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関連審決 無効2014-890023
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成27行ケ10158 審決取消請求事件 判例 商標
平成30行ケ10121 審決取消請求事件 判例 商標
無効2018890072 審決 商標
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事件 平成 27年 (行ケ) 10058号 審決取消請求事件

原告エノテカ株式会社
訴訟代理人弁護士 川合弘造
同 島田まどか
同 宍戸充
同 大向尚子
同 杉村光嗣
訴訟代理人弁理士 谷口登
被告Y
訴訟代理人弁理士 野田薫央
被告エノテカイタリアーナ エス.アール.エル. 商標管理人Y
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/01/28
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2014−890023号事件について平成27年2月9日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
請求
主文第1項と同旨
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告Yと被告エ ノテカイ タリア ーナ エス. アール .エ ル.(以下 「被告会社」という。)は,以下の商標(商標登録第5614496号。以 下「本件商標」という。)の商標権者である(甲1の1,3)。
商標の構成 別紙本件商標目録記載のとおり 登録出願日 平成24年12月13日 登録査定日 平成25年7月29日 設定登録日 平成25年9月13日 指定商品 第35類「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる 顧客に対する便益の提供,酒類の小売又は卸売の業務におい て行われる顧客に対する便益の提供,菓子及びパンの小売又 は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,ワ イングラスの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対 する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務に おいて行われる顧客に対する便益の提供,タオル及びハンカ チの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益 の提供,エプロンの小売又は卸売の業務において行われる顧 客に対する便益の提供,陶器製の食器類の小売又は卸売の業 務において行われる顧客に対する便益の提供,ガラス製食器 類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益 の提供」 (2) 原告は,平成26年4月3日,本件商標の商標登録を無効にすることにつ いて審判を請求した。
特許庁は,上記請求を無効2014-890023号事件として審理を行 い,平成27年2月9日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決 (以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月19日,原告に送達 された。
(3) 原告は,平成27年3月20日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提 起した。
2 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであり,その要旨は,以 下のとおりである。
(1) 本件商標の商標法4条1項11号該当性について ア 本件商標は,縁取りしてやや図案化されたワインレッド色の「Enot eca Italiana」の文字をまとまりよく一体的に表してなるも のであって,これより生ずると認められる「エノテカイタリアーナ」の称 呼もよどみなく一連に称呼することができるものである。そして,その構 成中の「Enoteca」の文字は,「貴重なワインのコレクション,ワ イン展示館,試飲のできるワインの販売所,ワイン屋」等の意味を有する イタリア語であり,また, 「Italiana」の文字は, 「イタリアの」の 意味を有するイタリア語の形容詞「italiano」の変化形であるこ とから,本件商標は,ワイン及びその提供場所等との関係においては自他 商品・役務の識別力がさほど強いとはいえない,上記意味合いの既成の2 語からなるものとして認識し把握されるものというべきである。
イ 被請求人(被告ら)提出の証拠によれば,「Enoteca」は,「エ ノテカ」と称され,「ワインを販売する店」ないし「ワインを提供する飲 食店」という店舗の種類ないし性格を意味する用語としてワイン愛好者や 西洋料理に関心のある需要者の間で相当程度認識されているというべきで あり,また,「Enoteca ○○○」(エノテカ○○○)として店舗 名を表すことが多いことも相当程度認識されているものといえる。
加えて,「エノテカイタリアーナ」(被告会社)は,本件商標を「会社 概要」のパンフレットや店舗の看板に使用しているほか,イタリアにおい てワインのオスカー賞といわれるオスカー・デル・ヴィーノの2002年 の最優秀エノテカ賞を受賞し,フランスのシャンパーニュ地方で行われた 2005年の「世界最優秀個人経営ワインショップ」で世界第3位に入賞 したことが認められる。
以上によれば,本件商標は,「Enoteca」の文字部分と「Ita liana」の文字部分とに分離分断して看取されるよりも,むしろ全体 をもって一連一体の店舗名を表したものとして認識し把握されるものとい うべきであり,「エノテカイタリアーナ」の一連の称呼のみを生ずるもの とみるのが自然である。
ウ 他方,請求人(原告)提出の証拠等によれば,「ENOTECA」又は 「エノテカ」の標章(以下,これらを併せて「使用標章」という場合があ る。)は,原告の業務に係る役務「ワインの小売又は卸売の業務について 行われる顧客に対する便益の提供」について使用する商標として,本件商 標の登録出願時には既に,この種業界において,取引者,需要者の間に相 当程度広く認識されていたものというべきである。
別紙引用商標目録記載1の登録商標(以下「引用商標1」という。甲2 の1,3)は,使用標章のうちの「ENOTECA」の標章と同一の構成 からなるものであり,上記役務を含む役務を指定役務とするものであるこ と,同目録記載3の登録商標(以下「引用商標3」という。甲4の1, は, 2) 同 じく「ENOTECA」の標章と同一の綴りからなるものであり,ワイン を含む商品を指定商品とするものであることからすると,引用商標1及び 3についても上記と同様のことがいえる。
しかしながら,別紙引用商標目録記載2の登録商標(以下「引用商標2」と いう。甲3の1,2)は,上記「ENOTECA」の標章と同一の構成か らなるものであるとしても,ワインとの関連性が薄い商品を指定商品とす るものであり,その指定商品について使用する商標として広く認識されて いるものとはいえない。
そして,引用商標1ないし3(以下,これらを併せて「引用商標」とい う。)は,いずれもその構成に照らし,「エノテカ」の称呼を生じ,「ワ インを販売する店」ないし「ワインを提供する飲食店」を想起,観念させ るものといえる。
エ 本件商標については,たとえ,引用商標1及び3の周知性を考慮したと しても,「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部 分とに分離分断して看取されるよりも,むしろ全体をもって一連一体の店 舗名を表したものとして認識し把握されるものと判断するのが相当であ り,「Enoteca」の文字部分のみが独立して自他役務・商品の識別 標識としての機能を果たす要部となるものではない。
そして,本件商標から生ずる「エノテカイタリアーナ」の称呼と引用商 標から生ずる「エノテカ」の称呼とは,構成音数が異なるばかりでなく, 「イ タリアーナ」の音の有無という顕著な差異により容易に区別することがで きるものである。また,本件商標と引用商標とは,それぞれの構成に照ら し,外観上判然と区別し得る差異を有するものである。さらに,本件商標 は,全体をもって,ワインを販売する店ないしはワインを提供する飲食店 のエノテカという形態をとる「Enoteca Italiana」とい う店舗名を表したものとして認識し把握され,「Enoteca」の文字 部分のみが独立して観念されることはないのに対し,引用商標は,「ワイ ンを販売する店」ないしは「ワインを提供する飲食店」という観念を生じ るものであるから,両者は観念においても異なるものである。
したがって,本件商標と引用商標とは,称呼,外観及び観念のいずれの 点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標であるから,本件商標 は,商標法4条1項11号に該当するものとはいえない。
