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事件 令和 1年 (行ケ) 10094号 審決取消請求事件

原告 モトデザイン株式会社
訴訟代理人弁護士 深井俊至
被告 モトローラトレードマーク ホールディングス エルエルシー
訴訟代理人弁護士 岩瀬吉和
同 城山康文
同 山内真之
同 風間凜汰郎
同 白波瀬悠美子
訴訟代理人弁理士 北口貴大
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2020/06/04
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が取消2017-300390号事件について令和元年5月16日に した審決を取り消す。
1
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は,以下の商標(登録第4995373号。 「本件商標」 以下 という。) の商標権者である(甲1,2)。
商 標 別紙商標目録記載のとおり 登録出願日 平成18年3月24日 設定登録日 平成18年10月13日 指定商品 第14類「時計」 ? 被告は,平成27年1月28日,本件商標について,指定商品の第14類 「時計」につき,商標法50条1項所定の商標登録取消審判(以下「第1次 審判」という。)を請求し,同年2月12日,その登録がされた(甲22)。
特許庁は,第1次審判の請求を取消2015-300058号事件として 審理し,平成28年7月19日,原告が,第1次審判の請求の登録前3年以 内に,日本国内において,時計の機能を有する「東京スカイツリークロック」 と称する商品に本件商標を使用していたことが認められるとして, 本件審判 「 の請求は,成り立たない。」との審決(以下「第1次審決」という。)をし, 同審決は,同年11月25日に確定した(甲21,22)。
? 被告は,平成29年6月8日,本件商標について,指定商品中の第14類 「腕時計」につき,商標法50条1項所定の商標登録取消審判(以下「本件 審判」という。)を請求し,同月23日,その登録がされた(甲22)。
特許庁は,本件審判の請求を取消2017-300390号事件として審 理し,令和元年5月16日, 「登録第4995373号商標の指定商品中,第 14類「腕時計」についての商標登録を取り消す。」との審決(以下「本件審 決」という。)をし,その謄本は,同月24日,原告に送達された。
? 原告は,令和元年6月21日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起 した。
2 2 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。その要旨は,被請 求人(原告)は,本件審判の請求の登録前3年以内の期間(以下「要証期間」 という。)内に,日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者 が本件審判の請求に係る指定商品について,本件商標の使用をしていた事実を 証明したものと認められず,また,原告は,上記指定商品について本件商標の 使用をしていないことについて正当な理由があることも明らかにしていないか ら,本件商標の登録は,商標法50条1項の規定により,指定商品中,第14 類「腕時計」についてその登録を取り消すべきものである,というものである。
3 取消事由 本件商標の使用の事実の判断の誤り
当事者の主張
1 原告の主張 ? 原告による本件商標を付した腕時計の譲渡等 ア 原告ウェブページへの本件商標を付した腕時計の掲載等 (ア) 原告は,平成29年1月23日,原告のウェブページ(以下「原告 ウェブページ」という。)に,時計盤に「moto」の欧文字の標章(以下「本 件商標」ということがある。 が付された腕時計4本 ) (以下,総称して「原 告腕時計」という。)の画像(甲23の1〜3)を掲載した。
また,原告ウェブページには,上記腕時計の画像の右側に,本件商標 が大きく記載されるとともに, 「moto」は原告の登録商標である旨の表示 がされているほか,同ウェブページが「moto 時計」のウェブページであ る旨の表示もされている。
なお,仮に,上記腕時計の画像のみからは, 「moto」の文字をはっきり 認識できないとしても,同画像の右横に「moto」の欧文字から成る本件 商標が大きく表示され,更に「moto」が原告の登録商標である旨の記載 3 もされていること,腕時計の文字盤に商標が付される例は極めて多いこ とに鑑みれば,上記画像の腕時計に付された欧文字が「moto」であるこ とを十分に認識できる。
