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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成22ワ38369著作権侵害差止請求事件 判例 特許権
関連ワード 包装 /  指定商品 /  周知性 /  不正競争の目的 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  差止 /  更新登録 /  商号 /  同業者 / 
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事件 昭和 46年 (ワ) 7647号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1973/04/23
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、原告有限会社塩瀬総本家に対し、和菓子の販売につき、「宗家塩瀬」、「銀座塩瀬」、「塩瀬」および「銀座塩瀬大塚営業所」の営業表示を使用してはならない。
2 被告は、原告Aに対し、和菓子の容器および包装紙に別紙第二目録(1)、
(2)、記載の標章を使用してはならない。
3 被告は、原告Aに対し、被告の肩書地にある前項掲記の標章を付した和菓子の容器および包装紙を廃棄せよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 この判決は、仮りに執行することができる
事実及び理由
当事者双方の申立
一 原告ら(原告合資会社塩瀬総本家) 主文第一、第四項と同趣旨の判決および仮執行の宣言を求める。
(原告A) 主文第二項ないし第四項と同趣旨の判決および仮執行の宣言を求める。
二 被告「原告の請求を棄却する。」との判決を求める。
原告合資会社塩瀬総本家(以下「原告会社」という。)の請求の原因
一 原告会社の商号と営業 原告会社は、昭和三六年六月二七日、現商号をもって設立されたもので、和菓子の製造、販売を業とするものである。
二 原告会社の商号周知性(一) 原告会社の商号の要部である「塩瀬」の名称は、遠く六百年前に遡るものであり、その始祖が、三河国塩瀬村に住みついてその姓をBと称して以来のものである。天正のころ、B氏は京都烏丸3条に移り住んで饅頭所を開設してからも、その商品を塩瀬饅頭と称したが、その後代々家業を伝承するにあたり、「塩瀬」を家号ならびに商標として使用して現代にいたり、明治初頭、東京遷都の折東京に移り、以来東京の著名の菓子舗となった。明治時代の東京における塩瀬は、有楽町にあり、C氏により経営されていたが、原告Aの亡夫Dは、Cの代に、同店に久しく勤務し、主家の人々からその人柄と能力を認められ、同家の親戚E(昭和八年二月五日死亡)と婚姻した。C氏の塩瀬が没落したのち、Dは、みずから「塩瀬」の名称で菓子舗を営み、C氏経営の時代と同様、宮内省御用達を命ぜられたほか、多くの有名会社、商店、名家を顧客に持って、繁昌して昭和の年代にいたった。
原告Aは、Eの死亡後、昭和一一年一一月二七日Dと婚姻したが、その後、営業は、思わしくなくなり、有楽町における「塩瀬」の店はつぶれてしまった。
(二) Dは、昭和一五年一〇月九日、現在の原告塩瀬の本店所在地に合資会社京橋塩瀬を設立し、さきの塩瀬の営業を承継し、店を再興した。その後、同社は、昭和二五年一二月一五日その商号を合資会社塩瀬総本家と変更し、同月二五日その旨登記手続を経た(以下「旧会社」という。)。
旧会社の無限責任社員Dは、昭和二八年四月三〇日死亡し、原告Aが代って同社の無限責任社員になった。
旧会社は、昭和三四年八月三一日解散し、原告Aに対し、従来の営業とともに「塩瀬総本家」の商号を譲渡し、同原告は、同所で「塩瀬総本家」の商号を使用し、従前同様に営業をした。