(2) 本件商標の商標法4条1項15号該当性について 原告が使用する使用標章の周知性や使用標章に係る役務と本件商標の指定 役務との関連性等を考慮したとしても,本件商標をその指定役務について使 用した場合,これに接する取引者,需要者が「Enoteca」の文字部分 のみに注目して使用標章ないしは原告を連想,想起するようなことはないと いうべきであり,当該役務が原告又は原告と経済的,組織的に何らかの関係 を有する者の業務に係る役務であるかの如く,その出所について混同を生ず るおそれはないものと判断するのが相当である。
したがって,本件商標は,商標法4条1項15号に該当するものとはいえ ない。
(3) むすび 以上のとおり,本件商標は,商標法4条1項11号及び15号のいずれに も違反して登録されたものではないから,本件商標の商標登録は無効にされ るべきものではない。
当事者の主張
1 原告の主張 (1) 取消事由1(本件商標の商標法4条1項11号該当性の判断の誤り) 本件審決は,本件商標は,その構成中の「Enoteca」の文字部分の みが独立して自他役務・商品の識別標識としての機能を果たす要部となるも のではないとした上で,本件商標と引用商標は,称呼,外観及び観念のいず れの点についても相紛れるおそれのない非類似の商標であるから,本件商標 は,商標法4条1項11号に該当しない旨判断した。
しかしながら,以下のとおり,本件商標から「Enoteca」の文字部 分を要部として抽出し,この文字部分と引用商標とを対比して,本件商標と 引用商標の類否を判断すべきであり,その結果,本件商標と引用商標とは類似する商標であるというべきであるから,本件審決の上記判断は誤りである。
ア 本件商標の要部抽出の可否についての判断の誤り (ア) 引用商標が原告の著名な商標であること 引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,原告の 業務に係る役務の出所を表示する商標として,取引者,需要者の間で著 名であったものである。
a 原告は,ワインの輸入販売,レストラン業等を主要な事業目的とす る株式会社である。
原告は,昭和63年8月に創業し,平成元年9月に東京都内に旗艦 店であるワインショップ「ENOTECA」(エノテカ)広尾本店と レストラン&ワインラウンジ「ENOTECA」(エノテカ)を開店 して以来,ワインの輸入販売をはじめとして,直営のワインショップ 経営,ワインの通信販売,ワイン商品の開発・選定,ワイン文化と知 識の普及などの事業活動を行っている。
原告は,平成25年3月期時点で,国内において,東京都内の著名 なスポット,国内主要都市,各都市のランドマーク施設等に合計42 の直営ワインショップを展開し,海外の店舗数も香港,中国,シンガ ポール及び韓国を併せて18店舗に上り,原告とその海外子会社を含 むエノテカグループによる年間売上高は,約144億円に上っていた。
また,原告は,約1100種類,年間600万本(平成25年3月 期)に上る自社直輸入ワインを,直営ワインショップ及びインターネ ット(自社の直販サイト及び他社のインターネットショッピングモー ル)を通じて小売販売するとともに,全国の有名百貨店,高級スーパ ー,主要高級ホテル及び全国有名レストラン等に卸販売していた。
b 原告は,ワインショップ「ENOTECA」(エノテカ)広尾本店 及びレストラン&ワインラウンジ「ENOTECA」(エノテカ)を 開店して以来,20年以上継続して,ワインショップの名称として「E NOTECA」の標章を使用するとともに,店舗の看板,包装用の紙 袋,包装用箱,プライスリスト,メニュー等に「ENOTECA」 「E , noteca」及び「エノテカ」の各標章を使用している。
c 原告は,平成7年に,ワイン文化と知識の普及のために主にワイン の愛好家を対象とした「クラブエノテカ(Club Enotec a)という名称の会員組織を設立し, 」 遅くとも平成11年ころから,会 報誌を発行し,その発行部数は,年々増加し,平成20年に約14万 8500部,平成24年に約19万6200部,現在では年間約20 万部に上る。
また,原告は,高級ブランドや著名人とのワインのイベントやセミ ナー等を店舗などで積極的かつ継続的に行っているほか,カード会 社,航空会社等のオンラインショップ,企業が運営する会員サイト,旅 行会社,ジャズ,化粧品会社,花屋,百貨店,不動産会社,自動車会 社,映画会社,美術関連など,多岐にわたる業種と提携し,社会の様々 な層の人々へ「ENOTECA」ブランドの浸透を図るとともに,ワ インの啓蒙活動を行ってきた。
さらに,原告は,10年以上にわたり,自らの店舗のみならず,全 国紙を含む新聞や雑誌を通じた宣伝広告活動を積極的に展開し,東京 メトロ広尾駅構内の広告,インターネット上のバナー広告等様々な広 告媒体によって,相当程度の宣伝広告費(平成25年3月期で約2億 円)をかけて,「ENOTECA」,「Enoteca」及び「エノ テカ」の各標章を露出させている。
また,原告の店舗やブランドは,海外事業も含め,著名な新聞,雑 誌といった全国規模での主要メディアに多数取り上げられており,平 成24年及び平成25年のみでも少なくとも100件以上,雑誌や新 聞等で取り上げられている。
d 原告は,日本で,イタリア語を語源とする「ENOTECA」,「エ ノテカ」の語が全く知られていない時期から,「Enoteca」の 登録商標(引用商標3)を有していた第三者から使用許諾を得て,そ の使用を開始した後,平成7年に多額の対価を支払ってその商標権を 取得し,さらに,平成19年に小売等役務商標制度が導入されると,引 用商標1の商標登録出願をし,翌年にその商標登録を受けた。
また,原告は,無断で引用商標を使用する者に対しては速やかに警 告書を送付して,「ENOTECA」ブランドの保護を図っている。
このように,原告は,日本で「ENOTECA」,「エノテカ」の 語が全く知られていない状況の中で,多額の費用をかけて,「Eno teca」の登録商標(引用商標3)の使用権を取得して使用を開始 し,長期にわたり引用商標を含む「ENOTECA」,「Enote ca」及び「エノテカ」の各標章の価値を守り抜いて,自らの力で「E NOTECA」ブランドを作り上げてきた。
その結果,ワインに関する小売等役務において「エノテカ」の称呼 を含む登録商標は,引用商標を含む原告保有の登録商標のみとなって おり,第三者による登録商標は,本件商標を除いて,これまで認めら れていない。
e 以上によれば,引用商標を含む「ENOTECA」,「Enote ca」及び「エノテカ」の各標章は,原告を表すものとしてブランド イメージが確立され,ワイン販売事業において,需要者に幅広く認識 されるに至り,本件商標の登録出願時(平成24年12月13日)及 び登録査定時(平成25年7月29日)には,原告を表すハウスマー クないし原告の業務に係る役務の出所を表す商標として,日本国内の 取引者,需要者の間で著名となっていたものといえる。
(イ) 本件商標の各構成部分が不可分的に結合しているとはいえないこと a 本件商標は, 「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の 文字部分の二つの構成部分を組み合わせた結合商標であり,その外観 は,「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部 分の各語頭のみが大文字であり,両文字部分の間には約1文字分の空 白がある。
また,本件商標は,全体として一個不可分の既成の概念を示すもの ではなく,少なくとも日本国内においては,「エノテカイタリアー ナ」 (被告会社)は全く知られておらず,むしろ,前記(ア)のとおり, 「E noteca」が著名な原告のハウスマークであることからすれば,本 件商標に接した取引者,需要者は,「Enoteca」の文字部分か ら本件商標を原告の業務に関連する著名な表示として把握するものと いえる。仮に「Enoteca」のイタリア語としての意味が一定の 範囲の需要者に認識されていたとしても,本件商標に接した需要者 は,イタリア語の語源に由来する意味を認識すると同時に,本件商標 を原告の業務に関連する表示として把握するものといえるから,本件 商標から原告を想起することを妨げるものではない。
さらに,本件商標は,アルファベットで15文字,称呼としては片 仮名で10文字(「エノテカイタリアーナ」)からなる外観及び称呼 が比較的長い商標であるから,「エノテカ」と「イタリアーナ」の間 で一拍置いてから称呼されることが少なくないはずであるし,本件商 標の「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部 分からはそれぞれ異なる観念が生じる。
b したがって,本件商標は,「Enoteca」の文字部分と「It aliana」の文字部分が,それらを分離して観察することが取引 上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえ ない。