(イ) 原告は,平成28年12月,台湾の「君園國際有限公司」 (以下「君 園」という。)に対し,原告腕時計16個の製造を発注し,平成29年1 月10日,その納品を受けた。
そして,原告は,台湾の写真撮影業者である中華撮影事業股?有限公 司(以下「中華撮影」という。)に対し,広告用の原告腕時計の写真の撮 影を依頼し,同月12日,中華撮影から写真19枚の納品を受けた。そ の後,原告は,上記写真を使用して,前記(ア)のとおり原告腕時計の右 側に本件商標を大きく入れるなどして,原告ウェブページ掲載用の画像 を作成し,これを原告ウェブページに掲載した。
君園作成の平成28年12月8日付け見積書(甲44)及び君園から 原告代表者宛の同月9日付け電子メール(甲45)は,君園が原告から 原告腕時計の発注を受けた際に,原告に送ったものであり,上記電子メ ールには,原告腕時計のデザイン画像が添付されている。そして,君園 作成の平成29年1月10日付け見積書(甲46)は,君園が原告腕時 計を原告に納品した際に原告に送ったものであり,納品書兼領収書の役 割を果たすものであって,甲44の見積書に対応するものである。
また,中華撮影作成の平成29年1月12日付け納品書(甲49)は, 原告が中華撮影から原告腕時計の写真の納品を受けた際に,原告に交付 されたものである。そして,本件商標を付した腕時計4本が写っている 写真(甲50)は,原告ウェブページ掲載用に作成された画像の写真で ある。
原告は,かねてから腕時計の販売を検討していたところ,商品化を先 行させた置時計や壁掛け時計の販売が軌道に乗ってきたため,腕時計の 4 商品化に取り組むこととし,その広告のために,前記(ア)のとおり,原 告ウェブページに原告腕時計の画像を掲載したものである。
イ 取引先に対する本件商標を付した腕時計の譲渡等 (ア) 原告は,取引先であるA社(判決注:本件訴訟の経緯にかんがみ, 仮名を用いる。)に対し,原告腕時計の写真及びサンプルを送るので,同 商品の販売を検討してほしい旨依頼し,平成29年5月15日頃,原告 腕時計1個を譲渡し,これを引き渡した。
平成29年5月12日付電子メール(甲97。以下「A社宛メール」 という。)は,原告の従業員であるE(以下「E」という。)が,原告の 職務として,原告腕時計の販売のためにA社に送付したものであり,原 告腕時計1本の画像が添付されている。
なお,同画像の写真は,中華撮影が撮影したもの(前記ア(イ))では なく,原告代表者又は原告従業員が,サンプルとして送付する商品が何 であるかをA社に知らせるために,スマートフォンのカメラで撮影した ものである。上記写真は,文字盤のガラスに光が少し反射してしまって いるが,それは,後記のとおり,Eは,A社宛メールを送信したのと同 日に,原告腕時計のサンプル1個をA社宛てに発送していたことから, メールに添付する写真については,サンプル送付される商品が何である かさえA社に分かればよいため,画像の鮮明さや美しさ,光度や光の当 たり具合にこだわる必要がなかったからである。
また,A社宛メールに原告腕時計の値段を記載していないのは,同メ ールがサンプル提供の連絡であって,値段については,商談の際にA社 と協議して決めるつもりだったからである。
平成29年5月12日付宅配伝票(甲98。以下「A社宛宅配伝票」 という。)は,Eが,原告の職務として,原告腕時計1個をA社に発送し たときのものであり,伝票の品名欄に「moto 腕手時×1点 サンプル」 5 と記載されているものであって,A社は,同月15日頃,これを受領し た。なお,上記品名欄に記載された「腕手時」は「腕時計」の誤記であ る。
(イ) 原告は,前記(ア)のA社との取引以外にも,東京都台東区所在のB 社,C社及びD社に対し,原告腕時計の販売を検討してほしい旨依頼し, 原告腕時計のサンプルを送付するなどした(甲51の1,2,52,5 4,72の1,2,73の1,2,74の1〜3)。なお,原告の取引先 であるB社,C社及びD社の会社名は,原告の営業秘密であるため開示 しない。
また,原告は,平成29年9月6日から8日に東京ビッグサイトにお いて開催された「第84回東京インターナショナル ギフト ショー ・ 秋 2017」 (甲61,62)に参加して,会場内の原告のブースに本件商 標を付した原告腕時計を展示し,また,同腕時計の写真を掲載した原告 のカタログ(甲63,64)を頒布した。
以上の事実は,いずれも要証期間後のものではあるが,原告による本 件商標を使用した原告腕時計の販売努力を裏付けるものであり,また, 原告が要証期間内に腕時計について本件商標を使用した事実(前記ア (ア),イ(ア),後記ウ)について補強するものである。
ウ ヤフーオークションでの本件商標を付した腕時計の販売等 原告は,ヤフーオークションに原告腕時計1本を出品し,平成29年5 月19日から22日まで,28日から31日まで,同年6月9日から12 日まで及び18日から21日までの間,オークションが行われた(甲25 の2〜5。以下「本件オークション」という。。
