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関連審決 不服2011-8833
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 24年 (行ケ) 10120号 審決取消請求事件

原告 株式会社松井建設
訴訟代理人弁理士 平野泰弘
同 杉本明子
被告特許庁長官
指定代理人 田中亨子
同 小林由 美子
同 芦葉松美
同 守屋友宏
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/10/30
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2011-8833号事件について平成24年2月17日にした審決を取り消す。
前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成20年2月25日,「富士山世界文化遺産センター」の文字を標準 1 文字で表してなり,第36類「建物の管理,建物の貸借の代理又は媒介,建物の貸与,建物の売買,建物の売買の代理又は媒介,建物又は土地の鑑定評価,土地の管理,土地の貸借の代理又は媒介,土地の貸与,土地の売買,土地の売買の代理又は媒介,建物又は土地の情報の提供」を指定役務とする商標(以下「本願商標」という。)を登録出願したが,平成23年1月20日,拒絶査定を受け,同年4月25日,これに対する不服の審判(不服2011-8833号事件)の請求をした。
特許庁は,平成24年2月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。」とする審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月29日,原告に送達された。
2 審決の理由別紙審決書写しのとおりである。
要するに,審決は,「富士山世界文化遺産センター」の文字からなる本願商標を,一私人である請求人が自己の商標として登録することは,国又は静岡県を含む地方公共団体が行う「富士山世界文化遺産」登録及び登録後に行う同施策等の遂行を阻害するおそれがあって適切ではなく,社会公共の利益に反するから,本願商標は,商標法4条1項7号に該当すると判断した。
当事者の主張
1 原告の主張する取消事由審決には,以下のとおり,商標法4条1項7号該当性についての判断の誤りがある。
(1) 商標法4条1項7号該当性について商標法4条1項7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録を受けることができない旨を規定するが,ここで「おそれ」は客観的であることが求められる。
したがって,本願商標についても,@富士山が世界文化遺産に登録される蓋然性が高い場合,A静岡県が実際に「富士山世界遺産センター」を運営している場合や, 2 計画段階であったとしても静岡県の決定を経てそれが実現に向けて動いている場合はともかく,富士山が世界文化遺産として登録されるか否かが全く不透明であり,静岡県の「富士山世界遺産センター」は建設されておらず,その施設を設立する計画の内容すら一般に公表されていない段階では,本願商標が公序良俗に反する「おそれ」は客観的にあるとはいえず,同規定は適用されるべきではない。
仮に,本願商標が登録された後に本願商標が登録されていることにより公的機関による富士山の世界文化遺産に関連する施策の遂行を阻害する事態が現実に発生した場合は,商標法46条1項5号により同法4条1項7号に該当するものとなった商標登録を無効にすることができる。したがって,本願商標に同法4条1項7号の規定を適用しなくても,何ら具体的な不具合が生じるわけではない。
(2) 「富士山」の世界文化遺産登録について富士山の世界文化遺産等登録については,国際連合教育科学文化機関(UNESCO(ユネスコ)。以下「ユネスコ」という。)世界遺産センターに推薦書等の提出を行うことが決定されたのみであり,これで富士山が世界文化遺産に登録されたわけではない。実際に富士山を世界文化遺産に推薦する推薦書がユネスコ世界遺産センターに提出されたとしても,登録を受けるためには,記念物及び遺跡に関する国際会議(ICOMOS(イコモス))の調査,ユネスコ世界遺産センターによる登録推薦の判定及び世界遺産委員会での最終審議を経る必要があり,登録を受け得ない可能性もある。
そうすると,富士山を世界文化遺産に推薦する推薦書がユネスコ世界遺産センターに提出されたとしても,必ずしも富士山が世界文化遺産として登録されるわけではなく,このような状況にあって本願商標が公序良俗に反するおそれがあるということはできない。
