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審判1984-7331
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審判1990-8772
審判1987-22512
審判1999-7457 不服2000-498 審判1994-11833
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成18行ケ10279審決取消請求事件 判例 商標
平成19行ケ10090審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  識別機能 /  指定商品 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項11号 /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  警告 /  類似商標 /  非類似 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 316号 審決取消請求事件
原告 株式会社技術トランスフアーサービス
訴訟代理人弁理士 秋山敦
同 城田百合子
同 丹下園美
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 高橋厚子
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/12/26
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2000-498号事件について平成15年5月30日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成10年7月31日,「パテントマップくん」の文字を標準文字により横書き一連に書してなり,指定商品を第9類「理化学機械器具,測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,眼鏡,加工ガラス(建築用のものを除く。),救命用具,電気通信機械器具,レコード,メトロノーム,電子応用機械器具及びその部品,オゾン発生器,電解槽,ロケット,遊園地用機械器具,スロットマシン,運動技能訓練用シミュレーター,乗物運転技能訓練用シミュレーター,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気ブザー,乗物の故障の警告用の三角標識,発光式又は機械式の道路標識,鉄道用信号機,火災報知器,ガス漏れ警報器,盗難警報器,事故防護用手袋,消火器,消火栓,消火ホース用ノズル,スプリンクラー消火装置,消防艇,消防車,自動車用シガーライター,保安用ヘルメット,防火被服,防じんマスク,防毒マスク,溶接マスク,磁心,抵抗線,電極,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,ガソリンステーション用装置,自動販売機,駐車場用硬貨作動式ゲート,金銭登録機,硬貨の計数用又は選別用の機械,作業記録機,写真複写機,手動計算機,製図用又は図案用の機械器具,タイムスタンプ,タイムレコーダー,電気計算機,パンチカードシステム機械,票数計算機,ビリングマシン,郵便切手のはり付けチエック装置,計算尺,ウエイトベルト,ウエットスーツ,浮袋,エアタンク,水泳用浮き板,レギュレーター,潜水用機械器具,アーク溶接機,金属溶断機,電気溶接装置,家庭用テレビゲームおもちゃ,検卵器,電動式扉自動開閉装置」とする商標(以下「本願商標」という。)について,商標登録出願(商願平10-64906号)をしたが,平成11年12月1日に拒絶の査定を受けたので,平成12年1月14日,これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は,同請求を不服2000-498号事件として審理した上,平成15年5月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年6月20日,原告に送達された。
2 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願商標は,引用商標,すなわち,「パテントマップ」の片仮名文字と「PATENT MAP」の欧文字を二段に横書きしてなり,指定商品を第9類「コンピュータ用プログラムを記憶させた電子回路・同磁気テープ・同磁気カード・同磁気ディスク・同光ディスク」及び16類「雑誌,書籍,新聞」とする商標登録第4251185号商標(平成9年11月7日登録出願,平成11年3月19日設定登録)と「パテントマップ」の称呼を共通にする類似の商標であり,かつ,本願商標の指定商品は,引用商標の指定商品と同一又は類似の商品を含むものであるから,本願商標は,商標法4条1項11号に該当するとした。
