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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成24ネ10035特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成22ワ11353特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成24ネ10080特許権侵害行為差止等請求控訴事件 判例 特許
平成22ワ10064特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成20ワ10819特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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事件 平成 23年 (ネ) 10060号 特許権侵害差止等請求控訴事件

控 訴人(第1審反訴原告)株式会社エルフ
訴訟代理人弁護士 滝口耕司
訴訟代理人弁理士 山内康伸
補佐人弁理士中井博
被控訴人(第1審反訴被告) 株式会社フレスコーヴォ
訴訟代理人弁護士 中村眞一
同 本田幸充
同復代理人弁護士 山崎岳人
補佐人弁理士嶋宣之
同 渡辺伸一
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/06/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人(第1審反訴原告)の負担とする。
事実及び理由
請求
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人(第1審反訴被告)(以下「被告」という。)は,別紙物件目録記載の地盤改良機を製造し,使用し,譲渡し,又は譲渡若しくは貸渡しのために展示してはならない。
3 被告は,別紙物件目録記載の地盤改良機,その半製品及びその製造用金型を廃棄せよ。
4 被告は,別紙イ号方法目録記載の地盤改良工法により,地盤改良工事をしてはならない。
5 被告は,控訴人(第1審反訴原告)(以下「原告」という。)に対し,金1900万円及びこれに対する平成22年3月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 訴訟費用は,第1審,第2審を通じて,被告の負担とする。
事案の概要
以下,略語は,原判決と同一のものを用いる。
原告は,発明の名称を「地盤改良機」とする本件特許権1(特許第4478187号。請求項1ないし3に係る発明は,それぞれ本件発明1-1,本件発明1-2及び本件発明1-3であり,それらの総称が本件発明1である。),発明の名称を「地盤改良工法」とする本件特許権2(特許第2783525号。請求項1及び2に係る発明は,それぞれ本件発明2-1及び本件発明2-2であり,それらの総称が本件発明2である。)を有する。原告は,被告に対し,被告物件(別紙物件目録記載の地盤改良機)の製造,使用等が本件特許権1を侵害していると主張して,特許法100条1項に基づきその製造,使用等の差止めを求めるとともに,同条2項に基づきその廃棄等を求め,また,被告方法(別紙イ号方法目録記載の地盤改良工法〔イ号方法〕及び別紙ロ号方法目録記載の地盤改良工法〔ロ号方法〕の総称である。)の使用が本件特許権2を侵害すると主張して,特許法100条1項に基づき被告方法による地盤改良工事の差止めを求め,本件特許権1,2の特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金1900万円(本件特許権1につき280万円,本件特許権2につき1470万円,弁護士費用相当額150万円)及びこれに対する不法行為の日の後である平成22年3月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
原判決は,被告物件は,本件発明1の技術的範囲に属するとはいえない,被告方法(イ号方法,ロ号方法)は,いずれも本件発明2の技術的範囲に属するとはいえ ないと判断して,原告の請求をいずれも棄却した。
原告は,原判決を不服として控訴し,第1記載の判決を求めた。
1 前提となる事実 原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「1 判断の基礎となる事実」(原判決2頁23行目から8頁19行目)のとおりであるから,引用する。
