関連審決 | 不服2010-24071 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成23行ケ10372 審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成23行ケ10373 審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成23行ケ10436審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成23行ケ10310審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成23行ケ10309審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
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事件 |
平成
23年
(行ケ)
10375号
審決取消請求事件
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原告 アディダスインターナショナル マーケティング べー ヴェー 訴訟代理人弁理士 柳田征史 同 佐久間 剛 同 中熊 眞由美 被告特許庁長官 指定代理人 井出 英一郎 同 芦葉松美 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2012/07/19 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が不服2010−24071号事件について平成23年7月4日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文同旨 |
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争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成18年3月28日に登録出願した商願2006-27278号を原出願とする分割出願として,平成22年2月25日,「POWERWEB」の文字を標準文字で表して成る商標(以下「本願商標」という。)について,第25類「運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として,登録出願(商願2010-14036号)をしたが,同年7月22日付けで拒絶査定通知を受け,同年10月26日,同査定に対する不服の審判(不服2010-24071号事件)を請求した。 特許庁は,平成23年7月4日,「本件審判請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月19日に原告に送達された。 2 審決の理由 審決の理由は別紙審決書写しのとおりであり,その要旨は次のとおりである。 本願商標と登録第5206595号商標(以下「引用商標」という。引用商標は,「POWERWAVE」の欧文字と「パワーウェーブ」の片仮名を上下二段に横書きして成り,第28類「ゴルフクラブ,その他の運動用具」を指定商品として,平成16年7月15日に登録出願され,平成21年2月20日に設定登録された。)とは,称呼上類似しており,外観上比較的近似しており,観念上明確な違いを有するものではないから,類似の商標であり,本願商標の指定商品は引用商標の指定商品と同一又は類似するから,本願商標は,商標法4条1項11号により商標登録を受けることができない。 (本願商標) (引用商標)POWERWEB |
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当事者の主張
