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事件 平成 23年 (ワ) 3460号 商標権侵害差止等請求事件
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裁判所 大阪地方裁判所 
判決言渡日 2013/01/17
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成25年1月17日判決言渡 同日判決原本交付 裁判所書記官

平成23年 ワ 第3460号 商標権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日 平成24年8月20日

判 決



原 告 株式会社 オ ー ク



同訴訟代理人弁護士 山 ア 浩 一

同 コ 田 敏



被 告 財団法人

日本漢字能力検定協会



同訴訟代理人弁護士 松 浦 正 弘

同 中 務 尚 子

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判

1 原告

(1)被告は,別紙商標目録記載1から3までの各商標をそれぞれ同目録指

定役務欄記載の役務の提供に当たり使用してはならない。

(2)訴訟費用は被告の負担とする。

2 被告
主文同旨

第2 事案の概要

1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)

(1)当事者

原告は,教材の開発,製作,出版及び販売等を目的とする株式会社である。設

立当初から平成24年4月15日まではP1が,その後は同人の息子であるP2

が代表取締役を務めている。

被告は,漢字に関する検定試験の実施,技能度の登録及びその証明書の発行等

を目的とする財団法人である。平成4年6月4日,平成16年法律第147号に

よる改正前の民法34条に基づき,公益法人たる財団法人として設立されたが,

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人

の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律に基づき,特

例財団法人として存続することとされた。設立代表者はP1であり,同人は,以

後その理事長を務めたが,平成21年4月16日にこれを辞任した。

(2)本件商標権

原告は,別紙商標目録記載1から3までの各商標につき,商標権を有している

(以下,各商標を「本件商標1? 3」,これらをあわせて「本件各商標」といい,

それぞれの商標に係る商標権を「本件商標権1? 3」,これらをあわせて「本件

各商標権」という。)。

(3)使用権の設定

専用使用権の設定

原告は,被告に対し,平成12年8月25日,本件商標権1及び同2につき,

指定役務の範囲における専用使用権を,各商標権の存続期間満了日(本件商標

権1については平成17年9月29日,本件商標権2については同年12月26

日)までを期間として無償で設定し,その旨の登録もされた。
イ 独占的通常使用権の設定

本件商標権1及び同2につき,商標権の存続期間が更新された際,被告の専用

使用権の期間は変更されなかったが,それ以降も無償による独占的通常使用が継

続して許諾された。

また,原告は,被告に対し,本件商標3につき,商標権の設定登録がなされた

平成14年4月5日,その指定役務の範囲において独占的通常使用を無償で許諾

した(以下,本件各商標権に係る上記各契約を「本件各使用許諾契約」とい

う。)。

(4)被告の行為等

ア 被告は,平成22年3月31日,特許庁において,本件各商標につ

き,商標登録無効審判請求をした。

イ 原 告は,被告に対し,平成23年1月18日,被告が上記商標登録

無効審判を請求したことなどを理由に,本件各商標を今後使用しないよう通告し

た(本件各使用許諾契約を解除する効果が生じたかについては争いがある。)。

ウ 被 告は,現在に至るまで,本件各商標を各指定役務において使用し

ている(ただし,本件商標1については,商標法26条1項1号に該当する旨の

被告の主張がある。)。

2 原告の請求

原告は,被告において,権限なく本件各商標の使用を継続しているとして,被

告に対し,本件各商標権に基づき,それぞれの指定役務において,本件各商標の

使用差止めを求めている。

3 争点

(1)本件各商標の登録は商標登録無効審判により無効とされるべきものか

(争点1)

ア 本 件各商標の登録は商標法4条1項7号に違反してなされ,又は,

商標登録後に同号に該当するものとなったか (争点1? 1)
イ 本件各商標の登録は商標法4条1項10号に違反してされたか

(争点1? 2)

(2)本件各使用許諾契約は解除されたか (争点2)

(3)先使用による使用権の成否 (争点3)

(4)商標法26条1項1号該当性(本件商標1について) (争点4)

(5)権利濫用の成否 (争点5)

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点1? 1(本件各商標の登録は商標法4条1項7号に違反してなされ,

