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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成26ワ11616 商標権侵害行為差止等請求事件 判例 商標
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事件 平成 27年 (ワ) 8132号 損害賠償請求事件

原告西川産業株式会社
同 訴訟代理人弁護士宮野勉
同 城山康文
同 鈴木洋介
同 補佐人弁理士北口貴大
被告 株式会社エアウィーヴホールディングス
被告株式会社エアウィーヴ
被告 株式会社エアウィーヴマニュファクチ ャリング
上記3名訴訟代理人弁護士 田中昌利
同 山内貴博
同 西原聖子
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2016/02/09
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告らは,原告に対し,連帯して330万円及びこれに対する平成27年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。
-1-4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
被告らは,原告に対し,連帯して880万円及びこれに対する平成27年 1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,「なごみ」の文字を横書きしてなり,指定商品をマットレス,布 団等とする別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」といい,その 登録商標を「本件商標」という。)を有する原告が,被告らに対し,被告ら による別紙被告ら標章目録記載の各標章(以下,それぞれを同目録の番号に より「被告ら標章1」などといい,これらを「被告ら各標章」と総称す る。)の使用が本件商標権の侵害に当たる旨主張して,民法719条,70 9条,商標法38条3項に基づき損害賠償金880万円及びこれに対する商 標権侵害行為の後の日である平成27年1月1日から支払済みまで民法所定 の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。
1 争いのない事実 当事者 原告は,寝具,寝装品,インテリア用品,ベビー用品等の製造,販売等 を業とする株式会社である。
被告らは,寝具類,マットレス,クッション等を取り扱うグループ会社 であり,被告株式会社エアウィーヴマニュファクチャリングが製造を,被 告株式会社エアウィーヴが販売を,被告株式会社エアウィーヴホールディ ングスがマーケティング活動を行っている。
原告の商標権 原告は,本件商標権を有しており,原告の商品のうち少なくともタオル ケット,キルトケット,ガーゼケット,ソフトケット及びパッドシーツに 本件商標を使用している。
被告らによる被告ら各標章の使用 被告らは,平成26年10月20日頃〜12月26日頃の間,「エアウ ィーヴ四季布団【和】(なごみ)」という名称のマットレスに敷き布団的 な要素を付加した商品(以下「被告ら商品」という。)を販売し,その広 告等に被告ら各標章を付して宣伝を行った。被告らは,その後,上記名称 を「エアウィーヴ四季布団和匠(わしょう)」に変更した。
被告ら商品の売上額 被告らの上記期間の被告ら商品の売上額は4億円である。
2 争点 本件商標と被告ら各標章の類否 本件商標の商標登録(以下「本件商標登録」という。)の無効理由の有 無 ア 商標法3条1項3号該当性 イ 商標法4条1項11号該当性 ウ 無効審判請求の除斥期間経過について 原告の損害額3 争点に関する当事者の主張 (原告の主張) ア 本件商標の外観は平仮名3文字の「なごみ」であり,装飾等はなく, 称呼は「ナゴミ」であり,「気持ちが穏やかになること。くつろいだ気 分になること。」等の観念が生じる。
