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関連審決 不服2002-21391
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10280審決取消請求事件 判例 商標
平成20行ケ10100審決取消請求事件 判例 商標
平成19行ケ10090審決取消請求事件 判例 商標
平成19行ケ10291審決取消請求事件 判例 商標
平成17行ケ10840審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 指定商品 /  普通に用いられる方法 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項11号 /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  補正 /  外国 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10589号 審決取消請求事件
原告 イリディアンテクノロジーズインコーポ レイテッド
訴訟代理人弁理士 杉村興作
同 末野徳郎
同 廣田米男
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 福島昇
同 青木博文
同 伊藤三男
同 小林薫
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/12/20
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2002-21391号事件について平成17年3月16日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,原告が後記商標の出願をしたものの特許庁から拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたところ,同庁から審判請求不成立の審決を受けたため,その取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求原因 (1) 特許庁における手続の経緯 原告は,平成13年4月27日,後記本願商標につき商標登録出願(以下「本願」という。)をしたが,平成14年7月29日に特許庁から拒絶査定を受けたので,これに対する不服審判を請求した。
特許庁は,同請求を不服2002-21391事件として審理した上,平成17年3月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成17年3月29日に原告に送達された。
(2) 本願の内容 ア 商標 イ 指定商品 補正後の本願の指定商品は,下記のとおりである。
記 第9類「生物測定学における人又は動物の同一性を証明するための検査用光学機械器具,その他の光学機械器具及び生物測定学における人又は動物の同一性を証明するための検査用コンピューターソフトウェア,その他の電子応用機械器具」 (3) 審決の内容 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要旨は,本願商標と,下記引用商標1及び引用商標10とは,「プライベート」の称呼及び「個人的」という観念を同じくする類似の商標であって,かつ,前記各引用商標の指定商品中には本願商標の指定商品中の「電子応用機械器具」と同一又は類似の商品が包含されているから,商標法4条1項11号に該当する,としたものである。
記 @ 引用商標1:商標登録第1589377号(甲2,3) 出願 昭和55年8月13日 登録 昭和58年5月26日 商標 指定商品 (登録時) 第11類「電気機械器具,その他本類に属する商品」 (平成16年6月23日書換登録時) 第7類「起動器,交流電動機及び直流電動機(陸上の乗物用の交流電動機及び直流電動機(その部品を除く。)を除く。),交流発電機,直流発電機,家庭用食器洗浄機,家庭用電気式ワックス磨き機,家庭用電気洗濯機,家庭用電気掃除機,電気ミキサー,電機ブラシ」 第8類「電気かみそり及び電気バリカン」 第9類「配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気ブザー,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,磁心,抵抗線,電極」 第10類「家庭用電気マッサージ器」 第11類「電球類及び照明用器具,家庭用電熱用品類」 第12類「陸上の乗物用の交流電動機又は直流電動機(その部品を除く。)」 第16類「電気式鉛筆削り」 第17類「電気絶縁材料」 第21類「電気式歯ブラシ」 A 引用商標10:商標登録第4167968号(甲4,5) 出願 平成8年10月22日 登録 平成10年7月17日 商標 指定商品 第9類「配電用又は制御用の機械器具,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,眼鏡,電気通信機械器具,レコード,電子応用機械器具及びその部品,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,家庭用テレビゲームおもちゃ」 (4) 審決の取消事由 しかしながら,審決は,以下に述べる理由により,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(本願商標に関する認定判断の誤り) 審決は,本願商標からはその構成中の「private」の文字部分に相応して「プライベート」の称呼及び「個人的」の観念が生じると認定したが,以下のとおり誤りである。
(ア) 審決は,「本願商標は別掲の構成よりなるところ,その構成中の「Private」の文字と黒丸を白抜きした「id」の文字とは,視覚上分離して看取し得るものである。次に,前半の「Private」の文字部分は,「個人的」等の意味合いで一般に親しまれている平易な英語と認められ,後半の「id」の文字部分は,記号・符号として使用されるローマ字の2文字の一類型のものと認められるものである」(4頁第2段落)と認定したが,誤りである。
