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関連審決 異議2017-900135
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成30行ケ10014 審決取消請求事件 判例 商標
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事件 平成 30年 (行ケ) 10026号 商標登録取消決定取消請求事件

原告 株式会社ヴァンヂ ャケッ ト
同訴訟代理人弁理 士藤沢則昭 藤沢昭太郎
被告特許庁長官
同 指定代理人早川文宏 平澤芳行 板谷玲子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2018/08/29
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が異議2017-900135号事件について平成30年1月11日にした決定を取り消す。
事案の概要
本件は,原告が有する以下の商標(以下「本件商標」という。 の商標登録につき, )アメリカ合衆国の法人である異議申立人バンズ インコーポレイテッド(以下「異議申立人」という。が, ) 商標法43条の2に基づき登録異議の申立てをしたところ,特許庁が同登録を取り消す旨の決定をしたことから,原告がその取消しを求めた事 案であり,争点は,商標法4条1項11号該当性の有無である。
1 本件商標 原告は,以下の本件商標の商標権者である(甲1,乙1)。
登録番号 第5916735号 出願日 平成28年7月25日 査定日 平成28年12月12日 登録日 平成29年1月27日 商標 VANSNEAKER(標準文字) 商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務 第25類 履物 2 特許庁における手続の経緯 異議申立人は,平成29年4月27日,本件商標登録につき登録異議(異議2017-900135号事件)を申し立て,特許庁は,平成30年1月11日,本件商標登録を取り消すとの決定をし,同決定謄本は,同月22日に原告に送達された(乙1,83,84,弁論の全趣旨)。
3 決定の理由の要点 (1) 引用商標 登録番号 第5245474号 出願日 平成20年11月26日 登録日 平成21年7月3日 商標 VANS(標準文字) 商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務 第25類 被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物, 仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴 (2) 本件商標と引用商標との類否について ア 本件商標について 本件商標は, 「VANSNEAKER」の文字からなるところ,当該文字は,辞書等に掲載がなく,特定の意味を認識させることのない一種の造語である。
本件商標の構成中,語頭の「VANS」の文字部分は,異議申立人の業務に係る商品「スニーカー」について使用する商標として,我が国の取引者及び需要者の間で広く認識されているから,本件商標が付された商品「履物」に接する者は,本件商標の構成中に含まれる「VANS」の文字部分に着目し,異議申立人の業務に係る商品あるいはその系列に属する者に関係する商品との強く支配的な印象を受けるものということができる。
これに対し,本件商標の構成中, 「S」の文字部分が重なり合う後半の「SNEAKER」の文字部分は,その指定商品「履物」に含まれる商品「スニーカー」を表すものであるから,商品の出所識別標識としての機能は果たし得ないものである。
したがって,本件商標は, 「ヴァンスニーカー」の称呼を生じるほか, 「VANS」の文字部分から,「ヴァンズ」の称呼をも生じ,「異議申立人の業務に係るVANSブランド」の観念を生じるものである。
イ 引用商標について 引用商標は,「VANS」の文字からなり,これからは,「ヴァンズ」の称呼を生じるものである。そして,引用商標は,異議申立人の業務に係る商品「スニーカー」について使用され,我が国の取引者及び需要者の間で広く認識されている商標であるから, 「異議申立人の業務に係るVANSブランド」としての観念を生じるといえる。
ウ 本件商標の構成中,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える「VANS」の文字部分は, 「VANS」の文字からなる引用商標と文字のつづりを同一にするものであり,両商標からは,同一の「ヴァンズ」の称呼及び「異議申立人の業務に係るVANSブランド」の観念が生じるものである。
そうすると,本件商標は,引用商標と,外観,称呼及び観念において互いに紛らわしい類似の商標というのが相当である。
(3) 本件商標の指定商品と引用商標の指定商品について 本件商標の指定商品は,引用商標の指定商品に含まれる。
