運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18ネ2387不正競争行為差止等請求控訴事件 判例 商標
平成20ワ19774商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
平成17ワ25426損害賠償請求事件 判例 商標
平成17・248損害賠償請求控訴事件 判例 商標
平成14ワ13569商標権侵害差止等請求事件 平成15ワ2226商標権侵害差止請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  指定商品 /  指定役務 /  普通に用いられる方法 /  周知性 /  公序良俗(4条1項7号) /  不正目的(不正の目的) /  ただ乗り(フリーライド) /  類似性(類否判断) /  先使用(32条) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  国内 /  差止 /  先使用権 /  外国 /  商号 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 15年 (ワ) 10016号 損害賠償等請求事件
原告 キタムラ機械株式会社
同訴訟代理人弁護士 升永英俊
同訴訟復代理人弁護士 養老信吾
同 野木正彦
被告 株式会社北村製作所
同訴訟代理人弁護士 木下健治
同補佐人弁理士 唐木浄治
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2004/05/28
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 主位的請求 (1) 被告は,別紙被告標章目録記載の各標章を被告の製品,そのカタログ及びそのインターネット上のホームページに使用し,また,同標章目録記載の各標章を付した製品を販売し,販売のために展示してはならない。
(2) 被告は,原告に対し,金3億6000万円及びこれに対する平成15年5月23日(訴状送達の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求 (1) 上記1(1)と同じ。
(2) 被告は,原告に対し,金2億5766万円及びこれに対する平成15年5月23日(訴状送達の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要等
1 争いのない事実等 (1) 当事者 原告は,マシニングセンタ等の工作機械の製造,販売等を目的とする会社である。
被告は,旋盤等の精密工作機械の製造及び販売を目的とする会社である。
(2) 本件合意の成立 原告と被告は,平成12年1月31日,標章「KITAMURA」(以下「本件標章」という。)について,以下の内容を含む合意(以下「本件合意」という。別紙本件合意内容参照)を締結した(甲1)。
ア 被告は,本件標章及びこれに類似する標章を,日本国その他一切の国及び地域において,今後一切使用しない(2条)。
イ 被告は,本合意に反して,被告の取り扱い製品について本件標章又はこれに類似する標章を使用した場合(被告の製品を販売する業者が使用した場合を含む。),原告に対して違反行為ごとに違約金100万円を支払う(7条)。
(3) 被告の行為 被告は,被告の製品(精密旋盤装置),そのカタログ及びインターネット上のホームページに,別紙被告標章目録記載の各標章(以下,同目録の番号に従って「被告標章1」などといい,これらを併せて「被告標章」という。)を使用し,また,これを付した製品を販売し,販売のために展示した。
2 事案の概要 本件は,原告が被告に対し,(1) 主位的に,被告が被告標章を使用する行為が本件合意に違反すると主張して,本件合意書2条,7条に基づき,被告標章の使用差止め及び3億6000万円の違約金の支払を請求するとともに,(2) 予備的に,被告の上記行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に当たると主張して,同法3条,5条に基づき,被告標章の使用差止め及び2億5766万円の損害賠償を請求する事案である。
3 本件の争点 (1) 本件合意違反に基づく請求について ア 被告標章を使用する行為は,本件合意に違反するか イ 本件合意書7条所定の違約金の額 (2) 不正競争防止法に基づく請求について ア 被告標章を使用する行為は,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に当たるか イ 同法5条2項による損害の額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(本件合意違反に基づく請求)について [原告の主張] (1) 本件標章と被告標章との類似性 本件標章と被告標章1とを対比すると,被告標章1に使用される「KITAMURA」との部分は,本件標章と同一である。そして,被告標章1の「KITAMURA」「MACHINE」「WORKS」との表示は,社名表示ではなく,被告が使用する標章の一部であることは明らかである。特に一方で「KITAMURA」は,白地又は青地の4分の3の円盤の中に青地又は白地のロゴとしてデザインされ,他方で,「MACHINE」「WORKS」は,青地又は白地の長方形の中に白地又は青地のロゴとしてデザインされており,「KITAMURA」のロゴが他の部分と区別してデザインされているから,本件標章と同一又は類似する。なお,被告が本件標章と類似する被告標章1を商標登録出願することもまた,本件合意書に違反する行為である。
また,被告標章2ないし6に使用される「KITAMURA」の部分は,本件標章と同一であり,被告標章2ないし6は,本件標章と同一又は類似する。なお,「KITAMURA MACHINE WORKS CO.,LTD.」のうち,「MACHINE」「WORKS」「CO.,LTD.」は識別力がなく,識別力がある「KITAMURA」の部分は,本件標章と同一であるから,上記被告の会社名は,本件標章と類似する。