また,現在日本には,世界遺産として,12の文化遺産,4の自然遺産が登録されているが,その全てに「世界遺産センター」なる名称の施設が設置されているわけではない。さらに,昨今の各種施設についての公的機関による管理から民間によ 3 る管理への移管傾向からすると,仮に「富士山世界遺産センター」が公的機関ではなく私人のものになったとしても,施設としての「富士山世界遺産センター」の運営に問題が生じるものではない。
そうすると,「世界遺産センター」なる名称からは,必ずしも公的機関がその施設を運営しているものと理解,認識し得ないといえる。
(3) 静岡県における「富士山世界遺産センター」整備について静岡県において,「富士山世界遺産センター」の基本構想骨子案が示されたからといって,「富士山世界遺産センター」がどのような計画で設立されるのか,具体的な内容が明らかにされているということはできず,「富士山世界遺産センター」との名称は,仮称にすぎない。また,本願商標は「富士山世界文化遺産センター」であり,「富士山世界遺産センター」ではない。したがって,公的機関が運営する「世界遺産センター」があるからといって,本願商標から公的機関が運営する「富士山の世界文化遺産に関する施設の名称」であることを容易に理解,認識するとは必ずしもいえない。
(4) 本願商標と「富士山世界遺産センター」の類否についてア 本願商標「富士山世界文化遺産センター」と静岡県が設置する予定の「富士山世界遺産センター」を外観について比較すると,「富士山」と「センター」の部分が共通するものである。しかし,本願商標は「富士山世界文化遺産センター」の文字を標準文字で横書きしてなるものであり,各文字の大きさ及び書体は同一であって,その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるため,一体不可分のものと認識し把握されるとみるのが相当である。
したがって,「富士山」と「センター」の部分が共通するものであったとしても,本願商標と「富士山世界遺産センター」は外観において類似するものではない。
イ また,本願商標からは「フジサンセカイブンカイサンセンター」との称呼が生じるが,「富士山世界遺産センター」からは「フジサンセカイイサンセンター」との称呼が生じる。しかし,本願商標は全体が等間隔に1行でまとまりよく表され 4 ているものであって,これより生じる称呼も格別冗長ではなく,よどみなく一連に称呼し得るものであるため,一体不可分のものと認識し把握されるとみるのが相当である。
したがって,「フジサン」と「センター」の部分が共通するものであったとしても,本願商標と「富士山世界遺産センター」は称呼においても類似するものではない。
ウ さらに,本願商標と「富士山世界遺産センター」を観念について比較すると,本願商標からは,「富士山の世界文化遺産に関する中心となる施設」との観念が生じるが,「富士山世界遺産センター」からは,「富士山の世界遺産に関する中心となる施設」との観念が生じる。ここで,「世界遺産」とは,世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(以下「世界遺産条約」という。)に基づいて登録された文化・自然遺産である。そして,「世界遺産」は,顕著な普遍的価値を有する記念物,建造物群,遺跡,文化的景観などからなる「文化遺産」,顕著な普遍的価値を有する地形や地質,生態系,絶滅のおそれのある動植物の生息・生育地などからなる「自然遺産」及び文化遺産と自然遺産の両方の価値を兼ね備えている「複合遺産」の3種類に大別される。ここで,「世界文化遺産」とは,「世界遺産」の1種の「文化遺産」であるが,「自然遺産」とは登録の対象が異なる上,調査の主体も異なるから,両者は全く異なるものである。
したがって,「世界文化遺産」は,「世界遺産」の1種であるとはいえ,全く異なる観念を生じるものであり,本願商標と「富士山世界遺産センター」とは,観念においても類似するものではない。
エ 以上のとおり,本願商標と「富士山世界遺産センター」は,外観,称呼及び観念の全てにおいて異なるから,到底類似するものではない。
なお,原告は,静岡県の「富士山世界遺産センター」の設置を妨害する意図はなく,本願商標が登録を受けることができた場合には,本願商標について公的機関へ使用権を設定する意思を有している。
5 (5) 国又は静岡県以外の地方公共団体による「富士山世界文化遺産センター」設置の可能性について静岡県が設置する予定の施設の名称が「富士山世界文化遺産センター」に変更される可能性を否定することはできないとしても,そうはならない可能性も十分にあり,静岡県が設置する予定の施設自体建設されない可能性すらある。また,一部の公的機関が「世界遺産センター」を運営しているという事実は認められるにしても,そうであるからといって,国又は静岡県以外の地方公共団体が「富士山世界文化遺産センター」なる名称の施設を設置する可能性も否定することができないとの審決の判断は,全くの独断にすぎない。