原告Aは、昭和三五年一一月三〇日、右「塩瀬総本家」の商号につき、営業の種類を和洋菓子の製造販売と指定し、商号登記を経た。
原告Aは、昭和三六年六月二七日自ら無限責任社員となって、和菓子の製造販売を業とする原告会社を設立し、前記個人経営の「塩瀬総本家」の営業および商号をこれに譲渡した。
このように、旧会社、原告Aおよび原告会社は、同一場所において同じ「塩瀬総本家」の商号のもとに、和菓子の製造販売を行って来たのであり、その間に営業および商号の譲渡が行われたのである。
原告会社は、古くからの名声に加えて、製品の優秀であることにより、結婚披露宴の引物用和菓子の製造元としてその商号をもってさらに著名となり、都内においても「栄太郎」と並んで、その他の同業者を圧する販売規模の店舗となっている。
その納品先は、結婚式場を営なむ明治記念館、精養軒、西武百貨店、白雲閣、日本閣、八芳園、神田精養軒、椿山荘のほか宮内庁、大林組、戸田建設および鹿島建設等枚挙にいとまがない。したがって、その販売地域は、都内一円はもとより、大宮、千葉、川崎および横浜等東京都周辺一帯にまで及び、その商号は、同業者間のみならず、一般顧客の間にも原告会社設立当初から広く認識されており、その売上の年間総額は、二億三千万円に達している。
三 被告の営業と営業表示 被告は、昭和四六年三月ころから、肩書住所に店舗を構え、「塩瀬」と称して、
和菓子の製造、販売をはじめ、その包装紙に、横書きで、「宗家塩瀬」と表示し、
また「宗家塩瀬」と横に印刷したレッテルを包装紙に貼布し、和菓子の容器類に用いるのし紙には、縦書きで「宗家塩瀬」と表示し、同年九月ころからは、「銀座塩瀬」「銀座塩瀬大塚営業所」の各営業表示をあわせ使用し、主として結婚披露用の注文により和菓子の販売活動をしている。
四 営業活動の混同 原告会社の商号の要部は、「塩瀬」の部分にあるところ、被告の営業表示中「宗家塩瀬」「塩瀬」もその要部が「塩瀬」の部分にあり、また「銀座塩瀬」「銀座塩瀬大塚営業所」の営業表示も、「銀座」「大塚営業所」の各部分が「塩瀬」なる営業主体の一部であることを示すにすぎないことから、その要部が「塩瀬」にあることは明らかであり、結局、被告の前記営業表示は、すべて原告の商号と類似するものといわなければならない。
したがって、被告が、和菓子の販売につき前記各営業表示を使用することは、その取引者および需要者において、被告の営業活動を原告会社のそれと誤認、混同し、その結果、原告会社の商品の売上げが減少し、営業上の利益を害され、また将来も害されるおそれがある。
五 被告の不正競争の目的 被告は、原告会社代表者兼原告Aの亡夫Dとその先妻Eとの間の二男Fの長男であって、昭和四五年一二月まで約四年半の間、原告会社に勤務し、昭和四三年八月一日から昭和四六年四月三日まで原告会社の有限責任社員であったから、原告会社の商号を知悉しているにもかゝわらず、昭和四五年一二月、理由をも告げずに原告会社を辞職し、原告会社の従業員であつた訴外G、Hを誘って、前記のとおり原告会社の商号に類似する営業表示を使用して、自ら原告会社の営業と同じ和菓子の製造、販売をしているものである。この事情からすれば、被告には、不正競争の目的があるといわなければならない。
六 請求 よって、原告会社は、被告に対し、不正競争防止法第1条第2号に基づき、予備的に商法第20条第1項に基づき、和菓子の販売につき「塩瀬」「銀座塩瀬」「宗家塩瀬」「銀座塩瀬大塚営業所」の営業表示の使用差止を求める。
原告A(以下「原告A」という。)の請求原因
一 原告Aの商標権 原告Aは、夫Dが有していた次の商標権を、昭和二八年四月三〇日、Dの死亡により相続し、同年七月八日その旨の登録手続を経たものである。
