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関連審決 無効2012-890095
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事件 平成 26年 (行ケ) 10264号 審決取消請求事件

原告株式会社ルネ
訴訟代理人弁理士 松田治躬
同 近藤史代
同 松田真砂美
被告 有限会社RIVERSTONE HOLDINGS
訴訟代理人弁理士 太田朝子
同 石塚信洋
同 太田明男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/06/11
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2012-890095号事件について平成26年10月21 日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,下記の商標登録第5426917号商標(以下「本件商標」とい う。)の商標権者である(甲1の1・2,乙6の1ないし5)。
記 登録商標 RUNE(標準文字) 出願日 平成20年1月30日 出願番号 商願2008-71804 分割の表示 商願2008-6272の分割 登録日 平成23年7月22日 指定商品 第24類「タオル,ハンカチ,その他の布製身の回り品」 第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物, 仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」 第28類「おもちゃ,人形,スキーワックス,遊園地用機械器具(業務用テ レビゲーム機を除く。),愛玩動物用おもちゃ,囲碁用具,歌がる た,将棋用具,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンド ゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,ト ランプ,花札,マージャン用具,遊戯用器具,ビリヤード用具,運 動用具」(2) 原告は,平成24年11月7日,本件商標の指定商品中第24類「タオル, ハンカチ,その他の布製身の回り品」及び第25類「被服,履物(「靴合わ せくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。)」につい ての本件商標の商標登録(以下「本件商標登録」という。)を無効にするこ とを求めて商標登録無効審判を請求した(甲27)。
特許庁は,上記請求について,無効2012-890095号事件として 審理を行い,平成26年10月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」 との審決(以下「本件審決」という。)をし,同月30日,その謄本が原告 に送達された。
(3) 原告は,平成26年11月28日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を 提起した。
2 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,別紙審判書(写し)記載のとおりである。要するに,本 件商標は原告の登録商標である下記の商標(甲2の1・2。以下「引用商標」 という。)と非類似の商標であって,本件商標登録は商標法4条1項11号に 違反してされたものではないから,同法46条1項1号により,本件商標登録 を無効とすることはできない,というものである。
記(引用商標) 登録番号 商標登録第4443540号 登録商標 別紙引用商標目録記載のとおり 出願日 平成11年5月10日 登録日 平成13年1月5日 存続期間更新登録日 平成22年11月24日 指定商品 第24類「布製身の回り品」 第25類「被服,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・ 靴保護金具」を除く。),げた(「げた金具」を除く。),草履類」3 取消事由 本件商標の商標法4条1項11号該当性の判断の誤り
当事者の主張
〔原告の主張〕 1 審決の判断内容 本件審決は,本件商標と引用商標との類否について,おおむね以下のとおり 判断した。
(1) 外観について 「RUNE」の欧文字からなる本件商標と「Rene」の欧文字からなる 引用商標(ただし,引用商標は,「Rene」の構成の末尾の「e」の文字 の上にフランス語で用いられるアクサン記号が付されている。)とは,とも に欧文字4文字の構成からなり,語頭の「R」の欧文字を共通にするものの, 第2文字目が本件商標では「U」であるのに対し,引用商標では「e」であ る点,第4文字目の「e」の文字の上に,本件商標ではアクセント記号が付 されていないのに対し,引用商標ではこれが付されている点,本件商標は全 て大文字からなるのに対し,引用商標は語頭のみが大文字で,これに続く3 文字は小文字からなる点において相違する。
