBが行い,Bは,原告A10及び原告A13

に対し,画料については本件第1原画の時と同じ条件でお願いしたいと

伝え,同原告らはこれを承諾した。なお,上記依頼の際,Bから原告A

10及び原告A13に対し,上記書籍の挿絵の差替えと同時期に本件第

1書籍の増刷が行われる旨の説明がされたことはなかった。





(ク) 被告は,平成20年4月から平成22年12月までの間に,別紙書

籍増刷表記載のとおり本件第1書籍を増刷し(本件増刷),これらを幼

稚園等向けに販売した。被告は,本件増刷に当たって,原告らから増刷

について改めて許諾を受けることも,追加の画料を支払うこともしなか

った。そのため,原告らは,本件増刷がされた当時は増刷の事実を認識

していなかった。

(ケ) 原告A2は,平成22年3月ころ,Bから,被告が本件第1書籍を

増刷していることを聞き,驚いて印刷会社(INP社)に対して事実関

係を確認し,原告らに無断で本件増刷がされたことを知った。そこで,

同原告は,代理人弁護士に依頼し,被告に対して,本件増刷は原告らが

有する本件第1原画の著作権を侵害するものであるから,今後原告らの

許諾なく本件第1書籍の増刷をすることを禁じる旨を通告した。

また,原告A2及び代理人弁護士は,被告から本件第1書籍の新たな

増刷の依頼を受けて本件原画を所持していたINP社に対し,本件第1

原画を印刷することは原告らの著作権を侵害することとなる旨を通告

し,被告から受注した印刷をしないよう警告した。上記警告を受けたI

NP社は,被 告 か ら の 本 件 第 1 書 籍 の 増 刷 の 注 文 に 応 じ ず ,本 件 原 画

を被告に返還することにも応じない態度をとった。

そ の た め ,被 告 は ,株式会社広英社(以下「広英社」という。)に依

頼して,別紙書籍増刷表記載13及び14の書籍(タイトル「兎と亀」

及び「鼠の嫁入り」)の現物に基づいて,別紙書籍増刷表記載のとおり,

同書籍を2000冊ずつ印刷(複製)した。

イ 被告は,本件第1書籍の初版の1万冊については,その出版・配本を開

始した平成17年から4年が経過する平成20年には当然に増刷が行われ

るはずであったものであり,このことは原告らも承知していたと主張し,

被告代表者の供述(乙第8号証の陳述書を含む。以下同じ)中には,これ





に沿う部分がある。

しかしながら,被告において「石井式青い鳥文庫シリーズ」を制作する

に当たって,画家との間で挿絵の制作依頼の交渉を行っていたのは,前記

認定のとおりBであり,被告代表者が画家と直接交渉した事実はない。そ

して,B及び同人と交渉した画家たち(原告A2,原告A10)は,いず

れも,Bは,上記絵本の制作依頼を行った当時,絵本の印刷部数は1万冊

であること,及び,この絵本のシリーズが成功するようであれば,将来被

告において新たに絵本を制作する際に画家たちに対して新たな挿絵の制作

を依頼したいと考えている旨を話しただけで,絵本の増刷予定の有無等の

話はせず,画家たちからも絵本の増刷予定の有無等を確認することはなか

ったと供述している(甲42,43,証人B,原告A2本人,原告A10

本人)。

また,「石井式青い鳥文庫シリーズ」は,前記認定のとおり,被告が,

登龍館との業務提携の解消後に自社において初めて絵本を制作するという

企画であり,当時,被告の社内には,絵本の制作に関与した経験を有する

ものがほとんどおらず,それ故に,被告の従業員ではないBに対して上記

企画への協力を依頼せざるを得ない状況にあったものである。このような

事情に照らすと,Bが平成16年から平成17年にかけて画家たちと交渉

していた当時は,そもそも,被告において,当初の計画どおり平成17年

4月までに上記絵本を無事制作することができるかどうかということにつ

いてすら,確実な見通しが立っていない時期であり,印刷費用の見積もり

等を考慮して絵本の印刷部数(1書籍当たり1万冊)こそ決めたものの,

この絵本がどの程度売れるのか,販売先の幼稚園等は次年度以後も継続

て絵本を購入してくれるのかという点について,これを予測することは困

難な状況にあったことがうかがえる。

このような本件第1書籍の制作に至る経緯や,原告らは本件以前に絵本





の挿絵を制作した経験がなかったことなどの事情を考慮すると,Bが原告

らに本件第1原画の制作を依頼した当時,Bから絵本の増刷の有無等の話

がされず,画家たちからも絵本の増刷予定の有無等について特段確認をし

なかったとしても,格別不自然であるとはいえない。

したがって,被告代表者の上記供述は,これに反する前掲各証拠に照ら

し採用することができない(なお,被告代表者は,平成20年5月に被告

代表者の経営する幼稚園の新園舎の落成式があり,原告A2がそのお祝い

に訪れた際,Bから,本件第1書籍をようやく増刷することができるよう

になった旨の話があり,同原告もこれを喜んでいたとも供述するものの,

B及び原告A2は,この事実を否定しており,他に同事実を認めるに足り

