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事件 平成 15年 (ワ) 3396号 輸入差止請求権不存在確認請求事件
原告 株式会社ミスタータン
訴訟代理人弁護士 土門宏
被告 株式会社ボディーグローヴ・ジャパン
訴訟代理人弁護士 小川浩賢
同 豊島真
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/06/30
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 別紙商標目録1記載の各商標を付した半袖ティーシャツ及びポロシャツで,東京税関大井出張所により,関税定率法21条1項5号,同条4項に基づき,別紙通知目録記載の認定手続開始通知のとおりの認定手続の対象となった商品を原告が販売することについて,被告は,登録第1921224号商標権の専用使用権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
2 本件訴えのうち,原告の輸入行為に係る部分を却下する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
別紙商標目録1記載の各商標を付した半袖ティーシャツ及びポロシャツで,東京税関大井出張所により,関税定率法21条1項5号,同条4項に基づき,別紙通知目録記載の認定手続開始通知のとおりの認定手続の対象となった商品を原告が輸入及び販売することについて,被告は,登録第1921224号商標権の専用使用権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
事案の概要
本件は,別紙商標目録1記載の各商標(以下「マレーシア商標」と総称する。)の付されたティーシャツ及びポロシャツを輸入した原告が,マレーシア商標と同一又は類似の商標についての商標権の専用使用権者である被告に対して,上記商品の輸入は真正商品の並行輸入であるから違法性が阻却されるとして,同商品の輸入及び販売を差し止める権利を有しないことの確認を求めた事案である。
1 前提となる事実 (1) 米国法人であるボディー・グラブ・インターナショナル・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー(以下「BGI」という。)は,以下の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)を有する(甲1,2)。
登録番号 1921224号 出願年月日 昭和57年6月18日 登録年月日 昭和61年12月24日 商品の区分 旧第17類 指定商品 被服その他本類に属する商品 登録商標 別紙商標目録2記載のとおり (2) 被告は,平成10年12月11日,本件商標権について,地域を日本全国,期間を平成18年12月24日まで,内容を指定商品全部として,専用使用権の設定を受け,平成11年2月1日,その登録がされた(甲2)。
(3) マレーシアにおいて,本件商標と同一又は類似のマレーシア商標が,ティーシャツ,ポロシャツを指定商品として商標登録されている。ところで,マレーシアの法人であるビージーマーケティング(以下「BGM」という。)は,BGIとのライセンス契約により,ティーシャツ及びポロシャツにマレーシア商標を付して,これをマレーシア国内で製造販売することの許諾を得ている。
(4) 原告は,平成14年4月ころ,マレーシア商標の付されたティーシャツ及びポロシャツ2279枚を輸入しようとした。これに対して,東京税関大井出張所長は,同年6月3日,上記各商品について,関税定率法21条4項に基づき禁制品認定手続を開始した(上記の各商品を以下「本件商品」と総称する。)。しかし,東京税関大井出張所長は,平成15年5月6日,本件商品は関税定率法21条1項5号に掲げる貨物に該当しない旨の認定をした。(甲9,25,乙6) 本件商品の商品下げ札のホログラムシールには,“USA APPROVED”との表示がある(甲7)。
2 争点 本件商品の輸入,販売は,適法な並行輸入として,実質的違法性を欠くといえるか。
3 争点についての当事者の主張 (原告の主張) 本件商品の輸入は,いわゆる真正商品の並行輸入に該当し,実質的な違法性を欠く。その理由は,以下のとおりである。
(1) 我が国の登録商標と同一又は類似の標章を付した商品を輸入した場合に,@当該標章が外国における商標権者又は商標権者から契約によって使用許諾を受けた者等により適法に付されたものであり,A当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより,当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって,B我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合には,いわゆる真正商品の並行輸入として,商標権侵害としての実質的違法性を欠くものというべきである。
上記の基準に照らすならば,原告の本件商品の輸入は実質的違法性を欠く。
