関連審決 | 無効2014-890019 |
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事件 |
平成
28年
(行ケ)
10181号
審決取消請求事件
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原告 オルガノサイエンス株式会社 訴訟代理人弁理士 山本健男 被告オルガノ株式会社 訴訟代理人弁護士 永島孝明 安國忠彦 朝吹英太 安友雄一郎 野中信宏 長谷川靖 訴訟代理人弁理士 若山俊輔 矢野卓哉 平尾和女 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2017/01/24 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた判決
特許庁が,無効2014-890019号事件について平成28年7月20日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,商標登録無効審判請求に対する無効審決の取消訴訟である。争点は,@原告の有する下記本件商標と被告の有する下記引用商標との同一性又は類似性(商標法4条1項11号)の有無及びA本件商標が被告の業務に係る商品・役務と混同を生じるおそれ(商標法4条1項15号)の有無である。 1 本件商標 原告は,下記の本件商標の商標権者である(甲1,2)。 オルガノサイエンス (標準文字) @ 登録番号 第5325691号 A 出 願 日 平成20年4月28日 B 登 録 日 平成22年5月28日 C 商品及び役務の区分並びに指定商品及び指定役務 平成22年5月28日の設定登録時には第1類「芳香族有機化合物,脂肪族有機化合物,有機ハロゲン化物,アルコール類,フェノール類,エーテル類,アルデヒド類及びケトン類,有機酸及びその塩類,エステル類,窒素化合物,異節環状化合物,有機リン化合物,有機金属化合物,化学剤,原料プラスチック,有機半導体化合物,導電性有機化合物」及び第40類「有機化合物・化学品・原料プラスチックの合成及び加工処理」,平成28年3月18日に指定商品中第1類「化学剤,原料プラスチック」について放棄による一部抹消の登録がされ,同年6月17日に指定役務中第40類「化学品・原料プラスチックの合成及び加工処理」について放棄による一部抹消の登録がされた(甲209)。 2 特許庁における手続の経緯等 被告は,平成26年3月27日,特許庁に対し,本件商標が商標法4条1項11号及び同15号に該当するとして,商標登録無効審判請求をした(甲163の審判請求書。無効2014-890019号)。 特許庁は,平成26年10月31日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(第1審決)をした(甲163の審決)ところ,被告は,第1審決について,知的財産高等裁判所に対し,審決取消請求訴訟を提起し(甲165の訴状。当庁平成26年(行ケ)第10268号),知的財産高等裁判所は,平成27年8月6日,第1審決は商標法4条1項11号該当性の判断を誤ったとして,同審決を取り消すとの判決をし(甲168。第1判決),同判決は,同年12月3日,上告棄却決定及び上告不受理決定により確定した。 特許庁は,上記商標登録無効審判事件について更に審理の上,平成28年7月20日, 「登録第5325691号の登録を無効とする。 との審決 」 (本件審決)をし,その謄本は,同月28日,原告に送達された。 3 本件審決の理由の要点 (1) 引用商標(甲3〜6) 登録番号 第1490119号 出 願 日 昭和51年4月5日 登 録 日 昭和56年11月27日 更新登録 平成4年2月27日,平成13年8月28日,平成23年10月18日 商品及び役務の区分並びに指定商品及び指定役務 昭和56年11月27日の設定登録時には第1類「化学品(他の類に属するものを除く)」,昭和57年7月26日に指定商品中「無機工業薬品,有機工業薬品,のりおよび接着剤」について放棄による一部抹消の登録がされ,平成14年10月16日に指定商品を第1類「界面活性剤,化学剤」とする書換登録がされた。 (2) 引用商標及び「オルガノ」の文字からなる標章(以下「使用商標」ということがある。)の周知著名性について 被告は, 「オルガノ」と略称されて水処理装置事業の分野において広く知られており,また,使用商標は,純水製造装置,超純水製造装置,排水処理装置等の商品を含む水処理関連事業について使用する被告の商標として,本件商標の登録出願時には既に,取引者,需要者の間に広く認識されていたものというべきであり,その状態は本件商標の登録審決時においても継続していたものといえる。 また,被告の事業は水処理関連事業であるが,これには薬品事業が伴うものと認識されていたものと認められ,引用商標についても,本件商標の登録審決時において,その指定商品「界面活性剤,化学剤」を示すものとして相当程度周知となっていたことが認められる。 (3) 無効理由1(商標法4条1項11号該当性)について ア 上記のとおり,引用商標「オルガノ」は,本件商標の登録審決時において,相当程度周知であったものと認められる。 イ 本件商標「オルガノサイエンス」は, 「オルガノ」と「サイエンス」の結合商標と認められるところ,その全体は,9字9音とやや冗長であること,後半の「サイエンス」が科学を意味する言葉として一般に広く知られていること,前半の「オルガノ」は, 「有機の」を意味する「organo」の読みを表記したものと解されるものの,本件商標登録出願時の広辞苑に掲載されていないなど,サイエンス」 「に比べれば一般にその意味合いが十分浸透しているものとは考えられないことが認められ,また,上述のような引用商標の周知性からすれば,本件商標のうち「オルガノ」部分は,その指定商品及び指定役務(指定商品等)の取引者,需要者に対し,商品又は役務(商品等)の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められ,他方, 「サイエンス」は,一般に知られている「科学」を意味し,指定商品である化合物,薬品との関係で,出所識別標識としての称呼,観念が生じにくいと認められる(最高裁平成20年9月8日第2小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。したがって,本件商標については,前半の「オルガノ」部分がその要部と解すべきである。 ウ 本件商標の要部「オルガノ」と,引用商標とは,外観において類似し,称呼を共通にし,一般には十分浸透しているとはいえないものの,いずれも「有機の」という観念を有しているものと認められる。したがって,両者は,類似していると認められる。 エ 本件商標の指定商品と,引用商標の指定商品とは,いずれも「化学剤」を含んでいる点で共通している。 オ 以上のとおり,本件商標と引用商標とは類似し,両商標の指定商品中にはいずれも「化学剤」を含んでいることから,本件商標は,商標法4条1項11号に違反して登録されたものである。 (4) 無効理由2(商標法4条1項15号該当性)について 本件商標の指定商品等中,上記(3)のとおり本件商標が商標法4条1項11号に違反して登録されたものと判断した「化学剤」以外の指定商品等について,以下検討する。 ア 使用商標の周知著名性 上記(2)のとおり,使用商標「オルガノ」は,本件商標の登録出願時及び登録審決時において,被告及び被告の事業ないし商品等を示すものとして需要者の間に広く認識されていたものと認められる。 イ 使用商標の独創性の程度 「オルガノ」を「有機」の意味で使用することがあるとしても,本件商標の登録出願時に「有機」の意味での使用が一般に浸透していたとは認められない。また,「オルガノ」の片仮名は,日本語の辞書には掲載されていない。 そうすると,「オルガノ」の文字は,独創性の程度が低いとまではいえないものである。 