してみると,本件商標と引用商標とは,外観上大きく異なり,相紛れるお それはない。
(2) 称呼について 本件商標からは,「ルネ」又は「ルーン」の称呼が生じるのに対し,引用 商標からは,「ルネ」の称呼が生じる。
してみると,本件商標と引用商標とは,「ルネ」の称呼を共通にする場合 があるが,本件商標から「ルーン」の称呼が生じる場合においては,引用商 標から生ずる「ルネ」の称呼とは,称呼において相紛れるおそれはない。
(3) 観念について 本件商標は,特定の観念を有しないのに対し,引用商標は「ルネなる男の 名前」の観念を生ずるものであるから,本件商標と引用商標とは,観念上類 似するとはいえない。
(4) 取引の実情について 本件商標と引用商標との共通する指定商品である被服や履物等の商品は, 購入者自らが直接身に付けるものであるから,商品の選択にあたり,直接商 品を手に取って吟味し,同種商品と比較しながら商品の選択をすることは一 般的に行われる注意力として顕著な事実である。
また,近時,インターネットを利用した商品広告が定常化しており,購入 者は,インターネット上で商品を見て購入手続に入るか,あるいは,それを 記憶し商品を直接確認した上で購入の決定をする手法が行われている。
これらの取引の実情を踏まえると,この商品分野においては,視覚を通し て取引される場合が多いとみるのが一般的,恒常的な取引の実情といえるか ら,その外観の果たす役割が大きいというべきである。
(5) 類否について 本件商標と引用商標とは,「ルネ」の称呼を一部共通する場合があるとし ても,その外観が明らかに相違し,観念上類似するとはいえないものであっ て,両商標の指定商品取引の実情など,需要者に与える印象,記憶,連想 等を総合して考察すると,両者は,互いに相紛れるおそれのない非類似の商 標というべきである。
2 しかしながら,本件商標と引用商標とは,以下のとおり類似する商標である から,本件審決における両商標の類否判断は誤りである。
(1) 商標の類否判断について ア 商標法に基づく商標登録制度は,取引上使用される目印(商品等表示) 中,最も模倣されやすい「商標」につき,不正な競業行為を防止するため に設けられた制度であり,この制度は,全く異なる二分されたシステムよ り成り立っている。
第一システムは,行政庁に委ね,その審査により,業界との関連で,識 別力がない商標の登録を排除し,また,他人との関連で,類似する商標の 併存登録を避ける選別の結果,登録処分(行政処分)で不必要な紛争を未 然に防止する商標登録システムである。
第二システムは,司法に委ね,その判断により,商標登録システムを利 用せず,又は,登録しているが逸脱変更して,現実に出所の混同を生ずる 使用を行った現在の紛争解決システムである。
商標登録の無効を争う訴訟は,第一システムに関するものであるから, 「商標登録システム」における特許庁の「類否判断」を争うものであり, 侵害訴訟のように現に当事者間で発生した紛争を解決する場合の,当事者 を納得させる動的な「類否判断」とは異なるものであって,対社会的に普 遍・妥当な判断でなければならない。
イ 商標の世界では,類否判断は,提供者と需要者間の問題であり,国民全 体の日常生活の基盤として,重複・併存を認めない唯一性が求められる。
この取引市場での混乱防止のため,客観性・公平性・安定性・恒常性を求 めるための基準として,内外国で採用されている理論が,「外観」「称呼」 「観念」の三点から商標の類否を判断する三点観察の理論である。
紛争を未然に整理する商標制度では,三点のうち,一点又は二点が若干 非類似に近い非類似グレーゾーンにある後願を,総合判断で類似と判断し 拒絶することは,紛争の未然防止に役立ち,制度目的に沿う判断と考えら れる。これに反し,三点のうち,一点又は二点が類似範囲と考慮される類 似グレーゾーンにある後願を登録することは,侵害や無効審判等の紛争を 取引社会に撒き散らすことになり,制度目的に反することになる。
したがって,少なくとも判断要素の一点で類似すると解される以上,「総 合的判断」なる理由で後願を登録に導く根拠にすべきではない。
ウ 最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁 (以下「最高裁昭和43年判決」という。)は,商標の類否の判断につい て,外観観念称呼の印象・記憶・連想を全体的に観察し,取引の実情 を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきとし, 硝子繊維糸の取引状況では,称呼での識別・品質の認識はほとんどなく, 称呼の対比を比較的緩やかに解しても,出所の誤認混同を生ずるおそれが なく,外観,観念,称呼は出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基 準にすぎず,他の二点において著しく相違することその他取引の実情から 認め難いときは類似商標と解すべきではないと判示した。しかし,この事 案は,もともと商品が非類似であって三点観察自体不要な事案であったか ら,称呼は緩やかに解してもよいという判断は不要であった。したがって, このような最高裁昭和43年判決の判断基準を一般化すべきではない。
