関連審決 |
取消2020-300638
異議2017-900365
異議2017-90 |
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事件 |
令和
3年
(ネ)
10013号
商標権侵害行為差止等及び不正競争行為差止等請求控訴事件
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控訴人現代 の理論編集委員会 (以下「控訴人編集委員会」という。) 控訴人X (以下「控訴人X」という。) 上記両名訴訟代理人弁護士 荒木昭彦和田史郎 被控訴人 特定非営利活動法人NPO 現代の理論・社会フォーラム (以下「被控訴人NPO」という。) 被控訴人株式会社同時代社 (以下「被控訴人同時代社」という。) 上記両名訴訟代理人弁護士 三尾美枝子山田さくら |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2021/08/18 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 控訴人Xの控訴に基づき,原判決主文第2項を次のとおり変更する。 ? 被控訴人NPOは,控訴人Xに対し,12万円及びこれに対する平成30年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ? 被控訴人らは,控訴人Xに対し,連帯して14万4000円及びこれに対する平成30年11月30日から支払済みまで年5分の1割合による金員を支払え。 ? 控訴人Xのその余の請求を棄却する。 2 控訴人編集委員会の控訴を棄却する。 3 訴訟費用は,控訴人編集委員会と被控訴人らとの間では,控訴費用を控訴人編集委員会の負担とし,控訴人Xと被控訴人らとの間では,第1,2審を通じて,これを22分し,その21を控訴人Xの負担とし,その余を被控訴人らの負担とする。 4 この判決の第 1 項?及び?は,仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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控訴の趣旨
1 原判決を次のとおり変更する。 2 被控訴人らは, 「現代の理論」という標章を付した出版物の出版,販売若しく は販売のための展示又は頒布をしてはならない。 3 被控訴人NPOは,別紙出版物目録記載1の出版物を,被控訴人らは,同目 録記載2の出版物をそれぞれ廃棄せよ。 4 被控訴人らは,連帯して,控訴人ら各自に対し,それぞれ50万円及びこれ に対する平成30年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を 支払え。 |
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事案の概要(略称は,特に断りのない限り,原判決に従う。)
1 事案の要旨 本件は,@「現代の理論」季刊電子版(以下「原告出版物」という。)を発行 している権利能力なき社団であると主張する控訴人編集委員会が,被控訴人N POによる「現代の理論」の文字からなる標章又は表示を題号に付した別紙出 版物目録記載1及び2の各出版物(以下,同目録記載1の各出版物を「被告出 版物1」,同目録記載2の各出版物を「被告出版物2」と総称し,それぞれを番 号に応じて「被告出版物1?」などという。)の販売及び被控訴人同時代社によ 2る被告出版物2の販売が,控訴人編集委員会ないしその構成員である控訴人Xその他の編集委員と被控訴人NPO間の被控訴人NPOが「現代の理論」という名称の出版物を発行しない旨の合意(以下「本件合意」という。)に違反し,又は控訴人編集委員会の周知な商品等表示である「現代の理論」と同一又は類似の商品等表示を使用して控訴人編集委員会の営業又は商品と混同を生じさせる不正競争行為(不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号)に該当する旨主張して,被控訴人らに対し,被控訴人NPOについては本件合意又は同法3条に基づき,被控訴人同時代社については同条に基づき, 「現代の理論」という標章を付した出版物の出版,販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,被控訴人NPOについては本件合意の債務不履行,同法4条又は不法行為に基づく損害賠償として,被控訴人同時代社については同条又は不法行為に基づく損害賠償として,55万円及びこれに対する平成30年11月30日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分(以下「改正前民法所定の年5分」という。)の割合による遅延損害金の連帯支払を求め,A「現代の理論」の文字を標準文字で表してなる商標(登録第5978523号。以下「原告商標」という。)の商標権(以下「原告商標権」という。)を有する控訴人Xが,被控訴人らによる上記各販売が本件合意に違反し,又は原告商標権の侵害に当たる旨主張し,被控訴人らに対し,被控訴人NPOについては本件合意又は商標法36条に基づき,被控訴人同時代社については同条に基づき, 「現代の理論」という標章を付した出版物の出版,販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,被控訴人NPOについては本件合意の債務不履行又は原告商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償として,被控訴人同時代社については原告商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償として,55万円及びこれに対する同日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。 原審は,控訴人編集委員会は,権利能力なき社団に当たらず,当事者能力を 3 有しないから,控訴人編集委員会の本件訴えは,いずれも不適法であるとして 却下し,控訴人Xの請求は,控訴人Xと被控訴人NPO間の本件合意の成立が 認められず,また,控訴人Xによる原告商標権の行使は権利の濫用に当たり許 されないとして,いずれも棄却した。 控訴人らは,控訴の趣旨の限度で,原判決を不服として控訴を提起した。な お,控訴人Xは,当審において,上記差止め及び廃棄請求について,原告商標 権に係る商標法36条に基づく主張を撤回した。 2 前提事実(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨によ り認められる事実である。) ? 当事者 ア 控訴人Xは, 「現代の理論」季刊電子版(原告出版物)を発行している「現 代の理論編集委員会」という名称の団体(控訴人編集委員会)の事務局長 と主張する者である。 イ 被控訴人NPOは,平成17年7月15日,その前身である任意団体「言 論NPO・現代の理論」が法人化された特定非営利活動法人であり,広く 一般市民を対象に,現代の理論状況の打開に向けて,市民的公共空間とし ての機関誌の編集及び発刊やウェブ上でのマガジン発行などを行い,もっ て人々が文化的な生活をすることができる社会の実現に寄与することを 目的(甲4)としている。 被控訴人NPOは,平成20年5月9日,その名称を「特定非営利活動 法人言論NPO・現代の理論」から「特定非営利活動法人NPO現代の理 論・社会フォーラム」に変更した。 ウ 被控訴人同時代社は,平成22年7月1日に設立された,書籍出版物の 企画,制作,販売等を目的とする株式会社である。 ? 被告出版物1及び2の販売に至る経緯等 ア 雑誌「現代の理論」は,昭和34年5月に月刊誌として創刊され,同年 4 9月頃に一時終刊になった後,昭和39年1月に再刊され,その後,平成 元年12月に再び終刊となった。