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関連審決 無効2003-35199
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19行ケ10001商標登録取消決定取消請求事件 判例 商標
平成18行ケ10233審決取消請求事件 判例 商標
平成12行ヶ447審決取消請求事件 判例 商標
平成19行ケ10042審決取消請求事件 判例 商標
平成14ワ13569商標権侵害差止等請求事件 平成15ワ2226商標権侵害差止請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  識別機能 /  指定商品 /  4条1項11号 /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  無効審判 /  更新登録 /  非類似 /  商号 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 286号 審決取消請求事件
原告 有限会社ドルフィン
訴訟代理人弁護士 関
同 弁理士 奈良武
被告 株式会社玉子屋
訴訟代理人弁護士 美勢克彦
同 弁理士 坂口信昭
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/11/29
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2003-35199号事件について平成16年5月21日にした審決中,「その余の指定商品についての審判請求は成り立たない。」の部分を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,登録第4499463号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。
本件商標は,「卵のカラを割ったヒヨコ」の図形の下に「玉子屋」の文字を配した別添審決謄本写し別掲(1)のとおりの構成よりなり,指定商品及び役務を,第30類「玉子料理を含む弁当,宅配用弁当,コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,調味料,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン,穀物の加工品,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドック,ミートパイ,ラビオリ,菓子及びパン,あん入り中華まんじゅう,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,アーモンドペースト,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,氷,アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,酒かす,ホイップクリーム用安定剤」及び第42類の役務(役務の表示省略)として,平成12年5月30日に登録出願され,平成13年8月17日に設定登録がされた。
原告は,平成15年5月16日,本件商標の指定商品及び役務のうち,第30類「調味料,香辛料,菓子及びパン」について,商標登録無効審判を請求した。
特許庁は,同請求を,無効2003-35199号事件として審理し,平成16年5月21日,「登録第4499463号の指定商品中第30類『調味料,香辛料』についての登録を無効とする。その余の指定商品についての審判請求は成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年6月2日,原告に送達された。
2 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件商標を,「タマゴヤ」(「ヤ」の文字は他の文字に比して小さく書かれている。)の片仮名文字を横書きしてなり,第31類「調味料,香辛料,食用油脂,乳製品」を指定商品とする登録第2080564号商標(昭和61年5月9日登録出願,昭和63年9月30日設定登録,平成11年4月27日更新登録,以下「引用1商標」という。),「たまご屋さんのカステラ」の文字を横書きしてなり,第30類「カステラ」を指定商品とする登録第3039231号商標(平成4年11月18日登録出願,平成7年4月28日設定登録,以下「引用2商標」という。),及び別添審決謄本写し別掲(2)に示すとおりの構成よりなり,第30類「焼きプリン」を指定商品とする登録第4407675号商標(平成11年8月5日登録出願,平成12年8月11日設定登録,以下「引用3商標」という。)と対比して,本件商標は,引用1商標と類似するが,引用2商標及び引用3商標とは類似しないと判断した上,本件商標の登録は,指定商品中の「調味料,香辛料」については,商標法4条1項11号に違反してされたものであって無効とされるべきものであるが,その余の商品(注,「菓子及びパン」)については,無効とすることができないとした。
原告主張の審決取消事由
1 審決の判断中,本件商標が引用2商標及び引用3商標と類似しないとした判断は誤りであるから,審決の「その余の指定商品についての審判請求は成り立たない」とした部分は,違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(本件商標と引用2商標及び引用3商標との類否判断の誤り) (1) 本件商標と引用2商標及び引用3商標とは,観念及び称呼上,類似の商標である。