すなわち,@BGMは,マレーシアにおける商標権者であるBGIから許諾を得て,本件商品に本件商標と同一又は類似のマレーシア商標を付すことについての正当な権原を有していた。A本件商品は,BGMによって製造,販売されたものである。チーフリソースイズ社は,BGMが製造したマレーシア商標の付されたTシャツ及びポロシャツ合計2640枚のうち,1868枚についてはファンフッションストアー社を介して,426枚についてはヒンディージーンズ社を介して,346枚についてはBGMの直営小売店を介して,それぞれ購入し,そのうち2279枚(本件商品)を原告に販売した。B被告は,本件商標権を有するBGIの資本で設立され,BGIの日本の営業所たる実質を有する。被告は,本件商標権について,商標権者であるBGIから,日本国における専用使用権の設定を受けている。本件商標権の商標権者であるBGIと本件商品の製造者であるBGMとは同一人であるか,又は同一人と同視できる特殊な関係にあるといえる。そして,CBGMは,本件商品の製造,販売において,上記ライセンス契約の取決めに違反していない。
本件商品の輸入が適法とされるためには,ライセンス契約のすべての条項が遵守される必要はなく,販売地域制限条項等のごく些細な条項の違反があっても差し支えないと解すべきである。販売地域制限条項に違反しただけで違法性が阻却されないと解すると,およそ並行輸入は許されなくなり,不当である。
(2) この点について,被告は,“USA APPROVED”との表示のある商品下げ札が付いた本件商品を輸入する原告の行為は,許諾契約に係る特約違反に当たり,実質的に違法性を欠くとはいえない旨主張する。しかし,被告の主張は,以下の理由により失当である。
ア “USA APPROVED”という表記は,「米国の承認」という意味であり,実体に合致するものであるから,違法となることはない。また,“USA APPROVED”との表記は本件商標の構成要素となっていない。
イ 商標の使用許諾契約において,“USA APPROVED”又は“MALAYSIA APPROVED”との表記を商品下げ札に表示して使用する旨の特約は,商標の本質と関連する事項ではない。
ウ 仮に,「X国APPROVED」という表記を付する特約に違反したことが,並行輸入行為を違法ならしめると解した場合には,商標ではない「X国APPROVED」という表示の下げ札を特定の国で商品に付することを特約させることによって並行輸入を阻止できる結果となって,不当である。
エ BGIは,平成14年3月ころ,BGMがマレーシアで“USA APPROVED”と表示された商品下げ札を付してティーシャツ,ポロシャツを販売していることを知りながら,何ら禁止措置を採らなかったのみか,警告書も発しなかったのであるから,仮に,“USA APPROVED”との表示を付した商品下げ札を使用することを禁止していた事実があったとしても,その後これを許容したといえる。
(3) 被告は,原告がBGMに対して,BGIとのライセンス契約の違反行為をさせた旨主張する。しかし,原告がBGMにライセンス契約違反行為をさせたのではなく,BGMが原告に対して,買い受けを申し込んできたのであるから,被告の主張は前提を欠く。
(被告の反論) 本件商品の輸入は,以下の理由により,実質的な違法性を欠くとはいえない。
(1) 付加表示について ア 本件商品の商品下げ札には,“USA APPROVED”との表記が付されているところ,BGIは,BGMに対し,このような表記の使用を許諾していないから,そもそも,本件商品はBGMによって製造されたものでないと推認される。
仮に,本件商品がBGMによって製造されたものであったとしても,その商品下げ札に“USA APPROVED”との表記が付されている本件商品を輸入する行為は,以下の理由から,適法とはいえない。
BGIはBGMに対して,このような表記の使用を許諾していないから,BGMは,BGIから許諾された範囲を超えた形態でマレーシア商標を使用していることになり,したがって,本件商品の輸入は,実質的な違法性を欠くとはいえない。被告製造に係る本件商標を付した商品(以下「被告商品」という。)には,“Japan Approved”との表記及び商標の入ったホログラムシールが付けられており,需要者は,これによって,当該製品がいわゆる真正商品であることを知ることができる。したがって,マレーシアから“USA APPROVED”との表記入りの商標を付した商品が輸入されると,被告商品との間で出所の混同を来す結果になる。
イ 原告は,以下のとおり主張するが,いずれも失当である。
まず,原告は,“USA APPROVED”という表記は,本件商標の要素とはなっていない旨主張する。しかし,同表記は,マレーシア商標を構成する円の部分の内部において,掌のマーク及び“BODY GLOVE”という商標の構成と同等の大きさ,顕著度をもって,マレーシア商標と一体となって,一つの標章を形成しているのであるから,原告の上記主張は失当である。
次に,原告は,“USA APPROVED”とは,「米国の承認」という意味であるから,実体に合致しており問題はない旨主張する。しかし,このような主張を前提とすると,ライセンシーはライセンス契約の範囲を超えて,自由に商標を改変することが可能となるので,失当である。