本願商標は,「privateid」の欧文字を,同じ大きさ,等間隔に横書きして成るものであり,その文字構成から見て視覚上,全体として一連一体の「privateid」の文字商標として看取し得るものである。
また,末尾の「id」の部分が黒丸を白抜きしたものではあっても,このような文字の表示態様が,取引者,需要者をして商品の記号・符号として用いられているものであると認識させることはない。なぜなら,商品の記号・符号として使用されるローマ字の2文字の一類型のものとは,ローマ字の2文字が,通常,普通に用いられる方法で表示されている場合をいうのであって,本願商標の如くローマ字の2文字を黒く塗りつぶした円形内に白抜きで表示することはないからである。被告は,本願商標の「id」の部分が商品の規格や型式などを表示する記号・符号の一類型とも認識されるものであると主張するが,その実例として被告が挙げる例は,本願商標「privateid」の構成態様とは事案を異にするものであるから,被告の主張は失当である。
したがって,本願商標は一連一体の「privateid」の文字商標であって,その構成文字に照応して「プライベイテイド」の称呼のみを生じ,特定の観念を生じないものというべきである。
(イ) 審決は,「本願商標は構成全体として特定の観念をもって親しまれた一体不可分の熟語等を表すものともいえないものであるから,常に一体のものとして把握されるとみるべき特段の事情があるものとも認められない。すると,本願商標は構成中の「Private」の文字に相応して,「プライベート」の称呼をもって取引に資される場合も少なくないものとみるのが相当である。」(4頁第2段落)と認定したが,誤りである。
上記(ア)のとおり,本願商標は一連一体の造語である「privateid」から成る文字商標として取引者・需要者に認識されるものである。既存の観念のある語(「private」)がその一部分として含まれているからといって,取引者・需要者が当該部分を抽出して取引に資することはない。
したがって,本願商標から「private」の文字部分を分離抽出し,「プライベート」の称呼をもって取引に資される場合も少なくない,と認定した点において,審決の上記認定は誤りである。
イ 取消事由2(出所混同のおそれに関する認定判断の誤り) (ア) 上記アのとおり,本願商標は「privateid」の一連一体の商標であって,本願商標からは「プライベイテイド」の称呼のみが生じ,特定の観念は生じないから,本願商標と引用商標1,10とは,称呼上類似せず,また,観念上比較すべくもない。また,本願商標と引用商標1,10とは,外観上も相違する。
そうすると,本願商標と引用商標1,10とは,外観,称呼,観念のいずれにおいても類似しないものであり,その出所について混同を生ずるおそれはない。
(イ) 本願商品の指定商品は,前記のとおり第9類「生物測定学における………検査用光学機械器具」等であり,その需要者は,これらの機械器具に知識のある専門家であるから,一般の消費者と異なり,専門的な見地から慎重に商標及び商品を識別するものである。指定商品に関するこのような取引の実情に照らせば,本願商標と引用商標1,10とは,その出所について混同を生ずるおそれのないものというべきである。
2 請求原因に対する認否 請求原因(1)(2)(3)の各事実は認める。同(4)は争う。
3 被告の反論 審決の認定判断は正当であり,以下に述べるとおり原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1に対して ア 本願商標において,「private」の欧文字部分は普通の書体をもって表示され,「id」の欧文字部分は黒塗りの円形内に白抜きで表示されており,両部分はその表示態様を異にしているものであるから,本願商標に接する取引者・需要者が,両部分を視覚的に分離して把握するとみるのは極めて自然なことというべきである。
しかも,「private」の欧文字は,高校学習程度の基本英語であり,表音である「プライベート」の語は日本語の外来語として日常的に使用され親しまれている語でもある。これに対し,「id」の文字自体は,何らかの意味合いを有する文字とはもいえないから,むしろ,商品の規格や型式などを表示する記号・符号の一類型とも認識されるものである。そして,両部分を一体に結合した「privateid」の欧文字は,特定の語義を有する外国語として知られているものではない。
したがって,取引者・需要者が「private」の欧文字部分を捉えて,この部分から生ずる「プライベート」の称呼及び「個人的。私的。」の観念をもって取引に当たることは,取引の経験則に照らして極めて自然なことというべきである。
イ 原告は,本願商標の末尾の「id」の文字部分について,商品の記号・符号として使用されたものと認められるとした審決の認定を論難するが,本願指定商品に含まれる電子応用機械器具や光学機械 器具などの機械器具類を取り扱う業界においては,商品の規格・型式などを示す記号・符号を,円形や方形内の白抜き文字・数字などのように装飾的に表示することは普通に行われているところであるから,原告の主張は失当である。
(2) 取消事由2に対して ア 上記(1)のとおり,本願商標からは,「プライベート」の称呼及び「個人的。私的。」の観念が生ずるものであるから,これと引用商標1,10とが類似しているとの判断に誤りはない。
