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事件 平成 14年 (ワ) 4835号 商標権侵害差止等請求事件
原告 理想科学工業株式会社
訴訟代理人弁護士 玉利誠一
同 小池豊
同 櫻井彰人
被告 株式会社拓研コーポレーション
被告 コロナ技研工業株式会社
被告ら訴訟代理人弁護士 島田康男
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/01/21
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告らは,その販売する孔版印刷用インクのインクボトルに別紙目録1〜3記載の標章を使用してはならない。
2 被告らは,別紙目録1〜3記載の標章を付したインクボトルを廃棄せよ。
3 被告らは,原告に対し,連帯して5000万円及びこれに対する平成14年3月1日(不法行為の後の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 被告らは,原告の製造に係る孔版印刷機(リソグラフ)の利用者に対して,使用済みのインクボトル(空容器)に自ら製造する孔版印刷用インクを充填して販売している。当該インクボトルには原告の登録商標が表示されていることから,本件において,原告は,被告らの行為は商標の「使用」(商標法2条3項)に該当し,原告の商標権を侵害するとして,被告らに対して,孔版印刷用インクのインクボトルに上記登録商標を付すことの差止め及び同登録商標を付したインクボトルの廃棄並びに商標権の侵害による5000万円の損害賠償を求めている。
これに対し,被告らは,被告らがそのインクを販売するに当たり容器として用いたインクボトルは,顧客から容器として提供されたものであるから,当該インクボトルに原告の登録商標が表示されていたとしても,被告らの行為は商標の「使用」に該当しないものであって,商標権侵害を構成しないと反論して,原告の請求を争っている。
2 当事者間に争いがない事実 (1) 当事者 原告は,孔版印刷機及び孔版印刷用インク等の製造販売等を業とする株式会社である。
被告コロナ技研工業株式会社(以下,「被告コロナ」という。)は,プラスチック原材料販売及びプラスチック製品の製造販売等を業とする株式会社であり,被告株式会社拓研コーポレーション(以下,「被告拓研」という。)は,プラスチック原材料等の販売を業とする株式会社である。
(2) 原告の有する商標権 原告は,次のア〜ウに記載する商標権(以下,併せて「本件商標権」といい,その登録商標を,併せて「本件登録商標」という。)を有している。
ア 登録番号 第4091781号 登録日 平成9年12月12日 指定商品 塗料,染料,顔料,印刷インキ,謄写版用インキ,絵の具,塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の非鉄金属はく及び粉,塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の貴金属はく及び粉 登録商標 別紙目録1のとおり イ 登録番号 第4091782号 登録日 平成9年12月12日 指定商品 塗料,染料,顔料,印刷インキ,謄写版用インキ,絵の具,塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の非鉄金属はく及び粉,塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の貴金属はく及び粉 登録商標 別紙目録2のとおり ウ 登録番号 第4036757号 登録日 平成9年8月1日 指定商品 塗料,染料,顔料,印刷インキ,謄写版用インキ,絵の具,塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の非鉄金属はく及び粉,塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の貴金属はく及び粉 登録商標 別紙目録3のとおり (3) 原告の製造に係る孔版印刷機 原告の製造販売する孔版印刷機(商品名「リソグラフ」。以下「原告印刷機」という。)においては,孔版印刷用インクの充填されたインクボトルを機器の該当部分に嵌め込んで使用するものであるところ,内容物たるインクを使用し切った場合には,通常は,インクボトルごと新品に交換するものとされている。インクボトルは,印刷機の該当部分に嵌合するために特徴的な形状となっており,本件登録商標が表示されている。
(4) 被告らの行為 被告らは,原告印刷機の利用者から使用済みのインクボトル(空容器)の引渡しを受けて,これに自らの製造に係る孔版印刷用インクを充填して販売している(具体的な販売態様については,後記のとおり,一部争いがある。)。
3 本件における争点 (1) 被告らの行為は本件商標権を侵害するか(争点1) (2) 原告の損害の内容及び額(争点2) 4 争点に関する当事者の主張 (1) 争点1(被告らの行為は本件商標権を侵害するか) 【原告の主張】 被告らの行為は,商標の「使用」に該当し,本件商標権を侵害する。
ア 被告らの行為が,商標の「使用」に該当することについて (ア) 本件の事実関係は,次のとおりである。
