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事件 平成 27年 (行ケ) 10025号 審決取消請求事件

原告 全国赤帽軽自動車運送協同組合連合会
訴訟代理人弁理士 村橋史雄 上原空也
被告 株式会社京都赤帽
訴訟代理人弁理士 安藤順一 上村喜永 前川真貴子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/09/15
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2013−890038号事件について平成26年12月19日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた判決
主文同旨
事案の概要
本件は,商標登録無効審判請求の不成立審決の取消訴訟である。争点は,@被告の有する下記本件商標と原告の有する下記引用商標との同一性又は類似性(商標法4条1項11号)の有無,A本件商標が原告の業務に係る商品・役務と混同を生じるおそれの有無(商標法4条1項15号)及びB本件商標が公序良俗に反するものであるか否か(商標法4条1項7号)である。
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成25年5月31日,本件商標が商標法4条1項11号,同15号及び同7号に該当するとして,無効審判請求をした (無効2013-890038号)。
特許庁は,平成26年12月19日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,平成27年1月6日に原告に送達された。
2 審決の理由の要点 (1) 本件商標 被告は,次の本件商標の商標権者である(甲1)。
登録番号 第5506879号 出願日 平成24年2月6日 登録日 平成24年7月13日 商品及び役務の区分並びに指定商品及び指定役務 第39類 貨物自動車による輸送 (2) 引用商標 ア 登録第4154926号商標(甲2。引用商標1) 出願日 平成4年9月21日 登録日 平成10年6月12日 指定役務 第39類 軽自動車による輸送 イ 登録第4270230号商標(甲3。引用商標2) 出願日 平成9年5月14日 登録日 平成11年5月7日 更新登録 平成21年3月3日 指定商品及び指定役務 平成11年5月 7 日の設定登録時には第9類「電子計算機用プログラムを記憶させたフロッピーディスク」 第35類 , 「フランチャイジーの経営の診断及び指導に関する情報の提供,フランチャイザーの組織・管理・運営に関する情報の提供」及び第39類「車両輸送のための道路地図情報の提供,車両による輸送に関する情報の提供,車両の運行管理に関する情報の提供」であったが,平成21年3月3日に第35類及び第39類に係る役務について商標権の存続期間更新登録がされた。
ウ 登録第5080364号商標(甲4。引用商標3) 出願日 平成19年1月4日 登録日 平成19年9月28日 指定商品及び指定役務 第39類「引越しの代行・請負又は取次ぎ及びこれらに関する情報の提供,鉄道による輸送,車両による輸送,道路情報の提供,自動車の運転の代行,船舶による輸送,航空機による輸送,貨物のこん包,貨物の輸送の媒介,貨物の積卸し,引越の代行,船舶の貸与・売買又は運航の委託の媒介,船舶の引揚げ,水先案内,主催旅行の実施,旅行者の案内,旅行に関する契約(宿泊に関するものを除く。の代理 媒介又は取次ぎ, ) ・ 寄託を受けた物品の倉庫における保管,他人の携帯品の一時預かり,配達物の一時預かり,ガスの供給,電気の供給,水の供給,熱の供給,倉庫の提供,駐車場の提供,有料道路の提供,係留施設の提供,飛行場の提供,駐車場の管理,荷役機械器具の貸与,自動車の貸与,船舶の貸与,車いすの貸与,自転車の貸与,航空機の貸与,機械式駐車装置の貸与,包装用機械器具の貸与,金庫の貸与,家庭用冷凍冷蔵庫の貸与,家庭用冷凍庫の貸与,冷凍機械器具の貸与,ガソリンステーション用装置(自動車の修理又は整備用のものを除く。)の貸与」 エ 原告は,役務「軽貨物自動車による輸送」に, 「赤帽」の文字からなる商標(「赤帽」商標)を使用している。
(3) 「赤帽」商標の周知・著名性について 原告は, 「赤帽」商標をドア部分に表示した軽貨物自動車により,原告の取扱いに係る役務「軽貨物自動車による輸送」原告役務) ( の提供を昭和50年5月に開始し, 本件商標が登録出願された平成24年2月6日前から登録査定された同年6月12日の間において,全国51の協同組合のもとで,概ね,組合員13,000人, 「赤帽」商標等を車体に表示した15,000台の軽貨物自動車により,原告役務を提供してきたことが認められる。