(2) 被告の主張(2)に対する反論 ア 昭和63年6月,原告は,原告が出品を予定していた同年9月に米国シカゴで開催予定の国際工作機械見本市の出品予定者リストを入手したところ,被告が「Kitamura Machine Works Co.,Ltd.」や「KITAMURA」との表示を使用して被告製品の出品を予定していることが判明した。原告は,被告による上記表示の使用が原告及び原告製品との間に混同を生じさせ,原告が長年にわたり培った本件標章「KITAMURA」に対する名声及び信用が失われることを危惧し,昭和63年6月20日,当時被告の米国における販売代理店であったイトマン・ユーエスエー・インク(以下「米国イトマン」という。)に対し,当時原告の米国における顧問弁護士であったA(以下「A弁護士」という。)を通じ,被告及び米国イトマンに上記表示の使用を止めるよう要求した(甲9)。
これに対し,同年6月28日,米国イトマンは,原告のA弁護士に対し,被告製品と原告製品の混同を生ずることは望むところではなく,在庫製品には,既に昭和61年に出願済みの商標である「KIMAC」を表示するラベルの張替作業中であり,「KITAMURA」の名称に関心はない旨を回答した(甲10)。
さらに,原告のA弁護士は,昭和63年7月12日,被告のB弁護士に対し,被告が9月にシカゴで開催される国際工作機械見本市で「Kitamura」の名称及び商標を一切使用せずまた同展示会以後も使用しないことの保証を書面にて要求した後(甲11),被告のB弁護士から,同年7月27日,被告が同展示会に出品する意思がないとの回答を得るとともに(甲12),同年8月16日,被告がいかなる展示会又はその他の販促活動において「KITAMURA」を使用しないこと及び被告が社名を「Kimac Co.,Ltd.」に変更することを約束する書面を受領した(甲13)。
イ 平成8年12月,被告が,上記昭和63年8月の約束に反し「Kitamura Machine Works Co.,Ltd.」の名称の使用を続けている事実が国際展示会の出品予定者リストにより判明したため(甲14),当時の原告の弁護士であったCが米国イトマンに対し,かかる事実を指摘するとともに,問題の早期解決のため5日以内に連絡するよう要求した(甲15)。
これに対し,被告からは何らの連絡もなかったが,被告は上記国際展示会には出品せず,また,それ以後被告が「Kitamura Machine Works Co.,Ltd.」の社名を使用している事実を原告において確認できなかったことから,原告は,原告の通知により被告が約束違反の使用を止めたものと思い,それ以上の法的措置を採ることはしなかった。
ウ 平成11年5月7日,原告は,被告がフランスにて行われたヨーロッパ国際工作機械見本市において,「KITAMURA」を付した製品を展示し,そのカタログにおいて同標章及び「KITAMURA MACHINE WORKS CO.,LTD.」を,また,出品者リストに「KITAMURA MACHINE WORKS LTD」を使用している事実を確認した。
被告の上記行為は,昭和63年8月の約束に反するため,原告は,平成11年6月7日付けで被告あてに通告書を送付した(乙1)。
被告の不正使用行為は,原告が察知しただけでも,昭和63年以後3度目であり,被告による度重なる「KITAMURA」及び「KITAMURA MACHINE WORKS CO.,LTD.」の不正使用が今後一切起こらぬよう,平成12年1月31日,本件合意書(甲1)が作成されたものである。
エ このような経緯からすると,被告標章は,本件合意書2条で使用が禁止される「本件標章及びこれに類似する標章」に含まれることは明らかである。
また,本件合意書の前文には,「標章『KITAMURA』(以下,「本件標章」という。)」と規定されているから(甲1),本件標章は,標章「KITAMURA」を意味し,原告の登録商標に限られるものではない。
(3) 違約金の額について ア 「違反行為」の意味 本件合意書7条1項にいう「違反行為」とは,文言どおりに解釈すると,具体的な本件標章又はこれに類似する標章の侵害行為であり,1台の製品への本件標章又はこれに類似する標章の使用ごとに1個の違反行為を構成すると解するのが字義通りの自然な解釈である。また,@ 本件合意書7条1項には単に「違反に」ではなく「違反行為ごとに」と規定されていることから,各違反行為に対しそれぞれ100万円の違約金を支払わなければならないことを意味すること,A 違約金は損害賠償額の予定と推定されるから(民法420条3項),何台売っても損害賠償額は一律100万円であるとするなら,違反行為を多く行った方が得という不合理な結果となって違反行為を予防する効果が期待できず,当事者の合理的意思とはいえないこと,B 被告がこれまでに何度も本件標章又はこれに類似する標章の侵害行為を繰り返してきたという過去の経緯に照らすと,懲罰的かつ予防的な損害賠償を設定する合理的な必要があったこと,以上からすると,上記解釈は当事者の合理的意思であったといえる。
また,商標法2条3項8号は,標章の使用として「商品若しくは役務に関する広告,価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し,若しくは頒布し,又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」を挙げている。そして,取引書類とは,注文書,納品書,送り状,出荷案内書,物品領収書等のほかカタログ等も含まれる。よって,被告が顧客に対し,被告製品のカタログを頒布,提供する行為は本件標章を使用する行為に当たる。
イ 本件合意書は,対等な企業である原被告間の十分な交渉を経て被告も納得の上合意された契約である。また,締結時点において,被告による本件標章の不正使用行為は昭和63年以後3度に及び,このような不正使用が今後一切起こらぬように本件合意書が締結されたものであるから,被告による本件合意書に規定された義務の履行の確保は極めて重要である。
また,違約金100万円の1台当たりの平均単価に対する割合は,商社や代理店等への卸価格をベースとして約7.9%,ユーザーへの販売価格をベースとすると約6.1ないし6.6%であり,最近の裁判例に照らし,商標権侵害による損害賠償額に比して過大な額とはいえない。
よって,本件合意書7条1項における違反行為ごとに100万円の違約金を支払う旨の定めは公序良俗(民法90条)に反しない。
ウ 本件標章が付されて販売されている被告製品の台数は,平成12年2月から15年9月までで984台である。本件標章を付した被告製品を1台販売すれば1回の違法行為となるので,被告が支払うべき違約金は少なくとも9億8400万円を下らない。
よって,原告はそのうち3億6000万円を請求する。