(ウ) 「Enoteca」の文字部分が役務の出所標識として強く支配的 な印象を与えること 原告は,昭和63年の会社設立以来, 「エノテカ」を商号の一部とし,日 本でイタリア語を語源とする「Enoteca」,「エノテカ」の語が 全く知られていない状況の中で,多額の費用をかけて,「Enotec a」の登録商標(引用商標3)の使用権を取得して使用を開始し,長期 にわたり引用商標を含む「ENOTECA」,「Enoteca」及び 「エノテカ」の各標章の価値を守り抜いて,自らの力でエノテカブラン ドを作り上げてきた。その結果,ワインに関する小売等役務において「エ ノテカ」の称呼を含む登録商標は,引用商標を含む原告保有の登録商標 のみとなっており,第三者による登録商標は本件商標を除いてこれまで 認められていない。
したがって,本件商標の「Enoteca」の文字部分は,取引者,需 要者に対し,原告の業務に係る役務の出所識別標識として強く支配的な 印象を与えるものといえる。
また,仮に本件審決の認定を前提としても,「ENOTECA」又は 「エノテカ」の標章は,原告の業務に係る役務「ワインの小売又は卸売 の業務について行われる顧客に対する便益の提供」について使用する商 標として,本件商標の登録出願時には既に,この種業界において,取引 者,需要者の間に相当程度広く認識されていたのであるから,本件商標 の「Enoteca」の文字部分は,取引者,需要者に対し原告の上記 役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものといえる。
(エ) 「Italiana」の文字部分から出所識別標識としての称呼,観 念が生じないこと 「Italiana」の語が「イタリアの」という意味を有すること が一般的に知られていることからすれば,本件商標のいずれの指定役務 に係る取引者,需要者であっても,本件商標の「Italiana」の 文字部分については,役務の提供の場所,質,態様,提供の方法その他 の特徴(役務の提供の用に供する物の産地等)を指すものと認識,理解 するものといえる。また,地名を含む結合商標においては,その地名部 分に識別力が生じるものとはいえない。
したがって,本件商標の「Italiana」の文字部分からは,そ れ自体で出所識別標識として独立した称呼,観念は生じない。
(オ) 「Enoteca」の文字部分を要部として抽出できること 以上によれば,本件商標は,「Enoteca」の文字部分と「It aliana」の文字部分が,それらを分離して観察することが取引上 不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえない し,「Enoteca」の文字部分が役務の出所標識として強く支配的 な印象を与えるものであるのに対し,「Italiana」の文字部分 から出所識別標識としての称呼,観念が生じないのであるから,本件商 標から「Enoteca」の文字部分を要部として抽出し,これと引用 商標とを対比して,本件商標と引用商標の類否を判断することは許され るというべきである。
(カ) 本件審決の判断が誤りであること 本件審決は,@「Enoteca」が,「ワインを販売する店」ない し「ワインを提供する飲食店」という店舗の種類ないし性格を意味する 用語としてワイン愛好者や西洋料理に関心のある需要者の間で相当程度 認識されていること,A「Enoteca」が,「Enoteca ○ ○○(エノテカ○○○)」として店舗名を表すことが多いことが相当程 度認識されていること,B被告会社が,本件商標を「会社概要」のパン フレットや店舗の看板に使用していること,イタリアにおいてオスカー・デル・ヴィーノ(ワインのオスカー賞)の平成14年の最優秀エノテカ賞を受賞したこと,平成17年の「世界最優秀個人経営ワインショップ」で世界3位に入賞したことなどを根拠として,本件商標は,「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部分とに分離分断して看取されるよりも,むしろ全体をもって一連一体の店舗名を表したものとして認識し把握されるものであり,「Enoteca」の文字部分が本件商標の要部とならない旨判断した。
しかしながら,上記@の点については,本件審決がその認定の根拠として挙げる乙号各証(乙3ないし11,15,16(枝番のあるものは枝番を含む。以下,他の書証についても同じ。))の記載は,いずれもローマやフィレンツェに所在する店舗に関するものであり,イタリアにおける事情を紹介するものであって,日本における状況について説明するものではない。また,上記乙号各証は,イタリアへの旅行を希望する者を読者とするものであり,日本においては,「Enoteca」のイタリア語の語義になじみがないからこそ,その語義を解説しているともいえる。しかも,前記(ア)のとおり,「ENOTECA」,「Enoteca」及び「エノテカ」の各標章は,原告を表すハウスマークないし原告の業務に係る役務の出所を表す商標として,日本国内の取引者,需要者の間で著名であることに照らすと,「Enoteca ○○○(エノテカ○○○) との標章を見聞した取引者, 」 需要者が認識するのは,原告の業務に係る「Enoteca」(エノテカ)であって,「Enoteca ○○○(エノテカ○○○)」との店舗名ではない。
さらに,そもそも,本件商標の指定役務は,複数の商品についての小売等役務であるところ,その需要者は一般消費者であり,本件審決のいうような「ワイン愛好者や西洋料理に関心のある需要者」に限られるも のではない。
次に,上記Aの点については,本件審決が挙げる「Enoteca ○ ○○」とする店舗名の例は,いずれも「○○○」に該当する文字が,本 件商標における「Italiana」の文字のように,役務の提供の場 所,質,態様,提供の方法その他の特徴(役務の提供の用に供する物の 産地等)を指すものと認識される文字からなるものではない。
さらに,上記Bの点については,いずれも日本国外における事実であ るから,日本で登録された本件商標の類否判断に何ら影響するものでは ないし,少なくとも日本においては,被告会社は全く知られていない。
以上によれば,上記@ないしBの諸点は,いずれも本件商標から「E noteca」の文字部分を要部として抽出することができないことの 根拠となるものではない。また,仮に上記@ないしBの諸点を前提とし たとしても,前記(ウ)のとおり,本件商標の「Enoteca」の文字 部分は,取引者,需要者に対し,原告の業務に係る役務の出所識別標識 として強く支配的な印象を与えるものといえるから,本件商標から「E noteca」の文字部分を要部として抽出することができるというべ きである。
したがって,「Enoteca」の文字部分が本件商標の要部となら ないとした本件審決の判断は誤りである。
イ 本件商標と引用商標の類否判断の誤り (ア) 本件商標の要部である「Enoteca」の文字部分と引用商標を 対比すると,いずれも「Enoteca」又は「ENOTECA」で綴 りが同一であり,外観が同一又は近似する。
また,本件商標の「Enoteca」の文字部分及び引用商標から は,「エノテカ」という同一の称呼が生じる。
さらに,本件商標の「Enoteca」の文字部分及び引用商標から,原 告のワインショップ「エノテカ」という同一の観念が生じる。仮に「E noteca」のイタリア語としての意味が一定の範囲の需要者に認識 されていたとしても,本件商標に接した需要者は,イタリア語の語源に 由来する意味を認識すると同時に,本件商標を原告の業務に関連する表 示として把握するといえるから,本件商標から原告を想起するものとい える。
したがって,本件商標と引用商標は,外観,称呼及び観念のいずれの 点についても同一又は類似の商標である。
(イ) 本件商標の指定役務のうち,「飲食料品」,「酒類」,「菓子及び パン」 「ワイングラス」, , 「かばん類及び袋物」,「陶器製の食器類」及 び「ガラス製食器類」の各小売等役務については,引用商標1の指定役 務と同一又は類似する。
また,本件商標の指定役務のうち,「タオル及びハンカチ」及び「エ プロン」の各小売等役務については,引用商標2の指定商品と類似する。
さらに,本件商標の指定役務のうち,「酒類」の小売等役務について は,引用商標3の指定商品と類似する。
ウ まとめ 以上によれば,本件商標は,引用商標に類似する商標であって,本件商 標の指定役務は,引用商標の指定役務又は指定商品と同一又は類似するか ら,本件商標は商標法4条1項11号に該当する。
したがって,本件商標は商標法4条1項11号に該当するものとはいえ ないとした本件審決の判断には誤りがあるから,本件審決は取り消される べきものである。
(2) 取消事由2(本件商標の商標法4条1項15号該当性の判断の誤り) 本件審決は,本件商標をその指定役務について使用した場合,これに接す る取引者,需要者が「Enoteca」の文字部分のみに注目して原告の使 用標章ないしは原告を連想,想起するようなことはないというべきであり,当該役務が原告又は原告と経済的,組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかの如く,その出所について混同を生ずるおそれはないから,本件商標は商標法4条1項15号に該当しない旨判断した。