(4) まとめ 本件商標は,その商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標(引用商標)と類似する商標であって,引用商標の指定商品と同一又は類似する商品に使用をするものであるから,商標法4条1項11号に該当する。
原告主張の取消事由(商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)
1 本件商標から「VANS」の部分を抽出して分離観察すべきでないこと (1) 本件商標は,同形同大及び同色の欧文字で「VANSNEAKER」と一連不可分に表示されており,これに接した者が,明確な示唆等もないのに,前半部「VANS」の最後の文字 「S」を,後半部を認識するためにもう一度使用して,その語全体を認識することはあり得ず,本件商標は,常に一体として, 「ヴァンスニーカー」又は「バンスニーカー」と称呼,認識されるか, 「ヴァンズニ―カー」又は「バンズニ―カー」と称呼,認識されるもので,決定のように「VANS」の部分を抽出して分離観察すべきではない。
(2) 本件商標の指定商品「履物」において, 「SNEAKER」は現在ほとんどの若者から中年層まで多くの人が履いている靴であり,本件商標に接した者は,本件商標中の後半にある「SNEAKER」から直ちに「スニーカー」を想起し,前半の「VAN」を認識して, 「ヴァンスニーカー」又は「バンスニーカー」と一体として称呼,認識する。
本件商標に接する者が,本件商標の語頭の「VANS」の文字部分に着目した場合,続く残りの語は, 「NEAKER」であるが,この語は,何の意味も有しないから,本件商標を「ヴァンズ・ニーカー」又は「バンズ・ニーカー」と称呼,認識した場合,意味が通らなくなる。そのため,本件商標に接した者は,本件商標の語頭の「VANS」の文字部分に着目して認識することはなく,本件商標を「ヴァンスニーカー」又は「バンスニーカー」と一連不可分に称呼,認識する。
(3) 「NEAKER」が指定商品「履物」との関係では何の意味もなく,商品の出所識別標識としての機能を有するものであって,省略されるべき語ではないことからすると,本件商標に接した取引者及び需要者が,本件商標を一体のものとして, 「ヴァンズニ―カー」又は「バンズニ―カー」として称呼・認識する可能性もある。
2 被告の主張に対して (1) 被告は,商品等のネーミング手法の一つとして,二つの語を各語の構成文字の一部を省略し結合する方法を紹介している。
しかし,被告が挙げる具体例で使用されている各語は,広く一般的に使用され,日本人ならば,その語の観念を瞬時に想起できる語であり,そのために二つの語を各語の構成文字の一部を省略して結合しても,結合した語に接した者は,前の語を認識する場合には,後の語の最初の1字を補って認識し,後の語を認識する場合には,前の語の最後の1字を補って認識することで,前後の二つの語を両方認識することができるものである。
一方, 「VANS」の語は,商標であって固有の意味を有しない造語であり,広く一般的に使用され,日本人ならば,その語の観念を瞬時に想起できる語ではない。
そのため,上記具体例と同列に論じることはできず,被告の主張は失当である。
(2) 本件商標から, 「VANS」の文字部分を要部として抽出して類否判断をすることが許される旨の被告の主張を前提とすると,広く認識されている商標と,当該商標の語が含まれる商標とは,全て類似関係にあることになってしまうが,これは著しく妥当性を欠く。
この点について, 「靴及び運動用特殊靴」を指定商品に含む商標出願「vansydical」(商願2016-36440)は,引用商標の存在に基づき,商標法4条1項11号違反による拒絶理由通知を受けることなく,平成28年8月26日に登録査定を受け,同年10月21日に設定登録がされているが,これは被告の上記主張と明らかに矛盾する(甲271,272)。
3 以上のとおり,本件商標と引用商標は類似せず,本件商標は商標法4条1項11号には該当しないから,決定は取り消されるべきものである。
被告の主張
1 引用商標の周知性について異議申立人は,商標「VANS」を,1966年(昭和41年)の設立初期から商品「スニーカー」に使用し,継続して販売してきた。
また,我が国においては,商標「VANS」に係る商品について,靴小売企業である株式会社エービーシー・マート(以下「ABC社」という。)が平成3年に国内総代理店となり,平成6年には国内商標使用契約を締結してこれを販売してきた。
そして,@引用商標が,ABC社の主力ブランドであること,AABC社は平成27年までに全国に約800店の店舗を有し,インターネットを通じた商品販売も行われていること,BABC社の平成27年2月期における売上高が約2000億円にも達し,靴小売企業で第1位であって自社ブランドの売上比率が高いこと,C各種ランキング調査において,引用商標に係る商品が上位にランクされていること,D引用商標に係る商品「スニーカー」の価格が5000円から1万円程度であること(乙70等)からすると,引用商標に係る商品「スニーカー」は,全国で相当数が販売されたということができる。
さらに,引用商標に係る商品は,雑誌,ウェブサイト及び新聞に多数掲載され,テレビCM等により全国的に広告,宣伝されている。