[被告の主張] (1) 本件標章と被告標章との類似性 ア 被告標章中,標章として使用しているのは「KITAMURA」ではなく,会社のマーク入り標章の「KNC」である。被告標章1は,平成15年10月17日,指定商品を第7類として,商標登録されたところ(乙19),本件標章ないし原告の登録商標と類似しないとして登録されたものである。
イ また,「KITAMURA MACHINE WORKS」は「北村製作所」という被告の社名(商号)を英字で表示したものである。したがって,本件標章と被告標章とは同一でもなく類似もしないから,被告の行為は本件合意書2条に違反しない。
被告標章6についても,被告が商標登録を受けており,本件標章とは別異のものである。
ウ 原告提出のカタログのうち,甲16,17,40ないし46,59ないし61,64は,本件合意成立以前に印刷配布されたものであり,本件標章を単独で使用するカタログは,本件合意成立以降には印刷されていない(乙16)。
(2) 「本件標章及びこれに類する標章」の意義 ア 原告は,被告に対し,平成11年6月7日付け通告書(乙1)において,「KITAMURA」の商標についてヨーロッパ諸国をはじめ,米国・アジア諸国でも商標権を取得して使用していること,被告は,原告所有商標と同一の商標である「KITAMURA」を使用しているので,その行為を即時中止すること,被告の対応如何によっては,日本国を含めた諸外国での法的措置を講ずる旨通告した。
イ 被告は,平成11年6月25日付け回答書(乙2)において,被告の現地代理店に対して「KITAMURA」の名称(標章)が記載されているカタログの配付中止と回収措置を講ずるとともに,販売製品に貼り付けられているステッカーを除去する旨を申し入れたこと,同様にスライド放映による宣伝活動の中止措置を申し入れたこと,したがって,今後は原告所有商標である「KITAMURA」の表示されたカタログによる宣伝活動及び製品の販売活動はない旨を回答し,今回の現地代理店による手違いにより原告に対して,多大なご迷惑をかけた旨の謝罪をした。
ウ 原告から被告に対し,平成11年9月9日,原告の保有する外国登録商標は「KITAMURA」であり,また日本国内での登録商標は会社マーク入りの「KITAMURA」である旨の通知がされた(乙3)。
エ 平成11年8月24日,本件紛争を早期に解決するための合意書(草案)が原告より提示された(乙4の1)。さらに,合意書(再修正案)には,原告のコメントとして,「対象となる商標に関して「KITAMURA」のローマ字表記を単独で使用することを問題としますので,合意書修正案には標章という表現に改めました。」ことが明記されている(乙4の2)。そして,同年12月27日,合意書(最終案)が原告から提示された(乙4の3)。
オ 平成12年1月31日,本件合意書が締結されたが(甲1),本件合意書は原告所有商標の「KITAMURA」の表記を単独で使用する場合の合意内容である。この合意書の主要な項目は,原告所有商標である「KITAMURA」と同一又は類似の商標の内外国における使用中止並びに和解金100万円及び違約金100万円の支払義務を定めたところにある。
カ 上記のとおり,本件合意書の作成段階において,原告提示の合意書(草案)に対し,原告から対象となる標章に関しては「KITAMURA」のローマ字表記を単独で使用することを問題とする旨修正されたのであるから(乙4の2),本件合意書2条に定める「本件標章及びこれに類する標章」とは,本件標章を単独で使用する場合のことを指す。被告が原告の商標登録以前から使用していた社名の英語表記である「KITAMURA MACHINE WORKS」や被告標章1にまで本件合意書2条の効力が及ぶとの主張は,商標権の効力を濫用するものであり,また,被告は被告標章につき先使用権を有する。
また,上記にいう「本件標章」は,もともと「本件商標」であったものを原告の意向により変更されたのであり,標章と商標とは異なる概念であるから,原告所有の登録商標,すなわち別紙原告商標目録1,2記載の商標を対象にしていることは明らかである。
(3) 違約金の額について 「違反行為ごと」とは,本件標章を被告製品に使用した被告の標章ごとに1件と計算すべきである。原告は,本件合意書7条1項の「違約金100万円」を被告が製造し輸出している機種1台ごとであると主張するが,本件合意成立時に原告から被告に対して「1台ごと」の意思表示もなければ,その旨が本件合意書に明記されていないから,原告の主張は失当である。仮に機種1台ごとに違約金が発生するとしても,機種1台ごとに貼着されている銘板に製造年月日が明記されているもの,すなわちこの製造年月日が本件合意書締結後であり,その機種が被告の代理店等を介して海外に輸出した機種であることが証明されるものに限られるべきである。
2 争点(2)(不正競争防止法に基づく請求)について [原告の主張] 被告が被告標章を使用する行為は,以下のとおり,不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当する。
(1) 周知性 ア 原告の国内販売金額・シェア及び業界における地位 原告は,昭和8年の創業以来,旋盤及びマシニングセンタ等の工作機械の開発,製造及び販売に従事し,原告が製造する工作機械はその高品質ゆえに日本国内のみならず世界中の需要者に広く使用されている(甲6)。
原告の国内販売金額は,平成10年から平成12年までの平均で年間20億3475万8280円,市場シェアは約2.3%であり,マシニングセンタ業界における上位15社以内に位置する高い売上高を有している。そして,原告が販売する全ての製品には,本件標章が印字されている(甲44ないし46)。
イ 雑誌等への広告の掲載及び展示会への出品 原告は,国内外における有力業界雑誌の毎号に,本件標章を付した原告製品の広告を多数掲載し(甲90,91),国内における多数の製品見本市,展示会に原告製品を出品し,高品質,高精度,耐久性にすぐれた原告製品及び原告製品を示す本件標章のアピールに努めている。原告の国内における展示会及び広告宣伝費は,平成11年から平成14年の年間平均が約6865万円にも上る(甲92)。さらに,展示会においては,本件標章を付した宣伝用ビニールバッグを展示会を訪れたユーザー等工作機械業界関係者に対し,平成10年から平成14年までの間に9万個以上を配布しており,その費用は381万円にも上る(甲93,94)。
原告は,本件標章を付したカタログを平成11年度から平成14年度の4年間だけでも51万2600部(作成費用は5088万円)をユーザー等に配布しており(甲45),本件標章を付した原告製品の浸透に努めている。
