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関連審決 審判1998-20552 審判1997-3234
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成13行ケ446審決取消請求事件 判例 商標
平成13行ケ49審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別機能 /  指定商品 /  4条1項11号 /  類似性(類否判断) /  立体商標 /  平面商標 /  立体的形状 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  全体観察 /  取引の実情 /  補正 /  同一の商品 /  非類似 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 234号 審決取消請求事件
原告 有限会社牛島商店代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁理士 梶原克彦
被告 特許庁長官【B】
指定代理人 【C】
同 【D】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/01/31
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第20552号事件について平成12年5月22日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成9年7月3日、別紙第1表示の構成の立体商標(以下「本願商標」という。)につき、商標登録出願をし(商願平9-134776号)、平成10年9月2日付け手続補正書による補正によって、商標法施行令別表による第30類「コーヒー及びココア、コーヒー豆、茶、調味料、香辛料、食品香料(精油のものを除く。)、米、脱穀済みのえん麦、脱穀済みの大麦、食用粉類、食用グルテン、穀物の加工品、ぎょうざ、サンドイッチ、しゅうまい、すし、たこ焼き、肉まんじゅう、ハンバーガー、ピザ、べんとう、ホットドッグ、ミートパイ、ラビオリ、菓子及びパン、即席菓子のもと、アイスクリームのもと、シャーベットのもと、アーモンドペースト、イーストパウダー、こうじ、酵母、ベーキングパウダー、氷、アイスクリーム用凝固剤、家庭用食肉軟化剤、ホイップクリーム用安定剤、酒かす」をその指定商品としたが、同年11月13日に拒絶査定を受けたので、同年12月24日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成10年審判第20552号事件として審理した上、
平成12年5月22日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年6月8日、原告に送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、別紙第2表示の構成より成り、商標法施行令別表による第30類「たこ焼き、おこのみ焼き、すし、サンドイッチ、
ミートパイ、ピザ、べんとう、菓子及びパン」を指定商品とする登録第3061941号商標(平成4年6月26日出願、平成7年7月31日設定登録、以下「引用商標」という。)を引用して、本願商標と引用商標とは、その外観において類似し、かつ、称呼及び観念において区別し得ない商標であって、本願商標の指定商品中「ぎょうざ、サンドイッチ、しゅうまい、すし、たこ焼き、肉まんじゅう、ハンバーガー、ピザ、べんとう、ホットドッグ、ミートパイ、ラビオリ、菓子及びパン」が、引用商標の指定商品と同一又は類似の商品であるから、本願商標は商標法4条1項11号に該当するとした。
原告主張の審決取消事由
1 審決の理由中、本願商標及び引用商標の各認定、並びに本願商標の指定商品中、「サンドイッチ、すし、たこ焼き、ピザ、べんとう、ミートパイ、菓子及びパン」が引用商標の指定商品同一の商品であり、「ぎょうざ、しゅうまい、肉まんじゅう、ハンバーガー、ホットドッグ、ラビオリ」が引用商標の指定商品と類似の商品であることは認める。
審決は、本願商標と引用商標とが類似する商標であると誤って判断した結果、本願商標が商標法4条1項11号に該当するとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(本願商標と引用商標との類否判断の誤り) (1) 立体商標は、正面を含む6面を描いた図にそれぞれ表示された図形が一体的に結合したものが、自他商品識別機能、広告宣伝機能等を有する商標として認識されるものであり、外観類否判断も商標全体として行われるべきである。すなわち、立体商標を特定の方向から見た場合に、その視覚に映る姿と同一又は近似する平面商標が存在しても、当該立体商標の他の方向から見た場合の非類似性の特徴が、当該特定の方向から見た場合の類似性の特徴を上回るときは、その平面商標外観において非類似であると解すべきである。