(2) 外観について 本件商標と引用商標とは,共に「R」から始まる欧文字4字から成り,4 文字中冒頭の文字(「R」)及び末尾2文字(「NE」,「ne」)の合計 3文字を共通にし,わずかに2文字目(本件商標が「U」であるのに対し, 引用商標が「e」)を異にするにすぎない。
本件商標と引用商標とは,本件商標が全て大文字であるに対し,引用商標 は大文字及び小文字からなる点,並びに,4文字目にアクセント記号が付さ れているか否かの点において相違するが,本件商標と引用商標を構成する文 字等は通常一般に見受けられる欧文字等であり,その書体も特異なものでは ないから,上記の相違点は,本件商標と引用商標とをその外観において対比 するについては,特段の考慮を要しない。
以上のとおり,本件商標と引用商標とは,全体で4文字にすぎない欧文字 のうち3文字を共通にするものである。
実際の商品取引において,取引者,需要者は,商標を必ずしもその綴字の 全部にわたり文字として仔細に検討して異同を吟味するようなことはせず, 一群の欧文字を全体として一個の標章として見て,それぞれに対する全体的 直観ないしは概観的印象に頼って異同を認識しやすいものである。このこと は,経験則上明らかであるから,本件商標と引用商標とは,それぞれ別個に 商標として使用するときは,これを見る者に直観的に極めて近似した印象を 与えるものであり,相紛らわしいものである。
したがって,本件商標と引用商標とは,外観において類似するというべき である。
(3) 称呼について 本件商標と引用商標とは,「ルネ」との称呼を共通にする。
被告は,本件商標を構成する「RUNE」の文字は,著名なイラストレー ターであるAを表すものであるとして,自ら,本件商標から「ルネ」の称呼 が生じること,実際に「ルネ」との称呼で本件商標を使用していることを認 めている。
したがって,本件商標と引用商標とは,原告及び被告が現実に「ルネ」と の称呼で商標を使用しており,また,第三者においても,これをローマ字読 みすることで,当然に「ルネ」の称呼が生ずるものであるから,称呼におい て同一であるというべきである。
本件審決は,本件商標から「ルーン」の称呼が生じる場合においては,引 用商標から生ずる「ルネ」の称呼とは,称呼において相紛れるおそれはない などとするが,かかる対比は無意味である。
(4) 観念について 引用商標(「Ren?」)は,語尾「e」にアクセント記号が付されたこと により,「ルネ」の「音」が脳裏に想起され,「ルネなる男の名前」の観念 が生ずる。
本件商標(「RUNE」)は,ローマ字読みで,「ルネ」なる「音」が生 じる以上,取引者,需要者には「ルネなる男の名前」の観念が生ずる(又は, 我が国の取引者,需要者には「ルネなる女の名前」の観念が生ずる)と考え るのが自然である。
したがって,本件商標と引用商標とは,観念において同一であるというべ きである。
(5) 取引の実情について ア 本件商標の指定商品である「第24類 タオル,ハンカチ,その他の布 製身の回り品」及び「第25類 被服,履物(靴合わせくぎ・靴くぎ・靴 の引き手・靴びょう・靴保護金具)を除く。」と,引用商標の指定商品で ある「第24類 布製身の回り品」及び「第25類 被服,靴類(靴合わ せくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具)を除く。」とは, 指定商品としては同一である。
イ 本件審決がいう,「直接商品を手に取って吟味し,同種商品と比較しな がら商品の選択をする」というのは,初回の商品選択のときのことであり, この段階では,取引者,需要者は商標を認識していない。かかる初回の取 引は,過去の取引経験によって商品の品質等を理解し,商標に関する記憶 により同一商品又は同一販売者の商品を探すという,商標を利用した2回 目以降の取引の場合とは全く異なるものである。本件審決のいう取引の実 情によると,取引者,需要者は,毎回商品を「吟味・比較・選択」するの であるから,商標は外観を含め,不要ないし重要でないということになっ てしまう。
商標の重要性は,商標がリピート客に対する顧客誘引の目印であり,初 回取引で好感を得た商品を再度探し,あるいは,不快に思った商品の購入 を避けるため目印を探す記憶との関係が重要であるから,商標の類否は, 時と場所を異にした「離隔的観察」により判断されるべきであるが,本件 審決における判断は,かかる観察方法によらないものとして不当である。