ウ 被告の多角経営 被告は,総合水処理エンジニアリング会社として水処理装置事業と薬品事業を主として行っており,また,工業薬品類の販売,水処理機器類の販売,食品素材・添加物,栄養補助食品等の開発・製造販売,工場排水処理設備の製造販売を行っている多数の子会社,孫会社を設立し,多角的に事業運営を行っていることが認められる。 エ 商品間又は役務と商品の関連性 被告は,水処理装置事業と薬品事業を主に行っている企業であるところ,薬品事業は,様々な化合物の混合物を薬品として製造・販売する事業であり,様々な有機化合物や無機化合物を含む,重金属固定剤,洗浄剤,除菌剤,消臭剤,消泡剤,非イオン性界面活性剤除去剤,高分子凝集剤,不純物除去剤,給水用防錆?剤,過酸化水素分解剤,次亜塩素酸ナトリウム剤,燃料添加剤,ボイラ処理剤,防食剤,冷却水処理剤等を製造・販売していること,また,イオン交換樹脂や食品添加剤を取り扱っていることが認められる。 他方,本件商標の指定商品等は,様々な種類の有機化合物に係る商品と,その合成等に係る役務である。 そうすると,被告に係る商品等と,本件商標の指定商品等は,いずれも化学に関する技術を活かした商品及び役務である点で一致しており,特に,被告の製造・販売する薬品は,本件商標の指定商品である様々な種類の有機化合物を混合することにより得られるものであるから,両者は密接不可分に関連しているといえる。 オ 需要者及び取引者の共通性 被告の事業の取引者,需要者は,用水製造や排水処理等の水処理プラント又は中・小型装置,水処理薬品等の化学剤等を必要とする各種製造業,サービス業,発電所,国の機関・自治体,一般消費者等であるのに対し,本件商標の指定商品の需要者は,指定商品である化合物を製品原料などとして必要とする各種製造業者である。そして,化合物を原料などとして必要としている製造業者は,水処理設備又は水処理装置,水処理用化学剤を必要とする製造業者でもある。 したがって,被告の事業の取引者,需要者と,本件商標の取引者,需要者とは,その多くが共通しているといえる。 カ 本件商標と使用商標との類似性の程度 本件商標「オルガノサイエンス」と使用商標「オルガノ」とは,上記(2)において,本件商標と引用商標とについて認定,判断したと同様に,本件商標のうち「オルガノ」の文字部分は,その指定商品等の取引者,需要者に対し,商品等の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められ,他方,サイエンス」 「 の文字は,一般に知られている「科学」を意味し,指定商品であり,役務の合成や加工対象である化合物,薬品との関係で,出所識別標識としての称呼,観念が生じにくいと認められ,本件商標については,前半の「オルガノ」の文字部分がその要部と解すべきである。 そうすると,本件商標の要部「オルガノ」の文字と,使用商標とは,外観において類似し,称呼を共通にし,一般には十分浸透しているとはいえないものの,いずれも「有機の」という観念を有しているものと認められる。 したがって,両者は,類似していると認められる。 キ 小括 以上のように, 「オルガノ」の文字は,被告のハウスマークとして周知著名な創造商標であることから,本件商標においては「オルガノ」の文字部分が要部となり,本件商標は使用商標と明らかに類似する。また,被告は多角経営をする企業であり,その提供する商品と,本件商標の指定商品等は,密接に関連するものであり,その取引者,需要者の多くを共通にする。 そうすると,本件商標をその指定商品中の「化学剤」以外の指定商品等について使用する場合には,その取引者,需要者において,その商品等が,請求人(被告)又はこれらと経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品等であるかのように,商品等の出所について混同を生じさせるおそれがある。 したがって,本件商標は,その指定商品等中の「化学剤」以外の指定商品等について,商標法4条1項15号に違反して登録されたものである。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(無効理由1についての判断の誤り) (1) 引用商標及び使用商標の周知著名性について ア 被告の子会社・孫会社について 本件審決は,被告が多数の子会社,孫会社を有するから,広義の混同を生ずるおそれがあると判断する。しかし,被告の子会社,孫会社は国内では6社しかなく,その内2社の社名には「オルガノ」が含まれないから,多数とはいえない。 イ 図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字との組合せからなる標章について 本件審決は,被告発行に係る総合カタログ及び個別商品カタログには,図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字との組合せからなる標章が表示されており,かかる図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字とはそれぞれが独立して出所識別標識としての機能を果たし得る,と判断する。 しかし,被告の登録商標のうち水玉の図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字との組合せからなる商標(登録第2724150号,登録第2723916号等。商標は,本判決別紙目録記載のとおり。以下,これらをまとめて「図形付き被告商標」という。)は,被告が水玉の図形のみの商標を登録していること,「ORGANO」 「オルガノ」が「サイエンス」に比べれば一般にその意味合いが十分浸透しているとはいえないと被告が主張していることからすれば,その要部は水玉の図形であり,図形付き被告商標が総合カタログ等に掲載されているからといって, 「オルガノ」の文字が周知になっているとはいえない。 ウ 新聞の題字広告及び新聞等への不定期の企業広告等について 本件審決は,被告が新聞に題字広告を出していたことを理由に, 「オルガノ」の商標が周知に至ったと判断するようである。 しかし,被告提出の周知資料のうち,定期的に新聞の題字広告を行っていること,広告活動,報道機関からの取材を受け入れていることは,通常の企業活動であって,それをもって周知に至ったとはいえない。被告提出の周知資料は,昭和39年からのものであり,今日まで50年余経過していることから,その厚みから周知著名になったとはいえない。また,新聞の題字広告(甲80〜83)は,具体的な商品名を記載したものではないから,本件商標の登録審決時に引用商標がその指定商品の分野において周知著名性を獲得していたとはいえない。 さらに,被告の「オルガノ」 「オルガノ株式会社」及び図形付き被告商標は,特許情報プラットフォームの日本国周知著名商標として掲載されているものではない。 エ 被告と薬品事業について 本件審決は,水処理事業には薬品販売が伴うものである,とする。 しかし,水処理事業に必要な薬品は,被告が製造販売するものではなく,市販薬品で足りる。取引者,需要者は,甲33〜77のカタログに掲載されている水処理に用いる薬品を,水処理装置のメーカーから支給されずとも,他から入手することができる。甲79によれば,被告は,イオン交換樹脂を輸入販売するだけで,製造していない。 また,本件審決は,超純水は半導体や液晶の製造過程に欠かせないものであるが,被告が製造販売する超純水製造装置は,水処理装置事業の主力商品であり,市場シェアの3割以上を占め,半導体や液晶等の電子産業は,被告の主要顧客層を形成している,と述べる。 しかし,甲106,114において,超純水の製造に薬剤を使用する旨は書かれているが,薬剤は特定されていないから,超純水製造装置の分野において,引用商標又は使用商標が,引用商標の指定商品「界面活性剤,化学剤」を示すものとして,相当程度周知になっているとはいえない。 (2) 本件商標と引用商標との類否について ア 本件商標は, 「オルガノサイエンス」と一息に発声でき,短縮して「オルガノ」と言うことはない。本件商標は, 「有機の科学」が想起される,創作商標である。よって,本件商標と引用商標とでは,称呼,外観,観念共に異なっている。本件商標は, 「オルガノ」という接頭語をそのまま利用し,サイエンスと結合させ, 「有機の科学」という新たな概念を生ずるものであって,一体不可分の関係にあり,本件商標から「オルガノ」だけを分離して要部であるといえるものではない。 本件商標から「オルガノ」だけを抽出し,この部分だけを引用商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品等の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである。使用商標が,相当程度周知としても,被告は図形付き被告商標などの一部に「オルガノ」を使用しているにすぎず,出所の混同を生ずるほど著名ではなく,取引者,需要者に対し商品等の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではない。 イ 英語の接頭語の発音表現は日本語辞書には載っていないが,それを含む単語は日本語辞書に載っていることもあるから, 「オルガノ」が広辞苑に載っていないからといって,その意味合いが十分浸透されていないとはいえない。 ウ 商標中に「サイエンス」 「science」を含んでいて指定商品が化学品等である登録商標が多数存在するから,本件商標中の「サイエンス」が,指定商品等との関係で出所識別標識としての称呼,観念が生じにくいとはいえない。 エ よって,本件商標の構成部分全体と引用商標とを対比すべきであり,両者は非類似である。 (3) 指定商品等の類否について ア 被告は,引用商標の指定商品から「無機工業薬品,有機工業薬品,のりおよび接着剤」を抹消しており,上記指定商品は残された指定商品「界面活性剤,化学剤」を含むから,引用商標は空権化された登録商標である。本件商標の指定商品等は,被告が自ら権利抹消した範囲内にあり,出所の混同が生ずるおそれはない。 イ 原告が製造販売する有機化合物は,取引者,需要者の用途に応じて取引され,同人らが生産する製品の構成要素として使用されるものであるが,引用商標の指定商品のように大量生産,大量消費しその場で廃棄される工業薬品ではない。 原告の商品等に係る取引の実情は,口コミ等で連絡があった顧客と,必要とする有機化学材料を特定し,純度,生産量,分析値等の品質保証などについて打合せを行い,必要に応じ契約書を交わして取引が開始され,原告で生産された有機化学材料は,直接顧客に納入される。このような取引の実情を考慮すれば,原告と被告との間で出所の混同を生ずるおそれはない。 (4) 第1判決は,商標法4条1項11号の法目的を逸脱したものであり,この判決に拘束され,本件商標は同号に違反して登録されたものであるとの本件審決は,取り消すべきである。 2 取消事由2(無効理由2についての判断の誤り) (1) 引用商標及び使用商標の周知著名性について 上記1(1)と同じ。 (2) 化学剤以外の指定商品等について 本件審決は,本件商標のうち指定商品「化学剤」に係るものについては,商標法4条1項11号により無効となり,その他の指定商品に係るものについては,同項15号で検討している。 しかし,本件商標の「化学剤」以外の指定商品は,全て,被告が引用商標について一部抹消した有機工業薬品に含まれ,狭義・広義の出所の混同は生じない。よって,同項15号による無効を検討する余地はない。 (3) 使用商標の独創性について 「オルガノ」は,英語の「organo」である「有機の,器官の」の意味を有する接頭語の発音を表現したものであり,創造商標といえるものではない。 (4) 被告の多角経営について 被告の有する登録商標の指定商品は多岐にわたるが,各商標が各指定商品について周知著名となっているとはいえない。原告は,顧客の要求する特定の有機化合物を規定の品質で生産販売しているから,顧客は,原告と被告とが異なる企業であることを認識して問い合わせるのであり,被告が多角経営であるといっても,原告と被告との間では,狭義にせよ広義にせよ混同のおそれはない。 (5) 商品間又は役務と商品の関連性 ア 本件審決は,薬品事業は,様々な化合物の混合物を薬品として製造・販売する事業であり,本件商標の指定商品・役務と密接不可分に関連する,と述べる。 しかし,被告の薬品事業は,被告が引用商標で一部抹消した「無機工業薬品,有機工業薬品,のりおよび接着剤」に該当するものであるから,原告の本件商標使用により,狭義にせよ広義にせよ出所の混同は生じ得ない。 イ 被告の商品は,大量生産・大量消費されると同時に排水として廃棄されるものである。これに対し,本件商標の指定商品である原告の商品は,取引者,需要者の要求に適合させたものであり,取引者,需要者の製品の構成要素となるものである。したがって,本件商標の指定商品と,被告の引用商標の指定商品とでは,生産方法,使途が全く異なり,顧客との取引態様が異なり,原告の本件商標使用により,被告との間で狭義,広義の出所の混同が生ずるおそれはない。 (6) 需要者及び取引者の共通性について 水処理は人が生活,活動する場所ではどこでも行われ,被告の取引者,需要者が原告の取引者,需要者となる場合はあり得る。しかし,原告の取引者,需要者は,原告の生産能力,安全性等を事前に調査して,原告を特定して取引するのだから,原告の本件商標使用により,被告との間で狭義,広義の混同を生ずるおそれはない。 (7) 本件商標と使用商標の類似性の程度 ア 本件商標は,英語「organo」と「science」を結合し仮名文字に表記したものであり,前者は, 「有機の,器官の」という意味がある接頭語であり,この接頭語という性質を利用し後者につなげたものであり,1呼吸で発音でき冗長というべきものではなく,有機の科学という意味を成す造語というべきものであり,一体不可分の結合商標である。 イ 「organo」 (オルガノ)は, 「science」 (サイエンス)と比較し,その意味合いが十分浸透していないというものの,一般的な英和辞典に載っており,「オルガノ」が創造商標といえるものではなく,「オルガノ」が付いた会社名や商品名も多くあり,本件商標の看者がこれを見て「オルガノ」だけを分離して認識するものではない。 ウ 「サイエンス」に関連する多くの登録商標が存在し, 「サイエンス」も自他商品識別力があり,また,「サイエンス」は,科学,知識,学問等の意味を有し,本件商標の指定商品である,化合物,薬品との関係で出所識別標識としての称呼,観念が生じにくいとされるものではない。 エ よって,本件商標全体と使用商標とを対比すべきである。 (8) まとめ 本件商標は, 「オルガノ」の文字部分だけを取り出して引用商標との類否判断をすることは許されず,引用商標の「オルガノ」の部分が共通しているとしても,外観,称呼,観念の全てが異なり,互いに非類似の商標である。 また,使用商標が長年使用されてきたとしても,引用商標の指定商品である薬品事業については,本件商標の登録審決時において周知著名ではなく,organo」 「は一般的な英和辞典に掲載され,創作商標というものではない。 さらに,被告が製造販売している工業製品と原告が製造販売している有機工業薬品では,生産方式,用途等が異なり,また,原告と顧客との取引の実情から,本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは容易に識別できるものである。 そして,原告の取引態様からすれば,取引者,需要者は原告の会社を認識した上で取引関係に入るはずであり,その判断能力や前提知識からすると,被告とは別の会社であると理解すると考えられ,原告の本件商標使用により,被告との間で狭義,広義の混同は生じないといえる。 したがって,本件商標は,商標法4条1項15号に違反するものではない。 |