) なお,上記出品は,原告の従業員であるEが,同人の個人アカウントを 用いて行った。Eは,原告腕時計の販売方法の一つとして,最近注目され ているヤフーオークションへの出品を行うことにしたものの,会社登録は 6 手続に手間がかかり,多くの書類が必要であったため,個人アカウントを 用いることにしたものである。また,Eは,個人アカウントを用いる以上, 会社名を表示することには差し障りがあると考え,商品説明欄に原告の会 社名を表示することはしなかった。
甲25の1は,原告が上記出品をした際の,ヤフーオークションのウェ ブページ(以下「ヤフオクウェブページ」という。)である。原告は,商品 欄に「moto 時計 腕時計」と記載して出品しており,同ウェブページの画 面には,本件商標を付した原告腕時計の画像とともに,商品欄に「moto 時 計 腕時計」との表示がされた。また,上記ウェブページの原告腕時計の 画像は,画像の下に「大きな画像を見る」と記載されているとおり,パソ コンやスマートフォン上で,大きな画像で見ることが可能であった。甲5 6の写真は,原告が上記「大きな画像」として使用したものであり,腕時 計の文字盤に「moto」の標章が付されていることを確認できる。
そして,平成29年6月18日から21日までの本件オークションにお いて1件の入札があり,原告腕時計は5000円で落札され,原告は,同 月22日,落札者から代金の支払を受けた(甲25の1,6〜9)。なお, 落札者に係る情報は,落札者の個人情報であり,原告の取引先として原告 の営業秘密でもあるため,開示しない。
? 商標の使用行為該当性 ア 原告ウェブページに関し 前記?ア(ア)のとおり,原告は,要証期間内に,原告ウェブページに, 原告腕時計の画像,本件商標及び「moto 時計」のウェブページである旨を 表示することにより,腕時計に本件商標が付された広告を電磁的方法によ り提供した。かかる行為は,本件商標の使用(商標法2条3項8号)に該 当する。
なお,原告ウェブページに原告腕時計の商品名等を表示しなかったのは, 7 原告腕時計の画像を原告ウェブページに掲載した平成29年1月23日当 時は,原告腕時計の販売や取引先に対する営業活動の開始前だったからで ある。
しかし,原告のウェブサイトの「moto 時計」のウェブページ(原告ウェ ブページ)に,原告腕時計の画像を大きく,目立つ位置に掲載したのは, 原告腕時計の広告のためであり,その後に予定されていた取引先に対する 営業活動及び販売に資するためである。そして,広告に商標が付されてい る以上は,特段の事情がない限り,同一商標を付した商品の販売等が予定 されていると推認される。
イ A社との取引に関し 前記?イ(ア)のとおり,原告は,要証期間内に,腕時計の取引書類(A 社宛メール,A社宛宅配伝票)に本件商標を付して頒布ないし電磁的方法 により提供し,また,本件商標の付された原告腕時計をA社に譲渡及び引 き渡した。かかる行為は,本件商標の使用(商標法2条3項8号,2号) に該当する。
ウ ヤフーオークションへの出品に関し 前記?ウのとおり,原告は,要証期間内に,@ヤフーオークションに原 告腕時計を出品し,ヤフオクウェブページに,原告腕時計の画像を表示す ることにより,腕時計に本件商標が付された広告を電磁的方法により提供 し,A上記出品の際の原告とヤフー及び原告と落札者との間のやりとりに 係る取引書類(オークション連絡ないし取引連絡)において,原告腕時計 について,商品欄の「moto 時計 腕時計」の記載を使用することにより, 腕時計の取引書類に本件商標を使用し,B本件商標が付された原告腕時計 を落札者に譲渡した。
上記@ないしBの行為は,本件商標の使用(商標法2条3項8号,2号) に該当する。
8 ? 本件商標の使用は名目的にされたものではないこと 第1次審判は,請求不成立とする審決が確定したため,原告は,これで不 使用取消審判は終わったと考えており,被告から再び不使用取消審判請求が されるとは考えていなかった。原告は,不使用取消を免れる目的で,本件商 標を付した原告腕時計の広告や販売を開始したものではない。
? 小括 以上によれば,原告は,要証期間内に日本国内において,本件審判に係る 指定商品である腕時計の商品について,本件商標を使用したものであるから, 原告による本件商標の使用の事実を否定した本件審決の判断は誤りである。
したがって,本件審決は取り消されるべきである。
2 被告の主張 ? 原告による本件商標を付した商品の譲渡等の主張に対し ア 原告ウェブページへの本件商標を付した腕時計の掲載等について (ア) 原告ウェブページに掲載された腕時計の画像(甲23の1〜3)は, 不鮮明であって,文字盤上に「moto」の表記があることは確認できない。