イ 被告ら各標章は,いずれも「エアウィーヴ四季布団」の部分が一連に 表記される一方,その直後の「和」の部分が隅付き括弧に挟まれて強調 され,「エアウィーヴ四季布団」の部分と分断されている。また,被告 ら標章3及び4では,「【和】」の部分と「エアウィーヴ四季布団」の 部分が上下あるいは左右に段を分けて配置され,文字の大きさは前者が 後者に比べ一辺当たり約3倍も大きい。
さらに,被告ら商品は「エアウィーヴ四季布団」シリーズに属すると ころ,同シリーズに属するもう一つの商品名は「エアウィーヴ四季布 団」であり,「エアウィーヴ四季布団」と「エアウィーヴ四季布団 【和】(なごみ)」は被告らのカタログにおいて見開きページの左右に 並べて表示されている。消費者は「【和】(なごみ)」の部分で両者を 区別するから,同部分は商品の出所識別標識として強く支配的な印象を 与える。
したがって,本件商標との類否判断に当たっては,被告ら各標章のう ち「【和】(なごみ)」の部分を抽出することが合理的である。
ウ 本件商標と被告ら各標章の「【和】(なごみ)」の部分は称呼及び観 念が同一である。
エ 原告は寝具の総合メーカーであり,本件商標を付した商品群を製造販 売し,敷き布団,マットレスも製造販売している。被告ら各標章の使用 により商品の出所を誤認混同するおそれを否定する事情は存在しない。
オ 以上のとおり,被告ら各標章は本件商標と類似しており,被告らは被 告ら各標章を本件商標の指定商品同一の商品に付して使用し原告の本 件商標権を侵害している。
(被告らの主張) 被告らは常に「エアウィーヴ四季布団【和】(なごみ)」を一体と して表示しているところ,被告ら各標章のうち「エアウィーヴ」の部 分は,被告らの会社名であり被告らのブランドそのものを表示する部 分である。被告らは平成19年以来,眠りの質を追求したマットレス として「エアウィーヴ」商品の販売を続け,各種メディアを利用した 幅広い宣伝活動を行い,一般需要者の間において高い周知性を獲得した。「エアウィーヴ」は商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える。
また,「四季布団」の部分も,四季を通して快適に使用できるという被告ら商品の特徴を表す被告らの造語であり,高い識別力を有する。
これに対し,被告らは「【和】(なごみ)」の部分を単独で使用したことはない上,「なごみ」の語は様々な会社の種々の商品に使用されており,その識別力は極めて低い。
被告ら各標章は,いずれも全体について同一の書体を用いている。
被告ら標章1及び2は,「四季布団」の部分と「【和】(なごみ)」の部分の文字の大きさが同じであり,横一列に整然と記載され,全体がまとまりよく一体的に表されている。被告ら標章3及び4は,「エアウィーヴ四季布団」の部分と「【和】(なごみ)」の部分とで文字の大きさが異なったり改行されたりしているものの,これらの表示されたパンフレットには同一の書体・同一の大きさで一体的に表された「エアウィーヴ四季布団【和】(なごみ)」という表示が複数存在するほか,被告らは,被告ら標章3及び4以外にデザイン性を持たせた表示をしたことはない。
また,隅付き括弧が付されているからといって当該部分の独立性が高いとはいえない上,「なごみ」の部分は隅付き括弧の外にある。
以上の事情によれば,被告ら各標章から「【和】(なごみ)」の部分を切り離して本件商標との類否判断を行うことは許されない。
本件商標と被告ら各標章の一部とでは,「ナゴミ」という称呼が類似する点があるが,被告ら各標章は,被告らの会社名及びブランドとして著名性を有する「エアウィーヴ」及び被告らの造語である「四季布団」を伴う点において本件商標とは外観,称呼,観念のいずれにつ いても著しく相違する。また,「【和】」の部分についても,「ワ」 と読めば「なごみ」とは異なる観念が生じる。
上記のとおり「エアウィーヴ」はそれ自体被告らのブランド名とし て著名であり,これを含む標章の付された商品に出所の誤認混同が生 じることはあり得ない。また,被告ら商品は,布団的要素を付加した マットレスであり,四季を問わず使用できるのに対し,原告が本件商 標を付している商品は,タオルケット等夏に使用する薄手の商品のみ であり,被告ら商品とは用途・素材において大きく異なるから,この 点においても出所の誤認混同が生じる余地はない。
ウ したがって,本件商標と被告ら各標章は類似しない。