1 審決の取消事由に関する原告の主張 本願商標と引用商標は,外観,称呼び観念において相違しており,商品の出所に誤認混同を生じるおそれはなく,非類似である。 (1) 外観 ア 本願商標は,欧文字の「POWERWEB」のみから構成されているのに対し,引用商標は,欧文字の「POWERWAVE」と片仮名の「パワーウェーブ」を上下二段に併記したものから構成されているから,両商標が外観において異なることは明らかである。 イ 被告は,本願商標の欧文字を片仮名で表記した場合には,「パワーウェブ」になることが容易に想起され得るから,本願商標からその片仮名表記を想起した場合は,外観を超えて近似した印象を与えるとして,本願商標と引用商標は外観上近似すると主張する。しかし,本願商標と引用商標の外観は,それぞれの願書に記載されたとおりの構成に基づいて比較対照されなければならず,被告の主張するような方法で比較対照することは許されない。 ウ 仮に,引用商標から欧文字部分「POWERWAVE」のみを取り出して本願商標「POWERWEB」とその外観を比較対照しても,両商標は外観上非類似である。 なぜなら,両商標の指定商品はいずれもスポーツに専用されるものであるところ,一般にスポーツ関係の商品に使用される「POWER」及び「パワー」の文字の自他商品識別力の程度は強いとはいえないから,両商標がぞれぞれの指定商品に使用される場合,前半部分の「POWER」(本願商標)ないし「POWER/パワー」(引用商標))よりも,後半部分の「WEB」(本願商標)ないし「WAVE/ウェーブ」(引用商標)の方が,需要者の注意を強く惹き印象に残りやすく,「WEB」と「WAVE」の相違によって両商標の外観を区別することは容易いからである。 また,日常生活において,欧文字で表示された商品名,店舗名,看板,流行歌のタイトル等が巷にあふれ,国民一般が欧文字による様々な表記を見慣れている現代社会においては,「POWERWEB」と「POWERWAVE」とは,一見して容易に区別できる程度に相異なる外観のものというべきである。 (2) 観念 ア 本願商標と引用商標は,全体としては特定の観念を有しない造語として認識理解されるものではあるが,前半部分の「POWER」ないし「POWER/パワー」よりも,後半部分の「WEB」ないし「WAVE/ウェーブ」の方が自他商品識別標識として需要者が注目する部分であり,また,後半部分の「WEB」と「WAVE/ウェーブ」は,それぞれが「ワールドワイドウェブ」と「波,波動」等といった特定の観念を直感させる程度まで一般に広く親しまれた語であることを斟酌すれば,両商標が需要者に与える印象,記憶,連想等は相異なるから,両商標は観念において明白に相違する。 イ 被告は,本願商標と引用商標は,いずれも特段の観念を生じない造語であるから,観念において両商標を明確に区別することはできないと主張する。しかし,両商標がその構成全体としては既存の観念を有しない造語として認識されるものであるとしても,それぞれの商標から一切の観念が生じないということにはならない。 両商標を構成する各文字部分「POWER」,「WEB」,「WAVE」は,それぞれが我が国の需要者に親しまれている英単語であり,かつ,外来語としても広く一般に用いられている語である。したがって,需要者は,本願商標が英単語の「POWER」と「WEB」が結合したものであることを極めて容易に認識理解し,「POWER」と「WEB」からそれぞれ直感される意味,観念を想起連想する。 同様に,需要者は,引用商標が英単語の「POWER」と「WAVE」が結合したものであることを極めて容易に認識理解し,「POWER」と「WAVE」から直感される意味,観念を想起連想する。このように,両商標は,その構成中で相異なる文字部分に当たる「WEB」と「WAVE」が明白に相異なる観念を想起連想させるものであるから,これにより,互いに異なった印象,記憶,連想等を需要者に喚起させるのである。 (3) 称呼 ア 本願商標を一連に発音すれば「パワーウェブ」との称呼が生じ,引用商標を一連に発音すれば「パワーウェーブ」との称呼が生じるところ,両者を聴別することは十分に可能である。 すなわち,前記のとおり,本願商標の指定商品と引用商標の指定商品は,いずれもスポーツに専用される商品であるから,両商標がぞれぞれの指定商品に使用される場合,前半部分の「POWER」(本願商標)ないし「POWER/パワー」(引用商標)よりも,後半部分の「WEB」(本願商標)ないし「WAVE/ウェーブ」(引用商標))の方が識別力が強い。また,両商標の後半部分の「WEB」と「WAVE/ウェーブ」は,それぞれが「ワールドワイドウェブ」及び「波,光・音・電気などの波動,髪の毛が波打っていること」等を意味する英単語の「web」と「wave」(及びその音訳)に相当し,これらの語の発音を音訳した「ウェブ(web)」及び「ウェーブ(wave)」は,上記意味の外来語として国民一般に広く親しまれている。 