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事件 平成 24年 (行ケ) 10086号 審決取消請求事件
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裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/10/25
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成24年10月25日判決言渡
平成24年(行ケ)第10086号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成24年9月11日

判 決

原 告 株式会社デーロス

訴訟代理人弁護士 藤 原 誠

同 安 田 嘉 太郎

同 島 田 荘 子

同 谷 中 克 行

同 伊 丹 香 寿美

同 片 山 裕 介

同 千 々和 章

同 川 向 隆 太
同 増 山 晋 哉

同 橋 本 薫

同 大 塚 千 代

被 告 株式会社ビルドランド

訴訟代理人弁理士 中 畑 孝

同 市 橋 俊 一 郎
同 三 田 大 智

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実 及 び 理 由

第1 請求
特許庁が無効2011−890041号事件について平成24年2月1日にした

1
審決を取り消す。
第2 争いのない事実

1 特許庁における手続の概要

被告は,
「靱性モルタルTYPE−1」の文字を標準文字で表してなる登録第53

32443号商標(以下「本件商標」という。平成20年5月19日登録出願,平

成22年6月4日に登録査定,同月25日に設定登録。指定商品は,第19類「ポ

リマーセメントモルタル,ポリマーコンクリート,強化繊維入りポリマーセメント

モルタル,強化繊維入りポリマーコンクリート」)の商標権者である。


原告は,平成23年6月1日,本件商標について,商標登録無効審判請求(無効

2011−890041号)をした。特許庁は,平成24年2月1日,
「本件審判の

請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。
)をし,その謄本は,同

年2月9日,原告に送達された。

2 審決の理由
審決の理由は,別紙審決写しのとおりである。要するに,原告が使用していた「靭

性モルタル(TYPE−T)
」との商標及び「靭性モルタル TYPE−T」との商

標(以下,これらを併せて「使用商標」ということがある。
)は,需要者の間に広く

認識されているものと認められないから,本件商標は商標法4条1項10号に該当

しない,使用商標は需要者の間に広く認識されている商標と認められず,本件商標

不正の目的をもって使用するものと認められないから同項19号に該当しないと
いうものである。

第3 当事者の主張

1 原告の主張

審決には,使用商標が広く知られていたことについての認定の誤り
(取消事由1)


本件商標の使用が不正使用の目的を有していることについての認定の誤り(取消事

由2) 本件商標が公序良俗に反するおそれがあることについての認定の誤り
, (取消
事由3)があるから,審決は違法として取り消されるべきである。

2
(1) 使用商標が広く知られていたことについての認定の誤り(取消事由1)
原告は,靭性モルタルライニング工法(以下「本件工法」という。)のパンフレッ

トにおいて,本件工法で用いる高靭性繊維補強セメント複合材の名称として,使用

商標を用いて表示してきた(甲4,5)。

また,公共工事においては,当該工事に用いられる材料が施主の定める品質を備

えていることを示す証明の提出が要求されるが(甲20)
,原告は,公共工事を受注

した場合に備えて,本件工法に用いる高靭性繊維補強セメント複合材につき,使用

商標を付して公的実験を行い,その品質に関する公的データを集積していた。原告

は,当該工事を行うに際して,本件工法で用いる高靭性繊維補強セメント複合材の

名称として使用商標を表示した上,その品質に関する試験データを施主である農林

水産省やその他の官公庁及び元請会社に提出していた。

上記経緯によれば,使用商標は,原告の業務に係る商品「高靱性繊維補強セメン

ト複合材」又は役務「農業用水路補修工事」の用に供する材料を表示する商標とし
て,本件商標の登録出願の時ないし登録査定時に需要者の間に広く認識されていた

といえる。この点は,需要者に対して行ったアンケート結果(甲21の1ないし21

の21)からも明らかである。

以上のとおり,使用商標が広く知られていたとはいえないとした審決の認定には

誤りがある。

(2) 本件商標の使用が不正使用の目的を有していることについての認定の誤り
(取消事由2)

ア 原告は,平成16年6月1日に,田中建設株式会社(以下「田中建設」という。)

が,石川県金沢市にあった株式会社デーロス(以下「旧デーロス」という。 吸収
)を

合併し,現在の形態になった。田中建設が旧デーロスを吸収合併した際の旧デーロ

スの代表取締役は,被告代表者であり,被告代表者は,合併後,原告の代表取締役

にも就任した。
本件工法は,原告のメンテナンス事業部において開発された工法であり,本件工

3
法に使用する高靭性繊維補強セメント複合材の材料(以下「本件材料」という。
)に
ついても,
原告がモルタルメーカーと協力して開発した。このような経緯からして,

