運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ネ1035商標権侵害差止等請求控訴事件 判例 商標
平成17ワ5588商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
平成17ワ25426損害賠償請求事件 判例 商標
平成18ワ1337商標権侵害差止請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  品質保証機能 /  質保証機能 /  指定商品 /  周知商標 /  周知性 /  損害額 /  逸失利益 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  国内 /  差止 /  継続 /  非類似 /  ハウスマーク /  商号 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 14年 (ワ) 2878号 商標権侵害差止等請求事件
原告 株式会社ワールド
訴訟代理人弁護士 田中克郎
同 宮川 美津子
同 中村勝彦
同 山本 麻記子
同 荻野敦史
被告 ノダコーポレーション株式会社
訴訟代理人弁護士 平尾正樹
同 勝又祐一
補佐人弁理士 佐藤辰彦
同 鷺健志
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/06/30
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,原告に対し,金287万2976円及びこれに対する平成14年3月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決の第1項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
被告は原告に対し,金1200万円及びこれに対する平成14年3月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,原告が被告に対し,商標権侵害又は不正競争防止法違反を理由とする損害賠償を求めた事案である。
1 争いのない事実 (1) 当事者 原告は,高級婦人・紳士・子供服の企画・販売等を業とする株式会社である。
被告は,衣料品の販売等を業とする株式会社である。
(2) 原告の有する商標権 原告は,次の各商標権(以下,順次「本件商標権1」,「本件商標権2」といい,両者を併せて「本件商標権」という。また,各登録商標を順次「本件商標1」,「本件商標2」といい,両者を併せて「本件商標」という。)を有する。
ア 登録番号 第964540号 登録年月日 昭和47年5月24日 登録商標 「ジオ/GIO」(別紙商標目録1のとおり) 商品の区分 旧第17類 指定商品 被服,布製見回品,寝具類 イ 登録番号 第1631586号 登録年月日 昭和58年11月25日 登録商標 「GIOSPORT」(別紙商標目録2のとおり) 商品の区分 旧第17類 指定商品 被服(運動用特殊被服を除く),布製見回品(他の類に属するものを除く),寝具類(寝台を除く) (3) 被告の行為 被告は,平成13年3月から同年6月までの間,大阪市此花区所在のユニバーサル・シティウォーク大阪4階にある店舗(以下「本件店舗」という。)において,別紙被告標章目録1ないし5記載の標章(以下,順次「被告標章1」,「被告標章2」などといい,これらを併せて「被告標章」と総称する。)を付したティーシャツ,ジャケット,ズボン,帽子(以下,被告標章の付された商品を「被告商品」という場合がある。)を販売した(ただし,各標章の具体的な使用態様については,後記のとおり争いがある。)。
争点に関する当事者の主張
1 被告標章は,本件商標に類似するか。
(原告の主張) (1) 被告標章1について 被告商品1の中央には,「GIO」の文字が,白地に赤色で大きく記載されている。その上下に「PROPERTY OF」と「ATHLETICS」の文字が,白色でやや小さく記載されている。需要者には「GIO」の部分のみが独立して認識されることは明らかであるから,その態様に照らして,被告標章1が使用されていると解すべきである。
