関連審決 | 不服2010-21611 |
---|
審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
---|---|---|
平成23行ケ10311 | 判例 | 商標 |
平成23行ケ10436審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成23行ケ10309審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成23行ケ10310審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成23行ケ10184審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
24年
(行ケ)
10002号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告 川崎重工業株式会社 訴訟代理人弁理士 角田嘉宏 同 古川安航 同 三上真毅 被告特許庁長官 指定代理人 井出英一郎 同 水莖弥 同 芦葉松美 |
|
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2012/09/13 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が不服2010−21611号事件について平成23年11月15日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
請求
主文と同旨 |
|
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成21年7月13日,別紙「本願商標」のとおりの構成からなり,第 125類「被服,ベルト,帽子,手袋,ネクタイ,エプロン,リストバンド」を指定商品とする商標(以下「本願商標」という。)を登録出願し,平成22年1月27日付け手続補正書により,指定商品について,第25類「被服,ベルト,帽子,手袋,ネクタイ,エプロン」と補正したが,同年6月25日,拒絶査定を受けたので,同年9月27日,これに対する不服の審判(不服2010-21611号事件)を請求した。特許庁は,平成23年11月15日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年12月2日,原告に送達された。 2 審決の理由 別紙審決書写しのとおりである。要するに,@本願商標は,神奈川県川崎市で製造,販売された商品の産地,販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり,商標法3条1項3号に該当する,A本願商標を構成する「Kawasaki」の文字は,ありふれた氏である「川崎」を欧文字で表記したものというべき商標であるから,ありふれた氏を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり,商標法3条1項4号に該当する,B申立人(原告)の提出に係る証拠のみをもってしては,本願商標が請求人の業務に係るアパレル関連の商品を表示する商標として,我が国における取引者,需要者の間に広く認識され,自他商品の識別力を獲得したものということはできないなどと判断したものである。 |
|
当事者の主張
1 原告の主張する取消事由 審決は,商標法3条1項3号該当性判断の誤り(取消事由1),同項4号該当性判断の誤り(取消事由2),同条2項該当性判断の誤り(取消事由3)があり,違法として取り消されるべきである。 (1) 商標法3条1項3号該当性判断の誤り(取消事由1) 審決は,「本願商標は,『Kawasaki』の欧文字を普通に用いられる方法で表してなるにすぎず,神奈川県川崎市を表示するものと容易に需要者に認識させるものであるから,本願商標をその指定商品について使用するときは,これに接す 2る取引者,需要者をして,その商品が神奈川県川崎市で製造,販売されたものであること,すなわち,商品の産地,販売地を表示したものと認識させるにとどまるものである。してみれば,本願商標は,神奈川県川崎市で製造,販売された商品の産地,販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である。」として,本願商標は,商標法3条1項3号に該当する旨判断した。 しかし,審決の判断は,以下のとおり,誤りである。 ア 商標が,商標法3条1項3号所定の「商品の産地,販売地」を表示するものか否かの判断主体は,指定商品の需要者又は取引者であると解すべきであり,指定商品の需要者又は取引者が,当該商品は当該商標の表示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に認識する場合には,当該商標は,同号所定の「商品の産地,販売地」を表示するものということができるが,指定商品の需要者取引者が,当該商品が当該商標の表示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に認識しない場合には,当該商標は,同号に該当しないというべきである(最高裁昭和61年1月23日第一小法廷判決・裁判集民事147号7頁[判例時報1186号131頁]参照)。 本願商標については,指定商品がアパレル関係の商品であるところ,当該商品の需要者又は取引者が本願商標の表示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に認識することを裏付ける資料はない。