さらに,原告は,BGIは,BGMが商品に“USA APPROVED”の表示をした商品下げ札を付していることを知りながら,何ら禁止措置を採らなかった旨主張する。しかし,BGIは上記事実を知らなかったのであり,原告の主張は,誤った事実に基づく主張であり,失当である。
(2) 販売地域について BGMが本件商品を原告に販売することは,BGIとの間のライセンス契約における販売地域の取決めに違反することになるから,本件商品の輸入は,いわゆる真正商品としての並行輸入とはならない。すなわち,BGMは,BGIから,マレーシア商標を付したシャツ類をマレーシア国内で販売することのみを許諾されており,日本で販売することの許諾を受けていないところ,本件商品は原告からの発注に基づき,原告が日本で販売するために製造されたものであり(原告はBGMから,カタログ,製造工程表を交付されており,このことは上記事実の証左である。),BGMがマレーシア国内用に製造販売したものを原告が輸入したものではないから,上記ライセンス契約の販売地域に関する条項に違反しており,本件商品の輸入は適法な並行輸入とはならない。
これに対し,原告は,ライセンス契約の販売地域条項違反により製品が不真正商品になるとすれば,並行輸入は一切認められなくなる旨主張する。しかし,並行輸入とは,一般的には,海外のライセンシーが海外で販売した商品を現地で購入して日本に輸入することを意味するのであり,このような一般的な並行輸入であれば,当該ライセンシーには販売地域条項違反はないから,適法な並行輸入となる余地がある。したがって,原告の上記主張は失当である。
当裁判所の判断
原告は,本件商標と類似するマレーシア商標が付された本件商標権の指定商品に含まれるティーシャツ及びポロシャツ(本件商品)を,本件商標の我が国における商標権者及び専用使用権者の許諾を得ずに輸入している。そこで,本件商品の輸入及び販売(以下両行為を併せて「輸入」という場合がある。)が適法であるか否かについて検討する。
1 事実認定 前記前提となる事実,証拠(甲1,2,4ないし7,9,11ないし15,19,21ないし28,乙6)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,これに反する証拠はない。
(1) 被告は,平成10年12月11日,本件商標権について,商標権者であるBGIから,地域を日本全国,期間を平成18年12月24日まで,内容を指定商品全部として,専用使用権の設定を受け,平成11年2月1日,その旨の登録を受けた。他方,BGMは,本件商標の商標権者であるBGIとの間でライセンス契約を締結し,ティーシャツ及びポロシャツにマレーシア商標を付して,これをマレーシア国内で製造販売することの許諾を得た。本件商品は,BGMがマレーシアにおいて製造,販売したものである。
(2) 原告は,平成14年4月ころ,マレーシアの法人であるチーフリソースイズ社から本件商品を輸入しようとしたが,東京税関大井出張所長は,同年6月3日,本件商品について,関税定率法21条4項に基づき禁制品認定手続を開始した。しかし,同所長は,平成15年5月6日,本件商品は本件商標権を侵害しないことを理由として,本件商品は関税定率法21条1項5号に掲げる貨物に該当しない旨の認定をし,これにより,原告は,本件商品を輸入することができた。
(3) 本件商品のうち,ティーシャツには織ネーム,裾,胸の部分に,ポロシャツには織ネーム,左胸,背中肩の部分に,それぞれマレーシア商標が付されている。
また,本件商品には,商品下げ札2枚が付されており,そのうちの1枚の表側には,青色のモノトーンの波の写真,マレーシア商標,“California Lifestyle”及び“since 1953USA.”の各文字,直径約14ミリメートルの円形のホログラムシール等が印刷され,同ホログラムシールには,直径約9ミリメートルの円,左掌の図形,“BODYGLOVE”及び“USA APPROVED”の各文字が,光の角度によって浮き出て見えるように印刷されている。
2 判断 (1) 上記認定した事実を基礎として,原告が本件商品を輸入することが,いわゆる真正商品の並行輸入として実質的違法性を欠くといえるかについて検討する。
商標法は,商標登録制度を設け,商標権者に登録商標を,指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という場合がある。)に独占的に使用する権能を付与している。このように,登録商標権者のみに対して,登録商標の使用を許す法制度が設けられたことにより,商標権者は,第三者が当該登録商標と同一又は類似の商標を使用することによって生ずる商品ないし役務の出所の混同を阻止できるという本来的な目的を達成することができる。需要者の立場からは,商品ないし役務に使用された登録商標を見ることによって,その出所を識別することができることになる。すすんで,商標権者は,登録商標権に付与された独占的な使用権能,すなわち,第三者が当該登録商標と同一又は類似の商標を,指定商品等に使用することを阻止し,また,自己のライセンシーが当該登録商標を使用して製造する商品や提供する役務の質を管理することのできる権能を有効に活用することを通して,自己の出所に係る商品ないし役務の品質の維持や,そのような品質管理を実施した結果として商標権者自身の信用の維持を,事実上図ることができる。需要者の立場からは,商標権者がそのような管理をする限りにおいて,当該商品ないし役務に使用された登録商標を見ることによって,商標権者の出所に係る商品ないし役務の品質を識別することができることになる。
