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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20ワ12092損害賠償等請求事件 判例 不正競争防止法
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事件 平成 27年 (ワ) 7200号 商標権侵害行為・不正競争行為差止等請求事件
東京都渋谷区<以下略>
原告 株式会社グリーンハウス
同 訴訟代理人弁護士笠井直人
同 笠井盛男
同 小笹勝章
同 竹内章子
同 内藤勇樹 長野県伊那市<以下略>
被告 デジタルランド株式会社
同 訴訟代理人弁護士征矢芳友
同 西尾智美
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2015/09/10
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,別紙標章目録記載の各標章を付したフライヤー又はその包装を輸入してはならない。
2 被告は,原告に対し,982万6985円並びにうち48万9800円に対する平成 26年8月11日から支払済みまで年6分の割合による金員,うち41万0800円に対する 平成27年4月3 日から支払済みまで年6分の割合による金員及び うち 892万63 85 円に 対する平成27年4月3 日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
14 訴訟費用はこれを10分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙標章目録記載の各標章(以下,順に「本件標章1」ないし「本 件標章3」といい,これらを併せて「本件各標章」という。 を付したフライ ) ヤー又はその包装を輸入してはならない。
2 被告は,原告に対し,別紙物件目録記載のレシピブック(以下「本件レシピ」 という。)1600部を引き渡せ。
3 前項の強制執行ができないときは,被告は,原告に対し,52万8595円 を支払え。
4 被告は,原告に対し,1069万3476円及びうち48万9800円に対 する平成26年8月11日から支払済みまで年6分の割合による金員を,うち 41万0800円に対する平成27年4月3日(訴状送達の日の翌日)から支 払済みまで年6分の割合による金員を,うち979万2876円に対する平成 27年4月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を,それぞれ支払え。
5 被告は,原告に対し,別紙謝罪広告目録記載の謝罪文を同目録記載の要領で 同目録記載の新聞及び被告のホームページに掲載せよ。
事案の概要
1 事案の要旨 本件は,原告が被告に対し,以下のとおり求める事案である。なお,不正競 争防止法に基づく請求に係る訴えは取下げ済みである。
(1) 被告が原告の有する商標権に係る登録商標と類似した本件標章2及び3 を付したフライヤー(以下「被告フライヤー」という。)を輸入,販売して 2 いる旨主張して,被告に対し,@商標法36条1項に基づく本件各標章を付 した被告フライヤー及びその包装の輸入の差止め,A商標権侵害の不法行為 に基づく損害賠償金979万2876円及びこれに対する民法所定の年5 分の割合による遅延損害金の支払,B商標法39条及び特許法106条に基 づく信用回復措置としての謝罪文の掲載を求める。
(2) 被告が原告所有に係る本件レシピ1600部を占有している旨主張して, C所有権に基づく本件レシピ1600部の引渡し及びD将来の履行不能又 は執行不能の場合の代償請求として52万8595円の支払を求める。
(3) 被告が原告に販売したフライヤーの一部について不良があったため原告 が売買契約を解除した旨主張して,E解除に基づく原状回復として,支払済 みの売買代金の返還金合計90万0600円及びこれに対する商事法定利 率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。) (1) 当事者 原告は,デジタル家電製品及びパソコン周辺機器の開発,製造及び販売等 を目的とする株式会社であり,被告は,家電製品及び日用雑貨用品の輸入及 び卸売販売等を目的とする株式会社である。