かえって,原告が社会調査の専門業者に委託して実施した調査(有効回答数は日本全域の18歳から69歳までの男女1187名,調査期間は平成23年5月10日から同月12日,インターネット調査の手法による。)の結果によれば,本願商標から「川崎重工業」に関連した事業内容等を想起した回答が1056件あったのに対し,「地名(神奈川・川崎市)」を想起した回答は51件しかなく(甲217),本願商標に接した指定商品の取引者又は需要者が,当該商品が神奈川県川崎市で製造,販売されたものであると認識するとはいえない。 したがって,本願商標は,「商品の産地,販売地」を表示するものとはいえない。 3イ また,商標法3条1項3号所定の「普通に用いられる方法で表示する標章」については,指定商品の取引の実情を考慮し,その書体や全体の構成等が特殊な態様のものは,これに該当しないと解すべきである。 本願商標は,エーリアル ブラック(Arial Black)に似た極太のゴシック書体で「Kawasaki」の欧文字を書してなるところに特徴を有しており(別紙参照),アパレル関係の商品において普通に行われている表示態様を脱した特殊な表示態様に該当するものである。実際,本願商標は,アパレル関係を含め幅広い事業において使用されているが,日本国内において「Kawasaki」の文字を商標,商号,屋号,団体名等において表示する者が多数存在するにもかかわらず,それらの者との間で出所混同のおそれが問題となったことはなく,取引者,需要者から産地・販売地表示との誤認を指摘されたこともない。 したがって,本願商標は,商品の産地,販売地を「普通に用いられる方法で表示する標章」に該当しない。 ウ 以上のとおり,本願商標が,商標法3条1項3号に該当するとした審決の判断は誤りである。 (2) 商標法3条1項4号該当性判断の誤り(取消事由2)審決は,「日常の商取引において姓氏を表す場合には,必ずしも漢字のみに限らず,平仮名,片仮名又は欧文字で表示する場合も決して少なくないことからすれば,該『Kawasaki』の文字は,姓氏の『川崎』を欧文字で表記したものと容易に理解されると判断するのが相当である。そして,・・・『川崎』の姓は,我が国においてありふれた氏と認められるものである。してみれば,本願商標を構成する『Kawasaki』の文字は,ありふれた氏である『川崎』を欧文字で表記したものというべき商標であるから,本願商標は,ありふれた氏を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である。」として,本願商標は,商標法3条1項4号に該当する旨判断した。 しかし,審決の判断は,以下のとおり,誤りである。 4 商標法3条1項4号所定の,ありふれた氏又は名称を「普通に用いられる方法で表示する標章」については,標章の表示の態様(ロゴ・レタリング等)が,当該商品又は当該役務に係る業界で普通に行われている表示態様を脱した特殊な表示態様である場合は,これに該当しないと解すべきである。 「川崎」がありふれた氏に該当すること,欧文字「Kawasaki」がその英文表記に該当することは争わないが,本願商標は,エーリアルブラック(ArialBlack )に似た極太のゴシック書体で「Kawasaki」の欧文字を書してなるところに特徴を有しており,アパレル関係の商品において普通に行われている表示態様を脱した特殊な表示態様に該当するものである。実際,本願商標は,アパレル関係を含め幅広い事業において使用されているが,日本国内において「Kawasaki」の文字を商標,商号,屋号,団体名等において表示する者が多数存在するにもかかわらず,それらの者との間で「Kawasaki」のレタリング(フォントデザイン)が相紛らわしいために出所混同のおそれが問題となったことはなく,取引者,需要者から誤認を指摘されたこともない。 したがって,本願商標は,ありふれた氏又は名称を「普通に用いられる方法で表示する標章」に該当せず,これを商標法3条1項4号に該当するとした審決の判断は誤りである。 (3) 商標法3条2項該当性判断の誤り(取消事由3) 審決は,「本願商標を付した商品の過去3年間の売上は5億円程度であって,また,商品の販売数量,シェア,広告宣伝の状況等について,本願商標の指定商品についての著名性を具体的に裏付ける証拠は何ら提出されていないに等しく,申立人の提出に係る証拠のみをもってしては,本願商標が請求人の業務に係るアパレル関連の商品を表示する商標として,我が国における取引者,需要者の間に広く認識され,自他商品の識別力を獲得したものということはできない。」旨判断した。 しかし,審決の判断は,以下のとおり,誤りである。 登録出願された商標が,商標法3条2項の要件を具備するというためには,使用 5に係る商標及び商品,使用開始時期及び使用期間,使用地域,当該商品の販売数量等並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して,出願に係る商標が使用された結果,審決時において,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものと認められるか否かによって決すべきものであり,使用商標は,出願に係る商標と同一であることを要すると解される。また,出願に係る商標の指定商品,指定役務の全てにおいて当該商標が使用されていなくとも,当該指定商品,指定役務の分野の取引者,需要者において,当該商標を出願人の業務に係る標章であると認識する者が,類型的に相当程度いるということが一般的にいえる場合には,同項の適用は認められるというべきである。すなわち,同項を適用する要件として,本願商標が,その指定商品に係るブランドとして認知されている必要はない。 本願商標と同一の標章(以下,これを含めて「本願商標」ということがある。)