このように,識別力の強い「WEB」(本願商標)と「WAVE/ウェーブ」(引用商標)から需要者が直感する意味・観念が明白に異なることに照らせば,本願商標と引用商標の語調語感は相異なり,両商標を聴分することは十分に可能である。 イ 被告は,両商標の称呼上の差異は,「ウェ」に続く長音「ー」の有無のみであり,これが称呼全体に及ぼす影響はごくわずかであると主張する。しかし,本願商標の後半部分の「WEB」(「ウェブ」と発音される。)と引用商標の後半部分の「WAVE」(「ウェーブ」と発音される。)から想起連想される観念は明白に異なるものであるから,上記長音「ー」の有無の差異だけを単純に取り上げて比較対照し,「ごくわずか」な差異であると評価することは不適切である。ちなみに,特許庁の審決において,長音の有無のみを称呼上の相違点とする二つの商標が互いに非類似のものと認定判断された事案が相当数ある。 被告は,原告の上記アの主張に対し,本願商標及び引用商標は,「POWER」と「WEB」ないし「WAVE」の2語に分断されるものではない旨主張する。しかし,原告が主張しているのは,両商標をそれぞれ2語に分断し,後半部分のみを比較対照して類否の判断をすべきである,ということではない。原告が主張しているのは,両商標は構成文字全体が一つの自他商品識別標識として認識されるものであっても,前半部分の「POWER」と後半部分の「WEB」ないし「WAVE」とでは,その指定商品との関係において自他商品識別力の程度に大きな差異があるから,両商標の類否の判断においてこの点を斟酌すべきである,ということである。 (4) 取引の実情等 本願商標の指定商品がスポーツに専用される衣服及び靴であることから,商品の購入においては,サイズ,着心地・履き心地,自己の身体へのフィット感,重量感,素材の速乾性・ストレッチ性などの機能性が重視され,短期間で大量に消費される日用品ではなく,商品価格も比較的高額であることに照らせば,当該本願商標の指定商品の通常の需要者の注意力の程度は高い。また,当該指定商品は,小売店などで商品を実際に目で見て試着したり,商品カタログやウェブサイト等の視覚情報を用いて商品を十分に確認して購入を決定することが通常の取引形態として想定される。 2 被告の反論 本願商標と引用商標とは,外観において近似し,観念において明確に区別することができず,称呼において類似しており,取引の実情等によって,商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものということはできないから,類似する商標というべきである。 (1) 外観ア 本願商標の「POWERWEB」と引用商標中の「POWERWAVE」は,欧文字としていずれも普通に用いられる書体で表されており,文字の書体・配置・配色等に明瞭な差はない。両者は,その文字構成において,それぞれの文字数が8文字及び9文字であり,そのうち印象に残りやすい語頭からの6文字を共通にしていることから,外観において近似した印象を与える。 本願商標の「POWERWEB」と引用商標中の「パワーウェーブ」については,欧文字と片仮名の違いから外観上は相違する。しかし,商取引や宣伝広告などにおいて,商標の欧文字や片仮名はいずれの文字にも置き換えがなされることが一般的に行われていることからすれば,仮に,本願商標の欧文字を片仮名で表した場合には「パワーウェブ」となることが容易に想起され得るものであり,その片仮名表記と引用商標中の「パワーウェーブ」とで文字構成において相違するのは,「ウェ」の文字に続く長音「ー」の有無のみである。したがって,本願商標の「POWERWEB」と引用商標中の「パワーウェーブ」とは,外観上相違はあるものの,本願商標の欧文字からその片仮名表記を想起した場合には,外観の相違を超えて近似した印象を与えるものといえる。 イ 原告は,両商標を構成する前半部分の「POWER」ないし「POWER/パワー」よりも,後半部分の「WEB」ないし「WAVE/ウェーブ」の方が識別力が強いとして,両商標を前半部分と後半部分とに分断して類否観察をする。しかし,そもそも,「POWER/パワー」の部分が,運動を目的,用途とする商品について品質等を理解させる表示であることを示す証拠はなく,「POWER/パワー」の識別力が弱いということはできない。実際,第25類「運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品とする,「POWER」の文字のみからなる登録第1576827号商標が既登録の商標として存在する(乙5)。