また,日本経済新聞,日刊工業新聞を始めとする国内の有力新聞や雑誌に,原告及び原告製品の紹介記事が本件標章とともに多数掲載されている。
ウ これらを通じ,本件標章は,高品質の原告製品及びそのメーカーである原告を示す表示として,工作機械メーカー及びその需要者間において広く認識されている。
(2) 混同のおそれ ア 原告と被告の製品及び営業の誤認混同 過去数年において,被告標章の使用により,被告製品のユーザーが被告製品のマニュアルやデータの送付を原告のサービス会社に対して依頼する等,被告と原告を誤認する場合が増えている(甲53)。また,原告と被告を誤認した被告製品のユーザーが,原告及び原告の代理店に対し,間違って,被告製品の品質に対するクレームをつける機会が急増している。
イ ユーザー及び新聞記事における誤認混同 被告に対する見積依頼が誤って原告宛てに送付された例(甲96)や,被告を原告と誤認した新聞記事に対し原告が抗議したため,訂正記事が掲載された例(甲97)がある。
ウ ファナック株式会社及びアネスト岩田株式会社による誤認混同 原告製品の数値制御装置(CNC)を原告に供給する国内業者であるファナック株式会社は,平成11年5月8日に同社の宣伝用制作ビデオを上映したが,同ビデオ中の原告製品を紹介する部分で,被告標章が付された被告製品が原告製品として映写された(甲100)。
また,平成15年11月10日,アネスト岩田株式会社の台湾の現地法人である岩田友嘉精機股有限公司の代表者が,標章「KITAMURA」を付した被告製品(KNC-50FS)を原告製品と誤認してクレームを述べた(甲100)。
エ 被告による誤認混同助長行為 被告は,被告総合カタログの各頁の各右上部分に本件標章「KITAMURA」を使用している(甲40)。このようなカタログ頁の右上部分に「KITAMURA」を使用する方式は,原告製品カタログの方式(甲44,45)と全く同一である。
また,原告は,昭和55年,機械業界では世界初の白色を原告の製品の標準仕様色として用い,清潔,高精度のイメージを与えるとともに,原告の社章の色である青色をかかる白色に配して,白と青の二色を使用した原告製品の製造及び販売を行ってきた(甲6,18)。被告は,遅くとも,平成14年ころから,従来被告製品に使用していたグレーと緑の二色(甲17)を変更して,本件標章の使用とともに原告と全く同一の色彩である白と青の二色を使用し,同色彩を使用した被告製品の販売を行っている(甲18)。かかる被告による原告と同一の色彩の使用は,被告による被告標章の使用と相まって,原告と被告の誤認混同をより一層助長している。
オ なお,原告は,被告の国内における不正競争行為を問題としている。
(3) 営業上の利益の侵害 被告が被告標章を使用する行為は,原告の営業又は原告の製品の表示として需要者の間に広く認識されている本件標章にただ乗りするものであり,原告は,営業上の利益を侵害されている。
(4) 損害の発生及び数額について ア 被告の営業利益率 被告の平成14年3月期及び平成13年3月期における売上高はそれぞれ12億9000万円及び15億4400万円であり,営業利益はそれぞれ9500万円及び1220万円である(甲63)。したがって,被告における上記期間の営業利益率はそれぞれ7.36%及び7.90%であり,各年の平均営業利益率は,7.63%となる。
イ 被告製品の販売金額 平成12年2月から平成15年9月までの被告製品の販売台数総合計911台の販売金額合計は30億3507万9790円である。また,国内取引(商社経由)の海外輸出実績は平成12年2月から平成15年9月までで合計73台,販売金額は合計3億4190万3920円である(甲98)。
したがって,本件合意締結以降平成15年9月までの被告製品の販売台数は984台,販売金額は33億7698万3710円を下らない。
ウ 原告の損害 よって,本件合意締結後平成15年9月までの期間中,被告標章により被告が得た利益は,次のとおり2億5766万円を下らないので,不正競争防止法5条2項により当該金額が原告の被った損害となる。
33億7698万3710円×7.63%≒2億5766万円 [被告の主張] (1) 不正競争行為該当性について 原告の主張立証では本件標章が周知であるとは認められない。また,原告の製品は,マシニングセンタであって,被告の製品である旋盤とは逆の原理で加工物を切削する機種であり購入者が間違って購入することはないし,互いの市場において競合することもない。
(2) 損害の発生及び数額について 争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)(本件合意違反に基づく請求)について (1) 本件合意の締結の経緯 前記争いのない事実等並びに証拠(甲1,9ないし17,乙1ないし4。
特に断らない限り枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告は,イギリス,ドイツ,フランス,中国,韓国,イタリア,ベネルクス3国,南アフリカ共和国,イスラエル及びアメリカ合衆国において,別紙原告商標目録1記載の商標についての登録商標を有しており,我が国においても,平成9年,第7類(金属工作機械器具)及び第9類(電子計算機)を指定商品とする同目録2記載の商標について,設定登録を受けている(乙3)。
イ 原告は,昭和63年6月,原告が出品を予定していた米国シカゴで開催予定の国際工作機械見本市の出品予定者リストを入手したところ,被告が「Kitamura Machine Works Co.,Ltd.」や「KITAMURA」との表示を使用して被告製品の出品を予定していることを知った。そこで,原告のA弁護士は,同月20日,当時被告の米国における販売代理店であった米国イトマンの国内セールスマネージャーであるDに対し,米国イトマンから被告に米国内での被告の「KITAMURA」の名称の使用について憂慮していることを伝えてほしいこと及び被告には米国で販売する製品に他の名称を使用することを求める旨の書簡を送付した(甲9)。
米国イトマンのDは,同年6月28日,原告のA弁護士に対し,被告製品と原告製品の混同を生ずることは望むところではなく,在庫製品には,出願済みの商標である「KIMAC」を表示するラベルの張替作業中であり,「Kitamura」の名称に関心はない旨を回答した(甲10)。
原告のA弁護士は,同年7月12日,被告のB弁護士に対し,前記A弁護士と米国イトマンのD間の各書簡の写しを同封した上,被告が9月にシカゴで開催される国際工作機械見本市で「Kitamura」の名称又は商標を一切使用せず,また,同展示会以後も使用しないことの保証を書面にて要求した(甲11)。