そして, 「赤帽」の語は,本来,鉄道の駅における旅客の荷物を運搬する人に対する呼び名として使用されていた事実があること,原告が「赤帽」商標のほかに,キャラクターである「あかぼうくん」の商標,平仮名よりなる「あかぼう」の商標,「Akabou」と判読できるデザイン化された欧文字商標も併せて使用しており,専ら「赤帽」商標のみが使用されているとは認められないことを併せみれば, 「赤帽」商標は, 「赤帽」の文字のみによる表示のみによって需要者の間に広く周知されていたということはできない。
したがって,原告役務における「赤帽」商標の著名性の程度は,高いものと認めることはできない。
(4) 被告が使用する商標について 被告は,平成18年11月から現在に至るまで,本件商標と同一の構成にかかる商標を使用して,被告の役務である「貨物自動車による輸送」 (被告役務)を提供してきている。そして,被告の本件商標の使用態様は,その構成中の「京都赤帽」の文字部分は,常に一体的な状態で使用され,また, 「舞妓マークの」の文字部分及び「荷物を両手で捧げ持っている舞妓と思しき娘の正面像図形」の部分も,京都赤帽」 「の文字部分と近接して使用されていることが認められ,ここから「赤帽」の文字部分が分離して観察されるような使用の状態は認められない。
被告の所有する下記本件関連商標(登録第3266259号, 「荷物を捧げ持っている舞妓の正面像」を描いた図形を中央部に大きく表すとともに,その右上方に「五重の塔」を描いた図形を小さく表し, 「荷物を捧げ持っている舞妓の正面像」の下方に「京都赤帽」なる文字を角ゴチック体で小さく二列縦書きしてなる構成で,指定役務を第39類「貨物自動車による輸送」とするもの)が,被告の会社設立時ころ から使用されていたと推認され,かかる商標の要部といい得る図形部分及び「京都赤帽」の文字部分が,本件商標の使用態様に受け継がれていることが認められる。
(5) 商標法4条1項11号該当性について 本件商標は,その構成全体を一体不可分のものとして認識,把握されるものであり,その構成に相応して「マイコマークノキョートアカボー」の称呼が生じる。また,本件商標は,「舞妓マークの京都赤帽」の観念が生じる。
引用商標1ないし3は,それぞれ「赤帽」の文字よりなるものであって, 「アカボー」の称呼,「赤帽」の観念を生ずるものである。
そうすると,本件商標と引用商標は類似しない。
したがって,本件商標は,商標法4条1項11号に該当しない。
(6) 商標法4条1項15号該当性について 原告役務には,「赤帽」商標のみが使用されていたとはいえないから,「赤帽」商標の著名性の程度は,決して高いということはできない。そして, 「赤帽」の漢字が,本来「1.赤い色の帽子。特に,運動会でかぶるもの。2,駅で乗降客の手荷物を運ぶ人。赤い帽子をかぶっているのでいう。ポーター。」を意味する語であることからすれば, 「赤帽」商標の独創性の程度は,低い。また,本件商標と「赤帽」商標とは,互いに類似するとはいえない。
してみれば,本件商標をその指定役務について使用しても,これに接する取引者,需要者をして,かかる役務が原告又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかのように連想,想起することはなく,その出所について混同を生ずるおそれはない。
したがって,本件商標は,商標法4条1項15号に該当しない。
(7) 商標法4条1項7号該当性について 本件商標の構成自体は,非道徳的,卑わい,差別的,矯激又は他人に不快な印象を与えるような態様のものとはいえず,また,本件商標をその指定役務について使用しても社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に関するものともいえず,さらに,本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあるとの証拠も見い出せない。なお,周知表示又は著名表示へのフリーライド混同を生ずるおそれの有無により,本号の該当性が一義的に左右されるということはできない。
したがって,本件商標は,商標法4条1項7号に該当しない。
(8) 本件商標の登録は,商標法4条1項11号,同15号及び同7号に違反してされたものではないから,同法46条1項1号により無効とすることはできない。