被告標章1は,本件商標1と実質的に同一である。両者は,カタカナ表記の「ジオ」の有無の差異があるが,アルファベットの「GIO」の部分が共通である。また,需要者が「GIO」から「ジオ」という呼び方を想起するから,本件商標1と被告標章1の称呼は同一である。
したがって,被告標章1は本件商標1に類似する。
(2) 被告標章2について 被告標章2は,「GIO」の文字が大きく,その左右に「EST.」「1981」の文字が小さく,それぞれ記載されている。「GIO」部分が殊更に強調されていること,後記2(1)のとおり,「GIO」は原告の商品表示として周知著名であること,前後に小さく配置されている「EST.」「1981」は識別力が極めて弱いこと等を総合的に考慮すると,被告標章2の要部が「GIO」であることは明らかである。
したがって,被告標章2は,本件商標1と要部において外観及び称呼が同一であるから,本件商標1に類似する。
(3) 被告標章3について 被告標章3は,「GIO」「ATHLETIC」が組み合わされて記載されている。「ATHLETIC」は一般名詞であり,識別力が極めて弱いこと,後記2(1)のとおり,「GIO」は原告の商品表示として周知著名であること等を総合的に考慮するならば,被告標章3の要部が「GIO」であることは明らかである。
したがって,被告標章3は,本件商標1と要部において外観及び称呼が同一であるから,本件商標1に類似する。
(4) 被告標章4,同5について 被告標章4,同5は,「GIO」と「JEANS CO.」又は「JEANS Co.」が組み合わせて記載されている。「JEANS」は,カジュアル衣料の代表的なジーンズ生地(デニム生地)を用いたズボンや服を意味する一般名詞であり,識別力に欠ける。また,商号の一部として通常使用される「CO.」「Co.」も識別力に欠けることに照らすならば,被告標章4,同5の要部は,いずれも「GIO」である。
したがって,被告標章4,同5は,本件商標1と要部において外観及び称呼が同一であるから,本件商標1に類似する。
(被告の反論) (1) 被告標章1について 別紙写真の被告商品1のとおり,「PROPERTY OF」「GIO」「ATHLETICS」と3段に表記されている。「GIO」が「ATHLETICS」と分離して表記されているが,被告においては,一連の「GIO ATHLETIC」商品とともに販売されているから,他の「GIO ATHLETIC」商標と同様に,被告標章1からは,「ジオアスレチック」の称呼,観念を生ずる。
また,「GIO」の文字を含む多数の商標が登録され,本件商標とこれらの商標が区別されて取引に供されているという事情がある。さらに,@被告商品の出所であるGiordanoが東南アジアの著名企業,著名標章であって,日本における旅行雑誌等による宣伝,インターネットの普及により,日本でも知る者が多いこと,A被告商品が「Giordano」の看板の掲げられた統一したイメージの「Giordano」店舗で販売されており,「Giordano」の刺繍の入ったタッグや「Giordano」と明記した定価表が付され,「Giordano」と記載された領収書が交付されていて,本件商標とは関連性がないと理解されていること,B原告商品と被告商品とでは,商標の付される部位・価格・需要層・販売方法に差異があること,C本件商標がハウスマークではないこと等の諸事情を総合すると,被告標章1と本件商標1とは,外観,称呼,観念のいずれにおいても類似せず,出所混同のおそれはない。
したがって,被告標章1は本件商標1に類似しない。
(2) 被告標章2について 被告標章2は,「GIO」の文字のみが大きく表示されているが,「EST」「1981」の文字も記載されていることから,需要者は,旅行雑誌やインターネット等で有名なGiordanoを連想するため,被告標章2からは「ジョルダーノ」又は「ジョルダーノのジオ」の称呼,観念を生ずることになる。また,「GIO」の文字を含む多数の商標が登録されており,本件商標とこれらの商標が区別されて取引に供されているという事情がある。さらに,前記(1)の@ないしC等の諸事情を総合すると,被告標章2と本件商標1とは,外観,称呼,観念のいずれにおいても類似せず,出所混同のおそれはない。
したがって,被告標章2は,本件商標1に類似しない。