被告のB弁護士は,原告のA弁護士からの依頼に対し,同年8月16日,被告が米国イトマンに対していかなる展示会にもまたその他の販促活動においても「KITAMURA」のマークを今後しないよう指示したとの連絡を受けたこと,被告は社名を「Kimac Co.,Ltd」への変更に乗り出しているが,その変更がいつ完了するかわからないことを伝えた(甲12,13)。
ウ 平成8年12月,国際展示会の出品予定者リストに,被告が「KITAMURA MACHINE WORKS CO.,LTD.」の名称で掲載された(甲14)。そこで,原告の当時の弁護士であったCが米国イトマンのDに対し,かかる事実を指摘し,前記昭和63年の交渉経緯を説明し,その合意に反して「Kitamura Machine Works Co.,Ltd.」の使用を続けている事実を原告が知ったことを述べるとともに,「1996年の展示ガイドで,イトマン・ユーエスエーインクは,「Kitamura Machine Works Co.,Ltd.」の名称でその製品を宣伝しておりました。当職のクライアントは,この問題が解決済みであると考えていたので,貴社が同クライアントの商標権の侵害を続けていることを知って,衝撃を受けています。この問題の速やかな解決を話し合うために,本書状の受領後5日以内に,当職にご連絡下さるようお願い致します。」との通知をした(甲15)。
結局,被告は,当該リストで出品予定とされていた製品を展示会に出品しなかった(弁論の全趣旨)。
エ 原告は,平成11年5月7日,被告がフランスで行われたヨーロッパ国際工作機械見本市において,「KITAMURA」を付した製品を展示し,そのカタログにおいて同標章及び「KITAMURA MACHINE WORKS CO.,LTD.」を,また,出品者リストに「KITAMURA MACHINE WORKS LTD」を使用している事実を確認した(甲16,17)。
そこで,原告は,被告に対し,平成11年6月7日付け通告書により,原告が「KITAMURA」なる商標についてヨーロッパ各国,米国及びアジア等の各国において商標権を取得していること,被告が「KITAMURA」なる商標を使用する行為は原告の商標権を侵害すること,よって「KITAMURA」の商標の使用行為を中止することを求めた(乙1)。
被告は,原告に対し,同年6月25日付け回答書により,被告のフランスにおける代理店デルタ・マシンが作成した標章「KITAMURA」が付された製品が掲載されたカタログは,原告の上記商標権を侵害することを認め,同社に対し「KITAMURA」が記載されているカタログの配付中止と回収措置を指示したこと,ファナック社に対してもスライド放映による宣伝活動の中止措置を申し入れたことを回答した(乙2)。
オ このようなことから,原告代理人であるE弁理士及びF弁理士(以下「E弁理士ら」という。)と,被告代理人であるG弁理士(以下「G弁理士」という。)の間で,前記の問題についての合意書を交わすべく,内容の検討が行われた。そして,E弁理士らは,G弁理士に対し,平成11年8月24日,合意書(草案)(乙4の1)を提示した。その内容は,別紙合意書(草案)記載のとおりであり,その前文,1条,2条,7条は以下の内容であった。
(ア) 前文 キタムラ機械株式会社(以下,甲という。)と,株式会社北村製作所(以下,乙という。)とは,甲の有する商標「KITAMURA」(以下,本件商標という。)の使用につき,以下のとおり合意する。
(イ) 第1条 @ 乙は,甲が本件商標の商標権を日本国及び欧米諸国において有するものであることを確認する。
A 乙は,甲の有する本件商標の商標権の有効性を争わない。
B 乙は,甲が本件商標及びこれに関連する標章について日本国内外 において登録手続を行うときはこれに協力する。 (ウ) 第2条 乙は,本件商標及びこれに類似する標章を,日本国その他一切の国及び地域において,今後一切使用しない。
(エ) 第7条 @ 乙は,理由の如何を問わず,乙の取り扱い製品について本件商標又はこれに類似する標章を使用した場合(乙の製品を販売する業者が使用した場合を含む。),甲に対して違反行為毎に違約金1000万円を支払う。
A 前項の違約金は,甲が乙に対して本件商標又はこれに類似する標章の使用の事実を通知した日から30日以内に甲の指定する方法により支払われるものとする。
カ E弁理士らは,G弁理士に対し,同年11月18日,本件合意書(再修正案)を送付した(乙4の2)。この再修正案は,上記オ記載の草案のうち,主に「商標」を「標章」に,違約金1000万円を100万円にそれぞれ修正することを含むものであった。E弁理士らは,上記再修正案について,「対象となる商標に関して『KITAMURA』のローマ字表記を単独で使用することを問題としますので,合意書修正案には,標章という表現に改めました。」旨の添え書きを付して,これをG弁理士に送付した。
そして,E弁理士らは,G弁理士に対し,同年12月27日,本件合意書(最終案)を送付し(乙4の3),結局,原告と被告は,平成12年1月31日,別紙本件合意内容記載のとおりの内容による本件合意を締結した(甲1)。本件合意の前文,1条,2条,7条は以下のとおりである。
(ア) 前文 キタムラ機械株式会社(以下,「甲」という。)と,株式会社北村製作所(以下,「乙」という。)とは,標章「KITAMURA」(以下,「本件標章」という。)につき,以下のとおり合意する。
(イ) 第1条 @ 乙は,甲が本件標章に関連する商標権を日本国及び欧米諸国において有するものであることを確認する。
A 乙は,甲の有する本件標章に関連する商標権の有効性を争わない。
(ウ) 第2条 乙は,本件標章及びこれに類似する標章を,日本国その他一切の国及び地域において,今後一切使用しない。
(エ) 第7条 @ 乙は,本合意に反して,乙の取り扱い製品について本件標章又はこれに類似する標章を使用した場合(乙の製品を販売する業者が使用した場合を含む。),甲に対して違反行為ごとに違約金100万円を支払う。
A 前項の違約金は,甲が乙に対して本件標章又はこれに類似する標章の使用の事実を通知し,乙が確認した日から30日以内に甲の指定する銀行口座に振込送金する方法により支払う。
B 本条における違約金の支払いは,甲の乙に対する損害賠償請求を妨げるものではない。
