運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 取消2019-300170
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙2PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙3PDFを見る pdf
事件 令和 3年 (行ケ) 10047号 審決取消請求事件

原告X
同訴訟代理人弁護士 山形学
被告Y
同訴訟代理人弁護士 吉田和彦 外村玲子
同訴訟代理人弁理士 松下友哉 北原絵梨子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2021/09/15
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が取消2019−300170号事件について令和3年3月5日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文第1項と同旨
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は,以下のとおりの商標登録第5436729号商標(以下「本件商 標」という。)の商標権者である(甲52)。
商 標 福米(標準文字) 登録出願日 平成22年11月9日 設定登録日 平成23年9月9日 指定商品 第30類「米」 1 ? 被告は,平成31年3月1日,本件商標の商標登録について,商標法50 条1項所定の商標登録取消審判(取消2019-300170号事件。以下 「本件審判」という。)を請求し,同月18日,その登録がされた。
特許庁は,令和3年3月5日,本件商標の商標登録を取り消す旨の審決(以 下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月15日,原告に送達され た。
? 原告は,令和3年4月9日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し た。
2 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。
その要旨は,@原告が本件審判の請求の登録前3年以内の期間(以下「要証期間」という。)内に本件商標が付された商品「米」を桂ヶ丘開発株式会社(以下「桂ヶ丘開発」という。),勝田環境株式会社(以下「勝田環境」という。)及び桂ヶ丘開発が運営するゴルフ場「桂ヶ丘カントリークラブ」(以下「本件ゴルフ場」という。)開催のゴルフコンペの幹事の者に販売した事実は,いずれも認められない,A原告が要証期間内に「ふくまい」,「福米」が表示されたステッカー(以下「本件ステッカー」という。審判乙14・本訴甲24(以下,単に「甲24」という。))を商品「米」の包装に貼付した事実は認められない,B勝田環境が要証期間内にその運営する食堂「ななかまど」において商品「米」に関する広告に本件商標を付したものを展示又は頒布した事実は認められず,また,原告が勝田環境に対して本件商標の使用を許諾した証明書の提出はないから,勝田環境は,本件商標の通常使用権者であると認めることはできない,C桂ヶ丘開発が平成30年11月14日に本件ゴルフ場のクラブハウスのロビー内の物販コーナーで「福米2018」と表示された米を販売のため展示していたとしても,原告が桂ヶ丘開発に対して本件商標の使用を許諾した証明書の提出はないから,桂ヶ丘開発は,本件商標の通常使用権者であると 2 認めることはできない,Dしたがって,原告は,要証期間内に,日本国内にお いて商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが本件審判の請求に 係る指定商品について本件商標を使用していた事実を証明したものと認められ ず,また,原告は,上記指定商品について本件商標の使用をしていないことに ついて正当な理由があることも明らかにしていないから,本件商標の商標登録 は,商標法50条の規定により,取り消すべきものであるというものである。