また,「POWER/パワー」の語が商標の構成部分として採択されやすい語であるとしても,「WEB」及び「WAVE/ウェーブ」の語も同様に採択されやすい語である。さらに,そもそも商標の類否に当たっては,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して類否の判断を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されない(最一小判昭和38年12月5日民集17巻12号1621頁,最二小判平成5年9月10日民集47巻7号5009頁,最二小判平成20年9月8日裁判集民事228号561頁参照)。したがって,原告の主張するように両商標を前半部分と後半部分とに分断する理由はなく,一体不可分のものとして全体として類否観察をすべきである。 (2) 観念 ア 本願商標を構成する「POWERWEB」と,引用商標を構成する「POWERWAVE」及び「パワーウェーブ」は,いずれもまとまりよく一体に表されており,特定の意味合いを有する語とはいえないことから,両商標は,いずれも特定の観念が生じない造語である。したがって,両商標は,観念の違いによって明確に区別し得るものではない。 イ 原告は,前半部分の「POWER」ないし「POWER/パワー」よりも,後半部分の「WEB」と「WAVE/ウェーブ」が自他商品識別標識として需要者が注目する部分であると主張するが,この主張に理由がないことは,前記(1)のとおりである。 (3) 称呼 ア 本願商標から生ずる「パワーウェブ」の称呼と引用商標から生ずる「パワーウェーブ」の称呼とで異なるところは,第4音「ウェ」に続く長音「ー」の有無のみであり,その差異が称呼全体に及ぼす影響はごく僅かである。なぜなら,引用商標における長音「ー」は,その前音「ウェ」の母音に連係して長母音を形成することから,「ー」が前母音に吸収されやすいため,本願商標の「ウェ」との差が明瞭ではなく,また,引用商標における長音「ー」は,称呼の識別上明瞭に聴取し難い語の中間から語尾に位置するからである。両称呼とも短いものではないから,両商標を時と所を異にして,それぞれ一連に称呼するときは,その語調,語感が近似し,聞き誤るおそれがある。したがって,両商標は称呼上類似のものというべきである。 イ 原告は,前半部分の「POWER」ないし「POWER/パワー」よりも,後半部分の「WEB」と「WAVE/ウェーブ」が自他商品識別標識として需要者が注目する部分であると主張するが,この主張に理由がないことは,前記(1)のとおりである。 (4) 取引の実情 ア 本願商標と引用商標の構成中の「POWER」及び「パワー」の文字が,一般によく知られ,親しまれている語であって,スポーツ用語として普通に使用されている語であるとしても,取引の実情において,本願商標や引用商標のような造語の商標にあっては,その構成中の「POWER」及び「パワー」の部分のみを取り出して,その指定商品の出所表示標識として機能しないなどとして見るようなことはない。一体として看取される造語の商標は,あくまでも,構成文字全体として把握されるものであって,構成文字全体として商品を選択する際の目印として,取引に資されるものである。そうとすれば,本願商標と引用商標は,共に,まとまりよく表された一体不可分の造語の商標として理解され,認識されるものというのが,取引の実情に即しているというべきである。 イ 原告は,本願商標の指定商品の通常の需要者の注意力の程度は高いと主張するが,当該指定商品の主たる需要者であるというスポーツ愛好家とは一般の人々であること,当該指定商品は,日常的に購入できる範囲の商品であることからすると,本願商標の指定商品の通常の需要者は,ごく普通の注意力をもって商品を購入するというのが相当である。 |
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当裁判所の判断
