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事件 平成 27年 (ネ) 10121号 商標権侵害行為差止等請求控訴事件

控訴人 有限会社GESTS
訴訟代理人弁護士馬場恒雄
同 田中史郎
同 小林力
被控訴人Y (以下「被控訴 人Y」という。)
被控訴人 株式会社セールスフロント (以下「被控訴人会社」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 関本哲也
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/03/24
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
請求
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人会社は,インナーウェア,スポーツウェアに別紙被控訴人標章目録 1 記載の標章(以下「被控訴人標章」という。)を付し,又は同標章を付したイン ナーウェア,スポーツウェアを販売し,若しくは販売のために展示してはなら ない。
3 被控訴人会社は,被控訴人標章を付したインナーウェア,スポーツウェアを 廃棄せよ。
4 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,156万6666円及びこれに対 する被控訴人会社については平成26年12月5日から,被控訴人Yについて は同月7日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 本件は,控訴人が被控訴人らに対し,被控訴人標章は別紙商標権目録記載1,2の各商標(以下「本件商標」といい,各商標に係る商標権を併せて「本件商標権」という。)と同一であるところ,被控訴人会社は被控訴人標章を付した商品(インナーウェア,スポーツウェア)を販売し,また,被控訴人Yは本件商標権の共有者の同意を得ないまま,本件商標権の使用を被控訴人会社に許諾したなどとして,@被控訴人会社に対し,商標法36条1項,2項に基づき,被控訴人標章を付したインナーウェア等の販売等の差止め及び上記商品の廃棄を求めるとともに,A被控訴人らに対し,民法709条及び商標法38条2項に基づき,連帯して156万6666円及びこれに対する不法行為の後の日である被控訴人会社については平成26年12月5日から,被控訴人Yについては同月7日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は,本件商標権の侵害は認められないとして,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人は,原判決を不服として控訴を提起した。
2 前提事実(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。) (1) 当事者 ア 控訴人は,繊維製品の企画,製造,販売等を目的とする会社であり,本件商標権者の一人である。
2 イ 被控訴人Yは,本件商標権者の一人である。
ウ 被控訴人会社は,スポーツウェアの製造,販売等を目的とする会社であり,平成25年12月11日に「株式会社エイプラン」から「株式会社セールスフロント」へと商号変更した。
(2) 本件商標権の共有 控訴人と被控訴人YはA(以下「A」という。)とともに,本件商標権を共有している。
(3) 被控訴人標章を付した商品の販売 被控訴人標章を付したインナーウェア「SPO-RELAX」(以下「被控訴人商品1」という。)は,平成25年12月頃,販売店である株式会社ショップイン(以下「ショップイン」という。)に対し,販売された。同商品に添付されたタグには,「販売元:Y?」及び「お問い合わせ先 <以下略> (株)エイプラン」との記載があった(甲4)。
また,被控訴人標章を付したスポーツウェアのパンツ等(以下「被控訴人商品2」といい,被控訴人商品1と併せて「被控訴人商品」という。)は,平成26年1月頃,百貨店「プランタン銀座」の催事場に参加した販売業者等に対し,販売された。
同商品に添付されたタグには,「販売元 Y?」及び「お問い合わせ セールスフロント <以下略>」との記載があった(甲5の1,2)。