原告主張の審決取消事由
1 商標法4条1項11号該当性(取消事由1) (1) 引用商標は,特許庁が特許庁電子図書館において「防護標章登録」されている旨公示しているのであるから,著名商標である。本件商標は,著名商標である引用商標と「舞妓マークの」の極めて小さな文字及び舞妓を図案化したとおぼしき図形が結合されているとしても,商標審査基準第3九6(6)により,互いに類似する商標といえる。
よって,本件商標は,商標法4条1項11号に該当する。
(2) 本件商標の構成中の「京都」の文字は,当該役務の提供の場所を指称する記述的部分であり,舞妓の図形や「舞妓マーク」の文字も,京都を指称する識別力 の弱い商標にすぎないから,本件商標の要部は,「赤帽」の文字部分にある。
引用商標は,「赤帽」の文字よりなるものである。
本件商標と引用商標とは, 「アカボウ」の称呼及び「赤帽グループ」等の観念を共通にする類似の商標であり,かつ,本件商標の指定商品である第39類「貨物自動車による輸送」は,引用商標の指定役務と抵触するものであるから,引用商標の周知著名性とあいまって,本件商標は,商標法4条1項11号に違反している。
2 商標法4条1項15号該当性(取消事由2) 「赤帽」商標は,特許電子図書館「日本国周知著名商標」において著名商標の一つとして掲載されているものであるから,原告役務に「赤帽」商標のみが使用されていたとはいえないことや, 「赤帽」に他の意味があることを考え併せても,本件商標は,商標法4条1項15号に該当する。
原告は, 「赤帽」商標を,昭和50年5月から現在に至るまで,引っ越し,緊急搬送,定期配達,路線便で送れない大きな貨物の配達に使用する車両,制服,荷受け証,チラシ,入会案内などにおいて使用してきた。また,日々,全国津々浦々に「赤帽」商標を付した15,000台の車両が走り回り,平成22年及び平成23年には270万枚から290万枚程度のチラシを作成配布し,自身のホームページを開設することなどによって,広告宣伝している。さらに,テレビ,新聞,雑誌等から取材を受け,取り上げられていることや,ミニカー・プラモデル業者にライセンスして,引用商標を添付した製品が製造・販売されているなどの事実により,「赤帽」商標は著名なものといえる。
審決は,商標法4条1項11号の判断において本件商標と引用商標とが互いに類似するとはいえないものであるとしたのと同様に,本件商標と「赤帽」商標とが非類似の商標であるといえることを,商標法4条1項15号の理由とするものであるが,同号においては類似せずとも混同する場合があるという判断について誤解している。
3 商標法4条1項7号該当性について(取消事由3) 商標登録の経過に社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し難い商標については,商標法4条1項7号に該当するというべきである。
本件において,AとB(Bら)は,昭和56年に原告に加入し,同年6月に被告を創立し,昭和58年に原告を除名された。また,Bは,平成25年9月30日まで,被告の取締役であった。これらの事実からすれば,Bらは原告の事業ノウハウを取得するために原告に加入し,その5か月後に「赤帽」商標の周知・著名性を無断で利用した「京都赤帽」の商標を用いた会社を立ち上げ,原告を除名された後,「株式会社京都赤帽」なる商号・商標を用いて原告のノウハウと「赤帽」商標に化体した業務上の信用にフリーライドして現在に至るものである。被告における, 「赤帽」商標に化体した業務上の信用にフリーライドして不当な利益を得んとする不正の意図は,明白である。
4 被告提出の証拠方法の証明力の欠如について 被告提出の証拠「証明願い」なる書面(乙17〜48)は,証明力に欠ける。
5 よって,本件商標は,商標法4条1項11号,同15号及び同7号に違反して登録されたものである。
被告の反論
1 取消事由1について 原告は,引用商標と同一の標章について防護標章登録を受けていない。
審決は, 「赤帽」商標の著名性の程度は,高いものと認めることはできないと認定判断した上で,本件商標と引用商標との類否を判断したのであるから,引用商標が有する周知著名性についての判断に遺漏があったとはいえない。
本件商標は,その構成全体を一体不可分のものとして認識把握されるものであり,審決は,その認定判断理由を具体的かつ論理的に説示した上で,本件商標の構成において「京都赤帽」の文字部分を分離し,該文字部分から更に「赤帽」の文字部分 を分離,抽出して,該部分を本件商標の要部とみることは相当ではないと判断したのであり,誤りはない。
