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事件 令和 3年 (行ケ) 10061号 審決取消請求事件

原告X
同訴訟代理人弁理士 小菅一弘 林栄二 新山雄一
被告株式会社アオイ
同訴訟代理人弁護士 小林幸夫 藤沼光太
同訴訟代理人弁理士 瀧野文雄
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2021/11/04
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が取消2018-300004号事件について令和3年3月29日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,商標の不使用(商標法50条1項)を理由とする商標登録の取消請求を不成立とした審決の取消訴訟である。
1 商標 被告は,別紙のとおりの構成からなる登録番号第4776699号の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。本件商標は,平成15年9月25日に登録出願がされ,第3類「せっけん類,化粧品,香料類」を指定商品として,平成16年6月4日に設定登録がされ,その後,平成26年4月15日に商標権の存続期間更新登録がされたものである。(甲1の1・2) 2 特許庁における手続の経緯等 (1) 本件商標の指定商品中,次のア〜カについては,平成29年12月28日にそれぞれ商標登録の一部取消審判の請求がされた(各項の末尾の括弧内は,各請求に係る審判事件番号を示す。以下,次のウの商品を「本件請求商品」と,本件請求商品についての審判の請求を「本件審判請求」とそれぞれいい,次のア,イ,エ〜カの五つの商品についての各審判請求を併せて「別件同日審判請求」という。)。
ア 第3類「せっけん類(界面活性剤を使用せず,その代わりに親水性ナノ粒子の物理的作用力を利用した乳化技術を用いて製造したせっけん類を除く。)」(取消2018-300002号事件) イ 第3類「界面活性剤を使用せず,その代わりに親水性ナノ粒子の物理的作用力を利用した乳化技術を用いて製造したせっけん類」(取消2018-300003号事件) ウ 第3類「化粧品(界面活性剤を使用せず,その代わりに親水性ナノ粒子の物理的作用力を利用した乳化技術を用いて製造した化粧品を除く。)」(本件請求商品)(取消2018-300004号事件) エ 第3類「界面活性剤を使用せず,その代わりに親水性ナノ粒子の物理的作用力を利用した乳化技術を用いて製造した化粧品」(取消2018-300005号事件) オ 第3類「香料類(界面活性剤を使用せず,その代わりに親水性ナノ粒子の物理的作用力を利用した乳化技術を用いて製造した香料類を除く。)」(取消2018-300006号事件) カ 第3類「界面活性剤を使用せず,その代わりに親水性ナノ粒子の物理的作用力を利用した乳化技術を用いて製造した香料類」(取消2018-300007号事件) (2) 本件審判請求の登録日は,平成30年1月23日である。したがって,本件審判請求について,商標法50条2項に定める「その審判の請求の登録前3年以内」は,平成27年1月23日から平成30年1月22日までの期間(以下「要証期間」という。)である。この点,別件同日審判請求についても,その登録日は,いずれも同月23日である(甲1の1)。
(3) 別件同日審判請求については,それぞれ対象とする指定商品の範囲で本件商標の登録を取り消す旨の審決がされ,それぞれ平成30年10月5日に審判の確定登録がされた。
他方で,特許庁は,令和3年3月29日,本件審判請求について,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年4月8日,原告に送達された。
(4) 上記(1)〜(3)のとおり,本件審判請求は,本件商標の指定商品である第3類「せっけん類」,同「化粧品」及び同「香料類」のそれぞれについて,「界面活性剤を使用せず,その代わりに親水性ナノ粒子の物理的作用力を利用した乳化技術」(以下「特定乳化技術」という。)を用いて製造したものであるか否かという基準によって区分がされることによって,本件商標の指定商品全体が六つに分割されて同日にされた審判請求のうちの一つである。