また,ウェブページの時計の画像の横に,本件商標及びこれが原告の商 標である旨が記載されているからといって,需要者は,当該ウェブペー ジに掲載された腕時計の不鮮明な画像を,特に目を凝らして見る必要性 も動機もないから,上記時計の画像に「moto」の商標が付されていると 認識するものではない。
(イ) 原告が君園に対して原告腕時計のサンプルの製造を発注し,君園に おいてこれを製造して,原告に納入した事実や,中華撮影が原告腕時計 の写真を撮影して原告に納入した事実,原告が中華撮影の納品した写真 を使用して,原告ウェブページ掲載用に甲50の写真を作成した事実は, いずれも客観的な裏付けを欠くものであって,認められない。
イ 取引先に対する本件商標を付した腕時計の譲渡等について 9 (ア) 原告は,その主張によれば,平成29年1月の時点で君園から原告 腕時計を納品されていたのであるから,これを新商品として取り扱って もらいたいのであれば,実物を顧客に示し,又は提供するのが自然であ るところ,ことさらに,その写真を撮影して,A社宛メールに添付して 送信したことは不自然である。
また,A社宛メールに添付された写真(甲97)は,腕時計の文字盤 を模した紙のようなものに「moto」の文字を表示し,それを実物の腕時 計の文字盤に貼り付けたように見えるところ,かかる写真を送ることが, 当該商品を新たにA社に取り扱ってもらうことにプラスになるとは考え られない。
さらに,A社宛メールには,当該腕時計の型番,数量,単価及び金額 の記載がないため,メールを受け取ったA社としては,当該腕時計を取 り扱うか否かを検討することができない。
加えて,A社は,原告の元従業員であるA氏(判決注:本件訴訟の経 緯にかんがみ,仮名を用いる。)が●●●●●●●に設立した,文房具の 仕入れ,販売を業とする会社であって,会社設立以来,腕時計の製造, 仕入れ,販売を手掛けたことはなく,原告との取引も,これまでに一度 もなかったものである。
これらの事情によれば,原告とA社との間で,腕時計について商談が 行われ,そのサンプルがA社に発送されたとの事実は,認められない。
なお,仮に,原告からA社に対して腕時計が発送された事実が認めら れるとしても,同腕時計は,原告からA社に対し無償で提供されたもの であって,流通することは予定されていないことからすると,単なる「サ ンプル」であって,商標法上の「商品」,すなわち,商取引の対象たり得 る物品ではなかったものである。
(イ) 原告が主張するB社,C社及びD社との原告腕時計の取引並びにギ 10 フト・ショーへの原告腕時計の展示等は,いずれも要証期間後の事実で あって,これを裏付けるに足りる証拠もなく,原告が要証期間内に本件 商標を使用した事実を推認させるものではない。
ウ ヤフーオークションでの本件商標を付した腕時計の販売等について ヤフオクウェブページに掲載された腕時計の画像(甲25の1)は,不 鮮明であって,文字盤上に「moto」の表記があることは確認できない。そ して,甲56が上記画像を大きくした場合に表示される画像であることに ついては,これを裏付ける客観的な証拠は提出されていない。
また,会社としての販売営業活動に従業員の個人IDを用いることや, オークションで1個のみを販売することは,不自然かつ不合理である。た とえ,会社登録手続に手間がかかるために,E個人のIDを用いるという 判断をしたとしても,個人のIDを使用した上で,ヤフオクウェブページ の説明欄その他に会社名を付記しておくことに支障がないにもかかわらず, 原告の会社名を表示しないのは,不自然かつ不合理である。
したがって,本件商標が付された原告腕時計が本件オークションに出品 され,原告と関係のない第三者が落札し,同商品が落札者に発送されたと の事実は認められない。
? 商標の使用行為該当性の主張に対し ア 原告ウェブページに関し 前記?ア(ア)のとおり,原告ウェブページに表示された腕時計の画像か らは,文字盤に本件商標が付されたことを認識できない。
また,商標法2条3項8号の「広告」としての商標の「使用」があると いうためには,商標が当該商品との具体的関係において使用されることを 要するから,単に商標がウェブページに掲載されただけで, 「広告」に当た るものではなく,商品が実在することを前提に,ウェブページを見た消費 者が,当該商標が付された商品を購入できる実態か,少なくとも近日中に 11 当該商品が発売されることが分かる実態があることが必要である。しかる に,本件において,原告により腕時計が実際に製造され,商品として購入 できる実態にあった事実は認められない。
