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関連審決 審判1997-17818
関連ワード 包装 /  識別機能 /  指定商品 /  不使用 /  権利濫用(権利の濫用) /  通常使用権 /  国内 /  使用義務 /  販促品 /  使用許諾 /  存続期間 /  更新登録 /  正当な理由 /  継続 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 335号 審決取消請求事件
原告 ハーツシステム インコーポレーテッド 代表者 【A】
訴訟代理人弁理士 木村三朗、大村昇、佐々木宗治、小林久夫
被告 【B】
訴訟代理人弁理士 杉山泰三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/02/27
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成9年審判第17818号事件について平成12年4月12日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、登録第1015861商標(本件商標)の商標権者である。本件商標は、「HERTZ」と「ハーツ」の文字を2段に横書きしてなり、旧第25類「紙類、文房具類」を指定商品として昭和46年4月7日に登録出願され、昭和48年6月1日に設定登録された。その後、昭和58年6月1日と平成5年6月1日に商標権存続期間更新登録がされている。
被告は、平成9年10月17日、商標法50条に基づき、原告を被請求人として本件商標の登録取消しの審判を請求し、平成9年審判第17818号事件として審理されたが、平成12年4月12日、出訴期間として90日が付加された上「登録第1015861号商標の登録は取り消す。」との審決があり、その謄本は同年5月10日原告に送達された。
2 審決の理由の要点 (1) 被告(請求人)の主張 被告は、審判請求の理由及び答弁に対する弁駁を次のとおり述べ、証拠方法として審判甲第1号証及び第2号証を提出している。
(1)-1 本件商標について被告が調査したところ、本件商標はその登録に係る指定商品について、原告若しくは原告により使用許諾を受けた使用権者によって、過去3ヶ年の間に、日本国内において使用された事実を認めることができない。よって、本件商標は、商標法50条の規定に該当し、その登録に係る指定商品中の上述の商品について登録を取り消されるべきである。
(1)-2 原告は、株式会社日本ハーツが本件商標の通常使用権者であると主張しているが、この事実を示す資料、証拠などはなく、したがって、仮に、同社が本件商標を使用していたとしても、この使用が本件商標の使用権者によって行われたものであるかどうか不明である。
原告提出の審判乙第1号証の1〜4には「ハーツ宣材:プラチナボールペン」「ハーツ宣材:書類ホルダー」などの記載があるが、「ハーツ宣材」とは具体的には何のことか不明であり、したがって、これらの証拠物件をもってしては、少なくとも、本件商標が「プラチナボールペン」若しくは「書類ホルダー」なる商品に使用されていたかどうかは特定することができない。
また、仮に、「ハーツ宣材:プラチナボールペン」が審判乙第2号証の上方の写真に示されたもの、「ハーツ宣材:書類ホルダー」が審判乙第2号証の下方の写真に示されたものであると主張するのであれば、この主張は、審判乙第2号証と前記の審判乙第1号証の1〜4との関連を裏付ける資料の提出若しくは立証が全くないという事実に徴し、極めて信憑し難い。
審判乙第2号証の写真に示されている各商品にはその出所(製造業者、取扱業者など)の表示がなく、他にこれが原告の主張する(株)日本ハーツの商品であることを示す資料、証拠もないので、これが同社のものであるかどうかは全く不明である。審判乙第2号証の下方の写真に示されている商品は「ゼムクリップ」であって、審判乙第1号証の1〜4記載の「書類ホルダー」ではない。
審判乙第2号証の写真の台紙には「撮影者【C】」とあり捺印もあるが、写真と台紙間には同人の割印の押捺がなく、したがって、この写真は撮影者が不明ということになり、証拠能力に欠けるものである。
(2) 原告(被請求人)の主張 原告は次のとおり述べ、証拠方法として審判乙第1号証ないし審判乙第5号証(枝番4号を含む。)を提出している。
(2)-1 本件商標は、指定商品中文房具類、特にボールポイントペン、書類ホルダー(クリップ)に、本件審判請求の登録前3年間に、本件商標の通常使用権者である(株)日本ハーツによって使用されていた。その事実は、審判乙第1号証及び同第2号証によって立証される。
(2)-2 被告は、(株)日本ハーツが本件商標の通常使用権者であることについて争っているので、この点について立証する。
(株)日本ハーツは、本件商標権者である原告の親会社であるハーツ インターナシヨナル リミテッドとマツダ株式会社との合弁事業として1990年(平成2年)設立された会社であって、自動車のレンタルの事業を商標「HERTZ/ハーツ」を用いて日本で行うことをその目的としている。