(3) 被告標章3について 被告標章3は,「GIO ATHLETIC」の文字が,シャツの胸部中央に,球技用ボールの絵と「INTRAMURAL LEAGUE」「19」「81」の文字の上に,大きく記載されている。被告標章3は,「ATHLETIC」の文字を含んでいること,下段には球技用ボールの絵とリーグ名が表記されていることから,スポーツの持つ健康的なイメージを醸し出している。被告標章3は,「GIO」と「ATHLETIC」がそれぞれ同一の大きさの同一書体で,主従の差がなく結合されているため,これに接した需要者等は,一体の「GIO ATHLETIC」標章と認識し,「ジオアスレチック」の称呼を生ずる。さらに,前記(1)の@ないしC等の諸事情を総合すると,被告標章と本件商標1とは,外観,称呼,観念のいずれにおいても類似せず,出所混同のおそれはない。
したがって,被告標章3は,本件商標1に類似しない。
(4) 被告標章4,同5について ア 被告標章4,同5は,一見して商号商標と認識されるものである。そして,商号は,人名,行政区画名,業種名,商品名等からなることが多く,また,それは,会社等に固有の名称であるから,「株式会社」等の会社形態を表す文字が略称されるのは別論として,それ以外の人名,行政区画名,業種名,商品名等は名称を構成する部分であるから略さないのが一般である。
イ 被告標章4,同5において,これを構成する各文字が,主従の差がなく横書きされていることから,「GIO」の文字部分のみが識別力を有するものではなく,また,「GIO」は前記のとおり,著名なGiordanoグループを表す名称であるから,被告標章4,同5は,「CO.」「Co.」の文字を除外した「GIO JEANS」の文字部分が要部であるといえる。被告標章4,同5からは,「ジオジーンズ」の称呼を生ずることになる。
ウ 被告標章4,同5においては,「JEANS」の文字が名称の一部として使用されており,また,被告標章4,同5はジーンズ生地を用いた被服にも,これを用いていない被服にも等しく使用されているので,現実の取引の場において「JEANS」の文字は,必ずしもジーンズ生地を意味するのではないので,識別力を備えているといえる。
エ また,「GIO」の文字を含む多数の商標が登録されていて,本件商標とこれらの商標が区別されて取引に供されているという事情がある。
さらに,前記(1)の@ないしC等の諸事情を総合すると,被告標章と本件商標1とは,外観,称呼,観念のいずれにおいても類似せず,出所混同のおそれはない。
したがって,被告標章4,同5は,本件商標1に類似しない。
オ さらに,「GIO JEANS CO.」は実在の法人名ではないが,Giordanoは,古くからこれをGiordanoグループ全体を示す名称として使用してきたから,被告標章4,同5の使用には商標法26条1項1号により本件商標権の効力は及ばず,被告はこれを援用できる。
2 被告標章の使用は不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号又は2号の不正競争行為に当たるか。
(原告の主張) (1) 本件商標の周知著名性 ア 原告は,昭和54年,知的で品格のある大人の女性をターゲットとして本件商標に係る「GIO」標章を発表し,以来20年以上にわたり,「GIO」標章を付した女性用衣服を製造,販売している。その高い人気は現在まで継続し,最近5年間で,年間約18億円から30億円程度の売上を達成している。
また,原告は,「GIO」標章が発表直後より高い人気を博したことから,関連標章として「GIO SPORT」標章を発表し,20年以上にわたり,「GIO SPORT」標章を付した高品質な女性用衣服を製造,販売している。
その高い人気は現在まで継続し,最近5年間で,年間約37億円から75億円程度の売上を達成している。
イ 原告は,上記両標章が非常に人気を博したことから,「gio VAGULETTE」,「gio GIO REVE」,「gio GIO MOLA」,「gio GIONNE VAGUE」,「GIO CLUB」,「GIO SPORT gio club」等の各種標章を「GIO」及び「GIO SPORT」両標章の著名性・周知性を基礎にして,順次発表・展開してきた。