後記?のとおり,原告は,第1次審決が確定したことを受けて,被告又 はその顧客に対する権利行使の検討,準備を始めたものであって,本件に おける原告の主張に係る腕時計に関する一連の行為は,上記権利行使をし た際に,本件商標の不使用を根拠として,被告から主張され得る抗弁等に 対抗するためにされたものであって,原告の事業行為としてされたもので はない。
イ A社との取引に関し 前記?イ(ア)のとおり,原告とA社との間で,本件商標を付した原告腕 時計について商談が行われ,そのサンプルがA社に発送された事実は認め られない。また,仮に,原告がA社に腕時計を発送した事実が認められる としても,同腕時計は単なる「サンプル」であって,商標法上の「商品」 には当たらない。
したがって,A社との取引に関し,本件商標の使用(商標法2条3項8 号,2号)は認められない。
ウ ヤフーオークションへの出品に関し 前記?ウのとおり,ヤフオクウェブページに表示された腕時計の画像か らは,文字盤に本件商標が付されたことを認識できない。
また,本件商標が付された原告腕時計が本件オークションに出品され, 原告と関係のない第三者が落札し,同商品が落札者に発送された事実も認 められない。
したがって,ヤフーオークションへの出品に関し,本件商標の使用(商 標法2条3項8号,2号)は認められない。
? 本件商標の使用は名目的にされたものであること 12 仮に,原告の主張する事実が本件商標の使用に該当するとしても,本件の 経緯に鑑みると,原告の行為は不使用取消を免れる目的で名目的になされた ものであることが明らかであり,商標法2条3項2号又は8号所定の行為に 該当しない。
すなわち,原告は,平成29年2月9日に株式会社三交クリエイティブ・ ライフ(以下「三交クリエイティブ」という。 に対し, ) 同社が取り扱う「moto」 の標章が付された腕時計の展示,販売行為は,本件商標権を侵害する旨警告 したが(甲3) 原告が上記侵害の事実を認識した時期は平成28年6月であ , る(甲18〜甲20)。
原告は,それまで本件商標を使った腕時計の販売をしていなかったにもか かわらず,平成29年に至って突如として本件商標を腕時計の盤面に表示し たものを商品化しているが,これは,被告に対して権利行使をするに当たり, 専ら訴訟対策を目的とするものと考えるのが自然である。
? 小括 以上によれば,原告が,要証期間内に日本国内において,本件商標を使用 したことを証明したとはいえない。
したがって,本件商標の登録は商標法50条の規定により取り消されるべ きであるとした本件審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 認定事実 前記第2の1の事実と証拠(甲3,4,23,25,26,28,96〜1 00,102,103,122,乙1〜4(いずれも枝番のあるものは枝番を 含む。)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
) ? 当事者 原告は,平成16年12月17日に設立された,雑貨,電子製品,生活用 品等の販売等を業とする株式会社である(甲26)。
13 被告は,モトローラ・モビリティ・エルエルシー(以下「モトローラ・モ ビリティ」という。)の関連会社である米国法人であり,「MOTOROLA」ブラン ドから派生した各種商標を一元管理している(甲4)。
? 原告ウェブページ ア 原告は,遅くとも平成29年2月23日から同年6月23日までの間, 原告のウェブサイト内の「moto 時計」のページ(原告ウェブページ。甲2 3の1〜3)の上部に,左側から中央にかけて横一列に並ぶ形で,腕時計 4本の画像を掲載し,その右端に本件商標を青字で表示し,同商標の下方 に近接して,『moto』は,モトデザイン株式会社の登録商標(第 4995373 「 号)です。」と表示した。
なお,原告ウェブページには,上記腕時計の商品名,商品番号,値段等 の情報は表示されておらず,これらの時計の広告や商品説明,商品を購入 するための表示等は存在しない。また,上記腕時計の画像をクリックして も,同商品に係る販売サイトに移動することはない。
一方,上記腕時計の画像等の下方に近接して, 「人気商品」として置時計 5点の画像が表示され,各商品につき,品名,品番及び値段が表示されて いる。
イ 原告は,平成30年3月6日頃,原告ウェブページを更新し,上記置時 計の画像等の下方に近接して, 「腕時計」として腕時計2点の画像,その品 名,品番及び値段を表示し,また,原告のウェブサイトの「moto 時計」 「時 計」のウェブページ(以下,上記更新後の原告ウェブページと併せて「原 告更新ウェブページ」と総称する。)に,文字盤に本件商標が付された腕時 計6本の写真の画像とともに,各商品の品名,品番,値段,商品サイズ, 機能説明等を表示した(甲96)。