又は,商標登録後に同号に該当するものとなったか)について

【被告の主張】

(1)商標法4条1項7号該当性

本件商標1及び同2は,被告が設立されて約4か月を経過した平成4年9月3

0日に出願されたものであるが,この時点で既に,漢字能力検定などの事業は被

告に承継されていた。また,本件商標3は,被告が設立されて8年近くが経過し

た平成12年5月23日に出願されたものであるが,「漢字資料館」は,同年4

月以降,被告が運営してきた施設の名称である。

また,被告は,日本漢字能力検定等を行うことを目的として,旧民法34条

定める財団法人(公益法人)として設立された法人であり,主務官庁である文部

科学省の指導監督のもと,公益法人として適切な運営がなされることが求められ

てきたものである。公益法人の事業は,一般の会社が行う事業とは異なる高度の

公共性と公益性を有するものであり,収益事業を除いた事業による収益は原則非

課税になるという税制上の優遇措置の対象にもなっている。被告の事業に関して

は,一般の営利企業以上の高い規律が求められ,被告の保有すべき資産を,その

理事や理事が経営する私企業に流出させることは禁止されている。

そのため,本件各商標は,本来,被告名義で出願,登録されるべきであったと
いえる。それにもかかわらず,被告の理事会,評議委員会の承認決議を得ること

もなく,原告が出願,登録したことは著しく社会的相当性を欠いていた。

したがって,本件各商標の登録は,公序良俗を害するおそれがあるものとして,

商標法4条1項7号に違反してなされたものであり,商標法46条1項1号によ

り無効とされるべきものである。

(2)後発的無効理由の発生

また,仮に上記(1)の無効理由が認められなかったとしても,本件各商標には,

後発的無効理由としての公序良俗違反(商標法46条1項5号)がある。この点,

被告は,後発的無効理由としての公序良俗違反は,商標の構成自体が公序良俗

反する場合に限られる旨主張するが,そのような限定解釈をすべき理由はない。

P1及びP2は,自身らの不祥事発覚後,被告役員の辞任に追い込まれたこと

から,原告が被告の基幹的商標について商標権を有することを奇貨として,被告

の円滑な業務遂行を妨害する意図で,被告の事業が立ちゆかなくなる恐れもある

ことを認識しながら,本件商標権1及び同2を第三者に移転したり,被告による

本件各商標の使用差止めを求める本件訴えを提起しており,また,本件各商標権

をある種の示威の手段として,これらを濫用的に行使する意図を明確に述べてい

る。

本件各商標は,前記(1)のとおり,公益法人として設立された被告あるいは被

告の業務を示すものであって,被告により出願登録されるべきであったが,原告

による公益法人の私物化の意図が潜在的にある中で,原告により出願されたもの

であり,いわば登録の当初より,公序良俗違反を構成しうるものであったが,そ

の後の上記のような不祥事発覚後の経過により,公序良俗違反は顕在化し,明白

になったものといえる。

したがって,本件各商標は,商標登録後に商標法4条1項7号に該当するもの

となったといえ,本件各商標の登録は商標法46条1項5号により無効とされる

べきものである。
【原告の主張】

(1)商標法4条1項7号非該当性

原告が本件各商標の登録を出願したのは,被告設立後も原告が継続していた漢

字能力検定などの事業に係る商標の使用権を確保するとともに,被告にも無償で

使用させるためであった。そこに利益相反もなかったし,資力の乏しい被告に

とっては商標の維持管理費用を負担しなくてよいという利益さえあった。

したがって,本件各商標が公序良俗を害するおそれはなく,商標法4条1項

号に違反したものとはいえない。

(2)後発的無効理由の不存在

後発的無効理由として公序良俗違反をいう場合は,商標の構成自体の公序良俗

違反に限られる。また,仮にそのような限定がないとしても,査定時における判

断基準より限定して解釈すべきであり,少なくとも商標法4条1項6号,19号

と同程度の事由を後発的公序良俗違反と判断すべきでなく,「不正の目的」(同

号)より高い悪性が商標権者に存し,登録を維持することが著しく社会的妥当性

を欠き,商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合,

又は,新たな法令や条約に基づく規制等(と同視できる社会状況の変化)により