また,被告と実質的に同一の会社として,サンフィールド貿易株式会社及 び中国広東省所在の香港群創有限公司(Sun Group Q&C Co., Ltd.。以下「Q&C社」という。)がある。サンフィールド貿易株式会社 は,本店所在地が被告と同一で,被告代表者の父親(A。以下「A」という。) が代表取締役を務めている。
(2) 原告の商標権 ア 原告は,次の商標権(以下「原告商標権1」といい,その登録商標を「原 告商標1」という。)を有している。
登録番号 第5444177号 3 出願日 平成23年3月16日 登録日 平成23年10月14日 登録商標 (標準文字)GREEN HOUSE 商品の区分及び指定商品 第11類 電球類及び照明用器具,家庭用電熱用品類 (他の類の記載は省略する。) イ 原告は,次の商標権(以下「原告商標権2」といい,その登録商標を「原 告商標2」という。)を有している。
登録番号 第5444178号 出願日 平成23年3月16日 登録日 平成23年10月14日 登録商標 別紙標章目録記載1のとおり 商品の区分及び指定商品 第11類 電球類及び照明用器具,家庭用電熱用品類 (他の類の記載は省略する。)(3) 被告による被告フライヤーの販売等 中華人民共和国所在のNINGBO CARELINE ELECTRI C APPLIANCE CO.,LTD(以下「ケアライン社」という。) は,平成26年6月25日,本件標章2及び3を付した被告フライヤー15 00台を我が国向けに輸出した。被告は,そのころ以降,被告フライヤーを ショッピングポータルサイト「楽天市場」内に開設した被告のインターネッ ト店舗その他複数のウェブサイト等を通じて販売した。
(甲10〜12,弁論 の全趣旨)(4) 本件レシピの製作等 原告は,本件レシピ8500部を製作し,その所有権はいずれも原告に帰 属している。原告は,被告の指示に基づき,平成25年8月27日に本件レ 4 シピ1600部をケアライン社宛に発送し,同レシピは,同年9月3日,ケ アライン社に到着した。原告は,さらに,同月28日,本件レシピ5500 部を被告が手配した輸送業者に引き渡し,同レシピは,被告が手配した輸出 通関業者を通じてケアライン社に送付された。(甲19,20,弁論の全趣 旨) (5) 仮処分の経緯等 原告は,平成26年8月29日,東京地方裁判所に対し,被告フライヤー の輸入・販売の差止め及び本件レシピ1600部の占有移転禁止等を求める 仮処分を申し立て,同裁判所は,同年12月16日,原告の申立てを全て認 める内容の仮処分決定をした。
原告は,同月17日,長野地方裁判所伊那支部に対し,同仮処分決定の保 全執行(以下「本件保全執行」という。)を申し立て,同月25日,本件保全 執行が実施されたが,対象物件の不存在により執行不能で終了した。
3 争点 (1) 商標権に基づく請求について ア 商標権侵害行為の有無等(争点1) イ 損害の有無及び額(争点2) ウ 謝罪広告の要否(争点3) (2) 本件レシピの所有権に基づく請求について ア 被告が本件レシピ1600部を占有しているか否か(争点4) イ 代償請求についての訴えの利益の有無及びその額(争点5) (3) 解除に基づく請求について 解除に基づく代金返還請求権の有無及び額(争点6)4 争点に関する当事者の主張 (1) 争点1(商標権侵害行為の有無等)について [原告の主張] 5 被告は,本体及びその包装に本件標章2及び3を付した被告フライヤー1 500台をケアライン社から輸入し,これを販売したのであるから,これが 原告の商標権侵害行為であることは明らかである。
すなわち,原告商標1及び2と本件各標章は,いずれも「グリーンハウス」 という称呼及び「緑の家」という観念を生じる。また,本件標章2は,原告 商標2と酷似した外観である。したがって,本件各標章は,原告各商標と類 似する。
さらに,被告フライヤーは,原告商標権1及び2の指定商品中,第11類 の家庭用電熱用品類に該当する。