このうち,昭和34年5月から同年9月 頃までに発行されたもの(以下「雑誌「現代の理論」(第1次)」という場 合がある。)は,株式会社大月書店(以下「大月書店」という。)から発行 され,昭和39年1月から平成元年12月までに発行されたもの(以下「雑 誌「現代の理論」 (第2次)」という場合がある。)は,株式会社現代の理論 社(以下「現代の理論社」という。)から発行された(甲8,乙1)。 イ 雑誌「現代の理論」は,平成16年6月に季刊誌としての創刊準備号が 発刊された後,同年10月,「現代の理論 04秋vol.1」(乙2)が 発行され,平成19年4月発行の「現代の理論 07春号vol.11」 (乙 12)まで,季刊誌として継続的に発行された。これらの雑誌の奥付 (乙2ないし12)には, 「編集人/A1」「発行人/A2」「発行所/言 , , 論NPO・現代の理論」 「発売/(株)明石書店」などの記載があった。 , その後,同年7月発行の「現代の理論 07夏号vol.12」 (甲15) から,株式会社明石書店(以下「明石書店」という。)が発行主体となって 発行が継続されたが,平成24年1月,明石書店が発行事業から撤退し, 同年4月,「現代の理論 12春/終刊号vol.30」(甲16)の発行 をもって終刊となった(甲21) 明石書店が発行主体となった雑誌の奥付 。 (甲15)には, 「編集人/『現代の理論』編集委員会 代表/A1」, 「発行人/A3」 「発行所/(株)明石書店」などの記載があり,終刊とな , った雑誌の奥付(甲16)には, 「編集・発行人/『現代の理論』編集委員 会 代表/A1, , 」「発売所/(株)明石書店」などの記載があった(以上の とおり,平成16年6月から平成24年4月までに発行されたものを「雑 誌「現代の理論」(第3次)」という場合がある。 。 )ウ 被控訴人NPOは,平成20年2月,雑誌「FORUM OPINIO N」を創刊し,季刊誌として継続して発行するようになった。これらの雑 5 誌の奥付(甲29)には, 「NPO現代の理論・社会フォーラム FORU M OPINION編集委員会」などの記載があった。 エ 平成26年5月,現代の理論編集委員会」 「 が運営するウェブサイト上で, 「現代の理論」季刊電子版(原告出版物)が創刊され,以後, 原告出版物 は,季刊誌として継続して配信されるようになった(甲3,8)。 オ 被控訴人NPOは,平成28年6月,雑誌「FORUM OPINIO N」の題号を「現代の理論」へ改題し,同月以降,被告出版物1及び2を 発行,販売している。 また,被控訴人同時代社は,平成29年10月以降,被告出版物2の発 売元として,これらを販売している。 被告出版物1?ないし?(乙21ないし24)の各表紙には,別紙標章 目録記載1の標章(以下「被告標章1」という。)が,被告出版物1?及び 2(乙25ないし29)の各表紙には,同目録記載2の標章(以下「被告 標章2」という。)がそれぞれ付されている。 ? 控訴人Xの商標権 ア 控訴人Xは,平成28年4月9日,第9類「電子印刷物」及び第16類 「印刷物」を指定商品として, 「現代の理論」の文字を標準文字で表してな る原告商標について商標登録出願をし,平成29年8月29日,登録査定 を受け,同年9月8日,原告商標権の設定登録を受けた。 イ 被控訴人NPOは,平成29年12月4日,商標法4条1項8号,10 号,15号,19号及び3条1項柱書違反を異議申立理由として,本件商 標の商標登録について登録異議の申立て(異議2017-900365号 事件)をした。 特許庁は,平成30年3月15日,上記異議申立理由はいずれも認めら れないとして,原告商標の商標登録を維持する旨の決定(甲14)をし, 同決定は,同月26日,確定した(乙20)。 6 ウ 被控訴人NPOは,令和2年9月10日,原告商標の指定商品中,第1 6類「印刷物」に係る商標登録について,商標法50条1項所定の商標登 録取消審判(取消2020-300638号事件。以下「別件審判」とい う。)を請求し,同年10月1日,その予告登録がされた。 特許庁は,令和3年2月12日,原告商標の指定商品中,第16類「印 刷物」についての商標登録を取り消す旨の審決(以下「別件審決」という。 乙18)をし,別件審決は,同年3月24日,確定した(乙20)。 別件審決の確定により,原告商標権は,別件審判の予告登録の日に消滅 したものとみなされた(同法54条2項)。 3 争点 ? 控訴人編集委員会関係 ア 控訴人編集委員会の当事者能力の有無(争点1-1) イ 控訴人編集委員会と被控訴人NPO間の本件合意の成否(争点1-2) ウ 被控訴人らの行為の不競法2条1項1号該当性(争点1-3) エ 控訴人編集委員会の損害額(争点1-4) ? 控訴人X関係 ア 控訴人Xと被控訴人NPO間の本件合意の成否(争点2-1) イ 原告商標の商標登録に係る無効の抗弁の成否(争点2-2) ウ 被控訴人NPOの先使用権の成否(争点2-3) エ 権利の濫用の成否(争点2-4) オ 控訴人Xの損害額(争点2-5)4 争点に関する当事者の主張 ? 争点1-1(控訴人編集委員会の当事者能力の有無) 以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の4?記載 のとおりであるから,これを引用する。 ア 原判決6頁1行目から2行目までを次のとおり改める。 7 「(ア) 控訴人編集委員会は,平成16年,雑誌「現代の理論」の企画・ 編集業務を担うために作られた組織であり,平成26年5月から,ウ ェブサイト上で, 「現代の理論」季刊電子版(原告出版物)を配信して いる。」イ 原判決6頁3行目から4行目にかけての「在籍し,」の次に「構成員は特 定されており,また,平成16年当時,任意団体「言論NPO・現代の理 論」に控訴人編集委員会と別の編集委員会が存在したという事実はなく, 総会(甲2)で」を加え,同頁8行目の「構成委員の変動」を「構成委員 の変動(死亡脱退や途中加入)」と改め,同頁13行目末尾に次のとおり加 える。 「また,原告出版物を配信するインターネット利用料等の費用は,控訴人 Xが支払っており,これは,「編集委員が持ち寄る資金」(原告規約12 条)にほかならず,控訴人編集委員会としての活動のための収入である。」ウ 原判決6頁14行目から15行目までを次のとおり改める。 「(イ) 以上のとおり,控訴人編集委員会には,代表が存在し,規約があ り,団体としての組織を備え,構成員の変動があっても団体として存 続しており, 「総会」と銘打って開催されていなくとも,編集委員会議 が開催され,重要事項について満場一致で決議がされ,財産や活動費 を得て活動している実態もあることからすると,控訴人編集委員会は, 権利能力なき社団として,民訴法29条により当事者能力を有するか ら,本件訴えは適法である。」エ 原判決6頁21行目の「開催されたことはない。」を「開催されたことは なく,総会名目以外の会議でも,予算,決算,役員の選任等について決議 を行っていない。」と改める。 オ 原判決6頁24行目の「当時の」から末行の「虚偽である。」までを「平 成16年当時,任意団体「言論NPO・現代の理論」には編集委員会が存 8 在し,その編集委員であったA2(以下「A2」という。)らが除かれてお り,原告規約付則1の編集委員名簿と整合しておらず,また,現時点でも 編集委員名簿は作成されていないから,控訴人編集委員会の構成員は特定 されていない。」と改める。 ? 争点1-2(控訴人編集委員会と被控訴人NPO間の本件合意の成否) 以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の4?記載 のとおりであるから,これを引用する。 ア 原判決7頁14行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「 本件合意について合意書は作成されていないが,被控訴人NPOは, 平成20年2月に雑誌「FORUM OPINION」を創刊し,同年 5月にその名称を「特定非営利活動法人言論NPO・現代の理論」から 「特定非営利活動法人NPO現代の理論・社会フォーラム」に変更した 後,平成28年に被告出版物1?