イ 原告は,商標の類否判断に当たっては指定商品における取引の実情を考慮すべきものとした上,本件指定商品の需要者は当該分野の専門家であり,慎重に商標及び商品を識別するから,商標の類似によって出所の混同を生ずるおそれは他の日常的な商品と比べてより少ないと主張する。しかし,本願商標の指定商品には「その他の光学機械器具」や「その他の電子応用機械器具」が含まれており,その中には一般の消費者を対象にし,街の電気店や量販店でも取り扱われている日常生活に結びついた商品も多く属するのであるから,これらの商品に使用される商標に関する類否判断は,一般の消費者が通常有する注意力を基準としてなされるべきものである。そうすると,原告の上記主張は,本願指定商品中のごく一部の商品についての取引の実情を述べているにすぎないものであり,かつ,それについても何ら具体的な説明のないものであるから,失当といわなければならない。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(本願の内容)及び(3)(審決の内容) の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下において,原告の主張する取消事由ごとに審決の当否を判断する。
2 取消事由1(本願商標に関する認定判断の誤り)について 原告は,審決が,本願商標からはその構成中の「private」の文字部分に相応して「プライベート」の称呼及び「個人的」の観念が生じると認定したことは誤りであると主張するが,以下のとおり,採用することができない。
(1) 本願商標は,「private」の欧文字を普通の書体をもって表示し,その右に,黒塗りの円形内に白抜きで「id」の欧文字を筆記体で表示した態様から成るものであって,前者(private)と後者(id)とでその表示態様を著しく異にしているものである。また,「private」と「id」とを一体に結合した「privateid」の文字が,特定の語義を有する外国語として知られているという事実は認められない。
そして,「private」の欧文字は,我が国において高校学習程度の基本英語として広く知られており(乙1:研究社「新英和中辞典」第6版),また,その表音である「プライベート」の語は「個人的。私的。」の意味を有するものとして,日常的にも使用され親しまれている語でもあると認められる(乙2:岩波書店「広辞苑」第5版)。これに対し,欧文字小文字の「id」に,一つの語としての意味合いが生じると認めるに足る証拠はないから,この「id」の二文字の小文字より成る部分は,本願商標の構成中において,それ自体顕著な部分といえるものではない。
(2) 上記(1)で認定したとおりの本願商標の構成及び各構成部分の性質からみて,これに接する取引者・需要者は,「private」の欧文字部分と「id」の欧文字部分とを視覚的に分離して把握するものと認められる。このことは,「private」部分と「id」部分とが字間を空けずに接していることによって左右されるものではない。
そして,「簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は,常に必らずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,一個の商標から二個以上の称呼,観念の生ずることがあるのは,経験則の教えるところである」ところ(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁),本願商標に接する取引者・需要者が,その構成中,視覚的に分離され,かつ,平易な英語であり日常的にも使用されることが多いといえる「private」の欧文字部分を捉えて,この部分から生ずる「プライベート」の称呼及び「個人的。私的。」の観念をもって取引に当たることは,取引の経験則に照らして極めて自然なことというべきである。
したがって,審決が本願商標と引用商標との類否判断をするに当たり,本願商標からは「プライベート」の称呼及び「個人的。私的。」の観念が生ずると認定したことに誤りはない。
(3) 原告は,審決が,「id」の文字部分は商品の記号・符号の一類型と認識されると認定したことを論難する。しかし,上記(1),(2)のとおり,本願商標においては,「private」部分と「id」部分が視覚的に分離され,かつ,「private」部分が平易な英語であることによって,「private」部分に相応した称呼,観念が生ずるといえるのであり,このことは,「id」部分の意味についていかなる認識が生ずるかによって左右されるものではないから,原告の主張は,審決の認定が誤りであることの理由となるものではない。
3 取消事由2(本願商標と引用商標との類否判断の誤り)について (1) 上記2のとおり,審決が本願商標から「プライベート」の称呼及び「個人的。私的。」の観念が生ずると認定したことには誤りがないから,その誤りであることを前提に引用商標1及び引用商標10との類否判断の誤りをいう原告の主張は,理由がない。
(2) また,原告は,商標の類否判断に当たっては指定商品における取引の実情を考慮すべきものであるとした上,本件指定商品の需要者は当該分野の専門家であり,慎重に商標及び商品を識別するから,商標の類似によって出所の混同を生ずるおそれは他の日常的な商品と比べて少ないと主張する。
しかし,本願商標の指定商品には「生物測定学における人又は動物の同一性を証明するための検査用光学機械器具」に加えて「その他の光学機械器具」が,「生物測定学における人又は動物の同一性を証明するための検査用コンピューターソフトウェア」に加えて「その他の電子応用機械器具」が,それぞれ含まれている。そして,商標法施行規則別表によれば,第9類の「九 光学機械器具」には「(一) 望遠鏡類」として三脚,双眼鏡,望遠鏡等が含まれ,「十六 電子応用機械器具及びその部品」には「(一) 電子応用機械器具」として電子計算機,電子式卓上計算機,ワードプロセッサー等が含まれており,これらは一般の消費者を対象にし,街の電器店や量販店でも取り扱われている日常生活に結びついた商品であるから,これらの商品に使用される商標に関する類否判断は,一般の消費者が通常有する注意力を基準としてなされるべきものである。原告の上記主張は,本願商標の指定商品中の一部の商品についての取引の実情を述べているにすぎないものであって,採用することはできない。
4 結語 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本願商標は商標法4条1項11号に該当するとした審決の認定判断に誤りはない。
よって,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