ところが、審決は、「立体商標を特定の方向から観た場合に、その視覚に映る姿と同一又は近似する平面商標が存在するときには、当該立体商標はその平面商標外観において類似する商標とみるのが相当である」(審決謄本2頁25行目〜28行目)とした上、立体商標である本願商標につき、これを正面から見た姿を呈する別紙第1の最上段部左側の図に表示された図形(以下「本願正面外観図」という。)のみをもって、平面商標である引用商標との外観類否判断をしたものであるから、類否判断の方法を誤ったものといわざるを得ない。
被告は、原告が、立体商標であるがゆえに、特定方向からの外観上の類否判断を少なく見るべきである旨の主張をしているとするが、原告の主張は上記のとおりであって、被告のいうような主張をするものではない。
(2) 審決は、本願正面外観図と引用商標との類否を判断するに当たって、「擬人化した蛸を表してなるものと認められ、中央よりやや右側に結び目を有する豆絞りの鉢巻きを締め、目を比較的大きく表し、その視線が右向きになるように黒目が配置されて、口は右方向に突き出るように表され、中央より下方に向け先細りの足を配し、また、全体は、ともに足で体を支えるように表されている」(審決謄本2頁33行目〜3頁1行目)ことを本願正面外観図と引用商標との共通点として認定した上で、「これらの頭部における特徴および全体の印象は、それぞれ看者の注意を惹き、強い印象を与えるものというべきである。そうとすれば、本願正面外観図と引用商標は、その構成上印象に残ると思われる、豆絞りの鉢巻き、目の大きさと視線、口の表し方、足の形状、足で体を支えているという全体の印象において共通性を有することから、互いに近似する」(同3頁2行目〜7行目)ものとし、他方、「本願正面外観図と引用商標は、その細部において違いが認められるものの、
これらの違いは、上記した両者の共通点を捨象し得るほどの顕著なものとはいえ」ない(同3頁8行目〜10行目)として、「本願商標と引用商標とは、本願商標を特定の方向(正面)から観た場合に、外観において相紛れるおそれのある類似の商標というべきである」(同3頁12行目〜14行目)と判断したが、この認定判断は、以下のとおり誤りである。
ア 商公昭60-5480号公報(甲第2号証)、商公昭61-85207号公報(甲第3号証)、商公平1-70901号公報(甲第4号証)、商公平2-27395号公報(甲第5号証)、商公平3-30265号公報(甲第6号証、以下、これに記載された商標を「先行商標」という。)、商公平5-59863号公報(甲第7号証)、商公平5-64287号公報(甲第8号証)、商公平7-77519号公報(甲第9号証)、商公平7-99316号公報(甲第10号証)、商公平7-120076号公報(甲第11号証)、商公平8-1273号公報(甲第12号証)、商公平8-51803号公報(甲第13号証)、商公平8-87677号公報(甲第14号証)、商標登録第4097280号公報(甲第15号証)及び商標登録第4216974号公報(甲第16号証)に見られるように、蛸を擬人化するに当たって、頭部に鉢巻を締め、目と突き出た口を表すことは一般に行われていることであり、鉢巻に豆絞りの図柄を表すことや目が右側を見つめるように表すことも本願商標と引用商標に特有なものではない。
被告は、本願商標と引用商標との外観における共通点として「中央より下方に向け先細りの足を配し」、「全体はともに足で体を支えるように表されている」等の6点を挙げて、擬人化された蛸をほぼ表現できるものであり、全体の印象を顕著に集約するものである旨主張するが、「先細りの足」は、本願商標では頭部下縁より下方に向けて配されているのに対し、引用商標では後記胴部より下方に向けて配されており、また、「足で支えるように表されている」ものは、本願商標では頭部であるのに対して、引用商標では胴部である。したがって、上記の各点が、
擬人化された蛸をほぼ表現できるとか、全体の印象を顕著に集約するものなどということはできない。また、被告は、本願商標の指定商品に係る主たる需要者が通常一般の老若男女にわたる消費者であり、商品の代価も比較的低廉であることから、
商標に向けられる需要者の注意力も比較的散漫となるとも主張するが、その主張は、現代のグルメブーム、健康志向という時代背景を考慮しない誤ったものである。
イ 引用商標には、擬人化した蛸の頭部の下側に、幅が頭部幅の約80%、
高さが頭部高さの約50%に及ぶ横長長方形の胴部が表されており、足部は当該胴部の中央よりやや上部から下方に描かれている。このような胴部は、実際の蛸に存在するものではなく、また、本願商標はもとより、擬人化された蛸を表した図形から成る他の登録商標にも見られない特異なものであるだけでなく、引用商標の足部を含めた図形全体に占める大きさの割合が約四分の一に及ぶことからみても、軟体動物である蛸は通常曲線で描かれるのに四角形で表されていることからみても、引用商標において、看者の注意を惹き、強い印象を与えるものである。
さらに、本願商標は、その表面が上下方向に細長い複数の構成面を周方向に連ねて成るものであり、各面の接合部分には緩やかな角部が形成されているが、このような特徴は引用商標にはなく、他の登録商標にも見当たらない。
また、本願商標における擬人化した蛸は、頭部が鳥卵形状の縦長で、足部の先端は内側に向けられ、爪先立った印象を与えるのに対し、引用商標における擬人化した蛸は、頭部が円形状で、足部の先端は外側に向けられて広がり、安定した印象を与えるものである。