以上を総合してみると,引用商標は,商品「スニーカー」を含む「履物」の分野で,その取引者及び需要者の間で広く認識されるものとなっていたというべきである。
2 本件商標と引用商標との類否について (1) 本件商標について ア 本件商標は, 「VANSNEAKER」の欧文字を標準文字で表してなる ところ,各欧文字は,同じ書体,大きさ及び間隔で表記されているから,その外観においては,いずれかの文字で区切って把握するものか一見しては理解できない程に一体的に表されているといえる一方,全体の構成文字数は10文字とやや冗長である。
また,本件商標の構成全体からは,当該欧文字を英語風に発音した「ヴァンスニーカー」又は「ヴァンズニーカー」の称呼を生じ得るものといえる。
さらに,本件商標から生じ得る観念についてみるに,その構成全体が一つの成語として特定の意味を有する一般的な語ということはできない。
他方,上記のとおり,「VANS」は,「履物」の分野で,その取引者及び需要者の間で広く認識される商標であるところ,本件商標の構成中,目に留まりやすい語頭に表された「VANS」の文字部分は,上記商標「VANS」とその構成文字を同じくするものであるから,本件商標に接する者は,その指定商品との関係において,まず,本件商標の語頭の「VANS」の文字部分に着目し,広く認識される商標「VANS」を表すものと理解するといえる。
また,本件商標に接する者が,その指定商品との関係において,本件商標の構成中,4文字目から表示された「SNEAKER」を認識した場合は,指定商品に含まれる商品の普通名称である「スニーカー」を表すものと理解するともいえる(乙74,75)。
イ 商品等のネーミング手法について 商品等のネーミングの基本的な手法として,二つの語を各語の構成文字の一部を省略し結合するといった方法が紹介されており,このときに元の語の意味やイメージを保ちながら省略 結合することも肝要とされている ・ (乙76の1)このことは, 。
実際にそのようなネーミングが行われていることからも分かる(乙77〜81)。
ウ 需要者のブランドに対する関心について 近年,カジュアルスニーカーの売行きが好調でブームとなっており(乙11,82),我が国のインターネット上のウェブサイトには,商品「スニーカー」のラン キングがブランド別に多数掲載されている実情があるほか(乙67〜73),ファッション雑誌でもスニーカーに関しブランドに着目した記事の掲載がされている実情等もみられることから(甲65,108,174,185,198,213,215等),商品「スニーカー」に関連する需要者は,特にそのブランドに注目して商品を選択,購入する傾向にあるといえる。
エ 小括 以上を総合考慮すると,本件商標の構成中,異議申立人の業務に関するものとして広く認識される商標「VANS」の文字部分が,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるといえるから,本件商標のうち, 「VANS」の文字部分を要部として抽出し,当該文字部分のみを引用商標と比較して商標の類否判断をすることも許されるというべきである。
(2) 引用商標の観念について 引用商標は,成語として特定の意味を有する一般的な語ではないが,上記のとおり,異議申立人の業務に係る商品について使用され, 「履物」の取引者及び需要者の間で広く認識される商標であるから,「異議申立人の業務に係るVANSブランド」の観念を生じるといえる。
(3) 本件商標と引用商標の類否について 本件商標のうち,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える「VANS」の文字部分と引用商標とは,外観,称呼及び観念がいずれも同一である。
そうすると,本件商標と引用商標は,本件商標がその指定商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生じるおそれのある類似の商標というべきである。
当裁判所の判断
1 引用商標の周知性について (1) 前提となる事実 証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事実を認めることができる。
ア 異議申立人は,1966年(昭和41年)にAがBらとともにアメリカ 合衆国カルフォルニア州アナハイムでオープンしたスニーカー等の靴を製造・販売するショップに端を発している。異議申立人のスニーカーはスケートボードに適したものとして米国において人気を集め,異議申立人は次第に業務を拡大したものの,業務拡大に伴って負債が膨らみ,1984年(昭和59年)に経営破たんした。その後,経営再建を果たした異議申立人は,その業務を世界的に展開していき,各種の音楽やスポーツのイベントのスポンサーとなるなどして,そのブランドである「VANS」の知名度を上げていった。スニーカーを中心とした「VANS」ブランドの商品の売上げは,2004年(平成16年)の時点で305億円,2016年(平成28年)の時点で1200億円となり,同年には,海外において複数のメディアが,異議申立人の企画した「VANS」ブランド50周年記念キャンペーンについて取り上げ,日本国内でも,雑誌において「VANS」ブランドが50周年であることが取り上げられ,それに関連したイベントが開催されるなどした。
