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事件 平成 24年 (行ケ) 10293号 審決取消請求事件
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裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/01/15
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成25年1月15日判決言渡

平成24年(行ケ)第10293号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成24年11月26日

判 決



原 告 ロレツクス ソシエテ アノニム




訴訟代理人弁護士 牧 山 嘉 道

木 村 育 代

弁理士 アインゼル・フェリックス=ラ

インハルト

山 崎 和 香 子



被告引受参加人 株式会社BABY BAMBOO

DESIGN OFFICE



訴訟代理人弁理士 萼 経 夫

山 田 清 治

笠 松 直 紀



被告(脱退) 株式会社ZUCCa DESIGN

OFFICE




主 文




原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日

と定める。



事実及び理由

第1 原告の求めた判決

特許庁が無効2011−890084号事件について平成24年4月6日にした

審決を取り消す。



第2 事案の概要

本件は,原告による登録商標無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。

争点は,@本件商標と引用商標との類否(商標法4条1項11号。以下,商標法を

「法」という。),A本件商標と先願商標との類否(法8条1項),B本件商標が

原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれの有無(法4条1項15号)である。

1 特許庁における手続及び本件訴訟の経緯

(1) 被告は,本件商標権者であった。

【本件商標】




・登録第5300235号

指定商品 第14類 時計,時計の部品及び付属品

・出願日 平成21年7月16日

・登録日 平成22年2月12日

原告は,平成23年9月28日,本件商標の登録無効審判請求をしたところ(無




効2011−890084号),特許庁は,平成24年4月6日,「本件審判の請

求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月16日,原告に送達され

た。

被告は,被告引受参加人に対し,本件商標権を移転し,平成24年7月6日を受

付日とする移転登録がされたため,被告引受参加人が訴訟引受を命じられ,被告は

本件訴訟から脱退した。

(2) 原告が,法4条1項11号該当性に関して審判で援用した引用商標は,次

のとおりである。

【引用商標】




・登録第4146855号

指定商品 第14類 時計,貴金属,貴金属製食器類,貴金属製のくるみ

割り器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホ

ルダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ,貴金属製の花瓶・水盤・

針箱・宝石箱・ろうそく消し及びろうそく立て,貴金属製のがま口・靴

飾り・コンパクト及び財布,貴金属製喫煙用具,身飾品,宝玉及びその

原石並びに宝玉の模造品,記念カップ,記念たて

・出願日 平成8年9月10日

・登録日 平成10年5月22日

(3) 原告が,法8条1項該当性に関して審判で援用した先願商標は,次のとお

りである。

【先願商標】

ROLEX DEEPSEA(標準文字)