(6) 以 上 のとおり,本願商標の登録を 認 めても, 何 ら公益的な施策の遂行を阻害するおそれはなく,本願商標は,商標法4条1項7号には該当しない。
2 被告の反論以下のとおり,本願商標が商標法4条1項7号に該当するとした審決の認定,判断に誤りはない。
(1) 商標法4条1項7号について商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,@その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,A当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,B他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,C特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,D当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合,などが含まれるというべきである(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号・同18年9月20日判決)。
(2) 世界遺産の保護,保存に関する事業の社会公共性について 6 我が国は,世界遺産条約を平成4年に批准しており,同条約によれば,締約国は文化遺産及び自然遺産の保護,保存等をすることが義務付けられているから,「世界遺産」に関する保護,保存等に関する事業は,締約国として我が国が取り組むものであり,社会公共性が極めて高いものということができる。
平成24年1月25日には,外務省において世界遺産条約関係省庁連絡会議が開催され,我が国として,世界遺産条約に基づく世界遺産一覧表への記載に向け,「武家の古都・鎌倉」及び「富士山」の2件を推薦することを決定し,このことは,広く知られていることといえる。
そして,「富士山」が世界文化遺産登録に推薦されたことを受け,静岡県,山梨県といった地方公共団体は,行政,企業,団体等を中心としてその登録実現に向けた活動を行っている。
(3) 「世界遺産センター」の名称の使用状況について我が国の複数の世界遺産においては,「石見銀山世界遺産センター」,「白神山地世界遺産センター」,「屋久島世界遺産センター」,「知床世界遺産センター」,「和歌山県世界遺産センター」等,所在地等と「世界遺産センター」とを組合せた「○○世界遺産センター」なる名称の施設が公的機関によって設置され,その世界遺産の保全・管理業務,調査研究,環境教育,情報提供,普及啓発活動などの活動の拠点として運営されている。
そして,「富士山」については,「富士山世界遺産センター」との名称の施設を設置する構想・基本計画が存し,静岡県では予算案が計上されていることから,「富士山世界遺産センター」に関する施策は,具体的に進んでいるということができる。
(4) 本願商標が商標法4条1項7号に該当することについて本願商標「富士山世界文化遺産センター」は,全体として「富士山の世界文化遺産に関する中心となる施設」の意味合いを容易に理解,認識させるものである。そして,世界遺産の保護・保存等に関する事業は,国として取り組むものであるから, 7 社会公共性が極めて高いものであって,我が国の世界遺産については「○○世界遺産センター」との名称の施設が,公的機関により設置・運営されている事実がある。
また,「富士山」は,世界文化遺産登録に推薦され,このことは広く知られているものである。
そうすると,「富士山世界文化遺産センター」の文字からなる本願商標は,これに接する者に,「公的機関によって設置・運営される富士山の世界文化遺産に関する施設の名称」であることを容易に理解,認識させるものといえる。このことは,現に「富士山世界遺産センター」の名称の施設を設置する構想や基本計画が存し,当該センターに関する施策が具体的に進んでいることからも,いうことができるものである。そして,本願商標の指定役務には,「建物の管理」や「建物……の情報の提供」などが含まれており,これらは施設の設置や運営・管理に密接な関連性を有するものである。
そうとすれば,「富士山世界文化遺産センター」の文字からなる本願商標は,国又は地方公共団体による「富士山世界文化遺産」登録に向けての施策が具体的に進んでいる事実,及び,現に「富士山世界遺産センター」の名称の施設を設置する構想や基本計画が存するなど,当該センターに関する施策が具体的に進んでいる事実があることからすれば,これを一私人である原告が自己の商標として登録し,その指定役務に使用することは,国又は地方公共団体による富士山の世界文化遺産に関連する施策の遂行を阻害するおそれがあって適切ではなく,社会公共の利益に反するものということができる。