2 争点 原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「2 争点」(原判決8頁21行目から24行目)のとおりであるから,引用する。
3 争点についての当事者の主張 次のとおり付加,訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に関する当事者の主張」(原判決8頁26行目から28頁8行目)のとおりであるから,引用する。
(1) 原判決12頁2行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「すなわち,本件発明1は,施工効率の維持を課題とするものではなく,施工管理の客観化と正確化を課題とするものである。本件発明1は,上記課題を解決する目的で,スラリー化を判断するための電気比抵抗センサ及び客観的に確認するためのモニターを設けるとの構成を採用しているが,固化材液吐出ノズルがバケットに取り付けられたことは,スラリー化の判断と関係するものではない。施工管理の客観化と正確化が達成されたことによる反射的な効果として施工効率も向上するが,そのような間接的な効果は,本件発明1が解決しようとした課題とは異なる。」 (2) 原判決12頁7行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「また,本件特許1の出願経過をみると,原告は,審査段階で拒絶理由通知(乙11)を受け,手続補正書(乙14)において,『ブームの鉛直線に対する角度を検出する位置検出器(構成要件D),バケットに取り付けられた電気比抵抗センサ(構成要件E),バケット先端位置の移動軌跡上の電気比抵抗を求めるコントローラ(構成要件F),バケット先端位置の移動軌跡上の電気比抵抗を表示するモニタ ー(構成要件G),地盤の縦断面における深さと幅に区切られたマス目表示部(構成要件H)』を追加し,補正後の特許請求の範囲に基づき,意見書(乙15)において,発明の効果として『改良地盤内の電気比抵抗もモニター上で常時監視できる,マス目画面にバケット先端位置の移動軌跡および電気比抵抗を表示することにより,オペレータの勘に頼ることなく地盤改良を確実に遂行できる,鉛直線に対する角度を検出するので,誤差の集積がなく,バケット先端位置での誤差を増幅しない』との点を主張した。このことからも,本件発明1-1の本質的部分は,コントローラやモニターに係る構成部分に存するのであり,『固化材液を吐出する固化材液吐出ノズル』に係る構成部分(構成要件B)に存するものではない。」 (3) 原判決15頁21行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「本件発明1-1の固化材液吐出ノズルの機能は,固化材液の導入にとどまらず,改良すべき地盤内の土塊をバケットで粉砕し,撹拌翼で撹拌しながら固化材液を吐出することにより,土と固化材液を混練りし,改良体を流動化させるものであり,被告物件のホースと同一の機能とはいえない。また,モニター画面上に投入された固化材液の総量が表示され,同時に固化材液の投入量が経時的に表示され,地盤改良機のオペレータが固化材液の投入量を過不足なく調整することができるから,被告物件のホースと同一の作用とはいえない。」 (4) 原判決15頁8行目の「第1ないし第4要件」を,「第1ないし第5要件」と訂正し,原判決16頁4行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「(オ) 第5要件 原告は,本件特許1の出願経過において,本件発明1-1の構成要件Bを補正せず,構成要件F,G,Hに該当する部分を挿入する補正をした。この時点で,原告は,本件発明1-1の地盤改良機について,改良地盤をブロック状に築造し,流動化した状態で地盤改良をするために,バケットに撹拌翼と液状固化材を噴出する噴出ロッドを取り付ける従来技術があることを認識しており,請求項1の記載を補正し,より上位概念に書き換えることは可能であったにもかかわらず,原告は,その ような補正を行わなかったことに照らすならば,被告製品の構成は意識的に除外したとすべき特段の事情があるといえる(第5要件)。」 (5) 原判決17頁24行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「すなわち,構成要件Aの『空所』とは,『内部が空虚になっている凹所』ではなく,土壌(S)と固化材(C)と水(W)が混合するための容器として機能し,混合されたスラリー(SC)が硬化すると地盤改良体となる部分を意味するものと解すべきである。」 (6) 原判決18頁6行目から24行目までを削除し,同頁5行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「(イ) 迂回方法 イ号方法においては,縦穴形成工程a1と埋め戻し工程a2が中間工程として存するが,同工程を付加したイ号方法は,『中間に別個の無用ないし不利な構成(部材,物質,工程)を介在させた』迂回方法であり,イ号方法は本件発明2の技術的範囲に属すると解すべきである。すなわち, a 支持層確認のための技術的有意性は存しないこと イ号方法の縦穴形成工程a1においては縦穴(12)を掘削するが,その目的,効果は支持層を目視で確認したり接触して確認したりすることとされる。しかし,この面積の狭い縦穴(12)では不十分な確認しかできず,支持層確認を確実なものとするためには堀削範囲を広げて有機質土や腐植土を排除する必要があり,掘削範囲を小さな縦穴から広げていくと,結局,下部空所(13)(上部空所(11)の下方で後から掘削され,縦穴(12)を含む部分を,このようにいうものとする。)に近づき,さらには下部空所(13)全体と同じになって,本件発明2の構成要件Aと変わらなくなる。
したがって,縦穴(12)による支持層の確認は技術的有意性が乏しい。
b 埋め戻し作業にも技術的有意性は存しないこと イ号方法の埋め戻し工程a2においては縦穴(12)に掘削土を埋め戻すが,被告主張のように,縦穴(12)が十分に小さいとすると,埋め戻し量も小さく,わざわざ手 間をかけて埋め戻す意義は見出せない。なぜなら,後工程である撹拌固化工程cでは地盤改良体となる大量の土を掘削するからである。したがって,埋め戻し工程a2は技術的有意性が乏しい。
c 縦穴掘削は実現不可能であること 地盤改良体の代表的な寸法は,幅寸法2.3から2.8メートル×2.3から2.8メートル程度である(乙21)。バックホウが,一辺2メートル半程度の堀削穴を掘削した場合,バックホウのバケットの平均的寸法は,幅0.8メートル,長さ1.5メートル,高さ1メートル程度となる(乙22)。バックホウがバケットを首振り運動させながら掘削すると,掘削穴は少なくとも0.86メートル×2.5メートルとなり(乙21),堀削穴の一辺同士を比較すると,バケットを最小限の動きで掘り下げたとしても,平均的な寸法の堀削穴よりやや小さく,イ号方法にいう縦穴(12)よりも下部空所(13)にかなり近いものとなる。したがって,下部空所(13)より小さい縦穴(12)を堀削し,再度そこへ排土を戻すという作業は,実現不可能である。
d 以上のとおり,縦穴形成工程a1と埋め戻し工程a2は,技術的優位性はない迂回のための工程であるから,イ号方法は,構成要件Aを充足する。」 (7) 原判決19頁14行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「本件発明2-1は,『空所(2)内に先に掘削・排土した土壌(S)とセメント等の固化材(C)と水(W)と・・・投入する』(構成要件B1)を必須とする。
このうち,投入の対象となる土壌(S)は,空所(2)を掘削したもののうち,一旦排土した土壌(S)であるか,排土しないままの土壌(S)であるかは,適宜選択できる事項と解すべきである。その理由は,土壌(S)を一旦排土して使用するか,排土しないまま使用するかによって,地盤改良効果及び作業機の消費エネルギーに差異を生じさせないからである。したがって,イ号方法は,本件発明2-1の構成要件B1を充足する。」 (8) 原判決22頁13行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「また,イ号方法において,『上部空所(11)』が形成された後に,その下方に掘削される土壌の部分については,そのまま固化材及び混練水との撹拌がされ,一度も排土されない。したがって,イ号方法は,本件発明2の構成要件Aを充足しない。」 4 当審において追加された当事者の主張(本件発明2-1に関する均等侵害) (1) 原告の主張 以下のとおり,イ号方法は,本件発明2と均等である。
ア 第1要件(非本質的部分性) 本件発明2は,従来技術には「改良部に湧き水が多く出ると固化材・土壌混合スラリー中の水分割合(水/土壌)が多くなって構築された円柱杭K1の強度の信頼性に疑問が残る」(本件明細書2(甲2)の段落【0006】)という問題があることに鑑み,「高強度で且つ信頼性の高い地盤改良を行う」(段落【0008】)ことを目的とした発明である。上記課題を解決するために,本件発明2-1では「該水(W)の量を前記土壌(S)中に含まれる含水量に応じて増減させ(る)」構成を,本件発明2-2では「該水(W)の量を空所(2)内に湧き出た地下水量に応じて増減させ(る)」構成を,それぞれ採用した。