3 本件審決の理由の要点 (1) 被告提出の証拠及びその主張によると,@被告は,平成28年9月14日に印刷業者から被告の「商品パンフレット」(甲3の3の9。以下「本件パンフレット」という。)3000部の納品を受けたこと,A本件パンフレットには,内部に「三」「相」「乳」「化」の白抜き文字を書した4つの黒色略四角形からなる標章(以下「使用標章」という。)とともに商品「スキンミルク」(以下「本件使用商 品」という。)が掲載されていたこと,B同年3月頃において,被告のウェブページ(甲6の3の4。以下「本件ウェブページ」という。)には本件パンフレット(甲3の3の9)と同一の商品が掲載されたことが認められる。
(2)ア 本件使用商品は「スキンミルク」であり,当該「スキンミルク」は,被告の本件パンフレット及び本件ウェブページに「人間の皮脂の研究から確立した三相乳化という独自の乳化法を用い,皮脂の組成に限りなく近い成分で作り上げた乳液です。」と説明されていることから,「三相乳化」と称する乳化法で製造された乳液であるといえる。
なお,原告は,特定乳化技術を用いて製造した化粧品とは,「三相乳化の技術を用いて製造した化粧品」を指称するもので,本件請求商品は「三相乳化の技術を用いて製造した化粧品を除いた化粧品」である旨主張するが,「三相乳化」という技術について明確な定義がされているとはいえず,明確な定義がない以上,「三相乳化の技術を用いて製造した化粧品」が特定乳化技術を用いて製造した化粧品であると認めることはできない。
そうすると,本件使用商品「スキンミルク」について,「三相乳化の技術を用いて製造した化粧品(乳液)」であるとはいえるものの,本件請求商品の括弧書きに係る特定乳化技術を用いて製造した化粧品に含まれる商品とはいえないから,本件請求商品の範ちゅうに属する商品と認められる。
イ 使用標章の使用者は被告であり,本件パンフレットが制作された時期は要証期間内である。そして,本件パンフレットは,被告が顧客に提供するために制作し,頒布したものと推認し得るものである。また,要証期間内において,被告の本件ウェブページには本件パンフレットと同一の商品が掲載されたといえる。
ウ 使用標章は,本件商標と同一のものと認められる。
エ 上記ア〜ウからすると,被告は,要証期間内に,日本国内において本件請求商品中の商品「スキンミルク」を,パンフレット及びインターネット上の広告において,本件商標を付して頒布又は電磁的方法により提供したといえ,その行為は, 「商品若しくは役務に関する広告,価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し,若しくは頒布し,又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(商標法2条3項8号)に該当する。
(3) したがって,本件商標の登録は,本件請求商品について,商標法50条の規定により取り消すことはできない。
4 原告の主張する審決取消事由 (1) 取消事由1(商標法50条2項の解釈の誤り) ア 商標法50条2項によると,不使用の正当理由が明らかにされない限り,登録商標を使用している商品が審判請求に係る指定商品に該当することを証明しなければならないのは,商標権者であり,その証明がされない場合,その指定商品に係る商標登録の取消しは免れない。したがって,被告において,使用していると主張した商品が本件請求商品であることを証明しない限り,本件請求商品に係る指定商品について,登録の取消しは免れない。
イ 本件請求商品においては,括弧書で,特定乳化技術を用いて製造した化粧品を除くとされているから,登録商標を使用している商品が,単に「化粧品」に該当するだけでは使用商品が本件請求商品であることを証明したことにはならず,そのことに加え,特定乳化技術を用いて製造した化粧品でないことを被告が証明しない限り,本件請求商品に係る指定商品について,登録の取消しは免れない。これに反する被告の主張は,商標法50条2項を無視したもので,失当といわざるを得ない。