(6) 類否について 以上のとおり,本件商標と引用商標とは,@離隔的観察において,外観上 明確な相違を有するとはいえず,むしろ類似といい得る範囲内のものである こと,A引用商標から生ずる「ルネ」の称呼と,被告が自認する本件商標か ら生ずる「ルネ」の称呼は全く同一であること,B共に「ルネ」の「音」が考 えられる以上,この「音」に基づいて観念が生ずるのが自然であり,「ルネ なる男又は女の名前」との観念において共通すること,C比較すべき指定商 品は,取引の実情を考慮するまでもなく同一であることからすれば,外観, 称呼及び観念の三点観察からすると,本件商標は引用商標との間で,商品の 出所の混同(一般的出所の混同)を生ずるおそれのある類似の商標であると いうべきである。
3 まとめ 本件商標は,引用商標と類似の商標であって,本件商標は商標法4条1項1 1号に該当する。
したがって,本件商標が商標法4条1項11号に該当しないとした本件審決 における判断は誤りであり,かかる違法は本件審決の結論に影響を及ぼすもの であるから,本件審決は取り消されるべきである。
〔被告の主張〕1 本件商標は,以下のとおり,引用商標と非類似の商標であるから,本件商標 が商標法4条1項11号に該当しないとした本件審決における判断に誤りはな い。
2 本件商標と引用商標との類否について (1) 外観について 本件商標と引用商標とは,ともに欧文字4文字の構成からなり,語頭の「R」 の文字を共通にするものの,2文字目が本件商標では「U」であるのに対し, 引用商標では「e」である点,4文字目の「e」の上のアクセント記号が, 本件商標にはないのに対し,引用商標には有る点,本件商標が全て大文字か らなるのに対し,引用商標は語頭のみを大文字で,これに続く3文字を小文 字で表記する点において相違し,本件商標と引用商標とは,外観上大きく相 違し,相紛れるおそれのないものである。
加えて,本件商標は標準文字にて出願,登録されているが,引用商標は標 準文字制度を利用しておらず,日本語ワープロソフトで一般的に用いられる 文字フォントである「ゴシック体」「明朝体」「Times New Roman」等のフォ ントにも該当しない独自のデザインで表記されており,引用商標は,その語 頭の「R」の文字のはらい(最後の跳ね上げ部分)を上方向に向かわせてい る点や全体的に横線部分の細さに比して縦線部分の太さを際立たせるように している点に,特徴を有するものである。
そうすると,本件商標と引用商標とは,大文字と小文字の差異,アクセン ト記号の有無,そのデザインの点で,一見して外観上類似しないというべき である。
(2) 称呼について ア 本件商標からは,「ルネ」の称呼が生じる。また,本件商標からは,本 件審決が認定するように,「ルーン」の称呼も生じる。
イ 引用商標については,フランス語の「アクサンテギュ」(アクサン記号) と同様の記号は,スペイン語,ポルトガル語等の表記にも用いられるもの であるから,取引者,需要者において,引用商標を直ちにフランス語の読 みに倣って称呼すると判断するものとはいえない。
また,我が国のフランス語の普及率は英語のそれと比較して高くなく, フランス語が我が国において広く普及しているとはいい難いことに照らせ ば,取引者,需要者において,我が国で親しまれているローマ字読みによ り,引用商標から「レネ」の称呼を生ずると判断することはごく自然であ る。
さらに,フランス語の「R」は日本語にない「有声口蓋垂摩擦音」であ り,引用商標の語頭部分は日本語のラ行の音とは異なる音であるところ, フランス語に堪能な者であれば,引用商標をより実際のフランス語に近い 音で認識し称呼する可能性が高いから,敢えて日本語で記載するとすれば, 引用商標からは「フネ」の称呼が生じる。
以上のとおり,本件商標と引用商標とは,称呼においても明らかに相違 するというべきである。
(3) 観念について 本件商標は,著名なイラストレーターである「A」の名前の一部をローマ 字化したものであり,造語というべきものであるから,特定の観念を生じな い。
これに対し,引用商標は男子の名の観念を生じるものである。
したがって,本件商標と引用商標とは,観念において類似しない。
(4) 取引の実情について 本件商標及び引用商標の指定商品である「第25類 被服」等の分野にお いては,デパート等の対面販売の場面では,原告のいう「2回目以降のリピー ト取引」の場合であっても,過去の購入商品と同一商品を購入するとは考え にくく,新しく購入する商品の材質,サイズ,値段,デザイン等を吟味する のが当然であるし,値段が表示されている商品タグには商標が付されている ことも多々あるから,取引者,需要者において,商標の外観を目にすること は多い。
また,近年盛んになっているインターネット上による商品情報の取得や商 品の購入の場面では,商品とともに商標がインターネット画面上に表示され ていることも多いから(例えば,乙26の1・2),消費者は,常に商標の 外観を目にしながら商品情報を取得したり,購入を検討したりするものであ る。
以上によれば,本件商標及び引用商標の指定商品分野における取引におい ては,商標の外観の果たす役割が大きいといえ,本件審決における取引の実 情に係る認定判断に誤りはない。