を発行するまでの間,被控訴人NPO が発行する雑誌に「現代の理論」という名称を使用してこなかった事実 は,本件合意が存在したことの証左である。また, 「現代の理論」の表示 と「NPO現代の理論・社会フォーラム」の表示とは異なるのみならず, 雑誌「FORUM OPINION」に発行主体として「NPO現代の 理論・社会フォーラム」との名称が付記されているからといって,被控 訴人NPOが同雑誌に「現代の理論」という雑誌名を継続して使用した ことにはならない。」 イ 原判決7頁18行目から19行目にかけての「同雑誌の発行主体でもな い原告編集委員会」を「同雑誌の発行主体になったことがない控訴人編集 委員会ないし控訴人X」と改める。 ? 争点1-3(被控訴人らの行為の不競法2条1項1号該当性) 以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の4?記載 のとおりであるから,これを引用する。 9 ア 原判決7頁末行の「被告標章を付した被告出版物」を「被告標章1又は 2が表紙に付された被告出版物1及び2」と改める。 イ 原判決8頁1行目の「原告編集委員会の情報体も被告らの情報体も」を 「原告出版物も被告出版物1及び2も」 同頁4行目及び5行目の各 と, 「被 告標章」をいずれも「「現代の理論」という標章」と改める。 ? 争点1-4(控訴人編集委員会の損害額) ア 控訴人編集委員会の主張 (ア) 被控訴人らによる被告標章1又は2を付した被告出版物1及び2の 販売行為は,不競法2条1項1号の不正競争行為に該当するから,被控 訴人らは,控訴人Xに対し,同法4条に基づく損害賠償責任を負う。 本件訴訟提起時までの被告出版物1及び2の販売数量は各号約100 0部,1冊当たり1200円であることからすると,各号の売上額は, それぞれ約120万円である。 以上によれば,被控訴人らの上記販売行為に係る控訴人編集委員会の 不競法5条3項1号に基づく使用料相当額の損害額は,合計50万円を 下らない。 (イ) したがって,控訴人編集委員会は,被控訴人らに対し,不競法4条 に基づく損害賠償として,50万円及びこれに対する平成30年11月 30日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで改正前民法所定の年5 分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができる。 イ 被控訴人らの主張 控訴人編集委員会の主張は争う。 (5) 争点2-1(控訴人Xと被控訴人NPO間の本件合意の成否) 原判決9頁5行目の「場合, の次に 」 「前記?ア(控訴人編集委員会の主張) と同様の理由により,」を加えるほか,原判決の「事実及び理由」の第2の4 ?記載のとおりであるから,これを引用する。 10(6) 争点2-2(原告商標の商標登録に係る無効の抗弁の成否) 以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の4?記載 のとおりであるから,これを引用する。 ア 原判決10頁4行目,9行目,11頁6行目及び13頁1行目の各「被 告標章」をいずれも「「現代の理論」という標章」と改める。 イ 原判決11頁1行目の「被告NPOの業務」を「被控訴人NPOの季刊 誌「現代の理論」及び同「FORUM OPINION NPO現代の理 論・社会フォーラム」の発行業務」と改める。 ウ 原判決11頁5行目及び12頁17行目の各「被告出版物」をいずれも 「被告出版物1」と改める。 ? 争点2-3(被控訴人NPOの先使用権の成否)について 原判決13頁17行目から18行目にかけて及び21行目の各「被告標章」 をいずれも「「現代の理論」という標章」と改めるほか,原判決の「事実及び 理由」の第2の4?記載のとおりであるから,これを引用する。 ? 争点2-4(権利の濫用の成否)について 次のとおり原判決を訂正し,当審における当事者の補充主張を付加するほ か,原判決の「事実及び理由」の第2の4?記載のとおりであるから,これ を引用する。 ア 原判決の訂正 (ア) 原判決14頁14行目の「被告標章」 「 を 「現代の理論」という標章」 と改め,同頁15行目の「表示するものとして」の次に「,需要者であ る社会運動関係者,政治関係者,法律関係者,出版業界関係者等の間で」 を加え,同頁21行目の「同雑誌」を「雑誌「現代の理論」」と,同頁2 2行目の「雑誌「現代の理論」」を「同雑誌」と,同頁24行目の「(被 告出版物)」を「(被告出版物1)」と改める。 (イ) 原判決15頁1行目,3行目及び5行目の各「被告標章」をいずれも 11 「「現代の理論」という標章」と改め,同頁4行目の「目的として,」の 次に「被控訴人NPOの業務に係る商品又は役務を表示するものとして」 を加える。 原判決15頁14行目から15行目にかけての「被告NPOの略称が 「現代の理論」として周知されていたこともないから,」を「「現代の理 論」という標章が被控訴人NPOの業務に係る商品又は役務を表示する ものとして原告商標の指定商品の需要者である一般消費者の間で周知 であったといえないのみならず, 「現代の理論」という標章が被控訴人N POの略称として周知であったとはいえないから,」と改める。 イ 当審における被控訴人らの補充主張 原判決が説示するように,ある特定の雑誌の表示について,需要者の間 で周知となっており,需要者の間で,その出所(発行主体)として,営業 上の信用等を化体させ周知性の獲得等に貢献してきたその帰属主体があ ったときに,その中の特定の者が商標権を取得し,当該表示の独占的な表 示主体として,その中の他の者ないし当該主体自体に対して商標権に基づ く権利行使をする場合は,需要者に対する関係又は当該帰属主体内の関係 において,その表示の周知性等の獲得がほとんどその特定の者に帰属して いるとまでは認められない事情があるときには,当該権利行使は,客観的 に公正な競業秩序に背反するものであり,権利の濫用(民法1条3項)と して許されないと解すべきである。 これを本件についてみると,@昭和34年から長年にわたって使用され, 需要者の間で周知になっている雑誌「現代の理論」の表示については,平 成16年以降,被控訴人NPO又は明石書店が雑誌「現代の理論」の発行 主体であって,上記表示の使用主体であり,控訴人Xは,これらの発行主 体の内部組織である編集委員会の一構成員にすぎないこと,A被控訴人ら は,平成29年10月以降現在に至るまで,被告出版物1及び2を出版, 12 発行して雑誌「現代の理論」の発刊事業を継続していること,B原告商標 の指定商品中「印刷物」の商標登録については,別件審決により取り消さ れており,控訴人Xには,雑誌「現代の理論」を出版する意思も能力もな かったことからすると,控訴人Xのみが雑誌「現代の理論」の表示の周知 性等の獲得等に貢献しているといえないから,控訴人Xによる被控訴人ら に対する原告商標権の行使は,権利の濫用として許されないというべきで ある。 ウ 当審における控訴人Xの補充主張 被控訴人らの主張は争う。 平成16年以降,雑誌「現代の理論」の表示について,周知性の獲得等 に貢献してきたのは控訴人編集委員会のみである。被控訴人NPOの内部 には,編集委員会なる組織はなく,控訴人編集委員会が,雑誌「現代の理 論」 (第3次)の発行に関する編集,読者募集,販売等の全ての実務を行っ てきた。また,明石書店が雑誌「現代の理論」 (第3次)の発行主体となっ ていた時期も,上記周知性の獲得等に貢献してきたのは控訴人編集委員会 である。そして,控訴人編集委員会は,法人ではなく,商標権の主体にな れないため,事務局長である控訴人Xが原告商標の商標権者となったもの であるから,控訴人Xによる被控訴人らに対する原告商標権の行使は,権 利の濫用に当たらない。 ? 争点2-5(控訴人Xの損害額)について ア 控訴人Xの主張 (ア) 被控訴人らによる被告標章1又は2を付した被告出版物1及び2 の販売行為は,控訴人Xの原告商標権の侵害行為に当たるから,被控訴 人らは,控訴人Xに対し,原告商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償 責任を負う。 本件訴訟提起時までの被告出版物1及び2の販売数量は各号約100 13 0部,1冊当たり1200円であることからすると,各号の売上額は, それぞれ約120万円である。 以上によれば,被控訴人らの上記販売行為に係る控訴人Xの商標法3 8条3項に基づく使用料相当額の損害額は,合計50万円を下らない。 (イ) したがって,控訴人Xは,被控訴人らに対し,原告商標権侵害の不 法行為に基づく損害賠償として,50万円及びこれに対する平成30年 11月30日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで改正前民法所定 の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができる。 イ 被控訴人らの主張 控訴人Xの主張は争う。 |