審決は,引用2商標及び引用3商標の自他商品識別標識として機能する部分,すなわち商標の要部は,「たまご屋さんの」の文字にあるとしているが,要部は「たまご屋」の文字部分にあるとみるべきである。なぜなら,「たまご屋さんの」の文字は,「たまご屋」の文字に人名,職名,職種などに付けて敬意を表す接尾語として親しまれている「さん」と助詞の「の」を付したもので,「さんの」の文字は,「○○さんの△△」の意味合いを表す時に用いられ,前後の文字を連結する役目を果たすものであるが,それ自体では自他商品識別力を有しない部分であり,また,「カステラ」,「焼きプリン」の文字や「産みたてのたまごでつくった」の文字も,両引用商標の指定商品そのものを表した文字や商品の品質等を表した文字にすぎないからである。
「○○屋」の文字は屋号を表すと共に,商品に使用された場合には,商標としても機能するもので,両引用商標の指定商品である「カステラ」,「焼きプリン」を取り扱う菓子業界においては,古くから屋号を商標としても使用する傾向があり,このことは広く世人の知るところである。
そうすると,引用2商標及び引用3商標に接する取引者・需要者は,これらを商標全体として見た場合においても,構成中の「たまご屋」の文字に着目し,引用2商標については,「卵屋(玉子屋)印製のカステラ」,「卵屋(玉子屋)印として販売されるカステラ」の意味合いにおいて,また,引用3商標については,「産みたての卵で作った卵屋(玉子屋)印製の焼きプリン」,「産みたての卵で作った卵屋(玉子屋)印として販売される焼きプリン」の意味合いにおいて,取引に当たるものであるから,引用2商標及び引用3商標において自他商品識別標識としての機能を強く果たす部分は,「たまご屋」の文字部分にあるというべきである。
そうであれば,引用2商標及び引用3商標は,その構成文字に相応して「タマゴヤサン」の称呼も生じるが,実際の取引においては,識別力の強い「たまご屋」の文字部分から生じる「卵屋(玉子屋)印」の観念及び「タマゴヤ」の称呼をもって取引に資される場合が少なくないと考えられる。他方,本件商標は,構成中の「玉子屋」の文字から,「玉子屋(卵屋)印」の観念及び「タマゴヤ」の称呼を生じるものである。
(2) したがって,本件商標と引用2商標,また,本件商標と引用3商標とは,観念,称呼を共通にする類似の商標である。そして,引用2商標の指定商品である「カステラ」と引用3商標の指定商品「焼きプリン」は,本件商標の指定商品中の「菓子及びパン」に包含されるものであるから,本件商標の登録は,商標法4条1項11号に違反してされたものである。
被告の反論
1 本件商標と引用2商標及び引用3商標との類否に関する審決の判断に誤りはない。
2 取消事由(本件商標と引用2商標及び引用3商標との類否判断の誤り)について 引用2商標の「たまご屋さんのカステラ」や引用3商標の「たまご屋さんの焼きプリン」は,「○○屋さんの△△」という多数存在する商標の一類型であるところ,このような類型,用法において,「○○屋」の部分は,屋号や商号としての機能を有しておらず,「○○屋さんの△△」という一体の商標として機能している。「○○屋」の部分には,原告が主張するような強い自他商品識別機能はない。
このことは,インターネット上の特許電子図書館で,商標(の称呼)「さんの」,商品・サービスの絞り込み「類似群コード30A01(菓子,パン)」の検索条件で得られた検索結果における「牛乳屋さんのカルシウム」(乙4-1,2),「牛乳屋さんの鉄」(乙5-1,2),「牛乳屋さんの珈琲」(乙6-1,2),「お魚屋さんの海老揚げ」(乙7-1,2),「お魚屋さんのこざかな揚げ」(乙8-1,2),「そばやさんのそばかりんとう」(乙9-1,2),「ケーキ屋さんの梨」(乙10-1,2),「お菓子屋さんのお豆腐」(乙11-1,2)等の例から明らかである。すなわち,これらの例における「牛乳屋さんの」,「お魚屋さんの」等の「○○屋さんの」の部分は,いずれも「『○○屋さんの』の新鮮な○○を使用した」,あるいは「『○○屋さんの』作った」等の意味合いで使用されている。このことは,引用2商標の「たまご屋さんのカステラ」,引用商標3の「たまご屋さんの焼きプリン」についても全く同様であり,「新鮮な卵で作った」,「たまご屋さんが作った」という意味での「たまご屋さんの」という観念が生じるのである。引用2商標及び引用3商標から,「卵屋(玉子屋)印」との観念が生じるとする原告の主張は失当である。
なお,本件商標は,「玉子屋」の文字と「卵のカラを割ったヒヨコ」の図形とが一体として構成されており,文字と図形が一体のものとして識別力が生じている。したがって,全体として対比したときに,本件商標が引用2商標及び引用3商標と異なっていることは明白である。
当裁判所の判断
1 取消事由(本件商標と引用2商標及び引用3商標との類否判断の誤り)について (1) 原告は,引用2商標及び引用3商標において自他商品識別標識として機能する部分,すなわち商標の要部は,「たまご屋」の文字部分にあるから,本件商標と引用2商標及び引用3商標とは,「たまご屋(玉子屋)」において共通する,称呼及び観念が類似の商標であると主張する。
そこで,まず,本件商標についてみると,本件商標は,別添審決謄本写し別掲(1)のとおり,「卵のカラを割ったヒヨコ」の図形と,その下のやや右寄り位置に,小さめの「玉子屋」の筆文字を配してなる構成であり,その図形と文字とが分離して認識することが不可能なほどに一体的に結合しているものとは認められないから,本件商標からは,その構成中の図形部分と文字部分にそれぞれ対応して,「卵のカラを割ったヒヨコ」の観念と,「玉子(たまご)屋」の観念及び「タマゴヤ」の称呼が生じるものと認められる。