? A社への連絡 A社は,原告の従業員であったA氏により●●●●●●●●●●に設立さ 14 れた,文具,事務用品の販売等を業とする株式会社であり,設立以降A氏が 代表取締役を務めている(甲99,100,122,乙1〜4)。
原告は,平成29年5月12日,「見積及び腕時計サンプル発送致します」 との件名のA社宛メール(甲97)を送信した。同メールには, 「moto 腕時計 について,本日サンプルを送付致しますので,併せてご確認のうえご検討下 さい。, 」「添付ファイルにて,先に商品写真を送付致します。」などと記載さ れ,文字盤に「moto」の表記があるようにも見える腕時計の画像が添付され ていた。
また,原告は,同日,A社宛に宅配便を発送し,A社は,同月15日頃に これを受領した。原告が上記発送の際に作成したA社宛宅配伝票の「品名」 欄には,「moto 腕手時×1点 サンプル」と記載されている。
しかし,A社は,その後に原告から,販売用の腕時計を購入することはな かった。また,A社と原告との間では,これまでに,腕時計に限らず,実際 に商品の売買その他の商取引がされたことはなく,A社において,自社の商 品として腕時計を販売した実績もない(甲122)。
? ヤフーオークションへの出品 原告の従業員であるEは,同人の個人IDを用い,商品欄に「moto 時計 腕 時計」と記載して,腕時計1本をヤフーオークションに出品し,平成29年 5月19日から22日まで,28日から31日まで,同年6月9日から12 日まで及び18日から21日までの間,オークションが行われた(甲25の 2〜5,甲28)。
上記オークションが行われた際のヤフオクウェブページの画面(甲25の 1)には,腕時計の画像とともに,商品欄に「moto 時計 腕時計」と表示さ れている。また,腕時計の画像の下方に近接して,「大きな画像を見る」 「 (全 1枚)」と表示されており,これをクリックすることにより,パソコンやスマ ートフォン上で,上記腕時計の大きな画像を見ることが可能であった。
15 そして,平成29年6月18日から21日までのオークションにおいて1 件の入札があり,上記腕時計は5000円で落札され,Eは,同月22日, 落札者から代金の支払を受けた(甲25の1,6〜9)。
? 原告からの本件商標権侵害の警告 原告は,平成29年2月11日,三交クリエイティブに対し,同月9日付 け警告書(甲3)を送付し,三交クリエイティブが取り扱う「moto」の標章 が付された腕時計の展示,販売行為は本件商標権を侵害するものである旨警 告した。なお,上記腕時計は,モトローラ・モビリティが製造し,三交クリ エイティブに販売した商品である。
モトローラ・モビリティは,同年3月21日,原告に対し,同月17日付 け回答書(甲4)を送付し,原告が本件商標を使用して腕時計の販売を行っ ていることについて疑いがあると考えている旨,原告のウェブサイトでは腕 時計の画像と共に「moto」の語が使用されているが,当該使用は本件対応の みを目的とする不自然かつ名目的なものに見受けられる旨を主張した。
2 原告による本件商標の使用の事実の有無について ? 原告ウェブページについて ア 腕時計の画像の表示 原告は,原告ウェブページに,本件商標が付された原告腕時計4本の画 像(甲23の1〜3)を掲載した旨主張する。
しかしながら,原告ウェブページの写真である甲23の1〜3は,そこ に表示された4本の腕時計の画像が不鮮明であるため,同画像からは,こ れらの腕時計の文字盤にいかなる標章が付されているのかを認識すること はできず,その他に,原告ウェブページに本件商標を付した腕時計が表示 されていることを認めるに足りる証拠はない。
これに対し原告は,仮に上記画像のみから「moto」の文字をはっきり認 識できないとしても,同画像の右横に本件商標が大きく表示され,更に 16 「moto」が原告の登録商標である旨の記載もあること,腕時計の文字盤に 商標が付されることは極めて多いことに鑑みれば,画像の文字盤に付され た欧文字が「moto」であることを十分に認識できる旨主張する。
しかしながら,そもそも,原告ウェブページに表示された腕時計の画像 は不鮮明であって,文字盤に欧文字が付されていると認識することは困難 であるし,腕時計の文字盤に常に商標が付されるものであるとも認められ ない。また,前記1?で認定した原告ウェブページにおける画像等の配置 や全体の構成に照らしても, 「moto」が登録商標である旨の説明文は,その 上方に近接して表示された本件商標について説明する文章と理解するのが 自然であるから,これらの表示から,腕時計の画像に「moto」の標章が付 されていることを認識するものではないといえる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
以上によれば,要証期間内に,本件商標が付された腕時計の画像が原告 ウェブページに表示されたと認めることはできない。