ウ 本件審決は,本件使用商品が,特定乳化技術を用いて製造した化粧品に該当するといえるか否か不明であり,上記化粧品であると認めることまではできないとしたが,そうであるならば,本件使用商品は,本件請求商品に該当するといえるのか否かについても不明であることになるから,本件使用商品が本件請求商品の範ちゅうに属する商品と認めることもできないはずである。それにもかかわらず,本件審決は,本件使用商品が,特定乳化技術を用いて製造した化粧品であると認めるこ とはできないから,本件請求商品であると認められるとして,二者択一であるかのように認定判断しており,論理的に誤っている。
そして,本件審決は,具体的に,特定乳化技術を用いて製造した化粧品でないことが証明されているか否かについては,何ら審理,認定することなく,上記のような誤った論理構成の下に,本件使用商品が本件請求商品の範ちゅうに属する商品であると結論付けている。
エ 以上のように,使用商品が「化粧品」に該当する商品であることに加え,特定乳化技術を用いて製造した化粧品でないことが証明されているかを具体的に審理,認定しなければならないにもかかわらず,これが証明されているか否かを審理,認定することなく,本件使用商品が本件請求商品の範ちゅうに属する商品であると結論付けた本件審決は,商標法50条2項の解釈を誤ったもので,取消しを免れない。
(2) 取消事由2(登録商標の使用に係る商品の本件請求商品への該当性に関する判断の誤り) ア 本件使用商品が本件請求商品の範ちゅうに属する商品と認められると本件審決が認定した理由は,実質的には,「三相乳化の技術を用いて製造した化粧品(乳液)」が本件請求商品から除かれている特定乳化技術を用いて製造した化粧品であるか否かが分からないから,本件使用商品が本件請求商品の範ちゅうに属する商品と認められるというに等しいものである。
イ 被告が提出した本件審判請求に係る審判事件答弁書(甲3の2,甲6の2)や審判事件上申書(甲6の4)にも,本件使用商品が特定乳化技術を用いて製造した化粧品に該当するか否かについて,具体的に説明,証明する記述はない。
また,本件請求商品の括弧書には「界面活性剤」に関する記述もあるところ,本件審判請求に関して被告から提出された証拠には,「製品の製造には・・・合成界面活性剤・・・なども用いておりません。」という記載があり(甲3の3の5の4枚目,甲3の3の9の1枚目・3枚目,甲6の3の3の2枚目,甲6の5の1の2枚目・3枚目),界面活性剤が用いられていないことを窺わせる。
ウ 以上のように,本件使用商品が本件請求商品に該当する具体的証明が被告提出の証拠によってされておらず,本件請求商品に該当するか否かが明らかになっていない状態で,むしろ,上記証拠には界面活性剤の一種であろう合成界面活性剤が用いられていないとの記述がみられるにもかかわらず,本件使用商品が本件請求商品の範ちゅうに属するとした本件審決の認定は,使用に係る商品の本件請求商品への該当性の判断を誤ったものであって,本件審決は取消しを免れない。
エ 被告の主張について 被告の指摘するウェブサイト(甲3の3の5,甲6の3の3)及びパンフレット(甲3の3の9,甲6の5の1)には,安全性が懸念されている合成界面活性剤やナノ粒子の原料などを使用していないと記載してあるだけであり,特定乳化技術を用いて製造した化粧品であるかに関しては,何の説明もされていない。上記記載だけでは,例えば,安全性の懸念がない合成界面活性剤は使用しているのか否か,合成ではない天然の界面活性剤は使用しているのか否か,安全性の懸念がないナノ粒子の原料は使用しているのか否か,親水性ナノ粒子の物理的作用力を利用しているのか否かなどについては,全く明らかになっていないから,その記載によって使用商品が本件請求商品であるということはできない。