公益に反することとなった場合に限られるというべきである。

上記の基準に照らして考えた場合,次のとおり,本件各商標を公序良俗違反と

すべき理由はない。

ア まず,一連のマスコミ報道においても,原告が本件各商標など漢字検

定事業に係る商標権を有することについて批判する報道はなく,本件各商標が,

マスコミ等を通じて社会的混乱を引き起こしたということはない。

イ また,原告が本件商標権1及び同2を第三者に移転したのは,被告

による仮差押え等によって資金繰りに窮し,やむなく,これらを含めた商標権を

計1000万円にて買戻特約付で譲渡したものであり,何ら公序良俗違反を基礎

づけるものではない。
ウ 原告が本件訴えを提起したのも,被告が,27億円に及ぶ高額な損

害賠償請求訴訟の提起や仮差押えの申立てをしたことなどに加え,本件各商標な

どについて商標登録無効審判を請求したため,やむなく本件各使用許諾契約を解

除したことによるのである。

そのため,被告の無効審判請求などがなければ,原告も本件訴えを提起するこ

とまではしなかったのであり,この差止請求によって社会に重大な影響を与えた

としても,その責任を原告が負うべき理由はない。

エ したがって,本件各商標につき,後発的無効理由として公序良俗

反に当たる事情はない。

2 争点1? 2(本件各商標の登録は商標法4条1項10号に違反してされ

たか)について

【被告の主張】

(1)商標法4条1項10号該当性

本件各商標は,出願された時点で,需要者たる漢字能力検定の受講者の間で,

被告の商標として広く知られるに至っていた。そのため,本件各商標は,原告に

とって「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に

広く認識されている商標」であったといえる。したがって,本件各商標の登録は,

商標法4条1項10号に違反してされたものとして,商標法46条1項1号に基

づき無効とされるべきものである。

(2)除斥期間の不適用

また,本件各商標が原告によって出願,登録されたのは,原告の代表取締役で

あったP1が,本件各商標権を原告名義で保有することにより,被告の事業を支

配しようという意図をもって独断で行ったものであり,不正競争の目的で登録さ

れたものといえる。

そのため,本件各商標の登録から既に5年を経過しているものの,除斥期間

(商標法47条1項)の適用はない。
【原告の主張】

(1)商標法4条1項10号非該当性

原告は,被告が設立されるまで,本件各商標を使用して漢字能力検定などの事

業を行っていた上,被告設立後も児童向けの漢字能力検定などその一部を引き続

き行ってきたのであるから,本件各商標は,原告にとって「他人」の業務を表示

する商標には当たらない。

(2)除斥期間の経過

本件各商標の登録から,いずれも5年が経過しており,商標法4条1項10号

違反を理由として,本件各商標の登録を無効とすることはできない(商標法47

条1項)。

なお,原告には,被告の業務を支配する意思などなかったし,そもそもそう

いった意思が不正競争目的に当たるものでもないから,除斥期間の適用が排除さ

れるべき理由はない。

3 争点2(本件各使用許諾契約は解除されたか)について

【原告の主張】

原告は,平成23年1月18日,本件各使用許諾契約を解除した(前提事実

(4)イ)。その原因は,被告が,本件各商標につき商標登録無効審判を請求した

(前提事実(4)ア)ためであるが,同行為は,本件各商標権を否定する行為で

あって,本件各使用許諾契約の解除原因になることは明らかである。

この点,被告は,原告が本件商標権1及び同2を第三者に譲渡したためやむを

得ず商標登録無効審判を請求した旨主張するが,実際には,被告は同譲渡とは無

関係に無効審判請求を決めていたものである。しかも,原告による商標権の譲渡

には,前記1【原告の主張】記載のような正当な理由があったのであるから,な

おさら被告による無効審判請求が正当化されるものではない。

【被告の主張】

被告が本件各商標登録の無効審判を請求したことによって,本件各使用許諾
約の解除原因となるものではない。

そもそも,被告は,原告が被告と全く関係のない第三者へ本件商標権1及び同

2を移転したため,本件各商標の正当な使用が妨げられることに大きな危惧を抱

き,原告に対し,被告名義に戻すよう強く要求したものの拒絶されたことを受け,