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被告の反論
1 取消事由1に対し 第1判決は, 「オルガノ」が被告の薬品事業を含む被告の事業ないし商品等を示すものとして相当程度周知であったとして,その周知著名性を認定した上で,本件商標のうち「オルガノ」の部分が要部になると判断し,商標法4条1項11号に該当すると判示したものであり,上告及び上告受理申立ての棄却決定により確定した。 そして,第1判決の理由中の判断は,行政事件訴訟法33条に従い,本件審決において特許庁を拘束し,本件審決は,同号の該当性を認定判断した。 したがって,本件訴訟において,原告が再び,商標法4条1項11号の該当性を争うことは,確定した第1判決の理由中の認定判断を蒸し返すものであり,明らかに理由がない。 2 取消事由2に対し (1) 引用商標及び使用商標の周知著名性について ア 第1判決が示すとおり,使用商標は,被告の薬品事業を含む被告の事業ないし商品等を示すものとして相当程度周知であったといえる。 イ 原告は,図形付き被告商標の要部は水玉図形にあるから, 「オルガノ」が周知著名になったということはできない,と主張する。 しかし,図形付き被告商標の称呼を生ずる部分は「オルガノ」であり,水玉図形が「オルガノ」の文字と比べて格段に大きく目立つ態様で表示されているわけでもない。これらの商標における要部は,「オルガノ」である。 ウ 原告は,新聞の題字広告は50年余にわたり集めたものであるから,これをもって「オルガノ」が周知著名になったということはできない,と主張する。 しかし,甲80〜83は,被告が掲載した題字広告の一部を示したものにすぎない上,被告が50年余にわたり題字広告を実施してきた事実は,被告が「オルガノ」の周知性向上に努め,オルガノ」 「 が広く周知され,著名になったことの証左である。 エ 原告は,引用商標「オルガノ」は,特許庁が掲載する日本国周知・著名商標には掲載されておらず,防護標章登録もされていないから,周知著名になったということはできない,と主張する。 しかし, 「日本国周知・著名商標」に全ての周知著名商標が記載されているわけではないし,周知著名な商標を使用する者が防護標章登録出願をすることがなければ,防護標章登録はなされない。したがって, 「日本国周知・著名商標」に掲載されていないこと,及び,防護標章登録がないことは, 「オルガノ」が周知著名でないことの理由にはならない。 オ 原告は,水処理薬品は,被告が製造販売するものではなく,被告のカタログには使用されている具体的な無機化合物,有機化合物の物質名は記載されていないし,市販薬品で十分に役割を果たすものであるから, 「オルガノ」が周知著名になったということはできない,と主張する。 しかし,被告が製造している水処理薬品もあり,水処理薬品の取引を過去から継続しているのだから,市販薬品で十分に役割を果たすことをもって, 「オルガノ」の周知著名性を否定することはできない。 第1判決が示すとおり,引用商標ないし使用商標は,被告の薬品事業を含む被告の事業ないし商品等を示すものとして,相当程度周知であったといえる。 (2) 化学剤以外の指定商品等について 原告は,本件商標の「化学剤」以外の指定商品は全て,引用商標において被告が権利抹消した「有機工業薬品」に含まれ,狭義,広義の出所の混同は生じ得ず,引用商標は空権化した登録商標であり,商標法4条1項15号の無効理由は検討する余地がない,と主張する。 しかし,被告が引用商標の指定商品等のうち「有機工業薬品」について権利抹消したとしても, 「化学剤」を指定商品とする引用商標自体は有効に存続しているのであり,空権化した登録商標ではない。また,被告が「有機工業薬品」について一部放棄しているからといって,引用商標に類似する商標を第三者が「有機工業薬品」に使用することについて,広義の混同を生じないという法的論拠はない。 (3) 使用商標の独創性について「オルガノ」 「organo」は,それ自体を独立した言語として掲載した辞書はなく,一般用語として認識されていない独創性のある語である。第1判決は, 「オルガノ」は「サイエンス」に比べれば一般にその意味合いが十分浸透しているものとは考えられないと認定判断しており,本件商標の独創性については,本件訴訟では争点ではないというべきである。 (4) 多角経営について 原告は,原告の顧客は,原告と被告が異なる企業であることを認識して問い合わせをするから,原告と被告との間に狭義にせよ広義にせよ混同のおそれはない,と主張する。 しかし,上記主張は,原告の主観によるものであり,何ら根拠がない。 (5) 商品間又は役務と商品の関連性について 原告は,引用商標の指定商品「界面活性剤,化学剤」は大量生産され,水処理の過程で大量消費されると同時に排水として廃棄されるものであるのに対し,本件商標の指定商品は,取引者,需要者の製品の構成要素となるものであるとし,また,取引者,需要者の要求に応じて化学構造が異なる等,両者は,生産方法,使途や取引の態様が異なっているとの理由から,狭義,広義の混同が生ずるおそれはない,と主張する。 しかし,本件商標の指定商品である有機化合物の中には,大量生産し,大量消費してその場で廃棄される有機化合物も含まれるから,原告の主張するような生産方法,用途,取引態様に限定して対比を行うことは,失当である。 (6) 取引者及び需要者の共通性について 原告は,原告の取引者,需要者は,原告の生産能力,安全性などを事前に調査し,原告を特定して取引するから,原告と被告との間で狭義,広義の混同を生ずるおそれはない,と主張する。 しかし,上記主張は, 「広義の混同」が生ずるおそれという法的判断を離れて,原告の主観を述べるものにすぎない。被告の事業の取引者,需要者と,本件商標の指定商品の取引者,需要者とは,その多くが共通するから,原告と被告との間で広義の混同が生ずるおそれがある。 (7) 本件商標と使用商標との類似性について ア 第1判決が示すとおり,本件商標の要部「オルガノ」と引用商標とは,外観において類似し,称呼を共通にし,一般には十分浸透しているとはいえないものの,いずれも「有機の」という観念を有しているものと認められる。したがって,両者は,類似していると認められる。 イ 原告は, 「サイエンス」を含む商標が登録されているから, 「サイエンス」は出所識別標識として十分に機能する,と主張する。 しかし,原告による調査によっても, 「サイエンス」のみからなる商標はわずか3件であり,それ以外の登録商標は「サイエンス」の文字と他の文字などとの結合商標であるから,むしろ,「サイエンス」単独では出所識別力に乏しいといえる。「サイエンス」の文字は, 「科学」等の意味を有する外来語として日本人の間で広汎に定着し,工業分野,先端技術分野及び化学品分野の企業の商号中に極めて多く採用されており,自他商品,役務の識別力に乏しいというべきである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(無効理由1についての判断の誤り)について (1) 原告は,第1判決において判断された本件商標の商標法4条1項11号違反について,第1判決の認定判断が誤りであり,第1判決に沿ってなされた本件審決も誤っているから,取り消されるべきであると主張するので,この点について判断する。 (2) 第1審決及び第1判決の認定判断の要点は,以下のとおりであると認められる(甲163の審決,甲168)。 ア 第1審決 (ア) 「オルガノ」(使用商標)の著名性について 使用商標が,被告の薬品事業を表示するものとして,周知著名になっているものとまではいえない。 (イ) 商標法4条1項11号該当性 本件商標は,全体をもって,一体不可分の一種の造語として認識し把握されるとみるのが自然であり, 「オルガノサイエンス」の一連の称呼のみを生じ,既成の観念を有しない。 