イ 本件商標の表示 (ア) 前記1?のとおり,原告ウェブページには,腕時計の品名,品番, 値段,商品説明等についての記載や,原告の腕時計が将来発売予定であ ること,個別の商談により購入が可能であることを説明する記載はない。
そして,かかる原告ウェブページの体裁,記載からは,少なくとも平 成30年3月6日頃に原告更新ウェブページが作成され,腕時計の品名, 品番,値段,商品説明等についての具体的な記載が掲載されるまでの間 は,原告において,同ウェブページに画像が表示された腕時計が実際に 製造され,商品として購入できる実態があったことを推認することはで きないというべきである。
以上によれば,原告ウェブページに表示された本件商標や「moto 時計」 のウェブページである旨の表示は,商品である「腕時計」について使用 17 されたものとは認められない。
(イ) これに対し原告は,@原告ウェブページに原告腕時計の商品名等を 表示しなかったのは,原告腕時計の画像を原告ウェブページに掲載した 当時は,原告腕時計の販売や取引先に対する営業活動の開始前だったか らである,A原告ウェブページに掲載された原告腕時計の画像は,原告 が君園に発注して納品を受けた腕時計につき,中華撮影が広告用に撮影 したものを使用して,原告ウェブページ掲載用に作成したものであって, 甲44ないし46は君園から受領した原告腕時計の見積書及びデザイン 画像,甲49は中華撮影から受領した原告腕時計の写真の納品書,甲5 0は原告ウェブページ用に作成した写真である旨主張し,原告の従業員 であるEの本件審判における証人尋問録音の反訳(甲20,80)及び 同人の陳述書(甲28。上記反訳と併せて,以下「Eの陳述書等」とい う。, ) 君園の社長の陳述書(甲94)及び中華撮影の写真家の陳述書(甲 95)中には,これに沿う部分がある。
しかしながら,@についていえば,原告主張の事情は,原告更新ウェ ブページが作成されるまでの 1 年以上にわたり,原告ウェブページに原 告腕時計の品目,品番,商品説明等の一切が表示されていないことの説 明になるものではない。また,Aも,以下の点に照らせば,採用できる ものではない。
すなわち,甲45のデザイン画像は,腕時計本体の写真がやや不鮮明 であるのと対照的に,文字盤上の「moto」の文字又は文字盤全体が不自 然なほど鮮明で浮き上がっているように見えるものであり,画像データ を加工等して作成された画像であることがうかがえる。また,同画像が 添付された電子メール(甲45)には本文がなく,これらの画像の作成 目的,作成方法等も証拠上明らかでない。
そして,甲44の見積書には, 「製品明細」「ステンレス ( サファイア 18 ガラス 日本製ムーブメント 手作箱及び説明書」, )「注意事項」「腕時 ( 計サンプル製作」, )「数量」(合計16個)等の記載があるものの,商品 の単価やサンプル製作納期の記載がないなど,不自然な点も少なくなく, 「製品明細」に記載されたとおりの製品が製造されたことを示す写真等 の客観的な証拠もない。また,原告は,甲46の見積書は,納品書兼領 収書の役割を果たすものであって,甲44の見積書に対応するものであ る旨主張するが,甲46の見積書にも製品の単価等の記載はない。
さらに,甲49の納品書には,中華撮影が原告に対して単価400台 湾ドルの写真19枚を納入し,原告からその代金を受領した旨の記載が あるものの,納品する写真の画像等は添付されていないため,これらの 証拠からは,納入された写真が原告腕時計のものであるかは明らかでな い。
加えて,文字盤に「moto」の標章が付されていることが認識できる4 本の腕時計の写真(甲50)も,その作成時期,作成経緯は明らかでな く,これが原告ウェブページ上の腕時計の画像と同一のものであること を裏付ける客観的な証拠はない。
以上によれば,原告の上記主張を採用することはできないというべき である。
ウ 本件商標の使用の有無 前記ア及びイによれば,原告が,原告ウェブページに腕時計の画像及び 本件商標の表示等を表示したことをもって,本件商標の使用(商標法2条 3項8号)に該当すると認めることはできない。
? A社との取引について ア 原告は,取引先であるA社に対し,原告腕時計の写真及びサンプルを送 るので,同商品の販売を検討してほしい旨依頼し,平成29年5月15日 頃,原告腕時計を譲渡して,引き渡したものであり,同月12日付のA社 19 宛メールには,本件商標が付された原告腕時計1本の画像が添付されており,伝票の品名欄に「moto 腕手時×1点 サンプル」と記載されている同日付のA社宛宅配伝票により,A社宛に原告腕時計を発送したものである旨を主張し,Aの供述及びEの陳述書等中には,これに沿う部分がある。