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当裁判所の判断
1 認定事実 以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」第3の1記載のとお りであるから,これを引用する。 ? 原判決16頁10行目の「雑誌「現代の理論」」を「雑誌「現代の理論」 (第 1次)」と,同頁同行目から11行目にかけての「(第1次発行)」を「(大月 書店発行)」と,同頁14行目及び16行目の各「雑誌「現代の理論」」をい ずれも「雑誌「現代の理論」 (第2次)」と改め,同頁15行目の「(第2次発 行)」を削り,同頁20行目の「休刊」を「終刊」と,同頁21行目の「休刊 号」を「「休刊号」」と,同頁25行目の「乙13」を「乙13,17」と改 める。 (2) 原判決17頁7行目から20頁20行目までを次のとおり改める。 「 平成15年11月29日,雑誌「現代の理論」の再刊に向けた設立 会合が開催された。同年12月に発行された「季刊『現代の理論』の 発刊決まる」と題する書面(乙1)には,上記会合において,雑誌「現 代の理論」の発行主体として任意団体「言論NPO・現代の理論」を 14 発足させ,将来的にはNPO法人化を目指すこと,同雑誌の編集主体 は「編集委員会」であることなどが確認された旨が記載されるととも に,同月10日現在の「編集委員会」の編集委員として,A4,A1, A5,A6,A7,A8,A9,A10,A11,A12,A13, A2,A14,A15,A16,A17の氏名が列挙され,「言論NP O・現代の理論」の規約が掲載されている。 また,任意団体「言論NPO・現代の理論」においては, 「言論NP O・現代の理論」の規約10条,11条に従い,理事として,A18, A8,A19,A20,A21,A9,控訴人X,A2が選出され, A2が理事長に,控訴人Xが事務局長に就任した。(乙1)イ 雑誌「現代の理論」 (第3次)は,平成16年6月に季刊誌としての 創刊準備号が発刊された後,同年10月, 現代の理論 「 04秋vol. 1」 (乙2)が発行され,平成19年4月発行の「現代の理論 07春 号vol.11」(乙 12)まで,季刊誌として継続的に発行された。 これらの雑誌の奥付(乙2ないし12)には, 「編集人/A1」「発行 , 人/A2」 「発行所/言論NPO・現代の理論」 「発売/(株)明石書 , , 店」などの記載があった。 平成16年1月10日から平成19年1月18日までの間,A2を 含む乙1記載の「編集委員会」の編集委員とおおむね共通するメンバ ーの編集委員が, 「現代の理論編集委員会」を開催し,雑誌「現代の理 論」(第3次)の企画・編集業務を行っていた。(甲25,33,乙1 ないし13)ウ 平成17年7月15日,任意団体「言論NPO・現代の理論」が特 定非営利活動法人として法人化し,被控訴人NPO(当時の名称「特 定非営利活動法人言論NPO・現代の理論」)が設立された。被控訴人 NPOにおいては,A2が理事長,控訴人Xが副理事長を務め,A5 15 やA10など,上記イの編集委員の大半が理事を務めていた。(甲4, 37)エ(ア) 雑誌「現代の理論」 (第3次)は,販売部数が伸び悩み,財政難 が続いたため, 被控訴人NPOの内部において,平成18年中頃に は明石書店への出版権の譲渡が検討されるようになり,平成19年 1月以降,被控訴人NPOの解散が提案されるようになった。 (甲3 3) (イ) A2は,平成19年2月12日, 控訴人Xに対し,「現代の理 論編集委員会へのメモ」を付したメール(甲17)を送信した。同 メモには,雑誌の発行準備から現状に至るまで,NPO設立と編集 委員会体制で進んできたが,雑誌の発行を中心としてきたために編 集委員会活動が優先し,NPOの活動と体制が未分化のまま進んで きたこと,この未分化状態から脱し,NPOとして自立した活動と 体制の確立を進める必要がある旨が記載されていた。 同年3月3日に開催された被控訴人NPOの理事会において,雑 誌「現代の理論」の出版権を明石書店に譲渡することに伴い被控訴 人NPOを解散させる提案と,A2による被控訴人NPOを存続さ せる提案が議論されたが,被控訴人NPOを解散させる提案に賛成 する意見が多数を占めた。同理事会には,A2のほか,A5,A6, A7,A10,A17,控訴人Xが理事として出席した。 (甲27, 34) A2は,被控訴人NPOの解散に賛成できなかったため,同年4 月19日,控訴人Xに対し,被控訴人NPOの理事長を辞任し,同 月22日の理事会に出席しない旨を記載したメール(甲19)を送 信した。 同日開催された被控訴人NPOの理事会において,A2の理事長 16辞任の申出を受けて当面の理事長の職務は副理事長の控訴人Xが代行することが確認された。そして,同理事会において,雑誌「現代の理論」は,同年6月1日をもって明石書店に出版権を譲渡し,明石書店の出版物として継続して発行すること,同雑誌の誌面内容については,明石書店より委託を受けた現在の編集委員会が編集に当たることが確認された。(甲37) その後,同月27日に開催された被控訴人NPOの社員総会では,被控訴人NPOの解散に関する決議はされず,明石書店への雑誌「現代の理論」の出版権(発行事業)の譲渡に関する決議のみがされた。 また,A2を除く,雑誌「現代の理論」 (第3次)の編集委員会のメンバーのほとんどは,被控訴人NPOの理事を辞任した。 (以上(イ)につき,甲17ないし19,27,30,34ないし37) 平成19年7月1日付けで,被控訴人NPO(理事長代行 控訴人X)「季刊『現代の理論』編集委員会」 , (代表 A1)及び明石書店(代表取締役社長 A3)の3者名義で「季刊『現代の理論』の出版権譲渡に関する覚書き」 (以下「本件覚書」という。甲20)が作成された。 本件覚書には, 「1,言論NPO・現代の理論は季刊『現代の理論』の出版権を,(株)明石書店に無償譲渡し,第12号(07夏号)より明石書店が発行元となる。 , 」「2,季刊『現代の理論』の出版権の譲渡を受けた明石書店は,「新たな言論の公共空間」としての雑誌『現代の理論』の発展を期し,継続発行のため努力する。 , 」「3,譲渡に伴い明石書店に引き継ぐ資産は,@12号以降の定期購読の前納金額。A発刊基金提供者への向こう1年間の定期購読料。B11 17 号以前の執筆者へ,むこう1年間の寄贈に伴う費用とし,その他の 債権・債務は引き継がない。 , 」「4,新たな雑誌『現代の理論』の企 画・編集については,明石書店から委託を請けた現行の編集委員会 が責任を持つ。今後の編集委員会の改革や強化は明石書店と協議し 進める。」などと記載されていた。 本件覚書に基づいて, 雑誌「現代の理論」(第3次)の出版権が 被控訴人NPOから明石書店に無償譲渡された。 (エ) 「現代の理論 07夏号vol.12」 (甲15)は,平成19 年7月10日に明石書店を発行主体(発行所)として発行された。 同号に掲載された「季刊『現代の理論』本号より明石書店が発行」 と題する社告(乙13)には, 「季刊『現代の理論』のご愛読に心よ り感謝申し上げます。読者の皆様へ,本誌は本号(vol.12) より弊社が発行元となることをご報告します。雑誌『現代の理論』 は一九五九年の第一次,六四年からの第二次と,マルクス主義や社 会主義の革新を掲げ,左派の理論誌として日本の論壇に一石を投じ てきました。一九八九年惜しまれつつ停刊した小誌は,二〇〇四年, かつての筆者や読者であった世代が中心となり,発行-言論NP O・現代の理論,編集-『現代の理論』編集委員会として再刊され, 発売は弊社が協力してまいりました。活字離れや硬派の論壇誌を取 り巻く環境の厳しいなかで,熱心な読者や筆者の皆さんに支えられ 自主発行が続けられ, 『現代の理論』に期待する励ましの声,また多 くの新聞の論壇欄で取り上げられるなど一定の社会的認知も進ん できました。この間,NPO,編集委員会,弊社の三者は, 『現代の 理論』の安定的な継続発行とさらなる飛躍をどのように実現するか, 方策についての協議を重ねてきました。その結果,弊社が発行元を 引き受けるのが最善であるとの結論に到達いたしました。日本の論 18 壇史に足跡を築いてきた『現代の理論』を引き受けることは身の引 き締まる思いであり,微力ながら努力する決意であります。なお雑 誌の編集・企画につきましては,従来どおり『現代の理論』編集委 員会にお願いしていきます。継続発行には,何よりも読者の皆様の 支えが頼りであります。従来にも増しますご支援を心からお願いす る次第です。」との記載がされていた。 同号以降も,雑誌「現代の理論」 (第3次)は,明石書店が発行主 体となって季刊誌として継続的に発行され,A2を除く,控訴人X, A17,A1,A7ほかこれまでの同雑誌の編集委員会のメンバー が, 『現代の理論』編集委員会」として明石書店の委託を受けて, 「 これらの雑誌の企画,編集業務を行った。また,これらの雑誌の奥 付(甲15)には, 「編集人/『現代の理論』編集委員会 代表/ A1」「発行人/A3」「発行所/(株)明石書店」などの記載があ , , った。 この間の平成21年3月6日, 「現代の理論編集委員会」名義の貯 金口座(原告口座)が開設された。 オ 被控訴人NPOは,平成20年2月,雑誌「FORUM OPIN ION」を創刊し,季刊誌として継続して発行するようになった。こ れらの雑誌の奥付(甲29)には, 「NPO現代の理論・社会フォーラ ム FORUM OPINION編集委員会」などの記載があった。 また,被控訴人NPOは,同年5月9日,その名称を「特定非営利 活動法人言論NPO・現代の理論」から「特定非営利活動法人NPO 現代の理論・社会フォーラム」に変更した。 カ 明石書店は,平成23年秋頃,雑誌「現代の理論」 (第3次)の発行 事業について財政難が続いていたこと,同雑誌の編集委員会との間に 同事業を巡る金銭トラブルが発生していたことなどもあって,同雑誌 19 の編集委員会に対し,同事業から撤退したい旨の申出をし,同事業の 清算についての話合いがされた。その話合いの結果,雑誌「現代の理 論」 (第3次)は30号をもって終刊とし,終刊号の刊行をもって編集 委員会と明石書店の協同事業は終了し,本件覚書は効力を失うことが 確認(甲28)された。 雑誌「現代の理論」 (第3次)は,平成24年1月,明石書店が発行 事業から撤退し,同年4月, 「現代の理論 12春/終刊号vol.3 0」 (甲16)の発行をもって終刊となった。終刊となった雑誌の奥付 (甲16)には, 「編集・発行人/『現代の理論』編集委員会 代表/ A1, , 」 「発売所/(株)明石書店」などの記載があった。 ? 原告出版物の配信,被告出版物1及び2の発行,販売等 ア 雑誌「現代の理論」 (第3次)の編集委員会のメンバーであった控訴 人X,A17,A10,A5らは,平成26年5月1日, 「現代の理論 編集委員会」を発行人として,ウェブサイト上において,原告出版物 (「現代の理論」季刊電子版)の無料配信を開始した。このことは,同 月8日の毎日新聞夕刊(甲23)で紹介された。(甲3,8) イ 被控訴人NPOは,平成26年7月29日に開催された運営委員会 において,雑誌「現代の理論」の再刊を決定した。 その後,被控訴人NPOは,平成28年2月,雑誌「現代の理論」 デモ版を発行し,同デモ版において同年6月から雑誌「現代の理論」 を再刊することを告知ないし周知した。(乙17) ウ 控訴人Xは,平成28年4月9日,第9類「電子印刷物」及び第1 6類「印刷物」を指定商品として, 「現代の理論」の文字を標準文字で 表してなる原告商標について商標登録出願をした。 エ(ア) A17及び控訴人Xは,「現代の理論編集委員会 A17 X」 の名義で,平成28年6月17日,被控訴人NPOに対し, 「現代の 20 理論」は「現代の理論編集委員会」がその名称の季刊誌をかつて発 行し,現在もウェブ上でその季刊誌を引き継いで同じ表題のもと電 子出版物として発行しているところ,被控訴人NPOが同名の出版 物を発行することになると,読者や関係者を混乱させることになる などとして, 「現代の理論」という名称を出版物に付すことの中止を 求める旨の申入書(甲11)を送付した。 一方,被控訴人NPOは,同月,雑誌「FORUM OPINI ON」の題号を「現代の理論」へ改題して,被告標章1を表紙に付 した被告出版物1の発行,販売を開始した。 (イ) A5,A10及び控訴人Xは, 「現代の理論編集委員会 代表編 集委員A5,同A10,事務局担当者X」の名義で,平成29年9 月6日,被控訴人同時代社に対し,被控訴人NPOが発行する「現 代の理論」と称する出版物の発売元とならないことなどを求める旨 の「申入れ」と題する書面(甲12)を送付した。 控訴人Xは,平成29年9月8日,原告商標権の設定登録を受け た。 (エ) 被控訴人NPOは,平成29年10月以降,被告標章2を表紙 に付した被告出版物2を発行,販売し,被控訴人同時代社は,その 発売元として,これらを販売した。 ? 本件訴訟に至る経緯等 ア 被控訴人NPOは,平成29年12月4日,商標法4条1項8号, 10号,15号,19号及び3条1項柱書違反を異議申立理由として, 本件商標の商標登録について登録異議の申立て(異議2017-90 0365号事件)をした。 特許庁は,平成30年3月15日,上記異議申立理由はいずれも認 められないとして,原告商標の商標登録を維持する旨の決定(甲14) 21 をし,同決定は,同月26日,確定した。 イ 控訴人らは,平成30年10月15日,原審に本件訴訟を提起した。 ウ 被控訴人NPOは,令和2年9月10日,原告商標の指定商品中, 第16類「印刷物」に係る商標登録について,商標法50条1項所定 の商標登録取消審判(別件審判)を請求し,同年10月1日,その予 告登録がされた。 特許庁は,令和3年2月12日,原告商標の指定商品中,第16類 「印刷物」についての商標登録を取り消す旨の別件審決(乙18)を し,別件審決は,同年3月24日,確定した。」2 争点1-1(控訴人編集委員会の当事者能力の有無)について 以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第3の2?記載の とおりであるから,これを引用する。 ? 原判決21頁15行目の「原告規約(甲1)7条には」を「2014年3 月9日付けの原告規約(甲1)3条には, 「本会は,季刊『現代の理論』の編 集事業を行なうことを目的とする。季刊『現代の理論』の編集・発行・発信 は本会が責任をもって行ない,内容等に関しては他の団体・個人の介入を許 さない。」と記載され,原告規約7条には」と,同頁20行目から21行目に かけての「被告NPOの前身である「言論NPO・現代の理論」の」を「雑 誌「現代の理論」 (第3次)の」と,同頁25行目の「実際の」を「雑誌「現 代の理論」(第3次)の実際の」と改める。 (2) 原判決21頁末行の「原告編集委員会」から22頁1行目の「言い難い。」 までを「同雑誌の編集委員会の構成員たる編集委員が原告規約付則1の編集 委員名簿記載の者で構成されていたものとは言い難い。 と改め, 」 同頁2行目 の「原告編集委員会は,」の次に「平成16年当時,任意団体「言論NPO・ 現代の理論」に控訴人編集委員会と別の編集委員会が存在したという事実は なく,」を加え,同頁4行目の「原告」から5行目末尾までを「控訴人らも, 22 実際には「編集委員」の名簿を作成していない旨を自認している。 と改める。 」? 原判決22頁6行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「 また,前記認定事実によれば,雑誌「現代の理論」 (第3次)は,平成1 6年に季刊誌として創刊された当初から,被控訴人NPO又はその前身の 任意団体「言論NPO・現代の理論」がその発行主体であったところ,平 成19年7月1日,その出版権が明石書店に譲渡された際に,その当時の 雑誌「現代の理論」 (第3次)の編集委員会のメンバーのほとんどが被控訴 人NPOの理事を辞任し,これらの者が,被控訴人NPOから離れた立場 で,明石書店から委託を受け,引き続き同雑誌の編集委員会を構成し,同 雑誌の編集業務を担ってきたこと,雑誌「現代の理論」 (第3次)は,平成 24年4月に終刊したこと,その約2年後の平成26年5月から,同編集 委員会のメンバーであった,控訴人X,A17,A10,A5らが, 「現代 の理論編集委員会」 (控訴人編集委員会)として,ウェブサイト上で,原告 出版物の配信を開始したことが認められる。これらの事実に鑑みると,雑 誌「現代の理論」 (第3次)の当初の「編集委員会」と,明石書店から編集 の委託を受けた「編集委員会」と,原告出版物の編集を担っている「編集 委員会」 (控訴人編集委員会)との間には,メンバーの重複があっても,組 織としての連続性がないというべきである。 そうすると,控訴人編集委員会が,平成16年に,雑誌「現代の理論」 の企画・編集業務を担うために作られた組織であると認めることはできな いし,その組織が現在まで継続して存続しているものと認めることもでき ない。」? 原判決22頁7行目の「また,」を「次に,」と改める。 ? 原判決23頁2行目の「上記」の次に「平成30年9月25日付けの」を 加え,同頁6行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「 この点に関し控訴人編集委員会は,「総会」と銘打って開催されていな 23 くとも,編集委員会議が開催され,重要事項について決議がされている実 態がある旨主張するが,原告規約6条の総会決議事項について編集委員会 議で決議されていたことを認めるに足りる証拠はない。」 ? 原判決24頁2行目から6行目までを削る。 3 争点2-1(控訴人Xと被控訴人NPO間の本件合意の成否)について 控訴人Xは,仮に控訴人編集委員会が権利能力なき社団に該当しない場合に は,平成19年春頃から平成20年5月9日までの間に,控訴人編集委員会の 構成員である控訴人Xと被控訴人NPOとの間で,被控訴人NPOが「現代の 理論」という名称の出版物を発行しない旨の本件合意が成立した旨を主張する。 しかしながら,被控訴人NPOが,控訴人X個人との間で,本件合意をした ことが記載された合意書等の証拠はなく,本件全証拠を精査しても,本件合意 が成立したことを認めるに足りる証拠はない。 また,被控訴人NPOが同年2月に雑誌「FORUM OPINION」を 創刊した後,平成28年に被告出版物1?を発行するまでの間,被控訴人NP Oが発行する雑誌に「現代の理論」の題号を使用しなかったからといって,そ のことが直ちに被控訴人NPOが控訴人X個人との間で本件合意をしたことの 根拠になるものではない。 したがって,控訴人Xの被控訴人らに対する本件合意に基づく請求は,その 余の点について判断するまでもなく,理由がない。 4 争点2-2(原告商標の商標登録に係る無効の抗弁の成否)について 被控訴人らは,原告商標の商標登録には,商標法4条1項8号,15号又は 19号違反の無効理由があり,商標登録無効審判により無効とされるべきもの であるから,商標法39条が準用する特許法104条の3第1項の規定により, 控訴人Xは,被控訴人らに対し,原告商標権を行使することはできない旨主張 するので,以下において判断する。 ? 商標法4条1項8号について 24 被控訴人らは,被控訴人NPOは,設立時から一貫してその名称に「現代 の理論」を使用してきたこと,発行雑誌の名称も「現代の理論」であり,か つ,大学教授や国会議員等を招き,フォーラム,シンポジウム,研究会等を 定期的に開催するなど,これに関連する幅広い活動を行ってきたことからす ると, 「現代の理論」は,長年の歴史を有する雑誌「現代の理論」の発行事業 を再開した被控訴人NPOの略称として著名であったとして,「現代の理論」 の文字を標準文字で表してなる原告商標は,被控訴人NPOの名称の著名な 略称である「現代の理論」を含むものであるから,原告商標の商標登録には 商標法4条1項8号違反の無効理由がある旨主張する。 しかしながら,被控訴人NPOの名称である「特定非営利活動法人NPO 現代の理論・社会フォーラム」中の「NPO現代の理論・社会フォーラム」 の文字部分と「現代の理論」の文字とは外観及び称呼が異なることは明らか であり,同一の標章であるとはいえないから, 「NPO現代の理論・社会フォ ーラム」の文字部分中に「現代の理論」の文字が含まれるからといって,被 控訴人NPOがその事業活動において自己の名称として「現代の理論」の文 字部分を他の構成から独立して使用してきたものということはできない。 また,本件においては,そもそも「現代の理論」が被控訴人NPOを示す 略称として使用されてきたことを認めるに足りる証拠はないのみならず, 現 「 代の理論」が被控訴人NPOを示す略称として一般に知られていたことを認 めるに足りる証拠はないから, 「現代の理論」は,被控訴人NPOの「著名な 略称」に該当するものと認めることはできない。 したがって,被控訴人らの上記主張は,理由がない。 ? 商標法4条1項15号について 被控訴人らは,原告商標は,前記?で述べた事情によれば,被控訴人NP Oの季刊誌「現代の理論」及び同「FORUM OPINION NPO現 代の理論・社会フォーラム」の発行業務に係る商品又は役務と混同を生ずる 25おそれがある商標に該当するから,原告商標の商標登録には商標法4条1項15号違反の無効理由がある旨主張する。 そこで検討するに,前記?で説示したとおり, 「現代の理論」が被控訴人NPOを示す略称として使用されてきたことを認めるに足りる証拠はないのみならず, 「現代の理論」が被控訴人NPOを示す略称として一般に知られていたことを認めるに足りる証拠はない。 次に,前記認定事実によれば,被控訴人NPO又はその前身の任意団体「言論NPO・現代の理論」は,平成16年6月から平成19年4月までの間,雑誌「現代の理論」(第3次)(創刊準備号から「07春号vol.11」まで)を発行主体(発行所)として発行してきたことが認められ,これによって「現代の理論」という標章を雑誌に使用したものといえるが,一方で,証拠(甲25の7,41)によれば,これらのうち,「05新春号vol.2」から「07春号vol.11」までの各号の発行部数は各4000部,販売部数は書店で各1000部程度,定期購読で各600部程度にすぎないことが認められる。 また,前記認定事実のとおり,被控訴人NPOが平成20年2月以降,雑誌「FORUM OPINION」を季刊誌として継続して発行するようになったが,その題号は「現代の理論」と異なるのみならず,その題号の下に表された「NPO現代の理論・社会フォーラム」の文字(甲29)も, 「現代の理論」の標章と同一であるとはいえないから,被控訴人NPOによる雑誌「FORUM OPINION」の発行は, 「現代の理論」という標章の使用に当たるものと認めることはできない。 