は,原告及び川崎重工グループのハウスマークとして多種多様な商品,役務に使用されている(甲3,甲234,甲236ないし甲241)。本願商標の指定商品は,原告及び川崎重工グループの主たる事業分野ではないものの,過去20年以上,本願商標を付したアパレル商品が原告の子会社を通じて販売されている(甲8)。 また,本願商標は,原告及び川崎重工グループの主たる事業分野において世界的な著名性を獲得しており,日本国内の一般人(アパレル商品の取引者,需要者を含む。)は,本願商標を見て,原告及び川崎重工グループに関連するものと認識する。 さらに,原告は,子会社である株式会社カワサキモータースジャパンを通じて,本願商標を付した数多くの種類のアパレル商品(Tシャツ,ポロシャツ,トレーナー,パーカー,ウインドブレーカー,ブルゾン,ジャケット,ポンチョ,コート類,エプロン,帽子,手袋,ネクタイ,ベルト等)を販売しており,年2回,それぞれ1万部ないし2万7000部のカタログを発行してカワサキ・バイクを購入したユーザーや全国カワサキ正規取扱店等に配布するとともに,インターネット・ホームページを通じて電子情報としても配布している。これらのアパレル商品に関する広告は,バイク雑誌において定期的に行っている。加えて,平成18年,平成19年 63月下旬,平成20年4月及び平成21年1月には,我が国を代表するアパレル業者である「ユニクロ」の全国の店舗(平成19年3月当時,約700店舗)において,本願商標を付したTシャツを期間限定で販売し,平成18年11月には「ユニクロ」とのコラボレーションにより製作した本件商標を付したTシャツ商品を全国のカワサキ正規取扱店で限定販売したところ,いずれも完売となった。 以上のとおり,原告は,指定商品の全ての商品において本願商標を使用しており,本願商標を付したアパレル商品の多くはバイクユーザー向けの商品であるとしても,それらの商品のデザインや機能は,日常的なアパレル商品と顕著な差異がないから,これらの商品の取引者,需要者は類型的に重なる部分があるといえる。そして,本願商標は,原告及び川崎重工グループのハウスマークとして日本国内の一般人に広く認識されていることから,本願商標が原告及び川崎重工グループの出所を表すものであることを知っている指定商品の取引者,需要者が類型的に相当程度いることも明らかである。 したがって,本願商標は,商標法3条2項の要件を満たすというべきであり,本願商標が,アパレル関連の商品を表示する商標として,我が国における取引者,需要者の間に広く認識され,自他商品の識別力を獲得したものということはできないとの理由で同項の適用を否定した審決の判断は誤りである。 2 被告の反論以下のとおり,審決に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。 (1) 取消事由1(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)に対しア 本願商標は,「商品の産地,販売地」を表示するものとはいえないとの原告の主張に対し(ア) 本願商標は,「Kawasaki」の文字を書してなるものであるから,「神奈川県川崎市」の地名を表示するものとして理解され,また,該地名としての欧文字が一般に広く採択,使用されている事情があることからすると,これをアパレル商品に使用しても,神奈川県川崎市を表示するものと容易に需要者に認識させ 7るものというのが相当である。このことは,指定商品の需要者又は取引者が10代ないし60代の男女全般であろうと変わりはない。 また,アパレル商品は,全国各地で製造,販売されているところ,神奈川県川崎市は,人口が140万人を超える大都市であり,政令指定都市とされ,商・工業地として知られているものである。このような大都市にあっては,多くのアパレル販売店等があることからすれば(乙5),これに接する取引者,需要者をして,その商品が同市で製造,販売されたものであることを表示する標章として理解し得る。 したがって,本願商標は,商品の産地,販売地を表示する標章として認識させるにとどまるというべきである。 (イ) 原告の提出するアンケート調査報告書(甲217)は,最初の質問(Q1)が,本願商標のみを呈示し,「このロゴをご覧になって,あなたは何を思い浮かべましたか。なんでも結構ですので,思い浮かべた内容をご自由にお書きください。」というものであり,商標であることを意識させる「ロゴ」の語を用いた質問となっており,純粋に本願商標から想起させる内容となっていないから,その認知度を示す判断材料として,信頼性が高いものとはいうことができない。 また,その調査結果において,ロゴについての想起であるにもかかわらず,「地名(神奈川県・川崎市)」及び「川崎・カワサキのみ」を想起したものが51件もある点は重要である。 イ 本願商標は,商品の産地,販売地を「普通に用いられる方法で表示する標章」に該当しないとの原告の主張に対しエーリアルブラックの書体は,我が国で一般的に知られているゴシック体に相当するから(乙4),本願商標が,エーリアルブラックに似た極太のゴシック体であるからといって,特徴があるといえるほどのものではなく,「普通に用いられる方法で表示する標章」の域を脱し得ないというべきである。 また,原告が,過去20年以上,本願商標を使用し,他者との間で出所混同のおそれが問題になったことはなく,取引者,需要者から産地,販売地表示との誤認を 8指摘されなかったのは,「Kawasaki」の文字を誰もが使用できることから,原告が使用したからといって問題にならなかったにすぎない。 さらに,他に,本願商標と同じレタリングのものは見当たらないとしても,本願商標の書体は,ありふれたものである。