本件商標と引用商標を対比すると,称呼,外観及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標である。 (ウ) 商標法4条1項15号該当性 本件商標をその指定商品等について使用した場合,需要者が,被告又は被告と経済的,組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品等であるかのように,その出所混同を生じるおそれはない。 (エ) まとめ 本件商標の登録は,商標法4条1項11号及び同15号に違反してされたものではないから,同法46条1項1号により無効とすることはできない。 イ 第1判決(当該判決における「原告」は,本訴に合わせて「被告」と表記する。) (ア) 引用商標及び使用商標の周知著名性について 被告は,純水製造装置,超純水製造装置,排水処理装置,発電所向けの復水脱塩装置,官公需向けの上下水設備等の製造,納入,メンテナンスといった水処理装置事業と,水処理薬品,イオン交換樹脂,食品添加物等の製造,販売といった薬品事業を主に行っており,本件商標の登録出願時(平成20年)には資本金が約82億円に達し,該期の売上高は735億9200万円(そのうち,水処理装置事業が581億7200万円,薬品事業が154億2000万円)に及ぶ。特に,超純水製造装置は,水処理事業の主力商品であり,市場シェアの3割以上を占める。また,被告は,多数の子会社,孫会社を有しており,これら子会社,孫会社のほとんどがその商号中に「オルガノ」の文字を含んでいる。 被告発行にかかる総合カタログ及び個別商品カタログには,いずれの表紙にも,図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字との組合せからなる標章が表示されている。そして,かかる図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字とは,常に不可分一体のものとして認識し把握されるべき格段の理由は見出し難いから,それぞれが独立して出所識別標識としての機能を果たし得るものといえる。 昭和39年から現在に至るまで50年以上にわたり,新聞の題字広告(1面の新聞紙名の真下に表示される広告)として「オルガノ」の文字からなる使用商標が,定期的に掲載されており,近年では朝日新聞,読売新聞及び日本経済新聞の3紙に掲載されている。 図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字との組合せからなる標章を表示した被告の企業広告が,昭和51年頃から平成24年頃まで,日本経済新聞,朝日新聞等に不定期に掲載されているが,これらは,被告の薬品事業やその製造販売に係る薬品に限定された広告ではなく,被告の水処理関連技術,装置ないしシステムや,被告の事業全体を抽象的に広告したものと認められる。そして,被告の広告は,日本工業新聞広告大賞(日本工業新聞),日本産業広告賞(日刊工業新聞)を度々受賞している。 被告については,各種雑誌,新聞等の記事に取り上げられ,多くは「オルガノ」として紹介され,中には,図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字との組合せからなる標章を表示した広告が共に掲載されているものもある。これらは主に,被告の水処理関連事業ないし装置に言及したものであるが,超純水の製造には薬剤が使用される場合があるとされ,また,大手水処理メーカーとして被告と並び称される栗田工業が,超純水システムを販売した顧客とメンテナンスや薬品販売で長期関係を築くと紹介されるなど,水処理事業には薬品販売が伴うものであると認識されていたものと認められる。その他,2007年に社団法人日本産業機械工業会主催の「第33回優秀環境装置表彰」において,被告の電子部品洗浄用機能水製造装置が経済産業大臣賞を受賞し,そのことが新聞報道された。 以上より,引用商標及び使用商標は,本件商標登録出願時には,被告及び被告の事業ないし商品,役務を示すものとして相当程度周知となっており,被告の事業は水処理関連事業であるが,これには薬品事業が伴うものと認識されていたものと認められる。 (イ) 取消事由1(商標法4条1項11号該当性についての判断の誤り)について a 上記(ア)のとおり,引用商標「オルガノ」 本件商標登録出願当時, は,相当程度周知であったものと認められる。 b 本件商標「オルガノサイエンス」は,「オルガノ」と「サイエンス」の結合商標と認められるところ,その全体は,9字9音とやや冗長であること,後半の「サイエンス」が科学を意味する言葉として一般に広く知られていること,前半の「オルガノ」は, 「有機の」を意味する「organo」の読みを表記したものと解されるものの,本件商標登録出願時の広辞苑に掲載されていないなど, 「サイエンス」に比べれば一般にその意味合いが十分浸透しているものとは考えられないことが認められ,さらに,上述のような引用商標の周知性からすれば,本件商標のうち「オルガノ」部分は,その指定商品等の取引者,需要者に対し,商品等の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められ,他方,「サイエンス」は,一般に知られている「科学」を意味し,指定商品である化合物,薬剤類との関係で,出所識別標識としての称呼,観念が生じにくいと認められる(最高裁平成20年9月8日第2小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照。。したがって,本件商 )標については,前半の「オルガノ」部分がその要部と解すべきである。 c 本件商標の要部「オルガノ」と,引用商標とは,外観において類似し,称呼を共通にし,一般には十分浸透しているとはいえないものの,いずれも「有機の」という観念を有しているものと認められる。したがって,両者は,類似していると認められる。 d 本件商標の指定商品と,引用商標の指定商品とは,いずれも「化学剤」を含んでいる点で共通している。 (ウ) したがって,被告の主張する取消事由1は理由があるから,その余の点を判断するまでもなく,被告の請求には理由がある。 (3) 商標登録無効審判についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定した場合には,審判官は,商標法63条2項において準用する特許法181条2項の規定に従い,当該審判事件について更に審理を行い,審決をすることとなるが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理ないし審決には,同法33条1項の規定により,同取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって,再度の審判手続において,審判官は,当事者が取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと,あるいは,同主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべきでなく,審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができないのは当然である。すなわち,再度の審決取消訴訟においては,当該取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断に対し,関係当事者がこれを違法として主張立証を行うことは許されない(最高裁平成4年4月28日第3小法廷判決,民集46巻4号245頁参照)。 (4) 本件において,上記(2)イの第1判決の認定判断に照らせば,第1判決の拘束力は,第1審決を取り消す旨の結論(主文)が導き出されるのに必要な商標法4条1項11号該当性についての認定判断,すなわち,@引用商標は,本件商標登録出願時には被告及び被告の事業ないし商品・役務を示すものとして相当程度周知となっており,被告の事業は水処理関連事業であるが,これには薬品事業が伴うものと認識されており,A本件商標は, 「オルガノ」と「サイエンス」の結合商標と認められ, 「オルガノ」部分は上記引用商標の周知性等からすれば,その指定商品及び指定役務の取引者,需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与え, 「サイエンス」の部分は指定商品である化合物,薬剤類との関係で出所識別標識としての称呼,観念が生じにくいと認められることからして, オルガノ」 「部分を要部と解すべきであり,B本件商標と引用商標とは,類似していると認められ,C本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは,いずれも, 「化学剤」を含んでいる点で共通する,との認定判断について生ずるものというべきである。したがって,再度の審判手続において,審判官は,第1判決が上記のとおり認定判断した点につき,第1判決とは別異の認定判断をすることは,取消判決の拘束力により許されないのであるから,審決が取消判決の拘束力に従ってされた限りにおいては,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることはできない。 そして,本件審決は,上記第2,3のとおり,第1判決と同様の理由により,本件商標と引用商標とが類似し,本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは,いずれも, 「化学剤」を含んでいる点で共通するから,本件商標は,商標法4条1項11号に違反して登録されたとしたものであり,この認定判断は,上記第1判決の拘束力に従ったものであることが明らかである。そうすると,再度の審決取消訴訟である本件訴訟において,これを違法とすることはできず,原告が,審決の当該認定判断が誤りであると主張立証することは許されない。 本件訴訟において原告の主張する取消事由を検討すると,本件商標の商標法4条1項11号該当性を争う部分については,第1判決の拘束力が及ぶ事項につき,これを蒸し返すものにほかならず,そもそも審決の取消事由とはなり得ないものと認められるから,失当である。 よって,取消事由1には,理由がない。 2 取消事由2(無効理由2についての判断の誤り)について (1) 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」とは,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人の商品等に係るものであると誤信されるおそれ(狭義の混同を生ずるおそれ)がある商標のみならず,当該商品等が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(広義の混同を生ずるおそれ)がある商標を含むものと解するのが相当である。そして,「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性や独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者,需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者,需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである。最高裁平成12年7月11日第3小法廷判決 民集54巻6号1848頁参照) ( ・ これを本件について見ると,以下のとおりである。 (2) 本件商標と使用商標との類似性の程度 ア 本件商標「オルガノサイエンス」は, 「オルガノ」と「サイエンス」の結合商標と認められるところ,その全体は,9字9音とやや冗長であること,後半の「サイエンス」が科学を意味する言葉として一般に広く知られていること,前半の「オルガノ」は, 「有機の」を意味する「organo」の読みを表記したものと解されるものの,少なくとも本件商標登録出願時に広く普及していた日本語の辞書である広辞苑に掲載されていない(甲133)など, 「サイエンス」に比べれば一般にその意味合いが十分浸透しているものではないと認められ,さらに,後記(3)アのような使用商標の周知著名性及び独創性からすれば,本件商標のうち「オルガノ」部分は,その指定商品等の取引者,需要者に対し,商品等の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。他方, 「サイエンス」は,一般に知られている「科学」を意味し,指定商品である化合物,薬剤類との関係で,出所識別標識としての称呼,観念が生じにくいと認められる(最高裁平成20年9月8日第2小法廷判決,裁判集民事228号561頁参照。。 ) したがって,本件商標については,前半の「オルガノ」部分がその要部と解すべきである。 イ 本件商標の要部「オルガノ」と,使用商標とは,外観において類似し,称呼を共通にし,一般には十分浸透しているとはいえないものの,いずれも「有機の」という観念を有しているものと認められる。したがって,両者は,類似していると認められる。 ウ これに対して,原告は,@本件商標は「organo」が接頭語であるという性質を利用して「サイエンス」につなげたものであって,冗長ではなく,有機の科学という意味の造語であって,一体不可分の結合商標であり,A「organo」(オルガノ)は一般的な英和辞典に載っており,「オルガノ」が付いた会社名や商品名も多くあり,本件商標から「オルガノ」だけを分離して認識されるものではなく,B「サイエンス」も自他商品識別力があり,科学,知識,学問等の意味を有するから,本件商標の指定商品である,化合物,薬品との関係で出所識別標識としての称呼,観念が生じにくいとされるものではないから,本件商標の全体と使用商標とを対比すべきである,と主張する。 しかし,@「organo」が,英語としては「有機の(organic)」等の意味の連結形(連結詞)である(甲204)としても,本件商標登録出願時及び登録審決時に,我が国において,通常,単音で表示される接頭語であると認識されていたとは認められない。上記アのとおり, 「オルガノサイエンス」は,9字9音とやや冗長であるし, 「オルガノ」が「有機の」という意味合いであるということは本件商標登録出願時及び登録審決時において広く知られてはいないから, オルガノサイ 「エンス」が「有機の科学」という意味の造語であると,本件商標の指定商品の取引者,需要者に認識されるともいえない。よって,本件商標は, 「オルガノ」と「サイエンス」とを一体不可分とした結合商標であるとはいえない。 また,A「organo」は,一般的な英和辞典に掲載されている英単語である(甲204)が,上記アのとおり,本件商標登録出願時の広辞苑には掲載されていないから,その意味合いが一般に浸透しているとはいい難い。 「オルガノ」を含む商品名や会社名が,現時点では一定程度存在することは認められる(甲205,214)が,これらが本件商標登録出願時又は登録審決時に存在していたか否かは不明であるから, 「オルガノ」の語が一般に用いられてその意味合いが浸透していたことの根拠とはならない。 さらに,B「サイエンス」の語の自他識別力は,指定商品等との関係で考慮されるべきであるから, 「サイエンス」の登録商標が存在することをもって,本件商標の指定商品等との関係で,自他識別力が強いということはできない。上記アのとおり,「サイエンス」は「科学」を意味することが一般に知られており,本件商標の指定商品等である化合物,薬剤類との関係では,それらが「化学」の分野に位置付けられることを考慮しても,自他識別力が弱いものというべきである。 