3 取消事由 本件商標の使用の事実の判断の誤り
当事者の主張
1 原告の主張 ? 原告及び桂ヶ丘開発による本件商標の使用 ア 原告は,業として,商品「米」を販売する個人事業者である。
また,原告は,勝田環境の代表取締役及び本件ゴルフ場を運営する桂ヶ 丘開発の代表取締役である。
イ 原告は,平成28年10月から,桂ヶ丘開発に対し,商品「米」を卸売 販売していた。
桂ヶ丘開発は,平成30年10月1日から同年11月末日までの間,本 件ゴルフ場のクラブハウスにおいて,ゴルフ場の利用者に対し,別紙記載 の本件ステッカー(甲24)が米袋に貼付された新米(銘柄「福米201 8」。以下,単に「福米2018」という場合がある。)を販売した(甲4 6の1ないし9)。
桂ヶ丘開発は,上記販売に先立ち,原告から,福米2018を購入した。
ウ(ア) 本件ステッカーは,原告又は桂ヶ丘開発によって,「福米2018」 の米袋に貼付されたものである。
本件ステッカーには,別紙記載のとおり,「ふくまい」 「福( , 「福」の 文字を丸で囲んでなる)米」及び「登録商標 福米2018」の各文字, 3 「Xの似顔絵」等が表示されている。撮影日2018年11月14日の 2枚の写真(以下「本件各写真」という。審判乙18・本訴甲28(以 下,単に「甲28」という。 ,甲56はその画像データ)は,本件ゴル ) フ場のクラブハウスのロビーにおいて本件ステッカーが米袋に貼付され た「福米2018」が販売のため展示されている様子を撮影したもので ある。本件各写真から,遅くとも同日時点までに,本件ステッカーが作 成されていたことは明らかである。
(イ) 本件ステッカーに表示された「ふくまい」及び「福(「福」の文字を 丸で囲んでなる)米」の各文字は, 「福米」の文字を標準文字で表してな る本件商標と社会通念上同一の商標である。
(ウ) 前記イのとおり,原告が桂ヶ丘開発に対して本件ステッカーが米袋 に貼付された「福米2018」を販売した行為及び桂ヶ丘開発が本件ゴ ルフ場の利用者に対して本件ステッカーが米袋に貼付された「福米20 18」を販売した行為は,それぞれ本件商標と社会通念上同一の商標を 「商品の包装」に付し, 「商品の包装に標章を付したもの」を譲渡し又は 引き渡す行為(商標法2条3項1号,2号)に該当するから,本件商標 の使用に当たる。
? 桂ヶ丘開発が本件商標の通常使用権者であること 桂ヶ丘開発の代表取締役である原告は,桂ヶ丘開発に対し,本件商標の使 用を黙示的に許諾していたから,桂ヶ丘開発は,本件商標の通常使用権者で ある。
? 小括 以上によれば,原告は,要証期間内に,日本国内において,本件商標の商 標権者である原告及び通常使用権者である桂ヶ丘開発が,本件審判の請求に 係る指定商品に含まれる商品(「福米2018」)について,本件商標を使用 していたことを証明したといえるから,これと異なる本件審決の判断は誤り 4 である。
したがって,本件審決は取り消されるべきである。
2 被告の主張 ? 原告及び桂ヶ丘開発による本件商標の使用の主張に対し 桂ヶ丘開発が平成30年10月1日から同年11月末日までの間に本件 ゴルフ場の利用者に対し本件ステッカーが米袋に貼付された福米2018を 販売した事実及び原告が本件ステッカーを福米2018の米袋に貼付して, これを桂ヶ丘開発に販売した事実は,いずれも否認する。以下のとおり,原 告が挙げる各証拠は,いずれも上記各販売の事実を裏付ける客観的な証拠と はなり得ない。
ア 桂ヶ丘開発による本件ステッカーが貼付された福米2018の販売の主 張に対し (ア) 本件各写真(甲28)の撮影日が2018年11月14日であるこ とは否認する。本件各写真の撮影日が同日であることの客観的な裏付け がないこと,本件各写真には, 「2018/11/14」と日付が入っている が,原告提出の他の写真(甲15,29ないし31)には日付が入ってい ないこと,本件ゴルフ場のクラブハウスのフロント付近で日常的に販売さ れている商品をわざわざ写真撮影する理由も考え難いこと,本件ゴルフ場 は,原告が代表取締役を務める桂ヶ丘開発が運営するゴルフ場であるから, 要証期間外でも客の少ない時間にフロント前に商品を陳列し,写真を撮影 することは容易であることからすると,本件各写真の撮影日が同日である か疑わしいといわざるを得ない。
