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関連審決 審判1999-11013
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10525審決取消請求事件 判例 商標
平成14行ケ165審決取消請求事件 判例 商標
平成19行ケ10391審決取消請求事件 判例 商標
平成14行ケ44審決取消請求事件 判例 商標
平成20行ケ10323審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 指定役務 /  著名な略称 /  周知商標 /  公序良俗(4条1項7号) /  4条1項8号 /  4条1項19号 /  不正目的(不正の目的) /  権利濫用(権利の濫用) /  観念(観念類似) /  信義則 /  外国 /  卑猥(卑わい) / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 231号 審決取消請求事件
原告 【A】
訴訟代理人弁護士 菊地武
被告 特許庁長官【B】
指定代理人 【C】、【D】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/03/27
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成11年審判第11013号事件について平成12年5月18日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成9年3月8日、平成9年商標登録願第24798号をもって、「IRL」の文字を横書きしてなる商標につき、第41類「自動車レースの興行の企画・運営又は開催,二輪自動車レースの興行の企画・運営又は開催」を指定役務として商標登録出願をしたが、平成11年5月21日拒絶査定があったので、同年7月2日審判請求をし、平成11年審判第11013号事件として審理されたが、平成12年5月18日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年6月6日原告に送達された。
2 審決の理由の要点 (1) 審判において通知した拒絶の理由 本願商標は、「IRL」の欧文字を書してなるものであるところ、1998年11月1日(第3版第1刷)、株式会社小学館発行「例文で読むカタカナ語の辞典〈第3版〉」の「IRL」の項(788頁)によれば、「1(Indy Racing League)アメリカ独特のモーターレース,インディ500を中心とするレースシリーズの総称.1996年にCARTを締め出してスタートした.2(Ireland)アイルランドの国際自動車識別記号.」の記載が認められる。また、1997年7月28日付毎日新聞(東京;夕刊)には、「インディカー・レースは1911年に第1回大会が開催された『インディ500』に由来する。『インディ500』を中核にシリーズ戦として展開してきたが昨年、主催団体のチャンピオンシップ・オートレーシング・チームス(CART)からインディ500の開催権を持つインディアナポリス・モーター・スピードウエー(IMS)が独立。独自にインディ・レーシング・リーグ(IRL)を旗揚げした・・」なる記事が認められるところである。その他、多数の新聞記事などにおいて、「IRL」の語は、「インディ500」を中心とした、1996年に新設されたモーターレースシリーズである「Indy Racing League」の略称を表すものとして掲載されていることが認められる。
上記事情及び本件出願の指定役務との関係よりすれば、本願商標に接する取引者、需要者は、アメリカのインディアナポリス・モーター・スピードウェー(IMS)が開催権を持つ著名なモーターレースの名称の略称を表したと理解するとみるのが相当である。
してみると、このような商標を、「Indy Racing League」の主催者等と何らの関係をも有しないと認められる請求人(出願人。原告)が採択し、その指定役務に使用するときは、取引者、需要者をして、上記モーターレースの主催者等の承諾を得た者若しくは上記モーターレースと何らかの関連を有する者の取扱いに係る役務であるかのように、その出所について誤認、混同を生じさせるものであって、公正な取引の秩序を乱し、ひいては、国際信義に反するものであって、公の秩序を害するおそれがあるものといわなければならない。
したがって、本願商標は商標法4条1項7号に該当するものと認める。
(2) 請求人(原告)の主張 (2)-1 審判において新たな拒絶の理由として、本願商標は、商標法4条1項7号に該当するとの通知があったので、原審の拒絶の理由である同法4条1項8号における「著名な略称」には該当しないとする原告の主張が認められたものである。
また、周知商標不正目的による使用排除のために同法4条1項19号が設けられたのであるから、立法の趣旨からして、以前であれば信義則違反などを理由に同条7号を適用していた事案に対しては同条19号を適用すべきであるから、本願商標は、その適用される条文は、同条15号と同条19号とすべきところ、これらの条文は、著名性の判断が出願時であり、前記したように、「IRL」が、本願商標の出願時に「著名な略称」には該当しない以上、本件出願を拒絶すべき理由はない。
(2)-2 本願商標とその要部において同じくする「日本インディ」(平成7年商標出願公告第26763号)が登録されている事実からも、本願商標は商標法4条1項7号に該当しない。
(3) 審決の判断 (3)-1 本願商標は、「IRL」の欧文字よりなるものであるところ、該文字は、前記拒絶理由通知で示したとおり、「インディ500」を中心とした、1996年に新設された米国のモーターレースシリーズとして著名な「Indy Racing League」の略称を表したと理解されるものであり、本願商標の指定役務の取引者、需要者に知られているものと認められる。