よって,本件商標全体と使用商標とを対比すべきであるという原告の主張には,理由がない。 (3) 使用商標の周知著名性及び独創性の程度 ア 被告は,昭和21年に株式会社日本オルガノ商会として設立され,同41年に現商号である「オルガノ株式会社」に商号変更し,純水製造装置,超純水製造装置,排水処理装置,発電所向けの復水脱塩装置,官公需向けの上下水道設備等の製造,納入,メンテナンスといった水処理装置事業と,水処理薬品,イオン交換樹脂,食品添加剤等の製造,販売といった薬品事業を主に行っており(甲7,8),本件商標の登録出願時(平成20年)には資本金が約82億円に達し,該期の売上高は735億9200万円(そのうち,水処理装置事業が581億7200万円,薬品事業が154億2000万円)に及ぶ(甲10)。特に,超純水製造装置は,水処理事業の主力商品であり,市場シェアの3割以上を占める(甲15)。また,被告は,国内外に多数の販売会社や関連会社を有しており,国内におけるこれらの会社のほとんどが,その商号中に「オルガノ」の文字を含んでいる(甲7)。 被告発行にかかる総合カタログ及び個別商品カタログには,いずれの表紙にも,図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字との組合せからなる標章(図形付き被告商標と同一又は類似の標章)が表示されている(甲30〜79)。そして,図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字とは,常に不可分一体のものとして認識し把握されるべき格段の理由は見出し難いから,文字の部分が独立して出所識別標識としての機能を果たし得るものといえる。 「オルガノ」の文字からなる使用商標は,昭和39年から現在に至るまで50年以上にわたり,新聞の題字広告(1面の新聞紙名の真下に表示される広告)として,「総合水処理・イオン交換装置」「純水装置・排水処理装置」「水の高度処理全シ , ,ステム」「すべての水は資源」「水のプラントメーカー」「水のトータルエンジニ , , ,アリング」「工場の節水支援 , 排水処理・水リサイクル技術」「心と技で水の価値 ,を創造する」等の語句と共に定期的に掲載されており,近年では朝日新聞,読売新聞及び日本経済新聞の3紙に掲載されている(甲80〜83)。 図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字との組合せからなる標章(図形付き被告商標と同一又は類似の標章)を表示した被告の企業広告は,昭和51年頃から平成24年頃まで,日本経済新聞,朝日新聞等に不定期に掲載されているが,これらは,被告の薬品事業やその製造販売に係る薬品に限定された広告ではなく,被告の水処理関連技術,装置ないしシステムや,被告の事業全体を抽象的に広告したものと認められる(甲89〜91)。そして,被告の広告は,日本工業新聞産業広告大賞(日本工業新聞社),日本産業広告賞(日刊工業新聞社)を度々受賞している(甲86,87)。 被告の企業活動については,各種雑誌,新聞等の記事に取り上げられ,その企業名の多くは「オルガノ」と紹介され,中には,図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字との組合せからなる標章を表示した広告が共に掲載されているものもある(甲99〜127)。これらは主に,被告の水処理関連事業ないし装置に言及したものであるが,超純水の製造には薬剤が使用される場合があるとされ (甲106),また,大手水処理メーカーとして被告と並び称される栗田工業株式会社が,超純水システムを販売した顧客とメンテナンスや薬品販売で長期関係を築くと紹介される(甲114)など,水処理事業には薬品販売が伴うものであると認識されていたと認められる。その他,2007年に社団法人日本産業機械工業会主催の「第33回優秀環境装置表彰」において,被告の電子部品洗浄用機能水製造装置が経済産業大臣賞を受賞し,そのことが新聞報道された(甲130〜132)。 以上より,使用商標は,本件商標登録出願時には,被告及び被告の事業ないし商品等を示すものとして周知著名となっており,被告の主たる事業は水処理関連事業であるが,これには薬品事業が伴うと認識されていたものと認められる。 イ 「オルガノ」は, 「有機の」を意味する「organo」の読みを表記したものと解されるものの,本件商標登録出願時の広辞苑に掲載されていない(甲133)など,一般にその意味合いが十分浸透しているものとは認められない。よって,使用商標は,普及している語を用いたものではなく,一定程度の独創性を有するといえる。 ウ 以上に対して,原告は,@被告の国内関連会社6社のうち,2社の社名には「オルガノ」が付されていない,A図形付き被告商標の要部は水玉の図形だから,同商標が総合カタログ等に掲載されているからといって, 「オルガノ」の文字が周知となったとはいえない,B新聞の題字広告などの広告活動,報道機関からの取材受入れは通常の事業活動であり,被告提出の周知資料は50年余にわたるものであってその厚みから使用商標が周知著名となったとはいえず,新聞の題字広告は具体的な商品名を記載したものではないから,引用商標の指定商品の分野において使用商標が周知著名となったとはいえず,C被告の「オルガノ」「オルガノ株式会社」及び図形付き被告商標は,特許情報プラットフォーム庁電子図書館の日本国周知・著名商標に掲載されているものではなく,D水処理事業に必要な薬品は市販されているから,水処理事業に薬品販売が伴うとはいえず,被告の主力商品である超純水製造装置に用いる薬剤は被告に関する新聞記事に特定されておらず,被告はイオン交換樹脂を製造していないから,被告の薬品事業は周知著名とはいえない,と主張する。 しかし,原告の上記各主張は,以下のとおり,いずれも理由がなく,前記アの証拠に基づく認定事実を左右するに足りるものではない。 すなわち,@被告の関連会社のうち,販売会社6社及びその他の関連会社8社のうち5社の計11社がその社名に「オルガノ」を含んでいると認められる(甲7)から,被告の関連会社に関する原告の主張は,その前提事実に誤りがある。A図形付き被告商標は,図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字がほぼ同大に書されてなるものであり, 「ORGANO」及び「オルガノ」が可読であって「オルガノ」の称呼及び一般に浸透しているとはいえないものの「有機の」との観念を生ずるのに対し,図形部分は特段の観念や称呼を生じないことからすれば,上記アのとおり, 「ORGANO」又は「オルガノ」の文字は,図形とは独立して出所識別標識としての機能を果たし得るものといえる。B原告主張のとおり,広告活動等が企業における通常の事業活動であるとしても,同活動等の成果を使用商標の周知著名性を判断する資料とすべきではない理由はなく,長年にわたる広告活動は,長期間にわたって使用商標が取引者,需要者の目に触れることによって周知著名性を獲得したと評価すべき重要な事情の1つであるし,被告が行った新聞の題字広告は,朝日新聞だけでも82回に上っている(甲80)から,期間に比して頻度が少ないともいえない。C特許情報プラットフォームの日本国周知・著名商標に「オルガノ」が含まれていないこと,及び, 「オルガノ」が防護標章登録されていないことは,それのみでは,使用商標の周知著名性を認定する妨げとはならない。D原告主張のとおり,水処理事業に伴う薬品が市販されているとしても,上記アで認定したとおり,被告の平成20年の薬品事業の売上高は約154億円にも上るのであるから,被告から薬品を購入する取引者,需要者が相当程度存在するといえる。また,超純水の製造等に関する新聞記事に,超純水装置に用いる薬剤が特定されていないとしても,当該製造に薬剤を用いる旨は記載されているから,当該新聞記事は,水処理事業には薬品販売が伴うものと認識されていたと認定する根拠となり得る。