まず被告拓研が,原告印刷機を使用する顧客から使用済みの空のインクボトルの引渡しを受ける。同インクボトルはもともと原告の販売に係るものであるから,本件登録商標が表示されている。次に,被告拓研は被告コロナに対し,被告コロナの製造するインク(以下「被告インク」という。)を同インクボトルに充填することを依頼のうえ引き渡す。被告コロナは,被告拓研から引渡しを受けたインクボトルを分解・洗浄した後,本件登録商標の示す出所(原告)に係るインクとは異なる商品である被告インクを充填して,本件登録商標をそのままにしたうえで被告拓研に販売する。そして,被告拓研は顧客に対し,本件登録商標が付されたインクボトルに充填した被告インクを販売する。
また,被告コロナは,被告拓研のほかにも,株式会社マツモトなどの多数の地域特約店との間で被告拓研と同様の関係を結び,被告拓研に対する場合と同様の行為を行っており,同地域特約店らも,被告拓研と同様の行為を行っている。
したがって,被告コロナの行為も,被告拓研の行為も,「商品の包装に標章を付したものを譲渡し,引き渡(す)行為」(商標法2条3項2号)に該当する。本件登録商標が付されたインクボトルに原告のインクとは異なる被告インクが入っていること自体,商標の有する出所表示機能,品質保証機能,広告機能を害するからである。
しかも,被告コロナは,顧客が原告のインクを使い切ったためもはや本来の役割を終えたインクボトルについて,分解,洗浄,インク充填,キャップ取付けを行って,これを完成品として再生させている。これをみれば,被告コロナの行為は「商品の包装に標章を付する行為」(商標法2条3項1号)にも該当する。
(イ) 商品や容器に付された商標権者の商標をそのまま使用して,商標権者の商品とは異なる商品を販売する行為が商標権侵害を構成することは,東京地裁平成4年5月27日判決・知的裁集24巻2号413頁(以下,「改造ファミコン事件第一審判決」という。)に照らしても,明らかである。同判決の事案は,Yが市場において購入したXの登録商標の付されたファミコンに改造を施した上,ファミコンに表示されていたXの登録商標をそのままにして消費者に販売したというものであるが,同判決は,ファミコンを改造した後もXの登録商標を表示したままで改造ファミコンを販売するYの行為は,Xの商標権を侵害する旨の判断をしている。本件は,同判決の事案と基本的に異なるところがないから,被告らの行為は同様に原告の商標権を侵害するものである。
(ウ) 被告らは,自らは顧客から提供されたインクボトルに被告インクを詰め替えているだけであり,顧客は充填されるインクが被告インクと認識しているから,出所の混同の問題は生じない旨を主張する。
しかし,被告インクを充填したインクボトルには,インクの出所を表示するものとしては本件登録商標が付されているだけである。しかも,被告らのパンフレット(甲9〜12)には,使用するインクとして「適合インク」ないし「適合するインク」としか記載されておらず,他方,「取扱いメーカー」として数社のメーカー名を記載した冒頭に「理想科学 リソグラフ」が挙げられている。さらに,被告らの作成した見積書(甲21),伝票(甲16の添付資料2,4),納品書(甲13)には,内容物があたかも原告のインクであるかのように記載されている。加えて,孔版印刷用インクの市場には,被告らの行為により,本件登録商標を表示している点で外見上全く同一であるにもかかわらず内容物が商標権者のものと無権限者のものという2種類のインクが流通することになる。以上の点からすれば,当該インクボトルを見た第三者はいずれも商標権者である原告が製造したインクが入っていると誤認する蓋然性が高い。上記のとおり,出所の混同は生じないという被告らの主張は,失当である。
イ 被告らの販売態様について 被告らの行為が商標の「使用」に当たることは,被告らがいかなる態様で顧客から本件登録商標の付された空のインクボトルを回収し,被告インクを充填して同インクを販売しているかによって影響されない。ただし,念のため被告らによるインクボトルの回収と販売の態様について述べるならば,大要,次の2つに分けることができる(甲16)。
(ア)@ 1つ目の販売態様(以下,「販売態様@」という。)は,次のようなものである。
被告コロナは,末端のユーザーによって使用された後の本件登録商標が付されたインクボトルを,末端のユーザーの属する組織(顧客)の購買担当者や事務係等からそのままの状態で,被告拓研を通じて回収し,被告拓研から引渡しを受ける。次に,被告コロナは,引き渡されたインクボトルを分解・洗浄した後,被告インクを充填し,キャップを取り付けて完成品として,被告拓研に対して販売する。そして,被告拓研は,同インクボトルに入った被告インクを学校,市役所等の顧客に対して販売し,実際にインクを使用するユーザーに被告インクが到達する(甲9,10)。被告コロナの地域特約店も,被告拓研と同様の行為を行っている。
被告らは,特定の顧客から回収された特定のインクボトルに被告インクが充填されて,同一の顧客に販売されるかのように述べている。たしかに,そのようなケースがあり得るかもしれない。しかし,本件登録商標が付された原告のインクボトルは規格品であり,同一規格であれば個々の一本一本のインクボトルに差異はないから,特定の顧客から回収された特定のインクボトルが被告コロナのインクの充填後に再度同一の顧客に戻る必要も実益もない。むしろ,多数の空のインクボトルを効率良く分解,洗浄し,インクを充填して組み立てるためには,同一形状のインクボトルを一括して処理するのが合理的である。そうであれば,被告らは,一般的には,ある顧客から回収した特定のインクボトルを,被告インク充填後に別の顧客に販売していると考えられる。
A 2つ目の販売態様(以下,「販売態様A」という。)は,次のようなものである。