・登録第5394156号

指定商品 第14類「時計,貴金属,身飾品,宝玉及びその模造品,貴金




属製靴飾り,宝石箱」及び第35類「広告,時計及び眼鏡の小売又は卸

売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」

・出願日 平成20年4月7日

・登録日 平成23年2月25日

(4) 原告は,法4条1項15号該当性に関して,審判において次のとおり主張

した。

原告が腕時計に使用する商標である「オイスター パーペチュアル シードゥエ

ラー ディープシー」及びその欧文字表記である「OYSTER PERPETU

AL SEA DWELLER DEEPSEA」又は「シードゥエラー ディー

プシー」及びその欧文字表記である「SEA DWELLER DEEPSEA」

(以下,これらの商標を総称して「原告使用商標」という。)は,本件商標の出願

時において,原告の業務に係る商品を表示するものとして,腕時計の需要者に広く

知られていた。このうち,「DEEPSEA」及び「ディープシー」以外の部分は,

従来から原告の製品に使用されていたものであるため,需要者の注意を惹くのはも

っぱら「DEEPSEA」及び「ディープシー」の部分である。したがって,「D

EEPSEA」及び「ディープシー」の部分のみでも,原告の業務に係る商品を表

示するものとして腕時計の需要者に広く知られているといえる。これに対し,本件

商標からは,「ディープシードライバー」の称呼のほかに,「ディープシー」の称

呼を生じるから,本件商標は,原告使用商標と類似する商標であって,法4条1項

15号に該当する。

2 審決の理由の要点

(1) 法4条1項11号該当性について

本件商標は,構成する各文字が同じ書体でまとまり良く一連に表されたものであ

り,構成文字に相応して生じる「ディープシードライバー」の称呼も冗長とはいえ

ないことからして,「ディープシードライバー」の一連の称呼のみを生じるもので

あり,特定の観念を看取させない一連の造語からなるものである。




引用商標からは,「ディープシー」の称呼を生じ,「深い海」の観念が生じる。

本件商標と引用商標とを対比すると,外観は明らかに相違し,称呼も構成音数や

後半の「ドライバー」の音の有無が異なり,観念は対比できないので,両者は類似

しない。

(2) 法8条1項該当性について

本件商標は,上記(1)のとおり,「ディープシードライバー」の一連の称呼のみを

生じるものであり,特定の観念を看取させない一連の造語からなるものである。

先願商標は,視覚上「ROLEX」と「DEEPSEA」とに分離して看取され

るところ,「ROLEX」の部分が原告の代表的な出所標識であり,時計業界で著

名な商標であることを斟酌すると,構成文字に相応して「ロレックスディープシー」

と一連に称呼されるほかに,「ROLEX」の部分に相応して「ロレックス」の称

呼をも生じるが,「DEEPSEA」の部分のみが殊に強い印象を与えるとすべき

理由はないから,「ディープシー」の称呼が生じるとは認められない。

本件商標と先願商標とを対比すると,外観は明らかに相違し,称呼も構成音数等

が異なり,観念は対比できないので,両者は類似しない。

(3) 法4条1項15号該当性について

証拠によれば,雑誌等の記事や広告において,原告に係る商品(腕時計)につい

て,「ROLEX」又は「ロレックス」の商標と共に,「OYSTER PERP

ETUAL SEA DWELLER DEEPSEA」,「オイスター パーペ

チュアル シードゥエラー ディープシー」,「SEA−DWELLER DEE

PSEA」又は「シードゥエラー ディープシー」の商標が使用されている事実は

認められる。しかしながら,これらは,「DEEPSEA」又は「ディープシー」

が他の標章(文字)と結合して使用されたものであって,「DEEPSEA」又は

「ディープシー」の部分のみが殊更に印象強く看取される構成態様で表示されてい

るものは認められない。また,「DEEPSEA」及び「ディープシー」が単独で

商品に表示されたことを窺わせる証拠はない。




したがって,本件商標の出願時において,「DEEPSEA」及び「ディープシ

ー」が単独で,原告の商品を表示する商標として需要者の間で広く認識されるに至

っていたと認めることはできない。

そして,本件商標の構成中に「Deep Sea」及び「ディープシー」の文字

が含まれているとしても,その一事によって,本件商標が原告の商品(腕時計)に

表示された商標と関連あるものとして把握されることはないというべきであり,商

品の出所について混同を生じさせるおそれがあったとはいえない。



第3 原告主張の審決取消事由

1 取消事由1(法4条1項11号に関する判断の誤り)