[被告の主張] 被告フライヤーが原告各商標の指定商品と同一であることは認める。しか し,被告は,原告が輸入した本件フライヤーを販売していたにすぎず,原告 の商標権を侵害していない。
(2) 争点2(損害の有無及び額)について [原告の主張] ア 被告フライヤーの販売による原告の損害額 819万3840円 被告フライヤーの販売価格は,1台あたり7300円であり,1500 台の販売価格は合計1095万円となる。他方,被告フライヤー1500 台の仕入価格は合計2万7000米ドルで,輸入時(平成26年6月)の 平均為替レート(1米ドル当たり102.08円)を乗じると,275万 6160円である。
そうすると,被告が1500台の被告フライヤーを販売したことによっ て得た利益は,上記販売価格の合計と仕入価格の合計の差額819万38 40円となるから,商標法38条2項により,これが原告の損害額と推定 される。
イ 調査費用 18万2836円 6 原告は,被告による商標権侵害行為を確認するため,実際に被告フライ ヤーを購入し,また,被告から被告フライヤーを購入した者のところへ現 物を確認しに行くなどし,調査費用として合計18万2836円を支出し たから,これも被告の商標権侵害行為によって生じた原告の損害である。
ウ 本件保全執行及び執行補助者等に関する費用 39万6012円 原告は,第2の2(5)のとおり,本件保全執行の申立てを行い,長野地方 裁判所伊那支部執行官により本件保全執行が実施された。原告は,同裁判 所支部に対し,保全執行費用1万8012円を納付し,保全執行の実施の ために執行補助者等を手配し,執行補助者等に関する費用37万8000 円を支払った。
したがって,これらの費用の合計39万6012円についても,被告の 商標権侵害行為によって原告に生じた損害である。
エ 弁護士費用 102万0188円 原告が,本件訴訟を提起,追行するために,弁護士に委任することは必 要不可欠であった。そして,弁護士費用のうち,被告フライヤーの販売等 と相当因果関係のある損害は102万0188円を下回ることはない。
[被告の主張] 否認し,又は争う。
(3) 争点3(謝罪広告の要否)について [原告の主張] 被告が本件標章2及び3を付した被告フライヤーを販売したことにより, 原告は,被告フライヤーを原告ブランドのノンオイルフライヤー(以下「本 件フライヤー」という。)と誤認混同して購入した取引先などから苦情の申出 を受けた。また,被告フライヤーを本件フライヤーと誤認混同して購入した 業者の中には,被告フライヤーを本件フライヤーとして大手インターネット 通信販売サイトを通じ一般消費者に販売した業者もあったところ,これらの 7 業者から購入した一般消費者が被告フライヤーに対する苦情を同通信販売サ イトの公開レビュー上に記載したため,かかる苦情が広く知られることとな った。このような事態が原因で,原告は,同通信販売サイトにおける本件フ ライヤーの販売を停止せざるを得なくなったのであり,原告は,被告による 被告フライヤーの販売によって,その業務上の信用を著しく侵害された。
したがって,商標法39条,特許法106条に基づく信用回復措置として, 別紙謝罪広告目録記載の謝罪文を同目録記載の要領で同目録記載の新聞及び 被告のホームページに掲載させることが必要である。
[被告の主張] 不知ないし否認する。
そもそも,本件フライヤーのサポート窓口は被告となっているところ,被 告は,原告が主張するような苦情を受けたことがない。
(4) 争点4(被告が本件レシピ1600部を占有しているか否か)について [原告の主張] 原告は,被告の指示に基づき,平成25年8月27日に本件レシピ160 0部をケアライン社宛に発送し,さらに,同月28日,本件レシピ5500 部を被告が手配した輸送業者に引き渡し,被告が手配した輸出通関業者を通 じてケアライン社に送付された。ケアライン社に送付された本件レシピのう ち1600部は,現在も同社の倉庫で保管されている。
被告とケアライン社との関係は,被告が本件フライヤーの製造をケアライ ン社に委託し,原告が完成・商品化された本件フライヤーをケアライン社か らQ&C社を通じて購入するというもので,本件レシピは,ケアライン社に おいて,本件フライヤーと一緒に包装箱に詰められ,一体として販売されて いた。このような関係からすると,ケアライン社が,被告のために本件レシ ピ1600部を占有しているのは間違いないから,被告が本件レシピ160 0部を占有しているといえる。