このように、本願商標と引用商標とは、胴部の有無、細長い複数の構成面の有無、頭部の形状、足部先端の向き等に顕著な差異点があり、これらは一括して「その細部において違いが認められる」とされるようなものではない。
ウ 先行商標は、原告が、昭和63年8月11日に平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表による第32類「食肉、卵、食用水産物、野菜、
果実、加工食料品(他の類に属するものを除く)」を指定商品として商標登録出願し、登録第2372403号商標として設定登録されたものであって、擬人化した蛸を表した図形から成るものであるが、その頭部のみを見れば、本願商標の細長い複数の構成面接合部に相当する線状部を有さないことを除き、本願表面外観図と同じであって、本願商標と極めて類似するものである。
このように、引用商標の出願日前の出願に係る登録商標である先行商標が存在するにもかかわらず、指定商品が一致又は類似する引用商標につき設定登録がされたのは、胴部を含めた引用商標の全体的観察によって先行商標と非類似と判断されたからであり、したがって、先行商標と極めて類似する本願商標も引用商標と非類似と判断されるべきである。
この点につき、被告は、引用商標が、擬人化された蛸の頭部の態様、胴部及び足部の状態を含めた全体の印象をもって認識、把握されるものであって、頭部の印象のみで先行商標と類否判断されたものではない旨主張するが、審決の認定、判断が頭部と足部とに分けて行われたことは明らかであり、当該主張は審決と食い違うものである。また、被告は、先行商標は、擬人化された蛸が衝立状の物体を乗り越えて来るような動的印象を与えるものである点で引用商標と全体としての印象(外観)上の相違点を有するとも主張するが、先行商標は、衝立状の物体にぶら下がっているような静的印象を与えるものである。
エ 原告は、平成6年9月29日、意匠に係る物品を「広告塔」とし、その形態を本願商標に係る立体図形と同一とする意匠(以下「原告意匠」という。)について意匠登録出願をしたところ、原告意匠が意願昭63-26441号意匠(以下「引用意匠」という。)に類似するものとして拒絶査定を受けたが、これに対する不服の審判請求(平成9年審判第3234号)において、平成12年8月16日に、本願につき原査定の理由で拒絶することはできず、他に拒絶すべき理由を発見しないとして、「原査定を取り消す。本願の意匠は、登録すべきものとする。」との審決(甲第23号証の5、以下「意匠に係る審決」という。)がされた。
引用意匠は、引用商標の商標権者である北一食品株式会社の出願に係るもので、意匠に係る物品を「看板」とし、その形態を正面から見た姿を表す正面図及び背面から見た姿を表す背面図にそれぞれ表示された図形は、いずれも引用商標と本質的に同一である。
そして、意匠の類否判断は、一般需用者の立場に立って全体観察によってされるべきである点において、立体商標類否判断が取引者、需要者を基準として全体観察によってされるべきことと軌を一にするものであり、意匠に係る審決が、原告意匠と引用意匠とを非類似と判断したことは、本願商標が引用商標と非類似であることを裏付けるものである。
この点につき、被告は、原告意匠や引用意匠に係る需要者の平均的美感を基準にした類否判断と、本願商標や引用商標の需要者の注意力を基準とする類否判断の結論が異なっても食違いはない旨主張するが、原告意匠及び引用意匠に係る意匠に係る物品である「広告塔」ないし「看板」を購入、設置する事業主は、特別の専門家ではなく、本願商標の指定商品に係る需要者と同様の一般需要者に含まれるものであるから、被告の上記主張は誤りである。
オ したがって、本願商標(本願正面外観図)と引用商標とが外観において相紛れるおそれのある類似の商標であるとした審決の認定判断は誤りである。
(3) 審決は、「本願商標と引用商標が称呼及び観念において区別し得るという事情も見出せない」(審決謄本3頁10行目〜11行目)と判断した。しかしながら、引用商標は、単に蛸の観念が生じ、また「タコ」と称呼される場合があるとしても、上記のとおり、胴部を有するなどデフォルメの程度が甚だしく、この胴部の存在により、胴蛸、胴付き蛸又は角胴付き蛸の観念が生じ、「ドウタコ」、「ドウツキタコ」又は「カクドウツキタコ」の称呼をもって取引に当たる場合も少なくないとみることが相当である。他方、本願商標は、単に蛸の観念が生じ、また「タコ」と称呼されるものであるから、審決の上記判断は誤りである。
被告は、胴蛸等の生物は存在しないから、特別の事情のない限り、引用商標に接した取引者、需要者が、取引の実際において、そのような観念称呼を把握し、それをもって取引に当たることは極めて少ない旨主張するが、胴蛸等の生物が存在しないからこそ、引用商標の胴部は強く印象付けられるのであり、擬人化した蛸を表した他の商標から区別するために、引用商標からは自ずと胴蛸、胴付き蛸又は角胴付き蛸の観念や「ドウタコ」、「ドウツキタコ」又は「カクドウツキタコ」の称呼が生ずるものである。
被告の反論