被告コロナは,本件登録商標が付された空のインクボトルを不特定多数の者から回収し,又は,被告拓研が不特定多数の者から回収した空のインクボトルの引渡しを受ける。次に,被告コロナは,引き渡されたインクボトルを分解・洗浄した後,被告インクを充填し,キャップを取り付けて完成品として,被告拓研に対して販売する。そして,被告拓研は,被告インクが充填された同インクボトルを学校,市役所等の顧客に対して販売し,実際にインクを使用するユーザーに被告インクが到達する(甲9,10)。被告コロナの地域特約店も,被告拓研と同様の行為を行っている。したがって,この販売態様Aの場合は,顧客が空のインクボトルを提供することは前提とならない。
販売態様Aがあることは,被告らが販売態様@のために回収するインクボトルのほかにも,多数の空のインクボトルを回収していることから明らかである。すなわち,被告らが作成したパンフレットには,「※空容器が必要です」及び「お客様でご使用済みの空容器を無料回収しております。ご協力下さい」(甲16の添付資料5,甲19)との文章が記載されているところ,前者は販売態様@においてはインク購入のために空容器が必要であることを示しているが,後者は販売態様Aのために被告らが空のインクボトルを無料で回収していることを示している。しかも,被告らが作成したパンフレットには,「インク詰替えサービスをご利用の如何にかかわらず空容器の無料回収致します」との記載があるものすらある(甲21)。そして,この販売態様の具体例としては,(1)安田生命保険相互会社(柏支社)に対する被告インクの販売,(2)公文教育研究会に対する被告インクの販売などがある(甲18)。
(イ) 販売態様@であれ,販売態様Aであれ,被告らの行為は,いずれも本件登録商標が付されたインクボトルに被告インクを充填したものを転々流通させるものであるから,「商品の包装に標章を付したものを譲渡し,引き渡(す)行為」(商標法2条3項2号)に該当し,また,被告コロナの行為は「商品の包装に標章を付する行為」(商標法2条3項1号)にも該当する。すなわち,被告らの行為は,いずれの販売態様であっても商標の「使用」に該当するものというべきである。しかも,販売態様@において,あるユーザーから回収した特定のインクボトルをインク充填後に別のユーザーに販売したという態様であれば,被告インクが充填されて戻ってくるインクボトルは,回収されたインクボトルと規格の点では同じであるが同一物ではないのであるから,販売態様Aの場合と同様,被告らの行為が商標を「使用」するものというべきことは明らかである。
ウ 実際のユーザーの認識について 原告印刷機を設置している顧客(事業所等)においては,購買部門と使用部門とは異なるので,実際に被告インクを使用するユーザーはインクボトルに被告インクが充填されていることは知らず,インクボトルに表示されている本件登録商標を見てインクボトルには原告のインクが充填されていると誤認する。同様に,例えば被告拓研と教育委員会との間で契約が締結されている場合には,空のインクボトルを回収する相手は当該教育委員会傘下の学校であるから,各学校の使用部門だけでなく購買部門においても,インクボトルに表示されている本件登録商標を見てインクボトルには原告のインクが充填されていると誤認する(甲13,16)。
このように,実質的にみても,実際のユーザーにおいて誤認するような被告らの行為は,商標の「使用」に該当し,本件商標権を侵害するものである。
エ 被告らの主張について (ア) 被告らは,被告拓研は被告コロナの行うインク詰替えサービスの取次ぎをするものであるから,被告コロナが被告インクをインクボトルに充填して被告拓研に対して販売しているとの原告の主張は事実と異なると述べる。
しかし,被告コロナが,本件登録商標の付された空のインクボトルを回収して,分解・洗浄した後,被告インクを充填し,キャッピング組立てを行い,完成品として再生していることは明らかである(甲9,10)。そして,被告コロナが再生したインクボトルに,本件登録商標を付したまま被告インクを充填して,被告拓研に販売し,さらに被告拓研が各顧客に販売していることもまた明らかである(甲9,10,13,16)。被告拓研は,被告らが主張するように取次ぎをするだけでなく,独立の営業主体として本件登録商標が付された被告インクの販売行為を行っているものである。
(イ) 被告らは,顧客は被告らの行為を正しく理解してこれを積極的に利用しているのであり,空容器の管理についても注意を払っている,したがって被告コロナも容器の管理に万全を期しており,いわゆる1対1管理方式をとっている,と主張する。
しかし,「顧客は被告らの行為を正しく理解している」とか「いわゆる1対1管理方式をとっている」との被告らの主張は,それ自体抽象的な表現であるし,被告らの行為の中には,上述した販売態様Aの行為があるから(甲23),被告らの主張は,失当である。
しかも,上述した販売態様@も,空のインクボトルを回収するのは被告拓研であり,被告コロナは引き渡された空のインクボトルを分解,洗浄後,被告インクを充填し,さらに被告拓研が顧客に販売するというものである。そうすると,空のインクボトルの所有者と詰め替え品との間には1対1の関係が存在しないから,顧客(購買担当者及び使用者)に詰替えインクが原告のインクでないということが正確に伝わっているとみることはできない(甲16,22,23)。