2 取消事由2について 本件商標の出願日である平成24年2月6日の時点においては,原告役務では「赤帽」商標のみが使用されていたのではないから,特許電子図書館(IPDL)の「日本国周知著名商標」に引用商標1が掲載されている事実及び審判1999-686号に係る審決(審決日平成13年9月21日)において商標「赤帽」の著名性が認定されている事実があるとしても, 「赤帽」商標の著名性の程度は決して高いということができないものとなっていた。
また,引用商標が防護標章登録されているとは認められず,しかも,商標の著名性の程度を認定判断するに当たって重要なのは,防護標章登録の有無よりも該商標の使用状況である。
原告は,審決が,商標法4条1項15号においては類似せずとも混同する場合があるという判断について誤解していると主張するが,審決においては,本件商標が商標法4条1項15号にいう他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標に該当しない理由の一つとして,本件商標と「赤帽」商標とが非類似の商標といえることを挙げたものであるから,審決が同号においては類似せずとも混同する場合があるという判断について誤解したとはいえない。
「赤帽」の語が鉄道の駅における旅客の荷物を運搬する人に対する呼び名として使用されていた事実があることや,原告が「赤帽」商標のほかに「あかぼう」の商標, 「Akabou」と判読できるデザイン化した欧文字商標も併せて使用していることは,「赤帽」商標の周知・著名性を阻害する合理的理由になるものである。
3 取消事由3について 周知表示又は著名表示へのフリーライド混同を生ずるおそれの有無により,商標法4条1項7号の該当性が一義的に左右されることはない。また,被告の本件関連商標は,称呼,観念及び外観のいずれの点においても「赤帽」商標と相紛れるお それはなく,本件商標と「赤帽」商標とは非類似のものであるから,本件商標や本件関連商標の使用によって,引用商標ないし「赤帽」商標に化体した業務上の使用にフリーライドしているとはいえない。
被告のホームページで「創立 昭和56年6月」としているのは,Bが赤帽京都府軽自動車運送協同組合に昭和56年1月18日付けで入会し,同年6月に赤帽B運送店を開業しているからである。同人は,その後,昭和58年7月24日に赤帽京都府組合を除名となった。したがって,同組合に入会後原告に秘匿して「赤帽」の周知・著名性を無断で利用した会社を立ち上げた事実はない。
4 被告提出の証明書(乙17ないし乙48)について 被告提出の証明書の証明内容についてそれを否定すべき事情はないのであるから,証明力がないとはいえない。
当裁判所の判断
1 認定事実 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 原告の事業の創始者であるC,D及びEは,昭和49年12月ころ,貨物自動車運送事業の組織化を考え,昭和50年5月12日に「赤帽」の標章を貨物軽自動車に付し,運送事業を開始した。昭和51年4月には協同組合の創立総会を開催し,同年7月12日に東京陸運局長からの設立の認可を得て,赤帽軽自動車運送共同組合を設立した(甲6,20)。
その後,上記組合は,全国各地において組合加入を熱心に勧誘し,全国の各都道府県ごとに,会員組合を設立した上で,昭和53年8月には,運輸省より「軽運送業の全国組織」として認可されて各会員組合を連合会組織にし(甲20),原告が法人として成立した。そして,原告は,その組合員に運送業のノウハウを提供する一方, 「赤帽」の文字よりなる商標を会員組合員の貨物自動車運送事業のサービスマークとして使用することを許諾する方式の営業を行い,平成19年12月には,原告 の組合員数は約1万5000名,車両台数は1万8000台となり(甲20の3枚目),平成22年8月ころ以降,組合員数1万3000名程度,車両台数1万5000台程度となった(甲20)。
(2) Bは,昭和56年1月18日,原告に所属する赤帽京都府軽自動車運送共同組合に加入し(甲21),同年6月に赤帽B運送店を開業したが,昭和58年7月24日,赤帽京都府軽自動車運送共同組合から除名された(甲21)。Bないしその関係者は,平成1年4月10日,被告を設立し,貨物自動車運送事業を行い(甲23),現在も継続している。被告は,遅くとも平成25年春ころから,「舞妓マークの」 「京都赤帽」 「荷物を両手で捧げ持っている舞妓と思しき娘の正面像図形」 及びを被告の役務である「貨物自動車による輸送」に使用している(乙5,6。なお,乙17ないし44の証明内容は,署名者が,被告に輸送を依頼してから署名日に到るまで,原告組合員の役務と被告の役務とを混同したことがないことであって,平成18年11月から被告が本件商標を使用していたことを証明するものではない。。