(1) 本件商標は,「Deep Sea Driver」及び「ディープシード

ライバー」の各文字を2段書きしてなり,このうち,「Deep Sea」及び「デ

ィープシー」が「深い海」を,「Driver」及び「ドライバー」が「運転者,

操作者,(機械などの)動力伝導部」を意味する語として理解されていることから,

本件商標については,「Deep Sea」及び「ディープシー」と「Drive

r」及び「ドライバー」とを一つの区切りと理解することが可能であり,「Dee

p Sea」及び「ディープシー」と「Driver」及び「ドライバー」の2つ

の部分からなるものと捉えるのが自然である。そして,「Deep Sea」及び

「ディープシー」と「Driver」及び「ドライバー」の両文字は,これを結合

することによって観念上の結び付きが生ずるものとはいえず,全体として親しまれ

た熟語的な意味合いを形成するものともいえない。

審決が本件商標について認定した称呼「ディープシードライバー」は,10音で

あって,一連に称呼するにはいささか冗長であり,かつ上述のとおり,「Deep

Sea」及び「ディープシー」と「Driver」及び「ドライバー」の2つの部

分からなることが各構成文字から生じる観念上容易に理解し得るから,印象の強い

語頭部分にある「Deep Sea」及び「ディープシー」を捉え,ここから生ず




称呼及び観念をもって,取引に資するとされる場合も少なくないというのが相当

である。

以上のとおりで,本件商標からは「ディープシー」の称呼及びこれに応じた「深

い海」の観念が生じるから,本件商標から「ディープシードライバー」のみの称呼

が生ずるとした審決の判断は誤りである。

そして,引用商標からも「ディープシー」の称呼を生じるから,引用商標と本件

商標は,称呼上類似する商標である。

(2) 特許庁の商標審査基準においては,指定商品・役務について需要者の間に

広く認識された他人の登録商標と他の文字又は図形等とを結合した商標は,その外

観構成がまとまり良く一体に表されているもの又は観念上のつながりがあるものを

含め,その他人の登録商標と類似するものとされている。

そして,取消事由3で主張するとおり,「DEEPSEA」及び「ディープシー」

は,原告の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている

から,これと「Driver」及び「ドライバー」を結合した本件商標は,各文字

をまとまり良く一連に表したものであっても,引用商標と類似する。

2 取消事由2(法8条1項に関する判断の誤り)

本件商標から「ディープシー」の称呼が生じ得ることは,上記1のとおりである。

先願商標について,審決は,「DEEPSEA」の部分のみが殊に強い印象を与

えるとすべき理由はないから,「ディープシー」の称呼が生じるとは認められない

と判断した。しかしながら,先願商標は,特許庁の審査において,その当時は原告

以外の他人に登録されていた引用商標に類似するとして拒絶されている。また,「R

OLEX」部分は原告の著名商標であるが,そうであれば,先願商標は,「ROL

EX」と「DEEP SEA」に分離して看取されるのであり,「DEEP SE

A」部分が指定商品との関係で識別力を発揮しないようなものでない限り,それぞ

れの部分から称呼が生じるのが自然である。さらに,「ROLEX」が原告の出所

標識であることを考えると,先願商標からは「ロレックスのディープシー」という




観念が生じ,「ロレックスディープシー」,「ロレックス」の他に,「ディープシ

ー」の称呼及びこれに呼応する「深い海」の観念も生ずる。

したがって,先願商標と本件商標は,称呼上類似する商標である。

3 取消事由3(法4条1項15号に関する判断の誤り)