この事実は、審判乙第3号証(合弁契約書、フランチャイズ契約書)、同第4号証(パンフレットHertz)及び同第5号証(封筒)によって立証される。
(2)-3 被告は、審判乙第1号証のないし4の記載内容は不明であるという。しかし、その成立を争っていないので、成立自体は認めたものということができる。
「ハーツ宣材」は文字どおり、これに続いて記載されているプラチナボールペン(ボールポイントペン)及び書類ホルダーを総称した表現であって、事業の宣伝用材を意味する。その商品がそれぞれ具体的にいかなる商品であるかについては、審判乙第2号証の写真に示すとおりである。これらの商品はフランチャイジー(例、
南九州レンタリース株式会社・・・審判乙第1号証の1)が顧客にサービス品として頒布するものであるが、(株)日本ハーツ(通常使用権者)との関係においては、
売買取引契約の下に商品の受渡し(譲渡)が行われている。
したがって、本件商標がその指定商品(ボールポイントペン、書類ホルダー等)に使用されていることは、審判乙第1号証及び審判乙第2号証によって立証されている。審判乙第2号証の写真に示されている商品ボールポイントペン及び書類ホルダー(クリップ)は、(株)日本ハーツから原告代理人あて、審判乙第1号証に記載されている商品であるとして請求書(報告書)(審判乙第1号証)と共に送付されてきたものである。
したがって、これら商品の現実の製造者がだれであろうと、本件商標の通常使用権者である(株)日本ハーツが、「譲渡」する商品であることは審判乙第1号証によって証明されている。
また審判乙第2号証の写真は、原告代理人事務所所員である写真撮影者が原告代理人の指示に基づいて、原告代理人事務所において、原告代理人あてに送られて来た上記商品を撮影したものである。
被告は写真と台紙との間に撮影者の割印のないことを理由に証拠能力に欠けると主張しているが、割印は必須の要件ではないので、この点についての被告の主張は論拠がない。
被告は、写真下段に示される商品はゼムクリップであって、書類ホルダーでないと主張する。しかし写真下段に示される商品は関係書類を一括してクリップする(綴じる)ために用いるものであるから、高級感を持たせるために書類ホルダーと称することは何ら差し支えなく、本件通常使用権者が、写真下段の商品を書類ホルダーと自ら称して譲渡することに矛盾はない。
商標の使用とは「商品又は商品の包装に商標を付したものを譲渡し、引き渡し、・・・する行為」をいう(商標法2条3項)。
したがって本件商標権者の上記の行為は本件商標の使用に該当する。
(3) 審決の判断 原告が提出した審判乙第1号証及び審判乙第2号証(枝番号を含む。)によれば、(株)日本ハーツが、商品「ボールポイントペン」及び「クリップ(書類ホルダー)」に「Hertz」の文字を付して、そのフランチャイジーである南九州レンタリース株式会社等に販売したものと認められる。
しかしながら、該商品は、(株)日本ハーツ並びにフランチャイジーである南九州レンタリース株式会社等が実施しているレンタカーリースによる売上げ促進のための宣伝サービス用品であって、しかも、これを購入し得るものはフランチャイジーに限定されると推認することができるところである。そして、フランチャイジーは、自己の営業の目的であるレンタカーリースの利用促進のための宣伝サービス用品として、顧客に無償配布するものと認められる。
そうとすれば、これを入手する者が限定されており、取引の流通過程に置かれていたとはいい難いものであるから、それ自体が独立の商取引の対象物たる商品ではなく、カーリースの単なる広告媒体にすぎないものであり、商標法上の商品とは認められない。
なお、販売促進のための宣伝サービス用品に使用した商標に関し判示した東京高裁平成元年(行ケ)第139号平成元年11月7日判決がある。
してみれば、審判乙第1号証ないし審判乙第5号証(枝番号を含む。)を総合勘案するも、本件商標が継続して3年以上日本国内において通常使用権者によって、
その指定商品について使用されていたものとは認めることができない。
したがって、本件商標の登録は、商標法50条1項の規定により、その登録を取り消すべきものである。
原告主張の審決取消事由
1 本件商標の使用 原告は1918年にアメリカにおいてレンタカー業務を開始したが、日本では1978年からニッポンレンタカーサービス株式会社と業務提携をし、共同して原告のレンタカー業務のネットワークの構築をした。このネットワークは1990年(株)日本ハーツに引き継がれた。(株)日本ハーツは、原告の親会社であるハーツ インターナショナル リミテッドとマツダ株式会社との合弁事業として1990年に設立された会社である。本件商標は、以下のとおり、原告のマスターライセンシーである(株)日本ハーツによって使用されていたものである。
(株)日本ハーツは、カーレンタルの業務促進のため、本件審判請求の登録日である平成9年10月20日前3年の間に、多くの販売促進品を製作し、日本各地に設立されたフランチャイジー(南九州レンタリース株式会社、北海道サービス株式会社、株式会社デイカバー アメリカ マーケティング等)を通じて現実の顧客及び将来の顧客に配付してきた。それらの販売促進品には本件商標が使用されている。