しかしながら,@本件商標は,引用商標と同一の部分をその構成の一部に含む結合商標であって,その外観,称呼及び観念上,この同一の部分がその余の部分から分離して認識され得ること,A引用商標は,ワイン及びこれに関連する商品の小売等役務について使用する商標としてのみならず,広く原告の業務について使用する商標として,取引者,需要者の間で著名であり,少なくとも相当程度広く認識されていたこと,B引用商標は,純粋な造語ではないものの,日本においては誰もがその原語における意味を知っているとはいえないイタリア語の「Enoteca」を用いるものであり,一定程度の独創性があること,C本件商標の指定役務は全て引用商標が現に使用されている商品・役務と同一であるか又はこれとの関連性の程度が極めて強いものであり,本件商標と引用商標の取引者及び需要者が共通すること,D本件商標の指定役務の対象となる商品が日常的に消費される性質の商品であることや,その需要者が特別な専門的知識経験を有しない一般大衆であることからすると,上記商品を購入するに際して払われる注意力はさほど高いものではないことを総合考慮すると,本件商標が指定役務に使用された場合,本件商標に接した取引者及び需要者は,原告の周知又は著名な「ENOTECA」の表示を連想する可能性が非常に高く,その役務が,原告との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信するおそれがあるといえる。
したがって,本件商標は,「他人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある商標」(商標法4条1項15号)に当たるから,本件審決の上記判断 には誤りがあり,本件審決は取り消されるべきものである。
2 被告らの主張 (1) 取消事由1(本件商標の商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)に 対し ア 「本件商標の要部抽出の可否についての判断の誤り」について (ア) 本件商標の外観及び称呼について 本件商標は,縁取りして統一的に図案化されたワインレッド色の「E noteca Italiana」の文字をまとまりよく一体的に表して なるロゴタイプの商標であり,本件商標から「エノテカイタリアーナ」の 一連の称呼がよどみなく生じる。
このように本件商標は,色彩や形態によって外観が不可分一体であ り,称呼も一連一体である。
(イ) 「Enoteca」の文字部分について 「エノテカ」は,イタリア語で「貴重なワインのコレクション,ワイ ン展示館(蒐集館),試飲のできるワインの販売所,ワイン屋」などの 意味を持つ普通名称であり,ワインの展示・販売・試飲・つまみの提供 などのサービスを一体的に行う店舗の種類を表す普通名称として,日本 語のガイドブック等でも繰り返し使われている(乙2ないし11,1 5,16,27ないし38,46ないし49,52ないし57,59)。
イタリア国内には,「Enoteca ○○○(エノテカ○○○)」の 名称の店舗が多数存在しており,これらの店舗の一部は,日本語のガイ ドブック等にも紹介されている(乙4,7ないし9,53,59,60) ま 。
た,日本国内においても,Enoteca 「 ○○○(エノテカ○○○)の 」 名称は,ワインショップやイタリアンレストランの名称等に頻繁に利用 されており,これらの店舗が出版物にもたびたび掲載されている(乙2 9,31ないし34,38,46,47,49,52)。
以上によれば,「エノテカ」,「Enoteca」又は「ENOTE CA」の語は,日本国内においても,需要者の間で,ワインを販売・提 供する店舗等を示す一般的な名称として広く認識され,使用されてい る。特に,「Enoteca」が他の語と結合して「Enoteca ○ ○○(エノテカ○○○)」として用いられた場合は,需要者は「Eno teca ○○○」の店舗名全体から特定の店舗を認識するから,本件 商標の「Enoteca」の文字部分の識別力は微弱である。
したがって,本件商標の「Enoteca」の文字部分が役務の出所 標識として強く支配的な印象を与えるものとはいえない。
(ウ) 「Italiana」の文字部分について 本件商標の「Italiana」の文字部分は,通常は役務に係る地 名表示に用いられない外国語(イタリア語)であり,かつ,国名の形容 詞形であり,さらに形容詞「Italiano」を日本語のルールには ない形で変化させたものであるから,役務に係る地名を直接表示する語 とはいえず,上記部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない ことはあり得ない。
(エ) 被告会社及び本件商標の周知性ないし著名性について 被告会社は,1972年(昭和47年)にイタリアで創業されて以来,4 3年にわたり,エノテカ形式の店舗で本件商標を店舗名として使用して おり,また,会社概要のパンフレットや店舗の看板やウェブサイト等に も本件商標を使用している(乙25,26)。
被告会社は,イタリアで最も権威のあるオスカー・デル・ヴィーノ(ワ インのオスカー賞)で,2002年(平成14年)のイタリア最優秀エ ノテカ賞を受賞したほか,平成17年には,「世界最優秀個人経営ワイ ンショップ」で世界第3位に入賞するなどしている。また,被告会社代 表者は,平成18年から現在まで,ボローニャの新聞に記事を執筆し,情 報発信を行っている(乙18,20ないし23)。
被告会社は,日本国内でも,書籍「初めてのイタリアワイン」(平成 24年7月15日発行。乙24)で紹介されているほか,日本の支店と して日本語のオンラインショップを準備中である。
また,被告会社は,平成25年1月24日から同月27日まで,同年 5月4日及び5日の2回にわたり,東京都内で,イベントを実施し,看 板,名刺,チラシ,ポスター,ワイングラスのロゴ刻印等に本件商標を 使用している。
さらに,被告会社は,平成26年10月から,日本国内の個人を対象 に,カタログ通信販売によるワイン販売事業を開始している。
以上によれば,本件商標は,その構成全体から,被告会社又はその店 舗名を表すものとして,日本国内において著名又は周知である。
(オ) 小括 以上のとおり,本件商標は,外観が不可分一体で,称呼も一連一体で あり,観念についても,その構成全体から,ワインを販売・提供する店 舗の名称あるいは被告会社の周知な店舗名を表すものであること,本件 商標の構成中の「Enoteca」の文字部分は強く支配的な印象を与 えるものはいえないことからすると,本件商標から「Enoteca」の 文字部分のみを要部として抽出することはできないというべきであるか ら,本件商標の全体と引用商標とを対比して,本件商標と引用商標との 類否を判断すべきである。
イ 「本件商標と引用商標の類否判断の誤り」について 本件商標と引用商標を対比すると,本件商標から生じる「エノテカイタ リアーナ」の称呼と引用商標から生じる「エノテカ」の称呼とは,構成音 数が異なるばかりでなく,「イタリアーナ」の音の有無という顕著な差異 により容易に区別することができる。
また,本件商標と引用商標とは,それぞれの構成に照らし,外観上明確 に区別し得る差異を有している。
さらに,観念については,本件商標は,その構成全体から,ワインを販 売・提供する「Enoteca Italiana」という店舗の名称ある いは被告会社の経営する有名なワイン店「Enoteca Italian a」が認識されるのに対し,引用商標から「ワインを販売する店」ないし 「ワインを提供する飲食店」という観念が生じるものであるから,両商標 は,観念においても異なる。
したがって,本件商標と引用商標とは,称呼,外観及び観念が異なる非 類似の商標であるから,本件商標は,商標法4条1項11号に該当しない。
ウ まとめ 以上によれば,本件商標が商標法4条1項11号に該当しないとした本 件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1は理由がない。
(2) 取消事由2(本件商標の商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)に対 し ア 前記(1)アのとおり,本件商標は,その構成全体を不可分一体として,有 名なワイン店の店舗名を表したものとして認識されるものであり,「En oteca」の文字部分のみが看者の注意を特に強く惹くことはない。
また,「Enoteca」,「ENOTECA」及び「エノテカ」の語 自体は,「貴重なワインのコレクション,ワイン展示館,試飲のできるワ インの販売所,ワイン屋」等の意味を有する既成語であって,ワイン業界 においては自他商品・役務の識別力が極めて弱い。特に,「Enotec a ○○○」と他の語と結合した場合には,全体として店舗名等を表すとい う取引の実情国内外に多数存在し,このような他の語と結合した「En oteca」の文字部分は,識別力が極めて微弱である。
さらに,本件商標と引用商標が非類似の商標であることは,前記(1)のと おりである。
イ 以上によれば,本件商標をその指定役務について使用した場合,需要者 が「Enoteca」の文字部分のみに注目して原告の使用標章ないし原 告を想起することは考え難いから,その役務が,原告の業務に係る役務と 混同を生ずるおそれはないし,原告と関係のある営業主の業務に係る役務 であると誤信するおそれもない。