雑誌等の記事や広告において,原告使用商標,すなわち,「OYSTER PE

RPETUAL SEA DWELLER DEEPSEA」,「オイスター パ

ーペチュアル シードゥエラー ディープシー」,「SEA−DWELLER D

EEPSEA」又は「シードゥエラー ディープシー」の商標が使用されたという

審決の認定は争わない。

しかしながら,上記の表示のうち,「オイスター」及び「OYSTER」は,高

い防水性を持ち堅牢な「オイスターケース」を,「PERPETUAL」及び「パ

ーペチュアル」は長時間ゼンマイの巻上げを必要としない自動巻機構を表すもので

あり,これらの機構は原告の製造,販売する腕時計の大半が共通して備える腕時計

の特徴であるから,「OYSTER PERPETUAL」及び「オイスターパー

ペチュアル」の表示は原告の製造,販売する腕時計の大半に使用されている。また,

「シードゥエラー」及び「SEA DWELLER」は原告の製造,販売する製品

のうち,飽和潜水に対応可能な防水性能1220メートルの腕時計の商標として需

要者の間でよく知られており,ディープシー腕時計はこの製品の後継と位置付けら

れる。このように,原告使用商標の構成中,「DEEPSEA」及び「ディープシ

ー」以外の部分は従来から原告製の製品に使用されていたものであるから,潜水用

腕時計のパイオニアである原告が試作品「ディープシースペシャル」を作成し,チ

ャレンジャー海溝でも正確に作動した事実が潜水用腕時計の需要者の間でよく知ら

れていることと相まって,需要者の注意を惹くのはもっぱら「DEEPSEA」及

び「ディープシー」の部分である。

また,原告使用商標は,冗長である。このため,原告が1950年代から潜水用

腕時計に使用して潜水用腕時計の愛好家によく知られている「DEEPSEA」及




び「ディープシー」の部分が原告使用商標の要部と認識され,この部分から生じる

「ディープシー」の称呼を以て取引に当たる場合も決して少なくないと考えるのが

簡易迅速を尊ぶ取引の経験則に照らして相当である。なお,原告の商品を紹介する

際に,「DEEPSEA」及び「ディープシー」以外の部分をもって簡略化した例

はない。

したがって,「DEEPSEA」及び「ディープシー」は単独であっても原告の

商品を表示する商標として需要者の間で広く認識されていたというべきである。

そうすると,「DEEPSEA」及び「ディープシー」は原告の商品を表示する

ものとして需要者の間に広く知られており,本件商標は,周知商標である「DEE

PSEA」及び「ディープシー」を含むものであるから,これを指定商品に使用す

るときは,原告使用商標と誤認混同を生ずるおそれのある商標である。



第4 被告引受参加人の反論

1 取消事由1に対し

(1) 本件商標は,上段の「Deep Sea Driver」の欧文字と下段

の「ディープシードライバー」の片仮名文字を,それぞれ同じ書体,同じ大きさで,

外観上まとまり良く一体的に表すものであり,称呼も7音(長音を含めても10音)