(甲3の1・2,甲4の1〜3,甲5〜29,228,233,乙3の1,乙4,5) イ 日本では,靴の大手小売りチェーンであるABC社が,平成3年に国内総代理店となり,平成6年には「VANS」の国内商標の使用契約を締結し,現在までにスニーカーを中心とした「VANS」ブランドの靴や他のアパレル製品をインターネット上のウェブサイトやABC社の店舗において販売している。また,ABC社以外の他の小売業者も「VANS」ブランドの靴(主にスニーカー)を販売している。
「VANS」ブランドの靴の価格は,1足5000円から1万円程度である。(甲4の1・2,乙4,6,乙7の1,乙9,10,23〜28,31〜39,41,43〜49,51,52,54〜56,61〜63,66,69,70,72) ウ ABC社は,平成27年2月期末で日本国内において合計784店舗を有しており,店舗数は靴小売りの業界内で3位である。また,ABC社の国内での売上高は,平成27年2月期には約1600億円であった。(乙7の1・2,乙8,10,乙11の1) ABC社は,「VANS」ブランドの靴の自社開発も手掛けており,「VANS」ブランドを含む自社開発の商品の比率は,平成27年2月時点で46.5パーセントであり, 「VANS」ブランドの靴の売上げは,ABC社が取り扱うブランドの中でも上位に入っている(乙10,乙11の1,乙43)。
エ 平成24年から平成28年までの間に,日本国内において,ファッション雑誌等に合計で200回以上, 「VANS」ブランドの靴に関する記事や広告等が掲載された。雑誌の中には数十万部の発行部数のものも含まれていて,それらの雑誌の総発行部数は2600万部以上となる。上記雑誌に掲載された記事等の大部分は,スニーカーとともに引用商標や「VANS」の欧文字をデザイン化した別紙記載の商標(以下「使用商標」という。)を表示したものであり,上記記事等の中に,引用商標は約180回,使用商標は約50回表示されており,全面記事(掲載頁全体が, 「VANS」の商品を主体とする記事であるもの)の数も約140に上っている。(甲30〜236,乙12〜21) また,ABC社は,平成23年から平成28年までの間に,俳優等を起用して「VANS」ブランドのスニーカー,ブーツ及びダンスシューズに関するTVCMを複数放映しており,CM中に使用商標が表示されているものもある(乙22〜28)。
加えて,平成17年から平成30年にかけて,複数の全国紙を含む新聞や各社のウェブサイトにおいて, 「VANS」が,スニーカーの人気ブランド,有名ブランドである旨の紹介がされた(乙29,32,33,36,42,50,55,67,68,70〜73)。
(2) 判断 前記前提事実からすると,本件商標登録の出願及び査定の時期までの間に,日本国内において,靴の大手小売りチェーンであるABC社が中心となって,VANS」 「ブランドのスニーカーを始めとした靴が,一般消費者に対し,これまで相当多数量販売されてきたものと推認することができる。また,本件商標登録の出願及び査定に近接した時期において,引用商標及び引用商標と同じ欧文字の「VANS」をデ ザイン化した使用商標が,スニーカーなどとともにファッション雑誌等で多数回取り上げられるなど, 「VANS」ブランドについて,大規模な広告宣伝活動が展開されており, 「VANS」ブランドは,スニーカーの人気ブランド,有名ブランドといわれるようになっていたものと認められる。
以上の事実からすると, 「VANS」の欧文字からなる引用商標は,本件商標登録の出願及び査定の時点において,日本国内において,スニーカーを中心とした履物の分野で,一般消費者の間で周知となっていたものと認められる。
2 本件商標と引用商標の類否について (1) 本件商標の分離観察の可否について ア 本件商標のように,標準文字で一連に記載されたものであっても,それがいくつかの文字等を組み合わせた結合商標と解されるもので,かつその一部が需要者に対して,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものである場合やそれ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,当該一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否判断をすることも許される(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
イ これを本件についてみるに, 本件商標である「VANSNEAKER」は,全体としてみた場合,それ自体としては何の意味もない造語である。そして,前記1で検討したように, 「VANS」の欧文字からなる引用商標が,スニーカーを中心とした履物の分野で周知であり,出所識別標章として,一般消費者の間で強い識別力を持つものであることからすると,本件商標の語頭にある「VANS」も本件商標の指定商品である「履物」との関係では強い識別力を持つものといえる。