加えて,原告商標の指定商品中「印刷物」は,その対象に限定がないことからすると,需要者は,一般消費者であると認めるのが相当であることに鑑みると,原告商標の出願時(平成28年4月9日)及び登録査定時(平成29年8月29日)において, 「現代の理論」という標章は,被控訴人NPOの 26 業務に係る商品(「印刷物」)又は役務を表示するものとして,需要者の間に 広く認識されていたものとは認められず,周知又は著名であったとはいえな い。 以上によれば,原告商標は,被控訴人NPOの業務に係る商品又は役務と 混同を生ずるおそれがある商標に該当するものと認められないから,被控訴 人らの上記主張は理由がない。 (3) 商標法4条1項19号について 被控訴人らは,原告商標は,被控訴人NPOの業務に係る商品又は役務を 表示するものとして周知な「現代の理論」という標章と同一の商標であって, 不正の目的をもって使用をするものに該当するから,原告商標の商標登録に は商標法4条1項19号違反の無効理由がある旨主張する。 しかしながら,前記?で説示したのと同様の理由により,原告商標の出願 時(平成28年4月9日)及び登録査定時(平成29年8月29日)におい て, 「現代の理論」という標章は,被控訴人NPOの業務に係る商品又は役務 を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていたものとは認めるこ とはできないから,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人らの 上記主張は理由がない。 ? 小括 以上によれば,被控訴人主張の無効の抗弁は,理由がない。 5 争点2-3(被控訴人NPOの先使用権の成否)について 被控訴人らは,被控訴人NPO又はその前身の任意団体「言論NPO・現代 の理論」は,原告商標の出願前の平成16年10月に雑誌「現代の理論」 (第3 次)を発刊した以降,「現代の理論」という標章を雑誌名として使用しており, 原告商標の出願時において, 「現代の理論」という標章は,いわゆる構造改革派 と呼ばれた知識社会の厚い層をなす思想家・変革者や学会・教授等の知識階級 を中心とする比較的限られた読者層の中では知らない者はいないほど周知とな 27 っていたから,被控訴人NPOは,商標法32条1項に基づく先使用権を有す る旨主張する。 しかしながら,前記4?で説示したのと同様の理由により,原告商標の出願 時(平成28年4月9日)において, 「現代の理論」という標章は,被控訴人N POの業務に係る商品又は役務を表示するものとして,需要者の間に広く認識 されていたものと認めることはできない。 また,前記認定事実によれば,被控訴人NPOは,平成19年7月に雑誌「現 代の理論」 (第3次)の出版権を明石書店に譲渡した以降,平成28年2月に雑 誌「現代の理論」デモ版を発行するまでの7年以上にわたり,その発行する雑 誌に「現代の理論」という標章を使用していないから, 「現代の理論」という標 章を継続して使用していたものとは認められない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人らの上記主 張は,理由がない。 6 争点2-4(権利の濫用の成否)について (1) 被控訴人らは,被控訴人NPOは,雑誌の名称に自らの略称である「現代 の理論」を付した上で,その発行業務を行ってきたものであり,現代の理論」 「 という標章は,被控訴人NPOの業務に係る商品又は役務を表示するものと して周知となっていたこと,このような状況の下で,控訴人Xは,被控訴人 NPOが平成28年6月から雑誌「現代の理論」 (被告出版物1)を再刊する ことを知り,同年4月に原告商標の商標登録出願をしたこと,被控訴人NP Oが,原告商標の存在により,自らの略称である「現代の理論」を使用でき ないとすれば,著しく大きい不利益を受ける一方で,控訴人Xらは,原告出 版物を無料で配信しているだけであり,被控訴人らによる「現代の理論」と いう標章の使用により何らの不利益も受けないことからすると,控訴人Xは, 被控訴人NPOに対する嫌がらせを目的として,既に周知となっている「現 代の理論」という標章を使用できなくするために,上記商標登録出願及び本 28件訴訟を提起したものであり,上記商標登録出願及び本件訴訟の提起は,不正の目的によるものであるから,控訴人Xによる被控訴人らに対する原告商標権の行使は,権利の濫用に当たり許されない旨主張する。 しかしながら,前記4?及び?で説示したとおり, 「現代の理論」が被控訴人NPOを示す略称として使用されてきたことを認めるに足りる証拠はないのみならず, 「現代の理論」が被控訴人NPOを示す略称として一般に知られていたことを認めるに足りる証拠はなく,また,原告商標の出願時(平成28年4月9日)において, 「現代の理論」という標章が,被控訴人NPOの業務に係る商品又は役務を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできず,周知であったということはできない。 さらに,前記認定事実によれば,平成24年4月に雑誌「現代の理論」 (第3次)が終刊となった後の平成26年5月1日, 「現代の理論」 雑誌 (第3次)の編集委員会のメンバーであった控訴人X,A17,A10,A5らが, 「現代の理論編集委員会」を発行人として,原告出版物(「現代の理論」季刊電子版)の無料配信を開始したこと,被控訴人NPOは,平成19年7月に雑誌「現代の理論」 (第3次)の出版権を明石書店に譲渡した後,その発行する雑誌に「現代の理論」という標章を使用していなかったが,平成28年2月,雑誌「現代の理論」デモ版を発行し,同デモ版において同年6月から雑誌「現代の理論」を再刊することを告知ないし周知したこと,控訴人Xは,これを知り,同年4月9日,原告商標(「現代の理論」の標準文字)の商標登録出願をしたことが認められる。加えて,被控訴人NPOが,原告出版物(「現代の理論」季刊電子版)の題号と同一又は類似する「現代の理論」という標章を題号に付した雑誌を発行することは,その媒体を異にするとしても,両者について同一の主体から発信又は発行されているものであると読者が認識するなどの不都合が生ずるおそれがあることを勘案すると,控訴人Xが原告出版物に使用される原告商標について商標登録出願を行うことに不正の目的があ 29 ったものと認めることはできない。 以上によれば,被控訴人らの上記主張は,その前提において理由がないか ら,採用することができない。 ? 次に,被控訴人らは,当審において,@昭和34年から長年にわたって使 用され,需要者の間で周知になっている雑誌「現代の理論」の表示について は,平成16年以降,被控訴人NPO又は明石書店が雑誌「現代の理論」の 発行主体であって,上記表示の使用主体であり,控訴人Xは,これらの発行 主体の内部組織である編集委員会の一構成員にすぎないこと,A被控訴人ら は,平成29年10月以降現在に至るまで,被告出版物1及び2を出版,発 行して雑誌「現代の理論」の発刊事業を継続していること,B原告商標の指 定商品中「印刷物」の商標登録については,別件審決により取り消されてお り,控訴人Xには,雑誌「現代の理論」を出版する意思も能力もなかったこ とからすると,控訴人Xのみが雑誌「現代の理論」の表示の周知性等の獲得 等に貢献しているといえないから,控訴人Xによる被控訴人らに対する原告 商標権の行使は,客観的に公正な競業秩序に背反するものであり,権利の濫 用として許されない旨主張する。 しかしながら,前記4(2)で説示したとおり,原告商標の出願時(平成28 年4月9日)において, 「現代の理論」という標章が,被控訴人NPOの業務 に係る商品又は役務を表示するものとして,需要者の間に広く認識されてい たものと認めることはできず,周知であったということはできない。 