ところで,商標権者以外の第三者が,我が国における商標権に係る商品と同一の商品について,その登録商標と同一又は類似の商標を付したものを輸入する行為は,形式的には,商標権を侵害することになる。
しかし,そのような商品の輸入行為であっても,当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者によって付されたものであり,当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は同一人と同視し得るような関係がある場合には,そもそも当該商標は我が国の登録商標と同一の出所を表示するものと評価されるのであるから,およそ出所の誤認混同を避ける必要性がないという意味で,商標権侵害としての実質的な違法性を欠くといえる。
なぜなら,当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一視できる場合であると解される以上,当該商品の出所が,そのいずれであるかは,商標法の趣旨に照らして,特段の事情のない限り,保護に値する利益とはいえないからである。
ただし,上記のような場合であっても,我が国の商標権者が,前記の商標権の独占権能を活用して,自己の出所に係る商品独自の品質ないし信用の維持を図ってきたという実績があるにもかかわらず,外国における商標権者の出所に係る商品が輸入されることによって,そのような品質ないし信用を害する結果が現に生じたといえる特段の事情があるときは,例外的に,当該商品が外国の商標権者を出所とするものであるか,我が国の商標権者を出所とするものであるかを識別すべき利益が生じ,この利益は保護に値するといって差し支えない。
以上総合すると,登録商標と同一又は類似の商標を付した商品を輸入する行為は,当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者によって付されたものであり,当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一視できるような関係があれば,原則として,商標権侵害としての実質的な違法性を欠くといえるが,上記のような場合であったとしても,我が国の商標権者が,自己の出所に係る商品の品質ないし信用の維持を図ってきたという実績があり,外国における商標権者の出所に係る商品が輸入されることによって,そのような品質ないし信用の維持を害する結果が現に生じたといえる特段の事情があるときは,商標権侵害を構成するというべきである。
(2) 本件において,この点を考察する。
本件商品はBGMによりマレーシアにおいて製造されたものである。そして,前記のとおり,本件商品を製造したBGMは,本件商標の商標権者であるBGIとの間でライセンス契約を締結し,同契約によりティーシャツ及びポロシャツにマレーシア商標を使用することの許諾を得たこと,マレーシア商標は本件商標と同一ないし類似していることから,マレーシア商標の商標権者と本件商標の商標権者とは同一人であるか,実質的に同一人と同視できるものと推測される。
したがって,マレーシア商標が付された本件商品を輸入する原告の行為は,いわゆる真正商品の並行輸入として実質的な違法性を欠く。また,本件全証拠によるも,後記(3)及び(4)のとおり,マレーシア商標が付された本件商品が輸入されることによって,BGIの出所に係る商品の品質ないし信用の維持を害する結果が現に生じたと認めることはできない。
(3) 被告は,本件商品には,“USA APPROVED”との表示がされた商品下げ札が付されているが,BGIはBGMに対して,このような表記がされることを許諾したことはないから,BGMは,BGIから許諾された範囲を超えた態様でマレーシア商標を使用していることになり,本件商品の輸入は,実質的な違法性を欠くとはいえない旨主張する。しかし,被告の主張は,以下の理由により失当である。
まず,商標の出所表示の観点から考察する。本件全証拠によっても,BGIとBGMとの間で締結されたマレーシア商標の使用許諾に関するライセンス契約において,BGMが,その製造する商品に,“USA APPROVED”との表示を付加することを禁止する旨の合意があったと認めることはできないので,被告の主張は,そもそもその前提を欠く。そして,仮に,被告の主張するような付加的な表示を禁止する旨の合意があったとしても,商標とは別に,アメリカ合衆国承認という趣旨の“USA APPROVED”という付加的な表示をすることを禁止する旨の合意は,商品の出所を識別するために何らかの意味を有する合意であるとは解しがたいことに照らすならば,たとえ,被告商品については“Japan Approved”との表示が付されれていたという事情が存在することを前提にしたとしても,“USA APPROVED”との表示を付加した本件商品の輸入は,本件商標の出所表示機能を害することにはならないから,商標権侵害としての実質的な違法性を欠くのであって,その余の点を判断することなく,被告の主張は理由がないことになる。