やむを得ず無効審判を請求したのである。

4 争点3(先使用による使用権の成否)について

【被告の主張】

被告は,本件各商標の登録出願前から,日本国内において,それぞれの出願に

係る指定役務について本件各商標を使用していた。

本件各商標は,各出願時には被告のそれら役務を表示するものとして,需要者

の間で広く知られていた。すなわち,本件商標1及び同2の登録が出願された平

成4年において,財団法人として設立後の被告が実施する漢字能力検定の志願者

数は既に8万人を越え,本件商標3の登録が出願された平成12年の志願者数は

150万人を越えていた。また,被告は,本件各商標のいずれについても,自ら

の業務に関連して使用していたのであるから,不正競争の目的など有していない

ことは明らかである。そして,被告は,本件各商標を,各出願時から現在に至る

まで継続して使用している。

したがって,被告は,本件各商標について,先使用による使用権(商標法32

条1項)を有している。

【原告の主張】

本件各商標は,被告が設立される前から原告が行ってきた漢字能力検定などを

表示するものであり,被告の主張は失当である。

5 争点4(商標法26条1項1号該当性)について

【被告の主張】

被告による本件商標1の使用は,これが「日本漢字能力検定協会」という文字

商標である以上,自己の名称あるいは著名な略称普通に用いられる方法で表示
しているにほかならず,商標法26条1項1号により,原告の商標権の効力は及

ばない。

【原告の主張】

被告は,本件商標1を単に自己の名称あるいは略称を普通に用いられる方法

表示するにとどまらず,漢字能力検定や書籍販売などにおいて広く用いており,

まさに本件商標1の指定役務において商標的に使用しており,商標法26条1項

1号に該当しない。

被告の名称は,もともと,原告の内部組織であった「日本漢字能力検定協会」

が行っていた漢字能力検定事業の一部を被告に行わせるために,「財団法人」に

続けて「日本漢字能力検定協会」という名称を付すことを原告が認めたという事

情がある。すなわち,被告は独自の立場で氏名表示を行ったものではなく,原告

の許容のもとに氏名表示を行ったのであるから,原告の利益を侵害しない範囲に

おいて氏名表示の利益が保障されるに過ぎない。

6 争点5(権利濫用の成否)について

【被告の主張】

商標権に基づく権利行使であっても,客観的に公正な競業秩序を乱すものと認

められる場合には,権利の濫用として許されない。客観的に公正な競業秩序を乱

すものと認められるか否かは,商標の出所識別機能を害するかどうか,商標の出

願登録の経過や権利者の主観的な要素等を考慮して,総合判断すべきである。

本件各商標は,被告の略称あるいはその業務に係る周知商標でありながら,被

告が商標権を取得していなかったことを奇貨とし,被告の代表者であった者が代

表者を務める原告が,登録出願して商標権を取得し,その後,原告の代表者が被

告の代表者を辞任せざるを得なくなったため,被告に対して商標使用の差止めを

求めているのである。その濫用的意図は明らかであり,商標権者として行動でき

る正当な根拠はない。

したがって,原告が被告に対して本件各商標の使用の差止めを求めることは,
権利濫用として許されない。

【原告の主張】

前記1【原告の主張】の事情に照らせば,原告が本件各商標権を行使し,被告

による本件各商標の使用差止めを求めることは,権利の濫用には当たらない。

第4 当裁判所の判断

1 本件紛争に係る事実経過

前提事実,証拠(各項末尾に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が

認められる。

(1)原告による漢字能力検定等の事業開始

原告は,昭和46年1月20日の設立後間もなくして,漢字学習に特化した漢

字教室を開設し,日本全国にフランチャイズ展開するとともに,漢字の学習法や

教材の開発を進めた。さらに原告は,昭和50年ころから,「日本漢字能力検

定」と称する漢字の検定試験を開始した。

原告は,漢字教室の運営,漢字教材の開発,出版等を行うため,原告の内部に

「日本漢字教育振興会」を組織して,これに当たらせ,漢字能力検定を行うため,

同じく原告の内部に「日本漢字能力検定協会」を組織して,これに当たらせた。

(甲1,9,32,33,証人P2)