原告主張の審決取消事由
1 審決は,本願商標と引用商標の類否判断を誤った(取消事由)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(本願商標と引用商標の類否判断の誤り) (1) 審決は,「本願商標は,その構成文字全体に相応して『パテントマップクン』の称呼を生ずるほか,前半の『パテントマップ』の文字部分に相応して『パテントマップ』の称呼をも生ずる」,「他方,引用商標は,前記構成よりなるものであるから,その構成文字に相応して『パテントマップ』の称呼を生ずる」として,「本願商標は,引用商標と『パテントマップ』の称呼を共通にする類似の商標といわざるを得ない」(審決謄本2頁の3の第2〜第4段落)と判断したが,誤りである。
(2) 本願商標は,以下のとおり,全体を一つの商標として把握し,一連一体不可分のものとして認識されるべきものであるから,引用商標と非類似の商標である。
まず,外観について,審決は,「本願商標は,前記のとおり,『パテントマップくん』の文字よりなるところ,構成中前半の『パテントマップ』の文字部分が片仮名文字で書され,後半の『くん』の文字部分が平仮名で書されていることから,視覚上分離して看取され,『パテントマップ』の文字に『くん』の文字を付したという印象を与えるものである」(同第1段落)と判断したが,本願商標は,片仮名7文字と平仮名2文字の「パテントマップくん」の文字を横書き一連に書してなるものであり,全体で9文字と,それ自体分離しなければならないほど長い文字数のものではなく,構成文字の書体も標準文字により同一の間隔で配列されており,前半の「パテントマップ」の文字と後半の「くん」の文字の間にスペースを有するものでもないから,全体がまとまりよく一体不可分のものとして認識される。
次に,観念について見ると,「パテント」の語は特許・特許権を,「マップ」の語は地図を意味し,「○○マップ」の語は「多くの複合語を作る語」であって,「パテントマップ」は特許地図の意味を持つ一連一体としての語であり,一つの意味を持つものとして認識されているが,本願商標は,「パテント」「マップ」「くん」の各個別の語句を区切って形成されたものではなく,上記のとおり一つの概念である「パテントマップ」に対する愛称として擬人化した「くん」が一連一体として構成され,「パテントマップ」とは異なる「パテントマップくん」という一つの造語として認識される。
さらに,称呼について,審決は,「これに接する取引者・需要者は,『くん』の文字部分を省略し,それ自体が自他商品の識別標識として看者の注意を強く引く前半の『パテントマップ』の文字部分のみを捉え,これより生ずる称呼をもって取引に当たる場合も決して少なくない」(同第1段落)と判断したが,本願商標は,上記のとおり,一連一体とした標準文字で構成されており,「パテントマップクン」と称呼しても格別冗長であるとはいえず,語呂よくよどみなく一連に称呼することができるものであって,「パテントマップクン」の称呼のみが生ずると見るのが自然であり,これを分離して「パテントマップ」と「クン」という称呼が個別に生ずるとするのは,本願商標の構成からして,不自然な分離判断といわざるを得ない。
(3) 実際の取引においても,本願商標の「パテントマップくん」は,引用商標の「パテントマップ」とは異なるものとして明確に識別され,特定の商品を示す単独の商標として十分に自他商品識別機能を果たしているから,両者が商品出所の誤認混同を生ずるおそれはないのであり,両商標の類否判断に当たっては,このような取引の実情が考慮されるべきである。すなわち,特許庁のホームページの「特許情報提供事業者リスト集」「5.パテントマップ作成サービス」(甲14)中において,原告は「手間をかけずにマップを作成できるソフト『パテントマップくん』も販売致しております」と,中央光学出版株式会社は「お手軽にパテントマップが作成できるソフトウエア『TECRES』と『パテントマップくん』を販売しております」と,日本アイアール株式会社は「その他パソコンでパテントマップを作成する専用ソフト『パテントマップくん』の販売も行っております」と表示して,いずれも「パテントマップ」とは別に括弧書きで「パテントマップくん」を使用しているのに対し,他の情報提供業者は,この商品表示を使用していない。また,知的財産に関連する者を需要者として想定した記事や広告(甲15〜19)などにも,「パテントマップくん」が「パテントマップ」と識別,区別された独立の商標として使用されている。