被告らは,一方で空のインクボトルを持参した顧客に被告インクを充填するだけの営業であると言いながら,他方で空のインクボトルを提供しない者に対しても被告インクを販売したり(甲18,23),顧客から空のインクボトルを回収するべく協力を要請したり(甲19,21)している。これは,被告らの行為の主眼が,販売態様@であれ販売態様Aであれ,本件登録商標の付された空のインクボトルを市中から回収し,自己のインクを充填して販売することにあることを意味しており,店頭における酒の量り売りなどとは同一に論ずることはできない。
(ウ) また被告らは,インクボトルは顧客のものであり,被告らは単にその容器に充填した被告インクを販売するにすぎないから,仮に顧客が持参するインクボトルに本件登録商標が付されていたとしても,被告らは被告インクの販売に当たり商標を「使用」するものではない,と主張する。
しかし,インクボトルの所有権がだれに帰属するかということは,被告らの行為が商標の「使用」に当たることを左右しない(甲22)。
(エ) また被告らは,顧客は,インクボトルに充填されているインクは原告のインクではなく被告インクであると認識しているとし,これをもって被告らの行為は本件商標権の侵害に当たらないと主張する。しかし,商標権の侵害といえるかどうかは,商品が当該商標によって示された出所に由来するものかどうか,異なる出所に由来する場合は,その事実を作出した者に当該商標の使用権限があるかどうかによって決められるべきであり,特定の顧客が,商品が当該商標によって示された出所と異なる出所に由来することを知っていたか否かによるのではない。このことは,例えば,有名ブランドのコピー品であることを説明して販売したところで,商標権侵害を免れないことからも,明らかである。
【被告らの主張】 被告らの行為は,商標の「使用」に該当しないから,本件商標権を侵害しない。
ア 被告らの行為が,商標の「使用」に該当しないことについて (ア) 被告コロナの行っている営業は,顧客から使用済みのインクボトルを預かり,これに被告インクを詰め替えて,顧客に届けるというものであり,顧客は,インク代のみを負担する。
そして,被告拓研は,被告コロナとの間の契約に基づき,顧客と被告コロナとの間で行われる上記の行為の取次ぎをするものである。この点に関し,原告は,被告コロナは被告インクを本件登録商標を付したインクボトルに入れて被告拓研に販売していると主張するが,事実と異なる。被告コロナは,孔版印刷機を使用している顧客から,その使用により空となったインクボトルを預かり,これに被告インクを充填して,顧客に届けるという行為を行っているのであり,被告インクを被告拓研に対して販売しているものではない。
(イ) 顧客も,被告らの行っている営業の内容を理解しており,詰め替えられるインクが被告インクであって原告のインクではないことを認識している。
すなわち顧客が,インクボトルの中身のインクを使い切り,原告から新たなインクボトルに入った原告のインクを購入する場合,顧客は,インク代のほか,新たにインクボトル代,箱代を負担しなければならない。また,顧客が,中身のインクを使い切って不要になった空のインクボトルを廃棄するならば,資源の有効利用や環境への影響といった観点からの問題を生ずる。顧客は,こうした新たな経済的負担という問題や,資源の有効利用及び環境への影響といった観点から生ずる問題を勘案して,被告コロナと契約するものである。したがって,被告らと契約するに至った顧客は,空のインクボトルの管理について注意を払っている。そして,被告コロナの方も,空のインクボトルの管理について万全を期しており,いわゆる1対1管理方式をとっている。
(ウ) つまり,被告らの行っている営業において,インクボトルはもともと顧客の所有物であり,被告コロナは単にそのインクボトルに被告インクを入れて被告インクを販売するにすぎない。したがって,顧客が被告コロナに渡すインクボトルに本件登録商標が付されていたとしても,被告らの行為は商標の「使用」に該当しないから,本件商標権を侵害しない。
イ 被告コロナの営業の背景について (ア) 環境問題に対する国及び企業の取組は「資源の有効な利用の促進に関する法律」(平成3年法律第48号)を始めとして本格化し,平成12年には「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」(平成12年法律第100号)が制定された。同法は,環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の発展を図るため,国,独立行政法人等及び地方公共団体に対して環境物品等(使用後にその全部又は一部の再使用又は再生利用がしやすいことにより廃棄物の発生を抑制することができること…の事由により,環境への負荷の低減に資する製品等)の調達を推進する責務を課すと同時に,事業者及び国民に対しても,物品購入等の場合にはできる限り環境物品等を選択するように,一般的責務を課している。
(イ) 孔版印刷機は,操作が簡易であるほか,迅速・大量に印刷でき経済性にも優れているため,役所,学校,不動産業,スーパーマーケットなどの多業種にわたり,事務用,軽印刷用に幅広く利用されている。そして,こうした孔版印刷機用のインクが入ったインクボトルは消耗品であり,月産100万本ともいわれ,中身のインクを使い切って不要になったインクボトルは,顧客によって廃棄されるか,メーカーが回収して産業廃棄物として処理されるのが実情である。このような実情の下では,上記ア(イ)に記載したような問題が生ずる。
(ウ) 被告コロナは,上記(ア),(イ)の事情を背景として,上記ア(ア)に記載したような営業を開始したものである。