1 審決の認定、判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(本願商標と引用商標との類否判断の誤り)について (1) 原告は、立体商標を特定の方向から見た場合に、その視覚に映る姿と同一又は近似する平面商標が存在しても、当該立体商標の他の方向から見た場合の非類似性の特徴が、当該特定の方向から見た場合の類似性の特徴を上回るときは、その平面商標外観において非類似であると解すべきであるとし、審決が、立体商標である本願商標につき、本願正面外観図のみをもって、平面商標である引用商標との外観類否判断をしたものであるから、類否判断の方法を誤っている旨主張する。
しかしながら、立体商標も視覚を通じて認識されるものであるから、これを特定の方向から見た場合に、そこから外観上の印象が生ずることは明らかであって、それが自他商品・役務の識別標識とされることは取引の実際において通常行われているところであり、見る方向によって異なる外観を呈する立体商標であっても、ある特定の方向から見た外観上の印象が商標の類否判断の対象となり得るのは当然のことである。立体商標平面商標との類否判断に関して立体商標が立体としての外観を呈するのを無視することは許されないが、平面商標が基本的に視覚上一度に全体を確認することができるのに対し、立体商標は視覚上一度に全体を確認することができないものであり、その全体の姿だけでなく、視覚上一度に認識することができる特定の方向から見た場合に視覚に映る姿によって商品等の出所を識別するという機能を果たし得るものであるから、その点に立体商標平面商標との外観類似の関係が存在する。審決は、このような観点から本願商標と引用商標との類否判断をしたものであって、その判断の方法に誤りはない。
立体商標であるがゆえに、特定方向からの外観上の類否判断を少なく見るべきであるかのような原告の上記主張は失当である。
(2) 原告は、本願商標(本願正面外観図)と引用商標とが外観において相紛れるおそれのある類似の商標であるとした審決の認定判断が誤りである旨主張するが、以下のとおり、この認定判断に誤りはない。
ア 原告は、審決が本願正面外観図と引用商標との共通点として認定した点のうち、蛸を擬人化するに当たって、頭部に鉢巻を締め、目と突き出た口を表すこと、鉢巻に豆絞りの図柄を表すこと、目が右側を見つめるように表すことが本願商標と引用商標とに特有なものではない旨主張する。
しかしながら、審決が、本願商標と引用商標とが類似するとした理由は、上記原告主張の点だけにとどまるものではない。審決は、本願商標と引用商標との外観における共通点として、「中央よりやや右側に結び目を有する豆絞りの鉢巻き」、「目を比較的大きく表し」、「視線が右向きになるように黒目が配置され」、「口は右方向に突き出るように表され」、「中央より下方に向け先細りの足を配し」、「全体はともに足で体を支えるように表されている」との各点を指摘した(審決謄本2頁34行目〜3頁1行目)ものであり、これらの6点は擬人化された蛸をほぼ表現できるものであるから、その全体の印象を顕著に集約するものであるのみならず、原告の挙げる各公報(甲第2〜第16号証)に掲載された商標に共通して認められる構成ではなく、本願商標と引用商標にのみ特有な点である。そして、これら6点の頭部における特徴及び全体の印象は、それぞれ看者の注意を惹き、強い印象を与えるものである。
審決は、上記の外観上の印象に基づき、また、「商標が使用される商品・役務の主たる需要者層、その他商品又は役務の取引の実情を考慮し、需要者の通常有する注意力を基準」とした(審決謄本2頁19行目〜21行目)場合に、本願商標の指定商品に係る主たる需要者が通常一般の老若男女にわたる消費者であり、商品の代価も比較的低廉であることから、商標に向けられる需要者の注意力も比較的散漫となることをも考慮して、本願商標と引用商標とが、時と所とを異にして接した際に互いに混同を生ずる外観上類似した商標であると認めたものであって、その認定判断に何らの誤りもない。
イ 原告は、本願商標と引用商標とが、胴部の有無、細長い複数の構成面の有無、頭部の形状、足部先端の向き等に顕著な差異点がある旨主張する。
しかしながら、引用商標の胴部は、その幅及び高さの比率が、原告の主張と異なって、幅が頭部幅の約78%、高さが頭部高さの約43%であり、しかも胴部を隠すように足が3本表されているから、実際に表されている胴部の大きさの引用商標の図形全体に占める割合は16%程度であって、引用商標の外観上、胴部が強く印象付けられるとはいえず、むしろ、頭部の態様、胴部及び足部の状態を含めた全体の印象をもって認識、把握されるとみるのが相当である。
また、本願商標の表面に周方向に連ねて成る上下方向に細長い複数の構成面は、立体商標である本願商標の頭部の周囲が20面で構成されるために形成されているのであって、平面商標である引用商標その他の登録商標にこのような立体商標の構成要素が見当たらないのは当然であり、その有無を比較することは無意味である。本願商標は立体商標であるから、その呈する表面形状に立体商標としての特徴があるとしても特異性はないのである。また、各面の接合部分がもたらす線状部は、本願商標が実際に使用され、正面から観察されるときには、看者の外観的印象からは除外されて認識されるというべきであり、本願商標の外観を他の商標と比較するときには、このような印象から除外される部分も考察要素に含めて判断されるべきである。