であって,冗長とはいえず,よどみなく一連に称呼し得るものである。

また,本件商標中の「Deep Sea」及び「ディープシー」は「深い海」等

の意味を,また「Driver」及び「ドライバー」は「運転者」等の意味をそれ

ぞれ有する語であるが,いずれかが出所識別標識として強く支配的な印象を与える

ものではないし,いずれかについて出所識別標識としての称呼観念が生じないと

いうような事情も存しない。

したがって,本件商標からは,「ディープシードライバー」の称呼のみが生じる

というべきである。

他方で,引用商標からは,「ディープシー」の称呼を生じるから,両者は非類似




の商標である。

(2) 原告は,本件商標について,原告の周知・著名商標である「DEEPSE

A」及び「ディープシー」と,「Driver」及び「ドライバー」を結合したも

のであるから,本件商標と引用商標は類似すると主張するが,後記3で主張すると

おり,「DEEPSEA」及び「ディープシー」が原告の周知・著名商標であると

は認められない。

2 取消事由2に対し

本件商標からは,上記1のとおり,「ディープシードライバー」の称呼のみが生

じる。

これに対し,先願商標の「DEEPSEA」の部分は,「深い海」の意味を有し,

特に指定商品「時計」との関係においては,「深海用の時計」又は「深海での使用

に耐え得る時計」の意味合いを暗示させ,決して自他商品の識別力の強い語とはい

えないから,先願商標からは,「ディープシー」の称呼は生じない。

したがって,本件商標と先願商標は称呼において類似せず,称呼が類似する旨の

原告の主張は失当である。

3 取消事由3に対し

審決が説示するとおり,「ディープシー」及び「DEEPSEA」のみが商標と

して使用されている証拠は極めて少なく,原告の「時計」についての登録商標であ

る「ROLEX」(登録第125919号ほか多数),「SEA−DWELLER」

(登録第749220号),「OYSTER」(登録第987836号)などと共

に使用されているものである。引用商標は,本件商標の出願時において,原告以外

の第三者が有する登録商標であった。このため,原告は,原告の商品に係る「DE

EPSEA」の表示について,自他商品の識別標識として強く認識されないように,

原告の他の登録商標である「ROLEX」,「OYSTER」などの語と共に使用

していたことが窺われる。

したがって,原告の商品を表示する商標として,「ディープシー」及び「DEE




PSEA」が周知・著名であったとはいえない。

原告は,「オイスター」及び「OYSTER」が「オイスターケース」を表し,

また,「PERPETUAL」及び「パーペチュアル」が長時間ゼンマイ巻きを必

要としない自動巻機構を表している旨主張するが,それが仮に事実であったとしも,

そのことによって,直ちに,「ディープシー」及び「DEEPSEA」が周知・著

名商標となるものではない。

さらに,本件商標と「ディープシー」及び「DEEPSEA」が類似しないこと

は,取消事由1,2について主張したとおりである。



第5 当裁判所の判断

1 取消事由1(法4条1項11号に関する判断の当否)について

(1) 本件商標の要部について

本件商標は,「Deep Sea Driver」の欧文字を上段に,これより

若干小さな「ディープシードライバー」の片仮名文字を下段に,それぞれ横書きで

配したものであり,上段の「Deep Sea Driver」部分は,「Dee

p」,「Sea」及び「Driver」のそれぞれの間に,半角文字分の間隔が空

けられている。

ここで,下段の「ディープシードライバー」部分が上段の「Deep Sea D

river」部分の日本語表記であることは,その音に照らして明らかであるとこ

ろ,「Deep Sea Driver」部分と「ディープシードライバー」部分

のそれぞれが,普通にある字体で同じ大きさの文字により表記されていること,上

段の「Deep Sea Driver」部分については,「Deep」と「Se

a」,「Sea」と「Driver」との間に間隔が設けられているものの,2つ

の間隔は共に英単語を区切るスペース程度のものであって,「Deep Sea」

と「Driver」に分けて観察される態様とはなっておらず,全体としてまとま

り良く配されていること,また,各英単語は共通して日本人にもなじんでいるもの




で,特定の単語が特別の印象を持つものでないこと,そして,下段に並記された「デ

ィープシードライバー」部分は全体が一体として表記されていることからすると,

本件商標に接した需要者は,少なくとも「Deep Sea Driver」部分

と「ディープシードライバー」部分をそれぞれに一体として認識するものと認めら

れる。

また,本件商標からは「ディープシードライバー」の称呼を生じるが,この程度

であれば冗長であるとはいえず,一気に発音し得るものである。さらに,「Dee

p」,「Sea」及び「Driver」のそれぞれの部分からは,「深い」,「海」,

「運転者」等の観念が生じ得るが,いずれも日本人にもなじみのある一般的な名詞

又は形容詞であって,いずれかの部分が需要者に特に強い印象を与えるものではな

いし,その中の単語が格別に指定商品との関係で識別力の強弱を有するものでもな

い。なお,原告が主張するように,「Deep Sea」部分から「深海」,「D

river」部分から「運転者」の観念が生じ得るとした場合であっても,これら

はいずれも一般的な語にすぎないから,「Deep Sea」部分のみが需要者に

強い印象を与えるものとはいえないし,「Driver」部分を除外して識別力

生じるということもできない。

以上検討したところを総合すると,本件商標は,少なくとも「Deep Sea

Driver」部分及び「ディープシードライバー」部分がそれぞれに一体のもの

として認識されるというべきであるから,それらの部分をそれぞれ全体として他の

商標と対比すべきであり,その一部である「Deep Sea」あるいは「ディー

プシー」部分のみを抽出して要部となし,これを他の商標と対比するのは相当でな

い。

(2) 引用商標との対比