したがって,本願商標は,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標というべきである。
以上のとおりであるから,本願商標が商標法4条1項7号に該当するとした審決の認定,判断に誤りはない。
当裁判所の判断第4当裁判所は,原告主張の取消事由は理由がないと判断する。その理由は,以下の 8 とおりである。
1 本願商標について 本願商標は,前記第2の1のとおり,「富士山世界文化遺産センター」の文字を標準文字で表してなり,第36類「建物の管理,建物の貸借の代理又は媒介,建物の貸与,建物の売買,建物の売買の代理又は媒介,建物又は土地の鑑定評価,土地の管理,土地の貸借の代理又は媒介,土地の貸与,土地の売買,土地の売買の代理又は媒介,建物又は土地の情報の提供」を指定役務とするものである。
2 「世界遺産」について (1)ア ユネスコ は,1972年(昭和47年)の第17回総会において,世界遺産条約を採択し,我が国は,平成4年に同条約を批准した(乙4)。
世界遺産条約1条は,「文化遺産」とは,「記念工作物 建築物,記念的意義を有する彫刻及び絵画,考古学的な性質の物件及び構造物,金石文,洞穴住居並びにこれらの物件の組合せであって,歴史上,芸術上又は学術上顕著な普遍的価値を有 建造物群 独立し又は連続した建造物の群であって,その建築様式,するもの/均質性又は景観内の位置のために,歴史上,芸術上又は学術上顕著な普遍的価値を有するもの/ 遺跡 人工の所産(自然と結合したものを含む。)及び考古学的遺跡を含む区域であって,歴史上,芸術上,民俗学上又は人類学上顕著な普遍的価値を有するもの」(「/」は改行を示す。以下同じ。)と,同2条は,「自然遺産」とは,「無生物又は生物の生成物又は生成物群から成る特徴のある自然の地域であって,観賞上又は学術上顕著な普遍的価値を有するもの/ 地質学的又は地形学的形成物及び脅威にさらされている動物又は植物の種の生息地又は自生地として区域が明確に定められている地域であって,学術上又は保存上顕著な普遍的価値を有す 自然の風景地及び区域が明確に定められている自然の地域であって,学るもの/術 上 ,保存上 又は 景 観 上顕著 な 普遍 的価値 を 有 するもの」と定 義 し,同4条は,「締約国は,第1条及び第2条に規定する文化遺産及び自然遺産で自国の領域内に存在するものを認定し,保護し,保存し,整備し及び将来の世代へ伝えることを確 9 保することが第一義的には自国に課された義務であることを認識する。このため,締約国は,自国の有するすべての能力を用いて並びに適当な場合には取得し得る国際的な援助及び協力,特に,財政上,芸術上,学術上及び技術上の援助及び協力を得て,最善を尽くすものとする。」と,同5条は,「締約国は,自国の領域内に存在する文化遺産及び自然遺産の保護,保存及び整備のための効果的かつ積極的な措置がとられることを確保するため,可能な範囲内で,かつ,自国にとって適当な場合には,次のことを行うよう努める。/ 文化遺産及び自然遺産に対し社会生 a活における役割を与え並びにこれらの遺産の保護を総合的な計画の中に組み入れるための一般的な政策をとること。/ 文化遺産及び自然遺産の保護,保存及び b整備のための機関が存在しない場合には,適当な職員を有し,かつ,任務の遂行に必 要な手 段 を 有 する一又は 二 以 上 の 機関を自国の領域 内 に設 置 すること。 / c学術的及び技術的な研究及び調査を発展させること並びに自国の文化遺産又は自然遺産を脅 かす 危険 に対 処することを 可能にする実施方法を 開発 すること。 / d文化遺産及び自然遺産の認定,保護,保存,整備及び活用のために必要な立法上,学術上,技術上,行政上及び財政上の適当な措置をとること。/ e 文化遺産及び自然遺産の保護,保存及び整備の分野における全国的又は地域的な研修センターの設 置又は 発 展 を 促 進 し, 並 びにこれらの 分 野における 学 術 的 調 査を 奨励 すること。」,同8条は,「この条約により国際連合教育科学文化機関に,顕著な普遍的価値を有する文化遺産及び自然遺産の保護のための政府間委員会(以下「世界遺産委員会」という。)を設置する。……」とし,同11条は,「……世界遺産委員会は,……締約国が提出する目録に基づき,第1条及び第2条に規定する文化遺産又は自然遺産の一部を構成する物件であって,同委員会が自己の定めた基準に照らして顕著な普遍的価値を有すると認めるものの一覧表を「世界遺産一覧表」の表題の下に 作成し, 常時 最 新 のものとし及び公表する。…… 」としている( 乙 1,3,4)。