したがって,本件商標が商標法4条1項15号に該当しないとした本件 審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由2は理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件商標の商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)につい て 複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,その構成部分全体によ って他人の商標と識別されるから,その構成部分の一部を抽出し,この部分だ けを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは原則として 許されないが,取引の実際においては,商標の各構成部分がそれを分離して観 察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているも のと認められない商標は,必ずしも常に構成部分全体によって称呼,観念され るとは限らず,その構成部分の一部だけによって称呼,観念されることがある ことに鑑みると,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務 の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,そ れ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場 合などには,商標の構成部分の一部を要部として取り出し,これと他人の商標 とを比較して商標そのものの類否を判断することも,許されると解するのが相 当である(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷 判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5 年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年 (行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
そこで,以下においては,上記の観点を踏まえて,本件商標が引用商標に類似する商標(商標法4条1項11号)に該当するかどうかについて判断する。
(1) 前提事実 ア 引用商標について 前記第2の1の事実と証拠(甲2ないし9,12ないし16,18ない し56,58ないし68,70ないし113,136ないし139,14 2ないし156,158,160ないし163,175ないし181,1 83ないし185,187ないし190,192,乙50(枝番のあるも のは枝番を含む。 ) ) 及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア) 原告は,ワインの輸入販売業,レストラン業等を主要な事業目的と する株式会社である。また,原告は,引用商標の商標権者である。
(イ) 原告は,昭和63年に創業し,平成元年9月に東京都内にワインシ ョップ・エノテカ広尾本店及びレストラン&ワインラウンジ「ENOT ECA」を開店して以来,平成9年3月にワインショップ・エノテカ大 阪店,同年10月にワインショップ・エノテカ札幌店,平成10年11 月にワインショップ・エノテカ広島三越店,平成11年3月にワインシ ョップ・エノテカ博多店,同年12月にワインショップ・エノテカウィ ング高輪店,平成13年12月にワインショップ・エノテカ横浜そごう 店,平成15年4月にワインショップ・エノテカ新潟店,ワインショッ プ・エノテカ吉祥寺店及びワインショップ・エノテカ六本木ヒルズ店,平 成16年4月に日本橋高島屋店及びワインショップ・エノテカ柏高島屋 店,同年10月にワインショップ・エノテカ芦屋大丸店,同年11月に ワインショップ・エノテカ京王百貨店聖蹟桜ヶ丘店,平成17年3月に ワインショップ・エノテカ名古屋ラシック店,丸の内店,JR名古屋高 島屋店,大阪高島屋店及びワインショップ・エノテカ八尾西武店,同年9月に横浜高島屋店,平成18年3月に京都高島屋店,同年4月にワインショップ・エノテカ港南台高島屋店,平成19年3月にワインショップ・エノテカフードメゾンおおたかの森店,平成20年3月にワインショップ・エノテカ タカシマヤフードメゾン新横浜店,平成21年9月にエノテカ&ケーシーズ札幌円山店,平成22年1月にワインショップ・エノテカ上野松坂屋店,同年2月にワインショップ・エノテカ仙台藤崎店,同年3月にワインショップ・エノテカANAインターコンチネンタルホテル東京店,同年9月にワインショップ・エノテカ金沢香林坊大和店,平成23年3月にワインショップ・エノテカJR博多シティ店,ワインショップ・エノテカ富山大和店及びワインショップ・エノテカ二子玉川東急フードショー店,同年4月にワインショップ・エノテカ博多大丸店,同年6月にワインショップ・エノテカ姫路山陽店,同年11月にワインショップ・エノテカ浜松遠鉄店,平成24年4月にワインショップ・エノテカ渋谷ヒカリエShinQs店,平成25年2月にワインショップ・エノテカ銀座店カフェ&バー エノテカ・ミレ,同年4月にエノテカ&ケーシーズ御殿場プレミアム・アウトレット店及びワインショップ・エノテカ グランフロント大阪店カフェ&バー エノテカ・ミレをそれぞれ開店し,本件商標の登録査定前(登録査定日平成25年7月29日)に,東京都内,全国主要都市のランドマーク施設,デパート等に少なくとも39の直営店舗を開店した。なお,原告及びその海外子会社は,香港,中国,シンガポール及び韓国にも,本件商標の登録査定前に14店舗を開店している。
また,原告は,全国の有名百貨店,高級スーパー,主要高級ホテル及び全国有名レストラン,コンビニエンスストア等に自社輸入ワインを卸販売している。
さらに,原告は,平成12年5月から通信販売も開始し,遅くとも平 成18年12月10日までには,インターネット販売を開始し,遅くと も平成21年4月ころからは自社サイト及び他社のショッピングモール において販売を行っており,現在に至っている。
(ウ) 原告の店舗では,引用商標1及び2と同様の書体の「ENOTEC A」の標章が使用されている。また,原告のウェブサイトでも,引用商 標1及び2と同様の書体の「ENOTECA」の標章並びに「エノテカ」の 標章が使用されているほか,ウェブサイトでも同様の「ENOTEC A」の標章及び「エノテカ」の標章が使用されている。
(エ) 原告は,顧客らのワイン愛好家を対象に会員組織「クラブエノテ カ」を設け,平成11年ころから会報誌を発行している。会報誌では,引 用商標1及び2と同様の書体の「ENOTECA」の標章並びに「エノ テカ」の標章を使用している。
また,原告は,ワインの販売につき,平成12年7月ころから平成2 5年7月以前までに日本経済新聞等の新聞や雑誌等及び東京メトロ広尾 駅に広告をしており,これらにおいては,引用商標1及び2と同様の書 体の「ENOTECA」の標章並びに「エノテカ」の標章を使用してい る。
平成2年ころから平成25年7月ころまでの間,原告及びその事業内 容,その店舗(ワインショップ)等に関する記事が,日本経済新聞(甲 20)等の新聞や,「ケイコとマナブ」(甲33),「じゃらん」(甲 34),「ぴあ」(甲35),「Hanako」(甲41,54),「週 刊新潮」(甲45),「MEN’S EX」(甲64,71)等の雑誌 に多数掲載されている。その中には,「ワイン愛好家の間でエノテカブ ランドは浸透しているため…「ワイン」の検索ワードでエノテカは上位 に登場」 「日本ネット経済新聞」 ( 平成24年5月17日。甲22) 「世 , 界中から選りすぐったワインを取り揃えたワインショップとして名高い 「エノテカ」がオープン予定」(「Hanako」平成13年6月13 日号。甲41),「日本のワインシーンをリードする存在」(「ELL E a table」平成25年3月号。甲68),「日本でも有名なワイ ンショップ・エノテカがなんと香港に4店舗あり。」(「STORY」平 成24年3月号。甲145)などと紹介するものもある。これらの雑誌 においては,原告を示すものとして「エノテカ」の標章が用いられてお り,さらに,引用商標1及び2と同様の書体の「ENOTECA」の標 章を掲載するものもある。
さらに,原告は,平成15年以降,毎年ワインのテイスティングイベ ントを開催し,そのチラシには引用商標1及び2と同様の書体の「EN OTECA」の標章並びに「エノテカ」の標章を使用している。
また,原告は,平成13年7月から平成24年3月までの間に,高級 ブランドや著名人らとのコラボレーションによるイベントを行っている ほか,平成14年ころから平成25年7月ころまでの間,クレジットカ ード会社,旅行会社,音楽関係,化粧品会社,フラワーギフトサイト,不 動産会社,映画会社などと各種の提携やタイアップを行っており,これ らの広告やチラシ等においても,引用商標1及び2と同様の書体の「E NOTECA」の標章及び「エノテカ」の標章の双方又は「エノテカ」の 標章が使用されている。