また,甲216によれば,「Kawasaki」や「KAWASAKI」などの文字が含まれた登録商標(失効を含む。)が,原告のみならず,他人においても多数あり,地名や姓氏としての採択例が多いことが示されているといえる。 ウ したがって,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした審決の判断に誤りはない。 (2) 取消事由2(商標法3条1項4号該当性判断の誤り)に対し上記(1) のとおり,本願商標は,エーリアルブラックに似た極太のゴシック体であるからといって,特徴があるといえるほどのものではなく,「普通に用いられる方法で表示する標章」の域を脱し得ないというべきである。 また,本願商標は,アパレル関係を含め幅広い事業において使用され,日本国内において「Kawasaki」の文字を商標,商号,屋号,団体名等において表示する者が多数存在するにもかかわらず,それらの者との間で出所混同のおそれが問題となったことはなく,取引者,需要者から誤認を指摘されたこともなかったのは,「Kawasaki」の文字を誰もが使用できることから,原告が使用したからといって問題にならなかったにすぎない。 さらに,甲216によれば,「Kawasaki」や「KAWASAKI」などの文字が含まれた登録商標(失効を含む。)が,原告のみならず,他人においても多数あり,地名や姓氏としての採択例が多いことが示されているといえる。 したがって,本願商標は,自他商品の識別標識として機能しないありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標と認められるから,商標法3条1項4号に該当するとした審決の判断に誤りはない。 (3) 取消事由3(商標法3条2項該当性判断の誤り)に対し 9商標法3条2項の趣旨は,特定人が当該商標をその業務に係る商品の自他識別標識として長期間継続的かつ独占的に使用し,宣伝もしてきたような場合には,当該商標は例外的に自他商品識別力を獲得したものということができる上に,他の事業者に対してその使用の機会を開放しておかなければならない公益上の要請は乏しいということができるから,当該商標の登録を認めるというものであると解される。 このような商標法3条2項の趣旨からすると,同項によって商標登録が認められるためには,@出願商標と実際に使用している商標の同一性が認められること,A本願商標の指定商品が,使用に係る商標の商品と同一であること,B実際に使用している商標が,判断時である審決時において,取引者・需要者において何人の業務に係る商品であるかを認識することができるものと認められることという要件をすべて具備することが必要であると解される(知財高裁平成19年3月29日[平成18年(行ケ)第10441号]判決,同平成18年6月12日[平成18年(行ケ)第10054号]判決参照)。 本願商標については,上記@,Aの要件を満たすといえるものの,上記Bの要件を満たすとはいえない。すなわち,本願商標が付された商品の販売数量及びシェアは不明であり,売上は,年間およそ1.7億円程度であり,アパレル業界の売上全体(アパレル業界における「衣料品小売販売額」については,2010年は,売上全体の総計が15兆4015億円である。「2010年度アパレル売上高ランキング(上位30社)」では,1位が「ワールド」で,その売上高は,2763億円である(乙7)。)からすれば,さしたる金額でなく微少である。そして,広告については,バイク関連の商品カタログ,バイク関連の限定された雑誌が中心で,その他の新聞,テレビ等のCMが使用された等の事実もなく,かつ,宣伝広告費も不明である。その他,「第2回ブランドイメージ調査」報告書(甲315)については,本願商標の「Kawasaki」の文字が,「バイク関連」のブランドとしての著名性を有することは認められるとしても,このアンケート調査によっては,本願商標の「Kawasaki」の文字が,「バイク関連」以外の他の分野において識別 10性を有しているものであることが証明されていない。また,本願商標が他国で登録されていることをもって,日本国内において,使用により自他商品識別力を有すると判断すべき理由はない。 したがって,本願商標は,その指定商品について使用された結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる商標として,商品の出所を表示し,自他商品の識別標識として認識されるとはいい難く,商標法3条2項の要件を具備するものといえない。 これに対し,原告は,「出願に係る商標の指定商品,指定役務の全てにおいて当該商標が使用されていなくとも,当該指定商品,指定役務の分野の取引者,需要者において,当該商標を出願人の業務に係る標章であると認識する者が,類型的に相当程度いるということが一般的にいえる場合には,商標法3条2項の適用は認められる。同項を適用する要件として,本願商標が,その指定商品に係るブランド(いわゆるアパレルブランド)として認知されている必要はない。」旨主張する。しかし,上記の同項の趣旨からすると,本願商標の「Kawasaki」の文字は,たとえ,原告が本願商標をその指定商品中の商品に使用してきたとしても,その使用した結果として,公益上の要請を失わせるほどの使用はなく,少なくとも,アパレルの分野において,著名な商標ということもできない。そして,本願商標は,公益上の要請として,他の事業者に対して,その使用の機会を開放しておかなければならない表示と考えられ,商標登録することができないものというべきである。原告の上記主張は失当である。 |
|
当裁判所の判断