他方,本件商標から語頭の「VANS」を除いた残りの部分である「NEAKE R」はそれ自体としては何の意味もない語であるところ,そこに直前に置かれた「S」(換言すると,「VANS」に用いられている「S」)を足した「SNEAKER」は,指定商品である履物の一種であるスニーカーを表示する語として,我が国においても広く知られていること,一般消費者向けの商品等に関して,二つの語を結合するときに,一方の語の末尾と他方の語の語頭とで共通する文字を敢えて省略して商品名等をネーミングする手法が見られること(乙76の1,乙77〜81)からすると,「NEAKER」は,直前に「S」を足して,「SNEAKER」と認識される可能性が高いということができる。しかるところ,「SNEAKER」の語は,指定商品である履物の一種を表す語として,指定商品との関係では,識別力を有さないものであるから,「NEAKER」の部分は,指定商品との関係での識別力は,上記のように周知で識別力の強い「VANS」と比して明らかに弱いものといえる。
以上からすると,本件商標からその要部として「VANS」の部分を抽出して,類否判断することが許されるというべきである。
(2) 類否判断 本件商標からその要部である「VANS」を抽出した場合,本件商標の要部である「VANS」と標準文字で欧文字の「VANS」を横書きしてなる引用商標は,外観が同一といえる上,両者からは共に「ヴァンズ」との称呼が生じる。
また,前記で認定したように, 「VANS」ブランドについて,スニーカーを中心とした商品が日本において相当多数量販売されており,かつ引用商標や「VANS」の欧文字をデザイン化した使用商標がスニーカーなどとともにファッション雑誌等で多数回取り上げられるなど大規模な広告宣伝活動がされているから,本件商標の要部である「VANS」及び引用商標からは,共に「スニーカーを中心として展開されている異議申立人の業務に係るVANSブランド」といった観念も生じるものと認められる。
以上のとおり,本件商標の要部と引用商標は,外観,称呼及び観念を共通にしており,本件商標がその指定商品である「履物」に使用された場合,引用商標と出所 混同のおそれがあるということができるから,本件商標と引用商標は類似しているものと認められる。
(3) 原告の主張について 原告は,@本件商標に接した者が,明示的な示唆等もないのに,前半部「VANS」の最後の文字「S」を後半部を認識するためにもう一度使用することはない,A本件商標に接した者は,本件商標中の「SNEAKER」から「スニーカー」を想起するなどし,前半の「VAN」を認識して,本件商標を「ヴァンスニーカー」などと一体として称呼,認識する,B本件商標から「VANS」を取り出した残りは「NEAKER」であるが, 「NEAKER」が商品の出所識別標識としての機能を有していて省略されるべきではないことからすると,本件商標は一体として「ヴァンズニ―カー」などと称呼,認識される可能性もある,C「VANS」の語は固有の意味を有しない造語であるから,商品等のネーミング手法の一つとして,二つの語を各語の構成文字の一部を省略し結合する他の例と同列に論じることはできない,D「VANS」を含み,指定商品を「靴及び運動用特殊靴」とする「vansydical」が登録されていることが,被告の主張と反するなどと主張し,本件商標について「VANS」の部分を抽出して類否判断することは許されない旨を主張する。
しかし,上記@〜Bについては,上記で検討したように,指定商品に関して使用された本件商標に接した場合,接した者の注意は,識別力の強い語頭の「VANS」に向けられるとともに, 「VANS」と「SNEAKER」の間で「S」が重なり合っていると理解し,本件商標について, 「VANS」と「SNEAKER」を組み合わせて構成されたものと認識することが十分にあり得るところであって,原告の主張するように常に一体として認識されるとはいえず,原告の主張は採用できない。
また,上記Cについても,前記1のとおり, 「VANS」は,指定商品「履物」との関係では,周知性のある識別力の高い語であって,かつ上記のように「スニーカーを中心として展開されている異議申立人の業務に係るVANSブランド」という 観念指定商品の需要者である一般消費者の間に生じるものであるから,「VANS」が固有の意味を有しないということはできず,原告の主張はその前提において失当である。
さらに,上記Dについても,原告が挙げる商標の構成は,本件商標のそれとは異なっているから,原告が挙げる商標が登録されているからといって,それが本件商標と引用商標との類否の判断に直ちに影響を及ぼすものとはいえず,原告の主張は採用できない。
3 本件商標と引用商標の指定商品について 本件商標の指定商品である「第25類 履物」は,引用商標の指定商品に含まれるものであるから,指定商品は同一である。
4 結論 以上のとおり,本件商標は,引用商標と類似する商標であり,かつ,引用商標の指定商品同一の商品について使用をするものと認められるから,商標法4条1項11号に該当するものであり,本件商標を取り消すべきとした決定の判断は相当である。
結論
以上のとおり,原告の請求には理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 佐野信
裁判官 熊谷大輔