ところで、商標法4条1項8号は、「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」と規定し、このような商標は、人格権を保護する目的から登録することができないとしているものと解されるところ、「IRL」は、上記のように、モーターレースのシリーズ名の略称と認められるから、「IRL」が「Indy Racing League」の略称として著名であるか否かにかかわらず、本願商標は、人格権保護を目的とした商標法4条1項8号の規定は適用されないものである。
(3)-2 一方、商標法4条1項7号の規定は、「商標自体の構成が矯激、卑猥な文字、図形であって、公序良俗に反する場合」のほか、「商標の構成自体がそうでなくとも、当該商標を採択し、その指定役務に使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般道徳観念に反する場合」も含まれると解されるところ、本願商標は、その指定役務との関係からすると、この種役務の取引者、需要者に、「Indy Racing League」(インディ・レーシング・リーグ)の略称を表したと理解されるものであり、この主催者等と何らの関係をも有しないと認められる原告が採択し、
その指定役務に使用するときは、その取引者、需要者をして、上記モーターレースの主催者等の承諾を得た者若しくは上記モーターレースと何らかの関連を有する者の取扱いに係る役務であるかのように、その出所について誤認、混同を生じさせるものであって、公正な取引の秩序を乱し、ひいては、国際信義に反するものであって、公の秩序を害するおそれがあるものといわなければならない。
(3)-3 原告は、「日本インディ」なる商標は、本願商標とその要部において同じくするにもかかわらず、登録されていることからしても、本願商標は商標法4条1項7号に該当しない旨主張するが、「日本インディ」がモーターレースの名称としてよく知られているという事実は見いだせないばかりか、「日本インディ」は、その構成全体をもって認識されるというべきであるから、本願商標とその要部を同じくするということもできない。
したがって、過去に「日本インディ」なる商標が登録されたことをもって、本願商標が商標法4条1項7号に該当しないとする原告の主張は理由がないものといわざるを得ない。
(3)-4 以上のとおり、本願商標は、当審で通知した拒絶の理由に該当するものというべきであるから、登録することはできない。
原告主張の審決取消事由
従来の審査審判例や判決例は、信義則違反や権利濫用を理由として商標登録出願を拒絶する場合も、著名な商標が出願前から外国で使用されていた場合も、商標法4条1項7号に該当するという扱いをしていた。
商標登録の可否の判断時期に関し、商標法は一般原則として登録査定主義を採用するとともに、4条1項8号、10号、15号、19号の場合には出願時主義を加味している。つまり、8号の場合は出願時が、7号の場合は登録時が判断時となる。審決は、出願時である平成9年(1997)が判断時となると、1996年に新設されたこのモーターレースシリーズが著名性を獲得していたとはいえないので、わざわざ7号の適用を持ち出したといえる。
けれども、法の適用は二者択一であり、便宜的に置き換えることは許されない。
出願時に8号所定の著名か否かをまず判断すべきであり、審決がいきなり7号を適用したのは法の適用の誤りである。
審決取消事由に対する被告の反論
本願商標を構成する「IRL」の語が本願商標の出願当時「Indy Racing League」の略称を表すものとして著名であったか否かにかかわらず、本願商標が商標法4条1項8号に該当しないのは、審決認定のとおりである。審決は、法律の適用を便宜的に置き換えたものではない。審判手続においては、本願商標が同条項の7号に該当する旨拒絶理由を通知しており、審決はいきなり同号を適用したものではない。
当裁判所の判断
原告が本訴で主張する事実関係は、本願商標の出願時である平成9年3月8日当時においては、「IRL」が、「Indy Racing League」 の略称を表すものとして著名性を獲得していた事実はなく、周知ですらなかったというにある。他方において、
「本願商標は、その指定役務との関係からすると、この種役務の取引者、需要者に、「Indy Racing League」(インディ・レーシング・リーグ)の略称を表したと理解されるものであり、この主催者等と何らの関係をも有しないと認められる原告が採択し、その指定役務に使用するときは、その取引者、需要者をして、上記モーターレースの主催者等の承諾を得た者若しくは上記モーターレースと何らかの関連を有する者の取扱いに係る役務であるかのように、その出所について誤認、混同を生じさせるものであって、公正な取引の秩序を乱し、ひいては、国際信義に反するものであって、公の秩序を害するおそれがあるものといわなければならない。」とした審決の認定、判断部分について、原告は争っていない。
原告の主張の要点は、上記出願時を基準とすれば本願商標は商標法4条1項8号を理由として、その出願が拒絶されることはなかったのに、審決時において事実関係が変化したことから、審決時を基準として判断することができる同条7号の適用により本願商標出願を拒絶するのは誤りであるというにある。しかしながら、審決は、上記のとおり、8号適用の前提となる事実関係とは別個に、7号適用の前提となる事実関係(この事実関係も原告の争うところではない。)を踏まえて、本願商標は7号所定の商標に当たると判断しているものである。審判手続において、7号に該当する旨の拒絶理由をあらかじめ請求人の原告に通知していること自体は審決の認定するとおりであり、原告の争うところではない。
したがって、原告が主張するところをもって、審決のこの判断に誤りがあるとすることはできず、審決に法律の適用の誤りないし手続上の瑕疵は認められない。
結論
以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、主文のとおり判決する。
(平成13年2月20日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史