さらに、本願商標と引用商標の足部先端の向きに関しては、本願商標や引用商標の場合、取引者、需要者の注意が向けられるものではない。
したがって、これらの差異点が、上記アの本願商標と引用商標との共通点を捨象し得るほど顕著なものということはできない。
ウ 原告は、先行商標が、その頭部のみを見れば本願商標と極めて類似するものであるとし、先行商標と区別されて引用商標が登録されたことを、本願商標と引用商標の非類似の根拠として主張する。
しかしながら、引用商標は、擬人化された蛸の頭部の態様、胴部及び足部の状態を含めた全体の印象をもって認識、把握されるものであって、頭部の印象のみで先行商標と類否判断されたものではない。また、先行商標は、擬人化された蛸が衝立状の物体を乗り越えて来るような動的印象を与えるものであるのに対し、
引用商標は、蛸が足で体を支えて立っている状態を表現した静的な看板的構図であり、この両商標は、このように全体としての印象(外観)上の相違点を有するものである。他方、本願商標と引用商標との間にはそのような相違点が認められないのであるから、先行商標の存在をもって、本願商標と引用商標とが類似しないことの根拠とすることはできない。
エ 原告は、意匠に係る審決が原告意匠と引用意匠とを非類似と判断したことが、本願商標が引用商標と非類似であることを裏付けるものである旨主張する。
しかしながら、意匠の類否判断が一般需用者の立場に立って全体観察によってされるべきであり、立体商標類否判断が取引者、需要者を基準として全体観察によってされるべきあるということ自体は原告主張のとおりであるが、意匠の類否判断における「一般需用者」とは、当該意匠に係る物品の平均的な需要者を指すものであって、当然に世間一般の消費者を意味するものではない。このことは、
商標の類否判断における「取引者、需要者」についても同様である。そして、原告意匠及び引用意匠については、それぞれの意匠に係る物品が「広告塔」又は「看板」という特殊専門的な物品であるから、それを取り扱う専門業者又はそれを購入、設置する事業主が「一般需用者」に当たるものであり、意匠に係る審決における類否判断は、それらの者の有する平均的な美感を基準にされたものである。これに対し、本願商標に係る需要者は、上記アのとおり、指定商品との関係から通常一般の老若男女にわたる消費者であると認められ、本願商標と引用商標との類否判断はこれら通常一般の消費者の注意力を基準としてされるべきものであるから、その類否判断の結論が、意匠に係る審決の類否判断の結論と異なったとしても何ら食違いはなく、したがって、原告の上記主張は誤りである。
オ 以上のとおり、本願商標(本願正面外観図)と引用商標とが外観において類似の商標であるとした審決の認定判断に誤りはない。
(3) 原告は、引用商標につき、胴部の存在により、胴蛸、胴付き蛸又は角胴付き蛸の観念が生じ、「ドウタコ」、「ドウツキタコ」又は「カクドウツキタコ」の称呼をもって取引に当たる場合も少なくない旨主張するが、胴蛸、胴付き蛸又は角胴付き蛸などという生物は存在しないのであり、特別の事情のない限り、引用商標に接した取引者、需要者が、取引の実際において、そのような観念称呼を把握し、それをもって取引に当たることは極めて少ないというべきである。
当裁判所の判断
1 取消事由(本願商標と引用商標との類否判断の誤り)について (1) 審決は、本願商標と引用商標との類否判断に当たり、「平面商標立体商標も、ともに視覚を通じて認識されるものであり、それにより両者が類似することがあることは明らかであって、立体商標を特定の方向から観た場合に、その視覚に映る姿と同一又は近似する平面商標が存在するときには、当該立体商標はその平面商標外観において類似する商標とみるのが相当である」(審決書2頁26行目〜30行目)とした上で、本願商標につき本願正面外観図をもって引用商標と対比するものである。
ところで、立体商標は、立体的形状又は立体的形状と平面標章との結合により構成されるものであり、見る方向によって視覚に映る姿が異なるという特殊性を有し、実際に使用される場合において、一時にその全体の形状を視認することができないものであるから、これを考案するに際しては、看者がこれを観察する場合に主として視認するであろう一又は二以上の特定の方向(以下「所定方向」という。)を想定し、所定方向からこれを見たときに看者の視覚に映る姿の特徴によって商品又は役務の出所を識別することができるものとすることが通常であると考えられる。そうであれば、立体商標においては、その全体の形状のみならず、所定方向から見たときの看者の視覚に映る外観(印象)が自他商品又は自他役務の識別標識としての機能を果たすことになるから、当該所定方向から見たときに視覚に映る姿が特定の平面商標と同一又は近似する場合には、原則として、当該立体商標と当該平面商標との間に外観類似の関係があるというべきであり、また、そのような所定方向が二方向以上ある場合には、いずれの所定方向から見たときの看者の視覚に映る姿にも、それぞれ独立に商品又は役務の出所識別機能が付与されていることになるから、いずれか一方向の所定方向から見たときに視覚に映る姿が特定の平面商標と同一又は近似していればこのような外観類似の関係があるというべきであるが、およそ所定方向には当たらない方向から立体商標を見た場合に看者の視覚に映る姿は、このような外観類似に係る類否判断の要素とはならないものと解するのが相当である。特許庁の商標審査基準が、立体商標類否判断につき、「立体商標の類否は、・・・次のように判断するものとする。ただし、特定の方向から観た場合に視覚に映る姿が立体商標の特徴を表しているとは認められないときはこの限りでない。(イ) 立体商標は、原則として、それを特定の方向から観た場合に視覚に映る姿を表示する平面商標(近似する場合も含む。)と外観において類似する。」と規定するのは以上の趣旨であると解される。