(イ) 桂ヶ丘開発による本件ゴルフ場の利用者に対する福米2018の販 売について原告が証拠として挙げる桂ヶ丘開発行名義の「精算書控」及び 「御精算書」(甲46の1ないし9)は,本件審判段階では提出されず, 本件訴訟に至って初めて提出されたものであること,桂ヶ丘開発は原告が 5 代表取締役を務める会社であり,発行名義を桂ヶ丘開発とする精算書をい つでも作成できること,令和3年6月20日に本件ゴルフ場のクラブハウ ス内の物販コーナーで「福米」を表示した米が販売された際に発行された 「御精算書」(乙1)には,「福米」の文字の記載がなく,甲46の1ない し9記載の発行日付当時に実際に発行されていた精算書に「福米」の文字 が表示されていたものとは,にわかに信用し難いことに照らすと,甲46 の1ないし9の証明力は低いというべきである。
(ウ) 桂ヶ丘開発が本件ゴルフ場の利用者に対し本件ステッカーが米袋に 貼付された福米2018を販売したとの原告の主張は,本件審判段階で, 原告が本件ゴルフ場のクラブハウス内で一般客に対して自ら商品「米」 の販売を行ったと主張していたこと及びその立証のために提出された桂 ヶ丘開発の取締役会議事録(甲45)の記載と矛盾する。
イ 桂ヶ丘開発による本件ステッカーが貼付された福米2018の販売の主 張に対し 本件各写真に撮影された「福米2018」「5kg・2kg」「2,20 , , 0円 700円」と記載された価格表(以下「本件価格表」という。)によ れば,2018年11月頃本件ゴルフ場のクラブハウスのロビー内で販売さ れていた米は,2kgの米(700円)と5kgの米(2200円)のはず であるが,原告が本件ゴルフ場に交付した平成30年(2018年)10月 1日付け納品書(甲14)には, 「2018年 新米」「数量30」「単価4 , , 200円」「合計金額12万6000円」と記載されており,その価格から , みて,2kgの米と5kgの米のいずれにも当たらない。
加えて,原告の同年分の確定申告書(甲49の4)において,原告が桂ヶ 丘に販売した米は,上記納品書記載の同年10月1日に販売した12万60 00円分以外にないことからすると,原告が同年中に桂ヶ丘カントリークラ ブに2kgと5kgに袋詰めされた米を販売した事実は認められない。
6 したがって,原告が本件ステッカーを福米2018の米袋に貼付して, これを桂ヶ丘開発に販売した事実は,認められない。
? 桂ヶ丘開発が本件商標の通常使用権者であるとの主張に対し 原告が桂ヶ丘開発に対して本件商標の通常使用権の許諾をした事実は否 認する。
原告の主張によれば,桂ヶ丘開発は原告から商品を購入して販売するだけの 者であり,転々流通する商品を取り扱う者は通常使用権者とはいえないから, 桂ヶ丘開発は,本件商標の通常使用権者に当たらない。
? 小括 以上によれば,原告は,要証期間内に,日本国内において,原告又は本件 商標の通常使用権者が,本件審判の請求に係る指定商品に本件商標を使用し ていたことを証明したものといえないから,本件審決の判断に誤りはない。
したがって,原告主張の取消事由は理由がない。
当裁判所の判断
1 認定事実 ? 前記第2の1の事実と証拠(甲3,4,11ないし14,16ないし18, 24ないし26,28,46ないし50,54,56(枝番のあるものはい ずれも枝番を含む。 ) ) 及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア(ア) 原告は,茨城県内で,米の販売をする個人事業者である。
(イ) 桂ヶ丘開発は,昭和60年に設立された,ゴルフ場の造成,経営等を 目的とする株式会社であり,茨城県内で,本件ゴルフ場を経営している。
原告は,平成24年9月18日に桂ヶ丘開発の代表取締役に就任し, 平成30年3月2日に辞任した後,令和2年3月13日,再び就任し, 同日以降,その代表取締役の地位にある(甲26)。