8 [被告の主張] ケアライン社に本件フライヤーの製造を委託したのはQ&C社である。そ もそも本件レシピは,原告が本件フライヤーの付属品として自らケアライン 社に送付したものであり,ケアライン社が被告のためにする意思をもって本 件レシピを占有していることはあり得ない。
(5) 争点5(代償請求についての訴えの利益の有無及びその額)について [原告の主張] ア 本件レシピ1600部の引渡しの執行が将来不能となった場合に備え, あらかじめ本件レシピ1600部の引渡しに代わる後記イの損害のてん補 を求めて代償請求をするもので,「あらかじめその請求をする必要がある」 (民事訴訟法135条)から,訴えの利益が認められることは明らかであ る。
イ 本件レシピの引渡しの執行が将来不能となった場合に,原告が受ける損 害は,次の(ア)ないし(ウ)のとおり合計52万8595円である。
(ア) 原告は,本件レシピの制作にあたり,株式会社小西製作所に本件レ シピの印刷を依頼し,印刷代44万9373円を同社に支払った。
(イ) 原告は,本件レシピの制作に当たって,料理研究家のオリジナルレ シピ及び写真等を使用し,同料理研究家が所属する会社に対し,レシピ 創作の報酬,原告に対する著作権譲渡の対価及び同料理研究家のパブリ シティ権の使用許諾料として合計100万円を支払った。
(ウ) 本件レシピは全部で8500部あり,本件フライヤーに付して販売 された4000部,原告の販売促進活動等のために保管使用された14 00部を除く3100部について原告に損害が生じたと評価できる。
したがって,本件レシピに関して生じた原告の損害額は, (44万93 73円+100万円)×3100部/8500部≒52万8595円と なる。
9 [被告の主張] 代償請求の訴えの利益及び金額はいずれも争う。
(6) 争点6(解除に基づく代金返還請求権の有無及び額)について [原告の主張] ア 原告は,平成25年6月6日,被告に対し,本件フライヤー7000台 を単価8580円で発注したが(以下「本件契約1」という。 ,不良が発 ) 覚した。
イ そこで,原告は,同年9月11日,被告に対し,上記発注を撤回すると ともに,本件フライヤー4000台を単価7900円で改めて発注した(以 下「本件契約2」という。 。同契約には, ) 「購入者から返品された不良品は 全てキャンセルできる」旨の特約条項(以下「本件特約」という。)が置か れている。
ウ 原告が被告から納品を受けて販売した本件フライヤーのうち62台につ いて,顧客から不良品として返品されたため,原告は,被告に対し,平成 26年7月30日付請求書において,上記62台について本件契約2を解 除する旨の意思表示(以下「本件解除1」という。)をするとともに,同請 求書到達後10日以内に62台分の代金48万9800円を支払うよう請 求し,同請求書は,同月31日,被告に到達した。
エ その後,さらに52台が返品されたため,原告は,本件訴状をもって, 上記52台についても本件契約2を解除する旨の意思表示(以下「本件解 除2」という。)をした。
オ したがって,原告は,被告に対し,本件解除1による原状回復請求権に 基づき,同解除に係る本件フライヤー62台分の代金合計48万9800 円の返還を請求することができる。また,原告は,被告に対し,本件解除 2による原状回復請求権に基づき,同解除に係る本件フライヤー52台分 の代金合計41万0800円の返還を請求することができる。
10 [被告の主張] 上記アは認めるが,その余は否認ないし争う。書面上,本件契約2を締結 した形になっているが,これは原告の経理上の理由によるものである。実際 には,本件契約1の全面撤回ではなく,単価を7900円に下げるとともに, 7000台のうち3000台の発注を延期し,とりあえず4000台を納品 するとの合意がされたものである。
当裁判所の判断
1 認定事実 当事者間に争いのない事実に後掲各証拠及び弁論の全趣旨を併せれば,以下 の事実が認められる。