(被告らの主張) ア 商標法3条1項3号該当性について 「なごむ」という言葉には,「なごやかにする」という意味もある ところ,原告が本件商標を使用する寝具は人をくつろいだ気分にさせ, なごやかにするために使用されるものであって,本件商標は,そのよ うな商品の効能を示すものにすぎない。また,本件商標は平仮名3文 字を並べただけであり,普通に用いられる方法により表示されている。
さらに,「なごみ」という標章は,人をなごやかな気持ちにさせると いう効能を意識して広く様々な商品に使用されている。
このように,本件商標は,商品の効能を普通に用いられる方法で表 示する標章からなる商標であり,自他識別機能を有しないから,商標 法3条1項3号に該当する。
イ 商標法4条1項11号該当性について 本件商標の出願日より前である昭和59年6月25日の商標登録出願 により以下の商標(登録番号第1863585号。以下「引用商標」と いう。)が登録された。
引用商標は,本件商標と呼称及び観念が一致し,外観も平仮名部分は 完全に一致する。また,引用商標の指定商品には家具が含まれ,家具に は寝台が含まれるところ,寝台は本件商標の指定商品である第22類や 第24類の商品と類似するから,引用商標と本件商標の指定商品は類似 する。したがって,本件商標は商標法4条1項11号に該当する。
無効審判請求の除斥期間経過について 商標法47条1項は特許庁の無効審判手続において審判請求ができな いことをいうのみである。瑕疵のある特許権に基づく権利行使は認めな いという最高裁平成12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号 1368頁の趣旨,これを踏まえて立法された特許法104条の3及び これを引用する商標法39条の法意に照らせば,無効審判請求の除斥期 間の経過は侵害訴訟における権利行使制限の抗弁を主張する妨げにはな らない。
仮に同条,特許法104条の3が直接的に適用されないとしても,商 標登録に無効理由があることが明らかな場合には損害賠償等の請求は権 利の濫用に当たり許されないと解すべきである。
(原告の主張) ア 商標法3条1項3号該当性について 「なごみ」とは,人間の内面の感情や精神状態を表現する言葉として 用いられるものであり,寝具等の物品の効能を表す言葉ではない。仮に 効能として考えるとしても,それは需要者が商品を使用したことにより その内面に間接的に生じるにすぎず,このような間接的な効能は商標法 3条1項3号の「効能」に該当しない。
イ 商標法4条1項11号該当性について 寝台と本件商標の指定商品である「まくら,マットレス,かや,敷布, 布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」は,インターネット の大手商品販売サイトや寝装品・インテリア用品に関する業界雑誌にお いて明確に異なる分類の商品とされ,寝具類とベッドでは製造業者も異 なるから,類似の商標が使用されても営業主体の誤認混同は生じない。
引用商標が寝台について用いられた例もなく,引用商標の指定商品と本 件商標の指定商品は類似しない。
無効審判請求の除斥期間経過について 本件商標は昭和63年9月30日に設定登録されており,既に商標法 3条1項3号,4条1項11号を理由とする無効審判を請求することは できない(同法47条1項)。権利行使制限の抗弁は無効審判により無 効にされるべき場合にのみ認められるものであり(同法39条,特許法 104条の3),被告らの抗弁は認められない。また,原告による本件 商標権の行使が権利濫用に当たることもない。
(原告の主張) ア 被告らによる平成26年10月20日〜12月末の間の被告ら商品の 売上額は4億円であり,本件商標の使用料率は2%が相当であるから, 原告が被った損害は800万円を下らない。
また,弁護士費用は80万円が相当である。
イ 被告らは本件商標権の侵害により原告に損害が発生していない旨主張 するが,原告が現に本件商標を原告の商品に付して使用していること, 被告らは,被告ら商品が従来の「エアウィーヴ四季布団」の改良版であ ることを示すためあえて「【和】(なごみ)」という商品名を選択した こと,商標法38条3項に基づく請求において商品間の具体的な競合関 係の有無は問われないことに照らし,被告らの主張は失当である。