これに対して,イ号方法の中間工程である「縦穴形成工程a1と埋め戻し工程a2」は,上記(1) のとおり,そのような工程を採用する技術的意義が乏しいから,本件発明2の本質的部分に属しているとはいえない。
イ 第2要件(置換可能性) 本件発明2では,空所形成工程(構成要件A)で空所全体を掘り下げることにより支持層を確認する。これに対し,イ号方法では,縦穴形成工程における縦穴(12)を掘削して支持層を確認するが,この縦穴(12)でも部分的には支持層確認ができ,実際には縦穴(12)は下部空所(13)に近い大きさとなり,空所の全面堀削による支持層の確認に限りなく近づく。また,イ号方法において,地層が同一施工場所で変化していた場合や掘削した先に腐植土が現われた場合,地盤改良体の底面の全面を掘 り下げないと,有効に使える支持層を確認することはできないから,本件発明2の空所(2)を堀削することと同じであり,本件発明2と作用効果において同一といえる。さらに,イ号方法において,縦穴(12)に掘削土を埋め戻すが,その土は,他の堀削土と共に撹拌され,固化材と水とで混練りされてスラリーを生成することになるから,本件発明2と作用効果において同一である。
以上のとおり,本件発明2の「空所形成工程(構成要件A)で空所全体を掘り下げること」との構成をイ号方法における「縦穴形成工程における縦穴(12)を掘削すること」との構成に置換することは,作用効果において同一であるといえる。
ウ 第3要件(置換容易性) 縦穴(12)を掘るか否か,縦穴を広げて掘って下部空所(13)と同じものとするか否か,及び,掘削した穴(12)に排土を戻すか否かは,任意に選択できるものであり,格別の工夫を必要としない。したがって,置換容易性がある。
エ 第4,第5要件 イ号方法は,公知技術から容易に推考できたものではない。また,構成要件Aは,本件発明2の審査過程において手続補正により減縮された等の経緯なく,イ号方法の中間工程である縦穴形成工程1と埋め戻し工程a2とを意識的に除外したと事情は存しない。
(2) 被告の反論 否認する。
本件発明2は,固化材液投入の際,水分量を調整することによって地盤改良体の強度を確保する発明であり,ブロック状に地盤改良体を形成する工法であれば,全てその技術的範囲に含まれるとするものではない。
原告の主張は,イ号工法でも改良体全体(全体空間)を掘削することになるから本件発明2と同じであるというもので,空所と改良体とを混同しており失当である。
当裁判所の判断
当裁判所は,以下のとおり,原告の請求はいずれも理由がないものと判断する。
1 争点1(被告物件は本件発明1-1ないし1-3の技術的範囲に属するか)について 当裁判所は,被告物件は本件発明1-1ないし1-3の技術的範囲に属しないと判断する。その理由は,次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」の「1 争点1(被告物件は本件発明1-1ないし1-3の技術的範囲に属するか)について」(原判決28頁12行目から35頁3行目)のとおりであるから,引用する。
原判決34頁19行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「さらに,原告は,@本件発明1は,施工効率の維持を課題とするものではなく,施工管理の客観化と正確化を課題とするものであり,固化材液吐出ノズルがバケットに取り付けられたことは,課題の解決とは関係しない,A本件特許1の出願経過からみても,本件発明1-1の本質的部分は,コントローラやモニターに係る構成部分に存するのであり,『固化材液を吐出する固化材液吐出ノズル』に係る構成部分(構成要件B)に存するものではない旨主張する。
しかし,原告の主張は,いずれも失当である。
上記認定に係る本件明細書1の記載によれば,本件発明1は,『施工効率の維持・向上』も,本件発明1の解決課題であるというべきである。