当裁判所は,以下のとおり,原告主張の取消事由に理由があり,審決は,違法として取り消されるべきものと判断する。 1 認定事実証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 本願商標は,別紙「本願商標」記載の構成であり,欧文字「Kawasak 11i」が,エーリアルブラックの書体に似た極太の書体で強調して書かれており,字間が狭く,全体的に極めてまとまりが良いことから,見る者に,力強さ,重厚さ,堅実さなどの印象を与える特徴的な外観を有することが認められる。 (2) 審決は,商標法3条1項3号該当性判断の根拠として,「川崎」が神奈川県川崎市を意味することを示す辞典類の記載,同市を「KAWASAKI」,「Kawasaki」,「kawasaki」の欧文字を使用して表記している東京新聞,朝日新聞,毎日新聞,日刊工業新聞の各記事,団体企業等のウェブページの各記事(URLを含む。)を引用する。しかし,これらの中にアパレル関連の商品に関して使用した例はなく,本願商標と同一又は類似の表記態様がなされた例もない(乙3の「(1)理由1」,弁論の全趣旨)。なお,これらのうち,川崎球場のウェブページの「Kawasaki」の表記は,本願商標と類似するようにも思われるが,当該表記は,その後,本願商標と類似しない表記態様に変更された(甲464)。 (3) 原告が,調査会社であるインテージ株式会社に委託して実施したブランドイメージ調査(18歳から69歳の男女4266人を対象とするインターネットによる定量調査。実施期間は平成23年5月10日から12日。)の結果(甲217)は,次のとおりである。業種が広告代理店,市場調査,マスコミに勤務していないとの条件を満たす者を対象に行われた。 ア 画面において,本願商標のみを呈示し,「Q1 このロゴをご覧になって,あなたは何を思い浮かべましたか。なんでも結構ですので,思い浮かべた内容をご自由にお書きください。」と質問した。 この項目の回答の総数は1407件であり,このうち,バイク関係を想起したものが925件で最も多く,スポーツ用品(テニス・ラケット等を含む。)を想起したものが67件,企業関係を想起したものが66件,船舶海洋・車両・航空宇宙・機械ビジネス・モーター・エンジン・精密機器を想起したものが65件であり,地名(神奈川県・川崎市)を想起したものは39件,川崎・カワサキのみ記載した回答が12件,「分からない」又は「なし」と記載した回答が合計75件であった。 12 年代別では,地名(神奈川県・川崎市)を想起したものが20代女性でやや多かったものの,同年代女性の約10%にすぎなかった。 イ 画面において,本願商標を呈示し,「Q2 このロゴをご覧になって,あなたは何のロゴだと思いましたか。最もあてはまるものを1つだけお答えください。 商品・サービスブランドのロゴ,市区町村・自治体・役所のロゴ,企業ブランドのロゴ,個人事業・商店のロゴ,事業ブランドのロゴ,その他具体的に」と質問した。 この項目のサンプル数は1187件であり,全体では,「企業ブランドのロゴ」との回答が71.0%と最も多く,「商品・サービスブランドのロゴ」との回答が13.6%,事業ブランドのロゴとの回答が7.8%,「市区町村・自治体・役所のロゴ」との回答が3.1%,「個人事業・商店のロゴ」との回答が1.5%であった。 年代別では,「市区町村・自治体・役所のロゴ」との回答が10代(18-19歳)の男女にやや多く,同年代の約10ないし11%であったが,この年代でも「企業ブランドのロゴ」と回答したものの割合が最も多かった。 (4) 原告が,インテージ株式会社に委託して実施した第2回ブランドイメージ調査(18歳から69歳の男女3968人を対象とするインターネットによる定量調査。実施期間は平成23年12月21日から26日。)の結果(甲315)は,次のとおりである。この調査は,上記(3) の調査対象者を除き,業種が広告代理店,市場調査,マスコミに勤務していないとの条件を満たす者を対象に行われた。なお,この調査は,審決から約1か月後に時期に実施されたものであるが,その間に特段の状況の変化があったことはうかがわれないから,この調査結果は,審決時の実情を反映するものと認められる。 ア 画面において,本願商標の付されたアパレル商品(帽子,Tシャツ,ジャケット,パーカー,耳当て)のみを呈示し,「Q1 このロゴをご覧になって,あなたは何を思い浮かべましたか。なんでも結構ですので,思い浮かべた内容をご自由にお書きください。」と質問した。 13この項目の回答の総数は1288件であり,このうち,バイク関係を想起したものが670件で最も多く,スポーツ用品(テニス・ラケット等を含む。)を想起したものが73件,サッカー関連を想起したものが78件,企業関係を想起したものが40件,船舶海洋・航空宇宙・機械ビジネス・モーター・エンジンを想起したものが4件であり,地名(神奈川県・川崎市)を想起したものが64件,「個人名」を想起したものが15件,川崎・カワサキのみ記載した回答が33件,「分からない」又は「知らない」と記載した回答が合計34件であった。 イ 次に,画面において,本願商標の付されたアパレル商品(帽子,Tシャツ,ジャケット,パーカー,耳当て)を呈示し,「Q2 このロゴをご覧になって,あなたは何のロゴだと思いましたか。最もあてはまるものを1つだけお答えください。 商品・サービスブランドのロゴ,市区町村・自治体・役所のロゴ,企業ブランドのロゴ,個人事業・商店のロゴ,事業ブランドのロゴ,その他具体的に」と質問した。 この項目のサンプル数は1146件であり,全体では,「企業ブランドのロゴ」との回答が60.8%と最も多く,「商品・サービスブランドのロゴ」との回答が13.0%,「事業ブランドのロゴ」との回答が9.4%,「市区町村・自治体・役所のロゴ」との回答が10.4%,「個人事業・商店のロゴ」との回答が2.2%であった。 