(5) 類否について 以上のとおり,本件商標と引用商標とは,称呼及び外観において明らかに 非類似であって,観念上も類似するとはいえないものであるから,両者は互 いに相紛れるおそれのない非類似の商標である。
3 まとめ 本件商標は,引用商標と非類似の商標であって,商標法4条1項11号に該 当しない。
したがって,本件商標が商標法4条1項11号に該当しないとした本件審決 における判断に誤りはなく,原告の主張する取消事由は理由がない。
当裁判所の判断
当裁判所は,本件商標は,引用商標と非類似の商標であり,商標法4条1項 11号に該当するものではないから,本件商標登録を無効とすることはできな いとした本件審決に取り消されるべき違法はないと判断する。その理由は次の とおりである。
1 商標の類否判断について 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に 使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える 印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえ つつ全体的に考察すべきであり,しかも,その商品又は役務の取引の実情を明 らかにし得る限り,その具体的な取引の実情に基づいて判断すべきものである (前記最高裁昭和43年判決参照)。
原告は,三点観察システムについて,三点のうち一点で類似すると解される 以上,類似商標と判断されるべきであるとして,最高裁昭和43年判決の判断 基準を批難するが,原告が主張する判断基準は,商標法4条1項11号に係る 商標の類否の判断基準としては,狭きに失するものであり,採用できない。
そこで,前記の観点から,本件商標と引用商標の類否について検討する。
2 本件商標について (1) 外観について 本件商標は, 「RUNE」の欧文字を標準文字により横一行に書してなる。
(2) 称呼について 「RUNE」(「rune」)は,英語では「@ルーン文字,北欧古代文 字,A神秘的な記号」等の意味を有する名詞であるが(株式会社研究社「新 英和中辞典」第7版参照),これを知る取引者,需要者はもとより,これを 知らない取引者,需要者においても,我が国における英語の普及率や使用頻 度が非常に高いことに照らせば,「RUNE」との欧文字を無理なく英語風 の読み方で発音することが多いと考えられるから,本件商標からは「ルーン」 との称呼が生じ得る。
また,「RUNE」との欧文字をローマ字読みすれば,「ルネ」と発音さ れるから,本件商標からは「ルネ」の称呼が生じ得る。
(3) 観念について 「RUNE」は,上記(2)記載のとおり,英語では「@ルーン文字,北欧古 代文字,A神秘的な記号」等の意味を有する名詞であるが,かかる英単語が 我が国において一般的に知られた語であるとまではいえないから,必ずしも 本件商標から特段の観念が生じるとは認められない。
3 引用商標について (1) 外観について 引用商標は,別紙引用商標目録記載のとおりの外観であって,「Ren?」 の欧文字を横一行に書してなる。
(2) 称呼について 「Ren?」は,フランス語では「ルネ(男の名)」の意味を有する名詞で あり(甲9の1・2参照),これを知る取引者,需要者は,「Ren?」との 欧文字を無理なくフランス語の読み方で発音すると考えられるから,本件商 標からは「ルネ」との称呼が生じ得る。
これに対し,「Ren?」とのフランス語単語を知らない取引者,需要者に おいては,これを無理なくフランス語の読み方で発音するとは考え難く,か かる取引者,需要者においては,これを英語風又はローマ字読みで発音する ものと考えられるから,本件商標からは「レネ」との称呼も生じ得る。
(3) 観念について 「Ren?」は,上記(2)記載のとおり,フランス語では「ルネ(男の名)」 の意味を有する名詞であり,これを知る取引者,需要者においては,引用商 標から「ルネなる男の名」との観念が生じるといえる。
他方,「Ren?」とのフランス語単語を知らない取引者,需要者において は,引用商標から特段の観念を生じない。
4 本件商標と引用商標との類否について (1) 本件商標と引用商標とは,いずれも「ルネ」の称呼を生じる場合がある点 では共通である。
また,引用商標から「ルネ」の称呼を生じる場合,前記3(3)記載のとおり, 引用商標から「ルネなる男の名」との観念が生じるといえるが,本件商標か らは,前記2(3)記載のとおり,必ずしも特段の観念が生じるとはいえないか ら,本件商標と引用商標とは,観念において類似するとは認められない。
これに対し,外観については,本件商標と引用商標とが,ともに欧文字4 文字を横一行に書してなり,語頭が「R」(大文字)から始まる点で共通す るが,これに続く3文字は,本件商標では「UNE」であるのに対し,引用 商標では「en?」であって,本件商標が全て大文字で表記されているのに対 し,引用商標では全て小文字で表記され,かつ,末尾の「e」の上にはアク セント記号が付されている点で相違しており,本件商標と引用商標とは,外 観上明確に相違するといえる。