(4) 本願商標及び引用商標の指定商品と同一又は類似の「電子応用機械器具及びその部品」の分野において,対比される商標の構成中に同一の文字を含むものであっても,「くん」の文字の有無により別異の商標として登録されているものとしては,「メンテ」に関する「メンテ」と「メンテくん」,「投資」に関する「投資ゲーム」と「投資くん」,」「ワイヤレス」に関する「ワイヤレス/ファックス/キャリヤピジョン」「Mr.ワイヤレス」「WIRELES STALK/ワイヤレス トーク」と「ワイヤレスくん」がある。また,文字の種類が異なるにもかかわらず,「くん」や「ちゃん」の語の有無により,非類似の商標として登録すべきものとした審決例として,「タイトル」を引用例とする「タイトルくん」(昭和62年審判第22512号,甲20),「ジャンボー/JUMBO-」を引用例とする「ジャンボくん」(平成4年審判第22754号,甲21),「ゴロチャン/五郎ちゃん/ごろちゃん/GOROCHAN」を引用例とする「ゴロ」(昭和53年審判第9097号,第9098号,甲22),「チャレンジ」を引用例とする「チャレンジくん」(昭和59年審判第7331号,甲23),「ピコ」を引用例とする「ピコちゃん」(昭和61年審判第6184号,甲24),「エルちゃん」を引用例とする「ELLE」(平成2年審判第8772号,甲25),「コロッケ」を引用例とする「コロッケくん」(平成6年審判第11833号,甲26),「DRUM/ドラム」を引用例とする「ドラムくん/ドラム君」(平成11年審判第7457号,甲27)などがあり,審決に至らずに非類似商標として登録され,その商標権が現に併存し,あるいは過去に併存した例としては,「フロントくん」と「FRONT」,「リサイクルくん」と「RECYCLE」,「チャージくん」と「チャージ」「チャージ/Charge」「CHARGE」などがある。
被告の反論
1 審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(本願商標と引用商標の類否判断の誤り)について (1) 一般に,簡易迅速を尊ぶ取引の実際においては,取引の目印となる商標を構成する文字,図形の各部分又はその総括した全体を通じて最も印象の強い部分をもって商品の出所を識別することが少なくない。商標は,その採択者の意図にかかわらず,常にその構成部分全体の名称によって称呼,観念されるとは限らず,当該商標の各構成部分がそれぞれ分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとは認められない場合には,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,一個の商標から二つ以上の称呼,観念が生ずる。本願商標は,「パテントマップ」の片仮名文字と「くん」の平仮名文字という,文字の種類を異にするものの結合からなる商標であり,「特許の地図」の意味合いを想起させる「パテントマップ」の語に,擬人化して愛称的に表現する「くん」を付したものと認識し,かつ,「パテントマップ」の語に「くん」を付したことによって,別異の観念を想起させるともいえず,前者が要部の語であるから,全体の称呼が9音で冗長にわたることも考慮すると,「パテントマップ」の文字部分と「くん」の文字部分とは,それらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとは認められない。したがって,本願商標は,「パテントマップ」の称呼及び「特許の地図」の観念を生じ,引用商標とは称呼及び観念を共通にする類似の商標というべきである。
(2) 「くん」の文字は,「尊敬すべき目上の人などに付けて呼ぶ語。同輩や同輩以下の人の氏名の下に添える語」(広辞苑第五版)であるばかりでなく,事物に対して愛称的に呼ぶ場合も用いられる語であって,例えば,身近な商品や子供向け商品を擬人化し,愛称的にその名称を付す場合にも用いられるものである。原告は,「くん」の語を含む商標の審決例及び登録例を挙げ,これらが別異に登録されている以上は,本願商標も同様に登録されるべきである旨主張するが,構成する文字数や称呼の長さ,対比する商標中の「くん」を除いた文字が一致しない商標や,「くん」を含まない商標との併存例であり,本件とは事案を異にするばかりでなく,本願商標の登録の適否は,本来,引用商標との類否判断をもって決せられるべき事柄であるから,他の審決例及び登録例の判断事例を本件に画一的に当てはめることはできない。
当裁判所の判断
1 取消事由(本願商標と引用商標の類否判断の誤り)について (1) 本願商標は,「パテントマップくん」の文字を標準文字により横書き一連に書してなり,片仮名文字で表された「パテントマップ」に平仮名文字で表された「くん」を付加した構成からなるものと認識される。一方,引用商標は,商標公報(甲3)のとおり,「パテントマップ」の片仮名文字と「PATENT MAP」の欧文字を太字体で二段に横書きしてなるものであり,その構成文字に相応して「パテントマップ」の称呼を生ずるものと認められる。