年代別では,「市区町村・自治体・役所のロゴ」との回答が10代(18-19歳)の男女に多いが,この年代でも「市区町村・自治体・役所のロゴ」と回答したものは,男性が同年代の21.7%,女性が同年代の38.5%であった。 (5) これらの事実に基づき,以下,争点について判断する。 2 取消事由1(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)について審決は,「本願商標は,『Kawasaki』の欧文字を普通に用いられる方法で表してなるにすぎず,神奈川県川崎市を表示するものと容易に需要者に認識させるものであるから,本願商標をその指定商品について使用するときは,これに接する取引者,需要者をして,その商品が神奈川県川崎市で製造,販売されたものであ 14ること,すなわち,商品の産地,販売地を表示したものと認識させるにとどまるものである。してみれば,本願商標は,神奈川県川崎市で製造,販売された商品の産地,販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である。」として,本願商標は,商標法3条1項3号に該当する旨判断したが,審決の判断は,以下のとおり,疑問がある。 商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは,このような商標は,商品の産地,販売地その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示としてなんぴと(何人)もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁[判例時報927号233頁]参照)。また,登録出願に係る商標が同号にいう「商品の産地又は販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというためには,必ずしも当該指定商品が当該商標の表示する土地において現実に生産され又は販売されていることを要せず,需要者又は取引者によって,当該指定商品が当該商標の表示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に認識されることをもって足りるというべきである(最高裁昭和61年1月23日第一小法廷判決・裁判集民事147号7頁[判例時報1186号131頁]参照)。 上記の観点から,本願商標が,同号にいう「商品の産地又は販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するか否かを検討する。 上記1(1) 認定の事実によれば,本願商標は,欧文字「Kawasaki」が,エーリアルブラックの書体に似た極太の書体で強調して書かれており,字間が狭く,全体的に極めてまとまりが良いことから,単なるゴシック体の表記とはいえず,見る者に,力強さ,重厚さ,堅実さなどの印象を与える特徴的な外観を有するもので 15ある。このような外観からすると,本願商標は,単なる欧文字の「Kawasaki」の表記とは趣きを異にするから,一般人に,一義的に神奈川県川崎市を連想させるような表記ということはできない。 また,上記1(2) 認定の事実によれば,神奈川県川崎市を「Kawasaki」,「KAWASAKI」等の欧文字により表記することがしばしば行われるとはいえるが,漢字で「川崎」と表記される場合とは異なり,「Kawasaki」,「KAWASAKI」等の欧文字に接した一般人が,通常,当該文字から同市を商品の産地,販売地として想起するとまでは認められない。 さらに,上記1(3) 認定の事実によれば,本願商標のみに接した日本国内の18歳から69歳の男女1000人以上を調査したところ,半数以上がバイク関係を想起したとするのに対し,神奈川県川崎市を想起した者は総数の3.1%しかなかったこと,また,同(4) 認定の事実によれば,本願商標をアパレル商品に付した場合でも,これに接した日本国内の18歳から69歳の男女1000人以上を調査した結果,神奈川県川崎市を想起した者は総数の10.4%しかなかったことが認められる。 以上を総合すると,本願商標が指定商品に使用されたとしても,需要者又は取引者において一般的に地名である神奈川県川崎市を想起するとはいえず,当該指定商品が同市において生産され又は販売されているであろうと一般に認識することもないというべきである。 これに対し,被告は,甲217の調査結果は,最初の質問(Q1)が,商標であることを意識させる「ロゴ」の語を用いたものであり,純粋に本願商標から想起された回答ではない旨主張する。しかし,「ロゴ」は,「Logotypes (ロゴタイプ)の略語で,言葉の象徴を意味」し(甲312),また,「@二つ以上の言葉などを組み合わせて一つの活字にすること。A決まった略字。商標などの決まった字体やシンボルマーク。ロゴマーク。」を意味する語であるから(甲311),図案化した文字等を指す語として一般に認識,使用されていると推認されるのであって,そ 16の語から,直ちに商標であることが意識されるとはいえない。 また,被告は,上記1(3) の調査結果において,「地名(神奈川県・川崎市)」及び「川崎・カワサキのみ」を想起したものが51件もあった旨主張する。しかし,上記調査における当該項目の回答総数1407件からすれば,約3.6%にすぎない上,「川崎・カワサキのみ」の回答は,必ずしも地名を想起した旨の回答とはいえないから,その回答数を含めて地名を想起したものとすることは妥当でない。 以上のとおり,本願商標は,指定商品に使用された場合,商品の産地,販売地その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものとはいえず,自他商品識別力を欠く商標としてその機能を果たし得ないものであるとはいえない。 