(オ) 原告の平成20年4月1日から平成21年3月31日までの売上高 は105億0774万円,同年4月1日から平成22年3月31日まで の売上高は109億4557万3000円,同年4月1日から平成23 年3月31日までの売上高は119億1462万6000円,同年4月 1日から平成24年3月31日までの売上高は131億1891万30 00円,同年4月1日から平成25年3月31日までの売上高は144 億0069万9000円(ただし,海外子会社を含む。)である。
(カ) 平成25年10月10日時点で,本件商標及び原告が商標権者とな っているものを除き,日本国内において,第35類を指定役務とし,「エ ノテカ」,「ENOTECA」又は「Enoteca」の文字を含む商 標の商標登録はされていなかった(甲158)。その後,「エノテカ・ アリーチェ」(標準文字)の文字からなる商標が,指定役務を「第33 類 日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」及び「 第35類 飲食料 品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,商 業又は広告のための商品の販売に関するイベントの企画・運営又は開 催,商品の販売に関する情報の提供,飲食料品の輸出入に関する事務の 代理又は代行」として,平成26年6月20日に設定登録(商標登録第 5679892号)されている(乙50の5)。
イ 被告らの本件商標の使用の状況等 証拠(乙18,21,22,25,26,51,63,64(枝番のあ るものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認めら れる。
(ア) 被告会社は,1972年(昭和47年)に設立されたイタリアのボ ローニャ所在の会社であり,イタリア製のワインを販売し,少なくとも ボローニャの店舗及び被告会社のイタリア語のウェブサイト(ただし,平 成26年7月10日時点である。において, ) 本件商標を使用している。被 告会社は,イタリアで最も権威あるワインアワードの一つであるとされ るオスカー・デル・ヴィーノ(ワインのオスカー賞)で,平成14年の イタリア最優秀エノテカ賞を受賞したほか,平成17年には,「世界最 優秀個人経営ワインショップ」で世界第3位に入賞するなどしている。
(イ) 被告らは,平成25年1月24日から同月27日まで,東京都港区 のメリーロード高輪において,「ワインショップENOTECA IT ALIANA日本に初上陸! 食の都イタリア,ボローニャに本店を置 くエノテカイタリアーナがメリーロード高輪のカフェ10で期間限定バ ールオープン ワンコイン(500yen)試飲も可(種類限定)」な どと銘打って,被告会社の選んだイタリア製のワインを販売するイベン トを実施した。また,被告らは,同年5月4日及び5日,「エノテカイ タリアーナ 好評につき2度目の出店! 食の都イタリア ボローニャ に本店を置くエノテカイタリアーナが2日間限定バールオープン」と銘 打って同様のイベントを実施した。なお,2回目のイベントの際のチラ シには,「今回は高輪のれんノ市との連動イベントによりボトルでの販 売はございません。」との記載がある。
上記各イベントの際,イベントの垂れ幕,チラシ,ポスター,名刺及 びイベントで使用されたワイングラスのロゴ刻印等に本件商標が使用さ れた。
ウ 「Enoteca(エノテカ)」の語義及び使用状況等について (ア) 「enoteca」の語は,「貴重なワインのコレクション,ワイ ン展示館,試飲のできるワインの販売所,ワイン屋」等の意味を有する イタリア語である(乙2,27)。
(イ) 本件商標の登録査定前に日本国内において発行された書籍には,エ 「 ノテカ」,「Enoteca」に関し,次のような記載がある。
a イタリア語で「ワインの箱や棚」を意味する言葉で,転じて地元ワ インの販売所を指す。店内でもワインを飲めるように,カウンターや テーブルを用意してあるところも多い。食事は簡単なおつまみだけを 提供するところがほとんど。カンティーナと呼ぶこともある。近年は ワインを主体としたレストランなどもエノテカと呼ばれる(「ワイン の用語500」平成24年7月31日発行。乙3)。
b ワイン居酒屋。ワイン店の一角で,客にグラスワインとつまみを提 供したのが始まり。本格的な料理を出す店も多い(「ララチッタ ロ ーマ・フィレンツェ」平成24年11月発行。乙4)。
c ワイン販売店に併設されるワインバー。チーズをはじめ数種類のつ まみが用意されている。気に入れば,その場でワインの購入も(「ま っぷる イタリア2013」平成24年1月20日発行。乙5)。
d 本来は,量り売りワインの販売店。多くはワインバーを併設し,お つまみとともにグラスワインを味わうことができる。気に入ったワイ ンをその場で購入できるのもうれしい。なかには食事にこだわったリ ストランテに近い店もある(「地球の歩き方arucoイタリア」平 成24年3月23日発行。乙10)。
e エノテカは,普通はワインを中心に売る酒屋のこと。中には何種類 かのワインをグラスで味わうことのできるカウンターを備えている店 もある。店の中に入るとき赤,白,スプマンテと分けてその日に試飲 できる銘柄が書かれていて,人々はナッツ類などの軽いものをつまみ ながらグラスに注がれたワインを楽しんでいる。こうしたエノテカで は店の人が自信を持って選んだボトルをリストに並べていて,香り,味 わいともにそれぞれに違ったワインが揃っている。最近では,軽い食 事を出す料理自慢の店も増えた 「’ ( 13〜’14 地球の歩き方 ロ ーマ」。乙15)。
f 酒屋を兼ねたワインバーをエノテカ(ヴェネツィアでは「バーカリ Bacari」)という。高級ワインもグラスで頼めるし,おつまみ だけでなく軽めの料理も提供される 「わがまま歩き…○ ( 29「ローマ ミ ラノ フィレンツェ ヴェネツィア」 ブルーガイド」平成23年1 月25日発行。乙16)。
g イタリア語。「ワインを専門的に集めているところ」の意で,フラ ンス語のヴィノテークに当たる。イタリアでは,各地に公営の展示所 を設け,それをエノテカと称しているが,販売を目的とした純然たる 商業ベースのエノテカもある。また,ワインの品揃えの多いレストラ ンが,店名にエノテカという語を冠することもある(「新版ワインの 事典」平成22年5月1日発行。乙28)。
(ウ) さらに,本件商標の登録査定前に日本国内で発行されたイタリアの 旅行ガイドブック等の書籍において,「エノテカ○○○」との名称を有 するイタリア所在のレストラン,ワインバー及び酒販店が相当数紹介さ れている(乙4,7ないし9,15,59)。
(エ) 日本国内において,「エノテカ○○○」との名称のレストラン,バ ー等が相当数存在する(乙29,31ないし34,38,49の6ない し8,52)。
他方,酒類の小売店で「エノテカ○○○」との名称を用いているもの には,神戸市の「エノテカ・ラ・シレーナ」(乙29)がある。また,平 成27年9月27日に大阪市で開催された「大好きイタリアワイン」と のイベントにおいて,ワインの販売ブースである「エノテカブース」に 「エノテカビアンキ」及びイタリアワイン専門店である「エノテカ イ ル ソッフィオーネ」が出店している(乙49の1ないし5)。
(2) 本件商標の要部抽出の可否について ア(ア) 本件商標は,別紙本件商標目録記載のとおり,縁取りして図案化さ れたワインレッド色の「Enoteca Italiana」の欧文字 を横書きに書して成り,「Enoteca」の文字部分と「Itali ana」の文字部分とから構成される結合商標である。
本件商標は,その構成全体から「エノテカイタリア-ナ」の称呼が自 然に生じる。
一方で,本件商標は,その構成中の「Enoteca」の文字部分と 「Italiana」の文字部分との間に空白があること,それぞれの 文字部分の冒頭の文字が大文字で,冒頭以外の文字が小文字であること からすると,本件商標の外観上,「Enoteca」の文字部分と「I taliana」の文字部分とを明瞭に区別して認識することができる。
(イ) 前記?ウ認定のとおり,「enoteca」の語は,「貴重なワイ ンのコレクション,ワイン展示館,試飲のできるワインの販売所,ワイ ン屋」を意味するイタリア語であること,ワインに関連する書籍,イタ リアの事情等を紹介する書籍には,「エノテカ」(Enoteca)が 上記意味合いを有する語であることの記載があること,日本国内におい て,「エノテカ○○○」との名称のレストラン等の飲食店が相当数存在 することからすると,ワイン愛好者や,イタリア料理,イタリア事情,イ タリアへの旅行等に関心のある者の間においては,本件商標の登録査定 当時(登録査定日平成25年7月29日),「Enoteca」が,「エ ノテカ」と称され,「試飲のできるワインの販売所」,「ワイン屋」(ワ イン店)などの意味を有するイタリア語であることを相当程度認識され ていたものと認められる。