(2) そして,本件商標と引用商標とで共通する指定商品である「布製身の回り 品」,「被服」及び「履物」の取引においては,取引者,需要者は,店頭販 売,通信販売及びインターネットを介した販売において,商品の外観を見て 購入するのが通常であり,その際に,商品,値札,カタログ,商品情報等に 付された商標の外観や製造販売元を見て商品の出所について相応の注意を 払って購入することが多いと考えられ,取引者,需要者が商標の称呼のみを もって商品の出所を識別して商品を購入するとは考えにくい。
(3) 以上検討したところによれば,本件商標と引用商標とは,「ルネ」との称 呼が同一である場合が生ずるものの,外観上明確に相違するものであること, 観念において類似するとはいえないこと,前記(2)のような取引の実情を踏ま えると,取引者,需要者が商品の出所を誤認混同するおそれがあるとはいえ ない。
したがって,本件商標が引用商標と類似する商標であるとは認められず, これと同旨の本件審決の判断に誤りはないというべきである。
(4) 原告の主張について 原告は,本件商標と引用商標とは,@離隔的観察において,外観上明確な 相違を有するとはいえず,むしろ類似といい得る範囲内のものであること, A引用商標から生ずる「ルネ」の称呼と,被告が自認する本件商標から生ず る「ルネ」の称呼は全く同一であること,B共に「ルネ」の「音」が考えられ る以上,この「音」に基づいて観念が生ずるのが自然であり,「ルネなる男 又は女の名前」との観念において共通すること,C比較すべき指定商品は, 取引の実情を考慮するまでもなく同一であることからすれば,外観,称呼及 び観念の三点観察からすると,本件商標は引用商標との間で,商品の出所の 混同(一般的出所の混同)を生ずるおそれのある類似の商標であるというべ きである旨主張する。
本件商標と引用商標とが,いずれも「ルネ」の称呼を生じる点で共通する ことは原告が指摘するとおりである。
しかしながら,観念称呼(音)に基づいてのみ生じるものとは限らない から(両商標が称呼指定商品を共通にしても,例えば同音異義の単語や漢 字等で表記されている場合など,その外観が異なる場合には,両商標から異 なる観念が生じ得ることは明らかである。),本件商標と引用商標とが「ルネ」の称呼(音)において同一であるからといって,直ちに,共通の観念が生じるとはいえない。そして,引用商標からは「ルネなる男の名」との観念が生じ得るが,本件商標からは,必ずしも特段の観念が生じるとはいえず,本件商標と引用商標とは,観念において類似するとは認められないことは,前記(1)記載のとおりである。
さらに,本件商標と引用商標とは,ともに欧文字4文字を横一行に書してなり,語頭が「R」(大文字)から始まる点で共通するが,これに続く3文字は,本件商標では「UNE」であるのに対し,引用商標では「en?」であって,本件商標が全て大文字で表記されているのに対し,引用商標では全て小文字で表記され,かつ,末尾の「e」の上にはアクセント記号が付されている点で相違しており,外観上明確に相違するものであることは,前記(1)記載のとおりである。上記外観上の相違に鑑みれば,本件商標と引用商標との外観を,時と場所を異にして観察した場合にも,両商標が外観上類似するとはいえない。
加えて,本件商標と引用商標とで共通する指定商品である「布製身の回り品」,「被服」及び「履物」の取引においては,取引者,需要者が商標の称呼のみをもって商品の出所を識別して商品を購入するとは考えにくいことは,前記(2)記載のとおりである。原告は,本件商標と引用商標とで比較すべき指定商品が同一である場合には,取引の実情を考慮するまでもないかのように主張するが,商標法4条1項11号に係る商標の類否を判断するに当たっては,取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきであり,しかも,取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引の実情に基づいて判断すべきものであることは,前記1記載のとおりである。
そうすると,本件商標と引用商標とは,「ルネ」との称呼が同一である場合が生ずるものの,外観上明確に相違するものであること,観念において類 似するとはいえないこと,共通の指定商品に係る取引の実情を踏まえると, 取引者,需要者が商品の出所を誤認混同するおそれがあるとはいえないから, 原告の上記主張は理由がない。
5 結論 以上によれば,原告主張の取消事由は理由がなく,本件審決にこれを取り消 すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主 文のとおり判決する。
裁判長裁判官 富田善範
裁判官 田中芳樹
裁判官 柵木澄子