イ 以上によれば,世界遺産条約にいう「世界遺産」には,「文化遺産」と「自 10 然遺産」があり,我が国は,世界遺産条約の締約国として,「世界遺産」の保護,保存等をすることが義務付けられているということができる。
(2) 我が国では,「文化遺産」として,「法隆寺地域の仏教建造物」(平成5年12月登録),「 姫路城」(同),「 古都 京 都 の文化 財 ( 京 都 市 ,宇治市 , 大津市)」(平成6年12月登録),「白川郷・五箇山の合掌造り集落」(平成7年12月登録),「原爆ドーム」(平成8年12月登録),「厳島神社」(同),「古都奈良の文化財」(平成10年12月登録),「日光の社寺」(平成11年12月登録),「琉球王国のグスク及び関連遺産群」(平成12年12月登録),「紀伊山地の霊場と参詣道」(平成16年7月登録)及び「岩見銀山遺跡とその文化的景観」(平成19年6月登録)の11件が,「自然遺産」として,「屋久島」(平成5年12月登録),「白神山地」(同)及び「知床」(平成17年7月登録)の3件が,世界遺産として登録されている(平成20年7月現在,乙4)。
「世界遺産センター」の名称について 3 (1)ア 「石見銀山世界遺産センター」 平成19年9月4日付け毎日新聞地方版/島根23頁(乙15)には,「石見銀山遺跡:総合施設の名称,「世界遺産センター」に」との見出しで,「◇ガイダンス棟は来月4日開館 石見銀山遺跡の総合案内や資料展示施設として,大田市が建設を進めている建物の名称は「石見銀山世界遺産センター」になることが3日,分かった。同日開かれた市議会で,市が条例案を提出した。」との記載が,「石見銀山世界遺産センター公式HP」(http://ginzan.city.ohda.lg.jp/939.html。乙16)には,「展示のコンセプト」として,「石見銀山世界遺産センターは,世界遺産『石見銀山遺跡とその文化的景観』(以下,「石見銀山」という。)のエントランス(入口)として,遺産のガイダンス(概要説明)機能を担っています。」との記載がある。
イ 「白神山地世界遺産センター」 平成7年6月1日付け河北新報(乙17)には,「環境庁の白神山地世界遺産セ 11 ンター/青森・西目屋村に建設」の見出しで,「世界遺産の白神山地(青森,秋田両県)の管理運営や調査研究を行う拠点,「白神山地世界遺産センター」の設置場所を検討していた環境庁は31日,青森県西目屋村に施設を建設することを明らかにした。」との記載が,「調査研究/白神山地世界遺産センター」のWEBページ(http://tohoku.env.go.jp/nature/shirakami/research/。乙18)には,「白神山地世界遺産センター西目屋館を研究拠点として,白神山地の自然環境などについて,調査研究を行っています。データを集め,分析することで,世界遺産の管理に役立てます。」との記載がある。
ウ 「屋久島世界遺産センター」 平成8年4月13日付け毎日新聞東京版夕刊8頁(乙19)には,「屋久島研究の「世界遺産センター」が開館--環境庁」との見出しで,「ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界自然遺産に指定された鹿児島県・屋久島の研究拠点となる環境庁の「屋久島世界遺産センター」が13日開館した。」との記載が,「屋久島世界遺産センター」のWEBページ(http://www.env.go.jp/park/kirishima/ywhcc/center/shisetsu.htm。乙20)には,「『屋久島世界遺産センター』は,1993年(平成5年)12月に屋久島が世界遺産に登録されたことを機に整備された環境省の施設で,1996年(平成8年)4月にオープン しました。…… 《センターの主な役割・機能》/1.調査研究の拠点/ 2.普及啓発の推進/ 3.国立公園の管理運営」との記載がある。
エ 「知床世界遺産センター」 平成17年8月14日付け北海道新聞朝刊全道版4頁(乙21)には,「知床に世界遺産センター*環境省*調査研究の拠点 07年度着工」との見出しで,「環境省は十三日,世界自然遺産に登録された知床の自然保護や適正な利用を推進するため,拠点的な国営の調査研究施設「知床世界遺産センター(仮称)」を整備する方針を固めた。二○○六年度予算の概算要求に,施設建設に向けた事前準備費約三千五百万円を盛り込み○七年度の着工を目指す。」との記載が,「知床世界遺産セ 12 ンターのWEBページ「職員紹介」欄(http://shiretoko-whc.jp/whc/staff.php。
乙22)には,「世界遺産センターでは,環境省・北海道・自然公園財団の計 3 つの機関が共同で運営を行っています。」との記載がある。