(2) 「本件標章及びこれに類似する標章」の意義 ア 前記(1)認定のとおり,本件合意書の作成段階で,E弁理士らは「対象となる商標に関して『KITAMURA』のローマ字表記を単独で使用することを問題とします」と述べて合意書(修正案)を提示し,上記修正後締結された本件合意書の前文には,「標章『KITAMURA』(以下,「本件標章」という。)につき,以下のとおり合意する」として,本件合意が締結されたものである。このような交渉経緯に照らすと,本件合意書にいう「本件標章及びこれに類似する標章」は,標章「KITAMURA」を単独で使用する場合を指すものと解するのが相当である。
イ 原告は,「KITAMURA」のみならず,「KITAMURA MACHINE WORKS CO.,LTD.」等の標章をも「本件標章及びこれに類似する標章」に含まれる旨主張する。
しかしながら,上記(1)で認定したとおり,原告は,被告に対し,当初「KITAMURA」及び「KITAMURA MACHINE WORKS CO.,LTD.」の標章の使用を問題としていたのに対し,被告は,前者については商標権侵害に当たるとしてこれを了解しその使用を中止したが,後者については,一旦は社名の変更を検討したことが窺われるものの,これをもって原告の申し出に同意したとまではいえず,社名の使用の中止を約したとまでは認められない。そして,自己の氏名を普通に用いられる方法で表示する商標には商標権の効力が及ばず(商標法26条1項1号),自己の氏名を不正の目的でなく使用等する行為が不正競争防止法2条1項1号の適用除外とされている(不正競争防止法12条1項2号)。これらの規定の趣旨や,被告の社名変更が決まらない段階で,前記の状況下で原被告間で合意したのが本件合意書であることに鑑みれば,本件合意書にいう「本件標章及びこれに類似する標章」が,「KITAMURA」を単独で使用する場合のみならず,被告の社名である株式会社北村製作所の英語表記である「KITAMURA MACHINE WORKS CO.,LTD.」をも含むという原告の主張は,採用することができない。
ウ 他方,被告は,本件合意書にいう「本件標章」は,別紙原告商標目録1,2記載の登録商標に限られると主張する。
しかしながら,当初E弁理士らが提示した合意書(草案)では「本件商標」(前文),「本件商標の商標権」(1条),「本件商標及びこれに類似する標章」(2条)とあったのが,本件合意書ではそれぞれ「本件標章」(前文),「本件標章に関連する商標権」(1条),「本件標章及びこれに類似する標章」(2条)に変更されたことは,上記(1)で認定したとおりである。当初の合意書(草案)にいう「本件商標」が原告の登録商標を指すとしても,上記変更は単なる文言の変更とはいえない上,本件合意書の前文は,「標章『KITAMURA』(以下,「本件標章」という。)につき,以下のとおり合意する。」と記載され,本件標章が何ら原告の登録商標に限られる趣旨の文言となっていないことからすると,「本件標章」は,ローマ字表記の「KITAMURA」を指すものと解すべきであり,被告の上記主張は理由がない。
(3) 被告標章と本件合意書の「本件標章及びこれに類似する標章」該当性 ア 被告標章1 被告標章1は,背景が青色で,その中に白色で右上約4分の1が欠けた円盤状の図形があり,同円盤状の欠けた右上部分に「K」の白色太字があり,「K」に続けて「N」「C」の白色太字があり,また,上記円盤状の図形の下半分に「KITAMURA」が青色で記載され,その右側に続けて「MACHINE WORKS」が白色で記載されている。そして,上記「MACHINE WORKS」の下段には赤色と白色の太さの違う二本の横線が引かれている。なお,被告標章1には,青色と白色が反転したものもある。
以上の態様によれば,被告標章1における「KITAMURA」は,「KITAMURA MACHINE WORKS」の一部をなし,かつ,他のマークとともに用いられているものであって,単独で使用されているとはいえない。
イ 被告標章2 被告標章2は,「KITAMURA」と太字で記載したものである。被告標章2は,本件標章を単独で使用するものである。
ウ 被告標章3 被告標章3は,「KITAMURA MACHINE WORKS CO.,LTD.」を横一列に記載したものである。被告標章3における「KITAMURA」は,被告の社名(株式会社北村製作所)の英語表記である「KITAMURA MACHINE WORKS CO.,LTD.」の一部をなし,単独で使用されているとはいえない。
エ 被告標章4 被告標章4は,上段に「KITAMURA MACHINE」,下段に「WORKS CO.LTD」と二段に分け,同じ大きさで記載したものである。
被告標章4における「KITAMURA」は,上記被告の社名の英語表記の一部をなし,単独で使用されているとはいえない。
オ 被告標章5 被告標章5は,上段に太字で大きく「KITAMURA」,下段にやや小さく「MACHINE WORKS CO,LTD.」と二段に分けて記載したものである。被告標章5における「KITAMURA」は,他の文字に比べ大きく記載されているものの,上記被告の社名の英語表記の一部をなし,単独で使用されているとまではいえない。
カ 被告標章6 被告標章6は,右上約4分の1が欠けた円盤状の図形があり,同円盤状の欠けた右上部分に「X」の太字があり,「X」に続けてこれと同じ大きさで「K」「N」「C」の太字があり,また,上記円盤状の図形の右下部分に小さく「XIAN」の文字が記載され,その右側に続けて「KITAMURA MACHINE WORKS」が記載されている。そして,上記「KITAMURA MACHINE WORKS」の下段には太さの違う二本の横線が引かれている。
被告標章6における「KITAMURA」は,「KITAMURA MACHINE WORKS」の一部をなし,かつ,他のマークとともに用いられ,単独で使用されているとはいえない。
キ 以上のとおり,被告標章1,3ないし6は,「KITAMURA」を単独で使用する場合には当たらないから,これらは本件合意書の「本件標章及びこれに類似する標章」に該当しない。他方,被告標章2は,上記「本件標章及びこれに類似する標章」に該当することが明らかである。
(4) 本件合意書違反の有無について ア 原告は,本件合意書8条により,本件合意書作成の日である平成12年1月31日より前の被告による本件標章及びこれに類似する標章の使用については,損害賠償等の請求を行わない旨約しており(甲1),本件でも同年2月1日以降の行為を問題として損害賠償請求をしているものである。
