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関連ワード 識別力 /  指定役務 /  記述的商標(3条1項3号) /  普通に用いられる方法 /  結合商標 /  権利濫用(権利の濫用) /  通常使用権 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  差止 / 
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事件 平成 15年 (ワ) 10678号 商標権侵害差止請求事件
原告 株式会社チャペルクラブ
訴訟代理人弁護士 吉田大地
補佐人弁理士 清水久義
被告 有限会社中部産業
訴訟代理人弁護士 會田恒司
訴訟代理人弁理士 高橋康夫
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/04/22
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は、別紙営業目録記載の営業につき、その名称中に「OLIVE Christmas」との標章を使用してはならない。
事案の概要
本件は、別紙営業目録記載の営業につき、被告がその名称中に「OLIVE Christmas」という標章を使用する行為が原告の有する商標権を侵害するとして、原告が被告に対し、商標法36条1項に基づき上記使用の差止めを請求した事案である。
(争いのない事実等) 1 原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)を有している。
登録番号 第4253020号 出願日 平成7年7月4日(商願平7-67854号) 登録日 平成11年3月19日 指定役務 第42類 宿泊施設の提供 登録商標 別紙登録商標目録記載のとおり 2 被告は、別紙営業目録2記載の場所でレジャーホテル(ラブホテル)を営業している。
3 被告は、上記2の営業につき、「OLIVE Christmas」という標章(以下「被告標章」という。)を使用している(甲7の1〜8、甲8の2、甲20の1〜6。なお、前掲証拠上認められる実際の使用態様においては、被告標章における「i」の「・」は図案化した「☆」が用いられているが、実質的には上記表記と同一であるから、本判決ではすべて「i」と表記する。)。
(争点) 1 本件登録商標と被告標章との類否 2 本件商標登録の明白な無効理由の存否
争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件登録商標と被告標章との類否)について (原告の主張) (1) 本件登録商標は「クリスマス」というカタカナの文字を横書きにして成るものであるのに対し、被告標章は「OLIVE」と「Christmas」の文字を上下二段に横書きして成るものであるから、両者は、称呼及び観念において類似する。
(2) すなわち、被告標章から生じる称呼は「オリーブクリスマス」、「オリーブ」の称呼のほか、「クリスマス」という称呼を生じさせる可能性を含むものであるから、本件登録商標から生じる唯一の自然的称呼である「クリスマス」と類似する。また、本件登録商標である「クリスマス」も、被告標章の一部を構成する「Christmas」も、いずれもキリスト降誕祭を意味する語として解釈されるから、両者の観念も類似する。
(3) 被告標章における「OLIVE」と「Christmas」との各文字は、上下2段に分離して表されたものであり、その表示態様において「OLIVE」と「Christmas」との相互結合力は乏しい。また、それぞれ固有の意味を有する語であり、個々の意味の相互間に一体的なつながり関係もないから、両者が分離して認識される蓋然性が高い。被告標章の実際の使用態様に照らしても、
被告は、元々「ホテルオリーブ」という名称により旅館営業の許可を取得したにもかかわらず、「OLIVE Christmas」という被告標章の使用開始と同時に、その営業するホテルの外観に「サンタクロース」、「雪」及び「キャンドル」等を配置して、「Christmas」や「クリスマス」の観念を顧客に認識させようとしている。したがって、需要者には「クリスマス」をイメージコンセプトとした施設による、「クリスマス」なる宿泊施設の意味に感得される可能性があり、ひいては役務出所機能が「Christmas」の部分に求められる可能性がきわめて高い。
(4) 被告は、「クリスマス」には識別力がない旨主張するが、「クリスマスケーキ」や「クリスマス料理」等のクリスマスと直接関係する商品や役務について用いられる場合は格別、クリスマスとは何ら関係しない「宿泊施設の提供」に関する限り、「クリスマス」の標章に識別力があることは明らかである。