ウ 被告らの具体的行為について (ア) 顧客は,被告コロナに対し,被告コロナの作成した依頼書用紙(孔版インク詰替えサービス依頼票)を利用して,ファックスで申込みをする(乙13の1〜6)。被告コロナは,顧客からの申込み後,顧客からその有する空のインクボトルを受け取り,顧客に対して預り書を発行する(乙14)。その後,被告コロナは,顧客から預かった空のインクボトルについて,受入検査,分解・清掃,機種に適合したインクの充填,キャッピング組立て及び出荷検査を行って顧客に返し,納品書・請求書を発行する。
被告コロナは,これを4日間で行っている。すなわち,被告コロナは,空のインクボトルを預かってから4日後には,顧客に対して被告インクの充填されたインクボトルを渡している。
(イ) 被告コロナは,「お試し」という制度を設けている(乙7〜10)。これは,顧客が被告コロナの営業について理解を示しても,被告インクの品質を懸念するため,取り扱う単位をインクボトル2本として被告コロナの行うインク詰替えを実際に試してもらうためのものである。「お試し」の制度は,取扱いの単位がインクボトル2本という点が通常の場合と異なるだけで(被告コロナは,通常の場合の取扱いの単位としてはインクボトル10本以上を希望している。),顧客からその有する空のインクボトルを受け取って,これに被告インクを充填して顧客に返すという点は通常の場合と何ら異ならない(乙13の1,2)。
(ウ) 被告コロナは,「お試し」の制度によって顧客にインクの品質を確認してもらった後,「評価アンケート」に回答してもらっている(乙12の2,3)。
エ 原告は,被告らが,空のインクボトルを被告らに対して提供していない顧客に対しても本件登録商標を付したインクボトルに入れた被告インクを販売していると主張し,被告らのパンフレットにおいて,その「お願い」のコラムに被告らとの契約を前提とせずに空のインクボトルを提供してくれるよう求める記載があることがその根拠になると述べ,また,この販売態様の具体例として,(1)安田生命保険相互会社(柏支社)に対する被告インクの販売,(2)公文教育研究会に対する被告インクの販売,があると述べる。
しかし,被告らは,空のインクボトルを被告らに対して提供していない顧客に対して被告インクを販売したことはない。被告らの従業員が「お願い」のコラムを書いた理由は,「インク詰替えサービス」というだけでは単なる売り込みと思われて顧客の関心を引かないため,顧客に自分の話を聞いてもらえるチャンスを作るために,顧客が空のインクボトルの処分に困っていることを知っていたので,それを営業のきっかけにしようと考えて「お願い」のコラムを書き込んだものである。すなわち,「お願い」のコラムの記載は,空のインクボトルの処分問題をきっかけに,被告らの営業の説明に持ち込むという営業上のテクニックにすぎず,被告らの「インク詰替えサービス」が空のインクボトルを回収してこれを被告インクのための容器として利用し,容器入りのインクを販売する通常のインク販売を行っていることを示すものではない。
また,安田生命保険相互会社(柏支社)の事例については,被告コロナと安田生命保険相互会社(柏支社)との間の取引は,通常の場合と同様,安田生命保険相互会社(柏支社)から空のインクボトルの提供を受けた上で行っている。すなわち,被告コロナは,安田生命保険相互会社(柏支社)から,被告コロナの地域特約店である青木商会を通じて,空のインクボトルを受け取っている。
なお,公文教育研究会の事例は,被告らの営業の通常の場合とも「お試し」の場合とも異なる例外的な事例であった。本来,このような「お試し」は,被告コロナ作成のパンフレット(乙6)に記載しているとおり,顧客に空のインクボトル2本を用意してもらった上,有料で引き受けることになっている。ところが,この事例においては,被告らの従業員が公文教育研究会にインクボトルに入った被告インクのサンプル品を持参したものである(当該インクボトルは,被告らの在庫ではなく,被告らの従業員が他の顧客に事情を説明して借用したものであった。)。しかし,このような例外的な事例の存在をもって,被告らが空のインクボトルの提供を前提としない販売態様を恒常的にとっているということはできない。
(2) 争点2(原告の損害の内容及び額) 【原告の主張】 被告コロナ及び被告拓研は,その本店所在地や代表者を共通にしている。
この点からしても,実質的には,被告拓研は被告コロナの販売部門といえるものであり,また,被告コロナ及び被告拓研は一体となって上記の方法による販売を行っている。したがって,被告コロナ及び被告拓研の両名の行為は,共同不法行為の関係に立つ。
本件において,原告は,商標法38条2項に基づき,被告らが受けた利益を原告の被った損害額と主張する。被告らは,本件登録商標を付したインクボトルに入れた被告インクを1本当たり2400円以上で販売したところ,平成12年4月ころから平成14年2月末日ころまでの間の被告インクの販売数量は,インクボトル5万本分を下らない。そして,被告らの利益は1本当たり1000円を下ることはない。したがって,被告らは,少なくとも,1000円に5万本を乗じた額である5000万円の利益を得たものである。
上記によれば,商標法38条2項に基づき,被告らの行為によって原告の被った損害額は,被告らの利益と同額の5000万円と推定される。
【被告らの主張】 原告の主張は,否認し,争う。
当裁判所の判断
1 当裁判所の認定した事実 (1) 前記の当事者間に争いのない事実(第2,2)に証拠(甲7〜13,16〜19,21,乙6〜10,12の1〜3,13の1〜6,14,19,20,21の1〜3,22)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