また,本件特許1の出願過程において,原告が,手続補正書(乙14)とともに提出した意見書(乙15)には,『(明細書に記載の効果)・・・a)改良すべき地盤内の土塊をバケットで粉砕し,かつ撹拌翼で撹拌しながら固化材液吐出ノズルから固化材液を吐出すると,土と固化材液とを混練りすることができる。このようにバケットを使うのでブロック状に地盤改良ができ,しかも流動化した状態で地盤改良ができるので,締め固めが不要になり施工効率がよくなる。b)バケットで撹拌混練りした跡のバケット先端位置移動軌跡は位置検出器で検出しモニター上で把握でき,同時にバケット内のミキサーで土と固化材液と混練りされた改良地盤内の電気比抵抗もモニター上で常時監視できる。よって目視できない土中でありながら, 改良予定の地盤内の隅々まで混練りができ,かつ固化材液の過不足も生じないようにできる。このため施工途中で地盤検査する必要もなく,施工後に地盤検査する必要もないので,地盤改良工事を効率よく行え時間短縮ができる。』との記載がある。
この記載によれば,本件発明1は,施工管理の客観化と正確化という解決課題に加え,『撹拌翼で撹拌しながら固化材液吐出ノズルから固化材液を吐出すること』により,『流動化した状態で地盤改良ができるので,締め固めが不要になり施工効率がよくなる。』と記載され,これらの課題解決ないし作用効果は,構成要件Bによって発揮するものと解される。そうすると,本件発明1-1の構成要件B『前記バケットに取り付けられた,固化剤液を吐出する固化材液吐出ノズル』との構成が,発明の非本質的部分にあるということはできない。」 2 争点2,3(被告方法は本件発明2-1,2-2の技術的範囲に属するか)について 当裁判所は,被告方法は本件発明2-1,2-2の技術的範囲に属しないと判断する。その理由は,次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」の「2 争点2,3(被告方法は本件発明2-1,2-2の技術的範囲に属するか)について」(原判決35頁6行目から39頁22行目)のとおりであるから,引用する。
(1) 原判決37頁14行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「原告は,構成要件Aの『空所』とは,『内部が空虚になっている凹所』ではなく,土壌(S)と固化材(C)と水(W)が混合するための容器として機能し,混合されたスラリー(SC)が硬化すると地盤改良体となる部分を指すと解すべきであると主張する。すなわち,原告は,『上部空所(11)の下方』に位置し,かつ,掘削されるものの排土されない土壌の残された部分を『空所』に該当することを前提とした主張をする。しかし,原告の上記主張は,@『地盤の土壌を掘削・排土して所定開口面積で且つ所定深さの空所(2)を形成し,』(構成要件A)との文言と矛盾すること,また,A常に土壌が残され,全く空になることのない土壌部分を 『空所』であるとするのは,極めて不自然であることに照らすならば,原告の上記主張は採用の限りでない。」 (2) 原判決38頁22行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。
「原告は,イ号方法においては,縦穴形成工程a1と埋め戻し工程a2が中間工程として存するが,縦穴形成工程,埋め戻し作業に技術的有意性は存しないこと等から,同工程を付加したイ号方法は,『中間に別個の無用ないし不利な構成(部材,物質,工程)を介在させた』迂回方法であり,イ号方法は本件発明2の技術的範囲に属すると解すべきであると主張する。
しかし,原告の主張は失当である。被告の行為が原告の有する特許権を侵害するか否かは,当該被告の行為が,専ら,原告の有する特許発明の技術的範囲に属するか否か(すなわち,発明の特許請求の範囲の記載に係る構成のすべてを充足するか否か,又は特許発明の均等の範囲に含まれるか否か)によって判断されるべきであって,発明の特許請求の範囲の記載に係る構成の全てを充足しない場合においてもなお,『迂回』に当たることのみを理由として特許権を侵害するとする原告の主張は,その主張それ自体において失当である(最三小判平成10年2月24日民集52巻1号113頁参照)。
上記認定のとおり,イ号方法における『上部空所(11)』は支持層までの深さを有するものではなく,『上部空所(11)の下方』は排土されないことから,イ号方法は,構成要件Aの『空所』には当たらない。そうすると,縦穴形成工程a1と埋め戻し工程a2の工程の有無にかかわらず,イ号方法は,構成要件Aを充足しない。」 3 当審において追加された当事者の主張(本件発明2-1に関する均等侵害)について 当裁判所は,イ号方法における掘削された土壌を排土せずに埋め戻す工程は,本件発明2の構成要件Aとの対比において均等の要件を満たすとはいえないから,イ号方法は,本件発明と均等な方法ではないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
(1) 認定事実 本件明細書2(甲2)には,以下の記載が認められる。