一方で,前記?アの認定事実を総合すると,原告が,ワインの輸入販 売,直営のワインショップ及びインターネット販売による小売,卸売,ワ イン文化と知識の普及などの事業活動において,「ENOTECA」及 び「エノテカ」の各標章を継続して使用した結果,本件商標の登録査定 当時には,「ENOTECA」又は「エノテカ」は,原告及び原告が行 うワインの輸入販売,小売,卸売等の事業ないし営業を表示するものと して,日本国内において,取引者,需要者である一般消費者の間に,広 く認識され,周知となっていたことが認められる。
以上によれば,本件商標の「Enoteca」の文字部分から,取引 者,需要者において,原告の周知の営業表示としての「ENOTECA」又 は「エノテカ」の観念が生じるものと認められる。また,需要者のうち,ワ イン愛好者や,イタリア料理,イタリア事情,イタリアへの旅行等に関 心のある者においては,「Enoteca」の文字部分から,「試飲の できるワインの販売所」,「ワイン屋」(ワイン店)などの観念が生じ るとともに,原告の周知の営業表示としての「ENOTECA」又は「エ ノテカ」の観念も生じるものと認められる。
(ウ) 「italiana」の語は,「イタリアの」の意味を有するイタ リア語の形容詞である。また,イタリア語の知識を有しない者にとって も,「italiana」の語は,その構成文字及び「イタリアーナ」の 称呼が生じることから,国名の「イタリア」に関連することを示す語で あることを容易に認識できるものといえる。
そうすると,本件商標の「Italiana」の文字部分から,「イ タリアの」という観念を生じるものと認められる。
(エ) 以上のとおり,本件商標は,「Enoteca」の文字部分と「I taliana」の文字部分とから構成される結合商標であるが,その 外観上,それぞれの文字部分を明瞭に区別して認識することができるこ と,それぞれの文字部分から別異の観念が生じることに鑑みると,本件 商標の「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部 分は,それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほ ど不可分的に結合しているものと認められないというべきである。
イ 本件商標の登録査定当時には, 「ENOTECA」 「エノテカ」 原 又は は, 告及び原告が行うワインの輸入販売,小売,卸売等の事業ないし営業を表 示するものとして,日本国内において,取引者,需要者である一般消費者 の間に,広く認識され,周知となっていたこと,本件商標の「Enote ca」の文字部分から,取引者,需要者において,原告の周知の営業表示 としての「ENOTECA」又は「エノテカ」の観念が生じることは,前 記ア(イ)認定のとおりである。
他方で,前記ア(ウ)認定のとおり,本件商標の「italiana」の 文字部分から「イタリアの」という観念を生じるが,本件商標の指定役務 との関係においては,本件商標の「italiana」の文字部分は,そ の役務の提供の場所,提供の用に供される物等がイタリアに関連すること を示すものと認識されるにとどまるものといえる。
以上を総合すると,本件商標が「ワインの小売又は卸売の業務について 行われる顧客に対する便益の提供」の役務及びワインに関連する役務に使 用された場合には,本件商標の構成中の「Enoteca」の文字部分は,取 引者,需要者に対し,上記各役務の出所識別標識として強く支配的な印象 を与えるものと認められ,独立して役務の出所識別標識として機能し得る ものといえる。
そうすると,本件商標から「Enoteca」の文字部分を要部として 抽出し,これと引用商標とを比較して商標そのものの類否を判断すること も,許されるというべきである。
ウ これに対し,被告らは,本件商標は,外観が不可分一体で,称呼も一連 一体であり,観念についても,その構成全体から,ワインを販売・提供す る店舗の名称あるいは被告会社の周知な店舗名を表すものであること,本 件商標の構成中の「Enoteca」の文字部分は強く支配的な印象を与 えるものはいえないことなどからすると,本件商標から「Enotec a」の文字部分のみを要部として抽出することはできない旨主張する。
しかしながら,被告らの主張は,以下のとおり理由がない。
(ア) 被告らは,本件商標は,縁取りして統一的に図案化されたワインレ ッド色の「Enoteca Italiana」の文字をまとまりよく一 体的に表してなるロゴタイプの商標であり,本件商標から「エノテカイ タリアーナ」の一連の称呼がよどみなく生じるから,本件商標は,色彩 や形態によって外観が不可分一体であり,称呼も一連一体である旨主張 する。
しかしながら,前記ア(ア)認定のとおり,本件商標は,その構成全体 から「エノテカイタリア-ナ」の称呼が生じるが,一方で,本件商標は,そ の構成中の「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文 字部分との間に空白があること,それぞれの文字部分の冒頭の文字が大 文字で,冒頭以外の文字が小文字であることからすると,本件商標の外 観上,「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部 分とを明瞭に区別して認識することができるから,本件商標の外観が不 可分一体であるということはできない。
また,本件商標の構成全体から「エノテカイタリア-ナ」の称呼が自 然に生じることからといって直ちに本件商標から「Enoteca」の 文字部分を要部として抽出することができないとはいえない。
したがって,被告らの上記主張は,本件商標から「Enoteca」の 文字部分のみを要部として抽出することはできないことの根拠となるも のではない。
(イ) 被告らは,@「エノテカ」は,イタリア語で「貴重なワインのコレ クション,ワイン展示館(蒐集館),試飲のできるワインの販売所,ワ イン屋」などの意味を持つ普通名称であり,ワインの展示・販売・試飲・ つまみの提供などのサービスを一体的に行う店舗の種類を表す普通名称 として,日本語のガイドブック等でも繰り返し使われていること,Aイ タリア国内には,「Enoteca ○○○(エノテカ○○○)」の名 称の店舗が相当数存在しており,これらの店舗の一部は,日本語のガイ ドブック等にも紹介されており,日本国内においても,「Enotec a ○○○(エノテカ○○○)」の名称は,ワインショップやイタリア ンレストランの名称等に頻繁に利用されており,これらの店舗が出版物 にもたびたび掲載されていることからすると,「エノテカ」,「Eno teca」又は「ENOTECA」の語は,日本国内においても,需要者の間で,ワインを販売・提供する店舗等を示す一般的な名称として広く認識され,使用されているといえるものであり,特に,「Enoteca」が他の語と結合して「Enoteca ○○○(エノテカ○○○) として用いられた場合は,需要者は「Enoteca 」 ○○○」の店舗名全体から特定の店舗を認識するから,本件商標の「Enoteca」の文字部分の識別力は微弱であるなどとして,本件商標の「Enoteca」の文字部分が役務の出所標識として強く支配的な印象を与えるものとはいえない旨主張する。
a しかしながら,「enoteca」の語は,「貴重なワインのコレ クション,ワイン展示館,試飲のできるワインの販売所,ワイン屋」を 意味するイタリア語であること,ワインに関連する書籍,イタリアの 事情等を紹介する書籍には,「エノテカ」(Enoteca)が上記 意味合いを有する語であることの記載があること,日本国内におい て,「エノテカ○○○」との名称のレストラン等の飲食店が相当数存 在することは,前記ア(イ)認定のとおりである。これらの事実から,本 件商標の登録査定当時,日本国内において,ワイン愛好者や,イタリ ア料理,イタリア事情,イタリアへの旅行等に関心のある者の間で「E noteca」又は「ENOTECA」の語が「試飲のできるワイン の販売所」,「ワイン屋」(ワイン店)などの意味を有するイタリア 語であることが相当程度認識されていたことが認められるとして も,一般消費者を含む需要者の間で「エノテカ」「Enoteca」 , 又 は「ENOTECA」の語がワインを販売・提供する店舗等を示す一 般的な名称として認識されていたとまで認めることはできない。
また,イタリア国内には,「Enoteca ○○○(エノテカ○ ○○)」といった名称の店舗が相当存在しており,これらの店舗の一 部がイタリアの事情等を紹介する書籍に掲載されているとしても,そ れらの掲載記事は,イタリアの国内の状況を示したり,イタリア国内 の店舗を紹介するにすぎないものであるから,上記と同様である。
他方で,日本国内において,「Enoteca ○○○(エノテカ○ ○○)」の名称が,ワインを小売するワインショップに用いられてい るのは,証拠上3件にすぎず(前記(1)ウ(エ)),他の多くはレストラ ンやバーなど飲食物の提供を役務とする飲食店に用いられているにす ぎない。