さらに,被告がイオン交換樹脂を製造していないとしても,その販売のために使用商標を用いるのであれば,使用商標は被告の出所を表示する機能を有するから,上記事情は,使用商標の周知著名性を認定する妨げとはならない。 (4) 本件商標の指定商品等と被告の業務に係る商品等との間の関連性の程度,取引者及び需要者の共通性その他取引の事情 ア 商品等の性質,用途,目的の関連性 (ア) 本件商標の指定商品等のうち「化学剤」以外のものは,上記第2,1のとおり,本件商標登録出願時及び登録審決時においては,第1類「芳香族有機化合物,脂肪族有機化合物,有機ハロゲン化物,アルコール類,フェノール類,エーテル類,アルデヒド類及びケトン類,有機酸及びその塩類,エステル類,窒素化合物,異節環状化合物,有機リン化合物,有機金属化合物,原料プラスチック,有機半導体化合物,導電性有機化合物」及び第40類「有機化合物・化学品・原料プラスチックの合成及び加工処理」であり,現時点においては, 「第1類 芳香族有機化合物,脂肪族有機化合物,有機ハロゲン化物,アルコール類,フェノール類,エーテル類,アルデヒド類及びケトン類,有機酸及びその塩類,エステル類,窒素化合物,異節環状化合物,有機リン化合物,有機金属化合物,有機半導体化合物,導電性有機化合物」及び「第40類 有機化合物の合成及び加工処理」である。 (イ) 被告の業務は,上記(3)アのとおり,水処理装置事業と,水処理薬品,イオン交換樹脂,食品添加剤等の製造,販売といった薬品事業であり,このうち薬品事業に係る被告の商品等は,ボイラ処理薬品(複合処理剤,清缶剤,脱酵素剤,復水系防食剤,分散剤),冷却水処理薬品(複合処理剤,防食・スケール防止,分散剤,スライムコントロール剤,冷温水系防食剤,簡易処理剤),飲料水処理薬品(赤水防止,洗浄用,殺菌・消毒剤),排水処理薬品(高分子凝集剤,消泡剤,消臭剤,栄養剤,活性汚泥沈降促進剤,重金属凝集剤,界面活性剤除去剤),洗浄薬品(冷却水系,ボイラ,空調機器,井戸,食品工業,ガスタービン・エンジン),その他の燃料添加剤,特殊中和剤,消毒漂白剤,工業薬品,活性炭,油吸着材,実験用イオン交換樹脂と,多岐にわたる(甲30〜79)。このうち,少なくとも,排水処理薬品の高分子凝集剤であるオルフロックCLシリーズ(甲30) 排水処理薬品の消泡剤 ,であるオルデフォームFC-100,110,120(甲36),排水処理薬品の界面活性剤除去剤であるオルガフィックスDN-1(甲37) ボイラ処理薬品の復水 ,系防食剤であるオルガタイトLC(甲47) ボイラ処理薬品の複合処理剤であるク ,リーンライト510,550(甲49),ボイラ処理薬品の復水系防食剤であるスーパーオルクリーン216(甲51) ボイラ処理薬品の複合処理剤であるスーパーオ ,ルクリーン500シリーズ(甲53),冷却水処理薬品のスライムコントロール剤であるオルガードT-800シリーズ(甲62),冷却水処理薬品の複合処理剤であるオルガビートFK-40シリーズ(甲66),オルガビートSP-101,EX-101,EX-121(甲67)及び冷却水処理薬品の防食・スケール防止剤であるオルガビートID-60シリーズ+オルガードT-806(甲68)は,有機化合物を成分として含むものである。 (ウ) そうすると,被告の取り扱う薬品は,有機化合物を成分として含むものが相当程度存在するから,本件商標の指定商品等のうち,第1類の様々な有機化合物と同一又は類似であり,被告の営業である被告の取扱い薬品の製造は,本件商標の指定商品等のうち,第40類の「有機化合物の合成及び加工処理」に該当し,更には,被告に係る商品等と,本件商標の指定商品等は,いずれも化学に関する技術を活かした商品等である点で一致しているから,両者は密接不可分に関連しているといえる。 (エ)a これに対して,原告は,本件商標について一部抹消登録後の指定商品は,全て,引用商標について一部抹消登録した有機工業薬品に含まれるから,本件商標と使用商標との間で狭義・広義の出所混同は生じない,と主張する。 しかし,商標法4条1項15号の適用において,本件商標と対比すべきは, 「他人の業務に係る商品又は役務」における表示であり,当該表示について,商標登録は要件とされていない。したがって,被告の業務に係る商品又は役務に使用商標が用いられている以上,引用商標の指定商品の一部抹消登録は,同号の適用について,何ら関連がないというべきである。原告の主張は,失当である。 b また,原告は,被告の商品は,大量生産,大量消費されると同時に排水として廃棄されるものであるのに対し,原告の商品は,取引者,需要者の要求に適合させたものであり,取引者,需要者の製品の構成要素となるものであるから,生産方法,使途,顧客との取引態様が異なり,狭義,広義の出所混同が生ずるおそれはない,と主張する。 しかし,原告の商品が原告主張のような生産方法,使途,取引態様であり,被告の商品と異なることを認めるに足る証拠はないから,原告の主張は,その前提を欠き,理由がない。 イ 商品等の取引者及び需要者の共通性 (ア) 上記(3)アのとおり,被告は,純水製造装置,超純水製造装置,排水処理装置,発電所向けの復水脱塩装置,官公需向けの上下水道設備等の製造,納入,メンテナンスといった水処理装置事業と,水処理薬品,イオン交換樹脂,食品添加剤等の製造,販売といった薬品事業を主に行っているから,被告の商品等の取引者,需要者は,被告の水処理装置等を購入して利用し,又は,水処理薬品等の化学剤等を使用する各種製造業,サービス業,発電所,国の機関・自治体等である。これに対し,本件商標の指定商品等の取引者,需要者は,指定商品である化合物を製品原料などとして必要とする各種製造業者が想定される。そして,化合物を原料などとして必要とする製造業者には,水処理設備,水処理装置又は水処理用化学剤を必要とする者が相当程度含まれるものと解される。 したがって,被告の商品等の取引者,需要者と,本件商標の指定商品等の取引者,需要者とは,共通するところが多いものといえる。 (イ) これに対して,原告は,原告の商品等の取引者,需要者は,原告の生産能力,安全性等を事前に調査して,原告を特定して取引するから,原告の本件商標の使用により,被告との間で狭義,広義の混同を生ずるおそれはない,と主張する。 しかし,原告の取引者,需要者だけに着目しても,これらの者が,常に原告の主張の方法で取引を行っていることを認めるに足る証拠はない。原告の主張は,その前提を欠き,理由がない。 ウ 被告の多角経営 被告の業務は,上記(3)アのとおり,水処理装置事業と,水処理薬品,イオン交換樹脂,食品添加剤等の製造販売といった薬品事業であり,多数の関連会社が,水処理エンジニアリングの国内製造,加工及び販売並びに海外製造及び販売,機能商品の国内販売を行っており,多角的に経営を行っていることが認められる(甲7〜13)。 (5) 小括 以上のように,本件商標と使用商標とは,類似している上,使用商標は,一定程度の独創性を有し周知著名であり,また,本件商標の指定商品等と被告の業務に係る商品等とは密接不可分に関連し,本件商標の指定商品等の取引者,需要者と被告の業務に係る商品等の取引者,需要者とは共通し,被告は多角経営を行っているから,本件商標の指定商品等の取引者,需要者において普通に払われる注意力を基準とすれば,本件商標をその指定商品等に使用したときには,被告の商品等に係るものであると誤信され,また,広義の混同を生ずるおそれがあるといえる。 したがって,取消事由2には,理由がない。 |
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結論
よって,原告の請求には理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 清水節 |
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裁判官 | 片岡早苗 |
裁判官 | 古庄研 |