(1) 原告・被告間の取引 ア 原告と被告は,平成25年4月ころ,ノンオイルフライヤー(フライヤ ー(揚げ器)の一種で,油を使わず熱風で揚げる調理器具)の商談を行い, 原告は,同年6月6日,被告に対し,本件フライヤー7000台を1台8 580円で発注した(本件契約1)。
本件契約1は,形式的には,ケアライン社がOEM方式で製造した本件 フライヤーをQ&C社に売却し,さらに,Q&C社がこれを原告に売却す るという取引であった。しかし,実際には,原告とのやりとりは,Q&C 社やケアライン社ではなく,専ら被告代表取締役,A及び被告従業員らが 行うなど,本件契約1は,実質的には原告と被告との間で締結されたもの であった。
イ 本件契約1の締結直後,原告が依頼した外部検査により,被告から送ら れたサンプルについて,過熱されたフライヤーが溶融する危険性,フライ ヤーに触れると火傷をする危険性及びフライヤーの庫内温度の制御がされ ない等の重大な不良があることが判明した。また,本件フライヤーの初回 ロット1400台のうち,サンプルの6台を除く1394台について,原 11 告に納品される直前の抜き取り検査で,加熱後に異臭を発生するという問 題があることも発覚した。
ウ そこで,原告は,本件フライヤーの初回ロット1400台のうち,上記 イのサンプル6台及び検疫所による再検査用に徴収された8台を除いた1 386台を,原告の受領前に,被告に対して返送した。
エ 原告は,平成25年9月11日,被告に対し,上記7000台の本件フ ライヤーの発注を撤回するとともに,本件フライヤー4000台を単価7 900円で改めて発注した(本件契約2。なお,被告は,本件契約2を書 面上は締結した形になっているものの,これは原告の都合によるもので, 実際には本件契約1は全面撤回されていない旨主張するが,被告の上記主 張を認めるに足りる証拠はない。 。
) なお,本件契約2の形式的な売主はQ&C社であったが,原告とのやり とりは,専ら被告代表取締役,A及び被告従業員らが行うなど,本件契約 2は,実質的には原告と被告との間で締結されたものであった。
(甲7,8,弁論の全趣旨)オ 原告は,同日,被告に対し,本件契約2に基づき,本件フライヤー40 00台の代金合計3160万円を支払い,被告は,本件フライヤー400 0台を原告に納品した。本件契約2には, 「購入者から返品された不良品は 全てキャンセルできる」旨の本件特約が置かれている。
カ 原告は,被告から本件契約2に基づいて納品を受けた本件フライヤーを 販売したが,このうち62台については,異臭,本体破損及び電源不良等 の重大な不良により購入者から返品された。そのため,原告は,被告に対 し,平成26年7月30日付け請求書(甲26)において,上記62台の 本件フライヤーについて本件解除1をするとともに,同請求書到達後10 日以内に本件フライヤー(1台7900円)62台分の代金48万980 0円を支払うよう請求し,同請求書は,同月31日,被告に到達した。
(甲 12 26,58,59,弁論の全趣旨)。
キ 原告が被告から本件契約2に基づいて納品を受けて販売した本件フライ ヤーは,本件解除1の後も,購入者から,異臭や電源不良等の重大な不良 によって,さらに52台が返品された。そのため,原告は,本件訴状をも って,上記52台の本件フライヤーについて本件解除2をし,同訴状は, 平成27年4月2日,被告に送達された。(甲58,弁論の全趣旨)(2) 被告による被告フライヤーの販売等 ア ケアライン社は,平成26年6月25日,被告に対し,本件標章2及び 3を付した被告フライヤー1500台を輸出した。同輸出は,名目上,ケ アライン社とQ&C社との間で行われたが,実際には,ケアライン社の輸 出代理店(Machinery社)を通じて被告に出荷され,被告は,そ のころ以降,被告フライヤーをショッピングポータルサイト「楽天市場」 内に開設した被告のインターネット店舗その他複数のウェブサイト等を通 じて販売した。被告は,遅くとも平成26年12月25日までに被告フラ イヤー1500台を全て販売し,その販売価格は少なくとも1台当たり7 300円を下らない。