販売促進品の中には、本件商標の指定商品に属するプラチナボールペン、書類ホルダー(クリップ)も含まれている。
2 商標登録の取消しを免れる正当な理由 (1) 上記フライチャイジーには、(株)日本ハーツが、他に依頼して製作して所有するプラチナボールペン、書類ホルダー(クリップ)を有償にて譲渡してきた。
これらの譲渡先は、不特定多数のレンタカー利用者であり、特定の会員に限られない。この譲渡は、(株)日本ハーツのサービスの一部として顧客に頒布するものであるから、その営業に欠くことのできない必需品である。仮にこれらボールペン等に、他人が本件商標と同一の商標を登録し、(株)日本ハーツの商標使用につき商標権侵害を主張し、あるいはボールペン等に本件商標の標章を表示するとなれば、原告の営業に重大な支障を来し、原告の業務との間に混同を生じさせる。このような事態を避けるため、本件商標登録が必要不可欠である。
(2) 商標登録の不使用審判取消しは、登録商標の使用義務違反のほかに、他人の商標の選択の自由を確保することを目的としている。上記(1)のような事情のある(株)日本ハーツのライセンサーである原告には、本件商標の登録を維持するについて正当な利益があり、その取消しを免れるについて正当な理由がある。
3 本件審判請求の請求権の濫用 被告には、本件商標の登録を取り消す旨の本件審判請求をするための利益がなく、請求人としての適格がない。したがって、本件審判請求は、請求権の濫用に基づくもので、却下されるべきであった。
審決取消事由に対する被告の反論
原告が主張するプラチナボールペン、書類ホルダー(クリップ)は、商取引の目的物として一般流通に向けられているものではない。これらは、(株)日本ハーツから、フライチャイジーが営業するレンターカーリースの利用促進という特定の目的の下に有償で引き渡されるものであって、これを買い受ける者にとってその出所は明確であり、本件商標がその出所を識別するものではない。
しかも、フランチャイジーは、これらを宣伝用サービス品として無償配布するのであるから、これらをもってして、一般市場の流通に供することを目的とした有体物と目することはできない。
その余の原告の主張も争う。
当裁判所の判断
1 原告のライセンシーである(株)日本ハーツにおいて本件商標を使用してきた、と原告が主張するのは、(株)日本ハーツ及びそのフランチャイジーである会社が本来の業務目的とするカーレンタルの業務の促進のためであり、このようないわゆる販売促進品(販促品)であるプラチナボールペン、書類ホルダー(クリップ)に本件商標を付して行われてきたというにある。
ところで、商標は、主たる機能として商品、役務の出所を表示し、自他商品、役務を識別させる機能を有しており、商品、役務の品質を需要者、取引者のために保証する機能及び宣伝広告機能を有する。ここにいう商品、役務とは、必ずしも有償である必要はないが、一般に、販促品に付された企業名は、専らその販促品とは別の当該企業が扱う商品、役務の宣伝広告のために付されるものであって、販促品を登録商標の指定商品とする限りについてみれば、これに接する取引者、需要者に対して、商標が一般に有する自他商品(役務)識別機能を有するものではなく、もとより、販促品の品質を保証し、その宣伝広告をするために付されるものではない。
甲第3号証の1、2、第4号証の1ないし4、検甲第1号証の1、2、第2号証及び弁論の全趣旨によれば、原告のライセンシーである(株)日本ハーツは、本件審判請求の登録日である平成9年10月20日前3年の間に、南九州レンタリース株式会社等のフランチャイジーに対し、「Hertz」の標章を付したプラチナボールペン(ボールポイントペン)及び書類ホルダー(クリップ)を販促品として販売したこと、フランチャイジーはこれら販促品をレンタカーの利用者等に宣伝用サービス品として無償で配付したことが認められる。そして、フライチャイジーが(株)日本ハーツ(フランチャイザー)から販促品を買い受けたのは、販促品の品質に着目してではなく、販促品とは別の、フランチャイザー及びフランチャイイジーが扱う商品、役務((株)日本ハーツ及びそのフランチャイジーの場合、原告の主張によれば役務)の宣伝広告のためであると認めることができる。
したがって、原告が主張するところ及び上記認定事実をもってしては、本件商標を指定商品につき使用したとの事実があったものとは認められず、他に、本件商標の使用の事実があったことを認めるべき主張、証拠はない。
2 原告は、本件商標の登録を維持するについて正当な利益があり、その取消しを免れるについて正当な理由があると主張するが、本件商標の使用の事実が認められない以上、採用することができない。
3 原告は、被告の本件審判請求が権利の濫用に当たるとも主張するが、本件において、そのように判断すべき事実関係は認められない。
結論
以上のとおりであって原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成13年1月16日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史