ウ 「GIO」及び「GIO SPORT」両標章を付した商品群は,全国で約700店舗にのぼる宣伝広告機能を兼ね備えた優良な路面店及び販売店において取り扱われており,平成12年4月から平成13年3月までの1年間で,「GIO」標章の商品は,約12万2000着,「GIO SPORT」標章の商品は,約30万着販売されており,購入には至らなかったが購入を検討した消費者も,これを上回る人数がいることからすれば,「GIO」及び「GIO SPORT」の両標章は非常に多くの消費者の目に触れ,認識されるに至っているといえる。
エ したがって,「GIO」及び「GIO SPORT」の両標章は,原告の主力標章として,また,原告の商品であることを示す標章として,日本全国において周知著名なものとなっているから,本件商標もまた同様に,原告の周知著名な商品表示となっている。
(2) 不競法2条1項2号所定の不正競争行為 被告が被告商品を販売する行為は,原告の著名な本件商標と類似する標章の使用に当たるから,不競法2条1項2号所定の不正競争行為を構成する。
(3) 不競法2条1項1号所定の不正競争行為 前記のとおり,本件商標が原告の商品表示として需要者の間で極めて広く認識されていること,被告商品が被服であって本件商標が付されている商品と同種のものであること,被告標章が本件商標と実質的に同一か,又は極めて類似しているものであること等からすれば,被告が被告商品を販売する行為は,一般消費者をして,被告商品が原告の製造する商品であるか,又は原告と何らかの関係のある企業の商品であるとの誤認混同を生じさせるものである。
したがって,被告の上記行為は,不競法2条1項1号所定の不正競争行為を構成する。
(被告の反論) (1) 本件商標が周知著名な商品表示でないことについて 本件商標が原告の周知著名な商品表示であることは否認する。
原告は,自己の標章を50種類くらい使用しているが,本件商標は,その中の一つの標章にすぎないのであって,「GIO」と「GIO SPORT」を合計しても,原告の総売上高の3パーセントにしか達しない。本件商標の広告宣伝は,各店舗のホームページや店舗内のショーウィンドー,コーナー板に限られ,原告は,カタログや紙袋,ポスター等を製作して専門店に配布する以外に,格別の宣伝活動を行っていない。原告の配布するカタログにおいても,本件商標の露出度は控えめであり,各店舗のホームページ等における宣伝においても,原告が使用する他の標章と並んで宣伝しているだけである。このように,本件商標については,TVやラジオ,購読部数の多い一般紙等の強力な媒体を用いた宣伝が何らされておらず,各店舗による地域的な宣伝がされているだけであり,しかも本件商標の露出は控えめであるから,原告商品の需要者の中にも本件商標を知らないものは多数おり,また,原告商品の需要者以外の中で,本件商標が広く一般に知られていることはない。
(2) 被告標章と本件商標の非類似について 前記1のとおり,被告標章は本件商標1に類似しない。また,被告商品を原告の商品であると誤認混同するおそれはない。
(3) 不競法12条1項3号,4号の該当性について 仮に,本件商標が周知著名な商品表示であるとしても,Giordanoは,1981年の創業以来,衣服に「GIO」の文字を含む商標を使用しており,Giordanoが「GIO」の文字を含む商標を付した衣服を発売した時点において,原告は,本件商標について周知性,著名性を獲得していなかったから,Giordanoについては,不競法12条1項3号,4号の規定によって,損害賠償義務を定めた不競法4条の適用が除外されることになる。
そして,被告は,Giordanoの商品である被告商品を販売したのであるから,同様に損害賠償義務を負うことはない。
3 損害額はいくらか。
(原告の主張) (1) 逸失利益 被告商品の売上げは,少なくとも2400万円であり,その利益率は少なくとも33パーセントであったと推認されるべきである。
したがって,被告が被告商品を販売して得た利益は少なくとも800万円である。
これに対して,被告は,被告商品の販売数量,総売上金額等について,別紙販売一覧表のとおり主張する。仮に,同主張を前提としたとしても,被告商品の合計販売金額から仕入価格を差し引いた粗利益は288万2156円となり,被告が被告商品を販売するために特別な経費を要したとは考えられないから,被告が被告商品を販売して得た利益は288万2156円となる。