そして、いずれの方向が所定方向であるかは、当該立体商標の構成態様に基づき、個別的、客観的に判断されるべき事柄であるが、本願商標のように生物等を擬人化して成るものであれば、看者がこれを観察する場合に、人に擬して形成された顔面に正対する方向が当該立体商標の特徴的な部分を視認し得るものとなるから、特段の事情のない限り、所定方向の少なくとも一つに当たるものと解すべきところ、本願商標については、本願正面外観図が、擬人化された蛸の顔面に正対する方向より見た場合に視覚に映る姿であることは明白である。
原告は、立体商標を特定の方向から見た場合に、その視覚に映る姿と同一又は近似する平面商標が存在しても、当該立体商標の他の方向から見た場合の非類似性の特徴が、当該特定の方向から見た場合の類似性の特徴を上回るときは、その平面商標外観において非類似であると解すべきである旨主張するが、その「特定の方向」が前示の所定方向である場合には失当というほかはない。
したがって、上記特段の事情に当たる事由を認めるに足りる証拠もない本件において、本願商標につき本願正面外観図をもって引用商標と対比した審決の類否判断の方法には誤りはないというべきである。
(2) そこで、本願正面外観図と引用商標とを対比する。
ア 審決が概略認定するとおり(審決謄本2頁33行目〜3頁1行目)、本願正面外観図と引用商標とは、@擬人化した蛸を表して成るものである点、A当該擬人化した蛸の頭部ないし顔部の形状において、額の中央より向かってやや右側に結び目を有する豆絞りの鉢巻きを締めている点、目を比較的大きく表している点、
その視線が向かって右向きになるように黒目が配置されている点、口が向かって右方向に突き出るように表されている点、B足部の形状において、先細りの足が体全体の縦方向の概ね中央部付近から下方に向けて配されている点、C全体形状において、足部全部を地表に付け、当該足部によってそれ以外の体の部分を地表よりも上方に支持して直立しているかのように表されており、足部のうちに手に擬したものがない点において共通することが認められ、審決の「全体は、ともに足で体を支えるように表されている」(審決謄本2頁39行目〜3頁1行目)との認定も、上記Cのような全体形状を意味するものと解される。
原告は、先細りの足は、本願商標では頭部下縁より下方に向けて配されているのに対し、引用商標では胴部より下方に向けて配されている旨主張するが、
本願正面外観図においても、引用商標においても、そこに表されている擬人化した蛸の体全体の縦方向の概ね中央部付近から下方に向けて足部が配されていること自体は上記のとおりである。また、原告は、足で支えるように表されているものは、
本願商標では頭部であるのに対し、引用商標では胴部である旨主張するが、本願正面外観図においても、引用商標においても、足部がそれ以外の体の部分を地表よりも上方に支持していること自体は上記のとおりである(もっとも、原告の上記主張の趣旨とするところは、引用商標における胴部の存在をいうことに帰着するとも解されるが、その点については後に検討する。)。
前示共通点のうち、額の中央より向かってやや右側に結び目を有する豆絞りの鉢巻きを締めている点は、先行商標(甲第6号証)並びに商公平7-77519号公報(甲第9号証)及び商標登録第4216974号公報(甲第16号証)に記載された商標に表された擬人化した蛸についても、目を比較的大きく表している点は、上記先行商標並びに商公昭60-5480号公報(甲第2号証)、商公平7-120076号公報(甲第11号証)、商公平8-1273号公報(甲第12号証)、商公平8-51803号公報(甲第13号証)、商公平8-87677号公報(甲第14号証)、商標登録第4097280号公報(甲第15号証)及び商標登録第4216974号公報(甲第16号証)に記載された商標に表された擬人化した蛸についても、視線が右向きになるように黒目が配置されている点は、上記先行商標及び商公平2-27395号公報(甲第5号証)に記載された商標に表された擬人化した蛸についても、口が右方向に突き出るように表されている点は、上記先行商標及び商公平7-99316号公報(甲第10号証)に記載された商標に表された擬人化した蛸についても、先細りの足が体全体の縦方向の概ね中央部付近から下方に向けて配されている点は、商公平2-27395号公報(甲第5号証)及び商標登録第4097280号公報(甲第15号証)に記載された商標に表された擬人化した蛸についても、それぞれ見られるところであり、これらの点は、それを個々的に見れば必ずしも本願正面外観図と引用商標とに特有のものではない。