また,前記認定事実によれば,雑誌「現代の理論」 (第1次)は,昭和34 年5月に月刊誌として創刊された後,同年9月頃に終刊となったこと,雑誌 「現代の理論」 (第2次)は,昭和39年1月に再刊されたが,平成元年12 月に再び終刊となったこと,その約14年後の平成16年に雑誌「現代の理 論」 (第3次)が季刊誌として創刊された後,平成24年4月に終刊となった ことが認められる。このような雑誌「現代の理論」 (第1次ないし第3次)の 30 発刊及び終刊の経緯,雑誌「現代の理論」 (第2次)の終刊に際しては,平成 元年12月27日付け朝日新聞書籍欄に「休刊宣言」が掲載され,「休刊号」 は「戦後史と『現代の理論』」を特集し,A22,A23,A24,A4らと いった再刊時からの構成員に加え,A25を含む学者や評論家等の論客が揃 い,A26やA27らも寄稿したこと(前記認定事実?)等を踏まえても, 雑誌「現代の理論」 (第2次)の終刊から約29年が経過した本件訴訟提起の 時点(平成30年10月15日)において,雑誌「現代の理論」の表示その ものが需要者である一般消費者の間で周知であったものと認めることはでき ないし,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 さらに,控訴人Xが雑誌「現代の理論」 (第3次)の当初の「編集委員会」 及び明石書店から編集の委託を受けた「編集委員会」のメンバーであったか らといって,雑誌「現代の理論」(第3次)の終刊後,原告出版物(「現代の 理論」季刊電子版)の配信が開始された後の控訴人Xによる原告商標の商標 登録出願及び原告商標権に基づく権利行使が不当であるということもできな い。 したがって,控訴人らの上記主張は,採用することができない。 7 争点2-5(控訴人Xの損害額)について ? 被控訴人らの不法行為責任 ア 原告商標は,「現代の理論」の文字を標準文字で表してなる商標であり, また,被告標章1は,別紙標章目録記載1のとおり,ゴシック体風の書体 で「現代の理論」の文字を横書きしてなる標章,被告標章2は,同目録記 載2のとおり,筆書き風の書体で「現代の理論」の文字を縦書きしてなる 標章である。 原告商標と被告標章1は,書体が異なるが,構成文字が共通し,外観が 類似すること, 「ゲンダイノリロン」の称呼が生ずる点で称呼が同一である ことからすると,原告商標と被告標章1が原告商標の指定商品である「印 31 刷物」に使用された場合には,その商品の出所について誤認混同を生ずる おそれがあるものといえるから,被告標章1は原告商標に類似する商標で ある。同様に,被告標章2も,原告商標に類似する商標である。 イ 加えて,被告出版物1及び2は,原告商標の指定商品である「印刷物」 に含まれることからすると,本件訴訟提起日(平成30年10月15日) 前の被控訴人NPOによる被告標章1が表紙に付された被告出版物1?な いし?及び被告標章2が表紙に付された被告出版物1?の販売並びに被控 訴人らによる被告標章2が表紙に付された被告出版物2の販売は,原告商 標と類似する商標の使用に当たり,原告商標権の侵害とみなす行為(商標 法37条1号)に該当するというべきである。 そして,被控訴人らにおいては,過失があったものと推定されるから(同 法39条において準用する特許法103条),被控訴人NPOによる被告 出版物1の上記販売は,原告商標権侵害の不法行為を構成し,被控訴人ら による被告出版物2の上記販売は,原告商標権侵害の共同不法行為を構成 するものと認められる。 したがって,被控訴人らは,控訴人Xに対し,原告商標権侵害の不法行 為に基づく損害賠償義務を負うものというべきである。 (2) 商標法38条3項に基づく使用料相当額の損害額 証拠(乙21ないし29,証人A2)及び弁論の全趣旨によれば,@被控 訴人NPOは,平成28年7月頃から平成29年7月頃までの間,被告出版 物1を1冊当たり800円で合計5000部(各号1000部ずつ)販売し たこと,A被控訴人らは,同年10月頃から平成30年7月頃までの間,被 告出版物2を1冊当たり1200円で合計4000部(各号1000部ずつ) 販売したことが認められる。 そうすると,被告出版物1の売上高は合計400万円,被告出版物2の売 上高は合計480万円と認められる。 32 そして,商標権のロイヤルティ料率の平均値は,約2.6%とされている こと(平成22年8月31日発行の経済産業省知的財産政策室編「ロイヤル ティ料率データハンドブック」15頁参照) 被告出版物1及び2がいわゆる , オピニオン誌であること,被控訴人らによる原告商標権の侵害行為の態様そ の他本件の諸般の事情を総合考慮すると,控訴人Xの商標法38条3項に基 づく使用料相当額の損害額は,被告出版物1及び2の上記売上高の3パーセ ントと認めるのが相当である。 したがって,控訴人Xの商標法38条3項に基づく使用料相当額の損害額 は,被告出版物1については12万円,被告出版物2については14万40 00円と認められる。 (3) 小括 以上によれば,控訴人Xは,被控訴人NPOに対し,被告出版物1の販売 に係る原告商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償として12万円及びこれ に対する平成30年11月30日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで 改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,被控訴人らに対 し,被告出版物2の販売に係る原告商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償 として14万4000円及びこれに対する同日から支払済みまで改正前民法 所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができる。 |
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結論
以上によれば,控訴人編集委員会の本件訴えは,いずれも不適法であるから 却下すべきものであり,また,控訴人Xの請求は,被控訴人NPOに対し,1 2万円及びこれに対する平成30年11月30日から支払済みまで年5分の割 合による金員の支払を,被控訴人らに対し,14万4000円及びこれに対す る同日から支払済みまで年5分の割合による金員の連帯支払を求める限度で理 由があり,その余は理由がないから棄却すべきものである。 したがって,原判決は一部不当であって,控訴人Xの控訴は一部理由がある 33から,原判決を本判決主文第1項のとおり変更することとし,控訴人編集委員会の控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
34(別紙)出版物目録1?『現代の理論』2016年夏号(通巻33号)?『現代の理論』2016年秋号(通巻34号)?『現代の理論』2017年新春号(通巻35号)?『現代の理論』2017年春号(通巻36号)?『現代の理論』2017年夏号2?『現代の理論』2017年秋号ISBN/カタログNo:ISBN‐10:488683826X,ISBN‐13:978‐4886838261?『現代の理論』2018年冬号ISBN/カタログNo:ISBN‐10:4886838324,ISBN‐13:978‐4886838322?『現代の理論』2018年春号ISBN/カタログNo:ISBN‐10:4886838367,ISBN‐13:978‐4886838360?『現代の理論』2018年夏号ISBN/カタログNo:ISBN‐10:4886838405,ISBN‐13:978‐488683840735(別紙)標章目録1236 |
裁判長裁判官 | 大鷹一郎 |
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裁判官 | 小林康彦 |
裁判官 | 小川卓逸 |