なお,商標の品質ないし信用維持の観点からも,念のため考察する。仮に,BGIとBGMとの間において,被告の主張するような付加的な表示を禁止する旨の合意があったとしても,そのような合意は,商品に対する品質を管理するために何らかの意味のある合意と解することはできない。たとえ,仮に,被告商品に限り,“Japan Approved”との表示が付されることにより,需要者が同表示によって,何らかの流通経路に関する区別をすることがあったという事実が存在することを前提としても,なお,BGMが,そのような合意に違反して,“USA APPROVED”との表示を付加した本件商品を販売し,原告がこれを購入して,我が国に輸入する行為が,BGIの出所に係る商品の品質ないし信用維持を害する結果を生じせしめる行為と評価することはできない。
(4) 被告は,@BGIとBGMとの間のライセンス契約においては販売地域の取決めがあること,A本件商品は,原告の発注に基づき,原告が日本で販売するために製造されたものであり,原告は本件商品をBGMから直接購入したことを前提として,上記の販売地域制限条項に違反するから,本件商品を輸入する原告の行為は,実質的な違法性を欠くとはいえない旨主張する。しかし,被告の主張は,以下の理由により失当である。
まず,本件全証拠によるも,@BGMとBGIとの前記ライセンス契約において,BGMの商品の販売地域がマレーシアに制限されていたと認めることはできないのみならず,また,A前記のとおり,原告は,本件商品をマレーシアの法人であるチーフリソースイズ社から購入したのであり,BGMから直接購入したのではないのであるから,原告の主張はその前提をいずれも欠く。
そして,仮に,BGMとBGIとの前記ライセンス契約において,BGMの商品の販売地域がマレーシアに制限される旨の合意があったとしてみても,ライセンス契約における販売地域の制限に係る取決めは,通常,商標権者の販売政策上の理由でされたにすぎず,商品に対する品質を管理して品質を保持する目的と何らかの関係があるとは解されない。上記取決めに違反して商品が販売されたとしても,市場に拡布された商品の品質に何らかの差異が生じることはないから,本件商品の輸入によって,BGIの出所に係る商品の品質ないし信用の維持を害する結果が生じたということはできない。
いずれの理由によっても,原告が本件商品を輸入することが実質的に違法であるとはいえない。
なお,被告は,原告はBGMにBGIとのライセンス契約における販売地域条項に違反する行為をさせ,正当に認められている総代理店システムを害しているから,本件商品の輸入の違法性が阻却されることはないとも主張する。しかし,そもそも総代理店システムを採用することにより,商標権者が国際的な価格政策を維持できる利益は,商標法上保護に値する利益であると解することはできない。この点の被告の主張は失当である。
3 結論 (1) 以上のとおり,マレーシア商標の商標権者と本件商標権者であるBGIとは同一人ないし実質的に同一人と同視できるものと認められるから,マレーシア商標と本件商標とは同一の出所を表示するものであり,また,マレーシア商標は,BGIから同商標の使用許諾を受けたBGMにより付されたものであり,さらに,BGMの製造に係る本件商品を原告が輸入することによって,BGIの出所に係る商品の品質ないし信用の維持を害する結果が現に生じたといえる特段の事情は存在しないから,本件商品の輸入はいわゆる真正商品の並行輸入として実質的な違法性を欠くというべきである。
(2) 被告は,東京税関大井出張所長により,本件商品は,被告の商標権を侵害するものではないとの認定を受け,輸入が許されたのであるから,本件訴えは訴えの利益がない旨主張するので,この点について検討する。
確かに,東京税関大井出張所長により,本件商品は,被告の商標権を侵害するものではないとの認定を受け,輸入が許されたのであるから,本件訴えのうち,原告が本件商品を輸入することについて,被告が差止請求権を有しないことの確認を求める部分については訴えの利益がないから,これを却下するのが相当である。
しかし,関税定率法21条4項に基づく禁制品認定手続における,本件商品が本件商標権を侵害しない旨の東京税関大井出張所長の認定は,被告の本件商標権侵害に基づく本件商品の販売の差止め及び損害賠償請求権の有無には何ら影響しないから,本件訴えのうち,原告が本件商品を販売することについて,被告が差止請求権を有しないことの確認を求める部分については,訴えの利益がないということはできない。
(3) よって,主文のとおり判決する(訴訟費用については,すべて被告に負担させることにする。)。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 榎戸道也
裁判官 佐野信
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