(被告の主張) (1) 被告のホテル営業に使用される標章としては、「OLIVE」又は「おり〜ぶ」が中心として用いられており、「Christmas」の文字は全く使用されていない(被告の案内メニューでは「OLive」、被告の広告用立看板では「おり〜ぶ」のみ)か、又は、「OLIVE」の文字よりも小さく付記的に「Christmas」の文字が表示されているにすぎない。すなわち、被告が使用している商標は「OLIVE」又は「オリーブ」であって、ホテル業界で一般に使用されている「Christmas」の部分は、それが併記されている場合であっても識別標識として使用されるものではない。原告のチェーン展開に係るという店舗名も「チャペルクリスマス」又は「CHAPEL CHRISTMAS」であって、
単なる「クリスマス」又は「CHRISTMAS」の表示のみから成る商標は一切使用されておらず、雑誌等でも「チャペル系」として取り上げられるにとどまり、
「クリスマス系」としては認識されていない。
(2) 被告の使用する標章に「Christmas」の文字が含まれている場合においても、被告の使用する標章の要部は「OLIVE」又は「オリーブ」である。
「クリスマス」又は「CHRISTMAS」の表示は、ホテル業界において一般的に用いられているものであるから、被告標章が単に「Christmas」と認識されることはない。また、被告標章では「オリーブ」又は「オリーブクリスマス」という称呼が生じ、単に「クリスマス」という称呼は生じない。
(3) 「クリスマス」に識別力がない以上、被告標章においてキリスト降誕祭の観念が生じる余地もないから、両者の観念も相違する。
2 争点2(本件商標登録の明白な無効理由の存否)について (被告の主張) 本件登録商標である「クリスマス」は、例えば「クリスマスご宿泊プラン」、「クリスマスストーリー」、「家族のクリスマス」というように、ホテル等の宿泊施設の提供の役務において特別の時期や態様を示すものとして普通に用いられる方法で表示したものにすぎず、また、何人かの業務に係る役務であることを認識することもできない。したがって、本件商標登録には商標法3条1項3号及び6号所定の事由があり、同法46条1項1号により無効とされるべきことは明らかである。このような無効理由が存在することが明らかな本件商標権に基づく請求は、
権利の濫用として許されない。
(原告の主張) 被告の主張は争う。本件登録商標は、その指定役務を「宿泊施設の提供」のみに限定することにより、識別力を有し、商標登録されるに至ったものであるから、本件商標登録には何ら無効理由は存しない。
争点に対する当裁判所の判断
1 争点1(本件登録商標と被告標章との類否)について判断する。
(1) 本件登録商標について ア 本件登録商標は、カタカナ文字の「クリスマス」をゴシック体又はこれに類する字体で大きく横書きして成るものである。各文字の大きさは相互にほぼ同一である。本件登録商標には、特別な図案化が施されているわけではなく、それのみでは、極めて簡単で、ありふれた記載である。
イ 本件登録商標は、「クリスマス」という一般的によく知られた平易な単語であり、「クリスマス」という称呼のみが生じる。
ウ また、本件登録商標は、「クリスマス」そのもの、すなわち「キリスト降誕祭」の観念、ないしこれに起源を有し、現在我が国において広く社会や家庭で祝われる風習としての「クリスマス」の観念が生じる。
(2) 被告標章について ア 被告標章は、「OLIVE Christmas」であり、アルファベット(ローマ字)の大文字を横書きして成る「OLIVE」の文字と、頭文字のみをアルファベット大文字、その後に続く文字をアルファベット小文字として横書きして成る「Christmas」の文字とが結合して成る標章であるところ、証拠(甲7の1〜8、甲8の2、甲20の1〜6)によれば、被告がその営業するホテル・旅館営業(ラブホテル)の看板等で実際に使用している被告標章の態様は、「OLIVE」の部分と「Christmas」の部分を上下2段とし、「OLIVE」の文字の方が「Christmas」の文字よりも明らかに大きな文字で記載されていることが認められる(なお、被告標章の一部には、上段が頭文字以外を小文字で記載した「Olive」の文字で表記されているものもある。乙15の10)。
イ 被告標章における「OLIVE」と「Christmas」とは、相互に関連性がなく、結合した全体としても何らかの特定の意味を有する言葉ではなく、上記の2つの言葉を組み合わせた造語にすぎないから、「オリーブクリスマス」という称呼が生じるといえるが、全体としては特別の観念を生じないと解される。