しかし、全体形状において、足部全部を地表に付け、当該足部によってそれ以外の体の部分を地表よりも上方に支持して直立しているかのように表されており、足部のうちに手に擬したものがない点については、先行商標(甲第6号証)並びに商公昭60-5480号公報(甲第2号証)、商公昭61-85207号公報(甲第3号証)、商公平1-70901号公報(甲第4号証)、商公平2-27395号公報(甲第5号証)、商公平5-59863号公報(甲第7号証)、商公平5-64287号公報(甲第8号証)、商公平7-77519号公報(甲第9号証)、商公平7-99316号公報(甲第10号証)、商公平7-120076号公報(甲第11号証)、商公平8-1273号公報(甲第12号証)、商公平8-51803号公報(甲第13号証)、商公平8-87677号公報(甲第14号証)、商標登録第4097280号公報(甲第15号証)及び商標登録第4216974号公報(甲第16号証)に記載された各商標に見られない点であり、本願正面外観図と引用商標とに特有のものと認められる。
そして、頭部ないし顔部の形状は擬人化した蛸の表情を形成するものであるから、おのずと看者の注意を強く惹くものと認められるところ、当該形状における前示Aの共通点は、その各要素それぞれについては本願正面外観図と引用商標とに特有のものであるとはいえないとしても、それらの要素を総合した頭部ないし顔部全体の形状としては、先行商標以外に共通するものはなく、本願正面外観図及び引用商標における擬人化した蛸の表情がよく似通っているとの印象を看者に与えるものと認められる。また、擬人化した蛸の足部の形状及び全体形状も看者の注意を惹くものであることが明らかであるところ、全体形状における前示Cの共通点は本願正面外観図及び引用商標に特有のものであって、看者に強い印象を与えるというべきである。
イ 他方、本願正面外観図と引用商標とは、概略原告主張のとおり、引用商標の擬人化した蛸の頭部の下側に、横長長方形の胴部が表されており、足部は当該胴部の中央よりやや上部から下方に描かれているのに対し、本願正面外観図には、このような胴部は存在しない点、本願正面外観図には、立体商標である本願商標の頭部の周囲が上下方向に細長い複数の構成面を周方向に連ねて成るために、その構成面の接合部によって形成される上下方向の複数の線状部が頭部に表されているのに対し、引用商標にはこのような線状部が存在しない点、頭部が、
本願正面外観図においては鳥卵形に似た楕円の下部を多少直線で切り欠いた形状であるのに対し、引用商標は円の下部を多少直線で切り欠いた形状である点、各足部の先端が本願正面外観図においては内側に向けられて狭まっているのに対し、
引用商標においては外側に向けられて広がっている点において差異が認められる。
そこで、まず、前示の差異点についてみるに、引用商標における胴部は、頭部幅の約78%の幅と、頭部高さの約44%の高さをもって成る横長長方形のものであり、生物としての蛸には存在せず、また、前示甲第2〜第16号証の各公報に記載された商標に表された擬人化された蛸のいずれにも見られない引用商標特有のものである。しかしながら、生物としての蛸の独特の形状にかんがみ、これを擬人化して表した図形ないし絵柄において、看者の注意を惹きやすい特徴的な部分は、一般に頭部ないし顔部の形状と足部の形状及び全体形状にあると考えられるから、引用商標においても、頭部ないし顔部の形状、足部の形状及び全体形状に向けられる看者の注意やこれらの形状から看者が受ける印象について比較すると、
当該胴部に対する注意や印象が乏しくなることは否めないところである。加えて、
取引の具体的実情に基づくと、本願商標及び引用商標の各
指定商品に係る主たる需要者はいずれも一般の消費者であり、商品の代価もともに比較的低廉であることから、各商標に向けられる需要者の注意力も比較的散漫となるものと考えられる。そうすると、本願正面外観図と引用商標とを対比した場合に、当該胴部の有無に係る前示の差異点から需要者が受ける印象は、前示アのAの頭部ないし顔部の形状における共通点や同Cの全体形状における共通点から受ける強い印象をさほど減殺するものではないと認めることができる。
また、前示の本願正面
外観図における線状部は、前示甲第2〜第16号証の各公報に記載された商標に表された擬人化された蛸のいずれにも見られないものであるが、それが、立体商標である本願商標の頭部の周囲が複数の構成面を周方向に連ねて成るために形成されたものであることは上記のとおりであるから、
平面商標である前示各公報に記載された商標に見られないことは当然であるのみならず、これに向けられる看者の注意や、これから受ける看者の印象も極めて乏しいものであると認められる。
さらに、本願正面外観図と引用商標との間の前示の頭部の形状に係る差異点は前示アのAの頭部ないし顔部の形状における共通点に、前示の足部先端が向けられる方向に係る差異点は前示アのBの足部の形状における共通点及び同Cの全体形状における共通点に、それぞれ包摂される程度の細部にわたるものであって、本願正面外観図と引用商標との類否判断に及ぼす影響は微弱なものであると認めて妨げはない。
ウ 以上に検討したところによれば、本願正面外観図と引用商標とは、看者の注意を強く惹く頭部ないし顔部の形状及び全体形状において、前示アのAの共通点及び同Cの共通点を有し、これらが看者に強い印象を与えるものと認められるのに対し、前示イのないしの差異点は、上記共通点によって看者の受ける印象をさほど減殺するものではなく、上記共通点を捨象するものとは認められないから、本願正面外観図と引用商標とは互いに近似するものというべきであり、そうだとすれば、本願商標と引用商標とは外観において類似するものと認められる。