ア 原告印刷機におけるインクボトル 原告印刷機(リソグラフ)においては,孔版印刷用インクの充填されたインクボトルを機器の該当部分に嵌め込んで使用するものであるところ,内容物たるインクを使用し切った場合には,通常は,インクボトルごと新品に交換するものとされている。インクボトルは,印刷機の該当部分に嵌合するために特徴的な形状となっており,本件登録商標が表示されている。
イ 被告らの販売態様 被告らは,原告印刷機の利用者から使用済みのインクボトル(空容器)の引渡しを受けて,これに被告インクを充填して販売している。被告らの販売先は,官公庁(警察署,市役所等),学校(大学,高校,中学)などである。
被告らの販売態様は,被告コロナ及び被告拓研の双方が関与する場合と,被告コロナ及びその地域特約店が関与する場合があるが,次のとおり,いずれも,原告のいうところの販売態様@に属するものである。
(ア) 被告拓研及び被告コロナが関与する場合 顧客たる事業所や学校の購買担当者や事務係等は,被告拓研作成の説明書類により被告インクの販売方法を理解した上で,「孔版インク詰替えサービス依頼票」と題する被告拓研宛ての専用の用紙に,孔版印刷機のメーカー,機種,インクボトルの種類,インクの色,詰替えを希望する本数,顧客の名称,所在地等の事項を記入して,これを被告拓研の「リサイクル担当」にファクシミリで送信する。
顧客から依頼票の送信を受けた被告拓研は,被告拓研又は提携運送会社の車両により顧客から本件登録商標の付された空インクボトルを回収した上,これを被告コロナに送付するとともに同被告にインクの詰替えを依頼する。
被告拓研から空インクボトルの送付を受けた被告コロナは,インクボトルを分解・洗浄した後,被告インクを充填し,キャップを取り付けて完成品として,被告拓研に対して送付する。被告拓研は,被告インクの充填されたインクボトルを顧客に納品し,顧客に対して納品書及び請求書を発行する。顧客から空インクボトルを回収してから被告インクの充填されたものが納品されるまでの期間は,4日間である。
(イ) 被告コロナ及びその地域特約店が関与する場合 上記(ア)の場合と同様,顧客は,被告コロナ作成の説明書類により被告インクの販売方法を理解した上で,被告コロナ宛ての「孔版インク詰替えサービス依頼票」に上記の所定事項を記入して,これを文房具店などの被告コロナの地域特約店にファクシミリで送信する。地域特約店は,これを被告コロナ宛てにファクシミリで再送信するとともに,地域特約店又は被告コロナの提携運送会社の車両により顧客から本件登録商標の付された空インクボトルを回収した上,これを被告コロナに送付する。
地域特約店から空インクボトルの送付を受けた被告コロナは,インクボトルを分解・洗浄した後,被告インクを充填し,キャップを取り付けて完成品として,地域特約店に対して送付する。地域特約店は,被告インクの充填されたインクボトルを顧客に納品し,顧客に対して被告コロナ名義の納品書及び請求書を発行する。空インクボトルの回収から納品までの期間は,5日間である。
(ウ) インク詰替えサービスの「お試し」について 上記の(ア),(イ)のインク詰替えは,インクボトル10本以上について行われているが,新規の顧客のなかには,被告インクの品質への不安から初回から10本の詰替えを注文することをためらう場合も少なくない。そこで,被告らにおいては,「お試し」と称して,空インクボトル2本を回収してこれに被告インクを充填して販売することも行っている。この「お試し」は,被告拓研が関与する場合と地域特約店が関与する場合の双方において行われており,本数以外の点は,上記(ア),(イ)と同様である。
(2) 事実認定の補足説明(原告の主張について) 上記認定のとおり,被告らによる孔版印刷用インクの販売は,原告のいうところの販売態様@により行われている。
ア 原告は,被告らが,上記販売態様(販売態様@)に加えて,顧客が空のインクボトルを提供することを前提としない販売態様(原告のいうところの販売態様A)をも行っていると主張し,被告拓研作成の「インク詰替えサービスのお試しのご案内」(甲19)に「お客様でご使用済みの空容器を無料回収しております。
ご協力下さい」との記載があり,被告拓研作成の「”孔版インク詰替えサービス代”のお見積書」(甲21)に「インク詰替えサービスをご利用の如何にかかわらず空容器の無料回収致します」との記載があることを指摘し,また,原告会社従業員作成の報告書(甲18,23)には,被告らが安田生命保険相互会社(柏支社),公文教育研究会,獨協大学,成田市役所,成田市内の小中学校,県立土浦第一高校及び県立柏西高校に対して,空のインクボトルの提供を受けていないにもかかわらず,インクボトルに入った被告インクを販売したとの記載があることを挙げる。
イ たしかに被告拓研作成の上記文書(甲19,21)には原告の指摘する内容の記載があるが,被告ら代表者Aの陳述書(乙22)では,上記文書(甲19)の記載は,空インクボトルを顧客に代わって廃棄することを申し出ることをきっかけにインク詰替えサービスの売り込みを図ることを目的として記載したものと説明されている。この説明自体は必ずしも説得的な内容とはいえないが,本件においては,被告らにより現実に販売態様Aの方法によるインク販売がされていたことを直接に示す証拠は全く存在せず,上記文書(甲19,甲21)に原告指摘の記載のあることのみでは,被告らにより現実に販売態様Aの方法によるインク販売が行われていたと認定することはできない。