オ 「和歌山県世界遺産センター」 平成16年9月3日付け熊本日日新聞朝刊(乙23)には,「世界遺産の保全初の条例制定へ 和歌山」の見出しで,「三重,奈良,和歌山の三県にまたがる「紀伊山地の霊場と参詣道」が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録されたことを受け, 和歌 山県は 二 日, 保全のための「 和歌 山県世界遺産条 例 」(仮称)の制定を目指すことを明らかにした。……このほか,情報発信などをするため同県本宮町に二〇〇七年度オープン予定の「和歌山県世界遺産センター」(仮称)の基本構想策定,熊野古道のトイレ整備,周辺道路の景観整備事業などを県議会に提案,関連の補正予算額は計約二億円。」との記載が,「和歌山県世界遺産センター」のWEBページ(http://www.sekaiisan-wakayama.jp/center/index.html。乙24)には,「和歌山県世界遺産センターの目的」として,「和歌山県世界遺産センターは,保存と活用を大きな柱とし,平成17年4月1日,「紀伊山地の霊場」を結ぶすべての「参詣道」が集まるここ田辺市本宮町に開設いたしました。……当センターは,世界遺産の保存と活用の活動拠点となることを目指します。」との記載がある。
(2) 以上によれば,我が国の複数の「世界遺産」において,「石見銀山世界遺産センター」,「白神山地世界遺産センター」,「屋久島世界遺産センター」,「知床世界遺産センター」,「和歌山県世界遺産センター」等,所在地等と「世界遺産センター」とを組み合わせた「○○世界遺産センター」なる名称の施設が公的機関によって設置され,その世界遺産の保全・管理業務,調査研究,環境教育,情報提供,普及啓発活動などの活動の拠点として運営されていること,及びこれらの事実が新聞やWEBページで紹介されていることが認められる。
4 「富士山世界遺産センター」について 13 (1)ア 静岡県は,「富士山世界遺産センター(仮称)」の設立を目指す「基本構想策定委員会」(委員長:芳賀徹県立美術館長)を設置し,平成23年12月20日に開催された「第3回基本構想策定委員会」で,同センターの基本構想骨子案を示し,平成24年2月14日に発表した平成24年度当初予算案に,富士山の世界文化遺産登録の関連事業費として1億0510万円を計上し,「富士山世界遺産センター」(仮称)について,富士山総合施策推進事業費(2300万円)を活用して,基本計画策定に入ることとした(乙28〜34)。また,同年1月,静岡県と山梨県は,企業・団体,行政などを中心とした「両県県民会議」を同年2月23日に発足させることとした(乙13,14)。
平成24年1月25日,外務省において世界遺産条約関係省庁連絡会議が開催され,我が国として,世界遺産条約に基づく世界遺産一覧表への記載に向け,「武家の古都・鎌倉」及び「富士山」の2件を推薦することを決定し,同月27日,政府は,富士山の世界文化遺産登録の推薦書をユネスコに提出した(乙5〜10)。
イ 以上によれば,我が国は,「富士山」を世界文化遺産登録に推薦することとし,国のほか,静岡県及び山梨県も,行政,企業,団体等を中心としてその登録実現に向けた様々の活動を行っていることが認められる。
(2)ア また,上記活動等に関連して,以下の報道がなされたことが認められる。
(ア) 平成23年11月2日付け静岡新聞朝刊25頁(乙28)には,「県総合計画に意見を 「白書」に反映へ-14日まで募集」との見出しで,「主な施策展開では,大震災の被害状況や東海・東南海・南海地震に対する国の新たな被害想定策定の動きを前提に,県内の地域防災計画や被害想定を見直す。浜岡原発(御前崎市佐倉)の安全性の点検徹底や,世界文化遺産登録を目指している富士山の「世界遺産センター(仮称)」の整備も行う。」との記載がある。
(イ) 同年12月21日付け読売新聞東京版朝刊32頁(乙29)には,「マナー啓発や政策提言機能 富士山世界遺産センター骨子案=静岡」との見出しで,「2013年に世界文化遺産登録を目指す富士山の情報発信や研究,来訪者の交流拠点 14 となる「富士山世界遺産センター(仮称)」の構想を検討する「第3回基本構想策定委員会」が20日,東京都内で開かれ,同センターの基本構想骨子案が示された。」 との記載がある。
(ウ) 同日付け東京新聞静岡版朝刊22頁(乙30)には,「富士山世界遺産セン 保全活動の拠点に 基本構想委 骨子案提示 ガイド育成方針も明記」とのター見出しで,「【静岡県】県が設立を目指す「富士山世界遺産センター(仮称)」の基本構想策定委員会(委員長・芳賀徹県立美術館長)第三回会合が二十日,東京都内であり,……」との記載があり,同月13日付け建設通信新聞(乙32)及び同月21日付け日刊建設工業新聞8頁(乙31)にも,同様の記載がある。