3 争点 (1) 被控訴人会社による本件商標権侵害の有無 (2) 損害発生の有無及びその額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被控訴人会社による本件商標権侵害の有無)について 〔控訴人の主張〕 (1) 被控訴人Yは,被控訴人会社と結託し,被控訴人会社を介在させる方法で,被控訴人商品を販売店に販売した。被控訴人商品のタグには,「お問い合わせ先」 3 として「(株)エイプラン」あるいは「お問い合わせ」として「セールスフロント」などと記載されている。このような記載は,被控訴人会社も本件商標権の共有者であるかのような誤解を生じさせ,本件商標権の出所表示機能,品質保証機能等を害するものであるから,実質的には,本件商標の付された被控訴人商品を被控訴人会社が販売しているものと同視すべきである。
そして,商標権が共有にかかるときは,各共有者は他の共有者の同意を得なければ,その商標権について他人に通常使用権を許諾することはできない(商標法35条,特許法73条3項)。
したがって,たとえ被控訴人Yが被控訴人会社に対し本件商標の使用を許諾したとしても,共有者の一人である控訴人が同意していない以上,被控訴人会社による被控訴人商品の販売は,本件商標権を侵害するものである。
(2) 被控訴人商品のタグには,「販売元:Y?」の表記があるが,本件商標登録上の権利者は,「Y」であり,「Y?」ではない。商標権の出所表示機能からすると,「Y?」との表記では必ずしも「Y」を指すことにはならず,出所混同をきたす可能性がある。
したがって,「Y?」の表記は,被控訴人Yではない権原のない「Y?」が「販売元」として記載されているとみるべきであり,権原のない者が被控訴人商品を販売しているといえる。
(3) 本件においては,被控訴人商品の販売は,被控訴人会社の名義で行われており(乙1ないし14),かつ被控訴人会社の計算で行われているから,被控訴人会社が被控訴人商品を取引したと考えられる。被控訴人らは,被控訴人商品の代金を被控訴人会社等に立て替えてもらったと主張するが,その証拠はない。
〔被控訴人らの主張〕 (1) 被控訴人商品のタグには「販売元」として「Y?」と表記されているが,この表記は被控訴人Yの氏名のローマ字表記である。すなわち,被控訴人商品のタグには「販売元」として被控訴人Yの氏名が記載されており,被控訴人会社は連絡先 4 として記載されているにすぎない。
したがって,被控訴人商品が本件商標権の共有者である被控訴人Yの商品として販売されていることは明らかであり,被控訴人会社が販売しているとみることはできない。
(2) 控訴人は,被控訴人商品の販売が,被控訴人会社の計算で行われているものであり,被控訴人会社が被控訴人商品を取引したと考えられると主張する。
しかし,被控訴人商品の取引については,赤字となり,利益は全く出ていない。
被控訴人Yは,Aが代表者を務める株式会社ウエザーコーポレーション(以下「ウエザーコーポレーション」という。)が破産前に既に発注していた工場から,被控訴人商品の買取りを迫られ,仕入先であるデクシオーラ株式会社(以下「デクシオーラ」という。)やプレジャーブリッジとの取引や販売先であるショップインとの取引を考え,赤字覚悟で,被控訴人商品をデクシオーラに発注し,ショップインに販売したのである。このような赤字が予想される取引に,被控訴人会社がビジネスの主体として関与することは考えられない。被控訴人会社は,被控訴人Yのために口座を開き,代金を立て替えることで協力したにすぎず,被控訴人商品の発注及び販売の主体は被控訴人Yであったことは明らかである。
以上のとおり,被控訴人Yが被控訴人会社に対し本件商標の使用を許諾したことはなく,本件商標権侵害の事実もない。
2 争点(2)(損害発生の有無及びその額)について 〔控訴人の主張〕 被控訴人らは,被控訴人商品につき合計380万円の利益を得ており(インナーウェア「SPO-RELAX」につき330万円,パンツ等につき50万円),商標法38条2項に基づく控訴人の損害額は,控訴人の本件商標権の持分3分の1に相当する126万6666円となる。