当裁判所は,本願商標と引用商標が類似するとした審決の認定判断には誤りがあると判断する。その理由は,以下のとおりである。 1 本願商標と引用商標について (1) 本願商標 ア 外観 本願商標は,「POWERWEB」の欧文字を標準文字で表記したものである。 イ 観念 本願商標は,本件全証拠によっても辞書に収録された成語であるとは認められないが,これを構成する「POWER」と「WEB」は,それぞれ英単語の「power」と「web」に相当するものである。 英単語の「power」は,「@(…する力),能力,才能,A政治力,国力,B強さ,力,パワー;体力,精神力」等を意味し(甲19),その発音を日本語に音訳した「パワー」は,「力,腕力,馬力」(甲76)等を意味する外来語として一般に広く認知されている(甲75〜81)。 英単語の「web」は,「@織られたもの,織物,編み物,Aクモの巣,毛虫の巣」等を意味し(甲1),その発音を日本語に音訳した「ウェブ」,「ウエブ」,「ウェッブ」は,「網,網目,ワールドワイドウェブ」(甲3),インターネットの情報網等を意味する外来語として広く親しまれている(甲3〜10,60〜68)。 そうすると,「power」と「web」は,いずれも一般人が容易に観念を想起し得る英単語であるということができ,このように一般人が容易に観念を想起し得る英単語を組み合わせた語については,これを構成する英単語からその観念を想起することは通常のことであるから,本願商標からは,「power」と「web」からそれぞれ想起する観念を合わせた,「力のある網」,「力のある網目」,「力のあるワールドワイドウェブ」程度の観念を生じるものと認められる。 ウ 称呼 上記のとおり,「power」と「web」は,いずれも一般人が容易に観念を想起し得る英単語であり,このように一般人が容易に観念を想起し得る英単語を組み合わせた語については,これを構成する英単語の発音を日本語に音訳したものに対応した呼び方をすることは通常のことであるから,本願商標からは,「power」と「web」の発音をそれぞれ日本語に音訳したものを合わせた,「パワーウェブ」,「パワーウエブ」,「パワーウェッブ」といった称呼を生じるものと認められる。 (2) 引用商標 ア 外観 引用商標は,「POWERWAVE」の欧文字と「パワーウェーブ」の片仮名を上下二段に横書きしたものであり,欧文字部分と片仮名部分とは,それぞれの縦横の長さはほぼ同じで,両部分は近接しており,全体としてまとまった外観を呈している。 イ 観念 引用商標は,本件全証拠によっても辞書に収録された成語であるとは認められないが,「POWERWAVE」を構成する「POWER」と「WAVE」は,それぞれ英単語の「power」と「wave」に相当するものである。 英単語の「power」は,上記のとおり,「@(…する力),能力,才能,A政治力,国力,B強さ,力,パワー;体力,精神力」等を意味し,その発音を日本語に音訳した「パワー」は,「力,腕力,馬力」等を意味する外来語として一般に広く認知されている。 英単語の「wave」は,「@波,波浪,風浪,A波のような動き,うねり,波立ち,波動,B(感情・興奮・景気などの)波,高まり,強まり,押し寄せ,(人口の)急増」等を意味し(甲2),その発音を日本語に音訳した「ウエーブ」「ウェーブ」は,「@波,A光・音・電気などの波動,B髪の毛が波立っていること,またはその髪形」等を意味する外来語として一般に広く認知されている(甲15〜18,甲69〜74)。 そうすると,「power」と「wave」は,いずれも一般人が容易に観念を想起し得る英単語であるということができ,このように一般人が容易に観念を想起し得る英単語を組み合わせた語については,前記のとおり,これを構成する英単語からその観念を想起することは通常のことであるから,引用商標中の欧文字「POWERWAVE」からは,「power」と「wave」からそれぞれ想起する観念を組み合わせた,「力のある波」,「力のある波動」程度の観念を生じるものと認められる。 また,引用商標の下段を構成する片仮名「パワーウェーブ」は,上段を構成する欧文字「POWERWAVE」に相当する英単語「power」と「wave」の発音をそれぞれ日本語に音訳したものを合わせたものであると容易に理解することができるから,結局,引用商標全体から,「力のある波」,「力のある波動」程度の観念を生じるものと認められる。 ウ 称呼 上記のとおり,引用商標の下段を構成する片仮名「パワーウェーブ」は,上段を構成する欧文字「POWERWAVE」に相当する英単語「power」と「wave」の発音をそれぞれ日本語に音訳したものを合わせたものであると容易に理解することができるから,結局,引用商標全体から,「パワーウェーブ」という称呼を生じるものと認められる。 2 本願商標と引用商標の類否 (1) 上記認定事実を基に,本願商標と引用商標の類否について判断する。 