(2)被告の設立

被告は,平成4年6月16日,平成16年法律第147号による改正前の民法

34条に基づき,財団法人として設立された。設立代表者及び理事長は,いずれ

も,当時,原告代表取締役であったP1であり,漢字に関する技能検定試験の実

施,技能度の登録及び証明書の発行等を目的とした。

被告は,その設立に当たって,P1から1億円の寄附を受けたほか,原告の内

部組織であった日本漢字教育振興会及び日本漢字能力検定協会の事業を承継した。

以後,原告がその上記内部組織によって行ってきた「日本漢字能力検定」のほか,
漢字教室の運営,漢字教材の開発,出版などの事業は,被告が実施している(主

に小学校1年生から3年生までを対象とした8級から10級までの漢字能力検定

[児童漢検]は,その後も,日本漢字教育振興会が主催していたが,遅くとも平

成18年3月までには,被告に承継された。)。

「日本漢字能力検定」の受講者は,原告がこれを開始した当初の昭和50年度

は672名であったが,昭和54年度には1万名を超え,被告が設立された平成

4年度には12万1924名に達した。以後,平成9年度には105万5710

名,さらに平成14年度から平成23年度まで毎年200万名を超えている。ま

た,「日本漢字能力検定」は,平成4年に文部省(現・文部科学省)から民間審

査事業認定制度に基づく認定を受けた。

(甲2,9,甲18の1・2,甲19の1? 3,甲22? 24,32,33,乙

3,13? 18,30,36,39,証人P2,証人P3)

(3)本件各商標などの登録

原告は,被告が設立された平成4年から平成12年までの間,本件各商標を含

め,「日本漢字能力検定」など被告の事業に関係する商標の登録を出願し,それ

ら商標に係る商標権を取得した。このことについて,被告理事会の承認を得たこ

とはなかった。

原告は,平成11年,「漢検既出問題集」「漢検四字熟語辞典」との文字商標

の登録出願をしたが,その拒絶査定不服審判手続において,平成12年12月,

審判官から,「漢検」との文字商標が被告の周知著名商標として機能しているた

め,原告を出願人としたまま登録することはできない旨指摘を受けた。これ以降,

被告の事業に係る商標の登録は被告が出願するようになるとともに,過去に原告

名義で登録されていた商標に係る商標権のいくつかも被告に移転された。

一方,本件各商標権は原告から被告に移転されることはなく,被告は原告から

本件各商標権の専用使用権あるいは独占的通常使用権の設定を受けるという地位

にとどまった。被告は,現在に至るまで,各指定役務において,本件各商標の使
用を継続している。

(甲3? 5の各1・2,甲8,9,11? 13,乙1,4,7,8)