また,被控訴人らによる不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は30万円となる。
5 したがって,被控訴人らは,控訴人に対し,不法行為に基づく合計156万6666円の損害賠償債務を負う。
〔被控訴人らの主張〕 否認する。
被控訴人商品の販売についてはいずれも赤字が生じており,利益はない。
当裁判所の判断
1 認定事実 前記前提となる事実,証拠(甲4,5,乙1ないし14。以上,枝番のあるものは枝番を含む)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 控訴人,被控訴人Y及びAは,従前から,ウエザーコーポレーションに本件商標権の使用を許諾しており,ウエザーコーポレーションは,被控訴人標章を使用して,インナーウェア,スポーツウェアを販売していた。
ウエザーコーポレーションは,コネクトエスに対しインナーウェアのスポーツブラジャーを発注し,また,プレジャーブリッジに対しスポーツウェアのパンツの発注をしていた。なお,コネクトエスは,商社であるデクシオーラを通して外国の工場でスポーツブラジャーを製造していた。
ウエザーコーポレーションは,上記の各商品を株式会社東京ドームの子会社であるショップインに委託販売し,同社が店舗で小売販売していた。
(2) ウエザーコーポレーション及び同社の代表者であるAは,平成25年11月12日,破産手続開始決定を受けた。
ウエザーコーポレーションは,上記破産前の平成25年7月頃,コネクトエスに対し被控訴人商品1(「SPO-RELAX」)1万5460枚を発注し,さらに,コネクトエスは,デクシオーラに対し同商品を発注していたため,デクシオーラは,その仕掛品を製造していた。また,上記頃,ウエザーコーポレーションは,プレジャーブリッジに対し被控訴人商品2を発注し,プレジャーブリッジはその仕掛品を製造していた。
6 このような状況の中で,ウエザーコーポレーション及びAが破産したため,デクシオーラ及びプレジャーブリッジが製造した仕掛品の引取りと費用の問題が発生した。また,被控訴人商品1の販売先であるショップインは,販売計画を立て,各店舗から顧客に告知もしていたことから,被控訴人商品1を販売したいとの強い意向を示していた。
被控訴人Yは,ウエザーコーポレーションの役員在任中に,平成23年9月までショップインとの取引対応をし,その後も同社とアドバイザリー契約を締結していたという関係にあったこともあり,デクシオーラに仕掛品を完成させてこれを買い取り,被控訴人商品1をショップインに委託販売することとなった。また,被控訴人Yは,プレジャーブリッジが製造した被控訴人商品2についても引取りを迫られたため,プレジャーブリッジに仕掛品を完成させて買い取り,被控訴人商品2を販売することとなった。
(3) 被控訴人Yは,個人名義で商品の取引を行うことが困難であったことから,取引先からの要望を受けて,被控訴人会社及び関連会社である株式会社オー・エフ・デスクに依頼して,被控訴人会社等の名義で被控訴人商品の取引を行うこととした。
被控訴人商品は,その後,被控訴人会社等の名義で取引が行われたが,被控訴人商品の販売については,同商品のタグに「販売元」として「Y?」との表示がされ,被控訴人会社の名称である「(株)エイプラン」ないし「セールスフロント」は,問い合わせ先として表示された。なお,被控訴人商品については,相当数の返品があったため,最終的には赤字であった。
2 争点(1)(被控訴人会社による本件商標権侵害の有無)について (1) 前記認定の事実によれば,@被控訴人標章が付された被控訴人商品は,元々は,本件商標権の使用許諾を受けたウエザーコーポレーションが発注したものであり,同社が破産したためにその役員であった被控訴人Yが,取引先からの要請により,その仕掛品の仕入,販売の処理を引き受けたものであること,A被控訴人商品の取引は,被控訴人会社名義でなされたものの,被控訴人商品のタグには,「販売 7 元」として「Y?」と記載されており,同表記が本件商標権の共有者の一人である被控訴人Yの氏名のローマ字表記であることは明らかであること,B被控訴人商品のタグにおける被控訴人会社の名称である「(株)エイプラン」ないし「セールスフロント」は,単なる問い合わせ先として記載されているにすぎないことなどが認められる。