1 登録第三九二八四三号商標権出願 昭和二四年二月一八日(商標登録出願昭和二四年第二一九〇号)公告 昭和二五年六月一六日(商標出願公告昭和二五年第一〇〇四八号)登録 昭和二五年一〇月一八日登録商標 別紙第一目録(1)のとおり指定商品 旧第四三類 菓子および麺麭の類更新登録 昭和四六年五月一三日2 登録第四二五三八七号商標権出願 昭和二七年二月二〇日(商標登録出願昭和二七年第三六一九号)公告 昭和二八年二月一六日(商標出願公告昭和二八年第二九一〇号)登録 昭和二八年五月一八日登録商標 別紙第一目録(2)のとおり指定商品 前記1に同じ二 被告の標章 被告は、和菓子の販売に際し、別紙第二目録記載(1)、(2)の標章を印刷した包装紙を使用し、そば饅頭の容器である紙箱に右同(1)、(2)の標章を印刷して使用し、また現に、右(1)、(2)の標章が印刷された包装紙、紙箱を肩書住所に所有している。
三 原告の登録商標と被告の標章との対比 原告の登録商標と被告の標章とを対比すると、次のとおりである。
1 原告の登録商標(1)と被告の標章(2)とは、「塩」の文字が多少字体を異にし、原告の登録商標(2)と被告の標章(1)とは、「せ」と「●」において外観を異にするけれども、原告の登録商標(1)、(2)と被告の標章(1)、
(2)は、ともに「しおせ」の称呼を生ずる点で共通するから、被告の標章(1)、(2)は、いずれも、原告の登録商標(1)(2)と類似する。
2 以上のとおり、被告の標章(1)、(2)を和菓子の販売のために使用することは、原告Aの本件各商標権を侵害するものである。
四 よって、原告Aは、本件各商標権に基づき、和菓子の販売につき、別紙第二目録記載(1)、(2)の各標章の使用差止と同標章を付した和菓子の容器と包装紙の廃棄を求める。
被告の答弁
一 請求原因事実の認否(一) 原告会社の請求原因について1 一の項の事実は認める。
2 二の項の事実は認める。
3 三の項のうち、被告が、原告主張の商品を主として結婚披露用の注文により販売していることは否認し、その余の事実は認める。
4 四の項の主張は争う。
5 五の項のうち、被告の身分関係および被告が原告主張の期間原告会社に勤務したことは認めるが、その余の事実は否認する。
(二) 原告Aの請求原因について1 一の項の事実は認める。
2 二の項の事実は認める。
3 三の項の主張は争う。
二 抗弁 被告は、昭和四六年一月、原告会社を退社するに際し、その代表者たる原告Aに対し、退社の意思を伝え、独立して営業するにつき、原告会社代表者兼原告本人たるAから「塩瀬総本家」の商号と別紙目録記載の標章を使用することの許諾を得たものである。
被告の抗弁事実に対する原告らの認否
被告主張の抗弁事実は否認する。
証拠関係(省略)
理 由一 原告会社の請求について(一) 請求原因第二の一と二の項の事実は、原告会社と被告との間に争いがない。
(二) 被告が、昭和四六年三月ころから、肩書住所地で店舗を構えて「塩瀬」と称して和菓子の製造、販売をはじめ、その包装紙および和菓子の容器類に用いるのし紙に「宗家塩瀬」の表示を用い、同年九月ころからは、「銀座塩瀬」「銀座塩瀬大塚営業所」の各営業表示をあわせ使用していることは、原告会社と被告との間に争いがなく、被告の営業は、原告の営業同様、注文による引物用和菓子の販売のほか小売店に対する販売であることは、証人Iの証言と被告本人尋問の結果に照らし明らかである。
(三) そこで、原告会社の商号と被告使用の前記各営業表示との類否について検討する。
原告会社の商号中「合資会社」の部分は、会社の種類を表示するものであるから、原告会社の商号の要部は、「塩瀬総本家」の部分にあるものということができる。そして、被告の営業表示中「塩瀬」は、原告会社の商号の要部「塩瀬総本家」と、前認定のとおりの沿革にかかる営業主体の固有名称「塩瀬」の部分を共通にするから、両者は、全体として類似するものといってよく、「宗家塩瀬」の表示中「宗家」が原告会社の商号中の「総本家」と同義と解され、右「塩瀬」を共通にし、その上部に同義の「宗家」を冠するか、下部に「総本家」を付加するかの差異にすぎないから、全体として、両者は類似するものといってよい。次に、「銀座塩瀬」「銀座塩瀬大塚営業所」の表示中「銀座」の部分および「大塚営業所」の部分は、いずれも東京都内の、「銀座」なる地名、「大塚」なる場所にある営業所を指示するものにすぎないから、いずれも要部は、「塩瀬」の部分にあるというべく、