したがって,商標法38条2項,不競法5条1項により,被告が被告商品を販売したことにより原告が被った損害の額は少なくとも800万円であり,仮に,販売数量,総売上金額についての被告の主張を前提としても,288万2156円となる。
(2) 無形損害 被告の商標権侵害行為及び不正競争行為は,原告が多大な投資及び宣伝活動等によって作り上げてきた本件商標のイメージ,識別力を低下させ,一般消費者を吸引する力を著しく減殺した。また,被告が本件商品を販売したことにより,原告が長年にわたる努力の結果築き上げた原告商品の品質保証機能,商品としての高い信用力を著しく低下させた。
被告の本件行為によって,取引上の信用を害された原告の損害は,少なくとも200万円を下らない。
(3) 弁護士費用 原告は,被告の商標権侵害行為及び不正競争行為により,弁護士を訴訟代理人として依頼し,仮処分申立て及び本件訴訟を遂行したが,これに要した弁護士費用は,少なくとも200万円を下らない。
(被告の反論) (1) 逸失利益 本件商標の付された原告商品と被告商品とは明瞭に区別でき,両者間に出所混同が生じたとは考えられないから,仮に被告商品の販売が本件商標権の侵害行為に当たるとしても,それによって原告が損害を被ったとは考えられない。本件においては,商標法38条2項の推定を覆すに足りる特別の事情が存在するから,同条項は適用されない。
仮に,商標法38条2項が適用されるとしても,被告は,以下のとおり,被告商品の販売により,利益を得ていない。
すなわち,平成13年3月から同年6月までの被告商品の売上高は468万2440円であり,仕入金額は180万0281円,仕入諸掛は78万9580円,一般管理費は400万6807円であるから,これらの合計を控除すると,純利益は,マイナス191万4228円となり,商標法38条2項を適用したとしても,損害額は0円となる。
また,不競法5条1項の適用についても,同様である。
(2) その余の損害 原告に無形損害及び弁護士費用相当損害が生じたことは否認する。
当裁判所の判断
1 商標権侵害の成否について (1) 原告の本件商標についての使用状況及び周知性 ア 証拠(甲1,2,5,10の1〜6,18の1〜4,23ないし34,36ないし39)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠はない。
(ア) 原告は,高級婦人服等を販売する国内有数の企業であるが,昭和54年に高級婦人服標章の一つとして「GIO」標章(ただし,「GiO」と表記した標章を使用する場合が多い。)を発表し,翌昭和55年には「GIO SPORT」を発表した。
(イ) 原告は,「GIO」及び「GIO SPORT」の両標章を全国展開し,現在に至るまで20年以上にわたり,これらの標章を付した高級婦人服の製造,販売をしているが,その人気は高く,最近の5年間(平成8年度から平成12年度)の売上高は,「GIO」標章が毎年約18億円ないし約29億円,「GIO SPORT」標章が毎年約37億円ないし約76億円である。「GIO」標章の取扱店は,全国に約670店舗,「GIO SPORT」標章の取扱店は,全国に約280店舗あり,原告は,両標章のパンフレット,「GiO」のロゴ入りの紙袋,ポスター等を販売店に配布している。各販売店では,ショーウィンドーに商品を展示し,看板,壁,ウィンドー等に「GiO」のロゴを表示しているほか,インターネットのウェブページ上で商品を紹介するなどして宣伝広告活動を行っている。
イ 以上の事実によれば,本件商標は,被告が被告商品を販売した平成13年当時,原告の商品を示す商標として需要者の間に広く知られていたものと認めるのが相当である。
(2) 本件商標1と被告標章の類否 被告標章は,本件商標1と実質的に同一であるか,又はこれに類似すると判断できる。その理由は以下のとおりである。
ア 本件商標1について 本件商標1は,別紙商標目録1のとおり,カタカナの「ジオ」とアルファベットの「GIO」を上下2段に表記したものであり,「ジオ」の称呼を生ずる。また,造語であることから,格別の観念は生じない。