(エ) 平成24年1月31日付け読売新聞東京版朝刊35頁(乙10)には,「富士世界遺産推薦に期待 「世界の宝に」「外国人客増加」=山梨」との見出しで,「政府は27日,富士山の世界文化遺産登録の推薦書を国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)に提出した。」との記載があり,同年2月1日付け静岡新聞朝刊1頁(乙11)及び同月3日付け東京新聞静岡版朝刊20頁(乙12)にも,同様の記載がある。
(オ) 平成24年1月26日付け毎日新聞東京版朝刊30頁(乙13)には,「世界文化遺産:富士山・鎌倉推薦 厳しさ増す審査,独自性を強調へ」との見出しで, ・・・静岡県の川勝平太知事は『登録に向け大きく前進した喜びを多「●富士山くの県民と分かち合いたい』とコメント。登録実現に向け全国運動に発展させようと,静岡,山梨両県は企業・団体,行政などを中心とした『両県県民会議』を2月23日に発足させるという。」との記載がある。
(カ) 平成24年1月26日付け静岡新聞朝刊3頁(乙14)には,「社説(2012年1月26日・木曜日)=富士山世界遺産-文化的価値一層高めよ」として,「 今 夏以 降 には 関係分 野の 専門 家 で 構 成する 非政府 機関 「国際 記念物遺 跡 会 議」(イコモス)の現地調査があり,その後の審査など厳しいプロセスがある。……今後は,富士山の文化的価値を高め,守るための活動が何よりも重要だ。静岡県は昨 15 夏から,その柱となる包括的保存管理計画を推進するための行動計画(アクションプラン)の策定に当たっている。……静岡,山梨県などにより,2月23日の「富士山の日」に「富士山世界文化遺産両県県民会議」が発足,登録実現と富士山の価値の継承を目指す。地元行政や民間企業,団体に入会を呼び掛け,官と民で登録に向けた取り組みを国民運動として展開していく。」との記載がある。
(キ) 平成24年2月15日付け静岡新聞朝刊28頁(乙33)には,「富士山世界遺産登録へ機運拡大-県」との見出しで,「2013年の富士山の世界文化遺産登録に万全を期すため,県は12年度当初予算案に関連事業費1億510万円を計上した。12年度が登録実現のヤマ場となることを踏まえ,県内外で機運拡大への取り組みを強化する。自然環境や景観の保全など登録後を見据えた施策にも本腰を入れる。……11年度中に構想がまとまる「富士山世界遺産センター」(仮称)については富士山総合施策推進事業費(2300万円)を活用し,基本計画策定に入る。」との記載がある。
(ク) 同日付け日刊建設工業新聞8頁(乙34)には,「静岡県/12年度予算案/投資的経費3・5%増,草薙総合運動場新体育館着工」との見出しで,「静岡県は14日,12年度当初予算案を発表した。一般会計は前年度当初比0・2%減の1兆1306億円,特別会計は13・0%増の4182億14百万円,企業会計は11・6%減の562億77百万円。3会計合わせた総額は2・5%増の1兆6050億91百万円となった。……〈文化・観光部〉…… ▽富士山総合施策推進=23百万円。富士山世界遺産センター(仮称)の整備に向けた基本計画策定」との記載がある。
イ 以上によれば,我が国として,世界遺産条約に基づく世界遺産一覧表への記載に向け,「富士山」を推薦することを決定したこと,「富士山」が世界文化遺産登録に推薦されたことを受け,静岡県及び山梨県は,行政,企業,団体等を中心としてその登録実現に向けた活動を行っていること,静岡県において,現在は仮称であるが,「富士山世界遺産センター」との名称の施設を設置する構想・基本計画が 16 存し,同施策が具体的に進行していることについては,その都度,新聞報道がなされ,少なくとも静岡県及びその周辺の建設事業等に関連する取引者,需要者に,広く知られているものと認めることができる。
5 本願商標の商標法4条1項7号該当性について(1) 本願商標は,「富士山世界文化遺産センター」の標準文字からなるが,「富士山」の文字部分は,静岡県と山梨県との境にそびえる日本一高い山である「富士山」を意味するものとして,「世界文化遺産」の文字部分は,ユネスコの世界遺産登録については一般に広く知られていることから,ユネスコに登録される「世界文化遺産」を意味するものとして,「センター」の文字部分は,「その分野の中心となる機関・施設」を意味するものとして,いずれも容易に理解,認識されるものと認められ,全体として,「富士山の世界文化遺産に関する中心となる施設」程の意味合いを有する商標として認識されるものと認められる。