これらを原告会社の商号の要部「塩瀬総本家」と対比すれば、本件の場合、いずれも類似するものと認めるのが相当である。
そして、昭和三六年六月ころから同業者や顧客の間に広く認識されていることについて当事者間に争いのない原告会社の商号に類似する被告の前記各営業表示を和菓子の販売に際して使用する被告の行為は、あたかも原告会社の営業活動であるかのように取引者および需要者に対し誤認、混同させるおそれがきわめて強いものといわなければならず、したがって、これによって、原告会社は営業上の利益を害されるおそれがあるというべきである。
(四) 被告は、原告会社代表者から、昭和四六年一月、前記営業につき、「塩瀬」の表示を使用することの許諾を得た旨主張するが、これを肯認し得る証拠はない。
(五) よって、原告会社の不正競争防止法第1条第1項第2号に基づく、前記各被告の営業表示の使用差止を求める請求は理由がある。
二 原告Aの請求について(一) 請求原因第三の一、二の項の事実は、原告Aと被告との間に争いがない。
(二) そこで、本件登録商標(1)、(2)と被告の標章(1)、(2)、との類否について検討する。
1 本件登録商標(1)と被告の各標章とを対比するに、まず、本件登録商標(1)は、毛筆書き楷書体の漢字「塩瀬」からなるのに対し、被告の標章(1)は、特殊の模様地の中央空所に毛筆書きの変体仮名文字「志ほ●」を表わしてなる点で外観を異にするが、前者は「しおせ」の称呼を生じるのに対し、後者は、「しおせ」または「しほせ」の称呼を生じるから、「しおせ」と称呼を共通にするかまたは称呼が類似するものということができる。両者は、全体として類似するといわなければならない。
次に、被告の標章(2)は、特殊の模様地の中央空所に毛筆書きの草書体の漢字「塩瀬」を表わしてなるものであるが、本件登録商標(1)とは少なくとも「しおせ」の称呼を共通にするから、両者は全体として類似するものといってよい。
2 本件登録商標(2)と被告の標章(1)、(2)とを対比するに、まず、本件登録商標(2)は、毛筆で縦書きした「志ほせ」の文字から成るものであるのに対し、被告の標章(1)は、同様に毛筆で縦書きした「志ほ●」の文字から成るものであるから、被告の標章(1)の模様地の点を考慮しても、外観称呼ともに一見して明らかに類似するものといってよい。
次に、被告の標章(2)は、前記のように毛筆草書体の「塩瀬」の漢字から成るものであるから、本件登録商標(2)とは外観を異にするけれども、本件登録商標(2)から生ずる称呼「しほせ」または「しおせ」とその称呼を共通または類似にするから、本件登録商標(2)と全体として類似するものといわなければならない。
(三) 被告は、被告の標章につき、原告Aから昭和四六年一月使用の許諾を得た旨主張するが、これを肯認できる証拠はない。
(四) そうだとすると、本件登録商標(1)、(2)に類似する被告の標章(1)、(2)を本件各登録商標の指定商品にあたることの明らかな和菓子について使用する被告の行為は、商標法第37条第1号によって、原告の本件商標権を侵害するものとみなされる。
(五) よって、原告Aの被告に対する前記被告の各標章の使用差止と被告の肩書地にある前記(1)、(2)の標章を付した和菓子の容器たる紙箱と包装紙の廃棄を求める請求は理由がある。
三 よって、原告らの各請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条を、仮執行の宣言につき同法第196条第1項を各適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 荒木秀一
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