また,原告は,一般廃棄物収集,運搬及び処理等を目的とする株式会 社である勝田環境の代表取締役である(甲25)。
7 イ(ア) 原告は,平成22年11月9日,本件商標(「福米」の文字を標準文 字で表してなる商標)について商標登録出願をし,平成23年9月9日, 商標権の設定登録を受けた。
(イ) 原告は,平成28年10月頃から,桂ヶ丘開発及び勝田環境に対し, 原告が生産した米や自家用野菜を販売するようになった(甲16ないし 18,47の4,48の4)。
ウ(ア) 原告は,平成30年10月1日,桂ヶ丘開発に対し, 「2018年の 新米」を「数量」30, 「単価」4200円,代金合計12万6000円 (甲14)で販売し,これを納品した(甲14,49の4)。
(イ) 桂ヶ丘開発は,本件ゴルフ場のクラブハウスにおいて,平成30年 10月4日,本件ゴルフ場の利用者のAに対し, 「福米」 (5kg)1袋 を代金2200円(甲46の1)で,同月8日,同利用者のBに対し, 「福米」 (5kg)2袋を代金4400円(甲46の2) 同月15日, で, 同利用者のCに対し, 「福米」 (5kg)1袋を代金2200円(甲46 の3,8)で,同月21日,同利用者のDに対し, 「福米」 (5kg)1 袋を代金2200円(甲46の5)で,同月28日,同利用者のEに対 し, 「福米」 (5kg)2袋を代金4400円(甲46の6)で,同年1 1月18日,同利用者のFに対し, 「福米」 (5kg)2袋を代金440 0円(甲46の7)で,それぞれ販売した。
(ウ) 平成30年11月14日に撮影した2枚の本件各写真(甲28,5 6)は,本件ゴルフ場のクラブハウスのロビー内に設置された台の上に, 別紙記載の本件ステッカー(甲24)が貼付された米袋が陳列された状 況,その台及び壁に「期間限定」「福米2018」「5kg・2kg」 , , , 「2,200円 700円」及び「2018年11月末日までの限定価 格。」との記載のある3枚の紙(本件価格表)が掲示された状況を撮影し た写真である。
8 ? 前記(1)の認定事実を総合すれば,桂ヶ丘開発は,平成30年10月1日に 原告から新米を購入した後,同月4日,8日,15日,21日,28日及び 同年11月18日の6回にわたり,本件ゴルフ場のクラブハウスにおいて, 本件ゴルフ場の利用者(A,B,C,D,E及びF)に対し,本件ステッカ ーが米袋の包装に貼付された5kg入りの「福米2018」 (甲46の1ない し3,5ないし7の「精算書控」及び甲46の8の「御精算書」に「福米」 と表示されたもの)を1袋当たり代金2200円で販売したことが認められ る。
? これに対し被告は,@本件各写真(甲28)の撮影日が2018年11月 14日であることについては,客観的な裏付けがなく,撮影日が同日である ことは疑わしい,A発行名義を桂ヶ丘開発とする「精算書控」及び「御精算書」 (甲46の1ないし9)は,本件審判段階では提出されず,本件訴訟に至って 初めて提出されたものであること,桂ヶ丘開発は原告が代表取締役を務める会 社であり,発行名義を桂ヶ丘開発とする精算書をいつでも作成できること,令 和3年6月20日に本件ゴルフ場のクラブハウス内の物販コーナーで「福米」 を表示した米が販売された際に発行された「御精算書」 (乙1)には,「福米」 の文字の記載がなく,甲46の1ないし9記載の発行日付当時に実際に発行さ れていた精算書に「福米」の文字が表示されていたものとは,にわかに信用し 難いことに照らすと,甲46の1ないし9の証明力は低い,B桂ヶ丘開発が本 件ゴルフ場の利用者に対して福米2018を販売したとの原告の主張は,原 告が本件審判段階で本件ゴルフ場のクラブハウス内で一般客に対して自ら商 品「米」の販売を行ったと主張していたこと及びその立証のために提出され た桂ヶ丘開発の取締役会議事録(甲45)の記載と矛盾する旨主張する。