本件材料に関するOEM契約は,原告とモルタルメーカーとの間で交わされるべき

であった。

イ ところが,被告代表者は,原告の代表者としてではなく,開発に全く関与し

ていなかった被告の代表者として,モルタルメーカーとの間でOEM契約を交わし

た。そのため,本件材料は,モルタルメーカーから被告,被告から原告というルー

トで納入されることとなった。

ウ 上記のようなルートでの納入は,利益相反取引となり,被告代表者は,原告

の取締役会の承認を得る必要があったにもかかわらず,承認を受けていない。原告

は,平成19年8月に被告との関係を見直し,同年12月,被告代表者を原告の代

表取締役から解任し,その後,被告との取引を停止した。被告は原告に対して売買

代金等を請求する訴訟を提起し,原告は被告に対して利益相反取引の無効に基づき
被告が取得した中間マージン分の支払等を請求する訴訟を提起した(以下,両者を

併せて「別件訴訟」という。。


エ 平成20年5月19日,被告代表者は,本件商標の出願をした。

上記の経緯に鑑みると,被告代表者には,原告の主力工法である本件工法の実施

及び拡販を阻害して,原告に損害を与えるとともに,農林水産省から高い評価を得

て周知となっていた本件工法で用いる高靭性繊維補強セメント複合材の名称を自己
の商標として登録して不正の利益を得る目的があったといえる。

したがって,被告による本件商標の使用に,不正使用の目的がないとした審決の

認定には誤りがある。

(3) 本件商標が公序良俗に反するおそれがあることについての認定の誤り(取消

事由3)

原告は,本件商標が商標法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するお
それのある商標」に該当することをも主張していた。本件商標の出願の経緯,目的