ア 段落【0006】【発明が解決しようとする課題】 ・・・従来工法(ソイルセメントコラム工法)では,形成される各杭(改良体)K1が円柱形となるので,・・・合計4つの円柱杭K1,K1・・の中心部に固化材が混入していない非改良部Kaができるようになって,基礎1を載せる地盤改良部に強度の強い部分・・・と強度の弱いままの部分・・・とができるようになる。そして,・・・該円柱杭K1,K1・・部分での荷重負担が大きくなって,その分,円柱杭K1の平面面積当たりの強度を大きくする必要があるという問題がある。さらに,・・・掘削装置31の地中掘進中あるいは引き抜き中において,・・・縦孔22内の土壌がほぐされるようになるが,該土壌が粘土質である場合には,・・・土壌が小さくほぐされずに塊状のままとなることがある。・・・縦孔22内の土壌が塊状のままであると,回転軸32の下端ヘッド・・・から吐出させた固化材混入スラリーが塊状の土壌内まで侵入しなくなり,該スラリーが土壌と均一に混合しないという問題がある。又,・・・該スラリーと土壌との混合が地中の外部から見えない場所で行われるので,該土壌とスラリーとの混合状態を外部から確認する手段がなく,さらに,改良部に湧き水が多く出ると固化材・土壌混合スラリー中の水分割合(水/土壌)が多くなって構築された円柱杭K1の強度の信頼性に疑問が残るという問題もあった。尚,固化材・土壌混合スラリー中の好適な水分割合(水/土壌)は,土質性状や用途等の条件によって変わり,例えば60〜180%の範囲で決定される場合が多い・・・が,改良部に湧き水が多く出ると,該水分割合が大きくなって構築される改良体K1が柔らかくなる・・・。
イ 段落【0008】(【発明が解決しようとする課題】) 本願発明は,・・・従来のソイルセメントコラム工法に比較して,掘削した土壌と固化材とを均一に混合させることができるようにすることによって高強度で且つ信頼性の高い地盤改良を行うことができるようにし,他方,従来のラップル工法に 比して,掘削土壌量を少なくし且つ掘削土を埋戻し土として有効利用できるようにすることにより,掘削・排土,埋戻し等のためのコストを低下させ,且つ生コンクリート費用を不要にする等によって全体の地盤改良コストを低下させることができるようにした地盤改良工法を提案することを目的としてなされたものである。
ウ 段落【0009】【課題を解決するための手段】 本願発明の地盤改良工法は,上記課題を解決するための手段として,まず建造物の基礎を構築すべき位置の地盤の土壌を掘削・排土して,所定開口面積で且つ所定深さの空所を形成し,次に,該空所内に先に掘削・排土した土壌とセメント等の固化材と水とをそれぞれ所定割合づつ投入して,それらの材料を該空所内で混合・撹拌して固化材・土壌混同スラリーを固化させることによって改良地盤を構築するようにしている。
(2) 判断 ア 置換可能性の有無について 上記(1) 認定の事実によれば,本件発明2は,「掘削した土壌と固化材とを均一に混合させることができるようにすることによって高強度で且つ信頼性の高い地盤改良を行うことができるようにすること」及び「従来のラップル工法に比して,掘削土壌量を少なくし,掘削土を埋戻し土として有効利用できるようにし,生コンクリート費用を不要にすること等によって全体の地盤改良コストを低下させること」を解決課題(目的)とすることが認められる。そして,本件発明2は,上記目的を達成するため,建造物の基礎を構築すべき位置の地盤の土壌を掘削・排土し,所定開口面積,所定深さの空所を形成し,先に掘削・排土した土壌とセメント等の固化材と水とをそれぞれ所定割合づつ投入して,それらの材料を該空所内で混合・撹拌して固化材・土壌混同スラリーを固化させ,改良地盤を構築するものである。
他方,イ号方法は,「空所形成工程a」において,建造物の基礎を構築すべき位置の地盤の土壌を掘削・排土して所定開口面積でかつ一定深さの上部空所(11)を形成し,その後,「縦穴形成工程a1,埋め戻し工程a2」において,上部空所(11) の下方に,さらに支持層まで到達する所定深さの溝あるいは縦穴(12)を部分的に形成して,支持層の確認を行い,掘削土は排土せずに埋め戻すとの構成を採用している。
そうすると,本件発明2の構成要件Aをイ号方法の「空所形成工程a,縦穴形成工程a1,埋め戻し工程a2」に置換した場合,「先に掘削・排土した土壌とセメント等の固化材と水とをそれぞれ所定割合づつ投入して,それらの材料を該空所内で混合・撹拌して固化材・土壌混同スラリーを固化させ(る)」という本件発明2の作用効果は得られず,「掘削した土壌と固化材とを均一に混合させることができるようにすることによって高強度で且つ信頼性の高い地盤改良を行うことができるようにする」という本件発明2の目的は達成されることはない。