両商標の構成文字中,「パテント」「PATENT」の語が「特許」ないし「特許権」を,「マップ」「MAP」の語が「地図」を意味するものであることは一般に容易に理解されるところであり,また,「マップ」の語は,平成6年9月10日三省堂初版発行「コンサイスカタカナ語辞典」(甲4)にあるとおり,「ドライブマップ」,「ロードマップ」など「○○マップ」のような複合語を作る際にしばしば用いられることが広く知られている。さらに,「くん」の語は,岩波書店発行「広辞苑第五版」(甲5)に「尊敬すべき目上の人などに付けて呼ぶ語。同輩や同輩以下の人の氏名の下に添える語。主に男性に用いる」とあるように,人の氏名の下に添えて親しみや敬意を表す愛称や敬称としての通常の用例のほかに,例えば,魚肉加工品の「甘タラくん」(乙1-3),魚介乾製品の「短足くん」(乙1-4),電球型蛍光灯の「ぴかいちくん」(乙1-8),デジタルカメラの「でじかめくん」(乙1-9)など,身近な商品や子供向けの商品などを擬人化し,親しみや可愛らしさなどを表した事物の愛称としての用例のあることも,広く知られているものと認められるが,一般に,商標の構成部分中にこうした愛称や敬称の類が使用されている場合に,当該部分は,独立した一語としての機能を有しない接尾語として,識別力を欠くか又は希薄であることが明らかである。
そうすると,本願商標の指定商品に係る取引者,需要者がこれに接するときは,その構成中,「パテントマップ」の文字部分に最も注意を引かれ,これが「特許の地図」ないし「特許権の地図」を意味するものと理解すると見るのが自然であるから,本願商標の構成部分中の中心的な自他商品識別力を有する要部は,上記文字部分であって,「パテントマップ」の称呼を生じ,本願商標は,要部において,引用商標と称呼及び観念を共通にするというべきである。さらに,両商標を全体的に観察しても,本願商標の構成文字全体に相応する「パテントマップクン」9音の称呼中7音が引用商標と同一であって,相紛らわしく,互いに聴き誤るおそれがあり,称呼において類似し,また,「パテントマップ」の語に「くん」を付加したことによって,別異の観念を想起させるとはいえないし,外観上の差異も,引用商標の上段部分については本願商標の構成文字中末尾の「くん」の2文字の有無にすぎず,同下段部分の相違を考慮しても,要部における上記共通性をしのぐほどの特段の差異を取引者,需要者に印象付けるものではない。
(2) 原告は,本願商標は,全体を一つの商標として把握し,「パテントマップ」とは異なる「パテントマップくん」という一つの造語として一連一体不可分のものとして認識されるのであり,これを分離して「パテントマップ」と「クン」という称呼が個別に生ずるとするのは,本願商標の構成からして,不自然な分離判断といわざるを得ず,本願商標からは「パテントマップクン」の称呼のみが生ずると主張する。
確かに,本願商標は,全体の構成文字が9文字で,その書体も標準文字により同一の間隔で配列されており,前半の「パテントマップ」の文字と後半の「くん」の文字の間にスペースやハイフンがあるわけでもないから,全体がまとまりよく認識されることは,原告の主張するとおりであるが,本願商標は,片仮名文字で表された「パテントマップ」に平仮名文字で表された「くん」が付加した構成からなるところ,前者は「特許の地図」ないし「特許権の地図」を意味するものと理解するのが自然であり,後者はその愛称であって,識別力を欠くか又は希薄であり,前者が本願商標の構成中の中心的な自他商品識別力を有する要部であると認められることは,上記のとおりである。そうすると,「パテントマップ」の語が一つの造語であるとしても,これに付加結合された「くん」の愛称を「パテントマップ」の文字部分から分離して観察することが取引上不自然と考えられるほど不可分的に結合しているとはいえないから,原告が主張するように,本願商標の「パテントマップくん」の構成が,「パテントマップ」とは異なる一連一体不可分の一つの造語として認識されるとか,本願商標からは「パテントマップクン」の称呼のみが生ずるということはできず,前示のとおり,要部の文字部分に相応して「パテントマップ」の称呼をも生ずるというべきである。したがって,原告の上記主張は失当である。
(3) 商標の類否は,同一又は類似の商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,当該商品の取引の実情を明らかにし得る限り,これも参酌して判断すべきところ,原告は,実際の取引においても,本願商標の「パテントマップくん」は,引用商標の「パテントマップ」とは異なるものとして明確に識別され,特定の商品を示す単独の商標として十分に自他商品識別機能を果たしているから,両者が商品出所の誤認混同を生ずるおそれはないとして,両商標の類否判断に当たっては,このような取引の実情が考慮されるべきであると主張する。