(甲10〜12,24,29,37〜46,弁論の全 趣旨) イ 本件フライヤーには,フライヤー本体の他,トング,ピザ皿,ケーキ型, バスケット用受け皿等の付属品が同梱されており,包装にも「メニューが 広がる豊富な付属品」とのキャッチコピーを付けた付属品の写真が目立つ 態様で2か所に印刷されている。
他方,被告フライヤーは,本件フライヤーと全く同じ包装を使用しなが ら,トング,ピザ皿及びケーキ型が入っておらず,包装に3か所,取扱説 明書に2か所「※商品仕様変更によりトング,ピザ皿,ケーキ型は別売と させて頂きます。」と書かれたシールが貼られ,その他にも本件フライヤー にあるべき付属品がないことを示すシールが貼付されている。
13 2 争点1(商標権侵害行為の有無等)について 前記1(2)アのとおり,被告は,本件標章2及び3を付した被告フライヤー 1500台を輸入して販売したものであるところ,被告フライヤーは,原告各 商標の指定商品である「家庭用電熱用品類」に該当する。
そして,本件標章2は,「GREEN HOUSE」という文字の下に線が 引かれていない点以外には原告商標2と相違点がないものであるため,原告商 標2と称呼(グリーンハウス)と観念(緑の家)が共通であり,外観において も極めてよく似ているから,原告商標2と類似するというべきである。また, 本件標章3は「グリーンハウス」というものであって,「GREEN HOU SE」の標準文字からなる原告商標1と称呼(グリーンハウス)及び観念(緑 の家)が共通であるから,原告商標1と類似するというべきである。したがっ て,被告が,本件標章2及び3を付した被告フライヤーを輸入・販売した行為 は,原告商標権1及び2を明らかに侵害する。
また,本件標章1は,原告商標2と同一であるが,上記のとおり,被告が実 際に使用した本件標章2と酷似しているものであるから,本件標章1について も被告による使用のおそれがあると認められる。
これに対し,被告は,原告が輸入した本件フライヤーを販売したにすぎない と主張する。被告の主張の趣旨は判然としないが,いずれにせよ,前記1(2) のとおり,被告販売に係る被告フライヤーが,本件フライヤーとは別に輸入さ れたものであり,本件フライヤーとは異なるものであることは証拠上明らかで あるから,被告の主張は採用できない。
3 争点2(損害の有無及び額)について (1) 被告フライヤーの販売による原告の損害額 811万6385円 前記1(2)のとおり,被告は,被告フライヤー1500台を少なくとも1台 当たり7300円で販売して合計1095万円(7300円×1500台) の売上があったと認められ,他方,証拠(甲39,40,47)によれば, 14 被告が,被告フライヤー1500台の取得に要した費用は,次の@及びAを 合計した283万3615円であると認められる。
@ 購入費 275万6160円 計算式は,2万7000米ドル×102.08円(購入時である平成 26年6月におけるドル/円の平均為替レート) A 送料 7万7455円 そうすると,被告が被告フライヤーの販売によって得た利益は上記売上か ら上記費用を控除した811万6385円を下らないと認められる。そして, 商標法38条2項に基づき,被告フライヤーの輸入・販売行為により原告が 同額の損害を受けたと推定されるところ,同推定を覆すに足る証拠は見当た らないから,同額を原告の損害と認めるのが相当である。
(2) 弁護士費用 81万円 原告は,本件訴えの提起及び追行を訴訟代理人弁護士に委任しているとこ ろ,前記第2の2及び前記1認定の事実経過等に照らすと,被告の商標権侵 害の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は,上記(1)の損害額の約1割 である81万円と認めるのが相当である。
(3) 以上によれば,被告の商標権侵害の不法行為によって原告に生じた損害 の額は,上記(1)及び(2)の合計額である892万6385円であると認めら れる。