5 被告の主張 (1) 取消事由1について 本件請求商品の第3類「化粧品(界面活性剤を使用せず,その代わりに親水性ナノ粒子の物理的作用力を利用した乳化技術を用いて製造した化粧品を除く。)」という記載を踏まえると,原則として化粧品は本件商標の指定商品に当たるものの,特定乳化技術を用いて製造した化粧品は例外的に指定商品に当たらないと解釈するのが自然である。すなわち,対象となる商品が例外的に除外する商品である特定乳化技術を用いて製造した化粧品に当たることの立証責任は,原告にあると解釈すべきである。この点,特定乳化技術を用いて製造した化粧品に当たらないことの立証は,いわゆる悪魔の立証であり,かかる立証責任を原告に負わせるのは妥当でない。
しかるに,本件では,原告において被告の使用商品が特定乳化技術を用いて製造した化粧品に当たる商品であることの立証はされておらず,本件審決が判断するとおり,被告の使用商品が特定乳化技術を用いて製造した化粧品に含まれる商品とはいえない。
したがって,本件審決の判断に誤りはない。
(2) 取消事由2について 「三相乳化」との商標を付した被告の商品に関して,被告のウェブサイト(甲3の3の5,甲6の3の3)には,「安全性が懸念されている合成界面活性剤やナノ粒子の原料なども用いておりません。」との記載があり,被告のパンフレット(甲3の3の9,甲6の5の1)には,「安全性が懸念されている合成界面活性剤やナノ粒子の原料なども用いておりません。」との記載がある。このように,被告の商品には,ナノ粒子が使用されていないことが明確に記載されている。
上記ウェブサイト及びパンフレットの記載より,被告の商品には,ナノ粒子が使用されていないことから,特定乳化技術を用いて製造した化粧品に含まれる商品とはいえない。
したがって,本件使用商品は,本件請求商品に当たる。
当裁判所の判断
1 本件商標の使用について 証拠(甲3の3の9,甲6の3の4)及び弁論の全趣旨によると,要証期間内に,被告が,本件商標と同一のものと認められる使用標章とともに本件使用商品を掲載した本件パンフレット(甲3の3の9)を顧客に頒布するとともに,本件ウェブページ(甲6の3の4)にも,使用標章とともに本件使用商品を掲載したことが認められる。
2 取消事由1について (1) 商標法50条2項の規定に照らし,本件請求に係る指定商品である本件請求商品についての本件商標の使用の主張立証責任は,被告にあるというべきである。
この点,単に,本件請求商品の特定に係る記載のみに基づき,特定乳化技術を用いて製造した化粧品に当たることの立証責任が原告にあるという被告の主張は,採用することができない。
(2) その上で,本件請求商品である第3類「化粧品(界面活性剤を使用せず,その代わりに親水性ナノ粒子の物理的作用力を利用した乳化技術を用いて製造した化粧品を除く。)」について,どの範囲の事実を被告において主張立証すれば上記(1)の主張立証責任が尽くされたといえるかについて検討するに,本件請求商品については,次の点を指摘することができる。
ア 要証期間は,平成27年1月23日から平成30年1月22日までの期間であるところ,別件同日審判請求の登録の日は,同月23日であるから,本件商標の使用について被告が主張立証をすべき期間において,本件商標の指定商品は,第3類「せっけん類,化粧品,香料類」であり,特定乳化技術を用いて製造したものであるか否かは,本件商標の指定商品を限定する要素とはなっていなかった(商標法54条2項参照)。
イ 前記第2の1のとおり,本件商標については,第3類「せっけん類,化粧品,香料類」を指定商品として設定登録及び更新登録がされていたところ,前記第2の2のとおり,平成29年12月28日に,上記指定商品である第3類「せっけん類」,「化粧品」,「香料類」のそれぞれについて,特定乳化技術を用いて製造したものであるか否かという基準によって区分がされることによって,本件商標の指定商品全体が六つに分割されて,本件審判請求及び5件の別件同日審判請求がされたものである。そして,そのように同一の基準で区分された複数の審判請求が同日付けでされて一連の審判事件番号が付されていること及び弁論の全趣旨によると,本件審判請求のみならず,五つの別件同日審判請求のいずれについても,原告が関与してされたものと推認される。