これに対し,原告は,イ号方法について,@実際には縦穴(12)は下部空所(13)に近い大きさとなり,空所の全面堀削による支持層の確認に限りなく近づく,A地層が同一施工場所で変化していたり,掘削した先に腐植土が現われた場合,地盤改良体の底面の全面を掘り下げないと有効に使える支持層を確認することはできず,本件発明2の空所(2)を堀削することと変わらなくなる,B縦穴(12)に掘削土を埋め戻すが,その土は,他の堀削土と共に撹拌され,固化材と水とで混練りされてスラリーとなるとして,実質的には本件発明2の作用効果と同一の作用効果を奏する旨主張する。しかし,原告の主張は,いずれも失当である。上記のとおり,イ号方法の「縦穴形成工程a1,埋め戻し工程a2」は,上部空所(11)の下方に,支持層まで到達する溝あるいは縦穴(12)を部分的に形成して,支持層の確認を行い,掘削土は排土せずに埋め戻すのであるから,その溝あるいは縦穴(12)の大きさにかかわらず,イ号方法において,一旦排土した土壌とセメント等の固化材と水とを所定割合ずつ投入して,空所内で混合・撹拌して固化材・土壌混同スラリーを固化させるという作用効果は得ることはできず,掘削した土壌と固化材とを均一に混合させることができるようにするとは考え難い。
したがって,本件発明2の構成要件Aをイ号方法の「縦穴形成工程a1,埋め戻 し工程a2」に置き換えることにより,本件発明2の目的を達することができるとはいえない。
イ 異なる構成が本質的部分に存在するか否か 本件発明2は,構成要件A(「建造物の基礎を構築すべき位置の地盤の土壌を掘削・排土して所定開口面積で且つ所定深さの空所(2)を形成し,」)を採用することによって,「掘削した土壌と固化材とを均一に混合させることができるようにすることによって高強度で且つ信頼性の高い地盤改良を行うことができるようにすること」及び「従来のラップル工法に比して,掘削土壌量を少なくし,掘削土を埋戻し土として有効利用できるようにし,生コンクリート費用を不要にすること等によって全体の地盤改良コストを低下させること」との課題を解決するものであるから,イ号方法における「上部空所(11)にさらに支持層まで到達する所定深さの溝あるいは縦穴(12)を部分的に形成して支持層の確認を行」った上で,掘削土を排土せずに,当該「溝あるいは溝穴(12)を埋め戻」す工程との異なる構成部分は,その本質的部分に存在するというべきである。
これに対し,原告は,本件発明2の本質的部分は水量調整することにある旨主張する。しかし,原告の主張は失当である。本件明細書2の段落【0006】の記載によれば,本件発明2の従来技術であるソイルセメントコラム工法では,各改良体が円柱状になるので固化材が混入しない非改良体Kaができたり,固化材が粘土質の塊状の土壌内に進入しなくなるなどの問題点があったことが認められる。その記載中に湧き水によるスラリー中の水分割合についての問題点も指摘されているが,上記のとおり,本件発明2は,かかる水分割合の調整を解決課題としたものとはいえないから,本件発明2の目的が水量調整にあることを前提として,この点が発明の本質的部分であるとする原告の主張は,前提を欠き,失当である。
ウ したがって,イ号方法について,本件発明2に関する均等侵害が成立するとの原告の主張は認められない。
4 小括 原告の請求は,その余の争点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから棄却すべきものであり,これと同旨の原判決は正当である。原告は,その他縷々主張するが,いずれも上記認定判断を左右しない。
結論
よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
追加
村明裁判官池朗下裁判官武宮英子 別紙物件目録1図面の説明図1:被疑侵害品の概略側面図である。
図2:図1に示すバケットの側面図と正面図である。
図3:被疑侵害品に搭載しているモニターの説明図である。
2符号の説明Z:改良機@,@,@:傾斜計A:電気比抵抗センサB:回転計1:下部走行体2:上部旋回体3:ブーム5:アーム7:バケット11:攪拌翼40:モニター45:マス目表示部3被疑侵害品の説明3-1構成(注:反訴被告の書面「『建築技術審査証明』技術概要説明書」の「V.資料」の図面により作成した。)a:図1に示す改良機Zは,下部走行体1と,下部走行体1に旋回自在に搭載した上部旋回体2と,上部旋回体2に起伏自在に枢支されたブーム3と,ブーム3の先端に揺動自在に枢支されたアーム5と,アーム5の先端に掘削動作可能に枢支されたバケット7とを備えたバックホウをベースマシンとしている。