る証拠はないので,同供述を採用することもできない。また,被告代表者

は,Bは本件増刷に関与しており,本件増刷の事実を当初から認識してい

たとも供述するが,仮に,Bが本件増刷に関与していたとしても,本件増

刷が行われたのは本件第1書籍の出版から3年以上後のことであり,Bが

本件増刷をするに当たって,原告らにその事実をあらかじめ伝えていたこ

となどを認めるに足る証拠もない以上,上記事実は,原告らが被告に対し

て本件原画の著作権を黙示的に譲渡した事実を推認するに足るものとはい

えず,上記認定を左右するものではない。)。

ウ 被告は,原告A10及び原告A13は,本件第2原画の制作を依頼され

た際,これらの書籍の挿絵は顧客から特に不評なので,増刷をせずに描き

直す必要がある旨,被告から説明を受けていたものであるから,少なくと

も同原告らは,他の書籍(原告第1書籍)が増刷となることを知っていた

はずであるとも主張する。また,被告代表者の供述及びCの供述(乙第1

号証の陳述書を含む。以下同じ。)中には,これに沿う部分がある。

しかしながら,原告A10及び原告A13に対して本件第2原画の制作

を依頼した際の被告側の担当者はBであるところ,B及び原告A10は,





いずれも,上記依頼の際に他の書籍の増刷の話などはされなかったと供述

する(甲43,証人B,原告A10本人)。また,被告が原告A10及び

原告A13に対して本件第2原画の制作を依頼した経緯は,前記認定のと

おり,原告第1書籍と同時期に発行された一部の書籍の挿絵が顧客に不評

であるため,挿絵を差し替える必要が生じたというものであるから,Bか

ら上記依頼をするに当たってその理由を説明するにしても,他の書籍の増

刷予定等の話をしなければならない必然性は認められない。

したがって,被告代表者及びCの上記供述は,これに反する前掲各証拠

に照らし採用することができない。

エ 被告は,さらに,一般的に絵本の原画は出版社の買取りとなり,その版

権(再版権)は当該出版社に帰属するものとして取り扱われる慣行がある

と主張し,被告代表者の供述及び登龍館の元従業員であるHの陳述書(乙

7)中には,これに沿う部分がある。

しかしながら,被告代表者の上記供述等については,これを裏付けるに

足りる客観的な証拠はなく,かえって,証拠(甲45)及び弁論の全趣旨

によれば,他の出版社の制作した絵本の中には,原画の著作権が画家(著

作者)に帰属するものとして取り扱われているものが少なからず存在する

ことがうかがえる。したがって,被告代表者等の上記供述を採用すること

はできない。

(2) 上記(1)アの事実関係によれば,本件第1原画の制作に当たって,原告ら

が被告に対して上記原画の著作権を黙示的に譲渡したと認めることはでき

ない。

なお,証拠(乙2〜6,8)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,本件第

1書籍を発行した後,平成18年から平成21年までの間,被告において本

件原画の中から適宜選定した絵を題材としたカレンダーを制作しており,同

カレンダーの制作に当たって,事前に原告らの承諾を得ることはなかったこ





と,被告は,上記のとおり選定された原画の作者である原告らに対して上記

カレンダーを配布していたものの,原告らから,上記カレンダーの制作につ

いて抗議を受けたことはなく,むしろ,原告A10ら一部の原告からは,選

定についてのお礼やカレンダーの追加配布の注文を受けていること,が認め

られる。

他方,原告A2及び原告A10は,同原告らが上記カレンダーの制作につ

いて被告に特段抗議をしなかったのは,上記カレンダーは取引先等の関係者

に配布するために制作されたものであって,販売目的のものではないと認識

していたためであると供述し,また,原告A10は,同原告が被告に礼を述

べたのは,数ある原画の中から自己の作品を選んでもらったこと及びカレン

ダーを送ってきたことに対して感謝の意を表したものにすぎないと供述し

ている。そして,上記カレンダーの体裁(乙2〜4)や,同カレンダーが原

告らに配布された当時,原告らと被告との間で本件増刷の問題は顕在化して

おらず,両者の間に特段の問題はみられなかったことなどに照らすと,原告

A10らの上記説明は,あながち不自然であるとはいえない。

したがって,被告が原告らに対して上記カレンダーを配布していたなどの

事実は,原告らが被告に対して本件原画の著作権を黙示的に譲渡した事実を

推認するに足るものではなく,同事実は,上記(1)アの認定を左右するもの

ではない。

また,被告は,本件画料の金額(50万円)は本件書籍の初版1万冊が販

売された場合の被告の売上げの1割を超えるものであることなどから,同金

額は本件原画に係る著作権譲渡の対価として低廉とはいえないと主張する。

しかしながら,前記認定のとおり,@ 本件原画は,画家である原告らが,

被告の依頼を受けて,本件書籍のために,書籍1タイトル当たり10枚の原