イ 証拠(甲4,16,17,40ないし43,乙1,2,6ないし8,16)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 従前,被告ないしその海外の販売店において,表紙に被告標章2が使用され又は掲載された製品に被告標章2が付されたカタログ(甲17,40ないし43)が印刷頒布されていたが,これらは本件合意締結前に印刷頒布されたものであること(例えば,甲16によれば,甲17は,平成11年に頒布されていたものである。)。
(イ) 被告が提出したカタログ(乙9,16)中にも,表紙に被告標章2が使用され又は掲載された製品に被告標章2が付されたものがあるが,それらが本件合意締結後に頒布されたものであることを認めるに足りない(例えば,乙9の2は,被告の郵便番号が3桁で,東京23区内の市外局番が3桁であり,昭和58年当時の資本額が記載されるなど,本件合意書締結前に印刷頒布されたものであることが明らかである。)。
(ウ) 原告は,被告に対し,本件合意の前に,「KITAMURA」の商標の使用行為を中止することを求めたのに対し(乙1),被告は,原告に対し,被告のフランスにおける代理店デルタ・マシンに「KITAMURA」が記載されているカタログの配付中止と回収措置を指示した旨回答した(乙2)。
(エ) 被告は,本件合意書締結後は,被告標章2のように「KITAMURA」を単独で使用することはせず,会社名(被告標章3,4)やマーク入りの「KNC」(被告標章1)を使用しており,また,カタログについても,本件合意締結後は「KITAMURA」からマーク入りの「KNC」に切り替えている。
(オ) 原告が,本件訴訟提起に当たり当初被告に対し通告した内容も,会社名(被告標章3,4)やマーク入りの「KNC」(被告標章1)の使用を問題としており,被告標章2を問題とするようになったのは,被告から乙9の2が提出された後である平成15年9月10日付請求の趣旨変更申立書においてである。
そして,本件合意締結後に被告が被告標章2を付した製品を製造販売したことを認めるに足りる証拠はない。また,本件合意締結後に被告が被告標章2が使用されたカタログを印刷頒布した事実を認めるに足りる証拠もない。
ウ よって,被告が本件合意締結後に本件合意書2条に違反する行為を行ったことを認めるに足りない。
(5) 小括 以上により,本件合意書違反を主張する原告の主張は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
2 争点(2)(不正競争防止法に基づく請求)について (1) 周知性 ア 証拠(甲6,7,26,30,44ないし46,85ないし95,99,100)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告は,昭和8年に創業し,昭和22年12月26日に「有限会社北村鉄工」の商号で設立されたマシニングセンタ等の工作機械の製造,販売等を目的とする会社である。昭和34年に「北村鉄工株式会社」に組織変更し,昭和48年に現在の「キタムラ機械株式会社」に社名変更し,英語表記は「KITAMURA MACHINERY」を使用している。富山県高岡市に本社があり,東京都港区に東京営業所,大阪府淀川区に大阪営業所,名古屋市守山区に名古屋テクニカルセンター,北九州市八幡東区に九州テクニカルセンターを有する。また,平成12年当時で資本金は3億3000万円で,従業員は230人であり,過去に科学技術庁長官奨励賞その他多くの受賞をしている(甲6,7,45,46,弁論の全趣旨)。
(イ) 原告の販売実績について 原告の製造したマシニングセンタ(以下「原告製品」という。)の昭和55年から平成14年12月31日までの国内売上台数は合計1545台,国内売上高は合計168億8427万円である。原告製品には,別紙原告商標目録3記載の態様の「KITAMURA」(以下「原告使用標章」という。)が印字されている。原告製品の単価は機種によって異なり,約20万円のものから約5700万円のものまである。このうち,原告製品の国内販売金額及び国内販売市場シェアは,以下のとおりであり,平成10年から平成14年までの平均値は,約2.3%であり,国内販売市場シェアの工作機械業界ランキング表によれば,原告はマシニングセンタ業界全37社のうち,上位15位内,平成12年度は8位に位置する(甲7,26,30,44ないし46,85ないし89,100)。
(国内販売金額) (国内販売市場シェア) 平成10年 13億7902万7000円 1.2% 平成11年 15億0066万8000円 1.7% 平成12年 38億6689万1000円 3.8% 平成13年 18億4171万6000円 2.2% 平成14年 15億8548万9400円 3.8% (ウ) 雑誌等への広告の掲載及び展示会への出品 「機械と工具」平成13年12月号には,原告製品の広告が掲載され,その左上部に原告使用標章が使用されているとともに,そこに2台のマシニングセンタの写真が掲載され,同機械の右上には原告使用標章が使用されている(甲90)。また,「生産財マーケティング」平成11年10月号にも原告製品の広告が掲載され,そこには2台のマシニングセンタの写真が掲載され,同機械の右下部にはそれぞれ上記原告使用標章が使用されている(甲91)。
原告は,国内における多数の製品見本市,展示会に原告製品を出品し,原告の国内における展示会及び広告宣伝費は,平成10年度は約6000万円,平成11年度は約5000万円,平成12年度は約1億円にも上る(甲92,100)。
さらに,原告は,平成10年6月,平成12年8月,平成14年11月に宣伝用ビニールバッグを各3万個発注し,原告製品の展示会に訪れたユーザ等工作機械業界関係者に対して配布した。上記ビニールバッグには,原告使用標章が原告の社章とともに印字されており,その費用に381万円を要した(甲93,94)。
(エ) カタログの配布 原告は,原告使用標章を付したカタログ及びパンフレットを平成11年度には約12万部(作成費用約1000万円),平成12年度には約15万部(作成費用約1500万円)を作成し,ユーザー等に配布している(甲45,99)。
(オ) 新聞記事の原告製品の紹介 日本経済新聞(平成10年5月19日付け,同年7月9日付け),日経産業新聞(平成11年5月26日付け),日刊工業新聞(平成10年9月2日付け,平成12年10月17日付け,平成13年4月26日付け,平成14年4月25日付け,同年5月27日付け,同年6月10日付け,同年7月5日付け,同年8月23日付け,同年10月2日付け)には,原告及び原告製品の紹介記事とともに原告使用標章を付した原告製品の写真が掲載されている(甲95)。