なお,原告は,上記(1),(2)のほか,@調査費用として18万2836円 を,A本件保全執行費用として39万6012円をそれぞれ支出したとして, これらについても被告の商標権侵害行為によって原告に生じた損害であると 主張する。しかしながら,上記@については,原告が調査費用として主張す る費用の内容が証拠(甲48等)によっても判然とせず,また,上記Aにつ いても,前記第2の1(5)のとおり,本件保全執行が執行不能により終了した ことなどに鑑みると,いずれも原告の損害と評価するのは困難であり,被告 15 の商標権侵害行為との相当因果関係を肯定することもできないから,いずれ も採用することはできない。
4 争点3(謝罪広告の要否)について 上記1(2)の経緯によれば,被告フライヤーの販売数は1500台であった こと,被告フライヤーには本件フライヤーの付属品の一部が付されていなかっ た上,被告フライヤーが本件フライヤーの仕様変更品であるかのような表示が されていたこと,被告フライヤーが被告のインターネット店舗その他の複数の ウェブサイトに掲載されたこと等が認められるから,被告の商標権侵害行為に より,原告の信用が傷つけられた面があるものと認められるが,信用回復はま ずは損害賠償請求によるべきものであることを踏まえると,上記販売規模を含 む本件に関する一切の事情を考慮しても,本件において信用毀損に基づく損害 賠償(但し,その請求はされていない。)を超えて信用回復措置を命ずるまで の必要性は未だ認められないというべきである。
5 争点4(被告が本件レシピを占有しているか否か)について 前記第2の2(4)のとおり,原告は,被告の指示に基づいて,本件レシピ7 100部を直接又は間接にケアライン社に送付しているところ,口頭弁論終結 時点において,同社の倉庫には1500部以上1600部未満の本件レシピが 保管されていることが認められるが(甲12),ケアライン社による本件レシ ピの占有が被告のためにされていると認めるに足る証拠はない。
この点,原告は,被告及びQ&C社とケアライン社との関係に照らせばケア ライン社が被告のために本件レシピを占有しているのは間違いないなどと主 張するが,ケアライン社は,あくまで被告及びQ&C社とは別法人であるし, 被告及びQ&C社との間に商品等の取引以上の関係があると認める に足る証 拠はないから,原告の主張を採用することはできない。
6 争点6(解除に基づく代金返還請求権の有無及び額)について 前記1(1)オのとおり,本件契約2には,原告が,購入者から返品された不 16 良品をキャンセルできる旨の本件特約が置かれているから,原告は,本件契約2に基づいて被告から納品された本件フライヤーのうち,原告が顧客に販売した後に顧客から不具合を理由に返品されたものに係る部分について,原告において,本件契約2を部分解除できる。
そして,前記1(1)カ及びキのとおり,原告は,購入者から不具合を理由に返品された本件フライヤー62台について,平成26年7月31日に解除の意思表示をし(本件解除1),その後さらに不具合を理由に返品された本件フライヤー52台について,平成27年4月2日に解除の意思表示をしたのであるから(本件解除2),解除に基づく原状回復請求権として本件解除1に係る48万9800円(計算式は,7900円×62台)の,本件解除2に係る41万0800円(計算式は,7900円×52台)の各代金返還請求権を有するものと認められる。なお,遅延損害金の各始期は,前者については,平成26年7月30日付請求書が到達した翌31日から10日間が経過した同年8月11日であり,後者については,本件訴状が被告に送達された日の翌日である平成27年4月3日となる。
7 結論 以上によれば,争点5について検討するまでもなく,原告の請求は主文第1 項及び第2項の限度で理由があるからこれらを認容し,その余は理由がないか らいずれも棄却することとして(なお,代償請求について,一定の物の引き渡 しの給付義務が発生し,これが遅滞に陥った以上,一般的には,物の引渡しが 執行不能となった場合に備えて物の引渡しに代わる金員の支払を求める必要 性及び合理性を肯定できるから,直ちに訴えの利益がないとはいえず,却下で はなく棄却とするのが相当である。 ,主文のとおり判決する(なお,被告は, ) 平成27年8月25日付け申立書により弁論再開を求めるが,その内容を検討 しても弁論再開の必要性は認められない。 。
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