加えて,本件商標の登録査定当時には,「ENOTECA」又は「エ ノテカ」は,原告及び原告が行うワインの輸入販売,小売,卸売等の 事業ないし営業を表示するものとして,日本国内において,取引者,需 要者である一般消費者の間で,広く認識され,周知となっており,本 件商標の「Enoteca」の文字部分から,取引者,需要者におい て,原告の周知の営業表示としての「ENOTECA」又は「エノテ カ」の観念が生じること(前記ア(イ))に鑑みると,「Enotec a」が他の語と結合して「Enoteca ○○○(エノテカ○○ ○) として用いられた場合であっても, 」 需要者は「Enoteca」又 は「エノテカ」の文字部分から原告の周知の営業表示としての「EN OTECA」又は「エノテカ」を想起するものといえるから,本件商 標の「Enoteca」の文字部分が出所識別標識としての識別力が 微弱であるということはできない。
b また,被告らは,本件商標の「Enoteca」の文字部分の出所 識別標識としての識別力が微弱であることの理由として,本件商標 は,その構成全体から,被告会社又はその店舗名を表すものとして,日 本国内において著名又は周知である旨主張する。
しかしながら,被告らが本件商標が被告会社又はその店舗名を表す ものとして日本国内において著名又は周知であることの根拠として挙 げる事情は,主として,イタリアにおける被告会社の事業,本件商標 の使用状況等に関する事情(前記イ(ア))であり,それらの事情は,日 本国内において,本件商標が被告会社又はその店舗名を表すものとし て著名又は周知であったことを基礎付けるものとはいえない。
また,日本国内における本件商標の使用状況(前記イ(イ))をみる と,被告らが,平成25年1月24日から同月27日まで,同年5月 4日及び5日の2回にわたり,東京都内において,ワインの試飲等の イベントを開催し,イベントの垂れ幕,チラシ,ポスター,名刺及び イベントで使用されたワイングラスのロゴ刻印等に本件商標を使用し たことが認められるにとどまる。なお,被告らが被告会社を取り上げ たものとして提出する書籍「初めてのイタリアワイン」(平成24年 7月15日発行。乙24)には,本件商標も,被告会社の名称も記載 されていないから,乙24をもって本件商標の日本国内における著名 性又は周知性を基礎付けることはできない。
したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
(ウ) 以上の次第であるから,本件商標から「Enoteca」の文字部 分を要部として抽出することはできないとの被告らの主張は,理由がな い。
(3) 本件商標と引用商標の類否について ア(ア) 本件商標の要部である「Enoteca」の文字部分と引用商標1 を対比すると,引用商標1は,別紙引用商標目録記載1のとおり,黒色 のゴシック調の書体の欧文字の大文字7字から成るのに対し,本件商標 の「Enoteca」の文字部分は,別紙本件商標目録記載のとおり,同 様の綴りの欧文字7字から成るが,冒頭の「E」の文字が大文字で,冒 頭以外の文字が小文字である点及び各文字が縁取りして図案化された ワインレッド色である点で,両商標の外観は,同一とはいえないが,紛 らわしいものといえるから,類似するものと認められる。
本件商標の「Enoteca」の文字部分と引用商標1は,「エノテ カ」の称呼が生じる点で,称呼において同一であり,また,引用商標1 から,本件商標の「Enoteca」の文字部分と同様に(前記(2)ア( イ)),原告の周知の営業表示としての「ENOTECA」又は「エノテ カ」の観念が生じるから,観念においても同一である。
以上によれば,本件商標の「Enoteca」の文字部分と引用商標 1は,称呼及び観念が同一であり,外観は,同一ではないが,類似する ものといえる。
(イ) 本件商標の要部である「Enoteca」の文字部分と引用商標2 は,引用商標2が,別紙引用商標目録記載1及び2のとおり,引用商標 1と同一の構成のものであるから,上記(ア)と同様に,称呼及び観念が 同一であり,外観は,同一ではないが,類似するものといえる。
また,引用商標3は,別紙引用商標目録記載3のとおり,黒色のゴシ ック調の書体の欧文字7字から成り,引用商標1とは冒頭の「E」の文 字以外の文字が小文字である点で異なるが,本件商標の「Enotec a」の文字部分とは綴りが同一である。
したがって,本件商標の「Enoteca」の文字部分と引用商標3 は,称呼及び観念が同一であり,外観は,同一ではないが,類似し,そ の類似性の程度は高いものといえる。
イ 本件商標の指定役務のうち,「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,酒類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,ワイングラスの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋 物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,陶 器製の食器類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益 の提供,ガラス製食器類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に 対する便益の提供」は,引用商標1の指定役務のうち,「飲食料品の小 売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,台所用品 ・清掃用具及び洗濯用具の小売の業務において行われる顧客に対する便 益の提供,かばん類及び袋物の小売の業務において行われる顧客に対す る便益の提供」と同一又は類似するものといえる。
また,本件商標の指定役務のうち,「タオル及びハンカチの小売又は 卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,エプロンの小売 又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は,引用商 標2の指定商品のうち,「布製身の回り品」及び「被服」と類似するも のといえる。
さらに,本件商標の指定役務のうち,「酒類の小売又は卸売の業務に おいて行われる顧客に対する便益の提供」は,引用商標3の指定商品と 類似するものといえる。
ウ 以上のとおり,本件商標の要部である「Enoteca」の文字部分 と引用商標(引用商標1ないし3)は,外観が類似し,称呼及び観念が 同一であることからすると,本件商標及び引用商標が本件商標の指定役 務に使用された場合には,その役務の出所について誤認混同を生ずるお それがあるものといえるから,本件商標と引用商標はそれぞれ全体とし て類似しているものと認められる。
したがって,本件商標は引用商標に類似する商標であるものと認められ る。
(4) まとめ 以上によれば,本件商標は,引用商標に類似する商標であって,本件商標 の指定役務は引用商標の指定役務又は指定商品と同一又は類似するから,本 件商標は商標法4条1項11号に該当するものと認められる。
したがって,本件商標は商標法4条1項11号に該当するとはいえない とした本件審決の判断には誤りがあるから,原告主張の取消事由1は理由 がある。
2 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由があるから,その余の点について判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきものである。
よって,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)本件商標目録 (別紙)引用商標目録1登録第5136985号商標商標の構成登録出願日平成19年4月3日設定登録日平成20年6月6日指定役務第35類「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,電気機械器具類の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,手動利器の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,台所用品・清掃用具及び洗濯用具の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,印刷物の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,たばこ及び喫煙用具の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,木製の包装用容器の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」2登録第2357005号商標商標の構成登録出願日平成元年6月27日 設定登録日平成3年11月29日指定商品の書換登録日平成14年5月22日指定商品第24類「布製身の回り品,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」第25類「被服」3登録第1860159号商標商標の構成登録出願日昭和59年4月16日設定登録日昭和61年5月30日指定商品の書換登録日平成18年12月20日指定商品第32類「ビール」第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 大西勝滋
裁判官 神谷厚毅