本件商標は,上記(1)のとおり,「Deep Sea Driver」の欧文字及

び「ディープシードライバー」の片仮名文字からなり,構成文字全体に相応する「デ

ィープシードライバー」の称呼を生じる。また,個々の構成部分から生じ得る,「深




い」,「海」,「運転者」等の観念を組み合わせても特定の観念は生じないから,

全体として特定の観念は生じない。

これに対し,引用商標は,ゴシック体様の「DEEP SEA」の欧文字を横書

きしてなるもので,「ディープシー」の称呼を生じ,「深海」の観念を生じる。

そうすると,「Driver」及び「ドライバー」の有無により,本件商標と引

用商標とは,外観及び称呼が異なるものとなる。また,観念においては対比するこ

とができない。したがって,両者は類似しない。

(3) 原告は,「DEEPSEA」及び「ディープシー」は,原告の業務に係る

商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているから,これと「Dri

ver」及び「ドライバー」を結合した本件商標は,各文字をまとまり良く一連に

表したものであっても,引用商標と類似すると主張する。

しかしながら,後記3のとおり,「DEEPSEA」及び「ディープシー」が,

原告の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたとは

認められないから,原告の上記主張は理由がない。

以上のとおり,取消事由1は理由がない。

2 取消事由2(法8条1項に関する判断の当否)について

取消事由2に関する原告の主張は,本件商標と「ROLEX DEEPSEA」

の欧文字からなる先願商標の双方について,「ディープシー」の称呼が生じること

から,両商標は類似するというものである。

しかしながら,取消事由1で説示したとおり,本件商標からは「ディープシード

ライバー」の称呼が生じるのであって,本件商標の一部を抽出して,そこから「デ

ィープシー」の称呼が生じるとするのは相当でない。したがって,先願商標から「デ

ィープシー」の称呼が生じるかどうかについて検討するまでもなく,両者が「ディ

ープシー」の称呼において類似する旨の原告の主張は理由がない。

3 取消事由3(法4条1項15号に関する判断の当否)について

証拠(甲7,8,10〜69,71〜121)によれば,審決認定のとおり,本




件商標の出願前において,原告使用商標のいずれか,すなわち,「OYSTER P

ERPETUAL SEA DWELLER DEEPSEA」「オイスター
, パ

ーペチュアル シードゥエラー ディープシー」,「SEA−DWELLER D

EEPSEA」又は「シードゥエラー ディープシー」が付された,原告の製造又

は販売する商品「腕時計」が,多数の雑誌又は新聞の記事で紹介され,あるいは広

告として掲載された事実が認められる。他方で,「ディープシー」の語のみによっ

て原告の腕時計が紹介された記事は,甲9,70のわずか2つにすぎない。そのほ

かに,記事中で「ディープシー」の語が単体で使用されている証拠として,甲26,

36,53,61,62,65,66,80が挙げられるが,これらについては,

高級時計を紹介するに際して「ディープシー」あるいは「DEEPSEA」の語を

含む原告使用商標を商品名として記載した上で,説明記事中で「ディープシー」の

語が使用されるにとどまる。さらに,上記の証拠(甲7,8,10〜69,71〜

121)によれば,原告使用商標は,全体として同じ字体,同じ大きさの文字で表

記され,「DEEPSEA」及び「ディープシー」部分を強調する態様にはなって

いないことが認められる。

このように,大多数の記事や広告において,原告の腕時計の商品名としては,複

数の語の組み合わせからなる原告使用商標が記載されているだけであり,「DEE

PSEA」及び「ディープシー」の標章単体で説明されているのは一部だけである

し,商品名についてみても,原告使用商標のうち「DEEPSEA」及び「ディー

プシー」部分が特に強調される態様にはなっていないのであるから,単体としての

「DEEPSEA」又は「ディープシー」標章が,原告の商品に係る商標として需

要者に広く認識されていたとは認められない。

この点について,原告は,原告使用商標のうち,「DEEPSEA」及び「ディ

ープシー」以外の部分は従来から原告製の製品に使用されていたことから,需要者

の注意を惹くのはもっぱら「DEEPSEA」及び「ディープシー」部分であるな

どと主張する。しかしながら,原告使用商標が付された腕時計が,1220メート




ルの深さの潜水に対応可能な腕時計の後継機であるとする原告の主張に照らすと,

当該商品との関係からして,潜水に関係する「深海」を意味し,日本人にとっても

この意味を容易に理解する「DEEPSEA」及び「ディープシー」部分の識別力

は,原告使用商標に含まれる他の語との対比において低いというべきであり,この

部分のみが原告使用商標の要部として需要者の注意を惹くとする原告の主張は採用

することができない。

また,原告は,原告使用商標は冗長であるから,「DEEPSEA」及び「ディ

ープシー」部分が要部と認識されるなどと主張する。しかしながら,上記説示のと

おり,「DEEPSEA」及び「ディープシー」部分は,原告使用商標が付された

商品との関係で識別力が低いというべきであるから,たとえ原告使用商標の称呼

冗長であるとしても,このうち「DEEPSEA」及び「ディープシー」部分のみ

が,原告の商品を表示する商標として需要者に広く認識されていたとは認められず,

原告の上記主張も採用することができない。

以上のとおり,「DEEPSEA」及び「ディープシー」が原告の業務に係る商

品を表示する商標として需要者に広く認識されていたとは認められないから,「D

EEPSEA」及び「ディープシー」が需要者に広く認識されていたことを前提と

する取消事由3も理由がない。



第6 結論

以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第2部





裁判長裁判官

塩 月 秀 平




裁判官

池 下 朗




裁判官

古 谷 健 二 郎