(被告らの主張) 本件商標が商品の効能を一般的に意味するだけの表示を普通に用いられ とおりである。また,損害賠償の対象とされた期間における本件商標を使 用した原告の商品の販売数量は極めて少ない。さらに,本件商標を使用し ている原告の商品と被告ら商品が競合しないこと,被告らは被告ら商品の 名称として高い識別力を有する「エアウィーヴ四季布団」という表示を必 る。
このように本件商標に顧客吸引力は認められず,被告ら各標章の使用は 被告ら商品の売上げに寄与していない一方,被告ら商品の売上げは「エア ウィーヴ」の周知著名性並びに被告らの企業努力及び被告ら商品の品質の 高さに起因するものであるから,原告に損害は発生していない。仮に発生 していたとしても,相当な使用料率は0%に近い。
当裁判所の判断
1 本件商標と被告ら各標章の類否を判断するに当たり,原告は被告ら各標 章中の「【和】(なごみ)」の部分を抽出して対比すべき旨主張するのに 対し,被告らは「エアウィーヴ四季布団」の部分を含む被告ら各標章の全 体と対比すべき旨主張する。
そこで判断するに,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が 認められる(なお,書証の枝番号の記載は省略する。以下同じ。)。
ア 本件商標の外観は,別紙商標権目録記載のとおり,楷書体で同一の大 きさの平仮名3文字「なごみ」を等間隔で横書きに配置したものであり, これにより「ナゴミ」の称呼が生じる。また,「なごみ」の語は,「気 持ちが穏やかになる,くつろいだ気分になる」といった意味の動詞「な ごむ」の名詞形であり,平易な日本語であって,本件商標からは「ナゴ ミ」の称呼に伴って「穏やかな気持ち,くつろいだ気分」といった観念 が想起される。(甲12,乙6)イ 原告は,江戸時代以前に創業したとする平成25年度1月期の売上額 約360億円の大手の寝具,寝装品等の製造卸売業者である。原告は, 遅くとも平成16年頃から,本件商標を春夏向けのタオルケット,ガー ゼケット,キルトケット,ソフトケット,パッドシーツ等の商品に使用 している。また,原告は,別の商品名で敷き布団,マットレス等を販売 している。(甲1,5,13,20,29)ウ 被告ら標章1は販売店に展示中の被告ら商品に掛けられたカバーの上 に置かれた薄板に,被告ら標章2は被告ら商品を宣伝するプレスリリー スに,被告ら標章3は被告ら商品のパンフレットに,被告ら標章4は被 告ら商品のカタログに,それぞれ使用されている。(甲6〜9) 被告ら各標章の外観は,別紙被告ら標章目録記載のとおりである。被 告ら標章1は「エアウィーヴ四季布団【和】(なごみ)」の文字及び記 号を横書きしたもので,書体及び色(黒)は同一であるが,文字等の大 きさは「エアウィーヴ」の部分に比し「四季布団【和】」の部分が約1. 5倍,「(なごみ)」の部分が約3分の2であり,「エアウィーヴ」と 「四季布団」の間に半角程度のスペースがある。被告ら標章2は同1と 同じ文字及び記号を横書きしたもので,書体及び色(赤)は同一で,文 字等の大きさもほぼ同一であるが,「エアウィーヴ」と「四季布団」の 間に1文字程度のスペースがある。被告ら標章3は,えんじ色の背景に 白抜き文字で「エアウィーヴ四季布団」の文字と「【和】」の文字及び 記号を2段に横書きしたもので,書体は同一であるが,下段の文字等は 上段に比し3倍程度の大きさであり,「和」の文字の上に「なごみ」と 振り仮名が付されている。被告ら標章4は,縦線を挟んで右側に「エア ウィーヴ四季布団」の文字を,左側に「【和】(なごみ)」の文字及び 記号を縦書きしたもので,書体及び色(えんじ。縦線を含む。)は同一 であるが,文字等の大きさは「エアウィーヴ四季布団」の部分に比し 「【和】」の部分が約4倍,「(なごみ)」の部分が約2倍となってい る。