(4)訴訟等の経過

被告は,平成21年2月ころ以降,監督官庁である文部科学省から,被告の理

事長であるP1及び理事であるP2が役員を務める企業との利益相反取引などに

ついて問題視され,このことがマスコミでも大々的に報道される事態となった。

P1及びP2は,同年4月16日,それぞれ被告の理事長及び理事を辞任した。

被告は,原告に対し,平成21年6月1日付の書面で,本件各商標権を含め,

被告の事業に係る商標権で原告が有するものを,権利取得に要した実費相当額で

ある1346万3799円で譲渡するよう申し入れるとともに,この求めに応じ

ない場合には,商標登録無効審判等を請求する旨通知したが,原告はこの申入れ

に応じなかった。また,被告は,同年8月31日,P1及びP2が,被告理事会

の承認を経ないまま原告などと利益相反取引を行い,被告に損害を与えたなどと

して,P1,P2,原告などを被告とし,27億円を超える損害賠償等請求訴訟

を提起した(京都地方裁判所平成21年(ワ)第3166号)。

原告は,平成21年11月16日,本件商標権1及び同2を含め,被告の事業

に係る商標権9件を,被告と関わりのない3名に移転し,その旨の登録がされた。

これら3名には,P1及びP2が社会的な批判を受けていることを疑問視し,両

名を支援している者も含まれていた。

被告は,平成22年3月31日,特許庁に対し,本件各商標登録の無効審判

請求した。そして,原告と被告は,同年7月9日,京都地方裁判所における賃料

仮払仮処分申立事件(京都地方裁判所平成22年(ヨ)第194号)で和解し,上

記9件の商標権を再び原告に移転することとし,同月26日にその旨の登録がさ

れた。

原告は,被告に対し,平成23年1月18日到達の内容証明郵便にて,本件各

商標を末尾に記載の上,
「株式会社オークはその権利に属する下記商標を貴協会に無償使用を許諾してき

ましたが,貴協会は株式会社オークに対して不当な損害賠償請求,仮差押え,賃

料および書籍購入代金の一部支払拒絶などをして株式会社オークの存立を危うく

するばかりか,上記商標について無効審判を請求し,株式会社オークの財産権を

侵害する行為に出ております。

株式会社オークとしては,貴協会から一方的にかかる違法不当な行為をされて

いる以上,もはや上記商標を貴協会が使用することは許諾できません。

よって,本書到達後は決して下記商標を検定問題・答案用紙・ サイト・

受検案内を含む一切に使用されることのないよう通告します。」

と通知した。

原告は,平成23年3月17日に本件訴えを提起した。

原告は,上記無効審判請求に係る同年10月11日の第1回口頭審尋において,

漢字検定事業を再開する構想もあるので,本件各商標権を被告に譲渡することは

考えていない旨述べていたが,P2は,本件での証人尋問において,原告が本件

訴えを提起した理由につき,被告から提起された民事訴訟等への対抗策である旨

証言している。

(甲3? 5の各1,甲6,甲7の1・2,甲9,10,15,28,32,33,

乙11,31,36,39,証人P2,証人P3)