イ 被告標章1との対比 被告は,ティーシャツ(別紙写真の被告商品1)に「PROPERTY OF GIO ATHLETICS」の表示を付したものを販売したことが認められる(甲46)。
前記のとおり,「GIO」は,原告の商品を示す商標として周知であること,被告商品1の中央には,「GIO」の文字が白地に赤色で大きく,その上に「PROPERTY OF」,その下に「ATHLETICS」の文字が白色でやや小さく記載されていること,「GIO」の文字は,各文字部分の中央に配置されていること,「GIO」の文字が特に強調されるように表示されていること,一般の需要者からは,「ATHLETICS」は,運動競技等を意味し,特にティーシャツ等に使用される場合には,スポーティな雰囲気の衣服であるとの印象を与える語と理解されるために,その識別力は弱いといえること(甲94の2,95の2,96,97)等の事実に照らすならば,上記表示の中で需要者の注目を引く部分は,「GIO」の文字部分のみであるといえる。そうすると,被告商品1において使用されている標章は被告標章1であると認められる。
被告標章1は,本件商標1と実質的に同一であるから,本件商標1に類似する。
ウ 被告標章2との対比 被告標章2は,別紙写真の被告商品3のとおり,「GIO」の文字が大きく,その左右に「EST.」「1981」の文字等が小さく,それぞれ記載されたものである。
前記のとおり,「GIO」は,原告の商品を示す商標として周知であること,「GIO」の文字が,特別に強調されるように表示されていること,一般の需要者からは,「EST.」「1981」は,創業等の年を意味する語と理解されるため,その識別力は弱いといえること等の事実に照らすならば,被告標章2の要部は,「GIO」の文字部分であるといえる。
被告標章2は,その要部が本件商標1と実質的に同一であるから,本件商標1に類似する。
エ 被告標章3との対比 被告標章3は,別紙写真の被告商品2のとおり,「GIO」の文字と「ATHLETIC」の文字が,同一の大きさ及び書体で,緩やかな円弧状を描くように記載されたものである。
前記のとおり,「GIO」は,原告の商品を示す商標として周知であること,一般の需要者からは,「ATHLETICS」は,運動競技等を意味し,特にティーシャツ等に使用される場合には,スポーティな雰囲気のの衣服であるとの印象を与える語と理解されるため,その識別力は弱いといえること(甲94の2,95の2,96,97)等の事実に照らすならば,被告標章3の要部は,「GIO」の文字部分であるといえる。
被告標章3は,その要部が本件商標1と実質的に同一であるから,本件商標1に類似する。
オ 被告標章4,同5との対比 被告標章4,同5は,別紙写真の被告商品4ないし8のとおり,被告標章4については「GIO」「JEANS」「CO.」の各文字が,被告標章5においては「GIO」「JEANS」「Co.」の各文字が,それぞれ,同じ大きさで一連に記載されたものであり,いずれもカジュアルな衣料品等に使用されていることが認められる(甲46)。
前記のとおり,「GIO」は,原告の商品を示す商標として周知であること,一般の需要者からは,「JEANS」は,ジーパンないし,ジーンズ又はジーンズ生地(デニム生地)で作られた衣料品等を意味するため,ジーンズ生地で作られた衣料品のみならず,他の素材で作られた衣料品等であっても,カジュアルなものに使用された場合には,その識別力は極めて弱いといえること(甲98ないし102),また,一般の需要者からは,「CO.」「Co.」は,companyの省略語であると理解され,その識別力は弱いこと等の事実に照らすならば,被告標章4,同5の要部は,「GIO」の文字部分であるといえる。
被告標章4,同5は,その要部が本件商標1と実質的に同一であるから,本件商標1に類似する。
以上のとおり,被告標章は,本件商標1と実質的に同一であるか又はこれに類似する。
これに対し,被告は,前記第3の1(被告の反論)(1)の@ないしCの諸事情を考慮すれば,被告標章は本件商標1に類似しないとも主張する。しかし,被告標章の要部は,いずれも本件商標1と外観及び称呼が実質的に同一であること,本件商標1は,原告の商品を示す商標として周知であること等の事実に照らすならば,仮に,被告が主張するような事情が存在したとしても,被告商品について出所混同のおそれを否定することはできないから,被告の上記主張は採用できない。