エ 「エアウィーヴ」は,被告株式会社エアウィーヴが平成19年に販売 を開始した寝具の上に敷いて使用するマットレスパッドの商品名であり, 「air(空気)」と「weave(編む)」を組み合わせた造語であ る。その後,被告らが製造販売するマットレス等の商品にはいずれも 「エアウィーヴ」の語が冠され,著名なオリンピック選手が使用したこ となど被告らによる宣伝広告活動を通じて,平成22年頃以降マスメデ ィアに取り上げられる回数も急増し,「エアウィーヴ」の語は,被告ら 商品の発売時点において,被告らが製造販売するマットレス等のブラン ド名として寝具類の需要者の間に広く認識されていた。(甲2,6,乙 2) 被告ら商品は,被告らが製造販売する「エアウィーヴ四季布団」シリ ーズの一つであり,同シリーズに属する別の商品の名称は「エアウィー ヴ四季布団」である。これらは従来の「エアウィーヴ」商品より厚みが あり敷き布団のようにも使用できること,厚い空気層により夏は涼しく 冬は暖かく四季を通して快適に使用できることが特徴とされており, 「四季布団」はこのような特徴を踏まえた被告らの造語である。被告ら 商品は,「エアウィーヴ四季布団」に機能を付加した新商品として発売 された。(甲6,7,14,乙3) オ 本件商標と「ナゴミ」の称呼を共通にする標章として,空気清浄機に 使用された「NAGOMI(なごみ)」,ボディソープに使用された 「なごみ」,メディカルチェアに使用された「NAGOMI」と毛筆体 の「和」の文字の組合せ,トレーニングチェアに使用された「森の音」 の文字等と「なごみ」の組合せ,果実酒に使用された「島のなごみ」, レンガに使用された「和(なごみ)」がある。(乙1) 上記事実関係に基づき,本件商標と被告ら各標章の類否について検討する。
ア 本件商標から「ナゴミ」の称呼及び「穏やかな気持ち,くつろいだ気イ 被告ら各標章については,その全体から,「エアウィーヴシキフトン ナゴミ」ないし「エアウィーヴシキブトンナゴミ」の称呼が生じ,「エ アウィーヴ」の語の周知性及び「四季布団」の漢字の意義から「被告ら の製造販売に係るマットレス類であって,年間を通じて使用し得る敷き 布団であり,穏やかな気持ち,くつろいだ気分にさせるもの」といった 観念が生じると認められる。
一方,被告ら各標章は,称呼上は13音,外観上は14文字及び記号 4個又は2個(被告ら標章4は更に縦線)からなる比較的長いものであ り,必ずしも一息で発音され,一目で視認され得るものでない。これに 加え,被告ら標章1及び2については,「和」の文字が隅付き括弧で囲 まれて目立つようになっており,その後ろに括弧付きで「なごみ」と表 記されているため,被告ら標章3及び4については,「エアウィーヴ四 季布団」の部分と振り仮名付きの「和」の文字部分ないし「【和】(な ごみ)」の部分を分けて2段又は2列に表記され,しかも「和」の文字 等が大きいため,いずれもその外観上「和」の読み方を示すものと理解 される「なごみ」の部分が,「エアウィーヴ四季布団」の部分から独立 して,被告ら各標章に接した需要者の関心を引くとみることができる。
そうすると,被告ら各標章からは,上記の標章全体から生じる称呼及び 観念だけでなく,「なごみ」の部分から「ナゴミ」の称呼及びこれに伴 う観念が生じると認められる。
ウ 上記ア及びイによれば,本件商標と被告ら各標章は,称呼及び観念を 共通にするということができる。
エ 標は,被告ら商品の発売の少なくとも約10年前から原告によって本件 商標の指定商品に含まれるタオルケット等の商品に使用されている。ま た,原告は大手の寝具類の製造卸売業者であり,マットレス,敷き布団 等も販売している。その上,「なごみ」の語は他社の商品名を含め一般 に広く使われる名詞であり,本件商標の指定商品である寝具類を使用し た者が穏やかな気持ち,くつろいだ気分になることがあり得るが,これ は使用者が主観的に感得するものであり,「なごみ」自体は上記指定商 品の効能(保温,吸汗等)を直接表示するものでない。そうすると,本 件商標はその指定商品につき相応の出所表示機能を有しており,「ナゴ ミ」と称呼される標章が原告以外のマットレスや敷き布団に使用された 場合には,原告の「なごみ」という名称の商品の存在を知っている需要 者において,これを原告の商品と誤認するおそれがあるということがで きる。
一方,被告ら各標章は,被告らの製造販売する商品の名称として広く 知られた「エアウィーヴ」の文字及び被告ら商品の特徴を示す造語「四 季布団」を含むものであり,これらの部分から「エアウィーヴシキフト ン」ないし「エアウィーヴシキブトン」との称呼及び「被告らの製造販 売に係るマットレス類であって,年間を通じて使用し得る敷き布団」と ら商品の名称のうち「【和】」の文字等は,被告ら各標章の外観上「エ アウィーヴ四季布団」の部分と区別され需要者の関心を引く部分であり, シリーズ商品である「エアウィーヴ四季布団」と区別する指標ともなる から,被告ら商品を指称するに当たり「なごみ」の部分が常に省略され るとは解し難い。そうすると,「エアウィーヴ」が周知であることを考 慮しても,被告ら各標章から「ナゴミ」の称呼及びこれに伴う観念が生 じることがないとみることはできない。