b:固化材液吐出ノズルはバケット7に取付けておらず,ホース31で掘削溝に導入する。
c:バケット7は,固化材液と土とを混練りする撹拌翼11を備えている。
d:位置検出器として,ブームの鉛直線に対する角度を検出するブーム傾斜計@と,アームの鉛直線に対する角度を検出するアーム傾斜計@と,バケットの鉛直線 に対する角度を検出するバケット傾斜計@の3つの検出器を備えている。
傾斜計@,@,@はいずれもブームやアーム,バケットの側壁に取付けられている。
e:図2に示すように,バケット7には,電気比抵抗を検出する電気比抵抗センサAが取付けられている。
f:ブーム3の長さとアーム5の長さとバケット7の長さ及び傾斜計@,@,@の検出角度に基づいてバケット7の先端位置を演算してバケット先端位置の移動軌跡を演算すると共に移動軌跡上の電気比抵抗を求める情報処理装置を備えている。
g:情報処理装置で求められたバケット先端位置の移動軌跡と電気比抵抗を表示するモニター40を備えている。
h:図3に示すように,モニター40は,施工中の地盤の縦断面における深さの線と幅寸法の線でマトリクス状に区切られたマス目で示すマス目表示部45を有しており,マス目表示部45にバケット先端位置の移動軌跡及び移動軌跡上における電気比抵抗を表示するものである。
i:図3に示すように,モニター40が撹拌翼11の攪拌混合回数を表示する。攪拌混合回数は,土と固化材液の攪拌混合具合の指標となるものである。このため,撹拌翼11の回転速度を検出する回転計Bを備えている。
j:固化材液の吐出量を検出する流量計Dを備えており,図3に示すモニター40が吐出量を表示する。
【図1】【図2】 【図3】 別紙イ号方法目録1図面の説明(a),(a1),(a2),(b),(c),(d)及び(e)は,イ号被疑侵害工法の工程図である。
2イ号被疑侵害工法の説明イ号被疑侵害工法は,下図に示す工程(a)〜(e)の順で実行される。
(注:工程図(a)〜(e)の右側の説明は,反訴被告書面「『建築技術審査証明』技術概要説明書」におけるT.概要の「3.施工方法と施行管理」及びV.資料の「1.2本工法の施行フロー及び施行手順」に基づき作成した。)a:空所形成工程建造物の基礎を構築すべき位置の地盤の土壌を掘削・排土して所定開口面積でかつ一定深さの上部空所(11)を形成する。
a1:縦穴形成工程該上部空所(11)にさらに支持層まで到達する所定深さの溝あるいは縦穴(12)を部分的に形成して支持層の確認を行う。
-22- a2:埋め戻し工程溝あるいは縦穴(12)を形成した際に生じる掘削土Sを用いて前記溝あるいは縦穴(12)を埋め戻す。
b:固化材等投入工程前記上部空所(11)に所定量の固化材(M)と混練水(W)を投入する。
混錬水(W)の水量を調整する。
c:攪拌工程埋め戻された溝あるいは縦穴(12)を含む前記所定開口面積の領域内で,攪拌混合機のバケット(20)を用いて,排土することなく,掘削を行いつつ,前記所定開口面積内の領域内で,掘削した土壌と前記投入された固化材Mと混練水Wとの攪拌を行い,スラリーを生成する。
d:固化工程e:地盤改良工法前記スラリーを固化させると改良体が完成し,地盤改良工法が終る。
別紙ロ号方法目録1図面の説明(a),(b),(c),(d)及び(e)は,ロ号被疑侵害工法の工程図である。
2ロ号被疑侵害工法の説明ロ号被疑侵害工法は,下図に示す工程(a)〜(e)の順で実行される。
(注:工程図(a)〜(e)の右側の説明は,反訴被告書面「『建築技術審査証明』技術概要説明書」におけるT.概要の「3.施工方法と施行管理」及びV.資料の「1.2本工法の施行フロー及び施行手順」に基づき作成した。)a:空所形成工程改良範囲内をのり面を設けながら所定量の排土を行い,上部空所(11)を形成する。
b:固化材等投入工程A-TYPEまたはB-TYPEで上部空所(11)に固化材料を投入後,掘削機のバケットで固化材料を攪拌し,固化材液を作製する。
・A-TYPE敷地に余裕ありかつ大規模工事で採用するタイプで,セメントミルクプラントでプレミックスした固化材料を,余剰土を排土した部分に投入する方法・B-TYPE狭隘敷地や小規模工事で採用するタイプで,固化材と混練水を別々に,余剰土を排土した部分に直接投入する方法混錬水の水量を調整する。
c:攪拌工程ミキシングバケットにより,全体が均質になるまで改良体全体を上下前後に攪拌混合する。
d:固化工程e:地盤改良工法前記スラリーを固化させると改良体が完成し,地盤改良工法が終る。
裁判長裁判官 飯敏