しかしながら,@については,本件各写真(甲28の2枚の写真)の画像デ ータ(甲56)の「プロパティ」の「詳細」の「撮影日時」欄にそれぞれ「2 018/11/14 13:24」 (甲28の「下」の写真に係る画像データ) 9 及び「2018/11/14 13:25」 (甲28の「上」の写真に係る画像データ)と表示されていること,本件各写真に写された本件価格表には「期間限定」「福米2018」及び「2018年11月末日までの限定価格。
, 」との表示があり,その表示内容は,本件各写真の撮影日時が「2018/11/14 13:24」及び「2018/11/14 13:25」であることと矛盾しないことに照らすと,本件各写真の撮影日は2018年11月14日であると認められる。被告が@について指摘する原告提出の他の写真(甲15,29ないし31)に日付が入っていない点,本件ゴルフ場のクラブハウスのフロント付近で日常的に販売されている商品を写真撮影する理由も考え難い点,同日以外の日に他の客の少ない時間にフロント前に商品を陳列し,写真撮影することは容易であるとの点は,上記認定を覆すものではない。
次に,Aについては,甲46の1ないし3,5ないし7は,桂ヶ丘開発が運営する「桂ヶ丘カントリークラブ」作成名義の「精算書控」 甲46の8は, ,甲46の3の「精算書控」に対応する「桂ヶ丘カントリークラブ」作成名義の「御精算書」であり,それぞれ利用者の氏名,「お客様番号」,発行日時,「精算金額」のほか,「精算項目」欄にプレーフィ,利用税等とともに,「福米(5kg) , 」 「数量」欄に「1」又は「2」 「単価」欄に「2,200」 , ,「金額」欄に「2,200」又は「4,400」との記載があり,その体裁に特段不自然な点は認められないから,甲46の1ないし3,5ないし8の記載内容は信用できるものといえる。この点に関し被告が提出する「桂ヶ丘カントリークラブ」作成名義の「御精算書」 (乙1)には, 「2021年6月20日 13:29」「精算項目」欄に「 , 〈軽〉新米(2kg) , 」「数量」欄に「1」「単 ,価」欄に「800」「金額」欄に「800」と記載され, , 「福米」の記載はないことが認められる。しかし,乙1は,要証期間経過後の令和3年6月20日に単価800円で販売された「新米(2kg)」の精算書であり,甲46の1ないし3,5ないし8に係る「福米」とは販売時期が異なること,本件各 10 写真に撮影された本件価格表に表示された「福米2018」の「2kg」の販売価格「700円」と単価が異なることに照らすと,乙1に係る「新米(2kg)」は,甲46の1ないし3,5ないし8に係る「福米」と異なる商品であると認められるから,乙1に「福米」の記載がないことは,甲46の1ないし3,5ないし8の記載内容の信用性を揺るがすものではない。また,原告は,本件審決において本件審判段階で主張した本件商標の使用の事実が認められなかったため,本件訴訟において,本件商標の使用の事実を改めて整理して主張し,その立証のため,甲46の1ないし9を新たに提出したものであるから,甲46の1ないし9が本件審判段階では提出されなかったことや桂ヶ丘開発は原告が代表取締役を務める会社であることは,甲46の1ないし3,5ないし8の信用性を左右する事情には当たらない。
さらに,Bについては,本件審決は,原告による「桂ヶ丘カントリークラブ」 (本件ゴルフ場)のクラブハウス内の物販コーナーにおける「米」の販売に係る本件商標の使用の主張について,平成30年10月1日に開催された桂ヶ丘開発の取締役会議事録(審判乙34・本訴甲45)には, 「第1号議案として,本件商標権者が個人事業主として生産している米(福米2018)を桂ケ丘カントリークラブのロビー内の物販コーナーで販売することについて承認された旨の記載があるが,当該米についての販売期間の記載はない。」(審決書13頁36行〜14頁1行)として,上記主張は認められない旨判断した。原告は,本件審決の上記判断を踏まえて,本件訴訟において,上記物販コーナーにおける「米」の販売に係る本件商標の使用の主体を,原告から原告が代表取締役を務める桂ヶ丘開発に構成し直して,桂ヶ丘開発が本件ゴルフ場の利用者に対して本件ステッカーが米袋に貼付された福米2018を販売したとの主張をするに至ったものと認められるから,原告の主張の変遷が不自然であるということはできないし,上記取締役会議事録の記載と矛盾するということもできない。