) (3) 原告は,平成22年12月に全国で288万枚,平成23年12月には全国で270万8000枚のチラシをその地方組織に配送した。そのチラシには, 「お手軽に,らくらくにあかぼうのお引越」「赤帽軽自動車運送協同組合連合会」「h , ,ttp://www.akabou.jp/」「赤帽」商標をドア部分に表示した ,軽貨物自動車の写真が表されており,該自動車の写真には「Akabou」と判読できるデザイン化された商標も表示されている(甲9)。
原告は,そのホームページ並びにツイッター,Facebook及びmixiといったSNSのページを開設して,原告役務に関する情報の発信等を行っているところ(甲11ないし15)「赤帽」商標のほか,平仮名よりなる「あかぼう」の商 ,標, 「Akabou」と判読できるデザインされた商標及びキャラクターである「あかぼうくん」の商標が表示されている。
原告の組合員は, 「赤帽B運送店」 「赤帽青戸運送店」などと, 「赤帽」を冠した屋 号を使用して営業を行うことが通常である(甲20,弁論の全趣旨)。
(4) 平成20年9月28日発行の「サンデー毎日」に原告の広告が掲載された(甲39)。
平成21年,幼児向け書籍である「のりもの」に,原告専用車が「たくはいしゃ」として紹介された(甲43)。
平成22年11月号の「おおいた中央会だより」では,赤帽大分県軽自動車運送共同組合が紹介された(甲32)。
平成23年発行の「コマーシャルビークル」では,原告の組合員が使用する赤帽専用サンバーが紹介された(甲34)。
平成23年11月号の「フランチャイズエイジ」の「この人」に,原告代表者のインタビュー記事が掲載された(甲31)。その中では,原告の事業は「『赤帽』というビジネス」と記述されるなど,原告の事業の名称を「赤帽」と表現している。
平成24年2月10日発行の「中小企業かごしま」では,赤帽鹿児島県軽自動車運送協同組合の理事長が取り上げられた(甲33)。
平成24年8月10日発行の「JFA40th」記念誌に,原告の広告が掲載された(甲40)。
平成24年9月号の月刊「ティグレ」に, 「赤帽の強さの秘密」という原告の特集記事が組まれた(甲30)。
遅くとも平成25年ころまでに,原告は原告の組合員が使用するスバルサンバー赤帽車につきライセンス許諾して,玩具として「チョロQ」やその他のミニカーが発売された(甲41,42)。
遅くとも平成25年ころまでに,幼児向け書籍である「バス・トラック」において,原告専用車が,引っ越しトラックのバンボディのものとして紹介された(甲43)。
(5) 「赤帽」の漢字は, 「1.赤い色の帽子。特に,運動会でかぶるもの。2.駅で乗降客の手荷物を運ぶ人。赤い帽子をかぶっているのでいう。ポーター。」を意 味するものである。
2 取消事由2について (1) 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は役務に使用したときに,当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれる。そして,上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである(最(三)判平成12年7月11日,民集54巻6号1848頁)。
(2) これを本件について見ると,以下のとおりである。
ア 本件商標は,その外観上,「舞妓図形」「舞妓マークの」の文字, , 「京都赤帽」の文字からなる結合商標であって,その構成中に「赤帽」商標と同一の「赤帽」の語を含むものである。また,本件商標は,全体として一個不可分の既成の概念を示すものとは認められないし,その称呼は「マイコマークノキョートアカボー」と14音からなる比較的長い商標であるから,簡易迅速性を重んずる取引の実際においては,その一部分だけによって簡略に表記ないし称呼され得るものであるということができる。