上記について,本件商標の指定商品のうち第3類「化粧品」についてみると,同一の機会に,同一人の関与の下で,特定乳化技術を用いて製造した化粧品を除く化 粧品を請求に係る指定商品とする本件審判請求と,特定乳化技術を用いて製造した化粧品を請求に係る指定商品とする審判請求(取消2018-300005号事件。
以下「対の審判請求」という。)とがされたものであるところ,特定乳化技術を用いて製造したものであるか否かという基準による区分は,専ら審判請求人によってされたもので,被告が自ら指定商品を限定するなどしていたものではない。
ウ(ア) 特定乳化技術を用いて製造したか否かという基準による区分は,商品及び役務について定める商標法施行令別表及び商標法施行規則別表における各区分又は同各区分に直ちに従ったもの,又は準じたものではなく,商品の製造方法による区分であって,商品の種別を区分するに当たり,一般的,類型的に用いられる基準とはいい難い。そして,本件全証拠をもってしても,特定乳化技術が,要証期間を通じて,「化粧品」という商品の区分に関連する事情として,需要者,取引者に周知のものであったとも認められない。そうすると,そもそも上記基準によって指定商品「化粧品」を更に区分すること自体,指定商品を識別するための区分として相当なものと直ちにいえるか,疑問がないとはいえないところである。
(イ) 上記に関し,関係証拠によると,特定乳化技術,すなわち,界面活性剤を使用せず,その代わりに親水性ナノ粒子の物理的作用力を利用した乳化技術を「三相乳化」と呼ぶ例があることが認められるが,証拠(甲4の2の1)には,特定乳化技術が開発されたのは,本件商標の設定登録の日(平成16年6月4日)より後の2005年(平成17年),特許出願が2006年(平成18年)である旨が記載されており,そのほか原告が特定乳化技術について提出する証拠(甲4の2の2〜7)も,いずれも本件商標の設定登録の日頃以降のものに限定されている。
(ウ) 他方で,本件パンフレット(甲3の3の9)には,「三相乳化は,30年以上に亘って肌と化粧品の研究に従事され,人間の皮脂が三相になっていることを見出されたA先生が確立された技術です」,「A先生から継承した当社独自のノウハウを用いて乳化をしております。安全性が懸念されている合成界面活性剤やナノ粒子の原料なども用いておりません。」などと記載されており,その記載内容からす ると,本件パンフレットに記載された「三相乳化」の技術は,前記(イ)の本件商標の設定登録の日より後に呼称されるようになった例が認められる「三相乳化」の技術と同一のものであるとは考え難く,特定乳化技術を指すものとも直ちに解し難い。
(3) 前記(2)ア〜ウの事情を踏まえると,そもそも特定乳化技術を用いて製造したか否かという基準による指定商品の区分が相当かどうかという点はおくとしても,要証期間における本件請求商品についての本件商標の使用の立証について,被告は,特定乳化技術を用いて製造した化粧品を除く化粧品(本件請求商品)を対象とする本件審判請求と,特定乳化技術を用いて製造した化粧品を対象とする対の審判請求を通じてみると,指定商品第3類「化粧品」についての本件商標の使用を立証すれば足り(もっとも,審判請求に係る手続が別個に行われる限り,主張立証はそれぞれの事件について行われる必要がある。),被告において,要証期間内における第3類「化粧品」に該当する商品についての本件商標の使用を立証した場合には,観念上,当該商品が本件請求商品の範ちゅうに含まれるときは少なくとも本件審判請求が,当該商品が対の審判請求に係る指定商品の範ちゅうに含まれるときは少なくとも対の審判請求が成り立たないというように,本件審判請求又は対の審判請求のいずれかは少なくとも成り立たない関係にあるものというべきであって,その場合に,当該商品が本件請求商品の範ちゅうに含まれるか,対の審判請求に係る指定商品の範ちゅうに含まれるかが明確でないとの理由で,いずれの請求も成立すると判断することは,許されないというべきである。このことは,商標法50条2項が,被請求人において,審判請求に係る指定商品又は指定役務の「いずれかについて」の登録商標の使用を証明すれば足りると定めていることにも沿うものである。