(2) 他方,上記2,3のとおり,@世界遺産条約にいう「世界遺産」には,「文化遺産」と「自然遺産」があり,我が国は,世界遺産条約の締約国として,「世界遺産」の保護,保存等をすることが義務付けられていること,A我が国の複数の「世界遺産」において,所在地等と「世界遺産センター」とを組合せた「○○世界遺産センター」なる名称の施設が公的機関によって設置され,その世界遺産の保全・管理業務,調査研究,情報提供などの活動の拠点として運営されていること,B我が国は,「富士山」を世界文化遺産登録に推薦することとし,国のほか,静岡県及び山梨県も,行政,企業,団体等を中心としてその登録実現に向けた様々の活動を行っていること,C上記Bの事実は,その都度新聞報道がなされ,少なくとも静岡県及びその周辺の建設事業等に関連する取引者,需要者に,広く知られていることが認められるから,これらの事情に照らすと,本願商標は,これに接する取引者,需要者に,「公的機関によって設置・運営される富士山の世界文化遺産に関する施設の名称」であると認識されるものと認められる。
(3) そうすると,「公的機関によって設置・運営される富士山の世界文化遺産に 17 関する施設の名称」と認識される本願商標について,一私人である原告の登録を認め,「建物の管理」,「土地の管理」,「建物又は土地の情報の提供」等を含む指定役務について,その使用する権利を専有させることは,国又は地方公共団体等の公的機関による,富士山の「世界遺産」に関連する施策の遂行を阻害するおそれがあると認められる。そして,これら施策の高度の社会公共性に鑑みれば,本願商標の登録を認めることは社会公共の利益に反するというべきであり,本願商標は,商標法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものと認められる。
6 原告の主張について(1) 原告は,富士山が世界文化遺産として登録されるか否かが不透明であり,「富士山世界遺産センター」の施設を設立する計画の内容すら一般に公表されていない段階では,公序良俗に反する「おそれ」が客観的にあるとはいえないと主張する。しかし,我が国は「富士山」を世界文化遺産登録に推薦することとし,国のほか静岡県及び山梨県も,行政,企業,団体等を中心としてその登録実現に向けた活動を現実に行っていることは,上記認定のとおりであるから,本願商標が登録された場合,国又は地方公共団体等の公的機関による富士山の「世界遺産」に関連する施策の遂行を阻害するおそれが客観的にあるものと認められる。
原告は,商標法46条1項5号により同法4条1項7号に該当するものとなった商標登録を無効にすることができるから,本願商標に同法4条1項7号の規定を適用しなくても具体的な不具合が生じるわけではないと主張する。しかしながら,商標法4条1項7号は,商標法46条1項5号の規定とは別に,商標の登録阻却事由を定めたものであるから,原告の上記主張は主張自体失当というほかない。
(2) 原告は,本願商標は「富士山世界文化遺産センター」で,「富士山世界遺産センター」ではないから,公的機関が運営する「世界遺産センター」があるからといって,本願商標から公的機関が運営する「富士山の世界文化遺産に関する施設の名称」であることを理解,認識するとはいえない,本願商標と「富士山世界遺産セ 18 ンター」は,外観,称呼及び観念の全てにおいて異なるから到底類似するものではないなどと主張する。
確かに,「世界遺産」には,「文化遺産」(世界遺産条約1条)と「自然遺産」(同2条)があり,その定義は異なるが,本願商標に接する取引者,需要者は,世界遺産条約における「文化遺産」と「自然遺産」の相違を必ずしも認識しているわけではない。そして,本願商標の「富士山世界文化遺産センター」と静岡県が設置を検討している「富士山世界遺産センター」とは,本願商標の13字中11字を共通にし,「世界文化遺産」と「世界遺産」の部分において「文化」の文字があるか否かにおいて相違するにすぎないところ,「文化遺産」は「世界遺産」の一種であるから,一般の取引者,需要者が「世界文化遺産」と「世界遺産」を区別して認識するとは認め難いところである。
したがって,本願商標は「富士山世界文化遺産センター」であり,公的機関が運営する「○○世界遺産センター」の文字構成とは,「文化」の文字が加わっている点で相違するが,この相違は僅かなものにすぎず,本願商標は「公的機関によって設置・運営される富士山の世界文化遺産に関する施設の名称」と認識されるとの上記認定を左右しないというべきである。
原告は,本願商標が登録を受けることができた場合には,本願商標について公的機関へ使用権を設定する意思を有しているとも主張するが,商標権者が使用権の設定ができるのは,登録商標の使用をする権利を専有するからであって,本願商標について一私人である原告に使用する権利を専有させることが許容できないことは上記のとおりであるから,その主張を採用することはできない。
7 結論以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,審決にはこれを取り消すべき違法はない。よって,主文のとおり判決する。
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