したがって,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとの被告の主張は採用することができない。 3 取消事由2(商標法3条1項4号該当性判断の誤り)について審決は,「『Kawasaki』の文字は,姓氏の『川崎』を欧文字で表記したものと容易に理解されると判断するのが相当である。そして,・・・『川崎』の姓は,我が国においてありふれた氏と認められるものである。してみれば,本願商標を構成する『Kawasaki』の文字は,ありふれた氏である『川崎』を欧文字で表記したものというべき商標であるから,本願商標は,ありふれた氏を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である。」として,本願商標は,商標法3条1項4号に該当する旨判断したが,審決の判断は,以下のとおり,疑問がある。 「川崎」がありふれた氏に該当すること,欧文字「Kawasaki」がその英文表記に該当することは,原告もこれを争っていない。 しかし,本願商標は,上記1(1) 認定のとおり,欧文字「Kawasaki」がエーリアルブラックに似た極太のゴシック書体で強調して書かれており,字間が狭く,全体的に極めてまとまりが良いことから,単なるゴシック体の表記とはいえず, 17見る者に,力強さ,重厚さ,堅実さなどの印象を与える特徴的な外観を有するものである。このような外観からすると,本願商標は,単なる欧文字の「Kawasaki」の表記とは趣きを異にするから,一般人に,一義的に姓氏を連想させる表記ということはできない。 また,審決は,「川崎」の氏を「KAWASAKI」,「Kawasaki」,「kawasaki」の欧文字で表記した例(乙3の「(2)理由2」)を引用するが,これらの中に,本願商標と同一又は類似の表示態様のものは認められない。 さらに,上記1(3) 認定の調査結果によれば,本願商標のみを呈示した場合,半数以上がバイク関係を想起したとするのに対し,本願商標から「個人名」を想起したとの明確な回答はなく,本願商標を「個人事業・商店のロゴ」と思った旨の回答は全体の1.5%にすぎなかった。また,同(4) 認定の調査結果によれば,本願商標をアパレル関係の商品に付して呈示した場合,本願商標から「個人名」を想起したものは全体の約1%であり,本願商標を「個人事業・商店のロゴ」と思った旨の回答は全体の2.2%にすぎなかった。すなわち,本願商標から,氏である「川崎」を想起した者は殆どいないということができ,このような調査結果からも,本願商標は,ありふれた氏を「普通に用いられる方法で表示する」ものではないと解すべきである。 したがって,本願商標が商標法3条1項4号に該当するとの被告の主張は採用することができない。 4 取消事由3(商標法3条2項該当性判断の誤り)について 上記2,3のとおり,本願商標が商標法3条1項3号,4号に該当するとの被告の主張は採用できないものであり,この点だけでも原告主張の取消事由は理由があるといえる。 もっとも,上記のとおり,単なる欧文字の「Kawasaki」とは異なる特徴的な表記である本願商標の有する自他商品識別力が,同条1項3号,4号該当性の判断に影響を与えているともいえるので,仮に,3号又は4号に該当する商標であ 18ったとしても,同条2項の要件を充足し,商標登録を受けることができるかについて,念のため検討することとする。 (1) 審決は,「本願商標を付した商品の過去3年間の売上は5億円程度であって,また,商品の販売数量,シェア,広告宣伝の状況等について,本願商標の指定商品についての著名性を具体的に裏付ける証拠は何ら提出されていないに等しく,申立人の提出に係る証拠のみをもってしては,本願商標が請求人の業務に係るアパレル関連の商品を表示する商標として,我が国における取引者,需要者の間に広く認識され,自他商品の識別力を獲得したものということはできない。」旨判断した。 上記判断は,本願商標が商標法3条2項の要件を満たすためには,その指定商品であるアパレル関連の商品について使用された結果,著名なものとして自他商品識別力を獲得したことを要するとの前提に立つが,この前提は誤りである。 すなわち,同項は,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,・・・商標登録を受けることができる。」と規定し,指定商品又は指定役務に使用された結果,自他商品識別力が獲得された商標であるべきことを定めていない。また,同項の趣旨は,同条1項3号から5号までの商標は,特定の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用した結果,その商標がその商品又は役務と密接に結びついて出所表示機能をもつに至ることが経験的に認められるので,このような場合には特別顕著性が発生したと考えて商標登録をし得ることとしたものであるから,登録出願に係る商標が,特定の者の業務に係る商品又は役務について長年使用された結果,当該商標が,その者の業務に係る商品又は役務に関連して出所表示機能をもつに至った場合には,同条2項に該当すると解される。そして,上記の趣旨からすると,当該商標が長年使用された商品又は役務と当該商標の指定商品又は指定役務が異なる場合に,当該商標が指定商品又は指定役務について使用されてもなお出所表示機能を有すると認められるときは,同項該当性は否定されないと解すべきである。 (2) 本件について検討する。 19ア 被告は,本願商標と実際に使用している商標の同一性が認められること,本願商標の指定商品が,使用に係る商標の商品(アパレル関連の商品)と同一であること,及び,本願商標が「バイク関連」のブランドとして著名性を有することは争わない。 