(3) ところで、先行商標に表された擬人化された蛸が、その頭部ないし顔部全体の形状において、本願正面外観図及び引用商標と同様の共通点を有していることは前示(2)のアのとおりであり、商公平3-30265号公報(甲第6号証)及び弁論の全趣旨によれば、その擬人化された蛸の表情は、本願正面外観図及び引用商標、とりわけ本願正面外観図のものとよく似通っているとの印象を看者に与えること、先行商標が前示引用商標の出願日の前である昭和63年8月11日の出願に係る登録商標であって、その指定商品中に引用商標の指定商品と一致又は類似するものがあることが認められるところ、原告は、このような先行商標の存在にもかかわらず、引用商標につき設定登録がされたのは、胴部を含めた引用商標の全体的観察によって先行商標と非類似と判断されたからであり、先行商標と極めて類似する本願商標も引用商標と非類似と判断されるべきである旨主張する。
しかしながら、上記商公平3-30265号公報(甲第6号証)によれば、先行商標には、擬人化された蛸のほか、横長長方形の衝立状の物体が表されており、蛸の頭部が当該物体の後方で上辺の上部に位置し、また、8本の足部が当該物体の手前でその上辺から上下辺の中間位置付近にかけて配されていて、擬人化された蛸の全体形状は、当該物体の後方から足部全部を当該物体に掛けてつり下がっているかのように表されていることが認められる。そうすると、先行商標に表されたこのような擬人化された蛸の全体形状は、前示(2)のアのとおり、足部全部を地表に付け、当該足部によってそれ以外の体の部分を地表よりも上方に支持して直立しているかのように表されている引用商標のものの全体形状と顕著に相違しており、
したがって、先行商標と引用商標とがともに設定登録されているからといって、頭部ないし顔部の形状のみならず、擬人化された蛸の全体形状においても共通する本願正面外観図と引用商標とが近似しないとする根拠とはなり得ない。
また、原告意匠の意匠登録願書(甲第23号証の1)、拒絶査定謄本(同号証の3)、平成9年審判第3234号事件の審決謄本(同号証の5)及び引用意匠の意匠登録願書(同号証の6)によれば、原告意匠の意匠登録出願に対し、原告意匠が引用意匠に類似するとして拒絶査定がされた後、その出願を原査定の理由で拒絶することはできず、他に拒絶すべき理由を発見しないとして原査定を取り消し、原告意匠を登録すべきものとした意匠に係る審決がされたこと、上記引用意匠の意匠登録願書添付の正面図(正面図に対し背面図は同一に表れるとされている。)に表示された図形と引用商標の図形とが極めて類似することが認められる。
しかしながら、原告意匠及び引用意匠の意匠に係る物品は「広告塔」ないし「看板」であり、その類否判断は、そのような特殊な商品の需要者である事業主(購入、設置主体)又は取扱業者の平均的な美感を基準としてされるものであるのに対し、本願商標及び引用商標の指定商品はともに比較的低廉な加工食品であり、その類否判断は、そのような指定商品の需要者である広範な範囲の一般消費者の注意力を基準にしてされるものであって、類否判断の基準が全く異なるから、本件審決の類否判断と結論的に食い違う意匠に係る審決がされたからといって、それだけでは本件審決の判断を左右するに足りない。
(4) 原告は、さらに、引用商標につき、胴部の存在により、胴蛸、胴付き蛸又は角胴付き蛸の観念が生じ、「ドウタコ」、「ドウツキタコ」又は「カクドウツキタコ」の称呼をもって取引に当たる場合も少なくないとした上、本願商標は単に蛸の観念が生じ、また「タコ」と称呼されるから、「本願商標と引用商標が称呼及び観念において区別し得るという事情も見出せない」(審決謄本3頁10行目〜11行目)とした審決の判断が誤りである旨主張する。
しかしながら、胴蛸、胴付き蛸又は角胴付き蛸などという生物が存在しないことはもとより、一般に胴蛸、胴付き蛸又は角胴付き蛸などという概念や用語が存在しないことも明白である。そうであるとすれば、特段の事情が存しない限り、
引用商標から胴蛸、胴付き蛸又は角胴付き蛸の観念及び「ドウタコ」、「ドウツキタコ」又は「カクドウツキタコ」の称呼が生ずることはないというべきところ、引用商標に表された擬人化された蛸に胴部があるからといって特段の事情というには足りず、他にこれを認めるべき証拠もない。
したがって、原告の上記主張は採用することができず、引用商標から生ずる観念及び称呼は本願商標と変わりがないというべきであるから、審決の上記判断に誤りはない。
(5) そうすると、本願商標と引用商標とは、その外観において類似するものであり、かつ、称呼及び観念において区別し得るものではないから、両者は類似する商標であるというべきであり、また、本願商標に係る指定商品中に引用商標の指定商品と同一又は類似の商品があることは当事者間に争いがないから、本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断に誤りはない。
2 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利