2 争点5(権利濫用の成否)について

事案に鑑み,まず争点5について検討するに,原告が本件各商標権に基づき被

告による本件各商標の使用差止めを求めることは,権利濫用に当たり,許されな

いと判断する。

理由は以下のとおりである。

(1)本件各商標について商標権者となるべき者

被告は,原告の内部組織であった,日本漢字教育振興会及び日本漢字能力検定

協会の事業を承継したが(前記1(2)),その中心的な事業は「日本漢字能力検
定」である。本件商標1は,上記事業の役務の主体を意味するものであり,被告

の名称から「財団法人」を除いたものに過ぎない。また,本件商標2は,上記

「日本漢字能力検定」あるいは本件商標1の略称であり,本件商標3は,本件商

標2に,上記事業の一環として開設した漢字資料館(漢字資料館だけでは,普通

名称というべきである。)の名称を付加したものである。これらの事情によると,

本件各商標は,いずれも被告の役務を表示する基幹となる商標(本件商標1,

2)や,これを含むもの(本件商標3)であり,本来,被告が出願し,その商標

権者となるべきであるといえる(商標法3条1項柱書)。

このように,これら本件各商標の役務に係る事業は,元々原告が開始したもの

であるとはいえ,平成4年に公益法人として被告が設立されて以降,被告の事業

とされ,原告はごく一部の事業につき,平成18年3月まで主催者とされていた

にとどまる。それにもかかわらず,原告が本件各商標権を有し続けることは,私

企業たる原告の一存によって,公益法人として設立された被告の事業継続を不安

定にさせ得る潜在的な危険があることを意味している。

原告が本件各商標について登録出願し,商標権者であることを直ちに違法と評

価するかはともかく,被告による独占的な使用を許諾する限りにおいて,かろう

じて許容されてきたものといえる。すなわち,原告は,本件各商標の出願登録に

関する費用を負担し,登録以降,被告に対し,無償の専用使用権(本件商標1,

2。登録更新まで)や独占的通常使用権(本件商標3。後に本件商標1,2が加

わる。)を設定しているが,原告は,「日本漢字能力検定」などの事業を被告に

引き継いだ以上,本件各商標の登録出願をした原告が,その商標権者であり続け

るということは,これらの使用許諾が当然の前提となっているというべきである。

原告は,被告設立後も,自ら実施していた漢字能力検定に係る使用権を確保す

るためであったと主張するが,最も重要な「日本漢字能力検定」の事業を被告に

引き継いだ以上,原告のみが本件各商標を使用することは全く想定されていない

というべきである。
そして,これらのことは,平成12年12月,特許庁での審判手続において,

被告の事業に係る商標につき,原告が商標登録することを問題視されて以降,被

告の事業に係る商標の登録は被告が出願するようになるとともに,過去に原告名

義で登録されていた商標に係る商標権のいくつかも被告に移転されたりしており,

原告にとっても明確に認識できたものである。

(2)被告による使用状況

本件各商標は,その商標登録から現在に至るまで,被告の事業の中心である

「日本漢字能力検定」の事業を表すもの(本件商標1,2),あるいはこれに付

随する事業を表すもの(本件商標3)として使用されてきた商標であり,前記1

(2)のとおり,受検者の増加に伴い,その旨一般にも広く認識されてきたといえ

る。

(3)危険性の顕在化

ところが,前記1(4)のとおり,原告は,平成21年11月以降,本件各商標

権を,被告とは関係のない第三者に移転したり,被告に対して本件各商標の使用

を中止するよう通告したりした上,ついには被告による本件各商標の使用差止

を求める本件訴えの提起にまで至った。このことは,まさに原告が本件各商標権

を有することに伴う前記潜在的危険性を顕在化させたものであり,原告は,その

権利保有及び行使が許容される根拠を自ら喪失させたといえる。しかも,前記1

に認定の事実経過からすれば,原告が本件訴えを提起したのは,本件各商標権が

自己に帰属していることを奇貨とし,被告からの損害賠償請求等への対抗策とし

て利用するためといえるが,商標制度が保護すべき権利,利益とは,およそかけ

離れた目的といわざるを得ない。

(4)まとめ

以上のとおり,本件訴えにおける原告の請求は,本件各商標権が本来帰属すべ

き主体である被告の事業継続を危うくさせるものでしかなく,しかも,商標本来

の機能とは関わりなく,被告からの損害賠償請求等への対抗策として本件各商標
権を利用しているというのであるから,そこにもはや何らの正当性はなく,権利

濫用に当たるというほかない。

したがって,原告が,本件各商標権に基づき,被告による本件各商標の使用差

止めを求めることは許されない。

3 結論

以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文

のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部



裁判長裁判官 山 田 陽 三




裁判官 松 川 充 康




裁判官 西 田 昌 吾
商 標 目 録

1 商標の構成




指定役務

第41類 漢字についての読み・書き・使用その他の知識又は能力

に関する検定

登録番号 第3074190号

手続経緯

出 願 平成 4年 9月30日

登録査定 平成 7年 3月23日

設定登録 平成 7年 9月29日

更新登録 平成17年 5月24日



2 商標の構成




指定役務

第41類 技芸・スポーツ又は知識の教授

登録番号 第3102731号

手続経緯
出 願 平成 4年 9月30日

登録査定 平成 7年 6月 8日

設定登録 平成 7年12月26日

更新登録 平成17年10月11日



3 商標の構成




指定役務

第41類 漢字又は日本語の歴史・文化・教育に関する資料の展

示,拓本の展示,古銭の展示,漫画の展示,美術品の展

示,漢字又は日本語の歴史・文化・教育に関する図書及

び記録の供覧,図書の貸与,漢字及び日本語文章に関す

る能力の検定,通信教育も含む漢字及び日本語文章に関

する知識の教授,技芸・スポーツ又は知識の教授,漢字

又は日本語の歴史・文化・教育に関するビデオ・CD?

ROMの制作(映画・放送番組・広告用のものを除

く。),漢字又は日本語の歴史・文化・教育に関するビ

デオテープ・録画済み磁気テープ・録画済みディスク・

録画済みシーディーロム・録画済みフロッピーの貸与,

漢字又は日本語の歴史・文化・教育に関する講演会・研

究会・交流会の企画・運営又は開催,レコード又は録画

済み磁気テープの貸与,おもちゃの貸与,遊園地用機械

器具の貸与,遊戯用器具の貸与,動物の調教,植物の供

覧,動物の供覧,庭園の供覧,洞窟の供覧,映画・演芸
・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上

映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,

音楽の演奏,放送番組の制作,ゴルフの興行の企画・運

営又は開催,相撲の興行の企画・運営又は開催,ボクシ

ングの興行の企画・運営又は開催,野球の興行の企画・

運営又は開催,サッカーの興行の企画・運営又は開催,

競馬の企画・運営又は開催,競輪の企画・運営又は開

催,競艇の企画・運営又は開催,小型自動車競走の企画

・運営又は開催,当せん金付証票の発売,音響用又は映

像用のスタジオの提供,運動施設の提供,娯楽施設の提

供,興行場の座席の手配,映写機及びその附属品の貸

与,映写フィルムの貸与,楽器の貸与,スキー用具の貸

与,スキンダイビング用具の貸与,テレビジョン受信機

の貸与,ラジオ受信機の貸与

登録番号 第4557751号

手続経緯

出 願 平成12年 5月23日

登録査定 平成14年 2月26日

設定登録 平成14年 4月 5日

更新登録 平成24年 4月 3日