また、「OLIVE」と「Christmas」とは意味の上で関連性がなく、結合力は弱いものであるから、需要者は、被告標章のうち「OLIVE」の部分に着目することもあると解される。ことに、上記のとおり、被告標章の実際の使用態様においては、上段の「OLIVE」の文字が下段の「Christmas」の文字より明らかに大きく、より目立つようになっていることに加え、証拠(乙15の1〜7、9及び10)によれば、被告によるホテル営業においては、その案内メニューに「Olive」のみを表示したりその広告用立看板に「おり〜ぶ物語」と表示したりしていることが認められることからすれば、被告標章のうち「OLIVE」の部分は、需要者の注意を惹く要部であると認められる。
一方、被告標章のうちの「Christmas」の方は、我が国の英語教育の現状を前提にすると、ただちに「クリスマス」と認識されるものというべきであるから、上記(1)で述べたのと同じく、「キリスト降誕祭」ないし「クリスマス」の観念を生じる語であり、それ自体が、一定時期に限ればホテル営業(宿泊、
パーティ、イベント、食事等)に関係の深いものであるということができる。実際、証拠(乙9の1〜57)によれば、クリスマスの時期の宿泊施設の提供に関し、
「クリスマスプラン」とか「クリスマス宿泊プラン」等という形で、広く「クリスマス」という表示が用いられていることが認められる。クリスマスシーズンのラブホテルを一般的に紹介した雑誌(乙18)でも、「Xmasラブホ」や「クリスマスあこがれROOMランキング」という共通項目が設定されており、各ホテルを識別するものとして「クリスマス」は使用されていない。
また、上記のような被告の実際の被告標章の使用態様においても、「Christmas」の文字は「OLIVE」の文字より明らかに小さく目立たないものである。原告は、被告がその営業するホテルの外観に「サンタクロース」、
「雪」及び「キャンドル」等を配置して、「Christmas」や「クリスマス」の観念を顧客に認識させようとしていると主張するところ、証拠(乙9の1〜57)によれば、被告の営業するホテルの外観には「サンタクロース」、「雪」及び「キャンドル」等が配置されていることが認められるが、これも一般に広く使用される「クリスマス」に通常付随するものにすぎないものと認められる。
他方、原告は、本件商標権の通常使用権設定契約により全国8店舗で「チャペルクリスマス」の名称を付したホテルチェーンを行っていることが認められるが(甲8の1、弁論の全趣旨)、ラブホテルを分類して紹介した雑誌記事(甲19の9、乙14)によれば、同ホテルチェーンは「チャペル系」に分類されており、
「クリスマス系」なる種類のものとは認識されていないことが認められる。
これらの事実によれば、ホテル営業に関して「Christmas」や「クリスマス」の文字を含む結合商標が用いられている場合には、「Christmas」や「クリスマス」の文字部分は、特別な図案化が施されているような場合は別として、一般に識別力が弱いものというべきであり、被告標章のうちの「Christmas」の部分についても、特に識別力があるような態様のものではないから、商標の類比を判断するに当たって、この部分を分離して捉えることは相当でない。原告は、被告標章の一部を構成する「Christmas」につきキリスト降誕祭を観念できる旨を主張するが、以上の説示に照らして採用することができない。
ウ したがって、被告標章は、全体として、「オリーブクリスマス」との称呼を生じるほか、「OLIVE」の部分から「オリーブ」の称呼と植物の「オリーブ」の観念(「OLIVE」は、もくせい科の常緑小高木を指称する英語であるが、地中海沿岸の重要果樹で、その果肉がオリーブ油となるものとして、我が国でも広く知られ、日本語でも「オリーブ」として一般化していることは、公知の事実である。)を生じるといえる。
(3) 両者の類否の検討 以上に基づき、本件登録商標と被告標章の類比を検討すると、本件登録商標では「クリスマス」の称呼及び「キリスト降誕祭」ないし「クリスマス」の観念を生じるのに対し、被告標章では「オリーブクリスマス」及び「オリーブ」との称呼並びに「オリーブ」の観念が生じる。そして、「オリーブ」という称呼及び観念は、本件登録商標と類似する点は全くない。これに対し、「オリーブクリスマス」という称呼の場合であれば、「クリスマス」という部分に着目して本件登録商標との類似点があるともいえるが、上記(2)で判示したとおり、被告標章につき「クリスマス」の部分を分離して「クリスマス」の称呼が生じるものとはいえないから、
「オリーブクリスマス」のうち「オリーブ」と切り離した「クリスマス」のみを捉えて、両者の称呼が類似するとはいえない。なお、片仮名で表記された本件登録商標とローマ字で表記された被告標章の外観が相違することは、いうまでもない。
そうすると、被告標章は、外観称呼及び観念のいずれの点でも本件登録商標と異なり、本件登録商標に類似しているとはいえない。
したがって、原告には、本件商標権に基づき、被告標章の使用を差し止める権利はない。
2 結論 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 守山修生
裁判官 田中秀幸