ア 外観について引用商標は,上段の「POWERWAVE」と下段の「パワーウェーブ」とが全体としてまとまった外観を呈しており,これを全体として本願商標の「POWERWEB」と対比すると,両商標が外観上相違することは明白である。 もっとも,引用商標の下段の「パワーウェーブ」は,上段の「POWERWAVE」の読みを表したものと容易に理解することができるから,引用商標に接した取引者,需要者は,上段の「POWERWAVE」のみを記憶に留めるか,あるいは,下段の「パワーウェーブ」よりも上段の「POWERWAVE」をより強く記憶に留めるということも十分に考えられ,また,上段下段とも記憶には留めたとしても,本願商標に接した際に,引用商標の上段のみを想起するということも考えられる。 このような場合には,本願商標と引用商標の外観上の類否の判断は,本願商標の「POWERWEB」と,引用商標上段の「POWERWAVE」とを比較対照して行うのが相当である。 そこで,「POWERWEB」と「POWERWAVE」とを比較対照すると,両者は,語頭からの6文字「POWERW」を共通にする。 しかし,両者を構成する文字数は8文字ないし9文字と比較的少なく,このうちの2文字ないし3文字は全く異なっている。 また,「POWERWEB」は,英単語の「power」と「web」に相当する「POWER」と「WEB」の2つの単語を組み合わせたものであり,「POWERWAVE」は,英単語の「power」と「wave」に相当する「POWER」と「WAVE」の2つの単語を組み合わせたものであることは,一般人にとって容易に理解可能であり,「POWER」,「WEB」,「WAVE」のように,一般人にとって観念を容易に想起し得る単語を組み合わせた語について,これを構成する単語に分けてその外観を認識することは通常のことである。 加えて,「パワー(power)」を包含するスポーツ用語は各種スポーツの分野で数多く使用されており〔「パワー(power)」は,筋力と筋収縮速度で決定される単位時間当たりの仕事量等を意味するスポーツ用語として普通に使用されている(甲83,88,90,93)。また,「パワー(power)」を語頭に含む言葉は多数あり,スポーツ用語として普通に使用されている(「パワープレー(power play)」について,甲21,22,78〜83,85,86,88,89,96,「power lifting(パワーリフティング)」について,甲23,76,79,80,88,90,92,96,その他に「パワー(power)」を含むスポーツ用語が使用されている例として,甲78,81〜92,94〜96がある。)〕,スポーツ関係の商品に使用される「POWER」の文字の自他商品識別力は,同じくスポーツ関係の商品に使用される「WEB」及び「WAVE」の文字の自他商品識別力よりも強いものとはいえない。なお,「POWER」を語頭に含む登録商標は少なくとも60以上あるから(甲99),第24類「運動用特殊靴,その他の運動具」を指定商品として「POWER」の文字のみからなる登録商標(乙5)が存在することは,この認定の妨げとなるものではない。そして,本願商標と引用商標の指定商品は,いずれもスポーツ関係のものである。 上記の諸点を勘案すると,「POWERWEB」と「POWERWAVE」の類否の判断において,両者がいずれも一般人にとって観念を容易に想起し得る単語を組み合わせた語であることや,スポーツ関係の商品に使用される「POWER」の自他商品識別力と「WEB」及び「WAVE」のそれとの相違を考慮することなく,それぞれを構成する文字の共通性のみを強調することは相当ではなく,「POWER」と組み合わされた「WEB」と「WAVE」の外観上の相違を軽視することはできないというべきである。そして,「POWER」と組み合わされた「WEB」と「WAVE」とは,語頭の「W」を共通にするのみであり,その他の文字及びその配列に共通性はない。 以上によれば,「POWERWEB」と「POWERWAVE」とは,外観において相違するというべきである。 したがって,本願商標と引用商標とは,外観において相違する。 イ 観念について 本願商標からは「力のある網」,「力のある網目」,「力のあるワールドワイドウェブ」程度の観念が生じ,引用商標からは「力のある波」,「力のある波動」程度の観念が生じるから,両商標は観念においても相違する。 