イ 他方,上記認定のとおり,原告の前身団体が,昭和50年5月12日から, 「赤帽」の標章を貨物軽自動車に付し,運送事業を開始し,昭和51年7月には,赤帽軽自動車運送共同組合を設立し,その後,全国の京都府を含む各都道府県ごと に,会員組合を設立した上で,昭和53年には各会員組合を連合会組織にして原告が成立し,その組合員に運送業のノウハウを提供する一方, 「赤帽」の文字よりなる商標を会員組合員の貨物自動車運送事業のサービスマークとして使用することを許諾する方式の営業を行ってきており,本件商標出願前である平成19年12月には,原告の組合員数は約1万5000名,車両台数は1万8000台となり,平成22年8月ころ以降,組合員数1万3000名程度,車両台数1万5000台程度となった。また,近年においては,原告は, 「赤帽」商標の外に,平仮名の「あかぼう」,キャラクターの「あかぼうくん」及び欧文字の「Akabou」をデザイン化した商標も用いているが,原告ないし原告の営業を簡略に表示する場合には「赤帽」の語が用いられ(甲30ないし34),原告の組合員の屋号には「赤帽」の語が冠されるのが通常である。そうすると, 「赤帽」商標は,原告の営業を示すものとして,我が国の貨物自動車及び軽自動車等による輸送の役務において,その取引者及び需要者の間に広く認識されているものであって,周知著名性の程度が高い表示である。
もっとも, 「赤帽」の語は,造語ではなく,赤い帽子又は駅において乗降客の荷物を運ぶ人の意味があり,駅において乗降客の荷物を運ぶ人の意味は,本件商標の指定役務である貨物運送業と関連するといえるから,「赤帽」商標の独創性の程度は,造語による商標に比して,低いとも考えられる。しかしながら,駅において乗降客の荷物を運ぶ人を「赤帽」と称することがほとんど見られなくなった現在では,前記認定の事実に照らせば, 「赤帽」といえば駅において乗降客の荷物を運ぶ人より原告を想起すると考えられるから, 「赤帽」の語が,本件商標の指定役務との関係で識別力が低いとはいえない。そうすると,本件商標の本号該当性の判断をする上で,「赤帽」商標の独創性の程度が低いことを重視するのは相当でないというべきである。
ウ 本件商標を構成する「赤帽」の語以外の部分のうち, 「京都」は,地名としての京都府や京都市との観念を生じ, 「舞妓図形」及び「舞妓マークの」は,京都の「舞妓さん」を想起させるものである。そして,原告を構成する組合は,京都府 にも存在する。
さらに, 「赤帽」商標の周知著名性の程度の高さや,本件商標と「赤帽」商標とにおける役務の同一性並びに取引者及び需要者の共通性に照らすと,本件商標が指定役務に使用されたときは,その構成中の「赤帽」部分がこれに接する取引者及び需要者の注意を特に強く引くであろうことは容易に予想できるのであって,本件商標からは,原告又は原告と緊密な関係にある営業主の業務に係る役務であるとの観念も生ずるということができる。
この点につき,被告は,被告の顧客が,原告の営業と被告の営業とを混同したことはない旨を証明した「証明願」と題する文書を複数提出する(乙17ないし44)。
しかしながら,これら文書は,被告と取引関係のある顧客のみが被告の依頼に基づいて提出したものであって,被告と特定の取引のない一般の顧客の認識を証明するものではないから,上記認定を左右するに足りない。
(3) 以上のとおり,本件商標は,「赤帽」商標と同一の部分をその構成の一部に含む結合商標であって,その外観,称呼及び観念上,この同一の部分がその余の部分から分離して認識され得るものであることに加え, 「赤帽」商標の周知著名性の程度が高く,しかも,本件商標の指定役務と「赤帽」商標の使用されている役務とが重複し,両者の取引者及び需要者も共通している。これらの事情を総合的に判断すれば,本件商標は,これに接した取引者及び需要者に対し「赤帽」商標を連想させて役務の出所につき誤認を生じさせるものであり,その商標登録を維持する場合には, 「赤帽」商標の持つ顧客吸引力へのただ乗りやその希釈化を招くという結果を生じ兼ねないと考えられる。そうすると,本件商標は,商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれがある商標」に当たると判断するのが相当であって, 「赤帽」商標の独創性の程度が造語による商標に比して低いことや,原告が「赤帽」商標以外の標章も使用していることは,この判断を左右するものでないというべきである(最(二)判平成13年7月6日,裁判集民事202号599頁参照)。
(4) したがって,本件商標の登録は,商標法4条1項15号に違反してなされ たものであり,原告の主張する取消事由2は理由があるから,他の取消事由を判断するまでもなく,原告の請求には理由がある。
結論
よって,本件審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 片岡早苗
裁判官 新谷貴昭