11 したがって,被告の上記主張はいずれも採用することができない。
他に前記?の認定を左右するに足りる証拠はない。
2 本件商標の通常使用権者による本件商標の「使用」について ? 本件商標は,「福米」の文字を標準文字で表してなる商標である。
本件ステッカー(甲24)には,別紙のとおり,左部から右部にかけて順 に,毛筆風の書体で「ふくまい」の文字を縦書きしてなる標章,似顔絵の図 形,赤地に毛筆風の書体で「福(「福」の文字を丸で囲んでなる)米」の白抜 き文字を縦書きしてなる標章,原告を商標権者とする本件商標の商標登録証 が,下部に赤地に「登録商標 福米2018」の白抜き文字を横書きしてな る標章が表示されていることが認められる。
本件商標と本件ステッカーに表示された「福(「福」の文字を丸で囲んでな る)米」の白抜き文字を縦書きしてなる標章(以下「本件標章」という。)を 対比すると,本件標章は,本件商標と書体及び外観は異なるが,構成文字は 「福米」の2文字である点で共通し, 「ふくまい」の称呼を生じる点において も同一であるから,本件商標と社会通念上同一の商標であるものと認められ る。
そして,前記1?認定の桂ヶ丘開発が平成30年10月4日,8日,15 日,21日,28日及び同年11月18日の6回にわたり,本件ゴルフ場の クラブハウスにおいて,本件ゴルフ場の利用者に対し,本件ステッカーが米 袋の包装に貼付された5kg入りの「福米2018」を1袋当たり代金22 00円で販売した行為は,本件商標の指定商品に含まれる「福米2018」 の包装に本件標章を付したものを譲渡したものとして,商標法2条3項2号 の「譲渡」に該当するものと認められる。
?ア 前記1(1)の認定事実によれば,原告は,桂ヶ丘開発の代表取締役に在任 中の平成28年10月頃から,桂ヶ丘開発に対し,原告が生産した米や自 家用野菜を販売していたこと,桂ヶ丘開発が平成30年10月4日,8日, 12 15日,21日,28日及び同年11月18日に本件ゴルフ場の利用者に 対して販売した本件ステッカーが米袋の包装に貼付された「福米2018」 は,同年10月1日に桂ヶ丘開発が原告から購入した新米を「5kg」入 りの米袋に小分けして販売されたものであることが認められる。
また,本件ステッカーには,本件標章,「登録商標 福米2018」の 白抜き文字を横書きしてなる標章及び原告を商標権者とする本件商標の 商標登録証が表示されていることからすると,原告は,本件ステッカーの 作成に関与し,本件ステッカーが米袋の包装に貼付された「福米2018」 を桂ヶ丘開発が販売することを承知していたものと認められる。
これらの事実を総合すると,原告は,桂ヶ丘開発による上記販売前に, 桂ヶ丘開発に対し,本件商標の使用を黙示的に許諾していたものと認める のが相当である。
したがって,桂ヶ丘開発は,上記販売当時,本件商標の通常使用権者で あったものと認められる。
イ これに対し被告は,桂ヶ丘開発は原告から商品を購入して販売するだけの 者であり,転々流通する商品を取り扱う者は通常使用権者とはいえないから, 桂ヶ丘開発は,本件商標の通常使用権者に当たらない旨主張する。
しかしながら,被告の上記主張は,前記アの認定事実に照らし,採用する ことができない。
? 以上によれば,本件商標の通常使用権者である桂ヶ丘開発は,要証期間内で ある平成30年10月4日,8日,15日,21日,28日及び同年11月 18日,日本国内において,本件審判の請求に係る指定商品「米」に本件商 標と社会通念上同一の商標の使用をしていたものと認められる。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告主張の取消事 由は理由がある。
3 結論 13 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由があるから,本件審決は取り消されるべきものである。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 小林康彦
裁判官 小川卓逸