ウ また,原告従業員作成の報告書(甲18,23)の記載については,そもそも他の従業員が被告らの顧客から聞き取ったという内容をまとめたというもので,その内容自体が再伝聞である上,その内容も販売態様Aの販売が行われたことを直接見聞したというものではなく,具体的な調査方法やその結果判明した具体的事実については明らかでないものを含んでいる。かえって,安田生命相互会社(柏支社)に対する販売については,被告ら代表者Aの陳述書(乙20),安田生命相互会社(柏支社)の担当者が被告コロナに提出したアンケート(乙21の1),安田生命相互会社(柏支社)を担当する被告コロナの地域特約店の帳簿・納品書(乙21の2,3)によれば,安田生命保険相互会社(柏支社)は,被告コロナに対してインク詰替えサービスを依頼し,これに基づき,被告コロナの地域特約店である青木商会に平成13年2月2日に2本,平成13年7月9日に8本,平成13年10月3日に8本,平成14年3月18日に16本の空のインクボトルを引き渡していると認められ(この点について,原告は甲25を提出して,原告により販売された本数を上回るインクボトルにつきインクの詰替えが行われていると指摘するが,仮に原告指摘の事実があったとしても,同じインクボトルを2度詰替えに利用したことも考えられるから,上記認定を左右するには足りない。),この点に照らせば,上記報告書(甲18,23)の信用性には疑問がある。
エ もっとも,公文教育研究会については,被告ら代表者Aの陳述書(乙20,22)によれば,被告拓研の従業員が,他の学校から借り受けた空インクボトルに被告インクを充填したものを1本,サンプルとして無償で引き渡した事実があることが認められる。しかし,これは公文教育研究会総務課の購買担当者から強く要請されたことから行ったことであり,被告拓研の通常の営業方法に反する,例外的な事例であったと認められるから(当該サンプルと被告拓研の従業員から公文教育研究会の購買担当者宛ての伝言メモを,速やかに原告従業員が持ち去っていることに照らせば,公文教育研究会の購買担当者の強い要請自体に何らかの背景事情が存在したという疑問も,ないわけではない。),このような例外的な事例があることをもって,直ちに,被告らが通常の業務において,販売態様@に加えて販売態様Aによるインク販売をしていたと認めることはできない。
2 商標権侵害の有無についての判断 そこで,次に,被告らの行為が商標の「使用」に該当し,本件商標権を侵害するかどうかを,判断する。
(1) 一般に,商標法上の商標の「使用」に該当するというためには,当該商標が商品の取引において出所識別機能を果たしている必要がある。
この点に照らせば,個別の取引において,買主から商品の容器又は包装紙等が提供され,売主が商品を当該容器に収納し,あるいは当該包装紙等により包装して,買主に引き渡す場合には,当該容器ないし包装紙等に商標が表示されていたとしても,商標法上の商標の「使用」には該当しない。けだし,この場合には,容器ないし包装に付された商標とその内容物である商品との間には何らの関連もなく,当該商標が商品の出所を識別するものとして機能していないことが外形的に明らかだからである(例えて言えば,顧客が酒店に空瓶を持参して,酒を量り売りで購入する場合や,顧客が鍋等の容器を豆腐店に持参して豆腐等を購入する場合と,同様である。)。
(2) これを本件についてみると,前記認定によれば,被告らの孔版印刷用インクの販売においては,顧客は被告拓研ないし被告コロナの地域特約店に空インクボトルを引き渡し,被告コロナが当該空インクボトルに被告インクを充填し,これが再び被告拓研ないし被告コロナの地域特約店から顧客に納品されるものであり,インクボトル上の本件登録商標の表示は,当該インクボトルがもともと原告から購入されたものであることから,当初からインクボトルに付されていたものである。
そうすると,被告らの孔版印刷用インクの販売においては,本件登録商標は顧客から被告インクを充填するための容器として提供されたインクボトルに当初から付されていたものであって,本件登録商標とインクボトルの内容物である商品たる被告インクとの間には何らの関連もなく,本件登録商標が商品の出所識別標識としての機能を果たす余地のないことが外形的に明らかであるから,被告らの行為は商標法にいう商標の「使用」に該当しないものというべきである。
(3) この点について,原告は,被告らの行為が商標の「使用」に該当し,本件登録商標を侵害する旨を述べ,様々な主張をしているので,これらの点につき補足して説明する。
ア 原告は,本件登録商標が付されたインクボトルに原告のインクとは異なる被告インクが充填されていること自体,商標の有する出所表示機能,品質保証機能,広告機能を害するから,被告らの行為は「商品の包装に標章を付したものを譲渡し,引き渡(す)行為」(商標法2条3項2号)に該当し,しかも,被告コロナの行為は,本来の役割を終えたインクボトルを完成品として再生させるものであり「商品の包装に標章を付する行為」(商標法2条3項1号)にも該当する旨を主張する。
しかし,既に説示したとおり,個別の取引において買主から提供された容器に商標が付されており,売主が当該容器に商品を収納してこれを買主に引き渡したとしても,市場において商品に商標が付された場合と異なり,当該商標が商品の出所識別標識として機能する余地はない。原告の主張は,買主から容器が提供された場合を,市場での取引において商品が商標の付された容器に収納されて移転する場合と区別せずに論ずるものであって,採用することはできない。
なお,原告は,論拠として改造ファミコン事件第一審判決を挙げるが,同判決の事案は,商品にXの商標が付されて市場において流通した事案であり,買主から提供された容器に商標が付されていた本件とは,事案を異にするものであるから,同判決を引いて被告らの商標権侵害をいう原告の主張は,失当である。