画を新たに制作したものであること,A 本件書籍は,幼児向けの絵本であ

り,かつ,そのすべてのページに本件原画が使用されているものであって,





絵の重要性は高いといえること,B 本件書籍の構成は,見開きのページの

全面に本件原画を用い,見開きの右側のページの一部分に文章を挿入すると

いうものであり,本件書籍の大部分を本件原画が占めていること,C 本件

書籍の単価は430円であり,初版として1万冊が印刷され,幼稚園等向け

に販売が予定されていたこと,などの諸事情を考慮すると,本件画料を,原

告らの主張するとおり本件書籍の初版1万冊の印刷及び販売に当たっての

許諾料であると考えたとしても,特段不合理であるとはいえない。したがっ

て,本件画料の金額等の事実は,上記(1)アの認定を左右するものではない。

(3) 以上のとおり,被告は,本件第1原画の著作権者である原告らの許諾を

得ることなく本件第1書籍を増刷し,これを販売したものであるから,本件

第1原画に係る原告らの著作権(複製権及び譲渡権)を侵害したものと認め

られる。また,被告は,原告A2から本件第1書籍を増刷しないよう警告

受けた後も,広英社に依頼して本件第1書籍の一部の増刷を行ったほか,原

告らから本件訴えが提起された後も,増刷された本件第1書籍の販売を継続

し,本件訴訟においても,被告は原告らから本件第1原画に係る著作権の譲

渡を受けたものであるなどと主張して,著作権侵害の有無を争っていること

が認められる。

したがって,被告において,今後も,本件第1書籍を増刷して同書籍を販

売するおそれがあると認められる。また,このような被告の行動に照らすと,

被告において,今後,本件第2書籍を原告らに無断で増刷するおそれがある

ものと認められる。

よって,原告らは,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,本件第

1書籍の印刷,出版,販売又は頒布の差止め及び本件第2書籍の印刷又は出

版の差止めを求めることができる。

2 争点2(原告らの損害)について

(1) 著作権侵害による損害について





ア 前記1(1)で認定した事実関係によれば,被告は,原告らの許諾を得るこ

となく本件第1書籍を合計26万9000冊増刷したものであり,これに

より,原告らは,本件第1原画に係る原告らの著作権(複製権)を侵害さ

れ,損害を被ったものといえる。

また,被告は,書籍の出版事業等を業とする者として,本件第1書籍の

増刷に当たり,本件第1原画の著作権の帰属について十分な検討をする

とともに,本件第1原画の著作者である原告らの認識を確認するなどの

調査を行えば,本件第1原画の著作権が原告らにあること(原告らから

被告に著作権が譲渡されていないこと)を認識することが可能であった

にもかかわらず,必要な検討及び調査を行うことなく,上記侵害行為を

行ったものである。したがって,被告は,本件増刷を行ったことにつき,

少なくとも過失があったというべきである。

イ 前記1(1)で認定ないし説示した,本件第1原画の制作に至るまでの経

緯,石井式漢字教育における絵本(漢字仮名交じり絵本)の役割(絵本

の文章部分の重要性),本件第1書籍の販売価格,本件第1書籍におけ

る本件第1原画の重要性,本件画料には原画の制作料の意味合いも含ま

れているとうかがえること,などの事情を総合的に考慮すると,本件第1

書籍を1冊増刷するに当たって原告らが受けるべき著作権料相当額は,3

0円と認めるのが相当である。

ウ したがって,本件第1原画の著作権(複製権)の行使につき原告らが受

けるべき金銭の額に相当する額は,別紙第1損害金計算表の「著作権侵害

による損害」欄記載のとおりであると認められる。

(2) 弁護士費用について

原告らは,弁護士を選任して本件訴訟を追行しており,本件事案の内容,

認容額及び本件訴訟の経過等を総合すると,上記著作権侵害行為と相当因果

関係のある弁護士費用の額は,別紙第1損害金計算表の「弁護士費用」欄記





載のとおり,上記(1)の損害額の1割に相当する金額と認められる。

(3) 小括

以上のとおり,被告による本件第1書籍の増刷と相当因果関係がある原告

損害額は,別紙第1損害金計算表の「損害金合計」欄記載の金額及びこれ

に対する不法行為の日(本件第1書籍が増刷された日)から支払済みまで民

法所定の年5分の割合による遅延損害金(別紙第1遅延損害金目録記載のと

おり)であると認められる。

3 よって,原告らの請求は,主文第1項ないし第16項の限度で理由があるか

らこれを認容し,その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却すること

とし,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部




裁判長裁判官 阿 部 正 幸




裁判官 山 門 優




裁判官 志 賀 勝




(別紙は掲載を省略)