証拠(甲14〜19)によれば,@ 原告は,平成10年4月16日付け及び平成11年4月15日付けの日刊工業新聞紙上に,自社製品の特許情報解析ソフト「パテントマップくん」の販売宣伝広告を掲載したこと,A 平成12年9月20日日本知的財産協会発行「知財管理9(50巻9号)」の「市販特許マップソフトの機能比較」という記事,平成13年2月28日ダイヤモンド社発行「パテントマップ超入門2001年版」及び同年6月25日日本知的財産協会研修部発行「特許情報(活用法)2001年度C9Bコーステキスト」中には,原告の製作販売に係る特許マップソフト「パテントマップくん」が同業他社製品とともに紹介されていること,B 特許庁のホームページの「特許情報提供事業者リスト集」,「5.パテントマップ作成サービス」[更新日 平成15年11月18日]」には,42社の特許情報提供事業者のサービス内容が各事業者から提供された情報に基づいて掲載されており,その中で,原告は「手間をかけずにマップを作成できるソフト『パテントマップくん』も販売致しております」と,原告の代理店である中央光学出版株式会社は「お手軽にパテントマップが作成できるソフトウエア『TECRES』と『パテントマップくん』を販売しております」と,同じく日本アイアール株式会社は「その他パソコンでパテントマップを作成する専用ソフト『パテントマップくん』の販売も行っております」と表示していることが認められる。
しかしながら,商標の類否判断において参酌されるべき取引の実情とは,その指定商品全般についての一般的,恒常的な取引事情であるから(最高裁昭和49年4月25日第一小法廷判決・取消集〔昭和49年〕443頁参照),指定商品の一部について当該商標が現在使用されている具体的な使用態様などの個別的,一時的な事情は,対比される両商標が商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かの判断要素として重視することは必ずしも相当ではない。本件について見ると,上記認定事実によっても,原告及びその代理店の業務に係る特許情報解析ソフトないし特許マップソフト「パテントマップくん」は,本願商標の指定商品中の「電子応用機械器具及びその部品」に含まれること,本願商標ないしこれと社会通念上同一と認められる商標が,審決時において,上記商品に係る商品表示ないし商標として使用され,同商品が専門雑誌等にも紹介されていることを認め得るにとどまるのであって,それだけでは,本願商標の広範な指定商品全般について,一般的,恒常的に本願商標の「パテントマップくん」が使用され,引用商標の「パテントマップ」とは異なるものとして明確に識別され,特定の商品を示す単独の商標として自他商品識別機能を果たしているということができないことは当然である。そうとすれば,本願商標と引用商標が上記のとおりその要部において称呼及び観念を共通にすると認められる本件においては,上記認定事実があるからといって,両商標が同一又は類似の指定商品に使用された場合に,その取引者,需要者において商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがないと認めるに足りず,他に,商品出所の誤認混同を生ずるおそれがないといえるような事情を認めるに足りる証拠もないから,原告の上記主張は採用の限りではない。
(4) さらに,原告は,本願商標及び引用商標の指定商品と同一又は類似の「電子応用機械器具及びその部品」の分野において,対比される商標の構成中に同一の文字を含むものであっても,「くん」の文字の有無により別異の商標として登録されているものがあり,また,文字の種類が異なるにもかかわらず,「くん」の語の有無により非類似の商標として登録すべきものとした審決例及び登録例があるとして,その具体例をるる指摘し,本願商標も同様に登録されるべきである旨主張するが,本願商標の商標法4条1項11号該当性は,本件における引用商標との類否判断により決せられるべきものであって,対比される商標の具体的な構成等を異にする他の審決例や登録例は,以上の判断を左右するものではないから,原告の上記主張は採用することができない。
(5) 以上に検討したところを総合すれば,本願商標と引用商標が同一又は類似の指定商品に使用された場合に,その取引者,需要者において商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるといわなければならず,本願商標は,引用商標に類似する商標というべきであって,これが商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断に誤りがあるとはいえない。
2 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 早田尚貴