ウ 称呼について 本願商標からは「パワーウェブ」,「パワーウエブ」,「パワーウエッブ」といった称呼を生じ,引用商標からは「パワーウェーブ」という称呼を生じるから,両商標の称呼上の差異は,「ウェ」に続く長音「ー」の有無のみであるか,あるいは,「ウ」に続く称呼が「エ」又は「エッ」であるか,「ェー」であるかのみである。 しかし,前記のとおり,「POWERWEB」は,「POWER」と「WEB」の2つの単語を組み合わせたものであり,「POWERWAVE」は,「POWER」と「WAVE」の2つの単語を組み合わせたものであることは,一般人にとって容易に理解可能であり,「POWER」,「WEB」,「WAVE」は,いずれも一般人にとって観念を容易に想起し得る単語であること,スポーツ関係の商品に使用される「POWER」の文字の自他商品識別力は,同じくスポーツ関係の商品に使用される「WEB」及び「WAVE」の文字の自他商品識別力よりも強いものとはいえないことからすると,両商標の語調語感は自ずと相異なる。 したがって,両商標は,称呼上類似はするものの,両商標を聞き分けることは必ずしも困難なことではない。 エ 両商標の類否 以上のとおり,本願商標と引用商標とは,外観及び観念において相違し,称呼上類似はするものの,両商標を聞き分けることは必ずしも困難なことではないこと,また,取引の実情として,外観や観念よりも称呼によって商品の出所を識別しているなど,称呼上の識別性が外観及び観念上の識別性を上回っているような事情は認められないことに照らせば,両商標は,外観及び観念上の相違が称呼上の類似性を凌駕するものというべきである。 したがって,両商標は類似しない。 (2) 被告の主張について ア 被告は,両商標の外観について,「POWERWEB」と「POWERWAVE」は,文字数8文字ないし9文字のうち,印象に残りやすい語頭からの6文字を共通にしていることなどから,両者は外観において近似した印象を与える旨主張する。また,被告は,最高裁判例を引用して,結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出して,この部分と他人の商標とを比較して類否の判断をすることは,原則として許されないと主張する。 しかし,前示のとおり,当裁判所は,本願商標と引用商標の類否判断において,商標全体の識別力について検討を加える中で,「POWERWEB」及び「POWERWAVE」がいずれも一般人にとって観念を容易に想起し得る単語を組み合わせた語であることや,スポーツ関係の商品に使用される「POWER」の自他商品識別力と「WEB」及び「WAVE」のそれとの相違があること等を認定判断しているのであって,それらを考慮することなく,それぞれを構成する文字の共通性のみを強調して類否の判断をするのは相当ではないとするものである。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 イ 被告は,両商標の観念について,いずれも特定が生じない造語であるから,両商標は観念において明確に区別し得るものではないと主張する。 しかし,造語であるからといって,一律に一切観念が生じないということはできない。「POWERWEB」や「POWERWAVE」のように,一般人が容易に観念を想起し得る英単語を組み合わせた語については,これを構成する英単語からその観念を想起することは通常のことであるから,このような造語については,個々の英単語から想起する観念を組み合わせた観念を生じるものということができる。 したがって,被告の上記主張も採用することができない。 ウ 被告は,本願商標と引用商標との称呼上の差異は,第4音「ウェ」に続く長音「ー」の有無のみであり,両商標を時と所を異にしてそれぞれ一連に称呼するときは聞き誤るおそれがある旨主張する。確かに,両商標の称呼は類似しているが,両商標を聞き分けることは必ずしも困難なことではない。また,取引の実情として,称呼による識別性が外観及び観念による識別性よりも強いことなど,本願商標がその指定商品である「運動用特殊衣服,運動用特殊靴」に使用された場合に,引用商標との間で商品の出所に誤認混同を生じさせるおそれがあることをうかがわせる事情は認められない。 その他被告が主張するところを考慮しても,両商標が非類似であるとの判断は左右されない。 3 結論以上によれば,原告の請求は理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 芝俊 |
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