4
は社会的相当性を欠き,本件商標の登録を認めることは商標法の予定する秩序に反
するにもかかわらず,この点を認定,判断しなかった審決には誤りがある。

2 被告の反論

(1) 使用商標が広く知られていたことについての認定の誤り(取消事由1) 対


して

原告は,公共工事においては当該工事に用いられる材料が施主の定める品質を備

えることを示す証明の提出が必要であるから 甲20) 原告が当該工事を行うに際
( ,

して使用商標を使用したと主張する。

しかし,原告が公共工事の受注に当たり,原告主張のパンフレットや公的データ

を提出して品質証明をしたかは不明であるのみならず,甲20には使用商標の記載

はない。

原告は,本件商標「靱性モルタルTYPE−1」を付した高靭性繊維補強セメン

ト複合材を,被告から購入して,原告の工法に使用していたにすぎない。このよう
な原告の使用態様に照らすならば,使用商標が,原告の出所を示すものとして,広

く知られていたとすることはできない。

また,仮に原告が施主に提出した上記パンフレットや公的データに使用商標が付

されていたとしても,その作成日の最も古い甲4の「平成18年1月」から本件商

標の出願時(平成20年5月19日)までの期間は,わずか2年4か月間ほどであ

り,そのような短期間で,使用商標が,原告の出所を示すものとして,広く知られ
ていたと想定することは,困難である。

原告の提出するアンケート(甲21の1ないし21の21)の信用性は,極めて

低い。

以上のとおり,使用商標が原告の業務に係る商品又は役務を表示する商標として,

本件商標の出願時又は登録査定時に需要者の間に広く認識されていたとは認められ

ない。審決のした認定に誤りはなく,本件商標は商標法4条1項10号,19号に
該当しない。

5
(2) 本件商標の使用が不正使用の目的を有していることについての認定の誤り
(取消事由2)に対して

平成19年10月,田中建設の代表者と被告代表者は, 合併に伴う確認書」(乙


1)を締結し,田中建設と旧デーロスが,平成16年6月に合併した当時,確認書に

記載されたとおりの合意をしたことを確認している。原告と被告は,上記「合併に

伴う確認書」が締結された後の平成19年12月24日, 業務提携契約」を締結す


ることに合意し,上記確認書での合意に従い,被告から原告へ「靭性モルタルTY

PE-1」を継続して取引をすることに合意している(乙3) 上記確認書に関する


事実は,別件訴訟の控訴審判決(乙4の2)においても,明確に認定されており,

疑いをいれる余地はない。
原告とモルタルメーカーとの間で共同開発の事実はない。

本件商標は,上記の過程において,被告によって出願されたものであるから,被

告代表者に原告に損害を与えるとともに不正の利益を得る目的があったとの原告の

主張は失当である。
(3) 本件商標が公序良俗に反するおそれがあることについての認定の誤り(取消

事由3)に対して

原告が,審判で主張したのは,商標法4条1項10号,19号に基づく無効事由

であり,同項7号に基づく無効事由ではないから,審決に原告主張の取消事由はな

い。

被告には,何らの不正目的も,悪意もなく,被告は自己の業務のために本件商標
を出願し登録したものである。

第4 当裁判所の判断

当裁判所は,使用商標が本件商標の登録査定時において,原告の出所を示すもの

として,需要者の間に広く認識されていたものとは認められないから,本件商標は

商標法4条1項10号にも19号にも該当せず,また同項7号に関する原告の主張

も採用できないから,審決には違法はないと判断する。その理由は,次のとおりで
ある。

6
1 認定事実
(1) 原,被告間の経緯について

ア 旧デーロスは,ウォータージェット・断面修復を主とした補修工事を業とす

る株式会社であった。原告は,平成16年6月に,田中建設と旧デーロスが合併し

た株式会社である(存続会社は田中建設。新会社の商号は株式会社デーロスとされ

た。。そして,当初,被告代表者が,合併した会社である原告の代表取締役に就任


し,平成19年12月まで,代表取締役を務めた。原告では,旧デーロスが実施し

ていた事業をメンテナンス事業部として残し,被告代表者が統括していた。

イ 被告代表者は,平成18年1月ころ,後記契約書上は,被告代表者の経営に

係る有限会社ビルトランドの代表者として,モルタルメーカーとの間で高靭性モル

タル用材料を用いた製品の供給を受けること,有限会社ビルトランドが指定する商

標を付すること等を内容とする,OEM基本契約書と題する契約を締結した(甲2

3の1) 材料は,モルタルメーカーから被告,被告から原告というルートで納入
。同
されることとなったが,被告代表者は,納入ルートについて原告の取締役会におい

て承認を得ていなかった(当事者間に争いがない。。


ウ 原告は,平成19年12月,被告代表者について,原告の代表取締役の地位

を解任し,その後,被告との取引を停止した。なお,原,被告間には,複数の紛争

が生じ,被告から原告に対する未払の売買代金等の支払を求める訴訟が,原告から

被告に対する不当利得の返還等を求める訴訟が,それぞれ提起されたが,第1審及
び控訴審では,いずれも,被告の主張が認められている。 甲14,17,22,2


3の1・2,26ないし29,乙1,3,4の1・2,5の1・2)

(2) 原告による「靭性モルタル」に係る商標の使用について

ア 原告が,靭性モルタル」 係る商標を,
「 に パンフレット等に使用した例として,

次のものがある。

原告が平成18年1月に作成した「農業用水路補修工法 靭性モルタルライニン
グ工法」と題するパンフレット(甲4)には,
「靭性モルタルの社内規格値」 名称」


7
「靭性モルタル(TYPE−I)」との記載がある。
原告が平成20年1月に作成した「農業用水路補修工法 靭性モルタルライニン

グ工法」と題するパンフレット(甲5)には, 仕様」の項目に,《物性値》「
「 「 」(靭

性モルタルTYPE−I)
」との記載がある。

原告が平成22年4月1日 改訂 として作 成した「靭性モルタルライニング工法

施工実績表」 甲10の1・2)には,本件工法の実績として平成17年度から平成


21年度にかけて約70件の事業が記載されている。

イ また,原告は,本件工法に使用される高靭性繊維補強セメント複合材につい

て,販売体制の検討,品質証明試験,試験施工等を行った(甲18の1ないし18

の61) 本件工法に使用される高靭性繊維補強セメント複合材は, 初の平成16
。 当

年7月ころは「高靭性モルタル」と称されていたが,後に,
「靭性モルタル」と変更

され,平成17年12月ころからは,
「靭性モルタル TYPE−I」と称されるよ

うになった。
なお,公共工事の中には,特定の部材について,使用前に試験成績表や,見本,

カタログ等の提出が求められることがある。 甲3,18の5・24・25,20の


1ないし20の7,25)

2 判断

(1) 取消事由1及び2について

前記のとおり,原告は,各パンフレットを作成したこと,平成17年度から平成
21年度にかけて,本件工法により,約70件ほど施工したこと,品質証明試験等

の業務を実施したことが認められる。

しかし,@原告作成に係るパンフレットについては,作成部数や頒布方法などは

明らかではなく, た,
ま 使用商標は小さく表記され,目立つ態様とはいえないこと,

A前記施工や品質証明試験等の過程において,パンフレット等が使用されていたか

否かは不明であるのみならず,仮にその全てにおいて,前記のパンフレット等が使
用されていたとしても,その件数及び期間に照らし,さほど多くのパンフレットが

8
使用されたとはいえないと解されること等の事実経緯によれば,原告の上記行為に
より,本件商標の登録出願の日(平成20年5月19日)前に,使用商標が,その

商品又は役務の出所が原告であることについて,需要者の間に広く認識されていた

と認めることはできない。

なお,原告は,原告提出に係るアンケート調査の結果(甲21の1ないし21の

21)を提出する。しかし,アンケート対象者の選定過程等は明らかでなく,採用

の限りでない。

以上によれば,使用商標が,原告の業務に係る商品「高靭性繊維補強セメント複

合材」又は役務「農業用水路補修工事」の用に供する材料を表示する商標として,

本件商標の登録出願時又は登録査定時に需要者の間に広く認識されていた事実を認

めることはできない。したがって,原告の主張に係る取消事由2について検討する

までもなく,本件商標が商標法4条1項10号及び19号に該当しないとした審決

の判断に違法はないというべきである。
(2) 取消事由3について

原告は,本件商標が商標法4条1項7号に該当すると主張する。本件商標の出願

に関しては,前記1(1)記載の経緯が認められるが,同経緯に照らしても,被告によ

る本件商標の出願が公の秩序又は善良の風俗に反するとは認められない。その他,

本件全証拠によるも,原告の主張を基礎づける事実は認められない。

3 結論
原告はその他にも縷々主張するがいずれも採用の限りではない。よって,原告の

主張を棄却することとして主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第1部




9
裁判長裁判官
飯 村 敏 明




裁判官

八 美 子
木 貴




裁判官

小 田 真 治




10