しかしながら,A社宛メールに添付された腕時計の写真(甲97)は,文字盤部分の画像が,他の部分(時計のバンド,時計の背景等)と比べて不鮮明であって,文字盤上の「moto」の文字及び針のみが浮き上がるように見えるなど不自然なものであって,文字盤部分について加工が行われたのではないかとの疑いを払拭することができない。また,A社宛宅配伝票(甲98)の品名欄に「moto 腕手時×1点サンプル」の記載があるとの事実は,同宅配便によって原告腕時計が配送されたことを客観的に裏付けるものではない。
加えて,A社の取扱商品,原告とA社との取引実績,原告とA社代表者との人的関係等,原告とA社の関係に関する認定事実(前記1?)に照らすと,原告が,原告との取引実績も,腕時計の販売実績も全くないA社に対して,腕時計を販売してもらうためのサンプルとして本件商標を付した原告腕時計を譲渡したとの主張には,不自然かつ不合理な点があるといわざるを得ず,せいぜい,原告と親しい関係にあるA社(又はA個人)に対し,腕時計を参考送付して,商品化の可能性等について意見を求める程度のことがあったにすぎないものと考えられる。
以上によれば,原告がA社に対して本件商標を付した原告腕時計の譲渡及び引渡しをした事実を認めることはできないし,仮に原告からA社に腕時計が送付された事実があったとしても,それが「商品」としての腕時計の送付であったと認めることは困難である。また,上記のとおり,原告とA社の間で,本件商標を付した原告腕時計に係る取引がされたものと認めることはできないことから,A社宛メール及びA社宛宅配伝票に「moto」 20 の表記をしたことは,取引書類に本件商標を付したものとはいえない。
したがって,原告とA社との連絡に関し,本件商標の使用(商標法2条 3項8号)を認めることはできない。
イ なお,原告は,前記アのA社との取引以外にも,B社,C社及びD社に 対して原告腕時計の販売を検討してほしい旨依頼し,原告腕時計のサンプ ルを送付したり,ギフト ショーに本件商標を付した原告腕時計を展示し, ・ 同腕時計の写真を掲載したカタログを頒布したりしたものであり,これら の事実はいずれも要証期間後のものではあるが,原告が要証期間内に腕時 計について本件商標を使用した事実を補強するものである旨主張する。
しかしながら,原告の主張する上記事実は,そもそも要証期間後の事実 である上,B社,C社及びD社の実在性や原告との関係も明らかでないこ と等に照らし,これらの事実から,要証期間内の原告による本件商標の使 用の事実を推認することは到底困難である。
? ヤフーオークションへの出品について ア 原告は,原告の従業員であるEが,原告の業務として,Eの個人IDを 用いて,ヤフーオークションに原告腕時計1本を出品し,ヤフオクウェブ ページの画面(甲25の1)に,本件商標を付した原告腕時計の画像が表 示された旨,及び,本件オークションにおいて,本件商標を付した腕時計 が5000円で落札され,原告から落札者に譲渡された旨主張する。
しかしながら,本件オークションへの出品は,Eが個人のIDを用いて 行ったものであるところ,従業員が,その勤務先の販売する商品を,個人 のIDを用いて,インターネットオークションを利用して1個のみを販売 し,しかも,出品の際の商品説明欄に製造者である会社名の記載すらしな いというのは,法人による営業活動としては余りに不自然 不合理である。
・ そして,他にオークションへの出品者が原告であったことをうかがわせる 証拠も存在しないことからすると(既に検討したとおり,そもそも,本件 21 オークションへの出品当時,原告が,商品として本件商標を付した腕時計 を販売していた事実自体を認めるに足りる証拠はない。,上記の出品は, ) Eが個人として行ったものであると認めるほかはない。
そうすると,原告が,本件商標の付された原告腕時計の画像をヤフオク ページに表示した事実も,上記腕時計を落札者に譲渡した事実も認めるこ とはできない。また,ヤフー及び原告と落札者との間のやりとりに係る書 類(オークション連絡ないし取引連絡)において,出品した腕時計につい て,商品欄に「moto 時計 腕時計」と記載したのもE個人であって原告で はないことになるから,これも,原告による本件商標の使用を裏付ける事 実とはいい難い。
イ 前記アによれば,Eによるヤフーオークションへの腕時計の出品に関し, 本件商標の使用(商標法2条3項2号,8号)を認めることはできない。
? 小括 前記?ないし?のとおり,原告が,要証期間内における日本国内での本件 商標の使用に該当する旨主張する事実は,いずれも本件商標の使用(商標法 2条3項2号又は8号)に該当するものとは認められない。
3 結論 以上によれば,原告主張の取消事由は理由がなく,本件審決にこれを取り消 すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。