オ 以上によれば,被告らの前記主張を採用することはできず,被告ら各 標章はいずれも本件商標に類似すると判断するのが相当である。
2 商標法3条1項3号該当性について 被告らは,本件商標はその指定商品の「効能」を普通に用いられる方法 で表示する標章のみからなる旨主張する。しかし,「なごみ」の語が上記 指定商品の効能を直接表示するものでな って,本件商標が商標法3条1項3号に該当するとは認められない。
商標法4条1項11号該当性について 本件商標と引用商標が類似することは当事者間に争いがなく,指定商品 の類否につき,被告は,引用商標の指定商品「家具」に含まれる寝台(ベ ッド)が本件商標の指定商品に類似するから,本件商標は商標法4条1項 11号に該当する旨主張する。
そこで判断するに,引用商標の指定商品が「家具,畳類,建具,屋内装 置品,屋外装置品,記念カツプ類,葬祭用具」であるのに対し(乙7。た だし,平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令の別表第20 類によるもの),本件商標の商品及び役務の区分並びに指定商品は別紙商 標権目録記載のとおりであって(なお,平成20年10月8日に書換登録 がされる前の商品区分は上記改正前の別表第17類,指定商品は「被服 (運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具 類(寝台を除く)」である。甲3),両者の指定商品が原材料,用途等を 異にすること,寝台が本件商標の指定商品から除外されていることは明ら かである。これに加え,寝台と寝具類が異なる業者により製造される場合 が多いこと(甲28)を考慮すると,本件商標の指定商品が引用商標の指 定商品に類似すると認めることはできない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件商標登録に 無効理由があることをいう被告らの主張を採用することはできない。
3 以上によれば,被告らは本件商標に類似する被告ら各標章をその指定商 品に属する商品の広告等に使用したものとして,原告に対し損害賠償義務 を負うと認められる。
被告らによる平成26年10月20日〜12月末の間の被告ら商品の売 上額が4億円であることを被告らは争っていない。これを前提に本件商標 の使用に対し受けるべき金銭の額(商標法38条3項)についてみるに, 本件商標は昭和63年に商標登録を受け,その後2度にわたり存続期間更新登録がされ,遅くとも平成16年から原告のタオルケット等の商品に 使用されており,相応の信用が備わっているとみられる。一方,本件商標 を構成する「なごみ」の語は普通名詞であって,複数の業者が各種の商品 件商標を使用するタオルケット等と被告らが被告ら各標章を使用する被告 ら商品は具体的な用途,機能等が異なること(同イ及びエ),被告ら各標 章中の「エアウィーヴ」の語が被告らのブランドとして周知であり(同 エ),被告らは被告ら商品についても各種メディアを通じて宣伝広告活動 を行ったこと(甲6〜9,乙4)に照らすと,発売から約2か月で4億円 という売上額に達したことについては被告らの営業努力に起因する部分が 大きいと解される。
これらの事情を総合すると,本件における上記金銭の額は,300万円 と認めるのが相当である。
なお,被告らは本件商標権の侵害行為により原告に損害が生じていない とも主張するが,以上に説示したところに照らし,失当というべきである。
本件訴訟の経緯等に照らすと,被告らによる本件商標権の侵害行為と相 当因果関係がある弁護士費用相当の損害は30万円と認められる。
以上によれば,原告の請求は330万円及びこれに対する遅延損害金の 連帯支払を求める限度で理由がある。
結論
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官 藤原典子
裁判官 萩原孝基