イ 以上認定の原告製品の販売実績や,原告製品の広告宣伝の状況等に照らし,原告使用標章は,遅くとも平成12年までには,工作機械関係者等の間で原告を示すものとして一定の周知性を獲得したものということができる。
(2) 類似性 原告使用標章と被告の商品等表示が不正競争防止法2条1項1号所定の他人の商品等表示と類似のものに当たるか否かについては,取引の実情の下において,取引者,需要者が,両者の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断すべきである(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁参照)。
ア 被告標章1について 被告標章1は,背景が青色で,その中に白色で右上約4分の1が欠けた円盤状の図形があり,同円盤状の欠けた右上部分に「K」の白色太字があり,「K」に続けて「N」「C」の白色太字があり,また,上記円盤状の図形の下半分に「KITAMURA」が青色で記載され,その右側に続けて「MACHINE WORKS」が白色で記載されていること,上記「MACHINE WORKS」の下段には赤色と白色の太さの違う二本の横線が引かれていることは,前記1(3)ア認定のとおりである。そして,被告標章1のうち「KITAMURA」は被告の社名である「KITAMURA MACHINE WORKS」の一部となっているのに対し,「KNC」は文字が大きく外観上目立っている。もっとも,「KITAMURA」の部分は他の部分と異なり青字で記載されているが,その印象の強さは上記「KNC」を凌駕するものということはできないから,外観は類似しない。
また,原告使用標章の称呼は「キタムラ」であり,被告標章1の称呼は「ケーエヌシー」又は「ケーエヌシーキタムラマシンワークス」であって,称呼も異なる。さらに,観念も類似とはいえない。
なお,被告は,平成14年8月8日,商標「KNC」について指定役務第7類(圧穿機,形削り盤,金切りのこぎり盤,研削盤等)として商標出願し,平成15年4月18日設定登録(登録第4665125号)を受け(乙5),平成15年5月20日,被告標章1について指定商品を第7類(圧穿機,形削り盤,金切りのこぎり盤,研削盤等)として商標出願し,同年10月17日設定登録(登録第4719095号)を受けた(乙19,20)。
以上を総合すると,被告標章1は,原告使用標章に類似するということはできない。
イ 被告標章2について 被告標章2は,「KITAMURA」と太字で記載されたものである。
被告標章2は,原告使用標章と書体においてやや異なるものの,外観は類似し,称呼及び観念において同一である。よって,被告標章2は,原告使用標章に類似する。
ウ 被告標章3,4について 被告標章3は,「KITAMURA MACHINE WORKS CO.,LTD.」を横一列に同じ大きさの文字で記載したものであり,被告標章4はこれを上下2段に同じ大きさの文字で記載したものであることは,前記1(3)ウ,エ認定のとおりである。
被告標章3,4は,被告の社名である株式会社北村製作所の英語表記であり,「KITAMURA」の部分のみが独立して認識されることはないと解される。原告使用標章と被告標章3,4とを対比すると,原告使用標章の称呼は「キタムラ」であるのに対し,被告標章3,4の称呼は「キタムラマシンワークス」ないし「キタムラマシンワークスコーポレイションリミテッド」であり,称呼は異なる。観念においても,後者からは「北村製作所」という被告の社名が連想されるのであるから,前者とは異なる。外観においても,類似しているということはできない。
なお,「KITAMURA MACHINE WORKS CO.,LTD.」は,被告の社名である株式会社北村製作所の英語表記であり,不正競争防止法12条1項2号が自己の氏名を不正の目的でなく使用等する行為を同法2条1項1号の適用除外としていることに照らしても,被告標章3,4の使用により,同法4条の損害賠償請求権は発生しない。
エ 被告標章5について 被告標章5は,上段に太字で大きく「KITAMURA」,下段にやや小さく「MACHINE WORKS CO,LTD.」と二段に分けて記載したものであることは,前記1(3)オ認定のとおりである。被告標章5における「KITAMURA」は,上記被告の社名の英語表記の一部をなしてはいるものの,他の文字に比べ大きく記載されているため,この部分が要部となり得る。そうすると,被告標章5から,社名として一連の称呼観念を生じるのみならず,「キタムラ」の称呼観念をも生じる余地があり,原告使用標章と全体的に類似のものとして受け取られるおそれがあるから,両者は類似する。
オ 被告標章6について 被告標章6は,右上約4分の1が欠けた円盤状の図形があり,同円盤状の欠けた右上部分に「X」の太字があり,「X」に続けてこれと同じ大きさで「K」「N」「C」の太字があり,また,上記円盤状の図形の右下部分に小さく「XIAN」の文字が記載され,その右側に続けて「KITAMURA MACHINE WORKS」が記載されていること,上記「KITAMURA MACHINE WORKS」の下段には太さの違う二本の横線が引かれていることは,前記1(3)カ認定のとおりである。
被告標章6における「KITAMURA」は,被告の社名を表す「KITAMURA MACHINE WORKS」の一部をなし,「XKNC」の文字が大きく外観上目立っているので,外観上,原告使用標章と被告標章6とは類似するとはいえない。また,観念及び称呼も類似とはいえない。
カ 小括 以上のとおり,被告標章2及び5は,原告使用標章に類似し,その余の被告標章は類似しない。
(3) 被告の行為について 原告は,平成12年2月以降の被告製品の販売を不正競争による損害として主張するが,被告が本件合意書作成の日より後に,国内において被告標章2を使用し,又はこれを使用した製品を譲渡するなどの行為をしたことを認めるに足りないことは,前記1(4)認定のとおりである。また,被告が本件合意書作成の日より後に,国内において被告標章5を使用し,又はこれを使用した製品を譲渡するなどの行為をしたことを認めるに足りない。
(4) 小括 以上により,不正競争防止法に基づく請求も理由がない。
3 結論 よって,その余の争点について判断するまでもなく,本件合意に基づく請求 及び不正競争防止法に基づく原告の請求は,いずれも理由がない。
裁判長裁判官 高部眞規子