イ また,証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (ア) 本願商標の使用が開始されたのは1970年代であり,当初は,原告の主力製品であるバイクに使用されていたが,1980年代に入り,原告及び川崎重工グループを指称するものとして全社的に使用が拡大され,現在に至るまで継続して20年以上,原告の事業(船舶海洋事業,車両事業,航空宇宙事業,ガスタービン・機械事業,プラント・環境事業,モーターサイクル&エンジン事業,精密機械事業,その他事業)に関する製品やカタログ(甲8ないし甲12),パンフレット類,新聞の全国紙・地方紙・業界紙,雑誌等,空港・駅などのパブリック・スペースにおける広告宣伝(甲21ないし甲208),取引書類等,名刺,業務用封筒(甲242),レターヘッド(甲243),インターネット・ホームページ(甲1,甲233,甲241),会社案内(甲3,甲234),株主・投資家向け資料(甲236ないし甲240,甲244),学生向け就職情報サイト(甲246),「カワサキバイクマガジン」(甲248)等で,一貫して使用されている(弁論の全趣旨)。 全国各地に700店舗以上存在するカワサキ正規取扱店では,本願商標が店頭看板として目立つ態様で掲げられている(甲13,甲335)。 社団法人日本国際知的財産保護協会(AIPPI)が平成16年に発行した「日本有名商標集」には本願商標が掲載されている(甲250)。 原告の広告宣伝費(連結ベース)は,平成17年度から平成20年度までが125億円ないし146億円程度,不況の影響を受けた平成21年度,平成22年度も77億円ないし79億円程度であり,本願商標が,原告及び川崎重工グループの全ての広告宣伝活動に表示されている(甲320ないし甲324,弁論の全趣旨)。 (イ) 平成元年以降,原告が100%出資する子会社株式会社カワサキモータース 20ジャパンを通じて,本願商標を付したアパレル商品(Tシャツ,ポロシャツ,トレーナー,パーカー,ウインドブレーカー,ブルゾン,ジャケット,ポンチョ,コート類,エプロン,帽子,手袋,ネクタイ,ベルト等)が販売されており,年2回,それぞれ1万部ないし2万部の商品のカタログが発行されている(甲8,甲11,甲15,甲316の1ないし7,甲364ないし甲404,弁論の全趣旨)。このカタログの配布先は,主としてカワサキ・バイクを購入したユーザー,全国のカワサキ正規取扱店であり,インターネット・ホームページを通じて電子情報としても配布され,平成20年以降はネットからカタログ掲載商品が購入できる(甲12)。 また,上記アパレル商品に関する広告は,複数のバイク雑誌においても定期的に行われている(甲405ないし甲450)。 原告は,アパレル業者「ユニクロ」とのコラボレーションにより,平成18年,平成19年3月下旬,平成20年4月,平成21年1月に,本願商標を付したTシャツを全国のユニクロ店舗(平成19年3月当時で約700店舗)で販売し,平成18年11月には,本願商標を付したTシャツを全国にカワサキ正規取扱店のみで販売したところ,いずれも完売となった(甲451ないし甲456)。 原告は,過去10年間にわたり,サッカーのJ1プロチーム「ヴィッセル神戸」のスポンサーであり,チームユニフォームの背面上部に本願商標が表示され,ユニフォームがサポーターによって全国のスポーツ用品店を通じて購入される(甲15の5・6,甲19,甲20,弁論の全趣旨)。 本願商標を付したアパレル商品の過去3年間の売上は5億円を上回る(弁論の全趣旨)。なお,我が国における衣料品小売販売額の総計は平成22年において約15兆円であるから(乙7),アパレル業界全体における原告のシェアが大きいとはいえないが,その売上額自体は微少とはいえない。 (ウ) 原告が調査会社に委託して行われた2回のブランドイメージ調査の結果は,上記1認定のとおりであり,調査対象者に対し,本願商標のみを呈示した場合も,本願商標の付されたアパレル商品を呈示した場合も,バイク関係を想起したものが 21最も多く,次いで,スポーツ用品(サッカー関連を含む。),企業関係の想起が多く,これらの回答が総回答数の大多数を占めている。また,本願商標の付されたアパレル商品を呈示した場合において,本願商標を「企業ブランドのロゴ」,「商品・サービスブランドのロゴ」,「事業ブランドのロゴ」と思ったとの回答数が合計で8割を超えている。 ウ 以上の事実を総合すると,原告が,本願商標を長年にわたってバイク関係やその他の多様な事業活動で使用した結果,審決時までに,本願商標は著名性を得て,バイク関係はもとより,それ以外の幅広い分野で使用された場合にも自他商品識別力を有するようになったといえる。そして,原告の子会社を通じて,本願商標を使用したアパレル関係の商品が長年販売されていることから,本願商標をアパレル関係の商品で使用された場合にも自他商品識別力を有すると認めるのが相当である。 すなわち,審決時において,原告が本願商標を指定商品に使用した場合にも,取引者・需要者において何人の業務に係る商品であるかを認識することができ,本願商標は出所表示機能を有すると認められる。 (3) したがって,本願商標は,商標法3条2項に該当するものというべきであり,この点に関する審決の判断も誤りである。 |
|
結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由があるから,審決は違法として取り消されるべきである。被告は,他にも縷々反論するが,いずれも採用の限りでない。よって,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 22 |
---|