(2) 他方,引用2商標は,「カステラ」を指定商品とし,「たまご屋さんのカステラ」の文字を同書・同大にまとまりよく一連に横書きしてなる構成であるから,引用2商標に接した取引者・需要者は,その使用される指定商品「カステラ」との関連において,カステラの材料である卵を想起し,卵の生産者ないし卵を取り扱う店が新鮮な卵を使用し,あるいは卵を潤沢に使用して作ったカステラという一連の意味合いを認識すると認められる。そして,引用2商標の「たまご屋さんのカステラ」の文字は,これを一連に称呼し得ないほど冗長なものではないから,引用2商標からは,「タマゴヤサンノカステラ」,又は,使用される指定商品との関係において,「タマゴヤサンノ」の称呼が生じるが,「たまご屋さんのカステラ」が想起させる上記の意味合いから外れた「タマゴヤ」のみの称呼観念は生じないと解するのが相当である。
この点に関して,原告は,引用2商標の構成中,「カステラ」の文字は引用2商標の指定商品そのものを表したにすぎず,また,「たまご屋さんの」の語における「さん」は,人名,職名,職種などに付けて敬意を表す接尾語であって,いずれも自他商品識別力を有する部分ではなく,他方,「たまご屋」は,屋号を表すとともに,商品に使用された場合には,商標として機能する部分であるから,引用2商標の構成中,自他商品識別力を有する部分は「たまご屋」の文字部分であって,引用2商標からは,「卵屋(玉子屋)印製のカステラ」の観念及び「タマゴヤ」の称呼が生じ,これらによって自他商品が識別されると主張する。
しかしながら,「たまご屋」という語自体,屋号ないし特定の商品主体を示すというよりは,卵(玉子)の生産者ないし卵を商品として扱う業者を一般的に意味して用いられる語としての性質の強いものである上,「たまご屋」に「さん」が付けられた場合には,「さかな屋さん」,「ぎゅうにゅう屋さん」などと同様に,卵,魚,牛乳などの商品を生産し又は取り扱う業種を指す一般語という意味合いが一層強まるということができる。加えて,引用2商標においては,「たまご屋さん」の語が「カステラ」の語と組み合わされて一連に表記され,その文脈において「たまご屋さんのカステラ」という一つのまとまった意味を形成しているから,そこに存在する「たまご屋さん」の文字が想起させるのは,屋号等としての「たまご屋」ではなく,カステラに使用される卵の生産者又は販売者という意味での「たまご屋」(卵屋)であるというべきである。したがって,引用2商標に存在する「たまご屋」の文字から,「卵屋(玉子屋)印」の観念及び「タマゴヤ」の称呼が生じ,これらの観念及び称呼によって自他商品が識別されるとする原告の主張は,採用することができない。
(3) 次に,引用3商標は,卵形の二重線で表した枠の内側上方部分に,「産みたてのたまごでつくった」,「たまご屋さんの」と上下2段に横書きし(前者は黒地に白抜きの文字で表示),その下に大きく「焼きプリン」の文字を卵形の中央部に位置するように配し,その下に小さく「CUSTARD PUDDING」の欧文字を下線を付して表し,楕円の右下部分に小さな鶏と卵の図形を添えた,別添審決謄本写し別掲(2)のとおりの構成からなるもので,指定商品を第30類「焼きプリン」とするものである。 引用3商標の構成が上記のようなものであることからすると,これに接した取引者・需要者が,引用3商標の文字部分を,「産みたてのたまごでつくった」,「たまご屋さんの」及び「焼きプリン」が一連となった,「産みたてのたまごでつくったたまご屋さんの焼きプリン」の意味に理解することは明らかであり,引用3商標中の「たまご屋さん」,あるいは「たまご屋」の文字部分が,それのみを取り出して認識され,自他商品識別標識として機能することはないというべきである。
原告は,引用3商標についても,これに接する取引者・需要者は,構成中の「たまご屋」の文字に着目し,「産みたての卵で作った卵屋(玉子屋)印製の焼きプリン」,「産みたての卵で作った卵屋(玉子屋)印として販売される焼きプリン」の意味合いにおいて取引に当たるものであるから,自他商品識別力は,「たまご屋」の文字部分にあると主張するが,上記(2)で引用2商標について認定したのと同様の理由により,「たまご屋」の文字部分は,自他商品識別力のある部分ではないというべきである。そうすると,引用3商標からは,原告の主張するような「卵屋(玉子屋)印」の観念や,「タマゴヤ」のみの称呼は生じないと解することが相当である。
(4) 以上の検討に基づいて,本件商用と引用2商標及び引用3商標を対比すると,本件商標と引用2商標及び引用3商標とは,外観において顕著に相違することが明らかである。また,上記(2)及び(3)で認定したとおり,本件商標からは,「玉子屋(たまご屋)」の観念及び「タマゴヤ」の称呼が生じ得るのに対し,引用2商標及び引用3商標からは,原告の主張するような「卵屋(玉子屋)印」の観念及び「タマゴヤ」の称呼は生じないと認められるから,本件商標と引用2商標及び引用3商標とは,観念及び称呼において,非類似というべきである。
そうすると,本件商標は,引用2商標及び引用3商標のいずれとも非類似の商標というべきであり,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
2 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 古城春実
裁判官 岡本岳