(3) 小括 以上のとおりであるから,被告が被告商品を販売することは,本件商標権1の侵害となる。
なお,被告は,被告標章4,同5の使用について,「GIO JEANS CO.」は実在の法人名ではないが,Giordanoは,古くからこれをGiordanoグループ全体を示す名称として使用してきたから,その使用には商標法26条1項1号により本件商標権の効力は及ばず,被告はこれを援用できると主張する。しかし,上記事実を認めるに足りる証拠はないから,被告の同主張は採用できない。
2 損害額 (1) 商標法38条2項所定の損害額 証拠(甲46,47の1〜4)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成13年3月から同年6月までの間,本件店舗において,別紙販売一覧表のとおり,被告商品を販売したこと,被告商品の販売金額は合計468万2440円であることが認められる。
また,乙18及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成13年3月1日から同年6月30日までの間,全商品の売上高が合計6514万6487円であったこと,同期間の売上高から売上原価を控除した売上総利益が3681万2690円であったこと,被告の全商品の売上高に対する売上総利益の割合は,56.5%(小数点第2以下四捨五入)であったことが認められる。
そうすると,本件においては,被告商品の販売により被告が得た利益の額については,468万2440円に40%(被告商品の販売に当たっては,売上原価のほかに販売により変動する一般的な費用がある程度見込まれると解するのが相当であることも考慮した。)を乗じた187万2976円(円未満四捨五入)と推認するのが相当である。
この点について,被告は,被告商品の販売行為によって,原告が損害を被ったことは全くないと主張する。しかし,本件商標1は,原告が全国展開している「GIO」標章を付した商品の出所を示す周知商標であるから,被告がこれに類似する被告標章を付した被告商品を販売することにより,原告に損害が生じなかったと認めることはできず,被告の上記主張は採用できない。
以上のとおりであるから,商標法38条2項により,原告は,187万2976円の損害を被ったものと推定される。
(2) 弁護士費用,信用毀損に係る損害額 ア 本件訴訟の内容,経過,認容額その他記録に現れた一切の事情を総合考慮すれば,被告の商標権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の損害額は,100万円と認めるのが相当である。
イ 原告は,被告の商標権侵害行為によって原告の信用が毀損されたと主張する。しかし,被告は,平成13年3月22日から本件店舗において被告商品の販売を開始したものの,原告から被告商品の販売差止等を求める仮処分の申立てを受けて,同年6月中には被告商品の販売を中止したこと(弁論の全趣旨),また,被告商品の売上高は,前記のとおり,合計468万2440円であって,それほど大量に販売したとまではいえないこと等の事実に照らすならば,被告商品の販売によって,原告の取引上の信用が害されたとはいえない。原告のこの点の主張は採用できない。
(3) 小括 以上のとおり,原告は,被告の本件商標権侵害行為により,合計287万2976円の損害を被ったものと認められる。
3 結論 以上によれば,被告は,原告に対し,本件商標権侵害による損害賠償として287万2976円及びこれに対する不法行為の後である平成14年3月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負うものと認められる。なお,原告は,選択的に,不競法4条に基づく損害賠償請求もしているが,その請求の内容及び以上に認定判断したところによれば,その損害額が上記の認容額を上回ることがないことは明らかであるから,同法4条に基づく損害賠償請求の成否については判断しない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 榎戸道也
裁判官 佐野信