イ また原告は,被告らは,特定の顧客から回収された特定のインクボトルを,インク充填後に当該顧客とは別の顧客に販売している場合があると主張し,この場合は,被告インクが充填されて戻ってくるインクボトルは,回収されたインクボトルと規格の点では同じであるが同一物ではないのであるから,被告らの行為は商標の「使用」に該当する旨を主張する。
しかしながら,乙19(被告ら代表者Aの陳述書)及び甲8(原告作成の写真撮影報告書)によれば,被告らは,顧客から提出された空インクボトルに独自のロット番号を印字し,提出を受けた顧客の名称を記入するなどして,インクボトルが同一の顧客に対して返還されるように管理していることが認められるものであり,原告の主張はその前提を欠く(なお,付言するに,仮に特定の顧客から回収されたインクボトルが他の顧客に返還される余地があるとしても,顧客としては同一の種類形状のインクボトルが返還されれば,それをもって自己の提出したインクボトルと同一のインクボトルが返還されたものと認識しているものであり,社会的にも同一物が返還されたものと評価されるものであるから,いずれにしても商標の「使用」に該当するものと解することはできない。この点は,例えて言えば,年賀はがきの印刷において顧客が官製年賀はがきを持ち込んだ場合に,顧客に返還される官製はがきが必ずしも同一の番号のはがきとは限らないとしても,社会的には顧客の持ち込んだはがきに印刷がされるものと評価され,はがきの売買と評価されないのと同様である。)。
ウ 原告は,被告インクを充填したインクボトルを見た第三者はいずれも商標権者である原告が製造したインクが入っていると誤認する蓋然性が高い,と主張し,その理由を縷々述べている。
しかしながら,本件においては,被告インクを充填したインクボトルは市場において展示ないし移転することはないので,インクボトルに付された本件登録商標がインクの出所を識別する標識として機能する余地はない。
この点について,原告は,本件においては,顧客は被告拓研ないし被告コロナの地域特約店から被告インクを購入するものであり,顧客と被告拓研ないし地域特約店との間の売買と,被告拓研ないし地域特約店と被告コロナとの間の売買という2つの売買が存在する旨を主張する。しかし,被告拓研は被告コロナと本店所在地及び代表者を共通にするものであり,被告コロナ内に所在する同被告の販売担当部門というべきもので(甲9には被告コロナは製造部門,被告拓研は販売部門である旨の記載があり,甲19,乙7〜9には,被告拓研は被告コロナ内に所在する旨の記載がある。),両者は一体というべきであり(原告も被告らは一体であるとして共同不法行為を主張している。),また,被告コロナの地域特約店が顧客と被告コロナとの取次ぎをするにすぎないことは,甲12(地域特約店の募集要項)の記載に照らし明らかであって,原告の主張は採用できない(なお,本件において仮に被告拓研と被告コロナを別個の取引主体と解するとしても,顧客と被告拓研の間の売買,及び,被告拓研と被告コロナの間の売買は,それぞれ買主が容器を提供する態様ということができるから,いずれにしても商標の「使用」に該当する余地はない。)。
エ また原告は,原告印刷機を使用している顧客(事業所等)においては,購買部門と使用部門とが異なるので,実際に被告インクを使用する者はインクボトルに被告インクが充填されていることは知らず,インクボトルに表示されている本件登録商標を見てインクボトルには原告のインクが充填されていると誤認する旨を主張する。
しかしながら,顧客が法人である場合には,当該顧客の第三者との間の取引については当該取引を担当する従業員(取引の権限を授権された代理人)を基準としてその認識を検討すべきであり(民法101条1項参照),被告インクの購入後にこれを使用する従業員がインクボトルと内容たるインクとの関係を知らないとしても,単に商品購入後の購入者内部における事情にすぎず,これを理由に本件登録商標が出所表示機能を果たしていると認めることはできない。原告の主張は,法人が取引主体となった場合における法律関係の基本的理解を欠くものといわざるを得ず,到底採用できない。
3 公文教育研究会に対するサンプルの無償提供について 前記1(3)エにおいて認定のとおり,公文教育研究会については,被告拓研の従業員が,他の学校から借り受けた空インクボトルに被告インクを充填したものを1本,サンプルとして無償で引き渡した事実があることが認められる。しかし,前記認定のとおり,これは被告拓研の通常の営業方法に反する,例外的な事例であり,被告らにおいて今後このような販売方法をとるおそれがあるとは認められないから,このような例外的な事例があることをもって,本件において,原告の被告らに対する差止請求につき,その必要性を肯定することはできない。
また,本件において,原告は商標法38条2項に基づき被告らの利益をもって原告の損害と主張しているものであるところ,上記のとおり,公文教育研究会に対するサンプルの提供は無償で行われたものであるから,これについて原告の損害を認めることもできない。
4 結論 以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は,いずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 和久田道雄
裁判官 田中孝一
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