以上の事実関係によれば,被控訴人Yは,役員として関係していたウエザーコーポレーションが発注していた仕掛品の処理のために,これを発注して仕入れ,自らが販売元であることを被控訴人商品のタグに明確に表示して,これを販売したものであるから,被控訴人商品の販売主体は,被控訴人Yであると認められる。そうである以上,被控訴人Yが,その内部関係において,被控訴人会社に依頼して,被控訴人商品の取引が被控訴人会社名義でなされたとしても,そのことだけでは,被控訴人商品の実質的な販売主体が,被控訴人会社であったということはできない。
したがって,本件の被控訴人商品の販売は本件商標権の共有者である被控訴人Yによりなされたものであるから,被控訴人会社が被控訴人商品を販売し,本件商標権を侵害したとは認められない。
(2) 控訴人の主張について ア 控訴人は,被控訴人商品のタグにおける「お問い合わせ先」の記載は,本件商標権の出所表示機能,品質保証機能等を害するものであるから,被控訴人商品を被控訴人会社が販売しているものと同視すべきであるし,被控訴人商品のタグにおける「販売元:Y?」の記載は,ローマ字表記であり,これが被控訴人Yを表示するものとはいえないなどと主張する。
しかし,被控訴人商品のタグには,「販売元」として「Y?」と明確に記載されているのであって,同表記が本件商標権の共有者の一人である被控訴人Yの氏名のローマ字表記であることは明らかであり,被控訴人会社の名称である「(株)エイプラン」ないし「セールスフロント」は単なる「お問い合わせ先」などとして記載されているにすぎない。
8 そうすると,被控訴人商品のタグの記載からは,被控訴人商品の「販売元」は被控訴人Yであるものとしか読み取ることができないのであって,上記の「お問い合わせ先」の記載から,被控訴人会社も被控訴人商品の販売主体であるとの誤解を生じさせているなどということはできない。
したがって,控訴人の上記主張は,その前提を欠くものといわざるを得ず,いずれも採用することができない。
イ 控訴人は,被控訴人Yは,被控訴人会社と結託し,被控訴人会社を介在させる方法で,被控訴人商品を販売店に販売したと主張する。
しかし,本件商標権の共有者である被控訴人Yによる被控訴人商品の販売行為が商標権侵害行為を構成しない以上,被控訴人会社を介在させて被控訴人Yが被控訴人商品を販売したとしても,被控訴人会社の行為が直ちに商標権侵害行為を構成するということはできない。
また,控訴人は,被控訴人商品の対外的な取引は,被控訴人会社の名義で行われており,かつ被控訴人会社の計算で行われているから,被控訴人会社が被控訴人商品を販売したといえるとも主張する。
しかし,前記認定のとおり,被控訴人Yは,役員として関係していたウエザーコーポレーションが発注していた仕掛品の処理のために,これを発注して仕入れ,自らが販売元であることを被控訴人商品のタグに明確に表示して,これを販売したものであるから,被控訴人商品の販売主体は,被控訴人Yであるというべきであり,被控訴人Yが,その内部関係において,被控訴人会社に依頼して,被控訴人商品の取引が被控訴人会社名義でなされたとしても,そのことだけでは,被控訴人商品の実質的な販売主体が,被控訴人会社であったということもできないし,また,被控訴人商品の取引が被控訴人会社の計算で行われ,その最終的な損失も被控訴人会社が負担するとの主張については,これを認めるに足りる証拠はない。かえって,破産したウエザーコーポレーションの仕掛品について,その役員であった被控訴人Yが,これまでの経緯からその責任を取る意味で,完成品の発注をし,その販売を行 9 ったとの前記の経緯からしても,被控訴人商品の取引における代金等については,被控訴人Yが被控訴人会社に立て替えてもらったものと認められ,被控訴人会社がその計算で被控訴人商品の販売を行い,その最終損失も負担したものとは認め難い。
したがって,控訴人の上記主張も採用することができない。
3 結論 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求は理由がなく,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 設樂一
裁判官 大寄麻代
裁判官 岡田慎吾