以上のような観点に照らすと,対の審判請求についてその対象とする指定商品の範囲で本件商標の登録を取り消す旨の審決がされて平成30年10月5日に審判の確定登録がされている(前記第2の2(3))本件においては,被告の使用に係る「化粧品」に該当する商品が,特定乳化技術を用いて製造したものか否かが明らかでないとしても,当該商品は,特定乳化技術を用いて製造したものではないと推認され ると解するのが相当である。
(4) 以上によると,取消事由1は認められない。
(5) 原告の主張について ア 原告は,本件商標の使用が特定乳化技術を用いて製造した化粧品ではない化粧品についてのものであることまで被告が主張立証しなければならないと主張するが,既に判示したとおり,同主張を採用することはできない。
イ 原告は,その主張の根拠として商標法50条2項を挙げるところ,同項は,「その請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り」と定めるが,上記のうち「その請求に係る指定商品又は指定役務」という文言から,直ちに,本件商標の使用が特定乳化技術を用いて製造した化粧品ではない化粧品についてのものであることまで被告が主張立証しなければならないとはいえない。
商標法50条が定める取消審判請求の審理の対象となる指定商品の範囲は,設定登録において表示された指定商品の記載に基づいて決められるのではなく,審判請求人において取消しを求めた審判請求書の「請求の趣旨」の記載に基づいて決められるものではあるが,審判請求書の「請求の趣旨」は,審判における審理の対象・範囲を画し,取消審決が確定した場合における登録商標の効力の及ぶ指定商品の範囲を決定づけるという意味のほか,被請求人における防御の要否の判断・防御の準備の機会を保障するという意味でも重要なものというべきである。しかるに,本件のように,要証期間における本件商標の指定商品のうち関連部分が第3類「化粧品」であったにもかかわらず,専ら審判請求人において,本件商標の登録の日の後に認知されてきたものとみられる一方で要証期間を通じて周知のものであるとも認められない商品の製造方法である特定乳化技術に基づいて,本件審判請求と対の審判請求とに取消審判請求を分けた上で,被告に対し,対の審判請求においては化粧品が特定乳化技術に基づいて製造したものであることも含めた本件商標の使用の主張立証を求め,本件審判請求においては特定乳化技術を用いて製造した化粧品でないこ とをも含めた本件商標の使用の主張立証を求めることは,被告の防御の準備の機会を著しく損なうものであって,前記のとおり,被請求人において,審判請求に係る指定商品又は指定役務の「いずれかについて」の登録商標の使用を証明すれば足りると定める商標法50条2項が,上記のような要請まで含むものとは解されないところである。特に,本件のように,製造方法に係る特定を審判請求人が任意に付した場合に,商標権者において,自らの商品の製造方法を開示して立証しない限り,商標登録の取消しを免れないとみることは,商標権者に過度の負担を課すものであって不合理であることが明らかであり,そのような立証を求めるに帰する原告の主張は,信義誠実の原則に照らしても採用することができない。
3 取消事由2について (1) 前記1のとおり認められる本件使用商品については,前記2で判断したとおり,特定乳化技術を用いて製造したものではないと推認され,これを覆すに足りる事情は認められない。むしろ,本件パンフレット(甲3の3の9)や被告のウェブサイト(甲6の3の3)に,「ナノ粒子の原料なども用いておりません」という記載があることは,上記推認に沿う事実である。
(2) したがって,取消事由2は認められない。これに反する原告の主張は,採用することができない。
4 まとめ よって,要証期間内に商標権者である被告による本件商標の使用が認められるから,本件商標の登録は,商標法50条1項により取り消すべきものとはいえない。
結論
以上の次第で,原告の請求には理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。